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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】運転席用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/26 20110101AFI20240624BHJP
   B60R 21/205 20110101ALI20240624BHJP
   B60R 21/231 20110101ALI20240624BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B60R21/26
B60R21/205
B60R21/231
B60R21/203
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023064160
(22)【出願日】2023-04-11
(62)【分割の表示】P 2021522684の分割
【原出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2023080190
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019101302
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】森田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】下野 博賢
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19860804(DE,A1)
【文献】特開2009-029347(JP,A)
【文献】特開2017-065556(JP,A)
【文献】特開平07-069151(JP,A)
【文献】特開2008-062714(JP,A)
【文献】特開2018-154263(JP,A)
【文献】特開2007-062469(JP,A)
【文献】特開2010-132061(JP,A)
【文献】実開昭48-085325(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/26
B60R 21/205
B60R 21/231
B60R 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転席に着座する乗員を拘束する運転席用エアバッグ装置であって、
前記車両のステアリングホイールの後方に膨張展開する胸部保護用クッションと、
前記胸部保護用クッションの上方に隣接して膨張展開する頭部保護用クッションと、
前記胸部保護用クッションにガスを供給する胸部用インフレータと、
前記頭部保護用クッションにガスを供給する頭部用インフレータと、
前記乗員の位置を検知可能なカメラと、
前記カメラが検知した前記乗員の位置に応じて前記胸部用インフレータおよび前記頭部用インフレータを制御する制御部と、
を備え、
前記胸部保護用クッションと頭部保護用クッションは、互いに分離していて、
前記胸部保護用クッションは、前記ステアリングホイールに収容されていて、
前記胸部保護用クッションは、
前記乗員側のフロントパネルと、
前記ステアリングホイール側のリアパネルと、
前記リアパネルの中央よりも上側に設けられて前記ステアリングホイールの中央のハブに固定される固定領域と、
を有し、
前記頭部保護用クッションは、膨張展開したときに前記胸部保護用クッションの上部からインストルメントパネルの上面にまでわたって延びた状態になり、前記乗員の頭部に前方から接触して該頭部を拘束し、
前記胸部保護用クッションと前記頭部保護用クッションとの境目は、前記ステアリングホイールのハブの上端近傍の高さに設定されていて、
前記頭部保護用クッションの後壁が前記胸部保護用クッションの後壁よりも車両前方に位置し、
前記制御部は、衝突を検知すると、前記カメラを通じて判別した前記乗員の姿勢を基に、前記胸部用インフレータおよび前記頭部用インフレータの作動タイミングや出力を制御し、
前記ハブの上端近傍の高さは、該ハブの上端に対して±100mmの範囲内の高さであることを特徴とする運転席用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記頭部保護用クッションは、前記胸部保護用クッションよりも先に前記乗員に接触することを特徴とする請求項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項3】
車両の運転席に着座する乗員を拘束する運転席用エアバッグ装置であって、
前記車両のステアリングホイールの後方に膨張展開する胸部保護用クッションと、
前記胸部保護用クッションの上方に隣接して膨張展開する頭部保護用クッションと、
前記胸部保護用クッションにガスを供給する胸部用インフレータと、
前記頭部保護用クッションにガスを供給する頭部用インフレータと、
前記乗員の位置を検知可能なカメラと、
前記カメラが検知した前記乗員の位置に応じて前記胸部用インフレータおよび前記頭部用インフレータを制御する制御部と、
を備え、
前記胸部保護用クッションと頭部保護用クッションは、互いに分離していて、
前記胸部保護用クッションは、前記ステアリングホイールに収容されていて、
前記胸部保護用クッションは、
前記乗員側のフロントパネルと、
前記ステアリングホイール側のリアパネルと、
前記リアパネルの中央よりも上側に設けられて前記ステアリングホイールの中央のハブに固定される固定領域と、
を有し、
前記頭部保護用クッションは、膨張展開したときに前記胸部保護用クッションの上部からインストルメントパネルの上面にまでわたって延びた状態になり、前記乗員の頭部に前方から接触して該頭部を拘束し、
前記胸部保護用クッションと前記頭部保護用クッションとの境目は、前記ステアリングホイールのハブの上端近傍の高さに設定されていて、
前記頭部保護用クッションの後壁が前記胸部保護用クッションの後壁よりも車両前方に位置し、
前記制御部は、衝突を検知すると、前記カメラを通じて判別した前記乗員の姿勢を基に、前記胸部用インフレータおよび前記頭部用インフレータの作動タイミングや出力を制御し、
前記頭部保護用クッションは、前記胸部保護用クッションよりも先に前記乗員に接触することを特徴とする運転席用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記頭部保護用クッションの膨張展開したときの体積は、膨張展開したときの前記胸部保護用クッションの体積よりも大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記ステアリングホイールのリムは円形以外の形状をしていて、
前記胸部保護用クッションと前記頭部保護用クッションとの境目は、前記ステアリングホイールのリムの上端近傍の高さに設定されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記ステアリングホイールのリムの上端近傍の高さは、該ステアリングホイールの中央のハブの上端に対して±100mmの範囲内であることを特徴とする請求項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記頭部保護用クッションの後壁の後端は、前記胸部保護用クッションの後壁の後端よりも車両前方に位置することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記頭部保護用クッションは、前記インストルメントパネルのうち前記ステアリングホイールの車両前方の上部に収容されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する運転席用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、袋状のエアバッグクッションをガス圧で膨張展開させて乗員を受け止めて保護する。一般的なエアバッグ装置は、前列座席の場合、運転席であれば主にステアリングホイールの中央に設置されていて、助手席であれば乗員の前方のインストルメントパネルに設置されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、助手席用のエアバッグ装置が開示されている。特許文献1のエアバッグ装置は、インストルメントパネルの後部(乗員側)に容量の大きいエアバッグ1が設けられ、インストルメントパネルの上部に容量の小さい扁平なエアバッグ2が設けられている。エアバッグ2は、エアバッグ1とフロントシールド6との間で膨張し、エアバッグ1を前側上方から支えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許発明第10021845号明細書
【発明の概要】
【0005】
運転席用のエアバッグ装置は、乗員とステアリングホイールとの距離が近いため、乗員がステアリングホイールに衝突しないよう、エアバッグクッションをよりも迅速に膨張展開させる必要がある。そのとき、例えば特許文献1のエアバッグ1のような容量の大きなエアバッグクッションでは、ステアリングホイールと乗員の胸部との狭い空間に迅速に入り込むことは難しい。
【0006】
また近年、電気的な信号を介して操舵力をホイールに伝える新たなステアリングホイールが開発されつつあり、ステアリングホイールのデザインが多様化している。特に、電気的に接続される新たなステアリングホイールは、ステアリングシャフトを介して操舵力を物理的に伝える従来のステアリングホイールと異なり、大きく回転させる必要が無い。例えば、新たなステアリングホイールのリムは、従来のリムのように左右の手で持ちかえながら180°以上に回転させる操作が不要であるため、円環形状である必要が無くなっている。したがって、新たなステアリングホイールは、例えば中央のハブに対して左右にのみリムが存在するなど、円環形状以外の異形のデザインを採用することが可能になっている(以下、円環形状以外のリムを備えたステアリングホイールを「異形ステアリングホイール」と称呼する)。
【0007】
上記の異形ステアリングホイールは、多くの場合リムの一部が省略されているため、エアバッグクッションとの接触範囲が減り、エアバッグクッションを支えきれず、エアバッグクッションの姿勢を傾かせてしまう場合がある。特に、上側のリムが省略されていた場合、エアバッグクッションは乗員の頭部からの荷重によって車両前方に倒れてしまい、乗員の頭部を保護しきれないおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、乗員の頭部および胸部を十全に拘束でき円形以外のステアリングホイールにも適用可能な運転席用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる運転席用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両の運転席に着座する乗員を拘束する運転席用エアバッグ装置であって、車両のステアリングホイールの後方に膨張展開する胸部保護用クッションと、胸部保護用クッションの上方に隣接して膨張展開する頭部保護用クッションと、を備え、頭部保護用クッションは、膨張展開したときに胸部保護用クッションの上部からインストルメントパネルの上面にまでわたって延びた状態になり、乗員の頭部に前方から接触して頭部を拘束することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、乗員の胸部と頭部とを十全に拘束することが可能となる。特に、頭部保護用クッションがインストルメントパネルの上面によって支えられるため、頭部保護用クッションはステアリングホイールに依拠することなく頭部からの荷重を効率よく吸収し、乗員を安定した姿勢で拘束することができる。
【0011】
上記の頭部保護用クッションの膨張展開したときの体積は、膨張展開したときの胸部保護用クッションの体積よりも大きくてもよい。この構成の頭部保護用クッションであれば、乗員の頭部を十全に拘束することが可能になる。
【0012】
上記の胸部保護用クッションと頭部保護用クッションとの境目は、ステアリングホイールのハブの上端近傍の高さに設定されていてもよい。この構成であれば、ステアリングホイールのリムの上側の範囲が省略されている場合にも、乗員の胸部と頭部とを十全に拘束することが可能である。
【0013】
上記のハブの上端近傍の高さは、ハブの上端に対して±100mmの範囲内の高さであってもよい。この高さに胸部保護用クッションと頭部保護用クッションとの境目が設定されていれば、ステアリングホイールのリムの上側の範囲が省略されている場合にも、乗員の胸部と頭部とを十全に拘束することが可能である。
【0014】
上記のステアリングホイールのリムは円形以外の形状をしていて、胸部保護用クッションと頭部保護用クッションとの境目は、ステアリングホイールのリムの上端近傍の高さに設定されていてもよい。この構成であっても、乗員の胸部と頭部とを十全に拘束することが可能である。
【0015】
上記のステアリングホイールのリムの上端近傍の高さは、ステアリングホイールの中央のハブの上端に対して±100mmの範囲内であってもよい。この高さに胸部保護用クッションと頭部保護用クッションとの境目を設定することでも、ステアリングホイールのリムの上側の範囲が省略されている場合にも、乗員の胸部と頭部とを十全に拘束することが可能である。
【0016】
上記の頭部保護用クッションの後壁が胸部保護用クッションの後壁よりも車両前方に位置してもよい。この構成によれば、乗員の胸部を先に拘束し、続いて頭部を拘束することで、乗員を安定した姿勢で拘束することができる。
【0017】
上記の頭部保護用クッションの後壁の後端は、胸部保護用クッションの後壁の後端よりも車両前方に位置してもよい。この構成によっても、乗員の胸部を先に拘束し、続いて頭部を拘束することで、乗員を安定した姿勢で拘束することができる。
【0018】
上記の頭部保護用クッションは、胸部保護用クッションよりも膨張展開の完了が遅くてもよい。この構成によれば、頭部保護用クッションの膨張完了を胸部保護用クッションよりも遅らせることで、乗員の胸部を先に拘束することができ、頭部に与える負荷を抑えることが可能となる。
【0019】
上記の頭部保護用クッションは、胸部保護用クッションよりも先に乗員に接触してもよい。例えば、乗員が正規の着座位置よりも前方に身を乗り出していた場合、あえて頭部を先に後方へ押し戻す。これによって、乗員とステアリングホイールとの間に空間が確保でき、胸部保護用クッションを乗員とステアリングホイールとの間に入り込ませることが可能となる。
【0020】
上記の胸部保護用クッションと頭部保護用クッションは、互いに分離していてもよい。この構成によれば、胸部保護用クッションと頭部保護用クッションとの膨張展開のタイミングを異ならせるなど、乗員を効率よく拘束する構成が実現できる。
【0021】
上記の頭部保護用クッションは、インストルメントパネルのうちステアリングホイールの車両前方の上部に収容されていてもよい。この構成によって、頭部保護用クッションを車両に好適に搭載することができる。
【0022】
上記の胸部保護用クッションは、ステアリングホイールに収容されていてもよい。この構成によって、胸部保護用クッションを車両に好適に搭載することができる。
【0023】
胸部保護用クッションは、インストルメントパネルのうちステアリングホイールよりも車両前方の下部に収容されていて、乗員の膝を保護可能であってもよい。この構成によって、胸部保護用クッションを車両に好適に搭載し、乗員をより十全に保護することが可能になる。
【0024】
当該運転席用エアバッグ装置はさらに、胸部保護用クッションにガスを供給する胸部用インフレータと、頭部保護用クッションにガスを供給する頭部用インフレータと、乗員の位置を検知可能なカメラと、カメラが検知した乗員の位置に応じて胸部用インフレータおよび頭部用インフレータそれぞれの作動の開始時期を制御する制御部と、を備えてもよい。この構成によれば、乗員の姿勢に応じて頭部と胸部の拘束するタイミングを調節し、乗員を効率よく拘束することが可能となる。
【0025】
上記の胸部保護用クッションと頭部保護用クッションは、一体につながった状態でステアリングホイールに収容されていてもよい。この構成によっても、乗員の胸部と頭部を効率よく拘束可能なエアバッグ装置が実現可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、乗員の頭部および胸部を十全に拘束でき円形以外のステアリングホイールにも適用可能な運転席用エアバッグ装置を提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態にかかる運転席用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)の運転席用エアバッグ装置と座席に着座した乗員とを例示した図である。
図3図2の胸部保護用クッションの概要を例示した図である。
図4図2の頭部保護用クッションの概要を例示した図である。
図5図2の運転席用エアバッグ装置が乗員を拘束する過程を例示した図である。
図6図5(c)の運転席用エアバッグ装置の拡大図である。
図7図2に例示した運転席用エアバッグ装置の第1変形例を例示した図である。
図8図7の運転席用エアバッグ装置が乗員を拘束する過程を例示した図である。
図9図3に例示した胸部保護用クッションの第1変形例を例示した図である。
図10図3に例示した胸部保護用クッションの第2変形例を例示した図である。
図11図3に例示した胸部保護用クッションの第3変形例を例示した図である。
図12図11の胸部保護用クッションを単独で例示した図である。
図13図2に例示した運転席用エアバッグ装置の第2変形例を例示した図である。
図14図13のエアバッグクッションの概要を例示した図である。
図15図2に例示した運転席用エアバッグ装置の第3変形例を例示した図である。
図16図15のエアバッグクッションの概要を例示した図である。
図17図14(a)および図16(a)の各エアバッグクッションに内部テザーを適用した図である。
図18図14(a)のエアバッグクッションに内部パネルを適用した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態にかかる運転席用エアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)は運転席用エアバッグ装置100の稼動前の車両を例示した図である。以降、図1その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0030】
本実施形態では、運転席用エアバッグ装置100を、左ハンドル車における運転席用(前列左側の座席102)のものとして実施している。以下では、前列左側の座席102を想定して説明を行うため、例えば車幅方向車外側(以下、車外側)とは車両左側を意味し、車幅方向内側(以下、車内側)とは車両右側を意味する。
【0031】
本実施形態にて運転席に設置されている異形ステアリングホイール106は、乗員の操作を電気的な信号に変換してホイールに伝える構成のものを想定している。異形ステアリングホイール106は、円環形状以外の形状のリム114を備えていて、従来の円環形状のリムを備えたステアリングホイールとは形状が異なっている。リム114は、中央のハブ108を中心にして回転させる操作を受け付けるが、従来の円環形状のリムとは異なり、大きな角度で回転させる操作は不要であるため、左右の手で持ちかえる必要が無い。そのため、リム114はハブ108の左右および下側にのみ存在する形状になっていて、ハブ108の上側には構造物が存在していない。
【0032】
図1(b)は運転席用エアバッグ装置100が備えるエアバッグクッションの膨張展開後の様子を例示した図である。本実施形態では、エアバッグクッションとして、下方の胸部保護用クッション120および上方の頭部保護用クッション122の2つのクッションを備えている。胸部保護用クッション120は乗員124(図2参照)の主に胸部128および腹部130を拘束し、頭部保護用クッション122は乗員124の頭部126を拘束する。当該運転席用エアバッグ装置100は、これら胸部保護用クッション120および頭部保護用クッション122を用いて、座席102に着座する乗員124を前方から拘束する。
【0033】
図2は、図1(b)の運転席用エアバッグ装置100と座席102に着座した乗員124とを例示した図である。図2では、運転席用エアバッグ装置100および乗員124を車幅方向左側から見て例示している。本実施形態では、胸部保護用クッション120と頭部保護用クッション122は、互いに分離している。胸部保護用クッション120は異形ステアリングホイール106の中央から膨張展開し、頭部保護用クッション122はインストルメントパネル104の上部から膨張展開する構成となっている。
【0034】
胸部保護用クッション120は、頭部保護用クッション122に比べてガス容量が小さく、異形ステアリングホイール106の後方に膨張展開する。胸部保護用クッション120は、そのガス容量を抑えることで、異形ステアリングホイール106と乗員124の胸部128との間の狭い空間に迅速に膨張展開し、乗員124の胸部128および腹部130が異形ステアリングホイール106に接触することを防ぐ。
【0035】
胸部保護用クッション120は、異形ステアリングホイール106の中央のハブ108(図1(a)参照)に、折畳みや巻回等された状態で、胸部用インフレータ132と共に収容されている。胸部用インフレータ132は胸部保護用クッション120にガスを供給する装置であり、胸部保護用クッション120はガスを受けるとハブ108のカバー110を開裂して膨張展開する。
【0036】
膨張展開したときの頭部保護用クッション122は、胸部保護用クッション120よりもガス容量、すなわち膨張展開したときの体積が大きく、胸部保護用クッション120の上部からインストルメントパネル104の上面134にまでわたって延びた状態になる。頭部保護用クッション122は、体積が大きいことに加えて、前側がインストルメントパネル104の上面134とウィンドシールド136との間に支えられるため、後方から進入する乗員124の頭部126を好適に拘束することが可能になっている。
【0037】
頭部保護用クッション122は、インストルメントパネル104のうち異形ステアリングホイール106の車両前方の上部に、折畳みや巻回等された状態で、頭部用インフレータ138と共に収容されている。頭部用インフレータ138は頭部保護用クッション122にガスを供給する装置であり、頭部保護用クッション122はガスを受けるとインストルメントパネル104の上面134に設けられた所定のカバーを開裂して膨張展開する。
【0038】
胸部用インフレータ132および頭部用インフレータ138としては、例えばディスク型(円盤型)のものを採用することができる。各インフレータは、ガス排出口の形成された部位が各クッション内に挿入され、車両側から送られる衝撃の検知信号に起因して各クッションにガスを供給する。各インフレータには複数のスタッドボルトが設けられていて、異形ステアリングホイール106の内部およびインストルメントパネル104の上部それぞれの所定箇所に締結固定される。
【0039】
本実施形態では、胸部保護用クッション120と頭部保護用クッション122とが分離した構成になっていて、それぞれに胸部用インフレータ132および頭部用インフレータ138を備えている。これら胸部用インフレータ132と頭部用インフレータ138は、出力や作動タイミングを異ならせることも可能である。例えば、胸部保護用クッション120はガス容量が小さいので、胸部用インフレータ132には出力の低い小型かつ低廉なインフレータを採用することができ、これによってコストを抑えることが可能になる。また、例えば胸部用インフレータ132の作動タイミングを早めて胸部128を迅速に拘束する一方、頭部用インフレータ138の作動タイミングを胸部用インフレータ132よりも遅らせて頭部126を適切なタイミングで拘束することなども可能である。
【0040】
なお現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。胸部用インフレータ132および頭部用インフレータ138としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0041】
図3は、図2の胸部保護用クッション120の概要を例示した図である。図3(a)は、膨張展開した状態の胸部保護用クッション120の斜視図である。胸部保護用クッション120は、乗員124(図2参照)側のフロントパネル140と、異形ステアリングホイール106側のリアパネル142とを接合することで、扁平な半円に近い形に作られている。
【0042】
図3(b)は、図3(a)のフロントパネル140を平面上に広げて例示した図である。フロントパネル140は、半円に近い形状で、胸部保護用クッション120の膨張展開時に乗員124を拘束する拘束面として機能する。
【0043】
図3(c)は、図3(a)のリアパネル142を平面上に広げて例示した図である。リアパネル142は、フロントパネル140と同じ寸法の半円に近い形状で、胸部保護用クッション120の膨張展開時には異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)から反力を得る反力面として機能する。リアパネル142の中央の上側には、胸部用インフレータ132(図2参照)を挿入し異形ステアリングホイール106の内部に固定される固定領域144が形成されている。
【0044】
図4は、図2の頭部保護用クッション122の概要を例示した図である。図4(a)は、膨張展開した頭部保護用クッション122の斜視図である。頭部保護用クッション122は、車幅方向の側面のサイドパネル146a、146bと、中央のセンタパネル148とを接合することで、車両前後方向に長い形状に作られている。
【0045】
図4(b)は、図4(a)のセンタパネル148を平面上に広げて例示した図である。センタパネル148120は、長尺な矩形になっていて、片側の端部に頭部用インフレータ138(図2参照)を挿入し異形ステアリングホイール106の内部に固定される固定領域150が形成されている。
【0046】
図4(c)は、図4(a)のサイドパネル146aを例示した図である。サイドパネル146a、146bは同じ構成のため、代表して左側のサイドパネル146aを平面上に広げて例示している。サイドパネル146aは、前後方向に長く、前方側から後方側へ次第に背が高くなっている。この形状のサイドパネル146aによって、頭部保護用クッション122は、背の低い前方側がインストルメントパネル104の上面134とウィンドシールド136とに入りやすく、背の高い後方側が乗員124(図2参照)の頭部126を受け止めやすくなっている。
【0047】
図5は、図2の運転席用エアバッグ装置100が乗員124を拘束する過程を例示した図である。図5(a)は、当該運転席用エアバッグ装置100の作動開始時の様子を例示している。本実施形態では、車両の所定のセンサが衝突を検知、または衝突を予測すると、胸部保護用クッション120が先に膨張展開を開始する。
【0048】
図5(b)は、図5(a)の乗員が車両前方に進入したときの様子を例示している。当該運転席用エアバッグ装置100は、胸部保護用クッション120によって、乗員124の胸部128を迅速に拘束する。特に、異形ステアリングホイール106と乗員124との間の狭い空間に対して、ガス容量を抑えた胸部保護用クッション120を早期に膨張展開させることで、乗員124の胸部128および腹部と異形ステアリングホイール106との接触を防ぐことが可能になっている。
【0049】
図5(c)は、図5(b)の乗員124がさらに車両前方に進入したときの様子を例示している。頭部保護用クッション122は、乗員124の頭部126に車両前方から接触して、頭部126を拘束する。頭部保護用クッション122は、インストルメントパネル104の上面134およびウィンドシールド136によって前方側が支えられるため、後方から進入する乗員124の頭部126の荷重を効率よく吸収することができる。
【0050】
頭部保護用クッション122は、胸部保護用クッション120よりも膨張展開の完了が遅くなるよう設定されている。これは、胸部保護用クッション120で乗員124の胸部128を先に拘束し、それに続いて頭部保護用クッション122で乗員124の頭部126を拘束するためである。一般に、乗員124の頭部126が拘束された時に前屈や後屈した状態になると、人体の構造上、乗員124に与える負担が大きくなりやすい。本実施形態であれば、乗員124の胸部128を受け止めてから頭部126を受け止めることで、頭部126の後屈等を防ぎ、乗員124に与える負担を抑えつつ、乗員124を十全に拘束することができる。
【0051】
図6は、図5(c)の運転席用エアバッグ装置100の拡大図である。本実施形態では、頭部保護用クッション122の後側の乗員拘束面である後壁152は、胸部保護用クッション120の後側の乗員拘束面である後壁154よりも車両前方に位置するよう設定されている。より詳しく述べると、頭部保護用クッション122の後壁152は、部分的に胸部保護用クッション120の後壁154よりも車両後方に位置することがあっても、少なくとも後壁152の後端(鉛直線L2)は後壁154の後端(鉛直線L3)よりも車両前方に位置する構成となっている。この構成によって、胸部保護用クッション120が乗員124の胸部128に先に接触し、続いて頭部保護用クッション120が頭部126に接触可能になる。したがって、当該運転席用エアバッグ装置100は、乗員124の頭部126を後屈等させることなく、乗員124を安定した姿勢で拘束することができる。
【0052】
また、本実施形態では、胸部保護用クッション120と頭部保護用クッション122との境目を、異形ステアリングホイール106のハブ108の上端P1近傍の高さに設定している。詳しくは、胸部保護用クッション120と頭部保護用クッション122との境目は、ハブ108の上端P1の高さ(水平線L1)に対して±100mmの範囲内に設定されている。このハブ108の上端P1の高さの±100mmの範囲内には、ステアリングホイール106のリム114の上端も存在している。すなわち、胸部保護用クッション120と頭部保護用クッション122との境目は、リム114の上端近傍の高さに設定されている。
【0053】
異形ステアリングホイール106では、リム114のうちハブ108よりも上側の範囲が省略されていて、ハブ108の上側にてエアバッグクッションを支える構造物が存在しないことがある。この場合、従来のエアバッグクッションでは、乗員124(図2参照)を拘束するときに、上側が車両前方へ倒れるおそれがある。そこで、本実施形態では、ハブ108の上端P1までの範囲は胸部保護用クッション120によって保護し、それよりも上方の範囲は頭部保護用クッション122によって保護する構成としている。この構成によって、当該運転席用エアバッグ装置100は、異形ステアリングホイール106を採用している場合にも、エアバッククッションの姿勢を崩すことなく、乗員124の胸部128および頭部126を十全に拘束可能になっている。
【0054】
なお、本実施形態の運転席用エアバッグ装置100は、従来の円形のステアリングホイールにも適用可能である。その場合も、頭部保護用クッション122は、ステアリングホイールのリムの上側を乗り越えるようにして膨張展開する。当該運転席用エアバッグ装置100によれば、ステアリングホイールの形状に依拠することなく、乗員124の頭部126および胸部128を十全に拘束することが可能である。
【0055】
(変形例)
以下、上述した運転席用エアバッグ装置100およびその各構成要素の変形例について説明する。以降の図7から図18に例示する各変形例において、既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、既に説明した構成要素と同じ名称のものについても、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有するものとする。
【0056】
図7は、図2に例示した運転席用エアバッグ装置100の第1変形例(運転席用エアバッグ装置200)を例示した図である。運転席用エアバッグ装置100は、乗員124の位置を検知可能なカメラ202と、カメラ202が検知した乗員の位置に応じて各インフレータを制御する制御部204とを備えている点で、図2の運転席用エアバッグ装置100と構成が異なっている。
【0057】
カメラ202は、乗員124の頭部126の位置などを検知し、乗員124がどのような姿勢なのか判別する。制御部204は、カメラ202を通じて判別した乗員124の姿勢を基に、胸部用インフレータ132および頭部用インフレータ138の作動タイミングや出力などを制御する。
【0058】
図8は、図7の運転席用エアバッグ装置200が乗員124を拘束する過程を例示した図である。図8(a)は、当該運転席用エアバッグ装置200の作動開始時の様子を例示している。図5を参照して説明した運転席用エアバッグ装置100は、胸部保護用クッション120が先に膨張展開する構成としていた。一方、運転席用エアバッグ装置200では、胸部保護用クッション120を先に膨張展開させるだけでなく、状況に応じて頭部保護用クッション122を先に展開させることも可能になっている。
【0059】
車両の所定のセンサが衝突を検知、または衝突を予測したとき、乗員124が座席102に対して非正規着座位置(通称アウトオブポジション)にいる場合もある。例えば、乗員124が座席102から身を乗り出して異形ステアリングホイール106の間近にいる場合は、胸部保護用クッション120が適切に機能しないおそれがある。その場合、カメラ202が乗員124の位置を検知し、制御部204が頭部用インフレータ138を先に作動させる。場合によっては、制御部204は、頭部用インフレータ138の出力を適度に下げて作動させる。これらによって、頭部保護用クッション122は、乗員124の頭部126を負担にならない程度の力で車両後方に押し、乗員124と異形ステアリングホイール106との間に空間を確保する。
【0060】
図8(b)は、図8(a)の乗員124が車両後方に移動したときの様子を例示している。制御部204は、頭部保護用クッション122が乗員124を後方に押し戻したタイミングで、胸部用インフレータ132を作動させる。この構成であれば、異形ステアリングホイール106と乗員124との間に空間を確保したうえで、胸部保護用クッション120を乗員とステアリングホイールとの間に入り込ませることができる。
【0061】
図8(c)は、図8(b)の胸部保護用クッション120の膨張展開が完了した様子を例示している。本実施形態のように頭部保護用クッション122を先に膨張展開させた場合であっても、頭部保護用クッション122および胸部保護用クッション120によって、乗員124の胸部128および頭部126を十全に拘束することが可能である。特に、乗員124が非正規着座位置にいた場合であって、衝突の事前予測を検知した場合、後に発生する衝撃に備えることが可能になる。
【0062】
図9は、図3に例示した胸部保護用クッション120の第1変形例(胸部保護用クッション220)を例示した図である。図9(a)は、膨張展開した状態の胸部保護用クッション220の斜視図である。胸部保護用クッション220は、フロントパネル222とリアパネル224とで構成され、扁平な直方体に膨張展開する。
【0063】
図9(b)は、図9(a)のフロントパネル222を平面上に広げて例示した図である。フロントパネル222は、矩形になっていて、胸部保護用クッション220の膨張展開時に乗員を拘束する拘束面として機能する。フロントパネル222は、折れ線222a、222bで折り曲げ、リアパネル224(図9(c)参照)と接合する。
【0064】
図9(c)は、図9(a)のリアパネル142を平面上に広げて例示した図である。リアパネル224も矩形であり、フロントパネル222(図9(b))と互いの長辺が交差する向きで重なり合い、折れ線224a、224bで折り曲げてフロントパネル222と接合する。リアパネル224は、胸部保護用クッション220の膨張展開時には異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)から反力を得る反力面として機能する。リアパネル224の中央の上側には、胸部用インフレータ112(図2参照)を挿入し異形ステアリングホイール106の内部に固定される固定領域144が形成されている。
【0065】
四角形の胸部保護用クッション220(図9(a)参照)においても、図2の胸部保護用クッション120と同様に、乗員124の胸部128を好適に拘束することが可能である。加えて、胸部保護用クッション220は、フロントパネル222およびリアパネル224が矩形であることで、他の複雑な形状に比べて材料からの生産比率(歩留まり)が良く、製造コストの面で有益である。
【0066】
図10は、図3に例示した胸部保護用クッション120の第2変形例(胸部保護用クッション240)を例示した図である。図10(a)は、膨張展開した状態の胸部保護用クッション240の斜視図である。胸部保護用クッション240は、フロントパネル242とリアパネル244とで構成され、扁平な円形に膨張展開する。
【0067】
図10(b)は、図10(a)のフロントパネル242を平面上に広げて例示した図である。フロントパネル242は、円形になっていて、胸部保護用クッション240の膨張展開時に乗員を拘束する拘束面として機能する。
【0068】
図10(c)は、図10(a)のリアパネル244を平面上に広げて例示した図である。リアパネル244は、円形でフロントパネル242(図10(b)参照)と同じ寸法に設定されていて、フロントパネル242と接合する。リアパネル244は、胸部保護用クッション240の膨張展開時には異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)から反力を得る反力面として機能する。リアパネル244の中央には、胸部用インフレータ112(図2参照)を挿入し異形ステアリングホイール106の内部に固定される固定領域140が形成されている。
【0069】
円形の胸部保護用クッション240(図)においても、図2の胸部保護用クッション120と同様に、乗員124の胸部128を好適に拘束することが可能である。円形の胸部保護用クッション240であっても、例えば異形ステアリングホイール106に重なる範囲に収まるよう寸法を抑えることで、膨張したときの姿勢を崩すことなく乗員124を好適に拘束できる。
【0070】
図11は、図3に例示した胸部保護用クッション120の第3変形例(胸部保護用クッション260)を例示した図である。図11は、図2に対応して、胸部保護用クッション260を例示している。胸部保護用クッション260は、インストルメントパネル104のうち異形ステアリングホイール106よりも車両前方の下部に胸部用インフレータ262と共に収容されていて、そこから異形ステアリングホイール106の後方にまで到達するよう膨張展開する。
【0071】
胸部保護用クッション260は、乗員124の胸部128だけでなく、膝131も保護することが可能になっている。当該構成であれば、胸部保護用クッション260を車両に好適に搭載できることに加え、乗員124をより十全に保護することが可能になる。
【0072】
図12は、図11の胸部保護用クッションを単独で例示した図である。図12(a)は、図11の膨張展開した状態の胸部保護用クッション260の斜視図である。胸部保護用クッション260は、扁平で、湾曲した形状に膨張展開する。図11に例示するように、胸部保護用クッション260は、湾曲して膨張することで、図2の胸部保護用クッション120と同様に、異形ステアリングホイール106の後方であって、頭部保護用クッション122よりも後方にまで到達した状態になる。
【0073】
図12(b)は、図12(a)の胸部保護用クッション260の内部構造を例示した概略的な断面図である。胸部保護用クッション260は、袋状に構成されたメインパネル264の内部に、胸部用インフレータ262(図11参照)からのガスを整流するディフューザ266の他、複数の内部テザー268が設けられている。複数の内部テザー268は、メインパネル264の各所に差し渡されて、メインパネル264の各部位の膨張を制限することで、メインパネル264が膨張したときに全体を湾曲した形状にさせる。
【0074】
本実施形態の胸部保護用クッション260であれば、乗員124の膝131から腹部130および胸部128にかけての部位を、インストルメントパネル104や異形ステアリングホイール106との接触から好適に保護することが可能である。また、胸部保護用クッション260は、異形ステアリングホイール106に収納場所を確保する必要がないため、従来の円形のステアリングホイールから電気的な操作を受け付ける次世代のステアリングホイールまで、さまざまな形態のステアリングホイールに対応することが可能である。
【0075】
図13は、図2に例示した運転席用エアバッグ装置100の第2変形例(運転席用エアバッグ装置300)を例示した図である。運転席用エアバッグ装置300は、胸部保護用クッション302および頭部保護用クッション304が、1つのエアバッグクッション306によって実現されている点で、上記各実施形態と構成が異なっている。
【0076】
エアバッグクッション306は、胸部保護用クッション302と頭部保護用クッション304とが一体につながった状態で、1つのインフレータ301と共に異形ステアリングホイール106に収容されている。胸部保護用クッション302は、異形ステアリングホイール106の後方に膨張展開し、乗員124の胸部128および腹部130が異形ステアリングホイール106に接触することを防ぐ。頭部保護用クッション304は、胸部保護用クッション302の上部からインストルメントパネル104の上面134にまでわたって延び、前側がインストルメントパネル104の上面134とウィンドシールド136との間に支えられ、後方から進入する乗員124の頭部126を拘束する。
【0077】
図14は、図13のエアバッグクッション306の概要を例示した図である。図14(a)は、図13の膨張展開した状態のエアバッグクッション306の斜視図である。エアバッグクッション306は、胸部保護用クッション302と頭部保護用クッション304とが一体化した、L字形状に膨張する。エアバッグクッション306は、車幅方向の側面の一対のサイドパネル308a、308bと、中央のセンタパネル310とを接合することで、上記L字形状に作られている。
【0078】
図14(b)は、図14(a)のセンタパネル310を平面上に広げて例示した図である。センタパネル310は、長尺な矩形になっていて、片側の端部にインフレータ301(図13参照)を挿入し異形ステアリングホイール106の内部に固定される固定領域312が形成されている。
【0079】
図14(c)は、図14(a)のサイドパネル308aを例示した図である。サイドパネル308a、308bは同じ構成のため、代表して左側のサイドパネル308aを平面上に広げて例示している。サイドパネル308aは、図13の胸部保護用クッション302と頭部保護用クッション304とにわたるL字形状になっている。
【0080】
図13に例示するように、エアバッグクッション306は、インフレータ301が胸部保護用クッション302の範囲に挿し込まれている。したがって、エアバッグクッション306は、図5に例示した運転席用エアバッグ装置100と同様に、胸部保護用クッション302から率先して膨張展開を開始し、胸部保護用クッション302の後に頭部保護用クッション304の膨張展開が完了する構成となっている。したがって、エアバッグクッション306もまた、胸部保護用クッション302で乗員124の胸部128を先に拘束し、それに続いて頭部保護用クッション304で乗員124の頭部126を拘束することができ、頭部126の後屈等を防ぎつつ乗員124を十全に拘束可能になっている。
【0081】
図15は、図2に例示した運転席用エアバッグ装置100の第3変形例(運転席用エアバッグ装置320)を例示した図である。運転席用エアバッグ装置320が有するエアバッグクッション322もまた、図13のエアバッグクッション306と同様に、胸部保護用クッション324および頭部保護用クッション326が1つのエアバッグクッション322によって実現され、異形ステアリングホイール106に収容されている。特に、エアバッグクッション322では、頭部保護用クッション326の後壁328が、胸部保護用クッション324の後壁330よりも車両前方に位置するよう設定されている。
【0082】
胸部保護用クッション324は、異形ステアリングホイール106の後方に膨張展開し、乗員124の胸部128および腹部130が異形ステアリングホイール106に接触することを防ぐ。頭部保護用クッション326は、胸部保護用クッション324の上部からインストルメントパネル104の上面134にまでわたって延び、前側がインストルメントパネル104の上面134とウィンドシールド136との間に支えられ、後方から進入する乗員124の頭部126を拘束する。
【0083】
図16は、図15のエアバッグクッション322の概要を例示した図である。図16(a)は、図15の膨張展開した状態のエアバッグクッション322の斜視図である。エアバッグクッション322は、車幅方向の側面の一対のサイドパネル332a、332bと、中央のセンタパネル334とを接合することで、上記L字形状に作られている。
【0084】
図16(b)は、図16(a)のセンタパネル334を平面上に広げて例示した図である。センタパネル334は、長尺な矩形になっていて、片側の端部にインフレータを挿入し異形ステアリングホイール106の内部に固定される固定領域336が形成されている。
【0085】
図16(c)は、図16(a)のサイドパネル332aを例示した図である。サイドパネル332a、332bは同じ構成のため、代表して左側のサイドパネル332aを平面上に広げて例示している。サイドパネル332aは、図16(a)の胸部保護用クッション324と頭部保護用クッション326との側面にわたった形状になっている。
【0086】
図15に例示するように、エアバッグクッション322は、インフレータ301が胸部保護用クッション324に挿し込まれている。したがって、エアバッグクッション322は、図5に例示した運転席用エアバッグ装置100と同様に、胸部保護用クッション324から率先して膨張展開を開始し、胸部保護用クッション324の後に頭部保護用クッション326の膨張展開が完了する構成となっている。したがって、エアバッグクッション322もまた、胸部保護用クッション324で乗員124(図15参照)の胸部128を先に拘束し、それに続いて頭部保護用クッション326で乗員124の頭部126を拘束することができ、頭部126の後屈等を防ぎつつ乗員124を十全に拘束可能になっている。
【0087】
上述したように、エアバッグクッション322では、頭部保護用クッション326の後壁328が、胸部保護用クッション324の後壁330よりも車両前方に位置するよう設定されている。この構成によって、エアバッグクッション322は、乗員124の胸部128を先に拘束し、続いて頭部126を拘束することが可能になっている。したがって、当該運転席用エアバッグ装置320は、乗員124の頭部126を後屈等させることなく、乗員124を安定した姿勢で拘束することが可能である。
【0088】
図17は、図14(a)および図16(a)の各エアバッグクッションに内部テザーを適用した図である。図17(a)は、図14(a)のエアバッグクッション306の各パネルを透過して、その内部に設けられた一対の内部テザー340a、340bを例示している。内部テザー340a、340bは、エアバッグクッション306の膨張展開時の形状を制御する部材である。
【0089】
内部テザー340a、340bは、L字形状のエアバッグクッション306の角の部分に差し渡すよう、センタパネル310に接続されている。内部テザー340a、340bの寸法は、エアバッグクッション306が膨張展開した時に緊張し、センタパネル310を引っ張り合う寸法に設定される。この内部テザー340a、340bによって、エアバッグクッション306の角部は膨張が規制される。内部テザー340a、340bによれば、エアバッグクッション306は、L字形状に効率よく膨張展開して胸部保護用クッション302および頭部保護用クッション304を機能させることが可能となる。
【0090】
図17(b)は、図16(a)のエアバッグクッション322の各パネルを透過して、その内部に設けられた一対の内部テザー350a、350bを例示している。内部テザー350a、350bは、胸部保護用クッション324と頭部保護用クッション326との境目に差し渡すように、センタパネル334に接続されている。内部テザー350a、350bは、エアバッグクッション322の角部の膨張を規制し、胸部保護用クッション324および頭部保護用クッション326を好適に機能させる。
【0091】
なお、上記の各内部テザーは、数をさらに増やすことも可能である。複数のテザーを設ける場合は、インフレータからのガスが直接的に当たらない箇所に設けると好適である。
【0092】
図18は、図14(a)のエアバッグクッション306に内部パネルを適用した図である。図18(a)は、図14(a)のエアバッグクッション306の各パネルを透過して、その内部に設けられた内部パネル360を例示している。内部パネル360は、エアバッグクッション306の内部のガスの流れを制御する部材である。
【0093】
内部パネル360は、胸部保護用クッション302の下部からエアバッグクッション306の上部の角に差し渡すようにしてセンタパネル310に接続され、エアバッグクッション306の内部を下部チャンバ362と上部チャンバ364とに仕切っている。内部パネル360には、ガス流通孔366が設けられていて、ガスを通過させることが可能になっている。このとき、インフレータ301(図13参照)が挿入される固定領域312は、上部チャンバ364に含まれている。したがって、エアバッグクッション306は、先に上部チャンバ364にガスが供給され、続いて下部チャンバ362にガスが供給される。このように、エアバッグクッション306は、内部パネル360によって、図8の運転席用エアバッグ装置200と同様に、頭部保護用クッション304から先に膨張展開させることが可能となる。
【0094】
図18(b)は、図18(a)の内部パネル360とは異なる位置に設けた内部パネル370を例示している。内部パネル370は、ガス流通孔376を有していて、エアバッグクッション306の内部を下部チャンバ372と上部チャンバ374とに仕切っている。このとき、インフレータが挿入される固定領域336は、下部チャンバ372に含まれている。したがって、エアバッグクッション322は、先に下部チャンバ372にガスが供給され、続いて上部チャンバ374にガスが供給される。これによって、エアバッグクッション306は、内部パネル370によって、図5の運転席用エアバッグ装置100と同様に、胸部保護用クッション302から先に膨張展開させることが可能となる。
【0095】
なお、図17の内部テザーと図18の内部パネルは、一つのエアバッグクッションに対して同時に実施することも可能である。この構成によって、内部テザーによる形状の制御と、内部パネルによるガスの流れの制御とを、同時に行うことが可能になる。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0097】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する運転席用エアバッグに利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
100…運転席用エアバッグ装置、102…座席、104…インストルメントパネル、106…異形ステアリングホイール、108…ハブ、110…ハブのカバー、114…リム、120…胸部保護用クッション、122…頭部保護用クッション、124…乗員、126…頭部、128…胸部、130…腹部、131…膝、132…胸部用インフレータ、134…上面、136…ウィンドシールド、138…頭部用インフレータ、140…フロントパネル、142…リアパネル、144…固定領域、146a、146b…サイドパネル、148…センタパネル、150…固定領域、152…頭部保護用クッションの後壁、154…胸部保護用クッションの後壁、200…第1変形例の運転席用エアバッグ装置、202…カメラ、204…制御部、220…第1変形例の胸部保護用クッション、222…フロントパネル、222a、222b…フロントパネルの折れ線、224…リアパネル、224a、224b…リアパネルの線、240…第2変形例の胸部保護用クッション、242…フロントパネル、244…リアパネル、260…第3変形例の胸部保護用クッション、262…胸部用インフレータ、264…メインパネル、266…ディフューザ、268…内部テザー、300…第2変形例の運転席用エアバッグ装置、301…インフレータ、302…胸部保護用クッション、304…頭部保護用クッション、306…エアバッグクッション、308a、308b…サイドパネル、310…センタパネル、312…固定領域、320…第3変形例の運転席用エアバッグ装置、322…エアバッグクッション、324…胸部保護用クッション、326…頭部保護用クッション、328…頭部保護用クッションの後壁、330…胸部保護用クッションの後壁、332a、332b…サイドパネル、334…センタパネル、336…固定領域、340a、340b…内部テザー、350a、350b…内部テザー、360…内部パネル、362…下部チャンバ、364…上部チャンバ、366…ガス流通孔、370…内部パネル、372…下部チャンバ、374…上部チャンバ、376…ガス流通孔、P1…ハブの上端、L1…ハブの上端を通る水平線、L2…頭部保護用クッションの後壁の後端を通る鉛直線、L3…胸部保護用クッションの後壁の後端を通る鉛直線
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