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特許7508824絶縁膜、金属ベース基板及び金属ベース基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】絶縁膜、金属ベース基板及び金属ベース基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/30 20060101AFI20240625BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240625BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20240625BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20240625BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240625BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20240625BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240625BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240625BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240625BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01B3/30 D
C08K3/22
H01B17/56 A
H05K1/05 A
H01L23/12 J
H01L23/14 R
C09K5/14 E
B32B15/088
B32B27/20 Z
C08L79/08 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020052542
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152101
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】原 慎太郎
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/172972(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/102212(WO,A1)
【文献】特開2017-098376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08K 3/22
H01B 3/30
H01B 17/56
H05K 1/05
H01L 23/12
H01L 23/14
C09K 5/14
B32B 15/088
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂に分散された無機物フィラーとを含む絶縁膜であって、
前記樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはこれらの混合物であるとともに、200℃における粘度が50MPa・s以下であり、
前記無機物フィラーは、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にあって、
前記絶縁膜に対する前記無機物フィラーの含有量が50体積%以上85体積%以下の範囲内にあり、
前記絶縁膜におけるボイドの含有率が8%以下であることを特徴とする絶縁膜。
【請求項2】
前記無機物フィラーがα-アルミナ粒子であり、前記α-アルミナ粒子は、真密度に対するタップ密度の比が0.1以上であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜。
【請求項3】
前記α-アルミナ粒子が単結晶粒子であることを特徴とする請求項2に記載の絶縁膜。
【請求項4】
金属基板と、絶縁膜と、金属箔とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁膜が請求項1~3のいずれか1項に記載の絶縁膜からなることを特徴とする金属ベース基板。
【請求項5】
基板の上に、溶媒と、樹脂と、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にある無機物フィラーとを含み、前記樹脂と前記無機物フィラーとの合計量に対する前記無機物フィラーの含有量が50体積%以上85体積%以下の範囲内にある湿潤絶縁性組成物膜を形成する湿潤絶縁性組成物膜形成工程と、
前記湿潤絶縁性組成物膜を乾燥させて絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
前記絶縁膜の上に金属箔を積層し、得られた積層体を、250℃以上の温度で加熱しながら圧着する圧着工程と、を含むことを特徴とする金属ベース基板の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁膜形成工程において、前記湿潤絶縁性組成物膜を、250℃以上の温度で加熱することを特徴とする請求項5に記載の金属ベース基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜と、この絶縁膜を用いた金属ベース基板及び絶縁膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子やLEDなどの電子部品を実装するための基板の一つとして、金属ベース基板が知られている。金属ベース基板は、金属基板と、絶縁膜と、金属箔とがこの順で積層された積層体である。電子部品は、金属箔の上に、はんだを介して実装される。このような構成とされた金属ベース基板では、電子部品にて発生した熱は、絶縁膜を介して金属基板に伝達され、金属基板から外部に放熱される。
【0003】
金属ベース基板の絶縁膜は、一般に絶縁性や耐電圧性に優れる樹脂と、熱伝導性に優れる無機物フィラーとを含む絶縁性組成物から形成されている。絶縁膜用の樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが用いられている。また、絶縁膜用の無機物フィラーとしては、アルミナ(Al)粒子、アルミナ水和物粒子、窒化アルミニウム(AlN)粒子、シリカ(SiO)粒子、炭化珪素(SiC)粒子、酸化チタン(TiO)粒子、窒化硼素(BN)粒子などが用いられている(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2007/0116976号明細書
【文献】特開2013-60575号公報
【文献】特開2009-13227号公報
【文献】特開2013-159748号公報
【文献】特開2019-140094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属ベース基板は、例えば、金属基板の上に絶縁膜を形成し、次いで、絶縁膜と金属箔とを熱圧着することによって製造されている。金属基板の上に絶縁膜を形成する方法としては、例えば、基板の上に、溶媒と、樹脂と、無機物フィラーとを含む湿潤絶縁性組成物膜を形成し、次いで、湿潤絶縁性組成物膜を乾燥して、絶縁膜とする方法が用いられる。この方法の場合、湿潤絶縁性組成物膜を乾燥する際に、樹脂と無機物フィラーとの間にボイド(気孔)が発生することがある。
【0006】
絶縁膜中の樹脂と無機物フィラーとの間にボイドが発生すると、ボイド部分は熱が伝わりにくいため、絶縁膜の熱伝導性が低下するおそれがある。さらに、ボイド部分で部分放電が起こることによって、絶縁膜の絶縁破壊が起こりやすくなるなど、絶縁膜の耐電圧性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ボイドを低減しやすく、熱伝導性及び耐電圧性に優れた絶縁膜と、この絶縁膜を用いた金属ベース基板を提供することを目的とする。また、本発明は、特に絶縁膜と金属箔とを熱圧着する際に、絶縁膜中のボイドを低減しやすく、熱伝導性及び耐電圧性に優れた金属ベース基板の製造方法を提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の絶縁膜は、樹脂と、前記樹脂に分散された無機物フィラーとを含む絶縁膜であって、前記樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはこれらの混合物であるとともに、200℃における粘度が50MPa・s以下であり、前記無機物フィラーは、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にあって、前記絶縁膜に対する前記無機物フィラーの含有量が50体積%以上85体積%以下の範囲内にあり、前記絶縁膜におけるボイドの含有率が8%以下であることを特徴としている。
【0009】
この構成の絶縁膜によれば、樹脂の200℃における粘度が50MPa・s以下と低いので、加熱によって樹脂の流動性を高くして、その状態で加圧する際に、ボイドを低減することができる。また、上記の構成の絶縁膜によれば、無機物フィラーは、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内と微細であり、さらに無機物フィラーの含有量は50体積%以上85体積%以下の範囲内にあるので、熱伝導性及び耐電圧性が向上する。
【0010】
本発明の絶縁膜においては、前記樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはこれらの混合物である。上記の樹脂は200℃でも熱分解などの劣化を起こしにくいため、絶縁膜を200℃に加熱した状態で熱圧着を行なうことができ、ボイドをより確実に低減させることができる。
【0011】
また、本発明の絶縁膜においては、前記無機物フィラーがα-アルミナ粒子であり、前記α-アルミナ粒子は、真密度に対するタップ密度の比が0.1以上であることが好ましい。
この場合、樹脂に分散されている無機物フィラーが、熱伝導性が高いα-アルミナ粒子であるので、絶縁膜の熱伝導性がより向上する。また、α-アルミナ粒子は、真密度に対するタップ密度の比が0.1以上であるので、絶縁膜中でのα-アルミナ粒子の間隔を狭く保つことができ、ボイドが発生しにくくなるため、絶縁膜の熱伝導性や耐電圧性がより確実に向上する。
【0012】
さらに、本発明の絶縁膜においては、前記α-アルミナ粒子が単結晶粒子であることが好ましい。
この場合、α-アルミナ粒子の熱伝導性がより高くなるので、絶縁膜の熱伝導性がさらに向上する。
【0013】
本発明の金属ベース基板は、金属基板と、絶縁膜と、金属箔とがこの順で積層された金属ベース基板であって、前記絶縁膜が、上記本発明の絶縁膜からなることを特徴としている。
この構成の金属ベース基板によれば、金属基板と金属箔との間に、ボイドが低減し、熱伝導性及び耐電圧性に優れた絶縁膜が配置されているので、放熱性及び信頼性に優れたものとなる。
【0014】
本発明の金属ベース基板の製造方法は、基板の上に、溶媒と、樹脂と、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にある無機物フィラーとを含み、前記樹脂と前記無機物フィラーとの合計量に対する前記無機物フィラーの含有量が50体積%以上85体積%以下の範囲内にある湿潤絶縁性組成物膜を形成する湿潤絶縁性組成物膜形成工程と、前記湿潤絶縁性組成物膜を乾燥させて絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、前記絶縁膜の上に金属箔を積層し、得られた積層体を、前記樹脂の粘度が50MPa・s以下となる250℃以上の温度で加熱しながら圧着する圧着工程と、を含むことを特徴としている。
【0015】
この構成の金属ベース基板の製造方法によれば、圧着工程において、絶縁膜の上に金属箔を積層した積層体を、樹脂の粘度が50MPa・s以下となる温度で加熱しながら圧着するので、絶縁膜のボイドに樹脂が流れやすい。このため、得られる金属ベース基板は、絶縁膜中のボイドが低減し、熱伝導性及び耐電圧性に優れたものとなる。
【0016】
ここで、本発明の金属ベース基板の製造方法においては、前記絶縁膜形成工程において、前記湿潤絶縁性組成物膜を、前記樹脂の粘度が50MPa・s以下となる250℃以上の温度で加熱することが好ましい。
この場合、前記絶縁膜形成工程においても、前記樹脂の粘度が50MPa・s以下となるので、絶縁膜中のボイドがより低減し、熱伝導性及び耐電圧性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ボイドを低減しやすく、熱伝導性及び耐電圧性に優れた絶縁膜と、この絶縁膜を用いた金属ベース基板を提供することが可能となる。また、本発明によれば、特に絶縁膜と金属箔とを熱圧着する際に、絶縁膜中のボイドを低減しやすく、熱伝導性及び耐電圧性に優れた金属ベース基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態である絶縁膜の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態である金属ベース基板の概略断面図である。
図3】本発明例5で作製した絶縁膜の断面のSEM写真である。
図4】比較例14で作製した絶縁膜の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(絶縁膜)
図1は、本発明の一実施形態である絶縁膜の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態である絶縁膜10は、樹脂11と、無機物フィラー12とを含む。
【0020】
樹脂11は、絶縁膜10の基材となる。樹脂11は、熱可塑性であり、200℃における粘度が50MPa・s以下とされている。樹脂11の粘度がこの値であることによって、絶縁膜10の製造においては、加熱により、樹脂11の流動性を高くすることにより、樹脂11と無機物フィラー12との隙間を少なくすることができる。このため、絶縁膜10はボイドが低減しやすい。また、絶縁膜10と金属箔とを熱圧着する場合には、加熱により、絶縁膜10の樹脂11の流動性を高くして、絶縁膜10中のボイドに樹脂11を流れやすくした状態で、絶縁膜10と金属箔を圧着させることができる。このため、金属箔を熱圧着した後の絶縁膜はボイドを低減することができる。樹脂11の200℃における粘度は、10MPa・s以下であることが好ましく、1MPa・s以下であることが特に好ましい。なお、絶縁膜10の形状を維持するためには、樹脂11の200℃における粘度は、0.1kPa・s以上であることが好ましい。
【0021】
樹脂11の粘度は、動的粘弾性測定装置(固体粘弾性アナライザー RSA-G2(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製))を用いて引張式によって測定した値である。粘度の測定条件は、周波数を1Hz、昇温速度を1℃/Minとした。
【0022】
樹脂11は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはこれらの混合物からなる。これらの樹脂は、イミド結合を有し、耐熱性が高く200℃でも熱分解しにくい。また、絶縁性、耐電圧性、化学的耐性及び機械特性などの特性に優れる。
【0023】
無機物フィラー12は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内とされている。無機物フィラー12の平均粒子径が0.1μm以上であることによって、絶縁膜10の熱伝導性が向上する。無機物フィラー12の平均粒子径が20μm以下であることによって、絶縁膜10の耐電圧性が向上する。また、無機物フィラー12の平均粒子径が上記の範囲内にあると、無機物フィラー12が凝集粒子を形成しにくく、樹脂11中に無機物フィラー12を均一に分散させやすくなる。無機物フィラー12が凝集粒子を形成せずに、一次粒子もしくはそれに近い微細な粒子として樹脂11に分散していると、絶縁膜10の耐電圧性が向上する。絶縁膜10の熱伝導性を向上させる観点では、無機物フィラー12の平均粒子径は0.3μm以上20μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0024】
無機物フィラー12の平均粒子径は、無機物フィラー12の分散液を用いて、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した体積累積平均径(Dv50)の値である。平均粒子径測定用の無機物フィラー12の分散液は、例えば、無機物フィラー12を分散剤とともにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒中に投入し、超音波分散によって無機物フィラー12を分散させることによって調製できる。
【0025】
絶縁膜10の無機物フィラー12の含有量は、絶縁膜10に対する量、すなわち樹脂11と無機物フィラー12の合計量に対する量として、50体積%以上85体積%以下の範囲内とされている。無機物フィラー12の含有量が50体積%以上であることによって、絶縁膜10の熱伝導性が向上する。一方、無機物フィラー12の含有量が85体積%以下であることによって、絶縁膜10の耐電圧性が向上する。また、無機物フィラー12の含有量が上記の範囲内にあると、樹脂11中に無機物フィラー12を均一に分散させやすくなる。無機物フィラー12が均一に樹脂11に分散していると、絶縁膜10の機械的強度が向上する。絶縁膜10の熱伝導性を向上させる観点では、無機物フィラー12の含有量は、50体積%以上80体積%以下の範囲内にあることが好ましい。絶縁膜10の耐電圧性を向上させる観点では、無機物フィラー12の含有量は、50体積%以上70体積%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0026】
絶縁膜10の無機物フィラー12の含有量は、例えば、次のようにして求めることができる。
絶縁膜10を、大気中で加熱して、樹脂11を除去し、残分の無機物フィラー12を回収する。加熱温度は、樹脂11が熱分解し、かつ無機物フィラー12が熱分解しない温度であれば特に制限はない。加熱時間は、例えば、12時間である。回収した無機物フィラー12の重量を測定して、加熱前の絶縁膜10の重量とから、無機物フィラー12の重量ベースの含有量(重量%)を算出する。重量ベースの含有量を、樹脂11の密度、無機物フィラー12の密度を用いて体積ベースの含有量(体積%)に変換する。
【0027】
具体的には、加熱して回収した無機物フィラー12の重量をWa(g)、加熱前の絶縁膜10の重量をWf(g)、無機物フィラー12の密度をDa(g/cm)、樹脂11の密度をDr(g/cm)として、無機物フィラー12の含有量(重量%)を下記の式より算出する。
無機物フィラー12の含有量(重量%)=Wa/Wf×100
=Wa/{Wa+(Wf-Wa)}×100
【0028】
次に、無機物フィラー12の含有量(体積%)を下記の式より算出する。
無機物フィラー12の含有量(体積%)
=(Wa/Da)/{(Wa/Da)+(Wf-Wa)/Dr}×100
【0029】
無機物フィラー12としては、アルミナ(Al)粒子、アルミナ水和物粒子、窒化アルミニウム(AlN)粒子、シリカ(SiO)粒子、炭化珪素(SiC)粒子、酸化チタン(TiO)粒子、窒化硼素(BN)粒子などを用いることができる。これらのフィラーの中では、アルミナ粒子が好ましい。アルミナ粒子は、α-アルミナ粒子であることがより好ましい。α-アルミナ粒子は、真密度に対するタップ密度の比(タップ密度/真密度)が0.1以上であることが好ましい。タップ密度は、パウダーテスタ(PT-X:ホソカワミクロン社製)によって測定した密度である。タップ密度/真密度は、絶縁膜中でのα-アルミナ粒子の充填密度と相関し、タップ密度/真密度が高いと、絶縁膜中でのα-アルミナ粒子の充填密度を高くすることができる。絶縁膜中でのα-アルミナ粒子の充填密度が高くなると、絶縁膜中でのα-アルミナ粒子の間隔が狭くなり、絶縁膜にボイドが発生しにくくなる。真密度は、ピクノメーター(AUTO TRUE DENSER MAT-7000:株式会社セイシン企業製)によって測定した値である。タップ密度/真密度は、0.2以上0.9以下の範囲内にあることが好ましい。また、α-アルミナは、多結晶粒子であってもよいが、単結晶粒子であることが特に好ましい。
【0030】
なお、無機物フィラー12として、α-アルミナ単結晶粒子を用いたことは、例えば、次のようにして確認することができる。
まず、X線回折法により、α-アルミナ粒子のピークの半値幅を取得する。取得したピークの半値幅をScherrerの式により結晶子径(r)に変換する。これとは別に、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いてα-アルミナ粒子100個の粒径を測定し、その平均を平均粒径(D)として算出する。算出したα-アルミナ粒子の平均粒径(D)に対する結晶子径(r)の比(r/D)を算出する。この比(r/D)が0.8以上である場合はα-アルミナ単結晶粒子であり、0.8未満である場合はα-アルミナ多結晶粒子である。
【0031】
絶縁膜10の膜厚は、用途によっても異なるが、通常は、1μm以上200μm以下の範囲内、好ましくは10μm以上50μm以下の範囲内である。また、絶縁膜10は、ボイドの含有率が8%以下であることが好ましい。
【0032】
本実施形態の絶縁膜10は、例えば、金属ベース基板などの回路基板において、金属箔(回路パターン)と基板の間に配置する絶縁膜として用いることができる。また、電子部品や回路基板の表面を保護する保護膜として用いることができる。さらに、単独のシートまたはフィルムとして、例えば、フレキシブルプリント基板などの回路基板用の絶縁膜として用いることができる。またさらに、エナメル線のエナメル膜のように、コイルやモータに利用される絶縁導体の絶縁膜として用いることができる。
【0033】
次に、本実施形態の絶縁膜10の製造方法について説明する。
本実施形態の絶縁膜10は、例えば、湿潤絶縁性組成物膜形成工程と、絶縁膜形成工程とを含む方法によって製造することができる。
【0034】
湿潤絶縁性組成物膜形成工程は、基板の上に湿潤絶縁性組成物膜を形成する工程である。湿潤絶縁性組成物膜は、溶媒と、樹脂と、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内にある無機物フィラーとを含む。湿潤絶縁性組成物膜の無機物フィラー含有量は、樹脂と無機物フィラーとの合計量に対して50体積%以上85体積%以下の範囲内にある。樹脂は、200℃における粘度が50MPa・s以下である樹脂、または加熱によって200℃における粘度が50MPa・s以下である樹脂を生成する前駆体である。樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはこれらの混合物であることが好ましい。無機物フィラーは、α-アルミナ粒子であることが好ましい。α-アルミナ粒子は、真密度に対するタップ密度の比が0.1以上であることが好ましい。また、α-アルミナ粒子が単結晶粒子であることが好ましい。
【0035】
湿潤絶縁性組成物膜は、例えば、塗布法または電着法によって形成することができる。
塗布法は、溶媒と樹脂と無機物フィラーとを含む塗布液を、基板の上に塗布して塗布膜を形成する方法である。塗布液は、200℃における粘度が50MPa・s以下である樹脂もしくは樹脂の前駆体またはこれらの混合物からなる樹脂材料が溶解した樹脂溶液と、その樹脂溶液に分散されている無機物フィラーとを含む無機物フィラー分散樹脂溶液を用いることができる。塗布液を基板の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いることができる。
【0036】
電着法は、樹脂粒子と無機物フィラーとを含む電着液に基板を浸漬して、基板の表面に樹脂粒子と無機物フィラーを電着させて電着膜を形成し、次いで得られた電着膜を乾燥する方法である。電着液としては、200℃における粘度が50MPa・s以下である樹脂が溶解している樹脂溶液と、その樹脂溶液に分散されている無機物フィラーとを含む無機物フィラー分散樹脂溶液に、樹脂の貧溶媒を加えて樹脂を粒子として析出させることによって調製したものを用いることができる。
【0037】
絶縁膜形成工程は、湿潤絶縁性組成物膜を乾燥させて絶縁膜を形成する工程である。乾燥温度は、樹脂の粘度が50MPa・s以下となる温度であることが好ましい。この温度で乾燥することにより、樹脂の流動性が高くなり、樹脂と無機物フィラーとの間に隙間が生じにくくなる。よって、ボイドが低減した絶縁膜を得ることができる。湿潤絶縁性組成物膜の乾燥温度は、通常は、200℃以上であり、好ましくは250℃以上である。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁膜10によれば、樹脂11の200℃における粘度が50MPa・s以下と低いので、加熱によって樹脂11の流動性を高くして、その状態で加圧することにより、ボイドを低減することができる。また、本実施形態の絶縁膜10によれば、無機物フィラー12は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内と微細であり、さらに無機物フィラー12の含有量は50体積%以上85体積%以下の範囲内にあるので、熱伝導性及び耐電圧性が高くなる。
【0039】
また、本実施形態の絶縁膜10によれば、樹脂11が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはこれらの混合物である場合は、樹脂11が200℃でも熱分解などの劣化を起こしにくいため、絶縁膜10を200℃に加熱した状態で熱圧着を行なうことができ、ボイドをより確実に低減させることができる。
【0040】
また、本実施形態の絶縁膜10によれば、無機物フィラー12がα-アルミナ粒子である場合は、熱伝導性がより向上する。また、α-アルミナ粒子の真密度に対するタップ密度の比(タップ密度/真密度)が0.1以上である場合は、絶縁膜中でのα-アルミナ粒子を隙間なく充填しやすくなり、ボイドが発生しにくくなるため、絶縁膜10の熱伝導性や耐電圧性がより確実に向上する。さらに、α-アルミナ粒子が単結晶粒子である場合は、α-アルミナ粒子の熱伝導性がより高くなるので、絶縁膜10の熱伝導性がさらに向上する。
【0041】
また、本実施形態の絶縁膜10の製造方法によれば、200℃における粘度が50MPa・s以下である樹脂11と、無機物フィラー12とを含む絶縁性組成物膜を、樹脂11の粘度が50MPa・s以下となる温度で加熱するので、樹脂11と無機物フィラー12との間に隙間が生じにくい。よって、得られる絶縁膜10のボイドを低減することができる。また、無機物フィラー12は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下の範囲内と微細であり、絶縁性組成物膜は、無機物フィラー12の含有量が50体積%以上85体積%以下の範囲内にあるので、得られる絶縁膜10は熱伝導性及び耐電圧性が高くなる。
【0042】
(金属ベース基板)
次に、本発明の一実施形態である金属ベース基板について説明する。
図2は、本発明の一実施形態である金属ベース基板の概略断面図である。
図2に示すように、本実施形態の金属ベース基板20は、金属基板21と、絶縁膜10と、金属箔22とがこの順で積層された積層体である。
【0043】
金属基板21は、金属ベース基板20のベースとなる部材である。金属基板21としては、銅板、アルミニウム板およびこれらの積層板を用いることができる。
【0044】
絶縁膜10は、金属基板21と金属箔22とを絶縁するための部材である。絶縁膜10は、図1に示す絶縁膜10と同一の構成であるので、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0045】
金属箔22は、回路パターン状に形成される。その回路パターン状に形成された金属箔22の上に、電子部品がはんだ等を介して接合される。金属箔22の材料としては、銅、アルミニウム、金などを用いることができる。
【0046】
金属箔22に実装される電子部品の例としては、特に制限はなく、半導体素子、抵抗、キャパシタ、水晶発振器などが挙げられる。半導体素子の例としては、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor field effect transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、LSI(Large Scale Integration)、LED(発光ダイオード)、LEDチップ、LED-CSP(LED-Chip Size Package)が挙げられる。
【0047】
絶縁膜10は、金属箔22との密着性を向上させるための密着層を有してもよく、また金属基板21との密着性を向上させるための密着層を有していてもよい。密着層は、樹脂からなることが好ましい。樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを用いることができる。シリコーン樹脂は、各種有機基を導入した変性シリコーン樹脂を含む。変性シリコーン樹脂の例としては、ポリイミド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、オレフィン変性シリコーン樹脂、エーテル変性シリコーン樹脂、アルコール変性シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、アミノ変性シリコーン樹脂、メルカプト変性シリコーン樹脂、カルボキシ変性シリコーン樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0048】
密着層は、熱伝導性を向上させるために、無機物粒子を分散させてもよい。無機物粒子は特に制限はなく、例えば、絶縁膜10の無機物フィラー12として用いられている無機物粒子を用いることができる。
【0049】
本実施形態の金属ベース基板20は、例えば、湿潤絶縁性組成物膜形成工程と、絶縁膜形成工程と、圧着工程と、を含む方法によって製造することができる。湿潤絶縁性組成物膜形成工程及び絶縁膜形成工程は、前述の絶縁膜の製造方法の場合と同じである。
【0050】
絶縁膜に密着層を形成する方法としては、例えば、密着層形成用の樹脂と溶剤と必要に応じて添加される無機物粒子とを含む密着層形成用塗布液を、絶縁膜の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで塗布膜を加熱して乾燥させる方法を用いることができる。
【0051】
圧着工程は、絶縁膜10の上に金属箔22を積層し、得られた積層体を、樹脂11の粘度が50MPa・s以下となる温度で加熱しながら圧着する工程である。圧着時の加熱温度は、樹脂11の粘度が50MPa・s以下となる温度であれば特に制限はないが、200℃以上が好ましく、250℃以上であることがより好ましい。加熱温度の上限は、樹脂11の熱分解温度未満であり、好ましくは熱分温度よりも30℃低い温度以下である。
圧着時に加える圧力は、1MPa以上30MPa以下であることが好ましく、3MPa以上25MPa以下の範囲内にあることがより好ましい。圧着時間は、加熱温度や圧力によって異なるが、一般に1分間以上180分間以下の範囲内である。
【0052】
以上のような構成とされた本実施形態である金属ベース基板20によれば、金属基板21と金属箔22との間に、ボイドが低減し、熱伝導性及び耐電圧性に優れた絶縁膜10が配置されているので、放熱性及び耐電圧性に優れたものとなる。
【0053】
また、本実施形態である金属ベース基板20の製造方法によれば、圧着工程において、絶縁膜10の上に金属箔22を積層した積層体を、樹脂11の粘度が50MPa・s以下となる温度で加熱しながら圧着するので、絶縁膜10のボイドに樹脂が流れやすい。このため、得られる金属ベース基板20は、絶縁膜中のボイドが低減し、熱伝導性及び耐電圧性に優れたものとなる。
【0054】
さらに、圧着工程において、絶縁膜10の上に金属箔22を積層した積層体を、樹脂11の粘度が50MPa・s以下となる温度で加熱しながら圧着すると、絶縁膜10のボイドに樹脂が流れやすい。このため、得られる金属ベース基板20は、絶縁膜10中のボイドが低減し、熱伝導性及び耐電圧性に優れたものとなる。
【実施例
【0055】
樹脂として、下記のポリイミド樹脂(ポリイミドA~H)とエポキシ系樹脂とを用意した。
(ポリイミドA)200℃における粘度:0.01MPa・s
(ポリイミドB)200℃における粘度:0.1MPa・s
(ポリイミドC)200℃における粘度:1MPa・s
(ポリイミドD)200℃における粘度:5MPa・s
(ポリイミドE)200℃における粘度:200MPa・s
(ポリイミドF)200℃における粘度:50MPa・s
(ポリイミドG)200℃における粘度:100MPa・s
(ポリイミドH)200℃における粘度:70MPa・s
(エポキシ系樹脂)200℃における粘度:180MPa・s
【0056】
[本発明例1]
ポリイミドAとNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とを混合し、ポリイミドAを溶解させることによって、ポリイミド濃度が10質量%のポリイミド溶液を調製した。また、α-アルミナ粉末(結晶構造:単結晶、平均粒子径:0.3μm)とNMPとを混合し、30分間超音波処理を行なうことによって、α-アルミナ粒子濃度が10質量%のα-アルミナ粒子分散液を調製した。
【0057】
ポリイミド溶液とα-アルミナ粒子分散液とを、α-アルミナ濃度が70体積%となる割合で混合した。得られた混合物を、株式会社スギノマシン社製スターバーストを用い、圧力50MPaの高圧噴射処理を10回繰り返すことにより分散処理を行なって、α-アルミナ粒子分散ポリイミド溶液を調製した。なお、α-アルミナ濃度は、α-アルミナ粒子分散ポリイミド溶液を加熱して乾燥したときに生成する固形物中のα-アルミナ粒子の含有量である。
【0058】
厚み0.3mmで30mm×20mmの銅基板の表面に、α-アルミナ粒子分散ポリイミド溶液を、バーコート法により塗布して塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を形成した銅基板をホットプレート上に配置して、室温から3℃/分で60℃まで昇温し、60℃で100分間加熱した後、さらに1℃/分で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、塗布層を乾燥させた。次いで、銅基板を250℃で1分間加熱した後、400℃で1分間加熱した。こうして、銅基板の表面に、α-アルミナ単結晶粒子が分散されたポリイミド樹脂からなる絶縁膜が形成された絶縁膜付き銅基板を作製した。なお膜厚は耐電圧が2.5kVとなる膜厚になるように調整した。
【0059】
得られた絶縁膜付き金属基板の絶縁膜の上に、厚み18μmの銅箔(CF-T4X-SV-18:福田金属箔粉工業(株)製)を積層した。次いで、得られた積層体を、カーボン治具を用いて5MPaの圧力を付与しながら、真空中、300℃の圧着温度で20分間加熱して、絶縁膜と銅箔とを圧着した。こうして、銅基板と絶縁膜と銅箔とがこの順で積層された金属ベース基板を作製した。
【0060】
[本発明例2~58、比較例1~16]
樹脂及びα-アルミナ粉末として表1及び表2に示すものを用い、α-アルミナ粒子分散樹脂溶液のα-アルミナ濃度を表1及び表2に示す濃度としたこと以外は、本発明例1と同様にして絶縁膜付き銅基板を作製した。そして、得られた絶縁膜付き金属基板を用い、圧着温度を表1及び表2に示す温度としたこと以外は、本発明例1と同様にして、金属ベース基板を作製した。なお、α-アルミナ粒子分散樹脂溶液のα-アルミナ濃度を90体積%とした比較例15では、絶縁膜を形成することができなかったため、金属ベース基板を作製できなかった。なお、表中の粘度は、200℃における樹脂の粘度である。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
[評価]
得られた金属ベース基板について、絶縁膜のボイド含有率と、絶縁膜の膜厚と、絶縁膜の熱伝導度と、絶縁膜の膜厚当たりの耐電圧と、熱抵抗とを下記の方法により評価した。これらの結果を、表3及び表4に示す。
【0064】
(金属ベース基板中の絶縁膜のボイド含有率)
金属ベース基板を樹脂埋めし、CP(クロスセクションポリッシャ)加工により、絶縁膜を研磨して断面を露出させた。露出した絶縁膜の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察して、絶縁膜の断面のSEM写真を撮影した。得られたSEM写真を、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて二値化画像処理し、二値化画像から固体部分(樹脂とα-アルミナ単結晶粒子の部分)の面積とボイド部分の面積を求めた。得られた固体部分の面積とボイド部分の面積から下記の式よりボイド含有率を算出した。ボイド含有率の測定は、1サンプルに対して10箇所行なった。表3及び表4に記載したボイド含有率は、その平均である。
ボイド含有率(%)={ボイド部分の面積/(固体部分の面積+ボイド部分の面積)}×100
【0065】
(金属ベース基板中の絶縁膜の膜厚)
金属ベース基板を樹脂埋めし、機械研磨によって断面を露出させた。露出した金属ベース基板の断面を、光学顕微鏡を用いて観察して、絶縁膜の膜厚を算出した。なお、絶縁膜の膜厚の測定は、1サンプルに対して略均等に30箇所行なった。表3及び表4に記載した膜厚は、その平均である。
【0066】
(金属ベース基板中の絶縁膜の熱伝導度)
熱伝導度(絶縁膜の厚さ方向の熱伝導度)は、NETZSCH-GeratebauGmbH製のLFA477 Nanoflashを用いて、レーザーフラッシュ法により測定した。熱伝導度は、界面熱抵抗を考慮しない3層モデルを用いて算出した。なお、熱伝導度の算出において、銅基板の厚みは0.3mm、銅基板の熱拡散率は117.2mm/秒、銅基板の比熱は0.419J/gK、銅箔の厚みは18μm、銅箔の熱拡散率と比熱は銅基板と同じとした。また、絶縁膜の密度と比熱は、絶縁膜の組成比及び各材料の密度と比熱から計算した。絶縁膜の密度と比熱の計算に用いた各材料の密度と比熱は、下記のとおりである。
α-アルミナ粒子:密度3.89g/cm、比熱0.78J/gK
ポリイミド樹脂A:密度1.29g/cm、比熱1.13J/gK
ポリイミド樹脂B:密度1.28g/cm、比熱1.15J/gK
ポリイミド樹脂C:密度1.31g/cm、比熱1.13J/gK
ポリイミド樹脂D:密度1.33g/cm、比熱1.15J/gK
ポリイミド樹脂E:密度1.32g/cm、比熱1.11J/gK
ポリイミド樹脂F:密度1.36g/cm、比熱1.09J/gK
ポリイミド樹脂G:密度1.30g/cm、比熱1.12J/gK
ポリイミド樹脂H:密度1.41g/cm、比熱1.11J/gK
エポキシ系樹脂:密度1.2g/cm、比熱1.05J/gK
【0067】
(金属ベース基板中の絶縁膜の膜厚当たりの耐電圧)
膜厚当たりの耐電圧は、株式会社計測技術研究所の多機能安全試験器7440を用いて測定した。金属ベース基板の銅箔をφ6mmのパターンにエッチングしたのち、銅箔のパターン部分に電極(φ6mm)を配置した。銅基板と電極をそれぞれ電源に接続し、6000Vまで30秒で昇圧した。銅基板と電極との間に流れる電流値が5000μAになった時点の電圧値を測定した。得られた電圧値を、絶縁膜の膜厚で除し、得られた値を膜厚当たりの耐電圧とした。
【0068】
(金属ベース基板中の絶縁膜の熱抵抗)
金属ベース基板の銅箔上に、放熱シート(BFG-30A:デンカ株式会社製)を介して発熱体(TO-3P)を載置した。発熱体を載置した金属ベース基板を、発熱体の上部からトルク40Ncmのねじによって積層方向に加圧した。そして、T3Sterを用いて、発熱体から銅基板までの熱抵抗を測定した。発熱体の発熱条件は10A、30秒とし、熱抵抗の測定条件は、0.01A、測定時間60秒とした。同様の測定を、絶縁膜を形成していない銅基板単体に対して行い、その熱抵抗を金属ベース基板の測定値から減じた値を、熱抵抗とした。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
塗布法によって形成した絶縁膜であって、樹脂の粘度、無機物フィラーの平均粒子径及び無機物フィラーの含有量が本発明の範囲内にある絶縁膜を用いて形成した本発明例1~58で得られた金属ベース基板は、ボイド含有率が低く、熱伝導性及び耐電圧性に優れることが確認された。
【0072】
これに対して、樹脂の粘度が本発明の範囲よりも大きい絶縁膜を用いた比較例1~3で得られた金属ベース基板の絶縁膜は、熱抵抗が大きくなった。これは、熱圧着時での絶縁膜中の樹脂の粘度が高く、ボイドに樹脂が流れずに、ボイドが多く残存したためである。
また、α-アルミナ粒子分散ポリイミド溶液のα-アルミナ濃度が30質量%とされた絶縁膜を用いた比較例4~12で得られた金属ベース基板は、熱抵抗が大きくなった。これは、絶縁膜中のα-アルミナ粒子の含有量が少なくなり、絶縁膜の熱伝導度が低下したためである。一方、α-アルミナ粒子分散ポリイミド溶液のα-アルミナ濃度が90質量%とされた絶縁膜を用いた比較例15では、絶縁膜を形成できなかった。これは、樹脂の含有量が少なくなりすぎたためである。
【0073】
また、α-アルミナ粒子の平均粒子径が20μmを超える絶縁膜を用いた比較例13で得られた金属ベース基板は、膜厚当たりの耐電圧が低くなった。これは、無機物フィラーの周りに電界の集中が起こり、絶縁破壊しやすくなったためである。無機物フィラーの平均粒子径が20μm以下である場合は、絶縁膜中の無機物フィラーの濃度が均一になりやすくなり、電界の集中が起こりにくくなるため、絶縁耐電圧が低下しにくいと考えられる。一方、α-アルミナ粒子の平均粒子径が0.1μm未満である絶縁膜を用いた比較例14で得られた金属ベース基板は、ボイド含有率が高くなった。これは、α-アルミナ粒子の粒子径が小さくなりすぎたことによって、α-アルミナ粒子に対する樹脂の流動抵抗が大きくなり、気孔が混入しやすくなったためである。
【0074】
さらに、エポキシ系樹脂を用いた比較例16で得られた金属ベース基板は、ボイド含有率が高く、膜厚当たりの耐電圧が低くなった。これは、熱による劣化が起こりやすいエポキシ樹脂では高温で加熱することができず、樹脂の粘度を下げられないため、ボイドが多く残ってしまったためである。
【0075】
図3に、本発明例5で作製した絶縁膜の断面のSEM写真を示し、図4に、比較例14で作製した絶縁膜の断面のSEM写真を示す。図3に示す本発明例5で得られた絶縁膜では、樹脂(ポリイミド樹脂)11と無機物フィラー(α-アルミナ粒子)12との間にボイド13は殆ど見られなかった。これに対して、図4に示す比較例14で得られた絶縁膜では、樹脂(ポリイミド樹脂)11と無機物フィラー(α-アルミナ粒子)12との間に多数のボイド13が確認できた。
【0076】
[本発明例59]
ポリイミドDとNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とを混合し、ポリイミドDを溶解させることによって、ポリイミド濃度が5質量%のポリイミド溶液を調製した。また、α-アルミナ粉末(結晶構造:単結晶、平均粒子径:0.7μm)とNMPとを混合し、30分間超音波処理を行なうことによって、α-アルミナ粒子濃度が10質量%のα-アルミナ粒子分散液を調製した。
【0077】
ポリイミド溶液とα-アルミナ粒子分散液とを、α-アルミナ濃度が50体積%となる割合で混合した。次いで、得られたα-アルミナ粒子分散ポリイミド溶液に水を滴下して、ポリイミドを析出させて、ポリイミド粒子とα-アルミナ粒子とを含む電着液を調製した。得られた電着液の固形分のα-アルミナ濃度は50体積%であった。
【0078】
得られた電着液に、厚み0.3mmで30mm×20mmの銅基板と、ステンレス電極とを浸漬し、銅基板を正極、ステンレス電極を負極として、100Vの直流電圧を印加して、銅基板の表面に電着膜を形成した。なお、銅基板の裏面は保護テープを貼り付けて、電着膜が形成されないように保護した。電着膜の膜厚は、加熱によって生成する絶縁膜の耐電圧が2.5kVとなる厚みとした。次いで、電着膜を形成した銅基板を、大気雰囲気下、250℃で3分間加熱して、電着膜を乾燥させて、絶縁膜付き銅基板を作製した。そして、得られた絶縁膜付き金属基板の絶縁膜を用いること以外は、本発明例1と同様にして、金属ベース基板を作製した。
【0079】
[本発明例60~71、比較例17~19]
α-アルミナ粉末として表5に示すものを用い、電着液の固形分のα-アルミナ濃度を表5に示す濃度としたこと以外は、本発明例59と同様にして絶縁膜付き銅基板を作製した。そして、得られた絶縁膜付き金属基板を用いたこと以外は、本発明例59と同様にして、金属ベース基板を作製した。なお、表中の粘度は、200℃における樹脂の粘度である。
【0080】
【表5】
【0081】
[評価]
得られた金属ベース基板の絶縁膜について、本発明例1と同様の評価を行なった。その結果を、表6に示す。
【0082】
【表6】
【0083】
電着法によって形成した絶縁膜であって、樹脂の粘度、無機物フィラーの平均粒子径及び無機物フィラーの含有量が本発明の範囲内にある絶縁膜を用いて形成した本発明例59~71で得られた金属ベース基板は、ボイドが低減しやすく、熱伝導性及び耐電圧性に優れることが確認された。
一方、電着液の固形分のα-アルミナ濃度が30体積%とされた比較例17~19で得られた金属ベース基板は、熱抵抗が大きくなった。これは、絶縁膜中のα-アルミナ粒子の含有量が少なくなり、絶縁膜の熱伝導度が低下したためである。
【符号の説明】
【0084】
10 絶縁膜
11 樹脂
12 無機物フィラー
13 ボイド
20 金属ベース基板
21 金属基板
22 金属箔
図1
図2
図3
図4