(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ゴム製品補強用アラミド紡績糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/28 20060101AFI20240625BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20240625BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20240625BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
D02G3/28
D02G3/02
D02G3/44
D01F6/60 371Z
(21)【出願番号】P 2020045070
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 賢孝
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-161450(JP,A)
【文献】特開2008-163488(JP,A)
【文献】特開2012-219405(JP,A)
【文献】特開2017-043879(JP,A)
【文献】実公昭58-029186(JP,Y2)
【文献】特開平03-261412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0320952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ系アラミド繊維からなる紡績糸であって、4本以上の単糸を撚り合わせた構造で、引張強さが30~500Nの範囲内にあり、かつ、糸同士の動摩擦係数が0.40以下である、ゴム製品補強用紡績糸。
【請求項2】
該紡績糸の撚り係数が40~140である、請求項1に記載のゴム製品補強用紡績糸。
【請求項3】
該紡績糸の撚り数が40~450(T/m)の範囲内である、請求項1または2に記載のゴム製品補強用紡績糸。
【請求項4】
紡績糸の単糸の番手が16~36の範囲内である、請求項1~3のいずれかに記載のゴム製品補強用紡績糸。
【請求項5】
ゴム製品がホースである、請求項1~4のいずれかに記載のゴム製品補強用紡績糸。
【請求項6】
メタ系アラミド繊維の短繊維を用い、紡績機にてスライバーを作成した後に精紡機で撚りを加えて単糸を製造し、しかる後に4本以上の単糸を撚り係数40~140で撚り合わせることを特徴とする、ゴム製品補強用紡績糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品補強用のアラミド繊維製紡績糸及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤ、ホース、ベルトなどのゴム製品は、ゴムと補強用の繊維とを一体化させた構造が知られており、中でも高強度のポリケトン繊維を用い、特定の単糸繊度、繊維長を有するポリケトン繊維を採用して紡績糸とすることで、ホースなど成型品の補強に好適なことが知られている(特許文献1)。
【0003】
上記紡績糸としては例えば、単糸繊度が0.5~5dtexの範囲内、平均繊維長が10~200mmの範囲内のポリケトン繊維を使うことで、短繊維間の交絡や摩擦が適度で、強度が十分な紡績糸が得られることが知られている。またポリケトン繊維は高融点、高強度、高弾性率の特長を有することも知られており、上記紡績糸は耐熱性に優れるのみならず、高強度でありながら品位が良く、柔軟で風合いにも優れることが公知である。
【0004】
あるいはまた、ナイロンなどの長繊維からなるフィラメント群に短繊維を引き揃えて束ねる長短複合の紡績糸を補強用に用いた繊維補強ホースが公知である(特許文献2)。
【0005】
上記長短複合の紡績糸としては例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、芳香族ポリアミドであるアラミド繊維材料などのモノフィラメントを引き揃え束ねて成るフィラメント群に、繊維長が55mm以下の短繊維を該モノフィラメント群から突き出す状態に絡ませたものを撚り合せ、該短繊維を固定化したものが知られている。このような構成としたことで上記長短複合の紡績糸は、短繊維が突き出すように絡ませたことからゴム層との一体性(接着性)を十分に高めることが可能で、かつ、破断を生じていないモノフィラメントを引き揃えたフィラメント群からなることから、フィラメント糸の有する本来の高強度を有することを特長としている。
【0006】
あるいはまた別の繊維補強ホースとして、アラミドなど高強度の合成繊維フィラメントを芯に用い、その周りを短繊維による鞘で被覆したコアヤーン紡績糸を補強用に用いたものが知られている(特許文献3)。
【0007】
上記コアヤーン紡績糸としては例えば、アラミド繊維など合成繊維フィラメント糸を芯繊維束に用い、平均繊維長38mm以上の短繊維からなるスライバーまたは粗糸をコアヤーンの鞘に用いるものが知られており、中でも鞘を構成する短繊維が鞘を構成する他の短繊維と実質的に撚り合わされることなく覆っていることから、ホースの製造工程で摩擦力を受けても鞘を構成する短繊維の剥離が少ないことを特長としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-82542号公報
【文献】特開2008-213155号公報
【文献】特開昭63-251688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかるに上記特許文献に記載された補強用の紡績糸、長短複合の紡績糸、あるいはコアヤーン紡績糸については、ホースなどの補強用として用いる際に必要とされる高い強力とゴム層との接着性を両立している点は優れるものの、ホース製品を製造する工程(ブレーディング工程)で補強用の紡績糸同士が擦れ合うので、特にブレーディングの編み込みを密にするほど、すなわちホースとしての耐圧性を高めようとする程、紡績糸同士の擦れ合いが強まり、特にホースの長さ精度において均一に製造するのが難しいことが判明した。
【0010】
よって本発明は、アラミド繊維からなる紡績糸であって、4本以上の単糸を撚り合わせた構造のものにおいて、ゴム補強用として必要な高い強力を付与することによりホース等ゴム製品の耐圧性を高く、かつ、ホース等のゴム製品補強に用いる時の長さ精度を均一に製造することが可能となるゴム製品補強用紡績糸およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するために本発明は、下記構成からなる。
(1)アラミド繊維からなる紡績糸であって、4本以上の単糸を撚り合わせた構造で、引張強さが30~500Nの範囲内にあり、かつ、糸同士の動摩擦係数が0.40以下である、ゴム製品補強用紡績糸。
(2)撚り係数が40~140である、前記(1)に記載のゴム製品補強用紡績糸。
(3)前記の撚り数が40~450(T/m)の範囲内である、前記(1)または(2)に記載のゴム製品補強用紡績糸。
(4)前記の紡績糸の単糸の番手が16~36の範囲内である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のゴム製品補強用紡績糸。
(5)前記のゴム製品がホースである、前記(1)~(4)のいずれかに記載のゴム製品補強用紡績糸。
(6)アラミド繊維の短繊維を用い、紡績機にてスライバーを作成した後に精紡機で撚りを加えて単糸を製造し、しかる後に4本以上の単糸を撚り係数40~140で撚り合わせることを特徴とする、ゴム製品補強用紡績糸の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム製品補強用として必要な高い強力(引張強さ)を有し、かつ、ホースを製造する際のブレーディング加工工程等ゴム製品補強に用いる際、長さ精度を均一に製造することが可能なゴム製品補強用紡績糸を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
本発明のゴム製品補強用紡績糸は、アラミド繊維からなる紡績糸であって、4本以上の単糸を撚り合わせた構造で、引張強さが30~500Nの範囲内にあり、かつ、糸同士の動摩擦係数が0.40以下であるため、十分な物理的強力を備えるゴム製品を提供することができる。
【0015】
また本発明のゴム製品補強用紡績糸は、アラミド繊維からなる紡績糸であって、4本以上の単糸を撚り合わせた構造で、引張強さが30~500Nの範囲内にあり、かつ、糸同士の動摩擦係数が0.40以下であるため、ゴム製ホースの補強用に用いた際には、該ゴム製ホースを製造する際の長さ精度を均一にすることができる。
【0016】
前記のゴム製ホースはエチレン-プロピレン系共重合体ゴム(以下EPMという)、またはエチレン-プロピレン系共重合体に二重結合をもつ不飽和化合物を第三の共重合成分として含む共重合体ゴム(以下、EPDMという。エチレンプロピレンジエンゴムと称される場合もある。)で形成されたホース本体と、該ホース本体内に埋設されたゴム製品補強用紡績糸をブレード編みまたはスパイラル編みで編組した補強層とからなるものが例示されるが、例えばブレード編みの場合、ゴム製品補強用紡績糸を2本以上用い、それらを交互にその上下の位置関係を変更しつつ、螺旋状に編んで補強層とするものである。またスパイラル編みの場合、2本以上のゴム製品補強用紡績糸を、その上下の位置関係を変更せずに螺旋状に編んで補強層とするものである。いずれのゴム製ホースの製法においても、ゴム製品補強用紡績糸同士が摩擦力を受けながら編み込まれていく。本発明のゴム製品補強用紡績糸からなるゴム製ホースはその製造工程において寸法精度に優れるものであり、即ち、ゴム製品補強用紡績糸の糸同士の動摩擦係数が0.40以下であることを特徴とする。好ましくは0.38以下である。下限としてはゴム製ホースの製造工程において、編組工程の停機時に張力のかからない状態が生まれる際、ゴム製品補強用紡績糸が過度に垂れ下がらないという点から0.20以上であることが好ましい。ゴム製品補強用紡績糸の糸同士の動摩擦係数を上記のように低くすることにより、ブレード編みのように2本以上のゴム製品補強用紡績糸が交互にその上下の位置関係を変更しつつ編み込まれる場合でも、糸同士が拘束し合うことがなく、寸法精度に優れるバラツキの少ないゴム製ホースを得ることが可能となる。
【0017】
ゴム製ホースの一例として例えばラジエーターホースとして使用中には、熱水がポンプにより脈動してホース内を搬送されるので、ホースの壁面が繰り返しの膨張圧力を受ける場合がある。しかしながら本発明のゴム製品補強用紡績糸は糸同士の動摩擦係数を上記のように低くすることにより、繰り返しの膨張圧力を受けても糸同士が滑りやすく、耐久性に優れる特長を有するものである。更にまた本発明のゴム製品補強用紡績糸は、短繊維の集合体で構成される紡績糸であることから柔軟性に富み、従って上記の繰り返しの膨張圧力に対する耐久性に優れる特長を有するものである。
【0018】
このようにゴム製ホースとして使用される際、ホースの壁面が繰り返しの膨張圧力を受ける場合があることから、本発明のゴム製品補強用紡績糸は、4本以上の単糸を撚り合わせた構造であることを特徴とする。4本以上の単糸を撚り合わせることでゴム製ホースの補強に必要な強力を得ることが可能となり、かつ、ホースの壁面が繰り返しの膨張圧力を受けた際にも、柔軟性を有する構造であることから、耐久性にも優れるものである。
【0019】
本発明のゴム製品補強用紡績糸の引張強さは、ゴム製ホースの補強に必要とされる30~500Nの範囲内であることを特徴とする。ゴム製品補強用紡績糸の引張強さが30N以上あることで、EPMまたはEPDMで形成されたホース本体の周囲に編組して補強層を構成した場合に、ホースとして必要とされる耐圧性能が発現する。なかでも60~500Nの範囲内とすることが好ましい。
【0020】
また本発明のゴム製品補強用紡績糸においては、単糸の撚り合わせ本数を増やすほど、ゴム製品補強用紡績糸の引張強さを高くできるものであるが、撚り合わせ本数が増えるほど撚糸数を高く設定することが難しくなる。そして撚り合わせ本数を増やす、撚糸数を高くすることにより得られるゴム製品補強用紡績糸の表面凹凸が多くなり、ゴム製品補強用紡績糸同士の動摩擦係数が高くなる傾向にある。よって撚り合わせ本数を多くする場合は、動摩擦係数が本発明で規定する範囲に含まれる程度に、撚糸数を減らすなどの調整をする、また、撚糸数を高くする場合には、動摩擦係数が本発明で規定する範囲に含まれる程度に、撚り合わせ本数を減らすなどの調整を行うことが好ましい。
【0021】
単糸の撚り合わせ本数としては、ゴム製ホースの補強用として必要な強力を得るために、単糸を4本以上、撚り合わせるものであり、一方でゴム製品補強用紡績糸同士の動摩擦係数を0.40以下にすることから、単糸の撚り合わせ本数は20本以下とすることが好ましい。撚り合わせ本数が多くなると、EPMまたはEPDMの周囲に編組する補強層が太くなるため、より好ましい範囲は単糸を4~15本の範囲内で撚り合わせることが好ましい。
【0022】
上記のアラミド繊維としては、その主構造にアミド結合(-CONH-)を有し、そのアミド結合の85%以上が2つの芳香族環に直接結合したポリアミド繊維であれば良く、芳香族環との結合位置がパラ位であるパラ系アラミド繊維とメタ位であるメタ系アラミド繊維が知られるが、耐熱性と強度に優れるメタ系アラミド繊維(メタアラミド繊維)が好ましく用いられる。メタアラミド繊維としては市販のものを用いることができる。なかでもその機構は定かではないが、容易に動摩擦係数を低い範囲に制御できる点で、TORAY ADVANCED MATERIALS KOREA INC.製のメタアラミド繊維“ARAWIN”が好ましく用いられる。
【0023】
また本発明のゴム製品補強用紡績糸において4本以上の単糸を撚り合わせる際の撚り数は、40~450(T/m)の範囲内にあることが好ましい。上記紡績糸の撚り数とは、4本以上の単糸を撚り合わせる時の撚り数を示しており、40(T/m)以上の撚り数とすることでゴム製品の補強に必要な強力を得ることが可能となり好ましい。一方、上記の単糸とは、アラミド繊維の短繊維を複数本収束した構造を有している。この単糸は、その表面に細かい毛羽がみられるのが一般的で、この単糸表面に存在する毛羽によってゴム製品補強用に好適なゴムとの高い接着性を発現すると考えられている。しかるに本発明のゴム製品補強用紡績糸は、4本以上の単糸を450(T/m)以下の撚り数で撚り合わせることで、ゴム製品の補強に必要な強力を有するとともに、単糸の表面に存在する細かい毛羽が適切に残り、ゴムとの接着性も十分であることから好ましい。
【0024】
また、撚りをかけることで単糸を構成する短繊維の配向が傾く傾向にあり、初期の引張強力は低下する傾向であるが、一方でゴム製品補強用に用いる際の屈曲に対しては単糸に加わる応力が分散され、耐屈曲性が向上する傾向にある。したがってゴム製品の補強用に用いる際に必要とされる強力、接着性、耐屈曲性の観点から、ゴム製品補強用紡績糸の撚り数は50~250(T/m)の範囲内にあることが更に好ましい。
【0025】
本発明のゴム製品補強用紡績糸は、4本以上の単糸を撚り合わせた構造であるが、単糸の原料には10~300mmの長さのアラミド繊維の短繊維を用いることができる。単糸の構造としては、この短繊維を綿糸紡績機や紡毛紡績機で引き揃えてスライバーや粗糸とし、次にリング精紡、ローター精紡、エアジェット精紡などの精紡機にて撚り合わせて収束させた構造が例示できる。このようにして得られた紡績糸の単糸は、16~36番手(綿番手)であることが好ましい。ここでいう綿番手とはJIS L1095(1999)、9.4.2に従って測定したものをいう。アラミド繊維の短繊維の強度から、36番手以下であれば安定して紡績糸を得ることが可能な太さであり、また16番手以上であれば、紡績糸の単糸を構成する短繊維の本数が十分にあり、短繊維同士の摩擦力に由来する単糸強力も高くすることができるので好ましい。紡績糸の単糸の安定生産と強力のバランスから、単糸の番手は16~30番手であることが更に好ましい。
【0026】
また、本発明のゴム製品補強用紡績糸は、4本以上の単糸を撚り合わせた、撚り係数が40~140であることが好ましく、50~120であることがより好ましい。この範囲で上記本数の単糸を撚り合わせた構造とすることで、強力と摩擦係数を望ましい範囲に制御しやすくなり、ゴム製品として必要な強力と、ゴム製品を加工する時の寸法精度を良好とすることができる。
【0027】
短繊維を撚り合わせる際の撚り数としては500~1200の範囲内であることが好ましく、500~900であることがより好ましい。撚り数がこの範囲にあることで、ゴム製品補強に必要な単糸としての強力を得ることが出来、かつ、撚りによる捻り(ビリ)の発生が少なく、4本以上の単糸を撚り合わせる加工の工程通過性が良いので好ましい。
【0028】
また本発明のゴム製品補強用紡績糸は、ゴム製品としてタイヤ、ホース、コンベヤーベルト、動力伝動用ベルトなどが例示されるが、中でもホースであることが好ましい。なぜなら本発明のゴム製品補強用紡績糸は、引張強さが30~500Nの範囲内にあり、かつ、糸同士の動摩擦係数が0.40以下であることを特徴とするものであり、ホースの補強用にブレード編みで編組して補強層を形成する際、2本以上のゴム製品補強用紡績糸が交互にその上下の位置関係を変更しつつ編み込まれる場合でも、糸同士が拘束し合うことがなく、寸法精度に優れた補強層を形成することができ、従って得られるホースは、補強層として十分な強力を寸法精度良く有することができるため、特に好ましい。
【0029】
本発明のゴム製品補強用紡績糸の製造方法は、本発明で規定する紡績糸が得られる限り特に限定はないが、アラミド繊維の短繊維を用い、綿紡績機や紡毛紡績機など通常の紡績機を用いてスライバーを作成し、しかる後に空気精紡機やリング精紡機を用いてドラフト(延伸)をかけて撚りを加えることで単糸を得て、その後、4本以上の単糸を撚り係数40~140で撚り合わせる方法が好ましく挙げられる。前記の単糸を4本以上、40~140の範囲内の撚り係数で撚り合わせた構造とすることで、引張強さ30~500Nの十分な強力とし、かつ糸同士の摩擦係数を0.40以下にして、ゴム製品として必要な強力と、ゴム製品を加工する時の寸法精度を良好とすることができる。撚り係数は50~120とすることがより好ましい。
【0030】
上記において、単糸を4本以上、撚り合わせた構造とする際には、単糸を4本以上、同時にニップロールで押さえつけて合糸し、しかる後に撚りを施すことも好ましい。これにより16~36番手の太い紡績糸の単糸を用いても、単糸同士が均一に撚り合わされていくので好ましい。
【0031】
なお上記において、ニップロールに同時に押しつけるとは、単糸を4本以上、一対以上のロール同士で同時に押さえつける状態をいい、具体的には一対のニップロール間における単糸の把持状態が各単糸間で均等の張力となるように把持されている状態である。均等の張力に関し、単糸間で厳密に全く同じに常に維持することは困難であるが、単糸間で同じになるよう制御すればよい。具体的には単糸の巻き出し状態や単糸のニップロールへの糸道の適正化、ニップロールの組み合わせとして例えば金属ロールと樹脂ロールとを組み合わせることなどにより、ニップロール表面を把持に適した表面状態に制御することが有効である。
【0032】
また上記において、単糸を4本以上、上記撚り係数で撚り合わせた構造とすることで、単糸同士が緊密に撚り合された一体構造となり、本発明のゴム製品補強用紡績糸の表面構造が平滑になり、所望の動摩擦係数を発現することが可能となる。なおここでいう撚り係数は、撚り係数=撚り数(T/m)/√(単糸の綿番手/単糸の合糸本数)、の計算式で算出するものである。
【0033】
かくして得られる本発明のゴム製品補強用紡績糸は、充分な強力と糸同士の摩擦係数が0.40以下と低いので、タイヤ、ホース、ベルトなどゴム製品の補強用に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりとした。
【0035】
[紡績糸の単糸の番手]
JIS L1095(2010)、9.4.2にしたがってn=5で測定し、平均値を算出した。
【0036】
[紡績糸の単糸の引張強さ、切断伸度]
JIS L1095(2010)、9.5.1定速伸長形にしたがって試料が切断したときの荷重(N)をn=5で測定し、平均値を算出して引張強さ(N)とした。
【0037】
[紡績糸の引張強さ]
JIS L1095(2010)、9.5.1定速伸長形にしたがって試料が切断したときの荷重(N)をn=5で測定し、平均値を算出して引張強さ(N)とした。
【0038】
[撚り数]
単糸の撚り数、紡績糸の単糸の撚り数は、それぞれ単糸、紡績糸を用いてJIS L1095(2010)、9.15.1 A法にしたがってn=2で測定し、平均値を算出した。
【0039】
[紡績糸の単糸のIPI(ネップ)]
JIS L1095(2010)、9.20.2 B法にしたがってn=1で測定し、125mあたりの個数で表した。
【0040】
[紡績糸の動摩擦係数]
JIS L1095(2010)、9.11にしたがって測定した。摩擦係数測定装置ME-P01を使い、サンプル同士を接触角180°で交差させ、n=15で測定し、平均値を算出した。
【0041】
[摩耗試験]
摩擦摩耗試験機(トライボギア、新東科学(株)製)を使いサンプルの織物同士を規定の荷重下、規定の速度で摩耗した後、表面状態を観察した。ピリングが発生していなければ〇判定とし、ピリングが目視で分かる場合は×判定とした。
荷重:150g(荷重面積8.25cm2)、
速度:6,000mm/分、
摩耗回数:5,000回。
【0042】
[実施例1]
TORAY ADVANCED MATERIALS KOREA INC.製のメタアラミド繊維“ARAWIN”の品種T4101 2.2T×51mmを使い、一般的に使用するカード工程でスライバーを紡出した後、精紡工程としてローラー方式のドラフト機構を有する精紡機に仕掛け、綿番手19.8番手の紡績糸の単糸を得た。得られた単糸の撚り数は581(T/m)であった。次に前記の通り得られた単糸を10本、一対のニップロール間で把持しつつリング式撚糸機に導入し、合撚加工を行ってゴム製品補強用紡績糸1を得た。得られたゴム製品補強用紡績糸1の撚り数は100(T/m)であった。
【0043】
得られたゴム製品補強用紡績糸1を使い、タテ密度26本/2.54cm、ヨコ密度20本/2.54cmの平織物にして摩耗試験を行った。ゴム製品補強用紡績糸1の動摩擦係数は0.36と適切な範囲にあるので、織物にして5,000回摩耗した後でも、表面にピリングがなく、耐摩耗性は問題ないものであった。
【0044】
また、得られたゴム製品補強用紡績糸1は引張強さも十分あり、動摩擦係数も適切な範囲にあり、耐摩耗性にも優れることから、ホース製品の補強用としてブレード編みに供した際、糸同士が拘束し合うことがなく、また編組の際に糸同士が摩擦により摩耗した際にもピリングの発生がないものと考えられる。従って得られたゴム製品補強用紡績糸1は、設計したホース長さが精度良く得られると考えられる。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同じメタアラミド繊維を用い、精紡工程のドラフト倍率を高くして、綿番手37.8番手の紡績糸の単糸を得た。得られた単糸の撚り数は822(T/m)であった。得られた単糸は実施例1と比較して番手が細いためか、ネップが8個/125mと多く、品位が劣るものであった。この単糸を6本、合撚して紡績糸にすることを試みたが、表面に毛羽が多く存在し、明かに動摩擦係数が大きくなると予測されたため、動摩擦係数の測定ならびにブレード編みに供することは実施しなかった。
【0046】
[比較例2]
実施例1で得られた単糸を2本、使った以外は実施例1と同様の方法で紡績加工、合撚加工を行い、ゴム製品補強用紡績糸2を得た。得られたゴム製品補強用紡績糸2の撚り数は500(T/m)であった。
【0047】
得られたゴム製品補強用紡績糸2は動摩擦係数こそ適切な範囲にあるものの、引張強さが低く、ホース製品の補強用としてブレード編みに供した際、引張強さが低いため糸同士の接触で毛羽立ちが見られ、また、設計したホース長さを精度良く得ることが難しいものであった。
【0048】
[比較例3]
帝人(株)メタアラミド繊維“コーネックス”のHT品種 2.2T×51mmを使い、一般的に使用するカード工程でスライバーを紡出した後、精紡工程としてローラー方式のドラフト機構を有する精紡機に仕掛け、綿番手20.0番手の紡績糸の単糸を得た。得られた単糸の撚り数は600(T/m)であった。次に前記の通り得られた単糸を6本、実施例1と同様に合撚加工を行ってゴム製品補強用紡績糸3を得た。
【0049】
得られたゴム製品補強用紡績糸3を使い、タテ密度34本/2.54cm、ヨコ密度26本/2.54cmの平織物にして摩耗試験を行った。ゴム製品補強用紡績糸3の動摩擦係数が0.48と高く、織物にして5,000回摩耗した後の表面には毛羽とピリングが発生しており、耐摩耗性に劣るものであった。
【0050】
また、得られたゴム製品補強用紡績糸3は引張強さこそ十分あるが、動摩擦係数は0.48と高く、ホース製品の補強用としてブレード編みに供した際、糸同士が拘束し合い、また糸同士が摩耗した際にピリングが発生し、設計したホース長さを精度良く得ることができなかった。
【0051】
【0052】
表1によれば、本発明のゴム製品補強用紡績糸は、補強に必要な充分な強力(引張強さ)を有し、かつ、糸同士の動摩擦係数が0.40以下と低いことから、ホースの補強用に編組する場合でも、糸同士が拘束し合うことがなく、寸法精度に優れた補強層を形成することができ、従って得られるホースは、補強層として十分な強力を寸法精度良く有することが分かる。