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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
A63B37/00 644
A63B37/00 538
A63B37/00 618
A63B37/00 620
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020017043
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021122429
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
【審査官】野田 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226758(JP,A)
【文献】特開2019-213606(JP,A)
【文献】特開2007-301357(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0237345(US,A1)
【文献】特開2011-120898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア、中間層及びカバーを具備するゴルフボールであって、ゴルフボールの圧縮変形量を測定するに際し、ゴルフボールの直径42.80mm以下とし、該ゴルフボールを23.9℃に温度調整した後に、高荷重コンプレッションテスターを用いて加圧ヘッドのダウン速度4.7mm/秒で計測することを条件とするとき、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重50kgfをかけたときまでの圧縮変形量(B)が1.30~1.80mmであり、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重90kgfをかけたときまでの圧縮変形量(C)が2.45~2.90mmであるとともに、上記コアの硬度分布において、コア表面のショアC硬度をCs、コア表面から3mm内側の位置のショアC硬度をCs-3、コア中心のショアC硬度をCcとするとき、下記の式(1)及び式(2)
Cs-Cc≧20 ・・・(1)
Cs-Cs-3≦5.0 ・・・(2)
を満足すると共に、上記中間層の材料硬度がショアD硬度で47~62であり、上記カバーの材料硬度がショアD硬度で54~68であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量(A)が0.18mm以下である請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmである請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】
初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重30kgfをかけたときまでの圧縮変形量(E)が0.68~1.05mmである請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項5】
初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量(A)が0.18mm以下であり、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(A)との比(D)/(A)の値が18.0以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項6】
初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(B)との比(D)/(B)の値が2.02~2.40である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項7】
初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(C)との比(D)/(C)の値が1.20~1.31である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項8】
初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重30kgfをかけたときまでの圧縮変形量(E)が0.68~1.05mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(E)との比(D)/(E)の値が3.50~4.10である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項9】
上記コアが、下記の(a)~(d)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)架橋開始剤、及び
(d)分子量が200未満の低級アルコール
を含有するゴム組成物で形成される請求項1~8のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項10】
上記(d)成分の配合量が、(a)基材ゴム100質量部に対して0.5~5質量部である請求項9記載のゴルフボール。
【請求項11】
上記(d)成分が、1価、2価又は3価のアルコールである請求項9又は10記載のゴルフボール。
【請求項12】
上記(d)成分が、ブタノール、グリセリン、エチレングリコール又はプロピレングリコールである請求項9~11のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項13】
各層の硬度関係については、以下の数式(3)を満たす請求項1~12のいずれか1項記載のゴルフボール。
カバー(最外層)表面のショアC硬度>中間層表面のショアC硬度>コア表面のショアC硬度>コア中心のショアC硬度 ・・・(3)
【請求項14】
上記式(2)において、Cs-Cs-3の値が2.7以下である請求項1~13のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項15】
上記コアの中心硬度(Cc)が、ショアC硬度で51~60である請求項1~14のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項16】
上記コアの表面硬度(Cs)が、ショアC硬度で68~75.6である請求項1~15のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項17】
上記コアの中心から4mm位置のショアC硬度(Cc+4)が、ショアC硬度で52~59である請求項1~16のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項18】
上記のコア及び中間層被覆球体の各球体の初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量(mm)をそれぞれO,Mとするとき、O-Mの値が0.2~0.5mmである請求項1~17のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項19】
上記のコア及びボールの各球体の初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量(mm)をそれぞれO,(D)とするとき、O-(D)の値が0.5~1.0mmである請求項1~18のいずれか1項記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともコア及びカバーを具備するゴルフボールであって、ヘッドスピードの速くないアマチュアユーザー向けのゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
アマチュアゴルファー向けのゴルフボールの市場において、従来から、飛びや打感においてアマチュアゴルファーが満足するようなゴルフボールは多く開発されている。例えば、ゴルフボールに小さな衝撃力が加わったときのボール特性に及ぼす影響の指標として、初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量を用い、この値を0.26~0.40mmの範囲としたゴルフボールが特開平8-280845号公報(特許文献1)に提案されている。しかしながら、このゴルフボールは、主にアプローチスピンを重視したスピン系のゴルフボールであり、ドライバー打撃時の飛び性能において十分満足するものではなかった。
【0003】
また、ボール構造を多層化し、コア、中間層及びカバー(最外層)の各層の表面硬度を適正化した機能的なマルチピースソリッドゴルフボールも種々提案されている。例えば、特開2005-211656号公報(特許文献2)、特開2007-319666号公報(特許文献3)、特開2001-218875号公報(特許文献4)、特開2005-218858号公報(特許文献5)、特開2008-212682号公報(特許文献6)、及び、特開2009-195670号公報(特許文献7)に記載されたマルチピースソリッドゴルフボールが挙げられる。これらの公報に記載されたゴルフボールは、カバーより軟らかい材料を中間層に配したスリーピースソリッドゴルフボールであり、ヘッドスピードが速くないアマチュアゴルファーにおいても優れた飛び性能を付与するものである。しかしながら、上記提案のゴルフボールは、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重50kgfをかけたときまでの圧縮変形量や、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重90kgfをかけたときまでの圧縮変形量などを適正化したものではなく、即ち、ゴルフボールに加わる衝撃力の程度によってボール特性がどのような影響を及ぼすことに着目したものではなく、アマチュアユーザー向けのゴルフボール製品として、飛び性能や良好な打感を得るうえで改良する余地が未だ残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-280845号公報
【文献】特開2005-211656号公報
【文献】特開2007-319666号公報
【文献】特開2001-218875号公報
【文献】特開2005-218858号公報
【文献】特開2008-212682号公報
【文献】特開2009-195670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ヘッドスピードがそれほど速くない、所謂アベレージゴルファーが打撃した時の飛びが優れるとともに、ソフト感のある良好な打感を有するアマチュアユーザー向けのゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、コアとカバーとを具備するゴルフボールにおいて、ゴルフボールに加わる衝撃力の程度と飛び・打感のボール特性との関係に着目し、具体的には、ゴルフボールの圧縮変形量において、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重50kgをかけたときまでの圧縮変形量(B)及び初期荷重5kgをかけた状態から終荷重90kgをかけたときまでの圧縮変形量(C)を特定するとともに、コアの中心,表面及び表面から3mm内側の位置の各ショアC硬度の関係を特定することにより、ヘッドスピードが速くないゴルファーが、ドライバー(W#1)やアイアンでフルショットしたときに満足する飛び性能が十分に得られるとともに、ソフト感のある良好な打感を得ることができ、更には割れ耐久性も良好であることを見出し、本発明のゴルフボールをなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.コア、中間層及びカバーを具備するゴルフボールであって、ゴルフボールの圧縮変形量を測定するに際し、ゴルフボールの直径42.80mm以下とし、該ゴルフボールを23.9℃に温度調整した後に、高荷重コンプレッションテスターを用いて加圧ヘッドのダウン速度4.7mm/秒で計測することを条件とするとき、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重50kgfをかけたときまでの圧縮変形量(B)が1.30~1.80mmであり、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重90kgfをかけたときまでの圧縮変形量(C)が2.45~2.90mmであるとともに、上記コアの硬度分布において、コア表面のショアC硬度をCs、コア表面から3mm内側の位置のショアC硬度をCs-3、コア中心のショアC硬度をCcとするとき、下記の式(1)及び式(2)
Cs-Cc≧20 ・・・(1)
Cs-Cs-3≦5.0 ・・・(2)
を満足すると共に、上記中間層の材料硬度がショアD硬度で47~62であり、上記カバーの材料硬度がショアD硬度で54~68であることを特徴とするゴルフボール。
2.初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量(A)が0.18mm以下である上記1記載のゴルフボール。
3.初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmである上記1又は2記載のゴルフボール。
4.初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重30kgfをかけたときまでの圧縮変形量(E)が0.68~1.05mmである上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール。
5.初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量(A)が0.18mm以下であり、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(A)との比(D)/(A)の値が18.0以上である上記1又は2記載のゴルフボール。
6.初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(B)との比(D)/(B)の値が2.02~2.40である上記1又は2記載のゴルフボール。
7.初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(C)との比(D)/(C)の値が1.20~1.31である上記1又は2記載のゴルフボール。
8.初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)が3.10~3.80mmであり、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重30kgfをかけたときまでの圧縮変形量(E)が0.68~1.05mmであり、且つ、上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(E)との比(D)/(E)の値が3.50~4.10である上記1又は2記載のゴルフボール。
9.上記コアが、下記の(a)~(d)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)架橋開始剤、及び
(d)分子量が200未満の低級アルコール
を含有するゴム組成物で形成される上記1~8のいずれかに記載のゴルフボール。
10.上記(d)成分の配合量が、(a)基材ゴム100質量部に対して0.5~5質量部である上記9記載のゴルフボール。
11.上記(d)成分が、1価、2価又は3価のアルコールである上記9又は10記載のゴルフボール。
12.上記(d)成分が、ブタノール、グリセリン、エチレングリコール又はプロピレングリコールである上記9~11のいずれかに記載のゴルフボール。
13.各層の硬度関係については、以下の数式(3)を満たす上記1~12のいずれかに記載のゴルフボール。
カバー(最外層)表面のショアC硬度>中間層表面のショアC硬度>コア表面のショアC硬度>コア中心のショアC硬度 ・・・(3)
14.上記式(2)において、Cs-Cs-3の値が2.7以下である上記1~13のいずれかに記載のゴルフボール。
15.上記コアの中心硬度(Cc)が、ショアC硬度で51~60である上記1~14のいずれかに記載のゴルフボール。
16.上記コアの表面硬度(Cs)が、ショアC硬度で68~75.6である上記1~15のいずれかに記載のゴルフボール。
17.上記コアの中心から4mm位置のショアC硬度(Cc+4)が、ショアC硬度で52~59である上記1~16のいずれか1項記載のゴルフボール。
18.上記のコア及び中間層被覆球体の各球体の初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量(mm)をそれぞれO,Mとするとき、O-Mの値が0.2~0.5mmである上記1~17のいずれかに記載のゴルフボール。
19.上記のコア及びボールの各球体の初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量(mm)をそれぞれO,(D)とするとき、O-(D)の値が0.5~1.0mmである上記1~18のいずれか1項記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴルフボールは、ヘッドスピードがそれほど速くないゴルファーが打撃した時の飛び性能に優れるとともに、ソフト感のある良好な打感を有するものであり、更には割れ耐久性が良好なゴルフボールであり、アマチュアユーザー向けのゴルフボールとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施態様であるゴルフボール(3層構造)の概略断面図である。
図2】全ての実施例及び比較例に共通するディンプルの配置模様を示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、コアとカバーとを有するものである。なお、本発明において、カバーとは、塗料層を除くボール構造において最外層に位置する部材であって、通常、射出成形等の成形によって形成される。また、カバーの外表面には、通常、多数個のディンプルが該カバー材の射出成形と同時に形成されるものである。
【0011】
コアの直径は、好ましくは36.0mm以上、より好ましくは36.5mm以上、更に好ましくは37.0mm以上であり、上限としては、好ましくは39.0mm以下、より好ましくは38.5mm以下、更に好ましくは38.0mm以下である。コアの直径が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピンが多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、コアの直径が大きすぎると、繰り返し打撃時の耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。
【0012】
コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量O(mm)は、特に制限はないが、好ましくは3.5mm以上、より好ましくは3.8mm以上、更に好ましくは4.2mm以上であり、上限値として、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは5.3mm以下、更に好ましくは4.8mm以下である。上記コアの圧縮変形量が小さすぎる、即ち、コアが硬すぎると、ボールのスピンが増えすぎて飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記コアの圧縮変形量が大きすぎる、即ち、コアが軟らかすぎると、反発性が低くなりすぎて飛ばなくなったり、打感が軟らかくなりすぎ、あるいは繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0013】
上記コアは、単層もしくは複数層のゴム材料により形成される。このコア用のゴム材料としては、具体的には、基材ゴムを主体とし、これに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を配合させてゴム組成物を作成することができる。特に、少なくとも下記(a)~(d)の各成分、
(a)基材ゴム、
(b)共架橋剤として、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(c)架橋開始剤、及び
(d)分子量が200未満の低級アルコール
を含有したゴム組成物でコアを形成することが本発明では好適である。
【0014】
上記(a)成分である基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。ポリブタジエンの種類としては、市販品を用いることができ、例えば、BR01、BR51、BR730(JSR社製)などが挙げられる。また、基材ゴム中のポリブダジエンの割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上記基材ゴムには、上記ポリブタジエン以外にも他のゴム成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。上記ポリブタジエン以外のゴム成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を挙げることができる。
【0015】
上記(b)成分である共架橋剤は、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩である。不飽和カルボン酸として、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。不飽和カルボン酸の金属塩としては、具体的には、上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。これらの不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、上限としては、好ましくは45質量部以下、より好ましくは43質量部以下、更に好ましくは41質量部以下である。
【0016】
上記(c)成分である架橋開始剤としては、有機過酸化物を使用することが好適である。具体的には、熱分解温度が比較的高温な有機過酸化物を使用することが好適であり、具体的には、1分間半減期温度が約165~185℃の高温な有機過酸化物を使用するものであり、例えば、ジアルキルパーオキサイド類を挙げることができる。ジアルキルパーオキサイド類として、例えば、ジクミルパーオキサイド(日油社製「パークミルD」)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ25B」)、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製「パーブチルP」)等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドを好適に用いることができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。半減期は、有機過酸化物の分解速度の程度を表す指標の一つであり、もとの有機過酸化物が分解して、その活性酸素量が1/2になるまでに要する時間によって示される。コア用ゴム組成物における加硫温度は、通常、120~190℃の範囲内であり、その範囲内では、1分間半減期温度が約165~185℃と高温な有機過酸化物は比較的遅く熱分解する。本発明のゴム組成物によれば、加硫時間の経過とともに増加する遊離ラジカルの生成量を調整することにより特定の内部硬度形状を有するゴム架橋物であるコアを得るものである。
【0017】
架橋開始剤は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、上限として、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下、最も好ましくは2.0質量部以下配合する。配合量が多過ぎると、硬くなり過ぎて耐え難い打感となると共に、割れ耐久性も大きく低下する。逆に、配合量が少な過ぎると、軟らかくなり過ぎて耐え難い打感となる共に、大きく生産性が低下する場合がある。
【0018】
次に、(d)成分は、分子量が200未満の低級アルコールである。ここで言うアルコールとは、アルコール性ヒドロキシ基を1個以上もつ物質のことであり、ヒドロキシ基を2個以上もつ多価アルコールを縮重合したものもアルコールに含まれる。また、低級アルコールとは、炭素原子数が少なく、すなわち分子量の小さいアルコールを意味する。この低級アルコールをゴム組成物に含有させることにより、ゴム組成物の加硫(硬化)時に、所望のコア硬度分布を有するゴム硬化物(コア)を得ることができ、打撃時のボールの低スピン化を十分に実現させ、飛び性能を優れたものとすることができる。
【0019】
上記の低級アルコールとしては、1価、2価又は3価のアルコール(アルコール性ヒドロキシ基を1個、2個または3個有するアルコール)であることが特に好適であり、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの分子量としては、200未満であり、好ましくは150未満、より好ましくは100未満である。分子量が大きく、即ち、炭素数が多くなりすぎると、所望のコア硬度分布が得られず、打撃時のボールの低スピン化を十分に実現させることができなくなる。
【0020】
(d)成分の配合量は、(a)成分である基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、上限値としては、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。(d)成分の配合量が多すぎると、硬度が軟化し所望の打感や耐久性や反発性が得られず、配合量が少なすぎると、所望のコア硬度分布が得られず、打撃時のボールの低スピン化を十分に実現できなくなるおそれがある。
【0021】
上述した(a)~(d)の各成分の他には本発明の効果を妨げない限り、例えば、充填材、老化防止剤及び有機硫黄化合物などの各種添加物を配合することができる。
【0022】
充填材としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0023】
老化防止剤としては、例えば、ノクラックNS-6、同NS-30、同200、同MB(大内新興化学工業(株)製)等の市販品を採用することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
老化防止剤の配合量については、特に制限はないが、基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0025】
更に、上記ゴム組成物には、優れた反発性を付与するために有機硫黄化合物を配合することができ、具体的には、チオフェノール、チオナフトール、ハロゲン化チオフェノール又はそれらの金属塩を配合することが推奨され、より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール等の亜鉛塩、硫黄数が2~4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド等が挙げられるが、特に、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、ジフェニルジスルフィドを好適に用いることができる。
【0026】
有機硫黄化合物は、上記基材ゴム100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.07質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、上限として5質量部以下、好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2質量部以下配合する。配合量が多すぎると硬さが軟らかくなり過ぎてしまい、少な過ぎると反発性の向上が見込めない。
【0027】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、100~200℃、好ましくは140~180℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させて製造することができる。
【0028】
また、上記コアは単層のみならず、内層コア及び外層コアの2層に形成することができる。コアを内層コア及び外層コアの2層に形成する場合、内層及び外層コアの材料としては、いずれも上述したゴム材を主材として用いることができる。また、内層コアを被覆する外層コアのゴム材は、内層コアの材料と同種であっても異種であってもよい。具体的には、上記コアのゴム材料の各成分で説明したのと同様である。
【0029】
次に、上記コアの硬度分布について説明する。
上記コアの中心硬度(Cc)は、ショアC硬度で好ましくは47以上、より好ましくは49以上、さらに好ましくは51以上であり、その上限値は、好ましくは60以下、より好ましくは57以下、さらに好ましくは55以下である。この値が大きすぎると、打感が硬くなり、あるいはフルショットでスピンが増えて狙いの飛距離が得られない場合がある。一方、上記値が小さすぎると、反発性が低くなり飛ばなくなり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。なお、上記のショアC硬度は、ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計にて計測した硬度値である。
【0030】
また、上記コアの中心硬度(Cc)は、ショアD硬度で表すと、好ましくは24以上、より好ましくは26以上、さらに好ましくは28以上となり、上限値は、好ましくは36以下、より好ましくは34以下、さらに好ましくは32以下となる。
【0031】
上記コアの表面硬度(Cs)は、ショアC硬度で好ましくは68以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは72以上であり、その上限値は、好ましくは83以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは77以下である。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0032】
また、上記コアの表面硬度(Cs)は、ショアD硬度で表すと、好ましくは37以上、より好ましくは38以上、さらに好ましくは40以上となり、上限値は、好ましくは48以下、より好ましくは46以下、さらに好ましくは44以下となる。
【0033】
コアの表面硬度(Cs)とコアの中心硬度(Cc)との差は、ショアC硬度で好ましくは20以上、より好ましくは21以上であり、上限値として、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは23以下である。この値が小さすぎると、フルショットした時のボールの低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。上記値が大きすぎると、実打した時のボール初速が低くなり飛距離が出なくなり、あるいは繰り返し打撃した際の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0034】
また本発明では、コア表面から3mm内側の位置のショアC硬度をCs-3としたとき、 Cs-Cs-3≦5.0 ・・・(2)
を満たすものである。即ち、コアの表面硬度(Cs)とコアの上記所定位置の硬度(Cs-3)との差の適正化を図ることにより、フルショット時の低スピン化を図り飛距離増大を図ることができ、割れ耐久性も良好なものとなる。上記式(2)において、上限値はショアC硬度で5以下であり、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。また、上記式(2)において、下限値は特に制限はないが、好ましい下限値は0以上であり、より好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上である。上記値(Cs-Cs-3の値)が小さ過ぎると、フルショット時の低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。一方、上記値が大き過ぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。
【0035】
コア表面から3mm内側の位置のショアC硬度(Cs-3)は、好ましくは66以上、より好ましくは68以上、さらに好ましくは70以上であり、その上限値は、好ましくは80以下、より好ましくは77以下、さらに好ましくは74以下である。この値が大きすぎると、打感が硬くなり、あるいはフルショットでスピンが増えて狙いの飛距離が得られない場合がある。一方、上記値が小さすぎると、反発性が低くなり飛ばなくなり、または繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなる場合がある。
【0036】
コア中心から4mm位置のショアC硬度(Cc+4)は、好ましくは52以上、より好ましくは54以上、さらに好ましくは56以上であり、その上限値は、好ましくは63以下、より好ましくは61以下、さらに好ましくは59以下である。この値が大きすぎると、打感が硬くなったり、あるいはフルショットでスピンが増えて狙いの飛距離が得られない場合がある。一方、上記値が小さすぎると、コアの反発性が低くなり、ボールが飛ばなくなったり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなる場合がある。
【0037】
次に、カバーについて説明する。
カバーの材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは54以上、より好ましくは56以上、さらに好ましくは58以上であり、上限値として、好ましくは68以下、より好ましくは65以下、さらに好ましくは62以下である。また、カバー表面硬度(ボール表面硬度とも言う。)は、ショアD硬度で、好ましくは60以上、より好ましくは62以上、さらに好ましくは64以上であり、上限値としては、好ましくは74以下、より好ましくは71以下、さらに好ましくは68以下である。これらのカバーの材料硬度及びボール表面硬度が上記範囲よりも軟らかすぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピンが増えるとともにボール初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。上記の材料硬度及び表面硬度が硬すぎると、繰り返し打撃耐久時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0038】
カバーの厚さは、好ましくは0.6mm以上であり、より好ましくは0.8mm以上、さらに好ましくは1.1mm以上である。一方、カバーの厚さの上限値としては、好ましくは1.8mm以下、より好ましくは1.6mm以下、さらに好ましくは1.4mm以下である。このカバーが薄すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなる場合がある。また、カバーが厚すぎると、ドライバー(W#1)打撃時のスピン量が多くなり過ぎて飛距離が出なくなり、あるいはショートゲームおよびパターの打感が硬くなりすぎる場合がある。
【0039】
カバーの材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂、特にアイオノマー樹脂を採用することが好適であり、アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。また、カバーの樹脂材料として、市販品のアイオノマー樹脂のうち酸含量18質量%以上の高酸含量アイオノマー樹脂を通常のアイオノマー樹脂にブレンドして用いることもできる。上記の高酸含量アイオノマー樹脂の配合量が多すぎると、繰り返し打撃耐久時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0040】
上記コアと上記カバーとの間には中間層を設けることができる。即ち、本発明の好適なボール構造としては、コア及びカバー(単層)のツーピースゴルフボールに限られず、スリーピースゴルフボールやフォーピースゴルフボールを採用することができる。特に、コア、中間層及びカバーを具備する3層からなるゴルフボールを採用することが好適であり、そのゴルフボールとして、図1に示すゴルフボールGが挙げられる。図1のゴルフボールGは、コア1と、該コア1を被覆する中間層2と、該中間層を被覆するカバー3を有している。このカバー3は、塗料層を除き、ゴルフボールの層構造での最外層に位置するものである。なお、中間層は、単層であっても2層以上に形成することもできる。なお、上記カバー(最外層)3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。また、特に図示してはいないが、通常、カバー3の表面には塗料層が形成される。
【0041】
次に、中間層について下記に説明する。
中間層の材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは47以上、より好ましくは52以上、さらに好ましくは55以上であり、上限値として、好ましくは62以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは58以下である。また、コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度は、ショアD硬度で、好ましくは53以上、より好ましくは58以上、さらに好ましくは61以上であり、上限値としては、好ましくは68以下、より好ましくは66以下、さらに好ましくは64以下である。これらの中間層の材料硬度及び表面硬度が上記範囲よりも軟らかすぎると、フルショット時のスピン量が増えすぎて飛距離が出なくなったり、繰り返し打撃による耐久性が悪くなることがある。上記の材料硬度及び表面硬度が硬すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなったり、所望の打感が悪くなることがある。
【0042】
中間層の厚さは、好ましくは0.7mm以上であり、より好ましくは0.9mm以上、さらに好ましくは1.1mm以上である。一方、中間層の厚さの上限値としては、好ましくは1.6mm以下、より好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.4mm以下である。この中間層が薄すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。また、中間層が厚すぎると、フルショット時のボールのスピン量が増えて飛距離が出なくなることがある。
【0043】
中間層を形成する材料としては、公知の樹脂を用いることができ、特に制限されるものではないが、好ましい材料の例としては、下記(A)~(D)成分、
(a-1)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、
(a-2)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0~0:100になるように配合した(A)ベース樹脂と、
(B)非アイオノマー熱可塑性エラストマーとを
質量比で100:0~50:50になるように配合した樹脂成分100質量部に対して、(C)分子量が228~1500の脂肪酸及び/又はその誘導体 5~120質量部と、(D)上記(A)成分及び(C)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物 0.1~17質量部
とを必須成分として配合してなる樹脂組成物を例示することができる。
【0044】
上記(A)~(D)成分については、例えば、特開2010-253268号公報に記載される中間層の樹脂材料(A)~(D)成分を好適に採用することができる。
【0045】
なお、上記中間層材料には、非アイオノマー熱可塑性エラストマーを配合することができる。非アイオノマー熱可塑性エラストマーの配合量は、上記ベース樹脂の合計量100質量部に対して、0~50質量部配合することが好適である。
【0046】
上記の非アイオノマー熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー(ポリオレフィン、メタロセンポリオレフィン含む)、ポリスチレン系エラストマー、ジエン系ポリマー、ポリアクリレート系ポリマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアセタールなどを挙げることができる。
【0047】
中間層材料には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、上記ベース樹脂の総和100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0048】
コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量M(mm)は、特に制限はないが、好ましくは3.5mm以上、より好ましくは3.7mm以上、更に好ましくは3.9mm以上であり、上限値として、好ましくは4.7mm以下、より好ましくは4.5mm以下、更に好ましくは4.3mm以下である。上記球体の圧縮変形量が小さすぎる、即ち、上記球体が硬すぎると、ボールのスピンが増えすぎて飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記球体の圧縮変形量が大きすぎる、即ち、上記球体が軟らかすぎると、ボールの反発性が低くなりすぎて飛ばなくなり、または打感が軟らかくなりすぎ、あるいは繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0049】
上述したコア,中間層及びカバー(最外層)の各層を積層して形成されたマルチピースソリッドゴルフボールの製造方法については、公知の射出成形法等の常法により行なうことができる。例えば、コアの周囲に、中間層材料を射出して中間層被覆球体を得、次いで、カバーの材料を射出成形することによりマルチピースのゴルフボールを得ることができる。また、中間層又はカバーの各被覆部材について、予め半殻球状に成形した2枚のハーフカップを用いて、コア又は中間層被覆球を包み加熱加圧成形することによりゴルフボールを作製することもできる。
【0050】
本発明のゴルフボールの初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量(A)は、0.18mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.17mm以下、さらに好ましくは0.16mm以下である。この下限値は、好ましくは0.10mm以上であり、より好ましくは0.12mm以上である。この値が小さくなるとき、それがカバー硬度に起因する場合は、カバーが硬すぎ、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。また、上記値が小さくなることが中間層及びコアの硬さや厚さ(直径)に起因する場合はフルショットした時のボールの打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記の値が大きくなるとき、それがカバー硬度に起因する場合は、フルショットした時のボールのスピン量が増加してしまい飛距離が出なくなることがある。また、上記値が大きくなることが中間層及びコアの硬さや厚さ(直径)に起因の場合はフルショットした時の実打初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0051】
本発明のゴルフボールの初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重50kgfをかけたときまでの圧縮変形量(B)は、1.30mm以上であり、好ましくは1.37mm以上、より好ましくは1.44mm以上である。上限値としては、1.80mm以下であり、好ましくは1.75mm以下、より好ましくは1.70mm以下である。この値が小さいと、アイアンで打った際に打感が硬くなり過ぎることがあり、あるいはスピン量が多くなり飛距離が出なくなることがある。一方、上記値が大きいと、アイアンで打った際の実打初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0052】
本発明のゴルフボールの初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重90kgfをかけたときまでの圧縮変形量(C)は、2.45mm以上であり、好ましくは2.50mm以上、より好ましくは2.55mm以上である。上限値としては、2.90mm以下であり、好ましくは2.87mm以下、より好ましくは2.85mm以下である。この値が小さいと、ボールのスピン量が増加してしまい飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記値が大きいと、実打初速が低くなりすぎて飛距離が出なくなったり、打感が軟らかくなりすぎたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0053】
本発明のゴルフボールの初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)は、好ましくは3.10mm以上であり、より好ましくは3.15mm以上、さらに好ましくは3.20mm以上であり、上限値としては、好ましくは3.80mm以下、より好ましくは3.70mm以下、さらに好ましくは3.60mm以下である。この値が小さいと、ボールのスピン量が増加してしまい飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記値が大きいと、実打初速が低くなりすぎて飛距離が出なくなったり、打感が軟らかくなりすぎたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0054】
本発明のゴルフボールの初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重30kgfをかけたときまでの圧縮変形量(E)は、好ましくは0.68mm以上であり、より好ましくは0.75mm以上、さらに好ましくは0.80mm以上である。上限値としては、好ましくは1.05mm以下であり、より好ましくは1.03mm以下、さらに好ましくは1.01mm以下である。この値が小さいと、アイアンで打った際に打感が硬くなり過ぎることがあり、あるいはスピン量が多くなり飛距離が出なくなることがある。一方、上記値が大きいと、アイアンで打った際の実打初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。
【0055】
上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(A)との比(D)/(A)の値は、18.0以上とすることが好ましく、より好ましくは19.0以上、さらに好ましくは20.0以上である。一方、上限値は、好ましくは25.0以下、より好ましくは24.5以下、さらに好ましくは24.0以下である。この値が上記範囲を外れる場合、ボールにスピンがかかりすぎたり、実打初速が低くなり飛距離が落ちる打撃条件が出てくることがある。
【0056】
上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(B)との比(D)/(B)の値は、2.02以上とすることが好ましく、より好ましくは2.06以上、さらに好ましくは2.10以上である。一方、上限値は、好ましくは2.40以下、より好ましくは2.35以下、さらに好ましくは2.30以下である。この範囲を外れると、ボールのスピン量が増加してしまい、飛距離が落ちる打撃条件が出てくることがある。
【0057】
上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(C)との比(D)/(C)の値は、1.23以上とすることが好ましく、より好ましくは1.24以上、さらに好ましくは1.25以上である。一方、上限値は、好ましくは1.31以下、より好ましくは1.30以下、さらに好ましくは1.29以下である。この範囲を外れると、ボールのスピン量が増加してしまい、飛距離が落ちる打撃条件が出てくることがある。
【0058】
上記圧縮変形量(D)と上記圧縮変形量(E)との比(D)/(E)の値は、3.50以上とすることが好ましく、より好ましくは3.60以上であり、さらに好ましくは3.70以上である。一方、上限値は、好ましくは4.10以下、より好ましくは4.08以下、さらに好ましくは4.06以下である。この範囲を外れると、ボールのスピン量が増加してしまい、飛距離が落ちる打撃条件が出てくることがある。
【0059】
各層の表面硬度関係
本発明では、各層の硬度関係については、以下の数式(3)を満たすことが好適である カバー(最外層)表面のショアC硬度>中間層表面のショアC硬度>コア表面のショアC硬度>コア中心のショアC硬度 ・・・(3)
上記カバー表面の硬度は、ボールの表面硬度を意味する。また、上記中間層表面の硬度は、中間層被覆球体の表面硬度を意味する。
上記の硬度関係を満たさないと、良好な飛びと軟らかい打感とが両立できないことがある。
【0060】
上記式の通り、カバー表面硬度は中間表面硬度よりも大きい。カバー表面硬度-中間層表面硬度の値は、ショアC硬度で、好ましくは1~33であり、より好ましくは2~30、さらに好ましくは4~27である。この値が小さいと、フルショットでのボールのスピン量が増加してしまい飛距離が出なくなり、あるいは打感が悪くなることがある。一方、この値が大きいと、スピン量が増加して飛距離が出なくなったり、繰り返し打撃の耐久性が悪くなることがある。
【0061】
上記式の通り、中間層表面硬度はコア表面硬度よりも大きい。中間層表面硬度-コア表面硬度の値は、ショアC硬度で、好ましくは1~27であり、より好ましくは3~23、さらに好ましくは5~20である。この値が小さいと、ボールのスピン量が増加してしまい飛距離が出なくなることがある。一方、この値が大きいと、ボールのスピン量が増加してしまい飛距離が出なくなったり、繰り返し打撃の耐久性が悪くなることがある。
【0062】
上記式の通り、コア表面硬度はコア中心硬度よりも大きい。コア表面硬度(Cs)とコア中心硬度(Cc)との関係については既に述べたとおりである。
【0063】
各被覆球体の圧縮変形量関係
コア及び中間層被覆球体の各球体の初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量(mm)をそれぞれO,Mとすると、O-Mの値は、好ましくは0.1~0.8mmであり、より好ましくは0.2~0.7mm、さらに好ましくは0.3~0.6mmである。この値が小さいと、ボールのスピン量が増加してしまい飛距離が出なくなることがある。一方、この値が大きいと、打感が悪くなったり、繰り返し打撃の耐久性が悪くなることがある。
【0064】
コア及びボールの各球体の初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでの圧縮変形量(mm)をそれぞれO,(D)とすると、O-(D)の値は、好ましくは0.5~1.7mmであり、より好ましくは0.6~1.4mm、さらに好ましくは0.7~1.2mmである。この値が小さいと、ボールのスピン量が増加してしまい飛距離が出なくなることがある。一方、この値が大きいと、ドライバー(W#1)打撃時での実打初速が低くなり飛距離が出なくなったり、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。
【0065】
最外層であるカバーの外表面には多数のディンプルを形成することができる。上記カバー表面に配置されるディンプルについては、特に制限はないが、好ましくは250個以上、より好ましくは300個以上、更に好ましくは320個以上であり、上限として、好ましくは440個以下、より好ましくは400個以下、更に好ましくは360個以下を具備することができる。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり、飛距離が低下することがある。逆に、ディンプル個数が少なくなると、ボールの弾道が高くなり、飛距離が伸びなくなる場合がある。また、それらディンプルの配置は、四面体、八面体、二十面体、その他多面多角形に従った対称性、または極を結ぶ軸において回転対称性のいずれかをもっていてもよい。
【0066】
ディンプルの種類としては、直径及び/又は深さが互いに異なるディンプルが2種以上形成されることが好ましく、より好ましくは3種以上形成されることが推奨される。ディンプルの平面形状については、円形、各種多角形、デュードロップ形、その他楕円形など1種類又は2種類以上を組み合わせて適宜使用することができる。例えば、円形ディンプルを使用する場合には、直径は2.5mm以上6.5mm以下程度、深さは0.07mm以上0.30mm以下とすることができる。ディンプルの断面形状については、円弧、コーン、なべ底、各種関数で表記されるカーブなど1種類又は2種類以上を組み合わせで定義され、エッジ近傍以外に複数の変曲点を持ち合わせていてもよい。
【0067】
ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率、即ち、各ディンプルの縁部によって囲まれる仮想球面の総面積が占める割合(ディンプル表面占有率)SR値(%)については、空気力学特性を十分に発揮し得る点から70%以上90%以下であることが望ましい。また、各々のディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0は、ボールの弾道の適正化を図る点から0.35以上0.80以下とすることが好適である。更に、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計がディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占めるVR値は、0.6%以上1.0%以下とすることが好ましい。上述した各数値の範囲を逸脱すると、良好な飛距離が得られない弾道となり、十分満足した飛距離を出せない場合がある。またボール飛距離の対称性に対するルールを満たすよう、極・赤道近傍以外のディンプル体積に対して、極近傍のディンプル体積を小さく、赤道近傍のディンプル体積を大きくしてもよい。
【0068】
カバー表面には、外観を確保する観点からも、クリア塗装を塗布することが好ましい。クリア塗装で用いられる塗料組成物は、主剤として2種類のポリエステルポリオールを使用すると共に、硬化剤として、ポリイソシアネートを使用することが好適である。この場合、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等を採用できる。
【0069】
上記クリア塗装による塗料層(コーティング層)の硬度は、ショアC硬度で、好ましくは40~80であり、より好ましくは47~72、さらに好ましくは55~65である。この塗料層が軟らかすぎると、ゴルフ使用の際、ボール表面に泥が付きやすくなることがある。また、塗料層が硬すぎると、ボールを打撃した際、塗料層が剥がれやすくなることがある。
【0070】
上記のカバー材料硬度から塗料層の材料硬度を引いた値は、ショアC硬度で、好ましくは10~50であり、より好ましくは20~40、さらに好ましくは25~35である。この値が上記数値範囲より大きいと、ゴルフ使用の際、ボール表面に泥が付きやすくなることがある。また、上記値が上記数値範囲より小さいと、ボールを打撃した際、塗料層にひびが入り剥がれやすくなることがある。
【0071】
上記塗料層(コーティング層)の厚さは、通常、9~22μmであり、好ましくは11~20μm、より好ましくは13~18μmである。
【0072】
なお、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径は42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、質量は好ましくは45.0~45.93gに形成することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0074】
〔実施例1~6、比較例1~6〕
コアの形成
表1に示した実施例1,3,5,6及び比較例1~4のゴム組成物を調製した後、155℃、15分の加硫条件により加硫成形することによりソリッドコアを作製した。
また同様にして、実施例2,4及び比較例5,6のソリッドコアを作製する。
【0075】
【表1】
【0076】
なお、表1に記載した各成分の詳細は以下の通りである。
・ポリブタジエンA:JSR社製、商品名「BR01」
・ポリブタジエンB:JSR社製、商品名「BR730」
・アクリル酸亜鉛(1):「ZN-DA85S」(日本触媒社製)
・アクリル酸亜鉛(2):「サンセラーSR」(三新化学工業社製)
・有機過酸化物(1):ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)・有機過酸化物(2):1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカとの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・プロピレングリコール(低級2価アルコール):分子量76.1(林純薬工業社製)
・水:純水(正起薬品工業社製)
・ステアリン酸亜鉛:「ジンクステアレートG」(日油社製)
・老化防止剤(1):2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS-6」(大内新興化学工業社製)
・老化防止剤(2):2-メルカプトベンズイミダゾール、商品名「ノクラックMB」(大内新興化学工業社製)
・硫酸バリウム:ヒ性硫酸バリウム バリコ#100(白水化学工業社製)
・酸化亜鉛:商品名「三種酸化亜鉛」(堺化学工業社製)
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:和光純薬工業社製
【0077】
中間層の形成
次に、実施例1,3,5,6及び比較例1,2については、コアの周囲に、表2に示した配合の中間層材料を用いて射出成形法により中間層を形成し、該中間層を被覆した球体を得た。
また同様にして、実施例2,4及び比較例5,6の中間層を被覆した球体を得る。
【0078】
カバー(最外層)の形成
次に、実施例1,3,5,6及び比較例1、2については、上記で得た中間層被覆球体の周囲に、表2に示した配合のカバー材料を用いて射出成形法によりカバー(最外層)を形成した。また同様にして、実施例2,4及び比較例5,6のカバー(最外層)を形成する。
また、比較例3及び比較例4については、コアの周囲に直接カバー材料を射出成形し、カバー(最外層)を形成した。
なお、カバー表面には、全ての実施例及び比較例に共通する所定の多数のディンプルを形成する。
【0079】
【表2】
【0080】
表中に記載した主な材料の商品名は以下の通りである。
「ハイミラン」「AM7329」:三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー
「サーリン」:Dow社製のアイオノマー
「AN4319」:三井・ダウポリケミカル社製の「ニュクレル」
「HPF1000」:Dow社製 HPF(商標)1000
「HPF2000」:Dow社製 HPF(商標)2000
「酸化チタン」:堺化学工業社製
【0081】
全ての実施例及び比較例に共通するディンプルは、8種類の円形ディンプルを用い、その詳細については下記表3に示し、その配置態様は図2に示すとおりである。図2(A)は、ディンプルの平面図を示し、図2(B)は、その側面図を示す。
【0082】
【表3】
【0083】
ディンプルの定義
縁:ディンプル中心を通る断面において最も高いところ
直径:ディンプルの縁に囲まれた平面の直径
深さ:ディンプルの縁に囲まれた平面からのディンプルの最大深さ
SR:ディンプルの縁に囲まれた平面で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率
ディンプル体積:ディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプル体積
円柱体積比:ディンプルと同直径の深さの円柱の体積に対する、ディンプル体積の比
VR:ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球容積
【0084】
塗料層(コーティング層)の形成
次に、下記表4に示す塗料配合において、ディンプルが多数形成されたカバー(最外層)表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗料層を具備するゴルフボールを作製する。
【0085】
【表4】
【0086】
主剤のポリオールとしては、以下の方法によって合成したポリエステルポリオールを用いる。
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4、水酸基価170、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを得た。添加剤、すなわち、撥水性添加剤は、いずれも市販品を用い、シリコーン系添加剤であり、汚染性向上シリコーン添加剤、であり、フッ素系ポリマーのアルキル基鎖長が7以下であるものを添加した。
硬化剤のイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)である旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)を用いる。
主剤の溶剤としては、酢酸ブチルを用い、硬化剤の溶剤としては、酢酸エチルと酢酸ブチルを用いた。上記表のショアC硬度は、厚さ2mmのシートを作成し、3枚重ね、ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計により計測する。
【0087】
得られた各ゴルフボールにつき、コアの中心・表面硬度及び所定位置の硬度、コアや各被覆球体の外径、各層の厚さ及び材料硬度、各被覆球体の表面硬度及び所定荷重の圧縮変形量の諸物性を下記の方法で評価し、表5に示す。
【0088】
コア及び中間層被覆球体の各球体の外径
23.9±1℃の温度で、任意の表面5箇所を測定し、その平均値を1個の各球体の測定値とし、測定個数10個での平均値を求める。
【0089】
ボールの直径
23.9±1℃の温度で、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数10個のボールの平均値を求める。
【0090】
ボールの圧縮変形量
ゴルフボールを硬板の上に置き、初期荷重0.2kgfをかけた状態から終荷重5kgfをかけたときまでの圧縮変形量(A)、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重50kgfをかけたときまでの圧縮変形量(B)、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重90kgfをかけたときまでの圧縮変形量(C)、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量(D)、及び、初期荷重5kgfをかけた状態から終荷重30kgfをかけたときまでの圧縮変形量(E)をそれぞれ計測する。なお、上記の圧縮変形量はいずれも23.9℃に温度調整した後の測定値である。また、測定器はミュー精器株式会社製の高荷重コンプレッションテスターを使用し、加圧ヘッドのダウン速度は、4.7mm/秒で計測する。
【0091】
コア及び中間層被覆球体の各球体の圧縮変形量
コアに対して初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量O、及び、中間層被覆球体に対して初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでの圧縮変形量Mをそれぞれ計測する。使用した測定機器及び測定条件は、上記のボールの圧縮変形量と同じである。
【0092】
コア硬度分布
コアの表面は球面であるが、その球面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、ASTM D2240に従ってショアC硬度で表面硬度を計測する。コアの中心及び所定位置については、コアを半球状にカットして断面を平面にして、中心部分及び表5に示した所定位置に硬度計の針を垂直に押し当てて測定し、中心及び各位置の硬度をショアC硬度の値で示す。硬度の測定には、ショアC型硬度計を備えた高分子計器株式会社製の自動ゴム硬度計「P2」が用いられる。硬度の値は最大値を読み取る。測定は、全て、23±2℃の環境下でなされる。ショアD硬度においては、自動ゴム硬度計「P2」に取り付けるアタッチメントをショアD硬度用のものに取り換え、ショアC硬度と同様に計測する。
【0093】
中間層及びカバーの材料硬度(ショアD硬度)
各層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置する。その後、ショアD硬度はASTM D2240規格に準拠して計測する。硬度の測定には、ショアD型硬度計を備えた高分子計器株式会社製の自動ゴム硬度計「P2」が用いられる。硬度の値は最大値を読み取る。測定は、全て、23±2℃の環境下でなされる。
【0094】
中間層被覆球体及びボールの各球体の表面硬度(ショアC硬度及びショアD硬度)
各球体の表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測する。なお、ボール(カバー)の表面硬度は、ボール表面においてディンプルが形成されていない陸部における測定値である。ショアD硬度はASTM D2240規格に準拠したタイプDデュロメータにより計測する。硬度の測定には、ショアC型硬度計及びショアD型硬度計の両方を備えた高分子計器株式会社製の自動ゴム硬度計「P2」が用いられる。硬度の値は最大値を読み取る。測定は、全て、23±2℃の環境下でなされる。
【0095】
【表5】
【0096】
各ゴルフボールの飛び性能、打感及び割れ耐久性を下記の方法で評価する。その結果を表7に示す。
【0097】
飛び性能
ゴルフ打撃ロボットに各種のクラブ(W#1,I#6)をつけて、下記の表6に示した条件で打撃した時の飛距離を測定し、下記表の基準で判定する。
【0098】
【表6】
【0099】
なお、上記表中のクラブ名の「PHYZ」は、ブリヂストンスポーツ社製の「PHYZドライバー」(ロフト角10.5°)及び「PHYZアイアンI#6」を使用する。
【0100】
打感
ドライバー(W#1)によるヘッドスピードが30~40m/sのアマチュアユーザーによる実打における官能評価を行い、「ソフト感」について下記の基準で判定する。
20人中12人以上がソフト感ありと評価 ・・・ ○
ソフト感があると評価した人20人中7~11人 ・・・ △
ソフト感があると評価した人20人中6人以下 ・・・ ×
【0101】
繰り返し打撃による割れ耐久性
ドライバー(W#1)によりヘッドスピードが45m/sで、測定数N=10個のボールを繰り返し打撃し、下記の基準で判定する。
〈判定基準〉
10個のボールを用いて各ボールの割れ始めた時の打撃回数をカウントし、このうち打撃回数が少ないボールを3個選び、当該3個のボールの割れ回数の平均値を各例の「割れ回数」として評価する。実施例1の割れ回数を指数で100とした。
指数80以上 ・・・ 〇
指数80未満 ・・・ ×
【0102】
【表7】
【0103】
表7の結果に示されるように、比較例1~6のゴルフボールは、本発明品(実施例)に比べて以下の点で劣る。
比較例1は、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重50kgをかけたときまでの圧縮変形量(B)が1.30mmより小さく、且つ、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重90kgをかけたときまでの圧縮変形量(C)が2.45mmより小さくなり、その結果、6番アイアン(I#6)で打撃したときのスピン量が増えてしまい飛距離が劣るとともにソフト感が劣る。
比較例2は、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重50kgをかけたときまでの圧縮変形量(B)が1.30mmより小さく、且つ、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重90kgをかけたときまでの圧縮変形量(C)が2.45mmより小さくなり、その結果、ドライバー(W#1)及び6番アイアン(I#6)で打撃したときのスピン量が増えてしまい飛距離が劣るとともにソフト感が劣る。
比較例3は、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重50kgをかけたときまでの圧縮変形量(B)が1.80mmより大きく、且つ、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重90kgをかけたときまでの圧縮変形量(C)が2.90mmより大きくなり、その結果、実打初速が低くなりドライバー(W#1)及び6番アイアン(I#6)打撃での飛距離が劣り、また、繰り返し打撃耐久性に劣る。
比較例4は、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重50kgをかけたときまでの圧縮変形量(B)が1.80mmより大きく、且つ、初期荷重5kgをかけた状態から終荷重90kgをかけたときまでの圧縮変形量(C)が2.90mmより大きくなり、その結果、実打初速が低くなりドライバー(W#1)及び6番アイアン(I#6)打撃での飛距離が劣り、また、繰り返し打撃耐久性に劣る。
比較例5は、コアの表面-中心(Cs-Cc)の硬度値がショアC硬度で20未満となり、その結果、I#6で打撃した時のスピン量が多くなり飛距離が劣る。
比較例6は、(コアの表面)-(コア表面から3mmの位置の硬度)の値、即ち、(Cs-Cs-3)の値がショアC硬度で5.0より大きくなり、その結果、繰り返し打撃耐久性が劣る。
図1
図2