(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】音発生装置、音発生装置搭載車両、及び音発生方法
(51)【国際特許分類】
G10K 15/04 20060101AFI20240625BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20240625BHJP
G10K 11/175 20060101ALI20240625BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G10K15/04 302J
B60R11/02 B
B60R11/02 S
G10K11/175
H04R3/00 310
(21)【出願番号】P 2021032698
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 悠
(72)【発明者】
【氏名】塚田 悠太
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-074995(JP,A)
【文献】特開2007-185994(JP,A)
【文献】特開2013-143861(JP,A)
【文献】特開平06-109067(JP,A)
【文献】特開2011-013311(JP,A)
【文献】特開2011-230723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/04
B60R 11/02
G10K 11/175
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が備える回転体から発せられるノイズ次数音に相当する周波数の音を含んだ疑似ノイズを発生させる音発生装置であって、
1つ又は複数のプログラムを記憶した1つ又は複数のメモリと、
前記1つ又は複数のメモリと結合された1つ又は複数のプロセッサと、
前記回転体の回転速度相関値を取得する回転速度相関値取得装置と、
前記車両の車室内に音を出力するスピーカと、を備え、
前記1つ又は複数のプロセッサは、前記1つ又は複数のプログラムの実行時、
前記回転速度相関値に応じて前記疑似ノイズを前記スピーカから出力する疑似ノイズ出力処理を実行し、
前記ノイズ次数音は、前記回転速度相関値の第一範囲において音圧が最大音圧となり、前記第一範囲の前後の第二範囲において音圧が前記最大音圧よりも小さい音圧となる特性を有し、
前記疑似ノイズ出力処理において、前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記回転速度相関値が前記第一範囲に属するときに前記疑似ノイズを出力せず、
前記回転速度相関値が前記第二範囲に属するときに、前記ノイズ次数音の音圧と前記疑似ノイズの出力音圧との合算値が前記最大音圧を超えない範囲で前記疑似ノイズを出力する
ことを特徴とする音発生装置。
【請求項2】
前記1つ又は複数のメモリは、
前記疑似ノイズの前記出力音圧を前記回転速度相関値を含むパラメータに対応付けて規定した疑似ノイズマップを記憶し、
前記疑似ノイズ出力処理において、前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記疑似ノイズマップに従い、前記回転速度相関値に対応する前記疑似ノイズの出力音圧を取得し、
取得した前記出力音圧を有する前記疑似ノイズを前記スピーカから出力する
ように構成されることを特徴とする請求項1に記載の音発生装置。
【請求項3】
前記1つ又は複数のメモリは、
前記回転速度相関値の変動に応じた前記ノイズ次数音の音圧の変動特性を規定したノイズ次数音マップを記憶し、
前記1つ又は複数のプロセッサは、前記1つ又は複数のプログラムの実行時、
前記ノイズ次数音マップに基づいて前記疑似ノイズマップに規定された前記疑似ノイズの出力音圧を設定するマップ設定処理を実行するように構成され、
前記マップ設定処理において、前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記ノイズ次数音マップから前記ノイズ次数音の音圧を取得し、
取得された前記ノイズ次数音の音圧と前記疑似ノイズの出力音圧との合算値が前記最大音圧となるように、前記疑似ノイズマップにおける前記疑似ノイズの音圧を設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の音発生装置。
【請求項4】
前記音発生装置は、前記車両の車室内の音を集音するマイクを更に含み、
前記1つ又は複数のプロセッサは、前記1つ又は複数のプログラムの実行時、
前記マイクを用いて計測された前記ノイズ次数音の計測値に基づいて、前記ノイズ次数音マップに規定された前記変動特性を補正するマップ補正処理を更に実行することを特徴とする請求項3に記載の音発生装置。
【請求項5】
前記疑似ノイズマップは、更に前記回転体に作用する力を前記パラメータとして含み、
前記疑似ノイズ出力処理において、前記1つ又は複数のプロセッサは、
前記車両の運転状態情報に基づいて、前記回転体に作用する力を演算し、
前記疑似ノイズマップに従い、前記回転体に作用する力及び前記回転速度相関値に対応する前記疑似ノイズの前記出力音圧を取得する
ように構成されることを特徴とする請求項2から請求項4の何れか1項に記載の音発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の前記音発生装置を備えることを特徴とする音発生装置搭載車両。
【請求項7】
車両が備える回転体から発せられるノイズ次数音に相当する周波数の音を含んだ疑似ノイズを、コンピュータが前記回転体の回転速度相関値に応じてスピーカから発生させる音発生方法であって、
前記ノイズ次数音は、前記回転速度相関値の第一範囲において音圧が最大音圧となり、前記第一範囲の前後の第二範囲において音圧が前記最大音圧よりも小さい音圧となる特性を有し、
前記コンピュータは、
前記回転体の回転速度相関値を取得し、
前記回転速度相関値が前記第一範囲に属するときに前記疑似ノイズを出力せず、
前記回転速度相関値が前記第二範囲に属するときに、前記ノイズ次数音の音圧と前記疑似ノイズの出力音圧との合算値が前記最大音圧を超えない範囲で前記疑似ノイズを出力する
ことを特徴とする音発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音発生装置、音発生装置搭載車両、及び音発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車室内に発生するギヤノイズ等の単音ノイズをマスキングする技術が開示されている。この技術では、車室内にギヤノイズ等の単音ノイズが発生していると判断したときに、この単音ノイズをマスクするためのマスキング音として、単音ノイズの臨界帯域幅のホワイトノイズ(白色雑音)を発生させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車室内に発生するノイズには、回転体の回転速度に応じて周波数が変動するノイズ次数音が含まれている。ノイズ次数音の中には、特定の周波数帯域のみにおいて音圧が増大するものがある。特許文献1に記載の単音ノイズもそのようなノイズの一種といえる。
【0005】
特定の状況のみにおいて音圧が増大するノイズは、人が不快感を覚える傾向がある。特許文献1の技術によれば、ホワイトノイズを発生させることによって単音ノイズを聞こえ難くすることはできる。しかしながら、特許文献1の技術では、単音ノイズの臨界帯域幅という特定の周波数帯域においてホワイトノイズを発生させている。このため、乗員にとっては、特定の周波数帯域においてノイズが発生していることに変わりはなく、依然として不快感を覚えるおそれがある。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、車内に発生するノイズによる乗員の不快感を和らげることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、第1の開示は、車両が備える回転体から発せられるノイズ次数音に相当する周波数の音を含んだ疑似ノイズを発生させる音発生装置に適用される。音発生装置は、1つ又は複数のプログラムを記憶した1つ又は複数のメモリと、1つ又は複数のメモリと結合された1つ又は複数のプロセッサと、回転体の回転速度相関値を取得する回転速度相関値取得装置と、車両の車室内に音を出力するスピーカと、を備える。1つ又は複数のプロセッサは、1つ又は複数のプログラムの実行時、回転速度相関値に応じて疑似ノイズをスピーカから出力する疑似ノイズ出力処理を実行する。ノイズ次数音は、回転速度相関値の第一範囲において音圧が最大音圧となり、第一範囲の前後の第二範囲において音圧が最大音圧よりも小さい音圧となる特性を有している。疑似ノイズ出力処理において、1つ又は複数のプロセッサは、回転速度相関値が第一範囲に属するときに疑似ノイズを出力せず、回転速度相関値が第二範囲に属するときに、ノイズ次数音の音圧と疑似ノイズの出力音圧との合算値が最大音圧を超えない範囲で疑似ノイズを出力する。
【0008】
第2の開示は、第1の開示において、更に以下の特徴を有している。
1つ又は複数のメモリは、疑似ノイズの出力音圧を回転速度相関値を含むパラメータに対応付けて規定した疑似ノイズマップを記憶している。疑似ノイズ出力処理において、1つ又は複数のプロセッサは、疑似ノイズマップに従い、回転速度相関値に対応する疑似ノイズの出力音圧を取得し、取得した出力音圧を有する疑似ノイズをスピーカから出力するように構成される。
【0009】
第3の開示は、第2の開示において、更に以下の特徴を有している。
1つ又は複数のメモリは、回転速度相関値の変動に応じたノイズ次数音の音圧の変動特性を規定したノイズ次数音マップを記憶している。1つ又は複数のプロセッサは、1つ又は複数のプログラムの実行時、ノイズ次数音マップに基づいて疑似ノイズマップに規定された疑似ノイズの出力音圧を設定するマップ設定処理を実行するように構成される。マップ設定処理において、1つ又は複数のプロセッサは、ノイズ次数音マップからノイズ次数音の音圧を取得し、取得されたノイズ次数音の音圧と疑似ノイズの出力音圧との合算値が最大音圧となるように、疑似ノイズマップにおける疑似ノイズの音圧を設定するように構成される。
【0010】
第4の開示は、第3の開示において、更に以下の特徴を有している。
音発生装置は、車両の車室内の音を集音するマイクを更に含む。1つ又は複数のプロセッサは、1つ又は複数のプログラムの実行時、マイクを用いて計測されたノイズ次数音の計測値に基づいて、ノイズ次数音マップに規定された変動特性を補正するマップ補正処理を更に実行する。
【0011】
第5の開示は、第2から第4の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
疑似ノイズマップは、更に回転体に作用する力をパラメータとして含む。疑似ノイズ出力処理において、1つ又は複数のプロセッサは、車両の運転状態情報に基づいて、回転体に作用する力を演算し、疑似ノイズマップに従い、回転体に作用する力及び回転速度相関値に対応する疑似ノイズの出力音圧を取得するように構成される。
【0012】
第6の開示は、音発生装置搭載車両に適用される。音発生装置搭載車両は、第1から第5の何れか1つに開示された音発生装置を備える。
【0013】
第7の開示は、車両が備える回転体から発せられるノイズ次数音に相当する周波数の音を含んだ疑似ノイズを、コンピュータが回転体の回転速度相関値に応じてスピーカから発生させる音発生方法に適用される。ノイズ次数音は、回転速度相関値の第一範囲において音圧が最大音圧となり、第一範囲の前後の第二範囲において音圧が最大音圧よりも小さい音圧となる特性を有している。音発生方法において、コンピュータは、回転体の回転速度相関値を取得し、回転速度相関値が第一範囲に属するときに疑似ノイズを出力せず、回転速度相関値が第二範囲に属するときに、ノイズ次数音の音圧と疑似ノイズの出力音圧との合算値が最大音圧を超えない範囲で疑似ノイズを出力する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、疑似ノイズは回転体から発せられるノイズ次数音に相当する周波数の音を含んでいる。音発生装置は、回転体から発せられるノイズ次数音が最大音圧となる回転速度相関値の第一範囲において疑似ノイズを出力せず、その前後の第二範囲において疑似ノイズを出力する。このような構成によれば、第二範囲においてノイズ次数音の音圧と疑似ノイズの出力音圧の合算値が最大音圧に近づくので、回転速度相関値が変動した場合であっても車室内にはギヤノイズ次数音が切れ目なく聞こえるようになる。これにより、ギヤノイズ次数音による乗員の不快感が和らげることが可能となる。
【0015】
第2の開示によれば、回転速度相関値に基づいて疑似ノイズの出力音圧が取得される。ノイズ次数音の音圧は回転速度相関値に応じて変動する。このため、本開示によれば、ノイズ次数音の音圧を考慮した疑似ノイズの出力音圧の設定が可能となる。
【0016】
第3の開示によれば、ノイズ次数音の音圧と疑似ノイズの音圧との合算値が最大音圧となるように、疑似ノイズの音圧を設定することができる。これにより、車室内には最大音圧のギヤノイズ次数音が切れ目なく聞こえるようになるので、ギヤノイズ次数音による乗員の不快感が和らぐ。
【0017】
第4の開示によれば、マイクによって集音したノイズ次数音の計測値に基づいて、ノイズ次数音の変動特性を補正することができる。これにより、経年劣化等によってノイズ次数音の変動特性が変化した場合であっても、疑似ノイズの音圧を適切に設定することができる。
【0018】
第5の開示によれば、回転速度相関値と回転体に作用する力とに基づいて疑似ノイズの音圧が取得される。ノイズ次数音の音圧は、回転体に作用する力によっても変動する。このため、本開示によれば、ノイズ次数音の音圧を更に考慮した疑似ノイズの出力音圧の設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態に係る音発生装置が適用された車両の概略構造を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る音発生装置の概略構造を示す図である。
【
図3】車室内に発生するギヤノイズ次数音のスペクトルの一例を示す図である。
【
図4】車室内に発生するギヤノイズ次数音及び疑似ノイズのスペクトルの一例を示す図である。
【
図7】疑似ノイズを出力した場合の車室内のギヤノイズ次数音の音圧の変動を示す一例である。
【
図8】車載コンピュータが有する機能を表すブロック図である。
【
図9】マップ設定処理を実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】マップ補正処理を実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図11】疑似ノイズ発生処理を実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図12】ギヤに作用する力を考慮した疑似ノイズマップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この開示が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この開示に必ずしも必須のものではない。
【0021】
実施の形態.
1.音発生装置の構成例
図1は、実施の形態に係る音発生装置が適用された車両の概略構造を示す図である。
図2は、実施の形態に係る音発生装置の概略構造を示す図である。音発生装置100は車両10に搭載される。つまり、車両10は音発生装置搭載車両である。車両10は、例えば、ギヤ、モータ、インバータ等、回転運動を行う回転体を備えている。回転体から発生するノイズには、回転速度に応じて周波数が変動するノイズ次数音が含まれている。本実施の形態では、車両10が回転体として駆動系のギヤ12を有し、当該ギヤ12の回転運動に伴い、「ギヤノイズ次数音」と呼ばれるノイズ次数音が発生する場合を例示する。
【0022】
音発生装置100は、車載コンピュータ20を備える。車載コンピュータ20は、車両10に搭載されるECU(Electronic Control Unit)である。また、音発生装置100は、マイク14、スピーカ16、内部センサ17、及び回転速度センサ18を備えている。これらは、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを用いて車載コンピュータ20に接続されている。
【0023】
車載コンピュータ20は、1つ又は複数のプロセッサ20a(以下、単にプロセッサ20aと呼ぶ)とプロセッサ20aに結合された1つ又は複数のメモリ20b(以下、単にメモリ20bと呼ぶ)とを備えている。メモリ20bには、プロセッサ20aで実行可能な1つ又は複数のプログラム20c(以下、単にプログラム20cと呼ぶ)とそれに関連する種々の情報とが記憶されている。
【0024】
プロセッサ20aがプログラム20cを実行することにより、プロセッサ20aによる各種処理が実現される。プログラム20cには、例えば、車室内に音を発生させるためのプログラムが含まれる。メモリ20bは主記憶装置と補助記憶装置とを含む。プログラム20cは、主記憶装置に記憶されることもできるし、補助記憶装置であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されることもできる。
【0025】
マイク14は、車室内の音を集音する集音装置である。マイク14は、車室内の乗員が聞く音にできるだけ近い音を集音できるように、例えば、車室内の乗員の乗車位置の傍に配置してもよい。マイク14は、複数個設けられていてもよい。また、マイク14は、車両10が備えるナビゲーションシステム等の他の機器用のマイクと共用されてもよい。
【0026】
スピーカ16は、車室内に音を発生させる音出力装置である。スピーカ16の車室内での配置に限定はない。スピーカ16は、車室内の乗員に向けて音を出力できるように、例えば、車室内の乗員の乗車位置の傍に配置してもよい。また、スピーカ16は、複数個設けられていてもよい。また、スピーカ16は、車室内に設けられたオーディオ機器やナビゲーションシステム等の機器用のスピーカと共用されてもよい。
【0027】
内部センサ17は、車両10の運転状態に関する情報を取得する状態センサを含む。内部センサ17としては、車速を検出するための車輪速センサや加速度センサ等が例示される。内部センサ17で得られた情報は車載コンピュータ20に送信される。以下、内部センサ17で得られた情報を「運転状態情報」と称する。
【0028】
回転速度センサ18は、回転体であるギヤ12の回転速度NEGを回転速度相関値として取得する。つまり、回転速度センサ18は、回転体であるギヤ12の回転速度相関値を取得する回転速度相関値取得装置として機能する。回転速度センサ18で得られた回転速度NEGは、車載コンピュータ20に送信される。
【0029】
2.実施の形態の音発生装置に係る音発生方法
図3は、車室内に発生するギヤノイズ次数音のスペクトルの一例を示す図である。車両10の車速はギヤ12の回転速度と相関を有する回転速度相関値である。このため、ギヤノイズ次数音の周波数特性は車速及びギヤ12の回転速度に応じて変動する。ここで、
図3に示すように、ギヤノイズ次数音は、特定の車速において音圧が大きくなることがある。一般的に、人は常時聞いている音よりも特定状況でのみ聞こえる音に対して敏感に反応することが知られている。このため、
図3に示すように、特定の車速において音圧が増大するギヤノイズ次数音は、乗員が不快感を覚えるおそれがある。
【0030】
そこで、本実施の形態の音発生装置100は、車室内に発生しているギヤノイズ次数音に相当する周波数の音を含んだノイズをスピーカ16から出力する。このノイズは、以下「疑似ノイズ」と呼ばれる。
図4は、車室内に発生するギヤノイズ次数音及び疑似ノイズのスペクトルの一例を示す図である。この図に示す例では、ギヤ12の回転速度の第一範囲は、少なくともギヤノイズ次数音の音圧が最大音圧となる回転速度を含む。第二範囲は第一範囲の前後に隣接する回転速度の範囲である。第二範囲におけるギヤノイズ次数音の音圧は、第一範囲よりも相対的に小さい。
【0031】
本実施の形態の音発生装置100は、第一範囲において疑似ノイズをスピーカ16から出力せず、第二範囲において疑似ノイズをスピーカ16から出力する。この処理は、「疑似ノイズ出力処理」と呼ばれる。出力される疑似ノイズの音特性(周波数及び音圧)は、例えば、疑似ノイズマップに規定されている。
図5は、疑似ノイズマップの一例を示す図である。疑似ノイズマップは、疑似ノイズの出力周波数FQ及び出力音圧SPが、パラメータとしてのギヤ12の回転速度NEGに対応付けられて規定されている。疑似ノイズマップにおいて、疑似ノイズの出力周波数FQは、回転速度NEGに応じて変動するギヤノイズ次数音の周波数特性に相当する周波数となるように設定される。
【0032】
音発生装置100は、回転速度NEGの変動に応じたノイズ次数音の基準周波数BFQ及び基準音圧BSPの変動特性を規定したノイズ次数音マップを記憶している。
図6は、ノイズ次数音マップの一例を示す図である。ノイズ次数音マップは、回転速度NEGに応じて変動する車両10の車室内のノイズ次数音をマップ化したものである。ノイズ次数音マップの基準音圧BSP及び基準周波数BFQは、実験等により求めた値を用いることができる。
【0033】
疑似ノイズマップにおいて、疑似ノイズの出力音圧SPは、例えばノイズ次数音マップに記憶されている変動特性に基づいて、設定することができる。この処理は、「マップ設定処理」と呼ばれる。典型的には、マップ設定処理では、ノイズ次数音マップから回転速度NEGと基準音圧BSPとの関係が取得される。そして、基準音圧BSPと疑似ノイズの出力音圧SPとの合算値が回転速度NEGの変動によらず最大音圧MSPとなるように、回転速度NEGに対応する疑似ノイズの出力音圧SPが設定される。なお、マップ設定処理において実行される具体的な処理については、詳細を後述する。
【0034】
なお、ノイズ次数音マップに規定されているノイズ次数音の変動特性は、車両10の経年劣化や環境条件等によって実際の変動特性との間に誤差が生じることがある。そこで、音発生装置100は、例えば、マイク14によって集音された車室内のノイズ次数音の計測値に基づいて、ノイズ次数音マップに規定されている変動特性を補正することができる。この処理は、「マップ補正処理」と呼ばれる。典型的には、マップ補正処理では、マイク14を用いて計測されたノイズ次数音の音圧DSPとノイズ次数音マップに規定されているノイズ次数音の基準音圧BSPとが比較される。そして、これらの音圧が異なる場合に、基準音圧BSPが、計測された音圧DSPの値に補正される。マップ補正処理において実行される具体的な処理については、詳細を後述する。
【0035】
図7は、疑似ノイズを出力した場合の車室内のギヤノイズ次数音の音圧の変動を示す一例である。この図に示す例では、ギヤノイズ次数音が最大音圧となっている第一範囲では疑似ギヤノイズが出力されず、第一範囲の前後に隣接する第二範囲では出力音圧SPの合算値が最大音圧MSPとなるように疑似ギヤノイズが出力されている。このように、疑似ノイズ出力処理によって車室内に疑似ノイズを発生させると、車速の変化に応じて回転速度NEGが変動したとしても、車室内にはギヤノイズ次数音が一定の音圧で切れ目なく聞こえるようになる。これにより、ギヤノイズ次数音による乗員の不快感が和らぐ。
【0036】
3.実施の形態の音発生装置の機能構成
上述の音発生方法は、
図2に示す構成を有する本実施形態に係る音発生装置100によって実現することができる。
図8には、車載コンピュータ20が有する機能がそれぞれブロックで表されている。以下、車載コンピュータ20の各機能を中心に実施の形態に係る音発生装置100について説明する。ただし、既に説明した構成や機能については説明を省略するか或いは簡略化する。
【0037】
車載コンピュータ20は、マップ設定処理部202と、マップ補正処理部204と、疑似ノイズ出力処理部と206と、を備える。これらは、車載コンピュータ20のメモリ20bに記憶されたプログラム20cがプロセッサ20aで実行されたときに、車載コンピュータ(ECU)20の機能として実現される。
【0038】
3-1.マップ設定処理
マップ設定処理部202は、ノイズ次数音マップの設定処理を行う。
図9は、マップ設定処理を実行するルーチンを示すフローチャートである。車載コンピュータ(ECU)20は、
図9に示すルーチンを所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0039】
図9に示すルーチンのステップS100では、先ず車両10の運転状態情報が取得される。次のステップS102では、運転状態情報から算出された車速Vが0(ゼロ)より大きいかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められない場合、車両10は停止中であると判断されて、本ルーチンは終了される。一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS104に進む。
【0040】
ステップS104では、マイク14を用いて車室内の音(車室音)が計測される。計測された車室音はメモリ20bに格納される。次のステップS106では、回転速度センサ18を用いて回転速度NEGが計測される。
【0041】
次のステップS108では、ギヤ12の歯数TNと回転速度NEGを用いて車室音をFFT解析することによって、ギヤ12のギヤノイズ次数音が抽出される。メモリ20bは、回転速度NEGの変動に応じたノイズ次数音の基準周波数BFQおよび基準音圧BSPの変動特性を規定したノイズ次数音マップを記憶している。ステップS110では、ステップS108において抽出したギヤノイズ次数音の音圧DSPがギヤノイズマップに記憶されている基準音圧BSPと同じかどうかが判定される。その結果、ギヤノイズ次数音の音圧DSPが基準音圧BSPと等しい場合、本ルーチンは終了され、ギヤノイズ次数音の音圧DSPが基準音圧BSPと異なる場合、処理はステップS112に進む。
【0042】
ステップS112では、ギヤノイズ次数音の音圧DSPを新たなギヤノイズマップの基準音圧BSPとして保存する。これにより、ギヤノイズマップの基準音圧BSPが更新される。ステップS112の処理が完了すると、処理はステップS114に進む。ステップS114では、以下のマップ補正処理が実行される。
【0043】
3-2.マップ補正処理
マップ補正処理部204は、疑似ノイズマップを補正するマップ補正処理を行う。
図10は、マップ補正処理を実行するルーチンを示すフローチャートである。ステップS114では、車載コンピュータ(ECU)20は、
図10に示すルーチンを実行する。
【0044】
図10の示すルーチンのステップS120では、ノイズ次数音マップを用いて疑似ギヤノイズが演算される。ここでは、ノイズ次数音マップに規定されている基準音圧BSPの中から最大音圧MSPが読み込まれる。そして、各回転速度NEGの基準音圧BSPから最大音圧MSPまでの不足分、つまり最大音圧MSPから基準音圧BSPを差し引いた音圧分が疑似ギヤノイズの音圧とされる。ステップS120の処理が完了すると、処理はステップS122に進む。
【0045】
ステップS122では、ノイズ次数音マップの更新に伴い疑似ノイズマップが更新される。演算された疑似ギヤノイズは、疑似ギヤノイズマップに保存される。これにより、疑似ギヤノイズマップが更新される。ステップS122の処理が完了すると本ルーチンは終了される。
【0046】
3-3.疑似ノイズ出力処理
疑似ノイズ出力処理部206は、疑似ノイズをスピーカ16から出力する疑似ノイズ出力処理を行う。
図11は、疑似ノイズ発生処理を実行するルーチンを示すフローチャートである。車載コンピュータ(ECU)20は、
図11に示すルーチンを所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0047】
図11に示すルーチンのステップS130では、先ず、回転速度センサ18を用いて、車両10のギヤ12の回転速度NEGが計測される。次のステップS132では、疑似ノイズマップを用いて、計測した回転速度NEGに対応する疑似ギヤノイズの周波数及び音圧が取得される。次のステップS134では、取得した疑似ギヤノイズをスピーカ16から出力するための出力信号が生成される。次のステップS136では、生成された出力信号に従いスピーカ16から疑似ノイズが出力される。
【0048】
以上のような音発生装置100による音発生方法によれば、ギヤ12の回転速度NEGが変動したとしても、車室内の乗員が聞くギヤノイズ次数音は一定の音圧に保たれる。これにより、ギヤノイズ次数音による乗員の不快感を和らげることができる。
【0049】
4.変形例
本実施の形態の音発生装置100は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0050】
本実施の形態では、ギヤノイズ次数音を例示して音発生装置100の動作を説明した。しかしながら、本実施の形態の音発生装置100は、モータやインバータ等、車両10が備える回転体から発生する幅広いノイズ次数音に対して適用することができる。この場合、回転速度相関値取得装置は、対象となる回転体の回転速度を取得するようにすればよい。
【0051】
マップ設定処理は、基準音圧BSPの設定に限らず、計測された車室音に基づいて基準周波数BFQも設定する構成としてもよい。この場合、マップ設定処理部202では、計測された車室音から抽出されたギヤノイズ次数音の周波数DFQがギヤノイズマップに記憶されている基準周波数BFQと同じかどうかを判断する。そして、周波数DFQが基準周波数BFQと異なる場合、ギヤノイズ次数音の周波数DFQを新たなギヤノイズマップの基準周波数BFQとして保存すればよい。
【0052】
本実施の形態の音発生装置100の制御において、回転速度相関値は、ギヤ12の回転速度NEGだけでなく、例えば回転速度NEGと相関を有する車速Vを用いてもよい。
【0053】
疑似ノイズマップは、ギヤノイズ次数音の基準音圧BSPとの合算値が最大音圧MSPに一致するように疑似ノイズの出力音圧SPを設定している。しかしながら、疑似ノイズマップは、当該合算値が最大音圧MSPを超えない範囲で、最大音圧MSPに近づくように疑似ノイズの出力音圧SPを設定してもよい。
【0054】
本実施の形態の音発生装置100において、実験等により予め設定したノイズ次数音マップを用いることとすれば、マップ設定処理は必須の処理ではない。
【0055】
疑似ノイズマップは、出力音圧SP及び出力周波数FQを取得するパラメータとして、ギヤ12の回転速度NEGに加えて、ギヤ12に作用する力FGを考慮してもよい。ギヤ12に作用する力FGは、運転状態情報に含まれるモータやエンジン等の動力源のトルク情報とギヤ12の半径等から計算することができる。
図12は、ギヤに作用する力を考慮した疑似ノイズマップの一例を示す図である。この図に示す例では、
図5に示す疑似ノイズマップが、ギヤ12に作用する力FG毎に規定された三次元マップとして構成されている。
【0056】
疑似ノイズ出力処理では、ステップS130において運転状態情報に基づいて、ギヤ12に作用する力FGを演算する。そして、ステップS132において、回転速度NEGと力FGに対応する疑似ノイズの出力周波数FQと出力音圧SPを疑似ノイズマップから取得すればよい。このような処理によれば、ギヤ12に作用する力FGが変動した場合であっても、車室内に発生するギヤノイズ次数音を一定の音圧に保つことができる。
【符号の説明】
【0057】
10 車両(音発生装置搭載車両)
12 ギヤ(回転体)
14 マイク
16 スピーカ
17 内部センサ
18 回転速度センサ
20 車載コンピュータ(ECU)
20a プロセッサ
20b メモリ
20c プログラム
100 音発生装置
202 マップ設定処理部
204 マップ補正処理部
206 疑似ノイズ出力処理部