(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】モバイルロボット、モバイルマニピュレータ、およびモバイルロボットの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240625BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H02J7/00 S
B25J19/06
H02J7/00 P
H02J7/00 302A
(21)【出願番号】P 2020162475
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝浩
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208508823(CN,U)
【文献】特開2007-161016(JP,A)
【文献】特開2019-049221(JP,A)
【文献】特開2016-195496(JP,A)
【文献】特開2006-81369(JP,A)
【文献】特開2007-221847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
B25J 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気負荷を搭載可能なモバイルロボットであって、
前記電気負荷に電力を供給するバッテリの電圧を取得する電圧取得部と、
前記電圧が特定範囲内であるかを判定する条件判定部と、
前記条件判定部が、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、(i)前記電気負荷の起動を禁止する、または、(ii)変圧された前記バッテリの前記電圧を前記電気負荷に供給させて前記電気負荷を起動する、起動制御部と、を備え、
前記特定範囲は、前記電気負荷を動作させることができる電圧範囲のうちの一部の電圧範囲であるモバイルロボット。
【請求項2】
前記条件判定部が、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、前記起動制御部は、前記電気負荷の起動を禁止する、請求項1に記載のモバイルロボット。
【請求項3】
前記モバイルロボットは、前記バッテリから電力を供給されてモバイルロボットを走行させる走行装置をさらに備え、
前記起動制御部は、前記条件判定部の判定結果によらず、前記走行装置の起動を許可する請求項2に記載のモバイルロボット。
【請求項4】
前記モバイルロボットは、前記条件判定部が、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、通知を行う出力制御部をさらに備える請求項2に記載のモバイルロボット。
【請求項5】
前記モバイルロボットは、前記特定範囲を変更する入力を受け付ける入力部をさらに備える請求項1から4のいずれか1項に記載のモバイルロボット。
【請求項6】
前記モバイルロボットは、前記モバイルロボットのシステム構成を把握する構成把握部をさらに備え、
前記構成把握部は、前記システム構成の変更を検出した場合、前記システム構成に適合するように、前記特定範囲を変更する請求項1から5のいずれか1項に記載のモバイルロボット。
【請求項7】
前記バッテリからの前記電圧を前記特定範囲外に変圧して出力する変圧装置を備え、
前記起動制御部は、前記電圧が前記特定範囲内であると判定された場合、前記変圧装置によって変圧された電圧を前記電気負荷へ供給させて前記電気負荷を起動する請求項1に記載のモバイルロボット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のモバイルロボットを備え、
前記電気負荷としてマニピュレータを備えるモバイルマニピュレータ。
【請求項9】
モバイルロボットに搭載された電気負荷に電力を供給するバッテリの電圧を取得する電圧取得ステップと、
前記電圧が特定範囲内であるかを判定する条件判定ステップと、
前記条件判定ステップにおいて、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、(i)前記電気負荷の起動を禁止する、または、(ii)変圧された前記バッテリの前記電圧を前記電気負荷に供給させて前記電気負荷を起動する、起動制御ステップと、を含み、
前記特定範囲は、前記電気負荷を動作させることができる電圧範囲のうちの一部の電圧範囲であるモバイルロボットの制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載のモバイルロボットとしてコンピュータを機能させるためのモバイルロボットの制御プログラムであって、前記電圧取得部、前記条件判定部および前記起動制御部としてコンピュータを機能させるためのモバイルロボットの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモバイルロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
マニピュレータを搭載したモバイルロボットであるモバイルマニピュレータがある。モバイルマニピュレータは工場でのワークの移載に用いられている。
【0003】
ここで、特許文献1に、エンジンを備える電動車両の起動時において、主バッテリの電力の使用可否を判断し、主バッテリの電力を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、バッテリの充電残量をバッテリの電圧から推測し、バッテリの充電残量が閾値以下になった場合に、電動車両(ハイブリッド車両)は、主バッテリの使用を停止し、エンジンを始動して走行する。
【0006】
ところが、モバイルロボットに搭載されるマニピュレータは高出力モータを多軸備えるため、起動時の突入電流によりバッテリを破損する場合がある。そのため、バッテリの充電残量のみに配慮するだけでは十分ではなく、モバイルマニピュレータを動作させるバッテリの最大電流値の超過を防ぐことが必要である。
【0007】
本発明の一態様は、電気負荷の突入電流によりバッテリの出力電流が定格電流を超過することを防止するモバイルロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモバイルロボットは、電気負荷を搭載可能なモバイルロボットであって、前記電気負荷に電力を供給するバッテリの電圧を取得する電圧取得部と、前記電圧が特定範囲内であるかを判定する条件判定部と、前記条件判定部が、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、(i)前記電気負荷の起動を禁止する、または、(ii)変圧された前記バッテリの前記電圧を前記電気負荷に供給させて前記電気負荷を起動する、起動制御部と、を備え、前記特定範囲は、前記電気負荷を動作させることができる電圧範囲のうちの一部の電圧範囲である。
【0009】
上記の構成によれば、電気負荷の起動に際し、電気負荷の突入電流によってバッテリの破損を防ぐことができる。
【0010】
前記条件判定部が、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、前記起動制御部は、前記電気負荷の起動を禁止してもよい。
【0011】
前記モバイルロボットは、前記バッテリから電力を供給されてモバイルロボットを走行させる走行装置をさらに備え、前記起動制御部は、前記条件判定部の判定結果によらず、前記走行装置の起動を許可してもよい。
【0012】
上記の構成によれば、電気負荷の起動を禁止している状況であっても、走行装置は動作することができる。そのため、走行装置によって、移動することができ、バッテリを充放電することで、電気負荷の起動条件を整えることができる。
【0013】
前記モバイルロボットは、前記条件判定部が、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、通知を行う出力制御部をさらに備えてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、電気負荷の起動を禁止している状況で、オペレータに通知をすることができ、電気負荷が起動できるようにバッテリの交換または充放電を促すことができる。
【0015】
前記モバイルロボットは、前記特定範囲を変更する入力を受け付ける入力部をさらに備えてもよい。
【0016】
前記モバイルロボットは、前記モバイルロボットのシステム構成を把握する構成把握部をさらに備え、前記構成把握部は、前記システム構成の変更を検出した場合、前記システム構成に適合するように、前記特定範囲を変更してもよい。
【0017】
上記の構成によれば、特定範囲を変更することができる。
【0018】
前記バッテリからの前記電圧を前記特定範囲外に変圧して出力する変圧装置を備え、前記起動制御部は、前記電圧が前記特定範囲内であると判定された場合、前記変圧装置によって変圧された電圧を前記電気負荷へ供給させて前記電気負荷を起動してもよい。
【0019】
上記の構成によれば、バッテリの電圧が特定範囲である場合であっても、電気負荷に入力する電圧を特定範囲ではなくすることができる。そのため、バッテリの電圧によらず、電気負荷の起動条件を整えることができる。
【0020】
本発明の一態様に係るモバイルロボットは、前記電気負荷としてマニピュレータを備える。
【0021】
本発明の一態様に係るモバイルロボットの制御方法は、モバイルロボットに搭載された電気負荷に電力を供給するバッテリの電圧を取得する電圧取得ステップと、前記電圧が特定範囲内であるかを判定する条件判定ステップと、前記条件判定ステップにおいて、前記電圧が前記特定範囲内であると判定した場合、(i)前記電気負荷の起動を禁止する、または、(ii)変圧された前記バッテリの前記電圧を前記電気負荷に供給させて前記電気負荷を起動する、起動制御ステップと、を含み、前記特定範囲は、前記電気負荷を動作させることができる電圧範囲のうちの一部の電圧範囲である。
【0022】
本発明の各態様に係るモバイルロボットは、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記モバイルロボットが備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記モバイルロボットをコンピュータにて実現させるモバイルロボットの制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、電気負荷の突入電流によりバッテリの出力電流が定格電流を超過することを防止するモバイルロボットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係るモバイルマニピュレータの要部の構成を示す図である。
【
図2】一実施形態に係るバッテリの電圧が特定範囲の場合に、バッテリを交換する場合での、モバイルマニピュレータの処理を示すフローチャートである。
【
図3】一実施形態に係るバッテリの電圧が特定範囲の場合に、バッテリを充放電する場合での、モバイルマニピュレータの処理を示すフローチャートである。
【
図4】一実施形態に係るモバイルマニピュレータの要部の構成を示す図である。
【
図5】一実施形態に係るモバイルマニピュレータの要部の構成を示す図である。
【
図6】一実施形態に係るモバイルマニピュレータの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔実施形態〕
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
§1.適用例
(電気負荷による突入電流と電圧の関係性)
一般的にマニピュレータは、多軸の高出力モータと、大容量の安定化電源装置と、を備える。そのため、電気負荷としては非常に大きくなりやすい。特に、高出力モータは、起動時に大きな電力を消費し、起動するため、入力電圧が低い条件で、突入電流が大きくなる。この特性は、高出力モータに限定されず、任意の起動時に大きな電力を消費する電気負荷に言える。
【0027】
対して、大容量の安定化電源装置のような、入力1次側に静電容量が大きいコンデンサを備え、出力電力が安定するように設計された電源装置を備える電気負荷の場合、電源投入直後に当該コンデンサへの充電がなされる。そのため、入力電圧が高い条件にて突入電流が最大値を示す。
【0028】
すなわち、電気負荷の種類に応じて、突入電流が高くなる条件は異なる。すなわち、複数の電気負荷が結合した一般的な電気機器で考えると、当該電気機器の突入電流は、電気負荷の特性および電源電圧の状態によって変化すると言える。
【0029】
(バッテリによる電気負荷の動作および起動)
また、バッテリで駆動する電気負荷の場合、電気負荷が動作するためには、バッテリの供給可能な電力が、当該電気機器の定格電力を超える必要がある。電気負荷を起動するためには、当該電気機器の突入電流がバッテリの定格電流値以下である必要がある。本実施形態のモバイルロボットは、電気負荷の突入電流が所定値より高くなるような、バッテリの電圧が特定範囲内である場合、電気負荷の起動を禁止する。
【0030】
§2.構成例
図1は、モバイルマニピュレータ1の要部の構成を示すブロック図である。
【0031】
(モバイルマニピュレータの構成)
モバイルマニピュレータ1は、モバイルロボット2と、マニピュレータ(電気負荷)31とを備える。モバイルロボット2は、制御部10と、バッテリ21と、電圧計測部22と、走行装置23と、を備える。モバイルロボット2は、種々の電気機器(電気負荷)を搭載可能な無人搬送車である。制御部10は、モバイルマニピュレータ1の各部を統括して制御する機能を持つ。
【0032】
バッテリ21は、モバイルマニピュレータ1の各部(制御部10、走行装置23、およびマニピュレータ31)に電力を供給する2次電池である。モバイルマニピュレータ1は、所定の充電ステーションにてバッテリ21を充電するか、または、バッテリ21を充電済みのバッテリに交換することで、電力を充電する。
【0033】
電圧計測部22は、バッテリ21の電圧を計測する。電圧計測部22は、計測した電圧を制御部10に出力する。
【0034】
走行装置23は、モバイルロボット2を走行させる装置である。走行装置23は、バッテリ21から供給された電力を使用して動作する。
【0035】
マニピュレータ31は、モバイルロボット2に搭載された電気負荷である。電気負荷は、マニピュレータ31に限定されず、任意の電気負荷であってよい。マニピュレータ31は、多軸の高出力モータと、大容量の安定化電源装置と、を備える。そのため、起動時の突入電流が大きくなる傾向がある。例えば、電気負荷は、コンベア、モータ、電動シリンダ、真空ポンプ、DC-ACインバータ、DC-DCコンバータ、バッテリ充電器、保温庫、保冷庫、または、大電流を必要とする演算処理装置などであってもよい。
【0036】
(制御部の構成)
制御部10は、電圧取得部11と、条件判定部12と、起動制御部13と、出力制御部14と、入力部15と、を備える。制御部10は、走行装置23の動作またはマニピュレータ31の動作も制御してよい。
【0037】
電圧取得部11は、電圧計測部22で計測した電圧を取得する。取得した電圧は、条件判定部12に送信する。
【0038】
条件判定部12は、取得した電圧が、予め設定された特定範囲に収まっているか否かを判定する。条件判定部12は、判定した結果を起動制御部13および出力制御部14に送信する。特定範囲に関しては、任意に設定することができる。
【0039】
起動制御部13は、条件判定部12の判定結果に応じて、マニピュレータ31に起動させるための信号を出力する。起動制御部13は、条件判定部12が取得した電圧が特定範囲に収まっていると判定した場合、マニピュレータ31の起動を禁止し、取得した電圧が特定範囲に収まっていないと判定した場合、マニピュレータ31の起動を許可し、起動する。また、起動制御部13は、条件判定部12の結果によらず、走行装置23の起動および走行を許可する(起動および動作を禁止しない)。
【0040】
出力制御部14は、条件判定部12が取得した電圧が特定範囲に収まっていると判定した場合、外部装置を用いてバッテリ21の電圧がマニピュレータ31の起動に適していない旨をオペレータまたは管理サーバに通知する。出力制御部14は、通知にあたり、図示しないディスプレイ、ブザーまたはシグナルタワーなどの外部装置を用いてオペレータに通知してもよい。オペレータまたは、管理サーバを見た管理者は、計測した電圧が特定範囲外になるようにバッテリ21を交換または充電してもよい。
【0041】
入力部15は、条件判定部12で判定に用いる特定範囲を設定する機能を持つ。入力部15は、外部のパソコンとネットワーク経由で通信し、特定範囲を変更する入力を受け付け、特定範囲を設定してもよい。通信手段は任意の通信規格で良く、例えば、USB(Universal Serial Bus)(登録商標)、Ethernet(登録商標)またはWi-Fi(登録商標)であってもよい。
【0042】
§3.動作例
(バッテリ21を交換する場合での動作例)
図2は、バッテリ21の電圧が特定範囲であるとき、バッテリ21を交換する場合の、モバイルマニピュレータ1の処理を示すフローチャートである。なお、バッテリ21の充電残量は、モバイルマニピュレータ1を動作させるためには十分ある場合を想定している。
【0043】
S11において、オペレータはモバイルマニピュレータ1の電源を投入する。モバイルマニピュレータ1は、突入電流を削減するために、モバイルマニピュレータ1の全体の電源を同時に投入するのではなく、必要な部分から順次、優先順位を付けて電源投入していく。すなわち、モバイルマニピュレータ1は、最初に、制御部10に電源を投入し、次に電圧計測部22と走行装置23とに電源を投入する。ただし、マニピュレータ31の電源は、S11においては投入せず、以降のステップにて投入する。
【0044】
S12において、電圧計測部22は、バッテリ21の電圧を計測する。電圧取得部11は、電圧計測部22で計測したバッテリ21の電圧を取得する。電圧取得部11は、取得したバッテリ21の電圧を条件判定部12に送信する。
【0045】
S13において、条件判定部12は、取得したバッテリ21の電圧が、予め設定されている特定範囲内であるか否かを判定する。特定範囲は、入力部15によって、設定されている設定値であり、マニピュレータ31の起動を禁止するバッテリ21の電圧範囲である。特定範囲は、マニピュレータ31を正常に動作させることができる電圧範囲のうちの、一部の電圧範囲である。条件判定部12は、判定した結果を起動制御部13および出力制御部14に送信する。
【0046】
S13において、取得したバッテリ21の電圧が特定範囲内ではない場合(S13においてNo)、S14に遷移する。S14において、起動制御部13は、マニピュレータ1に電源を投入する(マニピュレータ1を起動する)。これは、取得したバッテリ21の電圧が、特定範囲内ではないことから、マニピュレータ31の突入電流を含むバッテリ21の出力電流が、バッテリ21の定格電流以下になると考えられるためである。そのため、条件判定部12は、マニピュレータ31に電源を投入してもよいと判定する。なお、バッテリ21の出力電流には、マニピュレータ31の突入電流の他に、他の動作中の機器(制御部10および走行装置23等)への電流も含まれる。制御部10は、起動の処理を終了する。
【0047】
S13において、取得したバッテリ21の電圧が特定範囲内である場合(S13においてYes)、S15に遷移する。S15において、起動制御部13は、マニピュレータ1への電源投入(起動)を禁止する。これは、取得したバッテリ21の電圧が、特定範囲に収まることから、マニピュレータ31の突入電流を含むバッテリ21の出力電流が、バッテリ21の定格電流を超えると考えられるためである。そのため、マニピュレータ31の電源を投入すると、バッテリ21の破損に繋がると、条件判定部12が判断したためである。
【0048】
ただし、起動制御部13は、マニピュレータ31の電源投入を禁止するだけであり、走行装置23の起動は禁止しない。そのため、条件判定部12によって、バッテリ21の電圧が特定範囲に収まっていた場合であっても、起動制御部13は、走行装置23による走行を許可する。モバイルマニピュレータ1は、例えば充放電を行う充放電ステーションまたは、作業現場で邪魔にならない待機ポジションなどの任意位置へ移動ができる。
【0049】
また、起動制御部13は、バッテリ21の電圧が特定範囲内であっても、起動済みのマニピュレータ31が引き続き動作することを禁止するものではない。バッテリ21の出力電圧が特定範囲内であっても、バッテリ21によってマニピュレータ31を正常に動作させることは可能である。そのため、マニピュレータ31が動作している間にバッテリ21の電圧が特定範囲内になったとしても、起動制御部13は、マニピュレータ31の電源をオフにはせず、マニピュレータ31の動作を継続させる。電気負荷(マニピュレータ31など)を起動したときの突入電流の大きさは、バッテリ21の出力電圧に応じて変化する。それゆえ、突入電流が過大となる出力電圧の範囲(特定範囲)は、モバイルロボットに搭載される電気負荷に応じて、異なる。
【0050】
例えば、電気負荷の起動時に一定の電力を消費して起動するよう設計された電気負荷であれば、バッテリ21の出力電圧が低い電圧範囲において、突入電流が所定値より大きくなる。この場合、電気負荷を動作可能な電圧範囲(AからBまで)のうち、AからCまでを特定範囲に設定すればよい(A<C<B)。
【0051】
一方、入力1次側に静電容量の大きなコンデンサを備え、出力電圧が安定するように設計された電源装置を備える電気負荷であれば、バッテリ21の出力電圧が低い電圧範囲において、突入電流が所定値より大きくなる。この場合、電気負荷を動作可能な電圧範囲(AからBまで)のうち、DからBまでを特定範囲に設定すればよい(A<D<B)。
【0052】
例えば、複数系統の電源装置を備える電気負荷においては、上記2通りの傾向の重ね合わせになる。さらに加えて、各電源装置の始動タイミングも電気負荷によって異なる。それゆえ、中間の電圧範囲において突入電流が所定値より大きくなる電気負荷も存在する。この場合、電気負荷を動作可能な電圧範囲(AからBまで)のうち、CからDまでを特定範囲に設定すればよい(A<C<D<B)。また、互いに離れた複数の電圧範囲において突入電流が所定値より大きくなる場合、該当する複数の電圧範囲を特定範囲に設定してもよい。
【0053】
なお、バッテリ21は電気負荷以外にも電力を供給する。例えばバッテリ21が他の機器(走行装置等)に供給する電流と、電気負荷の突入電流との合計がバッテリ21の定格電流を超えるような電圧範囲を特定範囲に設定する。
【0054】
S16において、出力制御部14は、図示しないディスプレイ、ブザー、またはシグナルタワーなどの外部装置を用いて、オペレータにバッテリ21の電圧が特定範囲内であるので、マニピュレータ31の電源を投入できないことを通知する。この時、出力制御部14は、オペレータに通知するだけではなく、またはオペレータへの通知に代えて、管理サーバに通知を出してもよい。
【0055】
S17において、出力制御部14の通知を受けて、オペレータは、モバイルマニピュレータ1のバッテリ21を、充電済みのバッテリ21と交換してもよい。オペレータが、充電されているバッテリ21に交換した場合、制御部10は、再度S12を処理し、バッテリ21の電圧を計測し、上記処理工程S13~S14を経て、マニピュレータ31を起動する。
【0056】
(変形例)
なお、マニピュレータ31の起動タイミングは、モバイルマニピュレータ1の起動時に限らない。マニピュレータ31を使用しない期間、モバイルマニピュレータ1は、マニピュレータ31の電源をオフにして走行してもよい。モバイルマニピュレータ1は、マニピュレータ31を使用するタイミングで、マニピュレータ31を起動するためにS12以降の処理を行ってもよい。
【0057】
バッテリ21は、走行装置23およびマニピュレータ31に電力を供給する例を説明したが、これに限らない。モバイルロボット2は、走行装置23および制御部10に電力供給するためのバッテリを、バッテリ21とは別に備えてもよい。バッテリ21は、モバイルロボット2に搭載される電気負荷に応じて、追加でモバイルロボット2に取り付けられるものであってもよい。
【0058】
モバイルロボット2は、制御部10とは別に、走行装置23の動作またはマニピュレータ31の動作を制御するコントローラを備えてもよい。
【0059】
(バッテリ21を充放電する場合での動作例)
図3は、バッテリ21の電圧が特定範囲の場合に、バッテリ21を充放電する場合での、モバイルマニピュレータ1の処理を示すフローチャートである。
【0060】
図3では、
図2におけるS17が、S18に代わっている。S18において、モバイルマニピュレータ1は、走行装置23によって図示しない充電ステーションに移動する。電気負荷を動作可能な電圧範囲のうち、比較的低電圧の範囲が特定範囲の場合、充電ステーションはバッテリ21を充電する。対して、電気負荷を動作可能な電圧範囲のうち、比較的高電圧の範囲が特定範囲の場合、充電ステーションはバッテリ21を放電する。すなわち、充電ステーションは、バッテリ21を充放電し、バッテリ21の電圧が特定範囲外になるようにする。また、モバイルマニピュレータ1が既に充電ステーションに移動済みであった場合は移動することなく、バッテリ21の電圧が特定範囲外になるように、充放電ステーションは充放電を行う。
【0061】
特に、特定範囲が高電圧の範囲であった場合、充電されたバッテリ21に交換すると、バッテリ21の出力は自然と高電圧になるため、マニピュレータ31を起動できなくなる。そのため、充放電ステーションでバッテリ21を適当な電圧まで放電すればマニピュレータ31を起動することができる。
【0062】
§4.作用効果
マニピュレータ31の起動に際し、条件判定部12によって、バッテリ21の電圧が特定範囲に収まるか否かによって、マニピュレータ31の突入電流を含むバッテリ21の出力電流がバッテリ21の定格電流を超えるか否かを判定できる。突入電流を含むバッテリ21の出力電流が定格電流より大きい場合、マニピュレータ31を正常に起動できず、またバッテリ21を破損させることがある。または、バッテリ21の保護回路が作動することによりバッテリ21が出力を停止し、走行装置23等が動作しなくなる可能性もある。そのため、モバイルロボット2は、突入電流が定格電流より大きい場合、マニピュレータ31の電源投入を禁止することが有効な対策となる。
【0063】
また、起動制御部13は、バッテリ21の電圧が特定範囲に収まっていて、マニピュレータ31の電源投入が禁止されている状況であっても、走行装置23の電源を投入し、モバイルマニピュレータ1を走行させることができる。そのため、走行装置23によって、モバイルマニピュレータ1は、充放電ステーションに移動することができ、バッテリ21の電圧を特定範囲に収まらない電圧に充放電できる。
【0064】
また、出力制御部14は、オペレータまたは管理サーバに対し、バッテリ21の電圧が特定範囲に収まっており、マニピュレータ31の電源投入が禁止されていることを通知することができる。そのため、オペレータまたは管理サーバによって、モバイルマニピュレータ1のバッテリ21を充電済みのバッテリ21に交換するか、または、モバイルマニピュレータ1を走行装置23によって充電ステーションに移動させ、充放電させることができる。
【0065】
また、入力部15は、外部入力を受け付けて、特定範囲を任意に設定できる。そのため、モバイルマニピュレータ1の構成が変わった場合であっても、特定範囲の設定を変更することで、バッテリ21の破損を防ぐことができる。ユーザは、任意の電気負荷をモバイルロボットに搭載し、電気負荷に応じた特定範囲を設定することができる。
【0066】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0067】
図4は、モバイルマニピュレータ1aの要部の構成を示すブロック図である。モバイルマニピュレータ1aは、モバイルマニピュレータ1と異なり、モバイルロボット2aおよびマニピュレータ31を備える。モバイルロボット2aは、モバイルロボット2と異なり、制御部10に代わって、制御部10aを備える。制御部10aは、制御部10と異なり、入力部15に代わって、構成把握部16を備える。
【0068】
構成把握部16は、モバイルマニピュレータ1aの構成が変更され、動作プログラムが変更される段階において、動作プログラムの変更箇所からシステム構成を把握する。例えば、構成把握部16は、動作プログラムからモバイルロボット2に搭載される電気負荷を特定する。構成把握部16には、あらかじめ複数の電気負荷に対応する各電圧における突入電流の値が登録されていてもよい。ユーザは、あらかじめ複数の電気負荷に対する各電圧における突入電流を測定することで、突入電流の値を構成把握部16に登録できる。また、構成把握部16には、モバイルロボット2が備え得る複数の他の機器(制御部10、走行装置23、各種センサ、および表示機器等)の動作時(または定常時)の電流値が登録されていてもよい。もしくは、構成把握部16に、複数の電気負荷のそれぞれに適合した複数の特定範囲が、あらかじめ登録されていてもよい。これらの情報から、構成把握部16は、モバイルロボット2が備える他の機器の動作時の電流と、電気負荷の突入電流との合計が、バッテリ21の定格電流を超えるようなバッテリ21の電圧の特定範囲を特定する。構成把握部16は、特定した新たな特定範囲を条件判定部12に設定する。これにより、構成把握部16は、モバイルロボット2が備える他の機器が変更または追加になったこと(システム構成の変更)を把握し、変更されたシステム構成に適合した特定範囲を設定することができる。
【0069】
構成把握部16は、動作プログラムの変更を基にシステム構成を把握することに限定されず、構成機器とIO-Link(登録商標)等で通信し、システム変更を検出してもよい。構成把握部16は、構成機器自体から構成機器の型式または消費電力等の情報を得ることができる。これにより、構成把握部16は、特定範囲の変更をしてもよい。
【0070】
したがって、構成把握部16は、オペレータの設定入力なしにシステム構成の変更を検出し、システム構成を把握することで、特定範囲を変更することができる。その結果、条件判定部12は、新たなシステム構成における新たな特定範囲において、判定を行うことができ、バッテリ21の破損を防ぐことができる。
【0071】
〔実施形態3〕
図5は、モバイルマニピュレータ1bの要部の構成を示すブロック図である。モバイルマニピュレータ1bは、モバイルマニピュレータ1と異なり、モバイルロボット2bおよびマニピュレータ31を備える。モバイルロボット2bは、モバイルロボット2と異なり、変圧装置32を更に備える。
【0072】
変圧装置32は、例えば、DC-DCコンバータ33と、電源マルチプレクサ34とを備える。電源マルチプレクサ34は、電磁接触器、リレーまたは半導体回路によって電源系統を切り替える装置である。バッテリ21の電圧は、変圧装置32のDC-DCコンバータ33および電源マルチプレクサ34に入力される。DC-DCコンバータ33の出力電圧は、電源マルチプレクサ34に入力される。電源マルチプレクサ34の出力電圧は、マニピュレータ31に供給される。電源マルチプレクサ34は、起動制御部13の指示に従って、いずれの入力をマニピュレータ31に出力するか切り替える。
【0073】
変圧装置32は、バッテリ21から入力された電圧を昇圧または降圧し、マニピュレータ31に電力を供給する機器である。特定範囲が低電圧に設定されている場合は、変圧装置32によって昇圧を行い、特定範囲が高電圧に設定されている場合は、変圧装置32によって降圧を行い、マニピュレータ31に入力される電圧を特定範囲外の電圧に変圧する。DC-DCコンバータ33の変圧比は、あらかじめ設定されていてもよい。
【0074】
図6は、モバイルマニピュレータ1bの処理を示すフローチャートである。S11~S13は、
図2に示すフローと同じである。
【0075】
バッテリ21の電圧が特定範囲外であると判定された場合(S13でNo)、起動制御部13は、バッテリ21の電圧をマニピュレータ31に出力するよう、電源マルチプレクサ34に指示する(S21)。それと共に、起動制御部13は、マニピュレータ31を起動する(S14)。
【0076】
バッテリ21の電圧が特定範囲内であると判定された場合(S13でYes)、起動制御部13は、バッテリ21の電圧をDC-DCコンバータ33によって変圧された電圧をマニピュレータ31に出力するよう、電源マルチプレクサ34に指示する(S22)。それと共に、起動制御部13は、マニピュレータ31を起動する。
【0077】
仮に、変圧装置32に入力される電圧、すなわち、バッテリ21の電圧が特定範囲に収まっていた場合であっても、変圧装置32が出力する電圧、すなわち、マニピュレータ31が入力する電圧は、変圧装置32によって特定範囲に収まらない電圧に変圧される。そのため、常に、マニピュレータ31は起動することができるようになる利点がある。
【0078】
〔ソフトウェアによる実現例〕
モバイルマニピュレータ1およびモバイルマニピュレータ1aの制御ブロック(特に電圧取得部11、条件判定部12、起動制御部13、出力制御部14、入力部15、および構成把握部16)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0079】
後者の場合、モバイルマニピュレータ1およびモバイルマニピュレータ1aは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0080】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1,1a,1b モバイルマニピュレータ
2,2a、2b モバイルロボット
10,10a,10b 制御部
11 電圧取得部
12 条件判定部
13 起動制御部
14 出力制御部
15 入力部
16 構成把握部
21 バッテリ
22 電圧計測部
23 走行装置
31 マニピュレータ(電気負荷)
32 変圧装置
33 DC-DCコンバータ
34 電源マルチプレクサ