(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】鉄道車両及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B61D 17/08 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
B61D17/08
(21)【出願番号】P 2023138025
(22)【出願日】2023-08-28
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 賢太
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-29126(JP,A)
【文献】特開2009-262687(JP,A)
【文献】特開平11-278258(JP,A)
【文献】実開平2-34377(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板を車体の側外板に用い、前記側外板に車両長手方向へ連続状に形成された横長の側窓を備え、前記側窓の車両上方で前記側外板の幕部の車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の上横骨と、前記側窓の車両下方で前記側外板の腰部の車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の下横骨と、を設け、
前記側窓の車両長手方向中間部で、前記上横骨と前記下横骨とを車室側で繋ぐ吹寄部内板と、前記吹寄部内板の車室側に接合された縦骨と、を有する吹寄補強ブロックを備えた鉄道車両であって、
前記上横骨の各フランジ部は、前記幕部に対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、前記下横骨の各フランジ部は、前記腰部に対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、
前記吹寄部内板は、全ての前記上横骨及び全ての前記下横骨の各天板部に対して溶接され、
前記縦骨は、前記吹寄部内板の上端部から下端部まで延設されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載された鉄道車両において、
前記縦骨は、ハット状断面に形成され、前記側窓の上端部に隣接する前記上横骨の位置で、及び前記側窓の下端部に隣接する前記下横骨の位置で、フランジ部の外縁から互いに離間する車両長手方向へ突出するフランジ突出部を備え、
前記吹寄部内板は、前記側窓の領域に形成された吹寄柱部と、前記幕部の領域で前記吹寄柱部より幅広く形成された上吹寄拡張部と、前記腰部の領域で前記吹寄柱部より幅広く形成された下吹寄拡張部と、を備え、
前記上吹寄拡張部と前記下吹寄拡張部は、前記フランジ突出部より大きく車両長手方向へ拡張されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項2に記載された鉄道車両において、
前記吹寄柱部と前記上吹寄拡張部とが交差する車両上方の隅部、及び、前記吹寄柱部と前記下吹寄拡張部とが交差する車両下方の隅部の内、少なくとも1つの前記隅部には、平面視で略L字状に形成された隅部補強板が、前記縦骨の前記側窓側の前記フランジ部及び前記フランジ突出部の車室側に接合されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項1に記載された鉄道車両において、
前記吹寄部内板は、前記縦骨と異なる位置で、前記上横骨と前記下横骨の各天板部に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された鉄道車両の製造方法において、
前記側外板と前記上横骨及び前記下横骨の前記各フランジ部とをレーザ溶接して側外板補強ブロックを形成する側外板補強ブロック形成工程と、
前記吹寄部内板と前記縦骨とを接合して前記吹寄補強ブロックを形成する吹寄補強ブロック形成工程と、
前記側外板補強ブロックの前記上横骨及び前記下横骨の前記各天板部と、前記吹寄補強ブロックの前記吹寄部内板と、を溶接して側構体ブロックを形成する側構体ブロック形成工程と、
を備えていることを特徴とする鉄道車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両及びその製造方法に関し、より詳しくは、ステンレス鋼板を車体の側外板に用い、車両長手方向に連続状に形成された横長の側窓を備えた鉄道車両及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特急車両等では、耐腐食性、美観性等に優れたステンレス鋼板を車体の側外板に用い、車両長手方向に連続状に形成された横長の側窓を備えた鉄道車両が、採用されている。このような鉄道車両では、車体剛性を確保するため、側外板の車室側に横骨と縦骨とを設け、横長の側窓の車両長手方向中間部で上下の横骨を車室側で繋ぐ吹寄補強構造が検討されている。この吹寄補強構造を備えた鉄道車両が、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
すなわち、
図10、
図11に示すように、特許文献1の鉄道車両100では、側外板101に形成される横長の側窓102の車室側上方にハット状断面の上側横骨103が配置され、上側横骨103のフランジ部が側外板101の幕部101aに溶接され、側窓102の車室側下方にハット状断面の下側横骨104が配置され、下側横骨104のフランジ部が側外板101の腰部101bに溶接されている。また、吹寄補強構造105Hとして、平板状に形成された吹寄部内板105が、側窓102の車両長手方向中間部で、上側横骨103と下側横骨104とに車室側で渡されるように固定され、また、吹寄部内板105の車室側面に接して配置された一対の吹寄柱部材106が、幕部101aに溶接されたハット状断面の幕部柱107と、腰部101bに溶接されたハット状断面の腰部柱108と、を繋ぐように接合されている。
【0004】
上記吹寄柱部材106は、上側横骨103と下側横骨104との間でハット状断面になるように折り曲げ加工され、上側横骨103の上方と下側横骨104の下方でコ字状断面になるように折り曲げ加工され、コ字状断面の側壁部に相当する上部リブ106aと下部リブ106bとを備えている。上部リブ106aは、幕部柱107の側壁部に溶接され、下部リブ106bは、腰部柱108の側壁部に溶接されている。また、吹寄柱部材106の板内面には、ハット状断面とコ字状断面との境界部に形成した切欠き形状部106d、106eを跨いで、車両上下方向に延設されたコ字状断面の吹寄柱補強部材109、110が接合されている。
【0005】
また、吹寄部内板105は、略H状に打ち抜かれた板材であり、上下に設けられる張出部分105a、105bの間に柱部分105cが設けられ、上方の張出部分105aは上側横骨103の天板部と溶接され、下方の張出部分105bは下側横骨104の天板部と溶接されている。また、吹寄部内板105の柱部分105cには、吹寄柱部材106の中央部でハット状断面のフランジ部に相当する中リブ106cが溶接されている。
【0006】
また、側外板101の幕部101aには、上側横骨103の上方で一対の幕部柱107を挟んで分割された複数の上分割横骨103aが溶接され、さらに、一対の幕部柱107同士を繋ぐ幕部柱繋ぎ板111が溶接されている。また、側外板101の腰部101bには、下側横骨104の下方で一対の腰部柱108を挟んで分割された複数の下分割横骨104bが溶接され、さらに、一対の腰部柱108同士を繋ぐ腰部柱繋ぎ板112が溶接されている。
【0007】
なお、吹寄部内板105には、側外板101に対して、上側横骨103のフランジ部と幕部柱107のフランジ部とを重ねて溶接するための溶接ガン逃し孔YN1と、下側横骨104のフランジ部と腰部柱108のフランジ部とを重ねて溶接するための溶接ガン逃し孔YN4と、上側横骨103のフランジ部を溶接するための溶接ガン逃し孔YN3と、下側横骨104のフランジ部を溶接するための溶接ガン逃し孔YN2と、がそれぞれ形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の鉄道車両100では、以下のような問題があった。すなわち、吹寄補強構造105Hを構成する部品の内、吹寄柱部材106が、幕部101aに溶接されたハット状断面の幕部柱107と、腰部101bに溶接されたハット状断面の腰部柱108と、を上部リブ106a、下部リブ106bによって繋ぐように接合されている。そのため、吹寄柱部材106の板内面には、上部リブ106a、下部リブ106bを形成するための切欠き形状部106d、106eを補強する吹寄柱補強部材109、110が接合されている。
【0010】
また、吹寄補強構造105Hを構成する部品の内、吹寄部内板105は、吹寄柱部材106の上部リブ106a、下部リブ106bによって上下端が規制されて、略H状に打ち抜かれた板材であり、上方の張出部分105aは上側横骨103の天板部のみと溶接され、下方の張出部分105bは下側横骨104の天板部のみと溶接されている。そのため、幕部101aには、吹寄部内板105の存在しない車両上方を補強するため、上側横骨103の上方で一対の幕部柱107と、幕部柱107を挟んで分割された複数の上分割横骨103aと、が溶接され、幕部柱107同士を繋ぐ幕部柱繋ぎ板111が溶接されている。また、腰部101bには、吹寄部内板105の存在しない車両下方を補強するため、下側横骨104の下方で一対の腰部柱108と、腰部柱108を挟んで分割された複数の下分割横骨104bと、が溶接され、腰部柱108同士を繋ぐ腰部柱繋ぎ板112が溶接されている。
【0011】
したがって、上記特許文献1の鉄道車両100では、吹寄部内板105及び吹寄柱部材106以外に、側外板101を補強する部品(幕部柱107、腰部柱108、吹寄柱補強部材109、110、幕部柱繋ぎ板111、腰部柱繋ぎ板112等)の部品点数が多く、それに伴って、溶接工数が増大するという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献1の鉄道車両100では、上記各部品を以下の手順で溶接する必要があった。はじめに、吹寄柱補強部材109、110を接合した吹寄柱部材106と吹寄部内板105とを溶接すると共に、吹寄部内板105の上下の張出部分105a、105bを上側横骨103の天板部と下側横骨104の天板部とに溶接し、吹寄柱部材106の上部リブ106a、下部リブ106bを幕部柱107、腰部柱108の各側壁部に溶接する。次に、側外板101(幕部101a、腰部101b)に対して、上側横骨103と下側横骨104の各フランジ部を溶接し、幕部柱107と腰部柱108の各フランジ部を溶接する。
【0013】
したがって、吹寄柱部材106と吹寄部内板105とから成る吹寄補強構造105Hを、上側横骨103と下側横骨104と幕部柱107と腰部柱108とに溶接した後に、側外板101(幕部101a、腰部101b)に対して、上側横骨103と下側横骨104と幕部柱107と腰部柱108の各フランジ部を、それぞれ溶接する必要がある。
【0014】
ところが、上側横骨103と下側横骨104と幕部柱107と腰部柱108は、吹寄柱部材106及び吹寄部内板105に溶接されたことによって、その各フランジ部の面位置精度が低下しやすく、部品同士の隙間が狭くなる。そのため、側外板101(幕部101a、腰部101b)に対して、面位置精度が低下した上側横骨103と下側横骨104と幕部柱107と腰部柱108の各フランジ部を、設備的な施工条件が厳しいレーザ溶接によって接合することは難しく、設備的な施工条件が比較的優しいスポット溶接又はアーク溶接によって接合させることになる。その結果、側外板101にスポット溶接の圧痕やアーク溶接の熱歪等が生じて外観性に影響する可能性があった。
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、横長の側窓を有する側外板の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓の車室側で効果的に補強できる鉄道車両及びその鉄道車両の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両及びその製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)ステンレス鋼板を車体の側外板に用い、前記側外板に車両長手方向へ連続状に形成された横長の側窓を備え、前記側窓の車両上方で前記側外板の幕部の車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の上横骨と、前記側窓の車両下方で前記側外板の腰部の車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の下横骨と、を設け、
前記側窓の車両長手方向中間部で、前記上横骨と前記下横骨とを車室側で繋ぐ吹寄部内板と、前記吹寄部内板の車室側に接合された縦骨と、を有する吹寄補強ブロックを備えた鉄道車両であって、
前記上横骨の各フランジ部は、前記幕部に対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、前記下横骨の各フランジ部は、前記腰部に対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、
前記吹寄部内板は、全ての前記上横骨及び全ての前記下横骨の各天板部に対して溶接され、
前記縦骨は、前記吹寄部内板の上端部から下端部まで延設されていることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、上横骨の各フランジ部は、幕部に対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、下横骨の各フランジ部は、腰部に対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接されているので、側外板の幕部及び腰部における、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。なお、上横骨は、側窓の車両上方で側外板の幕部の車室側に上下に離間して並列配置され、下横骨は、側窓の車両下方で側外板の腰部の車室側に上下に離間して並列配置されているので、側外板の幕部及び腰部に対して、上横骨と下横骨とをそれぞれ分離して配置でき、側外板の幕部及び腰部に対して、上横骨のフランジ部と下横骨のフランジ部とを精度良く当接できる。そのため、側外板の幕部と腰部とに対して、上横骨のフランジ部と下横骨のフランジ部とをそれぞれ安定してレーザ溶接することができる。
【0018】
また、吹寄部内板は、全ての上横骨及び全ての下横骨の各天板部に対して溶接され、縦骨は、吹寄部内板の上端部から下端部まで延設されているので、側窓の車両長手方向中間部で、全ての上横骨と全ての下横骨とを吹寄部内板と縦骨によって車室側で繋ぐことができ、車両上下方向の強度を高めることができる。これによって、横長の側窓を形成した側外板を補強する部品の部品点数を低減でき、それに伴い、溶接工数を低減させることができる。
【0019】
よって、本発明によれば、横長の側窓を有する側外板の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓の車室側で効果的に補強できる鉄道車両を提供することができる。
【0020】
(2)(1)に記載された鉄道車両において、
前記縦骨は、ハット状断面に形成され、前記側窓の上端部に隣接する前記上横骨の位置で、及び、前記側窓の下端部に隣接する前記下横骨の位置で、フランジ部の外縁から互いに離間する車両長手方向へ突出するフランジ突出部を備え、
前記吹寄部内板は、前記側窓の領域に形成された吹寄柱部と、前記幕部の領域で前記吹寄柱部より幅広く形成された上吹寄拡張部と、前記腰部の領域で前記吹寄柱部より幅広く形成された下吹寄拡張部と、を備え、
前記上吹寄拡張部と前記下吹寄拡張部は、前記フランジ突出部より大きく車両長手方向へ拡張されていることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、縦骨は、ハット状断面に形成され、側窓の上端部に隣接する上横骨の位置で、及び、側窓の下端部に隣接する下横骨の位置で、フランジ部の外縁から互いに離間する車両長手方向へ突出するフランジ突出部を備え、吹寄部内板は、側窓の領域に形成される吹寄柱部と、幕部の領域で吹寄柱部より幅広く形成された上吹寄拡張部と、腰部の領域で吹寄柱部より幅広く形成された下吹寄拡張部と、を備え、上吹寄拡張部と下吹寄拡張部は、フランジ突出部より大きく車両長手方向へ拡張されているので、吹寄柱部と上吹寄拡張部とが交差する車両上方の隅部、及び、吹寄柱部と下吹寄拡張部とが交差する車両下方の隅部を、上吹寄拡張部とフランジ突出部、及び、下吹寄拡張部とフランジ突出部とが、それぞれ2枚重ねの状態で補強できる。そのため、上下の隅部における応力集中を緩和して、側外板を側窓の車室側でより一層効果的に補強できる。
【0022】
また、側外板の幕部と腰部の各領域において、上横骨及び下横骨の各天板部に吹寄部内板の上吹寄拡張部及び下吹寄拡張部を溶接する溶接位置を、より広い範囲に分散して配置することができる。そのため、上横骨及び下横骨と吹寄部内板との連結強度を高めつつ、上横骨及び下横骨に対して吹寄部内板を溶接する際の溶接熱を、より広い範囲で分散させることができる。その結果、側外板を側窓の車室側でより一層効果的に補強しつつ、側外板に対する熱影響をより一層低減でき、側外板の外観性を向上させることができる。
【0023】
(3)(2)に記載された鉄道車両において、
前記吹寄柱部と前記上吹寄拡張部とが交差する車両上方の隅部、及び、前記吹寄柱部と前記下吹寄拡張部とが交差する車両下方の隅部の内、少なくとも1つの前記隅部には、平面視で略L字状に形成された隅部補強板が、前記縦骨の前記側窓側の前記フランジ部及び前記フランジ突出部の車室側に接合されていることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、吹寄柱部と上吹寄拡張部とが交差する車両上方の隅部、及び、吹寄柱部と下吹寄拡張部とが交差する車両下方の隅部の内、少なくとも1つの隅部には、平面視で略L字状に形成された隅部補強板が、縦骨の側窓側のフランジ部及びフランジ突出部の車室側に接合されているので、応力集中しやすい隅部において、吹寄部内板と縦骨の側窓側のフランジ部及びフランジ突出部と隅部補強板とが3枚重ね状態でより一層強固に補強することができる。また、隅部補強板は、縦骨の側窓側のフランジ部とフランジ突出部の車室側に接合されているので、隅部補強板は、必要に応じて事後的に追加することもできる。そのため、簡単かつ自由度を持って、隅部の補強効果を高めることができる。
【0025】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された鉄道車両において、
前記吹寄部内板は、前記縦骨と異なる位置で、前記上横骨と前記下横骨の各天板部に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されていることを特徴とする。
【0026】
本発明においては、吹寄部内板は、縦骨と異なる位置で、上横骨及び下横骨の各天板部に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されているので、吹寄部内板と、上横骨及び下横骨の各天板部と、を2枚重ねの状態で安定してレーザ溶接でき、レーザ溶接の溶け込み不良等を簡単に回避することができる。また、吹寄部内板は、各天板部に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されているので、縦骨と隣接する位置で、吹寄部内板と上横骨及び下横骨とをより多くの箇所で溶接でき、上横骨及び下横骨に対する吹寄部内板と縦骨との連結強度を高めることができる。そのため、横長の側窓が形成された側外板を、側窓の車室側でより一層効果的に補強できる。
【0027】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された鉄道車両の製造方法において、
前記側外板と前記上横骨及び前記下横骨の前記各フランジ部とをレーザ溶接して側外板補強ブロックを形成する側外板補強ブロック形成工程と、
前記吹寄部内板と前記縦骨とを接合して前記吹寄補強ブロックを形成する吹寄補強ブロック形成工程と、
前記側外板補強ブロックの前記上横骨及び前記下横骨の前記各天板部と、前記吹寄補強ブロックの前記吹寄部内板と、を溶接して側構体ブロックを形成する側構体ブロック形成工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0028】
本発明においては、側外板と上横骨及び下横骨の各フランジ部とをレーザ溶接して側外板補強ブロックを形成する側外板補強ブロック形成工程を備えているので、側外板の幕部及び腰部における、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。なお、上横骨は、側窓の車両上方で側外板の車室側に上下に離間して並列配置され、下横骨は、側窓の車両下方で側外板の車室側に上下に離間して並列配置されているので、幕部及び腰部に対して、上横骨と下横骨とをそれぞれ分離して配置でき、レーザ溶接時におけるレーザビームの移動空間を直線的に確保できる。そのため、側外板の幕部及び腰部に対して、上横骨のフランジ部と下横骨のフランジ部とを迅速に溶接できる。その結果、溶接工数の低減を図ることもできる。
【0029】
また、吹寄部内板と縦骨とを接合して吹寄補強ブロックを形成する吹寄補強ブロック形成工程を備えているので、側外板と上横骨及び下横骨のフランジ部とをレーザ溶接して側外板補強ブロックを形成する側外板補強ブロック形成工程とは別に、吹寄部内板と縦骨とを接合して吹寄補強ブロックを予め形成することができる。そのため、吹寄部内板と縦骨とを接合した吹寄補強ブロックをシンプルな構造で形成でき、部品点数の削減、及び、それに伴って溶接等の工数を低減できる。また、上横骨及び下横骨に対して吹寄部内板を溶接する以前に、側外板と上横骨及び下横骨の各フランジ部とをレーザ溶接することができる。そのため、吹寄部内板を溶接することによって変形する上横骨及び下横骨を、レーザ溶接前に矯正する必要がない。したがって、矯正等の修正工数を削減できると同時に、レーザ溶接における溶接品質が向上し、側外板の幕部及び腰部における、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。
【0030】
また、側外板補強ブロックの上横骨及び下横骨の各天板部と、吹寄補強ブロックの吹寄部内板と、を溶接して側構体ブロックを形成する側構体ブロック形成工程を備えているので、既に、側外板と上横骨及び下横骨の各フランジ部とをレーザ溶接して剛性を高めた側外板補強ブロックの上横骨及び下横骨の各天板部と、吹寄補強ブロックの吹寄部内板と、を溶接して側構体ブロックを形成することができる。そのため、上横骨及び下横骨の天板部と吹寄部内板とを溶接する際の側外板に生じる変形や熱歪を大幅に低減できる。
【0031】
したがって、横長の側窓を有する側外板の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓の車室側で効果的に補強できる鉄道車両の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、横長の側窓を有する側外板の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓の車室側で効果的に補強できる鉄道車両及びその鉄道車両の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態の一態様に係る鉄道車両の概略側面図である。
【
図2】
図1に示す側構体のA部を車両内方(車室側)から見た部分側面図である。
【
図3】
図2に示す側構体の断面図であって、(A)はB-B断面図を示し、(B)はC-C断面図を示し、(C)はD-D断面図を示す。
【
図5】
図1に示す鉄道車両の製造方法を表すフローチャート図である。
【
図6】
図2に示すF部の斜視図であって、
図5に示す側外板補強ブロック形成工程の説明図である。
【
図7】
図2に示す吹寄補強ブロックの車両内方(車室側)から見た側面図であって、
図5に示す吹寄補強ブロック形成工程の説明図である。
【
図8】
図2に示すG部の斜視図であって、
図5に示す側構体ブロック形成工程の説明図である。
【
図9】
図2に示すG部の斜視図であって、
図5に示す側構体ブロック形成工程の変形例の説明図である。
【
図10】特許文献1に記載された鉄道車両の側構体を車両内方(車室側)から見た部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<本鉄道車両の構成>
次に、本発明の実施形態の一態様に係る鉄道車両について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図1に、本発明の実施形態の一態様に係る鉄道車両の概略側面図を示す。
図1に示すように、本態様の鉄道車両10は、ステンレス鋼板SKを車体STの側外板1に用い、側外板1に車両長手方向へ連続状に形成された横長の側窓2を備えている。ステンレス鋼板SKは、高強度で軽量化が可能なオーステナイト系ステンレス鋼板が好ましく、2mm程度の板厚で形成されている。また、車体STは、レールRL上を走行する台車DSに支持される台枠DWと、台枠DWの車両幅方向の両端部から上方に起立する側構体GKと、台枠DWの車両長手方向の両端部から上方に起立する妻構体TKと、側構体GK及び妻構体TKの上端部に接続された屋根構体YKと、を備えている。側構体GKには、妻構体TK寄りの位置に乗降用の側扉GTが形成されている。
図1では、側扉GTは、1つであるが、複数でも良い。
【0036】
また、側構体GKは、車両長手方向で複数の側構体ブロックGK1、GK2、GK3に分割され、各側構体ブロックGK1、GK2、GK3は、図示しない境界部で接合されている。側構体GKの車外側に配置される側外板1には、車両長手方向へ連続状に形成された横長の側窓2が形成されている。側窓2は、例えば、一方の妻構体TKと側扉GTとの間で、横長の略長方形状に形成されている。側外板1は、側窓2の車両上方に位置する幕部1aと、側窓2の車両下方に位置する腰部1bと、を備えている。側構体GKは、側窓2の車両長手方向中間部で、幕部1aと腰部1bとを車室側で繋ぐ複数の吹寄補強ブロック5Hを備えている。吹寄補強ブロック5Hの詳細は、後述する。
【0037】
また、
図2に、
図1に示す側構体のA部を車両内方(車室側)から見た部分側面図を示す。
図3に、
図2に示す側構体の断面図であって、(A)はB-B断面図を示し、(B)はC-C断面図を示し、(C)はD-D断面図を示す。
図4に、
図2に示すE矢視図を示す。
図2~
図4に示すように、側構体GKには、側窓2の車両上方で側外板1の車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の上横骨3、7と、側窓2の車両下方で側外板1の車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の下横骨4、8と、を設けている。上横骨3、7と下横骨4、8は、各側構体ブロックGK1、GK2、GK3の車両長手方向の長さと略同一の長さに形成され、互いに平行に配置されている。上横骨3、7と下横骨4、8は、例えば、板厚が1~3mm程度の鋼板(例えば、ステンレス鋼板)を、略同一の高さのハット状断面に折り曲げ加工して形成されている。
【0038】
なお、上横骨3、7は、側窓2の上端部21に隣接して配置される上横骨3と、当該上横骨3の車両上方で平行に複数配置される他の上横骨7(7a、7b)と、を備え、最上方の横骨7bは、側外板1(幕部1a)の上端部に隣接して配置されている。また、下横骨4、8は、側窓2の下端部22に隣接して配置される下横骨4と、当該下横骨4の車両下方で平行に複数配置される他の下横骨8、8、8と、を備え、最下方の下横骨8は、側外板1(腰部1b)の下端部に隣接して配置されている。
【0039】
また、側構体GKは、側窓2の車両長手方向中間部で、上横骨3、7と下横骨4、8とを車室側で繋ぐ吹寄部内板5と、吹寄部内板5の車室側に接合された縦骨6と、を有する吹寄補強ブロック5Hを複数備えている。吹寄部内板5は、例えば、板厚が1~3mm程度の一体の鋼板(例えば、ステンレス鋼板)で平板状に形成されている。ここでは、車両長手方向に離間した一対の縦骨6、6が、車両上下方向へ平行に配置されている。一対の縦骨6、6は、吹寄部内板5の車両長手方向中心部で車両上下方向に延びる吹寄中心線5CLに対して、左右対称に形成されている。
【0040】
また、上横骨3、7の各フランジ部31、71は、幕部1aに対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、下横骨4、8の各フランジ部41、81は、腰部1bに対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接されている。このレーザ溶接では、上横骨3、7及び下横骨4、8の各フランジ部31、41、71、81に対して、車室側からレーザビームRBを連続状に照射して、フランジ部31、41、71、81と側外板1の車室側部分とを重ね溶接する(
図6参照)ので、レーザ溶接の溶接ビード(表ビード)RYは各フランジ部31、41、71、81に表れているが、レーザ溶接の裏ビードは、側外板1の車外側に表れていない。そのため、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。
【0041】
なお、上横骨3、7は、側窓2の車両上方で側外板1の幕部1aの車室側に上下に離間して並列配置され、下横骨4、8は、側窓2の車両下方で側外板1の腰部1bの車室側に上下に離間して並列配置されているので、側外板1の幕部1a及び腰部1bに対して、上横骨3、7と下横骨4、8とをそれぞれ分離して配置できる。そのため、側外板1の幕部1a及び腰部1bに対して、上横骨3、7のフランジ部31、71と下横骨4、8のフランジ部41、81とを精度良く当接できる。その結果、側外板1の幕部1aと腰部1bとに対して、上横骨3、7のフランジ部31、71と下横骨4、8のフランジ部41、81とをそれぞれ安定した品質でレーザ溶接することができる。
【0042】
また、吹寄部内板5は、全ての上横骨3、7及び全ての下横骨4、8の各天板部32、42、72、82に対して溶接(例えば、レーザ溶接)され、縦骨6は、吹寄部内板5の上端部521から下端部531まで延設されている。縦骨6のフランジ部61は、吹寄部内板5に対して、上端部521から下端部531まで所定の間隔で連続的に接合(例えば、スポット溶接)されている。そのため、側窓2の車両長手方向中間部で、全ての上横骨3、7と全ての下横骨4、8とを吹寄部内板5と縦骨6によって車室側で繋ぐことができ、車両上下方向の強度を高めることができる。これによって、横長の側窓2を形成した側外板1を補強する部品の部品点数を低減でき、それに伴い、溶接工数を低減させることができる。
【0043】
よって、本鉄道車両10によれば、横長の側窓2を有する側外板1の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓2の車室側で効果的に補強できる鉄道車両10を提供することができる。
【0044】
また、本鉄道車両10においては、
図2~
図4に示すように、縦骨6は、ハット状断面に形成され、側窓2の上端部21に隣接する上横骨3の位置で、及び側窓2の下端部22に隣接する下横骨4の位置で、フランジ部61の外縁から互いに離間する車両長手方向へ突出するフランジ突出部62を備え、吹寄部内板5は、側窓2の領域に形成される吹寄柱部51と、幕部1aの領域で吹寄柱部51より幅広く形成された上吹寄拡張部52と、腰部1bの領域で吹寄柱部51より幅広く形成された下吹寄拡張部53と、を備え、上吹寄拡張部52と下吹寄拡張部53は、フランジ突出部62より大きく車両長手方向へ拡張されていることが好ましい。
【0045】
この場合、吹寄柱部51と上吹寄拡張部52とが交差する車両上方の隅部SM、及び、吹寄柱部51と下吹寄拡張部53とが交差する車両下方の隅部SMを、上吹寄拡張部52とフランジ突出部62、及び、下吹寄拡張部53とフランジ突出部62とが、それぞれ2枚重ねの状態で補強できる。そのため、上下の隅部SMにおける応力集中を緩和して、側外板1を側窓2の車室側でより一層効果的に補強できる。
【0046】
なお、縦骨6は、例えば、板厚が1~3mm程度の鋼板(例えば、ステンレス鋼板)を、略同一の高さのハット状断面に折り曲げ加工して形成されている。一対の縦骨6、6では、フランジ突出部62は、互いに近接する位置のフランジ部61には形成されず、互いに離間する位置のフランジ部61から互いに反対方向へ突出するように形成されている。フランジ突出部62は、側窓2側の外縁が円弧状に形成されている。そして、吹寄柱部51と上吹寄拡張部52及び下吹寄拡張部53とが交差する上下の隅部SMの外縁は、フランジ突出部62の円弧状外縁と同一形状に形成されている。吹寄柱部51の車両長手方向の外縁は、縦骨6の互いに離間する位置のフランジ部61の外縁と一致するように形成されている。
【0047】
また、上吹寄拡張部52と下吹寄拡張部53は、幕部1aの領域全体及び腰部1bの領域全体で、フランジ突出部62より車両長手方向へ大きく拡張され、かつ略同一の横幅で形成されている。そのため、側外板1の幕部1aと腰部1bの各領域において、上横骨3、7及び下横骨4、8の各天板部32、42、72、82に吹寄部内板5の上吹寄拡張部52及び下吹寄拡張部53を溶接する溶接位置を、より広い範囲に分散して配置することができる。
【0048】
具体的には、上吹寄拡張部52は、2つの上横骨7(7a、7b)の各天板部72(72a、72b)に対して、一対の縦骨6、6の各フランジ部61に隣接する8箇所の位置と、上吹寄拡張部52の車両長手方向の外縁部に隣接する4箇所の位置で、溶接されている。また、上吹寄拡張部52は、1つの上横骨3の天板部32に対して、一対の縦骨6、6の各フランジ部61に隣接する2箇所の位置と、上吹寄拡張部52の車両長手方向の外縁部に隣接する2箇所の位置で、溶接されている。上記溶接する位置は、互いに同一程度の距離で離間している。
【0049】
また、下吹寄拡張部53は、3つの下横骨8の各天板部82に対して、一対の縦骨6、6の各フランジ部61に隣接する12箇所の位置と、下吹寄拡張部53の車両長手方向の外縁部に隣接する6箇所の位置で、溶接されている。また、下吹寄拡張部53は、一対の縦骨6、6の各フランジ部61に隣接する2箇所の位置と、下吹寄拡張部53の車両長手方向の外縁部に隣接する2箇所の位置で、1つの下横骨4の天板部42と溶接されている。上記溶接する位置は、互いに同一程度の距離で離間している。
【0050】
したがって、上横骨3、7及び下横骨4、8と吹寄部内板5との連結強度を高めつつ、上横骨3、7及び下横骨4、8に対して吹寄部内板5を溶接する際の溶接熱を、より広い範囲で分散させることができる。その結果、側外板1を側窓2の車室側でより一層効果的に補強しつつ、側外板1に対する熱影響をより一層低減でき、側外板1の外観性を向上させることができる。
【0051】
また、本鉄道車両10においては、
図2~
図4に示すように、吹寄柱部51と上吹寄拡張部52とが交差する車両上方の隅部SM、及び、吹寄柱部51と下吹寄拡張部53とが交差する車両下方の隅部SMの内、少なくとも1つの隅部SMには、平面視で略L字状に形成された隅部補強板63が、縦骨6の側窓2側のフランジ部61及びフランジ突出部62の車室側に接合されていることが好ましい。なお、隅部補強板63は、吹寄柱部51に対して上吹寄拡張部52及び下吹寄拡張部53が交差する上下4つの隅部SMの内、補強が必要な箇所に設ければよい。
【0052】
この場合、応力集中しやすい隅部SMにおいて、吹寄部内板5と縦骨6の側窓2側のフランジ部61及びフランジ突出部62と隅部補強板63とが3枚重ね状態でより一層強固に補強することができる。また、隅部補強板63は、縦骨6の側窓2側のフランジ部61とフランジ突出部62の車室側に接合されているので、隅部補強板63は、必要に応じて事後的に追加することもできる。そのため、簡単かつ自由度を持って、隅部SMの補強効果を高めることができる。具体的には、吹寄部内板5と縦骨6の側窓2側のフランジ部61と隅部補強板63とを3枚重ねの状態でスポット溶接し、吹寄部内板5とフランジ突出部62と隅部補強板63とを3枚重ねの状態で下横骨4の天板部42(又は上横骨3の天板部32)に栓溶接又はリング溶接する。
【0053】
また、本鉄道車両10においては、
図2に示すように、吹寄部内板5は、縦骨6と異なる位置で、上横骨3、7及び下横骨4、8の各天板部32、42、72、82に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されていることが好ましい。
【0054】
この場合、吹寄部内板5と、上横骨3、7及び下横骨4、8の各天板部32、42、72、82と、を2枚重ねの状態で安定してレーザ溶接でき、レーザ溶接の溶け込み不良等を簡単に回避することができる。また、吹寄部内板5は、各天板部32、42、72、82に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されているので、縦骨6と隣接する位置で、吹寄部内板5と上横骨3、7及び下横骨4、8とをより多くの箇所で溶接でき、上横骨3、7及び下横骨4、8に対する吹寄部内板5と縦骨6との連結強度を高めることができる。そのため、横長の側窓2が形成された側外板1を、側窓2の車室側でより一層効果的に補強できる。また、フランジ突出部62は、縦骨6の側窓2側のフランジ部61のフランジ先端部から、吹寄せ中心線CLに対して離間する方向へ、縦骨6の全幅寸法よりも長く突出していることが好ましい。また、フランジ突出部62の先端部は、接合する上横骨3又は下横骨4の天板部32、42の幅寸法(車両上下方向の寸法)の6割以上の車両上下方向の幅寸法を有していることが好ましい。
【0055】
<本鉄道車両の製造方法>
次に、本鉄道車両の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図5に、
図1に示す鉄道車両の製造方法を表すフローチャート図を示す。
図6に、
図2に示すF部の斜視図であって、
図5に示す側外板補強ブロック形成工程の説明図を示す。
図7に、
図2に示す吹寄補強ブロックの車両内方(車室側)から見た側面図であって、
図5に示す吹寄補強ブロック形成工程の説明図を示す。
図8に、
図2に示すG部の斜視図であって、
図5に示す側構体ブロック形成工程の説明図を示す。
図9に、
図2に示すG部の斜視図であって、
図5に示す側構体ブロック形成工程の変形例の説明図を示す。
【0056】
図2~
図9に示すように、本鉄道車両10の製造方法は、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接して側外板補強ブロック1Hを形成する側外板補強ブロック形成工程S1と、吹寄部内板5と縦骨6とを接合して吹寄補強ブロック5Hを形成する吹寄補強ブロック形成工程S2と、側外板補強ブロック1Hの上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と、吹寄補強ブロック5Hの吹寄部内板5と、を溶接して側構体ブロックGK1、GK2、GK3を形成する側構体ブロック形成工程S3と、を備えている。
【0057】
本鉄道車両10の製造方法においては、
図2~
図6に示すように、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接して側外板補強ブロック1Hを形成する側外板補強ブロック形成工程S1を備えているので、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。また、溶接工数の低減を図ることもできる。
【0058】
すなわち、車室側からレーザビームRBを連続状に照射して、フランジ部31、41、71、81と側外板1の車室側部分とを重ね溶接するので、レーザ溶接の溶接ビード(表ビード)RYは各フランジ部31、41、71、81と側外板1の車室側部分との間で形成され、レーザ溶接の裏ビードは、側外板1の車外側に表れていない。そのため、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。
【0059】
また、上横骨3、7(7a、7b)は、側窓2の車両上方で側外板1の車室側に上下に離間して並列配置され、下横骨4、8は、側窓2の車両下方で側外板1の車室側に上下に離間して並列配置されているので、幕部1a及び腰部1bに対して、上横骨3、7と下横骨4、8とをそれぞれ分離して配置でき、レーザ溶接時におけるレーザビームRBの移動空間を直線的に確保できる。そのため、側外板1の幕部1a及び腰部1bに対して、上横骨3、7のフランジ部31、71と下横骨4、8のフランジ部41、81とを迅速に溶接できる。そのため、溶接工数の低減を図ることもできる。
【0060】
また、
図2~
図5、
図7に示すように、吹寄部内板5と縦骨6とを接合して吹寄補強ブロック5Hを形成する吹寄補強ブロック形成工程S2を備えているので、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8の各フランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接して側外板補強ブロック1Hを形成する側外板補強ブロック形成工程S1とは別に、吹寄部内板5と縦骨6とを接合して吹寄補強ブロック5Hを予め形成することができる。そのため、吹寄部内板5と縦骨6とを接合した吹寄補強ブロック5Hをシンプルな構造で形成でき、部品点数の削減、及び、それに伴って溶接等の工数を低減できる。
【0061】
また、上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82に対して吹寄部内板5を溶接する以前に、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接することができる。そのため、吹寄部内板5を溶接することによって生じ得る上横骨3、7及び下横骨4、8の歪や変形を、レーザ溶接前に矯正する必要がない。したがって、矯正等の修正工数を削減できると同時に、レーザ溶接における溶接品質が向上し、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。
【0062】
また、
図2~
図5、
図8、
図9に示すように、側外板補強ブロック1Hの上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と、吹寄補強ブロック5Hの吹寄部内板5と、を溶接して側構体ブロックGK1、GK2、GK3を形成する側構体ブロック形成工程S3を備えているので、既に、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41、71、81とをレーザ溶接して剛性を高めた側外板補強ブロック1Hの上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と、吹寄補強ブロック5Hの吹寄部内板5と、を溶接することができる。そのため、上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と吹寄部内板5とを溶接する際の側外板1に生じる変形や熱歪を大幅に低減できる。
【0063】
したがって、横長の側窓2を有する側外板1の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓2の車室側で効果的に補強できる鉄道車両10の製造方法を提供することができる。
【0064】
<変形例>
なお、本鉄道車両10は、本発明の要旨を変更しない範囲で、各種形態に変更できることは言うまでもない。例えば、本鉄道車両10においては、車両長手方向に離間した一対の縦骨6、6が、車両上下方向へ平行に配置されている。一対の縦骨6では、フランジ突出部62は、互いに離間する位置のフランジ部61から互いに反対方向へ突出するように形成されている。しかし、一対の縦骨6、6に限定する必要はない。例えば、1つの縦骨6でも良い。この場合、フランジ突出部62は、左右のフランジ部61から互いに反対方向へ突出するように形成されている。
【0065】
また、本鉄道車両10においては、
図2~
図4に示すように、縦骨6は、ハット状断面に形成され、側窓2の上端部21に隣接する上横骨3の位置で、及び側窓2の下端部22に隣接する下横骨4の位置で、フランジ部61の外縁から互いに離間する車両長手方向へ突出するフランジ突出部62を備えている。このフランジ突出部62は、フランジ部61の外縁から一体で互いに離間する車両長手方向へ突出するように形成されている(
図2~
図4参照)が、必ずしも、フランジ部61の外縁から一体に形成している必要はない。例えば、
図9に示すように、フランジ突出部62Bは、一定のフランジ幅で形成したフランジ部61の車室側に重ねて接合する他のフランジ部61Bの外縁から互いに離間する車両長手方向へセギリ部621Bを介して突出するように形成したものでも良い。この場合、吹寄部内板5と縦骨6の側窓2側のフランジ部61と他のフランジ部61Bとを3枚重ねの状態でスポット溶接し、吹寄部内板5とフランジ突出部62Bとを2枚重ねの状態で下横骨4の天板部42(又は上横骨3の天板部32)に栓溶接又はリング溶接する。
【0066】
また、例えば、本鉄道車両10の製造方法は、吹寄部内板5と縦骨6とを接合して吹寄補強ブロック5Hを形成する吹寄補強ブロック形成工程S2と、側外板補強ブロック1Hの上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と、吹寄補強ブロック5Hの吹寄部内板5と、を溶接して側構体ブロックGK1、GK2、GK3を形成する側構体ブロック形成工程S3を備えている。しかし、隅部補強板63を、縦骨6の側窓2側のフランジ部61及びフランジ突出部62の車室側に接合する場合には、吹寄補強ブロック形成工程S2にて、隅部補強板63の一部を、縦骨6の側窓2側のフランジ部61、61Bの車室側に接合しておき、側構体ブロック形成工程S3にて、隅部補強板63の他部を、フランジ突出部62、62Bの車室側に接合しても良い。
【0067】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両10によれば、上横骨3、7の各フランジ部31、71は、幕部1aに対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接され、下横骨4、8の各フランジ部41、81は、腰部1bに対して車両長手方向に沿ってレーザ溶接されているので、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。
【0068】
また、吹寄部内板5は、全ての上横骨3、7及び全ての下横骨4、8の各天板部32、42、72、82に対して溶接され、縦骨6は、吹寄部内板5の上端部521から下端部531まで延設されているので、側窓2の車両長手方向中間部で、全ての上横骨3、7と全ての下横骨4、8とを吹寄部内板5と縦骨6によって車室側で繋ぐことができ、車両上下方向の強度を高めることができる。これによって、横長の側窓2を形成した側外板1を補強する部品の部品点数を低減でき、それに伴い、溶接工数を低減させることができる。
【0069】
よって、本実施形態によれば、横長の側窓2を有する側外板1の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓2の車室側で効果的に補強できる鉄道車両10を提供することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、縦骨6は、ハット状断面に形成され、側窓2の上端部21に隣接する上横骨3の位置で、及び側窓2の下端部22に隣接する下横骨4の位置で、フランジ部61の外縁から互いに離間する車両長手方向へ突出するフランジ突出部62、62Bを備え、吹寄部内板5は、側窓2の領域に形成される吹寄柱部51と、幕部1aの領域で吹寄柱部51より幅広く形成された上吹寄拡張部52と、腰部1bの領域で吹寄柱部51より幅広く形成された下吹寄拡張部53と、を備え、上吹寄拡張部52と下吹寄拡張部53は、フランジ突出部62、62Bより大きく車両長手方向へ拡張されているので、吹寄柱部51と上吹寄拡張部52とが交差する車両上方の隅部SM、及び、吹寄柱部51と下吹寄拡張部53とが交差する車両下方の隅部SMを、上吹寄拡張部52とフランジ突出部62、62B、及び、下吹寄拡張部53とフランジ突出部62、62Bとが、それぞれ2枚重ねの状態で補強できる。そのため、上下の隅部SMにおける応力集中を緩和して、側外板1を側窓2の車室側でより一層効果的に補強できる。
【0071】
また、側外板1の幕部1aと腰部1bの各領域において、上横骨3、7及び下横骨4、8の各天板部32、42、72、82に吹寄部内板5の上吹寄拡張部52及び下吹寄拡張部53を溶接する溶接位置を、より広い範囲に分散して配置することができる。そのため、上横骨3、7及び下横骨4、8と吹寄部内板5との連結強度を高めつつ、上横骨3、7及び下横骨4、8に対して吹寄部内板5を溶接する際の溶接熱を、より広い範囲で分散させることができる。その結果、側外板1を側窓2の車室側でより一層効果的に補強しつつ、側外板1に対する熱影響をより一層低減でき、側外板1の外観性を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、吹寄柱部51と上吹寄拡張部52とが交差する車両上方の隅部SM、及び、吹寄柱部51と下吹寄拡張部53とが交差する車両下方の隅部SMの内、少なくとも1つの隅部SMには、平面視で略L字状に形成された隅部補強板63が、縦骨6の側窓2側のフランジ部61、61B及びフランジ突出部62、62Bの車室側に接合されているので、応力集中しやすい隅部SMにおいて、吹寄部内板5と縦骨6の側窓2側のフランジ部61、62B及びフランジ突出部62、62Bと隅部補強板63とが多層重ね状態でより一層強固に補強することができる。また、隅部補強板63は、縦骨6の側窓2側のフランジ部61、61Bとフランジ突出部62、62Bの車室側に接合されているので、隅部補強板63は、必要に応じて事後的に追加することもできる。そのため、簡単かつ自由度を持って、隅部SMの補強効果を高めることができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、吹寄部内板5は、縦骨6と異なる位置で、上横骨3、7及び下横骨4、8の各天板部32、42、72、82に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されているので、吹寄部内板5と、上横骨3、7及び下横骨4、8の各天板部32、42、72、82と、を2枚重ねの状態で安定してレーザ溶接でき、レーザ溶接の溶け込み不良等を簡単に回避することができる。また、吹寄部内板5は、各天板部32、42、72、82に対して車両上下方向に沿ってレーザ溶接されているので、縦骨6と隣接する位置で、吹寄部内板5と上横骨3、7及び下横骨4、8とをより多くの箇所で溶接でき、上横骨3、7及び下横骨4、8に対する吹寄部内板5と縦骨6との連結強度を高めることができる。そのため、横長の側窓2が形成された側外板1を、側窓2の車室側でより一層効果的に補強できる。
【0074】
また、本他の実施形態に係る鉄道車両の製造方法によれば、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接して側外板補強ブロック1Hを形成する側外板補強ブロック形成工程S1を備えているので、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。なお、上横骨3、7は、側窓2の車両上方で側外板1の車室側に上下に離間して並列配置され、下横骨4、8は、側窓2の車両下方で側外板1の車室側に上下に離間して並列配置されているので、幕部1a及び腰部1bに対して、上横骨3、7と下横骨4、8とをそれぞれ分離して配置でき、レーザ溶接時におけるレーザビームRBの移動空間を直線的に確保できる。そのため、側外板1の幕部1a及び腰部1bに対して、上横骨3、7のフランジ部31、71と下横骨4、8のフランジ部41、81とを迅速に溶接できる。その結果、溶接工数の低減を図ることもできる。
【0075】
また、本他の実施形態によれば、吹寄部内板5と縦骨6とを接合して吹寄補強ブロック5Hを形成する吹寄補強ブロック形成工程S2を備えているので、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接して側外板補強ブロック1Hを形成する側外板補強ブロック形成工程S1とは別に、吹寄部内板5と縦骨6とを接合して吹寄補強ブロック5Hを予め形成することができる。そのため、吹寄部内板5と縦骨6とを接合した吹寄補強ブロック5Hをシンプルな構造で形成でき、部品点数の削減、及び、それに伴って溶接等の工数を低減できる。また、上横骨3、7及び下横骨4、8に対して吹寄部内板5を溶接する以前に、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41,71、81とをレーザ溶接することができる。そのため、吹寄部内板5を溶接することによって変形する上横骨3、7及び下横骨4、8を、レーザ溶接前に矯正する必要がない。したがって、矯正等の修正工数を削減できると同時に、レーザ溶接における溶接品質が向上し、側外板1の幕部1a及び腰部1bにおける、外観性を向上させつつ、車両長手方向の強度を高めることができる。
【0076】
また、本他の実施形態によれば、側外板補強ブロック1Hの上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と、吹寄補強ブロック5Hの吹寄部内板5と、を溶接して側構体ブロックGK1、GK2、GK3を形成する側構体ブロック形成工程S3を備えているので、既に、側外板1と上横骨3、7及び下横骨4、8のフランジ部31、41、71、81とをレーザ溶接して剛性を高めた側外板補強ブロック1Hの上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と、吹寄補強ブロック5Hの吹寄部内板5と、を溶接することができる。そのため、上横骨3、7及び下横骨4、8の天板部32、42、72、82と吹寄部内板5とを溶接する際の側外板1に生じる変形や熱歪を大幅に低減できる。
【0077】
よって、本他の実施形態によれば、横長の側窓2を有する側外板1の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓2の車室側で効果的に補強できる鉄道車両10の製造方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、ステンレス鋼板を車体の側外板に用い、車両長手方向に連続状に形成された横長の側窓を備えた鉄道車両及びその製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 側外板
1a 幕部
1b 腰部
1H 側外板補強ブロック
2 側窓
3、7 上横骨
4、8 下横骨
5 吹寄部内板
5H 吹寄補強ブロック
6 縦骨
10 鉄道車両
21 上端部
22 下端部
31、41、61、61B、71、81 フランジ部
32、42、72、82 天板部
51 吹寄柱部
52 上吹寄拡張部
53 下吹寄拡張部
62、62B フランジ突出部
63 隅部補強板
521 上端部
531 下端部
GK1、GK2、GK3 側構体ブロック
S1 側外板補強ブロック形成工程
S2 吹寄補強ブロック形成工程
S3 側構体ブロック形成工程
SK ステンレス鋼板
SM 隅部
ST 車体
【要約】
【課題】横長の側窓を有する側外板の外観性を高めながら、部品点数及び溶接工数を低減して側窓の車室側で効果的に補強できる鉄道車両及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ステンレス鋼板を車体STの側外板1に用い、側外板に横長の側窓2を備え、幕部1aの車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の上横骨3、7と、腰部1bの車室側に上下に離間して並列配置されたハット状断面の下横骨4、8と、を設け、側窓の車両長手方向中間部で、上横骨と下横骨とを車室側で繋ぐ吹寄部内板5と、吹寄部内板の車室側に接合された縦骨6と、を備えた鉄道車両10である。上横骨の各フランジ部31、71は、幕部にレーザ溶接され、下横骨の各フランジ部41、81は、腰部にレーザ溶接され、吹寄部内板は、全上横骨及び全下横骨の各天板部32、42、72、82に溶接され、縦骨は、吹寄部内板の上端部521から下端部531まで延設されている。
【選択図】
図2