(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの挙動推定方法、挙動推定装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2020076184
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡部 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山手 茂樹
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-041805(JP,A)
【文献】特開2014-041816(JP,A)
【文献】特開2018-073708(JP,A)
【文献】特開2012-154665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を、コンピュータを用いて推定する方法であって、
前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する
蓄電デバイスの挙動推定方法。
【請求項2】
前記シミュレーションモデルは、
前記二次粒子外におけるイオンの濃度、該イオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、及び前記二次粒子外における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む第1物理量を計算する第1モデル、
前記二次粒子内におけるイオンの濃度、該イオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、及び前記二次粒子内における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む第2物理量を計算する第2モデル、並びに
前記一次粒子内の吸蔵イオンの濃度を含む第3物理量を計算する第3モデル
を組み合わせて前記蓄電デバイスの挙動を推定するためのモデルである
請求項1に記載の挙動推定方法。
【請求項3】
前記第1モデルは、前記蓄電デバイスの電極及びセパレータが並ぶ厚み方向に前記第1物理量を計算する一次元モデルである
請求項2に記載の挙動推定方法。
【請求項4】
前記第2モデルは、前記蓄電デバイスの電極及びセパレータが並ぶ厚み方向、並びに前記二次粒子の内部方向に前記第2物理量を計算する2次元モデルである
請求項2又は請求項3に記載の挙動推定方法。
【請求項5】
前記第2モデルは、実質的に前記二次粒子の内部方向のみにイオン及び電子の拡散・泳動が生じるように、各方向の拡散係数、イオン伝導率、及び電子伝導率を設定してある
請求項4に記載の挙動推定方法。
【請求項6】
前記第3モデルは、前記蓄電デバイスの電極及びセパレータが並ぶ厚み方向、前記二次粒子の内部方向、並びに前記一次粒子の内部方向に前記第3物理量を計算する3次元モデルである
請求項2から請求項5の何れか1つに記載の挙動推定方法。
【請求項7】
前記第3モデルは、実質的に前記一次粒子の内部方向のみに吸蔵イオンの拡散が生じるように、各方向の拡散係数を設定してある
請求項6に記載の挙動推定方法。
【請求項8】
一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を推定する挙動推定装置であって、
前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する推定部
を備える挙動推定装置。
【請求項9】
一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を推定するコンピュータに、
前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する
処理を実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの挙動推定方法、挙動推定装置、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイスは、電動車両、無停電電源装置、安定化電源などに含まれる直流又は交流電源装置に広く利用されている。蓄電デバイスは、再生可能エネルギー又は既存の発電システムにて発電された電力を蓄電しておく大規模なシステムにおいて利用が拡大している。
【0003】
蓄電デバイスでは、容量管理、安全性管理、劣化予測および充放電制御などの目的で、電池の内部状態を高精度に把握または予測する技術が求められる。内部状態とは例えば、固相電位分布、液相電位分布、反応分布、電流密度分布などが挙げられる。例えば、特許文献1には、電池モデルを用いて、電極の電位や反応物質の濃度を算出し、電極面の内部状態を推定するシミュレーション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、NewmanモデルやSPモデル(単粒子モデル)をベースとして電池モデルを構築している。Newmanに代表される電池モデルでは、電解液中に活物質粒子を表す均一な球の固体粒子が存在することを仮定している。
【0006】
しかしながら、実際の活物質は、多数の固体粒子(一次粒子)が集まった二次粒子により形成されている。このような活物質を用いた蓄電デバイス(例えば、リチウムイオン電池)では、一次粒子同士の隙間に電解液が満たされている。Newmanモデルでは、固体粒子外(液相)においてリチウムイオンなどのイオンが拡散・泳動し、固体粒子内(固相)においてリチウムなどの吸蔵イオンが拡散することを仮定しており、一次粒子同士の間隙においてリチウムイオンが拡散・泳動することについては考慮されていない。このため、従来のNewmanモデルでは、二次粒子内におけるリチウムイオンの拡散・泳動に起因した現象(例えば濃度過電圧や電圧緩和挙動などの過渡応答)を精度良く推定することはできない。
【0007】
本発明は、二次粒子内のイオンの拡散・泳動を考慮して蓄電デバイスの状態を推定できる蓄電デバイスの挙動推定方法、挙動推定装置、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
蓄電デバイスの挙動推定方法は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を、コンピュータを用いて推定する方法であって、前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する。
【0009】
挙動推定装置は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を推定する挙動推定装置であって、前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する推定部を備える。
【0010】
コンピュータプログラムは、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を推定するコンピュータに、前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本願によれば、二次粒子内のイオンの拡散・泳動を考慮して蓄電デバイスの状態を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】比較例として示すリチウムイオン電池モデルの模式図である。
【
図4】実施の形態における電池モデルの模式図である。
【
図5】実施の形態におけるシミュレーションモデルを説明する説明図である。
【
図6】一次元モデルより得られる物理量のx方向の分布を示すグラフである。
【
図9】挙動推定装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図11】挙動推定装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
蓄電デバイスの挙動推定方法は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を、コンピュータを用いて推定する方法であって、前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する。
この挙動推定方法では、活物質粒子を一次粒子の凝集体からなる二次粒子として記述し、二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを考慮して蓄電デバイスの挙動を推定するので、活物質粒子を均質な固体球として記述した従来のNewmanモデルと比較して、より現実に即したモデルを用いることができ、シミュレーションの精度を向上できる。
【0014】
前記シミュレーションモデルは、前記二次粒子外におけるイオンの濃度、該イオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、及び前記二次粒子外における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む第1物理量を計算する第1モデル、前記二次粒子内におけるイオンの濃度、該イオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、及び前記二次粒子内における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む第2物理量を計算する第2モデル、並びに前記一次粒子内の吸蔵イオンの濃度を含む第3物理量を計算する第3モデルを組み合わせて前記蓄電デバイスの挙動を推定するためのモデルであるとよい。この構成によれば、二次粒子外におけるイオン及び電子の移動を表す第1モデル、二次粒子内におけるイオン及び電子の移動を表す第2モデル、及び一次粒子内の吸蔵イオンの移動を表す第3モデルを組み合わせるので、より現実に即したモデルを用いることができ、シミュレーションの精度を向上できる。
【0015】
なお、一次粒子中に吸蔵されたイオン、すなわち固相中のイオンのことを吸蔵イオンと呼ぶこととする。
【0016】
前記第1モデルは、前記蓄電デバイスの電極及びセパレータが並ぶ厚み方向に前記第1物理量を計算する一次元モデルであるとよい。この構成によれば、正極及び負極間のイオンの挙動、並びに正極及び負極での電子の厚み方向の伝導を一次元モデルを用いて推定できる。
【0017】
前記第2モデルは、前記蓄電デバイスの電極及びセパレータが並ぶ厚み方向、並びに前記二次粒子の内部方向に前記第2物理量を計算する二次元モデルであるとよい。この構成によれば、二次粒子内のイオン及び電子の挙動を二次元モデルを用いて推定できる。
【0018】
前記第2モデルは、実質的に前記二次粒子の内部方向のみにイオンの拡散・泳動、及び電子の伝導が生じるように、各方向の拡散係数、イオン伝導率、及び電子伝導率を設定するとよい。この構成によれば、二次粒子内でのイオン及び電子の移動方向を、二次粒子の内部方向に制限できる。
【0019】
前記第3モデルは、前記蓄電デバイスの電極及びセパレータが並ぶ厚み方向、前記二次粒子の内部方向、並びに前記一次粒子の内部方向に前記第3物理量を計算する三次元モデルであるとよい。この構成によれば、一次粒子内の吸蔵イオンの挙動を三次元モデルを用いて推定できる。
【0020】
前記第3モデルは、実質的に前記一次粒子の内部方向のみに吸蔵イオンの拡散が生じるように、各方向の拡散係数を設定してあるとよい。この構成によれば、一次粒子内での吸蔵イオンの移動方向を、一次粒子の内部方向に制限できる。
【0021】
挙動推定装置は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を推定する挙動推定装置であって、前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する推定部を備える。
この挙動推定装置では、活物質粒子を一次粒子の凝集体からなる二次粒子として記述し、二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを考慮して蓄電デバイスの挙動を推定するので、活物質粒子を1つの固体球として記述した従来のNewmanモデルと比較して、より現実に即したモデルを用いることができ、シミュレーションの精度を向上できる。
【0022】
コンピュータプログラムは、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる蓄電デバイスの挙動を推定するコンピュータに、前記二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、前記二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを、夫々異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
このコンピュータプログラムでは、活物質粒子を一次粒子の凝集体からなる二次粒子として記述し、二次粒子外におけるイオンの拡散・泳動過程と、二次粒子内におけるイオンの拡散・泳動過程とを考慮して蓄電デバイスの挙動を推定させるので、活物質粒子を1つの固体球として記述した従来のNewmanモデルと比較して、より現実に即したモデルを用いることができ、シミュレーションの精度を向上できる。
【0023】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
図1は蓄電デバイスの構成例を示す概略図である。実施の形態における蓄電デバイス1は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む多孔体電極に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる二次電池である。蓄電デバイス1の一例はリチウムイオン電池である。以下では、蓄電デバイス1の一例として、リチウムイオン電池について説明する。
【0024】
蓄電デバイス1は、扁平形状の巻回電極体10と、図に示していない電解質とが中空直方体状の電池ケース20に収容されることにより構成される。電池ケース20の蓋部21には、外部接続用の正極端子11A及び負極端子12Aが設けられる。正極端子11A及び負極端子12Aは、それぞれ正極集電体11B及び負極集電体12Bに電気的に接続されている。電池ケース20の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量かつ熱伝導性が高い金属材料が用いられる。
【0025】
図2は巻回電極体10の構成例を示す概略図である。巻回電極体10は、正極活物質層11Cが形成されたシート状の正極11と、負極活物質層12Cが形成されたシート状の負極12とを、2枚のシート状のセパレータ13を介して重ね合わせ、これらを巻回することにより構成されている。正極11及び負極12は、互いにシートの幅方向にずらした状態で配置される。正極11の幅方向の一端には、正極活物質層11Cが形成されていない領域が設けられており、この領域には正極集電体11Bが接合される。正極集電体11Bには、例えばアルミニウム箔が用いられる。同様に、負極12の幅方向の他端には、負極活物質層12Cが形成されていない領域が設けられており、この領域には負極集電体12Bが接合される。負極集電体12Bには、例えば銅箔が用いられる。
【0026】
正極活物質層11Cは正極活物質を含む。正極活物質は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む。一次粒子には、リチウム金属複合酸化物の粒子が用いられる。リチウム金属複合酸化物は、リチウム、酸素、及びそれ以外の元素(例えば、Mn、Nb、W、P、Siなど)を含む。リチウム及び酸素以外の元素は1種類であってもよく、複数種類であってもよい。一次粒子は、例えば0.01~0.1μm程度の粒径を有し、その凝集体である二次粒子は、例えば1~10μm程度の粒径を有する。粒径は、例えば体積累積頻度が50%となる平均粒子径により定義される。正極活物質層11Cは、導電助剤、バインダ等を更に含んでもよい。導電助剤として、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料が好適に用いられる。バインダとして、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が用いられる。
【0027】
負極活物質層12Cは負極活物質を含む。負極活物質として、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が用いられる。負極活物質層12Cは、バインダ、増粘剤等を更に含んでもよい。バインダとして、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等が用いられる。増粘剤として、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等が用いられる。
【0028】
セパレータ13は、多孔性の樹脂フィルムにより形成される。多孔性の樹脂フィルムとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂フィルムを使用できる。セパレータは、単層構造の樹脂フィルムから形成されてもよく、二層以上の複層構造を有する樹脂フィルムから形成されてもよい。セパレータ13は、耐熱層を備えてもよい。
【0029】
巻回電極体10と共に電池ケース20に収容される電解質には、従来のリチウムイオン電池と同様のものを使用できる。例えば、電解質として、有機溶媒中に支持塩を含有させた電解質を使用できる。有機溶媒として、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒が用いられる。支持塩として、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 等のリチウム塩が好適に用いられる。電解質は、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0030】
蓄電デバイス1の一例として、
図1及び
図2では巻回電極体10を備える角型のリチウムイオン電池について説明した。代替的に、積層型電極体を備えるリチウムイオン電池であってもよく、円筒型リチウムイオン電池、ラミネート型リチウムイオン電池等であってもよい。更に、電解質に固体を用いた全固体リチウムイオン電池であってもよい。
【0031】
以下、実施の形態における蓄電デバイス1の挙動推定方法について説明する。
図3は比較例として示すリチウムイオン電池モデルの模式図である。Newmanモデルでは、活物質を固体の球として取り扱い、電解液中に活物質を表す球が近接して並んだ状態を想定して、リチウムイオン電池をモデル化する。この電池モデルでは、リチウムイオンは球体間を満たす電解液領域を拡散・泳動するが、球体の内部には侵入しないこと、吸蔵リチウムイオンは球体内にのみに存在し、球体の内部を拡散することを前提としている。この電池モデルでは、リチウムイオン電池が放電すると、負極活物質中の吸蔵リチウムイオンは、負極活物質固相内を拡散し、電気化学反応により固液界面(球体表面)においてリチウムイオンとなる。リチウムイオンは、電解液中を拡散・泳動して正極活物質の表面に到達し、電気化学反応により固液界面(球体表面)において吸蔵リチウムイオンとなり、正極活物質固相内を拡散し、吸蔵される。Newmanモデルでは、正極及び負極の電位(固相電位)、電解液の電位(液相電位)、液相リチウムイオン濃度、及び固相吸蔵リチウムイオン濃度を独立変数とした方程式を解くことにより、リチウムイオン電池の内部状態を推定する。
【0032】
図4は実施の形態における電池モデルの模式図である。実施の形態では、活物質粒子が一次粒子の凝集体である二次粒子により構成されていることを想定して、蓄電デバイス1をモデル化する。この電池モデルでは、活物質を構成する二次粒子(活物質粒子)間は電解液で満たされている。二次粒子は電解液が浸透する間隙を有するため、二次粒子内の一次粒子が存在しない領域は電解液によって満たされている。このため、リチウムイオンは、二次粒子外部の電解液領域を拡散・泳動すると共に、二次粒子内においても一次粒子間の電解液領域を拡散・泳動する。この電池モデルでは、蓄電デバイス1が放電すると、負極活物質中の吸蔵リチウムイオンは、電気化学反応により一次粒子及び電解液間の固液界面にてリチウムイオンとなる。リチウムイオンは、二次粒子の外部へ放出され、電解液中を拡散・泳動して正極11に到達する。正極11に到達したリチウムイオンは、正極活物質を構成する二次粒子の内部へ入り込み、電気化学反応により電解液及び一次粒子間の固液界面にて吸蔵リチウムイオンとなる。実施の形態では、二次粒子外におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程と、二次粒子内におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程とを、それぞれ異なる拡散係数及びイオン伝導率を用いて個別に表したシミュレーションモデルを用いて、蓄電デバイス1の挙動を推定する。
【0033】
図4の模式図では、説明のために、複数の一次粒子が二次粒子内に分散して存在している状態を示しているが、一次粒子は他の1又は複数の一次粒子と結合した状態で存在してもよい。
図4の模式図では、一次粒子及び二次粒子をそれぞれ球体として示しているが、一次粒子及び二次粒子は任意形状を有する粒子であってもよい。二次粒子を
図4に示すように球体として表した場合、二次粒子外は二次粒子を規定する球体の外部を表し、二次粒子内は二次粒子を規定する球体の内部を表す。
【0034】
図5は実施の形態におけるシミュレーションモデルを説明する説明図である。実施の形態のシミュレーションモデルは、正極11及び負極12間のリチウムイオンの拡散・泳動過程を記述する第1モデルと、二次粒子内のリチウムイオンの拡散・泳動過程を記述する第2モデルと、一次粒子内の吸蔵リチウムイオンの拡散過程を記述する第3モデルとを組み合わせて、蓄電デバイス1の挙動を推定するためのモデルである。
【0035】
第1モデルは、負極活物質を構成する二次粒子から放出されるリチウムイオンが電解液中を拡散・泳動し、セパレータを経由して、正極活物質を構成する二次粒子の表面に到達するまでの現象を記述する。第1モデルは、負極12、セパレータ13、及び正極11が並ぶ方向(電池の厚み方向)に、二次粒子外におけるリチウムイオンの濃度、リチウムイオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、二次粒子外における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む物理量を計算するためのモデルである。第1モデルは、電池の厚み方向(x方向とする)にのみ物理量を計算するので、以下では一次元モデルと記載する。
【0036】
第2モデルは、負極活物質及び正極活物質を構成する二次粒子の内部においてリチウムイオンが拡散・泳動する現象を記述する。第2モデルは、上述したx方向、及び二次粒子の内部方向(二次粒子を表す球体の表面から中心に向かう方向)に、二次粒子内におけるリチウムイオンの濃度、リチウムイオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、及び二次粒子内における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む物理量を計算するモデルである。第2モデルは、x方向、及び二次粒子の内部方向(y方向とする)に物理量を計算するので、以下では二次元モデルと記載する。
【0037】
第3モデルは、負極活物質及び正極活物質内の二次粒子を構成する一次粒子の内部において吸蔵リチウムイオンが拡散する現象を記述する。第3モデルは、上述したx方向及びy方向、並びに一次粒子の内部方向(一次粒子を表す球体の表面から中心に向かう方向)に、一次粒子内における吸蔵リチウムイオンの濃度を含む物理量を計算するためのモデルである。第3モデルは、x方向及びy方向、並びに一次粒子の内部方向(z方向とする)に物理量を計算するので、以下では三次元モデルと記載する。
【0038】
実施の形態において、一次粒子中に吸蔵されたリチウムイオン、すなわち固相中のリチウムイオンのことを、吸蔵リチウムイオンと呼ぶこととする。一方、単にリチウムイオンと記載する場合、電解液中に存在するリチウムイオンを表す。
【0039】
図5では、正極11内の現象を表すシミュレーションモデルを示したが、負極12についても同様のモデルにより表現される。
【0040】
以下、一次元モデルについて説明する。
一次元モデルにおいて、電池の厚み方向(x方向)におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程は、以下の電荷保存を表すNernst-Plank式(数1)と、リチウムイオンの拡散を表す拡散方程式(数2)とにより表される。
【0041】
【0042】
il(1)xxは、一次元モデルでのx方向の液相電流密度、σl(1)xxは、一次元モデルでのx方向の液相イオン伝導率を表す。ここで、添字のlは液相の値であることを表す。固相の値である場合、添字のsが用いられる。添字の(1)は一次元モデルにおける値であることを表す。二次元モデルにおける値には、添字の(2)が用いられ、三次元モデルにおける値には、添字の(3)が用いられる。添字のxxは、x方向における電位差又は濃度差によって、x方向に電流又は物質が流れることを表す。φl は液相電位、cl は液相リチウムイオン濃度を表し、t+ はカチオン輸率を表す。Rは気体定数、Tは温度、Fはファラデー定数、fは活量係数である。数1の第2式に示すil(2)yy|y=Yは、一次モデルとの接点(y=Y)における、二次元モデルでのy方向の液相電流密度を表す。Sv2は電極単位体積あたりの二次粒子の表面積である。
【0043】
【0044】
Nl(1)xxは、一次元モデルでのx方向の液相リチウムイオンの物質流束、Dl(1)xxは、一次元モデルでのx方向の液相拡散係数を表す。添字の意味は、上記と同様である。数2の第1式におけるNl(2)yy|y=Yは、一次モデルとの接点(y=Y)における、二次元モデルでのy方向の液相リチウムイオンの物質流束を表す。
【0045】
一次元モデルにおいて、電池の厚み方向(x方向)における電子の移動は、以下の数3により表される。
【0046】
【0047】
is(1)xxは、一次元モデルでのx方向の固相電流密度、σs(1)xxは、一次元モデルでのx方向の固相伝導率を表す。数2の第2式におけるis(2)yy|y=Yは、一次元モデルとの接点(y=Y)における、二次元モデルでのy方向の固相電流密度を表す。
【0048】
図6は一次元モデルより得られる物理量のx方向の分布を示すグラフである。
図6に示すグラフの横軸は電池の厚み方向(x方向)における位置を表し、縦軸は電位又はリチウムイオン濃度を表す。蓄電デバイス1の放電時には、正極11の固相電位は、負極12の固相電位よりも高い状態にあり、液相リチウムイオン濃度及び液相電位は、負極12から正極11に向かうにつれて減少する。x方向に減少するような濃度差及び電位差が生じることによって、電解液中のリチウムイオンは、負極12から正極11へ拡散・泳動し、正極活物質中の二次粒子表面に到達する。
【0049】
図6には示していないが、蓄電デバイス1の充電時には、負極12の固相電位は、正極11の固相電位よりも高い状態にあり、液相リチウムイオン濃度及び液相電位は、正極11から負極12に向かうにつれて減少する。x方向とは反対方向(-x方向)に減少するような濃度差及び電位差が生じることによって、電解液中のリチウムイオンは、正極11から負極12へ拡散・泳動し、負極活物質中の二次粒子表面に到達する。
【0050】
次に、二次元モデルについて説明する。
図7は二次元モデルを説明する説明図である。
図7にハッチングで示す矩形領域は、二次粒子中の間隙をリチウムイオンが拡散と泳動とによって移動する領域を表す。矩形領域の上辺(y=Y)は二次粒子の表面に対応し、矩形領域の下辺(y=0)は二次粒子の最奥部(中心)に対応する。矩形領域内の上下方向(y方向)の移動は、リチウムイオンが二次粒子中を径方向に移動することに対応する。矩形領域内の左右方向(x方向)の移動は、リチウムイオンが隣接する二次粒子に移ることに対応するが、通常考えなくてよい。二次元モデルの上辺の各点における液相電位φ
l 及び液相濃度c
l は、一次元モデルの対応する各点における液相電位φ
l 及び液相濃度c
lと共通である。二次元モデルは、上辺を通じて一次元モデルに接続される。
【0051】
一次元モデルにおけるリチウムイオンの拡散係数をDl(1)xx、イオン伝導率をσl(1)xxとし、二次元モデルにおけるリチウムイオンのx方向の拡散係数をDl(2)xx、イオン伝導率をσl(2)xx、y方向の拡散係数をDl(2)yy、イオン伝導率をσl(2)yyとする。このとき、二次粒子内の間隙でのリチウムイオンの移動は、二次粒子外でのリチウムイオンの移動よりも遅いので、Dl(2)yy≪Dl(1)xx、σl(2)yy≪σl(1)xxが成立する。二次元モデル内では、リチウムイオンは上下方向(y方向、二次粒子の内部方向)に動くが、左右方向(x方向、隣接する二次粒子へ移動する方向)には殆ど動かないので、0≒Dl(2)xx≪Dl(2)yy、0≒σl(2)xx≪σl(2)yyが成立する。
【0052】
二次元モデルにおいて、二次粒子の内部方向(y方向)におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程は、以下の電荷保存を表すNernst-Plank式(数4)と、リチウムイオンの拡散を表す拡散方程式(数5)とにより表される。
【0053】
【0054】
il(2)yyは、二次元モデルでのy方向の液相電流密度、σl(2)yyは、二次元モデルでのy方向の液相イオン伝導率を表す。φl(2) は二次元モデルでの液相電位、cl は液相リチウムイオン濃度を表し、t+ はカチオン輸率、itot は反応電流密度を表す。Rは気体定数、Tは温度、Fはファラデー定数、fは活量係数である。
【0055】
【0056】
Nl(2)yyは、二次元モデルでのy方向の液相リチウムイオンの物質流束、Dl(2)yyは、二次元モデルでのy方向の液相拡散係数を表す。
【0057】
数4及び数5は、二次粒子の内部方向(y方向)におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程を表す方程式である。数4及び数5に加え、隣接する二次粒子に移る方向(x方向)におけるリチウムイオンの拡散係数を表す方程式を設定してもよい。ただし、上述したように、リチウムイオンは隣接する二次粒子に移る方向(x方向)には殆ど動かないので、通常は考えなくてよい。本実施の形態では、数4及び数5のみを用いて二次粒子内のリチウムイオンの拡散・泳動過程を表す。
【0058】
二次元モデルにおいて、二次粒子の内部方向(y方向)における電子の移動は、以下の数6により表される。
【0059】
【0060】
is(2)yyは、二次元モデルでのy方向の固相電流密度、σs(2)yyは、二次元モデルでのy方向の固相伝導率を表す。二次元モデルの上辺の各点における固相電位φs は、二次元モデルの対応する各点における固相電位φs と共通である。
【0061】
二次元モデルの面内の各点は、一次粒子表面において液相と固相とが接する部分であり、電気化学反応が起こる場でもある。よって、この面内において、数7で表されるButler-Volmer式と、数8で表される平衡電位の式とを解けばよい。
【0062】
【0063】
itotは反応電流密度、Sv1は二次粒子単位体積あたりの一次粒子表面積、i0 は交換電流密度、αは移行係数、nは関与電子数、ηは活性化過電圧、Rは気体定数、Tは温度である。
【0064】
【0065】
φs は固相電位、φl は液相電位、Eeqは平衡電位である。平衡電位は、活物質粒子最外周の固相リチウム濃度の関数として表されることが多い。
【0066】
次に、三次元モデルについて説明する。
図8は三次元モデルを説明する説明図である。
図8に直方体として示す領域は、一次粒子の内部を吸蔵リチウムイオンが拡散によって移動する領域を表す。直方体の紙面手前の面(z=Z)は一次粒子の表面に対応し、紙面奥の面(z=0)は一次粒子の最奥部(中心)に対応する。直方体の奥行き方向への移動は、吸蔵リチウムイオンが一次粒子の内部へ拡散することに対応する。直方体のx方向やy方向への移動は、吸蔵リチウムイオンがある一次粒子から別の一次粒子に直接移動することを表すが、このような動きはないので、通常は考えなくてよい。
【0067】
一次粒子内の吸蔵リチウムイオンの拡散を表す拡散方程式は次式により与えられる。
【0068】
【0069】
cs は固相吸蔵リチウムイオン濃度、Ds(3)zzは固相における吸蔵リチウムイオンのz方向の拡散係数を表す。同様の方程式がx方向およびy方向においても成立するが、前述の通りこれらの方向への移動はないので、0≒Ds(3)xx、0≒Ds(3)yyと考えてよく、したがって拡散方程式を考える必要はない。
【0070】
一次粒子の中心位置をz=0、最外周位置をz=Zとした場合、以下の境界条件が成立する。
【0071】
【0072】
Js は単位面積当たりの電荷移動反応速度を表し、itot との間に、itot =Js Sv1Fnの関係を有する。Sv1は二次粒子単位体積あたりの一次粒子表面積、itot は反応電流密度、Fはファラデー定数、nは関与電子数である。
【0073】
上述の数式やパラメータは一例に過ぎない。例えば、開回路電位及び交換電流密度は固体粒子最外周での吸蔵リチウムイオン濃度の関数としたが、リチウムイオン濃度、温度、劣化状態の関数とするなど、適宜変更されてもよい。パラメータは、電気化学の理論に則ったものではなく、実験結果等に基づいて設定されてもよい。
【0074】
本実施の形態では、直交座標系における一次元モデル、二次元モデル、及び三次元モデルについて説明した。代替的に、斜交座標系において規定した一次元モデル、二次元モデル、及び三次元モデルを用いてもよい。電池の形状、粒子の形状などを考慮して、適宜に円筒座標系や球座標系を選択してもよい。更に、粒子径や充填密度に分布がある場合等において、二次元モデルの形状は長方形以外の形状であってもよく、三次元モデルは直方体以外の形状であってもよい。
【0075】
以下、蓄電デバイス1の挙動を推定する挙動推定装置100について説明する。
挙動推定装置100は、上述の一次元モデル、二次元モデル、及び三次元モデルを組み合わせたシミュレーションモデルを用いて、蓄電デバイス1の挙動を推定する。
図9は挙動推定装置100の内部構成を説明するブロック図である。挙動推定装置100は、汎用又は専用のコンピュータであり、制御部101、記憶部102、通信部103、操作部104、表示部105等を備える。挙動推定装置100は、サーバ装置として利用されてもよく、クライアント装置として利用されてもよい。代替的に、挙動推定装置100は、蓄電デバイス1のBMU(Battery Management Unit)に搭載され、電気化学オブザーバ(状態推定器)として利用されてもよい。
【0076】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成されている。制御部101が備えるCPUは、ROM又は記憶部102に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体を本願の挙動推定装置として機能させる。
【0077】
代替的に、制御部101は、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路又は演算回路であってもよい。制御部101は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0078】
記憶部102は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いた記憶装置を備える。記憶部102には、制御部101によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムは、蓄電デバイス1の挙動をシミュレートするシミュレーションプログラムを含む。
【0079】
シミュレーションプログラムは、例えば実行バイナリである。シミュレーションプログラムの元となる理論式は、蓄電デバイス1の挙動を表す代数方程式又は微分方程式によって記述される。シミュレーションプログラムは、MATLAB(登録商標)、Amesim(登録商標)、Twin Builder(登録商標)、MATLAB&Simulink(登録商標)、Simplorer(登録商標)、ANSYS(登録商標)、Abaqus(登録商標)、Modelica(登録商標)、VHDL-AMS(登録商標)、C言語、C++、Java(登録商標)などの市販の数値解析ソフトウェア又はプログラミング言語によって記述されてもよい。数値解析ソフトウェアは、1D-CAEと称される回路シミュレータであってもよく、3D形状で行う有限要素法や有限体積法などのシミュレータであってもよい。代替的に、これらに基づいた縮退モデル(ROM : Reduced-Order Model)を用いてもよい。
【0080】
記憶部102に記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体M1により提供されてもよい。記録媒体M1は、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリである。この場合、制御部101は、不図示の読取装置を用いて記録媒体M1からプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを記憶部102にインストールする。記憶部102に記憶されるプログラムは、通信部103を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部101は、通信部103を通じてプログラムを取得し、取得したプログラムを記憶部102にインストールする。
【0081】
記憶部102には、シミュレーションの結果として得られる数理モデルが記憶されてもよい。数理モデルは、例えば、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより実行される実行コードである。数理モデルは、プログラミング言語又は数値解析ソフトウェアにより参照される、定義情報若しくはライブラリファイルであってもよい。
【0082】
更に、記憶部102は、蓄電デバイス1の情報を記憶する電池テーブルを有していてもよい。
図10は電池テーブルの一例を示す概念図である。電池テーブルは、例えば、電池を識別する電池ID、及び電池情報を関連付けて記憶する。電池テーブルに登録される電池情報は、例えば、正極及び負極の情報、電解液の情報、タブの情報などを含む。正極及び負極の情報とは、正極及び負極の活物質名、厚み、幅、奥行き、開回路電位などの情報である。電解液及びタブの情報とは、イオン種、輸率、拡散係数、伝導率などの情報である。電池テーブルには、蓄電デバイス1の物理的性質、動作状態、回路構成等の情報を参照するリンクが含まれてもよい。電池テーブルに記憶される情報は、蓄電デバイス1の製造者等によって登録される。電池テーブルに記憶されている情報は、蓄電デバイス1の挙動をシミュレートする際に、シミュレーション条件の一部として利用される。
【0083】
通信部103は、通信ネットワークを介して外部装置と通信を行うための通信インタフェースを備える。通信部103は、外部装置へ送信すべき情報が制御部101から入力された場合、入力された情報を外部装置へ送信する共に、通信ネットワーク介して受信した外部装置からの情報を制御部101へ出力する。
【0084】
操作部104は、キーボード、マウスなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部105は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。実施の形態では、挙動推定装置100が操作部104及び表示部105を備える構成としたが、操作部104及び表示部105は必須ではなく、挙動推定装置100の外部に接続されたコンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部のコンピュータへ出力する構成であってもよい。
【0085】
図11は挙動推定装置100が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。挙動推定装置100の制御部101は、シミュレーション対象の蓄電デバイス1に関してシミュレーション条件を取得する(ステップS101)。制御部101は、記憶部102に格納されている電池テーブルから必要なパラメータを取得すればよい。代替的に、制御部101は、操作部104を通じて必要なパラメータを受け付けてもよい。
【0086】
制御部101は、一次元モデルを用いて、二次粒子外におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程を含む現象を計算する(ステップS102)。二次粒子外のリチウムイオンの拡散係数は、二次粒子内のリチウムイオンの拡散係数よりも高い値に設定される。制御部101は、ステップS102において、例えば上述した数1~数3に基づく演算を実行することによって、二次粒子外におけるリチウムイオンの濃度、リチウムイオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、二次粒子内における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む物理量を計算する。
【0087】
制御部101は、二次元モデルを用いて、二次粒子内におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程を含む現象を計算する(ステップS103)。二次粒子内のリチウムイオンの拡散係数は、二次粒子外のリチウムイオンの拡散係数よりも低い値に設定される。制御部101は、ステップS103において、例えば上述した数4~数8に基づく演算を実行することによって、二次粒子内におけるリチウムイオンの濃度、リチウムイオンの伝導に寄与するイオン伝導相の電位、二次粒子内における電子の伝導に寄与する電子伝導相の電位を含む物理量を計算する。
【0088】
制御部101は、三次元モデルを用いて、一次粒子内における吸蔵リチウムイオンの拡散過程を含む現象を計算する(ステップS104)。制御部101は、ステップS104において、例えば数9に基づく演算を実行することによって、一次粒子内の吸蔵リチウムイオンの濃度を含む物理量を計算する。
【0089】
制御部101は、表示部105を通じて、計算結果を出力する(ステップS105)。代替的に、制御部101は、通信部103を通じて、計算結果を所定の外部端末へ送信してもよい。制御部101は、例えば
図6のグラフに示すような、液相リチウムイオン濃度の分布、液相電位の分布、正極及び負極内の固相電位の分布を計算結果として出力できる。
【0090】
以上のように、実施の形態に係る挙動推定方法では、活物質粒子を一次粒子の凝集体からなる二次粒子として記述し、二次粒子外におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程と、二次粒子内におけるリチウムイオンの拡散・泳動過程とを考慮して蓄電デバイス1の挙動を推定する。よって、活物質粒子を1つの固体球として記述した従来のNewmanモデルと比較して、より現実に即したモデルを用いることができ、シミュレーションの精度を向上できる。特に、二次粒子内部でのリチウムイオンの拡散・泳動過程を考慮することにより、低SOC(State Of Charge)における充放電特性やパルス電流入力に対する過渡応答を良好に再現することができる。更に、一次粒子の分散性やバインダの効果等を電気化学シミュレーションにおいて考慮することが可能となり、材料合成の研究開発促進に貢献できる。実施の形態に示したシミュレーションモデルを用いることにより、MD(Molecular Dynamics)計算や第一原理計算に依らずに、サブミクロン以下のスケールの現象を、蓄電デバイス1の充放電というマクロ現象と直結させて計算できる。
【0091】
開示された実施の形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0092】
例えば、実施の形態では、電解質が液体の巻回式リチウムイオン電池を例に挙げて説明したが、シミュレーション対象の蓄電デバイス1は、一次粒子の凝集体からなる二次粒子を活物質粒子として含む活物質に対し、電荷担体であるイオンが可逆的に挿入及び脱離することにより充放電が行われる電池であればよい。例えば、全固体リチウムイオン電池、バイポーラ型リチウムイオン電池(電極が電気的直列に接続されたもの)、亜鉛空気電池、ナトリウムイオン電池、鉛電池など電池種に限らず、実施の形態で説明したシミュレーション手法を適用できる。
【0093】
実施の形態では、電荷移動反応が生じることを想定しているが、シミュレーション対象の蓄電デバイス1は、二次粒子を電極材料に含む電気二重層キャパシタ等であってもよい。電気二重層キャパシタの場合は、数7、8に代えて以下の式を用いればよい。
【0094】
【0095】
ここで、Cはキャパシタの単位表面積当り静電容量、ηは電気二重層に電荷が貯まることにより生じる電圧である。
【符号の説明】
【0096】
1 蓄電デバイス
10 巻回電極体
11A 正極端子
11B 正極集電体
11C 正極活物質層
12A 負極端子
12B 負極集電体
12C 負極活物質層
13 セパレータ
20 電池ケース
21 蓋部
100 挙動推定装置
101 制御部
102 記憶部
103 通信部
104 操作部
105 表示部