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  • 特許-放射冷却構造及びその製造方法 図1A
  • 特許-放射冷却構造及びその製造方法 図1B
  • 特許-放射冷却構造及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】放射冷却構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20240624BHJP
   F25B 23/00 20060101ALI20240624BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240624BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20240624BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G02B5/26
F25B23/00 Z
B32B3/30
F28F13/18 Z
G02B5/08 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023563302
(86)(22)【出願日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2023037342
【審査請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2022167475
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023051926
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 博文
(72)【発明者】
【氏名】魚住 京生
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 将広
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526599(JP,A)
【文献】特開2007-187971(JP,A)
【文献】特表2021-529680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
B32B 3/30
B32B 7/023
B32B 15/08
B32B 27/08
B32B 27/30
B32B 27/40
G02B 1/111
G02B 3/00
G02B 5/02
G02B 5/08
H05K 7/20
F25B 23/00
F28F 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層と、前記反射層上に設けられた樹脂製の透明な保護層と、を備えた放射冷却構造であって、
前記保護層上に大きさの異なる樹脂製の多数の凸部が設けられて構成された凹凸面が形成され、
前記凸部は、前記保護層よりも全光線透過率が高い放射冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記凹凸面を構成する前記多数の凸部が前記保護層上にランダムに設けられている放射冷却構造。
【請求項3】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記凹凸面を構成する前記多数の凸部の外径分布における中央値が5μm以上15μm以下である放射冷却構造。
【請求項4】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記凹凸面の算術平均高さが1μm以上10μm以下である放射冷却構造。
【請求項5】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記凹凸面における前記多数の凸部の占有面積割合が10%以上である放射冷却構造。
【請求項6】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記凸部が液状の樹脂の液滴の固化物で構成されている放射冷却構造。
【請求項7】
請求項6に記載された放射冷却構造において、
前記凸部は、前記液状の樹脂の液滴の固化物が積み重なって構成されている放射冷却構造。
【請求項8】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記凸部がアクリル系樹脂で形成されている放射冷却構造。
【請求項9】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記保護層がウレタンアクリル樹脂で形成されている放射冷却構造。
【請求項10】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
前記反射層が銀又は銀合金で形成されている放射冷却構造。
【請求項11】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
60度鏡面光沢度が350%以下であり且つ85度鏡面光沢度が35%以下である放射冷却構造。
【請求項12】
請求項1に記載された放射冷却構造において、
全波長域300nm~2500nmでの日射反射率が90%以下である放射冷却構造。
【請求項13】
請求項1に記載された放射冷却構造の製造方法であって、
前記多数の凸部を、前記保護層上に液状の樹脂の多数の液滴を形成し、前記多数の液滴を固化させた固化物により構成する放射冷却構造の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載された放射冷却構造の製造方法において、
前記液状の樹脂の液滴の形成及びその固化の操作を複数回繰り返し行う放射冷却構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射冷却構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射層上に赤外放射のための樹脂層が設けられた放射冷却構造が知られている。例えば、特許文献1には、反射層が銀又は銀合金で形成されるとともに、樹脂層が塩化ビニル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂で形成された放射冷却構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6890724号
【発明の概要】
【0004】
本発明は、反射層と、前記反射層上に設けられた樹脂製の透明な保護層とを備えた放射冷却構造であって、前記保護層上に大きさの異なる樹脂製の多数の凸部が設けられて構成された凹凸面が形成され、前記凸部は、前記保護層よりも全光線透過率が高い
【0005】
本発明は、本発明の放射冷却構造の製造方法であって、前記多数の凸部を、前記保護層上に液状の樹脂の多数の液滴を形成し、前記多数の液滴を固化させた固化物により構成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】実施形態に係る放射冷却シートの構造を示す図である。
図1B】実施形態に係る放射冷却シートの断面図である。
図2】実施形態に係る放射冷却シートの第1の変形例の断面図である。
図3】実施形態に係る放射冷却シートの第2の変形例の断面図である。
図4】液状の樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を複数回繰り返して行うことにより形成された凹凸面の顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0008】
図1A及びBは、実施形態に係る放射冷却シート10を示す。この放射冷却シート10は、例えば、住宅用建材、工場・倉庫用建材などの建材類;設置用コンテナ、運搬用コンテナ、携帯用コンテナなどのコンテナ類;内装類、空調系、燃料系、電池系などの自動車関連部品等の冷却対象物の表面に貼設されて用いられ、太陽光が照射された際に遮熱するとともに内側の冷却対象物を冷却する。なお、以下では、太陽光が照射される側を「上」及び冷却対象物側を「下」として説明する。
【0009】
実施形態に係る放射冷却シート10は、基材層11と、その基材層11の直上に設けられたアンカーコート層12と、そのアンカーコート層12の直上に設けられた反射層13と、その反射層13の直上に設けられた透明な保護層14とを備える。保護層14の表面上には、大きさの異なる多数の透明な凸部15が設けられて構成された凹凸面16が形成されている。
【0010】
実施形態に係る放射冷却シート10では、反射層13、保護層14及び表面の凹凸面16により、放射冷却構造が構成されている。放射冷却シート10に太陽光が照射されると、その光は、表面の凹凸面16を介して入射し、透明な保護層14を透過した後、反射層13に達して反射する。反射層13で反射した光は、再び保護層14を透過し、表面の凹凸面16を介して出射する。そして、この過程において、光の波長が、電磁波放射が大気にほとんど吸収されない「大気の窓」と呼ばれる波長帯(7乃至14μm)に集約されると、冷却対象物は、熱が放射冷却シート10を介して大気に効率よく放出されることにより冷却されて表面温度が下がる。
【0011】
また、実施形態に係る放射冷却シート10の放射冷却構造によれば、保護層14上に形成された凹凸面16のレンズ効果により放熱が促進されるので、高い放射冷却性能を得ることができるとともに、反射層13での反射光が凹凸面16において乱反射するので、高い防眩性能を得ることができる。
【0012】
実施形態に係る放射冷却シート10の防眩性能について、20度鏡面光沢度Gs(20°)は、好ましくは600%以下、より好ましくは300%以下、更に好ましくは100%以下である。60度鏡面光沢度Gs(60°)は、好ましくは350%以下、より好ましくは150%以下、更に好ましくは70%以下である。85度鏡面光沢度Gs(85°)は、好ましくは35%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。これらの鏡面光沢度は、JIS Z8741:1997に基づいて測定されるものである。
【0013】
実施形態に係る放射冷却シート10全波長域(300nm~2500nm)での日射反射率は、好ましくは90%以下、より好ましくは84%以下である。この全波長域での日射反射率は、JIS K5602:2008に基づいて求められるものである(以下、同様)。
【0014】
基材層11は、例えば樹脂フィルムで構成されている。基材層11を形成する樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。基材層11の厚さは、例えば10μm以上300μm以下である。
【0015】
アンカーコート層12は、例えば樹脂接着剤の硬化物で構成されている。アンカーコート層12の形成に用いられる樹脂接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。
【0016】
反射層13は、例えば金属膜で構成されている。反射層13を形成する金属としては、例えば、銀、銀合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。反射層13を形成する金属は、高い放射冷却性能を得る観点から、これらのうちの銀及び銀合金が好ましく、銀がより好ましい。反射層13の全波長域での日射反射率は90%以上であることが好ましい。反射層13の厚さは、例えば50nm以上300nm以下である。
【0017】
反射層13は、基材層11上に樹脂接着剤をコーティングして硬化させることによりアンカーコート層12を形成し、そのアンカーコート層12上に金属を成膜することにより形成することができる。成膜方法としては、例えば、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式成膜方法;銀鏡反応を用いた湿式成膜方法が挙げられる。
【0018】
なお、反射層13の基材層11への高い密着性乃至接着性及び反射層13の優れた成膜性が得られる場合には、図2に示すように、反射層13は、基材層11の直上に成膜されて設けられていてもよい。例えば、銀鏡反応を用いて銀を成膜して反射層13を形成する場合、基材層11がポリカーボネート樹脂フィルムであれば、反射層13の基材層11への高い密着性乃至接着性が得られるとともに、基材層11の濡れ性が高く、反射層13の成膜性が優れるので、反射層13を基材層11の直上に設けることができる。これに対し、基材層11がポリエステル樹脂フィルムであれば、基材層11の濡れ性が高く、反射層13の成膜性は優れるものの、反射層13の基材層11への密着性乃至接着性が劣るので、反射層13を、アンカーコート層12を介して基材層11上に設けることが好ましい。
【0019】
保護層14は、例えば樹脂で形成されている。保護層14を形成する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。ここで、本出願における「アクリル系樹脂」とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体(例えば、アクリルアミド、アクリルニトリル等)を単量体として付加重合したポリマー樹脂をいう。具体的には、アクリル系樹脂として、例えば、ポリアクリル酸のアクリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等が挙げられる。保護層14を形成する樹脂は、高い放射冷却性能を得る観点から、これらのうちのウレタンアクリル樹脂及びポリエステル樹脂が好ましい。保護層14を形成する樹脂の全光線透過率は、高い放射冷却性能を得る観点から、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。この全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に基づいて測定されるものである(以下、同様)。保護層14の厚さは、例えば10μm以上100μm以下であり、蓄熱を抑制する観点から、好ましくは60μm以下、より好ましくは40μm以下である。
【0020】
保護層14は、反射層13上にコーティングされた樹脂コーティング材の固化物で構成されていてもよい。樹脂コーティング材としては、例えば、紫外線硬化型樹脂コーティング材、熱硬化性樹脂コーティング材、熱可塑性樹脂溶液等が挙げられる。
【0021】
保護層14は、樹脂フィルムで構成されていてもよい。この場合、樹脂フィルムの保護層14は、図3に示すように、接着層17を介して反射層13上に設けられていることが好ましい。接着層17は、例えば樹脂接着剤の硬化物で構成されている。接着層17の形成に用いられる樹脂接着剤としては、例えばウレタン系接着剤等が挙げられる。
【0022】
凸部15は、例えば樹脂で形成されている。凸部15を形成する樹脂は、保護層14を形成する樹脂と同一であってもよいが、高い放射冷却性能を得る観点から、異なっていることが好ましい。凸部15を形成する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂等が挙げられる。凸部15を形成する樹脂は、同様の観点から、これらのうちのアクリル系樹脂が好ましく、ポリアクリル酸のアクリル樹脂がより好ましい。凸部15を形成する樹脂の全光線透過率は、同様の観点から、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。凸部15を形成する樹脂が保護層14を形成する樹脂と異なる場合、凸部15を形成する樹脂の全光線透過率は、保護層14を形成する樹脂の全光線透過率よりも高いことが好ましい。
【0023】
凸部15の形状は、半球体乃至半楕円体であることが好ましい。凸部15の平面視の形状を楕円近似したときの長径と短径との平均値を凸部15の外径とするとき、その凸部15の外径は、高い放射冷却性能及び高い防眩性能を得る観点から、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上80μm以下、更に好ましくは10μm以上25μm以下である。凸部15のアスペクト比(長径/短径)は、同様の観点から、好ましくは4以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下である。凸部15の高さは、同様の観点から、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上50μm以下、更に好ましくは10μm以上15μm以下である。
【0024】
凸部15は、大きさの異なる多数が保護層14の表面上に設けられて凹凸面16を構成している。凹凸面16を構成する多数の凸部15の外径分布において、中央値は、高い放射冷却性能及び高い防眩性能を得る観点から、好ましくは5μm以上15μm以下、より好ましくは8μm以上12μm以下である。第一四分位数は、同様の観点から、好ましくは、好ましくは3μm以上12μm以下、より好ましくは6μm以上9μm以下である。第三四分位数は、同様の観点から、好ましくは15μm以上25μm以下、より好ましくは18μm以上22μm以下である。四分位範囲は、同様の観点から、好ましくは8μm以上20μm以下、より好ましくは10μm以上15μm以下である。凸部15の外径分布は、レーザ顕微鏡により観察される表面の凹凸面16の画像について、画像解析ソフトウェアを用いた解析により求められるものである。具体的には、保護層14の表面を基準面とするとともに、その基準面よりも高い部分を凸部15とし、そして、凹凸面16を構成する多数の凸部15のそれぞれの外径(凸部15の平面視の形状を楕円近似したときの長径と短径との平均値)を測定し、その分布を出力する。このとき、アスペクト比が2以下で且つ外径が2μm以上のものを凸部15として扱い、外径が2μm未満のものはノイズとして排除する。また、複数の凸部15が合一しているときは、それらの分割処理を行う。
【0025】
凹凸面16は、その表面積を広くして放熱性を高めるとともに、反射層13からの反射光を乱反射させて外部に放出する観点から、小さい凸部15が多数設けられて構成されていることが好ましい。
【0026】
凹凸面16における多数の凸部15の占有面積割合は、高い放射冷却性能及び高い防眩性能を得る観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは30%以上である。この占有面積割合も、レーザ顕微鏡により観察される表面の凹凸面16の画像について、画像解析ソフトウェアを用いた解析により求められるものである。具体的には、保護層14の表面を基準面とするとともに、その基準面よりも高い部分を凸部15とし、そして、それらの基準面の部分と凸部15の部分とを2値化編集し、全体における凸部15が占める占有面積割合を計算して出力する。
【0027】
凹凸面16の算術平均高さSaは、高い放射冷却性能及び高い防眩性能を得る観点から、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは1.5μm以上4μm以下、更に好ましくは2μm以上3μm以下である。この算術平均高さSaは、ISO25178に基づき、レーザ顕微鏡(例えばKEYENCE社製 VK-X150/KV-X100)を用いて測定されるものである。また、凹凸面16を構成する多数の凸部15は、同様の観点から、保護層14上にランダムに設けられていることが好ましい。
【0028】
凹凸面16を構成する多数の凸部15は、保護層14上にスプレーコーティングやインクジェットコーティングにより液状の樹脂コーティング材の多数の液滴を形成し、それらの多数の液滴を固化させた固化物により構成してもよい。保護層14上における液滴のθ/2法による接触角は、例えば5°以上90°以下である。
【0029】
多数の凸部15は、液状の樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を複数回繰り返し行うことにより形成することが好ましい。この場合、例えば図4に示すように、1回目の操作で形成された液滴の固化物151の上に、2回目の操作で形成された別の液滴の固化物152が載り、その上に3回目の操作で形成された更に別の液滴の固化物153が載り、それが繰り返されて最終的に固化物151,152,153,・・・が積み重なって凸部15が構成される。このような凸部15では、液滴の固化物151,152,153,・・・間の界面での波長変換の機会や屈折回数が増えるので、より高い防眩性能及び遮熱性能を得ることができる。液状の樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作の繰り返し回数は、生産性の観点から、好ましくは15回以下、より好ましくは10回以下である。
【0030】
樹脂コーティング材としては、例えば、紫外線硬化型樹脂コーティング材、熱硬化性樹脂コーティング材、熱可塑性樹脂溶液等が挙げられる。紫外線硬化型樹脂コーティング材を用いれば、簡単な操作で容易に多数の凸部15を形成させることができる。また、常温硬化性の水系の熱硬化性樹脂コーティング材を用いる場合、凸部15を形成する前の液滴の合一を抑制する観点から、コーティング後の乾燥を低温で行うことが好ましい。この乾燥温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下である。また、同様の観点から、コーティング後の乾燥を低湿度で行うことが好ましい。この乾燥湿度は、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下である。
【0031】
実施形態に係る放射冷却シート10は、基材層11の直下に設けられた粘着層18と、その粘着層18の直上に設けられた剥離層19とを備える。
【0032】
粘着層18は、例えば樹脂系粘着剤で構成されている。粘着層18を構成する樹脂系粘着剤としては、例えばアクリル樹脂系粘着剤等が挙げられる。剥離層19は、例えば離型紙で構成されている。
【0033】
実施形態に係る放射冷却シート10は、剥離層19を剥がして粘着層18を介して冷却対象物の表面に貼設して用いられる。
【0034】
なお、上記実施形態では、冷却対象物に貼設する放射冷却シート10としたが、特にこれに限定されるものではなく、実施形態に係る放射冷却シート10が有する放射冷却構造は、例えば、布材を基材として帽子や衣服等の衣料品にも適用することができる。
【実施例
【0035】
[試験評価1]
(試験片)
<実施例1>
縦52mm、横84mm及び厚さ2mmの長方形のポリカーボネート板の表面に銀鏡塗装を施すことにより反射層の銀薄膜を成膜した。反射層の全波長域における日射反射率は97%であった。反射層の厚さは100nmであった。
【0036】
続いて、反射層上にウレタンアクリル樹脂のコーティング材を塗布して硬化させることにより保護層を形成した。全光線透過率が90%程度のポリカーボネート板上に保護層を設け、その全光線透過率を測定したところ91%であった。保護層の厚さは58μmであった。
【0037】
そして、保護層上にスプレーコーティングにより液状の未硬化の紫外線硬化型アクリル樹脂コーティング材の多数の液滴を形成し、それらの多数の液滴に対して紫外線を照射して硬化させることにより固化させて多数の凸部を形成し、それらの多数の凸部により保護層上に凹凸面を構成した。この液状の未硬化の紫外線硬化型アクリル樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を2回繰り返し行った。凸部を形成する紫外線硬化型アクリル樹脂の全光線透過率は93%であった。任意に選択した50個の凸部の平均寸法を求めたところ、凸部の外径は23μm、凸部の高さは12μm、及び凸部の外径に対する高さの比は0.9であった。凹凸面における凸部の占有面積割合は19%であった。凹凸面の算術平均高さSaは1.8μmであった。
【0038】
以上のようにして作製した試験片を実施例1とした。
【0039】
<実施例2>
液状の未硬化の紫外線硬化型アクリル樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を3回繰り返し行ったことを除いて、実施例1と同様にして作製した試験片を実施例2とした。
【0040】
任意に選択した50個の凸部の平均寸法を求めたところ、凸部の外径は13μm、凸部の高さは13μm、及び凸部の外径に対する高さの比は1.2であった。凹凸面における凸部の占有面積割合は36%であった。凹凸面の算術平均高さSaは2.4μmであった。
【0041】
<比較例1>
ポリカーボネート板の表面に、銀薄膜を塩化ビニル樹脂層で被覆した市販の放射冷却シートを貼設したものを比較例1とした。
【0042】
(試験方法)
<放射冷却性能>
実施例1及び2並びに比較例1のそれぞれの試験片について、ポリカーボネート板側の背面及びその反対側の光照射面のそれぞれに熱電対を取り付けた。その試験片を、500Wの投光器から280mm離間した位置に、光照射面を対向させるように配置した。試験片に対して投光器の光を照射した。光の照射開始後の15分から20分までの間における光照射面及び背面の平均温度を求めた。
【0043】
<防眩性能>
実施例1及び2並びに比較例1のそれぞれの試験片について、JIS Z8741:1997に基づいて60度鏡面光沢度Gs(60°)及び85度鏡面光沢度Gs(85°)を測定した。
【0044】
<日射反射率>
実施例1並びに比較例1のそれぞれの試験片について、全波長域での日射反射率を求めた。
【0045】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。表1によれば、実施例1及び2のいずれも比較例1よりも背面の温度が2℃ほど低いことが分かる。つまり、実施例1及び2の方が比較例1よりも遮熱性能が高い。一方、実施例1と比較例1とを比較すると、前者よりも後者の方が全波長域での日射反射率が高い。つまり、反射による遮熱性能は、実施例1よりも比較例1の方が高いと推測される。これらのことから、実施例1及び2は、高い放射冷却性能を有するものと考えられる。
【0046】
【表1】
【0047】
[試験評価2]
(試験片:実施例3)
基材上に反射層の銀薄膜が成膜され、その上に保護層の厚さ25μmのポリエステル樹脂フィルムが積層された市販材料を用い、その保護層上にスプレーコーティングにより液状の未硬化の常温硬化性の水系のウレタン樹脂コーティング材の多数の液滴を形成し、それらの多数の液滴を常温で保持して硬化させることにより固化させて多数の凸部を形成し、それらの多数の凸部により保護層上に凹凸面を構成した。このようにして作製した試験片を実施例3とした。
【0048】
(試験方法及び結果)
実施例3について、以下の試験を行った。結果を表2に示す。
【0049】
<凸部の外径分布・占有面積割合>
実施例3の試験片について、レーザ顕微鏡(VK-X50 キーエンス社製)により観察された表面の凹凸面の倍率500倍の画像について、画像解析ソフトウェア(Image-J)を用いて解析を行った。
【0050】
具体的には、保護層の表面を基準面とするとともに、その基準面よりも高い部分を凸部とし、そして、凹凸面を構成する多数の凸部のそれぞれの外径を測定し、その分布を出力した。このとき、凸部の形状を楕円近似したときの長径と短径との平均値を凸部の外径とした。アスペクト比(長径/短径)が2以下で且つ外径が2μm以上のものを凸部として扱い、外径が2μm未満のものはノイズとして排除した。複数の凸部が合一しているものについては分割処理を行った。得られた凸部の外径分布を統計処理することにより、凸部の外径の中央値、第一四分位数、第三四分位数及び四分位範囲を求めた。
【0051】
また、基準面の部分と凸部の部分とを2値化編集し、全体における凸部が占める占有面積割合を計算して出力した。
【0052】
<防眩性能>
実施例3の試験片について、JIS Z8741:1997に基づいて、20度鏡面光沢度Gs(20°)、60度鏡面光沢度Gs(60°)及び85度鏡面光沢度Gs(85°)を測定した。
【0053】
【表2】
【0054】
[試験評価3]
(試験片)
<実施例4>
液状の未硬化の常温硬化性の水系のウレタン樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を3回繰り返し行ったことを除いて、実施例3と同様にして作製した試験片を実施例4とした。
【0055】
凹凸面における凸部、つまり、コーティング材による形成部分の占有面積割合は73.3%であった。凹凸面の算術平均高さSaは2.3μmであった。
【0056】
<実施例5>
液状の未硬化の常温硬化性の水系のウレタン樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を6回繰り返し行ったことを除いて、実施例4と同様にして作製した試験片を実施例5とした。
【0057】
凹凸面における凸部、つまり、コーティング材による形成部分の占有面積割合は92.3%であった。凹凸面の算術平均高さSaは3.8μmであった。
【0058】
<実施例6>
液状の未硬化の常温硬化性の水系のウレタン樹脂コーティング材の液滴の形成及びその固化の操作を9回繰り返し行ったことを除いて、実施例4と同様にして作製した試験片を実施例6とした。
【0059】
凹凸面における凸部、つまり、コーティング材による形成部分の占有面積割合は100%であった。凹凸面の算術平均高さSaは5.4μmであった。
【0060】
<比較例2>
基材上に反射層の銀薄膜が成膜され、その上に保護層の厚さ25μmのポリエステル樹脂フィルムが積層された市販材料そのものを試験片の比較例2とした。コーティング材による形成部分の占有面積割合は0%である。
【0061】
<比較例3>
保護層上にスプレーコーティングにより液状の未硬化の常温硬化性の水系のウレタン樹脂コーティング材を一様に吹き付け、それを常温で保持して硬化させることにより固化させて成膜したことを除いて、実施例3と同様にして作製した試験片を比較例3とした。コーティング材による形成部分の占有面積割合は100%である。
【0062】
(試験方法及び結果)
実施例4~6及び比較例2~3のそれぞれについて、以下の試験を行った。結果を表3に示す。
【0063】
<放射冷却性能>
実施例4~6及び比較例2~3のそれぞれの試験片について、縦55mm、横85mm及び厚さ2mmの長方形のポリカーボネート板の表面に貼り付けるとともに、ポリカーボネート板の背面及び試験片の光照射面のそれぞれに熱電対を取り付けた。それを500Wのハロゲンライトから370mm離間した位置に、試験片の光照射面を対向させるように配置した。試験片に対して投光器の光を照射した。光の照射開始後の15分から20分までの間における試験片の光照射面及びポリカーボネート板の背面の平均温度を求めた。
【0064】
<防眩性能>
実施例4~6及び比較例2~3のそれぞれの試験片について、JIS Z8741:1997に基づいて、20度鏡面光沢度Gs(20°)、60度鏡面光沢度Gs(60°)及び85度鏡面光沢度Gs(85°)を測定した。
【0065】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、放射冷却構造及びその製造方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 放射冷却シート
11 基材層
12 アンカーコート層
13 反射層
14 保護層
14a 凹部
15 凸部
151,152,153 液滴の固化物
16 凹凸面
17 接着層
18 粘着層
19 剥離層
【要約】
放射冷却構造は、反射層(13)と、その上に設けられた透明な保護層(14)とを備える。保護層(14)上に大きさの異なる多数の凸部(15)が設けられて構成された凹凸面(16)が形成されている。
図1A
図1B
図2
図3
図4