(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】健康診断支援システム、および健康診断支援システムの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20240625BHJP
G16H 30/00 20180101ALI20240625BHJP
G16H 10/40 20180101ALI20240625BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G16H20/00
G16H30/00
G16H10/40
A61B5/00 G
(21)【出願番号】P 2020081221
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋日
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 諒一
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-091324(JP,A)
【文献】特開2009-076102(JP,A)
【文献】特開2020-9069(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1321815(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報、および、前記対象者の日常の行動データを含む対象者情報を取得する取得部と、
学習済みモデルを用い、前記取得部が取得した前記対象者の前記画像情報、および前記対象者情報を入力とし、
出力として前記対象者の
疾病を得、そして、該疾病から、予め記憶されている対応付けテーブルを用いて診断項目を特定する特定部と、
前記特定部が特定した診断項目を含む健康診断内容を出力させる出力部と、
を備える健康診断支援システム。
【請求項2】
前記画像情報は、胸部X線画像である、請求項1に記載の健康診断支援システム。
【請求項3】
前記特定部が特定する診断項目には、X線動態撮影が含まれる、請求項1、または請求項2に記載の健康診断支援システム。
【請求項4】
前記対象者情報には、前記対象者の過去の診断項目が含まれる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【請求項5】
前記特定部はさらに、特定した前記診断項目に関する検査を行う実施時期を特定し、
前記健康診断内容には、前記実施時期の情報が含まれ、
前記特定部は、前記実施時期の特定として、前記学習済みモデルから得られた前記疾病のリスクを用いて、前記リスクが所定閾値未満の場合には、前記実施時期を次回の定期診断に実施するように設定し、前記所定閾値以上の場合には、前記実施時期を前記次回の定期診断よりも早めた時期に設定する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【請求項6】
前記行動データには、前記対象者の所定期間におけ
る摂取カロリー、食事摂取回数、歩数
、生理周期、心拍数、呼吸数、労働時間、会話量、トイレ回数、および尿量の少なくとも1つが含まれる、請求項1から請求項5のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【請求項7】
前記対象者情報には、前記対象者の身長、体重、年齢、既往歴、喫煙歴、問診結果、および血液検査結果の少なくとも1つが含まれる、請求項1から請求項6のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【請求項8】
前記学習済みモデルは、入力を前記画像情報、および前記対象者情報、
出力を疾患としたデータのセットを用いて教師あり学習により学習されたものである、請求項1から請求項7のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【請求項9】
健康診断支援のための制御プログラムであって、
健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報、および、前記対象者の日常の行動データを含む対象者情報を取得するステップ(a)と、
学習済みモデルを用い、前記ステップ(a)で取得した前記対象者の前記画像情報、および前記対象者情報を入力とし、前記対象者の
疾病を出力するステップ(b1)と、
予め記憶されている対応付けテーブルを用いて、前記ステップ(b1)で得られた前記疾病から診断項目を特定するステップ(b
2)と、
前記ステップ(b
2)で特定した診断項目を含む健康診断内容を出力させるステップ(c)と、
を含む処理をコンピューターに実行させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は健康診断支援システム、および健康診断支援システムの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの企業では、従業員の健康管理のため定期的に健康診断が行われる。一般に健康診断では、年齢、性別により区分けした区分毎に一律の診断項目について検査が行われる。そして、診断項目の結果に基づいて、診断を下したり、追加の検査が行われたりする。
【0003】
特許文献1に開示された医療支援システムでは、問診によって取得された問診データから第1検査種別群のうちから第1検査種別を選択し、その第1検査種別の検査結果の第1検査データと、問診データから、次に行う検査種別を第2検査種別群から選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常の企業が行う健康診断では、区分毎に一律に設定した検査項目を実施するため、各個人では必要性が低い検査項目が含まれたりもする。
【0006】
また、特許文献1に開示された健康診断支援システムでは、問診データにより選択した第1の検査の検査結果に応じて、次の第2の検査を選択し、実施するものであり、複数回の検査を行わなくてはならず、効率的でない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、健康診断や人間ドックの検査において、適切な診断項目を特定して、診断の効率化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
(1)健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報、および、前記対象者の日常の行動データを含む対象者情報を取得する取得部と、
学習済みモデルを用い、前記取得部が取得した前記対象者の前記画像情報、および前記対象者情報を入力とし、前記対象者の診断項目を特定する特定部と、
前記特定部が特定した診断項目を含む健康診断内容を出力させる出力部と、
を備える健康診断支援システム。
【0010】
(2)前記画像情報は、胸部X線画像である、上記(1)に記載の健康診断支援システム。
【0011】
(3)前記特定部が特定する診断項目には、X線動態撮影が含まれる、上記(1)、または上記(2)に記載の健康診断支援システム。
【0012】
(4)前記対象者情報には、前記対象者の過去の診断項目が含まれる、上記(1)から上記(3)のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【0013】
(5)前記特定部はさらに、特定した前記診断項目に関する検査を行う実施時期を特定し、
前記健康診断内容には、前記実施時期の情報が含まれる、上記(1)から上記(4)のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【0014】
(6)前記行動データには、前記対象者の所定期間における体重、体脂肪率、摂取カロリー、食事摂取回数、歩数、体温、生理周期、心拍数、呼吸数、労働時間、会話量、トイレ回数、および尿量の少なくとも1つが含まれる、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【0015】
(7)前記対象者情報には、前記対象者の身長、体重、年齢、既往歴、喫煙歴、問診結果、および血液検査結果の少なくとも1つが含まれる、上記(1)から上記(6)のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【0016】
(8)前記学習済みモデルは、入力を前記画像情報、および前記対象者情報、
出力を疾患としたデータのセットを用いて教師あり学習により学習されたものである、上記(1)から上記(7)のいずれかに記載の健康診断支援システム。
【0017】
(9)健康診断支援のための制御プログラムであって、
健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報、および、前記対象者の日常の行動データを含む対象者情報を取得するステップ(a)と、
学習済みモデルを用い、前記ステップ(a)で取得した前記対象者の前記画像情報、および前記対象者情報を入力とし、前記対象者の診断項目を特定するステップ(b)と、
前記ステップ(b)で特定した診断項目を含む健康診断内容を出力させるステップ(c)と、
を含む処理をコンピューターに実行させるための制御プログラム。
【0018】
(10)健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報、および、前記対象者の日常の行動データを含む対象者情報を取得するステップ(a)と、
学習済みモデルを用い、前記ステップ(a)で取得した前記対象者の前記画像情報、および前記対象者情報を入力とし、前記対象者の診断項目を特定するステップ(b)と、
前記ステップ(b)で特定した診断項目を含む健康診断内容を出力させるステップ(c)と、
を含む処理を行う支援方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る健康診断支援システムは、健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報、および、前記対象者の日常の行動データを含む対象者情報を取得する取得部と、学習済みモデルを用い、前記取得部が取得した前記対象者の前記画像情報、および前記対象者情報を入力とし、前記対象者の診断項目を特定する特定部と、前記特定部が特定した診断項目を含む健康診断内容を出力させる出力部と、
を備える。これにより、健康診断や人間ドックの検査において、適切な診断項目を特定して、診断の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る健康診断支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】学習済みモデルを用いた対象者の診断項目の出力処理を示すフローチャートである。
【
図3】第1の実施形態におけるステップS52の診断項目の特定処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図4】学習済みモデルの機械学習方法を示すフローチャートである。
【
図6】変形例における、ステップS52の診断項目の特定処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
(全体構成)
図1は、健康診断支援システム30の構成を示すブロック図である。健康診断支援システム30は例えばサーバーであり、行動データ収集部10、データベース20、および端末装置40と通信接続する。
【0023】
(行動データ収集部10)
行動データ収集部10は、例えばスマートフォン等の携帯型の端末装置、および/または対象者が所持する活動量計である。行動データ収集部10は、所定期間に渡った対象者の日常の行動データを収集する(以下、「対象者情報1」ともいう)。
【0024】
(対象者情報1)
行動データ収集部10が収集する対象者情報1には、歩数、体温、心拍数、血圧、体重、体脂肪率、呼吸数、会話量、摂取カロリー、食事摂取回数、生理周期、労働時間、トイレ回数、尿量、等の情報が含まれる。
【0025】
これらの情報は、行動データ収集部10自体で自動収集、または外部のBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信により接続する測定器を通じ、自動で収集した自動入力データ、および/または、対象者が行動データ収集部10のキー操作を通じて入力するマニュアル入力データである。
【0026】
(自動収集)
例えば、行動データ収集部10がスマートフォンであれば、加速度センサー等を用いて所定期間における歩数(歩行距離)、躓き回数を自動的に収集できる。また、行動データ収集部10が腕時計型の活動量計、またはウェアラブル血圧計であれば、歩数、体温、心拍数、血圧を、24時間継続して自動的に収集できる。
【0027】
また、行動データ収集部10がスマートフォンの場合に、外部の測定器として体重計(体組成計)と近距離無線通信することにより、対象者の日常の体重、および体脂肪率のデータを収集する。また外部の測定器としてドップラシフト方式の体動センサーを用いることで、呼吸数のデータを収集できる。例えば、この体動センサーは天井に取り付けられ、真下の対象者が仰臥するベッドに対してマイクロ波を送受信し、体動(例えば呼吸動)によって生じたマイクロ波のドップラシフトを検出することで、呼吸数を検出する。
【0028】
(自動、および手動収集)
また摂取カロリー、食事摂取回数は、スマートフォンの内蔵カメラにより対象者自身で摂取した食事を撮影し、これを装置側で自動解析することで食事摂取回数と摂取カロリーのデータを収集してもよく、あるいはマニュアル入力してもよい。また会話量は行動データ収集部10の内蔵マイクで収集した音声から、声紋などにより対象者の音声を分離し、これを解析することで、電話または対面での会話時間、会話速度のデータを収集できる。また同様の手法により対象者の咳の回数を収集してもよい。
【0029】
(手動収集)
例えば生理周期、労働時間、トイレ回数、尿量は行動データ収集部10の入力画面を通じてアニュアル入力により収集できる。
【0030】
行動データ収集部10によるデータ収集は、例えば、企業において定期健康診断が行われる前に、企業に属する複数の社員(例えば数十から数千人の範囲の人数)を対象者として行われる。これらの複数の対象者が携帯する行動データ収集部10を通じて所定期間に渡って行われ、所定タイミングで健康診断支援システム30に収集される。行動データ収集部10から健康診断支援システム30が収集したデータは、一時的、または永続的にデータベース20に蓄積するようにしてもよい。
【0031】
(データベース20)
データベース20は、複数の対象者の健康診断、または人間ドックに関する健康診断データが蓄積される。過去の健康診断、例えば、1年に1度の頻度で定期健康診断を行う場合には、複数の対象者それぞれの過去数年分の健康診断データ(以下、「対象者情報2」ともいう)が蓄積されてもよい。データベース20は、例えば企業の敷地内にあるオンプレミスサーバーであってもよく、あるいは商用のクラウドサービスを利用したクラウドサーバーであってもよい。
【0032】
(対象者情報2)
対象者情報2には、例えば、健診画像情報、身長、体重、年齢、既往歴、喫煙歴、問診結果、および血液検査結果のデータが含まれる。ここで「健診画像情報」とは、健康診断の診断項目に関連する画像情報であって、対象者を撮影して得られた画像情報であり、特に対象者の患部を撮影して得られたX線画像等の画像情報である。血液検査結果は、例えば、総タンパク、アルブミン、AST(GOT)・ALT(GPT)、γ-GTP、HDLコレステロール、LDLコレステロール、等である。
【0033】
対象者情報2の「健診画像情報」としては、X線画像の他にMRI(Magnetic Resonance Imaging)が含まれていてもよい。また、X線画像には、胸部X線画像、胸部、腹部、もしくは頭部のCT(Computed Tomography)画像、マンモグラフィ画像、X線動態画像が含まれてもよい。X線動態画像は、X線動態撮影装置により、例えば15fpsで連続パルス照射を行い,その画像から動態画像を作成することにより得られる。この対象者情報2には、過去の健康診断の診断項目が含まれる。例えば、上述の健診画像情報、および血液検査結果は過去の健康診断の診断項目である。
【0034】
(健康診断支援システム30)
健康診断支援システム30は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、およびRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等のメモリにより構成され、プログラムにしたがって各部の制御および演算処理を行う。健康診断支援システム30は、取得部310、特定部320、出力部330を備え、内部メモリには学習済みモデル350を記憶する。また、健康診断支援システム30は、通信I/F(インターフェース)を備え、有線、無線の通信によりネットワークを介して、行動データ収集部10、データベース20、端末装置40等の他の装置と通信する。この通信I/Fは、取得部310、および出力部330としても機能する。
【0035】
また、健康診断支援システム30は、装置内のメモリ等に記憶した学習済みモデル350を用いて、診断項目を特定する。この学習済みモデル350は、入力を多数の対象者それぞれの1回の診断におけるX線画像等の診断項目に関連する画像情報(健診画像情報)を含む対象者情報(対象者情報1、2)とし、出力を疾患(疾患有無、または疾患ありの場合にはさらに疾患名)とした教師あり学習により学習された学習済みモデルである(学習方法については後述する)。
【0036】
(取得部310)
健康診断支援システム30の取得部310は、ある対象者に関する対象者情報を取得する。具体的には行動データ収集部10から行動データとしての対象者情報1を取得し、データベース20からX線画像等の診断項目に関連する画像情報を含む対象者情報2を取得する。通信I/Fは、外部機器と通信するためのインターフェースである。通信I/Fによる通信には、イーサネット(登録商標)等の規格による有線通信、および/またはBluetooth(登録商標)、IEEE802.11等の規格による無線通信が含まれる。
【0037】
(特定部320)
特定部320は、対象者情報2に含まれるX線画像等の健診画像情報と、対象者情報1の行動データを入力とし、学習済みモデル350を用いて、診断項目を特定する。この特定される診断項目としては、例えば、マンモグラフィ検査、X線動態撮影、CT検査、MRI検査、内視鏡検査、超音波検査、等がある。
【0038】
(出力部330)
出力部330は、健康診断内容を端末装置40に送信する。この健康診断内容には、特定部320が特定した診断項目と、対象者ID(ID番号、対象者名等)の情報が含まれる。なお、この健康診断内容には、特定した疾病名とリスク(確率値)のデータ、推奨の診断時期のデータを含ませてもよい。
【0039】
(端末装置40)
端末装置40は、例えば健康保険組合等の医療保険者の担当者が使用するPC(パーソナルコンピュータ)である。例えば大企業の健康保険組合(組合管掌健康保険)の担当者(以下、「健保担当者」という)であれば、定期健康診断を行う場合に、対象者としての複数の従業員それぞれに対する推奨の診断項目のリストを受信する。
【0040】
これにより健保担当者は、過去の健康診断項目から今回(最近に行う健康診断)の診断項目(検査項目)を減らしたり、診断項目を増やしたりの判断を、対象者毎に判断できる。この場合、健康診断支援システム30は、過去(主に直前)の診断項目と、今回の診断項目とを比較し、増減がある場合には、その旨のタグを付与するようにしてもよい。これにより健保担当者は、容易に増減があることを認識できる。また、診断項目を増やす場合には、対象者毎に定期健康診断時期よりも少し前に、健保担当者が対象者に提案し、了承が得られた場合にこの提案の検査項目を実施するようにしてもよい。また、大企業で多数人の定期健康診断を行うような場合には、健保担当者は、複数人の対象者のそれぞれの健康診断項目から、定期の健康診断総額を算出するようにしてもよい。この場合、以前の定期健康診断総額との比較により、増額、減額を把握できる。また、費用の上限がある場合には、健保担当者は、例えばCT検査が従業員1万人のうち、10%の人数しか確保できない場合には、疾病のリスク、年齢等を加味して、CT検査の対象者を絞ることができる。
【0041】
(健康診断支援システムによる支援方法)
図2から
図4を参照し、支援方法について説明する。
図2は、支援方法における学習済みモデルを用いた対象者の診断項目の出力処理を示すフローチャートである。
【0042】
(ステップS51)
健康診断支援システム30は、対象者の対象者情報を取得する。この対象者は、例えば定期の健康診断を行う場合には、企業の全従業員である。この対象者は、健保担当者等が端末装置40を通じて、従業員の中から選択するようにしてもよい。
【0043】
選択された対象者に関する対象者情報には、上述のように行動データ収集部10を通じて取得した対象者情報1に含まれるいずれかの情報、およびデータベース20から取得した対象者を撮影した画像情報(例えば胸部X線画像)が含まれる。
【0044】
(ステップS52)
健康診断支援システム30の取得部310は、ステップS51で取得した対象者の少なくとも行動データ、および画像情報を含む対象者情報を用いて、診断項目を特定する。
【0045】
(第1の実施形態のステップS52)
図3は、第1の実施形態における、ステップS52の診断項目の特定処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【0046】
(ステップS521)
健康診断支援システム30の特定部320は、ステップS51で取得した、行動データ、および画像情報を含む対象者情報を入力とし、学習済みモデル350を用いて、出力としてリスク高の疾病の有無、および有りであればその疾病名を得る。
【0047】
(ステップS522)
続いて、特定部320は、健康診断支援システム30のメモリに予め記憶されている、疾病と診断項目を関連付けた対応付けテーブルを用いて、ステップS521で出力された1つ、または複数の疾病(疾病名)に関連する診断項目を特定する。例えば、ステップS521で乳がんのリスクが高いと判定された場合には、対応付けテーブルから診断項目としてマンモグラフィ検査を特定する。以上の処理により
図2の処理(ステップS53)に戻る。
【0048】
(ステップS53)
健康診断支援システム30の出力部330は、ステップS52で特定した診断項目を含めた健診内容を端末装置40に送信する。健診内容には、対象者IDが含まれる。健保担当者は、対象者毎の健診内容を確認し、健康診断支援システム30から推奨されたこの診断項目を採用するのであれば、次回の定期の健康診断の診断項目に追加する。
【0049】
このように本実施形態では、学習済みモデルを用い、取得部が取得した対象者の画像情報、および対象者情報を入力とし、対象者の診断項目を特定することで、健康診断や人間ドックの検査において、対象者毎の適切な診断項目を特定でき、ひいては診断の効率化を図ることができる。
【0050】
(学習済みモデル350の生成)
次に学習済みモデル350の機械学習方法について説明する。
図4は、学習済みモデルの機械学習方法を示すフローチャートである。
図4の処理においては、予め準備した画像情報(例えばX線画像)、および行動データを含む対象者情報を入力とし、出力を疾患(疾患有無/ありの場合の疾患名)とした多数(i組個(iは例えば数千から十数万))のデータセットを学習サンプルデータとして用い、これにより機械学習する。学習器(図示せず)としては、CPUおよびGPUのプロセッサを用いたスタンドアロンの高性能コンピューター、またはクラウドコンピューターを用い得る。以下においては、学習器において、パーセプトロンを組み合わせて構成したニューラルネットワークを用いた学習方法について説明するが、これに限られず、教師あり学習であれば、種種の手法を取り得る。例えば、例えば、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン(SVM)、ブースティング(Boosting)、ベイジアン(Bsysian)ネットワーク線形判別法、非線形判別法、等を適用できる。
【0051】
(ステップS61)
学習器は、教師データである学習サンプルデータを読み込む。最初であれば1組目(対象者情報(X線画像、行動データ等)、疾病のセット)の学習サンプルデータを読み込み、i回目であれば、i組目の学習サンプルデータを読み込む。
【0052】
(ステップS62)
学習器は、読み込んだ学習サンプルデータのうち入力データをニューラルネットワークに入力する。
【0053】
(ステップS63)
学習器は、ニューラルネットワークの推定結果、すなわち推定された疾病を、教師データ(疾病)と比較する。
【0054】
(ステップS64)
学習器は、比較結果からパラメータを調整する。例えば、バックプロパゲーション(Back-propagation、誤差逆伝搬法)という処理を行うことにより、比較結果の誤差が小さくなるように、パラメータを調整し、更新する。
【0055】
(ステップS65)
学習器は、1~i組目まで全データの処理が完了すれば(YES)、処理をステップS66に進め、完了していなければ(NO)、処理をステップS61に戻し、次の学習サンプルデータを読み込み、ステップS61以下の処理を繰り返す。
【0056】
(ステップS66)
学習器は、これまでの処理で構築された学習済みモデル350を記憶して終了する(エンド)。記憶先には、健康診断支援システム30の内部メモリが含まれる。上述の
図2、
図3の処理では、このようにして生成された学習済みモデル350を用いて診断項目を特定する。
【0057】
(入出力例)
図5は、実施例における入力と出力を示す表である。1行目の事例のNO.1では、身長、体重、血液検査、X線画像、年齢、問診、既往歴、喫煙歴と日々の血圧データ、飲酒量、喫煙量、摂取カロリー、栄養素、および/または体重変化(BMI変化)の入力から、出力1(ステップS521に対応)として対応する疾病発症として、乳がんの発症リスク判定が得られる。そして、内部メモリ等に記憶されている対応付けテーブルを用いて疾病に関する出力2(ステップS522に対応)として診断項目のマンモグラフィ検査が得られる。
【0058】
図5に示すNO.2も同様に、身長、体重、血液検査、X線画像、年齢、問診、既往歴、喫煙歴と日々の喫煙データ、咳の回数、運動量、呼吸数、および/または電話の音声データの入力から出力1として、肺がんCOPD(慢性閉塞性肺疾患)が得られ、出力2としてX線動態撮影、CT検査が得られる。X線動態撮影は、例えば胸部を撮影する場合に、静止画の胸部X線画像では、患部(癌組織)と正常部(肺、胸骨)とが重なって撮影されたような場合に、X線動態撮影で同じ領域を撮影することにより、より患部と正常部との識別が容易になる。
【0059】
図5に示すNO.3~5も同様に入力から、それぞれ、出力1として脳梗塞、胃がん、脂肪肝が、出力2としてMRI検査、上部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査が得られる。
【0060】
なお、NO.3の入力の「文章データ」、「タイピング速度」は、例えば、対象者が企業の従業員でオフィスに勤務するような場合に、使用するPCを行動データ収集部10として機能させることで収集できる。例えば、これらのPCを通じたキー入力動作を日々モニターすることにより、所定期間における文章データの誤入力率の変化、またはタイピング速度の変化割合を行動データとして収集できる。
【0061】
以上に説明した健康診断支援システム30の構成は、上述の実施形態の特徴を説明するにあたって主要構成を説明したのであって、上述の構成に限られず、特許請求の範囲内において、種種改変することができる。また、一般的な健康診断支援システム30が備える構成を排除するものではない。
【0062】
(変形例)
図6は、変形例における、ステップS52の診断項目の特定処理を示すサブルーチンフローチャートである。
図3に示した第1の実施形態では、健康診断支援システム30は、学習済みモデル350、および対応付けテーブルを用いて、2段階の処理により診断項目を特定した。一方で、以下に示す例では、対応付けテーブルを用いずに、学習済みモデル355のみを用いる。具体的には、ステップS525では、健康診断支援システム30の特定部320は、ステップS51で取得した、行動データ、および画像情報を含む対象者情報を入力とし、学習済みモデル355を用いて、出力として診断項目を特定する。
【0063】
この学習済みモデル355は、画像情報(例えばX線画像)、および行動データを含む対象者情報を入力とし、出力を診断項目とした多数のデータセットを学習サンプルデータとして、機械学習したものである。学習に用いる診断項目は、例えば、定期の健康診断を行った場合にその後に再検査となった診断項目を含む。また、診断項目に所見が追加された場合には、この診断項目を正解データとしてもよい。例えば、X線画像所見あり、心電図検査所見あり、聴診器で呼吸音の所見ありの場合である。この変形例においても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0064】
(他の変形例)
第1の実施形態においては対象者の入力データにより、疾病名およびリスク(確率値)を学習済みモデル350から出力として得た場合に、診断項目を特定したが、このリスクの値に応じて、診断項目の出力有無を設定するようにしてもよい。例えば、リスクが所定の第1閾値以下で、リスクが低い場合には、診断項目を出力しない。またこの閾値は健保担当者等により、端末装置40等を通じて適宜設定できるようにしてもよい。
【0065】
また、出力部330が端末装置40に出力する健診内容としては、実施時期の情報を含めてもよい。例えば、疾病のリスクが第2閾値以上の場合には、緊急性があるとして実施時期を早め、第2閾値未満の場合には、実施時期として次回の定期時期に実施するようにする。また、実施時期の情報として、マンモグラフィであれば、定期(年1回)の健康診断により毎年実施するようにし、超音波検査であれば隔年(2年毎)で実施するようにする。
【0066】
また、上述した実施形態に係る健康診断支援システム30における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウエア回路、またはプログラムされたコンピューターのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、USBメモリやDVD(Digital Versatile Disc)-ROM等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、一機能としてその検出部等の装置のソフトウエアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 行動データ収集部
20 データベース
30 健康診断支援システム
310 取得部
320 特定部
330 出力部
350、355 学習済みモデル
40 端末装置