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特許7508524場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法
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  • 特許-場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240624BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
E04G21/02
G01N33/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022168466
(22)【出願日】2022-10-20
(65)【公開番号】P2024060898
(43)【公開日】2024-05-07
【審査請求日】2024-03-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏之
(72)【発明者】
【氏名】二井谷 教治
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-048690(JP,A)
【文献】特開2013-002904(JP,A)
【文献】特開2013-231656(JP,A)
【文献】特開2012-154125(JP,A)
【文献】特開2012-107941(JP,A)
【文献】特開2013-231598(JP,A)
【文献】中村 秀明,コンクリートの収縮ひび割れ対策 (1)ひび割れ(温度応力)解析の基礎,コンクリート工学,50(2),pp.207-212
【文献】吉川 信二郎,第3回温度応力解析のいろは 一解析概要編一,プレストレストコンクリート,44(5),pp.65-75
【文献】飯田 眞理,(2)硬化コンクリートの性質,新 セメント・コンクリート用混和材料 ,技術書院,2013年,pp.97-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の既設構造物に拘束される場所打ちコンクリートのひび割れを抑制する場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法であって、
実際に打設する場所打ちコンクリートに使用する同種の材料で予めコンクリートを試し練りし、圧縮強度試験、静弾性係数試験、拘束膨張試験、自己収縮試験、乾燥収縮試験を含む各種試験を行って、実際に打設する前記場所打ちコンクリートの特性値として、圧縮強度の経時変化、静弾性係数の経時変化、膨張ひずみの経時変化、自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数、及び間詰め部の材齢6か月後の長さ変化を推定した上、
推定した前記圧縮強度の経時変化から前記場所打ちコンクリートの材齢t時における引張強度を算出し、推定した静弾性係数の経時変化、膨張ひずみの経時変化、自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数、及び間詰め部の材齢6か月後の長さ変化から前記場所打ちコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力及び前記場所打ちコンクリートの材齢t時における温度変化による引張応力を、それぞれ算出し、
算出した前記収縮ひずみの引張応力と算出した前記温度変化による引張応力とを合算した引張応力で算出した前記引張強度を割って前記場所打ちコンクリートの材齢t時のひび割れ指数を算出し、算出した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを評価すること
を特徴とする場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項2】
算出した前記ひび割れ指数が目標値を下回る場合、配合修正を行って再度試し練りをし、再度、圧縮強度試験、静弾性係数試験、拘束膨張試験、自己収縮試験、乾燥収縮試験を含む各種試験を行って、前記場所打ちコンクリートの材齢t時における引張強度、前記場所打ちコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力、前記場所打ちコンクリートの材齢t時における温度変化による引張応力を、それぞれ算出し直して、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価すること
を特徴とする請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項3】
算出した前記ひび割れ指数が目標値を下回る場合、温度抑制対策を施して前記場所打ちコンクリートの温度変化を抑制した場合の前記温度変化による引張応力を算出し直して、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価すること
を特徴とする請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項4】
算出し直した前記ひび割れ指数が目標値を下回る場合、収縮抑制対策を施して前記場所打ちコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力を算出し直して、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価すること
を特徴とする請求項3に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項5】
前記拘束膨張試験では、材齢7日の供試体の膨張ひずみを実測し、前記実測値から膨張ひずみの経時変化を推定すること
を特徴とする請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項6】
自己収縮試験では、材齢28日までの供試体の自己収縮ひずみの経時変化を実測し、前記実測値から場所打ち部の寸法効果を考慮して自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数を推定すること
を特徴とする請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【請求項7】
乾燥収縮試験では、乾燥材齢28日後の供試体の長さ変化を実測して6カ月後の長さ変化を推定し、材齢7日から6カ月後まで自己収縮ひずみの実測値の増加分を差し引いて、乾燥収縮ひずみの実測値を算出し、前記乾燥収縮ひずみの実測値から場所打ち部の材齢t時の長さ変化を推定すること
を特徴とする請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCa床版間の間詰め部に打設する間詰めコンクリートに代表される既設構造物により拘束を受ける場所打ちコンクリートのひび割れを抑制する場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PCa床版(プレキャスト床版)とPCa床版との間の間詰め部に現場打ちのコンクリートを打設されるが、その間詰めコンクリートには、ひび割れ生じることがある。間詰めコンクリートにひび割れが生じ易い原因としては、間詰め部は、PCa床版に両側が挟まれているため、構造的に拘束が大きく、コンクリートの特性として、体積変化により引張応力が大きく発生し易いためと考えられる。つまり、間詰め部の体積変化が起き易いのは、高強度コンクリートを使用するため、自己収縮が大きく、セメント量が多いため水和発熱温度が高く、且つ、部材の体積が小さいことから急激な温度変化となり易いためと考えられる。
【0003】
そこで、例示した間詰めコンクリートのようなPC床版等の周囲の既設構造物に拘束される既設構造物に対して比較的小容量の場所打ちコンクリートにひび割れが発生する原因とそのメカニズムを解明することが嘱望されている。詳しくは、現場毎の施工条件に基づいた短期的及び長期的な収縮量、応力度を推定し、事前にひび割れリスクを評価した上で、ひび割れを最大限防止する配合計画及び施工計画を計画できる手法の確立が望まれていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、床版120のコンクリートを打設する際に、床版120の温度又は湿度を管理するコンクリート養生方法において、床版120の内部に埋め込み内部温度を測定する内部温度計測手段としての内部温度計20、床版120の養生空間140の温度を測定する養生空間温度測定手段としての養生空間温度計30、養生空間140の湿度を測定する養生空間湿度測定手段としての養生空間湿度計40、外気温を測定する外気温測定手段としての外気温度計50、を備え、内部温度、養生空間の温度及び湿度、外気温を用いて、ひび割れ指数Icr(t)を算出し、床版120のひび割れ指数Icr(t)を基に養生期間を定めるコンクリート養生方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0015]~[0025]、図面の図1図3等参照)。
【0005】
特許文献1に記載のコンクリート養生方法は、温度や湿度の履歴からひび割れ指数を予測することで、適切な養生期間を決定するので、養生期間の適切な管理が実現でき、コンクリート構造物の表面ひび割れの発生を抑制することが可能となるとされている。しかし、特許文献1に記載のコンクリート養生方法は、コンクリート床版全体を現場打ちのコンクリートで打設した場合であり、前述の間詰めコンクリートの構造的に拘束が大きいという問題や高強度コンクリートを使用するため、自己収縮が大きく、セメント量が多いため水和発熱温度が高く、且つ、部材の体積が小さいことから急激な温度変化となり易いという問題を解決できるものではなかった。
【0006】
また、特許文献2には、コンクリートひび割れ評価方法は、構造物の構造情報を含むBIMデータを準備する工程S10と、BIMデータを利用して、解析領域検討モデルを生成する工程S20と、解析領域検討モデルを利用して、複数の解析モデルを生成する工程S30と、複数の解析モデルのそれぞれについて、コンクリートを打設するときにコンクリートにひび割れが生じる可能性を評価するためのマスコンクリート解析を行う工程S40と、を有するコンクリートひび割れ評価方法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0016]~[0037]、図面の図1図4等参照)。
【0007】
特許文献2に記載のコンクリートひび割れ評価方法は、解析者の能力や経験に左右されることなく、信頼性の高い評価結果を得ることが可能とされている。しかし、特許文献2に記載のコンクリートひび割れ評価方法は、特許文献1に記載のコンクリート養生方法と同様に、前述の間詰めコンクリート等の構造的に拘束が大きいという問題や高強度コンクリートを使用するため、自己収縮が大きく、セメント量が多いため水和発熱温度が高く、且つ、部材の体積が小さいことから急激な温度変化となり易いという問題を解決できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-98534号公報
【文献】特開2021-9034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、周囲の既設構造物に拘束を受ける場所打ちコンクリートの諸問題を解決し、現場毎の施工条件に基づいた短期的及び長期的な収縮量、応力度を推定し、事前にひび割れリスクを評価した上で、ひび割れを最大限防止する配合計画及び施工計画を計画できる場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、周囲の既設構造物に拘束される場所打ちコンクリートのひび割れを抑制する場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法であって、実際に打設する場所打ちコンクリートに使用する同種の材料で予めコンクリートを試し練りし、圧縮強度試験、静弾性係数試験、拘束膨張試験、自己収縮試験、乾燥収縮試験を含む各種試験を行って、実際に打設する前記場所打ちコンクリートの特性値として、圧縮強度の経時変化、静弾性係数の経時変化、膨張ひずみの経時変化、自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数、及び間詰め部の材齢6か月後の長さ変化を推定した上、推定した前記圧縮強度の経時変化から前記場所打ちコンクリートの材齢t時における引張強度を算出し、推定した静弾性係数の経時変化、膨張ひずみの経時変化、自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数、及び間詰め部の材齢6か月後の長さ変化から前記場所打ちコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力及び前記場所打ちコンクリートの材齢t時における温度変化による引張応力を、それぞれ算出し、算出した前記収縮ひずみの引張応力と算出した前記温度変化による引張応力とを合算した引張応力で算出した前記引張強度を割って前記場所打ちコンクリートの材齢t時のひび割れ指数を算出し、算出した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを評価することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法において、算出した前記ひび割れ指数が目標値を下回る場合、配合修正を行って再度試し練りをし、再度、圧縮強度試験、静弾性係数試験、拘束膨張試験、自己収縮試験、乾燥収縮試験を含む各種試験を行って、前記場所打ちコンクリートの材齢t時における引張強度、前記場所打ちコンクリートの材齢t時における 収縮ひずみの引張応力、前記場所打ちコンクリートの材齢t時における温度変化による引張応力を、それぞれ算出し直して、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法において、算出した前記ひび割れ指数が目標値を下回る場合、温度抑制対策を施して前記場所打ちコンクリートの温度変化を抑制した場合の前記温度変化による引張応力を算出し直して、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、請求項3に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法において、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値を下回る場合、収縮抑制対策を施して前記場所打ちコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力を算出し直して、算出し直した前記ひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法において、前記拘束膨張試験では、材齢7日の供試体の膨張ひずみを実測し、前記実測値から膨張ひずみの経時変化を推定することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法において、自己収縮試験では、材齢28日までの供試体の自己収縮ひずみの経時変化を実測し、前記実測値から場所打ち部の寸法効果を考慮して自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数を推定することを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、請求項1に記載の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法において、乾燥収縮試験では、乾燥材齢28日後の供試体の長さ変化を実測して6カ月後の長さ変化を推定し、材齢7日から6カ月後まで自己収縮ひずみの実測値の増加分を差し引いて、乾燥収縮ひずみの実測値を算出し、前記乾燥収縮ひずみの実測値から場所打ち部の材齢t時の長さ変化を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1~7に記載の発明によれば、場所打ちコンクリートの諸問題を解決し、現場毎の施工条件に基づいた短期的及び長期的な収縮量、応力度を推定し、事前にひび割れリスクを評価した上で、ひび割れを最大限防止する配合計画及び施工計画を立案することができる。
【0018】
特に、請求項2に記載の発明によれば、軽微な配合修正により場所打ちコンクリートのひび割れを抑制することができるか否かの判別がつき、実行が容易な施工計画を立案することができる。
【0019】
特に、請求項3に記載の発明によれば、温度抑制対策を施して場所打ちコンクリートの温度変化を抑制した場合の温度変化による引張応力を算出し直して、算出し直したひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価するので、収縮ひずみを抑制する対策より対策が取り易く効果も大きいと考えられ、且つ、材料費が嵩むこともない温度変化を抑える対策で、場所打ちコンクリートのひび割れを抑制することができる。
【0020】
特に、請求項4に記載の発明によれば、収縮抑制対策を施して場所打ちコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力を算出し直して、算出し直したひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価するので、温度変化を抑える対策でも抑えることができない場合でも場所打ちコンクリートのひび割れを抑制することができる。
【0021】
特に、請求項5~7に記載の発明によれば、自由ひずみの算出精度が向上し、場所打ちコンクリートの事前のひび割れリスクを正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法の概要を示すフロー図である。
図2図2は、同上の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法の配合設計の例を示すフローチャートである。
図3図3は、同上の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法の収縮ひずみによる引張応力の算定方法の概要を示す図である。
図4図4は、同上の場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法のコンクリート試験からひび割れ発生の評価に至るまでのひび割れ照査のフローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1図4を用いて、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法について説明する。以下、周囲の既設コンクリートにより拘束を受ける場所打ちコンクリートとして、PCa床版間の間詰め部に打設する間詰めコンクリートを例示して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法の概要を示すフロー図であり、図2は、配合設計の例を示すフローチャートである。本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、一のPCa床版と他のPCa床版との間の間詰め部に打設する間詰めコンクリートのひび割れを抑制する方法である。
【0025】
(配合設計)
図1に示すように、本実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法では、先ず、生コン工場等と協議し、配合設計を行う。具体的には、図2に示すように、実際に打設する間詰めコンクリートに使用する同種の材料で予めコンクリートを試し練りし、水結合材比及びセメント種類を検討し、保証材齢、水セメント比C/W曲線、変動係数などを確認する。
【0026】
なお、水結合材比とは、フレッシュコンクリート又はフレッシュモルタルに含まれるセメントペースト中の水と結合材の重量比のことを指している。ここで、結合材とは、粉体の内、水と反応し、コンクリートの強度発現に寄与する物質を生成するものの総称で、セメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、膨張材等を含む用語である。水セメント比が結合材としてポルトランドセメントのみ、あるいは混合セメントのみを意味する用語であるのに対して、水結合材比は、セメントと混合材がプレミックスされていない結合材をも含む用語である。
【0027】
配合設計では、図2に示すように、先ず、生コン工場等において、試し練りにより単位水量を決定し、施工性を確認した上、暫定配合を決定する。そして、本実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法では、図1に示すように、step1として圧縮強度試験、静弾性係数試験、拘束膨張試験、自己収縮試験、乾燥収縮試験を含む各種試験を行う。後述のように、試し練りの供試体の試験結果から間詰めコンクリートとして打設するまだ固まらないフレッシュコンクリートの任意の材齢時である材齢t時における各種特性値を推定するためである。
【0028】
図2に示すように、各種試験により、暫定配合の水結合材比の-3%、暫定配合の水結合材比、暫定配合の水結合材比の+3%の圧縮強度を確認する。また、20kg及び25kgの拘束膨張試験をそれぞれ行って膨張ひずみを確認する。
【0029】
そして、変動係数8%となる水結合材比及び膨張ひずみ200μm以上となる単位膨張材量を求め、配合を決定する。
【0030】
その後、決定した配合により、例えば生コン工場でフレッシュコンクリートを練り混ぜ供試体を作成し、試験機関等に搬送し、そこで自己収縮試験や乾燥収縮試験等を実施し、後述のように、間詰めコンクリートとして打設するコンクリートの特性値を推定した上、ひび割れ照査を行う。
【0031】
ひび割れ照査でOKとなった場合は、最終試し練りを行って、供試体を作成し、強度を確認するとともに、再度、乾燥収縮試験等を行って、ひび割れ発生の評価を行う。図1に示すように、本実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法では、step2の配合照査段階でひび割れ発生の評価において、後述のように、ひび割れ指数が所定値を上回り、OKとなった場合には、通常の従来の施工方法で間詰めコンクリートを打設して施工する。
【0032】
しかし、図1に示すように、step2の配合照査段階でNGとなった場合は、最初に対策1である配合修正で解消できるように試みる。具体的には、本実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法のstep3の配合修正では、単位水量や単位セメント量(単位結合材量)等を増減することで対応する。なお、step2の配合照査は、通常行う圧縮強度と拘束膨張試験に基いた配合決定に加え、通常の配合設計では行わない静弾性係数、自己収縮や乾燥収縮を試験機関等で測定してひび割れ指数を計算して決定配合が満足するかを評価することを指している。
【0033】
(ひび割れ照査)
次に、図3図4を用いて、本実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法のひび割れ照査について説明する。図3は、収縮ひずみによる引張応力の算定方法の概要を示す図であり、図4は、コンクリート試験からひび割れ発生の評価に至るまでのひび割れ照査のフローを示すフロー図である。
【0034】
前述のように決定したコンクリートの配合により生コン工場等で供試体を作成し、図4に示すように、圧縮強度試験及び静弾性係数試験を行い、材齢28日の圧縮強度及び材齢28日の静弾性係数を測定する。そして、間詰めコンクリートの特性値として圧縮強度及び静弾性係数の経時変化を推定して、材齢t時の引張強度の算定やひずみに応じたクリープを考慮する際に用いる。
【0035】
(1)収縮ひずみの特性値の推定
また、図3図4に示すように、本発明の実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法では、前述のように、生コン工場から試験機関等に搬送された供試体からコンクリートのひずみに関するコンクリート試験を行って間詰めコンクリートの収縮ひずみの特性値を推定する。つまり、本実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法では、収縮ひずみの設計上の特性値は、バラツキが大きいため、1か月程度の各種の収縮試験を行って、その試験値から特性値を推定するようにした。
【0036】
具体的には、配合決定した試し練りのフレッシュコンクリートから供試体を作成し、図3図4に示すように、拘束膨張試験を行って材齢7日の膨張ひずみを実測し、膨張ひずみの実測値εex(7)を得る。そして、この実測値εex(7)から膨張ひずみの経時変化を推定する。例えば、7日の実測値εex(7)を最終値とて、日本コンクリート工学会発行のマスコンクリートのひび割れ制御指針2016の指数関数式(設計式)に代入して任意の材齢時である材齢t時の膨張ひずみを推定する。
【0037】
また、配合決定した試し練りのフレッシュコンクリートから供試体を作成し、図3図4に示すように、供試体の自己収縮試験を行って材齢28日までの自己収縮ひずみの経時変化を実測し、自己収縮ひずみの実測値εas(t)を得る。そして、この実測値εas(t)から直方体状の間詰め部(現場打ちコンリートを打設する部位を示す。以下同じ)の寸法効果(×0.8)を考慮して自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数を推定する。なお、実物大要素実験及び実現場でのひずみ測定とひび割れ観察から、自己収縮試験に用いる断面寸法100×100mmの角柱供試体と概ね間詰部と同等となる断面寸法200×200mmまたは245×245mmの試験体との自己収縮ひずみの比率を0.8とした。
【0038】
また、配合決定した試し練りのフレッシュコンクリートから供試体を作成し、供試体の乾燥収縮試験を行って乾燥材齢28日(材齢35日)後の供試体の長さ変化を実測し、材齢6か月(182日)後の長さ変化を推定し、前述の材齢7日から182日までの自己収縮ひずみの実測値εas(t)の増加分を差し引いて、乾燥収縮ひずみの実測値εsh(182)を得る。つまり、乾燥収縮試験の実測値には、材齢7日以降の自己収縮が含まれているため、自己収縮試験の実測値を差し引くようにしてる。なお、7日というのは乾燥収縮試験は実材齢7日を起点としているため、差し引く分の自己収縮試験は7日からとしている。また、コンクリート標準示方書には、乾燥収縮に関する式が定められ、乾燥収縮は乾燥面の露出の程度や周りの湿度に影響されるため、乾燥収縮試験における100×100×400mmの値を実際の構造物の状態に換算するようになっている。このとき、体積表面積比(V/S)及び相対湿度を考慮して、乾燥収縮ひずみの実測値εsh(182)を算出している
【0039】
このように、配合決定した試し練りのフレッシュコンクリートから供試体を作成し、供試体の拘束膨張試験、自己収縮試験、及び乾燥収縮試験を行って、膨張ひずみの経時変化、自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数、及び間詰め部の材齢6か月後の長さ変化を推定し、間詰め部のコンクリートの自由ひずみεm1を算出する(図3参照)。
【0040】
(2)鉄筋拘束及び外部拘束の考慮
次に、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法では、場所打ちコンクリートである間詰めコンリートの鉄筋拘束度及び外部拘束度を考慮する。鉄筋拘束度及び外部拘束度は、現状の構造設計では設計上の値はなく、また、構造毎に異なるため、間詰め部とPCa床版との剛性比で部材の形状による拘束ひずみを算出して考慮する。
【0041】
具体的には、前述の自由ひずみεm1と下記式(1)との積により鉄筋拘束及び外部拘束で拘束された状態の間詰めコンクリートの材齢t時における部材の拘束ひずみεm2を算出する。
Rs+(1-Rs)×Ro・・・式(1)
ここで、Rs:鉄筋拘束度
Ro:外部拘束度
なお、図4の鉄筋拘束度=0.272としているのは、寸法効果と同様に、実物大要素実験及び実現場でのひずみ測定とひび割れ観察から得た値である。具体的には間詰コンクリートと同じ形状の部材で、鉄筋の有り、無しのひずみを計測して、その比率から求めたものである。
【0042】
(3)クリープを考慮した収縮ひずみによる引張応力の算出
次に、図3図4に示すように、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法では、材齢t-1時から材齢t時に生じる収縮ひずみに応じたクリープを考慮して収縮ひずみによる引張応力を算出する。
【0043】
具体的には、自由ひずみεm1×拘束ひずみεm2に有効ヤング係数である下記式(2)を掛け合わせて、収縮ひずみによる引張応力σtを算出する。
E/(1+φ)・・・式(2)
ここで、E:ヤング係数
φ:クリープ係数
【0044】
(4)クリープを考慮した温度変化の拘束ひずみによる引張応力の算出
本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法では、図4に示すように、前述の収縮ひずみによる引張応力の算出と並行して、材齢t-1時から材齢t時に生じる温度変化による拘束ひずみに応じたクリープを考慮して拘束ひずみによる引張応力を算出する。
【0045】
具体的には、施工時期の外気温の変化を継続的に計測し、温度応力解析から定めた単位セメント量(単位結合材量)と外気温による関係式から材齢t時における温度変化による拘束ひずみεtを算出し、有効ヤング係数である前記式(2)を掛け合わせて、温度変化による拘束ひずみの引張応力σtを算出する。
【0046】
ここで、温度変化による拘束ひずみを抑制する対策と収縮ひずみを抑制する対策を比べると、温度変化を抑える対策の方が、収縮ひずみを抑制する対策より対策が取りやすく効果も大きいと考えられる。よって、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法では、step2の配合照査段階でNGとなった場合、且つ、最初に対策1であるstep3の配合修正でひずみの抑制ができなかった場合は、対策2のstep4として、間詰めコンクリートの温度変化を抑制する温度抑制対策を試みる。
【0047】
具体的には、温度抑制対策としては、打設したフレッシュコンクリートをブルーシートや保温シートなどで被うなどして保温する保温養生や、ジェットヒーター等で暖気を供給するなどする給熱養生を行うことが挙げられる。また、打設するフレッシュコンクリート(生コン)そのものの温度を抑制する生コン温度抑制対策などを行うことも有効である。
【0048】
そして、前述のクリープを考慮した収縮ひずみによる引張応力の算出で算出された引張応力と、及びクリープを考慮した温度変化の拘束ひずみによる引張応力の算出で算出された引張応力を合算し、図4に示すように、合算した引張応力と、圧縮強度試験から求めた引張強度とから、材齢t時におけるひび割れ指数(引張強度/引張応力)を算出する。
【0049】
この算出したひび割れ指数と実物大要素実験及び実現場でのひずみ測定とひび割れ観察により得た収縮ひずみの整合性を検証した。結果としては、ひび割れ指数が材齢7日までは1.5以内、材齢7日以降は1.0以内であればひび割れを防止できることが検証できた。よって、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法では、図4に示すように、ひび割れ指数が材齢7日までは1.5以上、材齢7日以降は1.0以上を目標値として間詰めコンクリートのひび割れ発生のリスクを評価する。
【0050】
そこで、図1に示すように、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法では、step5として、対策2のstep4で温度抑制対策を行った場合の温度応力解析を行う。具体的には、step5の温度応力解析では、温度抑制対策を行った場合の温度変化の拘束ひずみによる引張応力を算出し、試し練りのコンクリートから求められた前述のクリープを考慮した収縮ひずみによる引張応力を合算して、ひび割れ指数が前述の目標値以上であればOKとしてstep4の温度抑制対策に適合した養生を工夫した施工方法により間詰めコンクリートを打設して施工する。
【0051】
この温度応力解析は、市販の表計算ソフトを利用して関係式を予め打ち込んで解析ソフトを構築し、圧縮強度試験、静弾性係数試験、拘束膨張試験、自己収縮試験、乾燥収縮試験を含む各種試験で得られた実測値を入力することにより、自動で評価できるようにすることが好ましい。専門知識がなくても誰でも簡単に間詰めコンクリートのひび割れの発生リスクを評価して対応策をとることが容易となるからである。
【0052】
また、図1に示すように、step5の温度応力解析でNGとなった場合は、対策3としてstep6の収縮抑制対策を行う。step6の収縮抑制対策では、収縮低減剤の使用や、膨張材の増量を検討して収縮ひずみによる引張応力の低減を試みる。
【0053】
具体的には、収縮低減剤の使用、膨張材の増量等で収縮抑制対策を施した配合で再度試し練りを行い、その配合により生コン工場でフレッシュコンクリートを練り混ぜ供試体を作成し、試験機関等に搬送し、そこで自己収縮試験や乾燥収縮試験等を実施し、再度、step2の配合照査、step5の温度応力解析をやり直してOKとなるまで繰り返す。
【0054】
以上説明した本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法によれば、PCa床版に両側が挟まれているため、構造的に拘束が大きく、且つ、自己収縮が大きく、セメント量が多いため水和発熱温度が高いとともに、部材の体積が小さいことから急激な温度変化となり易いという間詰めコンクリート(周囲の既設構造物に拘束を受ける場所打ちコンクリート)特有の諸問題を解決することができる。
【0055】
また、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法によれば、現場毎の施工条件に基づいた短期的及び長期的な収縮量、応力度を推定し、事前にひび割れリスクを評価できるので、ひび割れを最大限防止する配合計画及び施工計画を立案することが容易となる。
【0056】
そして、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法によれば、ひび割れ指数が目標値を下回る場合、配合修正を行って再度試し練りをし、算出し直したひび割れ指数でひび発生のリスクを再度評価するので、軽微な配合修正により間詰めコンクリートのひび割れを抑制することができるか否かの判別がつき、実行が容易な施工計画を立案することができる。
【0057】
さらに、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法によれば、温度抑制対策を施して間詰めコンクリートの温度変化を抑制した場合の温度変化による引張応力を算出し直して、算出し直したひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価するので、収縮ひずみを抑制する対策より対策が取り易く効果も大きいと考えられ、且つ、材料費が嵩むこともない温度変化を抑える対策で、間詰めコンクリートのひび割れを抑制することができる。
【0058】
また、本発明の実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法によれば、収縮抑制対策を施して間詰めコンクリートの材齢t時における収縮ひずみの引張応力を算出し直して、算出し直したひび割れ指数が目標値以上か否かでひび発生のリスクを再度評価するので、温度変化を抑える対策でも抑えることができない場合でも間詰めコンクリートのひび割れを抑制することができる。
【0059】
それに加え、本発明の実施形態に係る間詰めコンクリートのひび割れ抑制方法によれば、拘束膨張試験では、材齢7日の供試体の膨張ひずみを実測し、実測値から膨張ひずみの経時変化を推定し、自己収縮試験では、材齢28日までの供試体の自己収縮ひずみの経時変化を実測し、実測値から間詰め部(現場打ちコンリートを打設する部位)の寸法効果を考慮して自己収縮ひずみの経時変化の関係式の係数を推定し、乾燥収縮試験では、乾燥材齢28日後の供試体の長さ変化を実測して6カ月後の長さ変化を推定し、自己収縮ひずみの実測値を差し引いて、乾燥収縮ひずみの実測値を算出し、乾燥収縮ひずみの実測値から間詰め部の材齢6か月後の長さ変化を推定する。このため、自由ひずみの算出精度が向上し、間詰めコンクリートの事前のひび割れリスクを正確に評価することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。特に、本発明に係る場所打ちコンクリートのひび割れ抑制方法は、間詰め部に打設される間詰めコンリートに限られず、既設構造物により拘束を受ける場所打ちコンクリートには適用することができる。
図1
図2
図3
図4