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特許7508918はんだ膜及びその製造方法、光学デバイス用部品、並びに光学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】はんだ膜及びその製造方法、光学デバイス用部品、並びに光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20240625BHJP
   C22C 5/02 20060101ALI20240625BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20240625BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240625BHJP
   G02B 7/18 20210101ALI20240625BHJP
【FI】
C23C14/14 D
C22C5/02
H01S5/022
B23K35/30 310A
G02B7/18 100
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020125106
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021508
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山口 義正
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】豊福 直樹
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-072048(JP,A)
【文献】特開2007-266369(JP,A)
【文献】国際公開第2005/020315(WO,A1)
【文献】特開2002-197711(JP,A)
【文献】特開2006-110626(JP,A)
【文献】真下 正夫,薄膜結晶の配向性,表面化学,第2巻 第1号,日本,1981年02月08日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/14
C22C 5/02
B23K 35/22-35/30
G02B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、
Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜を備え、
前記Au-Sn合金膜は、Au及びSnを95質量%以上含み、
前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有さず、
前記Au-Sn合金膜において、厚み方向に結晶が配向している、はんだ膜。
【請求項2】
前記Au-Sn合金膜におけるAuの質量の合計をMとし、Snの質量の合計をMとしたときに、Au及びSnの質量の合計に対するAuの質量の比M/(M+M)が、0.60以上、0.85以下である、請求項1に記載のはんだ膜。
【請求項3】
前記部品と前記Au-Sn合金膜との間に設けられる密着膜をさらに備える、請求項1又は2に記載のはんだ膜。
【請求項4】
前記密着膜が、
前記部品側に設けられており、Cr、Ti、及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、第1の層と、
前記第1の層上に設けられており、Ni、Pt、Pd、及びNi-Cr合金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、第2の層と、
前記第2の層上に設けられており、PtもしくはAuを含む、第3の層と、
を有する、請求項に記載のはんだ膜。
【請求項5】
前記Au-Sn合金膜における前記部品側とは反対側の主面上に設けられている、Au膜をさらに備え、前記Au膜が最外層である、請求項1~のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項6】
前記はんだ膜における前記部品側とは反対側の表面の算術平均粗さRaが、0.05μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項7】
前記はんだ膜における前記部品側とは反対側の表面の最大高さRzが、0.25μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項8】
前記はんだ膜全体の厚みが、1μm以上、15μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のはんだ膜。
【請求項9】
光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜の製造方法であって、
スパッタリング法により、Au及びSnの合金からなるターゲットを用いて、Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜を成膜し、前記Au-Sn合金膜を備える、はんだ膜を得る工程を備え、
前記Au-Sn合金膜は、Au及びSnを95質量%以上含む、はんだ膜の製造方法。
【請求項10】
前記スパッタリング法により、Au-Sn合金膜を成膜するに際し、キャリアガスとしてアルゴンガスを用い、成膜温度を30℃以上、250℃以下とする、請求項9に記載のはんだ膜の製造方法。
【請求項11】
主面を有する部品本体と、
前記部品本体の前記主面上に設けられている、請求項1~のいずれか1項に記載のはんだ膜と、
を備える、光学デバイス用部品。
【請求項12】
プリズム、光学素子、前記光学素子を搭載するためのサブマウント、及び前記光学素子を搭載するためのパッケージ用部材からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の光学デバイス用部品。
【請求項13】
プリズムと、
前記プリズムに光を出射する又は前記プリズムからの光を受光する光学素子と、
前記プリズム及び前記光学素子が搭載されている、パッケージと、
前記光学素子及び前記パッケージの間に設けられている、サブマウントと、
を備え、
請求項1~のいずれか1項に記載のはんだ膜によって、前記部品が前記プリズムであるときに前記プリズム及び前記パッケージが接合され、前記部品が前記光学素子であるときに前記光学素子及び前記サブマウントが接合され、又は前記部品がサブマウントであるときに前記サブマウント及び前記パッケージが接合されている、光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ膜、並びに該はんだ膜を用いた光学デバイス用部品及び光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや、プロジェクタ、あるいは自動車のヘッドランプ等の用途においては、LD(Laser Diode)や、LED(Light Emitting Diode)などの光学素子が搭載された光学デバイスが用いられている。光学デバイスにおいて、光学素子などの部品は、はんだ膜を用いて実装基板に固定されている。はんだ膜としては、例えば、Au及びSnを含むはんだ膜が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、Au層及びSn層を交互に積層したAuSn多層ハンダを用いて、光半導体素子を実装基板上にボンディングする方法が開示されている。特許文献1のAuSn多層ハンダでは、合計で7層のAu層及びSn層が積層されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、Au及びSnを含むはんだ膜を形成する方法として、合金化したAuSnからなる蒸着源を第1の温度で加熱しSnを選択的に蒸発させてSnリッチな第1の層を形成した後に、蒸着源を第1の温度よりも高い第2の温度でさらに加熱しAuリッチな第2の層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-006073号公報
【文献】特開2008-263130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学デバイスにおいては、光学素子に加えて、光学素子を搭載するためのサブマウントや、プリズムなどの部品なども搭載されることがあり、これらの接合においてもはんだ膜が用いられることが多い。しかしながら、特許文献1や特許文献2のようなはんだ膜は、表面の平坦性が十分でなく、上記のような部品をパッケージなどに実装するに際し、十分に接合力(接合強度)を高められない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、表面の平坦性に優れ、接合力を効果的に高めることができる、はんだ膜、並びに該はんだ膜を用いた光学デバイス用部品及び光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るはんだ膜は、光学デバイスにおける部品の固定に用いられるはんだ膜であって、Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜が、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有さないことが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜が、Au及びSnの合金からなるターゲットを用いて成膜されたスパッタ膜であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜において、厚み方向に結晶が配向していることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜におけるAuの質量の合計をMとし、Snの質量の合計をMとしたときに、Au及びSnの質量の合計に対するAuの質量の比M/(M+M)が、0.60以上、0.85以下であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記部品と前記Au-Sn合金膜との間に設けられる密着膜をさらに備えることが好ましい。前記密着膜は、前記部品側に設けられており、Cr、Ti、及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、第1の層と、前記第1の層上に設けられており、Ni、Pt、Pd、及びNi-Cr合金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、第2の層と、前記第2の層上に設けられており、PtもしくはAuを含む、第3の層と、を有することがより好ましい。
【0014】
本発明においては、前記Au-Sn合金膜における前記部品側とは反対側の主面上に設けられている、Au膜をさらに備え、前記Au膜が最外層であることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記はんだ膜における表面の算術平均粗さRaが、0.05μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記はんだ膜における表面の最大高さRzが、0.25μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記はんだ膜全体の厚みが、1μm以上、15μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る光学デバイス用部品は、主面を有する部品本体と、前記部品本体の前記主面上に設けられている、本発明に従って構成されるはんだ膜と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、前記光学デバイス用部品が、プリズム、光学素子、前記光学素子を搭載するためのサブマウント、及び前記光学素子を搭載するためのパッケージ用部材からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る光学デバイスは、プリズムと、前記プリズムに光を出射する又は前記プリズムからの光を受光する光学素子と、前記プリズム及び前記光学素子が搭載されている、パッケージと、前記光学素子及び前記パッケージの間に設けられている、サブマウントと、を備え、本発明に従って構成されるはんだ膜によって、前記プリズム及び前記パッケージが接合され、前記光学素子及び前記サブマウントが接合され、前記サブマウント及び前記パッケージが接合され、又は前記パッケージを構成する部材同士が接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面の平坦性に優れ、接合力を効果的に高めることができる、はんだ膜、並びに該はんだ膜を用いた光学デバイス用部品及び光学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜及び光学デバイス用部品を示す模式的断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る光学デバイスを示す模式的断面図である。
図5】実施例及び比較例で作製した膜付き基板を説明するための模式図である。
図6】実施例1で得られたはんだ膜の断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0024】
[はんだ膜及び光学デバイス用部品]
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜及び光学デバイス用部品を示す模式的断面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【0025】
プリズム10は、光学デバイスに用いられる光学デバイス用部品である。プリズム10は、プリズム本体11と、はんだ膜1と、反射膜12とを備える。
【0026】
プリズム本体11は、略台形の断面形状を有する。プリズム本体11は、底面11aと、底面11aに接続されている斜面11bと、底面11aに対向し、かつ斜面11bに接続されている上面11cとを有する。なお、プリズム本体11の断面形状は、特に限定されず、略三角形等であってもよい。また、本実施形態において、プリズム本体11は、適宜のガラス材料からなる。
【0027】
プリズム本体11の斜面11b上には、反射膜12が設けられている。反射膜12は、例えば、高屈折率膜及び低屈折率膜が交互に積層された誘電体多層膜からなる。高屈折率膜の材料としては、例えば、TiO、Ta、ZrO、又はHfOが挙げられる。低屈折率膜の材料としては、例えば、SiO又はMgFが挙げられる。なお、反射膜12は、単層の金属膜であってもよく、特に限定されない。また、反射膜12は、プリズム本体11の斜面11bの少なくとも一部に設けられていればよく、例えば、斜面11bの全面に設けられていてもよい。斜面11bに反射膜12が設けられることにより、光源から出射された光を好適に反射させることができる。もっとも、反射膜12は、設けられていなくてもよい。反射膜12は、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法等により、各層を積層することによって形成することができる。
【0028】
また、プリズム本体11の底面11a上には、はんだ膜1が設けられている。光学デバイス用部品であるプリズム10は、はんだ膜1により、パッケージや実装基板などに固定される。なお、はんだ膜1は、プリズム本体11の底面11a全体に設けられていることが好ましいが、プリズム本体11の底面11aの少なくとも一部に設けられていればよい。また、はんだ膜1は、プリズム本体11の側面に回り込んでいてもよい。その場合、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。
【0029】
図2に示すように、はんだ膜1は、Au-Sn合金膜2により構成されている。Au-Sn合金膜2は、Au及びSnの合金からなる単層膜である。
【0030】
Au-Sn合金膜2は、対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。第1の主面2aは、プリズム本体11側の主面である。第2の主面2bは、プリズム本体11とは反対側の外側の主面である。なお、第1の主面2a及び第2の主面2bを結ぶ方向は、はんだ膜1の厚み方向とされている。本実施形態では、Au-Sn合金膜2の第1の主面2aが、プリズム本体11に接している。
【0031】
本実施形態のはんだ膜1は、Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜2を備えるので、表面の平坦性に優れる。また、光学デバイス用部品であるプリズム10をパッケージ等へ実装するに際し、接合力を効果的に高めることができる。この点については、以下のように説明することができる。
【0032】
従来、Au層及びSn層が交互に積層されてなるはんだ膜では、Sn層が熱エネルギーを受けて結晶成長したり、あるいは酸化の影響を受けて膜表面の荒れが生じたりすることがあった。
【0033】
これに対して、本実施形態のはんだ膜1は、Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜2により構成されているので、Snが単独で結晶成長し難く、熱エネルギーによる結晶成長や酸化の影響を小さくすることができ、その結果、膜表面1aをより平坦にすることができる。よって、はんだ膜1では、光学デバイス用部品であるプリズム10をパッケージ等に実装するに際し、接合力を高めることができる。
【0034】
本実施形態において、Au-Sn合金膜2は、Au及びSnを95質量%以上含む合金層であることが好ましい。なお、AuやSnの精製の度合いにより、Fe、Cr、Ni等の不純物が合金層に混入することがある。この場合においては、Au及びSnの含有量が95質量%以上であれば、本発明の効果を損なわないことが確認されている。
【0035】
また、Au-Sn合金膜2は、厚み方向において、Au及びSnの濃度勾配を有さないことが好ましい。この場合、融点の変動が生じ難いので、特定の温度以下で管理することにより、はんだ膜1を流動し難くすることができる。また、光学デバイスの製造時に、一定の製造条件下で安定して製造することができるので、歩留まりを向上させることができ、生産性を高めることができる。加えて、はんだ膜1による接合力をより一層効果的に高めることができる。
【0036】
なお、本明細書において、Au-Sn合金膜2がAuの濃度勾配を有さないとは、Au-Sn合金膜2のうち第1の主面2a側のAuの濃度(金属全体に対する質量割合)と、第2の主面2b側のAuの濃度(金属全体に対する質量割合)との差の絶対値が、5%以下である場合をいうものとする。もっとも、Au-Sn合金膜2のうち第1の主面2a側のAuの濃度(金属全体に対する質量割合)と、第2の主面2b側のAuの濃度(金属全体に対する質量割合)との差の絶対値は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0037】
また、Au-Sn合金膜2がSnの濃度勾配を有さないとは、Au-Sn合金膜2のうち第1の主面2a側のSnの濃度(金属全体に対する質量割合)と、第2の主面2b側のSnの濃度(金属全体に対する質量割合)との差の絶対値が、5%以下である場合をいうものとする。もっとも、Au-Sn合金膜2のうち第1の主面2a側のSnの濃度(金属全体に対する質量割合)と、第2の主面2b側のSnの濃度(金属全体に対する質量割合)との差の絶対値は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0038】
また、本明細書において、Au-Sn合金膜2の第1の主面2a側におけるAu又はSnの濃度とは、Au-Sn合金膜2のうち第1の主面2aから10%の厚み部分のAu又はSnの濃度をいうものとする。また、Au-Sn合金膜2の第2の主面2b側におけるAu又はSnの濃度とは、Au-Sn合金膜2のうち第2の主面2bから10%の厚み部分のAu又はSnの濃度をいうものとする。また、Au-Sn合金膜2の各主面側におけるAu又はSnの濃度は、例えば、SEM-EDXにより測定することができる。
【0039】
本実施形態では、Au-Sn合金膜2におけるAuの質量の合計をMとし、Snの質量の合計をMとしたときに、Au及びSnの質量の合計に対するAuの質量の比M/(M+M)が、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.70以上、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.82以下である。この場合には、Au及びSnの融点(共晶温度)を極小値である280℃により近づけることができ、パッケージ等への実装に際し、より低温で接合することができる。
【0040】
本実施形態では、Au-Sn合金膜2において、厚み方向に結晶が配向していることが好ましい。この場合、パッケージ等への実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。なお、Au-Sn合金膜2においては、厚み方向以外の方向に結晶が配向していてもよい。なお、本発明でいう結晶とは、重量比でAu9Sn1の成分比とAu6Sn4の成分比で形成される結晶をいう。結晶が配向したAu-Sn合金膜2を得るには、スパッタリングの成膜条件を調整すればよく、例えば、基板とターゲット間の電力量を大きくしたり、成膜圧力を低くすればよい。
【0041】
本実施形態において、Au-Sn合金膜2の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、好ましくは10μm以下、より好ましくは6μm以下である。Au-Sn合金膜2の厚みが上記下限値以上である場合、パッケージ等への実装に際し、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。Au-Sn合金膜2の厚みが上記上限値以下である場合、膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、パッケージ等への実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。
【0042】
本実施形態において、はんだ膜1の全体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは4μm以上、好ましくは15μm以下、より好ましくは7μm以下である。はんだ膜1の全体の厚みが上記下限値以上である場合、パッケージ等への実装に際し、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。他方、はんだ膜1の全体の厚みが上記上限値以下である場合、膜応力による反りをより一層抑制することができる。また、実装に際し、より短時間で確実に接合することができる。さらに、この場合、プリズム本体11の高さ方向の位置ずれが小さくなるため、光学デバイス用部品であるプリズム10の位置精度もより一層効果的に高めることができる。
【0043】
本実施形態において、はんだ膜1の膜表面1aにおける算術平均粗さRaは、好ましくは0.05μm以下、より好ましくは0.03μm以下である。はんだ膜1の膜表面1aにおける算術平均粗さRaが、上記上限値以下である場合、はんだ膜1とパッケージ等の密着性をより一層高めることができ、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。なお、はんだ膜1の膜表面1aにおける算術平均粗さRaの下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01μmとすることができる。また、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠して測定することができる。
【0044】
本実施形態において、はんだ膜1の膜表面1aにおける最大高さRzは、好ましくは0.25μm以下、より好ましくは0.15μm以下である。はんだ膜1の膜表面1aにおける最大高さRzが、上記上限値以下である場合、はんだ膜1とパッケージ等の密着性をより一層高めることができ、はんだ膜1による接合力をより一層高めることができる。なお、はんだ膜1の膜表面1aにおける最大高さRzの下限値は、特に限定されないが、例えば、0.01μmとすることができる。また、最大高さRzは、JIS B 0601:2013に準拠して測定することができる。
【0045】
はんだ膜1を構成するAu-Sn合金膜2は、例えば、Au-Snの合金からなるターゲットを用いて、スパッタリング法により、成膜することで作製することができる。
【0046】
スパッタリングに際し、キャリアガスとしては、例えば、アルゴンガスなどの不活性ガスを用いることができる。また、成膜温度は、例えば、30℃以上、250℃以下とすることができる。また、基板とターゲット間の電力量は、例えば、500W以上、1500W以下とすることができ、成膜圧力は、例えば、0.1Pa以上、3.0Pa以下とすることができる。
【0047】
スパッタリング法では、Au-Snの合金からなるターゲットの質量比を維持したまま成膜することができるので、Au及びSnの濃度勾配を有さないAu-Sn合金膜2を成膜することができる。また、上記の製造条件で製造すれば、厚み方向に結晶が配向したAu-Sn合金膜2を成膜することができる。
【0048】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係るはんだ膜が設けられている部分を拡大して示す模式的断面図である。
【0049】
図3に示すように、はんだ膜21は、さらに密着膜23を有する。密着膜23は、プリズム本体11とAu-Sn合金膜2との間に設けられている。従って、はんだ膜21では、密着膜23の上にAu-Sn合金膜2が積層されている。密着膜23を設けることにより、プリズム本体11との密着性を高めることができる。
【0050】
密着膜23は、第1の層23a、第2の層23b、及び第3の層23cを有する。第1の層23aは、プリズム本体11側の層である。この第1の層23a上に、第2の層23bが積層されている。第2の層23b上に、第3の層23cが積層されている。なお、第3の層23cは、Au-Sn合金膜2側の層である。
【0051】
第1の層23aを構成する材料としては、例えば、Ni、Cr、Ti、W、TiW、Mo、又はNi-Cr合金等を用いることができる。なかでも、Cr、Ti、又はNiであることが好ましい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なお、第1の層23aを構成する材料には、上記例示した材料が95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、第1の層23aは、本発明の効果を阻害しない範囲において、不純物や添加物を含んでいてもよい。
【0052】
第1の層23aの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上、1.0μm以下とすることができる。第1の層23aは、めっき、蒸着、スパッタリング等の適宜の方法により形成することができる。
【0053】
第2の層23bを構成する材料としては、例えば、Ni、Pt、Pd、Ni-Cr合金等を用いることができる。なかでも、Ni、Pt、Pd、又はNi-Cr合金であることが好ましい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なお、第2の層23bを構成する材料には、上記例示した材料が95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、第2の層23bは、本発明の効果を阻害しない範囲において、不純物や添加物を含んでいてもよい。
【0054】
第2の層23bの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上、2.0μm以下とすることができる。第2の層23bは、めっき、蒸着、スパッタリング等の適宜の方法により形成することができる。なお、密着膜23において、第2の層23bは設けられていなくてもよい。
【0055】
第3の層23cは、拡散防止層としての機能を有していることが望ましい。例えば、Au-Sn合金膜2の成分が、第1の層23a及び第2の層23bへ拡散することを防止するための層であることが望ましい。これにより、はんだ膜21のパッケージ等への接合力をより一層高めることができる。
【0056】
第3の層23cは、特に限定されないが、本実施形態では、Ptである。この場合、Au-Sn合金膜2の成分が、第1の層23a及び第2の層23bへ拡散することをより一層抑制することができる。もっとも、第3の層23cの材料は、Ptには限定されず、Au又はPd等であってもよい。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。なお、第3の層23cには、上記例示した材料が95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、第3の層23cには、密着性を阻害しない範囲において、不純物や添加物が含まれていてもよい。
【0057】
第3の層23cの厚みは、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上、1.0μm以下とすることができる。
【0058】
また、はんだ膜21は、さらにAu膜24を有する。Au膜24は、Au-Sn合金膜2の第2の主面2b上に積層されている。Au膜24は、はんだ膜21における最外層に設けられている。
【0059】
なお、Au膜24には、Auが95%以上含まれていることが望ましい。もっとも、Au膜24には、密着性を阻害しない範囲において、不純物や添加物が含まれていてもよい。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0060】
第2の実施形態におけるはんだ膜21のように、密着膜23をさらに備えていてもよい。また、最外層にAu膜24が設けられていてもよい。最外層をAu膜24とした場合、実装に際し、パッケージ等に接する最外層を酸化し難くすることができ、はんだ膜21による接合力をより確実に高めることができる。
【0061】
また、第2の実施形態においても、はんだ膜21が、Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜2を備えるので、表面の平坦性に優れ、光学デバイス用部品であるプリズム20をパッケージ等に実装するに際し、接合力を高めることができる。
【0062】
なお、第1の実施形態及び第2の実施形態では、光学デバイス用部品としてプリズム10,20について説明した。もっとも、本発明において、光学デバイス用部品は、光学素子や、光学素子を搭載するためのサブマウント、あるいは光学素子を搭載するためのパッケージ用部材であってもよい。
【0063】
[光学デバイス]
図4は、本発明の一実施形態に係る光学デバイスを示す模式的断面図である。図4に示すように、光学デバイス31は、光学素子32と、サブマウント33と、プリズム10と、パッケージ34とを備える。パッケージ34内には、光学素子32、サブマウント33、及びプリズム10が収容されている。
【0064】
より具体的には、パッケージ34は、底部35と、底部35上に配置された側壁部36とを有する容器状の部材である。パッケージ34は、例えば、セラミック材料により構成することができる。セラミック材料としては、例えば、アルミナや窒化アルミニウム等を用いることができる。なかでも、放熱性をより一層高める観点からは、窒化アルミニウムであることが好ましい。
【0065】
底部35は、実装面35aを有する。側壁部36は、内面36aを有する。そして、底部35の実装面35a及び側壁部36の内面36aには、金属膜38が設けられている。
【0066】
本実施形態では、実装面35aにおける金属膜38上に、光学素子32及びプリズム10が配置されている。より具体的には、金属膜38上に、サブマウント33が設けられており、その上に光学素子32が配置されている。この際、サブマウント33の一方側主面33aが、図示しないはんだ膜1により光学素子32に接合されている。また、サブマウント33の他方側主面33bが、図示しないはんだ膜1により金属膜38に接合されている。また、プリズム10も、はんだ膜1により金属膜38に接合されている。
【0067】
パッケージ34は、金属膜38を必ずしも有していなくてもよい。もっとも、パッケージ34は、本実施形態のように金属膜38を有していることが好ましい。このような構成は、特に、サブマウント33やプリズム10と、パッケージ34との熱膨張率差が比較的大きい場合に有効である。
【0068】
金属膜38は、Au膜であることが好ましい。この場合、金属膜38が酸化し難いことから、光学デバイス31の製造に際し、サブマウント33やプリズム10と、パッケージ34との間の接合力をより一層高めることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、底部35における実装面35aの全面及び側壁部36の内面36aの全面に、金属膜38が設けられている。もっとも、金属膜38は、少なくともサブマウント33及びプリズム10が配置される部分に設けられていればよい。
【0070】
パッケージ34の側壁部36上には、光学素子32及びプリズム10を封止するように、蓋体37が設けられている。蓋体37は、特に限定されないが、本実施形態ではガラス蓋である。また、蓋体37及び側壁部36は、図示しないはんだ膜1により接合されている。この場合には、接合後においてガスが生じないため、プリズム10の反射膜12に不純物が付着し難く、反射特性の劣化がより生じ難い。
【0071】
本実施形態において、光学素子32は、プリズム10に光を出射する光源である。光源としては、特に限定されないが、例えば、LDやLED等を用いることができる。図4に示すように、光学素子32から出射した光Aは、プリズム10において反射され、蓋体37を通り、光学デバイス31外に出射される。なお、光学素子32は、プリズム10からの光を受光する受光素子であってもよい。
【0072】
サブマウント33は、光学素子32を搭載するために設けられている。また、サブマウント33は、ヒートシンクを兼ねている。そのため、光学素子32で発生した熱を、サブマウント33を通して、パッケージ34側へ効率よく放熱することができる。
【0073】
光学デバイス31では、はんだ膜1により、プリズム10及びパッケージ34が接合され、光学素子32及びサブマウント33が接合され、サブマウント33及びパッケージ34が接合され、パッケージ34における蓋体37及び側壁部36が接合されている。そのため、光学デバイス31では、各部品間における接合力が高められている。従って、光学デバイス31では、信頼性が高められている。
【0074】
また、光学デバイス31では、Sn-Agなどの融点が低いはんだ膜により、パッケージ34における蓋体37及び側壁部36が接合されていてもよい。この場合、その他の各部材を上記はんだ膜よりも融点の高いはんだ膜1によって接合すれば、光学素子32、サブマウント33、及びプリズム10を実装した後、蓋体37及び側壁部36を上記はんだ膜によって接合する際の加熱により、光学素子32、サブマウント33、及びプリズム10の高さ方向における位置ずれが生じ難い。そのため、光学デバイス31の信頼性をより一層高めることができる。
【0075】
なお、光学素子32、サブマウント33、及びプリズム10を接合する際の温度は、例えば、290℃~320℃とすることができる。また、蓋体37及び側壁部36を接合する際の温度は、220℃~270℃とすることができる。このような温度範囲で接合させることにより、光学素子32、サブマウント33、及びプリズム10の高さ方向における位置精度をより高めることができる。
【0076】
なお、本発明においては、光学素子32、サブマウント33、プリズム10、及びパッケージ34を構成する部材の接合のうち、少なくとも1つの接合がはんだ膜1によって行われればよく、特に限定はされない。
【0077】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0078】
(実施例1)
まず、Au-Snの合金からなるターゲットを用いて、スパッタリング法により、図5に示すガラス基板42(日本電気硝子社製、OA-10G、厚み:0.197mm)上に、Au及びSnの合金からなる単層膜であるAu-Sn合金膜を形成し、はんだ膜41を得た。なお、スパッタリングに際し、ターゲットにおけるAuとSnとの質量比は、70:30とした。キャリアガスとしてはアルゴン(Ar)ガスを用い、成膜温度は、ヒータはOFFで成膜時のスパッタの運動エネルギーにより凡そ100℃とした。また、得られたAu-Sn合金膜の厚みは、5μmであった。
【0079】
図6は、実施例1で得られたはんだ膜41の断面を示すSEM写真である。図6より、実施例1で得られたはんだ膜41では、厚み方向に結晶が配向していることがわかる。また、はんだ膜41では、Au及びSnの濃度勾配を有していないことが確認されている。
【0080】
(比較例1)
ガラス基板42(日本電気硝子社製、OA-10G、厚み:0.197mm)上に、蒸着によって、Au層及びSn層を交互に合計で180層積層することにより、はんだ膜41を得た。なお、このとき、Au層の1層当たりの厚みをそれぞれ25.6nmとした。また、Sn層の1層当たりの厚みをそれぞれ29.4nmとした。なお、はんだ膜41全体の厚みは、5μmとした。
【0081】
[評価]
(表面平坦性の評価)
膜付き基板40の膜表面40aにおける算術平均粗さRa及び最大高さRzは、JIS B 0601:2013に準拠して測定した。
【0082】
(密着力の評価)
密着力の評価においては、パッケージとして、Auめっきされた部分を有する窒化アルミニウム基板を用意した。次に、膜付き基板40をはんだ膜41側から窒化アルミニウム基板のAuめっきされた部分に貼り付け、窒素雰囲気中で320℃に加熱することにより接合した。
【0083】
次に、引張圧縮試験機(株式会社今田製作所製 SV-201)を用いて膜付き基板40を側面より押すことにより、密着力を評価した。なお、密着力の評価は、接合時間10秒の条件にて行った。
【0084】
結果を下記の表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1から明らかなように、Au及びSnの合金からなる単層膜である、Au-Sn合金膜を用いた実施例1のはんだ膜41では、表面の平坦性に優れ、パッケージとの接合力に優れることが確認できた。
【符号の説明】
【0087】
1,21,41…はんだ膜
1a,21a,40a…膜表面
2…Au-Sn合金膜
2a…第1の主面
2b…第2の主面
10,20…プリズム
11…プリズム本体
11a…底面
11b…斜面
11c…上面
12…反射膜
23…密着膜
23a…第1の層
23b…第2の層
23c…第3の層
24…Au膜
31…光学デバイス
32…光学素子
33…サブマウント
33a…一方側主面
33b…他方側主面
34…パッケージ
35…底部
35a…実装面
36…側壁部
36a…内面
37…蓋体
38…金属膜
40…膜付き基板
42…ガラス基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6