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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】表面分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2252 20180101AFI20240625BHJP
【FI】
G01N23/2252
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020201721
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089374
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 暁
(72)【発明者】
【氏名】石川 丈寛
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-153858(JP,A)
【文献】特開2018-200270(JP,A)
【文献】特開2010-140383(JP,A)
【文献】特開平08-021808(JP,A)
【文献】特開昭62-070740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-G01N23/2276
H01J37/00-H01J37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて2元散布図を作成する散布図作成部と、
前記2元散布図中の点を密度準拠型クラスター分析の手法を用いてクラスタリングするクラスター分析部と、
前記2元散布図において信号値のレンジが狭いほうの成分又は元素の信号値の分布情報であるヒストグラムを作成し、該ヒストグラムにおいて度数が最大である極大値を示す階級の前後において又は全ての階級において、それぞれ度数が極大値を示す2つの階級の間で度数が0である階級の連続数が最大である連続階級数を求め、前記密度準拠型クラスター分析において設定すべきパラメーターの一つである距離の閾値を前記連続階級数に応じて調整するものであって、前記連続階級数が該距離の閾値よりも大きい場合に、該連続階級数を前記ヒストグラムの全階級数で除した値に所定の補正定数を加えたものを距離の閾値として採用するパラメーター調整部と、
を備える表面分析装置。
【請求項2】
前記パラメーター調整部は、前記ヒストグラムにおいて度数が最大である極大値を示す階級の前後において度数が0である級数の連続数をそれぞれ求め、その2つの連続数のうちの大きいほうを前記連続階級数とする、請求項に記載の表面分析装置。
【請求項3】
前記補正定数は実験的に定められた値である、請求項1又は2に記載の表面分析装置。
【請求項4】
前記補正定数が0.002である、請求項3に記載の表面分析装置。
【請求項5】
前記クラスター分析部は階層的密度準拠型クラスター分析を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料上の1次元又は2次元の測定領域に存在する成分や元素の分布を調べる表面分析装置に関する。この表面分析装置は、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、蛍光X線分析装置などを含む。
【背景技術】
【0002】
EPMAを用いた元素マッピング分析では、試料上の2次元領域内の多数の微小領域それぞれについて、含有元素の種類と量を調べることができる。こうした元素マッピング分析で得られた結果を解析する際には、2元素又は3元素についての特性X線強度又はその強度から計算される元素濃度の散布図(2軸又は3軸の各軸にそれぞれ元素の相対強度をとった図)を作成し、その図上のプロット点の分布から、試料に含まれる化合物の種類や含有割合を確認する手法、即ち、相解析(又は相分析)がしばしば用いられる(特許文献1、2参照)。例えば、特許文献2の図10には2元散布図の一例が、同文献の図11には3元散布図の一例が示されている。
【0003】
散布図上の一つの点(以下、散布図上にプロットされた点を「データ点」という)は試料上の一点(微小領域)に対応する。したがって、散布図上でデータ点が密集している領域は、試料上において含有元素が同じような割合で含まれている部位に対応していると推定される。そこで、相解析では一般に、分析者は、散布図上でデータ点が密集している領域を一つのクラスターつまりは関連するデータ点の集合であると認識し、マウスなどのポインティングデバイスを用いてその領域を多角形等の適当な図形で囲む操作を行い、さらに、その領域毎に、異なる表示色を指定する操作を行う。こうした操作がなされると、EPMAの表示装置の画面上には、一又は複数のクラスター領域に含まれる各データ点にそれぞれ対応した試料上の位置が、指定された色で以て彩色された相マップが表示される。
【0004】
近年、AI(人工知能)技術の急速な進展に伴って、こうした技術を利用して、上述したような散布図上の多数のデータ点を自動的に複数の集合に割り振る処理を行うことが試みられている。こうした処理には、教師無し機械学習の代表的な手法であるクラスター分析が好適である。クラスター分析には様々なアルゴリズムのものが知られているが、散布図上のデータ点をその密度に応じて複数のクラスターに分けるための手法としては、例えば非特許文献1、2等に開示されている密度準拠型クラスター分析(Density-Based Clustering)が有用である。実測により得られた2元散布図に対し、密度準拠型クラスター分析を用いてクラスターを自動的に抽出した例を図12に示す。この例では、6個のクラスターが抽出されていることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-125952号公報
【文献】特開2011-153858号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ester M.、ほか3名、「A Density-Based Algorithm for Discovering Clusters in Large Spatial Databases with Noise」、Proceedings of 2nd International Conference on Knowledge Discovery and Data Mining (KDD-96)、pp.226-231、1996年
【文献】Ricardo J.G.B. Campello、ほか2名、「Density-Based Clustering Based on Hierarchical Density Estimates」、Springer、pp.160-172、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、EPMAにより得られるデータに基いて作成される散布図では、様々な要因によってデータ点の偏在や特異的な分布が生じる場合があり、そのために、上述したような既存のクラスター分析の手法を適用した場合に偽のクラスターが検出されてしまうことがある。
【0008】
例えば、図4は、実測結果に基いて作成された2元散布図上のデータ点を自動的にクラスタリングした結果を示す図である。図中、多角形状の線で囲まれた範囲が自動的に検出された一つのクラスター領域である。図中に矢印で示す二つの箇所では、縦方向に線状に延びる小さなクラスターが多数検出されているが、これらは本来、各箇所で一つずつの大きなクラスターとして検出されることが適切である。即ち、縦方向に線状に延びる小さなクラスターは偽のクラスターである。
【0009】
また、図8は、実測結果に基いて作成された3元散布図上のデータ点を自動的にクラスタリングした結果を示す図である。図中、多角形状の線で囲まれた範囲が自動的に検出された一つのクラスター領域である。図8で明らかなように、3元散布図では、線状に連なるデータ点の集合が放射状に現れる場合があるが、そのデータ点の集合の一部を含む小さな範囲のクラスターが複数検出されている。これらには必ずしもクラスターとして適切でないものが含まれており、多くは偽のクラスターである。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、散布図上のデータ点を自動的にクラスタリングする際に偽のクラスターの検出を抑制し、そのクラスタリングの精度を向上させることができる表面分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る表面分析装置の第1の態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて2元散布図を作成する散布図作成部と、
前記2元散布図中のデータ点を密度準拠型クラスター分析の手法を用いてクラスタリングするクラスター分析部と、
前記2元散布図におけるいずれか一方の成分又は元素の信号値の分布情報を利用して、前記密度準拠型クラスター分析において設定すべきパラメーターの一つである距離の閾値を調整するパラメーター調整部と、
を備える。
【0013】
本発明に係る第1の態様の表面分析装置は例えば、EPMA SEM、蛍光X線分析装置などの分析装置である。こうした分析装置では、試料上で励起線(電子線やX線など)を照射する位置を変更しながら測定を繰り返すことで、試料上の2次元領域又は1次元領域内の多数の位置それぞれにおける複数の元素の存在量を反映した信号を取得することができる。
【0014】
また、本発明に係る第1の態様の表面分析装置において、クラスター分析の手法としては一般的な密度準拠型クラスター分析(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise:DBSCAN)を改良した階層的密度準拠型クラスター分析(Hierarchical Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
密度準拠型クラスター分析では距離の閾値εがクラスタリングのための重要なパラメーターであり、特に階層的密度準拠型クラスター分析では、この閾値εが散布図上のデータ点の密度に応じて自動的に調整される。上述したように、図4に示した2元散布図では、縦方向に線状に延びる偽のクラスターが複数検出されている。一方で、その2元散布図において下側の領域(Feの強度が高い領域)にあるデータ点の集合は一つのクラスターとして適切に認識されている。
【0016】
散布図上のデータ点の密度から推測するに、当該2元散布図中の下側の領域ではそもそもデータ点の度数がそれほど高くないために閾値εが適切に設定され、それにより、一つのクラスターに分類されるデータ点間の距離が大きくなっているものと考えられる。一方、2元散布図中の上側の領域(Feの強度が低い領域)では、下側の領域に比べてデータ点の度数が格段に高い。この例のように、二つの元素のうちの一方の元素(この例ではMn)の強度が極端に低く当該元素のデータの測定レンジ(測定結果であるX線強度のレンジ)が狭い場合、一方向(この例では縦方向)にデータ点が高い密度で集まり、他の方向(この例では横方向)にはデータ点が離散的に存在することになる。そのため、通常の自動的なパラメーター調整の手順では、縦方向のデータ点が極端に密集している状態を反映して閾値εが定まってしまい、横方向に離散的に現れるデータ点の集合がそれぞれ別のクラスターとして誤認されるものと推測される。
【0017】
これに対し、本発明に係る表面分析装置の第1の態様において、パラメーター調整部は、2元散布図中のデータ点におけるいずれか一方の元素の信号値の分布情報、つまりその信号値がどの程度集中しているのか或いは離散しているのかの情報を利用して、距離の閾値εの値を調整する。即ち、パラメーター調整部は、測定レンジが狭いために、散布図上でのデータ点の密度が高いときに離散的な線状のデータ点集合を形成し易い軸方向のデータ点の、信号値の分布度合に応じて距離の閾値εを調整する。それにより、散布図上で近接している複数の離散的な線状のデータ点の集合全体が一つのクラスターに含まれるように距離の閾値εを調整し、適切なクラスタリングを行うことができる。
【0020】
上述したように、本発明に係る第1の態様の表面分析装置によれば、散布図上のデータ点を自動的にクラスタリングする際に偽のクラスターの検出を抑制し、そのデータ点の、つまりは複数の成分や元素の濃度に基く試料上の微小領域のクラスタリングの精度を向上させることができる。それにより、ユーザーは、例えば散布図上のデータ点のクラスタリング結果に基く相解析を的確に且つ効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態であるEPMAの要部の構成図。
図2】第1実施形態のEPMAにおけるクラスター分析パラメーター調整処理の一例を示すフローチャート。
図3】測定レンジが狭い元素の強度値のヒストグラムの一例を示す図。
図4】2元散布図上のデータ点に対して自動的にクラスタリング行った結果、偽クラスターが検出された例を示す図。
図5図4に示した2元散布図上のデータ点に対して、クラスター分析パラメーターを調整したうえでクラスタリング行った結果を示す図。
図6】本発明に関連する第2実施形態であるEPMAの要部の構成図。
図7】第2実施形態のEPMAにおける加算強度値データ選択処理の一例を示すフローチャート。
図8】3元散布図上のデータ点に対して自動的にクラスタリング行った結果、偽クラスターが検出された例を示す図。
図9】加算強度値のヒストグラムの一例を示す図。
図10図9に示した加算強度値について、強度値が大きい側の外れ値を除外したあとの加算強度値のヒストグラムを示す図。
図11図8に示した3元散布図上のデータ点に対して、加算強度値データ選択処理を実施したあとにクラスタリング行った結果を示す図。
図12】2元散布図に対して自動的にクラスタリング行った結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
本発明に係る表面分析装置の第1実施形態であるEPMAについて、添付図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態のEPMAの要部の構成図である。
【0023】
図1に示すように、電子線照射部1は電子銃100や図示しない偏向コイル等を含み、微小径の電子線を試料ステージ2上に載置された試料3に照射する。この電子線を受けて、元素に特有の波長を有する特性X線が試料3の表面から放出される。また、試料3の表面からは2次電子なども放出される。
【0024】
試料3から放出された特性X線は分光結晶4で波長分散され、特定の波長の回折X線がX線検出器5により検出される。試料3上の電子線照射位置と分光結晶4とX線検出器5とは常にローランド円上に位置しており、図示しない駆動機構によって分光結晶4は直線的に移動しつつ傾斜され、この移動に連動してX線検出器5は回動される。これにより、ブラックの回折条件を満たすように、つまり分光結晶4に対する特性X線の入射角と回折X線の出射角とが等しい状態に保たれながら、分析対象であるX線の波長走査が達成される。X線検出器5によるX線強度の検出信号は、データ処理部9に入力される。
【0025】
試料ステージ2は試料ステージ駆動部7により互いに直交するX軸、Y軸の二軸方向にそれぞれ移動可能であり、この移動によって、試料3上での電子線の照射位置が2次元的に走査される。また、試料ステージ2を移動させるのではなく、電子線照射部1において電子線の射出方向偏向させることで、試料3上での電子線の照射位置を走査することもできる。
【0026】
データ処理部9は、機能ブロックとして、元素強度算出部90、データ保存部91、散布図作成部92、クラスター分析パラメーター調整部93、クラスター分析部94、クラスター領域検出部95、表示処理部96などを含む。分析制御部8は試料3に対する分析を実行するために、試料ステージ駆動部7、分光結晶4やX線検出器5を移動させる駆動機構などの動作を制御する。中央制御部10は装置全体の制御や入出力処理を担うものであり、中央制御部10には、キーボードやマウス(又はそれ以外のポインティングデバイス)を含む操作部11、及び表示部12が接続されている。
【0027】
なお、例えば、中央制御部10、分析制御部8、及びデータ処理部9の全て又は一部は、パーソナルコンピューターにより構成され、該コンピューターにインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアを該コンピューターで実行することにより、それぞれの機能が達成されるものとすることができる。
【0028】
本実施形態のEPMAにおいて元素マッピング分析を行う場合、分析制御部8は、目的とする元素の特性X線波長に対応して分光結晶4の位置を固定し、試料3上の所定の(通常は分析者により指定された)2次元領域内で電子線の照射位置(微小領域)を所定の順序で変更しつつ、特性X線及び2次電子の検出を繰り返すように、試料ステージ駆動部7部等を動作させる。そして、一つの元素についての強度分布の取得を終了したならば、他の目的元素について同様の測定を実行する。
【0029】
元素強度算出部90は、試料3上の微小領域毎に目的元素の強度(濃度)を取得する。この強度データがデータ保存部91に格納される。なお、エネルギー分散型X線分光器を用いた場合には、元素強度算出部90は、2次元領域内の微小領域毎にそれぞれX線スペクトルを作成し、そのX線スペクトル上で目的元素に対応する特定波長のピークを検出し、そのピーク強度を求めることによって目的元素の強度(濃度)を算出することができる。
【0030】
試料3上の2次元領域内の全ての微小領域についての測定が終了し、分析者が操作部1から所定の操作を行うと、散布図作成部92はデータ保存部91から所定のデータを読み出し、所定の二つの元素の強度の関係を示す2元散布図を作成する。2元散布図上の各データ点はそれぞれ試料3上の微小領域に対応する。したがって、例えば試料3上で1000個の微小領域に対して測定が実行されれば、散布図上にプロットされるデータ点の数は1000である。
【0031】
クラスター分析部94は、作成された散布図上の全てのデータ点について所定のアルゴリズムに従ってクラスタリングを実行し、各データ点に、一又は複数のクラスターのいずれに属するか又はいずれにも属さないかのラベル付けを行う。
【0032】
クラスター分析には様々な手法が知られている。一般に、こうした散布図上のデータ点のクラスタリングでは、データ点間の距離を利用したクラスタリングが行われる。EPMA等の表面分析で得られる散布図では、データ点が極端に高い密度で存在する部分と低い密度で存在する部分とが生じることがしばしばある。データ点が高い密度で存在する部分ではデータ点間の距離が相対的に短くても別のクラスターに分離しないと、データ点の数が極端に大きなクラスターが形成されてしまう。逆に、データ点が低い密度で存在する部分ではデータ点間の距離が相対的に長くても同一のクラスターに含めないと、データ点の数が極端に少ないクラスターが多数形成されてしまう。こうしたことに対応するため、ここでは、クラスタリングに、非特許文献2に開示されている階層密度準拠型クラスター分析の手法を採用している。この手法は、非特許文献1に開示されている一般的な密度準拠型クラスター分析を改良したものであり、本発明者の検討によれば、EPMAによって得られた散布図におけるデータ点をかなり良好にクラスタリングすることが可能である。
【0033】
上述した階層的密度準拠型クラスター分析を含む密度準拠型クラスター分析では、散布図上のデータ点の集合をクラスターであると判定するために次の二つのパラメーターを予め決めておく必要がある。
(1)最小クラスターサイズ:クラスターであると判定するために必要な最小のデータ点の数(一つのクラスターを構成する最小のデータ点数)。
(2)距離の閾値ε:隣接する二つのクラスターが異なるクラスターであると判定するための距離の閾値。この閾値よりも距離が近くにある複数のクラスターは自動的に統合される。
散布図上でクラスターの検出を良好に行うには、上記パラメーターを適切な値に設定する必要がある。但し、ユーザー(分析者)がこれらパラメーターをそれぞれ設定するのは面倒であるため、メーカーにおいて実験的に決定された数値がデフォルト値として各パラメーターに設定され、且つ、ユーザーが手動でその数値を変更することができるようになっている。
【0034】
2元散布図上に反映される二つの元素のそれぞれの強度範囲が比較的近く、測定レンジ(強度レンジ)が同程度である場合、距離の閾値εとしてデフォルト値を用いても概ね適切なクラスタリングが可能である。ところが、上述したように、二つの元素の存在量(濃度)に比較的大きな差異があって、存在量が少ないほうの元素の測定レンジが極端に狭い場合、それに由来する特徴的な偽のクラスターが検出され易く、データ点の空間的な分布に応じて距離の閾値εを適当な値に調整しないと、複数の偽のクラスターを一つに統合することができない。そこで、クラスター分析パラメーター調整部93は、実際にクラスター分析を実行するのに先立って、次のようにして距離の閾値εを調整する。図2は、クラスター分析パラメーター調整処理の一例を示すフローチャートである。
【0035】
まず、クラスター分析パラメーター調整部93は、測定レンジが狭いほうの元素(図4の例ではMn)の強度値の分布状況を把握するために、その元素の強度値のヒストグラムを作成する(ステップS1)。このとき、強度値の階級数Tは適宜に定める。図4に示した2元散布図上のデータ点に対応するヒストグラムを図3に示す。ここでは、階級数Tは1000としている。図3に示すように、測定レンジが狭く離散的にしか存在しないデータ点を反映したヒストグラムは、特定の階級における度数が極端に高く、複数の特定の階級の間では櫛状に隙間が空いたものとなることが分かる。このように強度値の度数分布が特徴的な傾向を示すことに起因して、2元散布図は前述のようになり偽のクラスターが検出される。
【0036】
密度準拠型クラスター分析では、散布図上でデータ点の集積度が高い部分、つまりは度数が高い部分ほどクラスターが形成され易い。そこでクラスター分析パラメーター調整部93は、上記ヒストグラムにおいて極大値、つまりはピークを検出してそのピークに対応する階級を見つけ(ステップS2)、さらに、その極大値を示す階級の中で度数が最大である階級を特定する(ステップS3)。図3では、極大値を示す階級の中で度数が最大である階級を下線矢印で示している。
【0037】
次いで、クラスター分析パラメーター調整部93はヒストグラムにおいて、最大の極大値を示す階級と、それよりも階級が下側(強度値が小さい側)にあって直近の極大値を示す階級との間で、度数が0である階級の連続数NLを求める(ステップS4)。また、クラスター分析パラメーター調整部93は同じくヒストグラムにおいて、最大の極大値を示す階級と、それよりも階級が上側(強度値が大きい側)にあって直近の極大値を示す階級との間で、度数が0である階級の連続数Nuを求める(ステップS5)。即ち、最大の極大値を示す階級の両側においてそれぞれ、度数が0である階級の連続数を求める。
【0038】
そのあと、クラスター分析パラメーター調整部93は、ステップS4、S5で求めた連続数Nuと連続数NLとを比較し大きいほうを連続階級数Nと定め(ステップS6)、その連続階級数Nがその時点における距離の閾値εよりも大きいか否かを判定する(ステップS7)。連続階級数Nが距離の閾値ε以下であれば、その閾値εを修正する必要がないのでその値を維持し(ステップS9)、処理を終了する。一方、連続階級数Nが距離の閾値εよりも大きい場合には、クラスター分析パラメーター調整部93は次の(1)式を用いて閾値εの値を修正し(ステップS8)、処理を終了する。
ε=(連続階級数N/全階級数T)+補正定数K ・・・(1)
補正定数Kは実験的に適宜に決められた値とすればよいが、ここでは0.002としている。
【0039】
(1)式を用いると、最高度数を示す階級の前後において存在している度数が0である区間の長さを反映して、2元散布図において最高度数を示す階級に含まれるデータ点が集中している領域において別々のクラスターであると認識される距離が長くなる。それによって、離間距離が小さい複数のクラスターは一つのクラスターに統合され易くなる。
【0040】
そのあと、クラスター分析部94は上述したように修正されたパラメーターを条件として、2元散布図上のデータ点に対するクラスタリングを実行する。これにより、2元散布図上の各データ点には、一又は複数のクラスターのいずれに属するか又はいずれにも属さないかのラベル付けがなされる。この状態では単に各データ点がラベル付けられただけであるため、散布図においてクラスターの占める領域として扱いにくい。そこで、クラスター領域検出部95は、例えば凸包法などの適宜の手法を用いて、それぞれのクラスターに属するデータ点の全て又は大部分を含むような多角形状のクラスター領域を画定する。なお、図4に示した2元散布図において、縦方向に延びる線状のクラスター領域や図中の下側の領域に描かれている多数のデータ点を含む矩形状の領域も、上述したクラスター領域検出処理によって得られたものである。
【0041】
図5は、図4に示した2元散布図と同じデータ点に対し、上述したクラスター分析パラメーター調整処理を実施したうえでクラスター分析及びクラスター領域検出を実行した結果を示す2元散布図である。この図5によれば、図4では複数の線状に延びるクラスター領域に分かれていた部分が、それぞれ一つずつの大きなクラスター領域に統合されていることが分かる。一方、もともとデータ点の密度がそれほど高くない、散布図中の下側にある領域ではクラスター領域の形状に変化がない。このように、本実施形態のEPMAでは、目的とする二つの元素の存在量に大きな差異があって、特に一方の元素の存在量が少なくそのばらつきも小さいためにその測定レンジが狭い場合であっても、2元散布図において偽のクラスターの検出を回避して正確なクラスタリングを行うことができる。
【0042】
なお、上記実施形態のEPMAでは、図2に示したパラメーター調整処理において最大度数を示す階級の前後にのみ着目しているが、ヒストグラムの全ての階級(つまりは全ての極大値位置の前後)について、度数が0である階級の連続数を求め、その連続数の最大値を連続階級数Nとしてもよい。但し、多くの場合、そうした処理を実行したとしても、選択される連続階級数Nは図2に示した処理の結果と同じとなるため、図2に示した処理を実施するほうが計算処理時間の点などから好ましい。
【0043】
[第2実施形態]
次に、本発明に関連する表面分析装置の第2実施形態であるEPMAについて、添付図面を参照して説明する。図6は、第2実施形態のEPMAの要部の構成図である。図6において図1に示した装置の構成要素と同じ又は相当する構成要素には同じ符号を付している。
【0044】
第2実施形態のEPMAの基本的な構成は第1実施形態のEPMAと同じであり、異なるのは、データ処理部9において散布図作成部92の代わりに3元散布図作成部97が、クラスター分析パラメーター調整部93の代わりに加算強度値データ選択処理部98が設けられていることである。
【0045】
本実施形態のEPMAでは、第1実施形態のEPMAと同様に、分析制御部8の制御の下で、試料3上の2次元領域内の多数の微小領域についての分析が実行される。元素強度算出部90は、試料3上の2次元領域内の微小領域毎に、目的元素の存在量を反映した強度データを取得する。この強度データがデータ保存部91に格納される。
【0046】
分析者が操作部1から所定の操作を行うと、3元散布図作成部97はデータ保存部91から所定のデータを読み出し、指定された三つの元素の強度の関係を示す3元散布図を作成する。3元散布図上の各データ点はそれぞれ試料3上の微小領域に対応する。表示処理部96は、作成された3元散布図を表示部12の画面上に表示する。図8に示すように、3元散布図において放射状に延伸する線状のデータ点の集合が観測される場合、自動的なクラスター分析を行っても正確なクラスタリングが行えない可能性が高い。そこで、分析者が操作部1で所定の操作を行うと、加算強度値データ選択処理部98は次のようなデータ選択処理を実行する。図7は、このデータ選択処理のフローチャートである。
【0047】
加算強度値データ選択処理部98は、3元散布図に表されている三つの元素(図8の例ではFe、Mg、K)の強度の加算値(以下「強度加算値」という)を微小領域毎に計算し、加算強度値が大きいものから順に所定割合のデータを外れ値として除外する(ステップS11)。外れ値を除外する理由及びその具体的な方法は次の通りである。
【0048】
図9は、図8に示した3元散布図にプロットされている全てのデータ点(つまりは試料3上の微小領域)についての加算強度値のヒストグラムである。このように、加算強度値=0付近のかなり狭い強度範囲にかなりの割合のデータが偏在してピークを形成している。こうした加算強度値が小さい多数のデータが3元散布図において放射状に延伸する線状のデータ点の集合の要因であると想定される。それを解消するには、このデータの全て又は一部を除外する必要がある。但し、図8に示したヒストグラムでは、データが小さい度数で以て大きな加算強度値まで広がっており、そのため、大きな度数を示すピークが横軸方向に圧縮されたような形状となっていて、除外対象であるデータを選別するための閾値を決めることが難しい。
【0049】
ヒストグラムにおいて、加算強度値が大きいデータの度数は小さく、またそのデータは横軸上で離散的に存在していることが想定される。そこで、こうした加算強度値が大きいデータを一時的に除外してヒストグラムを作成し直せば、加算強度値が小さい領域におけるピークの状態、つまりはヒストグラムにおけるデータの分布状態をより詳細に把握することができる。そこで、ここでは一例として、統計においてしばしば用いられる四分位数による外れ値検出の手法を利用して、加算強度値が大きな外れ値を除外する。
【0050】
一般に、四分位数による外れ値検出では、全てのデータを昇順に並べたときに、全体の数の75%に当たる第3四分位数(Q3)から25%に当たる第1四分位数(Q1)を差し引いた値である四分位範囲(IQR)を利用して外れ値を求める。具体的には、通常、次の式で下側境界と上側境界とを求め、その外側のデータを外れ値とする。
下側境界=Q1-IQR×1.5
上側境界=Q3+IQR×1.5
但し、ここでは、小さな値の外れ値は不要である。そこで、大きな値のデータを除くために、上側境界以上の強度を持つデータを除外する。なお、大きな値を有する外れ値の検出方法は上記方法に限らず、例えばスミルノフ・グラブズ検定などの他の外れ値検出方法を用いることもできる。
【0051】
次に、加算強度値データ選択処理部98は、上述のようにして外れ値を除外したあとの加算強度値データからヒストグラムを作成する(ステップS12)。そして、そのヒストグラムにおいて所定のアルゴリズムを用いて極大(ピーク)及び極小となる位置(階級)を検出する(ステップS13)。図10は、図9に示したヒストグラムの元となった加算強度値データから外れ値を除外したあとのデータに基いて作成されたヒストグラムである。図10中、検出された極大値を黒丸印で、極小値を白丸印で示している。なお、ここでは、狭い強度範囲における度数の増減を極大・極小として認識することがないように、一定の検出幅を設定している。そのため、例えば強度=0に最も近いピークは極大として検出されていない。
【0052】
加算強度値データ選択処理部98は、最大度数を示す極大値より上側の直近の極小値を特定し(ステップS14)、最小強度つまりは強度=0から、その特定された極小値までの強度範囲に含まれる加算強度値データを、全ての加算強度値データ(ステップS11で除外された外れ値を含む)から除外する(ステップS15)。図10に示した例の場合、加算強度値:156以下の加算強度値データを全て除外する。これにより、図10に示したヒストグラムにおいて度数が最大であるピークを形成するデータの全てが除外されることになる。
【0053】
なお、ステップS11において外れ値を除外したあとの加算強度値データでは、元のデータと比べて最大強度が大きく変化(小さくなる)する場合がある。図9図10に示した例では、ヒストグラムを作成する際の加算強度値の階級数を256としているが、仮に外れ値を除外した後のデータの最大強度が256未満であった場合には、強度値の階級数をそれに合わせて調整する処理を行う必要がある。何故なら、そのような階級数の調整を行わないと、作成されるヒストグラムに度数が0である階級が櫛状に発生してしまい、極小値の位置を正確に得ることができないからである。
【0054】
加算強度値データ選択処理部98は、上述したような手順で、加算強度値が小さく且つその度数が多いデータを除外することで、クラスタリングの対象のデータを選択する。クラスター分析部94は、そうして選択されたあとの3元散布図上のデータ点に対し、例えば階層的密度準拠型クラスター分析によるクラスタリングを実行する。これにより、3元散布図上の各データ点には、一又は複数のクラスターのいずれに属するか又はいずれにも属さないかのラベル付けがなされる。クラスター領域検出部95は、例えば凸包法などの適宜の手法を用いて、それぞれのクラスターに属するデータ点の全て又は大部分を含むような多角形状のクラスター領域を画定する。
【0055】
図11は、図8に示した3元散布図上のデータ点について上述した加算強度値データ選択処理を実施してデータ点を減らしたあとに、クラスタリング行った結果を示す3元散布図である。図11では、図8に示した3元散布図に現れていた放射状に延伸する線状のデータ点の分布がなくなっており、偽のクラスターであると予想されるクラスターも検出されていない。こうしたことから、クラスタリングが適切に行われているものと想定される。
【0056】
このようにして第2実施形態のEPMAでは、3元散布図に現れるノイズ的なデータ点の集合をクラスタリング処理の対象から除外することができ、それによって誤ったクラスター領域の検出を抑えることができる。その結果、3元散布図上でのクラスターの検出精度を向上させることができ、これを利用した相解析の正確性や効率を改善することができる。
【0057】
なお、上記説明では、図10に示したヒストグラムにおいて、強度=0から、最大度数を示す極大値より上側の直近の極小値までの強度範囲に含まれるデータを除外していたが、除外するデータの強度範囲はデータの分布状況等に応じて適宜に変更することができる。例えば、除外するデータの強度範囲をユーザーが選択できるようにしてもよいし、或いは、複数の異なる強度範囲のデータを除外したあとのデータ群に対しそれぞれクラスタリングを行って複数のクラスタリング結果を取得し、これらをまとめてユーザーに提示するようにしてもよい。
【0058】
また、上述したようなデータ選択処理は常に実施する必要があるわけではないから、上述したようにユーザーの操作に応じてデータ選択処理を実施してもよいし、クラスタリング結果等に応じて自動的にデータ選択処理が実施されるようにしてもよい。
【0059】
また、上記第1及び第2の実施形態はEPMAであるが、本発明は、SEM、蛍光X線分析装置など、試料上の1次元的又は2次元的な領域内の多数の微小領域においてそれぞれ元素や成分(化合物など)の量を反映した信号を取得することが可能である様々な分析装置全般に適用可能である。即ち、本発明は測定手法や分析手法そのものは特に問わず、マッピング分析が可能である分析装置であればよい。
【0060】
また、上記実施形態はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0061】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0062】
(第1項)本発明に係る表面分析装置の一態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて2元散布図を作成する散布図作成部と、
前記2元散布図中の点を密度準拠型クラスター分析の手法を用いてクラスタリングするクラスター分析部と、
前記2元散布図におけるいずれか一方の成分又は元素の信号値のその値の分布情報を利用して、前記密度準拠型クラスター分析において設定すべきパラメーターの一つである距離の閾値を調整するパラメーター調整部と、
を備える。
【0063】
(第2項)第1項に記載の表面分析装置において、前記パラメーター調整部は、前記2元散布図において信号値のレンジが狭いほうの成分又は元素の信号値の分布を利用して、前記距離の閾値を調整するものとすることができる。
【0064】
例えば、試料に含まれる二つの元素の存在量に大きな差異がある場合に、存在量が少ないほうの元素の測定レンジがかなり狭いことに起因して、2元散布図上でごく近接して複数の線状のデータ点の集合が現れることがある。第1項及び第2項に記載の表面分析装置によれば、こうした複数の線状のデータ点の集合を別々のクラスターとして誤って認識してしまうことなく、一つのクラスターとして認識することができる。即ち、第1項及び第2項に記載の表面分析装置によれば、2元散布図にプロットされているデータ点を自動的にクラスタリングする際に偽のクラスターの検出を抑制し、そのデータ点の、つまりは複数の成分や元素の存在量や濃度に基く試料上の微小領域の、クラスタリングの精度を向上させることができる。それによって、ユーザーは例えばクラスタリング結果に基く相解析を的確に行うことができる。
【0065】
(第3項)第2項に記載の表面分析装置において、前記パラメーター調整部は、前記成分又は元素の信号値のヒストグラムを作成し、該ヒストグラムにおいて少なくとも一つの極大値を示す信号値階級の前後における度数の分布に基いて前記距離の閾値を調整するものとすることができる。
【0066】
(第4項)さらに第3項に記載の表面分析装置において、前記パラメーター調整部は、前記ヒストグラムにおいて度数が最大である極大値を示す信号値階級の前後における度数の分布に基いて前記距離の閾値を調整するものとすることができる。
【0067】
第3項及び第4項に記載の表面分析装置によれば、2元散布図において偽のクラスターとして誤って検出され易い、データ点が特徴的に分布している領域を抽出し、その領域における偽クラスターの検出を回避するように適切にクラスタリングのパラメーター(距離の閾値)を決めることができる。また、そうしたパラメーターの調整のための処理も簡単であるので、処理に時間が掛からず、例えばクラスタリング結果を迅速に表示することが可能である。
【0068】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の表面分析装置において、前記クラスター分析部は階層的密度準拠型クラスター分析を行うものとすることができる。
【0069】
第5項に記載の表面分析装置によれば、例えばEPMA等により収集されたデータに基いて作成される2元散布図上のデータ点を良好にクラスタリングすることができる。それにより、ユーザーはクラスタリング結果に基く相解析を的確に行うことができる。
【0070】
(第6項)また本発明に関連する表面分析装置の態様は、
試料上の複数の位置においてそれぞれ分析対象である複数の成分又は元素の量を反映した信号を取得する測定部と、
前記測定部による測定結果に基いて3元散布図を作成する散布図作成部と、
前記3元散布図中のデータ点に対応する三つの成分又は元素の信号値を加算した加算信号値の分布情報を利用して、該加算信号値が相対的に小さい所定の信号値範囲のデータ点を該3元散布図上に存在する全てのデータ点から除外するデータ点選択部と、
前記データ点選択部において除外されなかった前記3元散布図中のデータ点を、密度準拠型クラスター分析の手法を用いてクラスタリングするクラスター分析部と、
を備える。
【0071】
例えば、試料に含まれる三つの元素の信号値の比率がほぼ同程度であるデータ点が多数ある場合、3元散布図上に放射状に延伸する線状のデータ点の分布が現れ、これが偽のクラスターが検出される原因となることがある。第6項に記載の表面分析装置によれば、こうした偽のクラスターの原因となるデータ点の特徴的な分布を解消することができる。それにより、3元散布図にプロットされているデータ点を自動的にクラスタリングする際に偽のクラスターの検出を抑制し、そのデータ点の、つまりは複数の成分や元素の存在量や濃度に基く試料上の微小領域の、クラスタリングの精度を向上させることができる。それによって、ユーザーは例えばクラスタリング結果に基く相解析を的確に行うことができる。
【0072】
(第7項)第6項に記載の表面分析装置において、前記データ点選択部は、前記加算信号値のヒストグラムを作成し、該ヒストグラムにおいて検出される極大値及び/又は極小値を示す階級を利用して除外するデータの信号値範囲を決めるものとすることができる。
【0073】
第6項に記載の表面分析装置によれば、偽のクラスターの原因となり易い、加算信号値が相対的に小さく且つ度数が多いデータ点を的確に除外することができる。それにより、偽のクラスターの原因となり易いデータ点を除外するのみならず、そうでないデータ点を不所望に除外してしまうことを回避し、3元散布図上で的確なクラスター領域を画定することができる。
【0074】
(第8項)第6項又は第7項に記載の表面分析装置において、前記クラスター分析部は階層的密度準拠型クラスター分析を行うものとすることができる。
【0075】
第8項に記載の表面分析装置によれば、例えばEPMA等により収集されたデータに基いて作成される3元散布図上のデータ点を良好にクラスタリングすることができる。それにより、ユーザーはクラスタリング結果に基く相解析を的確に行うことができる。
【符号の説明】
【0076】
1…電子線照射部
100…電子銃
2…試料ステージ
3…試料
4…分光結晶
5…X線検出器
7…試料ステージ駆動部
8…分析制御部
9…データ処理部
90…元素強度算出部
91…データ保存部
92…散布図作成部
93…クラスター分析パラメーター調整部
94…クラスター分析部
95…クラスター領域検出部
96…表示処理部
97…3元散布図作成部
98…加算強度値データ選択処理部
10…中央制御部
11…操作部
12…表示部
図1
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図10
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