(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】車両下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
B62D25/20 E
(21)【出願番号】P 2021007734
(22)【出願日】2021-01-21
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】片山 伸哉
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-124369(JP,U)
【文献】特開2004-314663(JP,A)
【文献】実開昭60-62381(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床面を形成するフロアパネルを備える車両下部構造において、当該車両下部構造はさらに、
フロントサスペンションに連結される一対のフロアサイドメンバと、
リヤサスペンションに連結され前記一対のフロアサイドメンバよりも車両後方に位置する一対のリヤサイドメンバと、
前記一対のフロアサイドメンバおよび一対のリヤサイドメンバの車幅方向外側に配置され前記フロアパネルの縁に沿って車両前後方向に延びる一対のサイドシルと、
車幅方向に延び前記一対のサイドシルを連結するとともに前記一対のフロアサイドメンバおよび一対のリヤサイドメンバに接続されるクロスメンバとを備え、
前記一対のフロアサイドメンバの各々は、車両後方に向かうほど車幅方向内側に延びて前記クロスメンバに車両前側から接続されていて、
前記一対のリヤサイドメンバの各々は、車両前方に向かうほど車幅方向内側に延びて前記クロスメンバに車両後側から接続されていることを特徴とする車両下部構造。
【請求項2】
前記一対のフロアサイドメンバの各々と前記一対のリヤサイドメンバの各々は、弧状に延びていることを特徴とする請求項1に記載の車両下部構造。
【請求項3】
前記一対のフロアサイドメンバの各々は、所定の第1の円に沿って延びていて、
前記一対のリヤサイドメンバの各々は、所定の第2の円に沿って延びていて、
前記第1の円と前記第2の円とは、前記クロスメンバ上で重なっていることを特徴とする請求項2に記載の車両下部構造。
【請求項4】
当該車両下部構造はさらに、前記一対のフロアサイドメンバと前記一対のサイドシルとをそれぞれ連結する一対のブレースを備え、
前記一対のブレースの各々は、前記一対のフロアサイドメンバの各々の後部に沿って延び前記後部に接合される後面を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両下部構造。
【請求項5】
前記一対のリヤサイドメンバの各々は、前記一対のサイドシルの各々と接続されていて、該接続されている箇所から車両後方に向かうほど車両上方に屈曲して前記一対のサイドシルの各々よりも高さが高くなっていて、前記一対のフロアサイドメンバの各々よりも車幅方向外側において前記クロスメンバに接続されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両下部構造。
【請求項6】
前記一対のリヤサイドメンバの各々は、
前記クロスメンバに接続される第1リヤサイドメンバと、
前記第1リヤサイドメンバの後端に連続し前記リヤサスペンションに連結される第2リヤサイドメンバとを有し、
前記第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバとの境界およびその前後において前記一対のサイドシルの各々に接合されていることを特徴とする請求項5に記載の車両下部構造。
【請求項7】
前記第1リヤサイドメンバおよび第2リヤサイドメンバは、前記境界の前後で、それぞれ、前記一対のサイドシルの各々の内側側面に接続されていて、
前記境界では、前記第1リヤサイドメンバと前記サイドシルとの間に前記第2リヤサイドメンバが配置され互いに車幅方向に重なって前記一対のサイドシルの各々の内側側面に接合されていることを特徴とする請求項6に記載の車両下部構造。
【請求項8】
当該車両下部構造はさらに、車幅方向に延びていて前記一対のリヤサイドメンバのそれぞれの境界を連結し前記第1リヤサイドメンバおよび第2リヤサイドメンバに接合されているリヤクロスメンバを備えることを特徴とする請求項7に記載の車両下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、走行中に車両前後方向や車幅方向のいずれか1つの方向に大きな荷重が加わることがあり、例えば車両旋回時に前側外輪側に作用する慣性力や遠心力などが加わる場合がある。このような場合、荷重が加わった車輪と対角線上に位置する車輪側のフロアパネルの下面を中心にして、フロアパネルの下面が車両前後方向および車幅方向内側に捩れようとする捩り振動が発生する場合がある。
【0003】
特許文献1は、自動車のサスペンション支持部構造が記載されている。この支持部構造は、車両前後方向に延びる一対のメインサイドフレーム1と、その車幅方向外側で所定距離を隔てて車両前後方向に延びる一対のサイドシル2と、車幅方向に延び車両前後方向に離間した複数のクロスメンバ31~35と、複数のトルクボックス41~43とを備える。複数のクロスメンバ31~35は、一対のメインサイドフレーム1を連結する。
【0004】
特許文献1の支持部構造では、車幅方向に隣接するメインサイドフレーム1とサイドシル2を複数のトルクボックス41~43で連結しつつ、車両前後方向に隣接するクロスメンバ31~35同士を連結部材37、38で連結している。このようにして、この支持部構造では、フロアパネルの下面の剛性を高めつつ、側突時のエネルギー吸収効率を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1の支持部構造では、車両の対角線上に配置される右前輪と左後輪との間、あるいは左前輪と右後輪との間で荷重や振動が伝達される際の伝達経路であるクロスメンバ31~36には、特段の工夫がなされていない。したがって効率的な荷重や振動の伝達が実現されているとは言い難い。
【0007】
その結果、特許文献1の支持部構造では、フロアパネルの捩じり振動を効率的に抑制できず、車両のNV(Noise and Vibration)特性を向上させることが困難となる。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、車両の荷重が加わった車輪から該車輪と対角線上に配置される車輪側へ荷重や振動を効率的に伝達し、フロアパネルの捩じり振動を抑制して車両のNV特性を向上させることができる車両下部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両下部構造の代表的な構成は、車両の床面を形成するフロアパネルを備える車両下部構造において、車両下部構造はさらに、フロントサスペンションに連結される一対のフロアサイドメンバと、リヤサスペンションに連結され一対のフロアサイドメンバよりも車両後方に位置する一対のリヤサイドメンバと、一対のフロアサイドメンバおよび一対のリヤサイドメンバの車幅方向外側に配置されフロアパネルの縁に沿って車両前後方向に延びる一対のサイドシルと、車幅方向に延び一対のサイドシルを連結するとともに一対のフロアサイドメンバおよび一対のリヤサイドメンバに接続されるクロスメンバとを備え、一対のフロアサイドメンバの各々は、車両後方に向かうほど車幅方向内側に延びてクロスメンバに車両前側から接続されていて、一対のリヤサイドメンバの各々は、車両前方に向かうほど車幅方向内側に延びてクロスメンバに車両後側から接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両の荷重が加わった車輪から該車輪と対角線上に配置される車輪側へ荷重や振動を効率的に伝達し、フロアパネルの捩じり振動を抑制して車両のNV特性を向上させることができる車両下部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る車両下部構造を示す下面図である。
【
図2】
図1の車両下部構造の一部を他の方向から見た状態を示す図である。
【
図3】
図2の車両下部構造から第1リヤサイドメンバを省略した図である。
【
図4】
図1の車両下部構造の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る車両下部構造の代表的な構成は、車両の床面を形成するフロアパネルを備える車両下部構造において、車両下部構造はさらに、フロントサスペンションに連結される一対のフロアサイドメンバと、リヤサスペンションに連結され一対のフロアサイドメンバよりも車両後方に位置する一対のリヤサイドメンバと、一対のフロアサイドメンバおよび一対のリヤサイドメンバの車幅方向外側に配置されフロアパネルの縁に沿って車両前後方向に延びる一対のサイドシルと、車幅方向に延び一対のサイドシルを連結するとともに一対のフロアサイドメンバおよび一対のリヤサイドメンバに接続されるクロスメンバとを備え、一対のフロアサイドメンバの各々は、車両後方に向かうほど車幅方向内側に延びてクロスメンバに車両前側から接続されていて、一対のリヤサイドメンバの各々は、車両前方に向かうほど車幅方向内側に延びてクロスメンバに車両後側から接続されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成では、クロスメンバには、一対のフロアサイドメンバの各々が車両後方に向かうほど車幅方向内側に傾斜した状態で車両前側から接続され、一対のリヤサイドメンバの各々が車両前方に向かうほど車幅方向内側に傾斜した状態で車両後側から接続される。このため、一対のフロアサイドメンバの各々と一対のリヤサイドメンバの各々とは、クロスメンバに対して平面視で略X字状になるように接合している。
【0014】
このため、フロントサスペンションからの荷重や振動を、一対のフロアサイドメンバの一方からクロスメンバを介して一対のリヤサイドフレームの他方に伝達する場合、これらの荷重や振動の伝達経路を、右前輪側と左後輪側(あるいは左前輪側と右後輪側)を結ぶ対角線に近づけることができる。なおリヤサスペンションからの荷重や振動を、一対のリヤサイドメンバの一方からクロスメンバを介して一対のフロアサイドメンバの他方に伝達する場合も、荷重や振動の伝達経路を対角線に近づけることができる。
【0015】
したがって上記構成によれば、一対のフロアサイドメンバおよびリヤサイドメンバを左右車輪の対角線上に配置したので、フロアパネルの対角線上の剛性を高めて、一方のフロアサイドメンバと他方のリヤサイドメンバの間で荷重や振動を効率的に伝達できる。その結果、車両の荷重が加わった車輪から該車輪と対角線上に配置される車輪側へ荷重や振動を効率的に伝達し、フロアパネルの捩じり振動を抑制して車両のNV特性を向上させることができる。
【0016】
上記の一対のフロアサイドメンバの各々と一対のリヤサイドメンバの各々は、弧状に延びているとよい。
【0017】
これにより、一方のフロアサイドメンバと他方のリヤサイドメンバの間で荷重や振動を伝達する伝達経路上で、これらの荷重や振動が局所的に集中することを回避できる。したがって荷重や振動を効率的に分散させることができる。なお弧状とは、円の一部である円弧状に限らず、楕円の一部である弧状も含んでいる。
【0018】
上記の一対のフロアサイドメンバの各々は、所定の第1の円に沿って延びていて、一対のリヤサイドメンバの各々は、所定の第2の円に沿って延びていて、第1の円と第2の円とは、クロスメンバ上で重なっているとよい。
【0019】
これにより、一対のフロアサイドメンバの各々、一対のリヤサイドメンバの各々はそれぞれ、所定の第1の円、第2の円に沿った円弧状になっている。このため、一方のフロアサイドメンバと他方のリヤサイドメンバの間で荷重や振動を伝達するとき、荷重や振動を効率的に分散させることができる。
【0020】
上記の車両下部構造はさらに、一対のフロアサイドメンバと一対のサイドシルとをそれぞれ連結する一対のブレースを備え、一対のブレースの各々は、一対のフロアサイドメンバの各々の後部に沿って延び後部に接合される後面を有するとよい。
【0021】
このように一対のブレースの後面の各々が一対のフロアサイドメンバの後部の各々に対して後部に沿うように接合されているので、一対のフロアサイドメンバの支持点を増やすことができる。したがって上記構成では、フロアサイドメンバ自体の振動を抑制しつつ、一方のリヤサイドメンバから他方のフロアサイドメンバに伝達された荷重や振動を剛性の高いサイドシルに効率的に伝達し分散させることができる。
【0022】
上記の一対のリヤサイドメンバの各々は、一対のサイドシルの各々と接続されていて、接続されている箇所から車両後方に向かうほど車両上方に屈曲して一対のサイドシルの各々よりも高さが高くなっていて、一対のフロアサイドメンバの各々よりも車幅方向外側においてクロスメンバに接続されているとよい。
【0023】
ここで、リヤサイドメンバが車両上方に屈曲してサイドシルよりも高くなっていると、リヤサイドメンバとサイドシルとの接合面積が制限されてしまい、リヤサイドメンバをサイドシルに強固に接続できないおそれがある。そこで上記構成では、クロスメンバに対するリヤサイドメンバの接続位置を、クロスメンバに対するフロントサイドメンバの接続位置よりも車幅方向外側に設定している。これにより、リヤサイドメンバをフロントサイドメンバに比べてサイドシルにより近づけることができるため、サイドシルとの接合面積を増やすことができる。その結果、リヤサスペンションから伝達される荷重や振動を、剛性が高いサイドシルに分散して逃がすことができるため、リヤサイドメンバ自体の振動を抑制することができる。
【0024】
上記の一対のリヤサイドメンバの各々は、クロスメンバに接続される第1リヤサイドメンバと、第1リヤサイドメンバの後端に連続しリヤサスペンションに連結される第2リヤサイドメンバとを有し、第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバとの境界およびその前後において一対のサイドシルの各々に接合されているとよい。
【0025】
このように、第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバとの境界およびその前後において、第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバは、サイドシルとともに接合されている。このため、第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバとの接合面がサイドシルにも接合することになり、これらの部材の接続剛性を高めて、リヤサイドメンバ自体の振動を抑制できる。
【0026】
また、第1リヤサイドメンバは、クロスメンバに接続されるので車両後方に向かうほど車幅方向内側に延びている。第2リヤサイドメンバでは、車両上方に屈曲してサイドシルよりも高くなっている。このような第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバを互いの境界およびその前後でサイドシルとともに接合するため、第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバを一体成形する場合に比べて製造が容易となる。
上記の第1リヤサイドメンバおよび第2リヤサイドメンバは、境界の前後で、それぞれ、一対のサイドシルの各々の内側側面に接続されていて、境界では、第1リヤサイドメンバとサイドシルとの間に第2リヤサイドメンバが配置され互いに車幅方向に重なって一対のサイドシルの各々の内側側面に接合されているとよい。
【0027】
このように、リヤサスペンションが連結される第2リヤサイドメンバは、第1リヤサイドメンバとの境界において第1リヤサイドメンバとサイドシルとで挟持されている。このため、リヤサスペンションからの車幅方向の荷重や振動(特に捩り振動の横振動成分)を、第2リヤサイドメンバからサイドシルおよび第1リヤサイドメンバに効率的に伝達し分散させることができる。
【0028】
上記の車両下部構造はさらに、車幅方向に延びていて一対のリヤサイドメンバのそれぞれの境界を連結し第1リヤサイドメンバおよび第2リヤサイドメンバに接合されているリヤクロスメンバを備えるとよい。
【0029】
このように、リヤクロスメンバは、一対のリヤサイドメンバのそれぞれの境界において第1リヤサイドメンバおよび第2リヤサイドメンバに接合されている。このため、第1リヤサイドメンバと第2リヤサイドメンバとの境界での接続剛性を高めることができ、リヤサイドメンバ自体の振動を抑制することができる。
【実施例】
【0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。本実施例において、連結とは、各部材が直接接続されている場合と、適宜の連結部材を介して連結される場合とを含む。接続とは、別々の部材をつなぎ合わせる接合、各部材が同じ部材となる一体化(結合)していることを含む。
【0031】
図1は、本発明の実施例に係る車両下部構造100を示す下面図である。図中では車両下部構造100を車両下方から見た状態を示している。以下各図において、車両前後方向をそれぞれ矢印Front、Back、車幅方向の左右をそれぞれ矢印Left、Right、車両上下方向をそれぞれ矢印Up、Downで例示する。
【0032】
車両下部構造100は、車両の床面を形成するフロアパネル102と、一対のフロアサイドメンバ104、106と、一対のリヤサイドメンバ108、110とを備える。なお車両下部構造100は、
図1に示すように左右対称な構造となっているため、以下では、特に必要な場合を除き、車幅方向右側の構造のみ説明する。
【0033】
一対のフロアサイドメンバ104、106は、フロアパネル102の下側でフロントサスペンション122に連結される。フロントサスペンション122は、フロントサスペンションフレーム124と、一対のフロントサスペンションタワー126、128とを含む。
【0034】
ここでフロントサスペンション122に連結されるとは、例えば、フロアサイドメンバ104、106にフロントサスペンションフレーム124のサスペンション固定部129、131が接続されている形態や、フロアサイドメンバ104、106にフロントサイドメンバ133、135が接続された形態を含む。なおフロントサイドメンバ133、135には、フロントサスペンションフレーム124が接続されている。さらにフロアサイドメンバ104、106とフロントサイドメンバ133、135が一体である場合では、フロアサイドメンバ104、106にフロントサスペンションフレーム124が接続された形態も含む。
【0035】
一対のリヤサイドメンバ108、110は、一対のフロアサイドメンバ104、106よりも車両後方に位置していて、一対のリヤサスペンション130、132に連結される。一対のリヤサスペンション130、132は、一対のリヤサスペンション固定部134、136と、一対のリヤサスペンションタワー138、140とを含む。
【0036】
車両下部構造100はさらに、一対のサイドシル112、114と、クロスメンバ116とを備える。一対のサイドシル112、114は、一対のフロアサイドメンバ104、106および一対のリヤサイドメンバ108、110の車幅方向外側に配置されていて、フロアパネル102の縁142、144に沿って車両前後方向に延びている。
【0037】
クロスメンバ116は、フロアパネル102の下側で車幅方向に延びていて、一対のサイドシル112、114を連結するとともに一対のフロアサイドメンバ104、106および一対のリヤサイドメンバ108、110にも接続されている。またクロスメンバ116は閉断面を形成している。
【0038】
一対のフロアサイドメンバ104、106は、車両後方に向かうほど車幅方向内側に延びて、クロスメンバ116に車両前側から接続されている。また、一対のフロアサイドメンバ104、106は、図中点線で示す所定の第1の円146に沿って弧状に延びている。なお弧状とは、円の一部である円弧状に限らず、楕円の一部である弧状も含んでいる。
【0039】
一対のリヤサイドメンバ108、110は、車両前方に向かうほど車幅方向内側に延びて、クロスメンバ116に車両後側から接続されている。また、一対のリヤサイドメンバ108、110は、図中点線で示す所定の第2の円148に沿って弧状に延びている。さらに、第1の円146と第2の円148とは、クロスメンバ116上で重なっている。
【0040】
なお一対のフロアサイドメンバ104、106の各々と一対のリヤサイドメンバ108、110の各々は、1つの部材から構成されているが、これに限られず、複数の部材から構成され、これらの部材を接合することにより形成されてもよい。また、第1の円146と第2の円148は、同じ曲率半径を有してもよく、また、真円の曲率半径に設定するとよい。
【0041】
車両下部構造100はさらに、一対のブレース118、120を備える。一対のブレース118、120は、一対のフロアサイドメンバ104、106と一対のサイドシル112、114とをそれぞれ連結する。また、一対のブレース118、120は後面150、152を有する。この後面150、152は、一対のフロアサイドメンバ104、106の弧状の後部154、156に沿って延びて、この後部154、156に接合されている。
【0042】
また一対のブレース118、120の後面150、152と一対のフロアサイドメンバ104、106の弧状の後部154、156とは、接合された状態において平面視でS字状に湾曲した形状を形成している。このため、ブレース118、120の後面150、152とフロアサイドメンバ104、106の後部154、156との接合面で荷重や振動が局所的に集中することを回避して、荷重や振動の伝達効率を高めることができる。
【0043】
さらに、これらの接合されたブレース118、120の後面150、152およびフロアサイドメンバ104、106の後部154、156と、サイドシル112、114と、クロスメンバ116とによって、略直角三角形のトラス構造が形成されるため、剛性を高めることができる。
【0044】
なおブレース118、120と、フロアサイドメンバ104、106と、サイドシル112、114と、トルクボックス157、159とによっても、略直角三角形のトラス構造が形成されるため、剛性を高めることができる。
【0045】
また一対のリヤサイドメンバ108、110は、クロスメンバ116に接続される第1リヤサイドメンバ158、160と、第2リヤサイドメンバ162、164とを有する。第2リヤサイドメンバ162、164は、第1リヤサイドメンバ158、160の後端166、168に連続していて、リヤサスペンション130、132に連結される。
【0046】
図2は、
図1の車両下部構造100の一部を他の方向から見た状態を示す図である。図中では、リヤサイドメンバ108およびその周辺を示している。
図3は、
図2の車両下部構造100から第1リヤサイドメンバ158を省略した図である。なお
図3に示す点Aは、第1リヤサイドメンバ158の溶接個所を示している。
【0047】
リヤサイドメンバ108では、第1リヤサイドメンバ158と第2リヤサイドメンバ162が
図2に示す所定の接続領域170においてサイドシル112に接合されている。接続領域170とは、第1リヤサイドメンバ158と第2リヤサイドメンバ162の境界およびその前後にわたる範囲である。また第1リヤサイドメンバ158と第2リヤサイドメンバ162の境界は、例えば
図3に点線で示す第2リヤサイドメンバ162の前端172付近である。
【0048】
第2リヤサイドメンバ162は、
図3に示す屈曲部174を有する。屈曲部174は、第2リヤサイドメンバ162の前端172から車両後方に向かうほど車両上方に屈曲してサイドシル112よりも高さが高くなる部位である。そして屈曲部174の下面176には、リヤサスペンション固定部134の揺動軸部178が接合されている。なおリヤサスペンション固定部134は、揺動軸部178と、サイドシル112に連続するあるいは重ねられるブラケット180とを有する。
【0049】
ここで、第2リヤサイドメンバ162に車両上方に屈曲してサイドシル112よりも高さが高い屈曲部174を形成すると、第2リヤサイドメンバ162とサイドシル112との接合面積が制限されてしまい、第2リヤサイドメンバ162をサイドシル112に強固に接続できないおそれがある。
【0050】
そこで車両下部構造100では、
図1に示すようにクロスメンバ116に対するリヤサイドメンバ108、110の第1リヤサイドメンバ158、160の接続位置を、クロスメンバ116に対するフロントサイドメンバ104、106の接続位置よりも車幅方向外側に設定している。
【0051】
これにより、第1リヤサイドメンバ158、160をフロントサイドメンバ104、106に比べてサイドシル112、114により近づけることができる。このため、第1リヤサイドメンバ158、160および第2リヤサイドメンバ162、164とサイドシル112、114との接合面積を増やすことができる。その結果、リヤサスペンション130、132から荷重や振動が伝達された場合、これらの荷重や振動を、剛性が高いサイドシル112、114に分散して逃がすことができるため、リヤサイドメンバ108、110自体の振動を抑制することができる。
【0052】
また
図2および
図3に示す第1リヤサイドメンバ158および第2リヤサイドメンバ162は、境界およびその前後にわたる範囲すなわち接続領域170で、サイドシル112の内側側面182に接続されている。さらに接続領域170のうち、
図2に示す第1リヤサイドメンバ158の後端166から
図3に示す第2リヤサイドメンバ162の前端172までの前後にわたる範囲では、第1リヤサイドメンバ158とサイドシル112との間に第2リヤサイドメンバ162が挟持された状態で配置されていて、互いに車幅方向に重なってサイドシル112の内側側面182に接合されている。
【0053】
このため、リヤサスペンション130からの車幅方向の荷重や振動(特に捩り振動の横振動成分)を、第2リヤサイドメンバ162からサイドシル112および第1リヤサイドメンバ158に効率的に伝達し分散させることができる。
【0054】
車両下部構造100はさらに、リヤクロスメンバ(第1リヤクロスメンバ184)と、第2リヤクロスメンバ186と、側面ブレース188とを備える。第1リヤクロスメンバ184は、
図1に示すように車幅方向に延びていて一対のリヤサイドメンバ108、110のそれぞれの境界およびその付近を連結し、
図2および
図3に示すように第1リヤサイドメンバ158および第2リヤサイドメンバ162に接合されている。
【0055】
なお
図1に示すように第1リヤクロスメンバ184は、第1リヤサイドメンバ160および第2リヤサイドメンバ164にも接合されている。このため、第1リヤクロスメンバ184は、第1リヤサイドメンバ158、160と第2リヤサイドメンバ162、164との境界での接続剛性を高めることができ、リヤサイドメンバ108、110自体の振動を抑制することができる。
【0056】
第2リヤクロスメンバ186は、
図1に示すように第1リヤクロスメンバ184の車両後方に離間していて、車幅方向に延びて第2リヤサイドメンバ162、164に接合されている。
【0057】
ここで
図3に示す鎖線で囲んだ領域Bでは、第1リヤクロスメンバ184の下面190、後面192および後面192から張り出したフランジ194に
図2に示す第1リヤサイドメンバ158を接合している。また領域Cでは、第1リヤサイドメンバ158、第2リヤサイドメンバ162および側面ブレース188によって内側に三枚接合されて接続剛性を高めている。なお
図3では、側面ブレース188の外形の一部を点線で示している。
【0058】
また領域Dでは、第1リヤサイドメンバ158、第2リヤサイドメンバ162およびリヤサスペンション固定部134の揺動軸部178によって内側に三枚接合されて接続剛性を高めている。領域Eでは、第1リヤサイドメンバ158、第2リヤサイドメンバ162およびリヤサスペンション固定部134のブラケット180によって上下方向に三枚接合されて接続剛性を高めている。なお領域Eでは、これらの部材に加えてサイドシル112も含めて四枚接合としてもよい。
【0059】
さらに領域Fでは、第1リヤサイドメンバ158、第2リヤサイドメンバ162および第1リヤクロスメンバ184によって上下方向に三枚接合されて接続剛性を高めている。領域Gでは、第1リヤサイドメンバ158、サイドシル112および第1リヤクロスメンバ184によって上下方向に三枚接合されて接続剛性を高めている。
【0060】
車両下部構造100では、上記したように一対のフロアサイドメンバ104、106が第1の円146に沿って弧状に延びてクロスメンバ116に車両前側から接続され、一対のリヤサイドメンバ108、110が第2の円148に沿って弧状に延びてクロスメンバ116に車両後側から接続されている。さらに第1の円146と第2の円148とは、クロスメンバ116上で重なっている。これにより、一対のフロアサイドメンバ104、106と一対のリヤサイドメンバ108、110とは、
図1に示すようにクロスメンバ116に対して平面視で略X字状になるように接合している。
【0061】
このため、フロントサスペンション122からの荷重や振動を、一対のフロアサイドメンバ104、106の一方からクロスメンバ116を介して一対のリヤサイド
メンバ108、110の他方に伝達する場合、これらの荷重や振動の
図1に例示する伝達経路Hを、右前輪側と左後輪側(あるいは左前輪側と右後輪側)を結ぶ対角線I(
図1参照)に近づけることができる。また、リヤサスペンション130、132からの荷重や振動を、一対のリヤサイドメンバ108、110の一方からクロスメンバ116を介して一対の
フロアサイドメンバ104、106の他方に伝達する場合も、荷重や振動の伝達経路を対角線に近づけることができる。
【0062】
したがって車両下部構造100によれば、一対のフロアサイドメンバ104、106およびリヤサイドメンバ108、110を左右車輪の対角線上に配置したので、フロアパネル102の対角線上の剛性を高めることができる。これにより、一方のフロアサイドメンバ104、106と他方のリヤサイドメンバ108、110の間で荷重や振動を効率的に伝達できる。その結果、車両の荷重が加わった車輪から該車輪と対角線上に配置される車輪側へ荷重や振動を効率的に伝達し、フロアパネル102の捩じり振動を抑制して車両のNV特性を向上させることができる。
【0063】
また一対のフロアサイドメンバ104、106と一対のリヤサイドメンバ108、110が弧状に延びているため、これらの間で荷重や振動を伝達する伝達経路上で、荷重や振動が局所的に集中することを回避して、荷重や振動を効率的に分散させることができる。
【0064】
また、一対のブレース118、120の後面150、152が一対のフロアサイドメンバ104、106の弧状の後部154、156に沿って延びて、この後部154、156に接合されている。このため、一対のフロアサイドメンバ104、106の支持点を増やすことができる。これにより、フロアサイドメンバ104、106自体の振動を抑制しつつ、一方のリヤサイドメンバ108、110から他方のフロアサイドメンバ104、106に伝達された荷重や振動を、剛性の高いサイドシル112、114に効率的に伝達し分散させることができる。
【0065】
またリヤサイドメンバ108では、第1リヤサイドメンバ158と第2リヤサイドメンバ162が接続領域170(
図2参照)においてサイドシル112に接合されている。このため、第1リヤサイドメンバ158と第2リヤサイドメンバ162との接合面がサイドシル112にも接合することになり、これらの部材の接続剛性を高めて、リヤサイドメンバ108自体の振動を抑制できる。
【0066】
さらに弧状の第1リヤサイドメンバ158と屈曲部174を含む第2リヤサイドメンバ162を互いの境界およびその前後にわたる接続領域170でサイドシル112とともに接合するため、第1リヤサイドメンバ158と第2リヤサイドメンバ162を一体成形する場合に比べて製造が容易となる。
【0067】
なお上記の一対のフロアサイドメンバ104、106およびクロスメンバ116は、フロアパネル102の下側に配置したが、これに限られず、フロアパネル102の上側に配置してもよい。
【0068】
図4は、
図1の車両下部構造100の変形例を示す図である。変形例の車両下部構造100Aは、一対のフロアサイドメンバ104A、106Aを備える。フロアサイドメンバ104Aは、図示のように弧状の第1フロアサイドメンバ196と、第2フロアサイドメンバ198とを有する。またフロアサイドメンバ106Aは、弧状の第1フロアサイドメンバ200と、第2フロアサイドメンバ202とを有する。
【0069】
第2フロアサイドメンバ198は、第1フロアサイドメンバ196およびリヤサイドメンバ108Aとセンタートンネル204との間で車両前後方向に延びている。第2フロアサイドメンバ198は、その前端206が第1フロアサイドメンバ196と連結部材208に接合され、後端210が第1リヤクロスメンバ184に接合されている。なお連結部材208は、第1フロアサイドメンバ196、200を車両前側で連結する部材である。
【0070】
第2フロアサイドメンバ202は、第1フロアサイドメンバ200およびリヤサイドメンバ110Aとセンタートンネル204との間で車両前後方向に延びている。第2フロアサイドメンバ202は、その前端212が第1フロアサイドメンバ200と連結部材208に接合され、後端214が第1リヤクロスメンバ184に接合されている。なお第2フロアサイドメンバ198、202は、クロスメンバ116の前後で一体の部材としたが、これに限らず別体の部材としてもよい。
【0071】
車両下部構造100Aでは、第2フロアサイドメンバ198、202、連結部材208およびクロスメンバ116によって水平方向に閉断面が構成され、これにより剛性が高められて振動を抑制できる。また、第1フロアサイドメンバ196と第2フロアサイドメンバ198、および、第1フロアサイドメンバ200と第2フロアサイドメンバ202によって水平方向に閉断面がそれぞれ構成され、これにより剛性が高められて振動を抑制できる。
【0072】
また、第1リヤサイドメンバ158、第2フロアサイドメンバ198および第1リヤクロスメンバ184によって水平方向に閉断面が構成され、これにより剛性が高められて振動を抑制できる。第1リヤサイドメンバ160、第2フロアサイドメンバ202および第1リヤクロスメンバ184によって水平方向に閉断面が構成され、これにより剛性が高められて振動を抑制できる。
【0073】
さらに、第2フロアサイドメンバ198、202、クロスメンバ116および第1リヤクロスメンバ184によって水平方向に閉断面が構成され、これにより剛性が高められて振動を抑制できる。なお車両下部構造100Aでは、各部材が一体化されているが、これに限らず、各部材の一部またはすべての構成を別部材にしてそれらを適宜接合してもよい。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、車両下部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
100、100A…車両下部構造、102…フロアパネル、104、104A、106、106A…フロアサイドメンバ、108、108A、110、110A…リヤサイドメンバ、112、114…サイドシル、116…クロスメンバ、118、120…ブレース、122…フロントサスペンション、124…フロントサスペンションフレーム、126、128…フロントサスペンションタワー、129、131…サスペンション固定部、130、132…リヤサスペンション、133、135…フロントサイドメンバ、134、136…リヤサスペンション固定部、138、140…リヤサスペンションタワー、142、144…フロアパネルの縁、146…第1の円、148…第2の円、150、152…ブレースの後面、154、156…フロアサイドメンバの後部、157、159…トルクボックス、158、160…第1リヤサイドメンバ、162、164…第2リヤサイドメンバ、166、168…第1リヤサイドメンバの後端、170…接続領域、172…第2リヤサイドメンバの前端、174…屈曲部、176…屈曲部の下面、178…揺動軸部、180…ブラケット、182…サイドシルの内側側面、184…第1リヤクロスメンバ、186…第2リヤクロスメンバ、188…側面ブレース、190…第1リヤクロスメンバの下面、192…第1リヤクロスメンバの後面、194…第1リヤクロスメンバのフランジ、196、200…第1フロアサイドメンバ、198、202…第2フロアサイドメンバ、204…センタートンネル、206、212…第2フロアサイドメンバの前端、208…連結部材、210、214…第2フロアサイドメンバの後端