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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】面状発熱体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20240624BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20240624BHJP
   H05B 3/03 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
H05B3/20 312
H05B3/14 G
H05B3/03
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022580570
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2022003864
(87)【国際公開番号】W WO2022172810
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021020445
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水野 清志
(72)【発明者】
【氏名】塩入 達明
(72)【発明者】
【氏名】橘 武志
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-106726(JP,A)
【文献】特開2019-053967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/20
H05B 3/14
H05B 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材と、導電性物質を含む発熱層と、前記発熱層に給電を行う電極とを備える面状発熱体の製造方法であって、
前記電極は金属箔から成り、前記電極の一方の面に粘着層が積層されており、
前記粘着層と前記絶縁性基材とが接し、前記発熱層と前記金属箔とが接するように、前記電極及び前記粘着層が前記絶縁性基材と前記発熱層との間に配設されており、
粘着層が二枚の剥離フィルムに挟まれた積層フィルムの一方の前記剥離フィルムを剥がして、前記電極と前記粘着層とを積層し、電極/粘着層の積層体を製造する第一工程、
前記粘着層でもって、前記電極を前記絶縁性基材に貼り合わせる第二工程、
前記絶縁性基材の前記電極が積層された面に、前記発熱層を形成する第三工程、を順に有することを特徴とする面状発熱体の製造方法
【請求項2】
前記導電性物質がカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンであることを特徴とする請求項1記載の面状発熱体の製造方法
【請求項3】
前記粘着層の厚さが1~30μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の面状発熱体の製造方法
【請求項4】
前記発熱層の、前記絶縁性基材と反対側の面に、絶縁性基材から成るカバーフィルムを備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の面状発熱体の製造方法
【請求項5】
前記第三工程において、前記発熱層を形成する方法が、導電性物質の分散液を印刷する方法であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の面状発熱体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性物質を含む面状の発熱層を有する面状発熱体、及びその製造法に関する。本発明の面状発熱体は、例えば、電気カーペット、床暖房機器、壁面暖房機器、道路や屋根の融雪用ヒーター、自動車等で用いられるシートヒーター、鏡の防曇用ヒーター、パイプラインや農業用ハウス等の加熱や保温に用いられるヒーター、電気自動車の電池の加温に用いられるヒーター等の熱源として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、床暖房や道路の融雪等を目的とした面状発熱体の開発が行われている。特許文献1は、微細炭素繊維水分散液を用いて得られた面状発熱体に関する発明である。特許文献1には、微細炭素繊維水分散液を絶縁性基材の表面に塗布し、これを乾燥して面状発熱層を形成し、更に該面状発熱層に電極を形成する面状発熱体の製造方法が開示されている(特許文献1[請求項21])。特許文献1[実施例1]では、電極の製造方法として、(1-1)面上発熱層に銀ペーストを塗布後、その上にT字型に切断した銅板を設置し、その上に再度銀ペーストを塗布する方法が採用されている。
【0003】
特許文献2は、導電性金属酸化物層である発熱層を有するヒーターに関する発明で、基板と導電性金属酸化物層(発熱層)と、該金属酸化物層と電気的に接続された給電用電極とを備える(特許文献2[請求項1])。
給電用電極の形成に関して、特許文献1[0044]には、以下の3つの方法が開示されている。
(2-1)導電性金属酸化物層の主面上に、化学気相成長法や物理気相成長法等のドライプロセスにて金属膜を形成し、次にメッキ法などのウエットプロセス等により金属膜の厚みを増加させた後、マスキングフィルムを配置し、不要な金属膜をエッチングにより除去し、その後マスキングフィルムを取り除く方法。
(2-2)導電性金属酸化物層の主面上に、化学気相成長法や物理気相成長法等のドライプロセスにて金属膜を形成し、その後マスキングフィルムを配置してメッキ法などのウエットプロセス等により金属膜の厚みを増加させた後、マスキングフィルムを取り除き、マスキングフィルムに覆われていた部分をエッチングにより除去する方法。
(2-3)導電性インクを導電性金属酸化物層の主面上に所定のパターンで塗布し、塗布した導電性インクを硬化させる方法。
【0004】
特許文献3はフレキシブルシート状発熱素子に関する発明で、絶縁性基材と、ナノカーボン材料層(発熱層)と電極層とを積層した発熱素子が開示されている(特許文献3[請求項1])。特許文献3には発熱素子の製造方法として、i)ナノカーボン材料と界面活性剤を含む分散液を、絶縁性基材の表面に塗布により付着させ、乾燥することで前記ナノカーボン材料層(発熱層)を形成する工程、ii)前記ナノカーボン材料層(発熱層)の一部の表面上に、複数の電極層を形成する工程、を含む製造方法が開示されている(特許文献3[請求項14])。更に、ii)カーボン材料層上に電極層を形成する方法として、(3-1)ナノカーボン材料層の表面上の電極を形成したい部分に、圧延した金属箔を圧着する方法、(3-2)当該部分に金属のめっき処理を行う方法、(3-3)当該部分に金属ペーストをスクリーン印刷により塗布・乾燥する方法(特許文献3[0055])が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2009/081986
【文献】特開2020-47370号公報
【文献】特開2020-47519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した発明に開示されている方法により電極を成形すると、以下の様な問題点がある。
金属ペーストや導電性インクを用いる方法(1-1)(2-3)(3-3)は、金属ペーストや導電性インクの抵抗値が高い為、効率よく発熱層に電力を供給することができない。加えて銀ペーストは、銀が高価である為、電極の製造コストが嵩む。また(2-1)(2-2)や(3-2)に開示されている方法は、化学気相成長法や物理気相成長法、メッキ法、エッチング等を行う必要があり、いずれも高価な製造装置が必要になり、また製造工程も煩雑である。更に圧延した金属箔を圧着する方法(3-1)は、発熱層と金属箔の接着力が非常に弱いという問題があった。接着力を上げるために、(3-1-1)導電性接着剤を用いる方法や、(3-1-2)圧着時に加熱する方法等も考えられるが、(3-1-1)導電性接着剤を用いると電気抵抗値が上がり発熱効率が下がるという問題ある。また(3-1-2)圧着時に加熱する方法では、発熱層や絶縁性基材が熱変形し、厚みが不均一になるという問題がある。
【0007】
本発明は、発熱層に効率よく給電することができる電極を、極めて簡単に形成することを課題とする。更には発熱効率が良く、製造コストの低い面状発熱体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、発熱効率を上げるために、電極の素材として電気抵抗値が低い金属箔を採用することとした。そして発熱層上に金属箔からなる電極を固定する方法として、電極を発熱層上に直接固定するのではなく、電極を絶縁性基材上に固定した後、発熱層と積層する方法を見出した。具体的には、電極の片面に粘着層を設け、該粘着層により電極を予め絶縁性基材に貼合した後、該絶縁性基材上に発熱層を形成する方法を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明によると以下の面状発熱体が提供される。
[1]絶縁性基材と、導電性物質を含む発熱層と、前記発熱層に給電を行う電極とを備える面状発熱体であって、前記電極は金属箔から成り、前記電極の一方の面に粘着層が積層されており、前記粘着層と前記絶縁性基材とが接し、前記発熱層と前記金属箔とが接するように、前記電極及び前記粘着層が前記絶縁性基材と前記発熱層との間に配設されていることを特徴とする面状発熱体。
[2]前記導電性物質がカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンであることを特徴とする[1]記載の面状発熱体。
[3]前記粘着層の厚さが1~30μmであることを特徴とする[1]又は[2]記載の面状発熱体。
[4]前記発熱層の、前記絶縁性基材と反対側の面に、絶縁性材料から成るカバーフィルムを備えることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の面状発熱体。
【0010】
また以下の面状発熱体の製造方法が提供される。
[5]電極と粘着層とを積層し、電極/粘着層の積層体を製造する第一工程、前記粘着層でもって、前記電極を絶縁性基材に貼り合わせる第二工程、前記絶縁性基材の前記電極が積層された面に、発熱層を形成する第三工程、を順に有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の面状発熱体の製造方法。
[6]前記第一工程において、前記電極と前記粘着層とを積層する方法が、粘着層が二枚の剥離フィルムに挟まれた積層フィルムの一方の剥離フィルムを剥がして、電極と積層する方法であることを特徴とする[5]記載の面状発熱体の製造方法。
[7]前記第三工程において、前記発熱層を成形する方法が、導電性物質の分散液を印刷する方法である特徴とする[5]または[6]記載の面状発熱体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の面状発熱体は、金属箔からなる電極が発熱層に直接接している為、効率よく発熱層に電力を供給することができる。また、電極が粘着層を介して絶縁性基材と接する為、極めて簡単に電極を所望の位置に配することができる。
また発熱層に加える導電性物質が、電気伝熱性に優れるカーボンナノチューブやグラフェンであると、高い表面昇温性能が得られる。更にカーボンナノチューブやグラフェンは電磁波吸収性能や遠赤外線放射性能等にも優れるため、面状発熱体にこれらの機能を付加することができる。遠赤外線放射性能に優れる面状発熱体を用いると、農作物の生育期間を短縮させることができる。
更に粘着層の厚さが2~20μmであると、粘着層の厚さに起因して、発熱層に亀裂が入ることを抑制できる。
更にまた面状発熱体が、発熱層の、前記絶縁性基材と反対側の面に、絶縁性材料から成るカバーフィルムを備えていると、発熱層が劣化することを抑制できる。
【0012】
本発明の製造方法によると、極めて簡単に、発熱効率の良い面状発熱体を製造することができる。
また、粘着層が二枚の剥離フィルムに挟まれた積層フィルムを用いて、本発明の面状発熱体の粘着層を形成すると、厚さ均一性に優れる粘着層を、電極の裏面に薄く設けることができる。
更に、導電性物質を含む分散液を印刷する方法により電極上に発熱層を形成すると、面状発熱体の製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の面状発熱体の平面図(A)とそのa-a’の模式的断面図(B)、部分拡大断面図(C)である。
図2】本発明の面状発熱体の模式的断面図である。
図3】絶縁性基材上に電極を貼り合わせた状態の一例を示す平面図である。
図4】実施例1、実施例2の面状発熱体の印加時間と表面温度の関係を表すグラフである。
図5】実施例1の面状発熱体の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0015】
図1は本発明の面状発熱体の一実施形態を表す平面図(A)とそのa-a’の模式的断面図(B)、部分拡大断面図(C)である。各図面は分かり易さを優先しており、厚さ等は実際のものと異なる。
図1に示す面状発熱体1は、絶縁性基材11、電極12、発熱層13、粘着層14を主たる構成要素とする。
【0016】
[絶縁性基材]
本発明の面状発熱体に用いられる絶縁性基材は、使用に耐え得る強度を有するシート状の絶縁性基材である。該絶縁性基材として、例えば、ガラスフィルム等の無機系フィルムや熱可塑性樹脂フィルム等の有機系フィルムを用いることができる。該絶縁性基材が熱可塑性樹脂フィルムである場合、透明性、柔軟性、加工性などの点で優れる。
【0017】
本発明でいう熱可塑性樹脂フィルムとは、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称であって、特に限定されるものではないが、代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムやポリスチレンフィルムなどのアクリル系フィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムなどを用いることができる。耐熱性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムを用いることが好ましく、入手のし易さ、種類の多さ、価格などを考慮するとポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0018】
絶縁性基材の厚さは、使用する用途に応じた柔軟性が得られる範囲のものであれば特に制限されないが、例えば2.5μm~10mmの範囲であるとよい。可撓性と強度を考慮すると、10~500μm、特に100~300μmであることが好ましい。
また、この熱可塑性樹脂フィルム中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0019】
[電極]
本発明の電極は金属箔から成る。金属箔の種類は特に限定されるものではなく、例えば金箔、銀箔、銅箔、アルミニウム箔、錫箔、白金箔等を用いることができる。発熱効率に鑑みれば銀箔や銅箔を用いることが望ましい。また、アルミニウム箔は、安価に入手することができ、また電気抵抗値も比較的低いため、本発明の電極として特に適する。
本発明で電極として用いる金属箔の厚さは、5~1000μmが好ましく、特に10~200μmが好ましく、更には20~100μmが好ましい。金属箔が前述した厚さよりも薄いと、発熱層に十分な給電を行うことが困難となる。また前述した厚さよりも厚いと、電極上に発熱層を設けた際に、段差部分(図1におけるX)において、発熱層に亀裂が入る恐れがある。
【0020】
[発熱層]
発熱層は、電力により発熱する層で、金属やカーボン等の導電性物質を含む。透明性を求められない用途においては、経済性並びに発熱効率の観点から、導電性物質としてカーボン系の材料を使用することが望ましい。詳しくは、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、フラーレン、グラフェン、若しくはこれらの誘導体、又はこれらの混合物を用いることができる。高い電気伝導性を実現する観点から、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンを用いることが好ましい。
【0021】
発熱層に好適に用いられるカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物が挙げられる。カーボンナノチューブの平均の直径は、1nm~1μm程度であればよく、好ましくは1nm~50nmである。また平均の長さは、100nm~10mm程度であればよく、好ましくは500nm~100μm、より好ましくは500nm~10μmである。
発熱層に好適に用いられるグラフェン(酸化グラフェンを含む)は、シート構造の平均の長さと平均の幅との比が、1:0.1~1:10であればよく、好ましくは、1:0.5~1:5である。シート構造の平均の長さは、100nm~1000μmであればよく、好ましくは200nm~50μmである。
【0022】
面状発熱体の表面温度は、導電性物質の種類や量、発熱層に供給される電力量等を調製することによりコントロールできる。発熱層への電力供給量の調整には、電極の幅や厚さ、電極の配線ピッチを変えることなども有効である。
【0023】
本発明の発熱層には、必要に応じジエチレングリコール等の接着助剤を加えることもできる。当該接着助剤は基材フィルムと発熱層との密着性向上に寄与する。また発熱層を後述する印刷により形成する場合には、増粘剤等を用いてその粘度を調製することが望ましい。
更に、本発明の発熱層には、例えば、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、保存安定剤、熱可塑性ポリマー、スリップ剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、帯電防止剤、無機フィラー、有機フィラー、表面有機化処理した無機フィラー等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0024】
[粘着層]
粘着層を構成する粘着剤は、絶縁性基材上に金属箔からなる電極を固定することができれば特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とし、さらに少量の、官能基を有する(メタ)アクリルモノマーを含有するアクリル系単量体組成物を重合開始剤の存在下ラジカル重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のアクリル系樹脂と、架橋剤とを含有するアクリル系粘着剤が用いられる。
粘着層の厚さも特に限定されるものではないが、1~30μmであることが好ましく、特に2~20μm、更には3~8μmであることが好ましい。粘着層が厚すぎると、発熱層が粘着層の厚さに起因して、詳しくは図1における段差X部分で割れる恐れがある。また粘着層が薄すぎると、電極を絶縁性基材に十分に固定することが難しい。
【0025】
[面状発熱体]
本発明の面状発熱体は、図1に示すように、絶縁性基材11、粘着層14、電極12、発熱層13を順に備える。電極12の大きさと粘着層14の大きさは、平面視において概ね一致することが好ましい。電極12に対し粘着層14が小さいと電極12に皺等が入る恐れがあり、電極12に対し粘着層14が大きいと異物が付着する原因となる恐れがある。
また本発明の面状発熱体は、図2に示すように、発熱層23の、絶縁性基材21と反対側の面に、カバーフィルム25を備えていてもよい。カバーフィルム25は、上述した絶縁性基材の中の一種を用いるとよい。カバーフィルム25は、例えば接着剤26により発熱層23を覆うように貼り合わされる。カバーフィルム25により、発熱層23が割れたり剥がれたりすることが抑制される。
【0026】
[面状発熱体の製造方法]
本発明は面状発熱体の製造方法についても提案する。本発明の製造方法は、電極と粘着層とを積層し、電極/粘着層の積層体を製造する第一工程、前記粘着層でもって、前記電極を絶縁性基材に貼り合わせる第二工程、前記絶縁性基材の前記電極が積層された面に、発熱層を形成する第三工程、を順に備える。
【0027】
[第一工程]
第一工程では、金属箔からなる電極と粘着層とを積層する。これは金属箔に粘着剤を塗工することにより行うことができる。しかしながら本発明では、粘着層を一旦、剥離フィルム上に形成した後、該粘着層を電極に転写する方法を提案する。該方法によると、非常に薄い粘着層であっても、簡単に電極の裏面に積層することができる。
【0028】
粘着剤が上述したアクリル系粘着剤の場合、当該粘着剤を溶剤にて希釈したアクリル系粘着剤溶液を、剥離フィルムの上に塗工し、60~120℃で0.5~10分間程度加熱して有機溶媒を留去し、粘着層とすればよい。この粘着層に、前記の電極を貼合した後、たとえば温度23℃、湿度65%の雰囲気下、5~20日程度熟成させ、架橋剤(C)を十分反応させることが望ましい。剥離フィルムは、後述する第二工程に入る前に、取り除くとよい。
【0029】
また、剥離フィルムの上にアクリル系粘着溶液を塗工した後に、さらに剥離フィルムを積層して、粘着層が二枚の剥離フィルムに挟まれた積層フィルムを製造し、これを利用することもできる。当該積層体も、たとえば温度23℃、湿度65%の雰囲気下、5~20日程度熟成させ、架橋剤を十分反応させることが望ましい。当該積層フィルムは、片側の剥離フィルムを剥離して粘着層を電極に積層し、第二工程に移る前にもう一方の剥離フィルムを剥離するとよい。尚、当該積層フィルムとして、市販の「ノンキャリア粘着剤フィルム・シート」(リンテック株式会社製、日東電工株式会社製等)を用いることもできる。粘着層が二枚の剥離フィルムに挟まれた積層フィルムは、加工性に優れる為、特に好適に用いることができる。
【0030】
[第二工程]
第二工程では、第一工程で積層された粘着層により、電極を絶縁性基材に貼り合わせる。図3は、絶縁性基材31上に電極32を貼り合わせた状態の一例を示す平面図である。尚、平面図ではあるが、電極部分が分かり易いように、電極部分にハッチングを付す。
【0031】
貼り合わせに先立ち、電極/粘着層の積層体は、所望の形状に整えられる。例えば、電極/粘着層をテープ状に切断するとよい。テープ状の電極/粘着層積層体を、図3に示す電極32の形状に配設してもよい。しかしながら当該作業は非常に煩雑である。また交点Yにおいて電極を繋ぐ必要がある為、Y部分において電気抵抗が高くなる恐れがある。そこで本発明では、シート状の電極/粘着層の積層体を製造し、これを電極の形状に打ち抜く方法を提案する。当該方法によると、電極の交点Yに繋ぎ目ができず、電気抵抗値の上昇を抑制できる。
尚、第一工程において、粘着層を一旦、剥離フィルム上に形成した後、該粘着層を電極に転写する方法を採用すると、電極/粘着層/剥離フィルムの積層体を得ることができる。よって、電極/粘着層の積層体を、剥離フィルムを付けた状態で、所望の形状に打ち抜くことができ、打ち抜き作業時の積層体のハンドリング性が向上する。
【0032】
電極/粘着層の積層体を所望の形状に整えた後、必要に応じ剥離フィルムを除去して、絶縁性基材に貼り合わせる。貼り合わせには、例えば三共(株)社製の枚葉貼合機HAL-TECを用いることができる。
【0033】
[第三工程]
第三工程では、絶縁性基材の前記電極が積層された面に、発熱層を形成する。金属やカーボン等の導電性物質を、厚みムラなく積層することができれば、その方法は特に限定されるものではないが、例えば、導電性物質と、界面活性剤や高分子化合物や分散剤等を、水や溶剤等の溶媒で希釈し、ロール・ツー・ロール式印刷またはスクリーン印刷等で、絶縁性基材の前記電極が積層された面に塗工すればよい。塗工後、溶媒を乾燥除去すれば、発熱層は完成する。
最後に、必要に応じ、カバーフィルムを積層する。カバーフィルムの積層には例えば接着剤を用いるとよい。また、予め裏面に粘着層を有する絶縁性フィルムを用いることもできる。
【実施例
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳説に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
<第一工程>
初めに、幅500mm、長さ500mm、厚さ30μmのアルミニウム箔と、幅500mm、長さ500mm、厚さ45μmのノンキャリア粘着剤フィルム(離型フィルム/アクリル系粘着層/離型フィルムの積層体、粘着層厚さ5μm)を用意した。次いで、ノンキャリア粘着剤フィルムの一方の離型フィルムを剥がし、アルミニウム箔と積層し、電極(アルミニウム箔)/粘着層/離型フィルムの積層体を得た。
【0036】
<第二工程>
第二工程に先立ち、電極/粘着層/離型フィルムの積層体を図3に示す形状に打ち抜いた。打ち抜きにはトムソン加工を用いた。また絶縁性基材として幅550mm、長さ550mm、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。次いで、電極/粘着層/離型フィルムの積層体から離型フィルムを剥がし、これを絶縁性基材に貼り合わせた。
【0037】
<第三工程>
グラフェンの水分散液(グラフェン濃度20重量%)を絶縁性基材の電極が積層された面にスクリーン印刷にて塗工した。塗工量は46g/mとした。分散液中の水を乾燥除去し、本発明の面状発熱体を得た。
【0038】
[実施例2]
実施例2においては、グラフェンの水分散液(グラフェン濃度20重量%)に代えて、カーボンナノチューブの水分散液(カーボンナノチューブ濃度7重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、面上発熱体を得た。
【0039】
実施例1及び実施例2で得られた面状発熱体の電極に電圧を15V印加し、発熱層の表面温度を測定した。印加時間と表面温度の関係を図4に記す。
併せて、実施例1の面状発熱体の断面のSEM写真を図5に示す。電極42を覆う発熱層43は、電極42の端縁部分においても、電極42と密着していた。
【符号の説明】
【0040】
1、2 面状発熱体
11、21、31、41 絶縁性基材
12、22、32、42 電極
13、23、43 発熱層
14、24、44 粘着層
25 カバーフィルム

図1
図2
図3
図4
図5