(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】速度制限付きのトルク要求に基づく車両運動管理
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240624BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20240624BHJP
B60W 40/10 20120101ALI20240624BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/068
B60W40/10
B60L15/20 Y
(21)【出願番号】P 2022542395
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2020084597
(87)【国際公開番号】W WO2021144065
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/050850
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】ヘンダーソン,レオン
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】ギルストロム,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアソン,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】レネヴィ,イェルケル
(72)【発明者】
【氏名】レイ,シドハント
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193566(JP,A)
【文献】特開2011-229286(JP,A)
【文献】特開昭60-104428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00
B60W 20/00
F02D 29/02
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の車両運動管理システム(260)であって、前記車両運動管理システムは、相互間の制御信号の通信のために運動支援システム(230)に接続可能であり、
前記車両運動管理システム(260)は、前記運動支援システム(230)に制御信号を送信し、前記運動支援システム(230)は、前記車両運動管理システム(260)から前記制御信号を受け取って、前記車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成された少なくとも1つのアクチュエータであって電気機械を含む少なくとも1つのアクチュエータを制御し、
前記車両運動管理システムは、
-現在の車両動作状態で前記車両を動作させるための所望のトルクを決定することと、
-前記車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定することと、
-少なくとも前記車輪スリップ制限および前記車両の前記少なくとも1つの車輪の地上の車輪速度(v
x)に基づいて、前記車両の前記少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定することと、
-前記所望のトルクおよび前記車輪速度制限を示す制御信号を前記運動支援システム(230)に送信することと、を行うように構成される、車両運動管理システム(260)。
【請求項2】
前記車輪速度制限は、前記所望のトルクおよび/または現在の車輪速度にさらに基づく、請求項1に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項3】
前記車輪速度制限は、車輪の上限速度および車輪の下限速度を含み、前記車両運動管理システムは、
-少なくとも前記所望のトルクがゼロを超えたときに、前記車輪の上限速度を前記運動支援システム(230)に送信することと、
-少なくとも前記所望のトルクがゼロ未満の場合は、前記車輪の下限速度を前記運動支援システム(230)に送信することと、を行うように構成される、請求項2に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項4】
前記車両運動管理システム(260)が、
-オフセット車輪速度パラメータを決定することと、
-前記車両の車輪速度を示す信号を取得することと、
-前記車輪速度が車両速度制限の閾値を下回っている場合、前記オフセット車輪速度パラメータに基づいて前記車輪スリップ制限を決定することと、を行うようにさらに構成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項5】
前記車両運動管理システム(260)が、
-前記車両の少なくとも1つの前記車輪の現在の回転車輪速度と現在の縦方向車輪速度を決定することと、
-前記現在の回転車輪速度と前記現在の縦方向車輪速度に基づいて、前記少なくとも1つの車輪の車輪スリップを決定することと、を行うようにさらに構成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項6】
前記車輪スリップ制限が所定の車輪スリップ範囲内にある、請求項1から5のいずれか1項に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項7】
前記車両運動管理システム(260)が、
-前記車両のアクセルペダルの現在のアクセルペダル位置を示す信号を取得することと、
-前記現在のアクセルペダルの位置に基づいて、前記所望のトルクを決定することと、を行うようにさらに構成される、請求項1から6のいずれか1項に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項8】
前記所望のトルクは、自動運転車両動作システムから受け取られた信号に基づいて決定される、請求項1から6のいずれか1項に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項9】
前記車両運動管理システム(260)が、
-前記少なくとも1つの車輪と路面の間の車輪摩擦レベルを決定することと、
-前記決定された車輪摩擦レベルに基づいて、前記現在の車両の動作状態を決定することと、を行うようにさらに構成される、請求項1から8のいずれか1項に記載の車両運動管理システム(260)。
【請求項10】
車両用の運動支援システム(230)であって、前記運動支援システム(230)は、車両運動管理システム(260)および前記車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成された少なくとも1つのアクチュエータ
であって電気機械を含む少なくとも1つのアクチュエータに接続可能であり、
前記車両運動管理システム(260)は、前記運動支援システム(230)に制御信号を送信し、前記運動支援システム(230)は、前記車両運動管理システム(260)から前記制御信号を受け取って、前記少なくとも1つのアクチェータを制御し、
前記運動支援システム(230)は、
-前記車両運動管理システム(260)から制御信号を受け取ることであって、前記制御信号は、現在の車両動作状態で前記車両を動作させるための所望のトルクを示し、前記車両の前記少なくとも1つの車輪の車輪速度制限であって、前記車両の前記少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限および前記車両の前記少なくとも1つの車輪の地上の車輪速度(v
x)に基づく車輪速度制限を示す、ことと、
-前記車両の現在の車両ドライブライン状態を決定することと、
-前記現在の車両のドライブライン状態、前記所望のトルクと前記車輪速度制限に基づいて、動作トルクとアクチュエータの回転速度制限を決定することと、
-前記アクチュエータの回転速度制限を超えることなく、前記アクチュエータが前記少なくとも1つの車輪に前記動作トルクを生成するように、アクチュエータ信号を前記アクチュエータ(220、250)に送信することと、を行うように構成されている、運動支援システム(230)。
【請求項11】
前記現在の車両ドライブライン状態は、現在の車両変速機状態、前記車両変速機用のギア段、または変速機クラッチ作動状態のうちの1つである、請求項10に記載の運動支援システム(230)。
【請求項12】
前記運動支援システム(230)は、前記車両の単一の車輪を制御するように構成された車輪固有のアクチュエータに接続可能な分散型運動支援システム(230)である、請求項10または11に記載の運動支援システム(230)。
【請求項13】
車両のアクチュエータを制御するための方法であって、
前記アクチュエータは少なくとも電気機械を含み、車両運動管理システム(260)が運動支援システム(230)に制御信号を送信し、前記運動支援システム(230)が前記車両運動管理システム(260)から前記制御信号を受け取って前記アクチュエータを制御し、前記アクチェータは、前記車両の少なくとも1つの車輪(210)にトルクを加えるように構成され、
前記方法は、
-現在の車両動作状態で前記車両を動作させるための所望のトルクを決定(S1)することと、
-前記車両の前記少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定(S2)することと、
-少なくとも前記車輪スリップ制限および前記車両の前記少なくとも1つの車輪の地上の車輪速度(v
x)に基づいて、前記車両の前記少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定(S3)することと、
-前記所望のトルク、前記車輪速度制限、および現在の車両のドライブライン状態に基づいて、動作トルクおよびアクチュエータ回転速度制限を決定(S4)することと、
-前記アクチュエータの回転速度制限を超えずに、前記少なくとも1つの車輪に前記動作トルクを生成するように前記アクチュエータを制御(S5)することと、を含む、方法。
【請求項14】
運動支援システム(230)によって実行される命令を表す制御信号であって、
前記制御信号は、車両運動管理システム(260)によって運動支援システム(230)に送信され、前記運動支援システム(230)は、前記車両運動管理システム(260)から前記制御信号を受け取って、前記車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成された少なくとも1つのアクチュエータであって電気機械を含む少なくとも1つのアクチュエータを制御し、
前記制御信号は、
-前記運動支援システム(230)が動作トルクを決定できるようにするトルク成分と、
-前記運動支援システム(230)によって実行されると、前記運動支援システム(230)に、アクチュエータの回転速度制限に従う前記動作トルクに対応するアクチュエータ信号を生成させ、これは、現在の車両のドライブライン状態を考慮して、前記車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限および前記車両の前記少なくとも1つの車輪の地上の車輪速度(v
x)に基づく車輪速度制限成分に基づいて決定できる、車輪速度制限データを表す車輪速度制限成分と、を含む、制御信号。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型車両の車両運動管理、すなわち、サービスブレーキおよび推進デバイスなどの運動支援デバイスの協調制御に関する。
【0002】
本発明は、トラック、バスおよび建設機械などの大型車両に適用することができる。本発明は、主にセミトレーラ車両およびトラックなどの貨物輸送車両に関して説明されるが、本発明は、この特定のタイプの車両に限定されず、自動車などの他のタイプの車両にも使用され得る。
【背景技術】
【0003】
車両は、機械、空気圧、油圧、電子機器、およびソフトウェアの面でますます複雑になっている。現代の大型車両は、内燃機関、電気機械、摩擦ブレーキ、回生ブレーキ、ショックアブソーバ、エアベローズ、およびパワー操舵ポンプなど、様々な物理デバイスを含み得る。これらの物理デバイスは、一般に運動支援デバイス(MSD)として知られている。MSDは、例えば、摩擦ブレーキが1つの車輪に適用され得るように、すなわち、負のトルクであるように、個別に制御可能であり得、一方、車両の別の車輪は、おそらく同じ車輪車軸上でも、電気機械によって正のトルクを生成するために同時に使用される。
【0004】
例えば、中央車両ユニットコンピュータ(VUC)で実行される最近提案された車両運動管理(VMM)機能は、MSDの組み合わせを利用して車両を動作し、車両の安定性、コスト効率、安全性を維持しながら、所望の運動効果を得る。WO2019072379A1は、大型車両による旋回動作を支援するために車輪ブレーキが選択的に使用されるそのような例の1つを開示している。
【0005】
様々なMSDを制御するために一般的に適用されるアプローチは、車輪スリップを考慮せずにアクチュエータレベルでトルク制御を使用することである。しかし、このアプローチには性能の制限がないわけではない。例えば、1つまたは複数の車輪が制御不能な方法でスリップしている過度の車輪スリップ状況が発生した場合、トラクション制御やアンチロックブレーキ機能などの安全機能が介入し、トルクオーバーライドを要求してスリップを元の制御に戻す。これらの安全機能は通常、個別の制御ユニットによって動作される。アクチュエータの主制御とアクチュエータに関連するスリップ制御機能が異なる制御ユニットに割り当てられている場合、それらの間の通信に伴う遅延によってスリップ制御の性能が制限され得る。さらに、スリップ制御を達成するために使用される複数の制御ユニットで行われる関連するアクチュエータおよびスリップの仮定は一貫性がない可能性があり、これは次に、性能が最適化されない可能性がある。
【0006】
より良い方法で車輪スリップを処理する改良された車両制御方法が必要である。
【発明の概要】
【0007】
本開示の目的は、通常のトルク要求の代わりに、スリップまたは車輪速度要求に基づいて車両制御を容易にする制御ユニットおよび方法を提供することであり、その速度またはスリップ要求は、改良されたタイヤ動作モデルに基づいて得られる。
【0008】
第1の態様によれば、車両用の車両運動管理システムが提供され、車両運動管理システムは、相互間の制御信号の通信のための運動支援システムに接続可能であり、車両運動管理システムは、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを決定し、車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定し、少なくとも車輪スリップ制限に基づいて、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定し、所望のトルクおよび車輪速度制限を示す制御信号を運動支援システムに送信するように構成される。
【0009】
車両運動管理システムおよび運動支援システムは、車両の制御システムであり、各制御システムは、車両の動作を制御するための、特に車輪動作を制御するための様々な制御機能を実行するように配置されている。一例によれば、車両運動管理は、平常運転者制御入力、すなわち、手動操舵、加速およびブレーキ入力である。車両運動管理システムは、好ましくは、より高いレベルで車輪パラメータを受け取り、決定するように構成される。すなわち、車両運動管理システムは、より一般化された形式で所望のトルクおよび車輪スリップ制限を決定する、一方、運動支援システムは、車両運動管理システムから受け取ったパラメータをアクチュエータの適切なパラメータに変換するように構成された低レベルの制御システムとして配置されている。運動支援システムは、アクチュエータ信号をアクチュエータに転送する前に、現在のドライブライン状態を考慮に入れる。現在のドライブライン状態は、例えば、現在の車両の変速機状態、車両の変速機用のギア段、または変速機クラッチの作動状態に関連し得る。
【0010】
所望のトルクは、例えば、アクセルペダルを踏むおよび/またはブレーキペダルを踏む車両の運転者から受け取ることができる。所望のトルクは、車両の推進動作を自動的に制御するシステムから、または先進運転者支援システム(ADAS)からも受け取ることができる。
【0011】
過度のスリップが発生しないようにするために、トルク要求に加えて、上限速度と下限速度の2つの速度制限がモータコントローラに送信され得る。現在のモータ速度が上限と下限で定義された範囲内にある場合、電気モータはVMMトルク要求で要求されたトルクを加えるものとする。
【0012】
特定の時間ステップで、現在のモータ速度が上限を超えている場合、モータコントローラは前の時間ステップに比べて加えられるモータトルクを減少させるものとする。モータトルクは、モータ速度が上限速度以下になるまで減少し続けるものとする。また、特定のタイムステップで、モータ速度が下限速度を下回っていると測定された場合、電気機械に加えられるトルクは、最後のタイムステップに比べて増加するものとする。モータトルクは、モータ速度が下限速度以上になるまで増加し続けるものとする。
【0013】
あるいは、制御は、加えられたトルクの大きさを減らすことに基づいて、加えられたトルクの符号の変化を許容しないようにすることができる。
【0014】
モータ速度が上限速度と下限速度で定義された範囲内の値に戻った場合、または、モータ制御が受け取ったVMMトルク要求が、上限速度リミッタから出力された値よりも小さい場合、トルク制御のこの「オーバーライド」は終了し得る。トルク制御の「オーバーライド」は、モータ制御によって受け取られたVMMトルク要求が、下限速度リミッタから出力された値よりも大きい場合にも終了し得る。
【0015】
上限速度と下限速度は、現在の車両速度と縦方向スリップ制限に基づいて計算できる。これは、以下でより詳細に説明するように、逆タイヤモデルに基づいて決定できる。したがって、速度制限は、一例によれば、現在のモータの周りに配置された許容されるモータまたは車輪速度ウィンドウまたは車輪速度に類似している。これは、摩擦が減少した道路の面に遭遇した場合、モータ速度が急激に速度を変え得ることを意味するが、速度制限を超えるため、過度の車輪スリップは発生せず、するとトルクが調整され、速度が上限速度と下限速度で定義された許容範囲内に保たれる。
【0016】
上記のすべての状態と速度制限に符号を付ける必要があることに注意されたい。そして、例えば、下限速度のために「トルクが増加」した場合、これにより、負のトルク値がより負ではないトルク値へまたは正のトルク値からより正のトルク値へまたは負の値から正の値にさえ増加するものとする。上限速度についても同様の動作が実装され得る。
【0017】
速度または車輪スリップ制限に加えて(またはその代わりに)、回転加速度制限をモータコントローラに送信できる。これらは、速度リミッタまたはその他のモータ制御機能が、トルクの望ましくないステップ変化を車輪に提供するのを防ぐのに役立ち得る。
【0018】
車輪スリップ制限は、動作中の少なくとも1つの車輪の最大許容車輪スリップとして解釈する必要がある。車輪スリップは、車両の車輪とその地面との間の相対的な縦方向の運動、つまり「滑り」の量である。車輪スリップは、車輪の半径を考慮して、車輪の縦方向の速度と車輪の回転速度の間の関係として決定できる。したがって、車輪速度制限は、車輪ベースの座標系で見られるように、路面に対する車輪速度に基づく。例示的な実施形態によれば、車両運動管理システムは、車両の少なくとも1つの車輪について、現在の回転車輪速度および現在の縦方向車輪速度を決定し、現在の回転車輪速度と現在の縦方向車輪速度に基づいて、少なくとも1つの車輪の車輪スリップを決定するように構成され得る。
【0019】
本開示は、車輪速度制限と組み合わせて所望のトルクを示す制御信号を運動支援システムに送信することにより、車輪スリップ制限の計算は、より高いレベルの車両運動管理システムによって実行できるという洞察に少なくとも部分的に基づき得る。車輪スリップを計算する場合、車輪スリップ方程式の分母は、車輪の回転車輪速度で構成される。したがって、車両の低速動作では、分母はゼロに近いか、ゼロに近づき、車輪スリップを計算するときにエラーの原因となり得る。したがって、より高いレベルの車両運動管理システムで車輪スリップを実行することは、別個の運動支援システムによる車輪スリップ計算における潜在的な不一致を回避することができるので有利である。これにより、改善された車輪スリップの一貫性が達成される。
【0020】
さらに、電気機械は速度およびトルクを制御することができるので、電気機械を使用して車両を動作する場合、所望のトルクおよび車輪速度制限を示す制御信号を運動支援システムに送信することは特に有利である。スリップ制御とは対照的に、回転速度はタイヤトルクバランシングシステムの一般的に使用される出力であり、車輪スリップ方程式に存在する非線形性を含まないため、速度制御は例えば、サービスブレーキでも簡単に実現できる。
【0021】
例示的な実施形態によれば、車輪速度制限は、さらに、所望のトルクに基づくことができる。これにより、所望のトルク、すなわちトルク要求が、車輪速度制限を計算するときに使用されるスリップ制限を計算するために使用される。
【0022】
例示的な実施形態によれば、車輪速度制限は、車輪の上限速度および車輪の下限速度を含み得る。車両運動管理システムは、少なくとも所望のトルクがゼロを超えるときに、車輪の上限速度を運動支援システムに送信し、少なくとも所望のトルクがゼロ未満の場合は、車輪の下限速度を運動支援システムに送信するようにさらに構成され得る。
【0023】
利点は、車両の加速または車両の減速に応じて、様々な車輪速度制限を使用できることである。
【0024】
例示的な実施形態によれば、車両運動管理システムは、オフセット車輪速度パラメータを決定し、車両の車輪速度を示す信号を取得し、車輪速度が車両速度制限の閾値を下回っている場合は、オフセット車輪速度パラメータに基づいて車輪スリップ制限を決定するようにさらに構成され得る。
【0025】
オフセット車輪速度パラメータは、車輪速度がゼロに近いなどの比較的低い場合に有利に使用される。前述のように、車輪スリップ計算モデルの分母が原因で、低速では車輪スリップ制限を正しく計算することが難しい場合がある。したがって、オフセット車輪速度パラメータを設定すると、この潜在的な不一致が有利に改善される。オフセット車輪速度パラメータは、上限オフセット車輪速度パラメータおよび下限オフセット車輪速度パラメータであり得、上限オフセット車輪速度パラメータは、現在の車両速度よりも高く、下限オフセット車輪速度パラメータは、現在の車両速度よりも低い。オフセット車輪速度パラメータは、タイヤモデルを使用してオフセット車輪速度パラメータを所望のトルクにマッピングすることで取得できる。
【0026】
例示的な実施形態によれば、車輪スリップ制限は、所定の車輪スリップ範囲内にあり得る。これにより、車両の車輪は、過度に激しい車輪スリップまたは低すぎる車輪スリップにさらされることはない。
【0027】
例示的な実施形態によれば、車両運動管理システムは、車両のアクセルペダルの現在のアクセルペダル位置を示す信号を取得し、現在のアクセルペダルの位置に基づいて、所望のトルクを決定するようにさらに構成され得る。しかしながら、例示的な実施形態によれば、所望のトルクは、代わりに、自動運転車両動作システムから受け取られた信号に基づいて決定され得る。上記のさらなる代替案によれば、車両運動管理システムはまた、所望のトルクを決定するためのブレーキペダル位置を示す信号を取得するように、または車両のリターダのいわゆるリターダストーク位置から取得するように構成され得る。したがって、車両運動管理システムは、自動制御車両ならびに運転者制御車両に配置することができる。
【0028】
例示的な実施形態によれば、車両運動管理システムは、少なくとも1つの車輪と路面との間の車輪摩擦レベルを決定し、決定された車輪摩擦レベルに基づいて、現在の車両の動作状態を決定するようにさらに構成され得る。現在の車両の動作状態を決定する他の方法。例えば、車両の現在の重量、つまり、積載された車両の重量、車両が現在動作されている道路トポロジなどは、また、代替として、または車輪摩擦レベルと組み合わせて、現在の車両の動作状態を決定する際の入力パラメータとして使用することもできる。
【0029】
第2の態様によれば、車両用の運動支援システムが提供され、上記の車両運動管理システムおよび車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成された少なくとも1つのアクチュエータに接続可能な運動支援システムであり、運動支援システムは、車両運動管理システムから制御信号を受け取ることであって、制御信号は、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを示し、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を示す、ことと、車両の現在の車両ドライブライン状態を決定することと、現在の車両のドライブライン状態、所望のトルクと車輪速度制限に基づいて、動作トルクとアクチュエータの回転速度制限を決定することと、アクチュエータの回転速度制限を超えることなく、アクチュエータにアクチュエータ信号を送信して、アクチュエータが、少なくとも1つの車輪に動作トルクを生成することと、を行うように構成されている。
【0030】
現在のドライブライン状態は、ドライブラインの現在の動作モード、特にドライブラインの送信として解釈する必要がある。例示的な実施形態によれば、現在の車両ドライブライン状態は、現在の車両変速機状態、車両変速機用のギア段、または変速機クラッチ作動状態のうちの1つであり得る。これにより、上記のように、運動支援システムは、車両運動管理システムから受け取ったパラメータを、現在のドライブライン状態を考慮してアクチュエータの適切なパラメータに変換するように構成された下位レベルの制御システムとして配置される。
【0031】
例示的な実施形態によれば、車輪運動システムは、車両の単一の車輪を制御するように構成された車輪固有のアクチュエータに接続可能な分散型車輪運動システムであり得る。
【0032】
分散型車輪運動システムを使用すると、接続されている特定のアクチュエータに迅速に応答できるため、車両の動作推進/ブレーキ性能が向上する。分散型車輪運動システムは、別個の車両運動管理システムに接続することも、複数の分散型車輪運動システムに接続される中央車両運動管理システムに接続することもできる。
【0033】
第2の態様のさらなる効果および特徴は、第1の態様に関して上記で説明したものとほぼ類似している。上記の第1および第2の態様により、したがって、第1の態様の実施形態のいずれか1つによって定義される車両運動管理システムと、第2の態様の実施形態のいずれか1つによって定義される運動制御システムとを含む車両制御システムが提供される。
【0034】
第3の態様によれば、車両のアクチュエータを制御するための方法が提供され、アクチュエータは、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成され、この方法は、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを決定することと、車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定することと、少なくとも車輪スリップ制限に基づいて、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定することと、所望のトルク、車輪速度制限、および現在の車両のドライブライン状態に基づいて、動作トルクおよびアクチュエータ回転速度制限を決定することと、アクチュエータの回転速度制限を超えずに、少なくとも1つの車輪に動作トルクを生成するようにアクチュエータを制御することと、を含む。
【0035】
第3の態様の効果および特徴は、第1および第2の態様に関して上記で説明したものとほぼ類似している。したがって、車両運動管理システムならびに運動支援システムに関連して上記で説明した特徴は、第3の態様で説明した方法に適用可能である。
【0036】
第4の態様によれば、運動支援システムによって実行される命令を表す制御信号が提供され、制御信号は、運動支援システムが動作トルクを決定できるようにするトルク成分と、車輪速度制限データを表す車輪速度制限成分と、を含み、運動支援システムによって実行される場合、運動支援システムに、アクチュエータの回転速度制限に従う動作トルクに対応するアクチュエータ信号を生成させ、現在の車両のドライブライン状態を考慮して、車輪速度制限成分に基づいて決定できる。
【0037】
第5の態様によれば、プログラムがコンピュータ上で実行されるときに、上記の第3の態様のステップを実行するためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムが提供される。
【0038】
第6の態様によれば、プログラム手段がコンピュータ上で実行されるときに、上記の第3の態様のステップを実行するためのプログラム手段を含むコンピュータプログラムを運ぶコンピュータ可読媒体が提供される。
【0039】
この方法の例によれば、VMM(車両運動管理)はトルク要求を電気機械に送信し、トルク要求は(例えば)運転者のアクセルペダルからのトルク要求(正のトルク要求)を表すか、またはブレーキトルク要求(負のトルク要求)の要求であり得る。
【0040】
オブジェクトはまた、少なくとも部分的に、大型車両を制御するための制御ユニットによって取得される。制御ユニットは、車両の少なくとも1つの車輪によって生成される所望の車輪力を示す入力データを取得し、入力データをそれぞれの同等の車輪速度(または同等にモータ速度)または車輪によって維持される車輪スリップに変換するように配置され、車輪の逆タイヤモデルに基づいて、所望の車輪力を生成する。制御ユニットは、車輪の現在の動作状態に応じて逆タイヤモデルを取得し、同等の車輪速度または車輪スリップに基づいて大型車両を制御するように配置されている。
【0041】
したがって、通常のように異なるアクチュエータにトルクを要求する代わりに、車輪スリップ制限要求が車輪端の車輪トルクアクチュエータに送信され、次に、要求された車輪スリップ制限未満で動作を維持するように作業する。このようにして、MSDの制御は車輪端の近くに移動する。ここでは、制御ループの遅延が短縮され、車輪端の近くで利用できることが多い処理が高速化されるため、より高い帯域幅の制御が可能になる。これにより、MSDは、路面摩擦などの変化にはるかに迅速に反応できるため、様々な動作状態にもかかわらず、より安定した車輪力を提供できる。従来のトルクベースの制御と比較して、MSD制御へのこのアプローチは、大型車両の始動性と、より高速の運転シナリオでの操縦の両方を改善する。例えば、車輪が一時的に地面から離れたり、道路の凹凸によって垂直力が大幅に低下したりした場合でも、車輪が暴走することはない。むしろ、MSD制御は、加えられたトルクをすばやく減らして、車輪スリップを要求された値、つまりスリップ制限未満に維持し、車輪が再び地面に接触したときに適切な車輪速度が維持されるようにする。
【0042】
逆タイヤモデルを調整して、車輪の現在の動作状態の変動を考慮に入れることは、所望の車輪力と同等の車輪速度または車輪スリップとの間のマッピングの精度および堅牢性を改善するため、さらなる利点である。このように、動作状態が変更された場合、現在の動作状態をより適切にモデル化するために、逆タイヤモデルが調整される。したがって、特定の車輪の動作状態が変化すると、車輪力と車輪スリップ(または車輪速度)の間のマッピングも変化して、動作状態の変化を補償する。
【0043】
制御ユニットはまた、車輪スリップまたは車輪速度に加えて、車両上の1つまたは複数の操舵輪で維持される操舵角を割り当てる、すなわち要求するように配置され得る。この操舵角は、車輪の横方向スリップに影響を及ぼす。したがって、操舵と車輪のトルク(スリップまたは速度)を一緒に扱うことは、堅牢性と効率の両方の観点から車両全体の制御を改善することが多いため、多くの場合、利点がある。
【0044】
態様によれば、所望の車輪力を示すデータは、所望の車輪トルクおよび車輪転がり半径を含む。これは、逆タイヤモデルインターフェースが、従来の車両制御機能など、要求されたトルクを出力する機能に対応できることを意味する。この機能は、車輪半径とともに、所望の車輪力を表すか、または示す。
【0045】
態様によれば、現在の動作状態は、地上ベクトルに対する車両または車輪速度を含む。地上での車輪速度がわかれば、車輪の回転速度を制御して、車輪スリップを所望のレベルに維持することが可能になる。地上での車輪速度も、車輪力と車輪スリップの間のマッピングに影響を与え得る。例えば、地面と車輪の間の接地面は、車両速度に応じて変化し得る。
【0046】
態様によれば、現在の動作状態は、車輪の垂直負荷または車輪に作用する垂直力を含む。特定の車輪の垂直負荷は、摩擦係数とともに、達成可能な最大車輪力を決定する。したがって、逆タイヤモデルは、垂直負荷の変動を考慮して調整することが好ましい。垂直負荷を測定または決定することにより、逆タイヤモデルをより正確にすることができる。
【0047】
態様によれば、現在の動作状態は、車輪の推定または他の方法で決定されたタイヤ剛性を含む。タイヤ剛性は、低から中程度の車輪スリップまでの線形領域の逆タイヤモデルに大きな影響を与える。タイヤ剛性の変化を考慮することにより、より正確な逆タイヤモデルを得ることができる。タイヤ剛性は、摩耗、使用年数、温度、膨張圧力など、特定の車輪のタイヤに関連する要因に対して任意選択で補正される。タイヤ剛性は、横方向スリップ剛性をスケーリングするための基礎として使用できる縦方向スリップ剛性のみ、または縦方向スリップ剛性と横方向スリップ剛性の両方を含むベクトルのいずれかであり得る。
【0048】
態様によれば、現在の動作状態は、車輪に関連するタイヤ路面摩擦係数を含む。タイヤの路面摩擦係数は、達成可能な最大タイヤ力に影響を与えるため、とりわけ、車輪力と車輪スリップの間のマッピングにも影響を及ぼす。推定された路面摩擦パラメータを使用して、タイヤ力曲線を適合させ、許容されるピーク力を制限し、逆タイヤモデルのピーク力スリップ位置を変更することもできる。
【0049】
態様によれば、現在の動作状態は、車輪の必要な最小横方向力を含む。これは、特定の車輪の最小の横方向力発生能力での動作を要求することが可能になることを意味する。例えば、車両が旋回している場合、旋回を正常に完了するには、ある程度の横方向力を生成する必要がある。横方向力が必要な場合、車輪速度は、要求された車輪スリップより下の車輪スリップに制限する必要があり得る。同様に、現在の動作状態は、任意選択で、車輪の許容される最大横方向スリップ角を含む。最小の必要な横方向力と許容される最大横方向スリップ角で、生成される縦方向スリップ要求は、許容される最大横方向スリップ角を使用して最小の横方向力の容量が保証されるサーチスペースに制限される。どちらも任意選択の引数であるが、例えば、ヨーの不安定性などの問題を引き起こさない安全な方法で縦方向力を要求するために有利に使用できる。車両コントローラは、必要な最小横方向力パラメータを使用して、特定の加速度プロファイルと曲率プロファイルを有する特定のパスをネゴシエートできる十分な横方向力容量を確保できる。操縦中の車両の最大縦方向の速度は、通常、ロールの安定性と路面の摩擦によって制限される。旋回操縦をネゴシエートする車両ユニットが支援できる横方向加速度の範囲を知るには、横方向力能力を知る必要があり得る。したがって、必要な最小横方向力能力を指定できることは利点である。
【0050】
車両コントローラは、許容される最大横方向スリップ角を使用して、ヨーモーメントバランスまたは車両の横方向スリップを実行する操縦と一致する許容レベルに維持することができる。この特徴は、タイヤを線形の複合スリップ範囲で動作させ続けることが望まれる自動的または機能安全が重要な用途で特に有益であり、したがって、予測が困難な影響を引き起こす可能性のあるトラクション制御またはヨー安定性介入を防ぐことができる。
【0051】
態様によれば、逆タイヤモデルは、車輪の残りの横方向力容量を提供するように構成される。残りの横方向力容量は、車輪端に送信される要求の境界を調整するため、または制御アロケータへのフィードバックとして使用して、現在の運転シナリオに対して車輪の横方向力容量が低くなりすぎた場合に、制御要求を適合して車輪の横方向力容量を増やすことができる。
【0052】
態様によれば、逆タイヤモデルは、所望の車輪力および車輪の現在の動作状態に関連するタイヤ動作点での車輪速度または車輪スリップに関して、所望の車輪力の勾配を提供するように構成される。この出力は、例えば、制御アロケータの優先度に応じて、アクチュエータの速度コントローラへの利得をカスタム調整するために使用できる。例えば、車両がコーナリングしていて、横方向勾配値が高い場合、速度制御の性能が低いと横方向コーナリングの性能が低下し得ることを示す。したがって、速度コントローラの利得を適合してこの問題を軽減できる。勾配を知ることは、安定性と制御の堅牢性に関する分析の実行にも役立ち得る。これは利点である。
【0053】
態様によれば、制御ユニットは、所定の逆タイヤモデルをメモリに保存するように配置され、逆タイヤモデルは、車輪の現在の動作状態の関数としてメモリに保存される。これは、制御ユニットが様々なモデルにアクセスでき、様々なモデルから適切なモデルを選択できることを意味する。
【0054】
態様によれば、制御ユニットは、同等の車輪速度または車輪スリップに基づく大型車両の制御に応答して、測定された車輪動作および/または車両動作に基づく逆タイヤモデルを適合させるように配置される。したがって、有利には、制御ユニットは、車輪によって、場合によっては車両によっても実際の応答を監視し、それに応じて逆タイヤモデルを調整する。これは、制御方法が、様々なシナリオでの車両の性能に関する仮定や、車両の可制御性に対する様々なパラメータの影響に対する感度が低くなることを意味する。また、予期せぬ動作状態の変化があった場合、逆タイヤモデルがその変化に適合し、未だ遭遇していないシナリオでも堅牢制御を実現する。
【0055】
態様によれば、逆タイヤモデルは、車輪スリップまたは車輪速度に応じて、車輪力の所定の上限および/または下限内に常にあるように調整される。これは、逆タイヤモデルのモデル調整ができることを意味するが、それはいくつかの所定の境界内でのみ可能である。したがって、1つまたは複数の境界は、モデル適合プロセスでの予期しないエラーに対する安全策を表す。適合型逆タイヤモデルの一例は、制御入力と実際の車輪応答または制御入力に対する車両応答に基づいて継続的または少なくとも定期的にトレーニングされる人工ニューラルネットワークである。
【0056】
本明細書には、コンピュータプログラム、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、および上記の利点に関連する車両も開示されている。
【0057】
一般に、特許請求の範囲で使用されるすべての用語は、本明細書で別段の定めがない限り、技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「a/an/the要素、装置、成分、手段、ステップなど」へのすべての言及は、特に明記されていない限り、要素、装置、成分、手段、ステップなどの少なくとも1つの例を指すものとして公然と解釈される。本明細書に開示されている方法のステップは、明示的に述べられていない限り、開示されている正確な順序で実行する必要はない。本発明のさらなる特徴および利点は、添付の特許請求の範囲および以下の説明を研究するときに明らかになるであろう。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に記載されるもの以外の実施形態を作成することができることを理解している。
【0058】
いくつかの特徴が他の特徴とは別に説明されているとしても、本明細書で説明されているすべての特徴は、有利に実装され、同じ車両を制御するために使用され得ることがさらに理解される。したがって、本明細書に開示される様々な特徴、アルゴリズム、およびデバイスは、互いに組み合わせて、および別個に考慮されるべきである。
【0059】
添付の図面を参照して、以下に、例として引用された本発明の実施形態のより詳細な説明が続く。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図2】運動支援デバイスの配置を概略的に示している。
【
図4】車輪スリップの関数としてのタイヤ力を示すグラフである。
【
図5】車輪動作モデルを測定データに適合させたものを示している。
【
図6】運動支援デバイス制御システムの例を示している。
【
図9】コンピュータプログラム製品の例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0061】
次に、本発明の特定の態様が示されている添付の図面を参照して、本発明をより完全に以下に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態および態様に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完全かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように、例として提供されている。同様の番号は、説明全体で同様の要素を指す。
【0062】
本発明は、本明細書に記載され、図面に示されている実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、当業者は、添付の特許請求の範囲内で多くの変更および補正が行われ得ることを認識するであろう。
【0063】
図1は、本明細書に開示される技術を有利に適用することができる貨物輸送用の例示的な車両100を示している。車両100は、前輪150および後輪160で支援されたトラクタまたは牽引車両110を含み、これらの少なくともいくつかは被駆動車輪である。必ずしもそうとは限らないが、通常、トラクタのすべての車輪はブレーキ付き車輪である。トラクタ110は、既知の方法で第5の車輪接続によってトレーラ車輪170で支援された第1のトレーラユニット120を牽引するように構成される。トレーラ車輪は通常ブレーキ付き車輪であるが、また1つまたは複数の車軸に被駆動車輪を備え得る。
【0064】
本明細書に開示される方法および制御ユニットは、ドローバー接続を備えたトラック、建設機械、バスなどの他のタイプの大型車両にも有利に適用できることが理解される。本開示は、添付の特許請求の範囲のリストに記載されているように、少なくとも部分的に車輪力と車輪スリップとの間の関係に基づいて大型車両を制御するためのいくつかの補完的な技術方法および制御ユニットを提示する。
【0065】
トラクタ110は、様々な種類の機能を制御するための車両ユニットコンピュータ(VUC)または制御ユニット130を備え、すなわち、推進力、ブレーキング、操舵を実現する。いくつかのトレーラユニット120はまた、トレーラ車輪のブレーキング、および時にはトレーラ車輪推進力などのトレーラの様々な機能を制御するためのVUCまたは制御ユニット140を備える。VUC130、140は、集中化されるか、またはいくつかの処理回路に分散され得る。車両制御機能の一部はまた、遠隔で、例えば、無線リンク180および無線アクセスネットワーク185を介して車両100に接続された遠隔サーバ190上で実行され得る。
【0066】
トラクタ110上のVUC130(および場合によってはトレーラ120上のVUC140も)は、層状機能アーキテクチャに従って編成された車両制御方法を実行するように構成され得、ここで、一部の機能は上位層の交通状況管理(TSM)ドメインに含まれ、他の一部の機能は下位機能層にある車両運動管理(VMM)ドメインに含まれ得る。
【0067】
図2は、いくつかの例示的なMSDまたはアクチュエータによって車輪210を制御するための機能200を概略的に示しており、ここでは、摩擦ブレーキ220(ディスクブレーキまたはドラムブレーキなど)および推進デバイス250を含む。摩擦ブレーキ220および推進デバイスは、アクチュエータとも呼ばれることがあり、1つまたは複数の運動支援デバイス制御ユニット230によって制御することができる車輪トルク発生デバイスの例である。制御は、例えば、車両速度センサ240およびレーダーセンサ、lidarセンサなどの他の車両状態センサ280、ならびにカメラセンサおよび赤外線検出器などの視覚ベースのセンサから得られた測定データに基づく。本明細書で論じられる原理に従って制御され得る他の例示的なトルク発生運動支援デバイスは、エンジンリターダおよびパワー操舵デバイスを含む。MSD制御ユニット230は、1つまたは複数のアクチュエータを制御するように配置され得る。例えば、MSD制御ユニット230が車軸上の両方の車輪を制御するように配置されることは珍しいことではない。
【0068】
本明細書では、MSDコントローラ、MSD制御機能、運動支援システム、アクチュエータ制御システム、および車輪運動システムという用語は、MSD制御ユニットという用語と交換可能に使用され得る。
【0069】
TSM機能270は、例えば、10秒程度の時間範囲での運転動作を計画する。この時間枠は、例えば、車両100が曲線をネゴシエートするのにかかる時間に対応する。TSMによって計画および実行される車両操縦は、特定の操縦で所望の車両速度と旋回を表す加速度プロファイルと曲率プロファイルに関連付けることができる。TSMは、安全かつ堅牢な方法でTSMからの要求を満たすために力の割り当てを実行するVMM機能260から、所望の加速度プロファイルareqおよび曲率プロファイルcreqを継続的に要求する。VMM機能260は、例えば、力、最大速度、および生成され得る加速度の観点から、車両の現在の能力を詳述する能力情報をTSM機能に継続的にフィードバックする。
【0070】
加速度プロファイルおよび曲率プロファイルは、操舵車輪、アクセルペダル、およびブレーキペダルなどの平常制御入力デバイスを介して、大型車両の運転者から取得することもできる。前記加速度プロファイルおよび曲率プロファイルの出所は、本開示の範囲内ではなく、したがって、本明細書ではより詳細に論じられない。先進運転者支援システム(ADAS)を形成するために、先進VMM機能を従来の手動運転者制御入力と組み合わせることができる。
【0071】
車両制御機能300を示す
図3も参照すると、VMM機能260は、約1秒程度の時間範囲で動作し、加速度プロファイルa
reqおよび曲率プロファイルc
reqを、車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換し、車両100の異なるMSD220、250によって作動され、VMMに能力情報321a~cを報告し、VMMは、次に、車両制御における制約として使用される。VMM機能260は、車両状態または運動推定305を実行し、すなわち、VMM機能260は、車両100上に配置されたしばしば、しかし常にではないが、MSD220、250に接続されている様々なセンサ306を使用して、動作を監視することによって、車両の組み合わせにおける異なるユニットの位置、速度、加速度、および関節角度を含む車両状態sを継続的に決定する。
【0072】
運動推定305の結果、すなわち、推定された車両状態sは、力発生モジュール310に入力され、これは、異なる車両ユニットに必要な全体的な力V=[V1、V2]を決定し、要求された加速度および曲率プロファイルareq、creqに従って車両100を移動させる。必要な全体的な力ベクトルVは、車輪力を割り当て、操舵やサスペンションなどの他のMSDを調整するMSD調整機能320に入力される。次に、調整されたMSDは、一緒になって、車両ユニットに所望の横方向Fyおよび縦方向Fx力、ならびに必要なモーメントMzを提供して、車両の組み合わせ100によって所望の運動を得る。
【0073】
例えば、グローバルポジショニングシステム、ビジョンベースのセンサ、車輪速度センサ、レーダーセンサおよび/またはリダーセンサを使用して車両ユニットの運動を決定し、この車両ユニットの運動を特定の車輪210の局所座標系に変換することによって(例えば、縦方向および横方向の速度成分に関して)、車輪基準座標系における車両ユニットの運動を、車輪210に接続して配置された車輪速度センサ240から得られたデータと比較することにより、車輪スリップをリアルタイムで正確に推定することが可能になる。
【0074】
以下の
図4に関連してより詳細に説明するタイヤモデルを使用して、特定の車輪iの所望の縦方向タイヤ力Fx
iと車輪の同等の車輪スリップλ
iを変換できる。車輪スリップλは、車輪の回転速度と地上速度の差に関連しており、以下でより詳細に説明する。車輪速度ωは、車輪の回転速度であり、例えば、1分あたりの回転数(rpm)またはラジアン/秒(ラジアン/秒)または度/秒(度/秒)で表した角速度の単位で表される。
【0075】
本明細書において、タイヤモデルは、車輪スリップの関数として、縦方向(転がり方向)および/または横方向(縦方向に直交する)に生成される車輪力を記述する車輪動作のモデルである。「タイヤと車両のダイナミクス」、Elsevier Ltd.2012、ISBN978-0-08-097016-5で、Hans Pacejkaがタイヤモデルの基本をカバーしている。例えば、車輪スリップと縦方向力の関係が説明されている第7章を参照されたい。
【0076】
要約すると、VMM機能260は、力発生とMSD調整の両方を管理する、すなわち、TSM機能270からの要求を満たすため、例えば、TSMによって要求された必要な加速プロファイルに従って車両を加速するため、および/または同じくTSMによって要求された車両によって特定の曲率運動を生成するために車両ユニットで必要とされる力を決定する。力は、例えば、ヨーモーメントMz、縦方向力Fxおよび横方向力Fy、ならびに異なる車輪に加えられる異なるタイプのトルクを含み得る。
【0077】
車両の車輪にトルクを供給することができるVMMとMSDとの間のインターフェース265は、伝統的に、車輪スリップを考慮せずに、VMMから各MSDへのトルクベースの要求に焦点を合わせてきた。しかし、このアプローチには重大な性能制限がある。安全上重要または過度のスリップ状況が発生した場合、次に、別の制御ユニットで動作する関連する安全機能(トラクション制御、アンチロックブレーキなど)が通常介入し、スリップを制御に戻すためにトルクオーバーライドを要求する。このアプローチの問題は、アクチュエータの主な制御とアクチュエータのスリップ制御が異なる電子制御ユニット(ECU)に割り当てられるため、それらの間の通信に伴う遅延によってスリップ制御の性能が大幅に制限されることである。さらに、実際のスリップ制御を実現するために使用される2つのECUで行われる関連するアクチュエータとスリップの仮定は一貫していない可能性があり、これにより性能が最適化されない可能性がある。
【0078】
代わりに、VMMとMSDコントローラまたは複数のコントローラ230との間のインターフェース265で車輪速度または車輪スリップベースの要求を使用することによって、重要な利点を達成することができ、これにより、難しいアクチュエータ速度制御ループをMSDコントローラにシフトする。MSDコントローラは、通常、VMM機能に比べてはるかに短いサンプル時間で動作する。このようなアーキテクチャは、トルクベースの制御インターフェースと比較してはるかに優れた外乱除去を提供できるため、タイヤの路面接地面で生成される力の予測可能性が向上する。
【0079】
図3を参照すると、逆タイヤモデルブロック330は、MSD調整ブロック320によって各車輪または車輪のサブセットに対して決定された必要な車輪力Fx
i、Fy
iを同等の車輪速度ω
wiまたは車輪スリップλ
iに変換する。次に、これらの車輪速度またはスリップは、それぞれのMSDコントローラ230に送られる。MSDコントローラは、例えば、MSD調整ブロック310において制約として使用することができる機能231a~231cを報告する。
【0080】
縦方向車輪スリップλは、SAEJ670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee2008年1月24日)に従って、次のように定義できる。
【数1】
ここで、Rはメートル単位の有効車輪半径、ω
xは車輪の角速度、v
xは(車輪の座標系での)車輪の縦方向の速度である。したがって、λは-1と1の間に制限され、路面に対して車輪がどれだけスリップしているかを定量化する。車輪スリップは、本質的に、車輪と車両の間で測定される速度差である。したがって、本明細書に開示される技術は、任意のタイプの車輪スリップ定義での使用に適合させることができる。車輪スリップ値は、車輪の座標系において、表面上の車輪の速度が与えられた場合の車輪速度の値と同等であることも理解されたい。
【0081】
VMM260および任意選択でMSD制御ユニット230はまた、vx(車輪の基準フレーム内)に関する情報を維持し、一方、車輪速度センサ240などを使用して、ωx(車輪の回転速度)を決定することができる。
【0082】
車輪(またはタイヤ)が車輪力を生成するには、スリップが発生する必要がある。スリップ値が小さい場合、スリップと生成される力の関係はほぼ線形であり、比例定数はタイヤのスリップ剛性として表されることがよくある。タイヤ210は、縦方向力Fx、横方向力Fy、および法線力Fzを受ける。法線力Fzは、いくつかの重要な車両特性を決定するための鍵である。例えば、法線力は、通常、Fx≦μFzであるため、車輪によって達成可能な縦方向タイヤ力Fxを大幅に決定する。ここで、μは路面摩擦状態に関連する摩擦係数である。特定の縦方向スリップに対して利用可能な最大横方向力は、Hans Pacejkaによる「タイヤと車両のダイナミクス」、Elsevier Ltd.2012、ISBN978-0-08-097016-5に記載されているいわゆるマジックフォーミュラ(Magic Formula)で表すことができる。
【0083】
MSDから直接車輪スリップまたは車輪速度を要求する代わりに、速度制限インターフェースを備えたトルク要求を使用できる。次に、トルク要求は、車輪速度が車輪上限速度と車輪下限速度の間にある限り、車輪動作に影響を与えることができる。車輪スリップまたは車輪速度制限は、特定の力を得るための上記の所望の車輪スリップに基づいて構成することができ、またはそれは、所望の車輪スリップまたは車輪速度に対してマージンを有するように構成することができる。
【0084】
過度のスリップが発生しないようにするために、トルク要求に加えて、上限速度と下限速度の2つの速度制限がモータコントローラに送信され得る。一部の実装例では、上限速度のみを使用し得る。車輪速度の制限は、機能的な観点から、モータ速度の制限と同等と見なすことができる。同様に、車輪またはモータ速度の制限は、特定の車輪の基準システムで現在の地上の車両速度が与えられた場合の車輪スリップの制限に変換できる。
【0085】
現在のモータ速度が上限と下限で定義された範囲内にある場合、電気モータはVMMトルク要求で要求されたトルクを加えるものとする。車輪速度とモータ速度は密接に関連していることを理解されたい。電気機械が変速機を介して1つまたは複数の車輪に接続されている場合、変速機はモータ速度と車輪速度の間の変換を決定する。車輪が差動装置を介して電気機械に接続されている場合、トルクと車輪速度は既知の方法で車輪全体に分散される。
【0086】
特定のタイムステップで、現在のモータ速度が上限速度を超えている場合、モータコントローラは、前のタイムステップに比べて加えられるモータトルクを減らすように動作する。これにより、車輪速度が低下し、最終的には構成された車輪速度制限を下回る。モータトルクは、モータ速度が上限速度以下になるまで減少し続けるものとする。また、特定のタイムステップで、モータ速度が下限速度を下回っていると測定された場合、電気機械に加えられるトルクは、最後のタイムステップに比べて増加するものとする。これにより、車輪速度が増加する。モータトルクは、モータ速度が下限速度以上になるまで増加し続けるものとする。実際の制御を実装する他の方法は、トルク制御に可変ステップサイズを使用するか、車輪速度または車輪スリップが構成された制限を超えた場合に車輪速度制御に切り替えることであり得る。
【0087】
本明細書に開示される方法は、離散時間ステップで制御を実行することによって必ずしも実装される必要はない。したがって、あるいは、現在のモータ速度(または車輪速度)が構成された上限を超えていることが検出された場合、モータコントローラは、モータ速度および/または車輪速度を観察しながら、制御された方法で加えられたモータトルクを継続的に低減する。モータまたは車輪速度が上限速度以下になるまで、モータトルクは減少し続けるものとする。また、モータ速度(または車輪速度)が下限速度を下回っていると測定されたと検出された場合、電気機械に加えられるトルクは継続的に増加する。モータトルクは、モータ速度が下限速度以上になるまで増加し続けるものとする。
【0088】
あるいは、制御は、加えられたトルクの大きさを減らすことに基づいて、加えられたトルクの符号の変化を許容しないようにすることができる。
【0089】
モータ速度が上限速度と下限速度で定義された範囲内の値に戻った場合、または、モータ制御が受け取ったVMMトルク要求が、上限速度リミッタから出力された値よりも小さい場合、トルク制御のこの「オーバーライド」は終了し得る。トルク制御の「オーバーライド」は、モータ制御によって受け取られたVMMトルク要求が、低速リミッタから出力された値よりも大きい場合にも終了し得る。
【0090】
上限速度と下限速度は、現在の車両速度と縦方向スリップ制限に基づいて計算できる。これは、以下でより詳細に説明するように、逆タイヤモデルに基づいて決定できる。
【0091】
上記のすべての状態と速度制限は符号付きの値であることに注意されたい。また、例えば、速度制限が低いために「トルクが増加」した場合は、これにより、負のトルク値が、より負ではないトルク値へ、または正のトルク値からより正のトルク値へ、または負の値から正の値にさえ増加するものとする。上限速度についても同様の動作が実装され得る。
【0092】
速度または車輪スリップ制限に加えて(またはその代わりに)、回転加速度制限をモータコントローラに送信できる。これらは、速度リミッタまたはその他のモータ制御機能が、トルクの望ましくないステップ変化を車輪に提供するのを防ぐのに役立ち得る。もちろん、車輪スリップ制限も使用できる。これについては、以下でより詳細に説明する。
【0093】
上限速度と下限速度は、現在の車両速度と縦方向スリップ制限に基づいて計算できる。これは、以下でより詳細に説明するように、逆タイヤモデルに基づいて決定できる。したがって、速度制限は、一例によれば、現在のモータの周囲にある許容されるモータまたは車輪速度ウィンドウまたは車輪速度に類似している。これは、摩擦が減少した道路の面に遭遇した場合、モータ速度は急激に速度を変え得るが、速度制限を超えるため、過度の車輪スリップは発生せず、するとトルクが調整され、速度が上限速度と下限速度で定義された許容範囲内に保たれることを意味する。
【0094】
上記のすべての状態と速度制限に符号を付ける必要があることに注意されたい。そして、例えば、速度制限が低いために「トルクが増加」した場合、これにより、負のトルク値が、より負ではないトルク値へ、または正のトルク値からより正のトルク値へ、または負の値から正の値にさえ増加するものとする。上限速度についても同様の動作が実装され得る。
【0095】
図4は、車輪スリップの関数として達成可能なタイヤ力の例を示すグラフである。縦方向タイヤ力Fxは、小さな車輪スリップに対してほぼ線形に増加する部分410を示し、続いて、より大きな車輪スリップに対してより非線形の動作を示す部分420を示す。得られる横方向タイヤ力Fyは、比較的小さな縦方向車輪スリップでも急速に減少する。適用されたブレーキコマンドに応答して得られる縦方向力が予測しやすく、必要に応じて十分な横方向タイヤ力を生成できる線形領域410で車両の動作を維持することが望ましい。この領域での動作を保証するために、例えば0.1の順序の車輪スリップ制限λ
LIMを特定の車輪に課すことができる。より大きな車輪スリップ、例えば、0.1を超える場合、より非線形な領域420が見られる。この領域での車両の制御は難しい場合があり、したがって回避される場合が多い。トラクション制御のためのより大きなスリップ制限が好まれる場合があるが、オンロード動作のためではないオフロード状態などでのトラクションにとっては興味深い場合がある。
【0096】
このタイプのタイヤモデルは、VMM260で使用して、ある車輪で所望のタイヤ力を生成できる。VMMは、所望のタイヤ力に対応するトルクを要求する代わりに、所望のタイヤ力を同等の車輪スリップ(または同等に、地上速度に対する車輪速度)に変換し、代わりにこのスリップを要求できる。主な利点は、MSD制御デバイス230が、車両速度vxおよび車輪回転速度ωxを使用して、所望の車輪スリップで動作を維持することにより、はるかに高い帯域幅で要求されたトルクを提供できることである。
【0097】
制御ユニット130、140は、例えば、ルックアップテーブルとして、所定の逆タイヤモデルf-1をメモリに保存するように配置することができる。逆タイヤモデルは、車輪210の現在の動作状態の関数としてメモリに保存されるように配置されている。これは、逆タイヤモデルの動作が車両の動作状態に応じて調整されることを意味する。つまり、動作状態を考慮しないモデルと比較して、より正確なモデルが得られる。メモリに保存されるモデルは、実験と試行に基づいて、または分析的導出に基づいて、あるいはその2つの組み合わせに基づいて決定できる。例えば、制御ユニットは、現在の動作状態に応じて選択された異なるモデルのセットにアクセスするように構成できる。1つの逆タイヤモデルは、法線力が大きい高負荷運転用に調整でき、別の逆タイヤモデルは、路面摩擦が低いスリップしやすい路面状況用などに調整できる。使用するモデルの選択は、所定の選択ルールのセットに基づくことができる。メモリに保存されたモデルは、少なくとも部分的には、動作状態の関数でもあり得る。したがって、モデルは、例えば、法線力または路面摩擦を入力パラメータとしてとるように構成することができ、それによって、車輪210の現在の動作状態に応じて逆タイヤモデルを取得する。動作状態の多くの態様はデフォルトの動作状態パラメータによって近似することができ、一方、動作状態の他の態様は大まかに少数のクラスに分類することができることが理解される。したがって、車輪210の現在の動作状態に応じて逆タイヤモデルを取得することは、必ずしも多数の異なるモデルを保存する必要があること、または細かい粒度で動作状態の変動を説明することができる複雑な分析関数を意味するわけではない。むしろ、動作状態に応じて選択される2つまたは3つの異なるモデルで十分な場合がある。例えば、あるモデルは車両に大きな負荷がかかっているときに使用され、別のモデルはそれ以外の場合に使用される。いずれの場合も、タイヤ力と車輪スリップの間のマッピングは、動作状態に応じて何らかの形で変化し、マッピングの精度が向上する。
【0098】
逆タイヤモデルはまた、車両の現在の動作状態に自動的にまたは少なくとも半自動的に適合するように構成された適合モデルとして少なくとも部分的に実装され得る。これは、特定の車輪スリップ要求に応答して生成される車輪力に関して特定の車輪の応答を絶えず監視すること、および/または車輪スリップ要求に応答する車両100の応答を監視することによって達成することができる。次に、適合モデルを調整して、車輪からの特定の車輪スリップ要求に応答して得られる車輪力をより正確にモデル化することができる。
【0099】
図5は、縦方向タイヤ力Fxを車輪スリップにマッピングする逆タイヤモデルを示すグラフ500である。対応するタイヤ力Fを伴う車輪スリップの対(F、λ)の測定値510もプロットされる。いくつかの態様によれば、本明細書に開示される制御ユニットは、同等の車輪速度または車輪スリップに基づく大型車両100の制御に応答して、測定された車輪動作および/または車両動作に基づく逆タイヤモデルf
-1を適合させるように配置される。そのようなタイプの測定の1つは、特定の車輪速度を生成しようとしたときに電気機械が遭遇する抵抗である。電気機械のこの「トルク状態」出力信号は、有効な車輪半径Rを介して同等の車輪力に直接変換できる。車輪力のサンプルは、力の割り当てプロセスの一部としてVMM機能から取得することもできる。例えば、VMMが、特定の要求された車輪スリップに応答して、小さすぎる縦方向力が一貫して取得されることに気付いた場合、モデルを調整して、例えば、所望の車輪力によりよく一致するようにスケーリングすることにより、不一致を考慮することができる。この文脈において、逆タイヤモデルは、絶対基準系において正確である必要はないことに留意されたい。すなわち、逆タイヤモデルは、特定の車輪スリップに対してニュートンで生成される力を正確に予測することができる。むしろ、逆タイヤモデルが、VMM機能260による車両の正常な制御を可能にするようなものであれば十分である。興味深いことに、車輪スリップ要求に応じて測定された車輪力に基づいてこのように逆タイヤモデルを調整することにより、車両の他の特性が自動的にモデリングに含まれ、車輪スリップと車輪力の間のマッピングをより正確に表す。
【0100】
逆タイヤモデルの適合の第1の例では、生成された力Fと現在の車輪スリップλのサンプル対(F、λ)が継続的に取得される。生成された力F(縦方向のFxと横方向Fyの両方)およびヨーモーメントMzは、車両の動作、つまりニュートンの第2法則タイプの関係に基づいて決定でき、質量mと加速度aの両方を、基本的なセンサ技術と現在の車輪スリップを使用して測定できる。
【0101】
次に、逆タイヤモデルは、現在の測定結果に合うように継続的に更新される。例えば、カルマンフィルターを適用して、多項式モデルの係数{ci}を追跡し、それを逆タイヤモデルとして使用できる。測定データ510をモデルに適合させるために多項式適合を行うこともでき、そのモデルを逆タイヤモデルとして使用することができる。
【0102】
第2の例では、ニューラルネットワークまたは他の形式のAIベースの方法を適用して、逆タイヤモデルを継続的に更新する。ネットワークは、例えば、生成された力Fと現在の車輪スリップλのサンプル対(F、λ)を使用してトレーニングされる。ネットワークへの入力は、例えば、車両の負荷、タイヤの仕様、および例えば、摩擦に関する道路の状態であり得る。出力は、逆タイヤモデルの表現として使用できる多項式モデルの係数のセットにすることができる。
【0103】
このモデル適合は、車両100に搭載して実行される必要がないことが理解される。むしろ、測定データを遠隔サーバ190にアップロードすることができ、遠隔サーバ190は、トルク要求に基づくのではなく、車輪スリップに基づいて車両を制御するための適切なモデルを見つける作業をすることができる。このモデルは、次に、複数の車両、おそらく同じタイプの車両のセット、または運用設計ドメインからの測定データを考慮することができる。次に、モデルまたはモデルのセットは、遠隔サーバ190から車両にフィードバックされて、車両100の制御に使用され得る。
【0104】
もちろん、逆タイヤモデル全体は、様々なタイプの動作状態でトレーニングされるニューラルネットワークとして実現することもできる。次に、大型車両の動作状態が変化すると、逆タイヤモデルも変化し、特定の車輪力に対応する車輪スリップが時間とともに変化する。これは利点である。
【0105】
逆タイヤモデルf-1は、車輪スリップまたは車輪速度に応じて、車輪力の所定の上限と下限の範囲内に常に収まるように調整することもできる。これらの制限は、例えば、測定データ510から導出された統計的制限として取得することができる。例えば、上限および下限520、530は、逆タイヤモデルを平均からの1つまたは2つの標準偏差内に制限するなどのように設定することができる。
【0106】
安全マージンは、適合自体にも適用できる。つまり、逆タイヤモデルが、ある公称モデル曲線の周りのフェンスで囲まれた領域の外側に逸脱することが許可されていない場合に、制約付き適合を実行できる。このフェンスで囲まれた領域は、動作状態に応じて、または既知の運用設計ドメイン(ODD)で事前定義された動的運転タスク(DDT)によって事前に決定または調整できる。これにより、必要な検証と妥当性確認の量が削減される。
【0107】
再び
図2を参照すると、MSD制御ユニット230は、車輪210に関連する1つまたは複数のMSDを制御するように構成することができる。1つまたは複数のMSDは、車輪210によって負のトルクを生成するように配置された少なくとも1つのサービスブレーキ220、ならびに車輪210によって正および/または負のトルクを生成するように配置された電気機械および/または燃焼エンジンなどの推進ユニット250を含み得る。MSD制御ユニットによって制御され得る他のトルク発生デバイスは、エンジンリターダおよびパワー操舵デバイスを含む。MSD制御ユニット230は、VMMユニット260に通信可能に結合されて、VMMユニット260から制御コマンドを受け取り、1つまたは複数のMSDによる車両運動を制御するための車輪速度および/または車輪スリップ要求を含む。
【0108】
本明細書で論じられるMSD制御ユニットはまた、車輪210に加えて、他の車輪に関連する1つまたは複数のMSDを制御するように構成され得ることが理解され、例えば、特定の車軸の車輪、トレーラユニットの片側の車輪、またはトレーラユニットのすべての車輪を制御するためのMSDなどである。中央VMMユニット260から受け取られた制御信号に基づいてそれぞれの車輪210a~210fを制御するように配置されたMSD制御ユニット230a~230fのシステムが、
図6に概略的に示されている。おそらく台車車両ユニットを介して接続された1つまたは複数のトレーラ120などの1つまたは複数の追加の車両ユニットも、この方法で制御することができる。この場合、複数のVMM機能が存在する可能性があり、1つのVMM機能にマスターの役割を割り当て、他のVMM機能をスレーブモードで動作するように構成できる。
【0109】
要約すると、VMM機能260は、特定の加速度プロファイルおよび/または曲率プロファイルを満たすために力の割り当てを実行する。力は同等の車輪スリップ(または車輪回転速度)に変換され、スリップまたは速度は、従来のトルク要求の代わりにMSD制御ユニット230に送られる。所望の力から同等のスリップまたは車輪の回転速度への変換は、逆タイヤモデルf-1()に基づいて実行される。この逆タイヤモデルは、要求された車輪トルクまたは車輪力の関数であるだけでなく、車両100が現在動作している現在の動作シナリオも考慮に入れている。例示的な実施形態によれば、車両100を制御するために使用される逆タイヤモデルは、以下によって与えられる。
[ωreq、Fy、rem、dFx/dω、dFy/dω]=f-1(Treq、vx、vy、Fz、act、Rw、Cest、μest、Fy、min、αmax)
Treq-車輪でのトルク要求
vx-地上での縦方向の速度
vy-地上での横方向の速度
Fz、act-車輪の垂直負荷
Rw-車輪の転がり半径
Cest-車輪の推定タイヤ剛性(任意選択で、横方向のCest、yおよび縦方向のCest、xタイヤ剛性のいずれか)
μest-車輪での推定タイヤ路面摩擦
Fy、min-必要な最小横方向力容量
αmax-Fy、minを達成するために許容される最大横方向スリップ
ωreq-車輪の回転速度要求、つまり、制御対象の目標車輪速度
Fy、rem-特定の車輪の残りの横方向力容量
dFx/dω-要求されたタイヤ動作点での車輪速度に対するFxw.r.tの勾配
dFy/dω-要求されたタイヤ動作点での車輪速度に対するFyw.r.tの勾配
【0110】
タイヤ剛性Cestは、タイヤの摩耗、使用年数、温度、膨張圧力などの要因で補正できる推定タイヤ剛性であり得る。これは、特定のタイヤの横方向スリップ剛性をスケーリングするための基礎として使用できる縦方向スリップ剛性のみ、またはタイヤの縦方向スリップ剛性と横方向スリップ剛性の両方を含むベクトルのいずれかであり得る。タイヤ剛性は、曲線400をスリップさせる力に重大な影響を与え得る。この引数がなければ、タイヤの公称剛性をタイヤモデルで使用できる。
【0111】
推定摩擦μestを使用して、タイヤ力曲線400を適合させ、許容されるピーク力を制限し、モデル内のピーク力スリップ位置を変更することもできる。この任意選択の入力がない場合、公称ドライアスファルトタイヤ力曲線を使用できる。
【0112】
必要な最小横方向力容量F
y、minおよび許容される最大横方向スリップ角制限α
maxは、VMM機能260と様々なMSD制御ユニット230との間のインターフェース265のようなインターフェースを介して通信できるタイヤモデルへの任意選択の制約である。これらの追加の入力により、生成される縦方向スリップ要求は、最大横方向スリップ角α
maxを使用してF
y、minの横方向力容量が保証されるベクトル空間に制限される。これらの任意選択の引数は両方とも、重大なヨーの不安定性などを引き起こさない安全な方法で縦方向力を要求するために使用できる。F
y、minを使用して、特定のコーナを通過したり、横方向力(つまり、F
y)の生成を必要とする何らかの他の動作を完了したりするのに十分な横方向力容量を確保できる。一方、α
maxを使用して、ヨーモーメントバランスまたは車両の側方スリップは、事前に構成された、または動的に決定された妥当な制限内に維持されることを確保できる。この特徴は、タイヤを線形の複合スリップ範囲(
図3に示す範囲410など)で動作させ続け、したがって、トラクション制御やヨーの安定性介入を妨げることが望まれる自動的または機能安全が重要な用途で特に有益であり得る。
【0113】
出力側では、ωreqは車輪速度要求であり、これはタイヤモデルからの主要な要求であり、μestが与えられ、Fy、minおよびαmax制約に違反することなくそうすることが可能である限り、必要なTreqが得られるはずである。車輪速度要求ωreqは、例えば、上記の車輪スリップ方程式で定義されるように、車輪スリップと同等になるように、地上速度vx、vyに応じて時間とともに継続的に更新され得ることが理解される。あるいは、車輪速度値の代わりに、車輪スリップ値λreqを通信することができる。地上での車輪速度を考えると、車輪スリップと車輪速度は同等の情報量である。
【0114】
残りの横方向力容量Fy、remは、送信される要求の境界を調整するため、または制御アロケータへのフィードバックとして使用して、制御要求を適合させてFy、remを増加させることができ、例えば、ゼロに近づきすぎた場合である。
【0115】
最後に、dFx/dωおよびdFy/dωは、要求された動作点での車輪回転速度ωtgtに対する縦方向および横方向力w.r.tの勾配を表す。これらのパラメータは、例えば、制御アロケータの優先度に応じて、アクチュエータの速度コントローラへの利得をカスタム調整するために使用できる。例えば、車両がコーナリングしていて、dFy/dω値が高い場合、それは速度制御の性能が低いと横方向コーナリング性能が低下し得るため、速度コントローラの利得を適合してこれを防ぐことができることを示す。
【0116】
もちろん、上記の関数インターフェースのいくつかのバリエーションが可能である。1つの可能性は、転がり半径入力を単に削除し、トルクと回転速度Treq、Rwをそれぞれ力と線形速度に変更することである。これにより、逆タイヤモデルは次のようになる。
[ωreq、Fy、rem、dFx/dω、dFy/dω]=f-1(Fx、req、vx、vy、Fz、act、Cest、μest、Fy、min、αmax)
【0117】
もう1つの方法は、すべてのタイヤパラメータを、事前に定義されたレイアウトを有する単一の構造引数(例えば、ptyre)として単に送信することである。構造体のフィールドの任意の値を使用して既存の値を更新できるが、存在しないフィールドの代わりにデフォルト値を使用できる。
【0118】
逆タイヤモデルの出力の他の任意選択は、実際のまたは最大の横方向タイヤ力Fy、maxまたは現在使用されているタイヤ摩擦容量μy、utilをy方向に送信できることである。これにより、次によるモデル関数が生成される。
[ωreq、Fy、act、dFx/dω、dFy/dω]=f-1(Fx、req、vx、vy、Fz、act、ptyre、Fy、min、αmax)
[ωreq、Fy、max、dFx/dω、dFy/dω]=f-1(Fx、req、vx、vy、Fz、act、ptyre、Fy、min、αmax)
[ωreq、μy、util、dFx/dω、dFy/dω]=f-1(Fx、req、vx、vy、Fz、act、ptyre、Fy、min、αmax)
【0119】
上記のように、上記の例の逆タイヤモデルの入力と出力の多くは任意選択である。例えば、パラメータFz、act、Rw、Cest、μest、Fy、min、αmaxのデフォルト値を実際の測定値の代わりに使用できる。また、出力Fy、act、dFx/dω、dFy/dωは、所望の車輪力に対応する同等の車輪速度または車輪スリップで車両を制御するために必要ではないことも理解されたい。
【0120】
逆タイヤモデルに操舵角要求δreqを追加したり、操舵角目標値を維持したりすることも可能である。この場合、入力は必要な縦方向のFx、reqと横方向Fy、reqの両方の車輪力を含み、出力は車輪速度またはスリップに加えて、特定の車輪の目標操舵角δtgtを含む。すなわち、
[ωreq、δreq、dFx/dω、dFy/dω]=f-1(Fx、req、Fy、req、vx、vy、Fz、act、ptyre、Fy、min、αmax)
【0121】
さらに、車輪回転速度ωreq、すなわち、特定の車輪210が回転する速度は、車輪スリップλで置き換えることができることが理解される。これは、地上の車輪速度vxが与えられた場合、車輪速度要求ωreqと車輪スリップ要求λreqが車輪半径Rを介して直接関連しているためである。言い換えれば、車輪速度と車輪スリップは、多くの場合、同等の情報量である。
【0122】
上記の説明を要約すると、本明細書では、大型車両100を制御するための制御ユニット130、140が開示されている。制御ユニットは、車両100の少なくとも1つの車輪210によって生成される所望の車輪力Fx、Fyを示す入力データを取得し、入力データを、車輪210によって維持されるそれぞれの同等の車輪速度または車輪スリップに変換して、車輪210の逆タイヤモデルf-1に基づいて所望の車輪力Fx、Fyを生成するように配置されている。生成される所望の車輪力を示す入力データは、例えば、車両を所望の加速度プロファイルおよび/または所望の曲率に従わせるために必要な力が決定される力配分プロセスから取得することができる。加速度プロファイルおよび曲率は、車両100の運転者による手動制御入力から、またはVUC上で実行される自動または半自動制御アルゴリズムから取得することができる。所望の車輪力はまた、少なくとも部分的に、無線リンクを介して遠隔サーバ190から取得され得る。
【0123】
所望の車輪力Fx、Fyを示すデータは、所望の車輪トルクTreqおよび車輪の転がり半径Rを含み得る。トルクと半径を供給することにより、同等の所望の車輪力は、例えば、Fx=Treq*Rとして決定される。
【0124】
制御ユニット130、140は、車輪210の現在の動作状態に応じて逆タイヤモデルを取得するように配置され、また、同等の車輪速度または車輪スリップに基づいて大型車両100を制御するように配置される。これは、制御ユニットが逆タイヤモードを車両の現在の動作状態に何らかの方法で適合させるように構成されていることを意味する。例えば、車両に重量のある貨物が積まれている場合、車両の制御に使用される逆タイヤモデルは、動作状態の変化に対応するように調整される。以下で説明するように、様々なタイプの動作状態パラメータを考慮することができる。現在の動作状態に応じて逆タイヤモデルを取得することにより、より正確な制御と、より堅牢な制御を実現できる。したがって、本明細書で考慮される逆タイヤモデルは、一定モデルとは異なり、大型車両の現在の動作状態に適合するように適合された動的モデルであることが理解される。これにより、車両の性能と安全性の両方が向上する。
【0125】
現在の動作状態は、成分vx、vyを含む地上ベクトル上の車両または車輪速度を含み得る。地上でのこの車両速度は、例えば、上記で説明した正規化された車輪スリップ差を計算することによって、特定のスリップ量に対応する車輪の回転速度を決定するために使用することができる。一部のタイヤはまた、車輪の回転が遅いか速いかによって、動作が少し異なる。したがって、一部の逆タイヤモデルは、例えば地上での0km/hから約150km/hまでの動作速度範囲で、差を示し得る。要求された車輪回転速度に基づく車輪制御は、VMM機能260とMSD制御ユニット230との間の比較的高速なインターフェースを必要とすることが理解される。これは、特定の車輪スリップを取得するために必要な車輪の回転速度が地上の速度に依存し、時間の経過とともに比較的速く変化し得るためである。
【0126】
現在の動作状態は、任意選択で、車輪210に関連する垂直負荷Fzまたは垂直タイヤ力も含む。垂直負荷は、逆タイヤモデル、つまり、所望の車輪力と車輪速度または車輪スリップの間のマッピングに大きな影響を与え得る。例えば、利用可能な最大縦方向タイヤ力Fxは、法線力と摩擦係数によって制限される。したがって、垂直負荷Fzに基づいて逆タイヤモデルをパラメータ化することにより、車両100の現在の動作状態をより厳密にモデル化する、より正確な逆タイヤモデルを得ることができる。
【0127】
他のいくつかの態様によれば、現在の動作状態は、車輪210の推定タイヤ剛性Cestを含む。タイヤ剛性を明示的に推定すると、より正確な逆タイヤモデルを取得できる。タイヤ剛性は、例えば、タイヤの力の測定値が車輪スリップに対してマッピングされ、線形または半線形の関係を決定することができるフィードバックシステムに基づいて推定することができる。タイヤ剛性はまた、例えば、遠隔サーバ190またはVUCに接続されたメモリに維持されているデータベースから取得することができ、タイヤを識別できる場合にインデックスを付けることができる。特定の車輪に取り付けられたタイヤの識別は、例えば、無線周波数識別(RFID)デバイスをタイヤに埋め込むか、手動で構成することによって行うことができる。
【0128】
現在の動作状態はさらに、車輪の推定タイヤ路面摩擦係数μを含み得る。この路面摩擦は、例えば、US9,475,500B2、US8,983,749B1またはEP1719676B1に開示されているものなどの既知の方法を使用してリアルタイムで推定することができる。次に、逆タイヤモデルを現在の路面摩擦に一致するように適合させることができる。
【0129】
現在の動作状態は、さらに、必要な最小の横方向力容量Fy、min、および/または車輪210の車輪210の許容される最大の横方向スリップαを含み得る。最小横方向力容量Fy、minおよび最大横方向スリップ角制限αは、タイヤモデルに対する任意選択の制約である。このデータを逆タイヤモデル関数への入力として使用する場合、これらのパラメータを制約として出力を決定できる。例えば、出力車輪速度または車輪スリップは、不十分な横方向力能力または横方向スリップを生成するようなものではないことを確認することができ、これは利点である。
【0130】
逆に、逆タイヤモデルf-1は、車輪210の残りの横方向力容量Fy、remを提供するように構成することもできる。残りの横方向力容量Fy、remは、送信される要求の境界を調整するため、または制御アロケータへのフィードバックとして使用して、低くなりすぎた場合に残りの横方向力容量を増やすように制御要求を調整できる。
【0131】
逆タイヤモデルf-1はまた、所望の車輪力および車輪210の現在の動作状態に関連するタイヤ動作点での車輪速度または車輪スリップに関して、所望の車輪力dFx、dFyの勾配を提供するように構成することができる。勾配は、入力パラメータに小さな変更が加えられた場合のモデルの動作に関する情報を提供し、例えば、MSD制御ユニット230において制御アルゴリズムを調整するために有利に使用することができる。例えば、勾配を使用して、PIDコントローラなどの制御機能の利得を調整できる。
【0132】
図7は、上記の説明の少なくとも一部を要約した方法を示すフローチャートである。大型車両100を制御するために制御ユニット130、140で実行される方法が示されている。この方法は、車両100の少なくとも1つの車輪210によって生成される所望の車輪力Fx、Fyを示す入力データを取得S1することと、車輪210に関連する逆タイヤモデルf
-1を取得S2することとを含み、逆タイヤモデルは、車輪210の現在の動作状態に応じている。この方法は、入力データを車輪210によって維持されるそれぞれの同等の車輪速度または車輪スリップに変換して、車輪210の逆タイヤモデルに基づいて所望の車輪力Fx、Fyを生成S3することと、同等の車輪速度または車輪スリップに基づいて、大型車両100を制御S4することと、をさらに含む。
【0133】
図8は、いくつかの機能ユニットの観点から、VUC130、140などの制御ユニットの成分を概略的に示している。制御ユニットは、本明細書の説明の実施形態によれば、TSM270、VMM260、および/またはMSD制御機能230の上記で説明した機能の1つまたは複数を実装することができる。制御ユニットは、大型車両100を制御するために上記で論じた機能の少なくともいくつかを実行するように構成される。処理回路810は、適切な中央処理ユニットCPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサDSPなどのうちの1つまたは複数の任意の組み合わせを使用して提供され、例えば記憶媒体820の形でコンピュータプログラム製品に保存されているソフトウェア命令を実行できる。処理回路810は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASIC、またはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとしてさらに提供され得る。
【0134】
特に、処理回路810は、制御ユニット101に、
図7に関連して論じられた方法などの動作またはステップのセットを実行させるように構成される。例えば、記憶媒体820は、動作のセットを保存することができ、処理回路810は、記憶媒体820から動作のセットを検索して、制御ユニット900に動作のセットを実行させるように構成され得る。動作のセットは、実行可能命令のセットとして提供され得る。したがって、処理回路810は、それによって、本明細書に開示される方法を実行するように配置される。
【0135】
記憶媒体820はまた、永続記憶装置を含み得、これは、例えば、磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、または遠隔的に取り付けられたメモリの任意の単一または組み合わせであり得る。
【0136】
制御ユニット900は、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース830をさらに備え得る。したがって、インターフェース830は、1つまたは複数の送信機および受信機を含み得、アナログおよびデジタル成分と、有線または無線通信のための適切な数のポートとを含む。
【0137】
処理回路810は、例えば、データおよび制御信号をインターフェース830および記憶媒体820に送信し、インターフェース830からデータおよびレポートを受け取ることによって、および記憶媒体820からデータおよび命令を検索することによって、制御ユニット900の一般的な動作を制御する。本明細書に示されている概念を曖昧にしないために、制御ノードの他の成分および関連する機能は省略されている。
【0138】
図9は、前記プログラム製品がコンピュータ上で実行されるときに、
図7に示される方法を実行するためのプログラムコード手段920を含むコンピュータプログラムを運ぶコンピュータ可読媒体910を示す。コンピュータ可読媒体とコード手段は一緒になってコンピュータプログラム製品900を形成することができる。
【0139】
図10は、本明細書に開示された技術を有利に使用することができる例示的な車両発進シナリオ1000を示している。車両100は、ここで、加速1020されるため、様々な摩擦状態1030、1040、1050を経験するであろう。道路1010はまた、不均一および/または傾斜し得る。道路や車両の状態が変化すると車輪トルクを迅速に制御する必要があるため、車輪速度制限のないトルクベースの始動制御は課題に直面する。例えば、VMMは、約10ミリ秒の更新速度で動作し得、一方、MSD制御ユニット230は、約1ミリ秒、すなわち、10倍速い更新速度で動作し得る。これは、MSD制御ユニット230が一時的な影響に対してより速く調整することができ、それにより、運転状態の予期しない変化への反応が遅くなるVMMベースの制御と比較して、車両始動中の予期しない抵抗をより良い方法で克服できることを意味する。一方、提案された技術は、各被駆動車輪の異なるMSD制御ユニットによって維持される適切な目標車輪スリップ値を単純に決定し、これらの目標車輪スリップ値(または所望の車輪スリップ値に基づいて決定された関連する車輪速度制限)をMSD制御ユニットに通信し、MSD制御ユニットが電気機械を制御し、車両速度と構成された目標車輪スリップまたは車輪スリップ制限に応じて適切な車輪速度を設定することにより、車輪スリップを要求値以下に維持する。このようにして、制御は実際の電気機械に近い制御スタックに転送され、車両全体の始動性が向上する。例えば、
図10の車両100の1つまたは複数の車輪における現在のモータ速度が車輪の上限速度を超えている場合、モータコントローラは、加えられるモータトルクを減少させる。モータトルクは、モータ速度が上限速度以下になるまで減少し続ける。また、モータ速度が下限速度を下回っていると測定された場合、電気機械に加えられるトルクは、最後のタイムステップに比べて増加するものとする。モータトルクは、モータ速度が下限速度以上になるまで増加し続けるものとする。
【0140】
図11は、大型車両100を運動させるための方法を示しており、この方法は、車両100を運動させるための運動命令を取得SB1することと、運動命令の実行に適した車輪スリップに関連する目標車輪スリップ制限値λ
targetを決定SB2することと、車両100の車輪スリップを目標車輪スリップ制限値λ
target未満に維持するために車輪速度ωを制御SB3することと、を含む。車輪スリップ制限、または同等に、車輪速度制限値は、本明細書で論じられるように、車輪速度に応じて構成することができる。例えば、一般に、車輪速度制限は、過度の車輪スリップが発生しないように、所望の車輪スリップに応じて構成され得る。このように、制御は、トルクベースの制御のみではなく、車両の速度に対する車輪速度に直接基づいているため、制御された車両の始動が効率的な方法で得られる。制御は、推進ユニットまたは複数のユニットに向かって、中央車両制御から離れてシフトすることができる。これは、より高い帯域幅の制御ループ(より高速なループ)をこの方法で実現できるため、利点である。中央と比較して局所で制御帯域幅が増加するため、予期しない抵抗と過渡現象をより適切に処理できる。
【0141】
本開示によれば、電気機械WEMは、車両を運動させるための運動命令に応じて決定された目標車輪スリップ制限値λtarget、または同等に、車輪スリップ制限に対応する目標車輪速度制限未満に車輪スリップを維持するように要求される。電気機械は、例えば、発進動作中に、構成された車輪速度制限値に近い車輪速度を単に適用することができる。例えば、目標車輪スリップ制限値が0.1に設定されている場合、車輪の回転速度は、車両速度より0.1高い相対差で、WEMによって継続的に設定されるため、車輪は常に構成された量だけスリップするか、または構成された量よりわずかに少ない量でスリップする。言い換えれば、車両の速度に対する目標車輪速度差が構成され、次にそれに対して制御される。これは、少なくとも部分的には、電気機械が高トルクを迅速に提供できるため、つまり、通常、電気機械から要求された車輪スリップを生成できるために可能である(しかし、タイヤが焼損する可能性があるため、大きすぎるスリップを要求することは推奨できない)。電気機械のピークトルク能力は通常非常に高いが、限られた時間しか得られない。したがって、車両の始動中に電気機械または複数の機械からの高いピークトルクを利用することが有利であり得る。
【0142】
発進中に車両を制御する既知の方法は、代わりにトルク制御に基づいている。つまり、電気機械にはトルク要求が送信され、電気機械は、スリップ制限の制約の下でその能力を最大限に発揮しようとする。大型車両を発進するための既知の方法と比較して、提案された方法は、制御を電気機械に近づける。
【0143】
態様によれば、この方法は、車輪速度ωを制御して、車両100のそれぞれの車輪の車輪スリップを、以下の関係に基づいて目標車輪スリップ制限値λ
target未満に維持するSB31ことを含む。
【数2】
ここで、ωは車輪速度を表し、λ
targetは目標車輪スリップ制限値を表し、v
refは基準速度、v
xは車輪の基準システムにおける車両速度、Rは車輪半径を表す。
【0144】
態様によれば、運動命令SB11は、車両100による要求加速度areqを含み、目標車輪スリップ制限λtargetは、要求加速度に到達するために必要な縦方向力Fx’に応じて決定SB21される。
【0145】
態様によれば、この方法は、要求された加速度に到達するために必要な縦方向力Fx’から、および横方向力Fyと縦方向車輪スリップ比との間の所定の関係400から、目標車輪スリップ制限値λtargetを決定SB212することを含む。
【0146】
態様によれば、この方法は、関係Fx’=m*areqに基づいて、要求された加速度に到達するために必要な縦方向力Fx’を決定SB211することを含み、mは車両100の質量であり、areqは車両100によって要求される加速度である。
【0147】
態様によれば、横方向力Fyと縦方向車輪スリップ比との間の所定の関係400は、推定された道路状態に応じて事前に構成SB213される。
【0148】
態様によれば、運動命令SB12は、車両100によって要求された終了速度vreqを含み、目標車輪スリップ制限λtargetは、事前に構成された車輪スリップ制限値SB22である。
【0149】
態様によれば、この方法は、車輪速度ωを制御して、車両100の車輪スリップを、以下の関係に基づいて目標車輪スリップ制限値λ
target未満に維持SB311することを含む。
【数3】
ここで、v
refは、車両100によって要求された終了速度v
reqに設定される。
【0150】
態様によれば、この方法は、車輪速度ωを制御して、車両の加速度を事前構成された最大加速度値未満に維持SB32することを含む。
【0151】
態様によれば、この方法は、車輪速度ωを制御して、車輪速度を事前構成された最大車輪速度値未満に維持SB33することを含む。
【0152】
態様によれば、この方法は、車両速度vxが構成された閾値速度vlimを超える場合、固定車輪スリップ制限を伴うトルク要求に基づいて車両速度vxを制御SB34することを含む。
【0153】
態様によれば、運動命令SB13は、車両100が静止から静止まで横断する距離dreqを含み、この方法は、車輪速度を時間とともに積分して、以下のような距離dreqに到達SB4することを含む。
dreq=∫ωR dt
【0154】
態様によれば、運動命令は、限られた期間に加えられるピークトルクの要求に対応する。
【0155】
態様によれば、この方法は、車輪速度要求を、開放差動装置を介して駆動車輪に接続された電気機械に送信SB5することを含み、この方法は、車両100の車輪スリップを目標車輪スリップ制限値λtarget未満に維持するように電気機械によって車輪速度ωを制御することを含む。
【0156】
態様によれば、この方法は、構成された期間にわたって、目標車輪スリップ制限値λtargetを初期値から所定の終了値まで増加させることを含む。
【0157】
図12は、車両100の少なくとも1つのアクチュエータ220、250を制御するための方法を示しており、アクチュエータ220、250は、車両100の少なくとも1つの車輪210にトルクを加えるように構成されている。加えられるトルクは、制御帯域幅に関連する制御機能によって決定される。この方法は、加えられるトルクを制御するように制御機能を構成して、車輪210の現在の回転速度に関連する第1のパラメータ値と、車輪210の目標回転速度制限に関連する第2のパラメータ値との間の差を低減SC1することと、車両の現在の動作状態を示すデータを取得SC2することと、車両100の現在の動作状態に応じて制御機能の制御帯域幅を設定SC3することと、を含む。この方法はまた、制御機能を使用して、アクチュエータ220、250を制御SC4することを含む。
【0158】
制御機能は、少なくとも1つのアクチュエータにトルクを加えるように構成された動作機能として解釈する必要がある。制御帯域幅により、現在の動作状態に応じて様々な応答時間でトルクを加えることができる。一例によれば、帯域幅の減少は、アクチュエータのトルク応答時間の増加に関連し得る。したがって、トルクは帯域幅の増加に伴ってより迅速に加えられる。さらに、車輪の現在の回転速度に関連する値、および車輪の目標回転速度に関連する値は、回転車輪速度と車輪スリップの両方に関連し得る値として解釈されるべきであり、つまり、地上の車輪速度と実際の車輪速度の差である。したがって、後者の場合、第1のパラメータは、車輪の現在の車輪スリップであり得、第2のパラメータは、車輪の目標車輪スリップであり得る。利点は、帯域幅が現在の動作状態に基づいて制御されることである。これにより、必要な場合は迅速なトルク応答が得られ、その他の状況ではより低く、より穏やかなトルク応答が得られる。したがって、必要な場合にのみ迅速でエネルギーを消費する動作が実行されるため、動作中の快適性が向上し、車両の全体的なエネルギー消費を減らすことができる。さらに、構成可能性の向上により、一般的な車両制御を最適化する際の自由度が向上する。さらに、制御機能は、車輪の回転速度に関連するパラメータを取得する。車輪に特定のタイヤ力を要求するための一般的なアプローチは、上位層の制御機能から送信されたトルク要求に基づいて、アクチュエータレベルでトルク制御を使用することである。しかし、例えばコントローラエリアネットワーク(CAN)バスを介した、様々な制御機能間の通信に伴う遅延により、スリップ制御の性能が大幅に制限される。したがって、例えばトルクベースの制御と比較して有利な速度ベースの制御機能が得られる。特に、電気機械の場合、主にCANメッセージのサイクルタイムにより、局所で実行される車輪スリップの速度ベースの制御は、集中管理されたトルク制御と比較してより高速である。
【0159】
以下でさらに詳細に説明するように、この方法は、好ましくは、車両運動管理システムおよびアクチュエータ制御システムを使用して実行することができる。帯域幅は、そのような車両運動管理システムおよびアクチュエータ制御システムを実装する場合、いくつかの異なる方法で制御することができる。例えば、車両運動管理システムは、制御信号をアクチュエータ制御システムに送信するように配置することができ、この信号は、目標帯域幅および車両の動作状態に関連するデータを含む。したがって、目標帯域幅は、車両運動管理システムによって設定/決定される。アクチュエータ制御システムは、目標帯域幅に基づいて、様々なパラメータに基づいて、目標帯域幅を達成するための制御帯域幅を決定する。
【0160】
上記の第1のパラメータ値は、例えば、車輪の回転速度または車輪の現在の車輪スリップであり得る。したがって、第2のパラメータ値は、車輪の目標回転速度または車輪の目標車輪スリップであり得る。
【0161】
図13は、車両100の少なくとも1つの車輪210にトルクを加えるために少なくとも1つのアクチュエータ220、250を制御するためにアクチュエータ制御システムで実行される方法を示している。アクチュエータ制御システムは制御機能を備えており、加えられるトルクは、制御帯域幅に関連する制御機能によって決定される。この方法は、車輪210の現在の回転速度に関連する第1のパラメータ値を決定SC10することと、車輪210の目標回転速度に関連する第1のパラメータ値と第2のパラメータ値との間の差を低減するために、加えられたトルクを制御するように制御機能を構成SC20することと、車両の現在の動作状態を示すデータを取得SC30することと、を含む。この方法は、車両の現在の動作状態に応じて制御機能の制御帯域幅を設定SC40することと、制御機能を使用してアクチュエータを制御SC50することと、をさらに含む。
【0162】
態様によれば、制御機能は、アクチュエータ220、250の速度を制御するように構成される。
【0163】
態様によれば、制御機能の帯域幅の増加は、アクチュエータのトルク応答の増加に関連している。
【0164】
態様によれば、制御機能の制御帯域幅は、アクチュエータの所定のフィードバック利得のセットを使用して制御され、各フィードバック利得は、車両の特定の動作状態に関連する。
【0165】
態様によれば、制御機能はPIDコントローラである。
【0166】
態様によれば、制御機能は比例コントローラであり、この方法は、制御機能の目標帯域幅を示す信号を取得し、車両の現在の動作状態に関連する目標帯域幅および比例パラメータを使用して制御機能を構成することをさらに含む。
【0167】
図14は、車両100の車両運動管理システム260で実行される方法を示しており、車両運動管理システムは、相互間の制御信号の通信のためにアクチュエータ制御システムに接続可能である。この方法は、車両100の現在速度を取得SC100することと、車両100の現在の動作状態を決定SC200することと、制御信号をアクチュエータ制御システムに送信SC300することと、を含む。制御信号は、アクチュエータ制御システムによって実行されると、アクチュエータ制御システムの制御機能に、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えて、制御帯域幅に関連して、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関連する第1のパラメータ値と、車輪の目標回転速度に関連する第2のパラメータ値との間の差を低減させるようにする命令を表す。制御帯域幅は、車両の現在の動作状態に応じて決定できる。
【0168】
態様によれば、この方法は、現在の動作状態に基づいて車両の目標速度を決定することをさらに含み、車輪の目標回転速度は、車両の目標速度に基づく。
【0169】
態様によれば、この方法は、現在の動作状態に基づいて、車両の所望の動作性能を決定することをさらに含み、制御帯域幅は、車両の所望の動作性能に応じてさらに決定可能である。
【0170】
態様によれば、この方法は、目標帯域幅を決定し、決定された目標帯域幅を含む制御信号を送信することをさらに含み、制御帯域幅は、目標帯域幅に応じてさらに決定可能である。
【0171】
態様によれば、車両の現在の動作状態は、現在の車両状態および車両が動作している現在の道路状態のうちの少なくとも1つに基づく。
【0172】
態様によれば、現在の動作状態は、現在の車両質量、車両が動作している道路の傾斜、車両速度、車両の車輪と路面との間の摩擦レベル、および現在のタイヤ剛性のうちの少なくとも1つである。
【0173】
車両100のアクチュエータ制御システムも本明細書に開示され、アクチュエータ制御システムは、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるために少なくともアクチュエータ220、250を制御するように構成される。アクチュエータ制御システムは制御機能を備えており、加えられるトルクは、制御帯域幅に関連する制御機能によって決定される。アクチュエータ制御システムは、車輪の現在の回転速度に関連する第1のパラメータ値を決定し、加えられたトルクを制御するように制御機能を構成して、車輪の目標回転速度に関連する第1のパラメータ値と第2のパラメータ値との間の差を低減させ、車両の現在の動作状態を示すデータを取得し、車両の現在の動作状態に応じて制御機能の制御帯域幅を設定し、制御機能を使用してアクチュエータを制御するように構成される。
【0174】
本明細書には、車両100の車両運動管理システム260も開示されており、車両運動管理システム260は、相互間の制御信号の通信のためにアクチュエータ制御システムに接続可能であり、車両運動管理システムは、車両の現在の速度を取得し、車両の現在の動作状態を決定し、制御信号をアクチュエータ制御システムに送信するように構成される。制御信号は、アクチュエータ制御システムによって実行されると、アクチュエータ制御システムの制御機能に、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えて、制御帯域幅に関連する、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関連する第1のパラメータ値と、車輪の目標回転速度に関連する第2のパラメータ値との間の差を低減させるようにする命令を表し、制御帯域幅は、車両の現在の動作状態に応じて決定される。
【0175】
さらに、本明細書では、車両100のアクチュエータ制御システムによって実行される命令を表す制御信号が開示されている。制御信号は、アクチュエータ制御システムが車輪210の現在の回転速度を決定することを可能にする車両速度成分と、命令を表す車両動作状態成分とを含む。命令は、アクチュエータ制御システムによって実行されると、アクチュエータ制御システムの制御機能に、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えて、制御帯域幅に関連する、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関連する第1のパラメータ値と、車輪の目標回転速度に関連する第2のパラメータ値との間の差を低減させるようにし、制御帯域幅は、車両の現在の動作状態に応じて決定できる。
【0176】
図8、15、および16を参照して、タイヤ1502を備えた車両車輪210を制御するための制御ユニット130、140が示されている。制御ユニットは、データストレージ820を含むか、またはデータストレージ820に動作可能に接続され、このデータストレージは、タイヤ用に保存されたタイヤモデル400、1504を有し、タイヤモデルでは、縦方向タイヤ力Fxは、少なくとも縦方向車輪スリップλの関数として表され、縦方向車輪スリップは、車輪の回転速度と車両の速度に依存する。制御ユニットは、少なくとも1つのタイヤパラメータ入力を受け取るように構成されて、タイヤパラメータ入力に少なくとも1つのパラメータの測定値が含まれ、これは、タイヤの縦方向スリップ剛性に影響を与え、受け取ったタイヤパラメータ入力に基づいて、保存されたタイヤモデルの前記関数を補正する。制御ユニットはまた、車輪トルク要求を取得または生成し、取得または生成された車輪トルク要求を、補正された関数に基づいて車輪回転速度制限要求に変換し、車輪の回転速度制限要求をアクチュエータに送信して、前記車輪の回転速度制限要求を下回る車輪の回転速度を提供するように配置されている。この概念は、スリップ制御と同じ車両サブシステムでトルク制御を提供することにより、遅延の問題を回避できるという認識に基づいている。このようなサブシステムは、トルク要求が従来送信される元になっている車両制御ユニットと比較して、応答時間が比較的短い。より具体的には、縦方向タイヤ力が少なくとも縦方向車輪スリップの関数であるタイヤモデルを使用することによって、スリップ制御サブシステムを使用して、所望の縦方向力に対応するスリップ要求を提供できることが実現された。特に、高速応答時間を提供するという利点に加えて、そのような制御が正確になるために、タイヤモデルは、タイヤのスリップ剛性に影響を与える1つまたは複数のパラメータに基づいて補正可能でなければならないことが認識された。したがって、一般的には、力/スリップベースのタイヤモデルをタイヤの現在の状態または現在の運転状態に適合させることにより、車輪の正確で高速な制御が可能になる。車輪スリップ制限値および/または車輪速度制限値は、同様の方法で決定および構成することができる。
【0177】
前に説明したように、タイヤモデル400に基づいて車輪210の正確な制御を提供するために、タイヤモデルは現在の状態に更新されるべきである。本明細書において、車輪の制御は、加えられたトルクが目標トルクに従うように制御されるトルク制御、車輪の回転速度が目標速度に従うように制御される速度制御または、車輪速度またはトルクが目標車輪スリップに可能な限り厳密に従うように制御される車輪スリップ制御などの制御動作を含むように広く解釈されるべきである。
【0178】
タイヤは、周囲温度、膨張圧力、垂直負荷、使用年数、摩耗など、様々な要因の影響を受け得る。これらおよび他の要因は、測定可能なパラメータとして適切に定量化され、タイヤパラメータ入力として提供され得る。したがって、
図3を参照すると、VMM260が車輪トルク要求を取得するとき、またはそうでなければ車輪210で生成される所望のタイヤ力を決定するとき、得られた車輪トルク要求または所望のタイヤ力を、タイヤモデルの補正された関数に基づいて、車輪回転速度要求または車輪スリップ要求に変換することができる。同様に、車輪速度制限および/または車輪スリップ制限を決定し、要求としてMSD制御ユニット230に送信することができる。
【0179】
態様によれば、タイヤ1502は、タイヤモデル1504も含むキット1500の一部を形成し、後者は、フラッシュドライブ(UVフラッシュドライブなど)によって
図15に示されている。しかしながら、タイヤモデル信号1504は、考えられる様々な媒体に保存され得、必ずしもタイヤ1502と一緒に物理的に配信されるとは限らないが、遠隔サーバなどからタイヤモデル1504をダウンロードすることによってアクセス可能である。
【0180】
少なくとも1つのパラメータは、
-タイヤの使用年数tact、
-周囲温度Tact、
-タイヤの膨張圧力Pact、
-タイヤの垂直負荷、
-タイヤが移動した距離dactとして適切に概算されるタイヤの摩耗
で構成される群から任意選択で選択される。
【0181】
態様によれば、制御ユニットは、前記関数にスリップ剛性補正係数cp、cT、ca、cwを適用することによって、保存されたタイヤモデル400内の前記関数を補正するように構成され、スリップ剛性補正係数は、パラメータに関して変動する。
【0182】
態様によれば、制御ユニットは、複数の異なるタイヤパラメータ入力を受け取るように構成される。各タイヤパラメータ入力は、タイヤの縦方向スリップ剛性に影響を与える複数のパラメータのうちのそれぞれの1つの測定値を含む。制御ユニットはさらに、前記関数に複合補正係数を適用することによって、保存されたタイヤモデル400の前記関数を補正するように構成される。複合補正係数は、複数のスリップ剛性補正係数の関数であり、各スリップ剛性補正係数は、前記複数のパラメータのそれぞれの1つに対して変動する。
【0183】
態様によれば、前記少なくとも1つのタイヤパラメータ入力は1次タイヤパラメータ入力であり、前記少なくとも1つのパラメータは1次パラメータであり、制御ユニットは、少なくとも1つの2次タイヤパラメータ入力に基づいて、保存されたタイヤモデル400の前記関数を補正するようにさらに構成される。2次タイヤパラメータ入力は、少なくとも1つの2次パラメータの測定値を含み、少なくとも1つの2次パラメータは、
-転がり半径、
-公称ピーク摩擦、
-転がり抵抗係数
からなる群から選択される。
【0184】
態様によれば、制御ユニット130、140は、車輪トルク要求を車輪回転速度要求に変換し、補正された関数に基づいてスリップ要求を計算し、以下のスリップ方程式を使用してスリップ要求を車輪回転速度要求に変換するように構成されている:
【数4】
ここで、λは縦方向車輪スリップ、Rωは車輪の回転速度、Rは車輪の半径(メートル)、ωは車輪の角速度、v
xは車輪の縦方向の速度である。
【0185】
図16は、少なくとも1つのタイヤパラメータ入力を受け取るSD1ことを含む、タイヤを備えた車両の車輪に加えられるトルクを制御するための方法を示し、タイヤパラメータ入力に、タイヤの縦方向スリップ剛性に影響を与える少なくとも1つのパラメータの測定値が含まれ、受け取ったタイヤパラメータ入力に基づいてタイヤのタイヤモデルを補正SD2し、タイヤモデルでは、縦方向タイヤ力は、縦方向車輪スリップの関数として表され、縦方向車輪スリップは、車輪の回転速度および車両の速度に依存し、タイヤモデルを補正するステップは、前記関数を補正することを含む。この方法はさらに、
車輪トルク要求を取得または生成SD3し、補正された関数に基づいて、取得または生成された車輪トルク要求を車輪回転速度要求に変換SD4し、車輪回転速度要求をアクチュエータに送信して、前記車輪回転速度要求に対応する車輪の回転速度を提供SD5することを含む。
【0186】
態様によれば、前記少なくとも1つのパラメータは、
-タイヤの使用年数、
-周囲温度、
-タイヤの膨張圧力、
-タイヤの垂直負荷、
-タイヤが移動した距離として適切に概算されるタイヤの摩耗
からなる群から選択される。
【0187】
態様によれば、補正する行為SD2は、前記関数にスリップ剛性補正係数を適用することを含み、スリップ剛性補正係数は、パラメータに関して変動する。
【0188】
態様によれば、この方法はまた、複数の異なるタイヤパラメータ入力を受け取ることを含み、各タイヤパラメータ入力は、タイヤの縦方向スリップ剛性に影響を与える複数のパラメータのうちのそれぞれの1つの測定値を含み、ここで、補正の前記ステップは、前記関数に複合補正係数を適用することを含み、複合補正係数は、複数のスリップ剛性補正係数の関数であり、各スリップ剛性補正係数は、前記複数のパラメータのそれぞれの1つに対して変動する。
【0189】
態様によれば、前記少なくとも1つのタイヤパラメータ入力は1次タイヤパラメータ入力であり、前記少なくとも1つのパラメータは1次パラメータであり、補正する行為SD2は、少なくとも1つの2次タイヤパラメータ入力に基づいて、保存されたタイヤモデルにおける前記関数を補正することを含み、2次タイヤパラメータ入力は、少なくとも1つの2次パラメータの測定値を含み、少なくとも1つの2次パラメータが、
-転がり半径、
-公称ピーク摩擦、
-転がり抵抗係数
で構成される群から選択される。
【0190】
態様によれば、変換する行為SD4は、補正された関数に基づいてスリップ制限要求を計算し、以下のスリップ方程式を使用してスリップ制限要求を車輪回転速度制限要求に変換することを含む。
【数5】
ここで、λは縦方向車輪スリップ、Rωは車輪の回転速度、Rは車輪の半径(メートル)、ωは車輪の角速度、v
xは車輪の縦方向の速度である。
【0191】
図2を参照すると、非限定的な例によれば、車両運動管理システム260は、トルクモジュール202、車輪スリップモジュール204、および摩擦モジュール206を備える。車両運動管理システム260は、車両運動管理システム260およびその様々なモジュール202、204、206によって動作可能なデータを含む車両動作信号を受け取るようにさらに配置される。車両運動管理システム260に提供される車両動作信号sは、例えば、車両の現在の環境、現在の交通状況、車両重量パラメータを示す信号の形のデータを含み得、例えば、車両が載荷されている、載荷されていない、部分的に載荷されているなどの場合である。車両運動管理システム260はまた、例えば、以下に説明されるような現在の車両動作状態など、特定の車両状態を示す他の信号を受け取ることができる。トルクモジュール202、車輪スリップモジュール204、および摩擦モジュール206は、互いに通信信号を送信するように構成される。すなわち、以下の開示によって明らかとなるように、異なるモジュールは、互いに通信するように構成される。トルクモジュール202、車輪スリップモジュール204、および摩擦モジュール206は、単に例示の目的で別個の成分として示されていることは容易に理解されるべきである。車両運動管理システム260は、もちろん、以下に説明する機能を実行する様々な制御機能自体を単に含むこともできる。
【0192】
別の例によれば、車両運動管理は、平常運転者制御入力、すなわち手動操舵入力、ならびに所望のトルクを示す加速およびブレーキ入力を含む。
【0193】
したがって、車両用の車両運動管理システムが提供され、車両運動管理システムは、その間の制御信号の通信のための運動支援システムに接続可能であり、車両運動管理システムは、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを決定し、車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定し、少なくとも車輪スリップ制限に基づいて、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定し、所望のトルクと車輪の速度制限を示す制御信号を運動支援システムに送信するように構成される。車両運動管理システムおよび運動支援システムは、車両の制御システムであり、各制御システムは、車両の動作を制御するための、特に車輪動作を制御するための様々な制御機能を実行するように配置されている。車両運動管理システムは、好ましくは、より高いレベルで車輪パラメータを受け取り、決定するように構成される。すなわち、車両運動管理システムは、より一般化された形式で所望のトルクおよび車輪スリップ制限を決定し、一方、運動支援システムは、車両運動管理システムから受け取ったパラメータをアクチュエータの適切なパラメータに変換するように構成された低レベルの制御システムとして配置されている。運動支援システムは、アクチュエータ信号をアクチュエータに転送する前に、現在のドライブライン状態を考慮に入れる。現在のドライブライン状態は、例えば、現在の車両の変速機状態、車両の変速機用のギア段、または変速機クラッチの作動状態に関連し得る。所望のトルクは、例えば、アクセルペダルを踏むおよび/またはブレーキペダルを踏む車両の運転者から受け取ることができる。所望のトルクは、車両の推進動作を自動的に制御するシステムから、または先進運転者支援システム(ADAS)からも受け取ることができる。車輪スリップ制限は、動作中の少なくとも1つの車輪の最大許容車輪スリップとして解釈する必要がある。車輪スリップは、車両の車輪とその地面との間の相対的な縦方向の運動、つまり「滑り」の量である。車輪スリップは、車輪の半径を考慮して、車輪の縦方向の速度と車輪の回転速度の間の関係として決定できる。したがって、車輪速度制限は、車輪ベースの座標系で見られるように、路面に対する車輪速度に基づく。例示的な実施形態によれば、車両運動管理システムは、車両の少なくとも1つの車輪の現在の回転車輪速度および現在の縦方向車輪速度を決定し、現在の回転車輪速度と現在の縦方向車輪速度に基づいて、少なくとも1つの車輪の車輪スリップを決定するように構成され得る。上記のように、構成された車輪スリップ制限は、多くの点で構成された車輪速度制限と同等であり、車輪速度制限は、地上の車両速度に応じてリアルタイムで決定される。
【0194】
本開示は、所望のトルクを示す制御信号を車輪速度制限と組み合わせて運動支援システムに送信することにより、車輪スリップ制限の計算をより高いレベルの車両運動管理システムによって実行できるという洞察に基づいている。車輪スリップを計算する場合、車輪スリップ方程式の分母は、車輪の回転車輪速度で構成される。したがって、車両の低速動作では、分母はゼロに近いか、ゼロに近づき、車輪スリップを計算するときにエラーの原因となり得る。したがって、より高いレベルの車両運動管理システムで車輪スリップを実行することは、別個の運動支援システムによる車輪スリップ計算における潜在的な不一致を回避することができるので有利である。これにより、改善された車輪スリップの一貫性が達成される。
【0195】
さらに、電気機械は速度およびトルクを制御することができるので、電気機械を使用して車両を動作する場合、所望のトルクおよび車輪速度制限を示す制御信号を運動支援システムに送信することは特に有利である。スリップ制御とは対照的に、回転速度はタイヤトルクバランシングシステムの一般的に使用される出力であり、車輪スリップ方程式に存在する非線形性を含まないため、速度制御は、例えばサービスブレーキでも簡単に実現できる。
【0196】
例示的な実施形態によれば、車輪速度制限は、さらに、所望のトルクに基づくことができる。これにより、所望のトルク、すなわちトルク要求が、車輪速度制限を計算するときに使用されるスリップ制限を計算するために使用される。
【0197】
例示的な実施形態によれば、車輪速度制限は、車輪の上限速度および車輪の下限速度を含み得る。車両運動管理システムは、車輪の上限速度をに送信するようにさらに構成され得る。
【0198】
次に、車両運動管理システム260の機能的動作について説明する。特に、車両運動管理システム260は、現在の車両の動作状態に関する情報を含む入力信号を受け取るように配置されている。現在の車両の動作状態は、例えば、車両の車輪と路面との間の車輪摩擦レベル、または車両の現在の重量を示すデータを含み得、つまり、車両が載荷されていない、載荷されている、または部分的に載荷されている場合であり、または、車両が現在動作している道路のトポロジを示す。したがって、様々な動作状態は、個々の成分として、または全体的な車両動作状態としてすべての異なる動作状態を使用する成分として、車両運動管理システム260によって受け取られ得る。車両の異なる動作状態は、適切なセンサを使用して決定され、車両運動管理システム260に送信され得る。
【0199】
上記のように、車両運動管理システム260は、摩擦モジュール206をさらに備える。例示的な実施形態によれば、車両運動管理システム260は、摩擦モジュール206を使用して、少なくとも1つの車輪と路面との間の車輪摩擦レベルを決定するように配置される。車両運動管理システム260は、決定された車輪摩擦レベルに基づいて現在の車両動作状態を決定することができる。
【0200】
トルクモジュール202は、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを決定するように適合されている。これにより、車両運動管理システム260は、現在の動作状態で車両100を適切に制御するための、上記の上位層の車両運動管理システム260におけるトルク要求を決定する。
【0201】
所望のトルクは、例えば、現在のアクセルペダル位置、ブレーキペダル位置に基づいて、または自動運転車両動作システムから受け取った信号に基づいて決定することができる。
【0202】
車輪スリップモジュール204は、車両100の少なくとも1つの車輪210の車輪スリップ制限を決定するように配置されている。したがって、車両の最大許容車輪スリップが決定され、車両の車輪はそのような車輪スリップ制限を超えることが許容されない。
【0203】
車輪スリップ制限は、例えば、
図4に関連して論じられたモデル400を使用することによって決定することができる。これにより、車両運動管理システム260は、力要求をスリップ要求に変換することができ、それにより、スリップ要求に基づいてスリップ制限が設定される。別の例によれば、スリップ制限は、力要求とは無関係に固定値として設定することができる。スリップ制限はまた、路面とタイヤの表面との間の現在の摩擦レベルを示す信号に基づくことができる。
【0204】
車輪スリップ制限に基づいて、車輪スリップモジュール204は、少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定するように構成される。これにより、車両運動管理システム260は、車輪スリップ制限計算および車輪速度制限計算を実行する。非限定的な例によれば、車輪速度制限、ω
w、slは、以下の式に基づいて決定することができる。
【数6】
λ
limは車輪スリップ制限である。
T
regは所望のトルクである。
【0205】
車輪速度が比較的遅い場合、つまりゼロに近い場合、車両運動管理システム260は、オフセット車輪速度パラメータに基づいて車輪スリップを決定するように配置することができ、それにより、オフセット車輪速度制限は、以下の非限定的な式に従って計算することができる:
ωw、ol=Vx、w/Rw+max(|λlim|kol、ωw、ol、max)sgn(λ)
ωw、olは、速度オフセット制限から計算された車輪速度制限である。
kol、ωおよびωol、maxは、スリップ制限をオフセット制限に変換するために使用される利得および最大速度オフセットパラメータである。
sgn(λ)は、加速中は1、減速中は-1に等しい符号関数である。
【0206】
さらに、車輪速度制限は、車輪の上限速度および車輪の下限速度を含み得、ここで、車輪の上限速度は、加速中、すなわち推進中に使用され、車輪の下限速度は、減速中、すなわちブレーキ中に使用される。車輪の上限速度は、車輪スリップ制限が正で、所望のトルクがゼロを超えている場合、つまり加速中の場合に使用され、一方、車輪スリップ制限が負で、所望のトルクがゼロ未満の場合、つまり減速中は、車輪の下限速度が使用される。また、車輪スリップ制限は、次のように定義された所定の範囲内にある。
-1<λlim<1
【0207】
縦方向および横方向タイヤ力に対する車輪スリップの特性を
図4に示す。したがって、
図4は、計算された縦方向車輪スリップと推定された縦方向車輪力の値との間の関係を表すモデル400を示している。モデルはまた、特定の縦方向車輪スリップに対して利用可能な最大の横方向車輪力の間の関係を表すことができる。モデルはまた、タイヤの所定の横方向スリップ角について、特定の縦方向車輪スリップに対して達成された横方向車輪力を表すことができる。縦軸は、車輪を支援する表面と車輪210自体との間に生成されるタイヤ力を表し、一方、横軸は、車輪の縦方向車輪スリップを表す。
【0208】
再び
図2を参照すると、車輪速度制限および所望のトルクが決定されると、車両運動管理システム260は、インターフェース265を介して運動支援システムまたはMSD制御ユニット230に制御信号を送信し、制御信号は、所望のトルクと車輪速度制限を示す。
【0209】
運動支援システム230は、アクチュエータトルクモジュールを備え得る。アクチュエータトルクモジュールは、アクチュエータ固有のトルクを決定するように構成される。すなわち、車両運動管理システム260からの所望のトルクのデータを、アクチュエータに関連するデータに変換する。特に、アクチュエータトルクモジュールは、車両運動管理システム260から受け取った所望のトルクに基づいて、ならびに車両100の現在のドライブライン状態に基づいて、動作トルクを決定する。
【0210】
アクチュエータトルクモジュールはまた、アクチュエータ220、250のアクチュエータ回転速度制限を決定する。アクチュエータの回転速度制限は、車両運動管理システム260から受け取った車輪速度制限に基づく。アクチュエータの回転速度制限はまた、現在のドライブライン状態に基づき得る。これにより、運動支援システム230は、車両運動管理システム260から受け取った車輪速度制限を、車輪固有の回転車輪速度制限に変換した。
【0211】
その後、運動支援システム230は、アクチュエータ制御信号590をアクチュエータ220、250に送信して、アクチュエータの回転速度制限を超えることなく、車輪210に動作トルクを生成する。
【0212】
要約すると、本明細書では、車両用の車両運動管理システム260が開示され、車両運動管理システムは、相互間の制御信号の通信のために運動支援システム230に接続可能であり、車両運動管理システムは、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを決定し、車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定し、少なくとも車輪スリップ制限に基づいて、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定し、所望のトルクおよび車輪速度制限を示す制御信号を運動支援システム230に送信するように構成される。
【0213】
態様によれば、車輪速度制限はさらに、所望のトルクに基づく。
【0214】
態様によれば、車輪の上限速度と車輪の下限速度または車輪スリップが決定され、運動支援システム230に送信される。
【0215】
態様によれば、車輪速度制限は、車輪の上限速度と車輪の下限速度とを含み、車両運動管理システムは、少なくとも所望のトルクがゼロを超えるときに、車輪の上限速度を運動支援システム230に送信し、少なくとも所望のトルクがゼロ未満であるときに、車輪の下限速度を運動支援システム230に送信するように構成される。
【0216】
態様によれば、車両運動管理システム260は、オフセット車輪速度パラメータを決定し、車両の車輪速度を示す信号を取得し、車輪速度が車両速度制限の閾値を下回っている場合は、オフセット車輪速度パラメータに基づいて車輪スリップ制限を決定するようにさらに構成される。
【0217】
態様によれば、車両運動管理システム260は、車両の少なくとも1つの車輪について、現在の回転車輪速度および現在の縦方向車輪速度を決定し、現在の回転車輪速度と現在の縦方向車輪速度に基づいて、少なくとも1つの車輪の車輪スリップを決定するようにさらに構成される。
【0218】
態様によれば、車輪スリップ制限は、所定の車輪スリップ範囲内にある。
【0219】
態様によれば、車両運動管理システム260は、車両のアクセルペダルの現在のアクセルペダル位置を示す信号を取得し、現在のアクセルペダル位置に基づいて所望のトルクを決定するようにさらに構成される。
【0220】
態様によれば、所望のトルクは、自動運転車両動作システムから受け取った信号に基づいて決定される。
【0221】
態様によれば、車両運動管理システム260は、少なくとも1つの車輪と路面との間の車輪摩擦レベルを決定し、決定された車輪摩擦レベルに基づいて現在の車両動作状態を決定するようにさらに構成される。
【0222】
車両用の運動支援システム230も本明細書に開示されており、運動支援システム230は、車両運動管理システム260と、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成された少なくとも1つのアクチュエータに接続可能である。運動支援システム230は、車両運動管理システム260から制御信号を受け取るように構成され、制御信号は、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを示し、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を示し、車両の現在の車両ドライブライン状態を決定し、現在の車両のドライブライン状態、所望のトルクと車輪の速度制限に基づいて、動作トルクとアクチュエータの回転速度制限を決定し、アクチュエータの回転速度制限を超えずに、アクチュエータにアクチュエータ信号を送信して、アクチュエータが少なくとも1つの車輪に動作トルクを生成するように構成される。
【0223】
態様によれば、現在の車両ドライブライン状態は、現在の車両変速機状態、車両変速機用のギア段、または変速機クラッチ作動状態のうちの1つである。
【0224】
態様によれば、車輪運動システム230は、車両の単一の車輪を制御するように構成された車輪固有のアクチュエータに接続可能な分散型車輪運動システム230である。
【0225】
図17は、車両のアクチュエータを制御するための方法を示しており、アクチュエータは、車両の少なくとも1つの車輪210にトルクを加えるように構成され、この方法は、現在の車両動作状態で車両を動作させるための所望のトルクを決定SE1することと、車両の少なくとも1つの車輪の車輪スリップ制限を決定SE2することと、少なくとも車輪スリップ制限に基づいて、車両の少なくとも1つの車輪の車輪速度制限を決定SE3することと、動作トルクとアクチュエータの回転速度制限を、所望のトルク、車輪速度制限、および現在の車両のドライブライン状態に基づいて決定SE4することと、アクチュエータの回転速度制限を超えることなく、少なくとも1つの車輪に動作トルクを生成するようにアクチュエータを制御SE5することと、を含む。
【0226】
トルク要求は、推進管理システム(横方向運動などを考慮していない場合がある)から発生し得ることに注意されたい。車輪速度制限または車輪スリップ制限は、簡単な方法でモータ速度制限に変換することができる。したがって、このような制限は、本明細書では同等と見なされる。また、本明細書で論じられるように、「速度オフセット」は、低速での車輪スリップの代わりに使用され得る。
【0227】
本明細書には、運動支援システム230によって実行される命令を表す制御信号が開示されている。制御信号は、運動支援システム230が動作トルクを決定することを可能にするトルク成分と、車輪速度制限データを表す車輪速度制限成分とを含み、運動支援システム230によって実行されるとき、運動支援システム230に、アクチュエータの回転速度制限を受ける動作トルクに対応するアクチュエータ信号を生成させ、これは、現在の車両のドライブライン状態を考慮して、車輪速度制限成分に基づいて決定できる。
【0228】
さらに、本明細書では、車両100上の少なくとも1つの車輪210に関連する1つまたは複数のMSD220、250を制御するように構成された、大型車両100用の運動支援デバイス、MSD制御ユニット230が開示されている。
MSD制御ユニット230は、VMMユニット260から制御コマンドを受け取るために、車両運動管理、VMMユニット260に通信可能に結合265されるように配置され、1つまたは複数のMSD220、250による車両運動を制御するための車輪速度制限および/または車輪スリップ制限要求を含み、
MSD制御ユニット230は、VMMユニット260が制御コマンドによって車輪の動作に影響を与えることができる車輪210の車輪動作の範囲を示す能力範囲を取得するように配置され、
MSD制御ユニット230は、車輪動作を監視し、車輪動作が能力範囲外であるかどうかを検出するように配置され、
MSD制御ユニット230は、監視された車輪動作が能力範囲外である場合に制御介入機能をトリガするように配置されている。
【0229】
態様によれば、1つまたは複数のMSDは、車輪210によって負のトルクを生成するように配置された少なくとも1つのサービスブレーキ220を備える。
【0230】
態様によれば、1つまたは複数のMSDは、車輪210によって正および/または負のトルクを生成するように配置された少なくとも1つの推進ユニット250を備える。
【0231】
態様によれば、能力範囲は、許容される正および/または負の縦方向車輪スリップおよび/または車輪回転速度の上限を含む。
【0232】
態様によれば、能力範囲は、許容される正および/または負の縦方向車輪加速度の上限を含む。
【0233】
態様によれば、能力範囲は、許容される正および/または負の車両ヨーレートの上限を含む。
【0234】
態様によれば、能力範囲は、許容される正および/または負の縦方向車輪スリップおよび/または車輪回転速度の下限を含む。
【0235】
態様によれば、能力範囲は、許容される正および/または負の縦方向車輪加速度の下限を含む。
【0236】
態様によれば、能力範囲は、許容される正および/または負の車両ヨーレートの下限を含む。
【0237】
態様によれば、MSD制御ユニット230は、車輪速度センサ240から車輪210に関連する車輪速度データを受け取り、車輪速度データに基づいて車輪動作が能力範囲外であるかどうかを検出するように配置される。
【0238】
態様によれば、MSD制御ユニット230は、メモリからロードされるか、または外部構成エンティティから受け取られるパラメータとして、固定された能力範囲を取得するように配置される。
【0239】
態様によれば、MSD制御ユニット230は、更新された能力範囲を継続的に取得するように配置されている。
【0240】
態様によれば、制御介入機能は、1つまたは複数のMSD220、250による介入機能を実行することを含む。
【0241】
態様によれば、制御介入機能は、MSD制御ユニット230による直接MSD制御のための外部調停機能への要求をトリガすることを含む。
【0242】
態様によれば、MSD制御ユニット230は、経時的な車輪動作のサンプルをフィルタリングすることによって車輪動作を監視し、フィルタリングの結果に基づいて車輪動作が能力範囲外であるかどうかを検出するように配置される。
【0243】
また、本明細書には、車両100上の少なくとも1つの車輪210に関連する1つまたは複数の運動支援デバイス、MSD、220、250によって、大型車両100の運動を制御するための車両運動管理を実行するように配置された車両運動管理、VMMユニット260が開示されている。
VMMユニット260は、MSD制御ユニット230に通信可能に結合265され、車輪速度および/または車輪スリップ要求を含む制御コマンドをMSD制御ユニット230に送信して、1つまたは複数のMSD220、250による車両運動を制御するように配置され、
VMMユニット260は、VMMユニット260が制御コマンドによって車輪の動作に影響を与えることができる車輪210の車輪動作の範囲を示す能力範囲を取得するように配置され、
VMMユニット260は、車輪動作が能力範囲内にあるように制御コマンドを生成するように配置されている。
【0244】
態様によれば、VMMユニット260は、調停機能を備え、MSD制御ユニット230による直接MSD制御の要求を受け取り、車輪動作が所定の車輪動作の安全範囲外である場合に車両制御をMSD制御ユニット230に譲渡するように構成されている。
【0245】
図18は、大型車両100による運動を制御するための方法を示しており、この方法は、
車両100上の少なくとも1つの車輪210に関連する1つまたは複数のMSD220、250を制御するための運動支援デバイス、MSD制御ユニット230を構成SF1することと、
MSD制御ユニット230に送信される制御コマンドを介して、1つまたは複数のMSD220、250による車両運動管理を実行するための車両運動管理、VMMユニット260を構成SF2することと、
VMMユニット260が制御コマンドによって車輪の動作に影響を与えることができる車輪210の車輪動作の範囲を示す能力範囲を定義SF3することと、
車輪動作を監視SF4することと、
監視された車輪動作が定義された能力範囲外である場合に、MSD制御ユニット230による制御介入機能をトリガSF5することと、を含む。