(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】流体殺菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20240625BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20240625BHJP
【FI】
A61L2/10
C02F1/32
(21)【出願番号】P 2021068724
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】山森 翔太
(72)【発明者】
【氏名】下西 正太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智行
(72)【発明者】
【氏名】林 貴文
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0081854(KR,A)
【文献】特表2012-512723(JP,A)
【文献】特開2018-149213(JP,A)
【文献】米国特許第05874741(US,A)
【文献】特開2018-148938(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0257952(US,A1)
【文献】特開2021-016715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/10
C02F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口と流出口とを有し、前記流入口から導入した流体を前記流出口から排出する筐体と、
前記筐体内部に配置され、前記流体を滞留させる滞留空間を有した隔壁と、
前記滞留空間内の前記流体に紫外線を照射する紫外発光素子と、
を有し、
前記滞留空間は、前記滞留空間への流体の流入方向に角度を成す側面を有し、
前記側面の前記流入方向を含む面での断面形状は、
外側に向かって凸な曲面であり、前記流入方向とは反対側に向かって次第に曲率半径が小さくなる
曲面である、
ことを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項2】
前記滞留空間からの流体の流出方向は、前記滞留空間への流体の前記流入方向とは逆向きである、ことを特徴とする請求項1に記載の流体殺菌装置。
【請求項3】
前記隔壁は、前記紫外発光素子からの紫外線を反射する反射材からなる、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の流体殺菌装置。
【請求項4】
前記筐体の内壁と前記隔壁との間に、前記滞留空間から排出された流体の流路を有し、
前記紫外発光素子は、前記流路に配置されている、ことを特徴とする請求項1
ないし請求項3のいずれか1項に記載の流体殺菌装置。
【請求項5】
前記紫外発光素子は、前記流入方向に対向して配置されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の流体殺菌装置。
【請求項6】
前記筐体は、球形である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の流体殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線の照射によって液体を殺菌する装置に関する。特に光源として紫外LEDを用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線の照射によって流水中の細菌やウイルスを殺菌する殺菌装置が知られている。光源には水銀ランプが広く用いられている。水銀ランプは、水銀を用いているため毒性が強く環境負荷が大きいという問題がある。また、水銀ランプを用いると殺菌装置が大型になるという問題もある。そこで水銀ランプの紫外LEDへの置き換えが進められている。紫外LEDを用いた流体殺菌装置として、特許文献1~3がある。
【0003】
特許文献1には、円筒状の筐体の上面と下面にそれぞれ流入口と流出口を設け、下面側に流入口と対向して紫外LEDを設けた流体殺菌装置が記載されている。
【0004】
特許文献2には、筐体を積分楕円体や積分球とし、側面に紫外LEDを配置した流体殺菌装置が記載されている。また、筐体の内部であって流入口に対向する位置に機械的バッフルを設けて流体の滞留時間を長くし、それにより殺菌効率を向上させることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、容器を外側と内側の二重にし、外側容器に流入した流体は、外側容器と内側容器の隙間を通って内側容器に流入することが記載されている。また、容器の形状は円筒や球とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2020-530384号公報
【文献】特許第5432286号公報
【文献】特表2020-521556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、光源として紫外LEDを用いれば、装置の小型化を図ることができるが、紫外線の照射時間が短くなってしまい、殺菌効率が低下してしまう問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、光源として紫外LEDを用いた流体殺菌装置の殺菌効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、流入口と流出口とを有し、前記流入口から導入した流体を前記流出口から排出する筐体と、筐体内部に配置され、前記流体を滞留させる滞留空間を有した隔壁と、滞留空間内の前記流体に紫外線を照射する紫外発光素子と、を有し、滞留空間は、前記滞留空間への流体の流入方向に角度を成す側面を有し、側面の前記流入方向を含む面での断面形状は、外側に向かって凸な曲面であり、前記流入方向とは反対側に向かって次第に曲率半径が小さくなる曲面である、ことを特徴とする流体殺菌装置である。
【0010】
滞留空間からの流体の流出方向は、前記滞留空間への流体の前記流入方向とは逆向きであってもよい。
【0011】
隔壁は、紫外発光素子からの紫外線を反射する反射材からなるものであってもよい。
【0012】
筐体の内壁と前記隔壁との間に、前記滞留空間から排出された流体の流路を有し、前記紫外発光素子は、前記流路に配置されていてもよい。
【0013】
紫外発光素子は、前記流入方向に対向して配置されていてもよい。
【0014】
筐体は球形であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、筐体内の滞留空間における流体の平均滞留時間を長くすることができる。その結果、流体への紫外線の照射時間を長くすることができ、殺菌効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1の流体殺菌装置の断面を示した図である。
図1のように、実施例1の流体殺菌装置は、筐体10と、紫外LED(紫外発光素子)11と、隔壁12と、を有している。
【0019】
筐体10は、球形であり、内部に水を導入するための空間を有している。筐体10は、筐体10内部へ水を供給する流入口13と、筐体10外部へ水を排出する流出口14を有する。流入口13と流出口14は、筐体10の球の軸に対して同軸に対向して設けられている。筐体10は、たとえばSUS(ステンレス鋼)からなる。
【0020】
筐体10の内部には、流入口13に連続して管15が設けられている。管15は円筒状であり、筐体10の球の軸と同軸に配置されている。また、管15は、筐体10の中心部付近(後述の滞留空間20)まで延びている。この管15によって流入口13からの水を滞留空間20に導いている。
【0021】
紫外LED11は、流体の殺菌に適した波長の紫外線を発光するLEDである。たとえば波長は250~280nmである。紫外LED11は、基板16上に実装され、その基板16は第3流路23内に配置されている。また、紫外LED11から放射される紫外線が、ガラス板17を透過して滞留空間20および管15内を照射するように基板16が配置されている。
【0022】
隔壁12は、筐体10の内部に設けられている。隔壁12は、筐体10内部に所定の流路を形成するために設けるものであり、筐体10の形状によりその流路を設定している。流路は、水が滞留する滞留空間20と、流入の外壁に沿って水が流れる第1流路21と、筐体の内壁に沿って水が流れる第2流路22と、紫外LED11が実装された基板16を配置し、基板16の裏面に水が流れる第3流路23と、によって構成されている。
【0023】
滞留空間20は、管15からの水を滞留させるための空間である。滞留空間20は、管15に対向し、管15の軸に垂直な平面である底面20aと、その平面に角度を成なして管15側に延びる側面20bとを有している。
【0024】
滞留空間20の底面20aには、円形の孔20cが空けられている。その孔20cは隔壁12の外側、第3流路23内に配置されたガラス板17によって覆われ、孔20cが封止されている。紫外LED11からの紫外線は、ガラス板17を透過し孔20cを介して滞留空間20に放射される。ガラス板17の材料は、紫外LED11から放射される紫外線を透過する材料であれば任意であり、たとえば石英ガラスである。なお、底面20aは平面に限らず、曲面であってもよい。
【0025】
滞留空間20の側面20bは、外側に向かって凸な曲面であり、滞留空間20への水の流入方向(管15の軸方向と同軸)を含む面での断面形状が黄金螺旋となっている。また、その黄金螺旋は、滞留空間20への水の流入方向とは反対側に向かって次第に曲率半径が小さくなる螺旋である。滞留空間20への水の流入方向を含む面での断面においては、
図1に示すように、流入側を上にとると、管15の軸の右側の側面20bは時計回り(右巻き)の黄金螺旋、左側の側面20bは反時計回り(左巻き)の黄金螺旋となる。
【0026】
第1流路21は、管15の外側面と隔壁12との隙間に形成される流路であり、滞留空間20から水が流れ込む流路である。第1流路21の方向は、滞留空間20への水の流入方向と平行であるため、滞留空間20から第1流路21への水の排出方向は流入方向とは逆方向である。そのため、滞留空間20から水が排出しにくくなっており、これにより滞留空間20における水の平均滞留時間が長くなっている。つまり、筐体10内の流速分布が均一化し、全体に同一時間の紫外線が照射されるようになっている。
【0027】
第2流路22は、隔壁12の側部と筐体10の内壁との隙間に形成される流路であり、第1流路21と第3流路23とを接続する流路である。第1流路21から第2流路22に流れ込んだ水は、筐体10の径方向に沿って流れた後、筐体10の内壁に沿って流出口14側へと流れ、第3流路23へと流れ込む。
【0028】
第3流路23は、隔壁12の下部と筐体10の内壁との隙間に形成される流路である。第3流路23によって、紫外LED11が実装された基板16を配置するスペースを確保している。基板16は、防水のため封止部18により封止されている。第2流路22から第3流路23に流れ込んだ水は、封止部18に接触しながら流出口14へと流れ込み、筐体10の外部へと排出される。また、封止部18と筐体10に孔が設けられ、その孔は配線用管19で連結されている。基板16からの配線(図示しない)は、配線用管19を通して外部に取り出される。
【0029】
隔壁12は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなる。PTFEを用いることで、紫外線に対する耐性を確保するとともに、側面20bでの紫外線の反射により水への紫外線の照射効率を向上させ、殺菌効率の向上を図っている。PTFE以外にも紫外線に対する耐性を有した材料であれば任意の材料を用いてよい。たとえばSUS(ステンレス)やAlなどを用いてもよい。また、隔壁12の材料として紫外線反射率の低い材料を用いる場合、側面20bに紫外線反射率が高い材料からなる反射膜を設けてもよい。
【0030】
次に、実施例1の流体殺菌装置の動作について説明する。流入口13から流入した水は、管15を介して筐体10内部の滞留空間20に導かれる。滞留空間20の底面20aは管15に対向しているため、水の流れが底面20aによって遮られ、滞留空間20の側面20bに沿って水が流れる。ここで、側面20bの形状が、外側に向かって凸な曲面であり、滞留空間20への水の流入方向を含む面での断面形状が黄金螺旋であるため、滞留空間20内で水が渦巻くように流れる。また、管15からの水の流入方向と、第1流路21への水の排出方向が逆方向であるため、滞留空間20から水が排出されにくい。そのため、滞留空間20において水が長時間滞留する。その結果、滞留空間20における水への紫外線の照射時間が長くなり、殺菌効率が向上している。
【0031】
また、滞留空間20において殺菌された水は、第1流路21、第2流路22を介して第3流路23へと流れ、封止部18と接触した後、流出口14から排出される。そのため、封止部18を介して紫外LED11を効率的に冷却することができる。
【0032】
図2は、実施例1の流体殺菌装置について、筐体10内の水の流れをシミュレーションした結果である。
図2のように、滞留空間20内で水が側面20bの螺旋形状に沿って渦巻いていることがわかり、滞留空間20内での水の平均滞留時間が長くなっていることがわかる。
【0033】
以上、実施例1の流体殺菌装置によれば、滞留空間20の側面20bを滞留空間20への水の流入方向を含む面での断面形状が黄金螺旋となるようにしているため、滞留空間20内での水の平均滞留時間を長くさせることができる。その結果、流体への紫外線の照射時間を長くすることができ、殺菌効率を向上させることができる。
【0034】
なお、実施例1では滞留空間20側面の形状を黄金螺旋としていたが、任意の螺旋形状でよく、曲率が連続的に変化するものだけでなく、段階的に変化するものであってもよい。たとえば、対数螺旋、アルキメデスの螺旋、双曲螺旋などであってもよい。
【0035】
また、実施例1では、筐体10の形状を球形としているが、これに限らず任意の形状でよい。たとえば、半球、円筒、楕円球などの形状であってもよい。ただし、紫外LED11からの紫外線を近距離で水に照射して殺菌効率の向上を図るためには、実施例1のように球形が好ましい。
【0036】
また、実施例1では殺菌対象を水とした例を示したが、本発明は水の殺菌に限らず、任意の流体の殺菌に用いることができる。
【0037】
実施例1の流体殺菌装置を複数個並列または直列に接続してもよい。並列に接続することでより多くの流体を同時に処理することができる。また、直列に接続することで殺菌効率をより向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の殺菌装置は小型化が可能であるため、家庭用の給湯器などの水の殺菌に好適である。
【符号の説明】
【0039】
10:筐体
11:紫外LED
12:隔壁
13:流入口
14:流出口
15:管
16:基板
17:ガラス板
20:滞留空間
21:第1流路
22:第2流路
23:第3流路