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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】飛散予測装置及び三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20240625BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240625BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240625BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240625BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240625BHJP
【FI】
B29C64/386
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020184476
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074439
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】藏田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】垣内 良二
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007065(JP,A)
【文献】特開2018-020309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,3/16,10/00,12/00
B28B 1/16
B29C 64/10,64/153,64/20,64/30,
64/386,64/40
B33Y 10/00,30/00,40/00,50/00,50/02,
70/00,80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料へのエネルギビームの照射に起因する前記粉末材料の飛散の発生を予測する飛散予測装置であって、
前記粉末材料に対して光を照射する光源と、
前記光が照射されている前記粉末材料から放出される光のスペクトルを得るスペクトル取得部と、
前記スペクトルに含まれる少なくとも一つの対象波長と前記粉末材料の飛散の発生への関連性を考慮することによって得られた測定評価値を用いて、前記粉末材料の飛散の発生を予測する処理部と、を有する、飛散予測装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記スペクトルに含まれる少なくとも一つの対象波長の強度に基づく測定評価値を算出する評価値演算部と、
前記測定評価値と閾値とを比較することによって、前記粉末材料の飛散の発生を予測する評価部と、を含む、請求項1に記載の飛散予測装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記対象波長の強度ごとに設定される重み係数を記憶する記憶部を含み、
前記評価値演算部は、前記対象波長の強度に対して前記重み係数を乗算した結果を足し合わせることによって得た値を前記測定評価値として算出する、請求項2に記載の飛散予測装置。
【請求項4】
粉末材料に対してエネルギビームを照射することにより、三次元の造形物を得る三次元造形装置であって、
前記粉末材料に対してエネルギビームを照射する照射部と、
前記粉末材料への前記エネルギビームの照射に起因する前記粉末材料の飛散の発生を予測する飛散予測部と、を備え、
前記飛散予測部は、
前記粉末材料に対して光を照射する光源と、
前記光が照射されている前記粉末材料から放出される光のスペクトルを得るスペクトル取得部と、
前記スペクトルに含まれる少なくとも一つの対象波長と前記粉末材料の飛散の発生への関連性を考慮することによって得られた測定評価値を用いて、前記粉末材料の飛散の発生を予測する処理部と、を有する、三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛散予測装置及び三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形装置は、立体物を直接に造形する。三次元造形装置は、金属などの粉末材料を敷く動作と、エネルギビームの照射によって粉末材料を固化させる動作と、を繰り返す。例えば、特許文献1は、三次元造形装置に用いられる金属の粉末材料に関する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-178425号公報
【文献】特表2015-507092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉末材料へのエネルギビームの照射に起因して粉末材料が飛散する現象が知られている。当該現象は、スモーク現象とも称される。粉末材料の飛散は、粉末材料へのエネルギビームの照射に影響を及ぼす。例えば、粉末材料の飛散によってエネルギビームが散乱されると、粉末材料に照射されるエネルギビームの強度が変化する。そうすると、造形物の品質に影響が及ぶ。そこで、粉末材料の飛散が発生した状態で造形処理が行われた場合には、事後的に何らかの対応を行う必要が生じる。
【0005】
特許文献2は、粉末材料の飛散が電子ビームの品質に影響を及ぼす問題を指摘する。そして、特許文献2が開示する技術は、真空チャンバ内の圧力を制御することによって、粉末材料の飛散に起因する問題を解決しようとする。しかし、この技術では、粉末材料の飛散に対して事後的に対応するものである。事後的な対応にあっては、造形動作が円滑に継続し難くなる場合がある。
【0006】
本発明は、粉末材料の飛散を予測することができる飛散予測装置及び造形処理を円滑に継続することが可能な三次元造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態は、粉末材料へのエネルギビームの照射に起因する粉末材料の飛散の発生を予測する飛散予測装置である。飛散予測装置は、粉末材料に対して光を照射する光源と、光が照射されている粉末材料から放出される光のスペクトルを得るスペクトル取得部と、スペクトルを利用して、粉末材料の飛散の発生を予測する処理部と、を有する。
【0008】
飛散予測装置では、光源から粉末材料に光を照射する。そして、当該光が照射されている粉末材料から放出される光のスペクトルを得る。粉末材料の飛散が発生する可能性が高い場合には、当該スペクトルにおいて粉末材料の飛散が発生しない場合には現れない特徴が出現する。つまり、当該スペクトルを利用して粉末材料の飛散の発生を予測することができる。その結果、エネルギビームを照射する前に、粉末材料の飛散の発生を知ることが可能になる。従って、粉末材料の飛散を予測することができる。
【0009】
一形態において、処理部は、スペクトルに含まれる少なくとも一つの対象波長の強度に基づく測定評価値を算出する評価値演算部と、測定評価値と閾値とを比較することによって、粉末材料の飛散の発生を予測する評価部と、を含んでもよい。この構成によれば、粉末材料の飛散を好適に予測することができる。
【0010】
一形態において、処理部は、対象波長の強度ごとに設定される重み係数を記憶する記憶部を含み、評価値演算部は、対象波長の強度に対して重み係数を乗算した結果を足し合わせることによって得た値を測定評価値として算出してもよい。この構成によれば、粉末材料の飛散をさらに好適に予測することができる。
【0011】
本発明の別の形態は、粉末材料に対してエネルギビームを照射することにより、三次元の造形物を得る三次元造形装置である。三次元造形装置は、粉末材料に対してエネルギビームを照射する照射部と、粉末材料へのエネルギビームの照射に起因する粉末材料の飛散の発生を予測する飛散予測部と、を備える。飛散予測部は、粉末材料に対して光を照射する光源と、光が照射されている粉末材料から放出される光のスペクトルを得るスペクトル取得部と、スペクトルを利用して、粉末材料の飛散の発生を予測する処理部と、を有する。三次元造形装置は、飛散予測部を備えているので、粉末材料の飛散を事前に予測することができる。その結果、所望の対応を行うことが可能になるので、造形処理を円滑に継続することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉末材料の飛散を予測することができる飛散予測装置が提供されると共に造形処理を円滑に継続することが可能な三次元造形装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る三次元造形装置を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る飛散予測装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、飛散を予測する原理を説明するためのグラフである。
図4図4は、飛散予測装置を備えた三次元装置によって物体を造形するフローを示す図である。
図5図5は、変形例に係る三次元造形装置が備える飛散予測装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る三次元造形装置1の構成を示す。三次元造形装置1は、粉末材料Aに電子ビームBを照射することにより三次元の物体を造形する。三次元造形装置1は、電子ビーム照射部2と、造形部3と、観察部5と、コントローラ6と、を有する。
【0016】
本実施形態では、エネルギビームとして電子ビームBを例示する。電子ビーム照射部2は、粉末材料Aに対して電子ビームBを出射する。この電子ビームBの出射は、造形動作前に行われる粉末材料Aの予備加熱処理に用いられる。また、電子ビームBの出射は、造形動作における粉末材料Aの溶融処理にも用いられる。なお、エネルギビームは、電子ビームBに限定されない。例えば、エネルギビームは、レーザであってもよい。
【0017】
電子ビーム照射部2は、電子銃21と、収束コイル22と、偏向コイル23と、を有する。電子銃21、収束コイル22及び偏向コイル23は、例えば、筒状を呈するコラム24の内部に設置される。電子銃21は、コントローラ6と電気的に接続されている。電子銃21は、後述する造形テーブル31と対面する位置に配置されている。電子銃21は、コントローラ6からの制御信号に基づいて、電子ビームBを生成する。収束コイル22は、コントローラ6と電気的に接続されている。収束コイル22は、電子ビームBを囲むように配置されている。収束コイル22は、コントローラ6からの制御信号に基づいて、電子ビームBを収束させる動作を行う。偏向コイル23は、コントローラ6と電気的に接続されている。偏向コイル23は、電子ビームBを囲むように配置されている。なお、偏向コイル23は、収束コイル22よりも、粉末材料Aに近い位置に配置されている。偏向コイル23は、コントローラ6からの制御信号に基づいて、粉末材料Aにおいて電子ビームBが照射される位置を調整する。偏向コイル23は、電子ビームBの照射方向を電磁的に制御する。
【0018】
造形部3は、チャンバ30と、造形テーブル31と、テーブル昇降機構32と、粉末材料供給機構33と、を有する。
【0019】
造形テーブル31は、造形された物体を支持する。造形テーブル31の形状は、例えば、平面視して円形である。また、造形テーブル31の形状は、板状でもある。造形テーブル31は、電子ビームBの出射方向の延長線上に配置されている。造形テーブル31において造形物を支持する主面は、電子ビームBの出射方向と交差する。造形テーブル31の裏面には、テーブル昇降機構32が取り付けられている。造形テーブル31は、テーブル昇降機構32によって上下方向に移動可能である。
【0020】
テーブル昇降機構32は、造形テーブル31を上下方向に昇降させる。テーブル昇降機構32は、昇降ステージ32aと、駆動機構32bと、を有する、昇降ステージ32aは、造形タンク34に堆積した粉末材料Aを保持する。具体的には、昇降ステージ32aは、造形タンク34の内周面に沿う平面形状を有する。この構成によれば、昇降ステージ32aは、造形タンク34の底面として機能する。造形タンク34と昇降ステージ32aとの隙間は、造形タンク34に対して昇降ステージ32aが円滑に移動可能であると共に、粉末材料Aが漏れ落ちない程度に設定されている。駆動機構32bは、コントローラ6と電気的に接続されている。駆動機構32bは、コントローラ6からの制御信号に基づいて、造形テーブル31の位置を制御する。駆動機構32bの具体的な構成には、特に限定はない。昇降ステージ32aを上下方向に往復移動が可能であれば、任意の機構や動力源を採用してよい。
【0021】
粉末材料供給機構33は、ホッパ33aと、レーキ33bと、を有する。ホッパ33aは、粉末材料Aを収容する。ホッパ33aの下部には、粉末材料Aを排出する排出口が設けられている。ホッパ33aから排出された粉末材料Aは、レーキ33bによって造形テーブル31に移動される。レーキ33bには、棒状又は板状の部材が用いられる。レーキ33bは、水平方向に移動することにより、ホッパ33aの下部から造形テーブル31へ粉末材料Aを輸送する。さらに、レーキ33bは、造形テーブル31における粉末材料Aの表面を均す。例えば、粉末材料Aの輸送する動作と、輸送された粉末材料Aの表面を均す動作と、を含めて、「粉末材料Aを敷く動作」と称してもよい。
【0022】
粉末材料Aは、多数の粉末体を含む。粉末材料Aとしては、例えば金属製の粉末を用いてよい。また、粉末材料Aとしては、電子ビームBの照射により溶融及び固化できるものであれば、粉末より粒径の大きい粒体を用いてもよい。
【0023】
観察部5は、光源5aと、撮像装置5bと、を有する。光源5aは、粉末材料Aに対して光を照射する。光源5aは、チャンバ30の内部に配置されている。なお、光源5aは、チャンバ30の外部に配置されてもよい。この場合には、チャンバ30に設けられた窓を介して光は粉末材料Aに向けて照射される。光源5aは、粉末材料Aに照射させる光の波長に応じて、具体的な構成を選択してよい。例えば、光源5aとして、ハロゲンランプ、LED光源、キセノンランプなどを用いることができる。
【0024】
撮像装置5bは、光源5aの光によって照らされた粉末材料Aを撮像する。撮像装置5bの撮像領域は、例えば、造形テーブル31の主面全体を含む。換言すると、撮像領域は、電子ビームBが照射可能な領域を含む。撮像装置5bは、光源5aと同様に、チャンバ30の内部に配置されている。なお、撮像装置5bは、チャンバ30の外部に配置されてもよい。この場合には、チャンバ30に設けられた窓を介して撮像装置5bは粉末材料Aを撮像する。
【0025】
撮像装置5bは、いわゆるハイパースペクトルカメラである。一般的なカメラが出力する画像データは、画素ごとに、赤成分(R成分)の強度と、緑成分(G成分)の強度と、青成分(B成分)の強度とを含む。つまり、波長成分としては3つである。ハイパースペクトルカメラが出力する画像データは、さらに多い波長成分を含む。一般的なカメラの波長成分の数が3であるとすれば、ハイパースペクトルカメラの波長成分は、4以上であるといえる。このように波長成分が多くなれば、受光した光の波長成分ごとの強度を示すスペクトルが得られる。
【0026】
ハイパースペクトルカメラは、画素ごとに光のスペクトルを得る。ハイパースペクトルカメラである撮像装置5bが出力する画像データの形式には、特に制限はない。本実施形態では、撮像装置5bは、1回の撮像ごとに、1個の画像データを出力する。この画像データは、画素ごとにスペクトルに関する情報を含む。例えば、ある画素に注目すると、当該画素における波長ごとの光成分の強度の分布を知ることができる。なお、撮像装置5bが対象とする光の波長帯域は、可視光に限定されない。例えば、撮像装置5bが対象とする光の波長帯域は、可視光の波長帯域に加えて、さらに、赤外光の波長帯域を含んでいてもよい。
【0027】
コントローラ6は、三次元造形装置1の装置全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータである。コントローラ6は、電子ビーム照射部2及び造形部3の動作を制御する。また、コントローラ6は、観察部5の動作を制御すると共に、観察部5から入力されるデータを処理する。
【0028】
観察部5とコントローラ6とは、図2に示す飛散予測装置7(飛散予測部)を構成する。飛散予測装置7は、三次元造形装置1に適用されることにより、粉末材料Aを観察した結果を用いて粉末材料Aの飛散の発生を予測する。例えば、コントローラ6は、当該評価の結果を用いて、造形動作、つまり電子ビームBの照射を開始するか否かを判断する。なお、飛散予測装置7が出力する結果は、電子ビームBの照射制御とは別の目的に用いてもよい。例えば、繰り返し使用する粉末材料Aを廃棄する判断に用いてもよいし、粉末材料Aを交換する判断に用いてもよい。さらに、複数回使用した粉末材料Aに対して新規な粉末材料Aを混合する判断に用いてもよい。
【0029】
コントローラ6は、粉末材料Aの飛散を予測するための処理部8を有する。処理部8は、機能的な構成要素である。さらに、処理部8は粉末材料Aの飛散を予測するための個別の処理を実行する複数の機能的な構成要素を有する。これらの機能的な構成要素は、プログラムをCPUが実行することによって実現される。以下、機能的な構成要素について、詳細に説明する。
【0030】
記憶部8aは、粉末材料Aの飛散を予測する処理に用いる情報を保存する。この情報には、予測に用いる予測条件や、予測条件を構成する閾値などを含む。また、記憶部8aは、画像データなどを一時的に保存してもよい。
【0031】
ところで、発明者らは、飛散が発生した粉末材料Aと、飛散が発生しない粉末材料Aと、を比べたとき、粉末材料Aに起因する光の特性に違いがあることに注目するに至った。飛散が発生しやすい粉末材料Aに起因する光は、特徴的な波長成分を含む。つまり、飛散予測装置7は、この波長成分を利用して、飛散が発生する可能性の程度を予測する。この波長成分の相違は、粉末材料Aの表面における層構造に起因するものと考えられる。
【0032】
例えば、特徴的な波長成分に関する情報は、ある測定評価値を用いて示すことができる。この測定評価値は、波長ごとに設定された重み係数と、波長ごとの強度と、により算出する。スペクトルから波長ごとの強度を得る。そして、波長ごとに重み係数を乗算し、得られた値をすべて足し合わせる。ここで、波長ごとに設定された重み係数によって、粉末材料Aの飛散の発生への関連性を考慮することができる。粉末材料Aの飛散の発生との関連性が高いと推定される波長は、評価として重視する。そこで、絶対値の大きい重み係数を設定する。なお、重み係数の正負は、いずれを採用してもよい。
【0033】
図3は、粉末材料Aの使用回数と評価値との関係の一例を示すグラフである。図3を参照すると、使用回数が増加に伴って評価値が小さくなる傾向が理解できる。この図3に示される分析結果を利用する場合には、予測条件として、「測定評価値が閾値以下であるか」が例示され、閾値の例として0.5を示すことができる。つまり、測定評価値が0.5より大きい場合には、粉末材料Aの飛散が発生する可能性は低いと評価できる。一方、測定評価値が0.5より小さい場合には、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が高いと評価できる。
【0034】
予測に用いるパラメータや重み係数は、所望の統計処理手法を用いて算出してよい。統計処理の手法として、例えば、主成分分析を利用することができる。また、別の手法として、要因分析やISOマップを用いる分析を利用することもできる。
【0035】
画像データ入力部8bは、撮像装置5bであるハイパースペクトルカメラから画像データを受ける。上述したように、撮像装置5bは、1回の撮像動作ごとに、1個の画像データを出力する。この画像データは、画素ごとにスペクトルを含んでいる。画像データ入力部8bは、受け入れた画像データを記憶部8aに出力する。なお、画像データ入力部8bは、撮像ごとに処理を行う場合には、画像データを画像分割処理部8cに出力してもよい。
【0036】
画像分割処理部8c及び代表スペクトル演算部8dは、画像データを圧縮処理する。画像データは、画素ごとにスペクトルを含んでいるので、データ量が膨大である。そこで、画像分割処理部8c及び代表スペクトル演算部8dは、コントローラ6の処理能力に応じたデータ量に圧縮する。なお、コントローラ6の処理能力が充分であり、1つの画素ごとの処理が可能である場合には、画像分割処理部8c及び代表スペクトル演算部8dを省略してもよい。
【0037】
画像分割処理部8cは、複数の画素を選択する。画像分割処理部8cは、それらの画素群を一つの処理領域として設定する。例えば、画像分割処理部8cは、9個の画素を選択してよい。この場合には、3×3の画素領域が、一つの処理領域として設定される。画像分割処理部8cは、画像データの全体にわたって、画素の選択と、処理領域の設定と、を行う。
【0038】
代表スペクトル演算部8dは、複数の個別スペクトルを利用して、複数の個別スペクトルの特徴を代表して示す代表スペクトルを算出する。複数の個別スペクトルは、一つの処理領域に含まれる複数の画素のそれぞれが有するものである。複数の個別スペクトルから一つの代表スペクトルを算出する計算手法には、特に制限はない。例えば、代表スペクトルは、複数の個別スペクトルの平均であってもよい。
【0039】
評価値演算部8eは、代表スペクトルから測定評価値を算出する。測定評価値は、粉末材料Aの飛散の発生を予測するために用いる。この測定評価値は、まず、代表スペクトルから波長ごとの強度を得る。次に、それぞれの強度に対して重み係数を乗算したのちに、すべて足し合わせる処理によって得られる。
【0040】
評価部8fは、測定評価値が予測条件を満たすか否かを評価する。予測条件は、例えば、「測定評価値は、閾値より小さい」としてよい。つまり、評価部8fは、測定評価値が閾値より小さい場合に、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が高いと評価する。逆に、評価部8fは、測定評価値が閾値より大きい場合に、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が低いと評価する。
【0041】
出力部8gは、評価部8fの結果を後段の装置の利用形態に応じて出力する。例えば、評価部8fの結果を、電子ビームBの照射開始の評価に用いる場合には、出力部8gは、図示しない電子ビーム制御部に出射を許可又は禁止する旨の情報を出力する。
【0042】
以下、図4に示すフロー図を参照しながら、飛散予測装置7を含む三次元造形装置1の動作について説明する。
【0043】
まず、粉末材料Aを敷く(工程S1)。この動作は、粉末材料供給機構33によって行われる。次に、照明光Lの照射を開始する(工程S2)。この動作は、光源5aによって行われる。照明光Lの照射の開始は、コントローラ6が出力する制御信号によって制御してもよい。次に、粉末材料Aを撮像する(工程S3)。この動作は、撮像装置5b及び画像データ入力部8bによって行われる。なお、撮像装置5bによる撮像動作は、例えば、二次元画像を一度の撮像で画像データを得るものであってもよいし、いわゆるラインスキャンによって画像データを得るものであってもよい。次に、画像データを複数の処理領域に分割する(工程S4)。この動作は、画像分割処理部8cによって行われる。次に、処理領域ごとに代表スペクトルを得る(工程S5)。この動作は、代表スペクトル演算部8dによって行われる。次に、代表スペクトルを用いて測定評価値を得る(工程S6)。この動作は、評価値演算部8eによって行われる。
【0044】
次に、測定評価値を評価する(工程S7)。この動作は、評価部8fによって行われる。評価部8fは、例えば、予測条件として「測定評価値が閾値より小さいか」を用いて処理を行う。測定評価値が閾値より小さい場合には、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が高いと評価する(工程S7:YES)。一方、測定評価値が閾値より大きい場合には、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が低いと評価する(工程S7:NO)。この工程S7は、処理領域ごとに行う。つまり、工程S7は、複数回実行される。
【0045】
出力部8gは、評価部8fの結果を用いて、別の機能構成要素に対して情報を提供する。例えば、評価の結果、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が高く、造形動作を継続することが適当でない場合には、出力部8gは、電子ビーム照射部2への制御信号を発生する要素に対して、出射を禁止する旨の情報を提供する(工程S8a)。逆に、粉末材料Aの飛散が発生する可能性が低く、造形動作を継続することが適当である場合には、出力部8gは、電子ビーム照射部2への制御信号を発生する要素に対して、出射を許可する旨の情報を提供する(工程S8b)。
【0046】
三次元造形装置1は、粉末材料Aに対して電子ビームBを照射する電子ビーム照射部2と、粉末材料Aへの電子ビームBの照射に起因して発生する粉末材料Aの飛散の発生を予測する飛散予測装置7と、を有する。飛散予測装置7は、粉末材料Aに対して光を照射する光源5aと、光が照射されている粉末材料Aから放出される光のスペクトルを得る撮像装置5bと、光のスペクトルを利用して、粉末材料Aの飛散の発生を予測する処理部8と、を有する。
【0047】
飛散予測装置7は、ハイパースペクトルカメラである撮像装置5bを用いて二次元状に粉末材料Aのスペクトルを取得する。取得したスペクトルは、使用回数や粉末材料Aの材料の種類といったパラメータに基づく主成分分析に提供される。この分析によって、粉末材料Aの飛散の発生との関連度合いが高いパラメータを知ることができる。そして、実際の造形動作に用いる粉末材料Aについて撮像装置5bを用いてスペクトルを取得する。そのスペクトルを分析することにより、昇温する前に粉末材料Aの飛散の発生を予測することができる。
【0048】
飛散予測装置7では、光源5aから粉末材料Aに光を照射する。そして、当該光が照射されている粉末材料Aから放出される光のスペクトルを得る。粉末材料Aに電子ビームBが照射されたときに粉末材料Aの飛散が発生する可能性が高い場合には、当該スペクトルに特有の傾向が出現する。つまり、スペクトルを利用して粉末材料Aの飛散の発生を予測する。その結果、電子ビームBを照射する前に、粉末材料Aの飛散の可能性を知ることが可能になる。従って、粉末材料Aの飛散の可能性を事前に知ることができるので、造形処理を円滑に継続させるための対策を行うことが可能になる。
【0049】
つまり、飛散予測装置7によれば、実際に昇温して粉末材料Aの飛散が発生する前に、粉末材料Aの飛散の発生を予測することが可能になる。従って、粉末材料Aの飛散が実際に発生することによって造形動作が停止することを防止することができる。三次元造形装置1によれば、実際に造形する前に粉末材料Aが使用可能であるか否かを評価することができる。さらに、再利用のために未使用の粉末材料Aを混合した場合の効果を実際の造形動作の前に確認することができる。そのうえ、三次元造形装置1では、敷き均された粉末材料Aにおいて、場所ごとに粉末材料Aの飛散の発生の可能性を評価することができる。つまり、粉末材料Aの状態にムラがあったとしても、粉末材料Aの飛散が発生しやすい粉末材料Aが存在する場所を特定することも可能である。
【0050】
飛散予測装置7は、スペクトルに含まれる少なくとも一つの対象波長の強度に基づく測定評価値を算出する評価値演算部8eと、測定評価値と閾値とを比較することによって、粉末材料Aの飛散の発生を予測する評価部8fと、を含む。この構成によれば、粉末材料Aの飛散が生じる可能性を好適に評価することができる。
【0051】
評価部8fは、対象波長の強度ごとに設定される重み係数を記憶する記憶部8aを含む。評価値演算部8eは、対象波長の強度に対して重み係数を乗算した値を、足し合わせた値を測定評価値として算出する。この構成によれば、粉末材料Aの飛散が生じる可能性をさらに好適に評価することができる。
【0052】
飛散予測装置7は、光源5aと、撮像装置5bと、評価部8fと、により構成されている。光源5aは、粉末材料Aに対して光を照射する。撮像装置5bは、光が照射されている粉末材料Aから放出される光のスペクトルを得る。評価部8fは、粉末材料Aの飛散の発生を予測する。飛散予測装置7によれば、粉末材料Aが放出する光のスペクトルを利用して、粉末材料Aの飛散が生じる可能性を評価することができる。従って、飛散予測装置7は、造形処理を円滑に継続させるための情報を提供することができる。
【0053】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0054】
例えば、実施形態では、スペクトル取得部として撮像装置5bを例示した。さらには、この撮像装置5bの一例としてハイパースペクトルカメラを例示した。スペクトル取得部は、このような構成に限定されない。粉末材料Aの飛散の可能性は、特定の波長の光強度を利用して評価している。実施形態では、スペクトルを取得する段階では、広い波長帯域の光強度を取得し、その後に特定の波長の光強度を選択するといった手法を採用する。変形例では、スペクトルを取得する段階で、特定の波長成分の光強度に注目する。
【0055】
図5に示すように、飛散予測装置7Aは、観察部5Aを備える。観察部5Aは、スペクトル取得部5Sを有しており、当該スペクトル取得部5Sは、分光器5cと、光センサ5dと、を有する。分光器5cは、粉末材料Aにおける処理領域に対応する位置から発せられた光を分光する。換言すると、分光器5cによって、粉末材料Aの飛散との関連度の高い波長成分を抽出する。分光器5cは、例えば、特定の波長成分を透過する光フィルタであってもよい。光センサ5dは、抽出した波長成分における光強度を取得する。光センサ5dは、フォトディテクタであってもよい。
【0056】
要するに、変形例の三次元造形装置1Aは、飛散予測装置7Aを有する。飛散予測装置7Aが備えているスペクトル取得部5Sは、光から対象波長の光成分を抽出する分光器5c(分光部)と、分光器5cから出力された光成分の強度を得る光センサ5d(強度測定部)と、を含む。この構成によれば、スペクトルが有する情報量を少なくすることができる。従って、粉末材料Aの飛散が生じる可能性の評価の処理負荷を低減することができる。
【0057】
上記の実施形態では、粉末材料Aを敷く工程S1と、粉末材料Aの飛散に関する評価を行う工程S2~S7と、造形を行う工程S8bとをこの順で行うフローを例示した。例えば、粉末材料Aの飛散に関する評価を行う工程S2~S7と、造形を行う工程S8bとは、並行して行ってもよい。つまり、飛散予測装置7は、電子ビームBが照射されている位置に対して、進行方向の前方の領域について粉末材料Aの飛散の発生の可能性を評価するものとしてもよい。
【0058】
飛散予測装置は、三次元造形装置への適用に限定されない。飛散予測装置は、粉末材料にエネルギビームが照射される構成を採用する装置に適用することができる。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)に適用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 三次元造形装置
2 電子ビーム照射部(照射部)
3 造形部
5 観察部
5a 光源
5b 撮像装置(スペクトル取得部)
6 コントローラ
7 飛散予測装置(飛散予測部)
8 処理部
8a 記憶部
8b 画像データ入力部
8c 画像分割処理部
8d 代表スペクトル演算部
8e 評価値演算部
8f 評価部
8g 出力部
A 粉末材料
B 電子ビーム(エネルギビーム)
図1
図2
図3
図4
図5