(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】車両の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20240625BHJP
B60W 30/16 20200101ALI20240625BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B60W30/14
B60W30/16
G08G1/16 E
(21)【出願番号】P 2020141327
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】西 崇仁
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-137652(JP,A)
【文献】特開平07-076237(JP,A)
【文献】特開2005-186813(JP,A)
【文献】特開2002-283875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/14
B60W 30/16
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両運転者の操作によらずに車両の加減速を制御して前方車両に追従する車両の制御方法
であって、
前方車両の
車速データと、自車両の
車速データと、から自車両の目標
車速を決定し、
この目標車速を実現するように自車両の加減速を制御する、
車両の制御方法において、
前方車両の車速データは前方車両の車速であり、自車両の車速データは、これまでの一定のサンプリング時間毎の自車両の目標車速であり、
上記前方車両の車速データと、上記前方車両の車速データのデータ数よりも多いデータ数の自車両の車速データと、の平均を、上記目標車速とし、
ここで、上記目標車速の周波数特性の中で目標とするカットオフ周波数よりも高周波側の成分が抑制されるように、前方車両の車速データのデータ数に対する自車両の車速データのデータ数の関係を設定する、
車両の制御方法。
【請求項2】
上
記カットオフ周波数を、運転者による車間距離設定に基づいて可変設定する、
請求項
1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の制御方法によって自車両の加減速を制御する第1の方式の追従走行を禁止する禁止条件が予め定められており、
この禁止条件が成立するときは、少なくとも前方車両と自車両との車間距離ないし車間時間あるいは衝突時間を考慮して自車両の
加減速を制御する第2の方式
の追従走行を行う、 請求項1
または2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
上記
禁止条件
の成立は、前方車両と自車両との車間距離、前方車両と自車両との相対速度、自車両および/または前方車両の車速、自車両および/または前方車両の加速度、自車両および/または前方車両の躍度、前方車両と自車両との車間時間、前方車両に対する衝突時間、のいずれかに基づいて判定される、
請求項
3に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
車両運転者の操作によらずに車両の加減速を制御して前方車両に追従する車両の制御装置
であって、
前方車両の
車速データと、自車両の
車速データと、から自車両の目標
車速を決定し、
この目標車速を実現するように自車両の加減速を制御する、
車両の制御装置において、
前方車両の車速データは前方車両の車速であり、自車両の車速データは、これまでの一定のサンプリング時間毎の自車両の目標車速であり、
上記前方車両の車速データと、上記前方車両の車速データのデータ数よりも多いデータ数の自車両の車速データと、の平均を、上記目標車速とし、
ここで、上記目標車速の周波数特性の中で目標とするカットオフ周波数よりも高周波側の成分が抑制されるように、前方車両の車速データのデータ数に対する自車両の車速データのデータ数の関係が設定されている、
車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両運転者の操作によらずに車両の加減速を制御して前方車両に追従する車両の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動走行技術ないし運転支援技術の一つとして、車両運転者の操作によらずに車両の加減速を制御して前方車両に追従する制御(本明細書ではこれを追従走行制御と呼ぶこととする)が知られている。特許文献1には、前方車両の速度変化が自車両に影響するまでの伝播時間を考慮して前方車両の平均車速を求め、この平均車速に基づいて自車両の目標車速を演算するようにした追従走行制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の追従走行制御では、基本的に、自車両の走行情報(例えば現在の車速や加速度など)が考慮されておらず、単に前方車両の車速変化に追従して自車両の車速が変化する。特許文献1では、前方車両の車速を平均化することで前方車両の細かな車速変化の影響を抑制するようにしているが、結局は、平均化した前方車両の車速変化に遅れて自車両の車速が変化しようとするので、不必要に高い周波数(つまり小さな周期)での加減速が発生し、燃費(電動車両では電費)の点で向上の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、車両運転者の操作によらずに車両の加減速を制御して前方車両に追従する車両の制御方法であって、
前方車両の車速データと、自車両の車速データと、から自車両の目標車速を決定し、
この目標車速を実現するように自車両の加減速を制御する、
車両の制御方法において、
前方車両の車速データは前方車両の車速であり、自車両の車速データは、これまでの一定のサンプリング時間毎の自車両の目標車速であり、
上記前方車両の車速データと、上記前方車両の車速データのデータ数よりも多いデータ数の自車両の車速データと、の平均を、上記目標車速とする。
そして、上記目標車速の周波数特性の中で目標とするカットオフ周波数よりも高周波側の成分が抑制されるように、前方車両の車速データのデータ数に対する自車両の車速データのデータ数の関係を設定する。すなわち、前方車両の車速等の走行情報のみによらずに、自車両のこれまでにサンプリングした複数の目標車速のデータを考慮して車両の目標車速を決定することで、前方車両の車速変化等に過敏に応答しない追従走行制御を実現できる。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、前方車両の車速変化等に過敏に応答せずに追従走行を行うことができるので、追従走行時の燃費ないし電費の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施例の制御装置の構成を示すブロック図。
【
図2】一実施例の追従走行制御の処理の流れを示すフローチャート。
【
図3】前方車両の車速とeco追従制御による自車両の車速とを比較して示す特性図。
【
図4】通常追従制御と人間による追従走行との車速変化の周波数特性を比較して示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1は、この発明に係る車両の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。車両は、例えば、内燃機関1を走行駆動源とする自動車であり、基本的には、運転者によって運転がなされるものである。そして、いわゆる運転支援システムとして、本発明の追従走行制御を含むいくつかの機能を備えている。
【0010】
好ましい一実施例においては、車両は、自車両の前方における他の車両や障害物等に関する情報や、側方さらには後方の状況など、運転支援システムに必要な種々の情報を取得するために、複数の情報取得センサ2を備えている。情報取得センサ2は、例えば、前方の状況を認識するための前方認識カメラ、側方を認識するための側方認識カメラ、前方の対象物を検出するミリ波レーダやレーザレーダ(LiDAR)、等であり、一般にこれらが適宜に組み合わされて用いられる。
【0011】
また、車両は、自車両が走行する道路の情報を得るために高精度な地図情報を含むGPSシステム3を備えている。また、自車両の走行情報を検出するために、例えば、車速を検出する車速センサ、内燃機関1の回転速度を検出する回転速度センサ、など、いくつかの図示しないセンサも備えている。
【0012】
これらの情報取得センサ2や図示しない自車両情報用のセンサおよびGPSシステム3が出力する情報は、運転支援コントローラ4に入力される。運転支援コントローラ4は、運転者による運転操作を支援する複数の運転支援機能を有している。例えば、アクセル操作によらずに車速を自動に制御するオートクルーズ制御機能、車線を検出して車線逸脱を警告ないし回避する車線逸脱防止機能、万一の衝突を回避ないし軽減するための自動ブレーキ制御機能、等が運転支援コントローラ4によって実現される。前方車両が存在するときに当該前方車両に追従して走行する追従走行制御は、オートクルーズ制御機能の一部をなす。オートクルーズ制御機能は、前方車両が存在しない場合は、例えば設定された車速を維持する単独走行制御を実行する。
【0013】
車両の駆動源である内燃機関1の出力ないしトルクは、エンジンコントローラ5によって制御される。追従走行制御の実行中は、運転支援コントローラ4がエンジンコントローラ5に加速度(つまり駆動力)の指示値を与え、エンジンコントローラ5は、この加速度(負の加速度を含む)を実現するように内燃機関1を制御することとなる。これにより、運転者のアクセル操作によらずに自車両の加減速が制御される。
【0014】
なお、運転支援コントローラ4には、例えば自動ブレーキ制御機能のために車両のブレーキコントローラ6なども接続されているが、これらの追従走行制御に関連しない部分については、説明は省略する。
【0015】
上記の情報取得センサ2の検出情報や自車両の車速等の情報に基づき、運転支援コントローラ4は、前方車両の有無、前方車両の車速、前方車両の加速度、前方車両の躍度、前方車両と自車両との間の車間距離、自車両の車速、前方車両と自車両との相対車速、前方車両と自車両との間の車間時間、前方車両に対する衝突時間、自車両の加速度、自車両の躍度、等を得ることができる。
【0016】
一実施例の追従走行制御は、前方車両との間の車間距離の変動を比較的小さくしつつ追従走行を行う通常追従制御と、小さな周期での車速ないし加速度の変化を抑制することで燃費向上を優先したeco追従制御と、の2つの方式の制御を備えている。運転支援コントローラ4は、後述するいくつかの条件に基づきeco追従制御が許容される場合には、eco追従制御を選択し、eco追従制御が許容されない条件である場合には通常追従制御を選択する。
【0017】
一実施例の通常追従制御においては、下記式(1)を用いて目標走行指標として自車両の目標加速度atargetを求める。この目標加速度atargetに沿って、エンジンコントローラ5を介して内燃機関1の出力ないしトルクが制御される。なお、必要であれば、目標加速度atargetから目標車速を求めることも容易である。
【0018】
(数1)
atarget=K1(r-h・Vself-Lsafe)+K2(Vpre-Vself) …(1)
一実施例のeco追従制御においては、下記式(2)を用いて目標走行指標として自車両の目標車速Vtargetを求め、この目標車速Vtargetから下記式(3)を用いて自車両の目標加速度atargetを求める
【0019】
(数2)
Vtarget={Vpre(t)+Σ(n=s~(N-1)s)Vtarget(t-n)}/N …(2)
【0020】
(数3)
atarget=(Vtarget-Vself)/s …(3)
但し、
atarget:自車両の目標加速度
Vself:自車両の車速
Vtarget:自車両の目標車速
Vpre:前方車両の車速
s:サンプリング時間
h:車間時間
K1,K2:重み係数
r:車間距離
Lsafe:停車時車間距離
t:時間
N:サンプリング数
である。
【0021】
すなわち、通常追従制御では、前方車両と自車両との間の車間距離に関する第1項と、前方車両と自車両との相対的な車速差に関する第2項と、を用いて目標走行指標となる目標加速度atargetを決定する。基本的に、自車両が前方車両から離れるほど目標加速度atargetが大となり、前方車両の車速が自車両の車速に対し速いほど目標加速度atargetが大となる。なお、式(1)における車間距離rおよび停車時車間距離Lsafeは、適宜に設定された設定値であり、例えば、車種等に応じて固定的に設定された値であってもよく、あるいは、運転者がこれらの値を任意に設定できる構成であってもよい。
【0022】
このような通常追従制御によれば、前方車両との間に適当な車間距離を維持しつつ確実な追従を行うことができるが、その反面、前方車両の車速変化が遅れて自車両の目標加速度atargetに反映するため、自車両の加速度ないし車速が周期的に変動する。特に、前方車両の車速が周期変化したときには、位相遅れを伴いつつ自車両の加速度ないし車速がより大きく増幅された形で周期変化する。
【0023】
一方、eco追従制御では、前方車両の走行情報である前方車両の車速に加えて、自車両の走行情報として自車両の現時点までの車速データ(この例では目標車速)を考慮して、目標走行指標となる自車両の目標車速Vtargetを決定する。そのため、仮に前方車両の車速が周期変化したとしても、目標車速Vtargetの周波数特性としては、所定の周波数(いわゆるカットオフ周波数)よりも高周波側の成分が抑制されたものとなる。
【0024】
目標車速Vtargetを算出する式(2)において、カットオフ周波数は、サンプリング数Nによって定まる。例えば、Nを「10」としたとすると、式(2)は、現時点(t)における前方車両の車速Vpreのデータと、それまでのサンプリング時間毎に求められた過去9個の目標車速Vtargetのデータと、の10個のデータの平均を求めている。従って、一種の移動平均ないし加重平均となり、前方車両の車速Vpreがステップ的に変化しても目標車速Vtargetの変化は緩やかとなる。換言すれば、例えばNを「10」とすると、式(2)は、前方車両の1個の車速データと自車両の9個の車速データとの平均であり、自車両の車速データに重みを与えた加重平均となる。そして、自車両の9個の車速データは、過去9個分のデータの移動平均とみなすことができる。
【0025】
なお、過去9個の目標車速Vtargetのデータは、やはり式(2)によって算出されたものであるので、各々の時点の前方車両の車速Vpreを部分的に反映している。
【0026】
このように、式(2)により算出される目標車速Vtargetは、仮に前方車両の車速Vpreが周期変化したとしても、高周波成分に対するゲインが低いものとなる。このことは、車間距離調整や車速のゆらぎによる加減速が抑制されることを意味し、従って、通常追従制御に比較して燃費の点で有利となる。換言すれば、eco追従制御では、通常追従制御に比較して、前方車両と自車両との間の車間距離が一時的に拡がったり狭まったりすることを許容しつつ、自車両の車速をできるだけ一定に維持するように制御がなされる。そのため、車間距離調整や車速のゆらぎによる加減速による燃費の無駄が少なくなる。
【0027】
式(2)および式(3)に明らかなように、eco追従制御においては、車間距離ないし車間時間は考慮されていない。つまり、通常追従制御とは異なり、車間距離を考慮することなく目標車速Vtargetならびに目標加速度atargetが求められる。
【0028】
サンプリング数Nは、2以上の任意の数とし得るが、式(2)から明らかなように、サンプリング時間が一定であれば、サンプリング数Nが大であるほどカットオフ周波数が低くなり、目標車速Vtargetの周期変化の振幅が抑制される。反面、前方車両の車速変化に対する追従性が低くなり、追従走行中の車間距離の過渡的な変化は大きくなる。
【0029】
従って、サンプリング数N(換言すれば式(2)における前方車両の車速データのデータ数に対する自車両の車速データのデータ数の関係)は、目標車速Vtargetの周波数特性の中で所望のカットオフ周波数よりも高周波側の成分が抑制されるように設定される。
【0030】
カットオフ周波数を定めるサンプリング数Nは、予め固定的に設定してもよいが、種々の条件に応じて可変的に設定されるようにしてもよい。例えば、前方車両の走行情報(車速、加速度、躍度、など)および自車両の走行情報(車速、加速度、躍度、など)の少なくとも一方に基づいて可変設定することができる。あるいは、運転者が任意に設定する所望の車間距離の設定に応じてサンプリング数Nが可変設定されるようにしてもよい。例えば、車間距離設定が短い場合には、サンプリング数Nを比較的少なく設定することが望ましい。燃費向上効果としては、サンプリング数Nが大であるほど大きな燃費向上効果が得られ得る。
【0031】
図3は、前方車両の車速(破線)とeco追従制御による自車両の車速(実線)とを比較して示した特性図である。図示するように、前方車両の車速変化に対し、eco追従制御では上述したような平均化処理を行うことにより、車速変化の波形がなまった形となり、車速の変化幅つまり振幅が小さくなる。従って、車間距離調整や車速のゆらぎによる加減速が少なくなり、燃費が向上する。
【0032】
また、
図4は、通常追従制御による車速変化(破線)と人間の運転による追従走行時の車速変化(実線)の周波数特性を比較して示した特性図である。一般に、熟練した運転者による追従走行に比較して、運転支援システムの通常追従制御では、より大きな振幅の周期変化を含むものとなり、特に、高周波成分において顕著である。eco追従制御によれば、このような高周波成分領域におけるゲインを低減し、車間距離調整や車速のゆらぎによる加減速を抑制できる。例えば、サンプリング時間が0.1秒であるとして、サンプリング数Nが「5」であると、カットオフ周波数は0.14Hz程度となり、サンプリング数Nが「10」であると、カットオフ周波数は0.033Hz程度となる。
【0033】
好ましいサンプリング数N(つまりカットオフ周波数)は、
図4に示すように、運転支援システム(通常追従制御)による車速データと熟練運転者による追従走行時の車速データとを比較して、運転支援システム(通常追従制御)に特有の高周波成分を決定し、この高周波成分を抑制するように、カットオフ周波数を求めることができる。周波数解析には、例えばFFT(高速フーリエ変換)を用いることができる。
【0034】
また、車間距離設定に応じてサンプリング数Nを最適化する場合には、車間距離設定が異なるデータ(運転支援システムによる車速データと熟練運転者による車速データ)を収集した上で、それぞれ同様に周波数特性を分析し、車間距離設定に応じたカットオフ周波数を決めるようにすればよい。
【0035】
あるいは、実際に自車両で走行しながら車速変化に関するデータを収集し、これを車両のデータストレージやクラウドサーバ上に集積しながらリアルタイムに周波数解析を実行し、最適なカットオフ周波数(つまりサンプリング数N)を逐次設定するようにしてもよい。
【0036】
さらに他の方法としては、前方の複数車両の走行情報データを例えば車車間通信や路車間通信などのコネクテッドカー技術を利用して取得できる場合には、前方の複数の車両の車間距離をモニタリングし、前方車両がその前の車両と接近したことで衝突回避のために減速したかを判断し、そのときの周波数からカットオフ周波数を決定してもよい。
【0037】
さらに他の方法としては、衝突を回避するための減速データなのか車速を維持するための減速なのかを機械学習で統計学的に分析し、これに基づいてカットオフ周波数を決定するようにしてもよい。
【0038】
次に、
図2のフローチャートに基づき、運転支援コントローラ4が実行する追従走行制御の処理について説明する。この
図2に示すルーチンは、運転支援システムにおいて車速を自動に制御するオートクルーズ制御機能がONとなっている場合に、所定のサンプリング時間毎に繰り返し実行される。
【0039】
追従走行制御は追従の目標とする前方車両の存在を前提としているが、ステップ1では、前方に他車の割り込みがあったか、あるいは自車両が追従走行状態から離脱したか、を判断する。カメラ等の情報取得センサ2により他車の割り込みがあったことを検知した場合は、追従走行制御は行わず、図示せぬ他のルーチンによる自車両の単独走行制御(ステップ9)とする。同様に、自車両の車線変更などにより追従走行制御から離脱した場合は、自車両の単独走行制御(ステップ9)に移行する。車線変更は、ウィンカー入力の検知、車線の認識、操舵装置の切れ角、などから検知することができる。単独走行制御では、例えば設定された目標車速を維持するように内燃機関1等が制御される。
【0040】
ステップ2では、追従状態となったか、つまり同一車線上に前方車両を認識して単独走行から追従走行制御に移行したかを判断する。前方車両を発見して追従走行制御に移行したと判断した場合には、ステップ2からステップ3へ進む。
【0041】
ステップ3では、eco追従制御を禁止すべき特定の条件が成立しているかどうかを判断する。特定の条件は、前方車両と自車両との車間距離、前方車両と自車両との相対速度、自車両および/または前方車両の車速、自車両および/または前方車両の加速度、自車両および/または前方車両の躍度、前方車両と自車両との車間時間、前方車両に対する衝突時間、のいずれか1つあるいは複数の組み合わせに基づいて判定される。例えば、車間距離、車間時間あるいは衝突時間がそれぞれの閾値よりも小さい場合は、eco追従制御が禁止される。例えば、前方車両に対する自車両の相対速度が過度に大きい場合にeco追従制御を禁止してもよい。例えば、前方車両の加速度が大きい場合にeco追従制御を禁止してもよい。
【0042】
ステップ3においてeco追従制御を禁止すべき特定の条件が成立していると判断した場合は、ステップ3からステップ7へ進み、通常追従制御を実行する。なお、通常追従制御に必要な前述した式(1)による目標加速度atargetないしこれに対応した目標車速の演算は、図示しないルーチンによって
図2のルーチンと並行して実行される。ステップ7においては、並行して演算されている目標加速度atargetを実現するように、自車両の加減速が制御される。
【0043】
eco追従制御を禁止すべき特定の条件が成立していなければ、ステップ3からステップ4へ進み、所定の車速以上の高速走行中であるか否かを判断する。所定の高速走行中でなければ、ステップ4からステップ7へ進み、通常追従制御を実行する。つまり、この実施例では、eco追従制御は、基本的に高速走行中に実行される。これは、高速走行であるほど速度変化のゆらぎが大きくなることを考慮したものである。
【0044】
所定の高速走行中であれば、ステップ4からステップ5へ進み、前述した式(2)および式(3)の演算を実行し、目標車速Vtargetならびに目標加速度atargetを求める。つまり、
図2のルーチンの演算サイクル毎に目標車速Vtargetならびに目標車速Vtargetを算出する。
【0045】
次にステップ6へ進み、自車両の所定の減速(あるレベルよりも急な減速)が必要な条件であるかどうかを判断する。この減速条件であるかどうかは、前方車両と自車両との車間距離、前方車両と自車両との相対速度、自車両および/または前方車両の車速、自車両および/または前方車両の加速度、自車両および/または前方車両の躍度、前方車両と自車両との車間時間、前方車両に対する衝突時間、のいずれか一つあるいはいくつかに基づいて判定される。減速が予測される条件である場合には、ステップ6からステップ7へ進み、通常追従制御とする。
【0046】
所定の減速が予測される条件でなければ、ステップ6からステップ8へ進み、eco追従制御を実行する。すなわち、ステップ5において算出された目標加速度atargetを実現するように自車両の加減速が制御される。
【0047】
このように、
図2の追従走行制御によれば、例えば高速道路の走行車線を走行しているような状況では、基本的にeco追従制御によって追従走行がなされ、車間距離が極端に変動したような場合にのみ通常追従制御が選択される。前述したように、eco追従制御では、通常追従制御に比較して車間距離調整や車速のゆらぎによる加減速が抑制され、相対的に燃費が向上する。
【0048】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0049】
上述したeco追従制御の式(2)では、自車両の車速データとしてそれまでの目標車速Vtargetを用いているが、自車両の車速データとして実車速を用いてもよい。例えば、通常は目標車速Vtargetを用い、実車速が目標車速Vtargetから大きく乖離している場合には目標車速Vtargetに代えて実車速を用いるようにしてもよい。
【0050】
上記実施例ではeco追従制御時の目標走行指標として目標車速を用いているが、前方車両と自車両との間の目標相対車速、目標加速度、あるいは、目標躍度、を目標走行指標として用いることもできる。
【0051】
また通常追従制御としては、上記の(1)式のような方式に限らず、他の方式による追従制御であってもよく、少なくとも前方車両と自車両との車間距離ないし車間時間あるいは衝突時間を考慮して自車両の目標走行指標を決定するものであればよい。
【0052】
なお、本発明が対象とする追従走行制御は、ステアリング操作は運転者が行うものであってもよく、あるいは、前方車両ならびに車線の検出に基づき運転支援コントローラ4がアクチュエータを介して自動に操舵を行うものであってもよい。
【0053】
また上記実施例の車両は、内燃機関1を走行駆動源としているが、本発明の追従走行制御は、ハイブリッド車両や電動車両であっても同様に適用することが可能である。
【0054】
なお、前述した実施例では多数の情報取得センサ2を例示したが、本発明は、必ずしも全てのセンサを必要とするものではなく、前方車両の走行情報を取得するための少なくとも1つのセンサがあればよい。また、GPSシステム3も必ずしも必須ではない。
【符号の説明】
【0055】
1…内燃機関
2…情報取得センサ
3…GPSシステム
4…運転支援コントローラ
5…エンジンコントローラ
6…ブレーキコントローラ