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特許7508711バッテリー診断装置、バッテリーパック、電気車両、及びバッテリー診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】バッテリー診断装置、バッテリーパック、電気車両、及びバッテリー診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20240624BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240624BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20240624BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240624BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20240624BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20240624BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240624BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01R31/00
G01R31/367
G01R31/3835
G01R31/392
G01R31/396
G01R31/52
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023545869
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 KR2022014494
(87)【国際公開番号】W WO2023063625
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】10-2021-0136165
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スン、ヨン-チュル
(72)【発明者】
【氏名】キム、チェオル-タエク
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2021-0042679(KR,A)
【文献】特開2009-085676(JP,A)
【文献】特表2016-519284(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0024637(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0011014(KR,A)
【文献】特表2020-501122(JP,A)
【文献】国際公開第2014/016956(WO,A1)
【文献】特開2013-254586(JP,A)
【文献】特開2002-199608(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130258(WO,A1)
【文献】特開2020-153983(JP,A)
【文献】特表2020-533607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0099799(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/00-31/01、
31/24-31/25、
31/40-31/44、
31/36-31/396、
31/50-31/74、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42ー10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーモジュールに含まれる複数のバッテリーセルのそれぞれの電圧を検出するバッテリーモニターと、
前記バッテリーモジュールが充電状態から休止状態に切り替わる休止イベントの開始時点から緩和時間にわたる、各バッテリーセルの電圧挙動と前記複数のバッテリーセルの平均電圧挙動との間の差を示す第1電圧偏差の最新値を決定する制御回路と、
を含み、
前記制御回路は、前記休止イベントの総発生回数が基準回数以上である場合、各バッテリーセルに対して、
前記第1電圧偏差の最新値に平滑化アルゴリズムを適用して、前記第1電圧偏差の最新値に対応する第2電圧偏差の最新値を決定し、
前記第1電圧偏差の最新値と前記第2電圧偏差の最新値との間の差を示す第3電圧偏差の最新値を決定し、
前記第3電圧偏差の最新値と前記第3電圧偏差の以前値との間の差を示す第4電圧偏差の最新値を決定し、
所定のサイズを有する前記第4電圧偏差の時系列の散布度を用いて、しきい値偏差の最新値を決定し、
前記第3電圧偏差の最新値を前記しきい値偏差の最新値と比較して、当該バッテリーセルの微小短絡の有無を判定する、バッテリー診断装置。
【請求項2】
各バッテリーセルの電圧挙動は、
前記休止イベントの開始時点から緩和時間にわたって所定回数順次検出された当該バッテリーセルの電圧の平均を示す、請求項1に記載のバッテリー診断装置。
【請求項3】
前記平滑化アルゴリズムは、移動平均フィルタであり、
前記基準回数は、前記移動平均フィルタのサイズ以上である、請求項1に記載のバッテリー診断装置。
【請求項4】
前記散布度は、標準偏差である、請求項1に記載のバッテリー診断装置。
【請求項5】
前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、
前記散布度に所定のマージン定数を乗じて前記しきい値偏差の最新値を決定する、請求項1に記載のバッテリー診断装置。
【請求項6】
前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、
前記第3電圧偏差の最新値が前記しきい値偏差の最新値以下である場合、当該バッテリーセルに関連する異常ファクタを第1値分だけ増加させ、
当該バッテリーセルに関連する異常ファクタがしきい値に達した場合、当該バッテリーセルに微小短絡が存在すると判定する、請求項1に記載のバッテリー診断装置。
【請求項7】
前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、
前記第3電圧偏差の最新値が前記しきい値偏差の最新値よりも大きい場合、当該バッテリーセルに関連する異常ファクタを第2値分だけ減少させる、請求項6に記載のバッテリー診断装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のバッテリー診断装置を含む、バッテリーパック。
【請求項9】
請求項8に記載のバッテリーパックを含む、電気車両。
【請求項10】
複数のバッテリーセルを含むバッテリーモジュールが充電状態から休止状態に切り替わる休止イベントの開始時点から緩和時間にわたる、各バッテリーセルの電圧挙動と前記複数のバッテリーセルの平均電圧挙動との間の差を示す第1電圧偏差の最新値を決定するステップを含み、
前記休止イベントの総発生回数が基準回数以上である場合、各バッテリーセルに対して、
前記第1電圧偏差の最新値に平滑化アルゴリズムを適用して、前記第1電圧偏差の最新値に対応する第2電圧偏差の最新値を決定するステップと、
前記第1電圧偏差の最新値と前記第2電圧偏差の最新値との間の差を示す第3電圧偏差の最新値を決定するステップと、
前記第3電圧偏差の最新値と前記第3電圧偏差の以前値との間の差を示す第4電圧偏差の最新値を決定するステップと、
所定のサイズを有する前記第4電圧偏差の時系列の散布度を用いてしきい値偏差の最新値を決定するステップと、
前記第3電圧偏差の最新値を前記しきい値偏差の最新値と比較して、当該バッテリーセルの微小短絡の有無を判定するステップと、をさらに含む、バッテリー診断方法。
【請求項11】
各バッテリーセルの電圧挙動は、
前記休止イベントの開始時点から緩和時間にわたって所定回数順次検出された当該バッテリーセルの電圧の平均を示す、請求項10に記載のバッテリー診断方法。
【請求項12】
前記平滑化アルゴリズムは、移動平均フィルタであり、
前記基準回数は、前記移動平均フィルタのサイズ以上である、請求項10または11に記載のバッテリー診断方法。
【請求項13】
前記散布度は、標準偏差である、請求項10または11に記載のバッテリー診断方法。
【請求項14】
前記しきい値偏差の最新値は、前記散布度と所定のマージン定数との積と同一である、請求項10または11に記載のバッテリー診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月13日付け出願の韓国特許出願第10-2021-0136165号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、休止中の複数のバッテリーセルの電圧挙動から各バッテリーセルの微小短絡を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、ノートパソコン、ビデオカメラ、携帯電話などのような携帯用電子製品の需要が急激に伸び、電気車両、エネルギー貯蔵用蓄電池、ロボット、衛星などの開発が本格化するにつれて、繰り返し充放電可能な高性能バッテリーへの研究が盛んに行われている。
【0004】
現在、商用化されているバッテリーとしてはニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、リチウムバッテリーなどが挙げられるが、このうちリチウムバッテリーは、ニッケル系列のバッテリーに比べてメモリ効果が殆ど起きないため、充放電が自由であり、自己放電率が非常に低く、エネルギー密度が高いというメリットから脚光を浴びている。
【0005】
電気車両などのようなアプリケーションの高電圧及び大容量のニーズを満たすために、複数のバッテリーセルの直列接続体を含むバッテリーシステム(例えば、バッテリーパック)が広く普及している。
【0006】
このようなバッテリーシステムでは、一部のバッテリーセルの故障が、バッテリーシステムの全体的な性能及び安全性に悪影響を及ぼす可能性が高い。したがって、バッテリーシステムの運用においては、個々のバッテリーセルの故障を適切に検出することが重要である。
【0007】
バッテリーセルの様々な故障の中でも、微小短絡(内部短絡、マイクロショート(微細短絡)とも称される)は、火災に直接的または間接的に影響する代表的な類型の欠陥状態である。微小短絡は、バッテリーセル内での副反応(例えば、リチウム金属の析出)及び/又はバッテリーセル内への異物の侵入などによるものである。
【0008】
従来の微小短絡検出は、主に、充放電中に持続的にモニターリングされるバッテリーセルの内部抵抗値を基準値と比較する方法が採用されている。しかし、内部抵抗の推定には、基本的にバッテリーセル毎に電圧だけでなく電流の検出値も必要であり、内部抵抗は内部や外部の様々な条件に大きく依存するため、精度が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するために案出されたものであり、休止イベント(休止事象)の繰り返しによる、複数のバッテリーセルの休止中の電圧挙動の傾向をモニターリングすることにより、電圧挙動と強い相関関係を有する微小短絡を検出する装置及び方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的及び利点は、以下の説明によって理解でき、本発明の実施形態によってより明らかに理解できるであろう。また、本発明の目的及び利点が、特許請求の範囲に示される手段及びその組み合わせによって実現できることは容易に分かるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によるバッテリー診断装置は、バッテリーモジュールに含まれる複数のバッテリーセルのそれぞれの電圧を検出するバッテリーモニターと、前記バッテリーモジュールが充電状態から休止状態に切り替わる休止イベントの開始時点から緩和時間にわたる、各バッテリーセルの電圧挙動と前記複数のバッテリーセルの平均電圧挙動との間の差を示す第1電圧偏差の最新値を決定する制御回路と、を含む。前記制御回路は、前記休止イベントの総発生回数が基準回数以上である場合、各バッテリーセルに対して、前記第1電圧偏差の最新値に平滑化アルゴリズムを適用して、前記第1電圧偏差の最新値に対応する第2電圧偏差の最新値を決定するように構成される。前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、前記第1電圧偏差の最新値と前記第2電圧偏差の最新値との間の差を示す第3電圧偏差の最新値を決定するように構成される。前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、前記第3電圧偏差の最新値と前記第3電圧偏差の以前値との間の差を示す第4電圧偏差の最新値を決定するように構成される。前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、所定のサイズを有する前記第4電圧偏差の時系列の散布度を用いて、しきい値偏差の最新値を決定するように構成される。前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、前記第3電圧偏差の最新値を前記しきい値偏差の最新値と比較して、当該バッテリーセルの微小短絡の有無を判定するように構成される。
【0012】
各バッテリーセルの電圧挙動は、前記休止イベントの開始時点から緩和時間にわたって所定回数順次検出された当該バッテリーセルの電圧の平均を示してもよい。
【0013】
前記平滑化アルゴリズムは、移動平均フィルタであってもよい。前記基準回数は、前記移動平均フィルタのサイズ以上であってもよい。
【0014】
前記散布度は、標準偏差であってもよい。
【0015】
前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、前記散布度に所定のマージン定数を乗じて前記しきい値偏差の最新値を決定するように構成されてもよい。
【0016】
前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、前記第3電圧偏差の最新値が前記しきい値偏差の最新値以下である場合、当該バッテリーセルに関連する異常ファクタを第1値分だけ増加させ、当該バッテリーセルに関連する異常ファクタがしきい値に達した場合、当該バッテリーセルに微小短絡が存在すると判定するように構成されてもよい。
【0017】
前記制御回路は、各バッテリーセルに対して、前記第3電圧偏差の最新値が前記しきい値偏差の最新値よりも大きい場合、当該バッテリーセルに関連する異常ファクタを第2値分だけ減少させるように構成されてもよい。
【0018】
本発明の他の側面によるバッテリーパックは、前記バッテリー診断装置を含む。
【0019】
本発明のさらに他の側面による電気車両は、前記バッテリーパックを含む。
【0020】
本発明のさらに他の側面によるバッテリー診断方法は、複数のバッテリーセルを含むバッテリーモジュールが充電状態から休止状態に切り替わる休止イベントの開始時点から緩和時間にわたる、各バッテリーセルの電圧挙動と前記複数のバッテリーセルの平均電圧挙動との間の差を示す第1電圧偏差の最新値を決定するステップを含む。前記バッテリー診断方法は、前記休止イベントの総発生回数が基準回数以上である場合、各バッテリーセルに対して、前記第1電圧偏差の最新値に平滑化アルゴリズムを適用して、前記第1電圧偏差の最新値に対応する第2電圧偏差の最新値を決定するステップと、前記第3電圧偏差の最新値と前記第3電圧偏差の以前値との間の差を示す第4電圧偏差の最新値を決定するステップと、所定のサイズを有する前記第4電圧偏差の時系列の散布度を用いてしきい値偏差の最新値を決定するステップと、前記第3電圧偏差の最新値を前記しきい値偏差の最新値と比較して、該当バッテリーセルの微小短絡の有無を判定するステップと、をさらに含む。
【0021】
各バッテリーセルの電圧挙動は、前記休止イベントの開始時点から緩和時間にかけて所定回数順次検出された当該バッテリーセルの電圧の平均を示し得る。
【0022】
前記平滑化アルゴリズムは、移動平均フィルタであってもよい。前記基準回数は、前記移動平均フィルタのサイズ以上であってもよい。
【0023】
前記散布度は、標準偏差であってもよい。
【0024】
前記しきい値偏差の最新値は、前記散布度と所定のマージン定数との積と同一であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施形態の少なくとも一つによれば、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルの休止中の電圧挙動の傾向をモニターリングして、電圧挙動と強い相関関係を有する微小短絡を検出することができる。これにより、微小短絡によるバッテリーセルの爆発や発火などの危険性の問題を未然に防止するための適切な保護措置を講じることができる。
【0026】
本発明の効果は、上記の効果に限らず、言及されていない他の効果は特許請求の範囲の記載から当業者にとって明確に理解できるものであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本明細書に添付される以下の図面は、本発明の好ましい実施形態を例示するものであり、後述する発明の詳細な説明とともに本発明の技術思想をさらに理解させる役割を果たすものであるため、本発明はそのような図面に記載された事項のみに限定されて解釈されてはいけない。
【0028】
図1】本発明による電気車両の構成を例示的に示す図である。
図2】バッテリーセルの例示的な等価回路を説明するのに参照される図である。
図3】休止中のバッテリーセルの電圧の経時変化を説明するために参照される図である。
図4】休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの電圧挙動の経時変化を例示的に示すグラフである。
図5】休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第1電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。
図6】休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第2電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。
図7】休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第3電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。
図8】休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第4電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。
図9】休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの微小短絡判定用しきい値偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態によるバッテリー診断方法を例示的に説明するのに参照されるフローチャートである。
図11】本発明の一実施形態によるバッテリー診断方法を例示的に説明するのに参照されるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0030】
したがって、本明細書に記載された実施形態及び図面に示された構成は、本発明の最も好ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0031】
第1、第2などの序数を含む用語は、様々な構成要素のうちのいずれか一つをその他の構成要素と区別するために使われるものであり、これら用語によって構成要素を限定するために使われるものではない。
【0032】
明細書の全般に亘って、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含んでいてもよいということを意味する。また、明細書に記載の<~部(unit)>のような用語は、少なくとも一つの機能や動作を処理する単位を意味し、ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現され得る。
【0033】
さらに、明細書の全般に亘って、ある部分が他の部分と「接続(連結)」されているとしたとき、これは、「直接的に接続(連結)」されている場合だけではなく、これらの間に他の素子を挟んで「間接的に接続(連結)」されている場合も含む。
【0034】
図1は、本発明による電気車両の構成を例示的に示す図である。
【0035】
図1を参照すると、電気車両1は、車両コントローラー2、バッテリーパック10及び電気負荷30を含む。バッテリーパック10の充放電端子P+、P-は、充電ケーブルなどを介して充電器40に電気的に接続されていてもよい。充電器40は、電気車両に含まれていてもよいし、または電気車両1外部の充電ステーションに設けられていてもよい。
【0036】
車両コントローラー2(例えば、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit))は、電気車両1に設けられた始動ボタン(図示せず)がユーザによってON位置に切り替わったことに応答して、キーオン信号をバッテリー診断装置100に送信するように構成される。また、車両コントローラー2は、始動ボタンがユーザによってOFF位置に切り替わったことに応答して、キーオフ信号をバッテリー診断装置100に送信するように構成される。充電器40は、車両コントローラー2と通信して、バッテリーパック10の充放電端子P+、P-を介して充電電力を供給することができる。
【0037】
バッテリーパック10は、バッテリーモジュール11、リレー20、及びバッテリー診断装置100を含む。
【0038】
バッテリーモジュール11は、複数のバッテリーセルB~B(Nは2以上の自然数)の直列接続体を含む。すなわち、バッテリーモジュール11内において、複数のバッテリーセルB~Bは、互いに直列に接続されてもよい。複数のバッテリーセルB~Bは、同一の電気化学的仕様を有するように製造されてもよい。例えば、リチウムイオンセルのように繰り返し充放電可能なものであれば、複数のバッテリーセルB~Bの種類は特に限定されない。以下では、複数のバッテリーセルB~Bの共通内容の説明では、符号「B」(jはN以下の自然数)がバッテリーセルを指すものとして付与された。
【0039】
リレー20は、バッテリーモジュール11と電気負荷30とを接続する電力経路を介して、バッテリーモジュール11に電気的に直列に接続される。図1では、リレー20は、バッテリーモジュール11の正極端子と充放電端子P+との間に接続されるように示されている。リレー20は、バッテリー診断装置及び/又は車両コントローラー2からのスイッチング信号に応答してON/OFF制御される。リレー20は、コイルの磁力によってON/OFFされる機械式コンタクタであってもよいし、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect transistor)などの半導体スイッチであってもよい。
【0040】
電気負荷30は、インバーター31及び電気モータ32を含む。インバーター31は、バッテリー診断装置100または車両コントローラー2からの命令に応答して、バッテリーパック10に含まれるバッテリーモジュール11からの直流電流を交流電流に変換するように構成される。電気モータ32は、インバーター31からの交流電力を用いて駆動される。電気モータ32としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。
【0041】
リレー20がONされてバッテリーモジュール11の充放電が行われている状態を「サイクル状態(または負荷状態)」と称することがある。
【0042】
リレー20がONからOFFに切り替わる場合、バッテリーモジュール11はサイクル状態における「休止状態(または、無負荷状態、カレンダー状態)」となり、休止状態にあけるバッテリーセルBの電圧を「緩和電圧(または休止電圧、無負荷電圧)」と称されることがある。バッテリーセルBが充電または放電から休止に切り替えられて十分な時間が経過した後の緩和電圧は、開回路電圧(OCV:open circuit voltage)に収束することができる。具体的に、バッテリーモジュール11が充電または放電から休止に切り替わると、バッテリーセルBに発生した分極が自然に解消され、これによりバッテリーセルBの緩和電圧がOCVに向かって変化する。
【0043】
バッテリー診断装置100は、バッテリーモニター110及び制御回路120を含む。バッテリー診断装置100は、通信回路130をさらに含んでいてもよい。以下、バッテリー診断装置100は、バッテリーモニター、制御回路120及び通信回路130を含むと想定される。
【0044】
バッテリーモニター110は、電圧検出器112を含む。バッテリーモニター110は、電流検出器114をさらに含んでいてもよい。
【0045】
電圧検出器112は、バッテリーモジュール11に含まれる複数のバッテリーセルB~Bのそれぞれの正極端子及び負極端子に接続され、バッテリーセルBの両端にかかる電圧(「セル電圧」ともいう)を検出し、検出されたセル電圧を示す電圧信号を生成するように構成される。
【0046】
電流検出器114は、バッテリーモジュール11とインバーター30との間の電流経路を介してバッテリーモジュール11に直列に接続される。電流検出器114は、シャント抵抗素子、ホール効果素子などの公知の電流検出素子のうちの一つまたは二つ以上の組み合わせで実現され得る。図1に示すように、複数のバッテリーセルB~Bが直列に接続している場合、複数のバッテリーセルB~Bには同じ充放電電流が流れる。
【0047】
図1では、電流検出器としてシャント抵抗素子が用いられていることを例示している。この場合、電流検出器114は、オームの法則によってシャント抵抗素子の両端にかかる電圧に基づいて、充放電電流の方向及び大きさを示す電流信号を制御回路120に出力し得る。
【0048】
制御回路120は、リレー20、バッテリーモニター110及び通信回路130に動作可能に結合され得る。二つの構成要素が動作可能に結合されるということは、一方向又は両方向に信号を送受信可能に二つの構成要素が直接的または間接的に接続されることを意味する。
【0049】
制御回路120は、「バッテリーコントローラー」と称することができ、ハードウェア的に特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuits)、デジタル信号プロセッサ(DSP:digital signal processors)、デジタル信号処理デバイス(DSPD:digital signal processing devices)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:programmable logic devices)、フィールド・プログラマブル・ゲートアレー(FPGA:field programmable gate arrays)、マイクロプロセッサ(microprocessors)、及び他の機能実行のための電気ユニットのうちの少なくとも一つを用いて実現されてもよい。
【0050】
制御回路120は、バッテリーモニター110からの電圧信号及び/又は電流信号を収集してもよい。例えば、制御回路120は、内部に設けられたAD変換器(ADC:Analog to Digital Converter)を用いて、バッテリーモニターから収集されたアナログ信号をデジタル値に変換して記録してもよい。代替的に、バッテリーモニター110は、アナログ信号をデジタル値に変換した結果を自律的に制御回路120に送信してもよい。
【0051】
メモリ121は、例えば、フラッシュメモリタイプ(flash memory type)、ハードディスクタイプ(hard disk type)、ソリッドステートディスクタイプ(SSDタイプ:Solid State Disk type)、シリコンディスクドライブタイプ(SDDタイプ:Silicon Disk Drive type)、マルチメディアカードマイクロタイプ(multimedia card micro type)、ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM:static random access memory)、リードオンリーメモリ(ROM:read-only memory)、電気的に消去可能なプログラム可能な読み取り専用メモリ(EEPROM:electrically erasable programmable read-only memory)、およびプログラム可能な読み取り専用メモリ(PROM:programmable read-only memory)のうちの少なくとも一つのタイプの記憶媒体を含んでいてもよい。メモリ121は、制御回路120による演算動作に必要なデータ及びプログラムを記憶してもよい。メモリ121は、制御回路120による演算動作の結果を示すデータを記憶してもよい。メモリ121は、バッテリーセルBの微小短絡を検出するのに用いられるように予め与えられた関数、ロジック及びアルゴリズムを記憶してもよい。メモリ121は、制御回路120内に集積化されてもよい。
【0052】
制御回路120は、車両コントローラー2からのキーオン信号に応答して、リレー20をターンオンしてもよい。制御回路120は、車両コントローラー2からのキーオフ信号に応答して、リレー20をターンオフしてもよい。キーオン信号は、休止状態からサイクル状態への切り替えを要求する信号である。キーオフ信号は、休止状態からサイクル状態への切り替えを要求する信号である。代替的に、制御回路120の代わりに、車両コントローラー2がリレー20のON/OFF制御を担当してもよい。
【0053】
通信回路130は、制御回路120と車両コントローラー2との間の有線通信又は無線通信をサポートするように構成される。有線通信は、例えばコントローラー・エリア・ネットワーク(CAN:contoller area network)通信であってもよく、無線通信は、例えばZigbee(登録商標)通信やBluetooth(登録商標)通信であってもよい。もちろん、制御回路120と車両コントローラー2との間の有線/無線通信をサポートするものであれば、通信プロトコルの種類は特に限定されるものではない。通信回路130は、制御回路120及び/又は車両コントローラー2から受信した情報をユーザ(運転者)が認識可能な形態で提供する出力装置(例えば、ディスプレイ、スピーカ等)を含んでいてもよい。
【0054】
図2は、バッテリーセルの例示的な等価回路を説明するのに参照される図である。本明細書において、正常なバッテリーセルとは、微小短絡のないバッテリーセルを指し、異常なバッテリーセルとは、微小短絡のあるバッテリーセルを指す。
【0055】
図2に示す等価回路200を参照すると、正常なバッテリーセルは、直流電圧源VDC、内部抵抗R及びRCペアR,Cの直列回路として等価化されてもよい。これに対し、異常なバッテリーセルは、正常なバッテリーセルに対応する直列回路の両端(+、-)の間に追加的抵抗RISCが接続されたものとして等価化されてもよい。追加的抵抗RISCは、漏れ電流(漏洩電流)IISCの経路として機能する。参考までに、直流電圧源VDCの電圧は、バッテリーセルBのOCVであり、バッテリーセルBjのセル電圧は、直流電圧源VDC、内部抵抗成分R及びRCペア(R、C)の直列回路の総電圧である。充放電電流がゼロ(OA)であり、RCペア(R、C)の電圧がゼロ(0V)である場合、緩和電圧とOCVとは同一である。
【0056】
異常なバッテリーセルの充電時、充電電力の一部は異常なバッテリーセルに蓄えられていない状態で漏れ電流IISCとして消費されてしまう。また、異常なバッテリーセルの放電時、放電電力の一部は電気負荷30に供給されていない状態で漏れ電流IISCとして消費されてしまう。抵抗RISCの抵抗値の減少は、微小短絡の深化を意味し、微小短絡が深化するほど漏れ電流IISCとして消費される電力量が増加し得る。
【0057】
その結果、充電時においては、異常なバッテリーセルの電圧の上昇量が正常なバッテリーセルの上昇量よりも小さくなることがある。一方、放電時においては、異常なバッテリーセルの電圧の下降量が正常なバッテリーセルの下降量よりも大きくなることがある。
【0058】
さらに、充放電電流が0である休止中であっても、異常なバッテリーセルに蓄えられたエネルギーが漏れ電流IISCとして消費されてしまうことがある。したがって、この休止中は、異常なバッテリーセルの電圧が正常なバッテリーセルの電圧よりも低く、電圧の低下速度も異常なバッテリーセルが正常なバッテリーセルよりも速い。
【0059】
以下、複数のバッテリーセルB~Bの中で微小短絡が存在するバッテリーセルを検出するために制御回路120によって行われる動作について、図3から図5を参照して詳細に説明する。
【0060】
図3は、休止中のバッテリーセルの電圧の経時変化を説明するのに参照される図であり、図4は、休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの電圧挙動の経時変化を例示的に示すグラフであり、図5は、休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第1電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。図4及び図5において、横軸は、休止イベントの発生順序を示すイベント番号xを表す。図4の縦軸は、休止イベント毎のバッテリーセルBの電圧挙動(緩和時間にわたる平均電圧)を表し、図5の縦軸は、休止イベント毎のバッテリーセルBの第1電圧偏差を示す。
【0061】
まず、図3は、複数のバッテリーセルB~Bのうちのいずれか一つのバッテリーセルBの休止中の電圧挙動を示す。時点tは、特定の休止イベントの開始時点である。休止イベントは、バッテリーモジュール11が充電状態から休止状態に切り替わることを意味する。バッテリーセルBのセル電圧は、開始時点t前まで上昇し続け、充電電流が0になる開始時点tAで瞬間降下した後、OCVに向かって収束していく。時点tは、開始時点tから所定の緩和時間Δtが経過した時点である。
【0062】
バッテリーセルBの電圧挙動は、時点tから時点tまでの緩和時間Δtに亘って所定回数順次検出されたバッテリーセルBの電圧の平均を表す。緩和時間Δtは、バッテリーセルBの電圧を検出する時間間隔の所定倍数であってもよい。例えば、緩和時間Δtは60秒であり、バッテリーセルBの電圧は0.1秒間隔で総600回順次検出されてもよい。これにより、時点tから時点tまでの休止期における複数のバッテリーセルB~Bのそれぞれの電圧挙動が決定されてもよい。下記の(数1)式は、複数のバッテリーセルB~Bのうち、バッテリーセルBの電圧挙動を算出するために用いられる関数の一例である。
【0063】
【数1】
【0064】
(数1)式において、Sは緩和時間Δtの間の総電圧検出回数(例えば、600)、Vj[i][x]はイベント番号xの休止イベントによる休止中のi番目の検出タイミングでのバッテリーセルBjの電圧、Vj_AV[x]はイベント番号xの休止イベントによる緩和時間Δtの間にS回検出されたバッテリーセルBの電圧の平均である。
【0065】
制御回路120は、休止イベントが発生するたびに(すなわち、イベント番号xが1だけ増加するたびに)、休止中のバッテリーセルBの電圧挙動をモニターリングする。これにより、図4に示すように、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルB~Bの複数の電圧挙動(V1_AV[x]~VN_AV[x])の経時変化を示す時系列がメモリ121に記録される。
【0066】
制御回路120は、休止イベントが発生するたびに、バッテリーセルBの第1電圧偏差の最新値を決定する。バッテリーセルBの第1電圧偏差は、バッテリーセルBの電圧挙動と複数のバッテリーセルB~Bの平均電圧挙動との間の差を示す。下記の(数2)式)は、バッテリーセルBの第1電圧偏差を算出するのに用いられる関数の一例である。
【0067】
【数2】
【0068】
(数2)式において、V[x]は、イベント番号xの休止イベントに対応する複数のバッテリーセルB1~の平均電圧挙動であり、Vj_D1[x]は、イベント番号xの休止イベントに対応するバッテリーセルBの第1電圧偏差である。すなわち、イベント番号xが1ずつ増加するたびに、複数のバッテリーセルB~Bに関連するV1_D1[x]~VN_D1[x]が算出されてもよい。これにより、図5に示すように、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルB~Bの複数の第1電圧偏差(V1_D1[x]~VN_D1[x])の経時変化を示す時系列が、メモリ121に記録される。一方、図5において、複数の第1電圧偏差カーブのうち、太い実線でマーキングされた特定カーブは、残りのカーブに比べてイベント番号xの増加による第1電圧偏差が急速に減少している。
【0069】
以下、微小短絡を検出するために制御回路120によって追加的に実施されるプロセスについて、図6から図9を参照して説明する。図6から図9に係るプロセスは、休止イベントの総発生回数(すなわち、最近発生した休止イベントのイベント番号x)が基準回数以上であるという条件を満たす場合に実施されてもよい。また、説明の便宜上、図6から図9に示すグラフは、図5に示す複数の第1電圧偏差カーブのうち太い実線でマーキングされた単一のカーブ(異常なバッテリーセルに関連する)に関する。
【0070】
図6は、休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第2電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフであり、図7は、休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第3電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフであり、図8は、休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの第4電圧偏差の経時変化を例示的に示すグラフであり、図9は、休止イベントの繰り返しによる、バッテリーセルの微小短絡判定用しきい値偏差の経時変化を例示的に示すグラフである。説明の便宜上、図6から図9では、異常なバッテリーセルの第1電圧偏差に関連する第2電圧偏差の経時変化を示す単一曲線のみを図示している。
【0071】
図6を参照すると、制御回路120は、バッテリーセルBの第1電圧偏差の最新値に平滑化(smoothing)アルゴリズムを適用することにより、第1電圧偏差の最新値に対応するバッテリーセルBの第2電圧偏差の最新値を決定することができる。移動平均フィルタ(moving average filter)は、平滑化アルゴリズムの一例である。下記の(数3)式は、バッテリーセルBの第2電圧偏差を算出するのに用いられる移動平均フィルタの一例である。
【0072】
【数3】
【0073】
(数3)式において、W(2以上の自然数)は移動平均フィルタのサイズであり、Vj_D2[x]はイベント番号xの休止イベントに対応するバッテリーセルBの第2電圧偏差であり、Vj_D2[x-1]はイベント番号x-1の休止イベントに対応するバッテリーセルBの第2電圧偏差である。バッテリーセルBの第2電圧偏差の最新値は、過去(W-1)回の休止イベントに関連するように算出した第1電圧偏差(Vj_D1[x-W+1]~Vj_D1[x-1])を用いて現在の休止イベントに対応する第1電圧偏差の最新値Vj_D1[x]を補正する結果を表すことができる。また、イベント番号xが1ずつ増加するたびに、複数のバッテリーセルB~Bに関連付けられたV1_D2[x]~VN_D2[x]が新たに算出されてもよい。これにより、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルB~Bの複数の第2電圧偏差(V1_D2[x]~VN_D2[x])の経時変化を示す時系列(すなわち、イベント番号と第2電圧偏差との関係データ)が、メモリ121に記録される。もちろん、平滑化アルゴリズムは、(数3)式以外の他のアルゴリズム(例えば、二重指数平滑化フィルタ)に置き換えられてもよい。
【0074】
図7を参照すると、制御回路120は、第1電圧偏差の最新値と第2電圧偏差の最新値との間の差を示す第3電圧偏差の最新値を決定する。下記の(数4)4は、第1電圧偏差、第2電圧偏差及び第3電圧偏差の間の関係を例示する。
【0075】
【数4】
【0076】
(数4)式において、Vj_D3[x]はイベント番号xの休止イベントに対応するバッテリーセルBの第3電圧偏差である。バッテリーセルBの第3電圧偏差は、バッテリーセルBの微小短絡の深化傾向を示す。イベント番号xが1ずつ増加するたびに、複数のバッテリーセルB~Bに関連するV1_D3[x]~VN_D3[x]が算出され得る。これにより、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルB~Bの複数の第3電圧偏差(V1_D3[x]~VN_D3[x])の経時変化を示す時系列(すなわち、イベント番号と第3電圧偏差との関係データ)が、メモリ121に記録される。
【0077】
図8を参照すると、制御回路120は、第3電圧偏差の最新値と第3電圧偏差の以前値との間の差分を示す第4電圧偏差の最新値を決定する。バッテリーセルBの第4電圧偏差は、バッテリーセルBの微小短絡の深化傾向の変動性を示す。下記の(数5)式は、第3電圧偏差と第4電圧偏差との間の関係を例示する。
【0078】
【数5】
【0079】
(数5)式において、Vj_D4[x]は、イベント番号xの休止イベントに対応するバッテリーセルBの第4電圧偏差である。xが現在のイベント番号であるとき、Vj_D3[x]は第3電圧偏差の最新値であり、Vj_D3[x-1]は第3電圧偏差の以前値である。イベント番号xが1ずつ増加するたびに、複数のバッテリーセルB~Bに関連するV1_D4[x]~VN_D4[x]が算出され得る。これにより、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルB~Bの複数の第4電圧偏差(V1_D4[x]~VN_D4[x])の経時変化を示す時系列(すなわち、イベント番号と第4電圧偏差との関係データ)が、メモリ121に記録される。
【0080】
図9を参照すると、制御回路120は、バッテリーセルBに対して、所定のサイズ(2以上の自然数)を有する第4電圧偏差の時系列の散布度を用いて、しきい値偏差の最新値を決定する。下記の(数6)式は、バッテリーセルBの第4電圧偏差の時系列の散布度であって標準偏差を算出するのに用いられる関数の一例である。
【0081】
【数6】
【0082】
(数6)式において、σ[x]はバッテリーセルBの第4電圧偏差の時系列(サイズy)の標準偏差であり、Vj_D4_AVは第4電圧偏差の時系列(サイズy)の平均である。σ[x]は、イベント番号xの休止イベントに対応するものである。
【0083】
制御回路120は、バッテリーセルBの微小短絡の検出に活用されるしきい値偏差の最新値Vj_Th[x]を、散布度であるσ[x]に所定のマージン定数を乗じた値と同じに決定してもよい。例えば、Vj_Th[x]=σ[x]×Qである。Qはマージン定数である。これにより、イベント番号xが1ずつ増加するたびに、複数のバッテリーセルB~Bに関連するV1_Th[x]~VN_Th[x]が算出され得る。したがって、休止イベントの繰り返しによる、複数のバッテリーセルB~Bの複数のしきい値偏差(V1_Th[x]~VN_Th[x])の経時変化を示す時系列(すなわち、イベント番号としきい値偏差との関係データ)が、メモリ121に記録される。図9のカーブは、y及びQがそれぞれ100と-15である場合における異常なバッテリーセル(図5の太線参照)に関連するしきい値偏差の時系列を例示している。
【0084】
イベント番号xが1ずつ増加するたびに、制御回路120は、バッテリーセルBに関連する第3電圧偏差の最新値Vj_D3[x]をしきい値偏差の最新値Vj_Th[x]と比較して、当該バッテリーセルBの微小短絡の有無を判定することができる。
【0085】
イベント番号xが1ずつ増加するたびに、制御回路120は、Vj_D3[x]≦Vj_Th[x]である場合、バッテリーセルBの微小短絡の兆候を示す異常ファクタを増加させ、その他の場合、異常ファクタを減少させることができる。例えば、異常ファクタは、以前値から第1値(例えば、10)分だけ増加してもよいし、以前値の第1比率(例えば、10%)分だけ増加してもよい。異常ファクタは、以前値から第2値(例えば、1)分だけ減少してもよいし、以前値の第2比率(例えば、2%)分だけ減少してもよい。制御回路120は、バッテリーセルBに関連する異常ファクタがしきい値(例えば、100)以上であることに応答して、バッテリーセルBに微小短絡が存在すると判定してもよい。制御回路120は、イベント番号xが所定値(例えば、10)増加する間に、Vj_D3[x]>Vj_Th[x]という条件が継続して満足されることに応答して、バッテリーセルBに関連する異常ファクタを初期値(例えば、0)にリセットしてもよい。初期値は、異常ファクタの下限値である。
【0086】
もちろん、Qが負数(例、-15)ではなく正数(例、15)である場合、異常ファクタの増加条件は反対、すなわち、Vj_D3[x]≧Vj_Th[x]であることを当業者であれば容易に理解できるであろう。
【0087】
図10及び図11は、本発明の一実施形態によるバッテリー診断方法を例示的に説明するのに参照されるフローチャートである。図10及び図11の方法は、バッテリーモジュール11が充電状態から休止状態に切り替わる休止イベントが発生するたびに開始されてもよい。参考までに、新たに発生した休止イベントのイベント番号xには、前回のイベント番号よりも1だけ大きい値が付与できる。
【0088】
図1図11を参照すると、ステップS1010において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB1~BNのそれぞれに対して、休止イベントの開始時点から緩和時間Δtにわたる、バッテリーセルBの電圧挙動Vj_AV[x]と複数のバッテリーセルB~Bの平均電圧挙動V[x]との間の差を示す第1電圧偏差の最新値Vj_D1[x]を決定する((数1)式及び(数2)式参照)。Vj_D1[x]は、メモリ121に記録されてもよい。
【0089】
ステップS1020において、制御回路120は、休止イベントの総発生回数が基準回数以上であるか否かを判定する。ステップS1020の値が「YES)」である場合、ステップS1030に進む。総発生回数は、これまでに発生した休止イベントに付与されたインベント番号のうちの最大値を示していてもよい。
【0090】
ステップS1030において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB1~Bのそれぞれに対して、第1電圧偏差の最新値Vj_AV[x]に平滑化アルゴリズムを適用して、第1電圧偏差の最新値Vj_D1[x]に対応する第2電圧偏差の最新値Vj_D2[x]を決定する((数3)式参照)。第2電圧偏差の最新値Vj_D2[x]は、第1電圧偏差の最新値Vj_D1[x]と第2電圧偏差の以前値Vj_D2[x-1]との加重平均値であってもよい。Vj_D2[x]は、メモリ121に記録されてもよい。
【0091】
ステップS1040において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB~Bのそれぞれに対して、第1電圧偏差の最新値Vj_D1[x]と第2電圧偏差の最新値Vj_D2[x]との間の差を示す第3電圧偏差の最新値Vj_D3[x]を決定する((数4)式参照)。Vj_D3[x]は、メモリ121に記録されてもよい。
【0092】
ステップS1050において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB1~Bのそれぞれに対して、第3電圧偏差の最新値Vj_D3[x]と第3電圧偏差の以前値Vj_D3[x-1]との間の差を示す第4電圧偏差の最新値Vj_D4[x]を決定する((数5)式参照)。Vj_D4[x]は、メモリ121に記録されてもよい。
【0093】
ステップS1060において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB~Bのそれぞれに対して、所定のサイズyを有する第4電圧偏差の時系列(Vj_D4[x-y+1]~Vj_D4[x])の散布度(例えば、標準偏差σ[x])を用いて、しきい値偏差の最新値Vj_Th[x]を決定する((数6)式参照)。
【0094】
ステップS1070において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB~Bのそれぞれに対して、第3電圧偏差の最新値Vj_D3[x]をしきい値偏差の最新値Vj_Th[x]と比較して、Vj_D3[x]≦Vj_Th[x]という条件を満たすか否かを判定する。Vj_D3[x]≦Vj_Th[x]は、バッテリーセルBが微小短絡の兆候を帯びていることを示す。ステップS1070の値が「YES」である場合、ステップS1082に進む。ステップS1070の値が「NO」である場合、ステップS1084に進んでもよい。
【0095】
ステップS1082において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB1~Bのうち、Vj_D3[x]≦Vj_Th[x]という条件を満たすバッテリーセルBに関連する異常ファクタを、第1値分だけ増加させる。
【0096】
ステップS1084において、制御回路120は、複数のバッテリーセルB1~Bのうち、Vj_D3[x]≦Vj_Th[x]という条件を満たさないバッテリーセルBに関連する異常ファクタを、第2値分だけ減少させる。
【0097】
ステップS1086において、制御回路120は、Vj_D3[x]≦Vj_Th[x]という条件を満たすバッテリーセルBに関連する異常ファクタがしきい値以上であるか否かを判定する。ステップS1086の値が「YES」であるということは、バッテリーセルBに微小短絡が存在することが検出されたことを示す。ステップS1086の値が「YES」である場合、ステップS1090に進んでもよい。
【0098】
ステップS1090において、制御回路120は、少なくとも一つの保護動作を実行する。保護動作は、しきい値以上の異常ファクタに関連するバッテリーセルBの識別番号及び/又は位置を通知する診断メッセージの生成を含んでいてもよい。診断メッセージは、通信回路130を介して、車両コントローラー2及び/又は車両ユーザに送信されてもよい。保護動作は、リレー20のOFF制御を含んでいてもよい。
【0099】
上述した本発明の実施形態は、装置及び方法のみによって具現されるものではなく、本発明の実施形態の構成に対応する機能を実現するプログラム、またはそのプログラムが記録された記録媒体を通じても具現され得、このような具現は、上述した実施形態の記載から、当業者であれば容易に具現できるであろう。
【0100】
以上、本発明を限定された実施形態と図面によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者によって本発明の技術思想と後述する特許請求の範囲の均等範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。
【0101】
また、以上で説明した本発明は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者により、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の置換、変形及び変更が可能であるため、上述した実施形態及び添付の図面によって限定されるものではなく、様々な変形のため各実施形態の全部または一部が選択的に組み合わせられて構成され得る。
【符号の説明】
【0102】
1 電気車両
2 車両コントローラー
10 バッテリーパック
11 バッテリーモジュール
B バッテリーセル
100 バッテリー診断装置
110 バッテリーモニター
120 制御回路
130 通信回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11