(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブキット
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20240625BHJP
A63B 53/06 20150101ALI20240625BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20240625BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B53/06 Z
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020092569
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃生
【審査官】相川 俊
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-095574(JP,U)
【文献】米国特許第01361957(US,A)
【文献】実開平03-046360(JP,U)
【文献】特開平10-263116(JP,A)
【文献】米国特許第05199713(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
A63B 53/06
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブヘッドであって、
ヘッド本体と、トウ側パーツとを含み、
前記ヘッド本体は、フェースと、シャフト軸中心線を画定するホーゼル部と、前記シャフト軸中心線よりもトウ側に前記トウ側パーツを取り付けるための取付部とを備え、
前記トウ側パーツは、前記取付部に着脱自在に固定されており、
前記トウ側パーツを前記ヘッド本体の前記取付部から取り外したときに、ヘッド正面図におけるヘッド投影面積が小さくな
り、
前記トウ側パーツが前記取付部から取り外されたときのヘッド平面図において、前記取付部は、見えない位置に設けられている、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
ゴルフクラブヘッドであって、
ヘッド本体と、トウ側パーツとを含み、
前記ヘッド本体は、フェースと、シャフト軸中心線を画定するホーゼル部と、前記シャフト軸中心線よりもトウ側に前記トウ側パーツを取り付けるための取付部とを備え、
前記トウ側パーツは、前記取付部に着脱自在に固定されており、
前記トウ側パーツを前記ヘッド本体の前記取付部から取り外したときに、ヘッド正面図におけるヘッド投影面積が小さくなり、
前記トウ側パーツが前記取付部に固定されたときのヘッド平面図において、前記トウ側パーツは、見えない位置に設けられている、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記取付部は、ヘッド正面図において、前記シャフト軸中心線側に凹んだ輪郭を有する、請求項
1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記トウ側パーツは、ねじを用いて、前記取付部に固定される、請求項
1ないし3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記トウ側パーツが前記取付部に固定されたときの前記ヘッド投影面積A1と、前記トウ側パーツが前記取付部から取り外されたときの前記ヘッド投影面積A2との比(A1/A2)が1.02~1.12の範囲である、請求項
1ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記トウ側パーツは、前記ヘッド本体よりも小さい比重を有する低比重材料で形成される、請求項
1ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記トウ側パーツが前記取付部に固定されたときのヘッド平面図におけるヘッド投影面積B1と、前記トウ側パーツが前記取付部から取り外されたときのヘッド平面図におけるヘッド投影面積B2との比(B1/B2)が1.0~1.05の範囲である、請求項
1ないし6のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記トウ側パーツが前記取付部に固定された前記ゴルフクラブヘッドを水平面に置いたときに、前記トウ側パーツは、前記水平面に接触しない位置に設けられている、請求項
1ないし7のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
ゴルフクラブキットであって、
ヘッド本体と、複数のトウ側パーツとを含み、
前記ヘッド本体は、フェースと、シャフト軸中心線を画定するホーゼル部と、前記シャフト軸中心線よりもトウ側に前記トウ側パーツを取り付けるための取付部とを備え、
前記複数のトウ側パーツは、互いに交換可能に、前記取付部に固定することができ、
前記複数のトウ側パーツは、第1パーツと第2パーツとを含み、
前記第1パーツは、前記取付部に固定されたときに、ヘッド正面図において、第1のヘッド投影面積を提供し、
前記第2パーツは、前記取付部に固定されたときに、ヘッド正面図において、前記第1のヘッド投影面積よりも大きい第2のヘッド投影面積を提供
し、
前記第1パーツと実質的に同一の重量であるウエイトをさらに含み、
前記ウエイトは、前記取付部に着脱可能に固定される、
ゴルフクラブキット。
【請求項10】
前記第2パーツは、前記第1パーツと実質的に同一の重量である、請求項
9に記載のゴルフクラブキット。
【請求項11】
前記複数のトウ側パーツ及び前記ウエイトは、共通のねじを、同一のねじ孔に装着することで前記取付部に固定される、請求項
9又は10に記載のゴルフクラブキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブでボールを打撃する場合、ゴルファは、まず、ゴルフクラブヘッドの打撃面であるフェースを目標方向に向けて構える(アドレス)。次に、ゴルファは、ゴルフクラブを振り上げ(テイクバック)、その後、再び振り下ろす(ダウンスイング)。これらの一連の動作の中で、フェースがアドレスしたときの状態でボールを打撃することができれば、打球は意図された目標方向に飛行する。なお、本明細書の説明では、ゴルファとして、右利きのゴルファが想定されていることに留意されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダウンスイングにおいて、フェースが、アドレスしたときの状態にまで戻りきらないことがある。この場合、フェースは、目標方向よりも右側を向いた状態(以下、フェースが開いた状態という。)でボールを打撃し、打球は、目標方向よりも右に飛行する。
【0005】
逆に、ダウンスイングにおいて、フェースが、アドレスしたときの状態を超えて返ることがある。この場合、フェースは、目標方向よりも左側を向いた状態(以下、フェースが閉じた状態という。)で、ボールを打撃し、打球は、目標方向よりも左に飛行する。
【0006】
このように、フェースが開いた状態又は閉じた状態でボールを打撃すると、目標方向に打球を飛行させることができない。
【0007】
発明者らは、ダウンスイング時のゴルフクラブヘッドの空気抵抗に着目し、この空気抵抗を調整可能とすることで、ダウンスイング時のフェースの開き具合を調整できるゴルフクラブヘッドを完成させるに至った。
【0008】
本発明は、打球の飛行方向を調節可能なゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブキットを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴルフクラブヘッドであって、ヘッド本体と、トウ側パーツとを含み、前記ヘッド本体は、フェースと、シャフト軸中心線を画定するホーゼル部と、前記シャフト軸中心線よりもトウ側に前記トウ側パーツを取り付けるための取付部とを備え、前記トウ側パーツは、前記取付部に着脱自在に固定されており、前記トウ側パーツを前記ヘッド本体の前記取付部から取り外したときに、ヘッド正面図におけるヘッド投影面積が小さくなる、ゴルフクラブヘッドである。
【0010】
本発明の他の態様では、前記取付部は、ヘッド正面図において、前記シャフト軸中心線側に凹んだ輪郭を有しても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツは、ねじを用いて、前記取付部に固定されての良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツが前記取付部に固定されたときの前記ヘッド投影面積A1と、前記トウ側パーツが前記取付部から取り外されたときの前記ヘッド投影面積A2との比(A1/A2)が1.02~1.12の範囲とされても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツは、前記ヘッド本体よりも小さい比重を有する低比重材料で形成されても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツが前記取付部に固定されたときのヘッド平面図におけるヘッド投影面積B1と、前記トウ側パーツが前記取付部から取り外されたときのヘッド平面図におけるヘッド投影面積B2との比(B1/B2)が1.0~1.05の範囲とされても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツが前記取付部から取り外されたときのヘッド平面図において、前記取付部は、見えない位置に設けられても良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツが前記取付部に固定されたときのヘッド平面図において、前記トウ側パーツは、見えない位置に設けられても良い。
【0017】
本発明の他の態様では、前記トウ側パーツが前記取付部に固定された前記ゴルフクラブヘッドを水平面に置いたときに、前記トウ側パーツは、前記水平面に接触しない位置に設けられても良い。
【0018】
本発明の他の態様は、ゴルフクラブキットであって、ヘッド本体と、複数のトウ側パーツとを含み、前記ヘッド本体は、フェースと、シャフト軸中心線を画定するホーゼル部と、前記シャフト軸中心線よりもトウ側に前記トウ側パーツを取り付けるための取付部とを備え、前記複数のトウ側パーツは、互いに交換可能に、前記取付部に固定することができ、前記複数のトウ側パーツは、第1パーツと第2パーツとを含み、前記第1パーツは、前記取付部に固定されたときに、ヘッド正面図において、第1のヘッド投影面積を提供し、前記第2パーツは、前記取付部に固定されたときに、ヘッド正面図において、前記第1のヘッド投影面積よりも大きい第2のヘッド投影面積を提供する、ゴルフクラブキットである。
【0019】
前記第2パーツは、前記第1パーツと実質的に同一の重量であっても良い。
【0020】
また、前記ゴルフクラブキットは、前記第1パーツと実質的に同一の重量であるウエイトをさらに含み、前記ウエイトは、前記取付部に着脱可能に固定されても良い。
【0021】
また、前記複数のトウ側パーツ及び前記ウエイトは、共通のねじを、同一のねじ孔に装着することで前記取付部に固定されても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記の構成を採用したことにより、打球の飛行方向を調節可能なゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図2】本実施形態のゴルフクラブヘッドのトウ側からみた側面図である。
【
図3】本実施形態のゴルフクラブヘッドの底面図である。
【
図4】本実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。
【
図5】本実施形態のゴルフクラブヘッドの上から見た斜視図である。
【
図6】本実施形態のゴルフクラブヘッドの下から見た斜視図である。
【
図7】本実施形態のゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
【
図8】
図4のVIII-VIII線線断面図である。
【
図9】トウ側パーツを取り外した状態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
【
図10】トウ側パーツを取り外した状態のゴルフクラブヘッドの部分断面図である。
【
図11】本実施形態のゴルフクラブキットの分解斜視図である。
【
図12】第2パーツをヘッド本体の取付部に固定した状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0025】
図1~4は、それぞれ、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)1の正面図、側面図、底面図及び平面図である。また、
図5及び6は、それぞれ本実施形態のヘッド1の上及び下から見た斜視図である。さらに、
図7は、ヘッド1の分解斜視図である。
【0026】
[基準状態等の定義]
図1~4において、ヘッド1は基準状態に置かれている。ヘッド1の基準状態とは、ヘッド1が、当該ヘッド1に定められたライ角α(
図1)及びロフト角β(
図2)で水平面HPに置かれた状態である。詳細には、
図2に示されるように、基準状態では、ヘッド1のシャフト軸中心線CLが、基準垂直面VP内に配された状態で、ヘッド1がライ角α及びロフト角βに保持された状態である。
【0027】
本明細書において、シャフト軸中心線CLは、ヘッド1のホーゼル部5に形成されたシャフト差込孔5aの軸中心線によって画定される。本明細書において、特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態にあるものとして説明されていることに留意されたい。
【0028】
また、ヘッド1の基準状態において、基準垂直面VPに直交する方向が、ヘッド前後方向として定義される。ヘッド前後方向に関して、フェース2の側が前側とされ、その反対側が後側とされる。また、基準垂直面VP及び水平面HPにともに平行な方向は、トウ・ヒール方向として定義される。さらに、水平面HPに直交する方向が、ヘッド上下方向として定義される。
【0029】
[ヘッドの基本構造]
図1~6から明らかなように、本実施形態のヘッド1は、例えば、ウッド型として構成されている。ウッド型のヘッド1は、例えば、ドライバー、フェアウェイウッド等と称されるヘッドを含む。他の実施形態では、ヘッド1は、アイアン型、ハイブリッド型又はパター型として構成されても良い。
【0030】
本実施形態のヘッド1は、ヘッド本体1Aとトウ側パーツ1Bとを含む。
【0031】
[ヘッド本体]
ヘッド本体1Aは、例えば、フェース2、クラウン3、ソール4及びホーゼル部5などを一体に含み、内部には中空部(図示せず)が形成されている。
【0032】
フェース2は、ボールを打撃する面を構成し、ヘッド1の前側に形成されている。図示していないが、フェース2には、フェースラインと呼ばれるトウ・ヒール方向に延びる複数本の溝が設けられても良い。
【0033】
クラウン3は、フェース2の上縁からヘッド後方に延びており、その外表面がヘッド上面を形成している。クラウン3のヒール側には、ホーゼル部5が設けられている。ホーゼル部5には、クラブシャフト(図示省略)を固定するためのシャフト差込孔5aが形成されている。
【0034】
ソール4は、フェース2の下縁からヘッド後方に延びており、その外表面がヘッド底面を形成している。
【0035】
ヘッド本体1Aは、例えば、金属材料で構成されている。金属材料としては、例えば、ステンレス、マレージング鋼、チタン合金、マグネシウム合金、アルミニウム合金等が好適である。ヘッド1の一部(例えば、クラウン3)が、繊維強化樹脂等の非金属材料で作られても良い。
【0036】
[ヘッド本体の取付部]
図9は、トウ側パーツ1Bが取り外されたヘッド本体1A単体のヘッド正面図である。本明細書において、「ヘッド正面図」とは、ヘッド1を、フェース2の側から、かつ、基準垂直面VPと直交する方向に見た図である。
【0037】
図1及び
図9に示されるように、ヘッド正面図において、ヘッド本体1Aは、シャフト軸中心線CLよりもトウTの側に、取付部6を備えている。本明細書において、「トウ」とは、ヘッド正面図において、シャフト軸中心線CLとは反対側の先端を意味する。本実施形態では、ヘッド正面図において、取付部6の輪郭が見えている。取付部6は、例えば、ヘッド1のトウ部に形成されている。本明細書において、「トウ部」とは、トウTを含むクラウン3とソール4との間の部分である。したがって、トウ部は、シャフト軸中心線CLから遠い位置にある。他の実施形態では、取付部6は、トウ部とは異なる位置に設けられても良い。
【0038】
本実施形態の取付部6は、例えば、シャフト軸中心線CLの側に凹んだ輪郭を有する。好ましい態様では、取付部6は、例えば、シャフト軸中心線CLの側に凹んだ円弧状の輪郭を有する。この輪郭は、ヘッド外方に向かって滑らかに凸となるクラウン3及びソール4の輪郭とは対照的である。ただし、ヘッド正面図での取付部6の輪郭は、図示の態様以外にも、様々な形態とされても良い。
【0039】
また、
図7から明らかなように、本実施形態の取付部6は、ヘッド前後方向に亘って延びている。また、取付部6には、例えば、そのほぼ中央部には、ねじ孔8が形成されている。
【0040】
[トウ側パーツ]
図6及び
図7から明らかなように、トウ側パーツ1Bは、取付部6に着脱自在に固定されている。本実施形態では、トウ側パーツ1Bは、固着具としてのねじ7を用いて取付部6に固定されている。本明細書において、「ねじ」は、回転力が与えられることで、2つに部材を互いに締結することができる全てのデバイスを含む。したがって、本実施形態のねじ7は、図示されるような連続した螺旋ねじ溝を有するものの他、例えば、約90°程度の少ない回転量で2つの部材を締結することができるワンタッチタイプのねじも含む概念として理解される。
【0041】
図8には、
図4のVIII-VIII線断面図が示される。
図7及び
図8に示されるように、本実施形態のトウ側パーツ1Bは、例えば、取付部6に面して配される内側面10と、その反対側の面である外側面11と、内側面10と外側面11とを貫通する貫通孔12とを備える。トウ側パーツ1Bの内側面10は、例えば、取付部6に沿うような面で形成されている。また、トウ側パーツ1Bの外側面11は、取付部6に固定されたときに、ヘッド本体1Aのクラウン3やソール4と連続し、ヘッドの外表面を形成する。
【0042】
トウ側パーツ1Bの貫通孔12には、ねじ7が通される。このねじ7は、取付部6に形成されたねじ孔8へと固定される。したがって、ねじ7をねじ孔8から抜き取ることにより、トウ側パーツ1Bは、取付部6から容易に取り外される。また、取付部6にトウ側パーツ1Bを配置し、ねじ7をねじ孔8に固定することで、トウ側パーツ1Bは、ヘッド本体1Aの取付部6に容易に固定される。このように、トウ側パーツ1Bのヘッド本体1Aの取付、取り外しは、専用工具ないし設備を有しない一般ゴルファ自らが簡単に行うことが可能である。
【0043】
[ヘッド投影面積]
図9は、トウ側パーツ1Bを取り外した状態のヘッド1の正面図である。
図9から明らかなように、本実施形態のヘッド1は、トウ側パーツ1Bをヘッド本体1Aから取り外したときに、ヘッド正面図におけるヘッド投影面積が小さくなる。すなわち、仮想線で示されるトウ側パーツ1Bをヘッド本体1Aの取付部6から取り外すことで、トウ側パーツ1Bの投影面積分だけヘッド投影面積が減少する。ここで、「ヘッド正面図におけるヘッド投影面積」とは、
図1や
図9のようなヘッド正面図において、ヘッド1をその後方に位置する基準垂直面VPと平行な平面上に投影した投影図の面積を意味する。
【0044】
発明者らの種々の実験の結果、ダウンスイング時のフェース2の開き具合いは、ヘッド1の空気抵抗の影響を受けることが分かった。具体的には、ダウンスイング時、ヘッド1は、シャフト軸中心線CLの周りでフェース2を閉じるような回転運動するが、この回転運動は、ヘッド1の空気抵抗(とりわけトウ側の空気抵抗)が大きいほど、抑制される。また、ヘッド1の前記空気抵抗は、ヘッド正面図におけるヘッド投影面積が大きいほど、大きい。
【0045】
本実施形態のヘッド1は、ヘッド本体1Aに、トウ側パーツ1Bが着脱可能とされている。したがって、本実施形態のヘッド1は、ヘッド本体1A単体の状態、又は、ヘッド本体1Aにトウ側パーツ1Bを固定した組立体の状態のいずれでも使用可能である。このため、トウ側パーツ1Bをヘッド本体1Aから取り外した場合(すなわち、ヘッド本体1A単体で使用される場合)、ヘッド投影面積が相対的に小さくなり、ひいては、ダウンスイング時にヘッド1のトウ側の空気抵抗が小さくなる。したがって、このような使用形態のヘッド1は、ダウンスイング時にフェース2が比較的閉じやすい。
【0046】
一方、トウ側パーツ1Bをヘッド本体1Aに取り付けた場合(すなわち、ヘッド本体1A及びトウ側パーツ1Bの組立体として使用される場合)、ヘッド投影面積が相対的に大きくなり、ひいては、ダウンスイング時にヘッド1のトウ側での空気抵抗が大きくなる。したがって、このような使用形態のヘッド1は、ダウンスイング時にフェース2が比較的閉じ難い。
【0047】
したがって、例えば、打球が目標方向よりも右に飛行しやすいゴルファは、トウ側パーツ1Bを取り外した状態で本実施形態のヘッド1を使用することが望ましい。なぜなら、このようなヘッド1は、ダウンスイング時のヘッド1の空気抵抗が相対的に低減され、フェース2は比較的閉じやすくなるからである。
【0048】
他方、打球が目標方向よりも左に飛行しやすいゴルファは、トウ側パーツ1Bをヘッド本体1Aに固定した状態でヘッド1を使用することが望ましい。なぜなら、このようなヘッド1は、ダウンスイング時のヘッド1の空気抵抗が相対的に増大し、フェース2は比較的閉じ難くなるからである。
【0049】
以上のように、本実施形態のヘッド1は、打球の飛行方向が簡単に調節可能である。
【0050】
ここで、トウ側パーツ1Bのヘッド正面図での投影面積が過度に小さいと、上述の作用が十分に得られないおそれがある。逆に、トウ側パーツ1Bの投影面積が過度に大きいと、空気抵抗が大きくなりすぎ、ダウンスイングにおいてフェース2を閉じるのが困難になるおそれがある。特に限定されるものではないが、トウ側パーツ1Bがヘッド本体1Aに固定されたときのヘッド投影面積A1と、トウ側パーツ1Bがヘッド本体1Aから取り外されたときのヘッド投影面積A2との比(A1/A2)が1.02~1.12の範囲とされるのが良い。
【0051】
本実施形態のトウ側パーツ1Bは、ヘッド正面図において、フェース2を含まないように形成されている。したがって、ヘッド1は、トウ側パーツ1Bの着脱の有無に関わらず、一定のフェース面積が確保される点で望ましい。他の実施形態では、トウ側パーツ1Bは、フェース2の一部を形成しても良い。
【0052】
トウ側パーツ1Bの体積は特に限定されるものではないが、トウ側パーツ1Bが取付部6に取り付けられたときのヘッド全体積は、例えば、500cc以下とされ、より好ましくは460cc以下とされる。また、トウ側パーツ1Bの体積が大きすぎると、取り付け時と、取り外し時とで、打球フィーリング(打感、打球音等)の変化が大きくなるおそれがある。このような観点より、トウ側パーツ1Bの体積は、100cc以下が好ましく、90cc以下がより好ましく、80cc以下がさらに好ましい。他方、フェース2の開き具合を、ある程度実用的な範囲に調整するためには、トウ側パーツ1Bはある程度の体積が必要である。このような観点から、トウ側パーツ1Bの体積は、10cc以上が好ましく、20cc以上がより好ましく、30cc以上がさらに好ましい。
【0053】
トウ側パーツ1Bは、様々な材料で形成されても良い。好ましい態様では、トウ側パーツ1Bは、ヘッド本体1Aよりも小さい比重を有する低比重材料で形成される。低比重材料としては、例えば、比重が2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0未満であるのが望ましい。このような低比重材料として、例えば、樹脂、エラストマー、繊維強化樹脂、多孔質スポンジ等が用いられても良い。低比重材料で作られたトウ側パーツ1Bは、軽量である。このようなトウ側パーツ1Bは、その着脱前後でのヘッド1の重量変化を小さくし、同じスイングフィーリングを提供するのに役立つ。
【0054】
図10には、トウ側パーツ1Bが、取付部6から取り外された状態の断面図(
図4のVIII-VIII線の位置に相当)が示される。この例では、取付部6のねじ孔8に、ねじ7が固定されている。これにより、ヘッド本体1Aのねじ孔8を閉じることができる。また、トウ側パーツ1Bの有無に関わらず、ねじ7をヘッド本体1Aに固着しておくことで、ヘッド重量の変化を小さくするのに役立つ。
【0055】
さらに、
図10の実施形態では、取付部6のねじ孔8には、ねじ7のねじ頭7Aを、取付部6からはみ出さないように収容することができる凹部9を備えている。このような形態では、トウ側パーツ1Bが取り外されたヘッド1において、ヘッド正面図における取付部6の形状を大きく変化させることがない点で好ましい。
【0056】
図1~
図4に示されるように、トウ側パーツ1Bが取付部6に固定されたヘッド1を水平面HPに置いたときに、トウ側パーツ1Bは、水平面HPに接触しない位置に設けられているのが望ましい。このようなヘッド1は、トウ側パーツ1Bの有無に関わらず、同じ感覚でアドレスすることができる他、スイング時のトウ側パーツ1Bの地面との接触機会を低減することができる。
【0057】
本実施形態のヘッド1において、トウ側パーツ1Bがヘッド本体1Aに固定されているときと、ヘッド本体1Aから取り外されているときとで、ヘッド形状の変化が小さいことが望ましい。とりわけ、アドレス時におけるヘッド形状の変化が小さいことが望ましい。アドレス時に見えるヘッド形状が大きく変わると、ゴルファに違和感を与えるからである。
【0058】
上述のようなアドレス時のヘッド形状の変化は、ヘッド平面図でのヘッド投影面積の比較によって評価することができる。ここで、「ヘッド平面図でのヘッド投影面積」とは、
図4のようなヘッド平面図において、ヘッド1を水平面HP上に投影した投影図の面積を意味する。好ましい態様では、トウ側パーツ1Bがヘッド本体1Aに固定されたときのヘッド平面図におけるヘッド投影面積B1と、トウ側パーツ1Bがヘッド本体1Aから取り外されたときのヘッド平面図におけるヘッド投影面積B2との比(B1/B2)が1.0~1.05の範囲とされる。このように、比(B1/B2)を制限することにより、ヘッド形状の変化が小さくなり、アドレス時の違和感を無くすことができる。
【0059】
特に好ましい態様では、トウ側パーツ1Bが取付部6から取り外されたときのヘッド平面図において、取付部6は、見えない位置に設けられる。同様に、特に好ましい態様では、
図4に示されるように、トウ側パーツ1Bが取付部6に固定されたときのヘッド平面図において、トウ側パーツ1Bは、見えない位置に設けられる。このような態様では、アドレス時のヘッド形状の変化が実質的になくなり、アドレス時の違和感をより確実に無くすことができる。
【0060】
[本発明の他の態様]
図11は、本発明の他の態様として、ゴルフクラブキット(以下、単に「キット」という。)100の分解斜視図を示す。このキット100は、ヘッド本体1Aと、複数のトウ側パーツ1Bとを含む。ヘッド本体1Aには、ゴルフクラブシャフト1Cが固定されている。
【0061】
ヘッド本体1Aの構成は、上述のとおりである。
【0062】
複数のトウ側パーツ1Bは、例えば、第1パーツ1B1と第2パーツ1B2とを少なくとも含む。
【0063】
第1パーツ1B1及び第2パーツ1B2は、例えば、内側面10が互いに同じ形状とされている。したがって、第1パーツ1B1と第2パーツ1B2とは、交換可能なように、ヘッド本体1Aの取付部6に、ねじ7を用いて固定可能である。なお、取付部6には、第1パーツ1B1又は第2パーツ1B2のいずれか1つのみが固定される。
【0064】
第1パーツ1B1及び第2パーツ1B2のそれぞれは、外側面11の形状が互いに異なっている。本実施形態の第1パーツ1B1の外側面11は、例えば、
図1に示した形状、すなわち、クラウン3とソール4との間を、滑らかな輪郭線でつなぐような曲面形状を備える。第1パーツ1B1は、取付部6に固定されたときに、ヘッド正面図において、第1のヘッド投影面積(例えば、
図1)を提供するように構成される。
【0065】
一方、本実施形態の第2パーツ1B2の外側面11は、
図12に示したように、クラウン3とソール4との間をつなぐ滑らかな輪郭線(
図12の仮想線参照)から、さらにトウ側にはみ出すような曲面形状を備える。したがって、第2パーツ1B2は、ヘッド正面図において、第1パーツ1B1よりも大きい投影面積を有する。そして、第2パーツ1B2は、取付部6に固定されたときに、
図12に示されるように、ヘッド正面図において、第1のヘッド投影面積よりも大きい第2のヘッド投影面積を提供するように構成される。
【0066】
以上のように構成された本実施形態のキット100は、ヘッド1として、ヘッド本体1Aの単体での使用(以下、構成例1)、ヘッド本体1Aに第1パーツ1B1を取り付けての使用(以下、構成例2)、及び、ヘッド本体1Aに第2パーツ1B2を取り付けての使用(以下、構成例3)が可能である。したがって、本実施形態のキット100は、ヘッド1の空気抵抗を、構成例1、構成例2及び構成例3の順で大きくなるよう多段階で調整することができる。
【0067】
好ましい態様では、第2パーツ1B2は、第1パーツ1B1との重量差が小さいことが望ましい。例えば、第1パーツ1B1と第2パーツ1B2との重量差は、10g以下が好ましく、5g以下がより好ましく、3g以下がさらに好ましい。これにより、上記の構成例2及び構成例3において、ヘッド1の総重量が近似ないし同一とされる。したがって、この態様では、ゴルフクラブのスイングフィーリング殆ど変化させることなく、ヘッド1の空気抵抗を調整することができる点で望ましい。
【0068】
第2パーツ1B2を第1パーツ1B1と実質的に同一の重量とするために、例えば、第1パーツ1B1及び第2パーツ1B2は、比重が異なる材料で形成されても良い。また、第1パーツ1B1及び第2パーツ1B2が同一の材料で構成される場合、例えば、第2パーツ1B2の内部に中空部等を設けて体積を同一にすること、又は、第1パーツ1B1に重量調整材を付加して重量を揃えること等が採用され得る。
【0069】
本実施形態のキット100は、さらに、
図11に示されるように、第1パーツ1B1と実質的に同一の重量であるウエイト1Dを含んでも良い。本実施形態のウエイト1Dは、例えば、ワッシャ状に構成されている。
【0070】
ウエイト1Dは、(トウ側パーツ1Bが取り付けられていない)取付部6のねじ孔8に、ねじ7で固定される。このような実施形態では、構成例1においても、構成例2及び構成例3のヘッド重量を同じにすることができる。したがって、このような実施形態では、構成例1、構成例2及び構成例3において、ヘッド1の総重量が実質的に同一とされ、ゴルフクラブのスイングフィーリングをほぼ同一に維持しながら、ヘッド1の空気抵抗を調整することができる。なお、ウエイト1D及びねじ孔8は、その取付の有無に関わらず、ヘッド本体1Aのヘッド正面図のヘッド投影面積を変化させないように構成されるのが望ましい。
【0071】
好ましい態様では、複数のトウ側パーツ1B(第1パーツ1B1及び第2パーツ1B2)及びウエイト1Dは、共通のねじ7を、同一のねじ孔8に装着することで取付部6に固定される。これは、部品点数やねじ穴の削減に役立つ。
【0072】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明のより具体的、かつ、非限定的な実施例が説明される。
図9(構成例1)、
図1(構成例2)及び
図12(構成例3)の形状を有するゴルフクラブヘッドを、同一のゴルフクラブシャフト(フレックスR)に装着し、ウッド型のゴルフクラブが製造された。各ゴルフクラブヘッドのスペックは、以下の通りである。
図1の状態でのヘッド体積:460cc
ヘッド本体の材料:チタン合金
トウ側パーツの材料:CFRP
【0074】
次に、各ゴルフクラブがスイングロボットに装着され、ヘッドスピード36m/sでボールを5回打撃し、そのときのボール打撃直前のゴルフクラブヘッドのフェース角が、上方に設置された高速撮像装置を用いて測定された(n=5の平均値)。フェース角の値の前の「CLOSE」の表示はフェースが閉じている状態を、「OPEN」はフェースが開いている状態をそれぞれ示している。
テストの結果等は、表1に示される。
【0075】
【0076】
ゴルフクラブヘッドのヘッド正面図におけるヘッド投影面積は、構成例1、構成例2及び構成例3の順に大きく、したがって、ゴルフクラブヘッドの空気抵抗もこの順で大きい。テストの結果でも、この順にフェース角が大きくなっていることが確認できた。
【符号の説明】
【0077】
1 ヘッド
1A ヘッド本体
1B トウ側パーツ
1B1 第1パーツ
1B2 第2パーツ
1D ウエイト
2 フェース
5 ホーゼル部
6 取付部
7 ねじ
8 ねじ孔
100 キット
CL シャフト軸中心線
HP 水平面
T トウ