(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】コイルばね
(51)【国際特許分類】
F16F 1/06 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
F16F1/06 C
F16F1/06 E
(21)【出願番号】P 2023183195
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2022568107の分割
【原出願日】2021-11-02
【審査請求日】2023-10-25
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西沢 真一
(72)【発明者】
【氏名】森山 千里
(72)【発明者】
【氏名】ダイ ファン
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 武志
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-129554(JP,A)
【文献】特開昭54-052257(JP,A)
【文献】特開昭62-155342(JP,A)
【文献】実公昭15-001179(JP,Y1)
【文献】米国特許第03727902(US,A)
【文献】米国特許第01963054(US,A)
【文献】特開2000-337415(JP,A)
【文献】特開昭56-141432(JP,A)
【文献】特開平11-159551(JP,A)
【文献】米国特許第06193225(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端と他端とを有する素線(2)からなり、
前記素線(2)の前記一端を含む第1の座巻部(11)と、
前記素線(2)の前記他端を含む第2の座巻部(12)と、
前記第1の座巻部(11)と前記第2の座巻部(12)との間に形成された複数の巻部(13a)を有し、互いに隣り合う前記巻部(13a)の間に隙間(G1)が存する有効部(13)と、
を有したコイルばねであって、
前記素線(2)が、
前記素線(2)の長さ方向と直角な第1の断面(S1)が円形の円形断面部(30)と、
前記素線(2)の前記一端から前記第1の座巻部(11)を超える長さを有し、前記長さ方向と直角な第2の断面(S2)が実質的に正方形で、かつ前記第2の断面(S2)の断面二次極モーメントが前記第1の断面(S1)の断面二次極モーメントよりも小さく、かつ前記第2の断面(S2)が前記長さ方向に一定の正方形断面部(31)と、
前記円形断面部(30)と前記正方形断面部(31)との間に1.0巻以上形成され、前記長さ方向と直角な第3の断面(S3)が、前記円形断面部(30)から前記正方形断面部(31)に向かって、円形から略正方形に変化しかつ断面積が減少するテーパ部(32)と、
を具備したコイルばね。
【請求項2】
請求項1に記載のコイルばねにおいて、
前記テーパ部(32)の断面二次極モーメントが前記円形断面部(30)の断面二次極モーメントよりも小さく、かつ、前記テーパ部(32)の断面二次極モーメントが前記円形断面部(30)から前記正方形断面部(31)に向かって減少するコイルばね。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両の懸架装置などに使用されるコイルばね(Coil spring)に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置に使用されるコイルばねの一例は、螺旋形に巻かれた素線(wire rod)からなる。一般にコイルばねの素線の断面(素線の長さ方向と直角な断面)は円形である。前記コイルばねは、懸架装置の第1のばね座に接する第1の座巻部と、第2のばね座に接する第2の座巻部と、前記第1の座巻部と前記第2の座巻部との間の有効部とを有している。
【0003】
前記有効部は複数の巻部(coil portion)を有している。このコイルばねが荷重によって所定長さに圧縮された状態において、前記有効部の前記巻部の間に隙間が存在している。座巻部は、荷重の大きさにかかわらず常にばね座に接している。有効部の一部は荷重の大きさに応じてばね座に接したり、ばね座から離れたりする。
【0004】
前記コイルばねは、想定された最小荷重と最大荷重との間で、所定のストロークで伸縮する。車両によっては、非線形特性を有するコイルばねが望まれることがある。非線形特性を有するコイルばねは、荷重の大きさに応じてばね定数(spring constant)が変化する。例えば荷重が小さいうちはコイルばねが第1のばね定数で撓み、荷重が大きくなると第2のばね定数で撓む。第2のばね定数は、第1のばね定数よりも大きい。
【0005】
有効部の途中から素線の端に向かって素線径を小さくしたテーパ部を有したテーパコイルばねも知られている。テーパコイルばねは、テーパ部の剛性が小さいため小荷重域では主にテーパ部が撓む。荷重が大きくなるとテーパ部が密着状態となり有効部が撓むため、非線形特性となる。
【0006】
特開昭57-11743号公報(特許文献1)に記載されたテーパコイルばねは、有効部の途中から座巻部に向かって素線径が減少している。特開昭56-141431号公報(特許文献2)に記載されたテーパコイルばねは、テーパ部と座巻部の素線の断面が円形に近い丸みを帯びた8角形である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭57-11743号公報
【文献】特開昭56-141431号公報
【文献】特開2000-337415号公報
【文献】特開昭54-52257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
断面が略円形の素線からなるコイルばねにおいて、素線径が極端に小さい部分を加工することは容易でない。例えば塑性加工によって素線径を十分小さくするには、特殊な圧延ロールを用いる必要がある。切削やスエージンング(swaging)によって線径を小さくすることもできるが、加工に要するコストが高く、加工時間が長くかかるなど、実用に不向きである。このような事情から、素線の一部の素線径を極端に小さくすることが困難であった。
【0009】
非線形特性のコイルばねにおいて、テーパ部と小断面部(小径部)の素線径を小さくすることに限界があっても、テーパ部と小断面部の巻き数を多くすれば小荷重域でのばね定数を下げることが可能である。しかし非線形特性のコイルばねのテーパ部と小断面部は、荷重が大きくなると密着状態となる。密着状態となったテーパ部と小断面部は、ばねとして機能しない死巻部となる。死巻部の巻き数が多いコイルばねは、車両の重量が大きくなる原因となる。
【0010】
特開2000-337415号公報(特許文献3)や特開昭54-52257号公報(特許文献4)に記載されたコイルばねは、素線の長さ方向の一部(座巻部を含む部分)を圧延することにより、扁平な矩形断面のフラット部を形成している。矩形断面のフラット部は、一般の圧延ロールを用いて比較的容易に形成することができる。しかしフラット部は、円形断面の素線と比較して断面二次極モーメント(Polar Moment of inertia of area)が格段に大きい。このためフラット部を有する非線形特性のコイルばねは、所望の非線形特性が得られても、軽量化させることは困難であった。
【0011】
本発明の目的は、非線形特性を有しかつ軽量なコイルばねを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの実施形態は、一端と他端とを有する素線からなるコイルばねであって、前記素線の前記一端を含む第1の座巻部(first end turn part)と、前記素線の前記他端を含む第2の座巻部(second end turn part)と、有効部(effective spring part)とを有している。前記有効部は、前記第1の座巻部と前記第2の座巻部との間に形成された複数の巻部(coil portion)を有し、互いに隣り合う前記巻部の間に隙間を存している。前記有効部は、前記素線の長さ方向と直角な第1の断面が円形の円形断面部を含んでいる。
【0013】
さらに本実施形態のコイルばねは、前記素線の前記一端から第1の座巻部を超える長さの正方形断面部と、前記円形断面部と前記正方形断面部との間に形成された1.0巻以上のテーパ部とを有している。前記正方形断面部は、前記長さ方向と直角な第2の断面が実質的に正方形で、かつ前記第2の断面(S2)の断面二次極モーメントが前記第1の断面(S1)の断面二次極モーメントよりも小さく、かつ前記第2の断面が前記長さ方向に一定である。前記テーパ部の断面(素線の長さ方向と直角な第3の断面)は、前記円形断面部から前記正方形断面部に向かって、円形から略正方形に変化しかつ断面積が減少する。
【0014】
前記正方形断面部が、前記コイルばねの中心軸に沿う外側の第1の面および内側の第2の面と、前記第1の面および第2の面と直角で互いに平行な上側の第3の面および下側の第4の面とを有してもよい。本実施形態のコイルばねにおいて、前記正方形断面部が少なくとも第1の巻部(first coil portion)と第2の巻部(second coil portion)とを有し、前記コイルばねが圧縮された状態において、第1の巻部の前記第3の面と第2の巻部の前記第4の面とが互いに接する当接部を有してもよい。前記正方形断面部の前記第2の巻部のコイル径が、前記第2の巻部のコイル径よりも小さくてもよい。
【0015】
前記テーパ部が、前記正方形断面部の前記第1の面に連なる第1平面部と、前記第2の面に連なる第2平面部と、前記第3の面に連なる第3平面部と、前記第4の面に連なる第4平面部と、前記第1平面部と前記第3平面部との間の第1円弧部と、前記第1平面部と前記第4平面部との間の第2円弧部と、前記第2平面部と前記第3平面部との間の第3円弧部と、前記第2平面部と前記第4平面部との間の第4円弧部とを有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
前記正方形断面部は、圧延ロール等を用いて比較的容易に加工することが可能である。前記正方形断面部の断面積を円形断面部の断面積と比較して十分小さくすることもそれほど困難ではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】
図1に示されたコイルばねが圧縮された状態において、同コイルばねの一部を断面で表した斜視図。
【
図3】コイリングされる前の前記コイルばねの素線の一部を示した側面図。
【
図4】前記素線の正方形断面部の一例を模式的に示した断面図。
【
図5】断面が互いに異なる3種類の素線のそれぞれの断面二次極モーメント(polar moment of inertia of area)を示した図。
【
図6】
図1に示されたコイルばねのばね特性(撓みと荷重との関係)を模式的に表した図。
【
図7】同コイルばねの下端からの位置(turns from lower end)と応力(inner side of coil)との関係を示した図。
【
図10】第2の実施形態に係るコイルばねの斜視図。
【
図11】
図10に示されたコイルばねの一部を断面で表した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の1つの実施形態に係るコイルばねについて、
図1から
図9を参照して説明する。
図1は、自動車等の車両の懸架装置に使用されるコイルばね1を示している。コイルばね1は、螺旋形に巻かれた素線(wire rod)2を有している。素線2は例えばばね鋼からなる。コイルばね1は、素線2の一端2aを含む第1の座巻部11と、素線2の他端2bを含む第2の座巻部12と、有効部13とを有している。有効部13は、第1の座巻部11と第2の座巻部12との間に形成され、複数の巻部13aを有している。コイルばね1が車両の懸架装置に組込まれると、第1の座巻部11が上側に位置し、第2の座巻部12が下側に位置する。この場合、コイルばね1の中心軸C1は上下方向に延びている。
【0019】
有効部13の一例は、ピッチP1(
図1に示す)が一定でかつコイル径R1が実質的に一定の円筒形である。ここで「実質的に一定」とは、コイリングマシンによって製造されたコイルばねの公差の範囲のばらつきや、スプリングバックによる許容範囲のばらつきが実用上無視できる程度であることを意味している。なおピッチP1とコイル径R1とが、中心軸C1に沿う方向に変化する非円筒形のコイルばねであってもよい。
【0020】
第1の座巻部11は、懸架装置の上側のばね座20(
図2に示す)によって支持される。
図1に示すように第2の座巻部12は、懸架装置の下側のばね座21によって支持される。コイルばね1は、上側のばね座20と下側のばね座21との間で圧縮される。コイルばね1が所定の荷重域(懸架装置として使用される荷重の範囲)で圧縮された状態において、有効部13は、互いに隣り合う巻部13aの間に隙間G1を有している。
【0021】
車両の懸架装置に使用されるコイルばね1は、想定される最小荷重と最大荷重との間の荷重域で使用される。有効部13は、最大に圧縮されたフルバンプ(full bump)状態と、最大に伸びたフルリバウンド(full rebound)状態とのいずれにおいても、互いに隣り合う巻部13aどうしが互いに接することがなく、ばねとして有効に機能する。
【0022】
図2は、コイルばね1が圧縮された状態で、コイルばね1の一部(座巻部11付近)を断面で表した斜視図である。本実施形態のコイルばね1は、有効部13の円形断面部30と、第1の座巻部11の正方形断面部31と、円形断面部30と正方形断面部31との間に形成されたテーパ部32とを含んでいる。第1の座巻部11は正方形断面部31を有し、螺旋形に成形されている。第2の座巻部12は円形断面部30の一部を有し、螺旋形に成形されている。有効部13は円形断面部30からなり、螺旋形に成形された複数の巻部13aを有している。
【0023】
図3は、素線2がコイリングされる前の素線2の一部を示している。素線2の中心を通る軸線X1は、素線2の長さ方向に延びている。
図3に示された素線2は、長さL1の円形断面部30と、長さL2の正方形断面部31と、長さL3のテーパ部32とを有している。円形断面部30は、有効部13の複数の巻部13aに必要な長さL1を有している。正方形断面部31は、素線2の一端2aから長さL2にわたって形成されている。テーパ部32は、円形断面部30と正方形断面部31との間に、長さL3にわたって形成されている。
【0024】
図2に示されたように円形断面部30の断面(素線2の軸線X1と直角な第1の断面S1)は円形である。しかも第1の断面S1は、素線2の長さ方向(軸線X1に沿う方向)に実質的に一定である。第2の座巻部12は円形断面部30の一部からなるため、断面が円形である。第2の座巻部12の素線径は有効部13の円形断面部30の素線径と同じである。
【0025】
正方形断面部31は、コイルばね1の中心軸C1(
図1と
図2に示す)に沿う外側の第1の面31aおよび内側の第2の面31bと、第1の面31aと直角な上側の第3の面31cおよび下側の第4の面31dとを有している。第3の面31cと第4の面31dとは、コイルばね1の中心軸C1に対し、ほぼ直角な平面となっている。正方形断面部31は第1の巻部41と第2の巻部42とを有している。第2の巻部42のコイル径r2は、第1の巻部41のコイル径r1よりも小さい。
【0026】
図2は、コイルばね1が中心軸C1に沿う荷重によって圧縮された状態を示している。コイルばね1が圧縮されると、正方形断面部31の第1の巻部41の上面31cと、第2の巻部42の下面31dとが、コイルばね1の中心軸1Cに沿う方向に重なる。これにより当接部43が形成される。このため第2の巻部42が第1の巻部41の内側に入り込むこと(滑り込み)を回避することができた。
【0027】
正方形断面部31の断面(軸線X1と直角な第2の断面S2)は、実質的に正方形(略正方形)である。この明細書で言う「実質的に正方形(略正方形)」とは、幾何学上の厳密な意味での正方形ではない。
図4に模式的に示された第2の断面S2のように、断面の4つの辺A1,A2,A3,A4のそれぞれの長さT1,T2,T3,T4が、加工上の公差の範囲で互いに同等であればよい。各辺A1,A2,A3,A4の長さT1,T2,T3,T4は、それぞれ、円形断面部30の径D1のルート(√)2分の1以下である。
【0028】
各辺A1,A2,A3,A4が互いになす内角θ1,θ2,θ3,θ4は、加工上の公差の範囲でほぼ90°である。各辺A1,A2,A3,A4が交わる箇所に、丸みを帯びたコーナー部B1,B2,B3,B4が形成されていてもよい。第2の断面S2は、素線2の長さ方向(軸線X1に沿う方向)に実質的に一定である。
【0029】
テーパ部32の断面(軸線X1と直角な第3の断面S3)は、円形断面部30から正方形断面部31に向かって、円形から略正方形に徐々に変化するとともに断面積が減少する。テーパ部32は、円形断面部30と正方形断面部31との間に、1.0巻以上形成されている。
【0030】
図2に示されたように、テーパ部32の断面(第3の断面S3)は、第1平面部32aと、第2平面部32bと、第3平面部32cと、第4平面部32dと、第1円弧部32eと、第2円弧部32fと、第3円弧部32gと、第4円弧部32hとを有している。第1平面部32aは、正方形断面部31の第1の面31aに連なっている。第1平面部32aはコイルばね1の中心軸C1に沿っている。
【0031】
第2平面部32bは、正方形断面部31の第2の面31bに連なっている。第2平面部32bはコイルばね1の中心軸C1に沿っている。第3平面部32cは、正方形断面部31の第3の面31cに連なっている。第3平面部32cは、第1平面部32aと直角である。第4平面部32dは、正方形断面部31の第4の面31dに連なっている。第4平面部32dは、第1平面部32aと直角である。
【0032】
第1円弧部32eは、第1平面部32aと第3平面部32cとの間に形成された円弧形の曲面からなる。第2円弧部32fは、第1平面部32aと第4平面部32dとの間に形成された円弧形の曲面からなる。第3円弧部32gは、第2平面部32bと第3平面部32cとの間に形成された円弧形の曲面からなる。第4円弧部32hは、第2平面部32bと第4平面部32dとの間に形成された円弧形の曲面からなる。これらの円弧部32e,32f,32g,32hは、それぞれ、正方形断面部31のコーナー部B1,B2,B3,B4(
図4に示す)に連なっている。
【0033】
図5は、断面が互いに異なる3種類の素線について、それぞれの長さ方向の位置と断面二次極モーメント(ねじり剛性)との関係を表した図である。
図5中の実線M1は、本実施形態に係る素線2(
図3に示す)の断面二次極モーメントを示している。本実施形態の円形断面部30の素線径は15.4mm、正方形断面部31の一辺の長さが6mmである。
図5において、横軸のゼロ(0)から長さL3aがテーパ部32の断面二次極モーメント、長さL2aが正方形断面部31の断面二次極モーメントである。正方形断面部31の断面二次極モーメントは、円形断面部30の断面二次極モーメントと比較して十分小さい。
【0034】
図5中の2点鎖線M2は、フラットテーパ部(flat taper portion)を有する従来例1の素線の断面二次極モーメントを示している。従来例1の素線は、素線径が15.4mmの円形断面部の端から、素線の先端までの長さL4にわたり、フラットテーパ部を有している。フラットテーパ部の断面は扁平な矩形である。フラットテーパ部の端面の幅は15.4mm、厚さは5.5mmである。
【0035】
フラットテーパ部を有した従来例1の断面二次極モーメント(2点鎖線M2)は、本実施例の断面二次極モーメント(実線M1)と比較して格段に大きい。フラットテーパ部を有する従来例1のコイルばねの第1のばね定数を小さくするには、フラットテーパ部の巻き数を多くする必要がある。このため第2のばね定数域のもとでは死巻部の巻き数が多くなり、重量が大きくなる。
【0036】
図5中の破線M3は、ラウンドテーパ部(round taper portion)を有する従来例2の素線の断面二次極モーメントを示している。従来例2の素線は、円形断面部の端から長さL3aのラウンドテーパ部と、長さL2aの小断面部(素線径11.4mm)とを有している。円形断面部の素線径は15.4mmである。
【0037】
従来例2の断面二次極モーメント(破線M3)は、本実施例の断面二次極モーメント(実線M1)よりも大きい。ラウンドテーパ部を有する従来例2のコイルばねの第1のばね定数を小さくするには、ラウンドテーパ部の巻き数を多くする必要がある。このため第2のばね定数域のもとでは死巻部の巻き数が多くなり、重量が大きくなる。
【0038】
正方形断面と円形断面のそれぞれの断面二次極モーメントが互いに同じである場合、正方形断面の一辺の長さは円形断面の直径の約0.87-0.89であり、両者の差は小さい。互いに等価サイズの円形断面と正方形断面は、ねじり剛性に関して大差はない。断面が円形の素線を加工し、径が極端に小さいラウンドテーパを形成することは容易ではない。これに対し正方形断面部31は、少なくとも一対の圧延ロールを用いて比較的容易に加工することができる。正方形断面部は、断面の一辺の長さを円形断面部の素線径のルート2分の1以下に塑性加工することも実用上可能である。
【0039】
図6は、本実施形態のコイルばね1のばね特性(荷重と撓みとの関係)を模式的に表している。
図6中の横軸は撓みを示し、縦軸は荷重を示している。コイルばね1は、下側のばね座21(
図1に示す)と上側のばね座20(
図2に示す)との間で圧縮される。荷重がゼロからW1の間は、主として正方形断面部31が撓む。
【0040】
このため
図6中の線K1で示すように、比較的小さなばね定数の第1のばね定数域E1となる.荷重がW1を越えると、正方形断面部31が密着状態となり、主として円形断面部30が撓む。このため
図6中の線K2で示すように、ばね定数が大きくなる(第2のばね定数域E2)。
【0041】
図7は、コイルばね1が圧縮されたときに素線の内側に生じる応力と、素線2の下端からの位置(turns from lower end)との関係を示している。有効部13の巻部13aごとに応力のピークτmaxが生じている。これらのピークτmaxは、懸架装置において許容される応力よりも小さい。座巻部11付近に小さなピークτ1が生じている。
【0042】
本発明者が鋭意研究を行ったところ、テーパ部32の巻き数が1.0未満では、
図7中にτ2で示したように、テーパ部32の応力が有効部13の応力のピークτmaxを越えてしまうことがわかった。テーパ部32の応力が有効部13の応力を越えることは好ましくない。そこで本実施形態では、テーパ部32の巻き数を1.0以上とした。
【0043】
図8は、断面が円形の素線2に正方形断面部31とテーパ部32とを成形する圧延装置50を模式的に示している。素線2は矢印F1で示す方向に移動する。この圧延装置50は圧延ロール51,52を有している。圧延ロール51,52の間隔を調整することができる。素線2が圧延ロール51,52を通ることによって素線2が圧延される。そののち素線2が軸線X1まわりに90°回転され、素線2が再び圧延ロール51,52によって圧延される。
【0044】
図9は、コイルばねを熱間(例えばA
3変態点以上、1150℃以下)で成形するコイリングマシン60の一部を示している。コイリングマシン60は、円柱形のマンドレル61と、チャック62と、ガイド部63とを含んでいる。ガイド部63は、一対の第1のガイドロール65,66を含んでいる。
【0045】
ばね鋼からなる素線2は、予めコイルばねの1個分の長さに切断されている。素線2がオーステナイト化温度(A3変態点以上、1150℃以下)に加熱され、供給機構によってマンドレル61に供給される。チャック62は、素線2の先端をマンドレル61に固定する。ガイド部63は、素線2を案内することにより、マンドレル61に巻付く素線2の位置を制御する。
【0046】
マンドレル61の一方の端部61aは、チャック62によって駆動ヘッド70に保持されている。マンドレル61は、駆動ヘッド70によって、軸線X2まわりに回転する。マンドレル61の他方の端部61bは、マンドレルホルダ71によって回転自在に支持されている。ガイド部63は、マンドレル61の軸線X2に沿う方向に移動し、成形すべきコイルばねのピッチ角に応じて素線2を案内する。
【0047】
素線2はコイルばね1個分の長さである。素線2がマンドレル61に供給される前に、素線2が加熱炉によって加熱される。加熱された素線2の先端がチャック62によってマンドレル61に固定される。マンドレル61が回転するとともに、マンドレル61の回転に同期して、ガイド部63がマンドレル61の軸線X2に沿う方向に移動する。これにより、素線2がマンドレル61に所定ピッチで巻付いてゆく。
【0048】
以下に述べる比較例1,2,3,4は、それぞれ、円形断面部を含む有効部と、ラウンド形のテーパ部および小断面部と、を有する非線形特性のコイルばねである。これに対し実施例1,2,3,4は、それぞれ、
図1に示されたコイルばね1と同様に、円形断面部30と、正方形断面部31と、テーパ部32とを有する非線形特性のコイルばねである。
【0049】
[比較例1]
比較例1のコイルばねは、円形断面部の素線径が18mm、小断面部の素線径が13mm、総巻数8.5、重量が7.0kgである。
【0050】
[実施例1]
実施例1のコイルばねは、円形断面部30の素線径が18mm、正方形断面部31の断面の一辺の長さが7mm、総巻数8.5である。正方形断面部31の断面の一辺の長さは、円形断面部30の素線径の40%であった。実施例1のばね特性(荷重と撓みとの関係)は比較例1と同等である。実施例1のコイルばねの重量は5.2kgであり、比較例1のコイルばねと比較して約24%の軽量化となった。
【0051】
[比較例2]
比較例2のコイルばねは、円形断面部の素線径が15mm、小断面部の素線径が11mm、総巻数8.5、重量が7.0kgである。
【0052】
[実施例2]
実施例2のコイルばねは、円形断面部30の素線径が15mm、正方形断面部31の断面の一辺の長さが7mm、総巻数9.0である。正方形断面部31の断面の一辺の長さは、円形断面部30の素線径の47%であった。実施例2のばね特性は比較例2と同等である。実施例2のコイルばねの重量は4.0kgであり、比較例2のコイルばねと比較して約23%の軽量化となった。
【0053】
[比較例3]
比較例3のコイルばねは、円形断面部の素線径が22mm、小断面部の素線径が17mm、総巻数8.0、重量が8.5kgである。
【0054】
[実施例3]
実施例3のコイルばねは、円形断面部30の素線径が22mm、正方形断面部31の断面の一辺の長さが7mm、総巻数8.0である。正方形断面部31の断面の一辺の長さは、円形断面部30の素線径の32%であった。実施例3のばね特性は比較例3と同等である。実施例3のコイルばねの重量は6.5kgであり、比較例3のコイルばねと比較して約22%の軽量化となった。
【0055】
[比較例4]
比較例4のコイルばねは、円形断面部の素線径が16mm、小断面部の素線径が12mm、総巻数10.0、重量が6.0kgであった。
【0056】
[実施例4]
実施例4のコイルばねは、円形断面部30の素線径が15mm、正方形断面部31の断面の一辺の長さが7mm、総巻数9.0である。正方形断面部31の断面の一辺の長さは、円形断面部30の素線径の47%であった。実施例4のばね特性は比較例4と同等である。実施例4のコイルばねの重量は5.0kgであり、比較例4のコイルばねと比較して約18%の軽量化となった。
【0057】
実施例1-4のコイルばねの正方形断面部31の断面の一辺の長さは、円形断面部30の素線径の50%以下である。正方形断面部31を形成する際に断面の一辺の長さが多少ばらつくことがあるが、正方形断面部の断面の一辺の長さを円形断面部の素線径のルート2分の1以下としたことにより、従来のコイルばねと比較して20%近い軽量化が可能となった。
【0058】
図10は、第2の実施形態に係るコイルばね1Aを示している。
図11は、コイルばね1Aの一部(座巻部11付近)を断面で示した斜視図である。コイルばね1Aは、2巻以上の正方形断面部31と、1.0巻以上のテーパ部32とを有している。第2の座巻部12の素線の断面は円形である。第2の座巻部12の素線径は円形断面部30の素線径と同じである。第2の座巻部12は、素線2の他端2bに向かってコイル径が減少する小径巻部90を有している。第2の座巻部12の素線径は、円形断面部30の素線径よりも小さくてもよい。
【0059】
コイルばね1Aの第1の座巻部11を含む正方形断面部31は、少なくとも第1の巻部41と第2の巻部42とを有している。第2の巻部42の外側のコイル径r4は第1の巻部41の内側のコイル径r3よりも小さい。コイルばね1Aが圧縮されると、
図11に2点鎖線Z1で示すように、第2の巻部42が第1の巻部41の内側に入り込むことができる。
【0060】
上記以外の構成と作用について第2の実施形態のコイルばね1Aは、第1の実施形態のコイルばね1と共通であるため、両者に共通の符号を付して説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のコイルばねは、車両の懸架装置をはじめとして、様々な態様の機器に使用されるコイルばねに適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,1A…コイルばね、2…素線、11…第1の座巻部、12…第2の座巻部、13…有効部、13a…巻部、30…円形断面部、31…正方形断面部、31a…第1の面、31b…第2の面、31c…第3の面、31d…第4の面、S1…第1の断面、S2…第2の断面、S3…第3の断面、32…テーパ部、32a…第1平面部、32b…第2平面部、32c…第3平面部、32d…第4平面部、32e…第1円弧部、32f…第2円弧部、32g…第3円弧部、32h…第4円弧部、C1…中心軸、41…第1の巻部、42…第2の巻部、43…当接部。