(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/00 20060101AFI20240624BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20240624BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20240624BHJP
D06M 13/463 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
B01D39/00 B
B01D39/20 B
D06M15/333
D06M13/463
(21)【出願番号】P 2023520847
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2022010321
(87)【国際公開番号】W WO2022239430
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021082512
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021121568
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】福島 彰太
(72)【発明者】
【氏名】根本 純司
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194584(JP,A)
【文献】特開2010-094580(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115970508(CN,A)
【文献】国際公開第2018/221063(WO,A1)
【文献】特開2020-073271(JP,A)
【文献】国際公開第2021/234946(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
C08J 9/00-9/42
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体透過性を有する支持体
(但し、湿式抄紙後の湿潤状態にある湿紙を除く。)に、ポリビニルアルコール水溶液を付着させ、前記支持体を湿潤状態とする付着工程と、
湿潤状態の前記支持体に付着している前記ポリビニルアルコール水溶液を140℃以上で乾燥させる乾燥工程と、を有し、
前記ポリビニルアルコール水溶液に含まれるポリビニルアルコールは、ケン化度が80~98mol%であり、
前記ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有しておらず、かつ、該乾燥工程を経た前記支持体は、前記ポリビニルアルコール水溶液が乾燥させられることによって、流体透過経路となる孔にポリビニルアルコールの
ナノファイバーを含む網目状のネットワークを有することを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項2】
前記網目状のネットワークは、ナノファイバーからなることを特徴する請求項1に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項3】
前記ナノファイバーは、数平均繊維径が10~500nmのナノファイバーであることを特徴する請求項2に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール水溶液に含まれるポリビニルアルコールは、重合度が1500~6000であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコールの固形分濃度は0.01~0.20質量%であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程を経た前記支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05~1.00質量%であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項7】
前記支持体に付着させる前記ポリビニルアルコール水溶液の量は、支持体1m
2あたり50g以上であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程において、湿潤状態の前記支持体に付着している前記ポリビニルアルコール水溶液の溶媒の蒸発速度が支持体1m
2あたり100g/分以上であること特徴とする請求項1~
7のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール水溶液が、さらにカチオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1~
8のいずれか一つにエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコール水溶液中の前記カチオン性界面活性剤は、ポリビニルアルコール100質量部に対して1~30質量部添加されていることを特徴とする請求項
9に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥工程を経た前記支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の合計付着量が0.05~1.30質量%であることを特徴とする請求項
9又は
10に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項12】
前記支持体が、ガラス繊維を主成分とする濾材用不織布であることを特徴とする請求項1~
11のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項13】
流体透過性を有する支持体と、
該支持体の流体透過経路となる孔に形成されているポリビニルアルコールの網目状のネットワークと、を有し、
前記網目状のネットワークは、ナノファイバー
を含み、
前記ポリビニルアルコールの重合度は1500~6000であり、
前記ポリビニルアルコールのケン化度は
80~98mol%であり、
前記支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05~1.00質量%であり、かつ、
前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有していないことを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項14】
さらにカチオン性界面活性剤を含有していることを特徴とする請求項
13に記載のエアフィルタ用濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリビニルアルコールを用い、粒子捕集性能を格段に向上させたエアフィルタ用濾材及びその製造方法を提供することを目的とする。更に詳しくは、半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム若しくはクリーンベンチ、ビル空調、内燃機関又は室内空間などの空気浄化用途に適したエアフィルタ濾材を、比較的短時間で製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン乃至ミクロン単位の粒子を捕集するためには、一般的に、エアフィルタ用濾材が用いられている。エアフィルタ用濾材は、その捕集性能によって、粗塵フィルタ用、中性能フィルタ用、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ用又はULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタ用に大別される。これらエアフィルタ用濾材における基本的な特性としては、微細なダスト粒子の粒子透過率が低いことのほかに、フィルタに空気を通気させるために、圧力損失が低いことが求められている。
【0003】
エアフィルタ用濾材として、部分鹸化度90%までのポリビニルアルコールを用い、ガラス繊維の表面を疎水化させ、繊維の分散性を向上させてフィルタ性能を上昇させる提案がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、風圧が加わっても厚さ方向に潰れにくい形状維持性が高い不織布フィルタとして、厚さ方向へポリビニルアルコールの微小繊維を配向させて形成する提案がある(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-194584号公報
【文献】WO2018/221063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ガラス繊維同士を結着させるためのバインダー樹脂のうちの一種としてポリビニルアルコールが含まれているが、湿潤状態の濾材の急速な乾燥を行わず、ガラス繊維の分散性を高める役割を果たすものの、その他バインダー樹脂も混合されている為、繊維間にポリビニルアルコールの網目状のネットワークの形成を阻害してしまい、ネットワークを有する構造は得られない。
【0007】
特許文献2では、厚さ方向以外に形成されるポリビニルアルコールの微小繊維が少ないため、当該微小繊維がフィルタ性能の上昇に必ずしも寄与していない。
【0008】
本開示は、ポリビニルアルコールを用い、支持体の流体透過経路の孔に、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークを、支持体の平面方向、厚さ方向と比較的ランダムに設けることで、フィルタ性能、特に粒子捕集性能を向上させたエアフィルタ用濾材を提供することを目的とする。さらに本開示は、このようなエアフィルタ用濾材を比較的短時間で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、流体透過性を有する支持体(但し、湿式抄紙後の湿潤状態にある湿紙を除く。)に、ポリビニルアルコール水溶液を付着させ、前記支持体を湿潤状態とする付着工程と、湿潤状態の前記支持体に付着している前記ポリビニルアルコール水溶液を140℃以上で乾燥させる乾燥工程と、を有し、前記ポリビニルアルコール水溶液に含まれるポリビニルアルコールは、ケン化度が80~98mol%であり、前記ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有しておらず、かつ、該乾燥工程を経た前記支持体は、前記ポリビニルアルコール水溶液が乾燥させられることによって、流体透過経路となる孔にポリビニルアルコールのナノファイバーを含む網目状のネットワークを有することを特徴とする。ポリビニルアルコールが水溶液中で溶解しやすく、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークをより確実に形成することができ、PF値を向上させることができる。
【0010】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記網目状のネットワークは、ナノファイバーからなることが好ましい。高い粒子捕集性能と低圧力損失とを両立させることができる。
【0011】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記ナノファイバーは、数平均繊維径が10~500nmのナノファイバーであることが好ましい。より高い粒子捕集性能と低圧力損失とを両立させることができる。
【0012】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記ポリビニルアルコール水溶液に含まれるポリビニルアルコールは、重合度が1500~6000であることが好ましい。ポリビニルアルコールの網目状のネットワークをより確実に形成することができ、PF値を向上させることができる。
【0014】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記ポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコールの固形分濃度は0.01~0.20質量%であることが好ましい。支持体の表面にポリビニルアルコールのフィルム状の構造体が形成されることを抑制することができる。
【0015】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記乾燥工程を経た前記支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05~1.00質量%であることが好ましい。粒子捕集性能が高く、圧力損失が比較的低いエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0016】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記支持体に付着させる前記ポリビニルアルコール水溶液の量は、支持体1m2あたり50g以上であることが好ましい。支持体の流体透過経路となる孔に、網目状のネットワークを過不足なく形成しやすく、PF値が上昇しやすい。
【0017】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記乾燥工程において、湿潤状態の前記支持体に付着している前記ポリビニルアルコール水溶液の溶媒の蒸発速度が支持体1m2あたり100g/分以上であることが好ましい。ポリビニルアルコール水溶液を急速に乾燥することで、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークをより確実に形成することができる。
【0018】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記ポリビニルアルコール水溶液が、さらにカチオン性界面活性剤を含有することが好ましい。高い粒子捕集性能と低圧力損失とを両立させることができる。
【0019】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記ポリビニルアルコール水溶液中の前記カチオン性界面活性剤は、ポリビニルアルコール100質量部に対して1~30質量部添加されていることが好ましい。粒子捕集性能がさらに高く、圧力損失が比較的低いエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0020】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記乾燥工程を経た前記支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の合計付着量が0.05~1.30質量%であることが好ましい。粒子捕集性能がさらに高く、圧力損失が比較的低いエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0021】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、前記支持体が、ガラス繊維を主成分とする濾材用不織布であることが好ましい。フィルタ性能を安定して維持することができる。
【0022】
本発明に係るエアフィルタ用濾材は、流体透過性を有する支持体と、該支持体の流体透過経路となる孔に形成されているポリビニルアルコールの網目状のネットワークと、を有し、前記網目状のネットワークは、ナノファイバーを含み、前記ポリビニルアルコールの重合度は1500~6000であり、前記ポリビニルアルコールのケン化度は80~98mol%であり、前記支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05~1.00質量%であり、かつ、前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有していないことを特徴とする。
【0023】
本発明に係るエアフィルタ用濾材は、流体透過性を有する支持体と、該支持体の流体透過経路となる孔に形成されているポリビニルアルコールの網目状のネットワークと、を有し、前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有せず、カチオン性界面活性剤を含有しており、かつ、前記網目状のネットワークは、ナノファイバーを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、さらにカチオン性界面活性剤を含有していることが好ましい。フィルタ性能、特に粒子捕集性能を向上させたエアフィルタ用濾材を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示によれば、ポリビニルアルコールを用い、支持体の流体透過経路の孔に、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークを、支持体の平面方向、厚さ方向と比較的ランダムに設けることで、フィルタ性能、特に粒子捕集性能を向上させたエアフィルタ用濾材を提供することができる。さらに本開示によれば、このようなエアフィルタ用濾材を比較的短時間で製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1AのエアフィルタをSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図2】実施例6AのエアフィルタをSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図3】実施例8AのエアフィルタをSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図4】比較例2AのエアフィルタをSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図5】実施例2BのエアフィルタをSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【
図6】実施例12BのエアフィルタをSEMにより観察した画像(観察倍率5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0028】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、流体透過性を有する支持体に、ポリビニルアルコール水溶液を付着させ、前記支持体を湿潤状態とする付着工程と、湿潤状態の前記支持体に付着している前記ポリビニルアルコール水溶液を140℃以上で乾燥させる乾燥工程と、を有し、前記ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有しておらず、かつ、該乾燥工程を経た前記支持体は、前記ポリビニルアルコール水溶液が乾燥させられることによって、流体透過経路となる孔にポリビニルアルコールの網目状のネットワークを有する。
【0029】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、ポリビニルアルコール水溶液が、さらにカチオン性界面活性剤を含有する形態を包含する。
【0030】
カチオン性界面活性剤を含有するポリビニルアルコール水溶液を、以降、単に、「ポリビニルアルコール水溶液」ともいう。
【0031】
<支持体>
支持体は、流体透過性を有するものであれば特に限定するものではなく、例えば、不織布、織布、紙又はスポンジなどの多孔質な材料を用いることができる。これらの中でも不織布が好ましく、特にガラス繊維、有機繊維などの繊維を主成分とする濾材用不織布であることが好ましい。フィルタ性能を安定して維持することができるという点でガラス繊維を主成分とする濾材用不織布であることがさらに好ましい。ガラス繊維、有機繊維などの繊維を主成分とするとは、支持体の全質量に対する当該繊維の質量が50質量%以上であることをいう。より好ましくは、80質量%以上である。支持体が当該繊維を主成分とする不織布であるとき、目付は10~300g/m2であることが好ましく、30~200g/m2であることがより好ましい。流体透過性とは、少なくとも気体を透過させることができる性質をいい、より好ましくは気体及び液体を透過させることができる性質をいう。
【0032】
支持体の圧力損失は1Pa~500Paであることが好ましい。より好ましくは10Pa~300Paであり、さらに好ましくは30Pa~200Paである。
【0033】
支持体の圧力損失が1Pa未満の場合、支持体の孔径が広すぎる為、ポリビニルアルコールのネットワークを張り巡らせることが難しく、捕集効率の上昇に寄与し難くなり、PF値も上昇しない場合がある。支持体の圧力損失が500Paを超える場合、支持体自体の捕集効率が極めて高く、ポリビニルアルコールのネットワークが支持体の捕集効率に寄与し難くなり、PF値は上昇しない場合がある。
【0034】
支持体に用いられるガラス繊維は、例えば、火焔延伸法若しくはロータリー法によって製造されるウール状の極細ガラス繊維、又は所定の繊維径となるように紡糸されたガラス繊維の束を所定の繊維長に切断して製造されるチョップドストランドガラス繊維である。これらの中から、必要とされる物性に応じて、種々の繊維径及び繊維長を有するものが選択され、単独又は混合して使用される。例えば、平均繊維径が相互に異なる2種以上の極細ガラス繊維とチョップドストランドガラス繊維とを混合して得たガラス繊維からなる不織布が好ましい。また、半導体製造工程用途におけるシリコンウェハの硼素汚染を防止する目的で、低硼素ガラス繊維又はシリカガラス繊維を使用することもできる。ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、0.05~20μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~5μmである。ガラス繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、0.5~10000μmであることが好ましい。より好ましくは、1~1000μmである。一方、有機繊維は、例えば、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維又はアラミド繊維である。有機繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、0.05~100μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~50μmである。有機繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、短繊維である場合は0.5~10000μmであることが好ましい。より好ましくは、10~5000μmである。不織布の製造方法は、特に限定されず、例えば、乾式法又は湿式法である。
【0035】
支持体の形状については、特に限定されるものでは無く、シート状の様な平面構造をしていなくても良い。例えば、支持体の材料に山折りと谷折りとを繰り返したジグザグ状の折り目を形成するプリーツ加工のように立体的に加工が施されたものでも構わない。予めプリーツ加工が施された支持体を用いれば、容積の限られた乾燥領域内で長尺な支持体を乾燥させることができ、効率的にポリビニルアルコールが付着されたエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【0036】
また、支持体の平均孔径は、0.1~50μmであることが好ましい。より好ましくは0.5~10μmである。0.1μm未満では、流体透過性に劣る場合がある。50μmを超えると、ポリビニルアルコールが支持体の孔内に網目状構造体を均一に形成しにくくなる場合がある。本実施形態においては、ポリビニルアルコールと水とを含有する水溶液を支持体の孔内に付着させ、その後乾燥してエアフィルタとすることができるが、適切な平均孔径を有する支持体を用いることで、均一に水溶液が孔径内へ分布し、乾燥後も網目状構造を維持させやすくなる。ここで、平均孔径は、ASTM E1294‐89「ハーフドライ法」に従って計測することができる。
【0037】
支持体は、支持体自体がエアフィルタ用濾材として使用できる素材であることが好ましい。本実施形態に係るエアフィルタの製造方法では、このような支持体を用いることで、従来のエアフィルタ用濾材(支持体自体)よりも粒子捕集性能の高いエアフィルタを得ることが容易となる。また、支持体は湿潤状態でもよく、例えば抄紙工程の途中で、湿潤状態の支持体にポリビニルアルコールの液を付着してもよい。
【0038】
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを原料として、ポリ酢酸ビニル中のカルボキシル基を鹸化、すなわち、アルカリ加水分解による水酸基への変換によって製造される。ここで、水酸基に変換したカルボキシル基の割合を、特に鹸化度と呼ぶ。
【0039】
ポリビニルアルコールの鹸化度は80~98mol%であることが好ましく、82~90mol%がより好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度が80mol%未満であると、ポリビニルアルコールが完全に溶解せず、好適なPF値を得ることができない場合がある。ポリビニルアルコールの鹸化度が98mol%を超えると、ケン化度が高くなり、疎水効果が薄くなる為、ネットワークが形成し難くなる場合がある。
【0040】
ポリビニルアルコールの重合度は1500~6000であることが好ましい。更に好ましくは2000以上5000以下である。例えばPVA95-88(鹸化度88mol%、重合度3500、クラレ社製)が挙げられる。ポリビニルアルコールの重合度が1500未満であると、ポリビニルアルコールのネットワーク構造が形成されにくくなり、PF値が上昇しない場合があり、ポリビニルアルコールの重合度が6000を超えると、ポリビニルアルコールの溶解がし難い為、未溶解部分が残るとPF値が上昇しない場合がある。
【0041】
本実施形態では、ポリビニルアルコールの鹸化度は80~98mol%であり、かつ、ポリビニルアルコールの重合度は1500~6000であることが好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度と重合度とをこのような範囲にすることで、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークをより形成しやすく、かつ、PF値が向上する。
【0042】
本実施形態では、ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコール以外の添加剤を含んでも良い。添加剤としては、界面活性剤、撥水剤、消泡剤、微細繊維、微細粒子などである。ただし、ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有していないことが必要である。ポリビニルアルコール水溶液にポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂が含まれていると、得られたエアフィルタ用濾材のPF値は支持体のみで測定したPF値と比較して、PF値の向上はみられない。ポリビニルアルコールの網目状のネットワークの形成が阻害されるからである。
【0043】
本実施形態では、ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコール以外の添加剤として、カチオン性界面活性剤を含有することが好ましい。カチオン性界面活性剤を含有するポリビニルアルコール水溶液を使用した形態とカチオン性界面活性剤を含有しないポリビニルアルコール水溶液を使用した形態とを比較すると、カチオン性界面活性剤を含有する形態ではPF値がさらに向上する。ポリビニルアルコール水溶液にアニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有させてもPF値の向上はみられないため、このPF値の更なる向上はカチオン性界面活性剤の配合によるものである。
【0044】
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型とアミン塩型に大別できるが、第4級アンモニウム塩型が好ましく、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。このうちパーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩はフッ素系カチオン性界面活性剤である。アミン塩型としてはモノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩などが例示される。
【0045】
ポリビニルアルコール水溶液中のカチオン性界面活性剤は、ポリビニルアルコール100質量部に対して1~30質量部添加されていることが好ましい。カチオン性界面活性剤がパーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩である場合には、ポリビニルアルコール100質量部に対して1~30質量部添加されていることが好ましく、15~30質量部添加されていることがより好ましい。カチオン性界面活性剤がアルキルトリメチルアンモニウムクロライドである場合には、ポリビニルアルコール100質量部に対して5~10質量部添加されていることが好ましい。
【0046】
本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材では、支持体の孔内で繊維状のポリビニルアルコールが絡み合って該繊維状のポリビニルアルコール間に空隙が形成されていることが好ましく、ポリビニルアルコールが積層されたフィルム状の構造体を有さないことが好ましい。圧力損失が上昇することを防止し、粒子透過率を低くすることができる。ポリビニルアルコールが積層されたフィルム状の構造体とは、ポリビニルアルコールが物理的な絡み合い又は化学的な凝集などによって形成された、支持体の孔の全体又は一部を塞ぐ膜状物をいう。
【0047】
本実施形態においては、支持体に対するポリビニルアルコールの付着量の割合を0.05~1.00質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.10~0.50質量%である。このような付着量とすることによって粒子捕集性能が高く、圧力損失が比較的低いエアフィルタとすることができる。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量の割合が0.05質量%を下回ると、粒子捕集性能に劣る場合がある。逆に1.00質量%を上回ると、支持体の孔を塞ぐ膜状になり易く、粒子捕集性能に影響し、フィルタ性能が低下する場合がある。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は、主に、水溶液中のポリビニルアルコールの濃度と、支持体への水溶液の付着量でコントロールすることができ、水溶液中のポリビニルアルコールの濃度を高くするほど、また、支持体への水溶液の付着量を多くするほど、支持体へのポリビニルアルコールの付着量は多くなる。
【0048】
本実施形態においては、支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の合計付着量の割合は0.05~1.30質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.10~0.65質量%である。
【0049】
本実施形態においては、支持体に付着させるポリビニルアルコール水溶液の量は1m2あたり50g以上が好ましい。より好ましくは100g以上である。50gを下回ると、支持体の繊維間に網目状のネットワークが形成し辛く、PF値も上昇し難い場合がある。支持体に付着させるポリビニルアルコール水溶液の量の上限は、例えば1m2あたり300gである。
【0050】
本実施形態においては、支持体にポリビニルアルコール水溶液を付着させた後、前記ポリビニルアルコール水溶液を140℃以上で乾燥させる乾燥工程を経て、エアフィルタ用濾材を得ることができる。水溶液は、ポリビニルアルコールを水に溶解させることで得ることができる。水溶液中のポリビニルアルコールの形態は、例えば、ポリビニルアルコールが分子1本または数本単位で水溶液中に安定溶解した形態、又は部分的に凝集した形態である。このうち、水溶液中のポリビニルアルコールの形態は、ポリビニルアルコールが1本または数本単位で水溶液中に安定溶解した形態であることが好ましい。
【0051】
<溶媒>
ポリビニルアルコール水溶液中に含まれる溶媒は水または水と有機溶剤との混合物であることが好ましい。より好ましくは水である。
【0052】
<ポリビニルアルコール水溶液>
本実施形態では、水溶液中のポリビニルアルコールの固形分濃度を0.01~0.20質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.03~0.10質量%である。水溶液中のポリビニルアルコールの固形分濃度が0.01質量%未満では、固形分濃度が低すぎる為、ポリビニルアルコールのネットワークが形成され難くなり、PF値が上昇しない場合があり、0.20質量%を超えると支持体の表面にポリビニルアルコールのフィルム状の構造体が形成される場合がある。ポリビニルアルコール水溶液には、前述の通り、カチオン性界面活性剤がポリビニルアルコール100質量部に対して1~30質量部添加される。
【0053】
<水溶液の調製>
本実施形態では、水溶液の調製方法は特に限定するものではなく、前述したポリビニルアルコールを水に溶解させて水溶液とすればよい。ポリビニルアルコール水溶液に、カチオン性界面活性剤を添加する方法としては、水にポリビニルアルコールの添加した後、ポリビニルアルコールの濃度を最終調整するときに、0.5~3質量%程度の濃度でカチオン性界面活性剤を含む水溶液を使用して希釈し、ポリビニルアルコールとカチオン性界面活性剤の濃度をそれぞれ調整する。
【0054】
本実施形態に係るポリビニルアルコールの溶解の方法として、特に限定するものではないが、例えば、マグネティックスターラー、プロペラ型撹拌機等を用い、水にポリビニルアルコールの粉体又は液体を投入し、100~700rpm程度で10分間攪拌する。次いで、攪拌中に温度を95℃にし、2時間程度攪拌することで、綺麗に溶解する。
【0055】
<付着工程>
水溶液を支持体に付着させる方法は、例えば、含浸法、塗布法又は噴霧法である。好ましくは噴霧法である。支持体に対する水溶液の付着量は、支持体の厚さ、材質及び平均細孔径に応じて適宜調整するものであるが、前述したように、本実施形態では、支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05%~1.00%が好ましい。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05質量%未満では、支持体へのポリビニルアルコールの付着量が不十分となり、均一なポリビニルアルコールのネットワークを形成することが難しい。結果としてエアフィルタ用濾材としての粒子捕集性能を十分に向上させることができないおそれがある。逆に1.00質量%を超えると、ポリビニルアルコールの網目状ネットワークが凝集した膜になり易く、粒子捕集性能を十分に向上させることができないおそれがある。また、前述したように、本実施形態では、支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の合計付着量の割合は0.05~1.30質量%とすることが好ましい。本実施形態において、支持体に対するポリビニルアルコールの付着量の割合の算出方法は特に限定するものではないが、例えば支持体が無機繊維のみで構成されている場合は、ポリビニルアルコールのみを燃焼させて、あるいはカチオン性界面活性剤を含む場合にはポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤を燃焼させて、燃焼後の減量割合から算出することができる。また、支持体に対するポリビニルアルコールの付着量の割合は、湿潤付着量から換算して求めてもよい。すなわち、支持体に対するポリビニルアルコールの付着量の割合(単位%)は、{(湿潤付着量×水溶液中のポリビニルアルコールの固形分濃度)/水溶液を付着させる前の支持体の質量}×100である。また、支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の付着量の割合は、湿潤付着量から換算して求めてもよい。すなわち、支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の付着量の割合(単位%)は、{(湿潤付着量×水溶液中のポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の合計の固形分濃度)/水溶液を付着させる前の支持体の質量}×100である。ここで、湿潤付着量は、水溶液を付着させた湿潤状態での支持体の質量と付着させる前の支持体の質量との差であり、乾燥工程の開始時に支持体に付着している水溶液の質量を意味する。このため、湿潤付着量は、乾燥工程の直前に測定した値であることが好ましく、例えば乾燥工程の開始前10分以内に測定することが好ましく、5分以内に測定することがより好ましい。
【0056】
含浸法は、例えば、支持体を水溶液に完全に浸漬する方法又は支持体の表面だけを浸す方法がある。支持体を水溶液に完全に浸漬する方法は、支持体の孔内の奥部まで水溶液を効率的に、かつ、確実に浸透することができるため、より均一なポリビニルアルコールのネットワークを形成できる点で優れている。また、支持体を水溶液に完全に浸漬したまま減圧すると、支持体内のエアーが抜けやすくなるため、水溶液を浸透させるにはより効果的である。なお、過剰に付着した水溶液は、ロール脱水機などで絞り出したり、吸水フェルト又は吸水紙などの吸水部材で除去したりすることが好ましい。支持体の表面だけを浸す方法は、支持体の厚み方向で、孔内のポリビニルアルコールのネットワーク構造の密度差(支持体の一方の面側ともう一方の面とでポリビニルアルコールのネットワーク構造の存在比率が異なる)を設ける場合に有効である。
【0057】
塗布法は、公知の塗布機または刷毛で水溶液を支持体表面に塗布する方法である。公知の塗布機は、例えば、カーテンコーター、ダイコーターである。塗布法は、支持体への水溶液の付着量の制御が容易な点で優れている。
【0058】
噴霧法は、霧吹き又はスプレーなどの公知の噴霧器を用いて水溶液を支持体表面に噴霧する方法である。噴霧法は、例えば、支持体の孔のうち、支持体の表面近傍にだけにポリビニルアルコールのネットワーク構造を形成したい場合、又は支持体に大量の含浸液、又は塗工機のロール若しくはバーを接触させたくない場合に有効である。
【0059】
本実施形態では、噴霧法がより好ましい。含浸法では、液の浸透に利点はあるが、過剰に付着した液を拭き取る際に、例えばガラス繊維間に付着した液が拭き取られてしまい、乾燥後に網目状のネットワークが形成しにくい。また、拭き取りではなく吸引機等で脱水すると、繊維間に液の膜が無くなってしまい、ネットワークが形成されず、フィルタ性能も上昇しない。一方、噴霧法であれば、液の付着量をコントロールすることが可能であるため、過剰な液を付着させる必要もなく、安定してフィルタ性能が上昇することができる。
【0060】
<乾燥工程>
本実施形態では、前述のようにして水溶液を支持体に付着させ、支持体を湿潤状態とした後、140℃以上で乾燥を行う。好ましくは140~250℃であり、さらに好ましくは170~220℃である。尚、ここでの乾燥温度とは、乾燥過程における乾燥装置の最高乾燥温度を示す。
【0061】
本実施形態では、乾燥設備としてドラム型熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などが好ましい。また、これらの乾燥方法を組み合わせてもよい。尚、ここでの乾燥は常圧で行われる。
【0062】
本実施形態では、乾燥工程において、湿潤状態の支持体に付着しているポリビニルアルコール水溶液の溶媒の蒸発速度が支持体1m2あたり100g/分以上であることが好ましい。より好ましくは、120g/分以上である。100g/分未満であると乾燥速度が遅いため、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークを形成できない場合がある。なお、蒸発速度の上限は、例えば、300g/分である。
【0063】
本実施形態では、乾燥時に風を使用しても良い。風を使用する目的としては、蒸発した水蒸気が支持体周辺に留まるのを防ぐ役割や、液の揮発を促進させる為である。しかし、濾材の内部を貫通するような強力な風であると、繊維間に付着している液の膜が破壊される可能性がある為、適度な風量が好ましい。
【0064】
ポリビニルアルコール水溶液にカチオン性界面活性剤を含有させた場合、含有させない場合と比較して支持体への水溶液の付着量が低減される。カチオン性界面活性剤を含有させた場合、濾水が良くなり、その結果、付着量が少なくなると推測される。そして、水溶液の付着量が低減されると、熱乾燥時の負荷の低減及び乾燥時間の短縮が図られ、生産性が向上する。
【0065】
本実施形態では、乾燥後に得られたポリビニルアルコールの固形の形状が繊維状であり、ナノファイバーであることが好ましく、数平均繊維径が10~500nmのナノファイバーであることがより好ましく、さらに好ましくは数平均繊維径が10~100nmである。高い粒子捕集性能と低圧力損失とを両立させるエアフィルタとするためには、繊維径の極めて細いポリビニルアルコールによる均一な繊維ネットワークを支持体中に形成することが重要である。ナノファイバー、特に数平均繊維径が500nm以下である極細のポリビニルアルコールを用いると、エアフィルタ用濾材中の単位体積あたりの繊維の本数が著しく増加し、気体中の粒子を捕捉しやすくなり、高い捕集性能を得ることが可能となる。また、スリップフロー効果によって、単繊維の通気抵抗が極めて低くなり、エアフィルタとしての圧力損失が上昇しにくくなる。ここでのポリビニルアルコール数平均繊維径は、次によって算出する。カーボン膜被覆グリッド上にキャストした水溶性高分子を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡画像による観察を行う。得られた観察画像に対し、1枚の画像あたり縦横2本ずつの無造作な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このとき、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍又は50000倍のいずれかの倍率で観察を行う。なお、試料又は倍率は、20本以上の繊維が軸と交差する条件とする。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々二つの軸に交差する繊維の繊維径の値を読み取る。したがって、最低20本×2×3=120個の繊維情報が得られる。こうして得られた繊維径のデータから数平均繊維径を算出した。なお、枝分かれしている繊維については、枝分かれしている部分の長さが50nm以上であれば1本の繊維として繊維径の算出に組み込む。また、数平均繊維径は、次に従って算出してもよい。支持体表面又は内部に存在するポリビニルアルコールを、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡画像による観察を行う。得られた観察画像に対し、1枚の画像あたり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交差する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このとき、構成する繊維の大きさに応じて5000~50000倍のいずれかの倍率で観察を行う。複数の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々二つの軸に交差する繊維の繊維径の値を読み取る。少なくとも120本の繊維径データから数平均繊維径を算出する。なお、枝分かれしている繊維については、枝分かれしている部分の長さが50nm以上であれば1本の繊維として繊維径の算出に組み込む。尚、試料は歪みのない観察画像を得るため、予め導電性コーティングを行うか、コーティング膜厚による影響も考慮する。例えば、イオンスパッター(E-1045、日立ハイテクノロジー社製)を用いる場合、放電電流15mA、試料-ターゲット間距離30mm、真空度6Pa、コーティング時間2分とすると、コーティング膜厚は12nmである。ただし、繊維径を測定する際は、コーティング膜の堆積方向が想定される方向と垂直になるため、繊維径を測定する際は、コーティング膜厚は想定の半分とする。つまり、上記条件でコーティングした場合、SEMから求めた繊維径から両端のコーティング膜厚12nm(6nm+6nm)分を除く。
【0066】
本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材は、好ましくは、流体透過性を有する支持体と、該支持体の流体透過経路となる孔に形成されているポリビニルアルコールの網目状のネットワークと、を有し、前記網目状のネットワークは、数平均繊維径が10~500nmのナノファイバーからなり、前記ポリビニルアルコールの重合度は1500~6000であり、前記ポリビニルアルコールのケン化度は80~98mol%であり、前記支持体に対するポリビニルアルコールの付着量が0.05~1.00質量%であり、かつ、前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有していない。ここでエアフィルタ用濾材は前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有していない。エアフィルタ用濾材はポリビニルアルコール以外の他のバインダー樹脂をさらに含有すると、支持体のみで測定したPF値を基準としてPF値の向上はみられない。ポリビニルアルコール以外の他のバインダー樹脂をさらに含有するとポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されなくなってしまうためである。
【0067】
本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材は、好ましくは、流体透過性を有する支持体と、該支持体の流体透過経路となる孔に形成されているポリビニルアルコールの網目状のネットワークと、を有し、前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有せず、カチオン性界面活性剤を含有しており、かつ、前記網目状のネットワークは、ナノファイバーからなる。ここでカチオン性界面活性剤は、ポリビニルアルコール100質量部に対して1~30質量部添加されていることが好ましい。ここでエアフィルタ用濾材は前記ポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂を含有していない。エアフィルタ用濾材はポリビニルアルコール以外の他のバインダー樹脂をさらに含有すると、支持体のみで測定したPF値を基準としてPF値の向上はみられない。ポリビニルアルコール以外の他のバインダー樹脂をさらに含有するとポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されなくなってしまうためである。また、カチオン性界面活性剤を含有していることで、含有させない場合よりもPF値がより高められている。本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材は、支持体に対するポリビニルアルコール及びカチオン性界面活性剤の合計付着量が0.05~1.30質量%であることが好ましい。また、ポリビニルアルコールの重合度は1500~6000であることが好ましい。さらにポリビニルアルコールのケン化度は60~90mol%であることが好ましい。さらに、ナノファイバーは数平均繊維径が10~500nmのナノファイバーであることが好ましい。
【0068】
本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材のPF値は、面風速5.3cm/秒、対象粒子0.10~0.15μmの条件で、支持体のPF値より0.5以上高いことが好ましい。PF値は、圧力損失と粒子捕集性能とのバランスの優劣を評価する指標であり、数1に示す式を用いて計算される。PF値が高いほど、対象粒子の粒子透過率が低くかつ低圧力損失のエアフィルタ用濾材であることを示す。
【数1】
【0069】
数1において、圧力損失は、例えば、マノメーターを用いて測定される。また、粒子透過率は、ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気を通過させたときの、PAO粒子がエアフィルタ又はエアフィルタ用濾材を透過する割合である。粒子透過率は、例えば、レーザーパーティクルカウンターを用いて測定される。
【0070】
エアフィルタ用濾材のPF値は、支持体の種類や構成によっても影響を受けるが、ポリビニルアルコールの充填密度又はポリビニルアルコールによるネットワークの形成度合いが大きく影響する。本実施形態に係る製造方法で得られるエアフィルタ用濾材は、支持体に付着させるポリビニルアルコールの水溶液濃度が0.01~0.20質量%であるのが好ましいが、このような付着濃度であっても、例えば、支持体の孔の内部及び/又は表面にポリビニルアルコールの付着が集中し、部分的に過度にポリビニルアルコールの充填密度が高くなると、圧力損失の過度な上昇を招き、結果的にPF値は低下する。エアフィルタ用濾材は、支持体の内部及び/又は表面にポリビニルアルコールの網目状のネットワークを有し、ポリビニルアルコールのフィルム状の構造体を有さないことが好ましい。ポリビニルアルコールのフィルム状の構造体について、より具体的には、ポリビニルアルコールの濃度が高い水溶液を支持体に付着させた場合、支持体の孔の内部及び/又は表面にポリビニルアルコールの付着が集中し、支持体孔の内部及び/又は表面でポリビニルアルコール分子が積層して、フィルム状になることが考えられる。その結果、支持体の表層ではポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されず、フィルム状の構造体が生じることがある。このようなフィルム状の構造体が部分的にでも生じたエアフィルタ用濾材を用いると、圧力損失の上昇や、粒子捕集性能の低下(すなわちPF値の低下)が生じ、場合によってはエアフィルタとしての通気性を保持できなくなる。尚、支持体の表層付近のみにポリビニルアルコールの付着が集中したとしても、ポリビニルアルコールのネットワークが適度に形成されていれば(過度にポリビニルアルコールの充填密度が高くなければ)圧力損失はそれほど上昇せず、エアフィルタとして好適なPF値を得ることができる。本実施形態において、「流体透過経路となる孔にポリビニルアルコールの網目状のネットワークを有する」形態としては、例えば、ポリビニルアルコールからなるナノファイバーが網目状に絡み合って形成されたネットワーク構造が、流体透過経路となる孔の内部、表面、又は、内部及び表面の両方に存在する3つの形態がある。カチオン性界面活性剤をポリビニルアルコール水溶液に含有させて、エアフィルタ用濾材を製造した場合には、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークの形成がより最適化されて、PF値がより高まる。
【実施例】
【0071】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0072】
[ポリビニルアルコール水溶液の調製工程]
1000mlビーカーの中へ水を998.0g投入し、次いでポリビニルアルコール(鹸化度88mol%、重合度3500)の粉体を2.0g投入し、プロペラ型撹拌機で10分間攪拌する。次いで、攪拌中に温度を95℃にし、2時間攪拌し溶解した。水溶液の全質量に対するポリビニルアルコールの固形分濃度は0.20%であり、実施例と比較例の各濃度になるように水で希釈した。なお、水溶液の調整に使用した水は全て蒸留水である。
【0073】
試験A:カチオン性界面活性剤を含まない形態の検討
【0074】
(実施例1A)
[ポリビニルアルコールの付着・乾燥]
鹸化度88mol%、重合度3500のポリビニルアルコールの前記水溶液を用いて水溶液濃度を0.07%とし、支持体として目付が51g/m2であり、圧力損失が約70Paのガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維22部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維63部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部から成る)からなる不織布(以降、「支持体」という)にポリビニルアルコールの水溶液を2流体ノズルスプレー噴霧にて表1に示した量を付着させ、熱風乾燥機にて190℃にて乾燥し、エアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.31%であった。
【0075】
(実施例2A)
乾燥温度を170℃へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表1に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.30%であった。
【0076】
(実施例3A)
乾燥温度を150℃へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表1に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.29%であった。
【0077】
(実施例4A)
乾燥機をドラム式熱乾燥機へ変更し、乾燥温度を150℃へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表1に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.20%であった。
【0078】
(実施例5A)
乾燥機をドラム式熱乾燥機へ変更し、乾燥温度を180℃へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表1に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.34%であった。
【0079】
(実施例6A)
鹸化度88mol%、重合度4500のポリビニルアルコールへ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表1に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.37%であった。
【0080】
(実施例7A)
鹸化度98mol%、重合度1700へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表1に示した量に変更した以外は、実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.31%であった。
【0081】
(実施例8A)
鹸化度98mol%、重合度2400へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表2に示した量に変更した以外は、実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.31%であった。
【0082】
(実施例9A)
鹸化度80mol%、重合度2400へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表2に示した量に変更した以外は、実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.36%であった。
【0083】
(実施例10A)
水溶液濃度を0.20%へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表2に示した量に変更した以外は、実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.44%であった。
【0084】
(実施例11A)
水溶液濃度を0.25%へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表2に示した量に変更した以外は、実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.50%であった。
【0085】
(比較例1A)
実施例1Aのガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ濾材とした。
【0086】
(比較例2A)
乾燥温度を120℃へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表2に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.31%であった。
【0087】
(比較例3A)
熱風を直接エアフィルタ用濾材中に貫通するように乾燥し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表2に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.31%であった。
【0088】
(比較例4A)
ポリビニルアルコールの水溶液に、更にアクリル系樹脂(商品名:ウルトラゾールFB-19/アイカ工業株式会社製)を水溶液中の濃度が0.0007%となるように添加し、アクリル系樹脂を含むポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表3に示した量に変更した以外は実施例1Aと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の合計付着量は0.34%であった。
【0089】
各実施例及び比較例で得られたエアフィルタ用濾材の作製条件と物性値を表1~表3に示す。尚、各物性値は次に示す方法で測定した。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
「PF値」
PF値は、圧力損失及び粒子透過率の測定値から、数1に示す式を用いて計算した。なお、対象粒子径は、0.10~0.15μmとした。PF値が高いほど、対象粒子の粒子透過率が低くかつ低圧力損失のエアフィルタであることを示す。
【数1】
【0094】
「ネットワークの観察」
ネットワークの観察は、エアフィルタ用濾材を走査型電子顕微鏡(SEMと略す、日立ハイテクノロジー社製、SU8010)を用いて倍率5千~1万倍で観察して行った。観察前に、イオンスパッター(E-1045、日立ハイテクノロジー社製)を用いて、放電電流15mA、試料-ターゲット間距離30mm、真空度6Pa、コーティング時間2分の条件で導電性コーティングを行った。
【0095】
「ガーレー剛度測定方法」
JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.40:2000紙及び板紙―荷重曲げによるこわさ試験方法―ガーレー法に準じて測定した。使用機器はガーレーステフネステスター(熊谷理機工業株式会社製)とした。
【0096】
「引張強度測定方法」
JIS P8113:2006紙及び板紙―引張特性の試験方法に準じて測定した。使用機器はオートグラフAGX(株式会社島津製作所製)とした。
【0097】
実施例1A~11Aは全て比較例1Aの支持体と比べ、高いPF値を示していることが分かる。
図1に実施例1AのエアフィルタのSEM観察画像を示した。
図1によれば、190℃の高温により鹸化度88mol%のポリビニルアルコールを高速乾燥させることで、綺麗なナノファイバーネットワークを有し、好適なPF値を得ることができた。
図2に実施例6AのエアフィルタのSEM観察画像を示した。
図2によれば、実施例1Aよりも重合度が上昇したことにより、より綺麗なナノファイバーネットワークを有することが可能となるため、更にPF値が上昇したエアフィルタ用濾材を得ることができた。
図3に実施例8AのエアフィルタのSEM観察画像を示した。
図3によれば、鹸化度98mol%の完全鹸化ポリビニルアルコールであるが、重合度が2400と高く、190℃の高温で乾燥させることにより綺麗なナノファイバーを有し、好適なPF値を有することができた。比較例2Aでは乾燥温度が140℃未満のため、乾燥量が足りず、綺麗な網目状のネットワークが形成せず、PF値も上昇しなかった。
図4に比較例2AのエアフィルタのSEM観察画像を示した。
図4によれば、乾燥量が足りない為、ポリビニルアルコールのフィルム上の積層物になってしまった。比較例3Aでは、エアフィルタ用濾材の中へ直接風を当てて乾燥させたため、PVAの水の膜が強烈な風で破壊され、網目状のネットワークが形成されにくくなり、PF値も上昇しなかった。比較例4Aでは、ポリビニルアルコールの水溶液に、更にバインダー樹脂としてアクリル系樹脂を僅かの量(PVAに対してアクリル系樹脂を1%添加)を添加したため、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されず、PF値は比較例1AのPF値とほぼ同様であり、向上しなかった。
【0098】
以上の結果から、本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、ポリビニルアルコールを用い、フィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材を比較的短時間で製造する方法を提供できることがわかる。
【0099】
試験B:カチオン性界面活性剤を含む形態の検討
試験Bでは、界面活性剤、特にカチオン性界面活性剤を含むことで、界面活性剤を含まない試験Aの場合よりもよりPF値が高くなることが示される。すなわち、カチオン性界面活性剤を含む実施例である実施例1B~実施例8B、実施例10Bは、カチオン性界面活性剤を含まない実施例12B~実施例18BよりもPF値がより高くなる。しかし、実施例12B~実施例18BのPF値は、試験Aにおける実施例1A~実施例11AのPF値とほぼ同等である。
【0100】
(実施例1B)
[ポリビニルアルコールの付着・乾燥]
ポリビニルアルコール(鹸化度88mol%、重合度3500、PVA95-88、クラレ社製)の濃度が0.07%、界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、カチオン性界面活性剤、カチオゲンTML、第一工業製薬社製)の濃度が0.0035%となるようにポリビニルアルコール水溶液を準備し、支持体として目付が51g/m2であり、圧力損失が65Paのガラス繊維(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維22部と、平均繊維径2.4μmの極細ガラス繊維63部と、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維15部から成る)からなる不織布(以降、「支持体」という)にポリビニルアルコール水溶液を2流体ノズルスプレー噴霧にて表4に示した量を付着させ、熱風乾燥機にて190℃にて乾燥し、エアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0101】
(実施例2B)
界面活性剤の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.36%であった。
【0102】
(実施例3B)
界面活性剤(パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、フッ素系・カチオン性界面活性剤、サーフロンS-221、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0007%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.35%であった。
【0103】
(実施例4B)
界面活性剤(パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、フッ素系・カチオン性界面活性剤、サーフロンS-221、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0035%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.36%であった。
【0104】
(実施例5B)
界面活性剤(パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、フッ素系・カチオン性界面活性剤、サーフロンS-221、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0105】
(実施例6B)
界面活性剤(パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、フッ素系・カチオン性界面活性剤、サーフロンS-221、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0105%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.42%であった。
【0106】
(実施例7B)
界面活性剤(パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、フッ素系・カチオン性界面活性剤、サーフロンS-221、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0140%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.41%であった。
【0107】
(実施例8B)
界面活性剤(パーフルオロアルキルトリアルキルアンモニウム塩、フッ素系・カチオン性界面活性剤、サーフロンS-221、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0210%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.43%であった。
【0108】
(実施例10B)
ポリビニルアルコール(鹸化度88mol%、重合度4500、PVA-245、クラレ社製 )の濃度が0.07%、界面活性剤の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0109】
(比較例1B)
実施例1Bのガラス繊維からなる「支持体」をそのままエアフィルタ濾材とした。
【0110】
(実施例12B)
ポリビニルアルコール(鹸化度88mol%、重合度3500、PVA95-88、クラレ社製)の濃度が0.07%、界面活性剤の濃度が0%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表4に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0111】
(実施例13B)
界面活性剤(ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、アニオン性界面活性剤、ハイテノール330T、第一工業製薬社製)の濃度が0.0035%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表5に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0112】
(実施例14B)
界面活性剤(ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、アニオン性界面活性剤、ハイテノール330T、第一工業製薬社製)の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表5に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.38%であった。
【0113】
(実施例15B)
界面活性剤(ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、アニオン性界面活性剤、ハイテノール330T、第一工業製薬社製)の濃度が0.0105%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表5に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0114】
(実施例16B)
界面活性剤(パーフルオロアルキル化合物、フッ素系・両性界面活性剤、サーフロンS-232、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0035%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表5に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.36%であった。
【0115】
(実施例17B)
界面活性剤(パーフルオロアルキル化合物、フッ素系・両性界面活性剤、サーフロンS-232、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表5に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.38%であった。
【0116】
(実施例18B)
界面活性剤(パーフルオロアルキル化合物、フッ素系・両性界面活性剤、サーフロンS-232、AGCセイケミカル社製)の濃度が0.0105%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を表5に示した量に変更した以外は、実施例1Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコール及び界面活性剤の合計付着量は0.39%であった。
【0117】
実施例1B~実施例8B、実施例10B及び実施例12B~実施例18Bにおいて、ポリビニルアルコール水溶液の溶媒の蒸発速度はおおよそ171(g/m2)/分であった。
【0118】
各実施例及び比較例で得られたエアフィルタ用濾材の作製条件と物性値を表4~表5に示す。尚、各物性値は次に示す方法で測定した。
【0119】
【0120】
【0121】
実施例1B~実施例8B、実施例10B及び実施例12B~実施例18Bにおいて、ポリビニルアルコールのナノファイバーが形成されていることが確認できた。また、ナノファイバーの数平均繊維径は、おおよそ40nmであった。ポリビニルアルコールのナノファイバーが形成されて、流体透過経路となる孔にポリビニルアルコールの網目状のネットワークを有することが確認できた。
【0122】
実施例1B~実施例8B、実施例10Bは全て比較例1Bの支持体と比べ、高いPF値を示していることが分かる。
図5に実施例2BのエアフィルタのSEM観察画像を示した。
図5によれば、カチオン性界面活性剤の存在下で、190℃の高温によりポリビニルアルコールを高速乾燥させることで、綺麗なナノファイバーネットワークを有し、好適なPF値を得ることができた。
【0123】
図6に実施例12BのエアフィルタのSEM観察画像を示した。
図5と
図6とを比較すると、両者はいずれも流体透過経路となる孔にポリビニルアルコールの網目状のネットワークを有していて、SEM画像の解像度レベルでは見分けがつきにくい。カチオン性界面活性剤を添加していない実施例12Bにおいては0.10-0.15μmのPF値が13.9と十分に高いが、カチオン性界面活性剤を添加した実施例2Bにおいては0.10-0.15μmのPF値が17.0とさらに高くなっている。これは、SEM観察画像では観察しきれないさらなる極微細領域において実施例2Bのポリビニルアルコールの網目状のネットワークがPF値をさらに高めるように張りめぐらされているからと推測される。実施例1B、3B~8B、10Bにおいてもカチオン性界面活性剤の添加により、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークがPF値をさらに高めるように張りめぐらされていると推測される。
【0124】
実施例2Bにおいてポリビニルアルコールの重合度は3500であり、実施例10Bにおいてポリビニルアルコールの重合度は4500であるが、実施例2B及び実施例10Bは同等の高PF値が得られた。
【0125】
一方、実施例13B~実施例15Bでは、ポリビニルアルコール水溶液にアニオン性界面活性剤が添加されているが、比較例1BのPF値よりは良好なPF値が得られているものの、界面活性剤を添加していない実施例12BのPF値とほぼ同等若しくは少し低いPF値しか得られていない。このことから、アニオン性界面活性剤ではなく、カチオン性界面活性剤を添加した方が、高PF値を得るために有用であることがわかった。
【0126】
また、実施例16B~実施例18Bでは、ポリビニルアルコール水溶液にフッ素系・両性界面活性剤が添加されているが、比較例1BのPF値よりは良好なPF値が得られているものの、界面活性剤を添加していない実施例12BのPF値とほぼ同等若しくは少し低いPF値しか得られていない。このことから、フッ素系・両性界面活性剤ではなく、カチオン性界面活性剤を添加した方が、高PF値を得るために有用であることがわかった。
【0127】
(比較例9B)
ポリビニルアルコールの水溶液に、更にアクリル系樹脂(商品名:ウルトラゾールFB-19/アイカ工業株式会社製)を水溶液中の濃度が0.0007%(PVAに対してアクリル系樹脂系バインダーを1.0%添加)となるように添加し、アクリル系樹脂を含むポリビニルアルコールの水溶液の付着量を244.0g/m2に変更した以外は実施例12Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の合計付着量は0.34%であった。圧力損失は68Pa、粒子透過率は77.08%、0.10-0.15μmのPF値は9.2であった。比較例9Bは、ポリビニルアルコール水溶液にカチオン性界面活性剤が添加されていないが、ポリビニルアルコール水溶液にポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂をわずかな量(PVAに対してアクリル系樹脂系バインダーを1.0%添加)を添加すると、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されず、比較例1BのPF値と同等若しくはそれ以下であり、PF値は向上しなかった。
【0128】
(比較例10B)
界面活性剤の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を243.0g/m2に変更した以外は比較例9Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。比較例9Bの条件でポリビニルアルコール水溶液にさらにカチオン性界面活性剤を添加しても、ポリビニルアルコール水溶液にポリビニルアルコール以外のバインダー樹脂をわずかな量(PVAに対してアクリル系樹脂系バインダーを1.0%添加)を添加すると、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されず、比較例1BのPF値と同等若しくはそれ以下であり、PF値は向上しなかった。
【0129】
(比較例11B)
乾燥温度を120℃へ変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を241.0g/m2に示した量に変更した以外は実施例12Bと同様にエアフィルタ用濾材を得た。支持体に対するポリビニルアルコールの付着量は0.31%であった。ポリビニルアルコール水溶液の溶媒の蒸発速度はおおよそ87(g/m2)/分であった。圧力損失は71Pa、粒子透過率は82.24%、0.10-0.15μmのPF値は10.3であった。比較例10Bは、乾燥量が足りない為、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されず、ポリビニルアルコールのフィルム状の積層物になってしまった。
【0130】
(比較例12B)
界面活性剤の濃度が0.0070%となるようにポリビニルアルコール水溶液を変更し、ポリビニルアルコールの水溶液の付着量を242.0g/m2に変更した以外は比較例11Bと同様にしてエアフィルタ用濾材を得た。比較例11Bの条件でポリビニルアルコール水溶液にさらにカチオン性界面活性剤を添加しても、乾燥量が足りない為、ポリビニルアルコールの網目状のネットワークが形成されず、ポリビニルアルコールのフィルム状の積層物になってしまい、0.10-0.15μmのPF値は比較例11Bと同等であった。
【0131】
以上の結果から、本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、カチオン性界面活性剤を含むポリビニルアルコール水溶液を用い、フィルタ性能を向上させたエアフィルタ用濾材を比較的短時間で製造する方法を提供できることがわかる。本実施形態に係るエアフィルタ用濾材では、例えば、0.10-0.15μmのPF値は、14.0以上が得られる。本実施例においては0.10-0.15μmのPF値は14.4以上が得られた。
【0132】
通常、フィルタの剛度や引っ張り強度を高める方法としては、バインダー樹脂を添加することによるが、これはPF値の低下を招く。したがって、通常は剛度とPF値とはトレードオフの関係であった。本発明によれば表1~表5に示されるようにPF値を大きく低下させることなく剛度や引張強度を向上させることができる。例えば、比較例1Aに対して実施例1A~11Aはガーレー剛度が1mN以上向上しており、引張強度が0.2kN/m以上向上している。また、比較例1Bに対して実施例1B~8B、10B、12B~18Bはガーレー剛度が1mN以上向上しており、引張強度が0.2kN/m以上向上している。剛度や引っ張り強度が向上すると、プリーツ加工後の通風時にフィルタに変形が生じて構造圧損が大きくなることを抑制できる。例えば、使用しているとフィルタが経時でへたってきて変形を起こすことを防止できる。