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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/371 20170101AFI20240625BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240625BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240625BHJP
【FI】
B29C64/371
B29C64/153
B33Y30/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020176550
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067772
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100116920
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 光
(72)【発明者】
【氏名】須田 一志
(72)【発明者】
【氏名】吉江 淳
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,3/16,10/28,10/32,10/322,
12/70
B28B 1/16
B29C 64/153,64/371
B33Y 10/00,30/00,40/00,50/00,70/00,
80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内の造形材料にエネルギビームを照射し前記造形材料を溶融させ積層させて三次元の物体を造形する三次元造形装置において、
前記エネルギビームを出射し、カバーガラスを通じて前記エネルギビームを前記チャンバ内へ入射させ、前記エネルギビームを前記造形材料に照射させるビーム出射部と、
前記チャンバに設けられ、前記造形材料の周辺に対し不活性ガスを供給する第一ガス供給部と、
前記チャンバに設けられ、前記第一ガス供給部より上方に設置され、前記カバーガラスの周辺に対し前記不活性ガスを供給する第二ガス供給部と、を備え、
前記第二ガス供給部から噴き出される前記不活性ガスの流速は、前記第一ガス供給部から噴き出される前記不活性ガスの流速より遅く、
前記チャンバは、前記カバーガラスが設けられる天面及び前記天面に交差する側面を含み、
前記第二ガス供給部は、前記天面に取り付けられ、前記カバーガラスの下方の造形空間に前記不活性ガスを噴きかけるように構成されている、
三次元造形装置。
【請求項2】
前記第一ガス供給部及び前記第二ガス供給部は、前記エネルギビームの照射方向に対し交差する方向へ前記不活性ガスを噴き出す、
請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記第二ガス供給部は、前記不活性ガスを貯留するためのタンク及び前記タンクの下流側に設けられ前記不活性ガスの流速を減速する減速部材を有し、
前記減速部材の下流側に前記不活性ガスを噴き出すための噴出し口が形成されている、
請求項1又は2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記第二ガス供給部から噴き出される前記不活性ガスの流速は、0.1~0.2m/sである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元の物体を造形する三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元造形装置として、例えば、特開2020-015931号公報に記載されるように、チャンバ内に不活性ガスを噴き出すノズルを設けた装置が知られている。この装置は、ノズルから不活性ガスを噴き出させ、この不活性ガスによりビーム照射により生ずるヒュームを排除しようとするものである。ヒュームがビーム入射用のカバーガラス(窓部)に付着してしまうと、所望のビームを照射できず、物体の造形に支障を生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-015931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような三次元造形装置において、カバーガラスをヒュームから的確に保護することが難しい。例えば、多量のヒュームを確実に排除するために、噴き付ける不活性ガスの流速を速くすることが考えられる。しかしながら、不活性ガスの流速を速くすると、不活性ガスを噴き付けられたヒュームは排除することができるが、不活性ガスの速い流れにヒュームが巻き込まれ、新たなヒュームを呼び込むこととなる。このため、ヒュームがカバーガラスに付着して適切な物体の造形が行えないおそれがある。
【0005】
そこで、ヒュームの影響を抑制して物体を適切に造形することができる三次元造形装置の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る三次元造形装置は、チャンバ内の造形材料にエネルギビームを照射し造形材料を溶融させ積層させて三次元の物体を造形する三次元造形装置において、エネルギビームを出射し、カバーガラスを通じてエネルギビームをチャンバ内へ入射させエネルギビームを造形材料に照射させるビーム出射部と、チャンバに設けられ造形材料の周辺に対し不活性ガスを供給する第一ガス供給部と、チャンバに設けられ第一ガス供給部より上方に設置されカバーガラスの周辺に対し不活性ガスを供給する第二ガス供給部とを備え、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流速は、第一ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流速より遅く設定されている。この三次元造形装置によれば、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流速を第一ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流速より遅くすることにより、ビーム照射で生ずるヒュームが第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流れに巻き込まれてカバーガラスの方向へ流れることを抑制することができる。このため、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスによってカバーガラスを的確に保護することができる。
【0007】
また、本開示の一態様に係る三次元造形装置において、第一ガス供給部及び第二ガス供給部はエネルギビームの照射方向に対し交差する方向へ不活性ガスを噴き出してもよい。この場合、第一ガス供給部及び第二ガス供給部がエネルギビームの照射方向に対し交差する方向へ不活性ガスを噴き出すことにより、エネルギビームの照射により生じたヒュームを側方へ流すことができる。
【0008】
また、本開示の一態様に係る三次元造形装置において、第二ガス供給部は、不活性ガスを貯留するためのタンク及びタンクの下流側に設けられ不活性ガスの流速を減速する減速部材を有し、減速部材の下流側に不活性ガスを噴き出すための噴出し口が形成されていてもよい。この場合、不活性ガスの流速を減速する減速部材を有することにより、タンクに送られてくる不活性ガスを減速して噴出し口から噴き出すことができる。このため、噴出し口を大きく形成しても、不活性ガスの流量が多大とならず、高さ方向に幅広い状態で不活性ガスを供給することができる。これにより、ヒュームからカバーガラスを的確に保護することができる。
【0009】
また、本開示の一態様に係る三次元造形装置において、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流速は0.1~0.2m/sであってもよい。この場合、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流速を0.1~0.2m/sとすることにより、緩やかに不活性ガスを流すことができる。このため、ヒュームが第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスの流れに巻き込まれてカバーガラスの方向へ流れることを抑制することができる。従って、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスによってカバーガラスを的確に保護することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の発明によれば、ヒュームの影響を抑制して物体を適切に造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施形態に係る三次元造形装置の構成概要図である。
図2図1の三次元造形装置における第二ガス供給部の拡大断面図である。
図3図1の三次元造形装置における第二ガス供給部の斜視図である。
図4図1の三次元造形装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本開示の実施形態に係る三次元造形装置の構成概要図である。三次元造形装置1は、粉末材料AにレーザビームBを照射して粉末材料Aを溶融させ積層することにより三次元の物体を造形する装置である。この三次元造形装置1は、粉末床溶融結合法(PBF: Powder Bed Fusion)を用いた装置であり、エネルギビームとしてレーザビームBを用いレーザビーム積層造形 (LBM: Laser Beam Melting) によって物体を造形する。粉末材料Aは、物体を造形するための造形材料であり、多数の粉末体により構成される。粉末材料Aとしては、例えば金属製の粉末が用いられる。また、粉末材料Aとしては、レーザビームBの照射により溶融及び固化できるものであれば、粉末より粒径の大きい粒体を用いてもよい。レーザビームBは、粉末材料Aを溶解するためのエネルギビームである。
【0014】
三次元造形装置1は、ビーム出射部2、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4を備えている。ビーム出射部2は、チャンバ11内の粉末材料Aに対しレーザビームBを出射し、粉末材料Aを溶融させる。レーザビームBは、レーザ光により形成されるビームである。例えば、ビーム出射部2は、粉末材料AにレーザビームBを照射し粉末材料Aを溶融させて三次元の物体の造形を行っていく。ビーム出射部2は、チャンバ11の外部に設けられ、例えばチャンバ11の上方に設置される。チャンバ11は、物体を造形するための空間を形成する箱体である。チャンバ11内の下部には、テーブル12が設けられ、テーブル12の上方で物体の造形が行われる。例えば、テーブル12は、チャンバ11内に配置されるベース台15に取り付けられ、上下移動可能に設けられている。テーブル12上には、粉末材料Aが敷き均され、レーザビームBが粉末材料Aに照射されることにより粉末材料Aが溶融され固化される。そして、テーブル12を下方へ移動させて、再び粉末材料Aの敷き均し及びレーザビームBの照射が行われる。この工程を繰り返すことにより、物体が積層造形される。なお、図1では、テーブル12の移動機構、粉末材料Aを貯留するタンク及び粉末材料Aの敷き均しを行うリコータなどの図示を省略している。この移動機構、タンク及びリコータなどは公知の機構や機器などを用いることができる。
【0015】
ビーム出射部2は、例えば、図示しないレーザ発振器を有している。レーザ発振器は、レーザ光を発するレーザ光源であり、レーザ光をレーザビームBとして発し、図示しないガルバノスキャナに入射させる。そして、レーザビームBは、ガルバノスキャナで反射され、カバーガラス21を通じてチャンバ11に入射し、粉末材料Aに照射される。レーザ発振器としては、粉末材料Aを溶融できるレーザビームBを出射できるものであれば、いずれのものを用いてもよい。また、ガルバノスキャナは、所望の位置にレーザビームBを照射できるものであれば、いずれのタイプのものを用いてもよい。また、レーザビームBの照射位置の調整を行う機構は、ガルバノスキャナ以外のものを用いてもよい。
【0016】
ビーム出射部2は、レーザビームBの照射制御を行う。例えば、ビーム出射部2は、物体の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを用い、二次元のスライスデータを生成する。物体の三次元CADデータは、物体の三次元の形状データである。スライスデータは、物体の水平断面のデータであり、物体の上下位置に応じた多数のデータの集合体である。ビーム出射部2は、スライスデータに基づいて、レーザビームBが粉末材料Aに対し照射すべき造形領域を設定し、造形領域上の粉末材料AにレーザビームBを照射する。なお、上述した照射制御は、ビーム出射部2とは別の制御器により行ってもよい。
【0017】
レーザビームBが粉末材料Aに照射されることにより、ヒュームFが発生する。ヒュームFは、粉末材料Aの加熱、溶融により生ずる煙である。ヒュームFがカバーガラス21に触れて付着すると、所望のレーザビームBが得られず、物体の造形に支障を来すこととなる。このため、物体の造形に悪影響を及ぼさないように、ヒュームFをチャンバ11内の造形空間から的確に排出することが望ましい。
【0018】
第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4は、不活性ガスGによりビーム照射で発生するヒュームFを排除する機構であり、レーザビームBの照射方向に対し交差する方向へ不活性ガスGを噴き出すように構成されている。例えば、レーザビームBの照射方向が垂直方向である場合、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの噴き出し方向は水平とされる。なお、ここで垂直方向にはほぼ垂直な方向が含まれ、水平方向にはほぼ水平な方向が含まれる。このように、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4がレーザビームBの照射方向に対し交差する方向へ不活性ガスGを噴き出すことにより、レーザビームBの照射により生じたヒュームFを側方へ流して造形空間から排出することができる。
【0019】
第一ガス供給部3は、チャンバ11内に設けられ、粉末材料Aの周辺に対し不活性ガスGを供給する。不活性ガスGは、シールドガスとも称され、例えばアルゴンなどの気体が用いられる。不活性ガスGの流れは、図1中に矢印で示している。第一ガス供給部3は、テーブル12の上方であってその側方の位置に取り付けられている。第一ガス供給部3は、例えばベース台15又はチャンバ11に支持して取り付ければよい。第一ガス供給部3は、水平方向に不活性ガスGを噴出し、粉末材料Aの上方の造形空間に不活性ガスGを噴きかける。これにより、レーザ照射により生ずるヒュームFが造形空間から排除される。造形空間は、チャンバ11内の空間であって、主に造形に用いられる空間である。具体的には、レーザビームBが通る光路の周辺の空間が該当する。第一ガス供給部3は、不活性ガスGの噴出するためのノズル31を有している。ノズル31の先端は粉末材料Aの上方の造形空間へ向けられており、ノズル31から水平方向に不活性ガスGが噴出される。
【0020】
第二ガス供給部4は、チャンバ11内に設けられ、カバーガラス21の周辺に対し不活性ガスGを供給する。第二ガス供給部4は、カバーガラス21の下方であってその側方の位置に取り付けられ、水平方向に不活性ガスGを噴出し、カバーガラス21の下方の造形空間に不活性ガスGを噴きかける。これにより、下方から上昇するヒュームFを側方へ排出することができ、カバーガラス21にヒュームFが触れることが抑制される。
【0021】
第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの流速より遅い。例えば、第二ガス供給部4から噴き出されてカバーガラス21の下方を流れる不活性ガスGの流速は、第一ガス供給部3から噴き出されてヒュームFに噴き付けられる不活性ガスGの流速より遅い。具体的には、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、0.05~0.5m/sとされる。また、望ましくは、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、0.1~0.2m/sとされる。
【0022】
このように第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速を設定することにより、カバーガラス21の周辺に対し緩やかに不活性ガスGを流すことができる。このため、カバーガラス21の周辺を流れる不活性ガスGの流れによって、下方にあるヒュームFが巻き上げられることを抑制することができる。従って、ヒュームFがカバーガラス21に触れることを抑制することができる。
【0023】
第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの流速は、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速より速く設定される。例えば、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、1.0~3.0m/sとされる。ビーム照射で生ずる大量のヒュームFを造形空間から的確に排出するため、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は速いことが望ましい。しかし、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速が速過ぎると、テーブル12上の粉末材料Aが舞い上がるおそれがある。このため、粉末材料Aが舞い上がらない程度の流速に設定される。また、粉末材料Aの種類に応じて第一ガス供給部から噴き出される不活性ガスGの流速を設定してもよい。例えば、粉末材料Aが重い素材の場合、粉末材料Aがそれより重くない素材の場合と比べて、第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの流速を速く設定してもよい。
【0024】
第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の幅W4は、第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の幅W3より大きい。つまり、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の厚みは、第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の厚みより大きい。例えば、第二ガス供給部4の噴出し口の高さ方向の幅を第一ガス供給部3の噴出し口の高さ方向の幅より大きくすることにより、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の幅W4を第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の幅W3より大きくすることができる。このように、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の幅W4を第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの高さ方向の幅W3より大きくすることにより、カバーガラス21の下方を緩やかに流れる不活性ガスGに厚みを持たせることができる。このため、厚みのある不活性ガスGの流れによって、下方から上昇するヒュームFを側方へ流すことができ、ヒュームFがカバーガラス21の近傍へ進入することを抑制することができる。
【0025】
図2は第二ガス供給部4の拡大した垂直断面図であり、図3は第二ガス供給部4の斜視図である。第二ガス供給部4は、タンク41及び減速部材42を備えており、減速部材42の下流側に不活性ガスGを噴き出すための噴出し口43を形成している。タンク41は、不活性ガスGを貯留するため収容体であり、例えば箱型のものが用いられる。タンク41の下流側には、減速部材42が設けられている。減速部材42は、タンク41から流出する不活性ガスGの流速を減速する部材である。減速部材42としては、例えばメッシュ部材などが用いられる。図2及び図3に示すように、減速部材42として矩形の板状のメッシュ部材を用い、所望の圧力に不活性ガスGを減圧するために複数のメッシュ部材を重ねて用いてもよい。なお、減速部材42としては、不活性ガスGを減速できるものであればメッシュ部材以外のものを用いる場合もある。また、不活性ガスGを圧力調整してタンク41に流入することができる場合には、減速部材42の設置を省略する場合もある。
【0026】
減速部材42の下流側には、整流部材44が設けられている。整流部材44は、不活性ガスGの流れを整流する部材であり、例えばハニカム構造体が用いられる。つまり、整流部材44は、断面六角形の複数の孔を配列して構成したハニカム構造体であり、複数の孔を不活性ガスGの流通方向へ向けて設けられている。減速部材42を透過した不活性ガスGは、整流部材44により整流されて送り出される。整流部材44の下流側の開口は、噴出し口43となっている。すなわち、整流部材44を通過した不活性ガスGは、噴出し口43からカバーガラス21の下方の造形空間へ向けて噴出される。なお、整流部材44としては、不活性ガスGの流れを整流できるものであれば、ハニカム構造体以外のものを用いてもよい。
【0027】
整流部材44の下流側には、ガイド板45が形成されている。ガイド板45は、整流部材44から噴出される不活性ガスGをカバーガラス21の下方の位置へ導くための板体である。ガイド板45は、整流部材44の両脇部分に垂直方向に向けてそれぞれ一つずつ設けられ、不活性ガスGの噴出方向に向けて延びている。このガイド板45により、不活性ガスGをカバーガラス21の下方の位置へ向けて確実に流すことができる。なお、図2及び図3では、一つの筐体内にタンク41、減速部材42及び整流部材44を横並びに収容して、第二ガス供給部4を構成しているが、タンク41、減速部材42及び整流部材44を個別に形成し、それぞれ連結して第二ガス供給部4を構成してもよい。
【0028】
このように、第二ガス供給部4に減速部材42を設けることにより、タンク41に送られてくる不活性ガスGを減速して噴出し口43から噴き出すことができる。このため、噴出し口43を大きく形成しても、不活性ガスの流量が多大とならず、高さ方向に幅広い状態で不活性ガスGを供給することができる。これにより、ヒュームFからカバーガラス21を的確に保護することができる。
【0029】
図1において、チャンバ11内には、排出路13及び案内部材14が設けられている。排出路13は、不活性ガスGをチャンバ11から排出するための流路である。案内部材14は、チャンバ11内の不活性ガスGを排出路13へ導くための部材である。例えば、案内部材14は、レーザビームBの光路を挟んで、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4の反対側に設けられている。案内部材14は、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4から噴出した不活性ガスGを排出路13へ導くような形状に構成すればよい。
【0030】
チャンバ11の外部には、ポンプ16、フィルタ17及び配管18が設けられている。ポンプ16は、不活性ガスGを第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4に圧送する。配管18は、ポンプ16の出力側と第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4を連結すると共に、ポンプ16の入力側と排出路13を連結するように構成されている。フィルタ17は、ヒュームFを除去するためのものであり、排出路13とポンプ16の入力側の間に設置されている。配管18の第一ガス供給部3にはバルブ53が設けられ、第二ガス供給部4の入力側にはバルブ54が設けられている。バルブ53は、第一ガス供給部3に送られる不活性ガスGの流量を調整するバルブである。バルブ54は、第二ガス供給部4に送られる不活性ガスGの流量を調整するバルブである。なお、ポンプ16の出力調整などによって、不活性ガスGの流量を調整できる場合には、バルブ53及びバルブ54の設置を省略する場合もある。また、図1に示すように、配管18は、チャンバ11の下部からチャンバ11内へ不活性ガスGを供給できるように構成してもよい。
【0031】
次に、本実施形態に係る三次元造形装置1の動作について説明する。
【0032】
図1において、ベース台15のテーブル12が上方の位置にセットされ、そのテーブル12上に粉末材料Aが敷き均される。そして、ポンプ16が作動し、配管18を通じて第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4にそれぞれ不活性ガスGが送られる。そして、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4から不活性ガスGが噴出し、造形空間に不活性ガスGが供給される。
【0033】
そして、ビーム出射部2が作動し、ビーム出射部2からレーザビームBが出射される。レーザビームBは、カバーガラス21を通じてチャンバ11内へ入射し、テーブル12上の粉末材料Aに照射される。レーザビームBの粉末材料Aへの照射により、ヒュームFが生ずる。このとき、第一ガス供給部3が不活性ガスGを粉末材料Aの周辺に向けて噴出しているため、粉末材料Aで発生したヒュームFの多くは造形空間から側方へ排出される。
【0034】
ところが、ヒュームFの一部は、第一ガス供給部3からの不活性ガスGで排出しきれず、上方へ移動する場合がある。これに対し、第二ガス供給部4がカバーガラス21の周辺に対して不活性ガスGを噴出している。このため、下方から上昇するヒュームFは、第二ガス供給部4から噴出する不活性ガスGにより造形空間から排出される。このとき、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの流速より遅く設定され、緩やかなものとなっている。例えば、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、0.05~0.5m/sの速度範囲内の速度とされ、望ましくは0.1~0.2m/sの速度範囲内の速度とされる。
【0035】
このようにカバーガラス21の周辺に対し緩やかに不活性ガスGを流すことにより、不活性ガスGの流れによって下方のヒュームFが巻き上げられることを抑制することができる。従って、ヒュームFがカバーガラス21に触れることを抑制することができる。仮に、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速が上述した速度範囲より速い場合、不活性ガスGの強い流れによりヒュームFが上方へ巻上げられる。一方、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速が上述した速度範囲より遅い場合、不活性ガスGの流れが弱過ぎて、下方から上昇するヒュームFを十分に排出することができない。これらの場合、上昇するヒュームFがカバーガラス21に接触してカバーガラス21にヒュームFが付着するおそれがある。カバーガラス21にヒュームFが付着すると、レーザビームBの強度が低下したり、熱レンズ効果と呼ばれる現象によりレーザビームBの焦点位置が変化したり、レーザビームBのレーザ径が拡大してエネルギ密度が低下する場合がある。このため、粉末材料Aの溶融が不適切となり物体に所望の特性が得られなかったり、溶融不備により造形面の盛り上がりを生じて造形を中止せざるを得ないという不具合を生ずる。これに対し、本実施形態に係る三次元造形装置1では、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流れを適度に緩やかにすることにより、ヒュームFの巻上げを抑制し、適切にヒュームFを造形空間から排除することができる。このため、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGによってカバーガラス21を的確に保護することができる。
【0036】
また、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGは、高さ方向に幅広く流れている。つまり、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGは、高さ方向に厚みを持ってカバーガラス21の下方を流れている。このため、下方から上昇するヒュームFは、不活性ガスGと共にチャンバ11の側方へ流される。従って、ヒュームFがカバーガラス21の近傍へ進入することを抑制することができ、ヒュームFからカバーガラス21を的確に保護することができる。
【0037】
そして、粉末材料Aの所定の範囲にレーザビームBを照射したら、テーブル12が下方へ移動し、新たに粉末材料Aが敷き均され、再びレーザビームBの照射が行われる。これらの工程が繰り返されることにより、物体が積層造形される。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る三次元造形装置1によれば、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速を第一ガス供給部3から噴き出される不活性ガスGの流速より遅くすることにより、ビーム照射で生ずるヒュームFが第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流れに巻き上げられてカバーガラス21の方向へ流れることを抑制することができる。このため、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGによってカバーガラス21を的確に保護することができる。従って、ヒュームFの影響を抑制して物体を適切に造形することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る三次元造形装置1によれば、第一ガス供給部3及び第二ガス供給部4がレーザビームBの照射方向に対し交差する方向へ不活性ガスGを噴き出す。これにより、レーザビームBの照射により生じたヒュームFを造形空間の側方へ流すことができ、ヒュームFがカバーガラス21に付着することを抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る三次元造形装置1によれば、第二ガス供給部4が、不活性ガスGを貯留するためのタンク41及びタンク41の下流側に設けられ不活性ガスGの流速を減速する減速部材42を有し、減速部材42の下流側に不活性ガスGを噴き出すための噴出し口43が形成されている。不活性ガスGの流速を減速する減速部材42を有することにより、タンク41に送られてくる不活性ガスGを減速して噴出し口43から噴き出すことができる。このため、噴出し口43を大きく形成しても、不活性ガスGの流量が多大とならず、高さ方向に幅広い状態で不活性ガスGを供給することができる。これにより、下方から上昇するヒュームFからカバーガラス21を的確に保護することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る三次元造形装置1によれば、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流速は、0.1~0.2m/sとしてもよい。この場合、第二ガス供給部から噴き出される不活性ガスが緩やかに流れることとなる。このため、ヒュームFが第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGの流れに巻き込まれてカバーガラス21の方向へ流れることを抑制することができる。従って、第二ガス供給部4から噴き出される不活性ガスGによってカバーガラス21を的確に保護することができる。
【0042】
以上のように本開示の実施形態に係る三次元造形装置1について説明したが、本開示の三次元造形装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本開示の発明は、特許請求の範囲の記載の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形態様をとることができる。
【0043】
例えば、上述した実施形態においては、エネルギビームとしてレーザビームBを粉末材料Aに照射して物体を造形する場合について説明したが、レーザビームB以外のエネルギビームを照射するものであってもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、ビーム出射部2が一つのレーザビームBの出射する場合について説明したが、ビーム出射部2が複数のレーザビームBを出射してもよい。例えば、図4に示すように、複数のレーザビームBを用いて物体の造形を行うマルチビーム式であってもよい。この場合、各レーザビームBに対し第二ガス供給部4を設けることにより、それぞれのカバーガラス21をヒュームFから的確に保護することができ、物体の造形を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 三次元造形装置
2 ビーム出射部
3 第一ガス供給部
4 第二ガス供給部
11 チャンバ
12 テーブル
13 排出路
14 案内部材
15 ベース台
16 ポンプ
17 フィルタ
18 配管
21 カバーガラス
31 ノズル
41 タンク
42 減速部材
43 噴出し口
44 整流部材
45 ガイド板
53 バルブ
54 バルブ
A 粉末材料
B レーザビーム
F ヒューム
G 不活性ガス
W3 高さ方向の幅
W4 高さ方向の幅
図1
図2
図3
図4