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  • 特許-診断装置及び診断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20240624BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01M13/04
G01H17/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023148749
(22)【出願日】2023-09-13
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】515098015
【氏名又は名称】TMES株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 則行
(72)【発明者】
【氏名】水上 紘子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 学
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-115113(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027725(WO,A1)
【文献】特開2002-022617(JP,A)
【文献】特開昭52-129494(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111175045(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを取得する取得部と、
前記取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、前記軸受の異常を診断する診断部と、を備え
前記加速度データから得られ、前記軸受の軸径に応じた加速度診断結果と、前記速度データから得られ、前記軸受を回転駆動させるモータのモータ出力に応じた速度診断結果と、前記加速度データ及び前記速度データを対象とした総合診断結果を表示する表示制御部、をさらに備える診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、前記軸受を備える機器の設置環境、及び前記機器の設置年数の少なくとも何れかに基づいて、前記軸受の異常を診断する、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを取得するステップと、
前記取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、前記軸受の異常を診断するステップと、を備え
前記加速度データから得られ、前記軸受の軸径に応じた加速度診断結果と、前記速度データから得られ、前記軸受を回転駆動させるモータのモータ出力に応じた速度診断結果と、前記加速度データ及び前記速度データを対象とした総合診断結果を表示するステップ、をさらに備える診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物等の設備機器の予防保全に関する技術開発が進められており、関連する発明も公開されている。例えば、特許文献1には、2つの軸受の保持部材に取り付けられる2つのひずみゲージの出力を比較して軸受の異常を診断する軸受装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2023-81149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明は、軸受異常診断にひずみゲージしか用いないため、診断結果から得られる情報量が乏しい。
このような観点から、本発明は、機器予防保全の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決する本発明に係る診断装置は、軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを取得する取得部と、
前記取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、前記軸受の異常を診断する診断部と、を備える診断装置である。
また、本発明に係る診断方法は、軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを取得するステップと、
前記取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、前記軸受の異常を診断するステップと、を備える診断方法である。
本発明によれば、加速度データから転がり軸受の油切れやキズ等の異常を診断できる。また、速度データから軸受のアンバランスやミスアライメント等の異常を診断できる。このように、診断結果から多くの情報を得ることができる。
また、近年のIoT(Internet of Things)機器の普及に伴い、軸受異常診断の対象は大多数に及ぶ。このような事情に対し、本発明は、軸受異常診断の初期段階で広域的かつ簡易に行うことができるため、機器予防保全の作業効率を向上させることができる。
【0006】
ここで、前記加速度データから得られ、前記軸受の軸径に応じた加速度診断結果と、前記速度データから得られ、前記軸受を回転駆動させるモータのモータ出力に応じた速度診断結果と、前記加速度データ及び前記速度データを対象とした総合診断結果を表示する表示制御部、をさらに備えることが好ましい。
これにより、診断結果を可視化できるため、異常を容易に把握できる。
【0007】
また、前記診断部は、前記軸受を備える機器の設置環境、及び前記機器の設置年数の少なくとも何れかに基づいて、前記軸受の異常を診断することが好ましい。
これにより、軸受の異常の診断精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機器予防保全の作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の診断装置の機能構成図である。
図2】加速度判定テーブルの例の説明図である。
図3】速度判定テーブルの例の説明図である。
図4】総合判定テーブルの例の説明図である。
図5】診断結果の表示例である。
図6】他の総合判定テーブルの例の説明図(a)、(b)である。
図7】本実施形態の診断方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0011】
[構成]
図1は、本実施形態の診断装置の機能構成図である。診断装置100は、対象機器が備える軸受の異常を診断する情報処理装置である。対象機器は、例えば、建物に設置されているポンプや空調機であるが、これらに限定されない。
【0012】
診断装置100は、入力部、出力部、制御部、および、記憶部といったハードウェアを備える。例えば、制御部がCPU(Central Processing Unit)から構成される場合、その制御部を含むコンピュータによる情報処理は、CPUによるプログラム実行処理で実現される。また、そのコンピュータに含まれる記憶部は、CPUの指令により、そのコンピュータの機能を実現するためのさまざまなプログラムを記憶する。これによりソフトウェアとハードウェアの協働が実現される。前記プログラムは、記録媒体に記録したり、ネットワークを経由したりすることで提供可能となる。診断装置100は、ユーザが使用するコンソール(図示せず)と通信可能に接続してもよい。接続形態は有線でもよいし、無線でもよい。コンソールは、診断装置100の処理結果を表示したり、診断装置100に対する要求を入力したりすることができる。
【0013】
また、診断装置100は、IoTセンサ1(IoTは、Internet of Thingsの略)と、測定器2と、タブレット端末3と通信可能に接続している。接続形態は有線でもよいし、無線でもよい。
IoTセンサ1は、対象機器に取り付けられているセンサである。IoTセンサ1は、対象機器が備える軸受の振動を常時検出できる。IoTセンサ1は、例えば、軸受の加速度を検出できる加速度センサや、軸受の速度を検出できる速度センサであるが、これらに限定されない。加速度センサは、例えば、静電容量方式や圧電方式でよいが、これらに限定されない。速度センサは、例えば、渦電流方式、ホール効果方式、可変リラクタンス方式でよいが、これらに限定されない。
測定器2は、対象機器が備える軸受の振動を測定する振動計ロガーである。測定器2は、例えば、磁気ベース付きのプローブを備えており、ユーザがプローブを対象機器の所定位置に当てることで、軸受の加速度や速度を測定できる。
タブレット端末3は、対象機器に関するデータを入力できる情報端末である。ユーザは、タブレット端末3を操作して、対象機器が備える軸受の振動に関するデータを入力できる。入力するデータは、振動を示す加速度データや速度データでもよいし、メモなどのテキストデータでもよいし、対象機器を撮影した画像データでもよいが、これらに限定されない。
【0014】
診断装置100は、取得部11と、診断部12と、表示制御部13とを備えている。また、診断装置100は、基本情報DB21と、測定情報DB22と、加速度判定テーブル31と、速度判定テーブル32と、総合判定テーブル33とを記憶している。「DB」はデータベース(Data Base)の略である。
【0015】
取得部11は、IoTセンサ1、測定器2、及びタブレット端末3からデータを取得する。取得するデータは、例えば、対象機器の軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データであるが、これらに限定されない。加速度データ及び速度データは、例えば、所定の周波数帯域に亘って所定のサンプリングタイミングごとに収集された波形データとすることができる。また、波形データを解析して得られた加速度の実効値(RMS : Root Mean Square)及び速度の実効値でもよい。
診断部12は、取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、対象機器の軸受の異常を診断する。診断部12は、診断の際、加速度判定テーブル31、速度判定テーブル32、及び総合判定テーブル33の少なくとも1つを利用できる。
表示制御部13は、診断部12による診断結果を表示する。表示先は、例えば、診断装置100の表示部でもよいし、診断装置100と通信可能に接続されているコンソールの表示部でもよい。また、診断結果の表示は、画面表示でもよいし、印刷出力による表示でもよい。診断結果は、例えば、加速度判定テーブル31を利用した加速度診断結果、速度判定テーブル32を利用した速度診断結果、及び総合判定テーブル33を利用した総合診断結果であるが、これらに限定されない。
【0016】
基本情報DB21は、対象機器に関する基本情報を格納するDBである。基本情報は、例えば、対象機器を利用している顧客を示す「顧客名」、対象機器が設置されている建物を示す「建物名」、対象機器の識別子となる「機器No」、対象機器の種類を示す「機器名称」、対象機器の製造者を示す「メーカー」、対象機器の「型番」、対象機器が備える軸受の「ベアリング型番」、軸受の「軸径」[mm]、軸受を駆動するモータの「モータ出力」[kW]、モータの「極数」[P]、対象機器の設置時期を示す「設置年月日」[yyyy/mm/dd]を含むが、これらに限定されない。
測定情報DB22は、対象機器に関する測定情報を格納するDBである。測定情報は、例えば、測定時期を示す「測定日」、対象機器の測定箇所を示す測定位置(例:IoTセンサ1の取付位置、測定器2のプローブを当てた位置)、測定に用いた測定器2の種類を示す「振動測定器」、加速度の測定値である「加速度RMS」[m/s2]、速度の測定値である「速度RMS」[mm/s]、対象機器の運転状態での周波数を示す「運転周波数」[Hz]、対象機器の軸受の回転速度(又は軸受を駆動するモータの回転速度)を示す「回転速度」[RPM]、対象機器の運転状態での電流値を示す「電流」[A]、対象機器の運転状態での温度を示す「温度」[℃]、対象機器の運転状態での変位を示す「変位」[mm]を含むが、これらに限定されない。取得部11が取得した加速度データ及び速度データを測定情報としてもよいし、加速度データ及び速度データに対して所定の解析処理や演算処理を施して得られた値を測定情報としてもよい。
【0017】
加速度判定テーブル31は、軸受の(測定位置での)測定で得られる加速度の実効値(加速度RMS)と、軸受の異常との関係性を示すテーブルである。図2は、加速度判定テーブルの例の説明図である。軸受の異常は、異常度の高い順から「危険」、「警告」、「可」、「良」の4段階に分けることができる。基本的には、加速度の実効値が大きいほど異常度は高いといえる。また、同じ加速度の実効値を示す場合、軸受の軸径が小さくなるほど異常度は高いといえる。加速度判定テーブル31は、軸径の範囲を4つに分け(25mm以下、50mm以下、75mm以下、100mm以下)、4つの軸径の範囲ごとに異常度の範囲を示している。診断部12は、対象機器の対象軸受について、基本情報DB21から読み出した軸径と、測定情報DB22から読み出した加速度の実効値とを加速度判定テーブル31に適用することで、「危険」、「警告」、「可」、「良」の何れの異常度に該当するかを判定できる。なお、加速度判定テーブル31は、対象機器の対象軸受の回転速度ごとに(又はモータの極数ごとに)複数種類用意できる。図2の加速度判定テーブル31は、回転速度が1500rpmの場合のテーブルである。
【0018】
速度判定テーブル32は、軸受の(測定位置での)測定で得られる速度の実効値(速度RMS)と、軸受の異常との関係性を示すテーブルである。図3は、速度判定テーブルの例の説明図である。軸受の異常は、異常度の高い順から「危険」、「警告」、「可」、「良」の4段階に分けることができる。基本的には、速度の実効値が大きいほど異常度は高いといえる。また、同じ速度の実効値を示す場合、モータ出力が小さくなるほど異常度は高いといえる。速度判定テーブル32は、モータ出力の範囲を4つに分け(15kW未満、15kW~75kW、75kW以上 基礎 剛(対象機器の据付け強度が大きいという意味)、75kW以上 基礎 軟(対象機器の据付け強度が小さいという意味))、4つのモータ出力の範囲ごとに異常度の範囲を示している。診断部12は、対象機器の対象軸受について、基本情報DB21から読み出したモータ出力と、測定情報DB22から読み出した速度の実効値とを速度判定テーブル32に適用することで、「危険」、「警告」、「可」、「良」の何れの異常度に該当するかを判定できる。
【0019】
総合判定テーブル33は、軸受の(測定位置での)測定で得られる、加速度の実効値と、速度の実効値と、軸受の異常との関係性を示すテーブルである。図4は、総合判定テーブルの例の説明図である。
診断部12は、所定の換算式を用いて、加速度の実効値から加速度判定値を求める。加速度判定値は、3.0,6.0,9.0の3値の何れかをとる。総合判定テーブル33では、加速度に関しては、軸受の異常を、異常度の高い順から「危険」、「警告」、「良可」の3段階に分けることができる。加速度判定値が3.0であるとき、加速度に注目した軸受の異常度を「良可」と判定する。加速度判定値が6.0であるとき、加速度に注目した軸受の異常度を「警告」と判定する。加速度判定値が9.0であるとき、加速度に注目した軸受の異常度を「危険」と判定する。
診断部12は、所定の換算式を用いて、速度の実効値から速度判定値を求める。速度判定値は、2.0,6.0,12.0の3値の何れかをとる。総合判定テーブル33では、速度に関しては、軸受の異常を、異常度の高い順から「危険」、「警告」、「良可」の3段階に分けることができる。速度判定値が2.0であるとき、速度に注目した軸受の異常度を「良可」と判定する。速度判定値が6.0であるとき、速度に注目した軸受の異常度を「警告」と判定する。速度判定値が12.0であるとき、速度に注目した軸受の異常度を「危険」と判定する。
【0020】
診断部12は、総合判定値を、総合判定値=(加速度判定値)1/2×(速度判定値)1/2として求める。つまり、総合判定値は、2.4,3.5,4.2,6.0,7.3,8.5,10.4の7値の何れかをとる。総合判定テーブル33では、軸受の異常を、異常度の高い順から「危険」、「注意」、「良可」の3段階に分けることができる。総合判定値が2.4,3.5であるとき、軸受の異常度を「良可」と判定する。総合判定値が4.2,6.0であるとき、軸受の異常度を「警告」と判定する。総合判定値が7.3,8.5,10.4であるとき、軸受の異常度を「危険」と判定する。総合判定テーブル33は、機械的異常に起因して軸受故障が起こる場合を想定して速度判定に重みを置いた判定テーブルであるといえる。
診断部12は、対象機器の対象軸受について、加速度の実効値から求めた加速度判定値、及び速度の実効値から求めた速度判定値から求めた総合判定値を総合判定テーブル33に適用することで、「危険」、「注意」、「良可」の何れの異常度に該当するかを判定できる。
【0021】
表示制御部13は、加速度判定テーブル31、速度判定テーブル32、及び総合判定テーブル33を利用した軸受の異常度を示す診断結果を表示先に表示する。図5は、診断結果の表示例である。診断結果50は、第1エリア51、第2エリア52、第3エリア53、及び第4エリア54に分けられているが、他のエリアを用意してもよい。
【0022】
第1エリア51には、対象機器について、基本情報DB21に格納された基本情報が表示される。
第2エリア52には、対象機器について、測定情報DB22に格納された測定情報が表示される。第2エリア52には、測定ごとの測定情報を一括表示できる。例えば、図5に示すように、今回分(2022/8/24)の測定情報、及び前回分(2022/7/24)の測定情報を表示できる。同日に2回以上の測定をした場合も各測定の測定情報を一括表示できる。
【0023】
第3エリア53には、対象機器について、加速度判定テーブル31を利用した加速度診断結果53a、及び速度判定テーブル32を利用した速度診断結果53bが表示される。加速度診断結果53a及び速度診断結果53bは、測定ごとに一括表示できる。例えば、図5に示すように、加速度診断結果53a及び速度診断結果53bの今回分(●)及び前回分(◆)が対応位置にプロットされている。
第4エリア54には、対象機器について、総合判定テーブル33を利用した総合診断結果が表示される。総合診断結果は、測定ごとに一括表示できる。例えば、図5に示すように、総合診断結果の今回分(枠54a)及び前回分(枠54b)が表示されている。
【0024】
表示制御部13は、診断結果として、例えば、今後の診断方針の提案(例:精密診断の要否、測定頻度(1回/月))、診断を支援できる画像データ(例:対象機器の外観の写真、測定器2で測定したときの測定位置を撮影した写真)、診断結果を参照したユーザが入力した所見を示すテキストデータを表示することができる。
【0025】
例えば、加速度データから求められる加速度診断結果53aから、転がり軸受の油切れやキズ等の異常を診断できる。また、例えば、速度データから求められる速度診断結果53bから、軸受のアンバランスやミスアライメント等の異常を診断できる。また、例えば、総合診断結果から、精密診断の必要性を判断できる。図5によれば、加速度診断結果53aの今回分(●)は、「警告」の異常度を示しており、精密診断(例:FFT(Fast Fourier Transform)解析による軸受診断、CF(Crest Factor)判定)の必要性を示唆している。しかし、総合診断結果の今回分(枠54a)は、「良可」の異常度を示していることから、精密診断はまだ不要であると判断できる。このように、軸受の診断の負担を軽減できる。また、総合診断結果の今回分(枠54a)は、「良可」の異常度を示していても、総合診断結果の前回分(枠54b)に照らし合わせると、異常度が進行していることが半定量的に確認できる。よって、診断結果の履歴を追跡することで、「良可」から「警告」に切り替わるタイミングをおおよそ見積もることができ、つまり、精密診断が必要となる時期をある程度予測できる。このように、総合診断結果は、機器予防保全において有用なツールとなり得る。
【0026】
総合判定テーブル33の内容は適宜変更できる。図6は、他の総合判定テーブルの例の説明図(a)、(b)である。例えば、対象機器の設置環境が劣悪であり、軸受への異物混入や軸受潤滑油の劣化が想定される場合、図6(a)に示す総合判定テーブル33-1を用いることが好ましい。総合判定テーブル33-1は、総合判定テーブル33と比較して、加速度判定に重みを置いた(加速度に対する診断を厳しくした)判定テーブルといえる。診断部12は、総合判定テーブル33-1を利用して軸受の異常を診断できる。
【0027】
また、例えば、対象機器の設置年数が古く、加速度及び速度の何れも大きな値を示すことが想定される場合、図6(b)に示す総合判定テーブル33-2を用いることが好ましい。総合判定テーブル33-1は、総合判定テーブル33と比較して、速度判定の重みを引き下げることで加速度判定にも速度判定にも同程度の重みを置いた(加速度に対する診断の厳しさと、速度に対する診断の厳しさを同程度にした)判定テーブルといえる。診断部12は、総合判定テーブル33-2を利用して軸受の異常を診断できる。
【0028】
[処理]
診断装置100の処理を示す診断方法について説明する。図7は、本実施形態の診断方法のフローチャートである。ます、診断装置100の取得部11は、対象機器の軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを、IoTセンサ1、測定器2、及びタブレット端末3の少なくとも何れかから取得する(ステップS1)。次に、診断装置100の診断部12は、取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、加速度判定テーブル31、速度判定テーブル32、及び総合判定テーブル33,33-1,33-2を利用して、軸受の異常を診断する(ステップS2)。次に、診断装置100の表示制御部13は、診断結果を表示する(ステップS3)。診断結果は、加速度データから得られ、軸受の軸径に応じた加速度診断結果と、速度データから得られ、軸受を回転駆動させるモータのモータ出力に応じた速度診断結果と、加速度データ及び速度データを対象とした総合診断結果を含めることができる。
【0029】
[まとめ]
本実施形態によれば、加速度データから転がり軸受の油切れやキズ等の異常を診断できる。また、速度データから軸受のアンバランスやミスアライメント等の異常を診断できる。このように、診断結果から多くの情報を得ることができる。
また、近年のIoT(Internet of Things)機器の普及に伴い、軸受異常診断の対象は大多数に及ぶ。このような事情に対し、本発明は、軸受異常診断の初期段階で広域的かつ簡易に行うことができるため、機器予防保全の作業効率を向上させることができる。
また、診断結果を可視化できるため、異常を容易に把握できる。
また、設置環境や設置年数を考慮して、加速度判定の重みや速度判定の重みを変えることで、原因に応じた故障を迅速かつ誤報なしで確実に気づくことができる。つまり、軸受の異常の診断精度を向上させることができる。
【0030】
[変形例]
(a):本実施形態では、軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを用いて総合診断結果を出力した。しかし、例えば、軸受の振動を示す変位データも用いて騒動診断結果を出力してもよい。具体的には、対象機器が備える軸受について、IoTセンサ1、測定器2、及びタブレット端末3の少なくとも何れかから変位データを取得する。また、総合判定テーブル33として、加速度データ、速度データ、及び変位データを利用した3元的な判定テーブルを用意する。なお、加速度データ及び変位データを利用した総合判定テーブルを用意してもよいし、速度データ及び変位データを利用した総合判定テーブルを用意してもよい。
(b):対象機器がインバータ制御をしている場合(PWM(Pulse Width Modulation)方式)、加速度RMSはインバータノイズの影響を強く受けることがある。よって、この場合、診断部12は、加速度判定テーブル31を利用せず、軸受の異常を診断してもよい。具体的には、速度判定テーブル32を総合判定テーブル33とみなして総合診断結果を出力するとよい。なお、対象機器がインバータ制御をしていない場合(例:商用運転)、又はPAM(Pulse Amplitude Modulation)方式の場合、本実施形態の総合判定を適用するとよい。
(c):本実施形態では、対象機器に関するデータを入力できる情報端末の例として、タブレット端末3を採り上げた。しかし、前記情報端末として、例えば、PCでもよい。
【0031】
(d):本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
(e):本実施形態で説明したソフトウェアをハードウェアとして実現することもでき、ハードウェアをソフトウェアとして実現することもできる。
(f):その他、ハードウェア、ソフトウェア、フローチャートなどについて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
100 診断装置
1 IoTセンサ
2 測定器
3 タブレット端末
11 取得部
12 診断部
13 表示制御部
21 基本情報DB
22 測定情報DB
31 加速度判定テーブル
32 速度判定テーブル
33 総合判定テーブル
【要約】
【課題】機器予防保全の精度を向上させる。
【解決手段】本発明に係る診断装置100は、軸受の振動を示す、加速度データ及び速度データを、IoTセンサ1、測定器2、及びタブレット端末3から取得する取得部11と、取得された、加速度データ及び速度データに基づいて、軸受の異常を診断する診断部12と、を備える。また、診断装置100は、加速度データから得られ、軸受の軸径に応じた加速度診断結果と、速度データから得られ、軸受を回転駆動させるモータのモータ出力に応じた速度診断結果と、加速度データ及び速度データを対象とした総合診断結果を表示する表示制御部、をさらに備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7