(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
A61B5/055 370
(21)【出願番号】P 2022205811
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2018147802の分割
【原出願日】2018-08-06
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 修平
(72)【発明者】
【氏名】今村 那芳
(72)【発明者】
【氏名】大牟禮 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】高井 博司
(72)【発明者】
【氏名】市之瀬 伸保
(72)【発明者】
【氏名】葛西 由守
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-000254(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155461(WO,A1)
【文献】特開2010-035991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元静磁場分布から断面位置を決定する決定部と、
前記断面位置における静磁場分布と、前記断面位置における周波数に対する受信信号強度の分布を示す共鳴周波数分布とを取得し、前記共鳴周波数分布と前記静磁場分布のヒストグラムとを対応付け、対応付けた結果に基づき、中心周波数を調整する調整部と、
を具備する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記共鳴周波数分布と前記静磁場分布のヒストグラムとを対応付ける較正部を具備し、 前記調整部は、前記対応付けた結果に基づき、中心周波数を調整する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記調整部は、対応付けられた前記静磁場分布のヒストグラムに基づき、中心周波数を調整する、請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記断面位置は、面積が第1閾値以上であり、かつ前記静磁場分布の標準偏差、半値幅およびエントロピーの少なくともいずれか1つが第2閾値以下である断面の位置である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記断面位置は、撮像対象部位に応じた探索範囲から決定される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記較正部は、前記断面位置における前記共鳴周波数分布と前
記断面位置における前記静磁場分布のヒストグラムとを対応付ける請求項2
または請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記調整部は、撮像位置と対応付けられた前記静磁場分布とに基づいて、前記中心周波数を調整する請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記静磁場分布は、シミング後の推定静磁場分布である請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記静磁場分布は、収集した静磁場分布である請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記調整部により中心周波数が調整されたRFパルスを用いてMR撮像を実行する撮像制御部を具備する、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
3次元静磁場分布から断面位置を決定し、
前記断面位置における静磁場分布と、前記断面位置における周波数に対する受信信号強度の分布を示す共鳴周波数分布とを取得し、
前記共鳴周波数分布と前記静磁場分布のヒストグラムとを対応付け、対応付けた結果に基づき、中心周波数を調整する、
磁気共鳴イメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静磁場分布に基づいて静磁場に対するシミング(以下、静磁場シミングと呼ぶ)を実行する磁気共鳴イメージング(以下、MRI(Magnetic Resonance Imaging)とも呼ぶ)装置の技術が知られている。例えば、MRI装置は、マルチスライス撮像における静磁場シミングにより、スライスごとにプリパルスの中心周波数とRFパルスの中心周波数とを最適化する。しかしながら、短時間に最適な中心周波数を求めるのは難しい。また、マルチスライス撮像における複数のスライス各々における静磁場の不均一性によっては、磁気共鳴画像の画質が向上しないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-35991号公報
【文献】特開2014-140472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、磁気共鳴画像の画質を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置によれば、決定部と、収集部と、構成部と、調整部とを含む。決定部は、3次元の静磁場分布から断面位置を決定する。収集部は、前記断面位置における共鳴周波数分布を収集する。構成部は、前記共鳴周波数分布と前記3次元の静磁場分布とを対応付ける。調整部は、対応付けられた前記3次元の静磁場分布に基づき、後段の撮像における中心周波数を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るシミング収集範囲の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る決定された断面位置の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る位置決め画像の範囲とシミング収集範囲とCFA(Center Frequency Adjustment)収集範囲とを示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本実施形態に係るCFA収集範囲の一例を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、本実施形態に係る留意すべきCFA収集範囲の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る、決定された断面位置における共鳴周波数分布の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る、決定された断面位置における静磁場分布のヒストグラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
図1は、本実施形態における磁気共鳴イメージング装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、静磁場磁石100と、シムコイル101と、シムコイル電源102と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源105と、寝台107と、寝台制御回路109と、送信回路113と、送信コイル115と、受信コイル117と、受信回路119と、撮像制御回路121と、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131とを備える。寝台制御回路109と、撮像制御回路121と、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131とは、無線、有線を問わず、データの伝送のために接続される。なお、被検体Pは、磁気共鳴イメージング装置1に含まれない。
【0008】
静磁場磁石100は、中空の略円筒状に形成された磁石である。静磁場磁石100は、内部の空間に略一様な静磁場を発生する。静磁場磁石100としては、例えば、超伝導磁石等が使用される。
図1に示すように、Z軸方向は、静磁場の方向と同方向であるとする。また、Y軸方向は、鉛直方向とし、X軸方向は、Z軸及びY軸に垂直な方向とする。
【0009】
シムコイル101は、静磁場磁石100により発生された静磁場の不均一性の2次以上の複数次成分を補正する補正磁場を発生する。シムコイル101は、傾斜磁場コイル103の外周面上に、不図示の絶縁層を介して接合される。一般的に、静磁場の不均一性は、0次成分、1次成分X1、Y1、Z1、および2次成分X2、Y2、Z2、XY、YZ、ZXなどの各成分に分けて表される。また、静磁場の不均一性には、3次成分以上の高次の成分も存在する。複数次成分は、2次成分以上の高次の成分に対応する。
【0010】
以下、説明を簡単にするために、高次の成分は、2次成分であるものとする。このとき、シムコイル101は、2次シムの構造を有する。このとき、シムコイル101は、例えば、静磁場の不均一性の2次成分ZX、XY、YZ、(Z2-(X2+Y2)/2)、(X2-Y2)に対応する5つのコイルパターンの構造を有する。シムコイル101における5つのコイルパターンは、シムコイル電源102から供給された電流に応じて、静磁場の不均一性の2次成分ZX、XY、YZ、(Z2-(X2+Y2)/2)、(X2-Y2)を補正するための5チャンネルの補正磁場をそれぞれ発生する。なお、静磁場の不均一性の複数次成分を加味した静磁場シミングを実行する場合、シムコイル101は、複数次成分に応じたコイルパターンを有する。本実施形態に関する静磁場シミングについては、後程説明する。
【0011】
シムコイル電源102は、撮像制御回路121による制御のもとで、シムコイル101に電流を供給する電源装置である。具体的には、シムコイル電源102は、シムコイル101における5つのコイルパターン各々に対して独立に電流を供給する。すなわち、シムコイル電源102は、本実施形態に関する静磁場シミングにより決定された2次シミング値に対応する電流を、シムコイル101における5つのコイルパターン各々に供給する。
【0012】
傾斜磁場コイル103は、中空の略円筒状に形成されたコイルである。傾斜磁場コイル103は、シムコイル101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成される。傾斜磁場コイル103における3つのコイルは、傾斜磁場電源105から個別に電流供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生する。
【0013】
傾斜磁場コイル103により発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、例えば、周波数エンコード用傾斜磁場(リードアウト傾斜磁場ともいう)、位相エンコード用傾斜磁場およびスライス選択用傾斜磁場を形成する。スライス選択用傾斜磁場は、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じて磁気共鳴(以下、MR(Magnetic Resonance)と呼ぶ)信号の位相を変化させるために利用される。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。加えて、傾斜磁場コイル103により発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、静磁場の1次シミングのオフセットとして用いられる。
【0014】
傾斜磁場電源105は、撮像制御回路121による制御のもとで、傾斜磁場コイル103に電流を供給する電源装置である。具体的には、X軸に対応する傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源105からの電流の供給により、静磁場の不均一性のX1成分と略同様な磁場方向を有する補正磁場と、周波数エンコード用傾斜磁場とを発生する。また、Y軸に対応する傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源105からの電流の供給により、静磁場の不均一性のY1成分と略同様な磁場方向を有する補正磁場と、位相エンコード用傾斜磁場とを発生する。Z軸に対応する傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源105からの電流の供給により、静磁場の不均一性のZ1成分と略同様な磁場方向を有する補正磁場と、スライス選択用傾斜磁場とを発生する。すなわち、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ対応する3つの傾斜磁場コイルは、撮像に関する傾斜磁場の発生に加えて、静磁場の不均一性の1次成分を補正するためにも用いられる。
【0015】
寝台107は、被検体Pが載置される天板1071を備えた装置である。寝台107は、寝台制御回路109による制御のもと、被検体Pが載置された天板1071を、ボア111内へ挿入する。寝台107は、例えば、長手方向が静磁場磁石100の中心軸と平行になるように、検査室内に設置される。
【0016】
寝台制御回路109は、寝台107を制御する回路である。寝台制御回路109は、インタフェース125を介した操作者の指示により寝台107を駆動することで、天板1071を長手方向および上下方向、場合によっては左右方向へ移動させる。
【0017】
送信回路113は、撮像制御回路121による制御のもとで、ラーモア周波数で変調された高周波パルスを送信コイル115に供給する。
【0018】
送信コイル115は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。送信コイル115は、送信回路113からの出力に応じて、高周波磁場に相当するRF(Radio Frequency)パルスを発生する。送信コイル115は、例えば、複数のコイルエレメントを有する全身用コイル(以下、WB(Whole Body)コイルと呼ぶ)である。WBコイルは、送受信コイルとして使用されてもよい。また、送信コイル115は、1つのコイルにより形成されるWBコイルであってもよい。
【0019】
受信コイル117は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。受信コイル117は、高周波磁場によって被検体Pから放射されるMR信号を受信する。受信コイル117は、受信されたMR信号を受信回路119へ出力する。受信コイル117は、例えば、1以上、典型的には複数のコイルエレメントを有するコイルアレイである。なお、
図1において送信コイル115と受信コイル117とは別個のRFコイルとして記載されているが、送信コイル115と受信コイル117とは、一体化された送受信コイルとして実施されてもよい。送受信コイルは、被検体Pの撮像対象部位に対応し、例えば、頭部コイルのような局所的な送受信RFコイルである。
【0020】
受信回路119は、撮像制御回路121による制御のもとで、受信コイル117から出力されたMR信号に基づいて、デジタルのMR信号(以下、MRデータと呼ぶ)を生成する。具体的には、受信回路119は、受信コイル117から出力されたMR信号に対して各種信号処理を施した後、各種信号処理が施されたデータに対してアナログ/デジタル(A/D(Analog to Digital))変換を実行する。受信回路119は、A/D変換されたデータを標本化(サンプリング)する。これにより、受信回路119は、MRデータを生成する。受信回路119は、生成されたMRデータを、撮像制御回路121に出力する。
【0021】
撮像制御回路121は、処理回路131から出力された撮像プロトコルに従って、シムコイル電源102、傾斜磁場電源105、送信回路113及び受信回路119等を制御し、被検体Pに対する撮像を行う。撮像プロトコルは、撮像対象部位および検査内容に応じた各種パルスシーケンスを有する。撮像プロトコルには、傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさ、傾斜磁場電源105により電流が傾斜磁場コイル103に供給されるタイミング、送信回路113により送信コイル115に供給される高周波パルスの大きさや時間幅、送信回路113により送信コイル115に高周波パルスが供給されるタイミング、受信コイル117によりMR信号が受信されるタイミング等が定義されている。
【0022】
インタフェース125は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付けるための、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。インタフェース125は、処理回路131等に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換し処理回路131へと出力する。なお、本明細書において、インタフェースは、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路もインタフェース125の例に含まれる。
インタフェース125は、操作者の指示により、後述するシミング撮像に関するMR信号の収集範囲(以下、第1収集範囲と呼ぶ)を入力する。インタフェース125は、操作者の指示により、後述するMR画像を生成する際のマルチスライス撮像に関するMR信号の収集範囲(以下、第2収集範囲と呼ぶ)を、位置決め画像(Locator)に対して入力する。第2収集範囲は、第1収集範囲と少なくとも一部が重なるものとする。なお、第1収集範囲は、第2収集範囲と同一の撮像領域であってもよい。
【0023】
ディスプレイ127は、処理回路131におけるシステム制御機能1311による制御のもとで、画像生成機能1313により生成された各種MR画像、撮像および画像処理に関する各種情報などを表示する。ディスプレイ127は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイ、モニタ等の表示デバイスである。
【0024】
記憶装置129は、画像生成機能1313を介してk空間に充填されたMRデータ、画像生成機能1313により生成された画像データ、各種撮像プロトコル、撮像プロトコルを規定する複数の撮像パラメータを含む撮像条件等を記憶する。記憶装置129は、処理回路131で実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。記憶装置129は、本実施形態に関する静磁場シミングにより0次シミング値と1次シミング値と2次シミング値とを算出するプログラム(以下、算出プログラムと呼ぶ)を記憶する。
【0025】
0次シミング値は、マルチスライス収集に関する収集領域における複数のスライス各々において、水の共鳴周波数に相当する。すなわち、0次シミング値は、静磁場の不均一性の0次成分について、収集領域における複数のスライス毎の補正に関連する。1次シミング値は、マルチスライス収集に関する複数のスライス各々において、静磁場の不均一性のX1成分、Y1成分、Z1成分を補正するために、傾斜磁場電源105から3つの傾斜磁場コイルにそれぞれ供給される電流値に相当する。すなわち、1次シミング値は、静磁場の不均一性の1次成分について、収集領域における複数のスライス毎の補正に関連する。2次シミング値は、マルチスライス収集における収集領域の全体に亘って、静磁場の不均一性のZX成分、XY成分、YZ成分、(Z2-(X2+Y2)/2)成分、および(X2-Y2)成分を補正するために、シムコイル電源102からシムコイル101における5つのコイルパターンにそれぞれ供給される電流値に相当する。すなわち、2次シミング値は、静磁場の不均一性の2次成分について、収集領域の全体に亘る補正に関連する。
【0026】
記憶装置129は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive)、光ディスク等である。また、記憶装置129は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。
【0027】
処理回路131は、ハードウェア資源として図示していないプロセッサ、ROM(Read-Only Memory)やRAM等のメモリ等を有し、本磁気共鳴イメージング装置1を制御する。処理回路131は、システム制御機能1311、画像生成機能1313、静磁場シミング機能1315、決定機能1317、収集機能1319、較正機能1321および調整機能1323を有する。システム制御機能1311、画像生成機能1313、静磁場シミング機能1315、決定機能1317、収集機能1319、較正機能1321および調整機能1323にて行われる各種機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶装置129に記憶されている。処理回路131は、これら各種機能に対応するプログラムを記憶装置129から読み出し、読み出したプログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読みだした状態の処理回路131は、
図1の処理回路131内に示された複数の機能等を有する。
【0028】
なお、
図1においては単一のプロセッサにてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路131を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。また、
図1においては、単一の記憶装置129が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶装置を配置して、処理回路131は、個別の記憶装置から、対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
【0029】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。
【0030】
プロセッサは、記憶装置129に記憶されたプログラムを読み出し実行することで各種機能を実現する。なお、記憶装置129にプログラムを記憶する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成してもかまわない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路109、送信回路113、受信回路119、撮像制御回路121等も同様に、上記プロセッサなどの電子回路により構成される。
【0031】
処理回路131は、システム制御機能1311により、磁気共鳴イメージング装置1を制御する。具体的には、処理回路131は、記憶装置129に記憶されたシステム制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開されたシステム制御プログラムに従って本磁気共鳴イメージング装置1における各種回路および各種電源を制御する。例えば、処理回路131は、インタフェース125を介して操作者から入力された撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを記憶装置129から読み出す。なお、処理回路131は、撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを生成してもよい。処理回路131は、撮像プロトコルを撮像制御回路121に送信し、被検体Pに対する撮像を制御する。
【0032】
処理回路131は、画像生成機能1313により、例えば、リードアウト傾斜磁場の強度に従って、k空間のリードアウト方向に沿ってMRデータを充填する。処理回路131は、k空間に充填されたMRデータに対してフーリエ変換を行うことにより、MR画像を生成する。処理回路131は、生成されたMR画像を、ディスプレイ127や記憶装置129に出力する。
以上が本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成についての概略的な説明である。
【0033】
次に、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の動作例について
図2のフローチャートを参照して説明する。
ステップS201では、位置決めスキャンが行われる。具体的には、撮像制御回路121が、例えば処理回路131からの指示に従って、位置決めスキャンを実行する。処理回路131は、位置決めスキャンにより収集されたMR信号を用いて、位置決め画像を生成する。処理回路131は、生成された位置決め画像を、ディスプレイ127に出力してもよい。
ステップS202では、静磁場シミング機能135を実行することで処理回路131が、静磁場シミング処理を実行し、推定された3次元の静磁場分布である3次元推定静磁場分布を生成する。静磁場シミングは、第1収集範囲に対するシミング撮像により収集されたMR信号により生成された静磁場分布を用いて、第2収集範囲における静磁場の不均一性を、マルチスライス撮像に関する複数のスライス毎に補正する処理である。静磁場の不均一性は、静磁場中に配置された被検体Pに起因する。このため、シミング撮像は、ボア111内に被検体Pが挿入された状態で実行される。なお、静磁場シミング処理については後述する。
ステップS203では、決定機能1317を実行することで処理回路131が、第2収集範囲におけるシミング後の3次元推定静磁場分布から、静磁場分布が最も均一な断面位置を決定する。
【0034】
ステップS204では、収集機能1319を実行することで処理回路131が、断面位置においてCFA(Center Frequency Adjustment)計測を実行する。収集機能1319を実行することで処理回路131が、CFA計測において、断面位置における共鳴周波数分布を収集する。
ステップS205では、較正機能1321を実行することで処理回路131が、収集された共鳴周波数分布に基づいて、3次元推定静磁場分布を較正する。具体的には、較正機能1321を実行することで処理回路131が、共鳴周波数分布と3次元推定静磁場分布とを対応付け、相対値である3次元推定静磁場分布を絶対値に換算できるようにする。
ステップS206では、調整機能1323を実行することで処理回路131が、較正後の3次元推定静磁場分布に基づいて、本スキャンなどの後段のMR撮像におけるRFパルスの中心周波数を調整する。
ステップS207では、例えば撮像制御回路121が、撮像断面に応じて中心周波数が調整されたRFパルスを用いて、本スキャンを実行する。
以上で本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の動作例を終了する。
【0035】
次に、本実施形態のステップS202で実行される静磁場シミング処理の詳細について説明する。
撮像制御回路121は、被検体Pに対して、シミング撮像を実行する。撮像制御回路121は、例えば、2つの異なるエコー時間間隔を用いたダブルエコー法を用いたマルチスライス撮像により、シミング撮像を実行する。なお、シミング撮像は、例えば、3つの異なるエコー時間間隔を用いたトリプルエコー法を用いたマルチスライス撮像など他の撮像法により実行されてもよい。具体的には、撮像制御回路121は、ダブルエコー法に従って、傾斜磁場電源105、送信回路113、受信回路119を制御する。撮像制御回路121は、シミング撮像により、受信コイル117及び受信回路119を介して、3次元的なMR信号を収集する。すなわち、2つのエコー時間間隔に対応するMR信号を収集される。なお、シミング撮像におけるRFパルスの中心周波数は、シミング撮像前および位置決め画像に関するMR信号の収集前に実行される共鳴周波数分布計測により、決定される。
【0036】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、シミング撮像により収集されたMR信号に基づいて、第1収集範囲における複数のスライスにそれぞれ対応する複数の静磁場分布を生成する。具体的には、処理回路131は、第1収集範囲における複数のスライス各々におけるMR信号に基づいて、2つのエコー時間間隔にそれぞれ対応する2つの複素画像を生成する。処理回路131は、2つの複素画像のうち一方の複素画像に対して複素共役演算を実施し、複素共役演算が実施された複素画像と複素共役演算が実施されていない他方の複素画像との積を計算する。処理回路131は、計算された積の位相を用いて位相差画像を生成する。
【0037】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、2つの複素画像のうち少なくとも一つを用いて、強度画像を生成する。処理回路131は、強度画像に基づいて、位相差画像における背景領域を抽出する。処理回路131は、抽出された背景領域を用いて、位相差画像に対して背景を除去する。処理回路131は、背景が除去された位相差画像に対して、位相の連続性を考慮した位相アンラップ処理を実行する。処理回路131は、位相アンラップ処理が実行された位相差画像における複数のピクセル各々の位相差の値に対して2つのエコー時間間隔の差に相当するエコー間隔と磁気回転比とを用いた線形変換を行うことで、周波数情報としての2次元的な静磁場分布を生成する。処理回路131は、複数の2次元的な静磁場分布を結合することで、3次元的な静磁場分布(以下、シミング前分布と呼ぶ)を生成する。
【0038】
処理回路131は、第1収集範囲において、第2収集範囲における撮像位置、すなわち複数のスライスを特定する。処理回路131は、シミング前分布と特定された撮像位置とに基づいて、複数のスライスにそれぞれ対応する複数の静磁場分布を生成する。第2収集範囲における複数のスライスにそれぞれ対応する複数の静磁場分布の生成は、シミング前分布を用いた複数のスライスへのリフォーマット、例えば断面変換処理に相当する。なお、複数のスライスに対応する複数の静磁場分布は、撮像対象部位、性別、年齢等に応じてデフォルトで記憶装置129に記憶されていてもよい。このとき、シミング撮像は不要となる。
【0039】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、第2収集範囲における複数の断面位置とシミング前分布とを用いて、第2収集範囲における複数の断面位置にそれぞれ対応する複数のスライス各々に対して、スライス毎静磁場シミングを実行する。具体的には、処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、記憶装置129から算出プログラムを読み出し、自身のメモリに展開する。処理回路131は、算出プログラムにより、第2収集範囲における複数のスライス各々に対して、0次シミング値、1次シミング値および2次シミング値を計算する。処理回路131は、計算された0次シミング値、1次シミング値および2次シミング値を、表示断面の位置に対応するスライスに対応付ける。以下、静磁場シミングの基本式について説明し、次いでスライス毎静磁場シミングについて説明する。
静磁場シミングに関する基本式の一例を以下の式(1)に示す。
【0040】
【0041】
式(1)におけるx、y、zは、空間中の3次元位置である。具体的には、xは、水平方向(X軸)における静磁場の中心(以下、磁場中心と呼ぶ)を原点とした位置を表す。yは、鉛直方向(Y軸)における磁場中心を原点とした位置を表す。zは、軸長方向(Z軸)における磁場中心を原点とした位置を表す。x、y、zの単位は[m]とする。式(1)におけるa0は、0次シミング値である。a0は、RFパルスの中心周波数にマイナスを付与した値を表す。a0の単位は[ppm]とする。式(1)におけるa1、a2、a3は、1次シミング値である。
【0042】
具体的には、a1、a2、a3は、X、Y、Z軸のそれぞれについて単位長さあたりの共鳴周波数の変化量を表す。単位長さあたりの共鳴周波数の変化量は、傾斜磁場の傾き、すなわち傾斜磁場コイル103へ印加される電流値に相当する。a1、a2、a3の単位は[ppm/m]とする。式(1)におけるb0(x、y、z)は位置(x、y、z)における静磁場シミング前の共鳴周波数である。換言すれば、b0(x、y、z)は、上述のシミング前分布に相当する3次元的な静磁場分布を共鳴周波数に変換したもの、すなわち静磁場の不均一性を共鳴周波数の分布として表したものに相当する。b0(x、y、z)の単位は[ppm]とする。b0’(x、y、z)は位置(x、y、z)におけるシミング後の共鳴周波数とRFパルスの中心周波数a0との差分値である。b0’(x、y、z)の単位は[ppm]とする。
【0043】
式(1)の左辺、すなわちシミングの後の共鳴周波数とRFパルスの中心周波数との差分値は、小さければ小さいほど理想的な静磁場シミングの条件となる。シミング前分布を示す画像について、非背景領域に対応する前景領域における複数の画素(以下、前景画素と呼ぶ)全ての位置の集合(以下、位置集合Sと呼ぶ)を考えると、位置集合Sは、例えば、以下の式(2)で表される。
【0044】
【0045】
式(2)において、iは、前景画素の通し番号を表す。Nは、前景画素の総数を表す。 この時、式(1)は、シミング前分布の画像における全前景画素に亘ってN本分立てることができる。全前景画素に亘るN本の式をまとめると、以下の式(3)で表すことができる。
【0046】
【0047】
式(3)において、ベクトルb’、行列X、ベクトルa、ベクトルbを、
【0048】
【0049】
として定義すると、式(3)は、以下の式(4)のように表される。
【0050】
【0051】
上述のように、式(1)の左辺、すなわち式(3)または式(4)の左辺のベクトルの各要素は、小さいほど理想的な静磁場シミングとなる。そこで、静磁場の均一性をベクトルb’の大きさとして定義し、0次シミング値と1シミング値とをまとめたベクトルaに関するコスト関数Eを式(5)として定義する。
【0052】
【0053】
式(5)における行列Ωは、ベクトルb’の各要素の重要度や相関によって正規化するための行列である。例えば、行列Ωを単位行列とすると、コスト関数は単純なベクトル要素の二乗和となる。また、行列Ωをベクトルb’に関する共分散行列とすれば、コスト関数は、マハラノビス距離の二乗となる。式(5)のコスト関数を最小化する0次シミング値と1次シミング値との組み合わせであるベクトルaは、最小二乗法により以下の式(6)として求めることができる。
【0054】
【0055】
以下、スライス毎静磁場シミングについて説明する。スライス毎静磁場シミングを実行する第2収集範囲について、第2収集範囲のスライスごとの複数の前景画素の位置集合Sjを考えると、位置集合Sjは、例えば、以下の式(7)で表される。
【0056】
【0057】
式(7)において、jは、第2収集範囲におけるスライスの通し番号を表す。また、式(7)におけるMは、第2収集範囲におけるスライス数を表す。式(7)におけるiは、前景画素の通し番号を表す。Njは、スライスjにおける前景画素の総数を表す。
【0058】
スライス毎静磁場シミングにおいて、式(1)は、第2収集範囲における各スライスjに対して前景画素Nj本分立てることができる。スライスjにおいて、ベクトルbj’、行列Xj、ベクトルaj、ベクトルbjを、
【0059】
【0060】
として定義する。ベクトルbjは、上述のシミング前分布に関する複数の静磁場分布のうち、スライスjに対応する静磁場分布における全前景画素に相当する。スライスjにおいて、全前景画素に亘るNj本の式をまとめると、以下の式(8)で表すことができる。
【0061】
【0062】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、式(8)について、式(5)と同様にコスト関数を定義して解く。これにより、0次シミング値と1次シミング値との組み合わせであるベクトルajが、M通り算出される。すなわち、マルチスライスのスライスjごとに、ベクトルajの値を用いてシミングすることで、スライス毎静磁場シミングによる検査画像収集を実現できる。
【0063】
次に、空間的に2次の補正磁場分布を印加可能なシムコイルを用いた2次シミングに関する基本式を式(9)に示す。
【0064】
【0065】
式(9)におけるx、y、z、a0、a1、a2、a3、b0、b0’については式(1)と同様に定義される。a4、a5、a6、a7、a8は、2次シミング値である。具体的には、a4、a5、a6、a7、a8は、空間的に非線形な共鳴周波数の変化量を表す。空間的に非線形な共鳴周波数の変化量は、シムコイル101へ印加される電流値に相当する。a4、a5、a6、a7、a8の単位は[ppm/m2]とする。
【0066】
このとき、式(9)は、3次元の静磁場分布画像中の全前景画素についてN本分立てることができ、まとめると以下の式(10)となる。
【0067】
【0068】
式(10)において、ベクトルb’、ベクトルa、ベクトルb、行列X、行列X’、行列X’’を、
【0069】
【0070】
として定義すると、式(10)は、以下の式(11)のように表される。
【0071】
【0072】
式(11)は、式(4)に対して行列X’’と、ベクトルa’のサイズが異なるだけで同じ形式であるため、式(5)、式(6)と同じ考えで0次シミング値、1次シミング値および2次シミング値の組み合わせであるベクトルa’を求めることができる。
【0073】
上述した0次、1次および2次のシミング値を用いた本実施形態に関する静磁場シミングについて定式化する。0次のシミングおよび1次のシミングと異なり、2次のシミングはシムコイル101に電流を流してから磁場が安定するまでに時間がかかるため、マルチスライス収集時に、スライス単位で高速に補正磁場を切り替えることが難しい。そこで、本実施形態に関する静磁場シミングは、収集領域における全スライス共通で2次シミングを実施することを前提で、0次のシミングおよび1次のシミングについてスライス毎に最適な補正量を算出することを目的とする。上記内容をまとめると、本実施形態に関する静磁場シミングの基本式は、以下の式(12)となる。
【0074】
【0075】
ここで、式(12)におけるベクトルb’、行列X’’’、ベクトルa’’、ベクトルbは、
【0076】
【0077】
式(12)は、式(4)と同じ形をしている。このため、処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、式(5)、式(6)と同じ考えで収集領域におけるスライス毎の0次シミング値および1次のシミング値と、収集領域全体での2次シミング値との組み合わせであるベクトルa’’を求めることができる。具体的には、処理回路131は、式(12)について、式(5)と同様にコスト関数を定義する。処理回路131は、式(12)に関するコスト関数を最小化する最小二乗法により、0次シミング値と1次シミング値と2次シミング値との組み合わせであるベクトルa’’を計算すればよい。
【0078】
次に、シミング収集範囲の一例について
図3を参照して説明する。
シミング収集範囲は、静磁場シミングを行う範囲であり、上述の静磁場シミング処理の説明では、第1収集範囲として説明した範囲である。
図3の例では、サジタル断面の位置決め画像301に対し、11枚のスライスにより形成されるシミング収集範囲303が決定される。シミング収集範囲303は、例えば、操作者が手動で設定してもよい。または、処理回路131が、後段のMR撮像におけるROI(Region of Interest)に基づき、当該ROIを含むような範囲をシミング収集範囲303として設定してもよい。
静磁場シミング機能1315を実行することで処理回路131が、シミング収集範囲303における3次元推定静磁場分布を生成する。
【0079】
次に、ステップS203で実行される断面位置の決定処理の詳細について説明する。 決定機能1317を実行することで処理回路131は、3次元推定静磁場分布について、3次元空間内で静磁場分布が最も均一な断面位置を探索して決定する。探索方法としては、例えば粒子群最適化手法を用いて探索する。
【0080】
断面位置の静磁場分布が均一かどうかを決定する条件(パラメータ)としては、例えば、3次元推定静磁場分布のシミング収集範囲303の中で探索中の断面の面積が閾値以上であり、かつ当該断面における静磁場分布のSD(Standard Deviation:標準偏差)、静磁場分布に対応した共鳴周波数の半値幅および静磁場分布のエントロピーの少なくともいずれか1つが閾値以下である断面を探索し、当該断面の位置を断面位置として決定すればよい。
面積が閾値以上であることを条件とするのは、均一な静磁場分布が得られた断面の面積が極端に小さい場合、局所的には静磁場分布が均一であるがシミング収集範囲303全体でみれば当該断面の静磁場分布の寄与率が低い。よって、仮に、当該断面に基づき収集した後述のCFA計測により得られる共鳴周波数分布から中心周波数を決定した場合は、結果として画質劣化を招く可能性があるからである。
【0081】
なお、探索方法として粒子群最適化手法を一例と挙げたが、これに限らず、最小値(極小値)を探索するための一般的な最適化アルゴリズムを用いてもよい。また、別の探索方法として、x軸、y軸およびz軸の各軸に沿って、3次元推定静磁場分布について、静磁場分布が最も均一な断面位置を探索してもよい。
すなわち、x軸方向に沿ってyz平面の断面を探索し、シミング収集範囲303内で最も均一な断面位置を断面位置候補として抽出する。同様に他の軸についても、y軸方向に沿って、zx平面の断面を探索し、z軸方向に沿ってxy平面の断面を探索し、それぞれ断面位置候補を抽出する。最終的に、3つの断面位置候補の中から最も均一なものを断面位置として決定すればよい。
【0082】
また、撮像対象部位に応じて探索範囲および断面の条件を制御してもよい。例えば、腹部と頭部とでは撮像断面の断面積が異なるので、撮像対象部位と対応する条件の閾値とを予めテーブルとして、例えば記憶装置129に記憶する。決定機能1317を実行する処理回路131が、撮像対象部位に対応する撮像範囲において、撮像対象部位に対応する閾値を用いて断面位置を決定してもよい。
なお、決定機能1317を実行する処理回路131は、シミング後の3次元推定静磁場分布ではなく、実際に収集した3次元の静磁場分布であるシミング前分布から断面位置を決定してもよい。
【0083】
次に、決定された断面位置の一例について
図4を参照して説明する。
図4右図は、
図3に示すシミング収集範囲303において、決定された断面位置401をマーカ表示した位置決め画像400を示し、
図4左図は、断面位置401における推定静磁場分布410を示す。ここで、第1収集範囲であるシミング収集範囲303と第2収集範囲である撮像範囲とが同一の範囲であると想定する。
図4左図に示す推定静磁場分布410では、同一の静磁場強度の領域を同一のパターンで示される。決定機能1317による断面位置の探索の結果、太線で示す断面位置401において、
図4左図に示すような第2収集範囲内で最も静磁場分布が均一な画像が得られたと想定する。
【0084】
次に、ステップS204により得られる共鳴周波数分布の一例について
図5から
図7を参照して説明する。
図5は、
図4に示す断面位置401が決定された場合の、位置決め画像400の範囲とシミング収集範囲303とCFA収集範囲501とを示す図である。CFA収集範囲は、被検体Pに対し共鳴周波数分布を収集する範囲を示す。
図5右図は、位置決め画像400のコロナル(coronal)断面を示し、
図5中央図は、位置決め画像400のアキシャル(axial)断面を示し、
図5左図は、位置決め画像400のサジタル(Sagittal)断面を示す。
【0085】
CFA収集範囲501は、シミング収集範囲303のように位置決め画像400の範囲内ではなく、断面位置401で形成される平面の延長上無限遠において共鳴周波数を収集した範囲を示す。
よって、位置決め画像400では撮像されない位置までCFA収集範囲501が及んでいることに留意すべきである。ここで、留意すべきCFA収集範囲501の一例について
図6Aおよび
図6Bを参照して説明する。
図6Aは、CFA収集範囲501が位置決め画像400に表示される被検体Pの領域で収まる場合を示す。つまり、被検体Pのアゴ部分を水平に横切るCFA収集範囲501の延長線上かつシミング収集範囲303外に、被検体Pの領域は存在しない。よって、
図6Aに示されるCFA収集範囲501は適切である。
【0086】
一方、
図6Bは、CFA収集範囲501が位置決め画像400に表示される被検体Pの領域内で収まらず、シミング収集範囲303外の被検体Pの領域まで及ぶ場合を示す。つまり、被検体Pの体軸に沿って延びるCFA収集範囲501の延長線上には、シミング収集範囲303外にも被検体Pの下半身がある。よって、
図6Bに示されるCFA収集範囲501に基づいて共鳴周波数分布が生成された場合、シミング収集範囲以外の領域の静磁場分布の影響が存在するため、CFA収集範囲としては適切ではない。
【0087】
図6Bのように被検体Pが位置決め画像400の外枠で途切れており、決定された断面位置401に基づき、シミング収集範囲303外の被検体Pの組織をCFA収集範囲501が通過する場合、処理回路13は、操作者にアラートを出す等してCFA収集範囲の設定が適切ではない旨を警告してもよい。または、決定機能1317を実行することで処理回路131が、CFA収集範囲501がシミング収集範囲303に表示される被検体P以外の部位を通過しないように、断面位置401を再探索してもよい。
【0088】
図7は、CFA計測により得られた断面位置の共鳴周波数分布の一例を示す。横軸が周波数であり、縦軸が受信強度である。静磁場分布が略均一な断面位置では、磁場強度のムラ(ばらつき)が少ないため、支配的な磁場強度に対応する共鳴周波数の強度が高くなる。つまり、共鳴周波数分布が急峻である共鳴周波数に基づいて、中心周波数を決定するのが望ましい。
【0089】
次に、ステップS205で実行される較正機能1321による較正処理について
図8を参照して説明する。
図8は、断面位置における静磁場分布のヒストグラムの一例を示す。横軸は、静磁場分布の磁場強度を示し、縦軸は、度数を示す。
【0090】
較正機能1321を実行することにより処理回路131は、断面位置における共鳴周波数分布と断面位置における静磁場分布のヒストグラムを対応付ける。例えば、較正機能1321を実行することにより処理回路は、
図7に示す共鳴周波数分布のグラフと
図8に示すヒストグラムとを重ね合わせる。なお、共鳴周波数分布のグラフとヒストグラムとを、それぞれのピーク値を基準として重ね合わせてもよい。
例えば、ピーク値で重ね合わせを行う場合、断面位置における静磁場分布のヒストグラムのピーク値は、断面位置で支配的な磁場強度である。一方、断面位置での共鳴周波数分布のピーク値は、上述のように、支配的な磁場強度に対応する共鳴周波数となるはずである。よって、ヒストグラムのピーク値と共鳴周波数分布のピーク値とを対応付けることで、断面位置においてどの磁場強度がどの共鳴周波数に対応するかを把握できる。
【0091】
すなわち、静磁場シミング処理で得られる静磁場分布は位相差画像に基づいて生成されるため、静磁場分布における磁場の強度差は相対値である。よって、静磁場分布だけでは中心周波数の調整は難しい。しかし、較正機能1321を実行することで処理回路131が、静磁場分布におけるある磁場強度と、対応する共鳴周波数分布に基づく共鳴周波数とを対応付けることで、相対値である強度差を絶対値である周波数差に換算することができる。結果として、3次元推定静磁場分布においてどの磁場強度がどの共鳴周波数となるかを換算できるため、任意の断面位置について共鳴周波数分布を計算できる。
よって、例えば、第1領域内の撮像プロトコルにおける撮像位置が決定した場合、較正された3次元推定静磁場分布を参照すれば任意の断面における静磁場分布が分かる。そのため、調整機能1323を実行することにより処理回路131が、当該撮像位置における静磁場分布に対応する共鳴周波数分布に基づきRFパルスの中心周波数を調整できる。
【0092】
以上に示した本実施形態によれば、処理回路131が、3次元の静磁場分布において磁場分布が均一な断面位置を決定し、断面位置における共鳴周波数分布を収集し、収集した共鳴周波数分布で3次元の静磁場分布を較正する。これにより、後段の撮像プロトコルにおけるMR撮像時における撮像対象部位において、較正された3次元の静磁場分布に対応する共鳴周波数に基づいて、RFパルスの中心周波数を調整できる。
【0093】
また、本実施形態における磁気共鳴イメージング装置1によれば、表示断面が複数のスライスに対応する複数の断面とは異なる断面であって、マルチスライス撮像により収集されたMR信号に基づいて3次元データを生成し、表示断面の位置を用いた断面変換処理を3次元データに対して実行することにより、表示断面に対応するMR画像を生成し、生成されたMR画像をディスプレイ127に表示することができる。
すなわち、本磁気共鳴イメージング装置1によれば、後段のMR撮像における任意の表示断面についても、較正された静磁場分布において当該表示断面の磁場分布に対応する共鳴周波数が得られる。
上記述べた少なくとも一の実施形態によれば、任意の断面についても磁場の均一性が良好な状態の中心周波数を選択できるため、操作者が所望するいずれの表示断面の位置であっても、高画質なMR画像を生成することができる。
【0094】
なお、本実施形態では、静磁場の不均一性に関し、2次以上の高次の成分も考慮しているが、静磁場の強度が小さい場合(例えば、1.5T)などは、高次成分を補正しなくともよい。この場合、磁気共鳴イメージング装置1は、シムコイル101及びシムコイル電源102を含まなくともよい。
【0095】
加えて、実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVD、Blu-ray(登録商標)ディスクなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
1・・・MRI装置
100・・・静磁場磁石
101・・・シムコイル
102・・・シムコイル電源
103・・・傾斜磁場コイル
105・・・傾斜磁場電源
107・・・寝台
109・・・寝台制御回路
111・・・ボア
113・・・送信回路
115・・・送信コイル
117・・・受信コイル
119・・・受信回路
121・・・撮像制御回路
125・・・インタフェース
127・・・ディスプレイ
129・・・記憶装置
131・・・処理回路
1071・・・天板
1311・・・システム制御機能
1313・・・画像生成機能
1315・・・静磁場シミング機能
1317・・・決定機能
1319・・・収集機能
1321・・・較正機能
1323・・・調整機能