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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】家具ダンパ
(51)【国際特許分類】
   A47B 88/473 20170101AFI20240624BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20240624BHJP
   F16F 9/516 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
A47B88/473
F16F9/34
F16F9/516
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2023501813
(86)(22)【出願日】2021-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 AT2021060238
(87)【国際公開番号】W WO2022011405
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】A50606/2020
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】597140501
【氏名又は名称】ユリウス ブルーム ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Julius Blum GmbH
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1, 6973 Hoechst, Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ セルトマン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ライシヒ
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-084341(JP,A)
【文献】特開昭59-113332(JP,A)
【文献】特公昭48-021377(JP,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0094249(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47B 88/473
A47B 88/477
F16F 9/00-9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動に支持された家具部分(3)の運動を減衰するための家具ダンパ(15)であって、
- ダンパハウジング(19)と、
- 前記ダンパハウジング(19)内に配置された少なくとも1つの流体室(19a)と、
- 前記流体室(19a)内に配置された減衰流体と、
- 前記流体室(19a)内で移動可能に支持された少なくとも1つのピストン(20)であって、前記減衰流体を通流させるための少なくとも1つの通路(20a)を有するピストン(20)と、
- 少なくとも1つの切換要素(22)であって、減衰行程の実施時にかつ前記ピストン(20)に対する加圧の所定の閾値を下回る値で第1の位置(A)に可動であり、該第1の位置(A)では、前記ピストン(20)の前記少なくとも1つの通路(20a)が、前記切換要素(22)によって少なくとも部分的に覆われていて、前記ピストン(20)の前記少なくとも1つの通路(20a)を通って前記減衰流体の第1の通流量が流れる、少なくとも1つの切換要素(22)と
を備える、家具ダンパ(15)において、
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記減衰行程の実施時にかつ前記ピストン(20)に対する加圧の前記所定の閾値を上回る値で前記第1の位置(A)から第2の位置(B)に可動であり、該第2の位置(B)では、前記ピストン(20)の前記少なくとも1つの通路(20a)が、前記切換要素(22)によって少なくとも部分的に開放されていて、前記ピストン(20)の前記少なくとも1つの通路(20a)を通って前記減衰流体の第2の通流量が流れ、前記第2の通流量は、前記第1の通流量よりも多いこと
を特徴とする、家具ダンパ(15)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、撓曲または変形によって、前記第1の位置(A)から前記第2の位置(B)にかつ/または前記第2の位置(B)から前記第1の位置(A)に移行可能であることを特徴とする、請求項1記載の家具ダンパ(15)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、中央領域における撓曲または変形によって、前記第1の位置(A)から前記第2の位置(B)にかつ/または前記第2の位置(B)から前記第1の位置(A)に移行可能であることを特徴とする、請求項2記載の家具ダンパ(15)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの切換要素は、該切換要素(22)が第3の通流量を開放する第3の位置(C)を有し、前記少なくとも1つの切換要素(22)は、減圧時に前記第1の位置(A)から前記第3の位置(C)に可動であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項5】
前記第3の通流量は、前記第1の通流量よりも多いことを特徴とする、請求項4記載の家具ダンパ(15)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、撓曲または変形によって、前記第3の位置(C)から前記第1の位置(A)にかつ/または前記第1の位置(A)から前記第3の位置(C)に移行可能であることを特徴とする、請求項4または5記載の家具ダンパ(15)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、中央領域における撓曲または変形によって、前記第3の位置(C)から前記第1の位置(A)にかつ/または前記第1の位置(A)から前記第3の位置(C)に移行可能であることを特徴とする、請求項6記載の家具ダンパ(15)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記第3の位置(C)でフラットな中立位置をとり、前記第2の位置(B)で、前記少なくとも1つの切換要素(22)が前記中立位置に対して少なくとも部分的に変形または撓曲させられている撓曲位置をとることを特徴とする、請求項6または7記載の家具ダンパ(15)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記第1の位置で、前記少なくとも1つの切換要素(22)が前記中立位置に対して少なくとも部分的に変形または撓曲させられていて、前記第2の位置の前記撓曲位置に比べて僅かしか変形または撓曲させられていない別の撓曲位置をとることを特徴とする、請求項8記載の家具ダンパ(15)。
【請求項10】
前記ピストン(20)は、前記少なくとも1つの切換要素(22)が可動に支持された少なくとも1つの支持箇所(26)を有し、前記切換要素(22)は、中央の開口(22b)を有し、前記第3の位置(C)で、前記少なくとも1つの支持箇所(26)の外周面と前記中央の開口(22b)の内周面との間に環状間隙を開放することを特徴とする、請求項4から9までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項11】
前記環状間隙は、前記第1の位置(A)で閉鎖可能であり、かつ/または前記第2の位置(B)で少なくとも部分的に増大可能であることを特徴とする、請求項10記載の家具ダンパ(15)。
【請求項12】
前記ピストン(20)は、少なくとも1つのストッパ(27)を有し、前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記第2の位置(B)で少なくとも部分的に前記少なくとも1つのストッパ(27)に当付け可能であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項13】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、少なくとも1つの孔(22a)を有し、前記少なくとも1つの孔(22a)は、前記少なくとも1つのピストン(20)の前記通路(20a)に流体を案内するように接続されているかまたは接続可能であることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項14】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、2つの孔(22a)を有することを特徴とする、請求項13記載の家具ダンパ(15)。
【請求項15】
前記少なくとも1つの孔(22a)は、
- 中心から外れて前記切換要素(22)に配置されており、かつ/または
- 前記第2の位置(B)で少なくとも部分的に、前記ピストン(20)における対応面(31)への当付けによって閉鎖可能であるかまたは少なくとも部分的に覆うことができる
ことを特徴とする、請求項13または14記載の家具ダンパ(15)。
【請求項16】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、開口(22b)を有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項17】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、中央の開口(22b)を有することを特徴とする、請求項16記載の家具ダンパ(15)。
【請求項18】
前記開口(22b)は、横断面で見て直径が段階的に変化していく構成、円錐形に変化していく構成または円筒形のままである構成を有することを特徴とする、請求項16または17記載の家具ダンパ(15)。
【請求項19】
前記開口(22b)の直径は、前記ピストン(20)に対する加圧の前記所定の閾値を上回る値で前記減衰流体の前記通流量を多くするために、前記切換要素(22)の撓曲または変形によって拡径可能であることを特徴とする、請求項16から18までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項20】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、
- ゴム材料またはプラスチック材料から形成されており、かつ/または
転対称に形成されており、かつ/または
筒形に形成されており、かつ/または
片として形成されている
ことを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項21】
前記少なくとも1つのピストン(20)は軸線方向を有し、前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記軸線方向で前記ピストン(20)に対して相対的に移動可能であることを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項22】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記ピストン(20)に結合された支持箇所(26)に沿って前記軸線方向で前記ピストン(20)に対して相対的に移動可能であることを特徴とする、請求項21記載の家具ダンパ(15)。
【請求項23】
前記少なくとも1つの流体室(19a)は、高圧側(HP)と低圧側(LP)とを有し、前記高圧側(HP)と前記低圧側(LP)とは、前記少なくとも1つのピストン(20)によって互いに分離されていることを特徴とする、請求項1から22までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項24】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記流体室(19a)の前記高圧側(HP)に配置されていることを特徴とする、請求項23記載の家具ダンパ(15)。
【請求項25】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記切換要素(22)が、前記減衰行程とは逆の方向への前記少なくとも1つのピストン(20)の運動時に、前記ピストン(20)の前記少なくとも1つの通路(20a)を開放する別の位置を有することを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項26】
前記少なくとも1つの切換要素(22)は、前記切換要素(22)が、前記減衰行程とは逆の方向への前記少なくとも1つのピストン(20)の運動時に、前記ピストン(20)に設けられた全ての通路(20a)を開放する別の位置を有することを特徴とする、請求項25記載の家具ダンパ(15)。
【請求項27】
前記少なくとも1つのピストン(20)に結合されたピストンロッド(21)が設けられていることを特徴とする、請求項1から26までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項28】
前記ピストンロッド(21)は、前記家具ダンパ(15)の前記ダンパハウジング(19)から導出されていることを特徴とする、請求項27記載の家具ダンパ(15)。
【請求項29】
前記流体室(19a)内にピストンロッド(21)が進入可能であり、これによって、前記流体室(19a)の容積が可変であり、前記流体室(19a)の前記容積を変化させるために変形可能または可動である補償装置(23)が設けられていることを特徴とする、請求項1から28までのいずれか1項記載の家具ダンパ(15)。
【請求項30】
前記補償装置(23)は、前記流体室(19a)内に配置された変形可能な材料片または前記流体室(19a)内で移動可能な補償要素(23c)を有し、前記補償要素(23c)は、前記減衰行程の実施時に蓄力器(23a)の力に抗して可動であることを特徴とする、請求項29記載の家具ダンパ(15)。
【請求項31】
請求項1から30までのいずれか1項記載の少なくとも1つの家具ダンパ(15)を備えた家具用金具(4)。
【請求項32】
前記家具用金具(4)は、互いに相対的に可動の少なくとも2つの部材を有し、前記少なくとも2つの部材の相対運動が、前記家具ダンパ(15)によって減衰可能であり、かつ/または前記家具用金具(4)は、可動に支持された家具部分(3)を運動させるための家具駆動装置として、可動に支持された家具部分(3)を運動させるための家具ヒンジとして、可動の家具部分(3)の運動を減衰するための減衰装置として、または引出し(3a)の形態の可動の家具部分(3)を運動させるための引出し用引出しガイド(4a)として形成されている、請求項31記載の家具用金具(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動に支持された家具部分の運動を減衰するための家具ダンパであって、
- ダンパハウジングと、
- ダンパハウジング内に配置された少なくとも1つの流体室と、
- 流体室内に配置された減衰流体と、
- 流体室内で移動可能に支持された少なくとも1つのピストンであって、減衰流体を通流させるための少なくとも1つの通路を有するピストンと、
- 少なくとも1つの切換要素であって、減衰行程の実施時にかつピストンに対する加圧の所定の閾値を下回る値で第1の位置に可動であり、第1の位置では、ピストンの少なくとも1つの通路が、切換要素によって少なくとも部分的に覆われていて、ピストンの少なくとも1つの通路を通って減衰流体の第1の通流量が流れる、切換要素と
を備える、家具ダンパに関する。
【0002】
さらに、本発明は、以下に記載する形態の少なくとも1つの家具ダンパを備えた家具用金具に関する。
【0003】
このような家具ダンパは、例えば可動の家具部分(引出し、戸またはフラップ)または可動に支持された家具用金具の閉鎖運動を減衰するために使用され、これによって、家具部分の大きな音を出す衝撃および損傷が阻止される。
【0004】
家具ダンパの減衰作用は、ダンパハウジング内にある減衰流体の流れ抵抗によって発生させられる。加圧時にピストンは流体室内で移動させられ、このとき、減衰流体は、ピストン開口を通ってかつ/またはピストンと流体室の内壁との間に形成された間隙を通って高圧側から低圧側に流れる。
【0005】
例えば乱暴な使用時にピストンに極めて高い圧力が加えられると、いわゆるダンパ反跳が発生することがある。このような過負荷時には、減衰流体はもはや十分な量が、ピストンを通ってまたはピストンを擦過して流れることができない。そして、高められた圧力をもはやダンパによって減少させることができないので、ピストンおよびピストンに固定されたピストンロッドが急に停止したままになったり、ばね弾性的に戻されたりすることになる。極端な場合には、ダンパハウジングが、高められた圧力によって破裂し、液体の減衰流体がダンパハウジングから流出することがある。
【0006】
家具ダンパのための過負荷防止装置は、例えば本出願人によるオーストリア国実用新案第12633号明細書および独国実用新案第202018103818号明細書に基づいて、様々な形態のものが公知である。これらの過負荷防止装置は、通常、ばねによって荷重が加えられたボールを有しており、このボールは、通常運転時(つまり、ピストンに対して設定された値を下回る圧力が加えられている場合)にはピストンの過負荷開口を閉鎖していて、過負荷時(つまり、ピストンに対して設定された値を上回る圧力が加えられている場合)にはピストンの過負荷開口をばねの力に抗して開放し、これによって、高圧側と低圧側との間で流体を案内する接続部が開放される。流体を導く接続部の開放によって、より多くの量の減衰流体が高圧側から低圧側に移動することができ、これによって、家具ダンパにおける圧力は迅速に減少し、家具ダンパのハウジングの破裂が阻止される。
【0007】
ばねによって荷重が加えられたボールを備えたこのような過負荷防止装置は、通常、部品の数が多くなるので、家具ダンパの大量生産における家具ダンパのコストも高騰する。
【0008】
オーストリア国実用新案第15609号明細書、独国実用新案第20221550号明細書および中国特許出願公開第101672339号明細書には、それぞれ、シリンダと、シリンダ内で移動可能なピストンとを備えた家具ダンパが開示されている。ピストンは、減衰流体を通流させるための少なくとも1つの通路を有しており、ピストンの通路は、少なくとも1つの撓曲可能または変形可能な薄片によって閉鎖可能である。ピストンの通路は、加圧の増大と共に薄片によってさらに閉鎖され、これによって、家具ダンパのより高い制動力を発生させることができる。
【0009】
オーストリア国実用新案第10342号明細書には、シリンダと、シリンダ内で移動可能なピストン2とを備えた家具ダンパが示されており、ピストンは、減衰流体を通流させるための少なくとも1つの過負荷開口を有している。さらに、ピストンに対して相対的に移動可能な閉鎖要素が設けられており、この閉鎖要素によってピストンの過負荷開口は減衰行程の開始時に閉鎖可能である。つまり、通常運転時には、減衰流体はもっぱら、ピストンとシリンダの内壁との間に形成された環状間隙を通って流れることができる。加圧が増大すると、閉鎖要素は半径方向で伸展し、これによって、上に述べた環状間隙は小さくなり、ピストンに対する流れ抵抗が増大させられる。過負荷時に閉鎖要素は、ピストンの過負荷開口が開放され、シリンダ内における圧力を迅速に減少させることができるまで、半径方向に伸展させられる。この構成には、ピストンの過負荷開口が減衰行程の開始時に直ちに閉鎖され、通常運転の際、流体はもっぱら、ピストンとシリンダとの間に配置された環状間隙を通ってしか流れないので、ダンパ反跳のおそれがあるという欠点がある。これに対して、ピストンの過負荷開口は、閉鎖要素によって過負荷時に初めて開放される。つまり、家具ダンパは、運転中に二重の切換特性を有する傾向があり、その都度発生している圧力状態への適合が十分に存在していない。
【0010】
したがって、本発明の課題は、冒頭に述べた形態の家具ダンパを改良して、上に述べた欠点を回避することである。
【0011】
この課題は、本発明によれば請求項1の特徴によって解決される。本発明の更なる有利な構成は、従属請求項で定義される。
【0012】
本発明によれば、少なくとも1つの切換要素は、減衰行程の実施時にかつピストンに対する加圧の所定の閾値を上回る値で第1の位置から第2の位置に可動であり、第2の位置では、ピストンの少なくとも1つの通路が、切換要素によって少なくとも部分的に開放されていて、ピストンの少なくとも1つの通路を通って減衰流体の第2の通流量が流れ、第2の通流量は、第1の通流量よりも多いことが特定されている。
【0013】
言い換えれば、家具ダンパは、少なくとも2つの位置の間で可動の少なくとも1つの切換要素を有している。切換要素の第1の位置でピストンの少なくとも1つの通路を少なくとも部分的に覆うことができるので、家具ダンパの減衰作用を圧力に応じて制御することができる。
【0014】
これに対して、第2の位置では、切換要素が過負荷防止装置として働き、切換要素は第2の位置では、ピストンに過度の圧力が加えられた場合に少なくとも1つの通路を再び開放し、これによって、ダンパハウジング内で発生する減衰流体の圧力を迅速に減少させ、ダンパハウジングの破損を阻止することができる。
【0015】
このように構成されていることによって、ばね荷重が加えられたボールを備えた付加的な過負荷防止装置を設けることがもはや不要になる。なぜならば、切換要素が、圧力に応じた制御装置としても、過負荷防止装置としても働くからである。こうして、家具ダンパの部材の数を減じることができ、家具ダンパの構造を簡素化して、コストパフォーマンスのよい製造を可能にすることができる。
【0016】
構造的に単純な構成は、少なくとも1つの切換要素が、好ましくは中央領域における撓曲または変形によって、第1の位置から第2の位置にかつ/または第2の位置から第1の位置に移行可能であることによって得られる。
【0017】
1つの実施例によれば、少なくとも1つの切換要素は、切換要素が第3の通流量を開放する第3の位置を有し、少なくとも1つの切換要素は、減圧時に第1の位置から第3の位置に可動であり、好ましくは、第3の通流量は、第1の通流量よりも多くてよい。
【0018】
言い換えれば、この実施例では切換要素の少なくとも3つの異なる位置が実現されている。第1の位置では、切換要素は、ピストンの通路を少なくとも部分的に覆っており、これによって、第1の減衰力が提供される。過負荷時における切換要素の第2の位置では、ピストンの1つの通路が弁要素によって開放され、これによって、ダンパハウジングにおける迅速な圧力減少が可能になる。第3の位置では、ピストンの通路は、減じられた程度でしか切換要素によって覆われておらず、これによって、第1の減衰力よりも小さな第2の減衰力が提供される。
【0019】
つまり、家具ダンパの通常運転時には、切換要素は単に第1の位置と第3の位置との間で運動し、2つの異なる減衰力が提供される。これに対して、第2の位置では、切換要素がピストンの1つの通路を開放し、減衰流体が家具ダンパの高圧側から低圧側に迅速に流れることができる過負荷事例が存在している。
【0020】
1つの実施例によれば、少なくとも1つの切換要素は、第3の位置で実質的にフラットな中立位置をとり、第2の位置で、少なくとも1つの切換要素が中立位置に対して少なくとも部分的に変形または撓曲させられている撓曲位置をとることが特定されていてよい。
【0021】
好ましくは、少なくとも1つの切換要素は、第1の位置で、少なくとも1つの切換要素が中立位置に対して少なくとも部分的に変形または撓曲させられていて、第2の位置の撓曲位置に比べて僅かしか変形または撓曲させられていない別の撓曲位置をとることが特定されている。
【0022】
有利な実施形態では、少なくとも1つの切換要素は、
- ゴム材料またはプラスチック材料から形成されており、かつ/または
- 実質的に回転対称に形成されており、かつ/または
- 実質的に円筒形に形成されており、かつ/または
- 実質的に薄片として形成されている
ことが特定されていてよい。
【0023】
次に本発明の更なる詳細および利点について、以下の図面の説明によって述べる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】家具キャビネットと、家具キャビネットに対して相対的に可動に支持された引出しの形態の家具部分とを備えた、家具を示す斜視図である。
図2a】引出し用引出しガイドの形態の家具用金具を示す斜視図である。
図2b図2aに示した家具用金具の一部を拡大して示す詳細図である。
図3a】家具ダンパを示す分解図である。
図3b】進出させられたピストンロッドを備えた家具ダンパを示す側面図である。
図3c図3bに示した家具ダンパの縦断面図である。
図3d】進入させられたピストンロッドを備えた家具ダンパを示す側面図である。
図3e図3dに示した家具ダンパの縦断面図である。
図4a】切換要素が第1の位置にある家具ダンパを示す図である。
図4b】切換要素が第2の位置にある家具ダンパを示す図である。
図4c】切換要素が第3の位置にある家具ダンパを示す図である。
図4d】切換要素が別の位置にある家具ダンパを示す図である。
図5a】家具ダンパを断面して示す斜視図である。
図5b図5aに示した家具ダンパの一部を拡大して示す詳細図である。
【0025】
図1には、箪笥状の家具キャビネット2を備えた家具1が示してあり、引出し3aの形態の可動の家具部分3が、引出し用引出しガイド4aの形態の家具用金具4を介して、家具キャビネット2に対して相対的に走行可能に支持されている。引出し3aは、それぞれ前板5と引出し底6と引出し側壁7と背壁8とを有している。
【0026】
引出し用引出しガイド4aはそれぞれ、少なくとも1つの固定区分12a,12bを介して家具キャビネット2に固定することができるキャビネットレール9と、キャビネットレール9に対して相対的に移動可能に支持されていて、引出し側壁7に結合されたかまたは結合可能である引出しレール10と、任意に中央レール11とを備えており、この中央レール11は、引出し3aの完全引出しを実現するために、キャビネットレール9と引出しレール10との間で走行可能に支持されている。
【0027】
図2aには、引出し用引出しガイド4aとして形成された家具用金具4が斜視図で示してある。引出し用引出しガイド4aは、固定区分12a,12bを介して家具キャビネット2に固定することができるキャビネットレール9と、引出し3aに固定することができる引出しレール10とを備えており、中央レール11は、キャビネットレール9と引出しレール10との間で走行可能である。
【0028】
引出しレール10の後端部には、好ましくはピン状の固定要素13が配置されており、この固定要素13は、引出し用引出しガイド4aに引出し3aが取り付けられた状態で、引出し3aに設けられた開口に係合し、これによって、引出し3aの後部領域を引出しレール10の長手方向延在に対して横方向で安定させる。引出しレール10の前端部には、手動操作のために形成された連結部分14aを備えた連結装置14が配置されており、連結部分14aによって、引出し3aの前部領域は引出しレール10に解離可能に連結可能である。
【0029】
図2bには、図2aに示した楕円領域が拡大して示してある。閉鎖された終端位置に引出しレール10を引き込むために、ばね装置18によって荷重が加えられた連行体17が設けられている。この連行体17は、キャビネットレール9に配置された連結要素に解離可能に連結可能であり、これによって、引出しレール10を、ばね装置18の力によって閉鎖された終端位置に引き込むことができる。
【0030】
引出しレール10の、ばねによってサポートされた引込み運動を減衰するために、ダンパハウジング19を備えた家具ダンパ15が設けられている。家具ダンパ15は、図示の実施例では、保持体16を介して引出しレール10に固定されている。
【0031】
図3aには、家具ダンパ15が分解図で示してある。家具ダンパ15は、好ましくは円筒状のダンパハウジング19を備えており、このダンパハウジング19内には、少なくとも1つの流体室19aが配置されている。流体室19a内には、ピストンロッド21を備えたピストン20が線形移動可能に支持されている。
【0032】
ピストン20は、流体室19a内にある、好ましくは液体の減衰流体を通流させるための少なくとも1つの通路20a、好ましくは複数の通路20aを有している。
【0033】
さらに、少なくとも1つの切換要素22が設けられており、この切換要素22は、減衰行程の実施時にかつピストン20に対する加圧の所定の閾値を下回る値で第1の位置に可動であり、この第1の位置では、ピストン20の少なくとも1つの通路20aが、切換要素22によって少なくとも部分的に覆われていて、ピストン20の少なくとも1つの通路20aを通って減衰流体の第1の通流量が流れる。
【0034】
切換要素22は、少なくとも1つの孔22a、好ましくは正確に2つの孔22aを有しており、この孔22aは、ピストン20の通路20aに流体を案内するように接続されているかもしくは接続可能である。
【0035】
ピストン20は、少なくとも1つの支持箇所26を有しており、この支持箇所26に少なくとも1つの切換要素22は、好ましくはピストン20の軸線方向で可動に支持されている。
【0036】
ピストンロッド21は、流体室19a内に進入可能であり、これによって、流体室19aの容積が可変である。流体室19aの容積を変化させるために変形可能または可動である補償装置23によって、ピストンロッド21の付加的な容積が、流体室19a内への進入時に補償可能である。補償装置23は、流体室19a内に配置された変形可能な材料片または流体室19a内で移動可能な補償要素23cを有していてよく、補償要素23cは、減衰行程の実施時に蓄力器23aの力に抗して可動である。蓄力器23aは、支持部分23bを介して補償要素23cを押圧する。
【0037】
閉鎖要素25によってダンパハウジング19は閉鎖可能であり、ピストンロッド21は閉鎖要素25によって貫通案内されている。
【0038】
図3bには、家具ダンパ15が側面図で示してあり、この側面図では、ピストンロッド21は、ダンパハウジング19に対して相対的に進出させられた位置にある。図3cには、図3bに示した平面A-Aに沿った断面図が示してある。この図3cから、流体室19a内にあるピストン20を認識することができる。
【0039】
図3dには、家具ダンパ15が側面図で示してあり、この側面図では、ピストンロッド21およびピストン20は、ダンパハウジング19に関して進入させられた終端位置にある。
【0040】
図3eには、図3dに示した平面A-Aに沿った断面図が示してある。ピストンロッド21の、付加的に流体室19a内に収容された容積は、補償装置23によって補償可能である。この図3eから、補償装置23の補償要素23cが、ピストンロッド21の進入によって蓄力器23aの力に抗して、図3cとの直接的な比較で幾分左側に向かって運動させられていることを認識することができ、このとき、蓄力器23aは、図3eでは、図3cよりも圧縮された状態にある。しかしながら、このような補償装置23は、十分に公知であるので、これについてここでさらに述べる必要はない。
【0041】
図4a~図4dには、切換要素22が異なる位置(A,B,C,D)にある家具ダンパ15が示してある。高圧側(HP)と、ピストン20によって高圧側(HP)から分離されている低圧側(LP)とを有する流体室19aを内部に備えたダンパハウジング19が認識可能である。切換要素22は、好ましくは高圧側(HP)に配置されている。ピストン20は、流体室19a内に配置された減衰流体を通流させるための少なくとも1つの通路20a、好ましくは複数の通路20aを有している。ピストン20は、ダンパハウジング19から導出されているピストンロッド21に結合されている。
【0042】
図4aには、切換要素22の第1の位置(A)が示してあり、この位置(A)では、ピストン20の通路20aは、切換要素22によって少なくとも部分的に覆われており、ピストン20の通路20aを通って減衰流体の第1の通流量が流れる。減衰行程の方向29におけるピストン20の運動時に、減衰流体は、高圧側(HP)から、切換要素22および/またはピストン20と流体室19aの内壁30との間に形成された間隙29を通って低圧側(LP)に流れる。さらに、減衰流体は、高圧側(HP)から切換要素22の孔22aとピストン20の通路20aとを通って低圧側(LP)に流れる。これは、経路W1,W2によって象徴的に示してある。
【0043】
第1の位置(A)で切換要素22は、切換要素22がフラットな中立位置(図4c)に対して少なくとも部分的に変形または撓曲させられた撓曲位置をとる。
【0044】
図4bには、切換要素22の第2の位置(B)ひいては過負荷事例が示してある。切換要素22は、ピストン20に圧力が過度にかつ急激に加えられると、減衰行程の方向29で、好ましくは中央領域における撓曲または変形によって、第1の位置(A)から第2の位置(B)に移行可能である。
【0045】
切換要素22の撓曲または変形は、切換要素22の中央の開口22bによって促進され、この開口22bは、横断面で見て直径が段階的に変化していく構成を有している。開口22bの直径は、切換要素22の撓曲または変形によって拡径可能であり、これによって、減衰流体の通流量を、ピストン20に対する加圧の所定の閾値を上回る値で高めることができる。図4bに示した第2の位置(B)では、切換要素22は更なる撓曲位置をとり、この撓曲位置は、第1の位置(A)の撓曲位置に比べて強く変形または撓曲させられている。
【0046】
ピストン20は、少なくとも1つの、好ましくは非回転対称のストッパ27を有しており、切換要素22は、第2の位置(B)で少なくとも部分的にストッパ27に当付け可能である。支持箇所26の外周面と中央の開口22bの内周面との間に形成された環状間隙は、経路W3の領域で大きく増大させられるので、減衰流体は過負荷時には経路W3,W2を介して迅速に低圧側(LP)に移動可能である。これに対して、切換要素22の第1の位置(A)(図4a参照)では、上に述べた環状間隙は、経路W3の領域で閉鎖されている。
【0047】
切換要素22は、少なくとも1つの孔22a、好ましくは正確に2つの孔22aを有している。好ましくは、少なくとも1つの孔22aは、中心から外れて切換要素22に配置されており、かつ/または第2の位置(B)(図4b)では少なくとも部分的に、ピストン20における対応面31との接触によって閉鎖可能または少なくとも部分的に閉鎖可能であることが特定されている。
【0048】
図4cに示した切換要素22の第3の位置(C)では、切換要素22は第3の通流量を開放しており、少なくとも1つの切換要素22は、減圧時に第1の位置(A)から第3の位置(C)に可動であり、好ましくは、第3の通流量は第1の通流量よりも多い。高められた第3の通流量は、3つの経路W1,W2,W3によって象徴的に示してある。
【0049】
切換要素22は、好ましくは中央領域における撓曲または変形によって第3の位置(C)から第1の位置(A)にかつ/または第1の位置(A)から第3の位置(C)に移行可能である。第3の位置(C)で切換要素22はフラットな中立位置をとる。
【0050】
図4dに示した切換要素22の別の位置(D)では、切換要素22は、少なくとも1つのピストン20が減衰行程とは逆の方向に運動した場合に、ピストン20の少なくとも1つの通路20a、好ましくはピストン20に設けられた全ての通路20aを開放している。これは、ピストンロッド21が減衰行程の方向29とは逆の方向への戻り行程時に再びダンパハウジング19から引き出される場合である。通路20aの開放によって、僅かな流体抵抗でのピストンロッド21の迅速な戻りが可能である。
【0051】
図5aには、既に記載した部材を備えた家具ダンパ15が斜視図で示してある。
【0052】
図5bには、図5aにおいて丸で囲まれた領域が拡大して示してある。この図5bにおいて、高圧側(HP)と低圧側(LP)とを互いに分離している、流体室19a内で移動可能なピストン20を認識することができる。切換要素22は、ピストン20の支持箇所26にピストン20の軸線方向で移動可能に支持されている。中央の開口22bの段階的に変化していく構成と、ピストン20内で延びる通路20aとを良好に認識することができる。段階的に変化していく構成の代わりに、中央の開口22bは、直径が円錐形に変化していく構成または円筒形のままである構成を有していてもよい。
【0053】
本発明に係る家具ダンパ15は、図面では、引出し用引出しガイド4aの形態の家具用金具4との組合せで示してある。しかしながら、家具ダンパ15は他の家具用金具4と共に使用可能であることも明らかである。
【0054】
家具用金具4は、互いに相対的に可動の少なくとも2つの部材を有していてよく、少なくとも2つの部材の相対運動は、家具ダンパ15によって減衰可能であり、かつ/または家具用金具4は、可動に支持された家具部分3を運動させるための家具駆動装置として、可動に支持された家具部分3を運動させるための家具ヒンジとして、または可動の家具部分3の運動を減衰するための減衰装置として形成されている。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c-3e】
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b