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  • 特許-熱電変換材料および熱電変換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】熱電変換材料および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20240625BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20240625BHJP
【FI】
H10N10/856
H10N10/857
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020107433
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003658
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】坂口 香織
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-115447(JP,A)
【文献】特開2015-170766(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033797(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079325(WO,A1)
【文献】特開2016-058475(JP,A)
【文献】特開2016-127210(JP,A)
【文献】特開2019-012831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10N 10/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、導電性材料(B)とを含む熱電変換材料であって、前記重合体(A)が、(メタ)アクリロニトリルに由来する単量体単位からなる重合体であり、
更に、無機金属塩、無機塩基および有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、
前記無機金属塩、前記無機塩基および前記有機塩基の配合量は、前記重合体(A)100質量%に対して1~50質量%であることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
請求項記載の熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、前記熱電変換膜と前記電極とが、電気的に接続されていることを特徴とする熱電変換素子。
【請求項3】
請求項記載の熱電変換材料を含んでなる電極を具備してなる熱化学電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料および熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料を用いて熱を電気に変換する熱電変換技術は、自然界における様々な熱に加え、工場・車・家庭から排出される排熱や体温等の微小熱エネルギーを電気として有効活用できるクリーンエネルギーとして注目されている。熱電変換技術に活用される熱電効果は様々存在するが、半導体や金属の組合せにより構成される材料の両端に2つの異なる温度を与えた際、その温度差に応じて材料内に生じた電子勾配により起電力が発生するゼーベック効果を活用したシステムが主流である。
【0003】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、又はp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて用いる。
【0004】
また、熱電変換素子は、ペルチェ素子に代表されるように、多数の素子を板状、または円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することができるため、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電および人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能、およびモジュールの耐久性等に依存する。
【0005】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数ZTが用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記、無次元熱電性能指数ZTは、下記式(1)により表される。
ZT=((S2・σ)/к)・T 式(1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S/m)、Tは絶対温度(K)、およびкは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率кは下記式(2)で表される。
к=α・ρ・C 式(2)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
つまり、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数または導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0006】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi-Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb-Te系)、および常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si-Ge系)などの無機材料が使用されている。
【0007】
しかし、これらの無機材料からなる熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、または有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料からなる熱電変換材料については、製造エネルギーおよび製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに無機材料からなる熱電変換材料は、剛直であるため、平面ではない形状にも加工可能な、フレキシブル性な熱電変換素子を製造することは困難である。また、一般的に無機材料からなる熱電変換材料は比重が高いため、素子を組合せてモジュール化した際に重量化しやすい点でも課題を有している。
【0008】
これに対し、従来の無機材料に代えて、有機材料を用いた熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、軽量である上に優れた成型性を有し、かつ無機材料よりも優れた可撓性を有するため、それ自身が分解しない温度範囲での汎用性が高い。また、印刷技術等を容易に活用できるため、製造エネルギーや製造コストの面でも無機材料より有利である。
【0009】
例えば、特許文献1には、有機色素骨格を有する高分子分散剤とカーボンナノチューブ(CNT)とを含有する熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子が開示されている。また、特許文献2には、キャリア輸送特性を有する多環芳香族環とアルキル基を含む置換基とが結合した導電性化合物を含む熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換素子が開示されている。しかしながら、特許文献1の発明では、熱電変換素子として十分な性能が得られてはいなかった。また、特許文献2の発明では、導電率が10-8~10-7S/cmと低く、熱電変換素子として実用的な値を得ることができていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2015/050113号
【文献】国際公開第2015/129877号
【非特許文献】
【0011】
【文献】梶川武信著、「熱電変換技術ハンドブック(初版)」、エヌ・ティー・エス出版、19頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、耐久性に優れ、熱電変換性能と導電性とを両立できる熱電変換材料を提供することである。また、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、重合体(A)と、導電性材料(B)とを含む熱電変換材料であって、重合体(A)が、(メタ)アクリロニトリルに由来する単量体単位からなる重合体であることを特徴とする熱電変換材料に関する。
【0014】
また、本発明は、更に、無機金属塩、無機塩基および有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする上記熱電変換材料に関する。
【0015】
また、本発明は、上記熱電変換材料を含んでなる熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜と上記電極とが、電気的に接続されていることを特徴とする熱電変換素子に関する。
【0016】
また、本発明は、上記熱電変換材料を含んでなる電極を具備してなる熱化学電池に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、耐久性に優れ、ゼーベック係数と導電性との両立を達成する熱電変換材料を提供することができる。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態である熱電変換素子の一例の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態である熱電変換素子の起電力の測定方法を説明する模式図である。
図3】2,4-ジシアノエチレンの環化反応により環状構造が形成される式である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本明細書では、「(メタ)アクリロニトリル」と表記した場合には、特に断りがない限り、「アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル」を表すものとする。
【0020】
<熱電変換材料>
本発明の熱電変換材料は、重合体(A)と、導電性材料(B)とを含むことを特徴とし、高いゼーベック係数と導電性とを両立し、優れた熱電性能を発揮することができる。これは、熱励起した重合体(A)内で発生した正孔または電子(キャリア)が導電性材料(B)へと移動することによるゼーベック向上効果が起こったほか、導電性材料(B)の分散性が、重合体(A)の存在により向上したことで、膜中の導電パスが効率よく形成され、キャリアの移動性が向上し、結果として優れた導電性を発現したと考えられる。また、重合体(A)が環状構造を有する場合、重合体(A)と導電性材料(B)との親和性が更に向上し、高い性能を示すことが可能となる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
<重合体(A)>
重合体(A)は、(メタ)アクリロニトリルに由来する単量体単位からなる共重合体である。重合体(A)は、ランダム重合、ブロック重合いずれの方法でも合成できる。(メタ)アクリロニトリル中のシアノ基の強い極性が導電性材料(B)への吸着性を高め、導電性材料(B)の分散剤として機能し、導電性材料(B)の凝集を抑制し、熱電変換材料中に安定に存在させることができるものと推察される。
【0022】
重合体(A)の製造方法は、特に限定はされず、例えば、溶解重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法、沈殿重合等のいずれの方法を用いてもよく、溶解重合または沈殿重合法が好ましく、沈殿重合法が最も好ましい。沈殿重合法によって得られた重合体(A)は重合時に使用する溶媒に溶解する低分子量成分や残存単量体を重合後速やかに除去できるため、分子量分布を狭く制御することが可能で、残存単量体量も限りなく低減でき、分散剤として機能する分子量の重合体(A)を効率的に得ることができる。重合反応系としては、イオン重合、フリーラジカル重合、リビングラジカル重合等の付加重合を用いることができ、フリーラジカル重合またはリビングラジカル重合が好ましい。また、ラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤などから選ばれた化合物またはそれらの混合物が使用でき、必要に応じて連鎖移動剤等の分子量調整剤を使用してもよい。
【0023】
また、重合体(A)の分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量で、3000以上500000以下の範囲が好ましく、4000以上200000以下の範囲がより好ましく、5000以上50000以下の範囲がさらに好ましい。重量平均分子量を上記範囲内とすることで、導電性材料(B)への吸着性が向上し、分散性が良好になることで導電率の高い組成物を得ることができる。
【0024】
重合体(A)は、(メタ)アクリロニトリルに由来する単量体単位の一部が、環状構造に変化した構造を有すると、熱電変換材料の特性がより向上する。(メタ)アクリロニトリルに由来する単位は、アルカリで処理すると、水素化ナフチリジン環等の環状構造へと変化する。図3には、重合体(A)と同じ基本構造を有する2,4-ジシアノエチレンの環化反応により環状構造が形成される式を示す。この環化反応の詳細なメカニズムは明らかとなっていないが、このような環状構造を有することで、熱電変換材料の特性が向上する。これは、環状構造を有することで、導電性材料(B)への重合体(A)の吸着性が高まり、重合体(A)から導電性材料(B)へのキャリア移動が起こりやすくなるものと推察される。
【0025】
<導電性材料(B)>
導電性材料(B)は、導電性向上に寄与するものである。そのため、導電性材料(B)の含有量を増やすことで導電性を向上させることができる。導電性材料(B)は、導電性を有する材料(炭素材料、金属材料、導電性高分子等)であれば、特に制限されず、例えば、炭素材料としては、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン(グラフェンナノプレートを含む)等が挙げられる。金属材料としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ゲルマニウム、ガリウムおよび白金等の金属粉、並びに ZnSe、CdS、InP、GaN、SiC、SiGeこれらの合金、並びにこれらの複合粉が挙げられる。また、核体と、前記核体物質とは異なる物質で被覆した微粒子、具体的には、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等が挙げられる。また、例えば酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、およびGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物の粉末、並びにこれらの金属酸化物で表面被覆した粉末等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸から成る複合物)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等が挙げられる。
【0026】
使用する導電性材料の種類は一種でもよいし、二種以上を組み合せて使用しても良い。導電性材料(B)の形状は、特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状、ワイヤー状等を適宜用いることができる。
【0027】
ゼーベック係数と導電性との両立の観点で、カーボンナノチューブ、カーボンブラックおよびグラフェン(グラフェンナノプレートを含む)からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、より好ましくはカーボンナノチューブであり、さらに好ましくは単層カーボンナノチューブある。
【0028】
炭素材料としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF-3AK、FBF、BF-15AK、CBR、CPB-6S、CPB-3、96L、96L-3、K-3、SC-120、SC-60、HLP、CP-150、SB-1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K-5、AP-2000、AP-6、300F、150Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のG-4AK、G-6S、G-3G-150、G-30、G-80、G-50、SMF、EMF、SFF、SFF-80B、SS-100、BSP-15AK、BSP-100AK、WF-15C、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0029】
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5-P、OCSiAl社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200P等が挙げられる。
【0030】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、500
0ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられる。これらは特に限定されることはない。
【0031】
また、重合体(A)は、熱電変換材料中で導電性材料(B)の分散、およびゼーベック係数の向上に寄与する。重合体(A)の含有量を増やすことで導電性およびゼーベック係数を向上させることができるが、一般的には、導電性材料(B)以外の成分の含有量を増やしすぎると、絶電性も増して導電性が低下する恐れがある。本発明の重合体(A)は、導電性材料(B)の分散性を向上させることができ、材料中の導電パスを阻害しにくいという特徴を有しているが、ゼーベック係数と導電性との両立の観点から、前記重合体(A)の含有量は、前記導電性材料(B)の全量に対して、上限が、400質量%以下が好ましく、200質量%以下がより好ましく、120質量%以下が更に好ましく、100質量%以下が特に好ましい。また、重合体(A)の効果を発揮するために、下限は、5質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0032】
本発明の熱電変換材料は、熱電特性を維持する上で、ラジカルを発生する化合物を含有しないことが好ましい。本発明の熱電変換材料は、重合体(A)と前記導電性材料(B)、更に必要に応じて無機金属塩、無機塩基および有機塩基から選ばれる少なくとも一種のみからなることが好ましいが、塗工、膜形成の観点から、必要に応じてその他成分を含んでも良い。
【0033】
<無機金属塩、無機塩基、有機塩基>
本発明の熱電変換材料は、無機塩基、無機金属塩、または有機塩基を含有しても良い。これにより、熱電変換材料の熱電特性がより向上する。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、またはホウ酸塩等が挙げられる。尚、無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。
【0034】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0035】
上記の内、容易にカチオンを供給できるという面から、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物または炭酸塩が好ましく、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、水酸化物または炭酸塩がより好ましく、アルカリ金属の、水酸化物または炭酸塩がさらに好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムが好ましい。また、アルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0036】
有機塩基としては、炭素数1~40の一級、二級または三級のアルキルアミンが挙げられる。
炭素数1~40の一級アルキルアミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ラウリルオキシプロピルアミン等が挙げられる。
【0037】
炭素数1~40の二級アルキルアミンとしては、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0038】
炭素数1~40の三級アルキルアミンとしては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
【0039】
この内、炭素数1~30の一級、二級または三級アルキルアミンが好ましく、炭素数1~20の一級、二級または三級アルキルアミンが更に好ましい。
【0040】
有機塩基としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、モノエタノールアミン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール等の塩基性窒素原子を含有する化合物類を用いても良い。
【0041】
無機塩基、および無機金属塩、有機塩基の配合量は、重合体(A)100質量%に対して、好ましくは1~50質量%である。また、導電性材料(B)100質量%に対して、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~15質量%である。適量配合することで熱電特性がより向上する。
【0042】
(分散媒)
分散媒は、前記重合体(A)と導電性材料(B)とを混合する際の媒体として使用することができ、インキもしくはペーストとして印刷、塗工する際の塗工性を向上することができる。使用できる分散媒としては、重合体(A)と導電性材料(B)を溶解または分散できれば、特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができる。分散媒は、一種のみ用いても良いし、二種以上を組み合せて用いても良い。
【0043】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,3-ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリフルオロエタノール、m-クレゾール、およびチオジグリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N-メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。
重合体(A)と導電性材料(B)の分散性や溶解性の観点から、N-メチルピロリドンが特に好ましい。
【0044】
(樹脂)
本発明の熱電変換材料は、成膜性や膜強度の調整等を目的として、導電性および熱で特性に影響しない範囲で、樹脂を含んでもよい。ただし、本明細書でいう樹脂は、上記重合体(A)以外のものである。樹脂は、熱電変換材料の各成分に相溶または混合分散するものであれば特に制限はなく、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いることもできる。また、これらの樹脂の共重合体等であっても良い。
特に限定するものではないが、一実施形態において、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂であることが好ましい。
【0045】
樹脂を含む場合、導電性の観点から、樹脂の含有量は、前記重合体(A)と導電性材料(B)との全量を基準として、99質量%以下の範囲が好ましく、50質量%以下の範囲がより好ましく、20質量%以下の範囲がさらに好ましい。
【0046】
(無機熱電変換材料)
本発明の熱電変換材料は、熱電変換性能を高めるために、必要に応じて、無機熱電変換材料を含んでも良い。無機熱電変換材料は特に限定されず、一般に熱電変換材料として知られているものを使用できる。例えば、Bi-(Te、Se)系、Si-Ge系、Mg-Si系、Pb-Te系、GeTe-AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)-Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができる。より具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、LaFe3CoSb12等を挙げることができる。このとき、上記無機熱電変換材料に不純物を加えて極性(p型、n型)や導電率を制御して利用してもよい。無機熱電変換材料を使用する場合、その使用量は、成膜性や膜強度に影響しない範囲で調製する。
【0047】
本発明の熱電変換材料の製造方法は特に限定されず、例えば、重合体(A)と導電性材料(B)、もしくは重合体(A)と導電性材料(B)および無機金属塩、無機塩基および有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも一種に、分散媒、必要に応じて他の任意成分を撹拌混合することで製造することができる。撹拌混合機としては、特に限定されないが、例えば、ディスパー、ミキサー、混練機、スキャンデックス、ペイントコンディショナー、サンドミル、らいかい機、メディアレス分散機、三本ロール、およびビーズミル等が挙げられる。
【0048】
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換素子は、前記熱電変換材料を用いて形成された熱電変換膜と、電極とを有し、前記熱電変換膜と前記電極とが、電気的に接続されているものである。本発明の熱電変換膜は、導電性および熱電特性に加えて、耐熱性や可撓性の点でも優れる。そのため、高品質な熱電変換素子を容易に作製することができる。
【0049】
熱電変換膜は、基材上に熱電変換材料を塗布して得られる膜であってもよい。熱電変換材料は優れた成型性を有するため、塗布または印刷によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の製造方法としては目的とする熱電変換膜を得ることができれば特に限定はなく、熱電変換材料の粘度等の特性や、必要とされる膜厚、面積、形状等の条件に応じて適宜選択することができる。例えば、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、フレキソコート、ダイコート、リップコート、ナイフコート、ブレードコート、コンマコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、ディップコート、ディスペンサー、スクリーンコート、インクジェット印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。
【0050】
熱電変換膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、必要とされる電流値、電圧値、および抵抗等の電気的性質や、熱電特性に応じて設定できるが、後述するように、熱電変換膜の厚さ方向または面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。熱電特性や可撓性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1~200μmの範囲であることが好ましく、1~100μmの範囲が更に好ましく、1~60μmの範囲であることが特に好ましい。
【0051】
基材としては、特に制限はないが、不織布、紙、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリカーボネート、およびセルローストリアセテート等の材料からなるプラスチックフィルム、またはガラス等を用いることができる。これら基材は、熱電変換材料の水や酸素の影響による劣化を防ぐために、基材表面にアルミ蒸着層やバリア層を有するものであっても良い。
【0052】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うこともできる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、または易接着処理を行うこともできる。
【0053】
本発明の熱電変換膜は、前述のように基材上に熱電変換膜を作製した基材と熱電変換膜との積層膜であってもよく、基材を有さない自立膜であってもよい。自立膜を作製する場合には、特に制限はないが、例えば、剥離性シート上に熱電変換膜を形成した後に、剥離コートを除去することで得ることができる。
【0054】
剥離性シートとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムに離型処理したもの等が挙げられる。
【0055】
本発明の実施形態である熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを除き、当技術分野で周知の技術を適用して構成することができる。熱電変換素子のより具体的な構成、およびその製造方法について説明する。
【0056】
熱電変換素子は、熱電変換膜と電極とが電気的に接続している。ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、またはワイヤー等の他の構成部分を介して通電できる状態であることを意味する。
【0057】
電極の材料は、電極として働くものであれば特に制限はないが、金属、合金、および半導体から選択することができる。一実施形態において、導電率が高く、熱電変換膜の接触抵抗が低いほうが好ましいことから、金属および合金が好ましい。例えば、金、銀、銅、白金、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。電極は銀を含むものがさらに好ましい。
【0058】
電極の形成方法は特に限定されず、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布等の方法によって形成することができる。プロセスの簡便さの観点から、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【0059】
熱電変換素子の構造の典型例としては、熱電変換膜と一対の電極との位置関係から(1)本発明による熱電変換膜の両端に電極が形成されている構造、(2)本発明の熱電変換膜が2つの電極で挟持されている構造に大別される。例えば、上記(1)の構造を有する熱電変換素子は、基材上に熱電変換膜を形成した後に、その両端にそれぞれ銀ペーストを塗布して第1および第2の電極を形成することによって得ることができる。このように熱電変換膜の両端に電極が形成された熱電変換素子は、2つの電極間の距離を広くすることが容易である。そのため、2つの電極間で大きな温度差を発生させて、効率よく熱電変換を行うことが容易にできる。
【0060】
前記(2)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に銀ペーストを塗布して第1の電極を形成し、その上に本発明の熱電変換膜を形成し、さらにその上に銀ペーストを塗工して第2の電極を形成することによって得ることができる。このように2つの電極で本発明の熱電変換膜を挟持する熱電変換素子では、熱電変換膜の膜厚方向、つまり基材に対して垂直な方向の温度差を利用できることから、発熱原に貼り付ける形態での利用が可能である。そのため、熱源から広範囲で熱を取り出すことができる等の利点があるため好ましい。前記(2)の構造を有する熱電変換素子では、膜厚を厚くすることで2つの電極間の距離を広くし、温度差を確保することも可能である。
【0061】
熱電変換素子は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能であり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能である。また、熱電変換素子は、2つ以上の熱電変換素子を接続したものであってもよい。本発明によれば、熱電変換素子が優れた可撓性を有するため、平面ではない形状を有する熱源に対しても追随して良好に設置することが可能である。
【0062】
熱電変換素子は、熱源から効率良く熱を伝えるための吸熱層や蓄熱層を有していても良く、また、温度差を確保するために断熱層や放熱層を有していても良い。更に、用途や必要な電力量に応じ、取り出した電気を昇圧回路を用いて昇圧したり、取り出した電気エネルギーをコンデンサやキャパシタ、あるいは二次電池等に一時的に溜めて使用することもできる。
【0063】
本発明の熱電変換材料は、熱化学電池の電極としても使用することができる。
熱化学電池は、基本的に正極と負極あるいは陽極と陰極の両電極とその間に存在する電解質とからなり、主に二つの動作形態がある。一つ目は、両電極間に温度差がある場合に、化学反応の速度差により電解質中にキャリア濃度差が生じ、電位差が発生する形態である。
もう一つ目は、電解質を分離材で仕切り、両電極を含めた全体を熱により温めた場合に、分離材の左右の化学反応の違いにより発電(充電)し、低温の場所では逆反応を起こし電位差が発生する形態である。いずれの場合も、電解質に接する電極界面でイオンと電子との反応が必要であり、電極が必要となる。
【0064】
本発明の導電性組成物を用いて、熱化学電池の電極を製造する場合、導電性組成物を、使用用途に応じて紙、プラスチック等の基材の片面または両面上に、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット、キャスト法等の通常の印刷方式により印刷または自立膜を形成することができる。
【0065】
紙基材としては、コート紙、非コート紙、その他、合成紙、ポリエチレンコート紙、含浸紙、耐水加工紙、絶縁加工紙、伸縮加工紙等の各種加工紙が使用できる。また、プラスチック基材としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ビニルアルコール、エチレン- ビニルアルコール、ナイロン、ポリイミド、ポリカーボネート等のプラスチックからなる基材を使用することができる。また、金属基材としては、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔又はステンレス箔などの金属箔または合金箔が使用することができる。
【実施例
【0066】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、「カーボンブラック」を「CB」、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と略記することがある。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、「NMP」とは、N-メチルピロリドンを示す。
【0067】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
重量平均分子量(Mw)は、示差屈折率検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。装置は、HLC-8320GPC(東ソー社製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー社製「TSK-GELSUPERAW-4000」、「AW-3000」及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mMLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速0.6mL/分で測定した。測定用試料は、上記溶離液に1%の濃度で調製し、20μL注入した。分子量は、分子量既知のポリスチレン換算値である。
【0068】
(製造例1)重合体(A-1)の製造
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、アセトニトリル100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱して、アクリロニトリル100.0部、連鎖移動剤として3-メルカプト-1,2-プロパンジオール4.0部および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製;V-65)1.0部からなる混合物を3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに70℃で1時間反応させた後、V-65を0.5部添加し、さらに70℃で1時間反応を続け目的物を沈殿物として得た。その後、不揮発分測定にて転化率が95%超えたことを確認した。生成物を減圧濾過によって濾別し、アセトニトリル100部にて洗浄を行い、その後減圧乾燥によって溶媒を完全に除去して重合体(A-1)を得た。重合体(A-1)の重量平均分子量(Mw)は5000であった。
【0069】
(製造例2~7)重合体(A-2)~(A-7)の製造
(メタ)アクリロニトリルと連鎖移動剤の量を表1に従って変更した以外は、製造例1と同様にして、それぞれ重合体(A-2)~(A-7)を作製した。各分散剤の重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0070】
表1中の略号は以下のとおりである。
AN:アクリロニトリル
MAN:メタクリロニトリル
【0071】
(製造例8)重合体(A-8)の製造
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、アセトニトリル100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱して、アクリロニトリル50.0部、メタクリロニトリル63.2部、連鎖移動剤として3-メルカプト-1,2-プロパンジオール4.0部および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製;V-65)1.0部からなる混合物を3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに70℃で1時間反応させた後、V-65を0.5部添加し、さらに70℃で1時間反応を続け目的物を沈殿物として得た。その後、不揮発分測定にて転化率が95%超えたことを確認した。生成物を減圧濾過によって濾別し、アセトニトリル100部にて洗浄を行い、その後減圧乾燥によって溶媒を完全に除去して重合体(A-8)を得た。重合体(A-8)の重量平均分子量(Mw)は30000であった。
【0072】
(製造例9)重合体(A-9)の製造
製造例3で得られた重合体(A-3)50部を、198部の水中に添加しディスパーで撹拌してスラリー状にした。次いで2.0部の1N水酸化ナトリウム水溶液を25℃で滴下し、ディスパーにて2時間攪拌した。赤外吸収分光測定(装置:FT/IR-410、日本分光社製)にてシアノ基由来のピーク強度が80%以下に減少したことを確認し、図3に示すような環状構造の形成を確認した。次いで、水で水洗、ろ過乾燥し、重合体(A-9)を得た。重合体(A-9)の重量平均分子量(Mw)は30000であった。
【0073】
<熱電変換材料を含む分散液の製造>
[実施例1]
(分散液1)
重合体(A-1)0.1部、GNP1(XGSciences社製グラフェンナノプレート「xGNP-M-5」)0.4部、NMP79.5部をそれぞれ秤量して混合した。さらに直径1.25mmのジルコニアビーズを加え、スキャンデックスで4時間振とう後、ろ過してビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0074】
[実施例2~35、比較例1~3]
(分散液2~35、分散液101~103)
材料の種類および配合量を表2に示す内容にそれぞれ変更した以外は、分散液1の製造方法と同様にして、熱電変換材料の分散液2~35、分散液101~103をそれぞれ得た。
【0075】
表2に記載した材料を以下に示す。
導電性材料(B)
・GNP1(XGSciences社製グラフェンナノプレートレット「xGNP-R-7」)
・GNP2(XGSciences社製グラフェンナノプレートレット「xGNP-C-300」)
・CB(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製 ケッチェンブラック「EC-600JD」)
・黒鉛(富士黒鉛工業株式会社製 球状黒鉛「WF-30F」)
・MWCNT(nanocyl社製多層カーボンナノチューブ「NC7000」)
・SWCNT1(ゼオンナノテクノロジー株式会社製単層カーボンナノチューブ「ZEONANOSG101」)
・SWCNT2(OCSiAl社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」)
・PEDOT/PSS(Heraeus社製「Clevios PH1000」)

比較例で使用した重合体
・PVP:日本触媒社製、ポリビニルピロリドンK-30、不揮発分100%
・PVA:クラレ社製、KurarayPOVAL PVA403、不揮発分100%
【0076】
<熱電変換材料の評価>
得られた分散液1~35、及び分散液101~103を、基材としてシート状基材である厚さ75μmのPETフィルムにアプリケータを用いて塗布した後、120℃で30分間乾燥して、基材上に膜厚5μmの熱電変換膜を有する積層体を得た。得られた熱電変換膜(以下、塗膜ともいう)を有する積層体について、以下の方法に従って導電性(導電率)およびゼーベック係数を評価した。結果を表2に示す。
【0077】
(導電率(抵抗率))
得られた積層体を2.5cm×5cmの大きさに切り取り、JIS-K7194に準じて、ロレスターGX MCP-T700(三菱ケミカルアナリテック社製)を用いて四探針法で導電率を測定した。比較例1の導電率を1.0としたときの相対値として表2に示す。
【0078】
(ゼーベック係数)
得られた積層体を3mm×10mmの大きさに切り取り、アドバンス理工株式会社製のZEM-3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μV/K)を測定した。比較例1のゼーベック係数の絶対値を1.0としたとき、各実施例におけるゼーベック係数の絶対値との相対値を表2に示す。
【0079】
(耐久性)
耐湿熱試験前のゼーベック係数に対する耐湿熱試験後のゼーベック係数の下降率(変化率)で評価した。以下に評価方法を示す。作製した熱電変換膜を小型環境試験器(エスペック株式会社:型番SH-661)に投入し、温度25℃、相対湿度50%で5000時間保管して耐湿熱試験を行った後、上記と同様にゼーベック係数の測定を行った。
◎:ゼーベック係の数絶対値の下降率が10%未満(極めて良好)
〇:ゼーベック係数の絶対値の下降率が10%以上20%未満(良好)
△:ゼーベック係数の絶対値の下降率が20%以上30%未満(使用範囲内)
×:ゼーベック係数の絶対値の下降率が30%以上(極めて不良)
【0080】
<熱電変換素子の評価>
厚さ50μmのPETフィルム上に、分散液を塗布し、厚さ20μm、5mm×30mmの形状を有する熱電変換膜を、それぞれ10mm間隔に5つ作製した(図1の符号2を参照)。次いで、各熱電変換膜がそれぞれ直列に接続されるように、銀ペースト(トーヨーケム株式会社製のREXALPHA RA FS 074)を用いて、厚さ10μm、5mm×33mmの形状を有する銀回路(電極)を4つ作製し(図1の符号3を参照)、熱電変換素子を得た。熱電変換素子について、熱電変換膜及び銀回路が内側になるように(図2に示すA-A’線に沿うように)折り曲げ、その状態のまま、100℃に加熱したホットプレート上に設置した。なお、折り曲げの程度は、図2のB-B’間の距離が10mmになるようにそれぞれ調整した。上記のように折り曲げたサンプルをホットプレート上に設置して10分後の熱電変換膜間の起電力について電圧計を用いて測定した。測定は、20℃で実施した。以下の基準に従い、測定値から熱電特性について評価した。
◎:起電力が1mV以上である(良好)
〇:起電力が500μV以上、1mV未満である(実用可能)
×:起電力が500μV未満である(不良)
【0081】
<熱化学電池の評価>
分散液をポリテトラフルオロエチレン製容器に注ぎ入れ、140℃3時間で乾燥させ、熱電変換膜を得た。この際、乾燥後の膜厚が60μmになるように熱電変換材料の量を調整した。得られた熱電変換膜をφ16mmの円板状に打ち抜き電極とした。次にアルゴン雰囲気で満たされたグローブボックス中でSUS316製のケースを用い、得られた電極2枚の間にポリプロピレン製のセパレータを介し、さらに電解液として、0.5M K3[Fe(CN)6]/ K4[Fe(CN)6]・3H2Oの水溶液を注入してCR2032型のコイン型電池を作製した。得られたコイン型電池を用いて、電池出力測定を実施した。25℃の屋内で、65℃に加熱したホットプレート上にコイン型電池を置き、コイン型電池の上下で40℃の温度差をつけた。次に、陽極側、陰極側にソースメータをつなぐことで電圧値、電流値を測定し、出力を求めた。
◎◎:電池出力が15μW以上(極めて良好)
◎:電池出力が10μW以上15μW未満(良好)
〇:電池出力が5μW以上10μW未満(使用範囲内)
△:電池出力が5μW未満(不良)
【0082】
表2が示すように、本発明の熱電変換材料は、高い導電率とゼーベック係数を示した。これは、導電性パスの形成が良好に行われた結果、キャリア移動効率が促進され、高い導電性とゼーベック係数の両立が可能となった。また、本発明の熱電変換材料は、高い耐久性を示した。本発明に使用される重合体(A)が導電性材料(B)を保護することで水などによる劣化を防ぎ、更に温度による体積変化による劣化が抑制されたものと推察される。また、本発明の熱電変換素子および熱化学電池は、比較例に比べ高い出力を示すことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の実施形態である熱電変換材料は、導電性及びゼーベック係数を両立し、熱電特性にも優れるため、上記材料を使用して、高性能の熱電変換素子を提供することができる。また、熱電変換材料を電極として使用し、熱化学電池として使用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
1:基材
2:熱電変換膜
3:回路
10:熱電変換素子の試験サンプル
20:ホットプレート
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
図1
図2
図3