(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】自動車の制御方法及び自動車システム
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240625BHJP
B60T 7/14 20060101ALI20240625BHJP
B60K 28/06 20060101ALI20240625BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B60T7/12 D
B60T7/14
B60K28/06 Z
G08G1/16 F
(21)【出願番号】P 2020166775
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】西條 友馬
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山下 良幸
(72)【発明者】
【氏名】休坂 慎也
(72)【発明者】
【氏名】辻 雄太
(72)【発明者】
【氏名】野中 信宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福田 佳護
(72)【発明者】
【氏名】中島 康宏
(72)【発明者】
【氏名】大池 太郎
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6299838(JP,B1)
【文献】特開2017-077823(JP,A)
【文献】特開2020-019320(JP,A)
【文献】特開2019-046165(JP,A)
【文献】特開2018-138449(JP,A)
【文献】米国特許第06952161(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 25/00-28/16
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドライバーが運転不能であるか否か判定するドライバー運転不能判定工程、
前記自動車のドライバーを含む乗員が操作可能な位置に配置されたSOSスイッチが前記乗員によってオン操作されたことを判定するSOSスイッチ操作判定工程、
前記自動車の駐車ブレーキを作動させるための駐車ブレーキスイッチ
を、前記乗員
がオン操作
している状態を検出する駐車ブレーキスイッチ操作検出工程、
前記乗員が前記駐車ブレーキスイッチをオンからオフ操作に変えたことを検出する駐車ブレーキスイッチオフ操作検出工程、
前記自動車の走行中に、前記ドライバー運転不能判定工程と前記SOSスイッチ操作判定工程の判定に関わらず、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチ
がオン操作
されている状態において、制動機構を用いて前記自動車を第1減速度で減速させる第1減速工程、
前記自動車の走行中に
、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチ
がオン操作
されていない状態を検出
し、
前記SOSスイッチ操作判定工程において、前記SOSスイッチがオン操作されていないと判定しかつ前記ドライバー運転不能判定工程において、ドライバーが運転不能と判定した場合、
又は、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作されていない状態を検出し、前記SOSスイッチ操作判定工程において、前記SOSスイッチがオン操作されたと判定しかつ前記駐車ブレーキスイッチオフ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作に変化していないことを検出しかつ前記ドライバー運転不能判定工程において、ドライバーが運転不能と判定した場合に、前記制動機構を用いて前記自動車を前記第1減速度より小さい第2減速度で減速させる第2減速工程、及び
前記自動車の走行中に、
前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作されていない状態を検出し、前記SOSスイッチ操作判定工程において、前記SOSスイッチがオン操作されたと判定し、前記駐車ブレーキスイッチ
オフ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作に変化したことを検出し
た場合に、前記制動機構を用いて前記自動車を前記第1減速度より小さい第3減速度で減速させる第3減速工程、
を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の制御方法において、
前記ドライバー運転不能判定工程は、
ドライバーの頭部の位置を計測する頭部位置計測工程、
運転開始時のドライバーの頭部の位置と現在のドライバーの頭部の位置の偏差を演算する頭部位置偏差演算工程、及び
前記頭部位置偏差演算工程において演算された偏差が、閾値以上の場合にドライバー運転不能状態と判定する姿勢くずれ判定工程、を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動車の制御方法において、
前記ドライバー運転不能判定工程は、
前記自動車のステアリングシャフトの捩じり変形を検出するステアリングトルク検出工程、及び
前記ステアリングトルク検出工程において、前記ステアリングシャフトの捩じり変形が閾値未満である状態が一定時間継続した場合にドライバー運転不能状態と判定するステアリング操作判定工程、を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の自動車の制御方法において、
前記ドライバー運転不能判定工程は、
ドライバーの開眼度を計測するドライバー開眼度測定工程、
前記ドライバー開眼度測定工程において計測された開眼度に基づいて、一定時間内における開眼時間の割合が所定の割合未満である場合にドライバー運転不能状態と判定するドライバー意識判定工程、を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項5】
自動車のドライバーが運転不能であるか否かを判定するために計測した信号を出力するドライバー運転不能判定システム、
前記自動車のドライバーを含む乗員が操作可能な位置に配置され、前記乗員が操作をした場合に信号を出力するSOSスイッチ、
前記自動車の駐車ブレーキを作動させるための駐車ブレーキスイッチであって、前記乗員による操作状態に応じた信号を出力する駐車ブレーキスイッチ、
走行中の前記自動車を制動可能な制動機構、及び
前記ドライバー運転不能判定システム、前記SOSスイッチ、前記駐車ブレーキスイッチ、そして前記制動機構と電気的に接続された制動制御器、を有する自動車システムであって、
前記制動制御器は、前記ドライバー運転不能判定システムの出力信号に基づいて前記ドライバーが運転不能であるか否かを判定すると共に、
前記自動車の走行中に、前記ドライバー運転不能の判定結果及び、前記SOSスイッチの出力信号に関わらず、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作が前記自動車の乗員によりなされている
状態において、前記自動車が第1減速度で減速するように前記制動機構を制御し、
前記自動車の走行中に
、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作がなされていない
状態を判定し、
前記SOSスイッチの出力信号に基づいて前記SOSスイッチがオン操作されておらずかつ前記ドライバー運転不能判定システムの出力信号に基づいて前記自動車のドライバーが運転不能であることを判定した場合
、又は、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作がなされていない状態を判定し、前記SOSスイッチの出力信号に基づいて前記SOSスイッチがオン操作されかつ前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作に変更されていないことを判定しかつ前記ドライバー運転不能判定システムの出力信号に基づいて前記自動車のドライバーが運転不能であることを判定した場合に、前記自動車が前記第1減速度より小さい第2減速度で減速するように前記制動機構を制御し、そして
前記自動車の走行中に、
前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作がなされていない状態を判定し、前記SOSスイッチの出力信号に基づいて前記SOSスイッチがオン操作されたと判定し、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作へ変更されたと判定し
た場合に、前記自動車が前記第1減速度より小さい第3減速度で減速するように前記制動機構を制御する、様に構成されたことを特徴とする自動車システム。
【請求項6】
請求項5に記載の自動車システムにおいて、
前記ドライバー運転不能判定システムは、前記自動車の車室内に設置され、常時ドライバーの頭部位置を計測する頭部モニターを有し、
前記制動制御器は、前記頭部モニターの出力信号に基づいて運転開始時のドライバー頭部位置と現在の頭部位置の偏差を演算し、その偏差が閾値以上の場合に、ドライバーが運転不能であると判断する、様に構成されたことを特徴とする自動車システム。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の自動車システムにおいて、
前記ドライバー運転不能判定システムは、前記自動車のステアリングシャフトの捩じり変形を検出するトルクセンサを有し、
前記制動制御器は、前記トルクセンサの出力信号に基づいて前記ステアリングシャフトの捩じり変形が閾値未満である状態が一定時間継続した場合に、ドライバーが運転不能であると判断する、様に構成されたことを特徴とする自動車システム。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の自動車システムにおいて、
前記ドライバー運転不能判定システムは、前記自動車のドライバーの両目を含む顔面を撮影するカメラを有し、
前記制動制御器は、前記カメラの出力信号に基づいて、一定時間における開眼時間の割合が所定の割合未満の場合に、ドライバーが運転不能である旨の信号を出力と判断する、様に構成されたことを特徴とする自動車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライバーが運転不能な状態に陥った際の自動車の制動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からドライバーが運転不能な状態に陥った際に、自動車を減速して停車させる技術が知られている。特許文献1においては、一定時間アクセルオフ継続の検出を条件とした運転不能の判定、又はドライバーによるステアリングホイール上に設けられた緊急スイッチの押し下げ操作の検出に基づき、自動車の減速を開始させる停車制御装置が開示されている。この停車制御装置は、一定時間アクセルオフの継続、又は緊急スイッチの押し下げ操作のいずれか一方を検出したときに自動車を第1の減速度で減速させ、両方を検出したときに自動車を第1の減速度よりも大きい第2の減速度で減速させる。
【0003】
特許文献1に記載の制御装置においては、ドライバーがアクセルペダルに足を載せた状態で意識を失っている場合には、アクセルオフが所定時間継続することがなく運転不能判定がなされず、ドライバーが緊急スイッチを操作することもないので、自動車の減速が開始されない。また、緊急スイッチがステアリングに配置されているので、同乗者がいたとしても緊急スイッチを操作することは容易ではない。
【0004】
そこで、緊急スイッチを同乗者による操作が可能な位置に配置することが考えられる。その場合に、新たに緊急スイッチを設けることなく、例えば特許文献2に開示されるように、電動パーキングブレーキ(EPB: Electric Parking Brake)の操作スイッチ(EPBスイッチ)を利用することが考えられる。つまり、自動車の走行中にEPBスイッチがオン操作されると、EPBスイッチからの入力に基づいて、液圧ブレーキを作動制御する。このように構成すれば、同乗者も自動車を減速させるための操作を容易に実行できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-079707号公報
【文献】特開2009-166656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術を鑑みると、ドライバーの運転不能状態が判定されない場合であっても、同乗者のEPBスイッチ操作により自動車を減速し停車させることができる。しかしながら、EPBスイッチはオン/オフの切替しかできず、設定された減速度で減速するかブレーキをリリースするかの操作しかできないため、EPBスイッチの操作だけで、自動車を周囲の交通状況に合わせて安全に停車させるのが難しい場合が想定される。したがって、ドライバー運転不能状態時の同乗者によるEPBスイッチの操作に基づく液圧ブレーキの作動制御には、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、ドライバー運転不能状態時の同乗者によるEPBスイッチの操作に基づく液圧ブレーキの作動制御における同乗者の負担低減について検討した。
【0008】
まず、オン/オフの切替のみのEPBスイッチを含む複数のスイッチを使って、同乗者が複数の減速度から最適なものを選択し、自動車を減速させることを考えた。しかし、緊急時に同乗者が操作するスイッチの数を単に増やすだけでは同乗者の大きな負担になる。さらに検討を続けた結果、特許文献1に開示された緊急スイッチに対応するSOSスイッチを同乗者が操作できる位置に設け、1回操作するだけで緊急モードに入るようにシステムを設定する上で、SOSスイッチの操作とEPBスイッチの操作と組み合わせて、複数の減速度から最適なものを選択できる様にすることを想到した。
【0009】
この考え方を具現化した自動車の制御方法である第1の発明は、自動車のドライバーが運転不能であるか否か判定するドライバー運転不能判定工程、前記自動車のドライバーを含む乗員が操作可能な位置に配置されたSOSスイッチが前記乗員によってオン操作されたことを判定するSOSスイッチ操作判定工程、前記自動車の駐車ブレーキを作動させるための駐車ブレーキスイッチを、前記乗員がオン操作している状態を検出する駐車ブレーキスイッチ操作検出工程、前記乗員が前記駐車ブレーキスイッチをオンからオフ操作に変えたことを検出する駐車ブレーキスイッチオフ操作検出工程を有する自動車の制御方法である。この自動車の制御方法は、前記自動車の走行中に、前記ドライバー運転不能判定工程と前記SOSスイッチ操作判定工程の判定に関わらず、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作されている状態において、制動機構を用いて前記自動車を第1減速度で減速させる第1減速工程を有する。前記自動車の制御方法は、前記自動車の走行中に、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作されていない状態を検出し、前記SOSスイッチ操作判定工程において、前記SOSスイッチがオン操作されていないと判定しかつ前記ドライバー運転不能判定工程において、ドライバーが運転不能と判定した場合、又は、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作されていない状態を検出し、前記SOSスイッチ操作判定工程において、前記SOSスイッチがオン操作されたと判定しかつ前記駐車ブレーキスイッチオフ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作に変化していないことを検出しかつ前記ドライバー運転不能判定工程において、ドライバーが運転不能と判定した場合に、前記制動機構を用いて前記自動車を前記第1減速度より小さい第2減速度で減速させる第2減速工程を有する。前記自動車の制御方法は、前記自動車の走行中に、前記駐車ブレーキスイッチ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作されていない状態を検出し、前記SOSスイッチ操作判定工程において、前記SOSスイッチがオン操作されたと判定し、前記駐車ブレーキスイッチオフ操作検出工程において、前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作に変化したことを検出した場合に、前記制動機構を用いて前記自動車を前記第1減速度より小さい第3減速度で減速させる第3減速工程を有する。
【0010】
第1の発明によれば、ドライバー運転不能判定工程、SOSスイッチ操作判定工程および駐車ブレーキスイッチ操作検出工程の判定によって、自動車を第1減速度、第2減速度、又は第3減速度のいずれかで減速させる。
【0011】
ここで、減速度は、自動車の速度の一階時間微分値である。減速度は特に、自動車の速度が次第に低下している場合における速度の一階時間微分値であり、マイナスの加速度である。減速度が大きいと、走行している自動車は速やかに停止に至り、減速度が小さいと、走行している自動車は停止に至るまでの時間又は距離が長い。
【0012】
駐車ブレーキスイッチが操作されている場合には、第1減速工程において、SOSスイッチの操作に関わらず、自動車を最も大きい第1減速度で減速させる。乗員が駐車ブレーキスイッチをオン操作している場合、走行中の自動車を停車させる意思が明確でありかつ、乗員が駐車ブレーキスイッチをオン操作しているため、周囲の交通状況に適合させながら自動車を停車させようとしている、と推測できる。相対的に大きい第1減速度で自動車を減速させることによって、自動車は、適切に減速する。
【0013】
第1減速工程の後で、駐車ブレーキスイッチが操作されなくなると、SOSスイッチの操作が無かった場合、自動車の減速を中止する。何らかの緊急事態が発生していると判断できずかつ、ドライバーが運転不能と判定されていない。この場合、自動車を停車させる必要性を確定できないため、自動車の減速を中止する。
【0014】
SOSスイッチの操作が有った場合には、第1減速工程の後で、駐車ブレーキスイッチが操作されなくなると、第3減速工程において、自動車を第1減速度より小さい第3減速度で減速させる。SOSスイッチが操作された場合は、何らかの緊急事態が発生していると推測できる。走行中の自動車は速やかに停車させた方が好ましい。SOSスイッチの操作がある場合、駐車ブレーキスイッチの操作を止めても、第3減速工程において、減速を継続させることができ、自動車は停車に至る。乗員は、走行中の自動車を、適切に停車できる。尚、乗員がSOSスイッチを一回操作すれば(つまり、SOSスイッチの操作を継続しなくても)、SOSスイッチ操作判定工程において、SOSスイッチが操作されたと判定すればよい。また、SOSスイッチの操作は、駐車ブレーキスイッチの操作前でも、操作後でもよい。
【0015】
上述のように、SOSスイッチと駐車ブレーキスイッチを活用することにより、ドライバー以外の乗員が周囲の交通状況にあった減速度を選択して自動車を減速させることができる。
【0016】
また、ドライバーが運転不能と判定した場合は、乗員のスイッチ操作が無くても、第2減速工程において、自動車を第1減速度より小さい第2減速度で減速させる。乗員の停車の意思が明確でない、及び/又は、周囲の交通状況がわからないため、システムは、減速度を相対的に小に設定する。システムは、走行中の自動車を、適切に停車できる。ここで、第2減速度と第3減速度とは異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0017】
第1の発明のドライバー運転不能判定工程は、ドライバーの頭部の位置を計測する頭部位置計測工程、運転開始時のドライバーの頭部の位置と現在のドライバーの頭部の位置の偏差を演算する頭部位置偏差演算工程、及び前記頭部位置偏差演算工程において演算した偏差が、閾値以上の場合にドライバー運転不能状態と判定する姿勢くずれ判定工程を有する、としてもよい。
【0018】
上述の姿勢くずれ判定工程によれば、ドライバーの頭部位置の偏差に基づいてドライバーの姿勢がくずれたことを検知できる。これにより、ドライバーが運転不能となった際に多く見られる姿勢くずれを検知し、その場合にドライバー運転不能と判定することができるので、同乗者によるSOSスイッチ又は駐車ブレーキスイッチの操作が無くても、第2減速工程における第2減速度での減速をより確実に実施することができる。
【0019】
さらに、第1の発明のドライバー運転不能判定工程は、前記自動車のステアリングシャフトの捩じり変形を検出するステアリングトルク検出工程、及び前記ステアリングトルク検出工程において、前記ステアリングシャフトの捩じり変形が閾値未満である状態が一定時間継続した場合にドライバー運転不能状態と判定するステアリング操作判定工程を有する、としてもよい。
【0020】
上述のステアリング操作判定工程によれば、ステアリング操作に伴って発生するステアリングシャフトの捩じり変形に基づいて、ステアリングの無操作状態を検知することができる。これにより、ドライバーが姿勢を崩さずに意識を失ったとしても、一定時間ステアリングの無操作状態が継続したことを検知し、ドライバー運転不能と判定することができるので、同乗者によるSOSスイッチ又は駐車ブレーキスイッチの操作が無くても、第2減速工程における第2減速度での減速をより確実に実施することができる。
【0021】
さらに、第1の発明のドライバー運転不能判定工程は、ドライバーの開眼度を計測するドライバー開眼度測定工程、前記ドライバー開眼度測定工程において計測された開眼度に基づいて、一定時間内における開眼時間の割合が所定の割合未満である場合にドライバー運転不能状態と判定するドライバー意識判定工程を有する、としてもよい。
【0022】
上述のドライバー意識判定工程によれば、ドライバーの目の開き具合に基づいて、ドライバーの意識がないことを検知することができる。これにより、例えば居眠り運転時のふらつきのように、ドライバーの意識はないが自動車に何らかの運転信号が送られ続けているときに、ドライバーの無意識状態を検知し、ドライバー運転不能と判定できるので、同乗者によるSOSスイッチ又は駐車ブレーキスイッチの操作が無くても、第2減速工程における第2減速度での減速をより確実に実施することができる。
【0023】
第1の発明の制御方法を実行する自動車システムである第2の発明は、自動車のドライバーが運転不能であるか否かを判定するために計測した信号を出力するドライバー運転不能判定システム、前記自動車のドライバーを含む乗員が操作可能な位置に配置され、前記乗員が操作をした場合に信号を出力するSOSスイッチ、前記自動車の駐車ブレーキを作動させるための駐車ブレーキスイッチであって、前記乗員による操作状態に応じた信号を出力する駐車ブレーキスイッチ、走行中の前記自動車を制動可能な制動機構、及び前記ドライバー運転不能判定システム、前記SOSスイッチ、前記駐車ブレーキスイッチ、そして前記制動機構と電気的に接続された制動制御器、を有する自動車システムである。前記制動制御器は、前記ドライバー運転不能判定システムの出力信号に基づいて前記ドライバーが運転不能であるか否かを判定すると共に、前記自動車の走行中に、前記ドライバー運転不能の判定結果及び、前記SOSスイッチの出力信号に関わらず、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作が前記自動車の乗員によりなされている状態において、前記自動車が第1減速度で減速するように前記制動機構を制御する。前記制動制御器は、前記自動車の走行中に、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作がなされていない状態を判定し、前記SOSスイッチの出力信号に基づいて前記SOSスイッチがオン操作されておらずかつ前記ドライバー運転不能判定システムの出力信号に基づいて前記自動車のドライバーが運転不能であることを判定した場合、又は、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作がなされていない状態を判定し、前記SOSスイッチの出力信号に基づいて前記SOSスイッチがオン操作されかつ前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作に変更されていないことを判定しかつ前記ドライバー運転不能判定システムの出力信号に基づいて前記自動車のドライバーが運転不能であることを判定した場合に、前記自動車が前記第1減速度より小さい第2減速度で減速するように前記制動機構を制御する。前記制動制御器は、前記自動車の走行中に、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチのオン操作がなされていない状態を判定し、前記SOSスイッチの出力信号に基づいて前記SOSスイッチがオン操作されたと判定し、前記駐車ブレーキスイッチの出力信号に基づいて前記駐車ブレーキスイッチがオン操作からオフ操作へ変更されたと判定した場合に、前記自動車が前記第1減速度より小さい第3減速度で減速するように前記制動機構を制御する。
【0024】
第2の発明によれば、ドライバー運転不能判定システムからの出力信号、乗員のSOSスイッチ操作、および駐車ブレーキスイッチの出力によって、自動車を第1減速度、第2減速度、又は、第3減速度のいずれかで減速させることができる。
【0025】
乗員が駐車ブレーキスイッチをオン操作している場合には、SOSスイッチの操作の有無に関わらず、自動車を最も大きい第1減速度で減速できる。その後、駐車ブレーキのオン操作を解除したとき、SOSスイッチをオン操作したことがある場合には、自動車を第1減速度より小さい第3減速度で減速できる。
【0026】
上述のように、乗員はSOSスイッチと駐車ブレーキスイッチを活用することにより、ドライバー以外の乗員が周囲の交通状況にあった減速度を選択して自動車を減速させることができ、駐車ブレーキスイッチのオン操作を解除しても減速を継続することができる。
【0027】
また、ドライバーが運転不能と判定した場合は、自動車を第1減速度より小さい第2減速度で減速させる。システムは、走行中の自動車を、適切に停車できる。
【0028】
第2の発明のドライバー運転不能判定システムは、前記自動車の車室内に設置され、常時ドライバーの頭部位置を計測する頭部モニターを有し、前記制動制御器は、前記頭部モニターの出力信号に基づいて運転開始時のドライバー頭部位置と現在の頭部位置の偏差を演算し、その偏差が閾値以上の場合に、前記制動制御器にドライバーが運転不能であると判断する様に構成される、としてもよい。
【0029】
上述のドライバー運転不能判定システムによれば、ドライバーの頭部位置の偏差に基づいてドライバーの姿勢がくずれたことを検知することができる。これにより、制動制御器は、ドライバーが運転不能となった際に多く見られるドライバーの姿勢くずれに基づいて、ドライバー運転不能を判断できる。
【0030】
さらに、第2の発明のドライバー運転不能判定システムは、前記自動車のステアリングシャフトの捩じり変形を検出するトルクセンサを有し、前記制動制御器は、前記トルクセンサの出力信号に基づいて前記ステアリングシャフトの捩じり変形が閾値未満である状態が一定時間継続した場合に、ドライバーが運転不能であると判断する様に構成される、としてもよい。
【0031】
上述のドライバー運転不能判定システムによれば、ステアリング操作に伴って発生するステアリングシャフトの捩じり変形に基づいて、ステアリングの無操作状態を検知することができる。これにより、制動制御器は、ドライバーが姿勢を崩さずに意識を失ったとしても、ステアリングの無操作状態に基づいて、ドライバー運転不能を判断できる。
【0032】
さらに、第2の発明のドライバー運転不能判定システムは、前記自動車のドライバーの両目を含む顔面を撮影するカメラを有し、前記制動制御器は、前記カメラの出力信号に基づいて、一定時間における開眼時間の割合が所定の割合未満の場合に、ドライバーが運転不能であると判断する様に構成される、としてもよい。
【0033】
上述のドライバー運転不能判定システムによれば、ドライバーの目の開き具合に基づいて、ドライバーの意識がないことを検知することができる。これにより、例えば居眠り運転時のふらつきのように、ドライバーの意識はないが自動車に何らかの運転信号が送られ続けているときに、制動制御器は、ドライバーの無意識状態に基づいてドライバー運転不能を判断できる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明の自動車の制御方法及び自動車システムによれば、ドライバーの運転不能時に、同乗者に大きな負担がかかることなく、同乗者は周囲の交通状況に合わせて安全に自動車を減速し、停車できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態の制動制御システムを搭載した自動車の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態の制動制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】車内に設置されるEPBスイッチとSOSスイッチの位置を示す図である。
【
図4】ECUにおける制御を示すフローチャートである。
【
図5】ドライバーの運転不能状態を判定する制御を示すフローチャートである。
【
図6】目標減速度を決定する制御を示すフローチャートである。
【
図7】第1減速工程における制動力を示したタイムチャートである。
【
図8】第2減速工程における制動力を示したタイムチャートである。
【
図9】第3減速工程における制動力を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係る制動制御システムを搭載した自動車を示し、1は車体、2はEPBスイッチ、3はSOSスイッチ、4はTCU(Telematics Communication Unit)、5はOMS(Occupant Monitoring System)、6はステアリングトルクセンサ、7はECU(Electro Control Unit)、8はPCM(Powertrain Control Module)、9はDSC(Dynamic Stability Control)ユニット、10は加圧ユニット、11はブレーキ機構である。
【0037】
EPBスイッチ2は
図3に示すように、センターコンソールに配置され、ドライバー以外の乗員も操作可能な位置に配置される。EPBスイッチ2を、中立位置から引き上げるとオンになり、離すと中立位置に戻りオフに切り替わる。停車中にEPBスイッチ2がオンになると駐車ブレーキがかかり後輪のみがロックされ、EPBスイッチ2を離して中立位置に戻った後も駐車ブレーキがかかった状態が維持される。EPBスイッチ2を押し下げると駐車ブレーキが解除される。走行中にEPBスイッチ2が引き上げられてオンになると、EPBスイッチ2がオンの状態にある間は液圧ブレーキがかかり全輪ロックされる。引き上げていたEPBスイッチ2を離してEPBスイッチ2がオンからオフ(つまり、中立位置)になれば、原則として、液圧ブレーキは解除される。尚、走行中におけるEPBスイッチ2の操作については、後で詳述する。
【0038】
SOSスイッチ3は
図3に示すようにバックミラー付近に配置され、ドライバー以外の乗員も操作可能な位置に配置される。SOSスイッチ3は押しボタンスイッチであり、乗員がこのボタンを押すとTCU4に信号が入力され、TCU4では緊急自動通報を行うとともに、ECU7にSOSスイッチ3が操作された旨の信号を出力する。
【0039】
OMS5は頭部モニターおよび瞼カメラを含み、図示は省略するが運転席前方に配置され、常時ドライバーの挙動を計測する。頭部モニターはドライバーの頭部の位置を計測し、瞼カメラはドライバーの両目を含む顔面を撮影する。OMS5は、瞼カメラの出力信号に基づいて、ドライバーの両目の開き具合、つまり開眼度を計測する。
【0040】
ステアリングトルクセンサ6はステアリングホイール14と前輪との間に介設したステアリングシャフトに取り付けられ、常時ステアリング操作と前輪からの入力により発生するステアリングシャフトの捩じり変形を計測する。
【0041】
ECU7は
図2に示すように、EPBスイッチ2とTCU4とOMS5とステアリングトルクセンサ6の入力を受信でき、PCM8に信号を出力できるように電気的に接続されている。具体的にはECU7は、設定されたプログラムに従って、EPBスイッチ2、TCU4を通じたSOSスイッチ3、OMS5、ステアリングトルクセンサ6の入力に基づき、ドライバーが運転不能状態か否かを判定した上で目標減速度を決定し、PCM8に出力する。
【0042】
PCM8はECU7から入力された目標減速度に対し、
図2にのみ図示する車輪速センサ12から常時入力される速度の変化から得られる加減速度およびエンジンブレーキで出力可能な減速度との差分を演算し、その演算結果を必要減速度としてDSCユニット9に出力する。
【0043】
DSCユニット9はPCM8から入力された必要減速度の実行に必要な液圧を演算し、加圧ユニット10に出力する。
【0044】
加圧ユニット10は、DSCユニット9からの入力に基づいてバルブとポンプを調節し、
図1において太い実線で示す液圧管を通じて、各車輪に設けられたブレーキ機構11に液圧を発生させる。この液圧によりブレーキ機構11が作動し、制動力が発生する。
【0045】
ブレーキ機構11は、詳細な図示は省略するが、車輪に取り付けられたロータディスクと、ロータディスクの内外にまたがって配置されるキャリパと、キャリパの内側にロータディスクを挟んで配置されるインナ側ブレーキパッドとアウタ側ブレーキパッドと、液圧管とつながるシリンダと、シリンダ内に嵌合されたピストンを有している。液圧管から液圧が伝達されるとシリンダ内のピストンが動き、インナ側ブレーキパッドをロータディスクに押し付ける。このときの反力によってキャリパは車両内側方向に動くため、アウタ側ブレーキパッドもロータディスクに押し付けられる。これによりロータディスクは2枚のブレーキパッドに挟み込まれ、車輪に制動力が発生し、車両1は減速する。
【0046】
加圧ユニット10はまた、図示を省略するブレーキペダルがドライバーによって踏み操作されたことに応じて、各車輪のブレーキ機構11に液圧を供給する。ドライバーの操作に対応する制動力が、自動車に付与される。
【0047】
DSCユニット9はまた、停車中にEPBスイッチ2がオンになると、後輪のブレーキ機構11に電気信号を出力することによって、後輪の駐車ブレーキを作動させる。
【0048】
次にECU7における制動制御を
図4のフローチャートを参照しながら説明する。ECU7は、自動車の走行中に、ドライバーが運転不能な状態に陥った際に、自動車を減速して停車させる制動制御を行う。ECU7はまた、自動車の走行中に、ドライバー又は同乗者である乗員がEPBスイッチ2を操作すること、並びに、EPBスイッチ2及びSOSスイッチ3を操作することに応じて、自動車を減速して停車させる。
【0049】
ステップS1では、自動車が走行中であるか否かを判断する。自動車が走行中である場合、プロセスはステップS2に進む。
【0050】
ステップS2では、EPBスイッチ2のオンオフの状態を読み込む。
【0051】
ステップS3では、SOSスイッチ3がオンされたか否かを読み込む。尚、EUC7は、自動車に乗車したドライバーが、自動車の始動に係るスタートスイッチをオン操作してからオフ操作するまでの間において、SOSスイッチ3が、一回、押し操作されると、SOSスイッチ3がオンされたと判断する。
【0052】
ステップS4では、OMS5の計測信号、及び、ステアリングトルクセンサ6の計測信号に基づいて、ドライバーの運転不能状態を判定する。
【0053】
図5は、
図4のステップS4におけるドライバーの運転不能状態の判定ステップを詳述している。先ず、ステップS51では、OMS5から、頭部モニターが計測したドライバーの姿勢を読み込み、運転開始時のドライバー頭部位置と現在の頭部位置の偏差を演算する。その偏差が閾値以上の場合、ECU7は、ドライバーの姿勢が崩れていると判断する。
【0054】
ステップS52では、ステアリングトルクセンサ6から、ステアリング操作の有無を読み込む。ステアリングシャフトの捩じり変形が閾値未満である場合、ECU7は、ステアリング操作が無いと判断する。
【0055】
ステップS53では、瞼カメラの出力信号からドライバーが目を開けているか、つまり、ドライバーの開眼度を読み込む。
【0056】
ステップS54では、ステップS51の情報から、ドライバーの姿勢が、一定時間を超えて崩れたままか否かの判定を行い、YESの場合はステップS58に進み、NOの場合はステップS55に進む。
【0057】
ステップS55では、ステップS52の情報から、ドライバーが一定時間を超えてステアリング無操作か否かの判定を行い、YESの場合はステップS58に進み、NOの場合はステップS56に進む。
【0058】
ステップS56では、ステップS53の情報から、一定時間内において、ドライバーが目を開けている時間の割合が所定の割合未満の場合、言い換えるとドライバーが一定時間目を閉じているか否かの判定を行い、YESの場合はステップS58に進み、NOの場合はステップS57に進む。
【0059】
ステップS57では、ドライバーが運転不能ではないと判定して、
図4のフローチャートに戻る。
【0060】
ステップS58では、ドライバーが運転不能であると判定して、
図4のフローチャートに戻る。
【0061】
図4のフローチャートに戻り、ステップS4の後のステップS5では、制動制御における自動車の目標減速度を設定する。
【0062】
図6は、
図4のステップS5における目標減速度の設定ステップを詳述している。ステップS61では、
図4のステップS1の情報から、EPBスイッチ2がオンであるか否かの判定を行い、YESの場合はステップS65に進み、NOの場合はステップS62に進む。
【0063】
ステップS62では、
図4のステップS2の情報から、SOSスイッチ3がオンされたことがあるか否かの判定を行い、YESの場合はステップS63に進み、NOの場合はステップS64に進む。
【0064】
ステップS63では、
図4のステップS1の情報から、EPBスイッチ2がオンからオフに変更されたか否かの判定を行い、YESの場合はステップS66に進み、NOの場合はステップS64に進む。
【0065】
ステップS64では、
図5のステップS57、S58の情報から、ドライバーが運転不能であるか否かの判定を行い、YESの場合はステップS68に進み、NOの場合はステップS67に進む。
【0066】
ステップS65では、目標減速度を第1減速度に決定する。
【0067】
ステップS66では、目標減速度を第1減速度よりも小さい第3減速度に決定する。ステップS68では、目標減速度を第1減速度よりも小さい第2減速度に決定する。第3減速度は、第2減速度よりも大きくても、小さくてもよい。第2減速度及び第3減速度はそれぞれ、適宜設定できる。
【0068】
ステップS67では、現在の走行状態を維持する。つまり、目標減速度をゼロに決定する。
【0069】
ステップS65、S66、S67、又は、S68の後、
図4のフローチャートに戻る。
【0070】
図4のフローチャートに戻り、ステップS5の後のステップS6では、
図6のステップS65、ステップS66、ステップS67、ステップS68の情報から目標減速度が決定されたか否かの判定を行い、YESであればステップS7に進み、NOであればリターンする。
【0071】
ステップS7では、決定された目標減速度の情報をPCM8に出力し、リターンする。目標減速度の情報を受けたPCM8は、DSCユニット9、加圧ユニット10及び、ブレーキ機構11を通じて、自動車に制動力を付与する。自動車は、設定された目標減速度で減速する。
【0072】
次に
図7~9のタイムチャートを用いて、同乗者(又はドライバー)が、具体的にどのような操作を行ったときに、どのような減速度が発生するのかを説明する。
【0073】
先ず、
図7のチャート72に示すように、乗員がEPBスイッチ2をオンにしている間(時刻t
71~t
72の間)、第1減速度で減速する。(第1減速工程、チャート74参照)。この場合、チャート71に示すように、乗員がSOSスイッチ3を操作しているか否かは問わない。また、チャート73に示すように、ドライバーが運転不能であるか否かも問わない。尚、
図7の例では、ドライバーが運転不能とは判定されていない。
【0074】
第1減速度は、第2減速度よりも高い。乗員がSOSスイッチ3を操作していても、操作していなくても、乗員は、EPBスイッチ2をオンにすることによって、走行中の自動車を速やかに停車できる。
【0075】
つまり、乗員がEPBスイッチ2をオン操作している間は、走行中の自動車を停車させるという乗員の意思が明確である。乗員の意思に従って、第1減速度でもって自動車を減速することにより、走行中の自動車を速やかに停車することができる。また、乗員がEPBスイッチ2をオンからオフ操作に変えた場合は、走行中の自動車を停車させるという乗員の意思がなくなったと考えられる。乗員の意思に従って、自動車の減速を中止することにより、自動車を、周囲の交通状況に合わせて安全に走行させることができる。
【0076】
尚、第1減速工程は、
図6のフローチャートにおいて、ステップS61から、ステップS65に移行するプロセスである。
【0077】
次に、
図8のチャート82に示すように、乗員がEPBスイッチ2を操作せず、チャート83に示すように、ドライバー運転不能判定がなされた場合(時刻t
81)、第1減速度よりも小さな第2減速度で、自動車は減速する(第2減速工程、チャート84参照)。この場合、乗員がSOSスイッチ3を操作しているか否かは問わない。乗員がSOSスイッチ3を操作していても、操作していなくても、自動車は減速する。乗員がEPBスイッチ2をオン操作していないため、走行中の自動車を停車させるという乗員の意思は明確でない。その一方で、システムは、ドライバーが運転不能状態にあることを判断しているため、自動車を停車させた方が好ましい。システムが、相対的に低い第2減速度でもって自動車を停車させることにより、周囲の交通状況に合わせて、自動車を安全に停車させることができる。
【0078】
尚、第2減速工程は、
図6のフローチャートにおいて、ステップS61から、ステップS62、S64、S68に移行するプロセス、及び、ステップS61から、ステップS62、S63、S64、S68に移行するプロセスである。
【0079】
次に、
図9のチャート91に示すように、時刻t
91において乗員が事前にSOSスイッチ3を操作したとする。その後、チャート92に示すように、時刻t
92において、乗員がEPBスイッチ2をオンにすると、
図7と同様に、システムは、第1減速度で自動車を減速させる(チャート94参照)。その後、時刻t
93において、乗員がEPBスイッチ2をオフにすると、
図7とは異なり、システムは、第3減速度で減速させる(第3減速工程、チャート94参照)。尚、
図9の例において、ドライバーが運転不能であるとは判定されていない。
【0080】
乗員がEPBスイッチ2をオン操作している間は、第1減速工程と同様に、走行中の自動車を停車させるという乗員の意思が明確であり、乗員の意思に従って、第1減速度でもって自動車を減速することにより、走行中の自動車を速やかに停車することができる。また、乗員がEPBスイッチ2をオンからオフ操作に変えた場合は、走行中の自動車を停車させるという乗員の意思は明確でないものの、SOSスイッチ3が操作されているため、走行中の自動車について、何らかの緊急状態が発生している可能性があり、速やかに停車させた方が安全であると推測できる。第3減速工程は、第1減速工程とは異なり、EPBスイッチ2がオンからオフ操作に変わった後に、相対的に小さい第3減速度で自動車を減速させる。このことにより、周囲の交通状況に合わせて、自動車を安全に停車させることができる。
【0081】
尚、第3減速工程は、
図6のフローチャートにおいて、ステップS61から、ステップS62、S63、S66に移行するプロセスである。
【0082】
このように、制動制御システムは、EPBスイッチ2、及び、SOSスイッチ3の操作の組み合わせ、並びに、ドライバーの運転不能の判断結果に応じて、自動車を、異なる減速度で減速させる。このことにより、様々な状況下において、走行中の自動車を、適切に停車させることができる。
【0083】
また、この制動制御システムにおいて、乗員が操作するスイッチは、EPBスイッチ2、又は、SOSスイッチ3である。EPBスイッチ2、及び、SOSスイッチ3は共に、ドライバー及びドライバーの横に着座した同乗者等が操作できる位置に配置されている。同乗者は、EPBスイッチ2、及び/又は、SOSスイッチ3を操作することによって、仮にドライバーが運転不能の状態であっても、自動車を、周囲の交通状況に合わせて安全に停車できる。また、EPBスイッチ2は、駐車ブレーキ用のスイッチとの兼用であり、SOSスイッチ3は、緊急自動通報用スイッチとの兼用である。制動制御システムは、新たなスイッチを設けることなく、前記の制動制御を実現できる。また、スイッチの数が不必要に増えないため、乗員は、操作を覚えやすいという利点もある。
【0084】
尚、
図9に例示する第3減速工程では、乗員がSOSスイッチ3をオン操作した後、EPBスイッチ2をオン操作しているが、SOSスイッチ3とEPBスイッチ2との操作順は、この順番に限らない。例えば乗員がEPBスイッチ2をオン操作している間に、SOSスイッチ3をオン操作してもよい。この場合、乗員がEPBスイッチ2をオン操作からオフ操作に変えると、制動制御システムは、第3減速度で自動車を減速させてもよい。
【0085】
また、例えば乗員がEPBスイッチ2をオン操作することにより、第1減速度で自動車を減速させ、乗員がEPBスイッチ2をオン操作からオフ操作に変えたことに伴い自動車の減速を中止したとする(つまり、第1減速工程)。その後、乗員がSOSスイッチ3をオン操作した場合は、乗員がEPBスイッチ2をオン操作しなくても、第3減速度で自動車の減速を再開してもよい。
【0086】
また、第3減速度と第2減速度とを同じにしてもよい。つまり、第3減速工程時に、第2減速工程と同じ第2減速度で、自動車を減速させてもよい。
【符号の説明】
【0087】
2 EPBスイッチ(駐車ブレーキスイッチ)
3 SOSスイッチ
5 OMS(運転不能判定システム、頭部モニター、瞼カメラ)
6 ステアリングトルクセンサ(運転不能判定システム)
7 ECU(制動制御器)
11 ブレーキ機構(制動機構)