IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許-Ptナノ粒子及びその製造方法 図1
  • 特許-Ptナノ粒子及びその製造方法 図2
  • 特許-Ptナノ粒子及びその製造方法 図3
  • 特許-Ptナノ粒子及びその製造方法 図4
  • 特許-Ptナノ粒子及びその製造方法 図5
  • 特許-Ptナノ粒子及びその製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】Ptナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240625BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20240625BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240625BHJP
   B22F 9/18 20060101ALI20240625BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240625BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240625BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240625BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B01J23/42 M
B22F1/054
B22F9/18
B82Y30/00
B82Y40/00
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185316
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074898
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】桑木 聴
(72)【発明者】
【氏名】長井 智幸
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0052131(US,A1)
【文献】特開2008-031554(JP,A)
【文献】特開2018-044245(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178283(WO,A1)
【文献】特開2010-077458(JP,A)
【文献】特開2007-131926(JP,A)
【文献】特開2002-042825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
B01J 23/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt含有量が99at%以上であり、
平均粒子径dmが1nm以上10nm以下であり、
粒子径の標準偏差σが0.7nm以下であり、
多面体粒子からなり、
固体高分子形燃料電池用の電極触媒として用いられる
Ptナノ粒子。
【請求項2】
前記平均粒子径dmが3nm以上10nm以下である請求項1に記載のPtナノ粒子。
【請求項3】
以下の構成を備えたPtナノ粒子の製造方法。
(1)前記Ptナノ粒子の製造方法は、
白金錯体と金属カルボニルとを含窒素有機溶媒を含む溶媒中に分散させ、前駆体溶液を得る第1工程と、
前記前駆体溶液を120℃以上の反応温度で反応させる第2工程と
を備えている。
(2)前記第2工程は、室温から前記反応温度までの昇温速度が5℃/min以上となるように、前記前駆体溶液を昇温させるものからなる。
【請求項4】
前記白金錯体は、白金アセチルアセトナト錯体からなる請求項3に記載のPtナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属カルボニルは、Mo(CO)6及び/又はW(CO)6からなる請求項3又は4に記載のPtナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記含窒素有機溶媒は、オレイルアミンからなる請求項3から5までのいずれか1項に記載のPtナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体溶液は、
前記含窒素有機溶媒1mol当たり、前記白金錯体を1.3×10-3mol以上6.7mol以下含み、
前記含窒素有機溶媒1mol当たり、前記金属カルボニルを0.6×10-3mol以上6.7mol以下含む
請求項3から6までのいずれか1項に記載のPtナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ptナノ粒子及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、粒径がナノサイズであり、かつ、粒径のバラツキが小さいPtナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置されている。ガス拡散層の外側には、さらにガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層、及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、通常、担体表面に触媒粒子が担持されたものが用いられる。触媒粒子には、Pt、Pd、Ruなどの貴金属、又はこれらを含む合金が用いられる。電極反応は、触媒粒子の表面において起こるので、担体表面に微細な触媒粒子を高分散に担持させると、貴金属の利用率が向上し、高価な貴金属の使用量の低減が可能になる。そのため、微細な触媒粒子の製造方法及び担持方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、燃料電池用触媒の製造方法ではないが、
(a)溶液中において、相補結合部を有する核酸によりAuナノ粒子の表面を修飾し、
(b)溶液を所定温度まで加熱後に徐冷することで、Auナノ粒子間を核酸の相補結合部により相補結合させ、Auナノ粒子の超格子構造体を形成し、
(c)溶液から超格子構造体を取り出し、乾燥させる
超格子構造体の製造方法が開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)表面が核酸で修飾されたAuナノ粒子を用いて溶液中において超格子構造体を形成する場合において、Auナノ粒子の粒径が14nm未満である時には、溶液中では超格子構造を維持しているが、乾燥時に超格子構造が壊れるのに対し、Auナノ粒子の粒径が14nm以上である時には、乾燥後においても超格子構造が維持される点、及び
(B)このような超格子構造体は、光学材料や熱輸送材料への応用が期待される点
が記載されている。
【0006】
特許文献2には、
(a)K2PtCl4水溶液に、グルタチオン及びNaBH4水溶液を加えて攪拌し、
(b)溶液にケッチェンブラックをさらに加えて超音波を照射することにより、ケッチェンブラックの表面に白金微粒子を担持させ、
(c)溶液から白金触媒(白金担持ケッチェンブラック)を回収し、真空中、300℃で2時間熱処理し、グルタチオンを除去する
白金触媒の製造方法が開示されている。
【0007】
同文献には、
(A)白金前駆体から白金微粒子を製造する場合において、還元力の弱いグルタチオンと還元力の強いNaBH4とを併用すると、NaBH4は還元剤として作用するのに対し、グルタチオンは還元剤ではなく白金微粒子の保護剤として作用する点、
(B)このような方法により、カーボン担体表面に、平均粒径(HAADF-STEM像から測定された500個の白金微粒子の粒径の平均値)が2.5nmであり、標準偏差が0.4nmである白金微粒子が担持された白金触媒が得られる点、及び、
(C)熱処理前の白金微粒子のシェラー平均粒径は3.1nmであるのに対し、熱処理後の白金微粒子のシェラー平均粒径は3.5nmである点
が記載されている。
【0008】
さらに、非特許文献1には、Pt前駆体塩とアルカリ性メタノールとを含む反応混合物を加熱することにより得られるPtナノ粒子が開示されている。
同文献には、
(A)このような方法により得られたPtナノ粒子は、サイズの分布が狭い点、及び
(b)反応混合物に水を加えることによって、2nm~6nmの範囲でPtナノ粒子のサイズを制御することができる点、
が記載されている。
【0009】
特許文献1には、Auナノ粒子からなる超格子構造体を、波長フィルタ、プラズモンレンズ、コロイドフォトニック結晶、メタマテリアル、分子準結晶などの光学材料として利用することが記載されている。しかしながら、同文献に記載の方法は、核酸による表面修飾工程、相補結合工程、及び乾燥工程が必要であり、工程が煩雑である。また、同文献には、超格子構造体を構成するナノ粒子の燃料電池用触媒への応用については記載されていない。
【0010】
一方、特許文献2に記載の方法を用いると、カーボン担体表面に平均粒径が2.5nmである白金微粒子が担持された白金担持カーボンを作製することができる。また、グルタチオンの濃度や熱処理温度を最適化すると、白金微粒子の平均粒径を制御することができる。しかしながら、同文献に記載の方法では、白金微粒子の表面を構成する結晶面の制御(以下、これを単に「面制御」ともいう)は困難である。
【0011】
さらに、非特許文献1の方法を用いると、2nm~6nmの範囲でPtナノ粒子の粒径を制御することができる。しかしながら、同文献に記載の方法により得られるPtナノ粒子は、粒度分布が広い。また、Ptナノ粒子は、面制御されていないため、面積活性は小さいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2018-149615号公報
【文献】特開2018-196854号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Jonathan Quinson et al., Angew Chem., 130, 12518-12521(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、平均粒径が所定の範囲にあり、粒径のバラツキが小さいPtナノ粒子、及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、平均粒径が所定の範囲にあり、粒径のバラツキが小さく、かつ、面制御されたPtナノ粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係るPtナノ粒子は、
Pt含有量が99at%以上であり、
平均粒子径dmが1nm以上10nm以下であり、
粒子径の標準偏差σが0.7nm以下である
ことを要旨とする。
【0016】
本発明に係るPtナノ粒子の製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記Ptナノ粒子の製造方法は、
白金錯体と金属カルボニルとを含窒素有機溶媒を含む溶媒中に分散させ、前駆体溶液を得る第1工程と、
前記前駆体溶液を120℃以上の反応温度で反応させる第2工程と
を備えている。
(2)前記第2工程は、室温から前記反応温度までの昇温速度が5℃/min以上となるように、前記前駆体溶液を昇温させるものからなる。
【発明の効果】
【0017】
白金錯体を含む前駆体溶液中において白金錯体を還元し、Ptナノ粒子を生成させる場合において、前駆体溶液中に金属カルボニルと含窒素有機溶媒とを共存させ、かつ、反応条件を最適化すると、平均粒径がナノサイズであり、かつ、粒径のバラツキが小さいPtナノ粒子の集積体、あるいは、平均粒径がナノサイズであり、粒径のバラツキが小さく、かつ、面制御されたPtナノ粒子の集積体が得られる。
【0018】
このようにして得られたPtナノ粒子の集積体は、比較的容易に個々のPtナノ粒子に分離させることができる。また、分離させたPtナノ粒子を担体表面に担持させれば、燃料電池用の電極触媒が得られる。得られた電極触媒は、Pt粒子の粒径がナノサイズであり、かつ、粒径のバラツキが小さいので、Ptの利用率が高い。また、Ptナノ粒子が面制御されている場合には、Ptナノ粒子の面積活性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(A)は、Ptナノ粒子集積体(実施例1)の低倍率SEM像である。図1(B)は、Ptナノ粒子集積体(実施例1)の高倍率SEM像である。
図2図2(A)は、担体に担持する前のPtナノ粒子(実施例1)のSTEM像である。図2(B)は、担体に担持した後のPtナノ粒子(実施例1)のSTEM像である。
【0020】
図3図3(A)は、実施例1で得られた電極触媒のSTEM像である。図3(B)は、実施例2で得られた電極触媒のSTEM像である。図3(C)は、比較例1で得られた電極触媒のSTEM像である。図3(D)は、比較例2の電極触媒のSTEM像である。
図4】実施例1で得られたPtナノ粒子の粒度分布である。
図5】実施例2で得られたPtナノ粒子の粒度分布である。
図6】比較例1で得られたPtナノ粒子の粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Ptナノ粒子]
本発明に係るPtナノ粒子は、
Pt含有量が99at%以上であり、
平均粒子径dmが1nm以上10nm以下であり、
前記平均粒子径の標準偏差σが0.7nm以下である。
【0022】
[1.1. 組成]
本発明に係るPtナノ粒子は、Pt含有量が99at%以上である。換言すれば、Ptナノ粒子は、実質的にPtからなり、残部が不可避的不純物からなる。不純物としては、例えば、未反応原料、原料の分解生成物などがある。
【0023】
[1.2. 平均粒子径、及び粒子径の標準偏差]
本発明において、「平均粒子径dm」とは、Ptナノ粒子のSTEM像を撮影し、STEM像から無作為に選んだ50個以上のPtナノ粒子の粒子径dの平均値をいう。
「粒子径d」とは、
(a)Ptナノ粒子の中心(Ptナノ粒子の平面形状の重心)を通る直交する2本の直線であって、その内の1本がPtナノ粒子内の最短距離を通過するものを引き、
(b)各直線とPtナノ粒子の輪郭線との交点間距離を求め、
(c)2つの交点間距離の平均値を算出する
ことにより得られる値をいう。
【0024】
後述するように、本発明に係るPtナノ粒子は、液相中において白金錯体を還元処理することにより製造される。液相中において、Ptナノ粒子は核生成-成長過程を経て形成されるので、Ptナノ粒子の粒子径の平均値及び標準偏差は、合成条件(溶液中の原料の濃度、反応温度、反応時間など)により制御することができる。
【0025】
後述する方法を用いてPtナノ粒子を合成する場合において、合成条件を最適化すると、Ptナノ粒子の平均粒子径dmは、1nm以上10nm以下となる。合成条件をさらに最適化すると、平均粒子径dmは、3nm以上10nm以下、あるいは、4nm以上8nm以下となる。
【0026】
同様に、後述する方法を用いてPtナノ粒子を合成する場合において、合成条件を最適化すると、Ptナノ粒子の粒子径の標準偏差は、0.7nm以下となる。合成条件をさらに最適化すると、標準偏差は、0.5nm以下、あるいは、0.3nm以下となる。
【0027】
[1.3. 多面体粒子]
「多面体粒子」とは、Ptナノ粒子の表面が特定の結晶面からなる複数の平面で構成されている粒子をいう。多面体粒子の表面を構成する結晶面としては、例えば、{111}面、{100}面、{110}面などがある。
【0028】
本発明に係るPtナノ粒子は、後述するように、金属カルボニル共存下において合成される。金属カルボニルは、溶液中において分解してCOを放出する。放出されたCOは、成長途中のPtナノ粒子の表面に吸着し、吸着面へのPt原子の新たな析出を阻害する作用がある。そのため、金属カルボニル共存下においてPtナノ粒子を液相合成する場合において、合成条件を最適化すると、Ptナノ粒子は、多面体粒子となる場合がある。表面が触媒活性の高い結晶面で構成された多面体粒子は、球状粒子に比べて面積活性が高くなるという利点がある。
【0029】
[2. Ptナノ粒子の製造方法]
本発明に係るPtナノ粒子の製造方法は、
白金錯体と金属カルボニルとを含窒素有機溶媒を含む溶媒中に分散させ、前駆体溶液を得る第1工程と、
前記前駆体溶液を120℃以上の反応温度で反応させる第2工程と
を備えている。
【0030】
[2.1. 第1工程]
まず、白金錯体と金属カルボニルとを含窒素有機溶媒を含む溶媒中に分散させ、前駆体溶液を得る(第1工程)。
【0031】
[2.1.1. 白金錯体]
「白金錯体」とは、中心原子がPtであり、配位子が有機配位子又は無機配位子からなる錯体をいう。白金錯体は、Ptナノ粒子の主原料である。白金錯体の種類は、Ptナノ粒子を合成可能な限りにおいて、特に限定されない。
【0032】
白金錯体としては、例えば、白金アセチルアセトナト錯体(Pt(acac)2)、塩化白金酸(H2PtCl4)、テトラアンミン白金酸(Pt(NH3)4Cl2)などがある。白金錯体には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中でも、白金錯体は、白金アセチルアセトナト錯体が好ましい。これは、溶媒への溶解度が高いためである。
【0033】
[2.1.2. 金属カルボニル]
「金属カルボニル」とは、中心原子が遷移金属であり、配位子が一酸化炭素である錯体をいう。金属カルボニルは、主として、Ptナノ粒子の面制御を行うための表面修飾剤Aとしての機能を持つ。金属カルボニルの種類は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0034】
金属カルボニルとしては、例えば、Mo(CO)6、W(CO)6、Fe(CO)5、Mn2(CO)10、Re2(CO)10などがある。金属カルボニルには、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらの中でも、金属カルボニルは、Mo(CO)6及び/又はW(CO)6が好ましい。これは、合成後のPtナノ粒子中にMo又はWが残留した場合であっても、Mo及びWは、他の卑金属に比べてPtナノ粒子から溶出する可能性が低いためである。
【0035】
[2.1.3. 含窒素有機溶媒]
「含窒素有機溶媒」とは、分子構造内に窒素原子を持ち、室温で液体である有機物をいう。含窒素有機溶媒は、原料を溶解又は分散させる溶媒としての機能に加えて、白金錯体を還元する還元剤としての機能、及び、Ptナノ粒子間を連結し、集積体を形成するための表面修飾剤Bとしての機能も持つ。含窒素有機溶媒の種類は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0036】
含窒素有機溶媒としては、例えば、オレイルアミンなどがある。オレイルアミンは、室温で安定であり、かつ、高沸点溶媒であるため、Ptナノ粒子を合成するための含窒素有機溶媒として好適である。
【0037】
[2.1.4. 他の原料]
前駆体溶液は、白金錯体、金属カルボニル、及び含窒素有機溶媒のみを含むものでも良く、あるいは、これらに加えて他の原料が含まれていても良い。
他の原料としては、例えば、前駆体溶液を希釈するための有機溶媒(例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサンなど)などがある。
【0038】
[2.1.5. 前駆体溶液の組成]
前駆体溶液の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。
【0039】
[A. 白金錯体の含有量]
一般に、前駆体溶液に含まれる含窒素有機溶媒の量に対する白金錯体の量が少なくなりすぎると、得られるPtナノ粒子の量が少なくなる。従って、白金錯体の含有量は、含窒素有機溶媒1mol当たり、1.3×10-3mol以上が好ましい。
【0040】
一方、前駆体溶液に含まれる含窒素有機溶媒の量に対する白金錯体の量が過剰になると、生成したPtナノ粒子に対する表面修飾剤の量が不足し、面制御や粒径制御が難しくなる場合がある。従って、白金錯体の含有量は、含窒素有機溶媒1mol当たり、6.7mol以下が好ましい。
【0041】
[B. 金属カルボニルの含有量]
一般に、前駆体溶液に含まれる含窒素有機溶媒の量に対する金属カルボニルの量が少なくなりすぎると、Ptナノ粒子に対するCOの量が少なくなり、多面体粒子を形成するのが困難になる場合がある。従って、金属カルボニルの含有量は、含窒素有機溶媒1mol当たり、0.6×10-3mol以上が好ましい。
【0042】
一方、前駆体溶液に含まれる含窒素有機溶媒の量に対する金属カルボニルの量が過剰になると、金属カルボニル中の金属が酸化物として多量に析出する場合がある。従って、金属カルボニルの含有量は、含窒素有機溶媒1mol当たり、6.7mol以下が好ましい。
【0043】
[2.2. 第2工程]
次に、前記前駆体溶液を120℃以上の反応温度で反応させる(第2工程)。これにより、前駆体溶液中においてPtナノ粒子が生成する。また、Ptナノ粒子間が含窒素有機溶媒を介して連結し、Ptナノ粒子の集積体が得られる。
【0044】
[2.2.1. 反応温度]
反応温度が低くなりすぎると、白金錯体の還元反応が進行しにくくなる。従って、反応温度は、120℃以上である必要がある。反応温度は、好ましくは、140℃以上、さらに好ましくは、160℃以上である。
一方、反応温度が高くなりすぎると、Ptナノ粒子の粒成長が促進され、狙いの粒径のPtナノ粒子が得られなくなる場合がある。従って、反応温度は、300℃以下が好ましい。
【0045】
[2.2.2. 昇温速度]
前駆体溶液を調製した後、前駆体溶液の温度を室温から反応温度まで昇温させるときの昇温速度は、Ptナノ粒子の粒径のバラツキに影響を与える。昇温速度が遅くなりすぎると、粒径のバラツキが大きくなる。粒径のバラツキの小さいPtナノ粒子を得るためには、昇温速度は、5℃/min以上である必要がある。昇温速度は、好ましくは、10℃/min以上である。昇温速度は、実行可能な限りにおいて、高いほど良い。
【0046】
[2.3. 第3工程]
上述した方法を用いると、前駆体溶液中においてPtナノ粒子の集積体が生成する。そのため、得られたPtナノ粒子の集積体を燃料電池用の触媒として使用する場合には、
(a)Ptナノ粒子の凝集をほぐしてPtナノ粒子を分離させ、
(b)分離させたPtナノ粒子を担体表面に担持させる
必要がある(第3工程)。
【0047】
Ptナノ粒子は、表面修飾剤Bである含窒素有機溶媒分子を介して緩く結合している。そのため、Ptナノ粒子の集積体及び担体を適当な分散媒中に分散させ、超音波を照射すると、Ptナノ粒子の凝集がほぐれ、Ptナノ粒子表面から表面修飾剤Bが除去されると同時に、分離したPtナノ粒子が担体表面に担持される。
【0048】
[3. 作用]
白金錯体を含む前駆体溶液中において白金錯体を還元し、Ptナノ粒子を生成させる場合において、前駆体溶液中に金属カルボニルと含窒素有機溶媒とを共存させ、かつ、反応条件を最適化すると、平均粒径がナノサイズであり、かつ、粒径のバラツキが小さいPtナノ粒子の集積体、あるいは、平均粒径がナノサイズであり、粒径のバラツキが小さく、かつ、面制御されたPtナノ粒子の集積体が得られる。
【0049】
これは、
(a)金属カルボニルがPtナノ粒子の面制御のための表面修飾剤Aとして機能するため、並びに、
(b)含窒素有機溶媒が白金錯体の還元剤、及び、Ptナノ粒子間を連結し、集積体を形成するための表面修飾剤Bとして機能するため
と考えられる。
【0050】
さらに、このような前駆体溶液からPtナノ粒子を生成させる場合において、室温から反応温度まで昇温させる時の昇温速度をある臨界値以上にすると、Ptナノ粒子の粒径のバラツキをさらに小さくすることができる。これは、昇温速度を速くすることによって、前駆体溶液中に多数のPtナノ粒子の核が発生し、粒成長が均一に進行するためと考えられる。
【0051】
このようにして得られたPtナノ粒子の集積体は、比較的容易に個々のPtナノ粒子に分離させることができる。また、分離させたPtナノ粒子を担体表面に担持させれば、燃料電池用の電極触媒が得られる。得られた電極触媒は、Pt粒子の粒径がナノサイズであり、かつ、粒径のバラツキが小さいので、Ptの利用率が高い。また、Ptナノ粒子が面制御されている場合には、Ptナノ粒子の面積活性が向上する。
【実施例
【0052】
(実施例1~2、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1、比較例1]
[1.1.1. Ptナノ粒子集積体の作製]
白金錯体には、Pt(acac)2を用いた。金属カルボニルには、W(CO)6を用いた。含窒素有機溶媒には、オレイルアミンを用いた。Pt(acac)2と、W(CO)6とをオレイルアミンに加え、1時間超音波分散させた。表1に、前駆体溶液の組成を示す。
【0053】
この前駆体溶液を室温から160℃まで所定の昇温速度で昇温し、160℃で2時間保持した。昇温速度は、10℃/min(実施例1)、又は、2.5℃/min(比較例1)とした。その後、反応後の溶液を室温まで降温した。反応後の溶液をエタノールで洗浄し、遠心分離を行った。その後、分離された固形分(Ptナノ粒子集積体)を室温で乾燥させた。
【0054】
[1.1.2. 電極触媒の作製]
Ptナノ粒子集積体及びカーボン担体を、シクロヘキサン、ヘキサン、トルエンなどの有機溶媒中に分散させ、1時間超音波照射することで、Ptナノ粒子集積体をPtナノ粒子に分離させると同時に、Ptナノ粒子をカーボン担体表面に担持させた。分散液からPtナノ粒子担持カーボンを回収し、Ptナノ粒子担持カーボンをシクロヘキサン、ヘキサン、トルエンなどの有機溶媒で5回以上洗浄した。洗浄後、エタノールに溶媒置換し、Ptナノ粒子担持カーボンを吸引ろ過し、80℃で乾燥させた。
【0055】
[1.2. 実施例2]
[1.2.1. Ptナノ粒子の作製]
白金錯体には、Pt(acac)2を用いた。金属カルボニルには、W(CO)6を用いた。含窒素有機溶媒には、オレイルアミンを用いた。Pt(acac)2と、W(CO)6とをオレイルアミンに加えた。これに、さらにトルエンを加えて希釈し、1時間超音波分散させた。表1に、前駆体溶液の組成を示す。
【0056】
この前駆体溶液を室温から270℃まで所定の昇温速度で昇温し、270℃で8分間保持した。昇温速度は、270℃/sとした。その後、反応後の溶液を室温まで降温した。反応後の溶液をエタノールで洗浄し、遠心分離を行った。その後、分離された固形分を室温で乾燥させた。
【0057】
[1.2.2. 電極触媒の作製]
実施例1と同様にして、得られたPtナノ粒子をカーボン担体の表面に担持させ、Ptナノ粒子担持カーボンを得た。
【0058】
[1.3. 比較例2]
市販の白金担持カーボン(TEC10V30E、田中貴金属工業(株)製)をそのまま試験に供した。
【0059】
【表1】
【0060】
[2. 試験方法]
[2.1. 顕微鏡観察]
走査型電子顕微鏡(SEM)及び走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、Ptナノ粒子集積体、及びPtナノ粒子担持カーボンの顕微鏡観察を行った。
さらに、撮影したSTEM像から無作為に50個のPtナノ粒子を選び、Ptナノ粒子の粒子径を測定した。得られた粒子径に基づいて、Ptナノ粒子の平均粒子径及び標準偏差を算出した。
【0061】
[2.2. 電気化学的特性の評価]
[2.2.1. ECSA維持率、及び質量活性維持率]
上記の電極触媒をカソード触媒に用いて、膜電極接合体(MEA)を作製した。得られたMEAを用いて、電位サイクル耐久試験を行った。耐久試験時の電位サイクルは、矩形波とした。表2に、電位サイクル耐久試験の試験条件を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
耐久試験前後でサイクリックボルタモグラム(CV)を測定し、水素の吸着脱離の電気量からPt質量当たりの電気化学的表面積(ECSA)を算出した。さらに、耐久試験前のECSAに対する耐久試験後のECSAの比率(ECSA維持率)を算出した。
また、耐久試験前後でI-Vを測定し、IR補正電圧0.86VにおけるPt質量当たりの電流値を求めた。さらに、耐久試験前の電流値に対する耐久試験後の電流値の比率(質量活性維持率)を算出した。
【0064】
[2.2.2. 面積活性]
回転ディスク電極(RDE)を用いて、電極触媒の面積活性を測定した。セルは三極式とし、電解液には0.1M HClO4を用いた。作用極には、電極触媒を塗布したグラッシーカーボンを用いた。参照極及び対極には、それぞれ、可逆水素電極(RHE)及びPt黒メッシュを用いた。
【0065】
Arで飽和した電解液に作用極を浸漬し、サイクリックボルタモグラム(CV)の形状が安定するまで、0.05V⇔1.2V(RHE)で電位掃引を行った。その後、電解液をO2で飽和させ、電極を1600rpmで回転させながら、リニアスイープボルタモグラム(LSV、正方向電位掃引、掃引速度:10mV/s)を行った。得られたLSVの0.9Vにおける電流値をECSAで除すことで、面積活性(SA)を求めた。
【0066】
[3. 結果]
[3.1. 顕微鏡観察]
図1(A)に、Ptナノ粒子集積体(実施例1)の低倍率SEM像を示す。図1(B)に、Ptナノ粒子集積体(実施例1)の高倍率SEM像を示す。図1より、
(a)本発明に係る方法により、大きさが1μm以上の集積体が得られること、及び、
(b)実施例1の場合、集積体は大きさが10nm以下のPtナノ粒子から構成されており、それらのPtナノ粒子は規則的に配列していること、
が分かる。
【0067】
図2(A)に、担体に担持する前のPtナノ粒子(実施例1)のSTEM像を示す。図2(B)に、担体に担持した後のPtナノ粒子(実施例1)のSTEM像を示す。図2より、実施例1で得られたPtナノ粒子は、粒子径が10nm未満であり、かつ、多面体粒子であることが分かる。
【0068】
図3(A)、図3(B)、図3(C)、及び図3(D)に、それぞれ、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2で得られた電極触媒のSTEM像を示す。さらに、図4図5、及び図6に、それぞれ、実施例1、実施例2、及び比較例1で得られたPtナノ粒子の粒度分布を示す。図3図6より、実施例1、2で得られたナノ粒子の粒径分布は、比較例1のそれより狭いことが分かる。
【0069】
[3.2. 電気化学的特性の評価]
[3.2.1. ECSA維持率、及び質量活性維持率]
表3に、電位サイクル耐久試験前後のECSA維持率、及び質量活性維持率を示す。表3より、実施例1及び2のECSA維持率は、比較例1及び2より高いことが分かる。この理由は、実施例1及び2のPtナノ粒子の粒径分布が狭いために、オストワルド成長が抑制されたためと考えられる。
また、表3より、実施例1の質量活性維持率は、比較例2のそれより大きいことが分かる。これは、実施例1のPtナノ粒子の粒径分布が狭いために、オストワルド成長が抑制され、反応面積の低下が小さかったためと考えられる。
【0070】
【表3】
【0071】
[3.2.2. 面積活性]
表4に、各電極触媒のSAを示す。なお、表4には、特許文献2に記載された触媒のSAも併せて示した。表4より、実施例2のSAは、比較例2及び特許文献2のそれより高いことが分かる。これは、実施例2のPtナノ粒子が多面体構造を有しており、高い活性を示すPt表面の比率が高いためと考えられる。
【0072】
【表4】
【0073】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るPtナノ粒子は、自動車用動力源、定置型小型発電機等に用いられる固体高分子形燃料電池の空気極及び/又は燃料極に用いられる触媒粒子として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6