(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、中間基材、トウプレグ、および繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20240625BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240625BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20240625BHJP
C08K 5/21 20060101ALI20240625BHJP
C08L 13/00 20060101ALI20240625BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240625BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08G59/50
C08L63/00 A
C08K5/315
C08K5/21
C08L13/00
C08L21/00
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2020144206
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】都築 正博
(72)【発明者】
【氏名】土田 紘也
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-036532(JP,A)
【文献】特開2008-133329(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065663(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110105906(CN,A)
【文献】国際公開第2020/217894(WO,A1)
【文献】特開2020-132833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 5/04- 5/10
5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分[A]~[E]をすべて含み、かつ条件(I)~(III)をすべて満たすエポキシ樹脂組成物。
[A]25℃で液状の2官能エポキシ樹脂
[B]コアシェルゴム粒子
[C]カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム
[D]ジシアンジアミド
[E]芳香族ウレア
(I)ジシアンジアミドの活性水素モル数/全エポキシ基のモル数=0.40~0.53
(II)全エポキシ基のモル数/ウレア基のモル数=15~55
(III)カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴムの質量/コアシェルゴム粒子の質量=0.1~0.8
【請求項2】
前記成分[B]の含有量が、全エポキシ樹脂100質量部に対して5~30質量部である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
下記条件(IV)を満たす、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
(IV)ウレア基のモル数/ジシアンジアミドの活性水素モル数 = 0.035~0.17
【請求項4】
25℃における粘度が1~150Pa・sである、請求項1~3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂硬化物のガラス転移温度が120~160℃である、請求項1~4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
下記成分[F]を、全エポキシ樹脂100質量部中に3~40質量部含む、請求項1~5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[F]ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂およびオキサゾリドン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つであるエポキシ樹脂
【請求項7】
前記成分[A]として、下記成分[A1]を、全エポキシ樹脂100質量部中に3~20質量部含む、請求項1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[A1]脂肪族エポキシ樹脂
【請求項8】
前記成分[A1]として、炭素数4~10のアルキレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂を含む、請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる中間基材。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなるトウプレグ。
【請求項11】
請求項9または10のいずれかに記載の中間基材を硬化させてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途、一般産業用途に適した繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好ましく用いられるエポキシ樹脂組成物、ならびに、これをマトリックス樹脂としたトウプレグ、プリプレグ等の中間基材、および繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維を用いた繊維強化複合材料は、その優れた軽量性から、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に適用されている。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そして熱硬化性樹脂としては、炭素繊維との接着性、耐熱性、機械強度に優れる特徴から、エポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造には、搬送や形状付与の容易さから、あらかじめマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させた中間基材が多用される。中間基材の形態としては、シート状に強化繊維を配列させたプリプレグや、強化繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させたトウプリプレグ、ヤーンプリプレグあるいはストランドプリプレグなどと呼ばれる細幅の中間基材(以下、トウプレグと記載する)などが挙げられる。これらの中間基材では、取り扱い性を良好に保つため、マトリックス樹脂の粘度の経時安定性が求められる。
【0004】
自動車部材をはじめ、一般産業用途への中間基材への適用拡大に伴い、複合材料の生産性の向上の観点から、硬化時間の短縮が望まれており、その実現のためには、エポキシ樹脂の硬化速度の向上が必要である。
【0005】
また、これらの用途においては、繊維強化複合材料の長期耐久性、および高温・高湿環境における耐久性の向上も望まれており、その実現のためには、エポキシ樹脂の伸度、靱性、耐熱性(ガラス転移温度)の向上、吸湿性の低減が必要である。また、耐熱性の向上のためにはエポキシ樹脂のみならず、繊維強化複合材料としての耐熱性向上が必要である。
【0006】
特許文献1は、硬化剤として脂肪族アミンを用いた、速硬化性に優れた液状エポキシ樹脂組成物を開示しているが、このようなエポキシ樹脂組成物は速硬化性には優れるものの、プリプレグやトウプレグのような中間基材として用いるには粘度の経時安定性(ポットライフ)が不十分であり使用できなかった。
【0007】
特許文献2は、硬化剤としてジシアンジアミドを多量に含有させることで速硬化を可能としたエポキシ樹脂組成物を開示しているが、このようなエポキシ樹脂組成物では速硬化性とポットライフには優れるものの、樹脂硬化物の靱性や繊維強化複合材料のガラス転移温度が低下しやすいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2015-508125号公報
【文献】特表2016-500409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑み、短時間での硬化が可能でありながら、優れた靱性および耐熱性を有し、かつ、保管安定性にも優れたエポキシ樹脂組成物、および該エポキシ樹脂組成物と強化繊維からなる中間基材、ならびに該中間基材を硬化させてなる、長期耐久性、および高温・高湿環境における耐久性に優れた繊維強化複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記成分[A]~[E]をすべて含み、かつ条件(I)~(III)をすべて満たすエポキシ樹脂組成物である。
[A]25℃で液状の2官能エポキシ樹脂
[B]コアシェルゴム粒子
[C]カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム
[D]ジシアンジアミド
[E]芳香族ウレア
(I)ジシアンジアミドの活性水素モル数/全エポキシ基のモル数=0.40~0.53
(II)全エポキシ基のモル数/ウレア基のモル数=15~55
(III)カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴムの質量/コアシェルゴム粒子の質量=0.1~0.8
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、短時間での硬化が可能でありながら、優れた靱性および耐熱性を有し、かつ、保管安定性にも優れるため、生産性、長期耐久性、および高温・高湿環境における耐久性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、次の構成を有するものである。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記成分[A]~[E]をすべて含み、かつ条件(I)~(III)をすべて満たすエポキシ樹脂組成物である。
[A]25℃で液状の2官能エポキシ樹脂
[B]コアシェルゴム粒子
[C]カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム
[D]ジシアンジアミド
[E]芳香族ウレア
(I)ジシアンジアミドの活性水素モル数/全エポキシ基のモル数=0.40~0.53
(II)全エポキシ基のモル数/ウレア基のモル数=15~55
(III)カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴムの質量/コアシェルゴム粒子の質量=0.1~0.8。
【0013】
(成分[A]について)
本発明における成分[A]は、25℃で液状の2官能エポキシ樹脂である。成分[A]は、硬化速度、靱性、耐熱性の良好なバランスを損なうことなく、エポキシ樹脂組成物の粘度を中間基材の製造に適した範囲に調整するために必要である。ここで、2官能とは、1分子中に2つのエポキシ基を有することを意味する。かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、などのビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型、ポリプロピレングリコール型、ブタンジオール型、ネオペンチルグリコール型、ヘキサンジオール型、シクロヘキサンジメタノール型などの脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0014】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”828(以上、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)、“EPICLON(登録商標)”830、“EPICLON(登録商標)”807(以上、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC株式会社製)、“jER(登録商標)”806(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0015】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の市販品としては、GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製)、GOT(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0016】
脂肪族エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-821、“デナコール(登録商標)”EX-850(以上、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)、“デナコール(登録商標)”EX-920、“デナコール(登録商標)”EX-941(以上、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)、“デナコール(登録商標)”EX-214(1,4-ブタンジオール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)、“Araldite(登録商標)”DY-026(1,4-ブタンジオール型エポキシ樹脂、ハンツマン・ジャパン株式会社製)、“デナコール(登録商標)”EX-212(1,6-ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)、“アデカレジン(登録商標)”ED-503(1,6-ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、ADEKA株式会社製)、“デナコール(登録商標)”EX-211(ネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)、“アデカレジン(登録商標)”ED-523(ネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂、ADEKA株式会社製)、“デナコール(登録商標)”EX-216(シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)、“リカレジン(登録商標)”DME-100(シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、新日本理化株式会社製)などが挙げられる。
【0017】
本発明では、成分[A]として、脂肪族エポキシ樹脂[A1]を、全エポキシ樹脂成分100質量部中に3~20質量部含むことが好ましい。かかる範囲の成分[A1]を含むことで、硬化速度、靱性、耐熱性の良好なバランスを損なうことなく、エポキシ樹脂組成物の粘度を効果的に低減し、トウプレグの製造に適した範囲への調整が可能となることに加え、後述する成分[B]および成分[C]と併用することで、それぞれの成分を単独で使用する場合、または2成分を併用する場合と比較して、特異的な引張破断伸度と靭性値の向上効果が得られる。このような効果が得られる理由は定かではないが、成分[A1]、成分[B]、成分[C]がそれぞれもつ、異なる引張破断伸度と靭性値の向上メカニズムが協奏的に働いたためであると推測している。かかる成分[A1]としては、例えば、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ブタンジオール型エポキシ樹脂、ネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂、ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
さらに、成分[A1]の中でも、硬化後のマトリックス樹脂の吸湿性の増大を抑制できることから、炭素数4~10のアルキレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。かかる炭素数4~10のアルキレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ブタンジオール型エポキシ樹脂(アルキレン骨格の炭素数:4)、ネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂(アルキレン骨格の炭素数:5)、ヘキサンジオール型エポキシ樹脂(アルキレン骨格の炭素数:6)、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂(アルキレン骨格の炭素数:8)などが挙げられる。
【0019】
(成分[F]について)
本発明では、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂およびオキサゾリドン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つであるエポキシ樹脂[F]を、全エポキシ樹脂100質量部中に3~40質量部含むことが好ましい。かかる範囲の成分[F]を含むことで、硬化速度、靱性、耐熱性の良好なバランス、および中間基材の製造に適した粘度を維持しながら、耐熱性をより高めることができる。
【0020】
成分[F]であるビフェニル型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”YX4000、“jER(登録商標)”YX4000H、“jER(登録商標)”YL6121H(以上、三菱ケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
成分[F]であるビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC-3000-L、NC-3000、NC-3100(以上、日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0022】
成分[F]であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON(登録商標)”HP-7200L、“EPICLON(登録商標)”HP-7200、“EPICLON(登録商標)”HP-7200H(以上、DIC株式会社製)、XD-1000-2L、XD-1000、XD-1000H(以上、日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0023】
成分[F]であるオキサゾリドン型エポキシ樹脂の市販品としては、“D.E.R.(登録商標)”858(Olin Corporation社製)などが挙げられる。
【0024】
成分[F]の中でも、耐熱性と粘度のバランスが最も優れることから、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を含むことがより好ましく、1分子中に2つのエポキシ基を有する2官能型であることがさらに好ましい。かかる2官能型であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON(登録商標)”HP-7200L(DIC株式会社製)などが挙げられる。
【0025】
(その他のエポキシ樹脂について)
本発明の効果を損なわない範囲において、成分[A]および成分[F]以外のエポキシ樹脂を含有することができる。かかるエポキシ樹脂としては、特に制限はなく、例えば、固形ビスフェノールA型、固形ビスフェノールF型、固形ビスフェノールS型などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型、ヒダントイン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、ビスナフタレン型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0026】
(成分[B]について)
本発明における成分[B]は、コアシェルゴム粒子である。成分[B]は、樹脂硬化物の靱性を優れたものとするために必要な成分である。ここで、コアシェルゴム粒子とは、粒子状のコア成分の表面の一部あるいは全体を、シェル成分で被覆した粒子である。かかる成分[B]としては、例えば、コア成分として、アクリルゴム微粒子、ブタジエンゴム微粒子、ブタジエン-スチレンゴム微粒子、シリコーンゴム微粒子などのゴム微粒子等を用い、その表面を異種ポリマーで被覆したコアシェル構造をもつものなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0027】
かかる成分[B]の市販品としては、“カネエース(登録商標)”MX-125、“カネエース(登録商標)”MX-150、“カネエース(登録商標)”MX-154、“カネエース(登録商標)”MX-257、“カネエース(登録商標)”MX-267、“カネエース(登録商標)”MX-416、“カネエース(登録商標)”MX-451、“カネエース(登録商標)”MX-EXP(HM5)(以上、株式会社カネカ製)、“PARALOID(登録商標)”EXL-2655、“PARALOID(登録商標)”EXL-2668(以上、Dow Chemical社製)、などが挙げられる。
【0028】
(成分[C]について)
本発明における成分[C]は、カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴムである。成分[C]は、樹脂硬化物の靱性を優れたものとするために必要な成分である。かかる成分[C]の市販品としては、“Hypro(登録商標)”1300X31、“Hypro(登録商標)”1300X13、“Hypro(登録商標)”1300X13NA、“Hypro(登録商標)”1300X8(以上、CVC Thermoset Specialties社製)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0029】
本発明では、成分[B]、成分[C]を併用することが必要である。これによって、成分[B]、成分[C]のそれぞれを単独で用いる場合と比較して、特異的に優れた靱性向上効果が得られ、速硬化性と優れた靱性を両立できる。
【0030】
また、本発明では、成分[C]の質量を成分[B]の質量で除して得られる質量比(カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴムの質量/コアシェルゴム粒子の質量)は、0.1~0.8であることが必要である。成分[B]に対する成分[C]の含有量をかかる範囲とすることで、特異的に優れた靱性を効果的に得ることができ、かつ耐熱性を両立することができる。
【0031】
さらに、より優れた靱性向上効果と中間基材の製造に適した粘度が得られることから、成分[B]の含有量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、5~30質量部とすることが好ましく、5~15質量部とすることがより好ましい。
【0032】
同様の観点で、成分[C]の含有量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、0.5~15質量部とすることが好ましく、0.5~10質量部とすることがより好ましい。また、成分[B]の含有量と成分[C]の含有量の和は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、5~45質量部とすることが好ましく、9~35質量部とすることがより好ましい。
【0033】
(成分[D]について)
本発明の成分[D]は、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは、熱活性型の潜在性硬化剤である。すなわち、所定温度以下では活性の低い状態であるが、一定の熱履歴を受けることにより相変化や化学変化などを起こして活性の高い状態に変わる性質をもつ。成分[D]は、エポキシ樹脂組成物に安定性を付与し、エポキシ樹脂組成物の調製工程、中間基材の製造工程、中間基材の保存期間でのエポキシ樹脂組成物の増粘を防ぐ効果と、加熱条件において速やかに硬化反応を進行させる効果を両立するために必要な成分である。かかるジシアンジアミドの市販品としては、“jERキュア(登録商標)”DICY7、“jERキュア(登録商標)”DICY15(以上、三菱ケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0034】
本発明における、成分[D]の含有量は、ジシアンジアミドの活性水素のモル数を、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂成分のエポキシ基のモル数で除して得られるモル比(ジシアンジアミドの活性水素モル数/全エポキシ基のモル数)が0.40~0.53となる量であることが必要である。ここで、本発明では、ジシアンジアミド1分子は4つのエポキシ基と反応するとして、活性水素当量を21g/eq.として扱う。上記の範囲に対応する成分[D]の含有量は、エポキシ樹脂成分の種類と含有量によって変化するため、下記範囲に限るものではないが、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、4~6質量部が目安である。かかる成分[D]の含有量の範囲は、短時間での硬化が可能でありながら、優れた靱性および耐熱性を有し、かつ、保管安定性にも優れる樹脂組成物を得るために必要である。また、一般に、繊維強化複合材料のガラス転移温度は、樹脂硬化物のガラス転移温度と比較して低くなるが、かかる成分[D]の含有量の範囲は、特に、樹脂硬化物に対する繊維強化複合材料のガラス転移温度の低下を抑制し、耐熱性に優れた繊維強化複合材料を得るために必要である。
【0035】
(成分[E]について)
本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物は、成分[E]として芳香族ウレアを含むことが必要である。成分[E]を成分[D]と併用することで、エポキシ樹脂組成物の粘度の経時安定性と、硬化速度のバランスを良好にできる。ここで、芳香族ウレアとは、芳香環にウレア基が結合した構造を有する化合物を指し、具体的には、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DCMU)、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア(PDMU)、2,4-トルエンビス(3,3-ジメチルウレア)(TBDMU)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0036】
かかる成分[E]の市販品としては、DCMU99(DCMU、保土ヶ谷化学工業株式会社製)、“Omicure(登録商標)”24(TBDMU、蝶理GLEX株式会社製)、“Dyhard(登録商標)”UR505(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、AlzChem社製)などが挙げられる。
【0037】
成分[E]の中でも、耐熱性に優れた樹脂硬化物を得られることから、TBDMUを用いることが好ましい。
【0038】
また、本発明において、全エポキシ基のモル数をウレア基のモル数で除して得られるモル比(全エポキシ基のモル数/ウレア基のモル数)は、15~55であることが必要であり、15~30であることが好ましい。上記の範囲に対応する成分[E]の含有量は、エポキシ樹脂成分の種類と含有量によって変化するため、下記範囲に限るものではないが、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、1~5質量部が目安である。かかる成分[E]の含有量の範囲は、短時間での硬化が可能でありながら、優れた靱性および耐熱性を有する樹脂組成物を得るために必要である。
【0039】
さらに、本発明において、ジシアンジアミドの活性水素モル数に対する、ウレア基のモル数の比(ウレア基のモル数/ジシアンジアミドの活性水素モル数)が0.035~0.17であることが好ましい。成分[D]と成分[E]の含有比率がかかる範囲を満たすことで、硬化速度と耐熱性のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0040】
(その他添加剤について)
本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を失わない範囲において、熱可塑性樹脂や揺変剤などの粘度調整剤、消泡剤、安定剤、難燃剤、顔料などの各種添加剤を含有することができる。熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂としては、例えばポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリスルホンなどを挙げることができる。揺変性付与剤としては、アマイドワックス、水添ひまし油などの有機系のものや、シリカ、アルミナ、アルミニウムとケイ素の混合酸化物、酸化チタン、軽質炭酸カルシウム、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイトなど)、セピオライト、カーボンブラックなどの無機系のものが挙げられる。消泡剤としては、非シリコンポリマー系消泡剤、シリコン系消泡剤などが挙げられる。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、25℃における粘度が1~150Pa・sであることが好ましく、1~110Pa・sであることがより好ましく、1~50Pa・sであることがさらに好ましい。かかる粘度範囲とすることで、中間基材製造時のエポキシ樹脂組成物の送液性、強化繊維への含浸性、取り扱い性等を良好とすることができる。
【0042】
本発明において、樹脂硬化物のガラス転移温度は120~160℃であることが好ましく、120~150℃であることがより好ましい。樹脂硬化物のガラス転移温度をかかる範囲とすることで、樹脂硬化物の耐熱性と靱性を良好なバランスとすることができる。ここで、樹脂硬化物とは、本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱条件下で硬化させたものをいう。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は特に制限がなく、例えば、1~20℃/minの速さで昇温させたのち、110~160℃にて0.5~8時間熱処理することで硬化反応を完了させることができる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、様々な公知の方法を用いることができる。例えばニーダー、プラネタリーミキサー、メカニカルスターラー、ディゾルバー、三本ロールといった機械を用いて混練してもよいし、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜてもよい。
【0044】
本発明の中間基材は、本発明のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維束に含浸したものである。ここで、強化繊維束としては、直径が3~100μmのフィラメントが1,000~70,000本束ねられて構成される強化繊維束が通常用いられる。
【0045】
本発明の中間基材に用いる強化繊維束としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などからなる繊維束が挙げられる。これらの繊維束を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる炭素繊維束を用いることが好ましい。かかる炭素繊維束としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維束が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維束が好ましく用いられる。
【0046】
本発明の中間基材における、エポキシ樹脂組成物の質量含有率(Rc)は、目的に応じて特に制限なく設定することができるが、好ましくは20~40%であり、20~30%がさらに好ましく、22~28%が最も好ましい。エポキシ樹脂組成物と強化繊維束との質量比率が20%以上であれば、得られる繊維強化複合材料の内部の未含浸部分やボイドのような欠陥が発生することを抑制できる。また、40%以下であれば強化繊維束の体積含有率を高めることができるため、繊維強化複合材料の力学特性を効果的に発現でき、軽量化に寄与できる。
【0047】
本発明の中間基材は、様々な公知の方法で製造することができる。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物を、有機溶媒を用いずに加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させる方法、加熱して低粘度化した該エポキシ樹脂組成物を回転ロールや離型紙上に塗膜化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させる方法などで製造できる。
【0048】
特にトウプレグを製造する場合においては、高品位なトウプレグが製造できることから、エポキシ樹脂組成物で被覆された回転ロールを、強化繊維束の少なくとも片面に接触させる工程を含むことが好ましい。トウプレグは、通常、数百から数千メートルを紙管に巻き取ったボビン形状で供給される。
【0049】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明の中間基材を、加熱硬化することにより得ることができる。本発明の中間基材は航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に使用することができ、特に、圧力容器などの中空の容器や、円筒の製造に好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0051】
<実施例および比較例で用いた材料>
(1)強化繊維束
・“トレカ(登録商標)”T720SC-36K(引張強度5,880MPa、フィラメント数36,000本、総繊度1,650tex、密度1.8g/cm3、東レ株式会社製)。
【0052】
(2)成分[A](成分[A1]以外):25℃で液状の2官能エポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”828(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・“jER(登録商標)”806(液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、日本化薬株式会社製)。
【0053】
(3)成分[A1]:脂肪族エポキシ樹脂
・“デナコール(登録商標)”EX-821(ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)
・“デナコール(登録商標)”EX-211(ネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂、アルキレン骨格の炭素数:5、ナガセケムテックス株式会社製)
・“デナコール(登録商標)”EX-212(1,6-ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、アルキレン骨格の炭素数:6、ナガセケムテックス株式会社製)
・“デナコール(登録商標)”EX-216(シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、アルキレン骨格の炭素数:8、ナガセケムテックス株式会社製)。
【0054】
(4)成分[F]:ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂およびオキサゾリドン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つであるエポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”YX4000(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・NC-3000-L(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製)
・“EPICLON(登録商標)”HP-7200L(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC株式会社製)
・“D.E.R.(登録商標)”858(オキサゾリドン型エポキシ樹脂、Olin Corporation社製)。
【0055】
(5)その他のエポキシ樹脂
・“スミエポキシ(登録商標)”ELM-434(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、住友化学株式会社製)。
【0056】
(6)成分[B]:コアシェルゴム粒子
・“カネエース(登録商標)”MX-150(ポリブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子40%の液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)
・“カネエース(登録商標)”MX-257(ポリブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子37%の液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)。
【0057】
(7)成分[C]:カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム
・“Hypro(登録商標)”1300X13NA(末端カルボキシル基変性ブタジエンニトリルゴム、CVC Thermoset Specialties社製)。
【0058】
(8)成分[D]:ジシアンジアミド
・“jERキュア(登録商標)”DICY7(エポキシ樹脂硬化剤、ジシアンジアミド、三菱ケミカル株式会社製)。
(9)成分[E]:芳香族ウレア
“Omicure”(登録商標)24(TBDMU、蝶理GLEX株式会社製)。
【0059】
(10)その他添加剤
・“BYK(登録商標)”1790(消泡剤、ビックケミ-・ジャパン株式会社製)。
【0060】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
ビーカー中に、成分[D]、成分[E]以外の成分を投入後、100℃に加熱して均一となるまで撹拌した。続いて、樹脂の温度を25~60℃まで下げた後、成分[D]、および、成分[E]を投入して均一となるまで撹拌しエポキシ樹脂組成物を得た。実施例および比較例の成分含有比について表1~3に示した。
【0061】
<エポキシ樹脂組成物の25℃における粘度の測定方法>
JIS Z8803(2011)における「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計(東機産業(株)製、TVE-30H)を使用して、回転速度を5~20回転/分として測定した。サンプルカップ内を測定温度(25℃)に調整し、エポキシ樹脂組成物を投入後、1分以上経過し表示値が安定したところで値を読み取った。
【0062】
<エポキシ樹脂組成物のゲル化時間の評価方法>
キュアモニターLT-451(Lambient Technologies社製)を用いて、150℃におけるエポキシ樹脂組成物のイオン粘度の経時変化を測定した。エポキシ樹脂組成物のイオン粘度は硬化開始時に最低値をとり、硬化反応の進行に伴い増加後、完了とともに飽和する。本発明においては、硬化反応完了時のイオン粘度(測定で得られた最高値)に対する、ある時点でのイオン粘度の値の百分率をキュアインデックス(Cd)として算出し、Cdが20%に到達するまでの時間をゲル化開始時間とした。
【0063】
<樹脂硬化板の作製方法>
エポキシ樹脂組成物を、真空中で脱泡した後、“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mm、または6mmになるように設定したモールドに注入した。次に、熱風オーブン中で室温から150℃まで1分間に2.5℃ずつ昇温した後、該温度で1時間保持して該エポキシ樹脂組成物を硬化した。続いて、室温まで降温し、モールドから脱型することで、樹脂硬化板を作製した。
【0064】
<ガラス転移温度の測定方法>
2mm厚の樹脂硬化板から、幅12.7mm、長さ45mmの試験片を切り出し、粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、ねじり振動周波数1.0Hz、昇温速度5.0℃/分の条件下で、30~250℃の温度範囲でDMA測定を行った。ガラス転移温度(Tg)は、貯蔵弾性率G’曲線において、ガラス状態での接線と転移状態での接線との交点における温度とした。
【0065】
<エポキシ樹脂硬化物の引張破断伸度の測定方法>
2mm厚の樹脂硬化板から、JIS K7161(1994)に準拠した、1BA型のダンベル状に切り出したのち、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて、チャック間距離を58mmに設定し、試験速度1mm/分にて引張試験を実施し、引張破断伸度を測定した。
【0066】
<樹脂硬化物の破壊靱性測定方法>
ASTM D5045に準拠したSENB(Single Edge Noched Bend)試験法に準拠して実施した。6mm厚の樹脂硬化板から、長さ60mm、幅12.7mmの試験片を切り出した後、予亀裂を導入した。その後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて、スパン間を50.8mm、クロスヘッドスピードを10mm/分、サンプル数n=6とし、破壊靱性値(KIC)を測定した。
【0067】
<樹脂硬化物の吸水率の測定方法>
厚さ2mm、長さ60mm、幅10mmの大きさに加工した樹脂硬化板を、60℃で24時間真空乾燥させた後、温度85℃、湿度95%RHの湿熱条件下にて7日間静置した。試験片の乾燥質量に対する、湿熱条件曝露後の質量変化の百分率を吸水率とした。
【0068】
<トウプレグの作製方法>
クリール、キスロール、ニップロール、ワインダーを備えたトウプレグ製造装置を用いて、炭素繊維“トレカ(登録商標)”T720SC-36Kの片面に、20~60℃の温度に調整したエポキシ樹脂組成物を塗工した後、ニップロールを通過させることで該エポキシ樹脂組成物を強化繊維束内部まで含浸して、樹脂含有率が25質量%のトウプレグを得た。トウプレグのボビンは、初期張力を600~1,000gf、ワインド比を6~10として、巻き幅が230~260mmの円筒型となるよう、2,300mを紙管に巻き取った。
【0069】
<繊維強化複合材料(CFRP)のガラス転移温度の測定方法>
まずはじめに、上記、<トウプレグの作製方法>に従って作成したトウプレグを、金属製の枠に1方向に巻き取ったのち、金属製スペーサーにより厚み2mmになるように設定した幅20mmの金型に挟み、その金型をプレス機を用いて150℃にて1時間加熱し、エポキシ樹脂組成物を硬化させて、繊維強化複合材料平板を作成した。
【0070】
続いて、2mm厚の繊維強化複合材料平板から、幅12.7mm、長さ45mmの試験片を切り出し、粘弾性測定装置(ARES、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、ねじり振動周波数1.0Hz、昇温速度5.0℃/分の条件下で、30~250℃の温度範囲でDMA測定を行った。ガラス転移温度(Tg)は、貯蔵弾性率G’曲線において、ガラス状態での接線と転移状態での接線との交点における温度とした。
【0071】
(実施例1)
成分[A]として“jER(登録商標)”828を81.5質量部、“jER(登録商標)”806を10質量部、成分[B]として“カネエース(登録商標)”MX-257を13.5質量部(成分[A]の1種であるエポキシ樹脂8.5質量部、成分[B]5質量部からなる)、成分[C]として“hypro(登録商標)”CTBN1300X13を4質量部、成分[D]として“jERキュア(登録商標)”DICY7を4.4質量部、成分[E]として“Omicure(登録商標)”24を2.3質量部、その他添加剤として“BYK(登録商標)”1790を0.5質量部用いて、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の、25℃における粘度は21Pa・s、150℃におけるゲル化時間は3.1分であった。また、樹脂硬化物の引張破断伸度は6.7%、破壊靱性値(KIC)は2.3MPa・m0.5、吸水率は4.1%、ガラス転移温度は125℃、であった。
【0072】
次に、このエポキシ樹脂組成物を用いて、上記<トウプレグの作製方法>に従ってトウプレグを得た。このトウプレグを用いて得られた繊維強化複合材料のガラス転移温度は115℃であった。
【0073】
以上のように全ての試験において良好な結果が得られた。
【0074】
(実施例2~5)
表1に示したように、樹脂組成を変更し、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した。評価結果は、樹脂組成物の25℃における粘度、150℃におけるゲル化時間、樹脂硬化物の引張破断伸度、破壊靱性値(KIC)、吸水率、ガラス転移温度、繊維強化複合材料のガラス転移温度の全てで良好な結果が得られた。
【0075】
(実施例6~12)
表1および表2に示したように、成分[F]を含むように樹脂組成を変更し、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した。評価結果は、樹脂組成物の25℃における粘度、150℃におけるゲル化時間、樹脂硬化物の引張破断伸度、破壊靱性値(KIC)、吸水率、ガラス転移温度、繊維強化複合材料のガラス転移温度の全てで良好な結果が得られた。特に成分[F]によって、優れた靱性を維持しながら、樹脂硬化物および繊維強化複合材料の耐熱性がさらに向上した。また、成分[C]の含有量が、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して5~30質量部である、実施例6~7、および9~12では、優れた靱性向上効果とトウプレグの製造に適した粘度が両立できた。
【0076】
(実施例13~18)
表2に示したように、成分[A1]を含むように樹脂組成を変更し、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した。評価結果は、樹脂組成物の25℃における粘度、150℃におけるゲル化時間、樹脂硬化物の引張破断伸度、破壊靱性値(KIC)、吸水率、ガラス転移温度、繊維強化複合材料のガラス転移温度の全てで良好な結果が得られた。特に、成分[A1]によって、硬化速度、靱性、耐熱性の良好なバランスを損なうことなく、エポキシ樹脂組成物の粘度を効果的に低減でき、なおかつ、成分[B]および成分[C]と併用することで、それぞれの成分を単独で使用する場合、または2成分を併用する場合と比較して、特異的な引張破断伸度と靭性値の向上効果が得られた。また、成分[A1]として炭素数4~10のアルキレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂を用いた実施例14~18は、実施例13と比較して樹脂硬化物の吸湿性の増大を抑制できた。
【0077】
(比較例1)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、成分[B]と成分[C]を併用せず、成分[B]のみを用いた。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、樹脂硬化物の破壊靱性値(KIC)は1.7MPa・m0.5と不十分であった。
【0078】
(比較例2)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、成分[B]と成分[C]を併用せず、成分[C]のみを用いた。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、樹脂硬化物の破壊靱性値(KIC)は1.8MPa・m0.5と不十分であった。
【0079】
(比較例3)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、成分[B]と成分[C]を併用したが、成分[C]に対する成分[B]の質量比を0.03と、0.1よりも小さくした。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、樹脂硬化物の破壊靱性値(KIC)は1.7MPa・m0.5と不十分であった。
【0080】
(比較例4)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、成分[B]と成分[C]を併用したが、成分[C]に対する成分[B]の質量比を1.0と、0.8よりも大きくした。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、樹脂硬化物の破壊靱性値(KIC)は2.7MPa・m0.5と優れた値を示したが、樹脂硬化物のガラス転移温度が109℃、繊維強化複合材料のガラス転移温度が96℃と不十分であった。
【0081】
(比較例5)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、全エポキシ基のモル数に対するジシアンジアミドの活性水素モル数の比を0.30と、0.4よりも小さくした。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、150℃におけるゲル化時間が7.1分と長く、樹脂硬化物の破壊靱性値(KIC)が1.6MPa・m0.5、樹脂硬化物のガラス転移温度が112℃、繊維強化複合材料のガラス転移温度が97℃といずれも不十分であった。
【0082】
(比較例6)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、全エポキシ基のモル数に対するジシアンジアミドの活性水素モル数の比を0.63と、0.53よりも大きくした。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、150℃におけるゲル化時間は4.2分、樹脂硬化物のガラス転移温度は130℃と優れた値を示したが、繊維強化複合材料のガラス転移温度が96℃と低く不十分であった。
【0083】
(比較例7)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、全エポキシ基のモル数に対するウレア基のモル数の比を8と、15よりも小さくした。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、150℃におけるゲル化時間は1.2分と優れた値を示したが、樹脂硬化物のガラス転移温度が105℃と低く不十分であった。
【0084】
(比較例8)
表3に示したように、樹脂組成を変更し、全エポキシ基のモル数に対するウレア基のモル数の比を65と、55よりも大きくした。実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグを作製、評価した結果、150℃におけるゲル化時間は8.3分と長く不十分であった。また、樹脂硬化物のガラス転移温度は133℃と優れた値を示したが、繊維強化複合材料のガラス転移温度が104℃と低く不十分であった。
【0085】
【0086】
【0087】