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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】積層造形のための粒子の修飾
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20240625BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20240625BHJP
   B22F 10/16 20210101ALI20240625BHJP
   B22F 10/25 20210101ALI20240625BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20240625BHJP
   B22F 10/14 20210101ALI20240625BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20240625BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240625BHJP
   B29C 64/343 20170101ALI20240625BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240625BHJP
   B33Y 40/10 20200101ALI20240625BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20240625BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240625BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240625BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20240625BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20240625BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240625BHJP
   C22C 38/24 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
B22F1/16
B22F1/102
B22F10/16
B22F10/25
B22F10/34
B22F10/14
B29C64/165
B29C64/314
B29C64/343
B33Y10/00
B33Y40/10
B33Y40/20
B33Y70/10
C23C16/455
C22C21/02
C22C14/00 Z
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/24
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021523561
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 US2019041089
(87)【国際公開番号】W WO2020014287
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】62/695,665
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517410800
【氏名又は名称】フォージ ナノ インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・バーンズ
(72)【発明者】
【氏名】カレン・ビュークラー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ガンプ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ヒッグス
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ネルソン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイン・シモンズ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/070779(WO,A1)
【文献】特表2005-501176(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03260223(EP,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016216839(DE,A1)
【文献】国際公開第2017/117041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形物品を作製する方法であって、
金属またはセラミックコアを含むコア粒子を含む粉末を提供することと、
原子層堆積(ALD)または分子層堆積(MLD)のプロセスにおいて、前記粉末を第1の反応物(反応物A)と反応させた後、第2の反応物(反応物B)と順次反応させることにより前記粉末をコーティングして、交互に結合した反応物A部分及び反応物B部分を有するALD/MLDコーティングを含むコーティング粉末を生成することと、
前記コーティング粉末を樹脂または液体バインダーマトリックス中に懸濁するか、または前記コーティング粉末を粉末床に配置することと、
前記コーティング粉末を焼結して前記成形物品を形成すること、を含み、
前記コーティング粉末は、前記コア粒子の流動係数よりも少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%高い流動係数を有し、
流動係数はASTM B213-17、ASTM B964によって定義されるか、5または10の主要主圧密応力で測定され、PFT-405 5’’サンプルトラフ及びPFT-515 F’’304SSベーンリッドを備えたブルックフィールド粉末フロー試験装置(PFT3115)で試験されることが好ましい、方法。
【請求項2】
前記ALD/MLDコーティングが、アルミナ、硫黄含有材料、ホウ素含有材料、または疎水性末端基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記樹脂もしくは液体バインダーマトリックスまたは粉末床中で前記コーティング粉末を加熱して、前記コア粒子を一緒に焼結させることをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記コア粒子が金属であり、少なくとも0.5質量%の1つ以上の希土類元素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングが前記コアよりも高い溶融温度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コア粒子が少なくとも2つの組成的に異なるコア粒子を含み、さらに前記組成的に異なるコア粒子は、組成的に同一であるコーティングを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
2~25サイクルまたは5~25サイクルのALDまたはMLDを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティングが、イミドまたはフッ素化有機部分を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記粉末が自然発火性金属コアを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記成形物品を積層造形プロセスによって形成し、
前記積層造形プロセスがコールドスプレープロセスを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
レーザを使用して前記粉末を結合させてグリーン中間生成物を形成し、
前記コーティングは、前記レーザの吸収効率を高める、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ALD/MLDコーティングが、前記ALD/MLDプロセスによって堆積されたABC構成を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記成形物品を積層造形プロセスによって形成し、
前記積層造形プロセスが、前記粉末が表面に推進されるバインダジェットプロセスを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ALD/MLDコーティングが、レーザ溶融中の表面張力を低下させる元素または化合物を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
疎水性有機コーティングを前記ALD/MLDコーティングに塗工することをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ALD/MLDコーティングが、酸化物、金属フッ化物、ランタニド、シラン、ケイ化物及び他のシリコン含有材料、ならびにこれらに限定されないが、ポリマー(例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン)、炭化水素、アミノ酸の断片、フッ素化末端基、またはフッ素化ポリマー(例えば、フルオロポリアミドまたはパーフルオロポリアミド、-ポリエチレン、-ポリアミド、-ポリ尿素、-ウレタン、-炭化水素)などの炭素含有材料を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
積層造形システムであって、
粉末床を含む容器であって、前記粉末床は、反応物A部分及び反応物B部分の交互の層を有するALD/MLDコーティングを含む金属またはセラミックコア粒子を含むコーティング粒子を含む、前記容器と、
前記コーティング粒子を三次元形状に結合するためにエネルギーを適用するように適合されたエネルギー源及びパターニングシステムと、
を備える、前記システム。
【請求項18】
反応物A部分及び反応物B部分の交互の層を有する前記コーティングが、金属酸化物を含み、
有機ポリマーバインダをさらに含む、請求項17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年7月9日に出願の米国特許仮出願第62/695,665号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
積層造形(AM)は、ソリッドフリーフォームファブリケーションまたは3D印刷としても公知であり、一連の二次元層または断面において、三次元オブジェクトが原材料(フィラメント、粉末、液体、懸濁液、シート、または溶融固体)から構築される任意の製造プロセスを指す。対照的に、従来の製造技術は、典型的には、鋳造及び成形またはサブトラクティブプロセスを伴う。本発明は、とりわけ、金属、セラミック、及びサーメットの3D印刷に適用される。
【0003】
液槽光重合、材料押し出し、材料噴射、バインダジェット、粉末床融合結合、指向性エネルギー堆積、及びシート積層など、様々なプロセスを積層造形で使用できる。これらのプロセスは、層を作製するために使用されるエネルギー、及び、例えば、三次元オブジェクトを作製するために層を積層する方法において、作製されたオブジェクトがその後の高密度化または他の改良を必要とするか否か、及び各プロセスでの使用に互換性がある材料など、使用される原料の種類によって異なる。これらのプロセスの範囲内で、いくつかの方法(例えば、選択的レーザ溶融(SLM)または直接金属レーザ焼結(DMLS)、選択的レーザ焼結(SLS)、溶融堆積モデリング(FDM)など)では、材料を溶融または軟化させて層を生成する一方で、他の方法では、ステレオリソグラフィ(SLA)などの様々な技術を使用して液体材料を硬化させる。
【0004】
AMの他のアプローチとしては、バインダジェット(または粉末床及びインクジェット3D印刷)及びコールドスプレーが挙げられる。バインダジェットでは、粒子上にあるパターンで噴霧された液体バインダを使用して、「グリーン体(green body)」(成形体)を作製する。バインダを硬化させた後、グリーン体(green shape)を直接焼結するか、場合によっては追加の材料または浸透剤を使用して、次のステップでマトリックス複合材料を作製することができる。コールドスプレーは、指向性エネルギー堆積に含まれ、融着熱源の代わりに運動エネルギーの変換を使用する。粒子は、最終生成物に組み込むことができる基質に/基質上に高速粒子を噴霧することによって結合される。
【0005】
焼結は、材料の溶融温度未満の熱エネルギーを所定の時間使用することによって達成される緻密化プロセスである。粉末材料が焼結プロセスで十分な温度まで加熱されると、粉末粒子中の原子が隣接する粒子の境界を越えて拡散し、粒子を一緒に融合して固体片を形成する。溶融とは対照的に、焼結に使用される粉末は、液相に到達する必要はない。焼結温度は、材料の融点に到達する必要がないため、焼結は、複雑で緻密なパーツを作成するため、または高融点温度材料用に、金属射出成形(MIM)などの商業プロセスにおいて行われる。積層造形では、焼結及び溶融を両方とも使用できる。SLMは、金属または金属合金(例えば、チタン、金、鋼、インコネル、コバルト、クロムなど)の積層造形に使用され、これらは、個別の溶融温度を有し、典型的には、SLMプロセス中に溶融する。
【0006】
3D印刷にとって理想的な粉末は、十分に流動するかまたは広がり、かつ所定の粒度分布(PSD)を有する。流動性は、球状の形態、大きい粉末、または特定のサイズ分布で達成され得るかまたは改善され得る。主な目標は、高密度の粉末床を得ることである。金属粉末の価格は、1kgあたり最大数百ドルの範囲であり得る(例えば、チタン)。粉末はより安価に製造され得るが、良好な流動性を有していない傾向がある。コーティングによって流動性を改善することにより、低コストのプロセスを使用してより品質の高いパーツを製造できるようになり、したがって、積層造形プロセスにとって有意の利点となり得る。
【0007】
3D印刷されたパーツの後処理も、そのパーツの最終的な強度及び実用性にとって重要である。これには、部分的に焼結された金属またはセラミック粒子など、あらゆる表面欠陥を除去することだけでなく、印刷プロセス中に発生する内部応力及びひずみを緩和するための熱処理などのプロセスが含まれる。後処理には、一時的な3Dプリント支持体からパーツを除去することも含み得る。
【発明の概要】
【0008】
コア金属、セラミック及び他の粉末を修飾して積層造形のための優れた特性を作り出すために、粒子へ膜を堆積させることなど、多数の発明の態様が本明細書に開示されている。様々な実施形態では、コーティングは、新規の材料特性、流動性の増加、焼結の改善、貯蔵中の安定性の向上、及び早期焼結の防止など、1つ以上の利点をもたらし得る。
【0009】
第1の態様では、本発明は、成形物品の製造方法を提供し、本方法は、金属またはセラミックコアを含むコア粒子を含む粉末を提供することと、原子層堆積(ALD)または分子層堆積(MLD)のプロセスにおいて、粉末を第1の反応物(反応物A)と反応させた後、第2の反応物(反応物B)と順次反応させて、交互に結合した反応物A部分及び反応物B部分を有するALD/MLDコーティングを含む粉末を生成することと、コーティング粉末を積層造形プロセスに供し、ALD/MLDコーティングを含むマトリックスに懸濁させるか、または金属もしくはセラミックコアを有するコア粒子を含み、交互に結合した反応物A部分及び反応物B部分を有するALD/MLDコーティングを有する粉末を含む粉末床に懸濁された成形グリーン生成物(shaped green product)中で一緒に焼結されるか、いずれかにより、一緒に接着したコア粒子を含む成形グリーン生成物を生成することと、を含む。この方法は、制限された数のALDサイクル及び/または流動性の増加をさらに特徴とし得る。典型的には、ALD/MLDコーティングにより、金属またはセラミックコアを有する非コーティング粉末の流動性よりも少なくとも10%高い流動性が付与される。驚くべきことに、ALDを2~約50サイクルまたは約25サイクルまたは5~25サイクル実施したときに、得られる粉末は、非コーティング粉末と比較して、また、より多くの数のサイクルに供された粉末と比較して、流動性の向上を有することを見出した。サイクルの代わりに、粒子は、ALD/MLDコーティングの厚さが好ましくは0.2nm~5nmまたは10nmの範囲であることを特徴とし得る。流動性は、以下に説明されるかまたは参照される手法によって測定できる。
【0010】
本発明の態様(上記または下記に言及する)のいずれかは、いくつかの実施形態において、以下の特徴の1つまたは任意の組み合わせをさらに特徴とし得る。コーティング粉末を積層造形プロセスに供するステップの前に、ALD/MLDコーティングを含む粉末であって、該粉末は、金属またはセラミックコアを有する非コーティング粉末の流動性よりも少なくとも10%、または少なくとも20%、または少なくとも30%高い流動性を有する;
成形グリーン生成物を加熱して、コア粒子を一緒に焼結させる;ここで、コア粒子は、金属であり、粒子またはコーティング、あるいはその両方は、少なくとも0.5質量%の1つ以上の希土類元素を含む;コーティングは、コアよりも高い溶融温度を有する;コア粒子は、少なくとも2つの組成的に異なるコア粒子を含み、さらに、組成的に異なるコア粒子は、組成的に同一であるコーティングを含む;この方法は、2~25サイクルまたは5~25サイクルのALDまたはMLDを含む(または、コーティングが約0.2nm~約5nmの厚さを有する);コア粒子は金属であり、コーティングは少なくとも0.5質量%の1つ以上の希土類元素を含む;コーティングは、イミドまたはフッ素化有機部分を含む;粉末は、自然発火性金属コアを含む;積層造形プロセスは、コールドスプレープロセスを含む;レーザを使用して粉末を結合させて、グリーン中間生成物(green intermediate product)を形成する;及びコーティングにより、レーザの吸収効率を高める;ALD/MLDコーティングは、ALD/MLDプロセスによって堆積されたABC構成を含む;積層造形プロセスは、粉末が表面に推進されるバインダジェットプロセスを含む;ALD/MLDコーティングは、レーザ溶融中の表面張力を低下させる元素または化合物を含む;さらに、疎水性有機コーティングをALDコーティングに塗工すること(この配置は、例えば、疎水性末端基をALD塗工金属酸化物に結合することによって達成することができる)をさらに含むこと;及び/またはALD/MLDコーティングは、酸化物、金属フッ化物、ランタニド、シラン、ケイ化物及び他のシリコン含有材料、ならびにこれらに限定されないが、ポリマー(例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン)、炭化水素、ポリマーまたはアミノ酸の断片または他の生物学的関連分子及びポリマー、及び他の材料)、フッ素化ポリマー(例えば、フルオロポリアミドまたはパーフルオロポリアミド、-ポリエチレン、-ポリアミド、-ポリ尿素、-ウレタン、-炭化水素)などの炭素含有材料を含む。「ポリマー」という用語には、オリゴマー、換言すれば、モノマーではなく、繰り返し単位を有する有機化合物を含む。
【0011】
別の態様では、本発明は、積層造形システムを提供し、本システムは、粒子上のコーティングを介して互いに接着されたコア粒子を含む容器を含み、ここで、粒子は、反応物A部分及び反応物B部分の交互の層を有するALD/MLDコーティングを含む。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、積層造形システムを提供し、本システムは、粉末床を含む容器であって、粉末床は、反応物A部分及び反応物B部分の交互の層を有するALD/MLDコーティングを含む金属またはセラミックコア粒子を含むコーティング粒子を含む、該容器と、コーティング粒子を結合して三次元形状にするためにエネルギーを適用するように適合されたエネルギー源及びパターニングシステムと、を備える。好ましい実施形態では、反応物A部分及び反応物B部分の交互の層を有するコーティングは、金属酸化物を含み、有機ポリマーバインダをさらに含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、サーメットを提供し、サーメットは、0.2~200nm、好ましくは0.5~100nmの範囲内の厚さを有する破砕セラミック球と、金属相と、を含み、ここで、破砕セラミック球は金属相に分散している。金属相は、破砕セラミック球に囲まれている焼結粒子を含み得、焼結粒子間の隙間を含む多孔性をもたらす。好ましくは、破砕セラミック球の少なくとも90質量%は、破砕セラミック球の質量平均厚さの30%以内、好ましくは20%以内の厚さを有する。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、成形物品を作製する方法を提供し、本発明は、金属またはセラミックコア及び表面コーティングを含むコア粒子を含む粉末を提供することと;粒子をエッチングすることと;積層造形プロセスにおいてエッチングされた粒子を使用することと、を含む。いくつかの好ましい実施形態では、金属またはセラミックコア及び表面コーティングを有するコア粒子は、積層造形プロセスで再生利用される粒子である。好ましくは、表面コーティングは天然酸化物であり;この方法は、粒子をエッチングするステップ後に、原子層堆積(ALD)または分子層堆積(MLD)のプロセスにおいて、粉末を第1の反応物(反応物A)と反応させた後、第2の反応物(反応物B)と順次反応させて、交互に結合した反応物A部分及び反応物B部分を有するALD/MLDコーティングを含むコーティング粉末を生成することと、コーティング粉末を積層造形プロセスに供し、ALD/MLDコーティングを含むマトリックスに懸濁されるか、または金属もしくはセラミックコアを有するコア粒子を含み、交互に結合した反応物A部分及び反応物B部分を有するALD/MLDコーティングを有する粉末を含む粉末床に懸濁された成形グリーン生成物中で一緒に焼結されるかのいずれかにより、一緒に接着したコア粒子を含む成形グリーン生成物を生成することと、さらに含む。
【0015】
別の態様では、本発明は、成形物品を作製する方法であって、本方法は、第1の組成を有し、金属またはセラミックコアを含む、第1のコア粒子を提供することと、第1のコア粒子にALD/MLDコーティングを塗工することと、第2の組成を有し、金属またはセラミックコアを有する、第2のコア粒子を提供することと、第2のコア粒子にALD/MLDコーティングを塗工することと、を含み、ここで、第2のコア粒子に塗工されるALD/MLDコーティングは、第1のコア粒子に塗工されるALD/MLDコーティングと同じであり、積層造形プロセスにおいて、コーティングされた第1コア粒子及び第2コア粒子の混合物を使用することと、を含む。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、成形物品を製造する方法を提供し、本発明は、金属またはセラミックコアを含むコア粒子を含む粉末を提供することと;コーティング粉末を積層造形プロセスに供して、一緒に接着したコア粒子を含む成形グリーン生成物を生成することと;原子層堆積(ALD)または分子層堆積(MLD)のプロセスにおいて成形グリーン生成物を第1の反応物(反応物A)と反応させ、その後第2の反応物(反応物B)と順次反応させて、交互に結合した反応物A部分及び反応物B部分を有するALD/MLDコーティングを含む成形グリーン生成物を生成することと、を含む。
【0017】
本発明の代替的実施形態では、本発明の方法のいずれかを改変することができ、コアは、ポリマーまたは他の材料を含む。
【0018】
本発明は、本明細書に記載の任意の方法によって作製された成形品を含む。本発明は、本明細書に記載の粉末のいずれかを使用する積層造形を含む。
【0019】
本発明は、以下を含むことを意味する「含む(comprising)」という用語を使用して説明されることがある。本発明の概念のいずれにおいても、より狭い実施形態では、「含む(comprising)」という用語は、層の特性を実質的に低下させる要素を除外するために「本質的にからなる(consisting essentially of)」、または最も狭い実施形態では「からなる(consisting of)」に置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ALDアルミナコーティングによりコーティングされたアルミニウム合金粉末のブルックフィールド粉末フロー試験装置の結果を示す図である。グラフは、0.5、1、25、50、及び100のALDサイクルを使用して塗工されたALDコーティングの主要な主圧密応力と対応させた流量係数を示している。
図2図1のデータの正規化されたプロットを示す図である。
図3】アルミナまたはチタニアALDコーティングによりコーティングされたチタニア粉末のTGA試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の粉末は、積層造形に有用である任意の粉末であり得る。いくつかの好ましい出発粉末は、次のとおりである。
【0022】
【表1】
【0023】
列挙されている材料は、周知のものである。例えば、いくつかの好ましい出発材料粉末は次のとおりである。
EOS AlSi10Mg:Al(バランス)、Si(9~11wt%)、Mg(0.2~0.45wt%);PSD:34μm(平均)
EOS Ti64:Ti(バランス)、Al(5.5~6.75wt%)、V(3.5~4.5wt%)PSD:45μm(平均)
H13工具鋼:Fe(バランス)、Cr(5wt%)、Mo(1.5wt%)、V(1wt%)、Si(1wt%);PSD:16μm(平均)
【0024】
3D印刷で使用するために本発明で使用され得る、単独または組み合わせた一般的なALD/MLD化学物質には、以下が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
【表2】
【0026】
「ポリマー」は、2つ以上の繰り返し単位を含むオリゴマーであり得る。ALDの化学的性質については、以下でより詳しく説明する。
【0027】
1.原子層堆積または分子層堆積の一般的な説明
原子層制御成長技術では、反応サイクルあたり約0.1~約5オングストロームの厚さのコーティングを堆積させることが可能になり、したがってコーティング厚を非常に細かく制御する手段を提供する。反応シーケンスを繰り返して、所望のコーティング厚さが達成されるまでコーティング材料の追加の層を順次堆積させることによって、より厚いコーティングを調製することができる。
【0028】
コーティングは、原子層堆積(ALD)または分子層堆積(MLD)プロセスで堆積される。ALD/MLDプロセスでは、コーティング形成反応は一連の(典型的には)2つの半反応として行われる。これらの半反応のそれぞれにおいて、単一の試薬(前駆体)が基質表面と接触するように導入される。状態は、試薬がガスの形態であるようなものとする。ほとんどの場合、試薬は粒子の表面上の官能基と反応し、粒子に結合するようになる。試薬は、ガスであるため、基質内の細孔に浸透し、細孔の内面及び基質の外面に堆積する。この前駆体は、利用可能なすべての表面部位において表面と反応するように設計されているが、それ自体と反応するものではない。このようにして、第1の反応が発生して単一の単分子層またはサブ単分子層が形成され、新しい表面機能が作り出される。次に、過剰量の試薬が除去される。これは、コーティング材料の望ましくない、より大きい含有物の成長を防ぐのを助ける。次に、残りの各半反応が順番に行われ、その都度第1の試薬が導入され、この試薬が粒子の表面で反応し、次の試薬を導入する前に過剰な試薬が除去される。通常、不活性キャリアガスを使用して試薬を導入し、反応チャンバは通常、連続して試薬を導入する間にキャリアガスで掃引され、過剰な試薬及びガス状反応生成物を除去することを補助する。試薬の連続投与中及び投与する間に真空を掃引して、過剰な試薬及びガス状反応生成物をさらに除去することができる。
【0029】
第1の前駆体にさらされた後、表面は第2の前駆体にさらされ、これらは、典型的には、不活性キャリアガス内に分散している。この前駆体は、第1の反応ステップで配置された官能基と反応するように設計されている。この反応は、利用可能な表面部位がすべて反応するまで発生する。第2の前駆体もそれ自体と反応しない。過剰な第2の前駆体はいずれも、任意の不活性ガスパージステップで除去される。ガスが適切に計量されている場合には、パージステップは不要となり得る。これは、成長している膜の1つの単層を堆積させるための少なくとも4ステップのプロセス(前駆体1、パージ、前駆体2、パージ)であり得る。このプロセスは、必要な回数繰り返され、所望の膜厚が形成される。ALD/MLDプロセスは、表面への共有結合を促進する「リンカー」剤で開始し得るか、または疎水性であり得るかもしくは特定の目的のために別の方法で設計された終了剤により終了し得る。
【0030】
本発明の目的のために、ALD/MLDプロセスは、完全なサイクルよりも、半反応のみを含み得る。しかし、少なくとも1つの完全なサイクル、より好ましくは少なくとも5つのサイクルが好ましい。
【0031】
粒子状基質にコーティングを塗工するための簡便な方法は、粒子の流動床または他の方法で撹拌された床を形成し、次に反応条件下で様々な試薬を流動床に通過させることである。粒子状物質を流動化する方法は周知であり、一般に、多孔性プレートまたはスクリーン上で粒子を支持することを含む。流動化ガスがプレートまたはスクリーンを上向きに通過し、粒子を若干持ち上げて床の容積を拡大する。適切に膨張すると、粒子は流体のように挙動する。試薬(気相、液相、または固相)を床に導入して、粒子の表面と反応させることができる。液体または固体の試薬は、粒子と反応する前に、床内で一旦ガス状に変換される。本発明において、流動化ガスはまた、未反応の試薬及び揮発性またはガス状の反応生成物を除去するための不活性パージガスとして作用し得る。さらに、反応は、回転式円筒形容器、回転式管、または振動床内の粒子表面で生じ得る。この振動床法は、連続プロセスに特に好適である。
【0032】
反応条件は、主に3つの基準を満たすように選択される。第1の基準は、試薬が反応条件下でガス状であることである。したがって、温度及び圧力条件は、反応物が反応前に揮発するように選択される。第2の基準は、反応性の1つである。条件、特に温度は、膜形成試薬(または、反応の開始時に、最初に導入された試薬と粒子表面)間の所望の反応が商業的に妥当な速度で起こるように選択される。第3の基準は、化学的観点及び物理的観点から、基質が熱的に安定していることである。基質は、プロセスの初期段階でALD前駆体のうちの1つと表面官能基上で反応する可能性がある場合を除いて、プロセス温度で分解または反応してはならない。同様に、基質はプロセス温度で溶融または軟化してはならず、その結果、基質の物理的形状、特に細孔構造が維持される。反応は、一般に、約270~1000K、好ましくは290~450Kの温度で行われ、それぞれの場合の特定の温度は、基質が溶融、軟化または分解する温度よりも低い。
【0033】
試薬を連続投与する間に、粒子は反応生成物及び未反応試薬を除去するのに十分な条件に供される。これは、各反応ステップ後、例えば、約10-5Torr以上など、高真空に粒子を供することによって、行うことができる。これを達成する別の方法は、工業用途により容易に適用可能であり、反応ステップと反応ステップの間に不活性パージガスで粒子を掃引することである。このパージガスは、粒子の流動化媒体及び試薬の担体としても作用し得る。
【0034】
反応の進行を監視するには、いくつかの手法が有用である。例えば、振動分光法の研究は、透過フーリエ変換赤外技術を使用して実施され得る。堆積コーティングは、in situ分光エリプソメトリーを使用して調べることができる。原子間力顕微鏡研究を使用して、基質の表面の粗さに対するコーティングの粗さの特徴を明らかにすることができる。X線光電子分光法及びX線回折を使用して、深さプロファイリングを行い、コーティングの結晶構造を確認することができる。
【0035】
酸化アルミニウムコーティングは、反応シーケンスA1/B1で例解されているように、前駆体としてトリメチルアルミニウム及び水を使用して簡便に堆積される。例解された反応は、バランスが取れておらず、基質の表面での反応を示すことのみを目的としている(すなわち、層間または層内反応ではない)。
基質-XH*+Al(CH33=基質-X-Al*-CH3+CH4(前駆体反応)
基質-X-Al*-CH3+H2O=基質-X--Al-OH*+CH4(A1)
基質-X-Al-OH*+Al(CH33=基質-X-Al-O-A-l*-CH3+CH4(B1)
【0036】
反応A1/B1では、Xは典型的には、酸素、窒素、または硫黄であり、アスタリスク(*)は、次の半反応が発生し得る表面種を表す。酸化アルミニウム膜は、所望のコーティング厚さが達成されるまで、反応A1及びB1を交互に繰り返すことによって形成される。酸化アルミニウム膜は、この反応シーケンスを使用して約0.3nm/サイクルの速度で成長する傾向がある。
【0037】
酸化チタンコーティングは、反応シーケンスA2/B2で例解されているように、前駆体として四塩化チタンと水及び/または過酸化水素を使用して簡便に堆積される。前と同じように、例解された反応はバランスが取れておらず、粒子の表面での反応を示すことのみを目的としている(すなわち、層間または層内反応ではない)。
基質-XH*+TiCl4=基質-X--Ti*-Cl3+HCl(前駆体反応)
基質-X--Ti*-Cl3+H22=基質-X-T-i*-OH+HCl+Cl2(A2)
基質-X-Ti*-OH+TiCl4
基質-X-Ti-O-Ti*-Cl3+-HCl(B2)
【0038】
反応A2/B2では、Xは典型的には、酸素、窒素、または硫黄であり、アスタリスク(*)は、次の半反応が発生し得る表面種を表す。酸化チタン膜は、所望のコーティング厚さが達成されるまで、反応A2及びB2を交互に繰り返すことによって形成される。酸化チタン膜は、この反応シーケンスを使用して、約0.05~0.1nm/サイクルの速度で成長する傾向がある。
【0039】
ALD/MLDプロセスで公知であるように、順序はAB、ABC、ABCD、ABCDABABCDであり得るか、または化学エンティティが所望の順序で相互に反応する場合は任意の所望の順序であり得る。反応物のそれぞれは、少なくとも2つの反応性部分を有する(これは、保護基によって一時的に遮断されるか、またはUV活性化などその後の反応の活性化を必要とする第1の反応性部分及び第2の反応性部分を有するなど、反応物が2つの反応性部分を有するように修飾可能である可能性を含む)。いくつかの好ましい実施形態では、反応性基の数が多いほど充填密度が低くなり得るため、反応物は正確に2つの反応性部分を有する。いくつかの好ましい実施形態では、膜は、少なくとも3つの繰り返し単位(例えば、ABABAB)、または少なくとも5、または少なくとも10、または少なくとも50、時には2~1000、または5~100の範囲を有する。「反応性」とは、通常のMLD条件下及び商業的に適切なタイムスケール(例えば、適切な反応条件下で10時間以内に少なくとも50%が反応した)であること意味する。膜の品質を制御するために、反応物は、MLDプロセスの各ステップ中、単一反応性であり得、表面に対して2回反応することを回避し、反応物は、自己反応して表面に凝縮してはならない。
【0040】
いくつかの好ましい実施形態では、反応物Aの反応性部分は、イソシアネート(R-NCO)、アクリレート、カルボン酸、エステル、エポキシド、アミド及びアミン、ならびにそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの好ましい実施形態では、反応物Aは、ジイソシアネート、ジアクリレート、ジカルボン酸、ジエステル、ジアミドまたはジアミンを含む。いくつかの好ましい実施形態では、反応物B上の反応性部分は、アルコールまたはアミン、及びそれらの組み合わせを含む。いくつかの好ましい実施形態では、反応物Bは、ジオール、アミンアルコール、またはジアミンを含む。
【0041】
場合によっては、特にMLDの場合、気相反応物が選択され、基質または成長中のポリマー鎖と単官能的にのみ反応する。すなわち、気相反応物の1つの基または部分のみが、この反応の条件下で基質または成長中のポリマー鎖と反応できる。これにより、気相反応物が多機能的に反応し得る場合に発生し得る不要な架橋または連鎖停止が防止される。反応中に反応物が1つのポリマー鎖のみに結合を形成し、使用した反応条件下で自己重合しない場合、反応物は「単官能的に」反応すると見なされる。以下により完全に説明されるように、本発明の特定の実施形態において、気相反応物が少なくとも1つの追加の官能基を含むという条件で、基質または成長するポリマー鎖と二官能的に反応できる気相反応物を使用することが可能である。本発明のこの態様では、ほぼ等しい反応性を有する正確に2つの官能基を有する反応物は、好ましくは回避される。
【0042】
第1のクラスの好適な気相反応物は、2つの異なる反応基を有する化合物であり、そのうちの1つは基質またはポリマー鎖上の官能基と反応性であり、もう1つはポリマー鎖上の官能基とは容易に反応しないが、異なる気相反応物によってもたらされる官能基と反応する。このクラスの反応物の例は、次のとおりである。
a)ビニルまたはアリル不飽和を有するヒドロキシル化合物。これらは、カルボン酸、カルボン酸ハライド、またはシロキサン基と反応して、エステルまたはシリコン-酸素結合を形成し得、ポリマー鎖にビニルまたはアリルの不飽和を導入できる。あるいは、不飽和基は、マイケル反応において一級アミノ基と反応して、ポリマー鎖を伸長し、その鎖にヒドロキシル基を導入することができる。
b)アミノアルコール化合物。アミノ基は、カルボキシル基、カルボン酸クロリド、ビニルまたはアリル基、またはイソシアネート基と反応して、例えば、ポリマー鎖を伸長し、その鎖にヒドロキシル基を導入することができる。あるいは、ヒドロキシル基はシロキサン種と反応してケイ素-酸素結合を形成し、遊離の第一級または第二級アミノ基を導入することができる。
【0043】
第2のクラスの好適な気相反応物には、開環反応に関与し得る様々な環状化合物が含まれる。開環反応は、環状化合物と容易に反応しない新しい官能基を生成する。そのような環状化合物の例には、例えば、以下が含まれる。
a)環状アザシラン。これらはヒドロキシル基と反応して、ケイ素-酸素結合を形成でき、遊離の第一級または第二級アミノ基を生成することができる。
b)環状炭酸塩、ラクトン及びラクタム。炭酸塩は、一級または二級アミノ基と反応してウレタン連結を形成でき、かつ遊離ヒドロキシル基を生成することができる。ラクトン及びラクタムは、一級または二級アミノ基と反応してアミド連結を形成でき、それぞれ遊離ヒドロキシル基またはアミノ基を生成することができる。
【0044】
第3のクラスの気相反応物には、2つの異なる反応性基を含む化合物が含まれる。いずれの反応性基もポリマー鎖の官能基と反応するが、一方が、その官能基との反応性がはるかに高い。これにより、反応性の高い基がポリマー鎖の官能基と反応する一方で、反応性の低い基は未反応のままで、別の気相反応物との反応に利用できるようになる。
【0045】
気相反応物の第4のクラスには、2つの反応基を含む化合物が含まれ、そのうちの1つは、ブロッキング基、マスキング基、または保護基が除去されるまで反応に利用できないように、ブロックされるか、または他の方法でマスキングされるかまたは保護される。ブロッキング基または保護基は、場合によっては化学的に除去でき、他の場合には、ブロッキング基を熱分解して下にある反応基を生成することによって、その基に可視光または紫外線を放射することによって、または光化学反応において除去することができる。非保護基は、例えば、アミノ基、無水物基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、イソシアネート基などであり得る。保護基は、保護性基を除去した後、前述の種類のうちのいずれかの官能基を生じさせるものであり得る。
【0046】
この第4のクラスの反応物は、例えば、ベンジル、ニトロベンジル、テトラヒドロピラニル、-CH2OCH3または同様の基などの脱離基により保護されたヒドロキシル基を有し得る。これらの場合、ヒドロキシル基は、様々な方法、例えば、HCl、エタノール、または場合によっては照射での処理によって、脱保護され得る。カルボキシル基は、-CH2SCH3、t-ブチル基、ベンジル基、ジメチルアミノ基及び同様の基などの脱離基により保護され得る。これらの基は、トリフルオロ酢酸、ギ酸、メタノール、または水などの種で処理してカルボン酸基を生成することにより、脱保護され得る。アミノ基は、トリフルオロ酢酸、ヒドラジン、またはアンモニアとの反応によって除去できるR-OOC-などの基により保護され得る。イソシアネート基は、ギ酸または酢酸などのカルボキシル化合物により保護され得る。
【0047】
第5のクラスの気相反応物には、第1の官能基と、第2の官能基を生成するためにさらなる反応を行うことができる前駆体基が含まれている。このような場合、第1の官能基が反応してポリマー鎖に結合し、次に化学反応が前駆体基で生じて第2の官能基を生成する。第1の官能基は、シロキサン基、アミノ基、無水物基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、イソシアネート基などを含む、前述の任意の型であり得る。この種類の反応物上には、多種多様な前駆体基が存在し得る。
【0048】
前駆体基は、それ自体がポリマー鎖と反応しないものであってもよいが、別の気相反応物と反応して鎖を成長させることができる官能基に変換することができる。前駆体基の2つの注目すべき型は、ビニル及び/またはアリル不飽和、及びハロゲン置換、特に塩素または臭素である。ビニル及びアリルの不飽和度は、様々な化学反応を使用して官能基に変換できる。これらはオゾンまたは過酸化物と反応して、カルボン酸またはアルデヒドを形成し得る。これらはまた、アンモニアまたは一級アミノと反応してアミンまたはイミンを生成し得る。ハロゲンは、様々な官能基で置換され得る。それらは、アンモニアまたは一級アミンと反応してアミノ基を導入することができ、所望であれば、ホスゲンと反応してイソシアネート基を生成することができる。
【0049】
前駆体基を官能基に変換するためまたは官能基を脱マスクするもしくは脱保護するために使用される反応物は、気相に導入される。この型の過剰な反応物は、次の反応物を導入する前に、典型的には、反応域に高真空を掃引するか、チャンバにパージガスをパージするか、またはその両方によって除去される。次の反応物を反応域に導入する前に、反応副生成物を同じ方法で除去する。
【0050】
いくつかの好ましい実施形態では、MLD繰り返し単位内の反応物のうちの少なくとも1つまたはすべては、2~20の原子、または2~10の原子、または2~5の原子の反応性部分間の鎖長を有する(酸素などのヘテロ基が存在し得るが、典型的には炭素原子)。いくつかの好ましい実施形態では、反応物は、充填密度を高めるために、反応性部分間に直鎖を有する(すなわち、分岐はない)。いくつかの好ましい実施形態では、反応性部分間の鎖は非反応性である。しかし、いくつかの実施形態では、隣接する鎖に架橋することができる鎖内の部分であり得る。いくつかの実施形態では、表面またはその非常に近く(例えば、キャッピング層または表面の5サイクル以内または2サイクル以内)のキャッピング層及び/またはMLD層は、疎水性を高めるために分岐している。
【0051】
最初のステップで粒子に適用された無機層は、好ましくは、基質に共有結合するようになる。共有結合は、最初に適用される前駆体化合物が、原子層堆積プロセスの条件下で、基質の表面上の官能基と反応するときに発生し得る。そのような官能基の例は、例えば、ヒドロキシル、カルボニル、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハライド、一級または二級アミノである。
【0052】
一部のALDコーティングは、酸化アルミニウム及び/または酸化チタンコーティングである。「酸化アルミニウム」は、特定の化学量論に関係なく、実質的に完全にアルミニウム及び酸素原子から構成されるコーティングを示すために本明細書で使用される。多くの場合、酸化アルミニウムコーティングは、アルミナの経験的構造、すなわちAl23に若干密接に対応することが予想されるが、この構造からの逸脱は一般的であり、実在し得る。「酸化チタン」は、特定の化学量論に関係なく、実質的に完全にチタン及び酸素原子から構成されるコーティングを示すために本明細書で使用される。ほとんどの場合、酸化チタンコーティングは、チタニアの経験的構造、すなわちTiO2に密接に対応することが予想されるが、この構造からの逸脱は一般的であり、実在し得る。同様に、本明細書に記載されている他の配合を理解するために考慮事項が適用されるが、いくつかの実施形態では、本発明は、「からなる(consisting)」などの用語を使用することによってより具体的に定義することができる。
【0053】
本発明のより広い態様に含まれる半反応の場合を除いて、原子層堆積プロセスは、コーティング層を形成するために少なくとも2つの異なる反応物が必要であることを特徴とする。反応物は、個別に、順次に、及び気相で反応域に導入される。次の反応物を導入する前に、過剰量の反応物が反応域から除去される。試薬を連続導入する間に、反応副産物も除去される。この手順により、反応は気相内ではなく基質の表面で確実に発生する。
【0054】
過剰な反応物の除去をさらに助けるために、典型的には、反応物の交互の供給物の間にパージガスが導入される。キャリアガスは、通常はパージガスと同じである必要はないが、一般に(常に必須ではない)各反応物が導入される間に導入される。キャリアガスは、(1)過剰な反応物及び反応副生成物の除去を容易にすること、及び(2)反応域を通って反応物を分配することなど、いくつかの機能を実施し得、それによってすべての表面を反応物にさらすのを助ける。パージガスは、ALD反応物もしくは堆積したコーティングと望ましくない反応を行うこと、または基質の表面でそれらの反応を妨害することはない。
【0055】
依然としてガス状反応物をもたらす必要があるため、温度及び圧力の条件は特定の反応系によって異なる。ALD/MLDプロセスで公知であるように、温度は、気相で反応するように十分に高い必要があるが、生成物が劣化するほど高くてはならない。
【0056】
2.粒子及びコーティング特性
いくつかの実施形態では、コア粒子は金属であり、好ましくは、1つ以上の遷移金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移後金属元素、または半金属元素を含む。好ましい元素としては、銅、アルミニウム、シリコン、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、レニウム、銀、白金、パラジウム、金、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、インジウム、スズ、ガリウム及びゲルマニウム、ならびにこれらの元素のいずれかの合金が挙げられる。マグネシウムまたはリチウムなどの他の元素が存在してもよい。いくつかの好ましい実施形態では、金属粒子は超合金を含む。これは、例えば、ジェットエンジンパーツの3D印刷で使用され得る。いくつかの好ましい実施形態では、粒子、混合物内の個々の粒子、または混合物中のすべての粒子の合計のいずれかは、単一元素の少なくとも80質量%または少なくとも90質量%を構成する。代替的実施形態では、金属の代わりに、コア粒子は、セラミック、例えば、酸化物、窒化物、及び炭化物、またはポリマー、例えば、ABS、PLA、PVA、ナイロン、HDPE、PETT、または他の材料、例えば、炭素繊維、または生物学的材料であり得る。本発明の目的のために、コア粒子は、ALDまたはMLDの条件下で反応して表面層を形成する表面を有する(または表面を有する層でコーティングされている)。いくつかの好ましい実施形態では、ALDまたはMLDの条件下で反応する表面は、金属または金属酸化物表面である。本発明の目的のために、金属は、半金属を含み得る。
【0057】
任意のコーティングを含む粒子は、典型的には0.01~500μmの範囲、好ましくは10~300μm;好ましくは10~100μmである直径を有する。いくつかの実施形態では、粒子の少なくとも90質量%が100μm以下の直径を有する。非対称粒子の場合、粒子径は典型的には、粒子の中心を通る最小寸法に基づいて光学顕微鏡法によって決定される。
【0058】
コア粒子は、好ましくは、球形、サテライトを有する球形、同一の化学組成、内部多孔性がほとんどまたはまったくない、かつ/または表面汚染が少ない、のうちの1つ以上の特性を有する。サテライトは、より大きい(通常は球形の)粒子の外側にある小結節である。サテライトは典型的には、コア金属粒子の製造中、特にガス噴霧プロセスからのこれらの材料の製造中に形成される。ガス噴霧を使用すると、粒子は様々なサイズで生成され、共に合体する。サテライトは比較的小さい粒子であり、製造中に大きい粒子に付着する。
【0059】
コーティングは、分子層または原子層の堆積によって塗工できる任意のコーティングを含み得る。金属または他の材料のコア粒子に塗工できるいくつかのよく知られたコーティングは、酸化物または混合酸化物(例えば、Al23、TiO2、ZnO、ZrO2、SiO2、HfO2、Ta25、LiNbxOy)、窒化物(例えば、TiN、TaN、W2N、TiY2N)、硫化物(例えば、ZnS、CdS、SnS、WS2、MoS2、ZnIn24)、及びリン化物(例えば、GaP、InP、Fe0.5Co0.5P)を含み得る。コア粒子に塗工できるいくつかのあまり知られていない材料には、金属フッ化物(例えば、AlF3、MgF2、ZnF2)、遷移金属のオキシフッ化物及びオキシ窒化物(例えば、Al、Cu、Co、W、Cr、Fe、Zn、Zr、Pt、Pd)、元素、酸化物、フッ化物、窒化物、ホウ化物、または硫化物のいずれかの形態のランタニド(例えば、Y、YN、La23、LaF3、Nb、Dy23、Nd、LaB6、La23など)、ホウ化物(例えば、TiB2)、炭化物(例えば、B4C、WC)、シラン、ケイ化物及び他のシリコン含有材料、ならびにこれらに限定されないが、ポリマー(例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ尿素、ポリウレタン)、炭化水素、ポリマーまたはアミノ酸の断片または他の生物学的関連分子及びポリマー、及び他の材料)、フッ素化ポリマー(例えば、フルオロポリアミドまたはパーフルオロポリアミド、-ポリエチレン、-ポリアミド、-ポリウレタン、-ウレタン、-炭化水素)などの炭素含有材料を含む。このコーティングは、粒子全体での均一性が高く、好ましくは、粒子の表面全体のコーティング厚さの変動は、20%以下、より好ましくは10%以下、または5%以下である。この高レベルの均一性は、ALD/MLDプロセスの特徴である。ALD/MLDによってコーティングされた粒子は、1)膜厚の均一性、及び2)個々のコア粒子の粒子径分布に変化がないことによって、他の方法でコーティングされた粒子と区別可能であるが、これは、他の手法では区別できない。
【0060】
コア粉末上のコーティングは、典型的には、0.1~100nmの範囲、好ましくは0.2~50nm、より好ましくは、0.5~10nmの厚さを有する。コーティングの厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定可能である。
【0061】
ALD/MLDコーティングは、好ましくは表面の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の粒子の表面積を覆う。
【0062】
ALD/MLDコーティングはコンフォーマルであることが好ましい。「コンフォーマル」とは、コーティング層の厚さが粒子の表面全体で比較的均一であることを意味する(したがって、例えば、コーティングの最も厚い領域は、3倍以下、好ましくは2倍以下であり、いくつかの実施形態では、最も薄い領域の厚さよりも20%以下厚い)。
【0063】
炭化水素反応物を含むコーティング(及びその結果生じるコーティング粒子)を作製するプロセスにおいて、炭化水素反応物が部分的または完全にフッ素化され、フッ素が反応性部分を接続する炭化水素鎖内で水素に置き換わることが望ましい場合がある。例えば、反応物(または膜)は、少なくとも0.1または少なくとも0.5、または少なくとも1、または少なくとも5、または少なくとも10のF/H原子比を含み得る。多くの好ましい実施形態では、疎水性膜は、容易に加水分解可能であってはならないので、いくつかの実施形態では、膜は無水物連結を含まない。同様に、いくつかの実施形態では、金属原子は望ましくない場合があり、いくつかの実施形態では、膜は、膜厚2nm、または5nmまたは10nmの外側(表面)に10質量%未満または5質量%未満、または1質量%未満の遷移金属を含み、いくつかの実施形態では、同じ制限が半金属に適用される。
【0064】
3.レオロジー
3D印刷では、完全に流動しない粉末を使用する。粉末の層を床に追加してパーツを作製するときに、十分に流動しない場合、パーツ内の欠陥が粉末床の空隙に発生し得る。粉末層は、厚さが30~100μmである高密度の粉末床が最適である。本発明は、金属粉末の流動性を高めるための方法を提供する。本発明は、いくつかの実施形態において、粉末の流動性を改善して、床の空隙を減少させて、最終パーツの欠陥を少なくする。
【0065】
粉末サイズは、粒子のレオロジーにも大きい影響を及ぼす。粉末が小さいほど、凝集性(粘着性)が高くなる傾向があり、その結果、粉末を広げる、振る、または移動させて層を形成する際の信頼性が低下する。さらに、特に金属及び非酸化物セラミックの小さい粉末は、典型的には、表面上で優勢になる傾向があるより多い酸素含有量を有する。酸素が完成パーツに含まれていると、典型的には、良くない方向に完成パーツの組成が変化する。ただし、粉末が小さいほど、フィーチャサイズが細かくなると共に、完成パーツの表面仕上げが滑らかになる。本発明は、いくつかの実施形態では、完成パーツの酸素含有量を増加させることなく、AMのために、より小さい金属または非酸化物セラミック粒子の使用が可能になる。
【0066】
粒子コーティングは、ALDプロセスに従って交互のサイクルで塗工され得る。驚いたことに、少なくとも5サイクルのALDプロセスにより、流動性が大幅に向上することが判明した。好ましくは、流動性及び耐酸化性を高めるために、少なくとも10サイクルまたは少なくとも25サイクルのALDが実施される。いくつかの実施形態では、ALDプロセスは、50サイクル以下または100サイクル以下で実施され、それを超えると、追加の効果はほとんど有さないことが見出されている。
【0067】
いくつかの好ましい実施形態では、ALDコーティングはアルミナを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、ALDプロセスは、流量係数が少なくとも10%、または少なくとも20%、または5~約40%の範囲で増加する。流量係数は、5または10の主要主圧密応力(Major Principal Consolidation Stress)で測定され得る。好ましくは、PFT-405 5’’サンプルトラフ及びPFT-515F’’304SSベーンリッドを備えたブルックフィールド粉末フロー試験装置(PFT3115)で試験を行うか、あるいは、流量係数は、ホール流量計漏斗を使用してASTM B213-17に従って測定され得るか、または粉末がホール流量計漏斗を通って流れない場合は、カーニー流量計漏斗で試験方法B964に従って測定され得る。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、コーティング粉末は、実施例のセクションに示されている値のいずれかの±50%、または±30%、または±10%を有すると説明することができる。これらの値は、本明細書で提供される他の説明の1つまたは任意の組み合わせと組み合わせてもよい。
【0069】
ALD及びMLDプロセスでは、固有の物理的特性が生じる。ALDまたはMLDプロセスによってコーティング粉末は、測定可能な特性によって識別され得るか、または特徴付けられ得る。したがって、粒子は、別の方法で作製された粉末とは区別可能である。例えば、一般的な分光法による。いくつかの実施形態では、粉末は、上記の装置及び条件に従って測定されるように、少なくとも10の流量係数、または10~15の範囲の流量係数によって特徴付けられ得る(実施例も参照のこと)。
【0070】
4.化学反応耐性
3D印刷用の一部の粉末は、水の酸化または吸収を起こしやすく、望ましくない元素組成または不十分なレオロジー特性につながり得る。H2O/O2-バリアコーティング(約10nm以下)によりコーティングし、任意により粉末を真空乾燥することにより、3D印刷用の粉末の貯蔵寿命を延長できる。
【0071】
いくつかの好ましいコーティング方法では、水などの酸化剤源(H22またはO3)との反応後、トリメチルアルミニウム(TMA)またはジエチル亜鉛(DEZ)と反応させる1回以上のサイクルを利用する。より一般的には、粉末を1回以上の化学物質(例えば、TMA)に曝露して、表面基を修飾し、例えば、Al-OH表面をAl-X表面に変更することによって、粒子-粒子相互作用の強度を低下させることができる。ここで、Xは、CH3、N、F、Sなどと等しくなり得る。
【0072】
コーティングは、例えば、イミドまたはフッ素化有機物などの疎水性有機コーティングであり得る。これは、無機コーティングを適用する1回以上のサイクルの後に堆積し得る。
【0073】
いくつかの好ましい粉末は、熱重量分析によって測定されるように、酸素中で10℃/分で450℃に加熱することによって質量の実質的な増加(いくつかの実施形態では、5%以下、3%以下、または1%以下の質量の増加)がないような耐酸化性を有する。また、本明細書で論じられる特性のいずれかと同様に、いくつかの実施形態では、粒子は、特性の任意の選択された組み合わせ、例えば、粒子径及び/または組成による耐酸化性を特徴とし得る。本発明はまた、本明細書に記載の粉末を使用する積層造形の方法を含む。
【0074】
ほとんどの金属粉末は、天然酸化物の表面層を構成する。この表面層は、多くの場合、金属原子の拡散を阻害し、焼結が不十分になるか、または焼結に必要な温度が高くなる。本発明の別の実施形態は、金属粉末上へ任意の材料をコーティングすることであり、コーティング材料は、粉末上の天然酸化物よりも安定性が低い。例えば、アルミニウム粉末のZnOコーティング。この実施形態では、安定性の低い材料(ALDまたはALDのような技術によって堆積されたZnO)は、粉末からの金属原子の拡散を可能にするかまたは増加させて、焼結を向上させる。本発明のこの態様において、「安定性が低い」とは、粉末が、天然酸化物を有する粉末よりも少ないエネルギーで一緒に焼結することを意味する。この安定性の低い材料では、元の天然酸化物(例えば、Al23)が新規材料(例えば、ZnO)で実質的に「置換」されるように、エッチングプロセス(例えば、原子層エッチングまたは自発的エッチング)の直後に粉末にコーティングすることができ、これにより、良好な焼結が可能になる。例えば、以下の表では、表内の天然酸化物よりも高いいずれかの酸化物を使用して、天然酸化物を置き換えることができる。
【0075】
【表3】
【0076】
より具体的には、安定性の低いコーティングを使用して、天然酸化物を置き換える。「安定性が低い」とは、より低い熱入力での焼結が可能になることとして定義される。例えば、天然酸化物を含む粉末では、焼結するために熱値Xを必要とする場合、天然酸化物を置き換えた安定性の低いコーティングを含む粉末では、同等に焼結するためにX未満(例えば、0.9Xまたは0.8X以下)が必要となる。したがって、コーティングの安定性が低いか否かは、ルーチンの実験によって確認され得る。
【0077】
粒子または粒子床は、炭化物コーティング、窒化物コーティング、または有機コーティングを有することを特徴とし得る。追加的にまたは代替的に、粒子または粒子床は、平均1nm未満の酸化物、または0.5nm未満の酸化物、または粒子の表面上に実質的に酸化物を有さないことを特徴とし得る。
【0078】
ALD/MLDコーティング粒子のもう1つの特徴的な利点は、結露の影響を受けにくくすることにより、レオロジーを改善し得、粉末を精製または他の方法で修飾して仕様に戻す前に、粉末をより多く再利用できるようにすることである。表面化学基を親水性が低くなるように修飾することにより、時間の経過と共に粉末によって吸収される水の量を減少させることができ、これにより、粉末への酸素の取り込みが少なくなり得る。
【0079】
より一般的には、不要な化学種が粉末と反応するのを防ぐための表面化学修飾は、ALDまたはMLDコーティングによって実現され得る。例えば、Al23ALDをAgまたはLiの粉末またはパーツに塗工すると、粉末またはパーツと硫黄、酸素、水、窒素またはその他などの大気または環境種との反応を防ぐことができる。ALDコーティングは、これらの種が下にある粉末またはパーツと相互作用するのを防ぐバリアとして作用する。他の実施形態では、フッ化物、窒化物、炭化物などの他のALDコーティングを使用する。
【0080】
5.サーメットの形成
セラミックコーティングを金属粉末に塗工して、サーメットを形成することができる。ALDは、金属粒子をセラミックコーティングによりコーティングするために使用され得る。得られた粉末は、金属相及びセラミック相の複合材料であるサーメットの形態で所望の形状に印刷され得る。例えば、3D印刷条件は、ALD塗工コーティング(例えば、金属酸化物、金属窒化物または金属炭化物)を有する粒子が、金属マトリックス内に分散しているか、金属領域を分離する薄層としてのいずれかにより、それぞれの相(例えば、金属酸化物、金属窒化物または金属炭化物相)を有する印刷複合体をもたらすように制御され得る。
【0081】
6.酸素含有量の軽減
希土類元素(REE)を粒子コーティングに添加して、酸素を結合させる。Al中の酸素は、Al23の島または堆積物に存在し得る。また有利には、下にある金属を保護するために緻密な表面層を形成することができる。Tiでは、Oは溶解性が高く、粒子の内部に向かって移動する傾向がある。粒子の外側にREEを配置することにより、バルク金属の酸化が遅くなる。
【0082】
7.表面特性
ALD/MLDを使用して、溶融プールの表面張力を低下させる均一な表面コーティングを塗工し得る。いくつかの実施形態では、これらのコーティングは、粒子の成長、析出、及び他の微細構造関連の特性に影響を与えることによって、パーツの最終的な微細構造に有益な効果を持たせるために使用される。2017-Chen et al.,in J.Mater.Processing Tech.“Improving additive manufacturing processability of hard-to-process overhanging structure by selective laser melting (SLM)”の107ページを参照すると、「ホウ素及びニオブなどの少量の界面活性元素を元の粉末に添加する。界面活性元素は、SLM中に溶融プールの表面張力を低下させる機能を有する。これは、溶融プールの安定性を高め、SLMによるオーバーハング構造の加工品質を向上させるのに非常に有用である」と記載されている。本発明では、コーティングが粒子に塗工され、表面張力を低下させ、溶融プールの安定性を改善し、毛管作用を低下させ、これにより溶融物が印刷床から粒子を取り込み、ドロスを生成する傾向を低減する。コーティングは、界面活性元素または化合物を粒子の外部に集中させることができ、組成のより良好な制御があり、得られる印刷物品が優れた特性を有するため、特に有利である。またより優れた流動性との組み合わせにより、非コーティング粒子よりも相乗的な利点となる。このようなコーティングの例としては、硫黄含有材料(例えば、これらに限定されないが、ZnS、CaS、BaS、SrS、CdS、PbS、In23、CuxS、WS2、TiS2、Sb23、SnS、GaSx、GeS、MoS2、Li2S)、ホウ素含有材料(例えば、これらに限定されないが、TiB2、B2O3、BN、TaB、TaB2、B-ドープZnO、W25、AlB2、B4C、Mo25、Re25、Os25)、タンタル含有材料(TaN、TaB、タンタル酸化物など)及びNb含有材料(例えば、ニオブ酸化物、NbN)が挙げられる。あるいは、活性のある「コーティング」は、金属粉末を目的の元素を含む化学物質にさらして粉末を表面処理することのみで塗工され得る(例えば、Bの場合、これらは、例えば、BBr3、テトラキス(ジメチルアミノ)ジボロン、B(C253、B(OCH33[(CH32CHO]3B、B(CD33、(C653Bとなり得、Sの場合、これは例えばH2Sとなり、Nbの場合はいくつかの選択肢がある)。
【0083】
別の実施形態では、ALDコーティング、または複数材料のALDコーティング内の層は、粒成長を改変し、典型的に粒成長を阻害するが、いくつかの実施形態では、高温合金の粒成長が増加する。ここでは、粒子の滑りが脆弱となるため、より少ない粒子が望ましく、単結晶部分は、多くの場合、極端な高温において最高の性能を発揮する。このような粒成長制御コーティングの例としては、AlPO4、TiPO4、TiP、AlP、GaP、Ni2Pと同様に溶融プールの表面張力を低減するための上記コーティングが挙げられる。
【0084】
いくつかの実施形態では、コーティングは、焼結助剤として機能し得る。ALDは、均一の、典型的には薄層を形成するため、焼結または他の熱処理後の中間体及び生成物は、粒子間の界面で制御された特性を有する。
【0085】
水素またはフォーミングガスを使用して、ALD堆積中に酸化物を還元して金属コーティングを作製するか、または使用直前に酸化物ALDコーティングを還元することが可能である。これは、特に粒子が粉末床に堆積された後、3D印刷システム内で実行され得る場合に最適に機能する。特に金属粒子の場合、表面の酸化物が除去されると、粒子は凝集する(または緩く焼結する)傾向を有する。したがって、これらが、印刷試験床に最適に流されたり、分散されたりすることはない。
【0086】
8.エッチング
いくつかの実施形態では、コーティング層または汚染膜(例えば、望ましくない表面酸化物)は、原子層エッチング(ALE)によるなど、使用前に、好ましくは使用直前に除去できる。ALEは、再生利用された粒子に対して行われ、不要な材料または元素(例えば、酸素もしくは金属、金属窒化物、または他の元素もしくは化合物)を除去することにより、再利用のためにそれらを再生するかまたは「活性化」することができる。このプロセスは、真のALE(暴露による自己制限)であるか、または表面材料の自発的エッチング(HFガスへの暴露時の金属粉末の表面からの酸化物の自発的エッチングなど)のいずれかである。いくつかの実施形態では、このALEまたは自発的エッチングプロセスは、元の表面化学物質を、例えば、酸化物から別の表面化学物質、例えば、フッ化物、オキシフッ化物に改変するという追加の利点を有する。この新しい表面(フッ化物の場合)は、元の表面(例えば、元々酸化物/-OH表面の場合)よりも親水性が低いものとする。低親水性表面は、貯蔵中または操作中に膜による酸素/H2Oの取り込みを減少させるために有益である。追加の利点は、多くの場合、フッ化物が酸化物よりも熱力学的に安定しているため、フッ化物が酸化物に戻らないことである。
【0087】
本発明の方法のいずれにおいても、粒子は、ALD/MLDの前にエッチングステップまたは還元ステップに供することができる。
【0088】
9.自然発火性耐性
コーティングの別の用途は、可燃性粉末を発火から保護するか、またはそのような粉末の自然発火性を低減することである。これらの粉末としては、チタン、アルミニウム、または亜鉛の粉末など、特定の粒子経未満の自然発火性である微細金属粉末、または特にハフニウム、ジルコニウム、スズなどの自然発火性粉末、またはカルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ金属を挙げることができる。コーティングは、煙(熱気流によりプリンタ内で粒子が吹き飛ばされる)を防ぐためにも使用され得る。粒子の凝集力を最適化する膜は、ALD膜により作製され得る。これらの膜により、各粉末層の信頼性の高い鋳造を行うにあたって望ましい粉末の流動性を向上させることと、粒子の煙に対する感応性が低くなるように十分に凝集性のある膜を提供することとの間にバランスが生じる。ALD/MLDコーティングの滑らかで非常に均一な性質により、優れた流動性が可能になり、粒子コーティング間の分子間力により煙が防止される。さらに、ALD/MLDは、他の方法よりも少ない材料で表面を完全に覆うことができるため、安全な操作が可能になり、優れた結果が得られる。自然発火性粉末は一般に認識されており、いくつかの実施形態では、10%の湿度及び標準圧力で自然発火する能力を有するものとして定義され得る。
【0089】
10.反射防止
積層造形用の粒子上のコーティングの正確な厚さ及び組成を選択/制御して、適用されるレーザビームの反射を減少させ得る。コーティングは、ALDまたはMLDによって堆積された任意の材料、例えば(MgF2、ZnO、Zn、ポリアミド、フルオロカーボンなど)であり得る。膜(例えば、金属膜)は、高い結晶性を提供し得る。主粒子の表面に高結晶性のナノノジュールをコーティングするなどでは、レーザの回折及び散乱が増加し、反射率が低下し得る。ALDは、粒子表面にナノノジュールを形成するために使用できる。非常に低レベルの高結晶性材料のコーティング、または支持体上で容易に核形成しない膜は、膜の島で成長する。さらに、それ自体で優先的に成長するALD膜を選択すると、島が増えるのと対照的に、島が大きく成長する。あるいは、交互層のナノ積層は、反射率を低下させ得る。ナノ積層は、高屈折率及び低屈折率を交互にして、吸収を最大化するように設計されている。コーティングの厚さ及び組成は、レーザ波長の吸収を最適化するように選択できる。コーティングにより、エネルギーの吸収が大きくなり、粉末を焼結または溶融してパーツを形成するために必要な入力エネルギーが減少する。こうして入力エネルギーが少なくなることにより、スキャン速度が速くなり、それに対応してパーツ生産が速くなるか、必要とされるレーザのエネルギーが少なくなるか、またはシステムを実行するためのエネルギーコストが低くなる形態であり得る。粉末は、非共役二重結合を含むポリマーなどの1つ以上の発色団を含むコーティングによりコーティングし、レーザ光を吸収して焼結を加速し、効率を高めることができる。
【0090】
ALDまたはMLDを使用して多層コーティングを形成し、レーザ放射の吸収を増やすことができる。これらの多層コーティングは、異なる組成の2つ、3つ、またはそれ以上の層を有し、好適な組成物は、既知の光学科学によって選択され得る。好ましくは、反射防止コーティングは、吸収を少なくとも1%、2%、または少なくとも5%増加させる(または反射率を減少させる)。
【0091】
11.混合の増強
粉末産業における1つの問題は、均一な粉末ブレンドを作り出すことである。粉末は、表面化学及び粒子径が一致しないために、多くの場合、分離する。表面化学を改変することにより、2つ以上の粉末間の混合が促進され、より良好な加工及びパーツ形成となる。本発明によって提供される別の方法は、混合を改善するために異なる粒子に同一のコーティングを塗工することである。一実施形態では、同じALDコーティングが2つ以上の粉末に塗工される。別の実施形態では、コーティングは、1つの粉末の表面を模倣するように選択され、第2の粉末にのみ塗工される。所与の材料のコーティングを1つ以上の粉末に塗工して、より良好にブレンドされた粉末混合物を作製できる。例えば、粉末X及びYのブレンドを作製しようとするとき、粉末XをYに存在する表面化学物質によりコーティングできる。したがって、両方の粉末は同じ表面化学物質を有し、より良く混合する。具体的な例は、W金属粉末を炭素コーティングでコーティングすることである。これにより、W金属粉末が炭素粉末と混合されたときに(最終的にWCパーツを印刷するため)、すべての粒子の表面化学物質がC系になる。あるいは、炭素の表面官能基を容易に修飾して、炭素の表面にWOx(酸化タングステン)官能基を追加することができる。この2番目のアプローチは、すべての粒子にWOx表面基をもたらし、これもまた、より良い混合となり、かつ隔離がより少なくなる。したがって、異なるコア組成を有する粒子は、実質的に類似であるかまたは同一である表面化学物質を有し、印刷パーツの形成前または形成中のより良好な混合及びより少ない隔離が可能になる。この概念は、異なる粉末材料の数が好ましくは2~10、より好ましくは2~5、またはより好ましくは2~3である複数の材料粉末に拡張される。
【0092】
別の例では、炭素含有コーティングが金属(例えば、タングステン)粒子上に塗工される。W金属粉末を炭素粉末と混合すると(最終的にWCパーツを印刷するため)、すべての粒子の表面化学物質がC系になる。あるいは、炭素の表面官能基を容易に修飾して、炭素の表面にWOx(酸化タングステン)官能基を追加することができる。この2番目のアプローチは、すべての粒子にWOx表面基をもたらし、これもまた、より良い混合となり、かつ隔離がより少なくなる。この概念は、異なる粉末材料の数が好ましくは2~10、より好ましくは2~5、またはより好ましくは2~3である複数の材料粉末に拡張される。タングステンは、既知のALDプロセスによって粒子表面に塗工され得る。例えば、Herrmann et al.,「Multilayer and functional coatings on carbon nanotubes using atomic layer deposition」,Appl.Phys.Lett.87,123110(2005)を参照のこと。酸化タングステンは、エッジ欠陥などの炭素の欠陥、または基質内に存在するか、プラズマまたはO3による前処理によって基質内に生成され得るかのいずれかである、O含有欠陥を介してC粒子の表面に結合できる。
【0093】
12.バインダジェットコーティング
ALDまたはMLDを使用して、金属またはセラミック粒子に有機コーティングまたは他の除去可能なコーティングを塗工できる。粒子をある形状に成形した後、コーティングを(燃焼などによって)除去して、さらに加熱することによって完全に緻密化できる多孔性パーツを形成することができる。ALD/MLDにより、グリーンパーツ((green parts)(バインダジェットプロセスを使用して製造))の密度を高める。より強力なバインダ-粒子相互作用が可能になる、またはより硬い、またはより密度の高いグリーンパーツをもたらす粒子上のALD/MLDコーティングが有利である。一実施形態では、ALD/MLDコーティングは、バインダと化学的に反応して、より硬く、より密度の高いグリーンパーツとなるように設計された粒子に塗工される。別の実施形態では、ALD/MLDコーティングは、共有結合的に反応することなく有益な方法でバインダと相互作用するように設計される(例えば、粉末上のベンゼン環系コーティングは、バインダとのπ-πスタッキング相互作用をもたらす(芳香族含有バインダの場合)。さらに別の実施形態では、ALD/MLDコーティングは、バインダが粉末床に噴霧される前に、バインダに添加される粒子に塗工される。粉末床内の粉末も、ALD/MLD層(複数可)でコーティングされている。コーティングは、より密度の高いグリーンパーツが形成されるように、互いに相互作用するように設計されている。さらに別の実施形態では、ALDコーティングは粉末のみに塗工され、ALD/MLDコーティングは、開始剤として作用し、粉末と接触したときにバインダを「硬化」または「重合」して、より硬く、より密度の高いグリーンパーツを作製する。
【0094】
現在、粉末ジェット加工用のバインダは、フルフリルアルコール、ビスフェノールA、またはレゾルシノールで構成されている。フェノール結合剤は、ヒドロキシル化表面よりもメチル化表面により容易に結合する。一例として、TMA/H2O化学物質を使用して粒子を酸化アルミニウムでコーティングしているが、水の投与で化学物質を終了させる代わりに、プロセスはTMAサイクルで終了する。これにより、フェノール材料と反応するために利用できるであろうメチル基が表面に残る。あるいは、C含有ALD/MLD化学物質(例えば、ポリアミド)は、バインダとのより良好でより安定した相互作用を容易にするために、非加水分解性基(例えば、炭素鎖上のメチル基)で終結させることができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、ALDまたはMLDプロセスを使用して、積層造形プロセス中に活性化する粒子の外部に反応性基を塗工することができる。例えば、反応性基は、熱、光(光活性化)、電子ビーム、または触媒(例えば、液相または気相で適用される触媒)の適用によって開環するか、さもなければ活性化するブロック基でブロックすることができる。活性化は、凝集層またはグリーン体の形成と同時に、または形成後に発生し得る。一例は、反応時にのみそれ自体が発現する隠された機能を含むMLD化学物質により粒子をコーティングしている。多くの開環反応では、反応時にヒドロキシル、アミン、またはカルボン酸基を生成する。例えば、2,2-ジメトキシ-1,6-ジアザ-2-シラシクロオクタン(CAS182008-07-7)などの環状アザシラン(AZ)は、表面のヒドロキシルと反応してケイ素-酸素結合を形成できる。環状アザシランは、折り畳みもほどけ、表面ヒドロキシル基との反応性が期待されないアミン種が残る。次に、エチレンカーボネート(EC)(CAS-96-49-1)などの環状カーボネートが、表面アミンと反応してウレタン連結を形成できる。エチレンカーボネートも折り畳みがほどけ、表面アミン基との反応性が期待されないヒドロキシル種を生成する。この化学的性質は、任意のステップにおいて終了させることができ、グリーン体の形成中に最適に開くブロック基を残して、粒子同士の接着を増加させ得る。
【0096】
13.コア粒子の耐溶融性/耐焼結性
いくつかの任意の実施形態では、コーティングは、コアの融点よりも高い融点を有する。これらの場合、積層造形プロセス中に、コーティング前にコアが軟化し得る。この一実施形態は、粒子が、印刷プロセス中に加熱された床内または圧力下で一緒に望ましくなく焼結するのを防ぐ膜の開発であろう。この特徴は、本発明のすべての実施形態に存在するわけではないが、本発明は、代替的実施形態では、本明細書に記載の実施形態のいずれにおいても、この特徴を含めることができる。
【0097】
本発明の別の実施形態では、所与の材料のコーティングは、2つ以上の材料を含む粉末中の1つの材料の焼結を遅らせるために、1つ以上の粉末に塗工できる。サーメットまたは他の複合金属/無機材料(金属マトリックス複合材料、MMC、または多層セラミックコンデンサ(MLCC)などの多層金属/セラミック構造など)などの材料を作製する際の1つの問題は、金属構成パーツは、典型的には、無機(セラミック)構成成分よりもはるかに低い温度で焼結することである。本明細書での方法は、金属またはより一般的にはより低い焼結温度の粉末または材料を、金属またはより低い焼結温度の材料の焼結を減速させる、低減する、遅らせる、または別の方法で影響を与えるコーティングによりコーティングすることである。いくつかの好ましい実施形態では、このコーティングでは、より低い焼結温度の材料の焼結温度を上昇させる。より低い焼結温度の材料の焼結温度をより高い焼結温度の材料の焼結温度に近づけるように上昇させることにより、焼結中に生じる隔離がより少なくなるので、より均一な複合材料を作り出すことができる。具体的な例は、金属(Ni)がセラミック材料(例えば、炭化チタン、BaTiO3など)と共に焼結されるときに、酸化物コーティング(例えば、チタン酸リチウム)により金属粉末(例えば、Ni)をコーティングすることであり、焼結は、材料の隔離が2つの構成成分のうちの1つをコーティングしない場合よりも少なくなるように強化される。サーメット材料及びMMC材料としては、チタン、タンタル、タングステン、ニオブ、またはモリブデンの炭化物または窒化物、及びニッケル、コバルト、モリブデン、及び他の材料のバインダと組み合わせた他の材料を挙げることができる。
【0098】
14.より良好なコールドスプレープロセスが可能になるコーティング
コーティングは、ビルドプレートに向かって噴射されたときの粒子への抗力を減少させるALD/MLDによって塗工できる(コールドスプレーまたは直接エネルギー技術)。これらの膜には、フルオロカーボン、フッ化アルミニウム(任意の遷移金属フッ化物)、ポリアミドもしくはポリイミド、ポリウレタン、ポリ尿素、及びベース炭化水素が含まれ得る。
【0099】
コールドスプレー粒子の互いの付着係数が増加するALD/MLDによってコーティングを塗工できる。これには、柔らかく変形可能な材料が含まれ得るか、または、目的のコア粒子の焼結助剤であり得る。衝撃エネルギーは、局所焼結に十分である。例えば、より低い熱伝導率を有するポリマーコーティングは、衝撃エネルギーが衝撃の点でより局所的に含まれるように、ALD/MLDによって金属粉末に塗工され得る。これにより、フィーチャサイズのより細かい制御がもたらされ得る。
【0100】
15.押し出しベースの3D印刷用のフィラメント(インク)を改良するための粉末へのコーティング。
本発明の1つの要素は、樹脂または液体マトリックス(例えば、溶媒または分散剤)を充填する粉末の分散を増加することである。これにより、充填された樹脂またはインクの加工に悪影響を与えることなく、均一性を向上させること、及びより多い固形分の添加を行うことがいずれも可能になる。
【0101】
16.印刷中における、印刷環境からH2OまたはO2を除去するためのALD様プロセスの使用。
印刷処理中に印刷床にTMA(または他の好適に反応性であるガス)を使用して、印刷環境内の雰囲気からH2Oを除去する。これにより、粉末及び製造パーツの両方の材料の酸化が減少する。反応性ガスは、in situにおいて「ゲッター」として作用し、不要な種を反応させ、反応生成物を気相から沈殿させる。ほとんどの場合、その部分は形成されていない。これにより、ほとんどの場合、不要なH2O、O、または他の不要な化学種が印刷環境から除去される。
【0102】
17.調整された合金(tailored alloy)を作製するための元素を加算する及び減算するためのコーティング及びエッチング
ALD/MLDを使用して、粉末に少量の元素または化合物を添加し、調整された合金を作製できる。原子層エッチングまたは自発的エッチングを使用して、粉末に対して対象となる元素または化合物を除去し、調整された合金を作製できる。現在のAM粉末は、典型的に、範囲、または上限境界または下限境界により仕様を定義している元素組成仕様に準拠するように販売されている。実際には、AMプロセスでは特定の元素または化合物をいくぶん必要とし得る。したがって、本発明のこの実施形態は、パーツ製造前または製造中に、特注の合金生成をもたらす。
【0103】
本発明の別の実施形態では、印刷中にALD様処理を行なって、レーザによって揮発し、そのため最終パーツ内には存在しない元素または化合物の粉末/パーツ/ビルド低濃度に戻すように追加する。この実施形態におけるALD/MLD様プロセスは、さもなければ最終パーツで不足するであろう必要な元素/化合物の交換が可能になるであろう。このような欠陥は、例えば微細構造に関連する問題のために、パーツの性能を低下させるおそれがある。
【0104】
18.中間加工パーツへのALD/MLDコーティング
緻密化-形成されたグリーン体に焼結助剤を添加する。これにより、粒子間の接触点をコーティングする必要がなくなるため、完成パーツに添加される材料の量が減少する。
【0105】
機械的安定化-BJP(バインダジェットプリンタ)または押し出しツールから移動する前に、より高い構造膜を添加する。材料が最終的に緻密化される前に、この膜により、パーツの構造が改善される。コーティングは必ずしも同じツールで行われるものではないが、最終焼成前に3Dプリンタの外部で行われ得る。
【0106】
ブロンズ材料の吸湿性を改善する。パーツ上の別の金属の薄膜は、ブロンズ材料が細孔に十分に流れ込むための良好な湿潤性表面を提供する。材料の流動性を高めるいくつかの膜が存在する。
【実施例
【0107】
材料及び方法
本発明及び上記の様々なコーティングのレオロジー及び他のいくつかの利点を評価するために、コーティングを有するコア金属粉末に対して試験が開発され、実施された。以下は、そのような試験の方法及び結果を説明するものである。
【0108】
手順
各実行に使用される手順を以下に列挙する。
1.表2に示されている各サンプル番号について、75mlの原子層堆積(ALD)反応器に約100gのAlSi10Mg粉末を添加した。反応器を排気し、粉末を一晩室温で水を脱離させた。これは、水と高温の基質粉末とのいかなる反応をも制限するために行った。残留ガス分析装置(RGA)は、床からの水の脱離のみを検出した。
2.翌朝、反応器を180℃まで加熱し、粉末を4時間乾燥させた。
3.表2に従って、粉末を適切なサイクル数によりコーティングした。RGAを使用して気相生成物を検出し、堆積がアルミナの堆積と必ず一致するようにした。
4.反応器を室温まで冷却し、加圧した。
5.粉末は、回収して包装した。
【0109】
【表4】
【0110】
分析方法
残留ガス分析装置-残留ガス分析装置(RGA)は、プロセスからの排出ガスをサンプリングするために使用される質量分析計である。これは、ALDプロセスの進行またはあらゆる副反応に関するリアルタイムの情報を提供し、典型的には、ALDプロセスのフィードバック制御に使用される。RGAは、漏れの確認及び基質の脱気情報も提供する。
【0111】
酸化の熱重量分析-熱重量分析装置であるTGAは、サンプルが高温まで上昇したときの質量変化挙動を調べるためのex-situ分析ツールとして使用される。N2/O2雰囲気を使用して基質を傾斜させ、ALD膜によって提供される酸化保護を観察し、膜の有効性または厚さを推測する。
【0112】
粉末流動試験-材料の粉末流動機能は、ブルックフィールドPFTを使用して試験した。
【0113】
結果及び考察
表2は、実施されたコーティングの実行をまとめたものである。
【0114】
【表5】

【0115】
【表6】

【0116】
T326a
材料は、問題なく乾燥し、十分に流動化した。RGAデータは、アルミナの堆積と一致していた。
【0117】
TGA分析
サンプルは、酸素中で10℃/分で450℃まで加熱することによりTGAで試験を行った。5サイクル以下のサンプルは、これらの条件によって酸化されたが、25サイクル以上のサンプルでは酸化が見られなかった。コーティングされていない材料は、より低い温度で加熱するとかなりの質量損失を示し、これは吸着された水の指標であり得る。
【0118】
粉末流動試験
粉末サンプルは、ブルックフィールド粉末流動試験装置で試験が行われ、主要な主圧密応力と対応させて、流量係数を決定した。結果を図1に示す。非コーティング粉末と比較して、0.5~50サイクルのコーティングでは、試験対象の全範囲において流量係数が増加し、100サイクルのコーティングでは、最初は流量係数が増加したが、圧密応力が増加するにつれてこの利点が減少した。
【0119】
コーティング粉末の流量係数を非コーティング粉末に対して正規化することにより、コーティングの利点をより直接的に見ることができる。図2を参照されたい。流量係数の最大の増加は、5サイクルの実行で見られた。これは、TGA試験中に失敗している最も厚い膜でもあった。このデータは、わずか1回のALDサイクルで流動性の大幅な増加が観察されるという驚くべき結果を示しているが、100サイクルでは、より高い圧密応力下で流動性の低下が示され、耐酸化性を高めることを望む場合は、望ましい範囲は2~100サイクル未満、好ましくは2~50サイクルまたは2~25サイクルまたは5~25もしくは50サイクルである。50サイクルの実行曲線は、他の曲線とは異なる形状を示していることに留意している。これは、コーティングの実行中または粉末フロー分析中のいずれかにおいて系統的なエラーを示している可能性がある。
【0120】
これらの粉末の流動性を評価するために行われる別の試験は、カーニーフロー試験の前に実施することが推奨されるホールフロー試験法である。しかし、一部の微粉末は、ホール流量計漏斗の小さい開口部を通って流れない場合がある。より大きいオリフィスが必要な場合は、カーニーフロー試験法を使用して、有意な流量を決定し得る。金属粉末は、カーニー流量計漏斗の較正済みオリフィス(直径5.08±0.13mm)を通って流れるときにタイミングが調整される。
【0121】
AlSi10Mg粉末(受領時、乾燥時、またはコーティング時)はいずれも、ホール流量計漏斗を通って流れない。したがって、カーニーフロー試験を用いた。カーニー流量計の結果は、次のとおりである。
【0122】
【表7】
【0123】
カーニーフロー時間が速い場合は、粉末の流動性がより高いことを示す。この試験は、流動性を改善するための最適な膜厚があることを示すブルックフィールド測定結果を裏付けるものである。
【0124】
実施例2:酸化耐性を改善するためのTi64合金上へのAl23またはTiO2のALDコーティング
【0125】
Ti6Al4V(Ti64)粉末は、EOSから入手した。300.0gのTi64粉末を150mLの反応器に装填し、流動床反応器に入れた。基質を185℃まで15時間加熱して、余分な水分を取り除いた。一旦乾燥したら、粉末の流動化特性を評価した。最小流動化点が約10sccmであったため、ALDコーティング中の操作流量として30sccmを使用した。標準加工条件を使用して、2、5、10サイクルのAl23ALDまたは15サイクルのTiO2のいずれかを堆積させた。オンボード残留ガス分析装置(RGA)を使用して、未反応のTMA、H2O、またはTiCl4がそれぞれのサイクル中に床を突き破ったときを検出し、このため、各ALDサイクル中に完全な表面飽和を確保した。サイクル後、反応器を室温まで冷却し、大気圧まで加圧し、基質を取り除いた。
【0126】
各サンプル及びコーティングされていないサンプルの耐酸化性は、TGA分析によって評価した。各サンプルの質量を測定しながら、サンプルを空気中で加熱した。結果を図3に示す。
【0127】
粉末の酸化は、加熱中の質量増加として表される。未コーティング粉末が約220℃で急速に酸化を開始することは容易に見える。2サイクルのAl23において、酸化開始温度が有意に変わることはない。Al23を5サイクル行うまでに、酸化開始温度は、約270℃までシフトした。これは、粉末の耐酸化性の有意な向上である。耐酸化性の改善は、Al23コーティングに限定されるものではなく、約270℃までTi64粉末の耐酸化性を増大させる15サイクルのTiO2コーティングにより証明されるようにTiO2コーティングを介しても達成可能である。
【0128】
実施例3:ステンレス鋼粉末の流動性を向上させるためのAl23ALD及びSAMのキャッピング層の使用
【0129】
10kgのステンレス鋼粉末を3L流動床反応器容器に装填した。実施例1の方法で、6サイクルまたは16サイクルのいずれかのAl23ALDを粉末上で実施した。この直後に、自己組織化単分子膜(SAM)を形成する分子に曝露した。この実施例で選択した分子に最適な条件を提供するために、粉末を140℃まで冷却した。次に、粉末をFOMB(DMA)S(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルメチルビス(ジメチルアミノ)シラン)に曝露した。FOMB(DMA)Sの投与は、RGAで副産物を監視しながら進行させた。副産物のシグナルが消失するまで投与を継続した。これらの条件下では、これには約16時間を要した。この系を室温まで冷却した。
【0130】
これらの粉末は、ホール及びカーニーフローテストシステムにより試験を行った。(コーティングされたまたはコーティングされていない)粉末はいずれも漏斗を通って流れなかったが、シラン処理によりコーティングされた粉末は流れ始め、その後、全試験が完了する前に停止した。これは、この非常に凝集性の高い粉末が有意に改善されたことを示している。視覚的には、これらの粉末は、非コーティング材料と比較して、非常に異なる流動特性を有している。
図1
図2
図3