(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ディスプレイ装置及びディスプレイ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20240625BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20240625BHJP
G09G 5/02 20060101ALI20240625BHJP
H10K 59/12 20230101ALI20240625BHJP
【FI】
G09F9/00 313
G09F9/00 338
G09G5/00 X
G09G5/02 B
G09G5/00 510P
H10K59/12
(21)【出願番号】P 2020035025
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 紘一
【審査官】小野 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06069601(US,A)
【文献】特開2009-157075(JP,A)
【文献】特開2013-186279(JP,A)
【文献】特開2014-194713(JP,A)
【文献】特開2010-152533(JP,A)
【文献】米国特許第05483259(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0110047(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/00-9/46
G02F 1/13-1/141
1/15-1/19
H05B 33/00-33/28
44/00
45/60
H10K 50/00-99/00
G09G 5/00-5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モニタプルーフの対象となる印刷物の画像を表示する表示層と、
前記表示層に積層され、前記印刷物の表面
と同じ材質及び同じ構造を有する透明な表面層と、
を具備するディスプレイ装置。
【請求項2】
前記表面層には、前記印刷物の表面に施されている加工と同一の加工が施されている、請求項
1に記載のディスプレイ装置。
【請求項3】
前記表面層は、それぞれが複数の反射特性の異なる印刷物の表面と対応した反射特性を有する複数の領域に分けられている、請求項1
又は2に記載のディスプレイ装置。
【請求項4】
モニタプルーフの対象となる印刷物の表面の反射特性を測定することと、
測定した前記反射特性
と同じ材質及び同じ構造を有する表面層を作成することと、
前記表面層を、画像を表示する表示層に積層してディスプレイ装置を作成することと、
前記ディスプレイ装置の前記表面層の反射特性と前記印刷物の表面の反射特性とが同じであるか否かを判定することと、
を具備するディスプレイ装置の製造方法。
【請求項5】
前記ディスプレイ装置のモニタプロファイルを作成することと、
前記モニタプロファイルに従って前記ディスプレイ装置に表示させる画像の色を調整することと、
調整された前記色に従って前記
印刷物の画像を前記ディスプレイ装置の前記表示層に表示させることと、
をさらに具備する請求項
4に記載のディスプレイ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、ディスプレイ装置及びディスプレイ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷工程において校了紙レス化及び印刷物の物流レス化を実現する技術の1つとしてモニタプルーフが知られている。モニタプルーフは、印刷物等の対象物の色及び質感等の確認をディスプレイ装置に表示された画像を用いて行うものである。通常、実際の対象物の見えとディスプレイ装置に表示された画像上での対象物の見えとは異なる。この見えの違いを抑制する技術として、特許文献1の技術が提案されている。特許文献1では、ソフトウェア処理によって見えの違いが抑制された表示画像が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ソフトウェア処理による質感の再現には、再現のもととなる対象物の表面の反射特性及び対象物の照明環境等を測定する必要がある。また、ソフトウェア処理による質感の再現では、ディスプレイ装置の性能により、質感が必ずしも再現できない可能性がある。例えば、ディスプレイ装置の輝度レンジによっては、光沢がつぶれてしまうことがある。また、通常のモニタプルーフでは、対象物に施されたエンボス加工等の触感を確認することが困難である。
【0005】
本実施形態は、このような状況に鑑みてなされたもので、対象物の質感を高度に再現できるディスプレイ装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のディスプレイ装置は、モニタプルーフの対象となる印刷物の画像を表示する表示層と、前記表示層に積層され、前記印刷物の表面と同じ材質及び同じ構造を有する透明な表面層とを具備する。
【0007】
第2の態様のディスプレイ装置の製造方法は、モニタプルーフの対象となる印刷物の表面の反射特性を測定することと、測定した前記反射特性と同じ材質及び同じ構造を有する表面層を作成することと、前記表面層を、画像を表示する表示層に積層してディスプレイ装置を作成することと、前記ディスプレイ装置の前記表面層の反射特性と前記印刷物の表面の反射特性とが同じであるか否かを判定することとを具備する。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、対象物の質感を高度に再現できるディスプレイ装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、実施形態のディスプレイ装置の一例の構成を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、実施形態のディスプレイ装置の一例の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、表示層のディスプレイとしての構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ディスプレイ装置の製造装置を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ディスプレイ装置の製造方法について説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、ディスプレイ装置の表示画像の調整方法について説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、保護ガラスが形成されているときの測色の仕方の例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、反射特性の異なる複数の表面層の領域を有するディスプレイ装置を示す図である。
【
図8】
図8は、壁に埋め込まれたディスプレイ装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1Aは、実施形態のディスプレイ装置の一例の構成を示す図である。
図1Bは、実施形態のディスプレイ装置の一例の構成を示す断面図である。
図1A及び
図1Bに示すように、ディスプレイ装置1は、表面層10と、表示層20とを有している。ディスプレイ装置1は、例えば対象物の仕上がり等を画像上で確認するためのモニタプルーフに用いられる。実施形態における対象物は、透明な表面層を有する物品である。対象物の透明な表面層の下地の層は、有彩色及び無彩色の何れであってもよい。対象物の下地の層は、例えば印刷物及び塗装物といった人工物であってもよいし、石材及び木材といった自然物であってもよい。
【0011】
表面層10は、ディスプレイ装置1による対象物の質感を再現するための層である。表面層10は、表示層20の上に接着される。表面層10は、モニタプルーフの対象物の表面層と同等の反射特性を有するように作成された透明な表面層である。表面層10は、エンボス加工等の加工が施された加工部11を有していてもよい。また、表面層10は、加工が施されていない非加工部12を有していてもよい。また、表面層10は、単一の層である必要はなく、複数の層の組み合わせによってモニタプルーフの対象物と同等の反射特性を有するように作成されてもよい。例えば、モニタプルーフの対象物の表面層が多層構造であれば、それに応じて表面層10も多層構造で作成されてよい。
【0012】
表示層20は、対象物の画像Iを表示するための層である。表示層20は、ディスプレイを含む。
図2は、表示層20のディスプレイとしての構成を示すブロック図である。表示層20は、プロセッサ21と、ROM22と、RAM23と、ストレージ24と、スイッチ25と、ドライバ26と、表示パネル27とを含む。表示層20として、表示パネルを備えた各種の端末が用いられてよい。例えば、表示層20として、タブレット端末が用いられてもよい。
【0013】
プロセッサ21は、表示層20による画像の表示動作を制御するプロセッサである。プロセッサ21は、例えばCPUであるが、これに限定されない。プロセッサ21は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphic Processing unit)等であってもよい。また、プロセッサ21は、必ずしも1つのCPU等で構成されている必要はなく、複数のCPU等で構成されていてもよい。
【0014】
ROM22は、表示層20の動作に必要なプログラム等を記憶している。RAM23は、プロセッサ21等のための主記憶装置である。
【0015】
ストレージ24は、フラッシュメモリといったストレージである。ストレージ24には、対象物の画像のデータ、カラーチャート表示用の画像のデータ等が記憶されている。
【0016】
スイッチ25は、電源スイッチ等の各種の操作スイッチである。スイッチ25は、電源スイッチ以外に例えば輝度調整のスイッチ、表示画像の位置調整のためのスイッチといった各種の表示の調整のためのスイッチを含んでいてもよい。
【0017】
ドライバ26は、プロセッサ21の制御のもとで、ストレージ24から対象物の画像のデータを読み出し、この読み出した画像のデータに従って表示パネルに画像を表示させる駆動回路である。
【0018】
表示パネル27は、ドライバ26からの入力に従って画像を表示するように構成された表示パネルであって、例えば表示層20の表面に露出するように配置されている。表面層10は、表示パネル27の上に接着される。表示パネル27は、液晶表示パネルであってもよいし、有機EL表示パネルであってもよい。また、表示パネル27は、平面である必要はなく、曲面であってもよい。
【0019】
図3は、ディスプレイ装置1の製造装置を説明するための図である。製造装置は、反射特性測定装置2と、コンピュータ3とを有している。ここで、以下の説明では、モニタプルーフの対象物は、印刷物Pであるとする。
【0020】
印刷物Pは、透明な表面層を有していれば特に限定されない。例えば印刷物Pは、ラミネート加工やコーティング加工、疑似的なエンボス加工がされた印刷物であってもよい。また、印刷物Pは、樹脂フィルム及びガラスといった透明基材の裏に印刷が施された印刷物であってもよい。また、印刷物Pは、メラミン化粧板といった、樹脂が含侵された印刷物であってもよい。また、印刷物Pに施される印刷も特定のものに限定されない。例えば、印刷は、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷等の何れであってもよい。さらに、印刷物Pの表面層には、エンボス加工、デボス加工、マット加工、グロス加工、ヘアライン加工、プレスコート加工、トランスタバック加工といった視覚的効果又は触感等を印刷物に付与するための各種の加工が施されてもよい。また、表面層の材質は、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、UV硬化樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、PET樹脂、セロファン、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂といった各種の透明樹脂でよい。また、実施形態における「透明」は、完全な透明であることを意味しておらず、ある程度の光透過性を有することを意味している。また、印刷物Pの表面層は、全面が透明である必要はなく、一部のみが透明であればよい。さらに、印刷物Pの表面層は、ある程度の光透過性を有していれば、色付けられていてもよい。
【0021】
反射特性測定装置2は、印刷物P及びディスプレイ装置1の表面層10のそれぞれの反射特性を測定する。反射特性は、光沢度、ヘーズ、写像性、双方向反射率分布関数(BRDF)のうちの少なくとも1つを含む。光沢は、物体における光の写り込みの程度を表す指標であり、例えばISO 2813に準拠した測定方法に従って測定される。ヘーズは、物体に写り込む光源像の拡散の程度を示す指標であり、例えばISO 13803に準拠した測定方法に従って測定される。写像性は、物体表面から反射して見える物体の像の歪みの無さの程度を示す指標であり、例えばJIS K7374に準拠した測定方法に従って測定される。BRDFは、物体の表面からの反射光強度の角度分布を表す指標である。BRDFは、例えば光源方向を変えながら反射光の放射輝度を順次に測定することによって測定される。反射特性測定装置2は、光沢度、ヘーズ、写像性、BRDFを前述した測定方法に従って測定できるように構成されている。反射特性測定装置2は、光沢度、ヘーズ、写像性、BRDFのうちの複数を測定できるように構成されていてもよいし、1つを測定できるように構成されていてもよい。また、反射特性測定装置2は、光沢度、ヘーズ、写像性、BRDFを別々に測定できる複数の反射特性測定装置で構成されていてもよい。また、反射特性は、光沢度、ヘーズ、写像性、BRDF以外の特性を含んでいてもよい。さらに、前述した各種の反射特性の測定方法は、特定の方法に限定されない。さらに、反射特性として、フレア量が測定されてもよい。フレア量は、例えば環境照明のある条件と環境照明の無い条件のそれぞれで物体の表面を測色したときのそれぞれの測色値の差から測定される。
【0022】
コンピュータ3は、例えばパーソナルコンピュータである。コンピュータ3は、反射特性測定装置2で測定された反射特性のデータを例えば反射特性測定装置2との通信を介して取得できる。コンピュータ3には、反射特性判定プログラム及びカラーマネージメントプログラムが予めインストールされている。反射特性判定プログラムは、コンピュータ3に、例えば印刷物Pとディスプレイ装置1のそれぞれの反射特性の差異を計算させ、反射特性の差異が所定範囲内であるか否かを判定させ、反射特性の差異が所定範囲内であるか否かの判定結果を提示させる。カラーマネージメントプログラムは、コンピュータ3に測色値に応じたディスプレイ装置1のモニタプロファイル(カラープロファイル)を作成させ、モニタプロファイルに応じて印刷物Pの測色値が再現された印刷物Pの画像を生成させる。モニタプロファイルの作成、画素値の補正の手法は、特定の手法に限定されない。
【0023】
以下、本実施形態のディスプレイ装置1の製造方法を説明する。
図4は、ディスプレイ装置1の製造方法について説明するためのフローチャートである。
【0024】
ステップS1において、反射特性測定装置2は、印刷物Pの表面層の反射特性を測定する。反射特性測定装置2は、印刷物Pの表面層の反射特性のデータをコンピュータ3に入力する。反射特性の測定は、反射特性測定装置2を機械的に駆動することで行われてもよいし、作業者が手動で反射特性測定装置2を操作することで行われてもよい。なお、印刷物Pの反射特性が既知であるときには、ステップS1の処理は省略され得る。
【0025】
ここで、反射特性は、パターンがなく、黒色で印刷されている部分で測定されることが望ましい。これは、ディスプレイ装置1の非表示時においても反射特性を測定できるようにするためである。一方で、後で説明するステップS4において、ディスプレイ装置1に画像を表示させた状態で反射特性が測定される場合においては、印刷物Pにおける、ディスプレイ装置1の表示色と同じ色で印刷されている部分で反射特性が測定されてもよい。また、正反射方向からの測定、オフスペキュラー方向からの測定、グレイジングアングルからの測定といった、色よりも表面反射の影響が相対的に大きい測定であれば、印刷物Pの色は、ディスプレイ装置1の表示色と異なっていてもよい。
【0026】
また、印刷物Pの表面層にエンボス加工等の凹凸を形成する加工が施されている場合、反射特性は、表面層における凹凸がない部分で測定されることが望ましい。これは、凹凸がある部分では、測定光の反射光が遮断される等することにより、測定される反射特性に変化が生じることがあるためである。なお、ステップS1における反射特性の測定は、印刷物Pそのものではなく、印刷物Pの表面層と同一の材質及び構造の表面層を有し、各種の加工が施されていない物体を用いて行われてもよい。
【0027】
また、反射特性は、印刷物Pの表面層における平面の部分において測定されることが望ましい。印刷物Pが曲面であって、表面層の平面の部分での反射特性の測定が難しい場合には、印刷物Pの代わりに、印刷物Pと同じ材質で同じ層構造を有する平面の物体の反射特性が測定されてもよい。
【0028】
ステップS2において、作業者は、ディスプレイ装置1の表面層10を作成する。例えば、作業者は印刷物Pの表面層と同一の材質及び同一の構造の表面層10を用意する。印刷物Pの表面層が多層構造であれば、作業者は、印刷物Pの表面層を構成する複数の層の樹脂フィルム等を接着等することによって表面層10を作成する。表面層10は、樹脂フィルムによって作成されなくてもよい。例えば、表面層10はガラスによって作成されてもよいし、樹脂フィルム又はガラスと薬剤等を併用して作成されてもよい。さらには、表示層20としての表示パネル27の表面層が表面層10に置き換えられてもよい。なお、必要に応じて、表面層10にはエンボス加工等の印刷物Pと同じ加工が施されていてもよい。
【0029】
ステップS3において、作業者は、ディスプレイ装置1を作成する。例えば、作業者は、表面層10を表示層20に接着する。前述したように、表示層20としては、例えばタブレット端末が用いられる。表示層20としてタブレット端末が用いられるとき、作業者は、表示層20としてのタブレット端末の表示パネル27の上に表面層10を接着する。接着の手法は、接着剤を用いる手法、粘着剤を用いる手法、熱圧着を用いる手法等、特に限定されない。また、接着ではなく、表示層の表示パネル27の上に表面層10が塗装されてもよい。また、表示層の表示パネル27の上に表面層10が静電吸着されてもよい。また、表示層の表示パネル27の表面に表面層が含侵されてもよい。例えば、印刷物Pの表面層の形成のされ方と同じ手法が、表面層10を表示層20に接着する際の手法として選択されてよい。
【0030】
ステップS4において、反射特性測定装置2は、ディスプレイ装置1の表面層10の反射特性を測定する。反射特性測定装置2は、表面層10の反射特性のデータをコンピュータ3に入力する。反射特性の測定は、印刷物Pの反射特性の測定と同様に行われてよい。
【0031】
ステップS5において、コンピュータ3は、印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内であるか否かを判定する。例えば、反射特性として、光沢度、ヘーズ、写像性の3つのデータが取得されたとき、コンピュータ3は、印刷物Pの表面層の光沢度、ヘーズ、写像性とディスプレイ装置1の表面層の光沢度、ヘーズ、写像性の差分二乗和を算出する。つまり、コンピュータ3は、印刷物Pの表面層の光沢度とディスプレイ装置1の表面層の光沢度の差の二乗値、印刷物Pの表面層のヘーズとディスプレイ装置1のヘーズの光沢度の差の二乗値、印刷物Pの表面層の写像性とディスプレイ装置1の表面層の写像性の差の二乗値をそれぞれ算出し、それらの二乗値を合算する。なお、光沢度は、ISO2813に準拠した測定方法で測定されているときには、20°、60°、85°の3つの角度で測定され得る。この場合、コンピュータ3は、角度毎の光沢度の差分を二乗し、その和を算出してもよい。さらに、この場合には、光沢度、ヘーズ、写像性の差分二乗和に占める光沢度の割合が相対的に大きくなりやすくなるので、ヘーズ、写像性については光沢度よりも大きい重みが付けられた上で合算されてもよい。このようにして差分二乗和を算出した後、コンピュータ3は、差分二乗和の値が所定値以下であるか否かを判定する。差分二乗和の値が所定値以下であるとき、コンピュータ3は、印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内であると判定する。印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内でないと判定されたときには、コンピュータ3は、その旨を例えば図示しないディスプレイに表示する。そして、処理はステップS2に戻る。印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内でない旨の表示を見た作業者は、先に作成したディスプレイ装置1の表面層10とは反射特性の異なる別の表面層10を作成することになる。この時の反射特性の調整は、例えば印刷物Pの表面層と同一の材質及び同一の構造の別の表面層10を用意したり、表面層10に所定の反射特性の透明フィルムを積層したりすることによって行われ得る。一方、印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内であると判定されたときには、コンピュータ3は、その旨を例えば図示しないディスプレイに表示する。この場合には、
図4の処理は終了する。この後、必要に応じて、表面層10にエンボス加工等の印刷物Pと同じ加工が施されてよい。
【0032】
なお、ステップS5における、印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内であるか否かの判定は、必ずしも反射特性の差分二乗和の値を所定値と比較することで行われる必要はない。例えば、差分二乗和の代わりに差分絶対値和が用いられてもよい。また、反射特性として例示したうちの少なくとも1つの差が所定範囲内であるかが判定されればよく、必ずしも光沢度、ヘーズ、写像性の3つが用いられる必要はない。さらには、差ではなく、比によって印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内であるか否かの判定が行われてもよい。
【0033】
また、ステップS5における、印刷物Pの表面層の反射特性とディスプレイ装置1の表面層の反射特性との差が所定範囲内であるか否かの判定は、作業者による目視によって行われてもよい。この場合、ステップS1及びステップS4の反射特性の測定は不要である。
【0034】
図5は、ディスプレイ装置1の表示画像の調整方法について説明するためのフローチャートである。ステップS11において、作業者は、ディスプレイ装置1のモニタプロファイルを作成する。例えば、作業者は、ディスプレイ装置1を操作して、表示パネル27にカラーチャートを表示させる。次に、作業者は、表示パネル27に表示されたカラーチャートを測色計によって測色する。作業者は、測色計で測定された測色値(例えばCIE XYZ値)を例えばコンピュータ3に入力する。コンピュータ3は、入力された測色の結果からディスプレイ装置1のモニタプロファイルを作成する。ここで、測色は、ディスプレイ装置1におけるなるべく反射特性の影響が小さい部分で行われることが望ましい。例えば、測色は、ディスプレイ装置1の非加工部12において行われることが望ましい。また、表示層20の表示パネル27には、
図6に示すようにして保護ガラス30が接着されていることがある。この場合、保護ガラス30の反射特性が影響する可能性があるので、例えば表面層10から保護ガラス30にかけて孔31を形成しておき、この孔31を介して測色が行われることが望ましい。
図6では、孔31は、1つだけ形成されている。実際には、孔31は、カラーチャートの各パッチに対応して形成されていてよい。
【0035】
ステップS12において、作業者は、印刷物Pの色を測定する。例えば、作業者は、印刷物Pを印刷するプリンタによって実際に印刷を実施し、印刷物Pを構成している色のカラーチャートを用意する。次に、作業者は、カラーチャートを測色計によって測色する。作業者は、測色計で測定された測色値(例えばCIE XYZ値)を例えばコンピュータ3に入力する。ここで、測色は、反射特性の影響が小さい状態で行われることが望ましい。ここで、印刷物Pの表面層が半透明又は色付いている場合、ディスプレイ装置1と印刷物Pの表面層との透過率の差又は透過測色値の差が所定範囲内となるように、ディスプレイ装置1の表面層10が着色されてもよい。この場合、ステップS12においては、印刷物Pの表面層が形成されていない状態でカラーチャートが測色される。印刷物Pの表面層が色付けられていないときには、カラーチャートは、表面層が形成されていない状態であっても形成された状態であってもよい。また、印刷物PのCMYKデータがあるときには、このCMYKデータから測色値が算出されてもよい。
【0036】
ステップS13において、作業者は、印刷物Pの画像データを入力する。これを受けて、コンピュータ3は、先に算出したモニタプロファイルに従って、印刷物Pの測色値が再現されるように印刷物Pの画像データの各画素値(RGB値)を補正する。
【0037】
ステップS14において、例えば作業者は、コンピュータ3において生成された印刷物Pの画像データをディスプレイ装置1のストレージ24に記憶させる。その後、作業者は、ディスプレイ装置1を操作して、表示パネル27に印刷物Pの画像を表示させる。その後、
図5の処理は終了する。
【0038】
ここで、印刷物Pの表面層が半透明又は色付いている場合であっても、ディスプレイ装置1の表面層を透明にすることができる。この場合には、ステップS12において印刷物Pの表面層が形成されている状態でカラーチャートが測色される。そして、ステップS13において、コンピュータ3は、印刷物Pの表面層の影響を含んだ測色値が再現されるように印刷物Pの画像データの各画素値(RGB値)を補正する。
【0039】
ここで、
図5の処理において、印刷物Pとディスプレイ装置1のフレア量が同一となるように印刷物Pの画像データの各画素値(RGB値)を補正する処理が加えられてもよい。例えば、環境照明下で印刷物Pのカラーチャートを測色することにより得られる測色値と遮光環境下等の環境照明の影響のない条件で印刷物Pのカラーチャートを測色することにより得られる測色値との差である印刷物Pのフレア量と、印刷物Pと同一の環境照明下でディスプレイ装置1のカラーチャートを測色することにより得られる測色値と環境照明の影響のない条件でディスプレイ装置1のカラーチャートを測色することにより得られる測色値との差であるディスプレイ装置1のフレア量とが同一となるように、印刷物Pの画像データの各画素値が補正されてよい。
【0040】
また、
図5のコンピュータ3で行われる処理は、ディスプレイ装置1の内部で行われてもよい。
【0041】
以上説明したように本実施形態によれば、透明な表面層を有する対象物の表面層の反射特性との差が所定範囲内の表面層を表示層に積層してディスプレイ装置が製造される。このようなディスプレイ装置1の表示画像では、対象物との見えの差が抑制される。また、表示画像と対象物との色の違いも、ディスプレイ装置1のモニタプロファイルを用いた補正によって抑制される。また、反射特性の再現は、表示層ではなく、表面層によって行われる。したがって、表示層としてのディスプレイの特性によらずに光沢等の質感が再現され得る。このようにして、本実施形態では、モニタプルーフ等の用途において対象物の質感が高度に再現される。
【0042】
また、ディスプレイ装置の表面層には、対象物と同様の加工を施すことができる。これにより、モニタプルーフ等の用途において対象物の触感等も再現され得る。
【0043】
[変形例]
以下、実施形態の変形例を説明する。実施形態では、ディスプレイ装置1は、1つの表面層によって1種類の対象物の質感が再現される。これに対し、
図7に示すように、表面層10は、反射特性の異なる複数の表面層の領域10a、10bに分けられていてもよい。この場合のディスプレイ装置1の製造方法は、表面層の領域10aと領域10bの作成が個別に行われる点を除けば、
図4で示した方法が適用される。
図7で示したようにして表面層が反射特性の異なる複数の領域に分けられていることより、1つのディスプレイ装置1によって、2種類の対象物のモニタプルーフ等を行うことができる。なお、表面層は、3つ以上の領域に分けられてもよい。
【0044】
また、前述した実施形態では、主にディスプレイ装置1がモニタプルーフの用途に用いられるものとしている。これに対し、ディスプレイ装置1は、モニタプルーフ以外の用途にも用いられ得る。例えば、
図8に示すように、エンボス加工等が施された壁紙Wの中にこの壁紙Wと同じ質感が再現されたディスプレイ装置1が埋め込まれて用いられてもよい。例えば、ディスプレイ装置1が壁紙Wと同じ画像を表示しているとき、ユーザはディスプレイ装置1を壁紙Wの一部として認識する。一方、ディスプレイ装置1に各種の画像を表示させることにより、ディスプレイ装置1を端末として用いることもできる。さらに、ディスプレイ装置1に放送の受像機能が設けられていれば、ディスプレイ装置1を埋め込み型のテレビとして利用することもできる。
【0045】
また、前述した実施形態では、対象物は透明な表面層を有しているものとしている。これに対し、対象物は、透明な表面層を有しておらず、界面反射で光沢を発生させる物品、例えば表面加工されていない石材や木材といったものであってもよい。この場合においても、ディスプレイ装置1は、例えばこれらの石材や木材の表面との反射特性の差が所定範囲内の表面層10が表示層20に積層されることで構成されてよい。
【0046】
また、ディスプレイ装置1は、印刷物とは異なり、製版をしたり、印刷をしたり、表面の加工をしたりすることなく、見た目の変化を確認できる。これにより、ディスプレイ装置1の表示画像上の所望の見た目と同じになるように実際の印刷物の製版前にデータの調整をすることができる。これにより、校正刷りの削減や、各工程の調整負担の軽減、印刷ロス削減の効果がある。
【0047】
また、化粧箱等のパッケージには、美観及び美粧性向上のためにグロス加工、マット加工、エンボス加工等が行われる。現状、加工サンプルを見てから表面の仕上げ候補を選択し、校正刷りで初めて実デザインとの相性の確認、表面仕上げの変更と確定をすることができる。一方、実施形態のディスプレイ装置1が用いられることにより、パッケージのデザインの作業中に実デザインとの表面仕上げの相性を確認できる。これにより、実際のパッケージの製版前にデザイン修正及び表面仕上げの確定を行うことができる。
【0048】
また、現状のデザイン作業では、デザイナーは、色と表面加工(エンボスや部分ニス等)との組合せを想像しながら、画像処理ソフトでデザインをしている。一方、実施形態のディスプレイ装置1が用いられることにより、実際の照明の当たり具合の中で組合せによるデザイン効果を確認できる。これにより、デザインの作業が実施しやすくなる。また、表面加工と色の組合せによっては、意図せず文字や図が出現する柄癖の問題がある。現状ではグラビア版を作成し、印刷、表面加工テストを実施するまで柄癖を確認できない。一方、実施形態のディスプレイ装置1が用いられることにより、デザイナーは、デザインの作業中に柄癖を確認することができる。
【0049】
また、表示画像による確認であることにより、スイッチ25の操作、GUI上の操作、タッチ操作等によって表示画像の位置調整等が行われ得る。このような位置調整等が可能であることにより、実デザインと表面仕上げの確認、柄癖の確認がより容易になることが期待される。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0051】
以下に、本願の発明の実施の形態から抽出され得る発明を付記する。
[1] 対象物の画像を表示する表示層と、
前記表示層に積層され、前記対象物の表面との反射特性の差が所定範囲以内の反射特性を有する透明な表面層と、
を具備するディスプレイ装置。
[2] 前記反射特性は、光沢度、ヘーズ、写像性、双方向反射率分布関数のうちの少なくとも1つを含む、[1]に記載のディスプレイ装置。
[3] 前記表面層には、前記対象物の表面に施されている加工と同一の加工が施されている、[1]又は[2]に記載のディスプレイ装置。
[4] 前記表面層は、それぞれが複数の反射特性の異なる対象物の表面と対応した反射特性を有する複数の領域に分けられている、[1]-[3]の何れか1に記載のディスプレイ装置。
[5] 対象物の表面の反射特性を測定することと、
測定した前記反射特性を有する表面層を作成することと、
前記表面層を、画像を表示する表示層に積層してディスプレイ装置を作成することと、
前記ディスプレイ装置の前記表面層の反射特性と前記対象物の表面の反射特性との差が所定の範囲内であるか否かを判定することと、
を具備するディスプレイ装置の製造方法。
[6] 前記ディスプレイ装置のモニタプロファイルを作成することと、
前記モニタプロファイルに従って前記ディスプレイ装置に表示させる画像の色を調整することと、
調整された前記色に従って前記対象物の画像を前記ディスプレイ装置の前記表示層に表示させることと、
をさらに具備する[5]に記載のディスプレイ装置の製造方法。
【符号の説明】
【0052】
1 ディスプレイ装置、2 反射特性測定装置、3 コンピュータ、10 表面層、10a,10b 領域、11 加工部、12 非加工部、20 表示層、21 プロセッサ、22 ROM、23 RAM、24 ストレージ、25 スイッチ、26 ドライバ、27 表示パネル、30 保護ガラス、31 孔。