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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】励磁制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/14 20060101AFI20240624BHJP
   H02P 103/20 20150101ALN20240624BHJP
【FI】
H02P9/14
H02P103:20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023077734
(22)【出願日】2023-05-10
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000195959
【氏名又は名称】西芝電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 整
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/141569(WO,A1)
【文献】特開平11-089269(JP,A)
【文献】特開平08-154369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/14
H02P 103/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期機の界磁巻線に界磁電流を供給する励磁制御装置であって、
励磁電源が発生した第1交流電圧を直流電圧に変換し、前記直流電圧を前記界磁巻線に供給し、複数のサイリスタを含むサイリスタ整流器と、
前記同期機の端子電圧に基づいて、第1制御遅れ角を設定する制御遅れ角設定回路と、 前記界磁電流に基づいて、制御遅れ角下限値を設定する関数発生器と、
前記第1制御遅れ角と前記制御遅れ角下限値とに基づいて、前記第1制御遅れ角が前記制御遅れ角下限値より小さい場合、第2制御遅れ角として前記制御遅れ角下限値を出力し、前記第1制御遅れ角が前記制御遅れ角下限値以上である場合、前記第2制御遅れ角として前記第1制御遅れ角を出力するリミット回路と、
前記第1交流電圧の歪みを除去して第2交流電圧を出力する歪フィルタ回路と、
前記第2制御遅れ角及び前記第2交流電圧に基づいて、前記複数のサイリスタのゲートに複数のゲートパルス信号を供給する位相制御回路と、
を具備する励磁制御装置。
【請求項2】
前記関数発生器は、前記界磁電流が大きくなるにつれて前記制御遅れ角下限値が小さくなるように、前記制御遅れ角下限値を設定する
請求項1に記載の励磁制御装置。
【請求項3】
前記関数発生器は、前記界磁電流が閾値より小さい場合、前記制御遅れ角下限値を固定値である制御遅れ角初期値に設定し、前記界磁電流が前記閾値以上である場合、前記界磁電流が大きくなるにつれて前記制御遅れ角下限値が小さくなるように、前記制御遅れ角下限値を設定する
請求項1に記載の励磁制御装置。
【請求項4】
前記界磁巻線に流れる前記界磁電流を測定する電流測定器をさらに具備する
請求項1に記載の励磁制御装置。
【請求項5】
同期機の界磁巻線に界磁電流を供給する励磁制御装置であって、
励磁電源が発生した第1交流電圧を直流電圧に変換し、前記直流電圧を前記界磁巻線に供給し、複数のサイリスタを含むサイリスタ整流器と、
前記同期機の端子電圧に基づいて、第1制御遅れ角を設定する制御遅れ角設定回路と、 前記第1制御遅れ角と前記制御遅れ角下限値とに基づいて、前記第1制御遅れ角が前記制御遅れ角下限値より小さい場合、第2制御遅れ角として前記制御遅れ角下限値を出力し、前記第1制御遅れ角が前記制御遅れ角下限値以上である場合、前記第2制御遅れ角として前記第1制御遅れ角を出力するリミット回路と、
前記第1交流電圧の歪みを除去して第2交流電圧を出力する歪フィルタ回路と、
前記第2交流電圧の位相遅れを設定する関数発生器と、
前記第2制御遅れ角から前記位相遅れを減算し、第3制御遅れ角を出力する減算器と、 前記第3制御遅れ角及び前記第2交流電圧に基づいて、前記複数のサイリスタのゲートに複数のゲートパルス信号を供給する位相制御回路と、
を具備する励磁制御装置。
【請求項6】
前記関数発生器は、前記界磁電流に基づいて、前記位相遅れを設定する
請求項に記載の励磁制御装置。
【請求項7】
前記関数発生器は、前記界磁電流が大きくなるにつれて前記位相遅れが大きくなるように、前記位相遅れを設定する
請求項に記載の励磁制御装置。
【請求項8】
前記界磁巻線に流れる前記界磁電流を測定する電流測定器をさらに具備する
請求項に記載の励磁制御装置。
【請求項9】
前記制御遅れ角下限値は、固定値である
請求項に記載の励磁制御装置。
【請求項10】
前記同期機は、ブラシレス同期機である
請求項1又はに記載の励磁制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、同期機の界磁巻線に界磁電流を供給する励磁制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期機の1つである同期発電機は、電機子巻線、及び界磁巻線を備え、界磁巻線に供給する界磁電流を調整することにより、同期発電機の出力電圧が制御される。界磁巻線は、例えば、サイリスタ整流器を用いて励磁される。サイリスタ整流器は、3相交流電源からなる励磁電源から発生される交流電圧を整流し、この整流された界磁電流が界磁巻線に供給される。
【0003】
サイリスタ整流器は、6個のサイリスタを備える。位相制御回路は、励磁電源から発生される交流電圧に基づいて、複数のサイリスタを制御する複数のゲートパルス信号を生成する。励磁電源から発生される交流電圧の電圧波形が歪むと、位相制御回路の動作が不安定になる。そこで、励磁電源から発生された交流電圧の不要な成分をフィルタ回路で除去し、このフィルタ回路から出力された交流電圧を用いて、位相制御回路を動作させている。
【0004】
励磁電源の交流電圧の歪みが小さい場合には、フィルタ回路を用いた手法でも位相制御回路を正常に動作させることが可能である。しかし、フィルタ回路が取り除くことができる要素や成分には限界がある。よって、励磁電源の交流電圧の歪みが大きい場合には、励磁電源の交流電圧と、フィルタ回路から位相制御回路に出力される交流電圧との位相差(位相遅れ)が大きくなってしまう。これにより、サイリスタの制御遅れ角が大きくなるため、界磁電流が低下し、界磁巻線に所望の界磁電流を供給できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4183477号公報
【文献】特開2009-268167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、サイリスタ整流器の位相制御をより安定して行うことが可能な励磁制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る励磁制御装置は、同期機の界磁巻線に界磁電流を供給する励磁制御装置であって、励磁電源が発生した第1交流電圧を直流電圧に変換し、前記直流電圧を前記界磁巻線に供給し、複数のサイリスタを含むサイリスタ整流器と、前記同期機の端子電圧に基づいて、第1制御遅れ角を設定する制御遅れ角設定回路と、前記界磁電流に基づいて、制御遅れ角下限値を設定する関数発生器と、前記第1制御遅れ角と前記制御遅れ角下限値とに基づいて、前記第1制御遅れ角が前記制御遅れ角下限値より小さい場合、第2制御遅れ角として前記制御遅れ角下限値を出力し、前記第1制御遅れ角が前記制御遅れ角下限値以上である場合、前記第2制御遅れ角として前記第1制御遅れ角を出力するリミット回路と、前記第1交流電圧の歪みを除去して第2交流電圧を出力する歪フィルタ回路と、前記第2制御遅れ角及び前記第2交流電圧に基づいて、前記複数のサイリスタのゲートに複数のゲートパルス信号を供給する位相制御回路とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る発電装置のブロック図である。
図2図2は、第1実施形態に係る関数発生器の動作を説明する図である。
図3図3は、第1実施形態に係るリミット回路の動作を説明する図である。
図4図4は、第2実施形態に係る発電装置のブロック図である。
図5図5は、第2実施形態に係るリミット回路の動作を説明する図である。
図6図6は、第2実施形態に係る関数発生器の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための装置および方法を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。各機能ブロックは、ハードウェア及びソフトウェアのいずれかまたは両者を組み合わせたものとして実現することができる。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
[1] 第1実施形態
[1-1] 発電装置1の構成
本実施形態に係る同期機は、同期発電機と同期電動機とを含む。本実施形態では、同期機として同期発電機を例に挙げて説明する。
【0011】
図1は、第1実施形態に係る発電装置1のブロック図である。発電装置1は、同期発電機2、励磁電源3、及び励磁制御装置10を備える。
【0012】
同期発電機2は、界磁巻線2A、及び電機子巻線2Bを備える。界磁巻線2Aは、電機子巻線2Bに磁界を印加する素子である。同期発電機2は、3相交流電圧を発生する。すなわち、同期発電機2は、R相電圧、S相電圧、及びT相電圧を発生する。図1のR、S、Tは、R相電圧、S相電圧、T相電圧を意味する。
【0013】
励磁電源3は、3相交流電源からなる。励磁電源3は、界磁電流を発生するための3相交流電圧を発生する。すなわち、励磁電源3は、U相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧Vを発生する。励磁電源3は、例えば、永久磁石式同期発電機などで構成することができる。
【0014】
励磁制御装置10は、界磁巻線2Aに界磁電流Ifを供給する装置である。励磁制御装置10は、同期発電機2の端子電圧が目標電圧になるように、界磁電流Ifを制御する。励磁制御装置10は、サイリスタ整流器11、波形歪フィルタ回路12、電流測定器13、制御遅れ角設定回路14、関数発生器15、リミット回路16、及び位相制御回路17を備える。
【0015】
サイリスタ整流器11には、励磁電源3が発生した3相交流電圧が供給される。サイリスタ整流器11は、励磁電源3が発生した3相交流電圧を直流電圧に変換する。サイリスタ整流器11は、6個のサイリスタTh_U、Th_V、Th_W、Th_X、Th_Y、Th_Zを備える。各サイリスタは、アノード、カソード、及びゲートを備える。サイリスタは、ゲートにゲートパルス信号(所定値以上の電圧)が入力された場合に点弧(ターンオンともいう)し、アノード-カソード間に逆バイアスが印加された場合、又はアノード電流が所定値以下になった場合に消弧(ターンオフともいう)する。
【0016】
サイリスタに順バイアスが印加されてから、サイリスタのゲートにゲートパルス信号が入力されてサイリスタが点弧するまでの位相を、制御遅れ角αという。サイリスタ整流器11は、制御遅れ角αが小さくなると、界磁電流Ifが大きくなるように動作し、制御遅れ角αが大きくなると、界磁電流Ifが小さくなるように動作する。結果として、サイリスタ整流器11の制御遅れ角αを小さくすると、同期発電機2の出力電圧が上昇し、サイリスタ整流器11の制御遅れ角αを大きくすると、同期発電機2の出力電圧が低下する。
【0017】
サイリスタTh_Uのアノードは、サイリスタTh_Xのカソードと、U相電圧V用の電源線とに接続される。サイリスタTh_Vのアノードは、サイリスタTh_Yのカソードと、V相電圧V用の電源線とに接続される。サイリスタTh_Wのアノードは、サイリスタTh_Zのカソードと、W相電圧V用の電源線とに接続される。サイリスタTh_U、Th_V、Th_Wのカソードは、正極線PLに接続される。サイリスタTh_X、Th_Y、Th_Zのアノードは、負極線NLに接続される。
【0018】
界磁巻線2Aの一端は、正極線PLに接続され、他端は、負極線NLに接続される。サイリスタ整流器11は、正極線PL及び負極線NLを介して、界磁巻線2Aに界磁電流Ifを供給する。
【0019】
波形歪フィルタ回路12は、励磁電源3からU相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧Vを受ける。波形歪フィルタ回路12は、U相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧Vのそれぞれについて、電圧波形の歪み、すなわち交流電圧の不要な成分(高周波成分、ノイズ、及びリップルを含む)を除去する機能を有する。波形歪フィルタ回路12は、U相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧Vをそれぞれ、正弦波により近い電圧波形に整形したU相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’を出力する。一般的に、波形歪フィルタ回路12に入力される電圧波形の歪みが大きくなるほど、波形歪フィルタ回路12から出力される交流電圧の位相が遅れる。励磁電源3の波形歪は、界磁電流が大きくなるにつれて大きくなるので、波形歪フィルタ回路12による位相遅れも界磁電流が大きくなるにつれて大きくなる。
【0020】
電流測定器13は、正極線PLに設けられる。電流測定器13は、界磁巻線2Aに流れる界磁電流Ifを測定する。
【0021】
制御遅れ角設定回路14は、同期発電機2の出力電圧である端子電圧が目標電圧になるように、第1制御遅れ角α1を設定する。制御遅れ角設定回路14は、例えば、自動電圧調整装置(AVR:automatic voltage regulator)で構成される。AVRは、同期発電機2の端子電圧が目標電圧になるように界磁電流を自動的に調節する装置である。電圧検出回路(図示せず)は、同期発電機2の端子電圧を検出し、AVRは、電圧検出回路が検出した端子電圧に基づいて動作する。
【0022】
関数発生器15は、所定の関数に基づいて演算を行う回路である。関数発生器15は、電流測定器13から、界磁電流Ifの測定値(界磁電流測定値という)を受ける。関数発生器15は、界磁電流測定値に基づいて、制御遅れ角下限値MINを設定する。制御遅れ角下限値MINとは、サイリスタ整流器11の動作を制御するための制御遅れ角αの下限値である。本実施形態では、関数発生器15は、界磁電流測定値に基づいて、制御遅れ角下限値MINを変化させる。
【0023】
リミット回路16は、関数発生器15から制御遅れ角下限値MINを受け、制御遅れ角設定回路14から第1制御遅れ角α1を受ける。リミット回路16は、制御遅れ角下限値MIN及び第1制御遅れ角α1に基づいて、第2制御遅れ角α2を設定する。
【0024】
位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からU相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’を受け、リミット回路16から第2制御遅れ角α2を受ける。位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からの3相交流電圧と、第2制御遅れ角α2とに基づいて、サイリスタ整流器11の位相制御を行う。
【0025】
[1-2] 動作
上記のように構成された発電装置1の動作について説明する。
【0026】
励磁制御装置10は、励磁電源3が発生した3相交流電圧を用いて、界磁電流Ifを生成する。具体的には、励磁電源3は、界磁電流を発生するための3相交流電圧(U相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧V)を発生する。サイリスタ整流器11は、励磁電源3から供給された3相交流電圧を整流し、直流電圧を発生する。サイリスタ整流器11から出力された直流電圧は、正極線PL及び負極線NLを介して、界磁巻線2Aに印加される。これにより、界磁巻線2Aに界磁電流Ifが供給される。界磁巻線2Aが発生した磁界が電機子巻線2Bに印加され、同期発電機2は、3相交流電圧(R相電圧、S相電圧、及びT相電圧)を発生する。
【0027】
電流測定器13は、界磁巻線2Aに流れる界磁電流Ifを測定する。関数発生器15は、電流測定器13から界磁電流測定値を受ける。関数発生器15は、界磁電流測定値に基づいて、制御遅れ角下限値MINを設定する。
【0028】
サイリスタ整流器11において、電流がある相のサイリスタから他の相のサイリスタに移ることを転流という。サイリスタ整流器11では、2つの相のサイリスタが同時に点弧する、いわゆる転流重なり現象が発生する場合がある。制御遅れ角αを小さくし過ぎると、転流重なり角(2つの相のサイリスタが同時に点弧する位相)が大きくなり過ぎて、転流が良好に行われない場合が発生する。本実施形態では、転流重なり角が大きくなり過ぎるのを防ぐため、制御遅れ角下限値MINが設定される。
【0029】
図2は、関数発生器15の動作を説明する図である。図2の横軸は界磁電流(界磁電流測定値)であり、縦軸は制御遅れ角下限値MIN(度)である。関数発生器15は、界磁電流Ifと制御遅れ角下限値MINとの関係を算出する関数を有する。
【0030】
制御遅れ角初期値α_intは、回路及び素子の特性に応じて設定される固定値である。一例として、制御遅れ角初期値α_intは、例えば30度である。励磁電源3の電圧波形の歪みが小さい場合は、制御遅れ角下限値MINとして制御遅れ角初期値α_intを用いることで、サイリスタ整流器11を安定して動作させることができる。
【0031】
図2に示すように、関数発生器15は、界磁電流Ifが所定の閾値Ithより小さい場合、制御遅れ角下限値MINを制御遅れ角初期値α_intに設定する。関数発生器15は、界磁電流Ifが所定の閾値Ith以上である場合、界磁電流Ifが大きくなるにつれて制御遅れ角下限値MINが小さくなるように、制御遅れ角下限値MINを設定する。なお、閾値Ithは0でもよい。すなわち、閾値Ithを設定せずに、界磁電流Ifが大きくなるにつれて制御遅れ角下限値MINが小さくなるように、制御遅れ角下限値MINを設定してもよい。
【0032】
制御遅れ角設定回路14は、同期発電機2の出力電圧である端子電圧が目標電圧になるように、第1制御遅れ角α1を設定する。例えば、第1制御遅れ角α1は、同期発電機2の端子電圧の変化に応じて自動的に設定される。
【0033】
リミット回路16は、関数発生器15から制御遅れ角下限値MINを受け、制御遅れ角設定回路14から第1制御遅れ角α1を受ける。リミット回路16は、制御遅れ角下限値MIN及び第1制御遅れ角α1に基づいて、第2制御遅れ角α2を設定する。
【0034】
図3は、リミット回路16の動作を説明する図である。図3の横軸は第1制御遅れ角α1(度)であり、縦軸は第2制御遅れ角α2(度)である。
【0035】
リミット回路16は、位相制御回路17に送られる第2制御遅れ角α2が制御遅れ角下限値MINより小さくならないように動作する。具体的には、リミット回路16は、第1制御遅れ角α1が制御遅れ角下限値MINより小さい場合、第2制御遅れ角α2として制御遅れ角下限値MINを出力する。リミット回路16は、第1制御遅れ角α1が制御遅れ角下限値MIN以上である場合、第2制御遅れ角α2として第1制御遅れ角α1をそのまま出力する。
【0036】
制御遅れ角下限値MINは、関数発生器15の動作に応じて変化する。本実施形態では、界磁電流Ifが大きくなるにつれて、制御遅れ角下限値MINを小さくすることができ、さらに、第2制御遅れ角α2を小さくすることができる。よって、界磁電流Ifが大きくなることにより、励磁電源3が発生する3相交流電圧に対する、波形歪フィルタ回路12から出力される3相交流電圧の位相遅れが大きくなった場合でも、界磁電流Ifを大きい状態で維持することが可能である。
【0037】
波形歪フィルタ回路12は、励磁電源3からU相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧Vを受ける。波形歪フィルタ回路12は、U相電圧V、V相電圧V、及びW相電圧Vのそれぞれについて、電圧波形の歪みを低減又は除去し、U相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’を出力する。
【0038】
位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からU相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’を受け、リミット回路16から第2制御遅れ角α2を受ける。位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からの3相交流電圧と、第2制御遅れ角α2とに基づいて、6個のサイリスタTh_U、Th_V、Th_W、Th_X、Th_Y、Th_Zのゲートにそれぞれ、複数のゲートパルス信号を供給する。
【0039】
サイリスタ整流器11の基本的な動作として、U相の整流動作では、サイリスタTh_Uが点弧された状態で、サイリスタTh_Y、Th_Zが順に点弧される。V相の整流動作では、サイリスタTh_Vが点弧された状態で、サイリスタTh_Z、Th_Xが順に点弧される。W相の整流動作では、サイリスタTh_Wが点弧された状態で、サイリスタTh_X、Th_Yが順に点弧される。
【0040】
同期発電機2の出力電圧が目標電圧より低下した場合には、位相制御回路17は、サイリスタ整流器11に、位相の進んだゲートパルス信号を供給する。これにより、同期発電機2の出力電圧が増加し、目標電圧に設定される。一方、同期発電機2の出力電圧が目標電圧より上昇した場合には、位相制御回路17は、サイリスタ整流器11に、位相の遅れたゲートパルス信号を供給する。これにより、同期発電機2の出力電圧が低下し、目標電圧に設定される。
【0041】
このようにして、励磁制御装置10は、界磁巻線2Aに最適な界磁電流Ifを供給することができる。また、同期発電機2は、所望の3相交流電力を発生することができる。
【0042】
[1-3] 第1実施形態の効果
第1実施形態によれば、励磁電源3から発生された交流電圧の電圧波形の歪みの影響によって、サイリスタ整流器11を制御する制御遅れ角が大きくなってしまうのを抑制できる。これにより、界磁電流の最大値が低下するのを抑制することができる。
【0043】
また、励磁電源3から発生された交流電圧が大きく歪んだ場合でも、サイリスタ整流器11を制御する制御遅れ角をより適切に設定することができる。これにより、サイリスタ整流器11の位相制御をより安定して行うことができる。
【0044】
また、制御遅れ角の下限値を設定することができる。これにより、サイリスタの転流重なり角が大きくなり過ぎるのを防ぐことができる。
【0045】
また、励磁電源3が発生した交流電圧の歪みを、波形歪フィルタ回路12を用いて除去することができる。そして、位相制御回路17は、歪みが除去された交流電圧を用いて、サイリスタ整流器11の位相制御を行うことができる。これにより、サイリスタ整流器11の位相制御をより正確に行うことができる。
【0046】
[2] 第2実施形態
第2実施形態は、励磁電源3が発生した第1交流電圧に対する波形歪フィルタ回路12が出力した第2交流電圧の位相遅れ(度)を算出する。そして、この位相遅れに基づいて制御遅れ角を調整し、この調整された制御遅れ角を用いてサイリスタ整流器11の位相制御を行うようにしている。
【0047】
[2-1] 発電装置1の構成
図4は、第2実施形態に係る発電装置1のブロック図である。励磁制御装置10は、サイリスタ整流器11、波形歪フィルタ回路12、電流測定器13、制御遅れ角設定回路14、リミット回路16、位相制御回路17、制御遅れ角下限値設定回路20、関数発生器21、及び減算器22を備える。
【0048】
制御遅れ角下限値設定回路20は、制御遅れ角下限値MINを設定する。制御遅れ角下限値MINは、予め決められた固定値である。
【0049】
リミット回路16は、制御遅れ角下限値設定回路20から制御遅れ角下限値MINを受け、制御遅れ角設定回路14から第1制御遅れ角α1を受ける。リミット回路16は、制御遅れ角下限値MIN及び第1制御遅れ角α1に基づいて、第2制御遅れ角α2を設定する。
【0050】
関数発生器21は、所定の関数に基づいて演算を行う回路である。関数発生器21は、電流測定器13から界磁電流測定値を受ける。関数発生器15は、界磁電流測定値に基づいて、波形歪フィルタ回路12の位相遅れθを設定する。
【0051】
減算器22は、リミット回路16から第2制御遅れ角α2を受け、関数発生器21から位相遅れθを受ける。減算器22は、第3制御遅れ角α3を出力する。
【0052】
位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からU相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’を受け、減算器22から第3制御遅れ角α3を受ける。位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からの3相交流電圧と、第3制御遅れ角α3とに基づいて、サイリスタ整流器11の位相制御を行う。
【0053】
[2-2] 動作
上記のように構成された発電装置1の動作について説明する。
【0054】
制御遅れ角設定回路14は、同期発電機2の出力電圧である端子電圧が目標電圧になるように、第1制御遅れ角α1を設定する。例えば、第1制御遅れ角α1は、同期発電機2の端子電圧の変化に応じて自動的に設定される。
【0055】
制御遅れ角下限値設定回路20は、制御遅れ角下限値MINを設定する。制御遅れ角下限値MINは、回路及び素子の特性に応じて設定される固定値である。一例として、制御遅れ角下限値MINは、例えば30度である。
【0056】
リミット回路16は、制御遅れ角下限値設定回路20から制御遅れ角下限値MINを受け、制御遅れ角設定回路14から第1制御遅れ角α1を受ける。リミット回路16は、制御遅れ角下限値MIN及び第1制御遅れ角α1に基づいて、第2制御遅れ角α2を設定する。
【0057】
図5は、リミット回路16の動作を説明する図である。図5の横軸は第1制御遅れ角α1(度)であり、縦軸は第2制御遅れ角α2(度)である。
【0058】
リミット回路16は、減算器22に送られる第2制御遅れ角α2が制御遅れ角下限値MINより小さくならないように動作する。具体的には、リミット回路16は、第1制御遅れ角α1が制御遅れ角下限値MINより小さい場合、第2制御遅れ角α2として制御遅れ角下限値MINを出力する。リミット回路16は、第1制御遅れ角α1が制御遅れ角下限値MIN以上である場合、第2制御遅れ角α2として第1制御遅れ角α1をそのまま出力する。本実施形態では、制御遅れ角下限値MINは、固定値である。
【0059】
関数発生器21は、電流測定器13から界磁電流測定値を受ける。関数発生器15は、界磁電流測定値に基づいて、波形歪フィルタ回路12の位相遅れθを設定する。
【0060】
図6は、関数発生器21の動作を説明する図である。図6の横軸は界磁電流(界磁電流測定値)であり、縦軸は位相遅れθ(度)である。関数発生器21は、界磁電流Ifの変化と、励磁電源3が発生した交流電圧(U相電圧V、V相電圧V、W相電圧V)に対する波形歪フィルタ回路12が出力する交流電圧(U相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’)の位相遅れθの変化との関係を算出する関数を有する。
【0061】
界磁電流Ifと位相遅れθとの関係は、励磁電源3の特性と、波形歪フィルタ回路12の特性とに応じて、予め試験を行うことで算出できる。関数発生器21には、予め試験で算出した関係が得られる関数が設定される。
【0062】
図6に示すように、関数発生器21は、界磁電流Ifが大きくなるにつれて位相遅れθが大きくなるように、位相遅れθを設定する。
【0063】
減算器22は、リミット回路16から第2制御遅れ角α2を受け、関数発生器21から位相遅れθを受ける。減算器22は、第2制御遅れ角α2から位相遅れθを減算し、減算結果として第3制御遅れ角α3を出力する。
【0064】
位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からU相電圧V’、V相電圧V’、及びW相電圧V’を受け、減算器22から第3制御遅れ角α3を受ける。位相制御回路17は、波形歪フィルタ回路12からの3相交流電圧と、第3制御遅れ角α3とに基づいて、6個のサイリスタTh_U、Th_V、Th_W、Th_X、Th_Y、Th_Zのゲートにそれぞれ、複数のゲートパルス信号を供給する。
【0065】
このようにして、励磁制御装置10は、界磁巻線2Aに最適な界磁電流Ifを供給することができる。また、同期発電機2は、所望の3相交流電力を発生することができる。
【0066】
[2-3] 第2実施形態の効果
第2実施形態によれば、励磁電源3が発生した交流電圧に対する波形歪フィルタ回路12が出力した交流電圧の位相遅れθに基づいて、サイリスタ整流器11を制御する制御遅れ角をより適切に設定することができる。これにより、サイリスタ整流器11の位相制御をより安定して行うことができる。その他の効果は、第1実施形態と同じである。
【0067】
なお、第2実施形態では、波形歪フィルタ回路12の位相遅れθと連動する要素として界磁電流を用いている。界磁電流と連動する他の要素を用いて、位相遅れθを算出するようにしてもよい。変形例として、関数発生器21は、同期発電機2の出力電流に基づいて波形歪フィルタ回路12の位相遅れθを算出するようにしてもよい。この場合、関数発生器21は、同期発電機2の出力電流が大きくなるにつれて位相遅れθが大きくなるように、位相遅れθを設定する。また、関数発生器21は、同期発電機2の出力電圧に基づいて波形歪フィルタ回路12の位相遅れθを算出するようにしてもよい。この場合、関数発生器21は、同期発電機2の出力電圧が大きくなるにつれて位相遅れθが大きくなるように、位相遅れθを設定する。
【0068】
上記各実施形態では、同期機として同期発電機を例に挙げて説明したが、同期電動機に適用することも可能である。
【0069】
上記各実施形態において、同期機は、ブラシレス同期機で構成してもよい。ブラシレス同期機は、主同期機の電機子巻線、主同期機の界磁巻線、回転整流器、交流励磁機の電機子巻線、及び交流励磁機の界磁巻線を含むように構成される。これらのうち主同期機の界磁巻線、回転整流器、及び交流励磁機の電機子巻線は、回転軸上に取付けられる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1…発電装置、2…同期発電機、2A…界磁巻線、2B…電機子巻線、3…励磁電源、10…励磁制御装置、11…サイリスタ整流器、12…波形歪フィルタ回路、13…電流測定器、14…制御遅れ角設定回路、15…関数発生器、16…リミット回路、17…位相制御回路、20…制御遅れ角下限値設定回路、21…関数発生器、22…減算器。
【要約】
【課題】 サイリスタ整流器の位相制御をより安定して行うことが可能な励磁制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態の励磁制御装置は、同期機の界磁巻線に界磁電流を供給する励磁制御装置であって、励磁電源が発生した第1交流電圧を直流電圧に変換し、直流電圧を界磁巻線に供給し、複数のサイリスタを含むサイリスタ整流器11と、同期機の端子電圧に基づいて、第1制御遅れ角を設定する制御遅れ角設定回路14と、界磁電流に基づいて、制御遅れ角下限値を設定する関数発生器15と、第1制御遅れ角が制御遅れ角下限値より小さくならないように動作し、第2制御遅れ角を設定するリミット回路16と、第1交流電圧の歪みを除去して第2交流電圧を出力する歪フィルタ回路12と、第2制御遅れ角及び第2交流電圧に基づいて、複数のサイリスタのゲートに複数のゲートパルス信号を供給する位相制御回路17とを含む。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6