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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】機械学習装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/27 20200101AFI20240625BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240625BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240625BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240625BHJP
   G06F 113/10 20200101ALN20240625BHJP
【FI】
G06F30/27
B33Y50/00
G06F30/10
G06N20/00
G06F113:10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020130106
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026568
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼谷 彰彦
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-087446(JP,A)
【文献】特開2019-171846(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151784(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/031671(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0093418(US,A1)
【文献】阪本正治 ほか,3Dプリンタにおける寸法誤差の計測と予測-学習する3Dプリンタを目指して,情報処理学会研究報告 コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM),日本,一般社団法人情報処理学会,2014年11月13日,Vol.2014-CVIM-194, No.12,pages 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/27
B33Y 50/00
G06F 30/10
G06N 20/00
G06F 113/10
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習装置であって、
三次元造形物の目標形状に関する形状データと、三次元造形装置によって前記三次元造形物を造形する際の造形条件に関する造形条件データとを含む第1データと、前記三次元造形物の変形に関する第2データとを取得するデータ取得部と、
複数の前記第1データと複数の前記第2データとを含む学習データセットを記憶する記憶部と、
前記学習データセットを用いた機械学習を実行することによって、前記第1データと前記第2データとの関係を学習する学習部と、
を備える機械学習装置。
【請求項2】
請求項1に記載の機械学習装置であって、
前記造形条件データは、前記造形条件として前記三次元造形物の造形に用いられる材料に含まれる粒子の密度に関するデータを含む、機械学習装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の機械学習装置であって、
前記第1データは、前記三次元造形物に対する熱処理の条件に関する熱処理条件データを含む、機械学習装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の機械学習装置であって、
前記学習部は、前記機械学習として、教師あり学習と教師なし学習と強化学習とのうちの少なくとも一つを実行する、機械学習装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の機械学習装置であって、
前記データ取得部は、複数の前記三次元造形装置から前記造形条件データを取得する、機械学習装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の機械学習装置であって、
前記学習部による前記機械学習によって生成される学習モデルを用いて三次元造形物の変形を予測する予測部を備える、機械学習装置。
【請求項7】
請求項6に記載の機械学習装置であって、
前記予測部による予測結果に応じて造形条件データを補正し、補正後の造形条件データを出力する補正部を備える、機械学習装置。
【請求項8】
請求項7に記載の機械学習装置であって、
前記補正部は、多項式関数と有理関数とのうちの少なくとも一つを用いて造形条件データを補正する、機械学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状の金属やセラミックを含んだ材料を積層して三次元造形物を造形した後、三次元造形物を焼結させて強度を高める技術が知られている。焼結によって三次元造形物が収縮するので、焼結後の三次元造形物には、歪みや、割れや、反りなどが生じることがある。この問題に関して、特許文献1には、有限要素法を用いて熱による三次元造形物の変形量を予測し、予測された変形量が許容範囲内でない場合には入力ジオメトリを補正し、補正後の入力ジオメトリに従って三次元造形物を造形することで三次元造形物の変形を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-530027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱処理による三次元造形物の変形量は、例えば、三次元造形物の形状や厚みや材料、あるいは、三次元造形物に対する熱処理の温度や昇温速度や時間などの種々の条件が組み合わさって決まる。そのため、上記特許文献1のように有限要素法を用いて三次元造形物の変形量を予測する技術では、正確な予測が難しい。このような問題は、粉末状の金属などを積層した後に焼結させて三次元造形物を製造する場合のみならず、可塑化した熱可塑性樹脂を積層して三次元造形物を製造する場合にも共通した問題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、機械学習装置が提供される。この機械学習装置は、三次元造形物の目標形状に関する形状データと、三次元造形装置によって前記三次元造形物を造形する際の造形条件に関する造形条件データとを含む第1データと、前記三次元造形物の変形に関する第2データとを取得するデータ取得部と、複数の前記第1データと複数の前記第2データとを含む学習データセットを記憶する記憶部と、前記学習データセットを用いた機械学習を実行することによって、前記第1データと前記第2データとの関係を学習する学習部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】機械学習システムの概略構成を示す説明図。
図2】第1実施形態の三次元造形装置の概略構成を示す説明図。
図3】三次元造形物が複数の層に分割される様子を模式的に示す説明図。
図4】層が複数のボクセルに分割される様子を模式的に示す説明図。
図5】三次元造形物の製造方法を示すフローチャート。
図6】熱処理工程後の三次元造形物の一例を示す斜視図。
図7】学習処理の内容を示すフローチャート。
図8】予測処理の内容を示すフローチャート。
図9】補正処理の内容を示すフローチャート。
図10】補正前後の第1部分と第2部分との分布の一例を示す説明図。
図11】第2実施形態の三次元造形装置の概略構成を示す説明図。
図12】補正処理において収縮率を判定する方法の他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における機械学習システム50の概略構成を示す説明図である。機械学習システム50は、機械学習装置100と、情報処理装置200と、三次元造形装置300と、熱処理装置400と、検査装置500とを備えている。
【0008】
機械学習装置100は、1つまたは複数のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。本実施形態では、機械学習装置100は、後述する学習処理を実行することによって学習モデルを生成し、後述する予測処理を実行することによって学習モデルを用いて三次元造形物の製造誤差を予測し、予測される製造誤差が許容範囲内でない場合には後述する補正処理を実行する。なお、機械学習装置100は、複数のコンピューターによって構成されてもよい。
【0009】
本実施形態では、機械学習装置100は、データ取得部110と、データ記憶部120と、演算部130と、前処理部140と、学習部150と、学習モデル記憶部160と、予測部170と、補正部180と、補正関数記憶部190とを備えている。
【0010】
データ取得部110は、有線通信または無線通信によって、情報処理装置200、三次元造形装置300および熱処理装置400から第1データを取得する。第1データには、後述する形状データや造形データが含まれる。さらに、データ取得部110は、有線通信または無線通信によって、検査装置500から第2データを取得する。第2データには、後述する計測データが含まれる。
【0011】
データ記憶部120は、第1データや第2データなどの各種データを記憶する。演算部130は、第1データに含まれる形状データと第2データに含まれる計測データとを用いて、後述する製造誤差データを生成する。前処理部140は、第1データと製造誤差データとを用いて学習データセットを生成する。学習部150は、学習処理において、学習データセットを用いた機械学習を実行して、学習モデルを生成する。本実施形態では、学習部150は、報酬計算部151と、価値関数更新部152とを備えている。学習モデル記憶部160は、学習モデルを記憶する。予測部170は、予測処理において、学習モデルを用いて三次元造形物の製造誤差を予測する。補正部180は、予測処理において、予測部170による予測結果に応じて、第1データに含まれる造形データを補正する。補正関数記憶部190は、補正部180による造形データの補正に用いられる補正関数を記憶する。
【0012】
情報処理装置200は、1つまたは複数のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。情報処理装置200には、マウスやキーボードなどの入力装置や、液晶ディスプレイなどの表示装置が接続されている。本実施形態では、情報処理装置200は、予めインストールされた三次元CADソフトによって、形状データを生成する。形状データには、三次元造形物の目標形状が表されている。目標形状とは、三次元造形物の製造時に目標とされる形状のことを意味する。つまり、目標形状通りに三次元造形物が製造された場合、その三次元造形物の製造誤差はゼロである。形状データは、機械学習装置100に送信される。さらに、本実施形態では、情報処理装置200は、予めインストールされたスライサーソフトに形状データを読み込ませることによって造形データを生成する。造形データは、三次元造形装置300によって三次元造形物を造形するための造形条件、つまり、三次元造形装置300を制御するための各種情報が表されたデータである。造形データは、機械学習装置100および三次元造形装置300に送信される。なお、造形データのことを造形条件データと呼ぶことがある。
【0013】
三次元造形装置300は、造形データに従って三次元造形物を造形する。本実施形態では、三次元造形装置300は、インクジェット技術を用いて、粉末材料と溶媒と結合剤とが混合されたペースト状の液体を噴射して三次元造形物を造形するペーストインクジェット方式の三次元造形装置である。なお、三次元造形装置300の構成については後述する。
【0014】
熱処理装置400は、三次元造形装置300によって造形された三次元造形物に熱処理を施す。本実施形態では、熱処理装置400は、焼結炉である。熱処理装置400は、予め定められた熱処理条件に従って、三次元造形物を焼結させる。焼結によって、三次元造形物は収縮し、三次元造形物の強度は高まる。熱処理条件には、例えば、熱処理工程における加熱時間や加熱温度や加熱速度や加熱回数などが含まれる。
【0015】
検査装置500は、熱処理後の三次元造形物の寸法を計測して、計測データを生成する。本実施形態では、検査装置500は、三次元測定機である。本実施形態では、計測データには、熱処理後の三次元造形物の形状が表されている。なお、計測データには、熱処理後の三次元造形物の歪量や、反り量や、割れの有無などが表されてもよい。
【0016】
図2は、三次元造形装置300の概略構成を示す説明図である。三次元造形装置300は、制御部301と、テーブルユニット302と、移動機構303と、造形ユニット304とを備えている。制御部301は、1つまたは複数のプロセッサーと、主記憶装置と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェースとを備えるコンピューターによって構成されている。制御部301は、情報処理装置200から供給された造形データに従って、テーブルユニット302と移動機構303と造形ユニット304とを制御する。
【0017】
テーブルユニット302は、テーブル310と、テーブル310をZ方向に沿って移動させる昇降機構316とを備えている。本実施形態では、昇降機構316は、制御部301の制御下で、テーブル310をZ方向に沿って移動させるアクチュエーターによって構成されている。
【0018】
移動機構303は、テーブルユニット302の上方に設けられている。移動機構303は、造形ユニット304を支持しており、テーブル310に対して造形ユニット304をX方向に沿って相対移動させる。本実施形態では、移動機構303は、制御部301の制御下で、造形ユニット304をX方向に沿って移動させるアクチュエーターによって構成されている。
【0019】
造形ユニット304は、テーブルユニット302の上方に配置されている。造形ユニット304は、第1材料供給部320と、第2材料供給部330と、硬化エネルギー供給部350とを備えている。造形ユニット304には、-X方向側から、第1材料供給部320と、第2材料供給部330と、硬化エネルギー供給部350とがこの順に配置されている。
【0020】
第1材料供給部320は、粉末材料と溶媒と結合剤とを含むペースト状の液体である第1液体LQ1をテーブル310上に供給する。第1材料供給部320は、第1液体LQ1の供給源である第1供給源321と、テーブル310上に第1液体LQ1を供給する第1ヘッド322とを備えている。本実施形態では、第1供給源321は、第1液体LQ1を貯蔵するタンクによって構成されている。第1ヘッド322は、圧力室と、圧力室の容積を変化させるピエゾ素子と、圧力室に連通する複数のノズル孔とを有するピエゾ駆動方式の液体噴射ヘッドによって構成されている。第1ヘッド322には、Y方向に沿って複数のノズル孔が設けられている。第1ヘッド322は、第1供給源321から供給された第1液体LQ1で満たされた圧力室の側壁をピエゾ素子によって撓ませて圧力室の容積を減少させ、圧力室の容積減少量に相当する量の第1液体LQ1をノズル孔から噴射する。
【0021】
第2材料供給部330は、粉末材料と溶媒と結合剤とを含むペースト状の液体である第2液体LQ2をテーブル310上に供給する。第2材料供給部330は、第2液体LQ2の供給源である第2供給源331と、テーブル310上に第2液体LQ2を供給する第2ヘッド332とを備えている。本実施形態では、第2供給源331は、第2液体LQ2を貯蔵するタンクによって構成されている。第2ヘッド332は、圧力室と、圧力室の容積を変化させるピエゾ素子と、圧力室に連通する複数のノズル孔とを有するピエゾ駆動方式の液体噴射ヘッドによって構成されている。第2ヘッド332には、Y方向に沿って複数のノズル孔が設けられている。第2ヘッド332は、第2供給源331から供給された第2液体LQ2で満たされた圧力室の側壁をピエゾ素子によって撓ませて圧力室の容積を減少させ、圧力室の容積減少量に相当する量の第2液体LQ2をノズル孔から噴射する。
【0022】
第1液体LQ1および第2液体LQ2に含まれる粉末材料は、三次元造形物の原材料である。粉末材料として、例えば、ステンレス鋼や、ステンレス鋼以外の鉄鋼や、純鉄や、チタン合金や、マグネシウム合金や、コバルト合金や、ニッケル合金などの金属材料の粉末、あるいは、二酸化ケイ素や、二酸化チタンや、酸化アルミニウムや、酸化ジルコニウムや、窒化ケイ素などのセラミック材料の粉末などを用いることができる。これらのうちの一種類が粉末材料として用いられてもよいし、二種類以上が組み合わされて粉末材料として用いられてもよい。本実施形態では、第1液体LQ1および第2液体LQ2に含まれる粉末材料としてステンレス鋼の粉末が用いられる。
【0023】
第1液体LQ1および第2液体LQ2に含まれる溶媒として、例えば、水、あるいは、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル類や、酢酸エチルなどの酢酸エステル類や、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類や、メチルエチルケトンなどのケトン類や、エタノールなどのアルコール類などの有機溶媒を用いることができる。これらのうちの一種類が溶媒として用いられてもよいし、二種類以上が組み合わされて溶媒として用いられてもよい。
【0024】
第1液体LQ1および第2液体LQ2に含まれる結合剤として、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂や、可視光領域の光により硬化する可視光硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、赤外線硬化性樹脂などの各種光硬化性樹脂や、X線硬化性樹脂などを用いることができる。これらのうちの一種類が結合剤として用いられてもよく、二種類以上が組み合わされて結合剤として用いられてもよい。本実施形態では、第1液体LQ1および第2液体LQ2に含まれる結合剤として熱硬化性樹脂が用いられる。
【0025】
第1液体LQ1の粒子密度は、第2液体LQ2の粒子密度よりも低い。粒子密度とは、単位体積当たりの粉末材料の体積のことを意味する。各液体LQ1,LQ2における単位体積当たりの粉末材料の粒子数を少なくすることによって、各液体LQ1,LQ2の粒子密度を低減できる。各液体LQ1,LQ2に含まれる粉末材料の平均粒子径を大きくすることによっても、各液体LQ1,LQ2の粒子密度を低減できる。平均粒子径として、例えば、メディアン径を用いることができる。本実施形態では、第1液体LQ1における単位体積当たりの粉末材料の粒子数は、第2液体LQ2における単位体積当たりの粉末材料の粒子数よりも少ない。第1液体LQ1に含まれる粉末材料の平均粒子径は、第2液体LQ2に含まれる粉末材料の平均粒子径と同じである。
【0026】
硬化エネルギー供給部350は、第1液体LQ1や第2液体LQ2に含まれる結合剤に対して、結合剤を硬化させるためのエネルギーを付与する。本実施形態では、硬化エネルギー供給部350は、ヒーターによって構成されている。テーブル310上に供給された第1液体LQ1や第2液体LQ2に含まれる溶媒は、硬化エネルギー供給部350からの加熱によって揮発し、テーブル310上に供給された第1液体LQ1や第2液体LQ2に含まれる結合剤は、硬化エネルギー供給部350からの加熱によって硬化する。なお、紫外線硬化性の結合材が用いられる場合には、硬化エネルギー供給部350は、紫外線ランプによって構成されてもよい。
【0027】
図3は、三次元造形物OBの目標形状が複数の層に分割される様子を模式的に示す説明図である。図4は、三次元造形物OBの層が複数のボクセルVXに分割される様子を模式的に示す説明図である。本実施形態では、形状データに表された三次元造形物OBの目標形状は、スライサーソフトによって、熱処理による収縮率を加味して寸法を拡大され、所定の厚みを有する複数の層に分割される。図3には一例として、三次元造形物OBの目標形状が7つの層に分割される様子が表されている。各層のことを-Z方向側から順に、第1層LY1、第2層LY2、第3層LY3、第4層LY4、第5層LY5、第6層LY6、第7層LY7と呼ぶ。さらに、本実施形態では、各層は、スライサーソフトによって、所定の体積を有する立方体状あるいは直方体状の複数のボクセルVXに分割される。図4には一例として、第4層LY4が複数のボクセルVXに分割される様子が表されている。
【0028】
造形データには、各ボクセルVXの位置に関する情報と、各ボクセルVXを造形するために用いられる液体の種類に関する情報とが含まれる。図4に示した例では、第4層LY4のうち、二点鎖線で囲まれた領域内の各ボクセルVXを造形するために第2液体LQ2が用いられ、それ以外の各ボクセルVXを造形するために第1液体LQ1が用いられる。以下の説明では、三次元造形物OBのうちの第1液体LQ1を用いて造形される部分のことを第1部分P1と呼び、三次元造形物OBのうちの第2液体LQ2を用いて造形される部分のことを第2部分P2と呼ぶ。
【0029】
図5は、本実施形態における三次元造形物OBの製造方法を示すフローチャートである。図3および図4に示した三次元造形物OBが製造される様子を例にして三次元造形物OBの製造方法を説明する。まず、ステップS110の造形データ取得工程にて、三次元造形装置300の制御部301は、情報処理装置200から造形データを取得する。
【0030】
ステップS120の造形工程にて、制御部301は、図2に示すように、造形データに従って造形ユニット304と移動機構303とテーブルユニット302の昇降機構316を制御することによって、テーブル310上に三次元造形物OBを造形する。初期状態では、造形ユニット304は、テーブル310よりも+X方向側に配置されている。制御部301は、移動機構303を制御することによって、造形ユニット304を-X方向に移動させる。制御部301は、造形ユニット304を-X方向に移動させながら、第1材料供給部320を制御することによって第1部分P1を造形する位置に第1液体LQ1を供給し、第2材料供給部330を制御することによって第2部分P2を造形する位置に第2液体LQ2を供給し、硬化エネルギー供給部350を制御することによってテーブル310上に供給された各液体LQ1,LQ2に含まれる結合剤を硬化させる。結合剤が硬化することによって、三次元造形物OBの第n層が形成される。nは任意の自然数である。その後、制御部301は、移動機構303を制御することによって造形ユニット304をテーブル310よりも+X方向側の位置に戻し、昇降機構316を制御することによって第n層の厚み分、テーブル310を下降させる。制御部301は、上述した処理を繰り返すことによって、第n層上に第n+1層を積層して、三次元造形物OBを造形する。
【0031】
図5のステップS130の熱処理工程にて、三次元造形物OBに熱処理が施される。本実施形態では、熱処理装置400によって、三次元造形物OBを所定の熱処理条件で加熱することによって、三次元造形物OBから結合剤を脱脂させ、さらに、三次元造形物OBを焼結させる。焼結によって、三次元造形物OBは収縮し、三次元造形物OBの強度は高まる。
【0032】
ステップS140の検査工程にて、検査装置500によって、熱処理工程後の三次元造形物OBの寸法が計測されて、計測データが生成される。計測データは、機械学習装置100に送信される。ステップS140の検査工程の後、三次元造形物OBの製造方法は終了される。
【0033】
図6は、熱処理工程後の三次元造形物OBの一例を示す斜視図である。熱処理工程によって、三次元造形物OBは収縮する。三次元造形物OB内には、収縮率の比較的高い部分と収縮率の比較的低い部分とが生じることがある。三次元造形物OB内の収縮率に大きな差が生じることによって、三次元造形物OBに歪みや反りや割れなどが生じることがある。図6に示した三次元造形物OBは、第1面PL1、第2面PL2、第3面PL3、第4面PL4、第5面PL5、第6面PL6、第7面PL7および第8面PL8を有している。この例では、第2面PL2と第6面PL6との収縮率が比較的高いことに起因して、第2面PL2と第6面PL6とに歪みが生じている。このような問題に対して、三次元造形物OB内の粒子密度の分布を調整することによって、三次元造形物OBに歪みや反りや割れが生じることを抑制できる。例えば、収縮率の比較的高い部分の粒子密度を高めることによって当該部分の収縮率を小さくすることができ、収縮率の比較的低い部分の粒子密度を低めることによって当該部分の収縮率を大きくすることができる。つまり、三次元造形物OB内における、第1液体LQ1を用いて造形される第1部分P1と第2液体LQ2を用いて造形される第2部分P2との配置を調整することによって、三次元造形物OBに歪みや反りや割れが生じることを抑制できる。
【0034】
図7は、本実施形態における学習処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、例えば、1つの三次元造形物OBの製造が終了したタイミングで機械学習装置100によって実行される。まず、ステップS210にて、データ取得部110は、第1データを取得する。第1データには、三次元造形物OBの目標形状に関する形状データと、形状データに基づいて生成された造形データとが含まれている。本実施形態では、第1データには、さらに、熱処理工程における熱処理条件を表す熱処理条件データが含まれている。取得された第1データは、データ記憶部120に記憶される。
【0035】
ステップS220にて、データ取得部110は、第2データを取得する。第2データには、検査工程において生成された計測データが含まれている。本実施形態では、計測データには、熱処理工程後の三次元造形物OBの形状が表されている。取得された第2データは、対応する第1データに紐付けられてデータ記憶部120に記憶される。なお、ステップS210の処理とステップS220の処理との順序は逆でもよい。
【0036】
ステップS230にて、演算部130は、データ記憶部120に記憶された第1データに含まれる形状データと第2データに含まれる計測データとを読み込んで、熱処理工程後の三次元造形物OBの形状の寸法と目標形状の寸法との誤差を表す製造誤差データを生成する。生成された製造誤差データは、対応する第1データに紐付けられてデータ記憶部120に記憶される。ステップS240にて、前処理部140は、データ記憶部120に記憶された第1データおよび当該第1データに紐付けられている製造誤差データを読み込んで、学習データセットを生成する。
【0037】
ステップS250にて、学習部150は、前処理部140によって生成された学習データセットを読み込んで、機械学習を実行して学習モデルを生成する。ステップS260にて、学習モデル記憶部160は、学習部150によって生成された学習モデルを記憶する。その後、機械学習装置100は、この処理を終了する。機械学習装置100は、例えば、1つの三次元造形物OBの製造が終了するごとに、この処理を繰り返すことによって、目標形状や造形条件や熱処理条件が異なる複数の三次元造形物OBについてのデータを含む学習データセットを用いて機械学習を実行して、学習モデルを更新する。
【0038】
上述したステップS250で学習部150が実行する機械学習のアルゴリズムは特に限定されず、例えば、教師あり学習や、教師なし学習や、強化学習などの公知のアルゴリズムを採用できる。本実施形態では、学習部150は、後述する強化学習を実行する。強化学習は、学習対象が存在する環境の現在状態を観測するとともに現在状態で所定の行動を実行し、その行動に対し何らかの報酬を与えるというサイクルを試行錯誤的に反復して、報酬の総計が最大化されるような方策を最適解として学習する手法である。
【0039】
学習部150が実行する強化学習のアルゴリズムの一例を説明する。この例によるアルゴリズムは、Q学習(Q-learning)として知られるものであって、行動主体の状態sと、その状態sで行動主体が選択し得る行動aとを独立変数として、状態sで行動aを選択した場合の行動の価値を表す関数Q(s,a)を学習する手法である。状態sで価値関数Qが最も高くなる行動aを選択することが最適解となる。状態sと行動aとの相関性が未知の状態でQ学習を開始し、任意の状態sで種々の行動aを選択する試行錯誤を繰り返すことで、価値関数Qを反復して更新し、最適解に近付ける。ここで、状態sで行動aを選択した結果として環境つまり状態sが変化したときに、その変化に応じた報酬rつまり行動aの重み付けが得られるように構成し、より高い報酬rが得られる行動aを選択するように学習を誘導することで、価値関数Qを比較的短時間で最適解に近付けることができる。
【0040】
価値関数Qの更新式は、一般に下式(1)のように表すことができる。
【数1】
【0041】
上式(1)において、s及びaはそれぞれ時刻tにおける状態及び行動であり、行動aにより状態はst+1に変化する。rt+1は、状態がsからst+1に変化したことで得られる報酬である。maxQの項は、時刻t+1で最大の価値Qになると時刻tで考えられている行動aを行ったときのQを意味する。α及びγはそれぞれ学習係数及び割引率であり、0<α≦1、0<γ≦1で任意に設定される。
【0042】
学習部150がQ学習を実行する場合、状態変数Sつまり第1データ、および、判定データDつまり製造誤差データは、更新式の状態sに該当し、現在状態の三次元造形物OBの目標形状に対して粒子密度の分布をどのように決定するべきかという行動つまり現在状態の第1データに含まれる造形データに表された各ボクセルVXの位置に第1液体LQ1を供給するか第2液体LQ2を供給するかをどのように決定すべきかという行動は、更新式の行動aに該当し、報酬計算部151が求める報酬Rは、更新式の報酬rに該当する。よって価値関数更新部152は、現在状態の三次元造形物OBの目標形状に対する粒子密度の分布の価値を表す関数Qを、報酬Rを用いたQ学習により繰り返し更新する。
【0043】
報酬計算部151が求める報酬Rは、例えば、三次元造形物OBの目標形状に対する粒子密度の分布を決定した後に、決定した分布に基づいて製造された三次元造形物OBの製造誤差が変更前の分布に基づいて製造された三次元造形物OBの製造誤差に比べて小さくなった場合や、決定した分布に基づいて製造された三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であった場合などに正の報酬Rとし、三次元造形物OBの目標形状に対する粒子密度の分布を決定した後に、決定した分布に基づいて製造された三次元造形物OBの製造誤差が変更前の分布に基づいて製造された三次元造形物OBの製造誤差に比べて大きくなった場合や、決定した分布に基づいて製造された三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲を超える場合などに負の報酬Rとすることができる。
【0044】
製造された三次元造形物OBの製造誤差に応じた報酬Rを用いてQ学習を進めると、より高い報酬Rが得られる行動を選択する方向へ学習が誘導され、選択した行動を現在状態で実行した結果として変化する環境の状態、つまり状態変数S及び判定データDに応じて、現在状態で行う行動についての行動価値の値、つまり関数Qが更新される。この更新を繰り返すことにより関数Qは、適正な行動ほど大きな値となるように書き換えられる。このようにして、未知であった環境の現在状態と、それに対する行動との相関性が徐々に明らかになる。
【0045】
図8は、本実施形態における予測処理の内容を示すフローチャートである。この処理は、機械学習装置100に所定の開始命令が供給された場合に、機械学習装置100によって実行される。まず、ステップS310にて、データ取得部110は、第1データを取得する。取得された第1データは、データ記憶部120に記憶される。
【0046】
次に、ステップS320にて、予測部170は、データ記憶部120に記憶された第1データと学習モデル記憶部160に記憶された学習モデルとを読み込んで、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差を予測し、予測結果が表された予測結果データを生成する。予測部170は、第1データと学習モデルとを読み込んで算出される価値Qを用いて、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差を予測できる。本実施形態では、予測結果データには、製造誤差の量が表される。なお、予測結果データには、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの歪量や、反り量や、割れの有無などが表されてもよい。予測結果データには、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であることを示す符号や、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲を超えることを示す符号が表されてもよい。
【0047】
ステップS330にて、予測部170は、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であるか否かを判定する。予測部170は、予測結果データに表された製造誤差と予め設定された製造誤差の許容値とを比較して、第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であるか否かを判断できる。
【0048】
ステップS330で第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であると判断されなかった場合、ステップS400にて、補正部180は、第1データに含まれる造形データを補正する補正処理を実行する。補正処理の内容については後述する。その後、ステップS320に処理を戻して、予測部170は、造形データが補正された第1データと学習モデルとを読み込んで、造形データが補正された第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差を予測し、予測結果が表された予測結果データを生成する。予測部170および補正部180は、ステップS330で第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であると判断されるまで、ステップS400、ステップS320およびステップS330の処理を繰り返す。
【0049】
ステップS330で第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であると判断された場合、ステップS340にて、機械学習装置100は、造形データと予測結果データとを出力した後、この処理を終了する。本実施形態では、機械学習装置100は、造形データと予測結果データとを情報処理装置200に出力する。補正処理によって造形データが補正された場合には、補正後の造形データと、補正後の造形データに基づく予測結果データが出力される。
【0050】
図9は、本実施形態における補正処理の内容を示すフローチャートである。まず、ステップS410にて、補正部180は、予測部170によって生成された予測結果データを読み込む。次に、ステップS420にて、補正部180は、予測結果データを用いて三次元造形物OBの各面の収縮率を算出する。
【0051】
ステップS430にて、補正部180は、三次元造形物OBの有する各面のうちの第k面の収縮率が所定値以上であるか否かを判定する。kは任意の自然数である。補正部180は、第k面の収縮率と予め設定された閾値とを比較して第k面の収縮率が所定値以上であるか否かを判断できる。ステップS430で第k面の収縮率が所定値以上であると判断された場合、補正部180は、ステップS440にて、第k面の収縮率と第k面とは反対側の面の収縮率との差を算出する。例えば、図6に示したように、8つの面PL1~PL8を有する三次元造形物OBについて補正処理が実行される場合、補正部180は、ステップS430にて、第1面PL1の収縮率が所定値以上であるか否かを判定し、第1面PL1の収縮率が所定値以上であると判断された場合、ステップS440にて、第1面PL1の収縮率と第1面PL1とは反対側の面である第3面PL3の収縮率との差を算出する。ステップS450にて、補正部180は、補正関数記憶部190に記憶された補正関数を読み込む。本実施形態では、補正関数は、多項式関数または有利関数である。補正関数には、例えば、製造誤差とその製造誤差を所定値以下にするために必要な第2部分P2の体積との関係が表されている。補正関数には、反り量とその反り量を所定値以下にするために必要な第2部分P2の体積との関係が表されてもよい。ステップS460にて、補正部180は、補正関数に基づいて、造形データに表された粒子密度の分布、換言すれば、各ボクセルVXを造形するために用いられる液体の種類に関する情報を補正する。一方、ステップS430で第k面の収縮率が所定値以上であると判断されなかった場合、補正部180は、ステップS440からステップS460までの処理をスキップする。
【0052】
その後、ステップS470にて、補正部180は、全ての面についてステップS430の収縮率の確認を実行したか否かを判定する。全ての面についてステップS430の収縮率の確認を実行したと判断されるまで、補正部180は、ステップS430からステップS470までの処理を繰り返す。例えば、図6に示した三次元造形物OBでは、第1面PL1についてのステップS430からステップS460までの処理が実行された後、補正部180は、ステップS430に処理を戻して、第2面PL2の収縮率が所定値以上であるか否かを判定する。全ての面についてステップS430の収縮率の確認を実行したと判断された場合、補正部180は、この処理を終了する。その後、図8に示したように、補正後の造形データを用いてステップS320の処理が実行される。
【0053】
図10は、補正前後の第1部分P1と第2部分P2との分布の一例を示す説明図である。図10の上側に示す補正前に比べて、図10の下側に示す補正後では、収縮率の比較的大きな面であった第2面PL2の周辺部と第6面PL6の周辺部とにおいて、第1液体LQ1を用いて造形されるボクセルVXが第2液体LQを用いて造形されるボクセルVXに変更されることによって、第2液体LQを用いて造形される第2部分P2の範囲が拡大されている。そのため、補正前に比べて補正後では、三次元造形物OB内の収縮率のばらつきが抑制される。
【0054】
以上で説明した本実施形態における機械学習装置100によれば、学習処理において、学習部150は、第1データと第2データとに基づいて生成された学習データセットを用いて、三次元造形物OBの製造誤差を予測可能な学習モデルを生成し、予測処理において、予測部170は、学習モデルを用いて三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であるか否かを予測して、予測結果が表された予測結果データを出力する。さらに、本実施形態では、予測部170によって予測された三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲を超える場合には、補正部180は、多項式関数または有利関数で表される補正関数を用いて、造形データに表された三次元造形物OB内の粒子密度の分布を補正し、補正後の造形データを出力する。そのため、補正後の造形データを用いて三次元造形物OBを製造することによって、三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲を超えることを抑制できる。
【0055】
また、本実施形態では、学習モデルの生成に用いられる学習データセットには、三次元造形物OBのうちの、第1液体LQ1を用いて造形される第1部分P1の位置、および、第1液体LQ1よりも粒子密度の高い第2液体LQ2を用いて造形される第2部分P2の位置が表された造形データが含まれている。そのため、三次元造形物OB内の粒子密度の分布に応じて三次元造形物OBの製造誤差を予測可能な学習モデルを生成できる。
【0056】
また、本実施形態では、学習モデルの生成に用いられる学習データセットには、熱処理条件データが含まれる。そのため、熱処理工程における熱処理の条件に応じて三次元造形物OBの製造誤差を予測可能な学習モデルを生成できる。
【0057】
B.第2実施形態:
図11は、第2実施形態における三次元造形装置300bの概略構成を示す説明図である。第2実施形態における機械学習システム50bは、ペーストインクジェット方式ではなくFDM(Fused Deposition Modeling)方式の三次元造形装置300bを備えていることが第1実施形態と異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、図1に示した第1実施形態と同じである。
【0058】
図11に示すように、造形ユニット304bは、第1材料供給部320bと第2材料供給部330bとを備えている。なお、本実施形態では、造形ユニット304bは、図2に示した硬化エネルギー供給部350を備えていない。
【0059】
第1材料供給部320bは、粉末材料と熱可塑性樹脂とを含むワイヤー状の材料フィラメントである第1フィラメントFL1を溶融させてペースト状の第1溶融材料を生成し、第1溶融材料をテーブル状に供給する。「溶融」とは、熱可塑性を有する材料が融点以上の温度に加熱されて液状になることのみならず、熱可塑性を有する材料がガラス転移点以上の温度に加熱されることにより軟化し、流動性が発現することをも意味する。第1材料供給部320bは、第1フィラメントFL1の供給源である第1供給源321bと、第1フィラメントFL1を溶融させてテーブル310上に供給する第1ヘッド322bとを備えている。本実施形態では、第1供給源321bは、第1フィラメントFL1が巻き回されたリールによって構成されている。第1ヘッド322bは、第1供給源321bから供給された第1フィラメントFL1を溶融させて第1溶融材料を生成するヒーターと、第1溶融材料を吐出するノズルとを有するエクストルーダーによって構成されている。
【0060】
第2材料供給部330bは、粉末材料と熱可塑性樹脂とを含むワイヤー状の材料フィラメントである第2フィラメントFL2を溶融させてペースト状の第2溶融材料を生成し、第2溶融材料をテーブル状に供給する。第2材料供給部330bは、第2フィラメントFL2の供給源である第2供給源331bと、第2フィラメントFL2を溶融させてテーブル310上に供給する第2ヘッド332bとを備えている。本実施形態では、第2供給源331bは、第2フィラメントFL2が巻き回されたリールによって構成されている。第2ヘッド332bは、第2供給源331bから供給された第2フィラメントFL2を溶融させて第2溶融材料を生成するヒーターと、第2溶融材料を吐出するノズルとを有するエクストルーダーによって構成されている。
【0061】
第1フィラメントFL1および第2フィラメントFL2に含まれる粉末材料の種類は、第1実施形態と同じである。第1フィラメントFL1および第2フィラメントFL2に含まれる熱可塑性樹脂として、例えば、ABS樹脂や、ポリプロピレンや、ポリ乳酸などを用いることができる。第1フィラメントFL1の粒子密度は、第2フィラメントFL2の粒子密度よりも低い。換言すれば、第1溶融材料の粒子密度は、第2溶融材料の粒子密度よりも低い。
【0062】
本実施形態では、移動機構303bは、テーブル310に対して造形ユニット304をX方向およびY方向に沿って相対移動させる。本実施形態では、移動機構303は、制御部301の制御下で造形ユニット304をX方向に沿って移動させるアクチュエーターと、制御部301の制御下で造形ユニット304をY方向に沿って移動させるアクチュエーターとによって構成されている。
【0063】
本実施形態では、図5のステップS120に示した造形工程において、制御部301は、造形データに従って造形ユニット304と移動機構303とテーブルユニット302の昇降機構316を制御することによって、テーブル310上に三次元造形物OBを造形する。制御部301は、移動機構303を制御することによって、造形ユニット304をX方向およびY方向に沿って移動させながら、第1材料供給部320bを制御することによって第1部分P1を造形する位置に第1溶融材料を供給し、第2材料供給部330を制御することによって第2部分P2を造形する位置に第2溶融材料を供給する。第1溶融材料に含まれる熱可塑性樹脂および第2溶融材料に含まれる熱可塑性樹脂がテーブル310上で冷えて硬化することによって、三次元造形物OBの第n層が形成される。その後、制御部301は、昇降機構316を制御することによって第n層の厚み分、テーブル310を下降させた後、上述した処理を繰り返すことによって、第n層上に第n+1層を積層して、三次元造形物OBを造形する。
【0064】
以上で説明した本実施形態における機械学習システム50bによれば、FDM方式の三次元造形装置300bによって三次元造形物OBが造形される。FDM方式の三次元造形装置300bでは、第1溶融材料の粒子密度を第1実施形態の第1液体LQ1の粒子密度よりも高めることができ、第2溶融材料の粒子密度を第1実施形態の第2液体LQ2の粒子密度よりも高めることができる。そのため、三次元造形物OB全体での収縮率を第1実施形態よりも小さくして、より寸法精度良く三次元造形物OBを造形できる。
【0065】
C.他の実施形態:
(C1)上述した各実施形態の機械学習装置100では、学習処理において学習部150が実行する機械学習のアルゴリズムは強化学習である。これに対して、学習処理において学習部150が実行する機械学習のアルゴリズムは教師あり学習でもよい。例えば、学習部150は、学習処理において、三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内であることを表す正常ラベル、および、三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲を超えることを表す異常ラベルを含んだ学習データセットを用いた教師あり学習を実行して、正常データと異常データとの判別境界を学習モデルとして生成してもよい。この場合、予測処理において、予測部170は、学習モデルを用いて、読み込まれた第1データが正常データに属するのか異常データに属するのかを判定、換言すれば、読み込まれた第1データに基づいて製造される三次元造形物OBの製造誤差が許容範囲内になるか否かを予測できる。
【0066】
(C2)上述した各実施形態の機械学習装置100では、学習処理において学習部150が実行する機械学習のアルゴリズムは強化学習である。これに対して、学習処理において学習部150が実行する機械学習のアルゴリズムは教師なし学習でもよい。例えば、学習部150は、学習処理において、製造誤差が許容範囲内である三次元造形物OBについてのデータによって構成された学習データセットを用いた教師なし学習を実行して、製造誤差が許容範囲内である三次元造形物OBについてのデータの分布を学習モデルとして生成してもよい。この場合、予測処理において、予測部170は、製造誤差が許容範囲内である三次元造形物OBについてのデータに対して、読み込まれたデータがどれだけ外れているのかを学習モデルを用いて算出し、予測結果としての異常度を算出することができる。
【0067】
(C3)上述した第1実施形態の三次元造形装置300bでは、第1液体LQ1および第2液体LQ2には、粉末材料が含まれている。これに対して、第2液体LQ2に粉末材料が含まれていなくてもよい。この場合、三次元造形物OBのうち、粒子密度を比較的高くする部分には第1液体LQ1のみを供給し、粒子密度を比較的低くする部分には第1液体を供給した後さらに第2液体LQ2を供給することによって、三次元造形物OB内の粒子密度の分布を調整できる。
【0068】
(C4)上述した各実施形態では、機械学習システム50,50bは、1つの三次元造形装置300,300bを備えている。これに対して、機械学習システム50,50bは、複数の三次元造形装置300,300bを備え、機械学習装置100のデータ取得部110の取得する第1データには、複数の三次元造形装置300,300bから取得されたデータが含まれてもよい。複数の三次元造形装置300,300bのうちのいずれで三次元造形物OBを造形するかに応じて、三次元造形物OBの変形を予測できる。
【0069】
(C5)上述した各実施形態では、機械学習装置100のデータ取得部110が取得する第1データには、熱処理条件データが含まれている。これに対して、第1データには、熱処理条件データが含まれなくてもよい。
【0070】
(C6)上述した各実施形態では、機械学習装置100は、予測部170を備えている。これに対して、機械学習装置100は、予測部170を備えていなくてもよい。例えば、学習部150によって生成された学習モデルを、有線通信または無線通信や情報記録媒体を用いて、予測部170の機能を備える他の装置に移動させて、当該他の装置上で図7に示した予測処理を実行してもよい。
【0071】
(C7)上述した各実施形態では、機械学習装置100は、補正部180を備えている。これに対して、機械学習装置100は、補正部180を備えていなくてもよい。図8に示した予測処理のステップS320の後、予測部170は、ステップS330の処理をスキップして、ステップS340にて予測結果データのみを出力してもよい。この場合、ユーザーは、出力された予測結果データを参照できるので、予測結果が好ましくない場合には、例えば、情報処理装置200上で造形データを修正して、粒子密度の分布を調整することができる。
【0072】
(C8)図12は、補正処理において収縮率を判定する方法の他の例を示す説明図である。図9に示した補正処理のステップS430において、補正部180は、各ボクセルVXの変位量に基づいて収縮率が所定値以上であるか否かを判定してもよい。例えば、図12に示すように、補正部180は、複数のボクセルVXに分割された三次元造形物の形状SP1と、計測データに表された三次元造形物の形状SP2とを重ね合わせ、計測データに表された三次元造形物の形状SP2から稜線あるいは曲面を検出し、計測データに表された三次元造形物の形状SP2から検出された稜線あるいは曲面に対応する稜線あるいは曲面を複数のボクセルVXに分割された三次元造形物の形状SP1から検出してもよい。補正部180は、計測データに表された三次元造形物の形状SP2から検出された稜線あるいは曲面と、複数のボクセルVXに分割された三次元造形物の形状SP1から検出された稜線あるいは曲面とが重なるように、複数のボクセルVXに分割された三次元造形物の形状SP1を、分割線が等間隔になるように変形させ、変形前後の各ボクセルVXの中心点CGの変位量dを算出し、変位量dが所定値以上である場合に、収縮率が所定値以上であると判断してもよい。あるいは、補正部180は、複数のボクセルVXに分割された三次元造形物の形状SP1と、計測データに表された三次元造形物の形状SP2とを重ね合わせ、計測データに表された三次元造形物の各領域の厚みを算出し、算出された各領域の厚みを各領域のボクセルVXの数で除算することで各ボクセルVXの厚みを決定し、決定された厚みになるように各ボクセルVXを変形させ、変形前後の各ボクセルVXの中心点の変位量を算出してもよい。これらの場合、曲面を含む複雑な形状の三次元造形物であっても、補正部180は、各ボクセルVXを造形するために用いられる液体の種類に関する情報を補正することができる。
【0073】
D.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0074】
(1)本開示の一形態によれば、機械学習装置が提供される。この機械学習装置は、三次元造形物の目標形状に関する形状データと、三次元造形装置によって前記三次元造形物を造形する際の造形条件に関する造形条件データとを含む第1データと、前記三次元造形物の変形に関する第2データとを取得するデータ取得部と、複数の前記第1データと複数の前記第2データとを含む学習データセットを記憶する記憶部と、前記学習データセットを用いた機械学習を実行することによって、前記第1データと前記第2データとの関係を学習する学習部と、を備える。
この形態の機械学習装置によれば、学習部は機械学習によって三次元造形物の変形を予測可能な学習モデルを生成できる。
【0075】
(2)上記形態の機械学習装置において、前記造形条件データは、前記造形条件として前記三次元造形物の造形に用いられる材料に含まれる粒子の密度に関するデータを含んでもよい。
この形態の機械学習装置によれば、学習部は、三次元造形物の材料に含まれる粒子の密度に応じて三次元造形物の変形を予測可能な学習モデルを生成できる。
【0076】
(3)上記形態の機械学習装置において、前記第1データは、前記三次元造形物に対する熱処理の条件に関する熱処理条件データを含んでもよい。
この形態の機械学習装置によれば、熱処理の条件を変更した場合にも、三次元造形物の変形を予測できる。
【0077】
(4)上記形態の機械学習装置において、前記学習部は、前記機械学習として、教師あり学習と教師なし学習と強化学習とのうちの少なくとも一つを実行してもよい。
この形態の機械学習装置によれば、教師あり学習と教師なし学習と強化学習とのうちの少なくとも一つによって学習モデルを生成できる。
【0078】
(5)上記形態の機械学習装置において、前記データ取得部は、複数の前記三次元造形装置から前記造形条件データを取得してもよい。
この形態の機械学習装置によれば、複数の三次元造形装置のうちのいずれで三次元造形物を造形するかに応じて、三次元造形物の変形を予測できる。
【0079】
(6)上記形態の機械学習装置は、前記学習部による前記機械学習によって生成される学習モデルを用いて三次元造形物の変形を予測する予測部を備えてもよい。
この形態の機械学習装置によれば、学習モデルを用いて三次元造形物の変形を予測できる。そのため、予測結果が好ましくない場合、ユーザーは、造形条件データを変更することができる。
【0080】
(7)上記形態の機械学習装置は、前記予測部による予測結果に応じて造形条件データを補正し、補正後の造形条件データを出力する補正部を備えてもよい。
この形態の機械学習装置によれば、予測結果に応じて補正部が造形条件データを補正して出力する。そのため、出力された補正後の造形条件データを用いて三次元造形物を製造することによって、三次元造形物を寸法精度良く製造できる。
【0081】
(8)上記形態の機械学習装置は、前記補正部は、多項式関数と有理関数とのうちの少なくとも一つを用いて造形条件データを補正してもよい。
この形態の機械学習装置によれば、補正部は、多項式関数と有理関数とのうちの少なくとも一つを用いて造形条件データを補正できる。
【0082】
本開示は、機械学習装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、機械学習システム、三次元造形物の製造誤差の予測方法等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0083】
50…機械学習システム、100…機械学習装置、110…データ取得部、120…データ記憶部、130…演算部、140…前処理部、150…学習部、151…報酬計算部、152…価値関数更新部、160…学習モデル記憶部、170…予測部、180…補正部、190…補正関数記憶部、200…情報処理装置、300…三次元造形装置、400…熱処理装置、500…検査装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12