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特許7508701アルキル官能化ポリシロキサンを調製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】アルキル官能化ポリシロキサンを調製する方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/10 20060101AFI20240624BHJP
   C08G 77/22 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C08G77/10
C08G77/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023515136
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 CN2020113750
(87)【国際公開番号】W WO2022047778
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ヘン
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,シュワイ
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ション
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167054(JP,A)
【文献】特開平11-158281(JP,A)
【文献】特開平07-149900(JP,A)
【文献】特開2000-256465(JP,A)
【文献】特開平03-192128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/10
C08G 77/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル官能化ポリシロキサンを調製する方法であって、
(I)シランオリゴマー(A)を触媒1の存在下でヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)と反応させる工程であって、前記シランオリゴマー(A)が、式Iの環式オリゴマー(A1)
【化1】
(式中、Rは、独立して各存在においてC6~C18アルキルであり、
は、独立して各存在においてC1~C5アルキルであり、
mは、3~20の任意数である)
を含み、
前記ヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)が、式IVのもの
【化2】

(式中、R は、独立して各存在においてC1~C5アルキル又はフェニルであり、
pは、3~150の任意数である)
である工程と、
(II)工程(I)の生成物を触媒2の存在下で末端封鎖剤と反応させて、アルキル官能化ポリシロキサンを得る工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記シランオリゴマー(A)が、該シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて20wt%を超える環式オリゴマー(A1)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シランオリゴマー(A)が、該シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて30wt%を超える式Iの環式三量体及び環式四量体を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記シランオリゴマー(A)が、該シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて30wt%を超える式Iの環式三量体を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記シランオリゴマー(A)が、式IIの直鎖オリゴマー(A2)
【化3】
(式中、Rは、メチル、エチル又は水素であり、
は、独立して各存在においてC6~C18アルキルであり、
は、独立して各存在においてC1~C5アルキルであり、
nは、2~20の任意数である)
をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)が、式IVのもの
【化4】
(式中、Rは、独立して各存在においてC1~C5アルキル又はフェニルであり、
pは、10~100の任意数である)
である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記末端封鎖剤(C)が、式Vのもの
【化5】
(式中、Rは、メチル、ビニル、水素、アミノプロピル、アミノエチルアミノプロピル又はグリシジルプロピルであり、
は、独立して各存在においてC1~C5アルキルであり、
qは、0~20の任意数である)
である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(I)の反応が、80℃~110℃の温度で実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(II)の反応が、100℃~140℃の温度で実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記シランオリゴマー(A)が、以下:
i)式IIIのジアルコキシシラン
Si III
(式中、Rは、メトキシ又はエトキシであり、
は、C6~C18アルキルであり、
は、C1~C5アルキルである)
を、触媒3及び有機溶剤の存在下で水と反応させる工程であって、水対ジアルコキシシランのモル比が0.5:1より大きい工程と、
ii)副生成物、水、触媒3及び有機溶剤を除去する工程と
を含むプロセスによって調製される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
水対ジアルコキシシランのモル比が、2:1を超える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
触媒3が、酸性触媒である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶剤が、エタノール又はアセトニトリルである、請求項10~12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、アルキル官能化ポリシロキサンを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
長鎖アルキル官能化ポリシロキサンは、その良好な潤滑性、撥水性、防汚性、耐水性、消泡性、抗粘着性、印刷適正及び有機材料との適合性ゆえに、注目を集めている。
【0003】
今日、長鎖アルキル官能化ポリシロキサンは、主に、3つの方法によって調製されている。1つは、長鎖アルキルを有するアルコキシシラン又はクロロシランとヒドロキシシランとの共加水分解濃縮による。別の方法は、水素含有シロキサンとα-オレフィンとの間のヒドロシリル化反応による。もう1つの方法は、末端封鎖剤の存在下の長鎖アルキルを有するアルコキシシラン又はシロキサンオリゴマーと低分子シクロシロキサンとの触媒平衡による。
【0004】
第1の方法は、低い多量体化度を有する長鎖アルキル官能化シロキサンの調製に好適であり、アルコキシシラン又はクロロシランとヒドロキシシランとの反応は、触媒に非常に感受性である。第2の方法によって調製されたシロキサンの分子構造は、開始材料水素含有シロキサンに左右され、そして長鎖アルキル官能化シロキサンの多量体化度及び粘度を調整することは不可能であり、さらなる官能基を導入することもできず、その上、ヒドロシリル化反応は、プロセスの安全性に厳しい要件を課す非常に発熱性の反応であって、さらに、残留オレフィンの処理は困難である。第3の方法については、比較的大きな割合のシクロシロキサンが、真空蒸留後であっても、調製されたシロキサン中に存在することになり、生成物の性能に影響する。CN105838079Aにおいて開示されるように、110~120℃でのテトラメチルテトラアルキルシロキサンとオクタメチルシクロテトラシロキサンとテトラメチルジビニルジシロキサンとの触媒平衡によって調製される長鎖アルキル官能化ビニルシロキサンは、このような欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】中国特許出願公開第105838079号明細書
【発明の概要】
【0006】
先行技術の欠点を鑑みて、本開示によって提示されるアルキル官能化ポリシロキサンの調製方法は、以下の目標の少なくとも1つを達成し得る。
【0007】
(i)異なる用途分野について、ヒドロキシル末端化ポリシロキサン、シランオリゴマー及び末端封鎖剤の供給を制御することによって、長鎖アルキル官能化ポリシロキサンの多量体化度及び粘度が、必要に応じて柔軟に調整され得る。
【0008】
(ii)多数(3つ以上)のアルキル官能基が導入され得、そして二官能性付与ポリシロキサンを得るために、さらなる官能基が簡便に導入され得る。
【0009】
(iii)直鎖ヒドロキシル末端化ポリシロキサンを開始材料として用いることにより、平衡生成物における望ましくないシクロシロキサンの割合が、大幅に減る。
【0010】
(iv)反応が穏やかであり、操作が容易であり、かつ環境にやさしい。
【0011】
本開示は、アルキル官能化ポリシロキサンを調製する方法を提供し、この方法は、以下:
(I)シランオリゴマー(A)を触媒1の存在下でヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)と反応させる工程であって、シランオリゴマー(A)が、式Iの環式オリゴマー(A1)を含む:
【0012】
【化1】
式中、Rは、独立して各存在においてC6~C18アルキル、例えばヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、好ましくはC6~C16アルキル、特にC6~C12アルキルであり、
は、独立して各存在においてC1~C5アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、好ましくはメチルであり、
mは、3~20の任意数、例えば3、4、5、6、8、10、15、20である、及び
(II)工程(I)の生成物を触媒2の存在下で末端封鎖剤と反応させて、アルキル官能化ポリシロキサンを得ること
を含む。
【0013】
シランオリゴマー(A)
シランオリゴマー(A)は、シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて、20wt%を超える、例えば50wt%を超える、好ましくは70wt%を超える環式オリゴマー(A1)を含む。本明細書中の1つの実施形態において、シランオリゴマー(A)は、シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて、20wt%~95wt%、例えば50wt%~95wt%、好ましくは70wt%~95wt%を含む。平衡反応において開環が容易である、式Iの環式三量体及び環式四量体が好ましい。本明細書中の1つの実施形態において、シランオリゴマー(A)は、シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて30wt%を超える、特に60wt%を超える式Iの環式三量体及び環式四量体を含む。本明細書中のより特定の実施形態において、シランオリゴマー(A)は、シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて30wt%を超える、特に40wt%を超える式Iの環式三量体を含む。
【0014】
本開示のシランオリゴマー(A)は、式IIの直鎖オリゴマー(A2)をさらに含んでもよい:
【0015】
【化2】
式中、Rは、メチル、エチル又は水素、特にメチル又はエチルであり、
は、上述のRのように規定され、
は、上述のRのように規定され、そして
nは、2~20の、例えば2~8の、9~20の任意数、例えば5、6、8、10、15、20である。
【0016】
シランオリゴマー(A)は、シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて、例えば50wt%未満、30wt%未満、20wt%未満、10wt%未満の直鎖オリゴマー(A2)を含み得る。多アルキル官能化ポリシロキサンは、比較的量の多い直鎖オリゴマーを有するシランオリゴマー(A)を用いても調製され得るが、直鎖オリゴマー中のアルコキシ又はヒドロキシル基の含量がより多いと、ポリシロキサン鎖の伸長の助けとならないので、これは、ポリシロキサンの多量体化度及び粘度を調整するために十分な柔軟性を持たない。シランオリゴマー(A)は、シランオリゴマー(A)の総重量に基づいて5wt%を超える直鎖オリゴマー(A2)を含むことが好ましい。適切な量の直鎖オリゴマーは、アルコキシ又はヒドロキシル基をポリシロキサンに導入することを容易にする。
【0017】
驚くべきことに、適切な含量のアルコキシ及びヒドロキシル基は、フィラーとの相互作用によりフィラー負荷の増大を可能にすることによって、ポリシロキサン組成物の粘度をさらに低下することに寄与し、それによって組成物の熱伝導性を改善する。しかし、アルコキシ及びヒドロキシル基の含量が高すぎるポリシロキサンは、貯蔵安定性が悪くなる場合があり、付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物に適用した際に沸騰しやすく、熱伝導性を損なう。
【0018】
シランオリゴマー(A)は、以下を含む、シランの加水分解性濃縮によって調製されてもよい:
(i)式IIIのジアルコキシシラン:
Si III
(式中、Rは、メトキシ又はエトキシであり、
は、上述のRのように規定され、
は、上述のRのように規定される)
を、触媒3及び有機溶剤の存在下で水と反応させる工程であって、水対ジアルコキシシランのモル比が0.5:1より大きく、例えば2:1より大きく、3:1より大きく、5:1より大きい工程と、

(ii)副生成物、水、触媒3及び有機溶剤を除去する工程。
【0019】
工程(i)において、反応は、シランの加水分解濃縮が発熱反応であることを考慮し、好ましくは低温で、例えば30℃を下回る温度、例えば室温、又は10℃を下回る温度で行われる。反応が非常に発熱性であることを考慮し、水は、好ましくは、式IIIのジアルコキシシランに滴下して添加される。反応は好ましくは、1~8時間、例えば3~6時間にわたって行われる。
【0020】
工程(i)において、反応速度を阻害するために有機溶剤が使用され、これは、例えばエタノール又はアセトニトリルであってもよい。有機溶剤の量は、加水分解濃縮が穏やかに進行することを確保する限り、特に限定されない。触媒3は、ジアルコキシシランの加水分解及び濃縮を促進するための酸性触媒、例えば塩酸又は濃硫酸であってもよい。シランオリゴマーの多量体化度をさらに上げるために、酸性触媒が除去された後のより終盤の反応段階において、アルカリ性触媒、例えば水酸化カリウムが、濃縮のために加えられてもよい。
【0021】
工程(i)において、水対ジアルコキシシランのモル比は、生じるシランオリゴマーの組成物及び構造に重要である。モル比がより低いと、ジアルコキシシランの濃縮に資せず、又はより高いアルコキシ及びヒドロキシル基含量を有するオリゴマーを生じる。
【0022】
工程(ii)において、副生成物(主に低分子アルコール)は、通常、蒸留によって除去される;触媒3は、例えば、アルカリ性物質による中和によって除去され得る;有機溶剤は、すすぎ又は蒸留によって除去される。
【0023】
本明細書中の好ましい実施形態において、シランオリゴマー(A)は、以下の工程を含むプロセスによって調製される:(i)塩酸などの触媒3及びエタノールなどの有機溶剤の存在下で、水を式IIIのジアルコキシシランに滴下して加えて反応を行う工程であって、水対ジアルコキシシランを含む長鎖アルキルのモル比は2:1を超える;(ii)副生成物、水、有機溶剤及び触媒3を除去する工程。
【0024】
ヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)
ヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)は、代表的に式IVのものである:
【0025】
【化3】
式中、Rは、独立して各存在においてC1~C5アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル及びペンチル、又はフェニル、好ましくはメチルであり;
pは、3~150の任意数、例えば10~100の任意数、特に10~60の任意数、例えば、15、20、25、30、35、40、45、50、55であることが好ましい。本明細書中の1つの実施形態において、pは、15~55の間、特に20~50の任意数である。
【0026】
末端封鎖剤(C)
末端封鎖剤(C)は、代表的に、式Vのものである:
【0027】
【化4】
式中、Rは、メチル、ビニル、水素、アミノプロピル、アミノエチルアミノプロピル又はグリシジルプロピルであり、
は、独立して各存在においてC1~C5アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、好ましくはメチルであり;そして
qは、0~20の間の任意数、例えば0、3、6、9、12、15、18である。
【0028】
本明細書中の1つの実施形態において、末端封鎖剤は、式Vに示される構造式を有し、式中、Rはメチルであり、そしてqは0である。
【0029】
触媒1及び触媒2は、アルカリ性触媒、例えば水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム水酸化物及びそれらの水和物であってもよく;酸性触媒、例えば塩化ホスファゼン、トリフルオロメタンスルホン酸、及び酸性イオン交換樹脂であってもよい。触媒1及び触媒2は、有効な濃縮及び/又は平衡反応を確実にするために、必要最小量で使用されるべきである。触媒1及び触媒2は、同じであっても、又は異なっていてもよい。より多くの触媒不純物が入り込んでこの後取り除くのがより困難になることを避けるために、触媒2は、好ましくは、触媒1と同じである。この場合、供給操作を単純化するために、工程(II)における触媒2は、工程(I)における触媒1と共に供給されてもよい。
【0030】
ほとんどの場合、本開示のアルキル官能化ポリシロキサンは、アルカリ性触媒又は酸性触媒のいずれかの存在下で調製され得る。そのことにもかかわらず、この触媒は、末端封鎖剤の種類によって変動し得る。本明細書中の1つの実施形態において、Rがメチル、ビニル、アミノプロピル、アミノエチルアミノプロピル又はグリシジルプロピルである式Vの末端封鎖剤が使用され、触媒1及び触媒2が、アルカリ性触媒である。本明細書中の別の実施形態において、Rが水素である式Vの末端封鎖剤が使用され、触媒1及び触媒2が、酸性触媒である。
【0031】
本開示において、シランオリゴマー(A)、ヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)及び末端封鎖剤(C)の量は、所望のアルキル官能化ポリシロキサンにおけるM及びD構造単位の数に従って選択され得る。
【0032】
工程(I)において、反応は、濃縮反応及び平衡反応を含む。濃縮反応及び平衡反応は、しばしば、同時に起こる。工程(I)の反応は、好ましくは80℃~110℃、特に90℃~105℃の温度で、好ましくは15分間~4時間の時間にわたって実施される。工程(I)の反応は、減圧にて都合よく実施され、そこから生成した低分子アルコール及び水を抽出する。ここで、圧力は、100mbar未満、例えば、80mbar未満に減じられる。
【0033】
工程(II)において、反応は、代表的に、好ましくは100℃~140℃の温度で、特に110℃~130℃の温度で、好ましくは3時間~8時間の時間にわたって実施される、平衡反応である。概して、平衡反応がより長く進むほど、反応はより均一になる傾向がある。しかし、上記の反応時間は、経済性を考慮して好ましい。
【0034】
標的アルキル官能化ポリシロキサンにおけるヒドロキシル、アルコキシ、などの末端基の割合を調整するために、低量のヒドロキシル末端化ポリシロキサン(B)もまた、工程(II)における平衡反応に加えられ得る。
【0035】
本開示の調製方法は、触媒不純物の生成物性能に対する影響を最小限にするために、触媒を除去する工程(III)を、さらに含んでもよい。概して、アルカリ金属水酸化物は、酸性触媒によって中和され、第4級アンモニウム水酸化物は、高温で分解され、酸性触媒は、アルカリ性物質で中和される。
【0036】
本開示の調製方法は、低分子シクロシロキサン、低分子アルコール、水などを含む低沸点溶剤を、好ましくは、100mbar未満、例えば60mbar未満の好ましい圧力で、かつ140℃~190℃、例えば、160℃~180℃の好ましい温度での真空蒸留によって除去する工程(IV)を、さらに含み得る。
【0037】
本開示において、工程(I)、(II)及び(III)は、通常は窒素又はアルゴン雰囲気である不活性雰囲気の存在下で、都合よく実施される。
【0038】
本開示において、用語「室温」は、23±2℃をいう。
【発明を実施するための形態】
【0039】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、その範囲に限定されない。以下の実施例において条件が特定されていない任意の実験方法が、従来の方法及び条件及び製品仕様書に従って、選択される。
【0040】
分子量分布の性質決定
PSS SECcurityゲル透過クロマトグラフィーを用いて、多量体化度の異なるシラン加水分解オリゴマーを分離し、そして各分子量を、参照と比較して決定する。テトラヒドロフランを溶剤として使用し、そしてAgilentによって提供されたPLgel 5μm guard及びPLgel 5μm 100Aを、カラムとして用いる。カラムオーブンの温度は45℃であり、供給速度は1ml/分、及び注射容積は20μlである。
【0041】
分子構造の性質決定
1HNMR分光法
試験溶剤:変性クロロホルム(TMS非含有)
分光計:Bruker Avance III HD 400
サンプリングヘッド:5mm BBO プローブ
測定パラメータ:
パルスシーケンス(Pulprog)=zg30
TD=65536
NS=64
SW=18ppm
AQ=4.54s
D1=5s
【0042】
いくつかの測定パラメータは、分光計の種類によって適切に調整される必要がある場合がある。
【0043】
29SiNMR分光法
試験溶剤:変性ベンゼン(緩和剤クロムアセチルアセトネートを含み、そして初期標準物質は加えない)
分光計:Bruker Avance III HD 400
サンプリングヘッド:5mm BBOプローブ
測定パラメータ:
パルスシーケンス=zgig60
TD=65536
NS=2048
SW=200ppm
AQ=2.04s
D1=5s
【0044】
いくつかの測定パラメータは、分光計の種類によって適切に調整される必要がある場合がある。
【0045】
ポリシロキサンの粘度の決定
ポリシロキサンの粘度は、Brookfield粘度計により、No.3スピンドルを用いて25℃及び300rpmにて30秒間にわたって測定される。
【0046】
組成物の粘度の決定
DIN EN ISO 3219:液体状態で又はエマルジョンもしくは分散液の状態での、所定の剪断速度で回転粘度計を用いる、ポリマー及び樹脂の粘度の決定(ISO3219:1993)に従って実施される。
【0047】
実施例において使用される原材料は、全て市販されており、詳細な情報は以下のとおりである:
ヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサンであるWACKER(R) FINISH WS 62 M、25℃でDIN 51562に従って測定して50~110mPa・sの力学的粘度を有する、供給元Wacker Chemicals;
塩化ホスホニトリル、WACKER(R) PNCL 2/100 PERCENT、供給元Wacker Chemicals;
1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、供給元Guike New Material;
テトラメチルジビニルジシロキサン、供給元TCL;
アルミナA、40μmの平均粒子サイズを有する球形アルミナ粉末;
アルミナB、5μmの平均粒子サイズを有する球形アルミナ粉末;
酸化亜鉛、5μmの平均粒子サイズを有する非球形酸化亜鉛粉末;
水素末端化ポリジメチルシロキサンC1、25℃にて85mPa.sの力学的粘度を有する、供給元Wacker Chemicals、以後、HポリマーC1と呼ぶ;
水素末端化ポリジメチルシロキサンC2、25℃にて1,040mPa.sの力学的粘度を有する、供給元Wacker Chemicals、以後、HポリマーC2と呼ぶ;
ビニル末端化ポリジメチルシロキサンC2、ELASTOSIL(R)ビニルポリマー120、120mPa・sの力学的粘度を有する、供給元Wacker Chemicals、以後、VポリマーC2と呼ぶ。
【実施例
【0048】
合成実施例1
68.5gのドデシルジエトキシメチルシラン、110gのエタノール及び1.22gの5%塩酸水溶液を、室温にてフラスコに添加し、撹拌し、次いで25gの水をフラスコに滴下で加え、室温にて4時間にわたって反応を行い、次いで1時間にわたって65℃に供し、白色固形析出物を得た。その後、この析出物を、蒸留フラスコ、に移し、これを、85℃及び100mbarで1時間にわたって回転蒸発に供し、加水分解ドデシルジエトキシメチルシランのオリゴマーを得た。NMRによって決定したとおり、オリゴマーは、53.60wt%のトリメチルトリドデシルシクロトリシロキサンD3C12H25、18.17wt%のテトラメチルテトラドデシルシクロテトラシロキサンD4C12H25、6.83wt%のCH(OR)(C1225)SiO1/2単位(式中、Rは-C又はH、主に-Cである)及び21.40wt%のCH3(C1225)SiO2/2単位及び環式ペンタマー、環式ヘキサマー及びより高い多量体化度を有する環式オリゴマーを含む。GPCによって決定したとおり、このオリゴマーは、52.17wt%の三量体、18.75wt%の四量体、6.36wt%のペンタマー及び22.73wt%のヘキサマー並びにより高い多量体化度を有するオリゴマーを含む。
【0049】
合成実施例2
68.5gのドデシルジエトキシメチルシラン、20.87gのエタノール及び0.14gの5%塩酸水溶液を、室温にてフラスコに加え、撹拌し、次いで4.08gの水をフラスコに滴下で加え、室温にて4時間にわたって反応を行い、次いで65℃に1時間にわたって供して、白色固形析出物を得た。その後、この析出物を、炭酸ナトリウムで中和し、次いで蒸留フラスコに移して、これを85℃及び100mbarで1時間にわたって回転蒸発に供し、加水分解ドデシルジエトキシメチルシランのオリゴマーを得た。NMRによって決定したとおり、オリゴマーは、19.38wt%のトリメチルトリドデシルシクロトリシロキサンD C12H25、2.76wt%のテトラメチルテトラドデシルシクロテトラシロキサンD C12H25、65.00wt%のCH(OR)(C1225)SiO1/2単位(式中、Rは-C又はH、主に-Cである)及び11.63wt%のCH(C1225)SiO2/2単位並びに環式ペンタマー、環式ヘキサマー及びより高い多量体化度を有する環式オリゴマーを含む。
【0050】
合成実施例3
200gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサン、30.8gの合成実施例1で得た加水分解ドデシルジエトキシメチルシランのオリゴマー及び0.0592gの塩化ホスホニトリルをフラスコに加え、撹拌し、そして95℃まで加熱して、95℃及び50mbarにて0.5時間にわたって、窒素流れを用いて、反応を行った。次いで、6gの1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンをフラスコに加え、そして120℃まで加熱して、5時間にわたって反応させた。反応の完了の際、固形の炭酸ナトリウムを加えて、塩化ホスホニトリルを50℃にて1.5時間にわたって処理し、次いで濾過した。その後、得られた反応物を蒸留フラスコに移し、170℃及び30mbarにて1.5時間にわたって蒸留して低沸点溶剤を辞去し、そして室温まで冷まして、アルキル官能化水素ポリジメチルシロキサンを得、これを以下の構造式のHポリマー1と呼び、これは、25℃で95mPa・sの力学的粘度を有する。
【0051】
【化5】
【0052】
合成実施例4
220gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサン、7.7gの合成実施例1で得た加水分解ドデシルジエトキシメチルシラン及び0.0573gの塩化ホスホニトリルをフラスコに加え、撹拌し、そして95℃まで加熱して、95℃及び50mbarにて0.5時間にわたって窒素流れを用いて反応を行った。次いで、1.5gの1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンをフラスコに加え、そして120℃まで加熱して5時間にわたって反応させた。反応の完了の際、固形の炭酸ナトリウムを加え、塩化ホスホニトリルを50℃にて1.5時間にわたって処理し、次いで濾過した。その後、得られた反応物を蒸留フラスコに移し、170℃及び30mbarにて1.5時間にわたって蒸留して低沸点溶剤を辞去し、そして室温まで冷まして、アルキル官能化水素ポリジメチルシロキサンを得、これを以下の構造式のHポリマー2と呼び、これは、25℃で1,155mPa・sの力学的粘度を有する。
【0053】
【化6】
【0054】
合成実施例5
200gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサン、41gの合成実施例1で得た加水分解ドデシルジエトキシメチルシラン及び0.52gの25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液をフラスコに加え、撹拌し、そして95℃まで加熱して、95℃及び40mbarにて40分間にわたって窒素流れを用いて反応を行った。次いで、8.35gのテトラメチルジビニルジシロキサンをフラスコに加え、そして120℃まで加熱して2時間にわたって反応させ、その後、2.4gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサンを加え、そして反応を120℃にて2時間にわたって続けた。反応の完了の際、得られた混合物を、175℃までさらに加熱して、触媒を1.5時間にわたって分解した。次いで、得られた反応物を蒸留フラスコに移し、175℃及び30mbarにて1.5時間にわたって蒸留して低沸点溶剤を除去した。そして、室温まで冷まして、アルキル官能化ビニルポリジメチルシロキサンを得、これを以下の構造式のVポリマー1と呼び、これは、25℃で102mPa・sの力学的粘度を有する。
【0055】
【化7】
【0056】
比較合成実施例6
632gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサン、25.9gのドデシルジエトキシメチルシラン及び0.51gの25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液をフラスコに加え、撹拌し、そして95℃まで加熱して、95℃及び30mbarにて30分間にわたって窒素流れを用いて反応を行った。次いで、14.9gのテトラメチルジビニルジシロキサンをフラスコに加え、そして120℃まで加熱して2時間にわたって反応させ、その後、11.8gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサンを加え、そして反応を、120℃にて2時間にわたって続けた。反応の完了の際、得られた混合物を、175℃までさらに加熱して、触媒を1.5時間にわたって分解した。次いで、得られた反応物を蒸留フラスコに移し、175℃及び30mbarにて1.5時間にわたって蒸留して低沸点溶剤を除去した。そして室温まで冷まして、アルキル官能化ビニルポリジメチルシロキサンを得、これを以下の構造式のVポリマーC1と呼び、これは、25℃で110mPa・sの力学的粘度を有する。
【0057】
【化8】
【0058】
合成実施例7
170.7gのヒドロキシル末端化ポリジメチルシロキサン、35gの合成実施例2で得られた加水分解ドデシルジエトキシメチルシランのオリゴマー及び0.12gの25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液をフラスコに加え、撹拌し、そして95℃まで加熱して、95℃及び100mbarにて1時間にわたって窒素流れを用いて反応を行った。次いで、2.95gのテトラメチルジビニルジシロキサンをフラスコに加え、そして120℃まで加熱して、3時間にわたって反応させた。反応の完了の際、得られた混合物を、175℃までさらに加熱して、触媒を1.5時間にわたって分解した。次いで、得られた反応物を蒸留フラスコに移し、175℃及び30mbarにて1.5時間にわたって蒸留して低沸点溶剤を除去した。そして、室温まで冷まして、アルキル官能化ビニルポリジメチルシロキサンを得、これを、以下の構造式のVポリマー2と呼び、これは、25℃で125mPa・sの力学的粘度を有する。
【0059】
【化9】
【0060】
表1に従って、Hポリマー1~2、Vポリマー1及びHポリマーC1~C2、VポリマーC1~C2を、熱伝導性フィラーとそれぞれ混合し、そして得られた組成物の粘度を、1s-1及び10s-1の剪断速度で測定した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1は、Hポリマー1~2が、組成物の粘度を下げることにおいて、同じ熱伝導性フィラー負荷において同様の粘度を有する対応するHポリマーC1~C2より有効であって、それにより、組成物の熱伝導性を改善することを示す。Vポリマー1は、組成物の粘度を下げることにおいてVポリマーC2よりも非常に顕著な利点を有し、かつ、本発明のものではない方法によって合成されたVポリマーC1と比較して、導入された長鎖アルキルの数に関してより良い性能を発揮する。
【0063】
表2に従って、Hポリマー1~2及びHポリマーC1~C2を、熱伝導性フィラーとそれぞれ混合し、そして得られた組成物の粘度を、1s-1及び10s-1の剪断速度で測定した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2は、Hポリマー1~2が、組成物の粘度を下げることにおいて、同じ熱伝導性フィラー負荷において同様の粘度を有する対応するHポリマーC1~C2より有効であって、それにより、組成物の熱伝導性を改善することを示す。
【0066】
表3は、室温にて10ヶ月間にわたって放置した後のHポリマー1~2の粘度変化を列挙する。粘度変化は、±5%以内であり、良好な貯蔵安定性を示す。
【0067】
【表3】