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特許7508469せん断加工性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法
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  • 特許-せん断加工性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】せん断加工性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240624BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240624BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C21D9/46 F
C22C38/38
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021549622
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-11
(86)【国際出願番号】 KR2020005248
(87)【国際公開番号】W WO2020226301
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0051978
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
(72)【発明者】
【氏名】バン、 チャン-ウ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/026016(WO,A1)
【文献】特表2018-538441(JP,A)
【文献】特開2012-062562(JP,A)
【文献】特開2007-191781(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062381(WO,A1)
【文献】特表2021-528562(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129402(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/129403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.06~0.14%、シリコン(Si):0.1~0.8%
、マンガン(Mn):1.6~2.2%、クロム(Cr):0.005~0.8%、リン
(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.01%、アルミニウム
(Al):0.01~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、チタン(Ti)
:0.01~0.06%、ニオブ(Nb):0.005~0.06%、ホウ素(B):0
.0003~0.0050%を含み、残りのFe及び不可避不純物からなり
微細組織として面積分率80%以上のベイナイト相及び面積分率10%以下のマルテン
サイト相を含み、残部として残留オーステナイト相、フェライト相及びパーライト相のう
ち1種以上を含む、鋼板。
【請求項2】
前記鋼板は、円相当直径0.1μm以上の炭化物を含むパーライトを面積分率5%未満
含むものである、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、引張強度が1350MPa以上、ビッカース硬度値が360Hv以上であ
る、請求項1に記載の鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、直径80mmの円形金型を利用して、クリアランス(Clearance
)10%の条件でパンチングした後、200℃で1時間熱処理してから、せん断加工され
た加工部の断面に発生した最大亀裂の長さ(mm)が0.1mm以下である、請求項1に
記載の鋼板。
【請求項5】
請求項1に記載の鋼板の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.06~0.14%、シリコン(Si):0.1~0.8%
、マンガン(Mn):1.6~2.2%、クロム(Cr):0.005~0.8%、リン
(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.01%、アルミニウム
(Al):0.01~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、チタン(Ti)
:0.01~0.06%、ニオブ(Nb):0.005~0.06%、ホウ素(B):0
.0003~0.0050%を含み、残りのFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを加熱する段階;
前記加熱された鋼スラブを800~1150℃の温度範囲で仕上げ圧延して熱延鋼板を
製造する段階;
前記熱延鋼板を冷却した後に巻取る段階;及び
前記巻取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階を含み、
前記冷却は、平均冷却速度を下記関係式1によって求められるCRMin以上として、
下記関係式2によって求められるCTMinとCTMaxとの間の温度まで行う、鋼板の
製造方法。
[関係式1]
CRMin=190-(105×[C])+(35×[Si])-(58×[Mn])
-(46×[Cr])+(15×[Ti])+(50×[Nb])-(150×[B])
[関係式2]
CTMax=510-(120×[C])+(30×[Si])-(25×[Mn])
-(22×[Cr])+(8.5×[Ti])+(14×[Nb])+(805×[B]

CTMin=420-(45.3×[C])+(16×[Si])-(21×[Mn]
)-(18×[Cr])
(関係式1、2における各元素は、重量含有量を意味し、CRMinは平均冷却速度で
あって、単位が℃/sであり、CTMax及びCTMinは冷却終了温度であって、単位
が℃である。)
【請求項6】
前記鋼スラブを加熱する段階は、1100~1350℃の温度範囲で行うものである、
請求項5に記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷却は、70℃/s超過の平均冷却速度で行うものである、請求項5に記載の鋼板
の製造方法。
【請求項8】
前記冷間圧延は、60~80%の冷間圧下率で行うものである、請求項5に記載の鋼板
の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延(圧下率、%)による強度増加量が6MPa/1%以上である、請求項5
に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機の摩擦板用途などの素材として適した鋼板に関するものであり、より詳細には、せん断加工性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機の摩擦板用途などに用いるためには、せん断加工による亀裂の発生が少なく、使用中の疲労破断がないのみならず、高強度及び高硬度が要求される。
【0003】
従来の摩擦板用または硬度保証用の高強度冷延鋼板には、特許文献1に提示されたように、中炭素鋼または様々な合金元素を含む鋼に対して回復焼鈍法を利用して、冷間圧延後の焼鈍熱処理を行う技術が適用された。
【0004】
また、高炭素鋼に対して球状化熱処理工程を利用する方法が一般的に用いられており、特許文献2では、冷間圧延-焼鈍-冷間圧延の2回冷間圧延法を適用する技術が提案された。
【0005】
ところで、特許文献1のように回復焼鈍法を用いる場合には、超高強度の高い強度を有する鋼板の製造が難しく、高炭素鋼を用いて球状化熱処理する技術及び特許文献2のように2回冷間圧延を行う技術の場合には、製造コストが大きく上昇するという問題がある。
【0006】
一方、冷間圧延された高強度鋼板を製造するために、合金組成としてC、Si、Mn、Mo、Crなどの合金成分を主に添加するが、この場合、これらの元素によって固溶強化効果が上昇することから鋼板の強度向上に効果的である。
【0007】
しかし、上記要素を必要以上に添加すると、合金成分の偏析(segregation)と微細組織の不均一を招くという問題がある。特に、冷却時の鋼の硬化能が増加してフェライト相の変態が大きく遅延されることによって低温組織相(マルテンサイトなど)が形成され、結晶粒界が不均一になり、硬度が低いフェライト相と硬度が高い低温組織相の界面でせん断加工時に亀裂の発生が増加する。
【0008】
また、使用中に摩擦熱が発生し、接触による疲労が累積されると亀裂が容易に伝播されて欠陥が発生するようになる。
【0009】
さらに、鋼の物性をさらに向上させるためにTi、Nb、Vなどの析出強化の元素を不適切に添加すると、結晶粒界に粗大な炭化物、窒化物、及び析出物が形成されてせん断加工時の亀裂発生量が増加し、容易に亀裂が伝播されるという問題がある。
【0010】
ここで、微細亀裂の発生を大きく減少させ、亀裂の最大長さを最小化する技術が要求される。さらに、微細亀裂が最少量で発生したとしても、その微細亀裂が鋼板に平行に形成される場合、せん断面摩耗現象が発生するため、これを防止することができる技術の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国公開特許公報第2000-0043430号公報
【文献】ドイツ出願特許第10-2005-031462号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一側面は、せん断加工による亀裂を抑制することができるせん断加工性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の全体内容から理解することができるものであり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.06~0.14%、シリコン(Si):0.1~0.8%、マンガン(Mn):1.6~2.2%、クロム(Cr):0.005~0.8%、リン(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.01%、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、チタン(Ti):0.01~0.06%、ニオブ(Nb):0.005~0.06%、ホウ素(B):0.0003~0.0050%、残りのFe及び不可避不純物を含み、
微細組織として面積分率80%以上のベイナイト相を含み、残部として面積分率10%以下のマルテンサイト相、5%以下の残留オーステナイト相及び5%以下のフェライトを含むせん断加工性に優れた超高強度鋼板を提供する。
【0015】
本発明の他の一側面は、上述した合金組成を含む鋼スラブを加熱する段階;上記加熱された鋼スラブを800~1150℃の温度範囲で仕上げ圧延して熱延鋼板を製造する段階;上記熱延鋼板を冷却した後、巻取る段階;及び上記巻取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階を含み、
上記冷却は、下記関係式1を満たす平均冷却速度(CRMin)以上で、下記関係式2を満たす温度範囲(CTMin~CTMax)まで行う、せん断加工性に優れた超高強度鋼板の製造方法を提供する。
[関係式1]
CRMin=190-(105×[C])+(35×[Si])-(58×[Mn])-(46×[Cr])+(15×[Ti])+(50×[Nb])-(150×[B])
[関係式2]
CTMax=510-(120×[C])+(30×[Si])-(25×[Mn])-(22×[Cr])+(8.5×[Ti])+(14×[Nb])+(805×[B])
CTMin=420-(45.3×[C])+(16×[Si])-(21×[Mn])-(18×[Cr])
(関係式1、2における各元素は、重量含有量を意味する。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、冷延鋼板の強度及び硬度の確保はもちろん、せん断加工特性を大きく向上させた超高強度鋼板を提供することができる。
【0017】
特に、本発明は、一般的な焼鈍工程を行わなくても目標とする物性を確保することができるため、経済的にも有利な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例による発明鋼及び従来鋼の微細組織を観察した写真を示したものである(A:発明鋼5、B:従来鋼1(フェライト-パーライト析出強化鋼)、C:従来鋼2(ベイニティックフェライト-マルテンサイトの複合組織鋼))。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、様々な合金組成と第2相(例えば、フェライト、パーライト、マルテンサイトなど)を有する熱延鋼板に対して酸洗処理した後、60~70%の圧下量で冷間圧延して冷延鋼板を製造してから鋼板の微細組織と物性を測定し、さらに上記冷延鋼板をせん断加工した後、200℃で1時間加熱するせん断成形工程を行った後、せん断加工部の微細組織を観察することにより、合金組成と製造方法がどのような相関性を示すのか調査した。
【0020】
その結果、冷延鋼板の物性と微細組織は、合金組成、初期熱延鋼板の第2相及びその分率に応じて変化し、特に初期熱延鋼板の微細組織中に焼戻しベイナイトと焼戻しマルテンサイト組織が形成される場合、冷間圧延時の鋼の強度が増加する程度に加工硬化量が減少する傾向があることを確認した。
【0021】
そして、冷延鋼板をせん断成形する場合、せん断加工部で亀裂の形成は、微細組織のうち粗大な炭化物とパーライト組織、マルテンサイト組織の相分率に対する依存性が高いことを確認した。上記組織は、熱間圧延後の冷却時に相変態過程で形成され、鋼中のC、Mn、Cr、Bなどの成分組成に比例し、これにより上記成分の含有量を減らす場合、鋼の強度及び硬度の確保が困難であった。
【0022】
さらに、鋼中のSi含有量が不足したり、TiとNbなどの含有量が少ないほど、焼戻しされた組織と粗大な炭化物が過度に形成されて、せん断加工部での亀裂発生が増加した。
【0023】
これに基づいて、本発明者らは鋼の合金組成をさらに最適化して、鋼中の適切な固溶強化効果を確保し、初期強度の確保に不利なフェライト相の形成が抑制されるように製造条件をさらに最適化することで、さらなる工程(例えば、焼鈍熱処理工程)を行わなくても目標とする超高強度及び高硬度とともにせん断加工性に優れた鋼板を提供することができるということを確認し、本発明を提供するに至った。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明の一側面によるせん断加工性に優れた超高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.06~0.14%、シリコン(Si):0.1~0.8%、マンガン(Mn):1.6~2.2%、クロム(Cr):0.005~0.8%、リン(P):0.001~0.05%、硫黄(S):0.001~0.01%、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、窒素(N):0.001~0.01%、チタン(Ti):0.01~0.06%、ニオブ(Nb):0.005~0.06%、ホウ素(B):0.0003~0.0050%を含むことができる。
【0026】
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0027】
一方、本発明で特に断りのない限り、各元素の含有量は、重量を基準とし、組織の割合は、面積を基準とする。
【0028】
炭素(C):0.06~0.14%
炭素(C)は、鋼を強化させるために最も経済的であり、効果的な元素であって、その添加量が高くなると析出強化の効果が上昇したり、低温組織相であるベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト相の分率が増加して引張強度が向上する。
【0029】
このようなC含有量が0.06%未満であると、析出強化の効果が低く、低温組織相の形成も減少して目標レベルの強度を確保することができなくなる。一方、その含有量が0.14%を超えると、結晶粒界に粗大な炭化物が発生しやすく、パーライト相も形成されてせん断加工時に微細亀裂が粗大な炭化物の界面に発生してせん断加工性が劣化する。
【0030】
したがって、上記Cは0.06~0.14%含むことができ、0.07%以上含むことがより有利であり、0.08%以上含むことがさらに有利である。一方、上記Cの上限は0.13%であることがより好ましい。
【0031】
シリコン(Si):0.1~0.8%
シリコン(Si)は、溶鋼を脱酸させ、固溶強化の効果があり、粗大な炭化物の形成を遅延させて成形性を向上させる上で有利である。
【0032】
このようなSi含有量が0.1%未満であると、炭化物の形成を遅延させる効果が低くなり、成形性を向上させ難い。一方、その含有量が0.8%を超えると、熱間圧延時の鋼板表面にSiによる赤スケールが形成されて鋼板の表面品質が非常に悪くなるだけでなく、延性及び溶接性も低下するという問題がある。
【0033】
したがって、上記Siは0.1~0.8%含むことができ、0.2~0.7%含むことがより有利である。
【0034】
マンガン(Mn):1.6~2.2%
マンガン(Mn)は、上記Siと同様に鋼を固溶強化させるために効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させてベイナイト相及びマルテンサイト相の形成を容易にする。
【0035】
このようなMn含有量が1.6%未満であると、上述した効果を十分に得ることができない。一方、その含有量が2.2%を超えると、硬化能が大きく増加してフェライト相変態が遅延されて、過度のマルテンサイト相とMA相の形成が容易であり、局部的な微細組織及び材質のばらつきが増加するようになる。また、連鋳工程でスラブ鋳造時に厚さの中心部で偏析部が大きく発達し、熱延後の冷却時には厚さ方向への微細組織を不均一に形成してせん断加工時の亀裂の発生が大きく増加するようになる。
【0036】
したがって、上記Mnは1.6~2.2%含むことができ、1.8~2.2%含むことがより有利である。
【0037】
クロム(Cr):0.005~0.8%
クロム(Cr)は、鋼を固溶強化させ、鋼の硬化能を増加させるため、強度の向上に有利である。上述した効果を得るためには、Crを0.005%以上含有することが好ましいが、その含有量が0.8%を超えると、フェライト変態を過度に遅延させて、過度のマルテンサイト相の形成により、せん断加工時の亀裂の発生を増加させ、それによってせん断面の品質が劣化する。また、Mnと同様に厚さの中心部で偏析部が大きく発達し、厚さ方向の微細組織を不均一にしてせん断加工性を劣化させる。
【0038】
したがって、上記Crは0.005~0.8%含むことができ、0.7%以下含むことがより有利であり、0.6%以下含むことがさらに有利である。一方、上記Crの下限は0.01%であることがより好ましい。
【0039】
リン(P):0.001~0.05%
リン(P)は、固溶強化及びフェライト変態促進効果を同時に有する元素である。このようなP含有量を0.001%未満に製造するためには、製造コストが過度にかかり、経済的に不利であり、目標レベルの強度の確保も難しくなる。一方、上記P含有量が0.05%を超えると、粒界偏析による脆性が発生し、せん断加工時に微細な亀裂が発生しやすく、延性及び耐衝撃特性を大きく悪化させる。
【0040】
したがって、上記Pを0.001~0.05%含むことができる。
【0041】
硫黄(S):0.001~0.01%
硫黄(S)は、鋼中に存在する不純物として、その含有量が0.01%を超えると、Mnなどと結合して非金属介在物を形成し、これにより、鋼の切断加工時に微細な亀裂が発生しやすく、耐衝撃性を大きく低下させるという問題がある。一方、上記S含有量を0.001%未満に製造するためには、製鋼操業時の時間が過度にかかり、生産性が低下する。
【0042】
したがって、上記Sは0.001~0.01%含むことができる。
【0043】
アルミニウム(Al):0.01~0.1%
アルミニウム(Al)は、主に脱酸のために添加する元素であって、その含有量が0.01%未満であると、添加効果を十分に得ることができない。一方、その含有量が0.1%を超えると、鋼中の窒素(N)と結合してAlNを形成することで、連続鋳造時にスラブにコーナークラックが発生しやすくなり、熱延板のエッジ(edge)部に介在物の形成による欠陥が発生しやすくなる。また、熱延後の冷間圧延時の表面欠陥の発生によって表面品質が低下するという問題がある。
【0044】
したがって、上記Alは0.01~0.1%含むことができる。
【0045】
一方、本発明におけるアルミニウムは、可溶アルミニウム(Sol.Al)を意味する。
【0046】
窒素(N):0.001~0.01%
窒素(N)は、Cとともに代表的な固溶強化元素であって、Ti、Alなどと結合して粗大な析出物を形成する。一般的に、Nの固溶強化効果は、炭素より優れるが、鋼中のN量が増加するほど鋼の靭性が低下するという問題がある。これを考慮して、上記Nを0.01%以下含むことが好ましいが、その含有量を0.001%未満に製造するためには、製鋼操業時の時間が多くかかって、生産性が低下する。
【0047】
したがって、上記Nは0.001~0.01%含むことができる。
【0048】
チタン(Ti):0.01~0.06%
チタン(Ti)は、ニオブ(Nb)とともに代表的な析出強化元素であって、Nとの強い親和力により鋼中に粗大なTiNを形成する。上記TiNは熱間圧延のための加熱過程で結晶粒が成長することを抑制する効果がある。また、ホウ素(B)を添加する場合、Bの窒化物形成を抑制してBによる硬化能の向上に有利である。さらに、Nと反応して残ったTiが鋼中に固溶されて炭素と結合することで、TiC析出物を形成し、これは鋼の強度を向上させるために有用である。
【0049】
上述した効果を十分に得るためには、Tiを0.01%以上含有する必要があるが、その含有量が0.06%を超えると、粗大なTiNの発生によりせん断加工時にせん断加工性が劣化するという問題がある。
【0050】
したがって、上記Tiは0.01~0.06%含むことができ、0.05%以下含むことがより有利であり、0.03%以下含むことがさらに有利である。
【0051】
ニオブ(Nb):0.005~0.06%
ニオブ(Nb)は、析出強化元素であって、熱間圧延中に析出して再結晶遅延による結晶粒微細化効果により、鋼の強度及び衝撃靭性の向上に有効である。上述した効果を十分に得るためには0.005%以上含むことができ、一方、その含有量が0.06%を超えると、熱間圧延中に過度な再結晶の遅延により延伸された結晶粒の形成及び粗大な複合析出物が形成されてせん断加工性が劣化するようになる。
【0052】
したがって、上記Nbは0.005~0.06%含むことができ、0.01~0.05%含むことがより有利である。
【0053】
ホウ素(B):0.0003~0.0050%
ホウ素(B)は、強力な硬化能元素であって、少ない含有量でも高い硬化能を示し、鋼中の結晶粒界に偏析されて冷却時にフェライト相変態を遅延させて硬化能を高めることで、強度の向上に有効である。上述した効果を十分に得るためには、Bを0.0003%以上含むことができるが、その含有量が0.0050%を超えると、上記効果が飽和し、却って鋼の延伸率が大きく減少するようになる。また、炭化物及び窒化物が過度に形成されてせん断加工性が劣化するという問題がある。
【0054】
したがって、上記Bは0.0003~0.0050%含むことができ、0.0010~0.0030%含むことがより有利である。
【0055】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を特に本明細書に記載しない。
【0056】
上述した合金組成を有する本発明の鋼板は、微細組織にベイナイト相を主相として含み、一部マルテンサイト相を含むことができる。
【0057】
上記ベイナイト相は面積分率で80%以上含むことができ、上記マルテンサイト相は面積分率で10%以下含むことができる。上記ベイナイト相とマルテンサイト相を除いた残部組織としては、残留オーステナイト相、フェライト相及びパーライト相のうち1種以上を含むことができ、このとき、上記残留オーステナイト相とフェライト相はそれぞれの面積分率で5%以下含むことができる。
【0058】
上記ベイナイト相の分率が80%未満であると、目標とする超高強度の確保が難しく、マルテンサイト相とフェライト相の分率が比較的高くなると、組織不均一を招き、せん断加工時のせん断加工部での微細亀裂の発生が容易になる問題がある。
【0059】
すなわち、本発明は、初期強度の確保に不利なフェライト相とマルテンサイト相の形成を抑制し、せん断加工時の微細亀裂の発生を最小限に抑えることができる。
【0060】
一方、本発明の鋼板は、上記ベイナイト相を100%含んでもよい。
【0061】
特に、本発明の鋼板は、微細組織中に円相当直径が0.1μm以上である炭化物を含むパーライトを面積分率5%未満に形成することで、粗大炭化物とパーライト組織による微細亀裂の形成を大きく抑制する効果を得ることができる。
【0062】
ここにおける直径は、円相当平均直径を意味する。
【0063】
上述した微細組織を有する本発明の鋼板は、引張強度が1350MPa以上であり、超高強度を有しながら、ビッカース硬度値が360Hv以上を有することから、摩擦板用途などに適用することができる。
【0064】
また、上記鋼板はせん断加工時に発生する亀裂の最大亀裂の長さが0.1mm以下であり、せん断加工性に優れた特性を有することができる。
【0065】
すなわち、本発明の鋼板は、せん断加工時の亀裂発生量が大きく低下し、その亀裂の伝播が抑制される効果を有するものである。
【0066】
以下、本発明の他の一側面であるせん断加工性に優れた超高強度鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0067】
本発明に係る鋼板は、本発明で提案する合金組成を満たす鋼スラブを[加熱-熱間圧延-冷却-冷間圧延]の工程を行うことで製造することができ、本発明は、冷間圧延後に別途の工程(例えば、焼鈍熱処理工程など)を行わないため、経済的に有用であるといえる。
【0068】
以下では、それぞれの工程条件について詳細に説明する。
【0069】
「鋼スラブ加熱」
本発明では、熱間圧延を行う前に、鋼スラブを加熱して均質化処理する工程を経ることが好ましく、このとき、1100~1350℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。
【0070】
上記鋼スラブの加熱温度が1100℃未満であると、析出物が十分に再固溶されず、熱間圧延後の工程で析出物の形成が減少するようになり、粗大なTiNが残存するようになるという問題がある。一方、その温度が1350℃を超えるとオーステナイト結晶粒の異常粒成長によって強度が低下するため、好ましくない。
【0071】
「熱間圧延」
上記再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することが好ましく、このとき、800~1150℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
【0072】
上記熱間圧延を1150℃よりも高い温度で行うと、熱延鋼板の温度が高くなって結晶粒大きさが粗大になり、熱延鋼板の表面品質が劣化する。一方、800℃よりも低い温度で熱間圧延を行うと、過度の再結晶遅延によって延伸された結晶粒が発達して熱間圧延時の負荷が過度に発生して圧延が難しく、形状が悪くなるという問題があり、延伸された結晶粒の形成によって冷間圧延後のせん断加工性も悪くなる。
【0073】
「冷却及び巻取」
上述のように、熱間圧延を行って得られた熱延鋼板を冷却した後、その温度で巻取工程を行うことができる。
【0074】
本発明では、均一な微細組織を形成して、この後の冷間圧延後のせん断加工時に微細な亀裂の発生を抑制するために、上記冷却時の平均冷却速度を下記関係式1によって求められるCRMin以上として、下記関係式2によって求められるCTMinとCTMaxとの間の温度まで行った後、その温度で巻取ることが好ましい。
[関係式1]
CRMin=190-(105×[C])+(35×[Si])-(58×[Mn])-(46×[Cr])+(15×[Ti])+(50×[Nb])-(150×[B])
[関係式2]
CTMax=510-(120×[C])+(30×[Si])-(25×[Mn])-(22×[Cr])+(8.5×[Ti])+(14×[Nb])+(805×[B])
CTMin=420-(45.3×[C])+(16×[Si])-(21×[Mn])-(18×[Cr])
(関係式1、2における各元素は、重量含有量を意味する。)
【0075】
本発明において、上記関係式1は、鋼の焼入れ性確保及び基地組織としてのベイナイト相の形成に影響を及ぼす。上記関係式1を構成するそれぞれの元素は、鋼の固溶強化の確保に有効であり、その中でC、Mn、Cr、Bは硬化能の確保に有利である。
【0076】
熱延鋼板の冷却時の冷却速度を、上記関係式1から導出される値(CRMAX)以上の速度、すなわち、関係式1で計算された結果よりも速い冷却速度を適用することにより、初期強度の確保に不利なフェライトの相変態を最小限に抑え、ベイナイト相を容易に形成することができる。
【0077】
したがって、本発明において、上記冷却は、合金組成の影響を受ける関係式1以上で行うことが好ましく、より有利には70℃/sを超える冷却速度、さらに有利には75℃/s以上の冷却速度で行うことができる。但し、上記冷却速度が120℃/sを超えると、鋼厚さの表層部と中心部との間における微細組織の不均一をもたらして、冷間圧延後のせん断加工時の微細亀裂が発生しやすくなる。また、関係式2のCTMin以上の温度を確保するためには困難な問題がある。
【0078】
また、本発明において、上記関係式2は、鋼中の粗大な炭化物とパーライト組織の形成及び過度のマルテンサイト相の形成に影響を及ぼす。上記関係式2において、CTMAX及びCTMINは、冷却終了温度の範囲を示すだけでなく、巻取温度の上限と下限を意味する。
【0079】
本発明においては、熱延鋼板の冷却を上記関係式2を満たす温度で終了した後、巻取工程を行うことで粗大な炭化物及びパーライトの形成と粗大なマルテンサイト相の形成を抑制することができる。特に、後続の冷間圧延を介して得られた冷延鋼板のせん断加工時のせん断加工部での亀裂の発生を最小限に抑えることができる。
【0080】
上記関係式1から導出される値以上の冷却速度で冷却時の関係式2のCTMAXよりも高い温度で冷却を終了するようになると、未変態された相(phase)中で固溶炭素が炭化物を形成したり、パーライト組織を形成することによって鋼の強度確保が不利になり、せん断加工時の亀裂が容易に発生するようになる。一方、上記関係式2のCTMINよりも低い温度で冷却を終了するようになると、未変態された相はマルテンサイト相に変態され、強度の確保には有利であるが、せん断加工時の亀裂が容易に発生するようになる。
【0081】
したがって、本発明において、上記のように冷却した後の巻取りは、関係式2による温度範囲内で行うことが好ましく、より有利には400~500℃の温度範囲で行うことができる。
【0082】
本発明は、関係式2による温度範囲内で巻取工程を行うことによってベイナイト相の形成を促進することができ、このとき、より均一なベイナイト相の形成のための温度範囲を400~500℃に制限することがより好ましく、400~450℃に制限することがさらに好ましい。
【0083】
「冷間圧延」
上述のように冷却及び巻取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造することができる。
【0084】
上記巻取られた熱延鋼板に対して冷間圧延の前に酸洗工程をさらに行うことができ、上記冷間圧延は、60~80%の冷間圧下率で行うことができる。
【0085】
上記冷間圧下率が60%未満であると、加工硬化の効果を十分に確保できず、目標レベルの強度及び硬度を確保することができなくなる。一方、冷間圧下率が80%を超えると、鋼のエッジ(edge)部の品質が悪くなり、せん断加工性が劣化するようになる。
【0086】
本発明の提案によって冷却及び巻取られた熱延鋼板を上述のように冷間圧延する際、冷間圧延(圧下率、%)による強度増加量が6MPa/1%以上で、最終冷延鋼板の引張強度を1350MPa以上に確保することができる。
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【実施例
【0088】
(実施例)
下記表1の合金組成を有する鋼スラブを用意した。このとき、上記合金組成の含有量は重量%であり、残りはFeと不可避不純物を含む。用意された鋼スラブを1200℃で加熱した後、下記表2の製造条件によって熱延及び冷延工程を行い、それぞれの鋼板を製造した。このとき、冷間圧下率は、すべての鋼で67%を適用し、熱間圧延して得られた熱延板の厚さは3.1~3.3mm、冷間圧延して得られた冷延板の厚さは約1mmであった。
【0089】
下記表2からFDTは仕上げ熱間圧延時の温度(熱間圧延の終了温度、℃)、CRは、平均冷却速度(℃/s)、CTは巻取温度(℃)を意味する。
【0090】
【表1】

(下記表1における比較鋼4、8及び9は、合金組成は本発明の範囲を満たすものの、下記表2の製造条件が本発明から外れた場合であるため、比較鋼と表記する。)
【0091】
【表2】
【0092】
上述のように製造されたそれぞれの鋼板に対して、引張強度(TS)、硬度(Hv)の機械的特性と、せん断加工性を評価し、また、微細組織を観察して、その結果を下記表3に示した。
【0093】
引張強度は、熱延板と冷延板のそれぞれについて測定し、冷延板の硬度はビッカース硬度機を利用して測定した(Micro-Vickers硬度値)。このとき、引張強度は、圧延方向に対して0°方向を基準にJIS5号規格に基づいて採取された試験片を用いて行い、計4回測定した結果の平均値を示した。硬度値は、総10回測定した結果の平均値で示した。
【0094】
また、冷延板のせん断加工性を評価するために、直径80mmの円形金型を利用して、クリアランス(Clearance)10%の条件でパンチングした後、200℃で1時間熱処理してから、せん断加工された加工部の断面に発生した最大亀裂の長さ(mm)を測定した。具体的には、亀裂の長さは、断面を光学顕微鏡を用いて50倍率及び100倍率で観察した結果から測定した。
【0095】
一方、冷延板内では、冷間圧延過程で一定部分延伸された微細組織が形成されて正確な相(phase)の区分が難しい。但し、熱延板の微細組織は冷間圧延により変化(変態)するものではないため、各鋼板の微細組織は、熱延板に対して厚さ1/4t地点で走査電子顕微鏡(SEM)を用いて3000倍の倍率で測定し、各相の分率を測定した。
【0096】
【表3】

(表3におけるT-Mは焼戻しマルテンサイト、T-Bは焼戻しベイナイト、γはオーステナイト、Mはマルテンサイト、Fはフェライト、Pはパーライト、Bはベイナイト相を意味する。)
【0097】
上記表1~表3に示したように、本発明で提案する合金組成及び製造条件をすべて満たす発明鋼1~7は、基地組織がベイナイト相に形成されており、超高強度に加えて高硬度が確保された。
【0098】
それだけでなく、すべての発明鋼にせん断加工時に発生する亀裂の最大亀裂長さが0.1mm以下で形成されてせん断加工部の品質に優れた。
【0099】
一方、比較鋼1~3は、本発明で提案する合金組成から外れた場合であって、このうち、比較鋼1はCが過度に添加されて冷却した後、未変態相内で過度のCによってマルテンサイト相とパーライト相が形成された。その結果、冷延板のせん断成形時に発生した亀裂の長さが0.25mmとせん断加工性が非常に劣化した。
【0100】
比較鋼2は、Si含有量が不十分な場合であって、冷却後の巻取過程で炭化物の形成により最終熱延板に焼戻し組織が観察された。その結果、後続の冷間圧延過程で強度の増加が少なく、目標レベルの強度及び硬度を確保することができなかった。
【0101】
比較鋼3は、Mn含有量が過度の場合であって、Mnの高い硬化能によって冷却した後のほとんどの組織がベイナイトとマルテンサイト相に形成され、このうち、マルテンサイト相の分率が高くて組織不均一をもたらした。その結果、せん断加工部で亀裂が過度に発生した。
【0102】
比較鋼4は、本発明で提案する合金組成は満たすものの、冷却時の冷却速度が本発明の関係式1を満たしていない場合として、遅い冷却速度によりフェライト相が形成され、MA(Martensite-Austenite constituent)相も過度に形成された。そのため、目標レベルの強度を確保することができず、せん断加工性が劣化した。
【0103】
比較鋼5は、Bを含有していない場合であって、熱間圧延後の冷却工程が本発明で提案するところを満たしたにも関わらず、微細組織のうちフェライト相とパーライト相が形成された。それによって、目標レベルの強度と硬度を確保することができず、組織不均一によりせん断加工時の亀裂が過度に発生した。
【0104】
比較鋼6及び7は、析出物の形成元素であるNb及びTiが不十分な場合であって、微細組織が不均一であり、パーライト相及びMA相が過度に形成された。その結果、目標レベルの強度を確保することができず、せん断加工性が劣化した。
【0105】
比較鋼8及び9は、本発明で提案する合金組成は満たすものの、冷却時の冷却終了温度(巻取温度)が本発明の関係式2を満たしていない場合である。このうち、比較鋼8は、冷却終了温度が過度に高くて微細組織のうちパーライト相が過度に形成されてベイナイト相が十分に形成されなかった。それにより、目標レベルの強度を確保することができず、せん断加工性が劣化した。比較鋼9は、冷却終了温度が過度に低くて微細組織のうちマルテンサイト相が過度に形成され、それによって、超高強度の確保は可能であるのに対し、せん断加工性が劣化した。
【0106】
図1は、本発明による発明鋼(発明鋼5、A)と、従来の製造工程から製造された析出強化鋼(B)及び複合組織鋼(C)の微細組織写真を示したものである。
【0107】
ここで、従来の製造工程とは、通常の冷延鋼板を製造する工程、すなわち、[熱間圧延-(酸洗及び)冷間圧延-焼鈍熱処理]工程をすべて行う工程を意味し、それぞれの工程を介して析出強化鋼と複合組織鋼を製造する条件はよく知られているため、具体的に記載しない。
【0108】
図1に示すように、本発明の鋼(A)は、基地組織にベイナイト相が形成されたことを確認することができ、マルテンサイト相の分率が10%以下であり、微量の炭化物も微細に形成されたことが確認できる。
【0109】
これとは異なって従来鋼1、すなわち、微細組織がフェライト及びパーライトから構成された従来の析出強化鋼(B)は、大きく延伸されたパーライト相が観察されるのみならず、粗大な炭化物を含むことを確認することができる。このような粗大炭化物は、主に結晶粒界に沿って発達するため、せん断加工時の最大亀裂の大きさを0.1mm以下に制御し難く、これは本発明の比較鋼5及び8の結果から類推することができる。
【0110】
一方、従来鋼2に該当する複合組織鋼(C)は、粗大なマルテンサイト相を主に含み、せん断加工特性に不利なMA相を含むことを確認することができる。粗大なマルテンサイト相とMA相は組織不均一を招くため、これもせん断加工時の最大亀裂の大きさを0.1mm以下に制御し難く、これは本発明の比較鋼3及び9の結果から類推することができる。
【0111】
上述したように、本発明によると、焼鈍熱処理を行わなかった冷延鋼板の強度及び硬度の確保はもちろん、優れたせん断加工特性を確保することができる。特に、本発明は、熱延板の冷間圧延時の冷間圧下率が高くても圧延中にエッジ(edge)部での亀裂発生を抑制することができるだけでなく、せん断加工時に発生する亀裂も最小化する効果を有する。
図1