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特許7508671リターディング電圧を用いた電子線検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】リターディング電圧を用いた電子線検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
H01J37/20 H
H01J37/20 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023136886
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2019211334の分割
【原出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2023159364
(43)【公開日】2023-10-31
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591012668
【氏名又は名称】株式会社ホロン
(74)【代理人】
【識別番号】100089141
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 守弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵三
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-052642(JP,A)
【文献】特開2010-251338(JP,A)
【文献】特開平07-245075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルにリターディング電圧を印加して高速電子ビームを低速にして照射し高分解能の画像を生成する電子線検査装置において、
高加速電圧の電子ビームを発生する電子銃と、
前記電子銃で発生された高加速電圧の電子ビームを、細く絞ってサンプルに照射させる対物レンズと、
前記対物レンズで細く絞られた電子ビームを前記サンプルの表面に2次元走査する偏向系と、
前記サンプルにリターディング電圧を印加するリターディング電圧印加装置と、
前記サンプルの移動に対応した表面の容量を検出する、前記対物レンズの先端に、設置した該サンプルに対向して設けた中心に電子ビーム通過穴のある電極からなる検出装置と、
前記検出装置で検出されたサンプルの移動に対応したサンプルの表面の容量をもとに、
前記サンプルの表面と前記対物レンズの先端に設置した前記電極とにより形成される容量C1と、前記サンプルの表面とサンプルの裏面とにより形成される容量C2と、の比で決定される電位が、該サンプルを搭載したステージを移動しても常に一定になるように、該サンプルの表面の電位あるいは該サンプルの裏面の電位を補正し、当該サンプルの表面の電位が一定になるように前記リターディング電圧を補正する補正装置と
を備えたことを特徴とするリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【請求項2】
前記サンプルの表面の電位を、外部から電圧を印加して制御するサンプル表面電位制御装置を設け、前記検出装置で検出した容量をもとに、該サンプル表面電位制御装置に指示して前記サンプルの表面の電位を制御、あるいは前記補正装置に指示して前記リターディング電圧を制御、あるいは両者を制御することを特徴とする請求項1に記載のリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【請求項3】
前記サンプルの表面を縦方向および横方向に分割して各交点の部分領域に対応づけて、リアルタイムに測定した容量をもとに、サンプルの移動に応じて前記リターディング電圧あるいは前記サンプルの表面の電位あるいは両者を補正することを特徴とする請求項1から請求項2のいずれかに記載のリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【請求項4】
前記サンプルの表面を縦方向および横方向に分割して各交点の部分領域に対応づけて、予め測定した容量を登録するテーブルを設け、該テーブルをもとに、サンプルの移動に応じて前記リターディング電圧あるいは前記サンプルの表面の電位あるいは両者を補正することを特徴とする請求項1から請求項2のいずれかに記載のリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【請求項5】
前記サンプルの表面にパターンを形成した領域の周囲に溝を帯状に設けて電気的に分離するブラックボーダーの内部のパターンと外部のパターンとを電気的に接続する爪電極を設け、該爪電極により前記パターンの電位を外部から制御できるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【請求項6】
前記サンプルの表面にパターンを形成した領域の周囲に溝を帯状に設けて電気的に分離するブラックボーダーの内部のパターンと外部のパターンとを電気的に接続する、基板の上に形成した導電性の連結部を設け、該導電性の連結部により前記パターンの電位を外部から制御できるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【請求項7】
前記サンプルは、絶縁基板の上にパターンを形成したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のリターディング電圧を用いた電子線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リターディング電圧を用いた電子線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスはムーアの法則に従って、毎年縮小が進み、最先端デバイスでは最小フィーチャーサイズが20nm以下になっている。小さなフィーチャーサイズを実現するためには、より小さなパターンを形成できる露光技術が必要である。
【0003】
従来は波長193nmのレーザー光線が露光に使用されてきたが、光学的分解能を既に大きく超えているため、近年では波長が13.5nmのEUV光を利用する露光技術が精力的に進められた結果、ロジック7ナノ世代に成ってTSMC等が世界で初めて実用化に成功した。
【0004】
露光技術の進化はフォトマスクパターンのフィーチャーサイズの縮小および、パターン数増加を意味する。半導体露光を行うためにはフォトマスクと呼ばれるパターン描画された絶縁体の石英板が利用される。この石英板の上に回路設計データに基づく細かなパターンが描かれている。ナノインプリント用のテンプレートと呼ばれる原版も石英から作製される。
【0005】
これらのマスク上に形成されたパターンが正しい寸法で出来ているかどうかを調べるためには、光学技術では分解能が不足するため電子顕微鏡技術が必須である。高精細電子ビーム画像を取得するためにはサンプル表面にビームスポットサイズの小さな電子を照射して、信号電子を検出する必要があるが、その際、サンプル表面がチャージして照射電子ビームや信号電子に悪影響を与えないことが必須である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、電子ビーム光学系の収差を安価に小さくする目的で、リターディング法が用いられている。この方法は、一旦、電子銃から放出された電子ビームのエネルギーを数十KVの高いエネルギーに加速してから、電子光学系を用いて電子ビームを絞り、試料に加えた逆バイアス電圧によって、電子のエネルギーを1KV以下に減速してサンプルに照射する方式である。サンプルへの照射時のエネルギーが低いにもかかわらず分解能を高く保つことが出来ることが特徴である。
【0007】
電子ビームはエネルギーが大きいほど波長が短く、ビームサイズを小さく絞ることが出来るようになり画像分解能が向上する。しかしながら、サンプルである半導体デバイスなどを高エネルギー電子ビームで直接に走査して画像を得て観察すると、高エネルギーの電子がサンプルである半導体に半永久的な作用を起こしてデバイスにダメージを与えることが分かってきた。それを防止する意味で、半導体用CDSEMではビームサイズを絞りながら、かつ、照射時の電子ビームエネルギーを下げるためにリターディング法が用いている。
【0008】
リターディング法ではサンプル表面の測定点電位が所望の電位に成っていることが必要である。しかしながら、誘電体材料である石英で出来たフォトマスクあるいはナノインプリント用テンプレートでは、通常導電体である半導体ウェハーの場合と異なり、電圧を加えるために用いるサンプルの下部に設けられている電極に印可される電圧とフォトマスクの表面では電位が異なるため、常に目的とする表面電位に調節するのは、極めて困難である。また、XYステージ移動によってサンプルが移動するとそれに伴って、測定系を構成している電気容量が変化し、サンプル表面に実質的に印可されるリターディング電圧に変化が起こるといった課題があった。
【0009】
さらに、マルチビーム検査装置の様にサンプル表面で生じた2次電子を既定のエネルギーに加速することによって画像形成する装置においてはリターディング電圧が不定に成ることにより像形成に不具合を引き起こすことという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来の上述した、フォトマスク等の絶縁基板上にパターンが形成されているサンプルにおいて、表面に安定的に所望のリターディング電圧を印加し、高分解能かつ安定な画像を取得できる特徴がある。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、サンプルにリターディング電圧を印加して高速電子ビームを低速にして照射し高分解能の画像を生成する電子線検査装置において、所定高加速電圧の電子ビームを発生する電子銃と、電子銃で発生された所定高加速電圧の電子ビームを、細く絞ってサンプルに照射させる対物レンズと、対物レンズで細く絞られた電子ビームをサンプルの表面に2次元走査する偏向系と、サンプルに所定リターディング電圧を印加するリターディング電圧印加装置と、サンプルの表面の電位あるいは容量を検出する、対物レンズの先端に、サンプルに対向して設けた検出装置と、検出装置で検出されたサンプルの表面の電位あるいは容量をもとに、サンプルの表面の電位を一定に補正するように第1のリターディング電圧を補正する補正装置とを備えるように構成する。
【0012】
この際、サンプルの表面の第2の電位を、外部から電圧を印加して制御するサンプル表面電位制御装置を設け、検出器で検出した電位あるいは容量をもとに、サンプル表面電位制御装置に指示して第2の電位を制御、あるいは補正手段に指示して第1のリターディング電圧を制御、あるいは両者を制御するようにしている。
【0013】
また、測定点対応座標あるいはサンプルの表面を縦方向および横方向に分割して各交点の部分領域に対応づけて、リアルタイムに測定した電位あるいは容量をもとに、サンプルの移動に応じて第1のリターディング電圧あるいは第2の電位あるいは両者を補正するようにしている。
【0014】
また、サンプルの表面を縦方向および横方向に分割して各交点の部分領域に対応づけて、予め測定した電位あるいは容量を登録したテーブルを設け、テーブルをもとに、サンプルの移動に応じて第1のリターディング電圧あるいは第2の電位あるいや両者を補正するようにしている。
【0015】
また、サンプルの表面にパターンを形成した領域の周囲に溝を帯状に設けて電気的に分離するブラックボーダーの内部のパターンと外部のパターンとを電気的に接続する爪電極を設け、爪電極によりパターンの電位を外部から制御できるようにしている。
【0016】
また、爪電極の代わりに導電性の連結部を基板の上に形成するようにしている。
【0017】
また、サンプルは、絶縁基板の上にパターンを形成するようにしている。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、フォトマスク等の絶縁基板上にパターンが形成されているサンプルにおいて、表面に安定的に所望のリターディング電圧を印加し、高分解能かつ安定な画像を取得できる。
【0019】
また、サンプルの表面の電位あるいは容量をリアルタイムに測定し、リターディング電圧あるいはサンプルの表面の電位を制御し、サンプルが移動しても常に安定かつ高分解能の画像を取得できる。
【0020】
また、サンプルの表面の電位あるいは容量を、サンプルを縦、横に分割してテーブルに予め登録しておくことにより、サンプルの移動にともにない自動的にリターディング電圧、サンプルの表面の電位を補正し、常に安定かつ高分解能の画像を取得できる。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の1実施例構成図を示す。
【0022】
図1において、電子銃1は、電子を発生する公知のものであって、TFE等やLaB6あるいはフィールドエミッターや光電子銃などから電子を発生させるものである。数百から数十KV程度の加速電圧になり、かつ例えば数pAから数100nA程度の電流に成るように、図示外の集束レンズおよびアパチャー等を通して調整した後に、後述する対物レンズ5によってnmオーダーから数百nmオーダーに細く絞った後、サンプル9の表面に照射する。サンプル9の基板(マスク)にバイアス電圧(リターディング電圧8)を加えて、照射エネルギーを最適化あるいは、サンプル9の表面で発生する電子のエネルギー(数百Vないし1KV程度)を最適化する。
【0023】
ブランキング装置2は、電子銃1で発生された電子を高速にオン、オフするものである。
【0024】
ブランキングアパチャー3は、ブランキング装置2で偏向された電子を遮断する絞りである。
【0025】
対物アパチャー4は、対物レンズ5に入射する電子を制限するものである。
【0026】
対物レンズ5は、電子ビームを細く絞ってサンプル9に照射するためのものである。
【0027】
偏向装置6は、電子ビームを偏向し、細く絞られた電子ビームをサンプル9の上に2次元走査するものであって、2段偏向系(静電、電磁)である。
【0028】
表面電位・容量検出装置7は、対物レンズ5の先端に設置した中心に穴のある円板状の板であって、サンプル9の表面の電位を測定したり、容量(静電容量)を測定(図示外の装置で電位あるいは容量を測定する)したするための電極である。電極形状は円形でなくても他の形でも構わない。必ずしもセンターにある必要も無く、穴も必要ない。電気容量測定用電極は対物レンズを構成する金属そのものを用いることもできる。
【0029】
電位・容量検出信号71は、表面電位・容量検出装置7によって検出した信号(表面電位信号、あるいは容量検出信号)であって、当該信号をもとに図示外のパソコンによりサンプル9の表面の電位あるいは容量をリアルタイムに検出するためのものである。表面電位信号の場合にはサンプル9の表面(あるいはリターディング上部電極81)の電位を測定するための信号であって、当該サンプル9の表面(リターディング上部電極81)の電位に対応した微小電位を発生させ、これを増幅してその電位を測定(検出)する公知のものである。容量検出信号の場合には、微小高周波電圧を供給してそのときに流れる電流を検出して容量を算出するための公知のものである。その他、世の中で知られている表面電位、容量測定手段を利用できる。
【0030】
リターディング電圧8は、サンプル9に印加するリターディング電圧であって、電子銃1から放出された所定の高圧の電子ビーム、例えば5KVから35KVを500Vないし1KV程度に減速するための減速電圧(この例では5KVから35KVより500Vないし1KVだけ低い減速電圧)である。
【0031】
リターディング上部電極81は、サンプル9の上面の電位を外部に引き出すための電極である。
【0032】
リターディング下部電極82は、サンプル9の下面の電位を外部に引き出すための電極である。このリターディング下部電極82には通常、リターディング電圧8が印加される。
【0033】
絶縁体10は、リターディング下部電極82を電気的に絶縁するものである。
【0034】
サンプル9は、マスクなどのサンプルであって、ここでは、絶縁体10の上に固定し、リターディング電圧8を印加するものであって、リターディング電圧8だけ減速された電子ビームが該サンプル9に照射されることとなり、対物レンズ5において高電圧で微小スポットに絞った後に、該リターディング電圧8で減速し、低エネルギーの電子ビームで該サンプル9を照射してダメージや汚染等を減少させ、かつ高分解能の画像を生成できる。
【0035】
XYZステージ11は、サンプル9を固定し、任意の座標(X、Y)更に(Z)に自動的に移動させるステージである。移動は、図示外のレーザ干渉計によりX,Y,更に必要に応じてZ方向に精密にリアルタイムに測定しつつ移動できる。より詳細にはステージ上に絶縁体があり、更にその上にマスクパレットと呼ばれる導体からできたフォトマスク保持機構が存在し、下部電極を兼ねることができる。一方、パレットには別途爪電極が配置されており、そこからフォトマスク上部に電圧を印加できる仕組みとなっている。
【0036】
真空チャンバー12は、サンプル9を固定したXYZステージ11などを真空中に収納する容器である。
【0037】
真空ポンプ13は、ドライポンプあるいはTMP等の真空チャンバー12を真空に排気するオイルレス真空排気系である。
【0038】
除振装置14は、外部から真空チャンバー12などに振動が伝達されないように除振するものである。
【0039】
電子検出装置21は、サンプル9に電子ビームを照射して2次元走査したときに放出された2次電子を検出する公知の検出器である。
【0040】
次に、図1の構成の動作を簡単に説明する。
(1)マスクなどのサンプル9(ホルダに固定されているマスク)をXYZステージ11にロボットで自動搬送して固定する。
(2)フォトマスク上に設けられパターンの設計データに従いレーザ干渉計でリアルタイムにフォトマスクの位置を測定しつつ指示された位置にXYZステージ11を移動させ、サンプル9の所定位置が電子ビームで照射されるようにすると共に、表面電位・容量検出装置7がサンプル9の表面(あるいはリターディング上部電極81)の電位(あるいは容量)をリアルタイムに測定し、基準値(あるいは基準点の値)になるように補正(リターディング電圧8、リターディング上部電極81の電位の一方、あるいは両者を補正)し、サンプル9を移動しても常に該サンプル9の表面の電位が一定になるように補正する。これにより、サンプル9を移動しても該サンプル9の表面は常に同じ電位となり、リターディング電圧8で減速した低加速の電子ビームを該サンプル9に照射しつつ走査し、安定かつ高分解能の2次電子画像等を常に取得することが可能となる。以下順次詳細に説明する。
【0041】
図2は、本発明のサンプル(マスク)の例を示す。図2は代表的なフォトマスクの断面構造を示している。図2の(a)はEUVマスクの構造例を示し、図2の(b)はDUVマスクの構造例を示す。
【0042】
図2の(a)において、一般にEUVマスクは図示のように、絶縁基板31である超低熱膨張石英の上にMoSi等の導電性反射膜32を設け、その上にパターン33を形成したTa系の吸収層を設けられているため、パターンの形成されている領域は全体的に電気導通があることに特徴がある。
【0043】
図2の(b)において、図示のDUVマスクの場合には、パターン34の層の下に導電性膜が無い場合があるため、パターン34はしばしばどこにも電気的に接続されていない島状フローティング状態になることがある。このようなマスクは、電子ビームを照射するとチャージで表面電位が変わってしまい、安定かつ高分解能の2次電子画像を取得できなくなってしまう。
【0044】
図3は、本発明のブラックボーダーの例を示す。図3の(a)は側面図を示し、図3の(b)は上面図を示す。
【0045】
図3において、フォトマスク35は、サンプル9の例である。
【0046】
バイアス電極36は、フォトマスク35の裏面に電位を印加するための電極である。
【0047】
ブラックボーダー37は、EUV露光装置が発生するフレアの影響を低減するために設けられるが、結果的に囲まれた領域が周囲から電気的に切り離される構造を有するものである。
【0048】
爪電極38は、バイアス電圧1をフォトマスク35の表面に印加するための電気的に接続する電極である。電極の形状は任意であるが、表面にある絶縁体を突き破るために針状の電極とすることもできる。
【0049】
バイアス電圧1は、爪電極38(フォトマスク35の表面)に印加する電圧である。
【0050】
バイアス電圧2は、フォトマスク35の裏面に印加する電圧である。
【0051】
次に、構成を説明する。
(1)図3において、図2の(a)のEUVマスクは既述したように、石英基板の上にMoSi等の反射膜材料を50層程度設けた後に、パターン33を形成するための吸収層を形成したものである。このままであれば、外部から周辺部に電圧印可すればフォトマスク表面全体を目的とする電位にすることが出来る。
(2)しかしながら、EUV露光装置は13.5nmと短波長で多数枚の鏡を利用し光源が必ずしも高性能ではないため、フレアと呼ばれる不具合現象が起こり、目的とする方向以外にも光が飛び散り光源品質が低下する。そのため、隣接する本来露光すべきでない場所にもEUV光が到達し不具合を起こす。これを防止する目的でフォトマスクの主要なパターンが書かれている領域を取り囲むようにブラックボーダー37と呼ばれる電気絶縁境界領域が図示のように、設けられている。
【0052】
ブラックボーダー37と呼ばれる境界は反射層を形成するMoSi導導体を石英ガラス基板まで彫り込んで形成されるため、ブラックボーダー37で囲まれた領域は周辺領域から電気的に切り離され絶縁体状態になる。
【0053】
絶縁状態に成ってしまうと、マスク表面周辺から電圧印可しても絶縁体で囲まれた領域は所望の電位には成らない。また、SEM等電子ビームを照射して観察する場合に、観察箇所に電荷が徐々に蓄積し画像が変質してしまう。それを避けるために本発明では該図3に示したようにブラックボーダー37で囲まれた領域にも通電するための特別な爪電極38を設ける。これによりマスクの周辺部と内部は導通が起こりチャージを逃がし同じ表面電位にすることが出来る。この際に利用する爪電極38は出来るだけ薄くて、平らな構造体とし、かつ表面にはテフロン(登録商標)などの絶縁耐圧の高い絶縁体を被覆して対向する対物レンズ5(対物レンズ5との間の距離は数mm程度(例えば3mm))との間で放電が起こらないようにする。爪電極38は1つだけでなくフォトマスクの周辺部に複数設けても良い。また、ブラックボーダーで仕切られた絶縁領域が複数存在することもあるため、複数設けた爪電極38に印加する電圧はそれぞれ独立に制御できるように成っていても良い。更にはブラックボーダー内外に独立した電圧が印加できるようにすることが望ましい。
【0054】
図4は、本発明のブラックボーダーの例を示す。
【0055】
図4において、ブラックボーダー41は、既述したように、反射層を形成するMoSi導導体を石英ガラス基板まで彫り込んで形成されたものである。
【0056】
周辺領域42は、ブラックボーダー41で電気的に分離された周辺の領域である。
【0057】
測定対象領域43は、ブラックボーダー41で分離された測定対象の領域である。
【0058】
連結部44は、測定対象領域43と、ブラックボーダー41で電気的に分離された周辺領域42とを電気的に接続するために形成された導電性の部分である。
【0059】
次に、図4を詳細に説明する。
(1)図4において、ブラックボーダー自身は実際に形成されるパターンサイズと比較して非常に大きなサイズを有している。そこで、ブラックボーダー41の性能が制限されない程度にボーダーの一部分を残して周辺と内側の領域がどこかで接続されているパターン(連結部44)を形成する。このようにすれば、ブラックボーダー41で仕切られたマスク周辺部と内部は電気的な導通が起こるため2つの領域の電位を同じにすることが出来る。また、電子ビーム照射によって生じた電荷を逃がすことが可能となり、チャージアップ現象で画像が乱れることも無くなる。爪電極による電圧印可はマスク外周部の領域に対して行えば十分となる。
(2)一方、必ずしも上記パターン(連結部44)の形成が可能でない場合もある。その時はブラックボーダー41にマスク修正に使用するFIBや電子ビームマスク修正装置等でEUV光を吸収する性質を持つTaやWなどの導電性材料で配線を形成して導通を取ることも出来る。導通個所は複数取ることができる。マスク修正装置では立体に配線を形成することも出来るのでブラックボーダー41を跨いで配線することは容易である。これによりブラックボーダー41で仕切られた領域は外周部とつながり、外周部には外部から電極を接触することによって導通を取ることが可能となり、マスク表面はどこも所望の電位となり、かつEUVマスクがチャージアップするのを防止できる。
【0060】
図5は、本発明の表面電位の模式説明図を示す。
【0061】
図5において、C1は、対物レンズ5の下面と、マスクの表面(リターディング上部電極81)との間の容量を表す。
【0062】
C2は、マスクの表面(リターディング上部電極81)と、バイアス電極(リターディング下部電極82)との間の容量を表す。
【0063】
Eは、リターディング電圧8を表す。
【0064】
次に動作を説明する。
(1)図5において、電子ビーム検査装置内に置かれたブラックボーダーで絶縁状態に仕切られた内部領域、あるいはフローティング状態にあるDUVフォトマスク表面に生じる電位が決まる原理を模式的に表したものである。フォトマスクは必ずしもEUVマスクの様に導電性反射層を持たないため表面全体が導通しているとは限らない、その場合フローティング領域の外部電圧を基板下部電極から印加した場合の表面電位は電気容量的に決まる。フォトマスク表面(サンプル9の表面)に対向して電子ビーム検査装置チャンバー内部では金属でできた対物レンズ5が存在する。フォトマスク表面と対物レンズ5は近い距離にあるため、2つの金属電極が存在しているのと同じになり大きな電気容量C1を形成する。一方、フォトマスク表面とフォトマスク裏面との間には石英等の誘電体が存在するためフォトマスク表面のパターンとフォトマスク下部電極82との間で大きな電気容量C2を形成する。
【0065】
従って、その中間にあるフォトマスク表面の電位は2つの容量の大きさの比で凡そ決定される。
(2)測定中にフォトマスクがXYZステージ11によって移動すると対物レンズ5との距離や周辺部材からの距離が変化するため、前述の測定系の持つ容量C1が変化する。この変化につれて基板に加えたバイアス電圧(リターディング電圧8)は分配されるため、同じ電圧を印加した場合、表面電位はXYZステージ11の移動とともに変化する。つまり、一定のリターディング電圧をかけたまま測定を行うと場所によって基板表面に生じているバイアス電位が異なるため全く異なった測定を行っていることに成ったり、表面電位に敏感な測定装置の場合、最悪像を結ばなくなったり、像を結ぶ位置が変動したりして測定が不安定に成る。
(3)したがって、マスク表面の電位(容量C1と容量C2で分配される電位)がXYZステージ11が移動しても常に一定になるようにバイアス電極の電位(リターディング電圧8)あるいはマスク表面の電位(第1の電位)を補正し、当該マスク表面の電位が一定になるように自動制御すれば、XYZステージを移動させてもマスク表面の電位は一定になり、安定かつ高分解能の2次電子画像を取得することが可能となる。
【0066】
図6は、本発明のマスクの容量・電位のマップテーブル例を示す。
【0067】
図6の(a)は容量マップテーブルの例を示し、図6の(b)は表面電位マップテーブルの例を示す。
【0068】
図6の(a)は、XYZステージ11(あるいはマスク)をX方向にi個に分割、Y方向にj個に分割してその交点の位置(i,j)の容量C1(i,j)を測定して登録したものである。
【0069】
図6の(b)は、XYZステージ11(あるいはマスク)をX方向にi個に分割、Y方向にj個に分割してその交点の位置(i,j)の電位V(i,j)を測定して登録したものである。
【0070】
ここで、容量C1、電位Vは次のようにして測定する。
(1)サンプル表面電位V:サンプル表面電位Vを知る方法は色々存在する。市販されている種々の原理、形式の表面電位計を用いて表面電位を知ることが出来る。表面電位計を対物レンズ5の先端部に配置してマスクの測定箇所の電位を測定出来る。測定した電位が一定の値に成るようにXYZステージ11で移動中あるいは停止中に基板に印可する電圧(図1のリターディング電圧8あるいはリターディング上部電極81の電位)を自動的に調節する。
(2)対物レンズとサンプル表面に生じる電気容量を測定しても同様の結果が得られる。XY座標上のある特定の座標において容量を測定する。XYZステージ11によってサンプル9を移動させ容量を測定する。容量差は表面電位の変化を表すため容量の変化分だけサンプル9に与える電圧(図1のリターディング電圧8あるいはリターディング上部電極81の電位)を変更し表面電位が実質的に所望の値に成るように調節する。
(3)電子ビームを実際に照射して発生する2次電子のエネルギーを調べることで表面電位Vを知ることも出来る。具体的には2次電子検出装置の表面にメッシュグリッド等を設けて所定の電圧を印加し、メッシュを通過して検出される2次電子の量を調べることで2次電子のエネルギーを調べられる。グリッド電圧を変えることでエネルギー分布が分かり結果的に2次電子のエネルギーシフトの素と成っているサンプル表面電位Vの変化が検出できる。測定値の変化が無くなるように基板に印加するバイアス電圧(図1のリターディング電圧8あるいはリターディング上部電極81の電位)を自動調整することで表面電位を所望の値に保つことが出来る。
(4)以上のようにして求めたXYZステージ11の移動に伴う表面電位変化あるいは容量変化は特定の装置に対して固有の量であり、装置内部を変更しない限り一定である。
【0071】
従って一度、XYZステージ移動に伴う表面電位Vの変化あるいは容量変化のデータを取得して登録すれば、以降は位置座標を入力することで補正量を推定できるようになる。そこで、そのような測定点座標XYに対応した表面電位あるいは容量変化のデータを図6の(b)、(a)に示すようにマップテーブルとして記憶装置に記憶し、実際の測定時にはそのマップテーブルをもとにマスク(サンプル9)に印可する電圧を自動調節することにより表面電位を所望の値に一定に保つことが出来る。
【0072】
図7は、本発明のマスク表面電位設定フローチャートを示す。
【0073】
図7において、S1は、XYステージを移動させる。ここでは、移動位置の座標(Xi,Yj)とする。
【0074】
S2は、表面電位あるいは容量を測定する。これは、XYステージを座標(i,j)に移動させた状態で、対物レンズ5に対向するマスクの表面の電位Vijを測定、あるいは対物レンズ5と対向するマスクの表面との間の容量Cijを測定する。
【0075】
S3は、補正値を計算する。これは、S2で測定した表面電位Vijあるいは容量Cijをもとに、基準値、特定場所の電位(容量)、任意の規定値のいずれかに一致するように補正値を計算する。
【0076】
S4は、印加電圧を設定する。これは、図1のリターディング下部電極82あるいはリターディング上部電極81の電位を所定値に設定し、表面電位あるいは容量が常に一定になるように補正する。
【0077】
S5は、測定終了か判別する。YESの場合には終了する。NOの場合には、S1以降を繰り返す。
【0078】
以上によって、XYZステージ11を移動する毎に表面電位あるいは容量を測定し、常に一定になるように補正(図1のリターディング下部電極82あるいはリターディング上部電極81の電位を補正)することにより、マスク(サンプル9)の表面電位を一定に保持することができ、安定かつ高分解能の2次電子画像を取得することが可能となる。リアルタイムに補正する場合には、任意の測定点において表面電位や容量を測定し印加するリターディング電圧値を補正することができる。
【0079】
図8は、本発明のマスク表面電位設定フローチャート(その2)を示す。図8は、図7のリアルタイムに表面電位、容量を測定する代わりに、予め測定して登録した図6の(b)表面電位マップテーブルあるいは図6の(a)容量位マップテーブルからマスクの座標における表面電位、容量を読み出し、補正したものである。
【0080】
図8において、S11は、XYステージを移動させる。ここでは、移動位置は座標(Xi,Yj)とする。
【0081】
S12は、補正値を読み出す。これは、上述したように、予め登録した図6の(b)表面電位マップテーブルあるいは図6の(a)容量位マップテーブルからマスクの座標における表面電位あるいは容量を読み出す。テーブルに一致する座標がないときはその近傍の複数の座標の値(電位あるいは容量)を読み出し
【0082】
S13は、補正値を計算する。これは、S12で読みだした表面電位Vijあるいは容量Cijをもとに、基準値、特定場所の電位(容量)、任意の規定値のいずれかに一致するように補正値を計算する。
【0083】
S14は、印加電圧を設定する。これは、図1のリターディング下部電極82あるいはリターディング上部電極81の電位を所定値に設定し、表面電位あるいは容量が常に一定になるように補正する。
【0084】
S15は、測定終了か判別する。YESの場合には終了する。NOの場合には、S11以降を繰り返す。
【0085】
以上によって、XYZステージ11を移動する毎に予め登録したテーブルから表面電位あるいは容量を読み出し、常に一定になるように補正(図1のリターディング下部電極82あるいはリターディング上部電極81の電位を補正)することにより、マスク(サンプル9)の表面電位を一定に保持することができ、安定かつ高分解能の2次電子画像を取得することが可能となる。尚、Z軸高さは電気容量値に影響を与えるため、高さを所望の一定の高さ(サンプル表面と対物レンズとの距離)にするように自動制御することが望ましい。
【0086】
図9は、本発明の他の実施例構成図を示す。図9はマルチ電子ビーム検査装置の外観図を示す。マルチ電子ビーム検査装置は一度に複数の電子ビームをサンプル9に面状に照射してサンプル9に生じた2次電子を再加速して像を結ぶことにより超高速に2次元の画像取得が実現できる装置である。この装置ではサンプル9の表面に発生した2次電子を均一に加速することが非常に重要で、表面電位がばらつくとビームスプリッター541の動作に障害が起こり所望の位置に像を結ばなくなるため、表面電位の制御は非常に重要である。
【0087】
一般に検査装置は高速大量に測定するため、通常のSEMやレビュー装置の様にステップバイステップで移動することもあれば、XYZステージ11は連続的に移動させる場合がある。そのような場合でも本発明は利用することが出来る。具体的には以下の様である。
(1)ステップバイステップの場合はステップごとに補正値をマップ(図6参照)として持てばよい。一方、連続的にステージ11が移動する場合は次のようにする。例えば、図6に示したようにフォトマスクの領域を100等分程度に分割しそれぞれの領域の中心座標におけるサンプル9の表面電位あるいは容量を測定する。それをマップ(図6参照)として記憶する。表面電位あるいは容量値はフォトマスクの移動に伴いなだらかに変化する性質があるので、直接測定出来ない座標における補正値を補間によって推定することが出来る。
(2)例えば、レーザ干渉計から出力される測定点座標とマップのデータを用いて図6のテーブルには無い中間座標に対しては最小二乗法、スプライン、ラグランジュ補間等補間計算あるいはガウシャンフィルター等の2次元重み付け演算を行って測定点座標における表面電位あるいは容量を推定することが出来る。この値から任意の座標における補正値を推定できる。連続にステージを移動する際に測定点のXYZ座標を取り込みリアルタイムで補正を行う。
(3)一方、測定対象領域の大局的な実質的に印可されているリターディング電位は前述の原理によって決定されるが、さらに局所的な容量変化を考慮する場合には、フォトマスク上に書かれるパターン設計データ(GDI等のCADデータ)を用いて対物レンズ55の直下の容量形成に寄与するパターンの面積を計算し、容量を算出することで表面電位を推定することが出来る。このように推定された容量から補正量を計算して制御(リターディング上部電極81あるいはリターディング下部電極82の電位を制御)すれば、サンプル9の表面の測定点の電位を所望の値にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1】本発明の1実施例構成図である。
図2】本発明のサンプル(マスク)の例である。
図3】本発明のブラックボーダーの例である。
図4】本発明のブラックボーダーの例である。
図5】本発明のマスク表面電位の模式説明図である。
図6】本発明のマスクの容量・電位のマップテーブル例である。
図7】本発明のマスク表面電位設定フローチャートである。
図8】本発明のマスク表面電位設定フローチャート(その2)である。
図9】本発明の他の実施例構成図である。
【符号の説明】
【0089】
1:電子銃
2:ブランキング装置
3:ブランキングアパチャー
4:対物アパチャー
5:対物レンズ
6:偏向装置
7:表面電位・容量検出装置
71:電位・容量検出信号
8:リターディング電圧
81:リターディング上部電極
82:リターディング下部電極
83:第1の電位
9:サンプル
10:絶縁体
11:XYZステージ
12:真空チャンバー
13:真空ポンプ
14:除振装置
21:電子顕出送致
31:絶縁基板
32:導電性反射層
33:吸収層(パターン)
34:パターン
35:フォトマスク
36:バイアス電極
37:ブラックボーダー
38:爪電極
41:ブラックボーダー
42:周辺領域
43:測定対象領域
44:連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9