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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20240625BHJP
   F01L 1/356 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F02D13/02 G
F01L1/356 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020204449
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091553
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 友裕
(72)【発明者】
【氏名】永山 佑一
(72)【発明者】
【氏名】藪 聡
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-342677(JP,A)
【文献】特開2009-228588(JP,A)
【文献】特開2001-355484(JP,A)
【文献】特開2005-147015(JP,A)
【文献】特開2006-170003(JP,A)
【文献】特開2018-178950(JP,A)
【文献】特開2009-287482(JP,A)
【文献】実開平03-087827(JP,U)
【文献】特開2009-079594(JP,A)
【文献】特開2018-200006(JP,A)
【文献】特開2018-066332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯と同軸芯で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を制御する制御部と、
前記内燃機関の気筒の内部圧力を計測する筒内圧センサの圧力値を記憶する記憶部と、備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記圧力値の図示平均有効圧力(IMEP)を演算すると共に、前記IMEPの標準偏差を前記IMEPの平均値で除して求められる燃焼変動率(COV)を演算し、前記COVが第一所定値以下であり、前記IMEPが第二所定値以上であれば、前記相対回転位相の変更を許可する弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記第一所定値又は前記第二所定値は、前記内燃機関の温度に応じて設定される請求項に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記気筒は、複数設けられており、
前記制御部は、圧縮行程から排気行程までの1サイクルにおける複数の前記気筒の夫々について演算された複数の前記IMEPのうちの最小値が前記第二所定値以上であれば、前記相対回転位相の変更を許可する請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、回転軸芯と同軸芯で内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を制御する制御部と、を備えた弁開閉時期制御装置が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1に記載の弁開閉時期制御装置は、SPCCI燃焼(Spark Controlled Compression Ignition)が実行される内燃機関において、筒内圧センサで計測された圧力の上昇率等が判定値以上となると、過早着火が生じると判定し、制御部は、排気弁と吸気弁とが同時に開弁しているオーバーラップ期間を短縮するように相対回転位相を制御する。
【0004】
特許文献2に記載の弁開閉時期制御装置は、排気弁のバルブタイミングが進角されるほど筒内圧が高くなるため、制御部は、筒内圧センサで計測された圧力値が所定の上限値を超えぬように、排気弁の開タイミングを制御する。
【0005】
特許文献3に記載の弁開閉時期制御装置は、筒内圧センサで計測された圧力値の図示平均有効圧力を含む燃焼の特性値に基づいて、燃焼噴射システムの操作量や制御部による相対回転位相の制御等を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-90893号公報
【文献】特開2020-41534号公報
【文献】特開2007-113485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、内燃機関の始動時には、燃焼安定性を考慮して、オーバーラップ期間を制限したり、吸気弁のバルブタイミングが遅角し過ぎないように制限したりしている。このため、排ガスの低減や燃費の改善が不十分なものとなっている。特許文献1は、過早着火を防止する技術であり、特許文献2は、筒内圧の過剰な上昇を抑制する技術であるため、排ガスの低減や燃費の改善といった課題を解決するものではない。特許文献3は、図示平均有効圧力を含む燃焼の特性値に基づいて相対回転位相の制御を実行する技術であるが、図示平均有効圧力の具体的な活用形態が開示されていない。
【0008】
そこで、筒内圧センサで計測された圧力値を用いて、排ガスの低減や燃費の改善を促進することが可能な弁開閉時期制御装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯と同軸芯で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との相対回転位相を制御する制御部と、前記内燃機関の気筒の内部圧力を計測する筒内圧センサの圧力値を記憶する記憶部と、備え、前記制御部は、前記記憶部に記憶された前記圧力値の図示平均有効圧力(IMEP)を演算すると共に、前記IMEPの標準偏差を前記IMEPの平均値で除して求められる燃焼変動率(COV)を演算し、前記COVが第一所定値以下であり、前記IMEPが第二所定値以上であれば、前記相対回転位相の変更を許可する点にある。
【0010】
本構成では、制御部は、図示平均有効圧力(IMEP)を演算し、IMEPの標準偏差をIMEPの平均値で除して求められる燃焼変動率(COV)が第一所定値以下であれば、相対回転位相の変更を許可する。この燃焼変動率は、複数サイクルにおける気筒の燃焼安定性を反映したものであるため、相対回転位相の変更制限を解除する指標として最適である。
【0011】
例えば、内燃機関の始動時において、触媒暖気により排ガスを低減したいときには、燃焼変動率が第一所定値以下であれば相対回転位相の変更を許可し、排気弁と吸気弁とが同時に開弁しているオーバーラップ期間をより増加させることができる。また、燃費を改善したいときには、燃焼変動率が第一所定値以下であれば相対回転位相の変更を許可し、より一層進角又は遅角させることができる。その結果、排ガスの低減や燃費の改善を限界まで促進することができる。
【0012】
このように、筒内圧センサで計測された圧力値を用いて、排ガスの低減や燃費の改善を促進することが可能な弁開閉時期制御装置を提供できた。
【0014】
本構成では、燃焼変動率(COV)に加えて、図示平均有効圧力(IMEP)が第二所定値以上であれば、相対回転位相の変更を許可する。燃焼が不安定であれば、膨張行程での筒内圧力が高まらず、図示平均有効圧力が小さくなる傾向にある。このため、燃焼変動率に加えて図示平均有効圧力も燃焼安定性の指標とすることで、燃焼安定性を考慮しながら排ガスの低減や燃費の改善を確実に促進することができる。
【0015】
他の特徴構成は、前記第一所定値又は前記第二所定値は、前記内燃機関の温度に応じて設定される点にある。
【0016】
例えば、内燃機関が低温時には、燃焼変動率が悪化し易くなるため、燃焼安定性を損なわない範囲で第一所定値を高く設定することが好ましい。また、内燃機関が低温時には、気筒内摩擦力が大きくなるため、筒内圧力を高めるように第二所定値を高く設定することが好ましい。本構成のように、内燃機関の温度に応じて第一所定値又は第二所定値を設定すれば、燃焼安定性を考慮しながら排ガスの低減や燃費の改善をより促進することができる。
【0017】
他の特徴構成は、前記気筒は、複数設けられており、前記制御部は、圧縮行程から排気行程までの1サイクルにおける複数の前記気筒の夫々について演算された複数の前記IMEPのうちの最小値が前記第二所定値以上であれば、前記相対回転位相の変更を許可する点にある。
【0018】
本構成のように、複数の気筒の図示平均有効圧力の最小値を用いれば、燃焼安定性を安全側で担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】弁開閉時期制御装置の断面図及びブロック図である。
図2】筒内圧センサで計測された圧力値を示す概念図である。
図3】IMEP及びCOVの閾値を示す概念図である。
図4】弁開閉時期制御装置の制御フローを示す図である。
図5】エンジン始動時における相対回転位相の変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る弁開閉時期制御装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、弁開閉時期制御装置の一例として、エンジンEの吸気側に設けられた弁開閉時期制御装置100として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0021】
図1に示すように、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と回転軸芯Xを中心に同期回転する駆動側回転体Aと、駆動側回転体Aの径方向内側に配置され、回転軸芯Xを中心にして弁開閉用の吸気カムシャフト2(カムシャフトの一例)と一体回転する従動側回転体Bと、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する電動モータで構成される位相制御モータMと、制御ユニット10と、を備えて弁開閉時期制御装置100が構成されている。以下、電動式の弁開閉時期制御装置100として「電動VVT」と称する場合がある。
【0022】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダ3(本実施形態では4つ)にピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEでは一方の端部から他方の端部に向けて#1気筒、#2気筒、#3気筒、#4気筒が配置され、#1気筒と#4気筒とが同時に上死点に達するときに、#2気筒と#3気筒とが同時に下死点に達するように構成されている。これらの気筒には、シリンダ3の内部空間のうちピストン4とシリンダヘッドの間に燃焼室が形成され、この燃焼室には、気筒の内部圧力を計測する筒内圧センサSpが設置されている。
【0023】
また、エンジンEのクランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、駆動側回転体Aの駆動スプロケット11Sとに亘ってタイミングチェーン6(タイミングベルト等でも良い)が巻回されている。これにより、エンジンEのクランクシャフト1の回転が駆動側回転体Aに伝達される。エンジンEは、クランクシャフト1の近傍位置に、クランクシャフト1の回転角及び回転速度の検出が可能なクランクセンサS1を備え、吸気カムシャフト2の近傍に、吸気カムシャフト2の回転角及び回転速度の検出が可能なカムセンサS2を備えている。また、エンジンEは、ウォータジャケットの冷却水の水温を検出する温度センサS3を備えている。この温度センサS3は、エンジンEの駆動時に水温を管理する制御に用いられるものであるが、エンジンEの始動時においては、周囲の環境温度を検出すると共に、吸気バルブ2Bの開閉時期の設定にも利用される。尚、この温度センサS3は、エンジンEの外壁の温度やエンジンオイルの温度を検出するものであっても良い。
【0024】
エンジンEの駆動は、制御装置としての上位ECU50(エンジンコントロールユニット)により制御される。上位ECU50は、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。
【0025】
エンジンEの駆動時には、弁開閉時期制御装置100の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相制御モータMの駆動力により後述する位相調節機構Cを作動させ駆動側回転体Aに対して従動側回転体Bを回転方向と同方向又は逆方向に相対変位可能となる。この変位により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2のカム部2Aによる吸気バルブ2Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御が実現する。
【0026】
尚、従動側回転体Bが駆動側回転体Aの回転方向と同方向に相対回転位相を変位させる作動を進角作動と称し、この進角作動により吸気圧縮比が増大する。また、従動側回転体Bが駆動側回転体Aと逆方向に相対回転位相を変位させる作動を遅角作動と称し、この遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0027】
〔弁開閉時期制御装置〕
駆動側回転体Aは、回転軸芯Xを中心とする筒状の本体部Aaと、本体部Aaと同期回転するオルダム継手Cxおよび入力ギヤ30とを備えている。本体部Aaは、外周に駆動スプロケット11Sが形成されたアウタケース11と、フロントプレート12と、を複数の締結ボルト13で締結して構成されている。アウタケース11は、底部に開口を有する有底筒状型である。駆動側回転体Aの一部を構成するオルダム継手Cxおよび入力ギヤ30は、後述する位相調節機構Cとしても機能する。オルダム継手Cxを介して入力ギヤ30は本体部Aaに連結されている。
【0028】
アウタケース11の内部空間に中間部材20(従動側回転体Bの一例)と、ハイポサイクロイド型のギヤ減速機構を有した位相調節機構Cとが収容されている。また、位相調節機構Cは、位相変化を駆動側回転体Aおよび従動側回転体Bに反映するオルダム継手Cxを備えており、このオルダム継手Cxは回転軸芯X方向において中間部材20とフロントプレート12との間に配置されている。フロントプレート12のうちオルダム継手Cxと対向する面には、回転軸芯X方向に僅かな隙間となる潤滑凹部12aが形成されている。
【0029】
従動側回転体Bを構成する中間部材20は、回転軸芯Xに直交する姿勢で吸気カムシャフト2に連結される支持壁部21と、回転軸芯Xを中心とする筒状で吸気カムシャフト2から離間する方向に突出する筒状壁部22とが一体形成されている。
【0030】
この中間部材20は、筒状壁部22の外面がアウタケース11の内面に接触する状態で相対回転自在に挿入されており、支持壁部21の中央の貫通孔に挿通する連結ボルト23により吸気カムシャフト2の端部に固定されている。中間部材20の支持壁部21のうち、吸気カムシャフト2に当接する面の一部には偏芯部材26の内部にオイルを案内する開口部21aが形成されている。
【0031】
位相制御モータMは、その出力軸Maを回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。位相制御モータMの出力軸Maには回転軸芯Xに対して直交する姿勢の一対の係合ピン8が形成されている。
【0032】
位相調節機構Cは、位相制御モータMの駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を変更するように複数の部材で構成されている。この位相調節機構Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25と、偏芯部材26と、板ばね27と、第1軸受28と、第2軸受29と、固定リング31と、オルダム継手Cxと、入力ギヤ30と、を備えている。
【0033】
中間部材20の筒状壁部22の内周のうち、回転軸芯Xに沿う方向で内側(支持壁部21に隣接する位置)に回転軸芯Xを中心とする支持面22Sが形成され、支持面22Sより回転軸芯Xに沿う方向で外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に回転軸芯Xを中心とする出力ギヤ25が一体的に形成されている。
【0034】
偏芯部材26は筒状であり、この偏芯部材26は、回転軸芯Xに沿う方向での内側(吸気カムシャフト2に近い側)に従動側回転体B(中間部材20)の径方向内側を支持する第一部分26Aと、回転軸芯Xに沿う方向での外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に駆動側回転体A(入力ギヤ30)の径方向内側を支持する第二部分26Bと、を有している。第二部分26Bには、回転軸芯Xに平行となる姿勢で且つ回転軸芯Xに対して所定の偏芯量Dyで偏芯する偏芯軸芯Yを中心とする外周面である偏芯支持面26Eが形成されている。この偏芯支持面26Eの外周に形成した凹部26Fに板ばね27が嵌め込まれている。また、第一部分26Aには、この板ばね27の径方向の外面よりも更に径方向外側に突出させた突出部26Sが形成されている。この突出部26Sの外周面には回転軸芯Xを中心とする円周支持面26Saが形成されている。
【0035】
偏芯部材26の内周には、位相制御モータMの一対の係合ピン8の各々が係合可能な一対の係合溝26Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。更に、偏芯部材26の回転軸芯Xに沿う方向で内側(支持壁部21の側)の端部には径方向外側に突出した環状の突起26aが形成されている。この突起26aは、回転軸芯Xに沿う方向で従動側回転体Bの支持壁部21と第1軸受28との間に挟まれており、偏芯部材26の抜け止め機能を有している。
【0036】
この位相調節機構Cでは、入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。そして、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛合する。板ばね27は、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部を出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合わせるように、入力ギヤ30に付勢力を作用させる。この板ばね27の付勢力により、入力ギヤ30と出力ギヤ25との噛み合い部におけるバックラッシュを無くすことができる。
【0037】
固定リング31はC字状の環状部材であり、偏芯部材26の偏芯支持面26Eよりも回転軸芯X方向の外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に嵌合状態で固定されることにより第2軸受29の抜け止めが行われる。
【0038】
オルダム継手Cxは、板状の継手部材で構成されており、一対の外部係合アーム(不図示)をアウタケース11に係合させ、一対の内部係合アーム(不図示)を入力ギヤ30に係合させている。オルダム継手Cxはアウタケース11に対して外部係合アームが突出する第1方向に変位可能となり、このオルダム継手Cxに対して内部係合アームの形成方向に沿う第2方向に入力ギヤ30が変位自在となっている。
【0039】
オイルポンプPから供給される潤滑油は、吸気カムシャフト2の潤滑油路15から、中間部材20の支持壁部21の開口部21aを介して偏芯部材26の内部空間に供給される。このように供給された潤滑油は、遠心力により偏芯部材26の突起26aと従動側回転体Bの支持壁部21との隙間から第1軸受28に供給され第1軸受28を円滑に作動させる。これと同時に、偏芯部材26の内部空間の潤滑油は遠心力によりオルダム継手Cxに供給されると共に、第2軸受29に供給され、出力ギヤ25の内歯部25Aと入力ギヤ30の外歯部30Aとの間に供給される。そして、このオルダム継手Cxに供給された潤滑油は、オルダム継手Cxとアウタケース11との間の隙間から外部に排出される。
【0040】
上記構成により、吸気カムシャフト2の端部に中間部材20の支持壁部21が連結ボルト23により連結されており、吸気カムシャフト2と中間部材20とが一体回転する。偏芯部材26は第1軸受28により中間部材20に対して回転軸芯Xを中心に相対回転自在に支持されている。この偏芯部材26の偏芯支持面26Eに対し第2軸受29を介して入力ギヤ30が支持され、板ばね27の付勢力により入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合っている。また、オルダム継手Cxの外方側にフロントプレート12が配置されるため、オルダム継手Cxはフロントプレート12の内面に接触する状態で回転軸芯Xに対して直交する方向に移動可能となる。さらに、位相制御モータMの出力軸Maに形成された一対の係合ピン8が、偏芯部材26の係合溝26Tに係合している。
【0041】
位相制御モータMは、制御ユニット10によって制御される。エンジンEにはクランクシャフト1と吸気カムシャフト2の回転速度(単位時間あたりの回転数)と、各々の回転位相とを検出可能なクランクセンサS1及びカムセンサS2が備えられており、これらのセンサの検出信号を上位ECU50に入力するように構成されている。上位ECU50から相対回転位相を維持する位相指令を受けた制御ユニット10は、エンジンEの駆動時において位相制御モータMを吸気カムシャフト2の回転速度と等しい速度で駆動することで相対回転位相を維持する。これに対して、上位ECU50から相対回転位相を変位させる位相指令を受けた制御ユニット10は、位相制御モータMの回転速度を吸気カムシャフト2の回転速度より低減することにより進角作動が行われ、これとは逆に回転速度を増大することにより遅角作動が行われる。
【0042】
位相制御モータMがアウタケース11と等速(吸気カムシャフト2と等速)で回転する場合には、出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aの噛み合い位置が変化しないため、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相は維持される。
【0043】
これに対してアウタケース11の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、位相調節機構Cにおける偏芯軸芯Yが回転軸芯X周りに公転する。この公転により出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aに対する噛み合い位置が出力ギヤ25の内周に沿って変位し、入力ギヤ30と出力ギヤ25との間には回転力が作用する。つまり、出力ギヤ25には回転軸芯Xを中心とする回転力が作用し、入力ギヤ30には偏芯軸芯Yを中心に自転させようとする回転力が作用する。
【0044】
前述したように入力ギヤ30は、オルダム継手Cxの内部係合アームに係合するためアウタケース11に対して自転することはなく、駆動側回転体Aの本体部Aaの回転力が出力ギヤ25に作用する。この回転力の作用により出力ギヤ25と共に中間部材20が、アウタケース11に対し回転軸芯Xを中心に回転する。その結果、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相が設定され、吸気カムシャフト2による開閉時期の設定が実現される。
【0045】
また、入力ギヤ30の偏芯軸芯Yが回転軸芯X周りに公転する際には、入力ギヤ30の変位に伴い、オルダム継手Cxは、アウタケース11に対して外部係合アームが突出する方向(第1方向)に変位し、入力ギヤ30は、内部係合アームが突出する方向(第2方向)へ変位する。
【0046】
前述したように入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、入力ギヤ30の偏芯軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、1歯分だけ出力ギヤ25が回転することになり大きい減速を実現している。
【0047】
このように、本実施形態における弁開閉時期制御装置100は、位相制御モータMの駆動力で相対回転位相を変位させるため、油圧により変位を実現するものと比較して高速での作動が可能であり、エンジンEの始動時のように油圧が充分でない状況においても、必要とする相対回転位相に迅速に設定することが可能である。
【0048】
〔電動VVTの制御ユニット〕
制御ユニット10は、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相(以下、単に「相対回転位相」と称する場合がある)を変位させるように位相制御モータMを制御する制御部10aと、筒内圧センサSpの圧力値を記憶する記憶部10bとを有している。この制御ユニット10は、エンジンEの駆動を制御する上位ECU50とケーブル等の有線を介して電気的に接続されている。このため、制御ユニット10と上位ECU50とは、様々な情報を互いに送受信可能に構成されている。尚、制御ユニット10と上位ECU50とを、無線通信可能に構成しても良いし、制御ユニット10の機能を上位ECU50に受け持たせても良い。制御部10aは、各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。記憶部10bは、ハードディスクや不揮発メモリ等から構成されている。
【0049】
上位ECU50では、吸気カムシャフト2の回転位相等を検出したセンサ情報から得られた現在の相対回転位相(実位相)と、エンジンEの運転状態に応じて設定される最適な相対回転位相である目標位相と、を制御ユニット10に送信する。具体的には、燃焼室に対して最適な吸気タイミングで空気を吸引するために、上位ECU50は、エンジン始動時には、温度センサS3等の各種センサの値に基づいて目標位相を設定し、通常運転時には、エンジンEに作用する負荷やクランクシャフト1の回転速度等をパラメータとする目標位相マップに基づいて目標位相を設定する。例えば、エンジンEが始動してクランキングが行われた場合には、相対回転位相を中間位相に設定する制御が行われる。この中間位相はエンジンEの始動に適した吸気タイミングであるため、燃料の噴射と点火とを開始する際には中間位相への変位が行われる。
【0050】
制御部10aは、エンジンEの駆動を制御する上位ECU50からの位相指令を受信して、現在の相対回転位相が目標位相となるように位相制御モータMの駆動(出力軸Maの回転速度)を制御し、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相を設定する。制御部10aが位相制御を行う際には、クランクセンサS1とカムセンサS2との検出結果から弁開閉時期制御装置100の相対回転位相を取得し、この相対回転位相と目標位相との偏差を小さくするフィードバック制御が実行される。
【0051】
このフィードバック制御に加えて、本実施形態における制御部10aは、図示平均有効圧力(IMEP)及び燃焼変動率(COV)に基づいて、相対回転位相の変更を許可し、相対回転位相を更に進角方向又は遅角方向に変位させる制御を実行する。
【0052】
例えば、エンジン始動時において燃焼室で燃焼が行われた後には、相対回転位相を進角方向に変位させることによりオーバーラップ期間を増加させ、吸気行程の初期において開放状態にある排気バルブ(不図示)を介して、高温の燃焼ガス(内部EGR)の一部を燃焼室に取り込むことが可能となる。その結果、高温の燃焼ガスをシリンダ3の内壁に接触させて内壁の温度を上昇させ、燃料の液滴化を回避することにより、インジェクタ(不図示)で噴射された燃料の霧化状態を維持し、燃焼の初期から良好な燃焼を可能にして排ガスの低減を図ることができる。
【0053】
また、燃費を改善するタイミングにおいては、相対回転位相を遅角方向に変位させ、吸気圧縮比の低減を行う制御、又は、相対回転位相を進角方向に変位させることによりオーバーラップを確保して、内部EGRの増加を図る制御が選択される。何れの制御を選択するかは、エンジンEのスペックや車両の使用環境により異なる。
【0054】
制御部10aは、燃焼変動率(COV)が第一所定値以下及び図示平均有効圧力(IMEP)が第二所定値以上であれば、相対回転位相の変更を許可する。図2には、各気筒の筒内圧センサSpの圧力値が示されており、記憶部10bには、a:吸気行程、b:圧縮行程、c:膨張行程、d:排気行程を1サイクルとして、1~Nサイクル分(Nは任意の数字)の各気筒の圧力値が記憶されている。制御部10aは、記憶部10bに記憶された各気筒の筒内圧センサSpの圧力値に基づいて、気筒ごとに1サイクルの図示平均有効圧力を演算する。図示平均有効圧力(単位kPa)は、1サイクルの圧力値の合計値(1サイクル当たりの仕事量)を行程容積で除した値(以下、「IMEP」と称することがある)である。
【0055】
本実施形態では、第二所定値以上であるか否かを判定するIMEPとして、1サイクルにおける複数(4つ)の気筒ごとに演算された図示平均有効圧力の最小値を適用する。図2に示す例において、図示平均有効圧力の最小値は、1サイクル目が#1気筒であり、2サイクル目が#2気筒であり、Nサイクル目が#4気筒である。
【0056】
燃焼変動率(単位%、以下「COV」と称することがある)は、IMEPの標準偏差をIMEPの平均値で除して求められる。本実施形態では、第一所定値以下であるか否かを判定するCOVとして、1~Nサイクルにおける図示平均有効圧力の最小値の標準偏差を、1~Nサイクルにおける全ての気筒のIMEPの平均値で除した割合(COV(%)=「1サイクルIMEP最小値~NサイクルIMEP最小値の標準偏差」/「1サイクル~NサイクルIMEP平均値」)により算出する。
【0057】
記憶部10bは、筒内圧センサSpの圧力値と判定閾値(第一所定値及び第二所定値)とを記憶している。この第一所定値や第二所定値は、エンジンEのスペックやエンジンEを搭載した車両の使用環境等により予め設定されている。尚、これら第一所定値や第二所定値は、ニューラルネットワーク等の機械学習により設定しても良いし、各種実験により設定しても良い。
【0058】
図3には、記憶部10bが記憶している判定閾値の例が示されている。本実施形態における記憶部10bは、エンジンEの温度に応じて第一所定値及び第二所定値を変化させて記憶している。エンジンEが低温時には、燃焼変動率が悪化し易くなるため、燃焼安定性を損なわない範囲で第一所定値(COV閾値)を高く設定している。また、エンジンEが低温時には、気筒内摩擦力が大きくなるため、筒内圧力を高めるように第二所定値(IMEP閾値)を高く設定している。このように、エンジンEの温度に応じて第一所定値又は第二所定値を設定すれば、燃焼安定性を考慮しながら排ガスの低減や燃費の改善をより促進することができる。
【0059】
以下、本実施形態における制御ユニット10について、図4図5を用いて詳述する。
【0060】
図5には、エンジンEが始動時における相対回転位相のタイムチャートが示されている。図5の破線は、従来の弁開閉時期制御装置の制御形態であり、図5の実線は、本実施形態における弁開閉時期制御装置100の制御形態である。
【0061】
図4には、本実施形態に係る弁開閉時期制御装置100に制御フローが示されている。エンジンEが駆動しているとき、弁開閉時期制御装置100の制御部10aは、上位ECU50からの位相指令に基づいて、相対回転位相が所定位相となるように制御する(♯41)。また、イグニションスイッチがオンとなってエンジンEが始動したときから、記憶部10bは、筒内圧センサSpの圧力値を記憶する(♯42)。そして、Nサイクル分の筒内圧センサSpの圧力値が累積されたとき、制御部10aは、図示平均有効圧力(IMEP)及び燃焼変動率(COV)を演算する(♯43)。尚、制御部10aは、(N+1)サイクルの筒内圧センサSpの圧力値が得られたとき、2サイクル~(N+1)サイクルにおけるIMEP及びCOVを演算するといった具合に、順に更新する。
【0062】
次いで、制御部10aは、COVが第一所定値以下であるか否か及びIMEPが第二所定値以上であるか否かを判定する(♯44)。制御部10aは、COVが第一所定値未満又はIMEPが第二所定値未満であれば(♯44Nо)、相対回転位相を所定位相に維持したまま♯41~♯43の制御を実行する。一方、制御部10aは、COVが第一所定値以下及びIMEPが第二所定値以上であれば(♯44Yes)、相対回転位相の変更を許可し、上位ECU50からの指示された相対回転位相よりも進角方向又は遅角方向に所定角度(例えば1CA)ずつ次第に変更する(♯45,♯46)。尚、相対回転位相を所定角度分変更した段階で、再度、♯43~♯46の制御を実行する。
【0063】
エンジン始動時における上位ECU50からの位相指令を示す図5の破線では、燃焼室での燃焼が確実に安定するまで中間位相に設定(パターン1)したり、触媒暖機を図るために一時的に進角制御を実行(パターン2)したりする。しかしながら、上位ECU50からの位相指令は、燃焼室で失火が発生しないように安全側で設定されており、排ガスの低減や燃費の改善を図る上で十分ではなかった。
【0064】
本実施形態では、図5の実線に示すように、制御部10aは、燃焼変動率(COV)が第一所定値以下及び図示平均有効圧力(IMEP)が第二所定値以上であれば、相対回転位相の変更を許可する。つまり、図5のパターン1では、エンジン始動時の早い段階において、相対回転位相を遅角方向に変位させ、吸気圧縮比の低減を行い、燃費の改善を図る。図5のパターン2では、相対回転位相を更に進角方向に変位させることによりオーバーラップ期間を増加させ、吸気行程の初期において開放状態にある排気バルブを介して、高温の燃焼ガス(内部EGR)の一部を燃焼室に取り込み、排ガスの低減を図る。その結果、排ガスの低減や燃費の改善を限界まで促進することができる。
【0065】
このように、本実施形態における制御部10aは、図示平均有効圧力(IMEP)を演算し、IMEPの標準偏差をIMEPの平均値で除して求められる燃焼変動率(COV)が第一所定値以下であれば、相対回転位相の変更を許可する。この燃焼変動率は、複数サイクルにおける気筒の燃焼安定性を反映したものであるため、相対回転位相の変更制限を解除する指標として最適である。
【0066】
例えば、内燃機関の始動時において、触媒暖気により排ガスを低減したいときには、燃焼変動率が第一所定値以下であれば相対回転位相の変更を許可し、オーバーラップ期間をより増加することができる。また、燃費を改善したいときには、燃焼変動率が第一所定値以下であれば相対回転位相の変更を許可し、より一層進角又は遅角させることができる。
【0067】
さらに、本実施形態では、燃焼変動率(COV)に加えて、図示平均有効圧力(IMEP)が第二所定値以上であれば、相対回転位相の変更を許可する。燃焼が不安定であれば、膨張行程での筒内圧力が高まらず、図示平均有効圧力が小さくなる傾向にある。このため、燃焼変動率に加えて図示平均有効圧力も燃焼安定性の指標とすることで、燃焼安定性を考慮しながら排ガスの低減や燃費の改善を確実に促進することができる。しかも、判定閾値と対比するIMEPやCOVとして、複数の気筒の図示平均有効圧力の最小値を用いれば、燃焼安定性を安全側で担保することができる。
【0068】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施形態における制御部10aは、燃焼変動率(COV)が第一所定値以下及び図示平均有効圧力(IMEP)が第二所定値以上であれば、相対回転位相の変更を許可した。これに代えて、制御部10aは、燃焼変動率(COV)のみで判定する形態として、燃焼変動率(COV)が第一所定値以下であれば、相対回転位相の変更を許可しても良い。
(2)上述した実施形態では、判定閾値と対比するIMEPやCOVとして、1サイクル毎に複数の気筒の図示平均有効圧力の最小値を用いたが、全ての気筒の全てのサイクルの図示平均有効圧力を判定閾値と対比しても良いし、1サイクルにおける複数の気筒の図示平均有効圧力の平均値を用いても良い。
【0069】
(3)上述した実施形態では、吸気側に弁開閉時期制御装置100を配置したが、排気側に弁開閉時期制御装置100を配置しても良いし、吸気側と排気側の両方に弁開閉時期制御装置100を配置しても良い。
(4)電動VVTとしての弁開閉時期制御装置100は、上述した実施形態に限定されず、電動アクチュエータで相対回転位相を変位させるものであれば、どのような構成であっても良い。また、弁開閉時期制御装置100は、油圧により相対回転位相を変位させる形態であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 :クランクシャフト
2 :吸気カムシャフト(カムシャフト)
10a :制御部
10b :記憶部
100 :弁開閉時期制御装置
A :駆動側回転体
B :従動側回転体
E :エンジン(内燃機関)
Sp :筒内圧センサ
X :回転軸芯
図1
図2
図3
図4
図5