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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】回転すべり軸受及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20240625BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20240625BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240625BHJP
   F16C 3/14 20060101ALI20240625BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20240625BHJP
【FI】
F16C33/10 Z
F16C33/14 Z
F16C17/02 Z
F16C3/14
B23K26/354
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020073293
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021025653
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019145204
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田井中 直也
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀信
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 英爾
(72)【発明者】
【氏名】内海 貴人
(72)【発明者】
【氏名】フナル アウレル
(72)【発明者】
【氏名】柴山 博久
(72)【発明者】
【氏名】荻谷 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】熨斗 良次
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-049330(JP,A)
【文献】特開2004-254492(JP,A)
【文献】特開2007-333004(JP,A)
【文献】特開2013-123765(JP,A)
【文献】米国特許第07866888(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00- 9/06,
17/00-17/26,
33/00-33/28
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受部材と、当該軸受部材と潤滑油を介して摺接する軸部材とを有する回転すべり軸受において、
前記軸部材は、その外表面に複数の凹部を有し、
前記凹部の少なくとも一部の内面は、凹凸面とされ、
前記凹部の開口端のうちの一対の長辺の開口端において、一方の長辺の開口端の曲率が、他方の長辺の開口端の曲率より小さい回転すべり軸受。
【請求項2】
前記凹部の少なくとも底面は、凹凸面とされている請求項1に記載の回転すべり軸受。
【請求項3】
前記凹部は、開口端の一辺が0.26±0.01mm及び0.03±0.01mm、深さが0.007±0.005mm、前記軸部材の摺接面の面積に対する開口端の面積の占有率が0.19%±0.07%である請求項1又は2に記載の回転すべり軸受。
【請求項4】
前記凹凸面の高さは、0mmを超え、0.002mm以下である請求項に記載の回転すべり軸受。
【請求項5】
前記軸部材は、自動車用エンジンのクランクシャフトのクランクジャーナル又はクランクピンである請求項1~のいずれか一項に記載の回転すべり軸受。
【請求項6】
軸受部材と、当該軸受部材と潤滑油を介して摺接する軸部材とを有する回転すべり軸受の製造方法において、
前記軸部材の外表面にレーザー光を照射して複数の凹部を形成し、
前記複数の凹部を形成したのち、前記軸部材の外表面に、前記軸部材の回転方向に沿って研削又は研磨を施し、前記凹部の開口端に生じた溶融層を除去する回転すべり軸受の製造方法。
【請求項7】
前記凹部の少なくとも一部の内面に、レーザー光を照射して凹凸面を形成する請求項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項8】
前記軸部材の外表面に、パルスレーザースポット光を重ねながら照射することで、前記凹部及び前記凹凸面を同時に形成する請求項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項9】
前記研削又は研磨を施して溶融層を除去したのち、前記軸部材の外表面に、前記軸部材の回転方向に沿って研削又は研磨をさらに施し、回転方向の後方側の開口端の曲率を、回転方向の前方側の開口端の曲率より小さくする請求項6~8のいずれか一項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項10】
前記軸部材は、自動車用エンジンのクランクシャフトのクランクジャーナル又はクランクピンである請求項6~9のいずれか一項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転すべり軸受及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンのクランクシャフトを支持するメインベアリングや、クランクピンを支持するコンロッドベアリングの内面の摺接面に、直径が0.01~1.0mm,深さが0.001~0.1mmの円形凹部からなるテクスチャーを形成し、クランクシャフトやクランクピンとの接触面積を減らすことで摩擦抵抗を小さくする軸受部材が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-217108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した直径が0.01~1.0mm,深さが0.001~0.1mmの円形凹部からなるテクスチャーは、摺接面の表面積が小さいため、潤滑油の保持性が低いという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、潤滑油の保持性を高めることで耐焼き付け性に優れた回転すべり軸受及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸部材の外表面に複数の凹部を形成し、当該凹部の少なくとも一部の内面を、凹凸面とすることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の凹部の内面を凹凸面とすることで、潤滑油の濡れ性が良好となり、潤滑油の保持性が高まる。その結果、耐焼き付け性に優れた回転すべり軸受及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の回転すべり軸受の一実施の形態を適用したクランクシャフトを示す正面図である。
図2図1のII部のクランクピンを拡大して示す図である。
図3】本発明に係る凹部の形成例を示す正面拡大図である。
図4】本発明に係る凹部及び凹凸面の形成例を示す正面拡大図及び断面図である。
図5】本発明に係る凹部の形成方法の一例を示す正面図である。
図6A】本発明に係る凹部の形成方法の他例を示す側面図である。
図6B図6AのVIB部を示す拡大断面図である。
図7】本発明の回転すべり軸受の製造方法の一実施の形態において、クランクピンの摺接面に研削又は研磨を施す方法の一例を示す、図2のVII-VII線に沿う断面図である。
図8】本発明に係る凹部を形成したのち、クランクピンの摺接面に研削又は研磨を施す方法の一例を示す拡大断面図(その1)である。
図9】本発明に係る凹部を形成したのち、クランクピンの摺接面に研削又は研磨を施す方法の一例を示す拡大断面図(その2)である。
図10】本発明の回転すべり軸受の製造方法の一実施の形態により製造された回転すべり軸受の作用効果を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の回転すべり軸受の一実施の形態であるクランクシャフト1を示す正面図である。本発明の回転すべり軸受及びその製造方法は、特に限定はされないが、自動車用エンジンのクランクシャフト1のクランクジャーナル11やクランクピン12などの軸部材を含む回転すべり軸受に適用することができる。図示するクランクシャフト1は、4気筒エンジンのクランクシャフトであって、エンジン側の軸受部材に支持されるクランクジャーナル11と、ピストンのコネクティングロッドに連結されるクランクピン12と、クランクジャーナル11とクランクピン12とを繋ぐクランクアーム13と、ピストンの往復運動により生じる慣性力を軽減するためのバランスウェイト14と、を備える。
【0010】
本実施形態の回転すべり軸受を構成する軸部材としてのクランクジャーナル11は、図示しない半割状のメタルベアリングを介してエンジンブロックに支持されている。また、本実施形態の回転すべり軸受を構成する軸部材としてのクランクピン12は、図示しない半割状のメタルベアリングを介してピストンのコネクティングロッドに連結されている。これらのメタルベアリングが、本実施形態の回転すべり軸受の軸受部材を構成する。そして、クランクジャーナル11とメタルベアリング、クランクピン12とメタルベアリングとは、潤滑油を介して摺動自在とされている。
【0011】
図2は、図1のII部のクランクピン12を拡大して示す図である。符号CLは、クランクピン12の中心軸線を示す。以下、クランクピン12を本発明の回転すべり軸受の軸部材の一例として説明し、クランクピン12を軸部材2とも称する。ただし、本発明に係る軸部材は、クランクピン12のほか、クランクジャーナル11を同様の構成とすることにより、本発明を適用することができる。
【0012】
図2に示すように、中実軸状の軸部材2であるクランクピン12にあっては、クランクピン12の外表面の全体が図示しないメタルベアリングとの摺接面21とされ、当該摺接面21には、全体にわたって均等乃至均一に、複数の凹部22が形成されている。図3は、本発明に係る凹部22の形成例を示す正面図であり、図面における左右方向がクランクピン12の中心軸線CLの延在方向である。図3には、3つの凹部22を示し、凹部22の開口端の寸法L1,L2と、3つの凹部22の開口端の位置関係に関する寸法M1,M2を示す。
【0013】
図3に示すように、1つの凹部22の開口端は、長辺L1が0.26mm±0.01mm(250~270μm)、短辺L2が0.03mm±0.01mm(20~40μm)の両端が半円でその間が長方形とされ、深さL3(図4参照)が0.007mm±0.005mm(2~12μm)とされている。また、図3に示すように、互いに隣接する2つの凹部の長辺方向に沿う間隔M1が1.82mm±0.1mm、短辺方向に沿う間隔M2が2.66mm±0.1mmとされている。そして、これらの寸法関係により、クランクピン12の摺接面21の面積に対する凹部22の開口端の面積の占有率は、0.19%±0.07%となる。
【0014】
なお、クランクピン12の中心軸線CL方向に沿う一つの列の凹部22と、その上下の列の凹部22とは、図3に示すように、開口端の位置が千鳥状に配置されている。潤滑油を保持する凹部22の配置を均等にするためである。
【0015】
図4は、本発明に係る凹部22及び凹凸面26の形成例を示す図であり、図4(A)は、図3と同じく凹部22の開口端を示す正面図、図4(B)はB-B線に沿う断面図、図4(C)はC-C線に沿う断面図、図4(D)はD-D線に沿う断面図である。図4(B)及び(D)に示すように、凹部22は、開口端とほぼ同じ矩形状とされた底面24と、当該底面24の対向する一対の長辺からそれぞれ開口端の長辺に向かう一方の側壁面25と、底面24の対向する一対の短辺からそれぞれ開口端の短辺に向かう他方の側壁面25と、いう5つの内面23を含んで構成される。
【0016】
本発明に係る凹部22を構成する5つの内面23のうち、少なくとも底面24は、平滑な面に比べて表面粗さが大きい凹凸面26とされている。凹部22の内面23を凹凸面26とすることで、潤滑油の濡れ性が良好となり、潤滑油の保持性が高まる。ただし、クランクシャフト1は回転するので、凹部22に保持された潤滑油にも遠心力が作用する。ここで、遠心力の作用方向に沿う側壁面25は、潤滑油が滑り易く保持力が相対的に小さいのに対し、底面24は、遠心力の作用方向と直角であるため、潤滑油が滑り難く保持力が相対的に高いからである。
【0017】
図4に示す本実施形態の凹部22においては、図4(B)に示すように、底面24が凹凸面26とされ、これに加えて図4(C)に示すように、当該底面24の対向する一対の長辺からそれぞれ開口端の長辺に向かう一対の側壁面25も凹凸面26とされている。ここで、凹凸面26の高さは、0mmを超え、0.002mm以下であることが好ましい。上述したように、凹部22の深さL3が、0.002~0.012mmであるので、凹凸面26の高さは、この凹部22の深さL3を超えない高さにすることが好ましい。凹凸面26の高さが凹部22の深さを超えると、凹凸面26がメタルベアリングと接触することで、クランクシャフト1の回転抵抗が増加するからである。
【0018】
図5は、本発明に係る凹部22の形成方法の一例を示す正面図であり、符号CLは、クランクピン12の中心軸線を示す。本発明に係る凹部22は、鍛造や転造などの塑性加工により形成することもできるが、ポンチなどの工具の交換頻度が大きくなることから、レーザー光を照射することにより凹部22を形成することが好ましい。レーザー光を照射することで凹部22を形成すると、レーザー光を照射した後の冷却に伴う焼き戻し効果によって、凹部22の開口端が軟らかくなり、耐久性が向上するという効果もある。
【0019】
レーザー光を照射することで凹部22を形成する場合、レーザー光とクランクピン12との相対的な微小オシレート動作により凹部22を形成してもよいが、加工時間を短縮するために、パルスレーザースポット光を重ねながら走査し、照射することが好ましい。たとえば、図5に示すレーザーマーキング装置3を用い、クランクピン12の摺接面21におけるレーザー光31のスポット光32のスポット径Dが0.03mm±0.01mmとなるように、パルスレーザースポット光を、クランクピン12の中心軸線CLに沿って走査する。
【0020】
クランクピン12の中心軸線CLに沿う一列に複数の凹部22を形成し終わるまでクランクピン12は中心軸線CLの周りに回転させず固定するが、一列の凹部22を形成し終わると、クランクピン12をその中心軸線CLを中心にして次の列まで僅かに回転させ、再びパルスレーザースポット光を、クランクピン12の中心軸線CLに沿って走査する。一つの凹部22を形成するには、図5の中図に示すように、パルスレーザースポット光が重なるように、パルスレーザースポット光をクランクピン12の中心軸線CLに沿って少しずつ走査する。これにより、同図の右図に示すように、一つの凹部22が形成されるが、レーザー加工は、金属溶解によりポケットを加工する工法であり、凹部22の底面24は、溶解した金属が凝固した面となるため、特段の加工を施さなくても粗い面、すなわち凹凸面26となる。
【0021】
図6Aは、本発明に係る凹部22の形成方法の他例を示す側面図、図6Bは、図6AのVIB部を示す拡大断面図である。クランクピン12などの軸部材2の摺接面21に形成する複数の凹部22は、図4(D)に示すように、摺接面21に対して直角方向に延在する凹部22にするほか、図6Bに示すように、凹部22を、クランクピン12などの軸部材2の径方向に対し、角度αだけ傾斜して形成してもよい。図6Bに示す方向にクランクピン12が相対的に回転すると、凹部22の開口端の各辺のうちの長辺221に、摺接面21に接触するメタルベアリング(不図示)からの押し付け荷重が最も作用する。図6Bに示すように、凹部22を、クランクピン12の径方向に対して角度αだけ傾斜させると、長辺221が鈍角になるのでメタルベアリングからの押し付け荷重の応力集中を緩和することができる。
【0022】
図6Bに示すように、凹部22を、クランクピン12の径方向に対して角度αだけ傾斜させるには、図6Aに示すように、レーザーマーキング装置3をクランクピン12の中心軸線CLに対して角度αだけ傾斜させた状態で走査すればよい。
【0023】
本発明の回転すべり軸受の軸部材2は、図5図6Bに示すような方法で凹部22を形成したまま軸受として使用してもよいが、必要に応じて以下の研削又は研磨処理を施してもよい。図7は、クランクピン12の外表面である摺接面21に研削又は研磨を施す方法の一例を示す、図2のVII-VII線に沿う断面図である。実線矢印Xは、クランクシャフト1が内燃機関に組み込まれた場合のクランクピン12の回転方向を示す。本実施形態に係るクランクピン12に複数の凹部22を形成したのち、クランクピン12の摺接面21に研磨紙などの研磨材4を当接し、クランクピン12側を実線矢印X方向に回転させる。これにより、凹部22の開口端、とくに一対の長辺の開口端222,223に、研削又は研磨が施される。なお、クランクピン12の摺接面21と研磨材4は、クランクピン12側が相対的に実線矢印X方向に回転すればよいので、クランクピン12側を固定し、研磨材4側を実線矢印Xとは反対方向に回転させてもよいし、クランクピン12と研磨材4の両方を反対方向に回転させてもよい。この工程における研削代又は研磨代は、摺接面21から隆起するバリ28が摺接面21と面一になる程度であることが好ましい。
【0024】
図5図6Bに示すようにレーザー光を照射して凹部22を形成すると、図8に示すように、溶融した金属が凝固し、凹部22に溶融層27が生じるが、凹部22の開口端222,223に溶融層27が隆起し、これがバリ28になることが少なくない。このバリ28は、完成品としてクランクピン12に残ると、メタルベアリングが損傷する。そのため、クランクピン12の摺接面21に研削又は研磨を施すことにより、除去する。特に、レーザー加工により形成される凹部22の開口端222,223のバリ28は、硬度が低く脆弱になった溶融層27であるため、研削又は研磨処理により容易に除去することができる。これにより、凹部22の開口端222,223に生じたバリ28がメタルベアリングを損傷することが抑制でき、耐久性が向上する。
【0025】
図9は、クランクピン12の摺接面21に研削又は研磨を施したのちの開口端222,223の形状の一例を示す拡大断面図である。実線Xは、クランクシャフト1が内燃機関に組み込まれた場合のクランクピン12の回転方向を示す。クランクピン12の摺接面21に研削又は研磨を施して凹部22の開口端222,223に生じたバリ28を除去したのち、クランクピン12の回転方向Xに沿ってさらに研削又は研磨を施すと、図9に示すように、開口端222,223は、なだらかな形状となる。ここで、クランクピン12の回転方向Xに対し、後方側の開口端223の曲率は、回転方向Xに対し前方側の開口端222の曲率より小さく形成される。研削又は研磨をクランクピン12の回転方向Xに沿って施すことにより、前方側の開口端222に比べて後方側の開口端223のほうが研磨材4に対面する面積が大きく、より大きい荷重を受けて積極的に除去されるからである。
【0026】
そして、研削又は研磨を施し、図10に示すように、クランクピン12の回転方向Xの前方側の開口端222の曲率が、後方側の開口端223に比べて大きく形成されると、前方側の摺接面21に保持された潤滑油は、破線矢印方向に流出し難くなる。他方、クランクピン12の回転方向Xの後方側の開口端223の曲率が、前方側の開口端222に比べて小さく形成されると、凹部22に保持された潤滑油が、実線矢印方向に排出されて後方側の摺接面21に保持され易くなる。これにより、摺接面21における潤滑油の保持性がより向上する。
【0027】
以上のとおり、本実施形態の回転すべり軸受によれば、軸部材2は、その外表面に複数の凹部22を有し、前記凹部22の少なくとも一部の内面23は、凹凸面26とされているので、潤滑油の濡れ性が良好となり、潤滑油の保持性が高まる。その結果、耐焼き付け性に優れた回転すべり軸受を提供することができる。
【0028】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、凹部22の少なくとも底面24は、凹凸面26とされているので、軸部材2に遠心力が作用しても、底面24の凹凸面26に保持された潤滑油は滑り難く保持力が高い。その結果、潤滑油の保持性がより一層高くなる。
【0029】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、凹部22は、開口端の一辺が0.26±0.01mm及び0.03±0.01mm、深さが0.007±0.005mm、前記軸部材2の摺接面21の面積に対する開口端の面積の占有率が0.19%±0.07%、凹凸面26の高さは、0mmを超え、0.002mm以下であるため、潤滑油の濡れ性が良好となり、潤滑油の保持性が高まると同時に、凹凸面26がメタルベアリングと接触することで、クランクシャフト1の回転抵抗が増加することを抑制することができる。
【0030】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、凹部22は軸部材2の径方向に対し傾斜して形成されているので、軸受部材であるメタルベアリングからの押し付け荷重の応力集中を緩和することができる。
【0031】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、凹部22の開口端のうちの一対の長辺の開口端222,223において、一方の長辺の開口端223の曲率が、他方の長辺の開口端222の曲率より小さく形成されているので、摺接面21における潤滑油の保持性を向上させることができる。
【0032】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、軸部材2の外表面にレーザー光を照射して複数の凹部22を形成するので、レーザー光を照射した後の冷却に伴う焼き戻し効果によって、凹部22の開口端が軟らかくなり、耐久性が向上する。
【0033】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、凹部22の少なくとも一部の内面23に、レーザー光を照射して凹凸面26を形成するので、凹凸面26を容易に形成することができる。
【0034】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、軸部材2の外表面に、パルスレーザースポット光を重ねながら照射することで、前記凹部22及び前記凹凸面26を同時に形成するので、加工時間(タクトタイム)を短縮させながら、容易に凹部22と凹凸面26を形成することができる。
【0035】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、複数の凹部22を形成したのち、軸部材2の外表面に、軸部材の回転方向Xに沿って研削又は研磨を施し、凹部22の開口端222,223に隆起した溶融層(バリ28)を除去するので、メタルベアリングの損傷が抑制でき、耐久性を向上させることができる。
【0036】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、凹部22の開口端222,223に隆起した溶融層(バリ28)を除去したのち、軸部材2の外表面に、軸部材2の回転方向Xに沿って研削又は研磨をさらに施し、軸部材2の回転方向Xの後方側の開口端223の曲率を、回転方向の前方側の開口端222の曲率より小さく形成するので、摺接面21における潤滑油の保持性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0037】
1…クランクシャフト
11…クランクジャーナル
12…クランクピン
13…クランクアーム
14…バランスウェイト
2…軸部材
21…摺接面
22…凹部
23…内面
24…底面
25…側壁面
26…凹凸面
3…レーザーマーキング装置
31…レーザー光
32…スポット光
CL…中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10