(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】車体パネルの接着構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/06 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
B62D25/06 A
(21)【出願番号】P 2020174104
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】村野 義行
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓哉
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-203264(JP,A)
【文献】特開2008-189066(JP,A)
【文献】特開2018-177144(JP,A)
【文献】特開平09-132165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の外郭を構築するアウターパネルと、前記アウターパネルに対し車幅方向に向かって伸長して配置され、前記アウターパネルを前記車体の内部側から補強するインナーパネルと、前記インナーパネルに設けられ、前記アウターパネルおよび前記インナーパネルを接合する接着剤を配置する複数の接着部と、を備える車体パネルの接着構造であって、
前記インナーパネルは、前記車幅方向に向かって伸長して配置される断面凹形状の溝部を有し、
前記複数の接着部は、前記インナーパネルの前記溝部に、前記車幅方向に向かって間隔をあけて配置され、
前記溝部の
うち、前記間隔をあけた部位には、
車長方向に定められる幅が前記溝部よりも狭く、前記車幅方向に隣接する接着部間を結ぶ凸条部が設けられている、車体パネルの接着構造。
【請求項2】
前記凸条部は、
前記溝部の幅方向における両側部から隙間を介した中央部に配置されている、請求項1に記載の車体パネルの接着構造。
【請求項3】
前記凸条部は、頂部が前記溝部から突出してなる、請求項1または2に記載の車体パネルの接着構造。
【請求項4】
前記アウターパネルは、車長方向に伸長して配置されるビード部を有し、
前記ビード部の稜線に対して前記接着部が当接し、前記アウターパネルと前記インナーパネルとが接合される、請求項1~3のいずれか一項に記載の車体パネルの接着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体パネルの接着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体パネルとして、例えばルーフパネルは、軽量化およびデザイン的な観点から、形状付与が容易な薄板で構成される。その際、薄板化による剛性低下を補うために、ルーフパネルに車長方向に伸長する複数条のビードや段差が設けられる場合がある。この構成は、ルーフパネルの車長方向における断面性能に有効である反面、車幅方向にはビードや段差が蛇腹のように機能することでパネルの固有振動数が下がるため、低周波帯域における共振が生じ易くなり、べかつきやパネル面の振動等が発生するという点が懸念される。
【0003】
そのため、一般的な車体では、ルーフパネルが配置される車体の左右のルーフサイドレール間に、補強部材である複数のクロスメンバーを架設し、当該クロスメンバーによってルーフパネルを下方から支持することで、かかる振動を抑制していた。通常、ルーフパネルとクロスメンバーとは、マスチックシーラーと呼ばれる熱硬化型の弾性接着剤を用いて接着されることで剛性を確保している(例えば、特許文献1参照)。なお、ルーフパネルはアウターパネル、クロスメンバーはインナーパネルとも呼ばれ、共に車体パネルの一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マスチックシーラーは、塗装工程での焼き付け乾燥で硬化して接着力を発揮するものである。そのため、塗装工程で硬化する前の搬送中における振動、塗装工程での洗浄、または、塗装槽内での水流等の影響を受けることにより、ルーフパネルが上下に動かされ、マスチックシーラーが押し潰されて脱落し、ルーフパネルとクロスメンバーとの接着がはがれてしまう場合がある。そのため、車体パネルとしては、ルーフパネルとクロスメンバーとを接着するマスチックシーラーが押し潰されて脱落することのない更なる形状の改良が求められている。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、車体パネル間に配置された接着剤の脱落を防止し、車体パネル間の接合の信頼性を確保することで、剛性の低下を抑制可能な車体パネルの接着構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車体パネルの接着構造は、車体の外郭を構築するアウターパネルと、前記アウターパネルに対し車幅方向に向かって伸長して配置され、前記アウターパネルを前記車体の内部側から補強するインナーパネルと、前記インナーパネルに設けられ、前記アウターパネルおよび前記インナーパネルを接合する接着剤を配置する複数の接着部と、を備える車体パネルの接着構造であって、前記インナーパネルは、前記車幅方向に向かって伸長して配置される断面凹形状の溝部を有し、前記複数の接着部は、前記インナーパネルの前記溝部に、前記車幅方向に向かって間隔をあけて配置され、前記溝部のうち、前記間隔をあけた部位には、車長方向に定められる幅が前記溝部よりも狭く、前記車幅方向に隣接する接着部間を結ぶ凸条部が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車体パネル間に配置された接着剤の脱落を防止し、車体パネル間の接合の信頼性を確保することで、剛性の低下を抑制可能な車体パネルの接着構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る車体パネルの接着構造の実施形態が適用された車体を概略的に示す斜視図。
【
図2】
図1の車体のルーフ部を部分的に破断して示す斜視図。
【
図3】(A)
図2のA-A視野における断面図、(B)(A)の要部を示す拡大図。
【
図4】
図2のルーフ部におけるクロスメンバーを部分的に断面で示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る車体パネルの接着構造の実施形態が適用された車体を概略的に示す斜視図である。
図2は、
図1の車体のルーフ部を破断して示す斜視図である。
図3(A)は、
図2のA-A視野を示す断面図であり、
図3(B)は、
図3(A)の要部Hを示す拡大図である。なお、図面においては、車体の前後方向を車長方向X、車体の左右方向を車幅方向Y、および、車体の上下方向を車高方向Zとして示す。また、以下の説明において、車体は乗用車の車体を図示して説明するが、本発明に係る車体パネルの接着構造は、これに限ることはない。
【0012】
図1~
図3に示すように、本実施形態の場合、車体1は、天部を構成するルーフ部2を有している。ルーフ部2は、アウターパネルとしてのルーフパネル3と、インナーパネルとしてのクロスメンバー4とを含む車体パネルによって構成される。
【0013】
ルーフパネル3とクロスメンバー4とは、後述する接着部5に配置される弾性接着剤としてのマスチックシーラーを用いて接合される。
【0014】
車体1の天部外郭を構築するルーフパネル3には、薄板化による剛性低下を補うために、車長方向Xに伸長する複数条のビード31と呼ばれる段差が設けられている。なお、ビード31は、十分な剛性の確保や、デザイン的な観点から設けられない場合もある。
【0015】
また、ルーフ部2は、ルーフパネル3が配置される車体1の車幅方向Yにおける左右のルーフサイドレール(図示省略)間に、複数のクロスメンバー4が架設されている。複数のクロスメンバー4は、車長方向Xに間隔をあけて配置されている。複数のクロスメンバー4は、ルーフパネル3を下方(車体1の内部側)から支持する補強部材である。
【0016】
クロスメンバー4は、
図4~
図6に示すように断面波型をなし、長手方向である車幅方向Yに向かって伸長して配置される断面凹形状の溝部41を有している。例えば、溝部41は、クロスメンバー4の幅方向(車長方向X)における両側部に設けられる。また、溝部41には、複数の接着部5が、車幅方向Yに向かって間隔をあけて配置される。
【0017】
図3~
図5に示すように、溝部41の接着部5間の間隔をあけた部位には、車幅方向Yに隣接する接着部5間を結ぶ凸条部42が設けられている。
図5に示すように、凸条部42は、溝部41の幅方向(車長方向X)における両側部から隙間6を介した中央部に配置されている。凸条部42は、車幅方向Yにおける両端に各々接着部5に向けて下り傾斜してなる傾斜部43、43を有し、頂部42aが溝部41から突出してなる。
【0018】
凸条部42は、車幅方向Yに隣接する接着部5間の全ての部位に設け、接着部5を介して直列しても良いし、本実施形態で図示するように、接着部5間の間隔をあけた部位の一つ置きに設けても良い。特に、後者の場合、複数の接着部5において、比較的近接して配置された2つの接着部5間に凸条部42を配置することで、これら2点の接着部5がともに押し潰されることによる変形を抑制できる効果を得られる。
【0019】
そして、ルーフパネル3とクロスメンバー4とは、ルーフパネル3のビード部31間の稜線部32と、クロスメンバー4の接着部5と、が対向して配置された状態に位置合わせされ、当該接着部5に配置されたマスチックシーラーを介して接合される。
【0020】
なお、上述した構成のクロスメンバー4としては、溝部41が比較的浅く、当該溝部41に接着部5が配置されるものが好ましい。また、クロスメンバー4として、溝部41が深い形状の場合、当該溝部41に接着部5および凸条部42を配置すると、多量のマスチックシーラーが必要となり、コストや重量増を招く虞があるため、幅方向(車長方向X)の両端部に設けられるフランジ部(図示省略)に接着部5および凸条部42を配置することが好ましい。
【0021】
以上のように構成されたことから、本実施形態の車体1のパネルの接着構造によれば、次の効果(1)~(7)を奏する。
(1)車体の製造工程中の塗装工程で硬化する前の搬送中における振動、塗装工程での洗浄、または、塗装槽内での水流等の影響を受けることにより、ルーフパネル3とクロスメンバー4との間の接着部5に配置されたマスチックシーラーが押し潰されて脱落するのを防止し、ルーフパネル3とクロスメンバー4との接合がはがれることを未然に回避できる。よって、ルーフパネル3とクロスメンバー4との間の接合の信頼性を確保することで、ルーフ部2における剛性の低下を抑制できる。
【0022】
(2)接着部5に配置されたマスチックシーラーが、凸条部42により潰れる量が増えるため、
図3(B)に白抜き矢印で示す車幅方向Yにおいて、凸条部42から離れる方向にマスチックシーラーが移動するのを抑制できる。
【0023】
(3)
図7に示すように、接着部5においてマスチックシーラーが押し付けられた状態で常温硬化するため、接着部5に配置されたマスチックシーラーが車長方向Xおよび車幅方向Y(凸条部42から離れる方向)に移動するのを抑制できる。
【0024】
(4)凸条部42と隙間6とによって、接着部5に配置されたマスチックシーラーとの接合力が向上し、接着部5に配置されたマスチックシーラーが車長方向Xおよび車幅方向Yに移動するのを防止できる。
【0025】
(5)クロスメンバー4の溝部41に対する形状変更を最小限に抑えて凸条部42を設けるため、クロスメンバー4自体の強度や剛性の低下を抑制できる。
【0026】
(6)クロスメンバー4に接着部5を配置するための余分な座面を設ける必要がないため、クロスメンバー4の重量や製造コストの増加を回避できる。
防止できる。
【0027】
(7)車幅方向Yに隣接する2点の接着部5間だけでなく、3点以上の接合部5間にそれぞれ凸条部42を配置することで、前述と同様にマスチックシーラーの脱落を防止し、ルーフパネル3とクロスメンバー4との間の接合における信頼性の更なる向上を図ることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1…車体、2…ルーフ部、3…ルーフパネル、4…クロスメンバー、5…接合部、6…隙間、31…ビード、32…稜線部、41…溝部、42…凸条部、43…傾斜部。