(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】組電池の劣化診断装置、及び組電池の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
B60W 20/13 20160101AFI20240625BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20240625BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20240625BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20240625BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240625BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240625BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20240625BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240625BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240625BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240625BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240625BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240625BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20240625BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240625BHJP
B60L 58/14 20190101ALI20240625BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B60W20/13
B60K6/445 ZHV
B60W20/40
B60W10/26 900
B60W10/06 900
G01R31/392
G01R31/387
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M10/42 P
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/16
B60L3/00 S
B60L58/14
H02J7/00 302A
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2021180364
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩次
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/145213(WO,A1)
【文献】特開2011-061955(JP,A)
【文献】特開2014-143868(JP,A)
【文献】特開2008-094178(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230069(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/124070(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/102735(WO,A1)
【文献】特開昭60-001581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/13
B60K 6/445
B60W 20/40
B60W 10/26
B60W 10/06
G01R 31/392
G01R 31/387
H01M 10/48
H01M 10/44
H01M 10/42
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/16
B60L 3/00
B60L 58/14
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された組電池に含まれる複数のセルの各々の電圧を測定しながら各セルの放電を実行する放電部と、
前記複数のセルの少なくとも1つについて放電開始電圧から所定の放電終了電圧までの電圧の推移を示す電圧データを用いて、前記組電池の劣化度合いを推定する推定部と、
を含み、
前記車両は、内燃機関と、前記内燃機関の始動処理を行なうモータとをさらに備え、
前記組電池は、前記モータに電力を供給するように構成され、
前記放電部は、前記各セルの放電中に、放電を継続すると前記始動処理に必要な電力を前記組電池が前記モータに供給できなくなるか否かを判断し、前記始動処理に必要な電力を前記組電池が前記モータに供給できなくなる前に放電を終了させるように構成され
、
前記放電部は、
前記組電池に含まれる全てのセルの電圧が前記放電終了電圧に達した場合に成立する第1終了条件と、
放電を継続すると前記始動処理に必要な電力を前記組電池が前記モータに供給できなくなると判断された場合に成立する第2終了条件と、
のいずれかが成立すると放電を終了させ、
前記第1終了条件の成立によって放電が終了した場合には、前記推定部が、前記組電池に含まれる全てのセルの前記電圧データを用いて、前記組電池の劣化度合いを推定し、
前記第2終了条件の成立によって放電が終了した場合には、前記推定部が、放電終了前に電圧が前記放電終了電圧に達したセルの前記電圧データを用いて、前記組電池の劣化度合いを推定する、組電池の劣化診断装置。
【請求項2】
前記放電部は、前記各セルの放電中に、前記組電池に含まれる全てのセルの電圧の平均値又は中央値が所定値以下になると、これ以上放電を継続すると前記始動処理に必要な電力を前記組電池が前記モータに供給できなくなると判断して放電を終了させる、請求項1に記載の組電池の劣化診断装置。
【請求項3】
前記放電部は、第3終了条件が成立する場合にも放電を終了させ、
前記第3終了条件は、前記組電池に含まれるいずれかのセルの電圧が所定電圧に達した場合に成立し、
前記所定電圧は、前記放電終了電圧よりも低い、請求項
1又は2に記載の組電池の劣化診断装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記電圧データを用いてセルごとの満充電容量を推定し、推定された満充電容量に基づいてセルを分類する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組電池の劣化診断装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記推定された満充電容量に基づいて、第1区分と、前記第1区分よりも満充電容量が大きい第2区分と、前記第2区分よりも満充電容量が大きい第3区分とのいずれかにセルを分類し、
前記推定部は、
放電終了前に電圧が前記放電終了電圧に達したセルの全てが前記第3区分に分類された場合に、前記組電池が新品であると判定し、
放電終了前に電圧が前記放電終了電圧に達したセルの少なくとも1つが前記第1区分に分類された場合に、前記車両における前記組電池の使用を継続できないと判定する、請求項
4に記載の組電池の劣化診断装置。
【請求項6】
前記組電池は、前記車両に搭載された電力負荷に電力を供給するように構成され、
前記放電部は、前記電力負荷を制御することにより前記放電を実行する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組電池の劣化診断装置。
【請求項7】
前記組電池に含まれる全てのセルは直列に接続されており、
前記放電部は、前記複数のセルの各々の放電中の電流値を一定に保つ、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組電池の劣化診断装置。
【請求項8】
内燃機関と、前記内燃機関の始動処理を行なうモータと、前記モータに電力を供給する組電池とを備える車両について、前記組電池に含まれる複数のセルの各々の電圧を測定しながら各セルの放電を実行することと、
前記各セルの放電中に、
第1終了条件と第2終了条件との各々の成否を繰返し判断することと、
前記各セルの放電中に、
前記第1終了条件と前記第2終了条件とのいずれかが成立すると、放電を終了させることと、
前記第1終了条件の成立によって放電が終了した場合には、前記組電池に含まれる全てのセルについて放電開始電圧から所定の放電終了電圧までの電圧の推移を示す電圧データを用いて、前記組電池の劣化度合いを推定することと、
前記第2終了条件の成立によって放電が終了した場合には、放電終了前に電圧が前記放電終了電圧に達したセルについて放電開始電圧から前記放電終了電圧までの電圧の推移を示す電圧データを用いて、前記組電池の劣化度合いを推定することと、
を含
み、
前記第1終了条件は、前記組電池に含まれる全てのセルの電圧が前記放電終了電圧に達した場合に成立し、
前記第2終了条件は、放電を継続すると前記始動処理に必要な電力を前記組電池が前記モータに供給できなくなると判断された場合に成立する、組電池の劣化診断方法。
【請求項9】
推定された前記組電池の劣化度合いを用いて、前記車両における前記組電池の使用を継続できるか否かを判断することと、
前記車両における前記組電池の使用を継続できると判断された場合に、前記モータが前記内燃機関の始動処理を実行することと、
始動した前記内燃機関から出力される動力を利用して生成された電力によって前記組電池を充電することと、
をさらに含む、請求項
8に記載の組電池の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組電池の劣化診断装置、及び組電池の劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組電池は、互いに電気的に接続された複数の二次電池を含む。複数の二次電池を組み合わせることで、大容量の組電池が得られる。しかし、二次電池の満充電容量(満充電時に二次電池に蓄えられている電気量)は、二次電池の劣化に伴って低下する。たとえば、特開2013-110906号公報(特許文献1)には、組電池の電圧(端子間電圧)が所定の放電終了電圧に達するまで放電を実行し、放電中の組電池の電圧の推移を示すデータ(放電カーブ)を用いて組電池の劣化度合いを推定する組電池の劣化診断方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された組電池の劣化診断方法では、組電池の過放電を回避しつつ十分な診断精度が確保されるように上記放電終了電圧が予め設定される。組電池の過放電は、組電池の劣化が進行するほどの過剰な放電を意味する。
【0005】
内燃機関と、内燃機関の始動処理(たとえば、クランキング)を行なうモータと、モータに電力を供給する組電池とを備える車両について、上記特許文献1に記載された方法によって組電池の劣化診断を行なう場合、組電池が内燃機関の始動処理に必要な電力をモータに供給できなくなっても、組電池の放電が継続される可能性がある。このため、診断終了後に外部電源(車両外部の電源)により組電池を充電する手間が生じ得る。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関と、内燃機関の始動処理を行なうモータと、モータに電力を供給する組電池とを備える車両について、組電池の劣化診断のための放電を行なった後に内燃機関の始動処理を容易に行なうことができる組電池の劣化診断装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の観点に係る組電池の劣化診断装置は、放電部と、推定部とを含む。放電部は、車両に搭載された組電池に含まれる複数のセルの各々の電圧を測定しながら各セルの放電を実行するように構成される。推定部は、複数のセルの少なくとも1つについて放電開始電圧から所定の放電終了電圧までの電圧の推移を示す電圧データを用いて、組電池の劣化度合いを推定するように構成される。上記車両は、内燃機関と、内燃機関の始動処理を行なうモータとをさらに備える。上記組電池は、モータに電力を供給するように構成される。放電部は、上記各セルの放電中に、放電を継続すると始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなるか否かを判断し、始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなる前に放電を終了させるように構成される。
【0008】
上記構成によれば、始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなる前に放電は終了する。このため、放電終了後にモータが組電池から電力の供給を受けて内燃機関の始動処理を行なうことができる。このように、上記組電池の劣化診断装置によれば、組電池の劣化診断のための放電を行なった後に内燃機関の始動処理を容易に行なうことが可能になる。
【0009】
セルは、組電池を構成する二次電池である。組電池は、互いに電気的に接続された複数のセルによって構成される。上記始動処理は、内燃機関を始動させるための処理である。内燃機関は、モータからのアシストを受けて始動可能になる。始動処理はクランキングであってもよい。クランキングは、内燃機関のクランクシャフトを回転させて内燃機関を始動させることである。
【0010】
上記放電部は、各セルの放電中に、組電池に含まれる全てのセルの電圧の平均値又は中央値が所定値以下になると、これ以上放電を継続すると始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなると判断して放電を終了させるように構成されてもよい。
【0011】
上記構成によれば、放電を継続すると始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなるか否かを、放電部が的確に判断しやすくなる。また、上記判断には全セルの電圧の平均値又は中央値が用いられるため、組電池の端子間電圧を測定するセンサが不要になる。上記所定値は、モータが内燃機関の始動処理のために必要とする電圧値であってもよい。上記所定値は、固定値であってもよいし、状況に応じて可変であってもよい。
【0012】
上記放電部は、次に示す第1終了条件と第2終了条件とのいずれかが成立すると放電を終了させるように構成されてもよい。第1終了条件は、組電池に含まれる全てのセルの電圧が放電終了電圧に達した場合に成立する条件である。第2終了条件は、放電を継続すると始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなると判断された場合に成立する条件である。第1終了条件の成立によって放電が終了した場合には、推定部が、組電池に含まれる全てのセルの電圧データを用いて、組電池の劣化度合いを推定してもよい。第2終了条件の成立によって放電が終了した場合には、推定部が、放電終了前に電圧が放電終了電圧に達したセルの電圧データを用いて、組電池の劣化度合いを推定してもよい。
【0013】
上記組電池の劣化診断装置では、第1終了条件の成立によって放電が終了した場合には、組電池に含まれる全てのセルの電圧データを用いて、組電池の劣化度合いを高い精度で推定することができる。また、第2終了条件が成立した場合には、組電池に含まれるいずれかのセルの電圧が放電終了電圧に達していなくても放電が終了する。これにより、組電池が内燃機関の始動処理に必要な電力をモータに供給できなくなることが抑制される。そして、第2終了条件の成立によって放電が終了した場合には、放電終了前に電圧が放電終了電圧に達したセルの電圧データを用いて、組電池の劣化度合いを推定することができる。
【0014】
組電池の寿命は、組電池に含まれる複数のセルのうち最も満充電容量が小さい二次電池(以下、「最小容量セル」とも称する)の劣化度合いによって決まることが多い。そして、第2終了条件が成立したときには、最小容量セルの電圧がすでに放電終了電圧に達している可能性が高い。このため、第2終了条件の成立によって放電が終了した場合にも、十分な精度で組電池の寿命を判定することができると考えられる。
【0015】
上記放電部は、次に示す第3終了条件が成立する場合にも放電を終了させるように構成されてもよい。第3終了条件は、組電池に含まれるいずれかのセルの電圧が所定電圧に達した場合に成立する。所定電圧は、放電終了電圧よりも低い。
【0016】
上記構成によれば、セルにおける劣化及び異常の少なくとも一方が抑制される。上記所定電圧は、組電池に含まれる複数のセルに共通の放電禁止電圧(放電をこれ以上継続するとセルに異常が生じ得ることを示す下限電圧)に基づいて設定されてもよい。上記所定電圧は、放電禁止電圧と一致するように設定されてもよいし、放電禁止電圧よりも少し高く設定されてもよい。また、放電終了電圧は、組電池に含まれる複数のセルに共通の放電下限電圧(放電をこれ以上継続するとセルの劣化を促進し得ることを示す下限電圧)に基づいて設定されてもよい。放電終了電圧は、放電下限電圧と一致するように設定されてもよいし、放電下限電圧よりも少し高く設定されてもよい。
【0017】
上記推定部は、放電開始電圧から放電終了電圧までのセル電圧の推移を示す電圧データを用いてセルごとの満充電容量を推定し、推定された満充電容量に基づいてセルを分類するように構成されてもよい。
【0018】
セルの満充電容量は、セルの劣化に伴って低下する。上記構成によれば、セルごとの劣化度合いを把握しやすくなる。
【0019】
上記推定部は、推定された満充電容量に基づいて、第1区分と、第1区分よりも満充電容量が大きい第2区分と、第2区分よりも満充電容量が大きい第3区分とのいずれかにセルを分類するように構成されてもよい。そして、推定部は、放電終了前に電圧が放電終了電圧に達したセルの全てが第3区分に分類された場合に、組電池が新品であると判定してもよい。推定部は、放電終了前に電圧が放電終了電圧に達したセルの少なくとも1つが第1区分に分類された場合に、上記車両における組電池の使用を継続できないと判定してもよい。
【0020】
上記構成によれば、組電池の状態が、新品、継続使用可(交換不要)、継続使用不可(交換必要)のいずれであるかを判別できる。これにより、組電池の劣化度合いを容易かつ的確に把握しやすくなる。
【0021】
組電池は、車両に搭載された電力負荷に電力を供給するように構成されてもよい。放電部は、電力負荷を制御することにより放電を実行するように構成されてもよい。
【0022】
上記構成によれば、車両用の組電池の劣化診断を容易かつ適切に行なうことが可能になる。放電部によって放電中に制御される上記電力負荷は、空調設備とシートヒータと照明装置との少なくとも1つを含んでもよい。
【0023】
組電池に含まれる全てのセルは直列に接続されてもよい。上記放電部は、複数のセルの各々の放電中の電流値を一定に保つように構成されてもよい。
【0024】
上記構成によれば、組電池に含まれる各セルの放電中の電流値を一致させやすくなる。これにより、高い精度で組電池の劣化度合いを推定しやすくなる。
【0025】
本開示の第2の観点に係る組電池の劣化診断方法は、内燃機関と、内燃機関の始動処理を行なうモータと、モータに電力を供給する組電池とを備える車両について、組電池に含まれる複数のセルの各々の電圧を測定しながら各セルの放電を実行することと、各セルの放電中に、放電を継続すると始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなるか否かを繰返し判断することと、各セルの放電中に、放電を継続すると始動処理に必要な電力を組電池がモータに供給できなくなると判断された場合に、放電を終了させることと、放電終了後、放電中に取得された複数のセルの少なくとも1つの電圧データを用いて組電池の劣化度合いを推定することとを含む。
【0026】
上記組電池の劣化診断方法によっても、前述した劣化診断装置と同様、組電池の劣化診断のための放電を行なった後に内燃機関の始動処理を容易に行なうことが可能になる。
【0027】
上記組電池の劣化診断方法は、推定された組電池の劣化度合いを用いて、車両における組電池の使用を継続できるか否かを判断することと、車両における組電池の使用を継続できると判断された場合に、モータが内燃機関の始動処理を実行することと、始動した内燃機関から出力される動力を利用して生成された電力によって組電池を充電することとをさらに含んでもよい。
【0028】
上記構成によれば、劣化診断のために放電された組電池を容易に充電することが可能になる。
【0029】
組電池の初期状態の満充電容量は5kWh以下であってもよい。組電池の容量が5kWh以下であれば、上述の放電による劣化診断方法によって十分なスループットの診断が可能である。診断される組電池の初期状態の満充電容量は、0.1kWh以上5kWh以下であってもよいし、0.3kWh以上3kWh以下であってもよい。診断される組電池は、HEV(ハイブリッド車)に搭載される駆動用電池であってもよい。
【0030】
以下、車両に搭載された内燃機関を、「エンジン」と称する場合がある。エンジンは、走行駆動力を発生させるように構成されてもよい。車両は、エンジンの始動処理を行なうモータとは別に、組電池から電力の供給を受けて走行駆動力を発生させるモータをさらに備えてもよい。エンジンの始動処理を行なうモータは、エンジンから出力される動力を利用して発電を行ない、発電された電力を組電池へ供給するように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、内燃機関と、内燃機関の始動処理を行なうモータと、モータに電力を供給する組電池とを備える車両について、組電池の劣化診断のための放電を行なった後にエンジンの始動処理を容易に行なうことができる組電池の劣化診断装置及び方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本開示の実施の形態に係る車両の構成を示す図である。
【
図2】本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断装置の構成を示す図である。
【
図3】本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における放電制御を示すフローチャートである。
【
図4】
図2に示した組電池に含まれるセルの放電特性の一例を示すグラフである。
【
図5】本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における放電終了電圧(V
end1)及び第1中止電圧(V
end3)の決め方について説明するためのグラフである。
【
図6】本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における第2中止電圧(V
end2)の決め方について説明するための第1のグラフである。
【
図7】本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における第2中止電圧(V
end2)の決め方について説明するための第2のグラフである。
【
図8】
図3に示した処理の後にサービスツールによって実行される処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示したセル分類に係る処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図10】本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における電池寿命の判定について説明するための図である。
【
図11】
図8に示した処理の後に車両によって実行される処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図2に示したHVECUの変形例を示す図である。
【
図13】
図2に示した組電池の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。以下では、電子制御ユニット(Electronic Control Unit)を「ECU」とも称する。
【0034】
図1は、この実施の形態に係る車両の構成を示す図である。
図1を参照して、車両100はHEV(ハイブリッド車)である。この実施の形態では、前輪駆動の4輪自動車(より特定的には、HEV)を想定しているが、車輪の数及び駆動方式は適宜変更可能である。たとえば、駆動方式は4輪駆動であってもよい。
【0035】
車両100は、駆動バッテリ11と、電圧センサ12aと、電流センサ12bと、温度センサ12cと、SMR(System Main Relay)14と、第1モータジェネレータ21a(以下、「MG21a」と表記する)と、第2モータジェネレータ21b(以下、「MG21b」と表記する)と、PCU(Power Control Unit)24と、エンジン31と、変速機構421と、油圧回路422とを備える。
【0036】
駆動バッテリ11は、再充電可能な二次電池を含む。駆動バッテリ11は、PCU24(ひいては、MG21a,21b)に電力を供給するように構成される。この実施の形態では、電気的に接続された複数の二次電池を含む組電池を、駆動バッテリ11として採用する。駆動バッテリ11の初期状態の満充電容量は、たとえば1.5kWh程度である。駆動バッテリ11に含まれる二次電池は、所定数ごとにモジュール化されてもよい。組電池は、複数のモジュールを組み合わせて構成されてもよい。駆動バッテリ11に含まれる二次電池の数は、10個以上100個未満であってもよいし、100個以上であってもよい。この実施の形態では、駆動バッテリ11に含まれる二次電池の数を50個程度とする。駆動バッテリ11は、電池パックの形態で、たとえば車両100のフロアパネルに組み付けられる。この実施の形態では、駆動バッテリ11を収容する電池ケースに付属部品(電圧センサ12a、電流センサ12b、温度センサ12c、電池ECU13、及びSMR14等)を取り付けることによって、電池パックが形成される。
【0037】
組電池に含まれる各二次電池は、「セル」と称される。この実施の形態では、組電池に含まれる全てのセルが直列に接続されている(たとえば、後述する
図2参照)。この実施の形態では、液系リチウムイオン二次電池を、セルとして採用する。ただしこれに限られず、セルとして全固体二次電池を採用してもよい。また、セルは、リチウムイオン二次電池に限られず、他の二次電池(たとえば、ニッケル水素電池)であってもよい。車両100に駆動バッテリ11を組み付ける形態は、電池パックに限られず、パックレスの形態であってもよい。
【0038】
電圧センサ12aは、駆動バッテリ11のセル毎の電圧を検出する。電流センサ12bは、駆動バッテリ11に流れる電流を検出する。温度センサ12cは、駆動バッテリ11のセル毎の温度を検出する。各センサは、その検出結果を電池ECU13へ出力する。電池ECU13は、各センサの検出結果を用いて、セルごとのSOCを算出するとともに、駆動バッテリ11のSOCを算出する。SOC(State Of Charge)は、蓄電残量を示し、たとえば、満充電状態の蓄電量に対する現在の蓄電量の割合を0~100%で表わしたものである。電流センサ12bは、駆動バッテリ11の電流経路に設けられる。この実施の形態では、電圧センサ12a及び温度センサ12cの各々が、1つのセル毎に1つずつ設けられる。
【0039】
SMR14は、PCU24と駆動バッテリ11とを結ぶ電路の接続/遮断を切り替えるように構成される。SMR14としては、たとえば電磁式のメカニカルリレーを採用できる。SMR14が閉状態(接続状態)であるときには、駆動バッテリ11とPCU24との間で電力の授受を行なうことが可能になる。他方、SMR14が開状態(遮断状態)であるときには、駆動バッテリ11とPCU24とを結ぶ電路が遮断される。SMR14は、HVECU50によって制御される。SMR14は、たとえば車両100の走行時に閉状態にされる。
【0040】
MG21a及び21bの各々は、駆動電力が供給されることによりトルクを出力するモータとしての機能と、トルクが与えられることにより発電電力を発生する発電機としての機能との両方を兼ね備えるモータジェネレータである。MG21a及び21bの各々としては、交流モータ(たとえば、永久磁石式同期モータ又は誘導モータ)が用いられる。MG21a及び21bの各々は、PCU24を介して駆動バッテリ11に電気的に接続されている。MG21a、MG21bはそれぞれロータ軸43a、43bを有する。ロータ軸43a、43bはそれぞれMG21a、MG21bの回転軸に相当する。
【0041】
車両100は、シングルピニオン型のプラネタリギヤ431をさらに備える。エンジン31の出力軸41は変速機構421を介してプラネタリギヤ431に連結されている。エンジン31としては任意の内燃機関を採用可能であるが、この実施の形態では、複数の気筒(たとえば、4つの気筒)を含む火花点火式内燃機関を、エンジン31として採用する。エンジン31は、各気筒内で燃料(たとえば、ガソリン)を燃焼させることによって動力を生成し、生成された動力によって全ての気筒に共通のクランクシャフト(図示せず)を回転させる。エンジン31のクランクシャフトは、図示しないトーショナルダンパを介して、出力軸41に接続されている。クランクシャフトが回転することによって出力軸41も回転する。なお、エンジン31は、ガソリンエンジンに限られず、ディーゼルエンジンであってもよいし、水素エンジンであってもよい。
【0042】
エンジン31の出力軸41は、変速機構421の入力軸に相当する。変速機構421は、図示しないクラッチ及びブレーキを含み、クラッチ及びブレーキの状態(係合/解放)に応じて変速比(すなわち、変速機構421の入力軸の回転速度と変速機構421の出力軸42の回転速度との比)を変更するように構成される。油圧回路422は、HVECU50の指令に従い、変速機構421に含まれるクラッチ及びブレーキの各々に供給する油圧を調整するように構成される。HVECU50は、油圧回路422を制御することにより、変速機構421に含まれるクラッチ及びブレーキの各々の状態(係合/解放)を切り替えるように構成される。
図1に示す構成では、変速機構421が動力分割機構(プラネタリギヤ431)の上流側に位置するが、変速機構は動力分割機構の下流側(駆動輪に近い側)に位置してもよい。
【0043】
車両100は、シフトレバー101及びPポジションスイッチ102をさらに備える。シフトレバー101及びPポジションスイッチ102の各々は、ユーザのシフト操作に応じて複数のシフトレンジを切り替え可能に構成される。ユーザは、シフトレバー101を所定の位置に動かすことによってN(ニュートラル)レンジ、R(リバース)レンジ、D(ドライブ)レンジ、及びB(ブレーキ)レンジのいずれかを選択できる。また、ユーザは、車両100を停車させ、Pポジションスイッチ102を押すことによって、P(パーキング)レンジを選択できる。HVECU50は、車両100のシフトレンジを、ユーザによって選択されたレンジに切り替える。HVECU50は、たとえばシフトレンジに応じて油圧回路422を制御する。
【0044】
変速機構421の出力軸42とMG21aのロータ軸43aとの各々は、プラネタリギヤ431に連結されている。プラネタリギヤ431は、3つの回転要素、すなわち入力要素、出力要素、及び反力要素を有する。より具体的には、プラネタリギヤ431は、サンギヤと、サンギヤと同軸に配置されたリングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛み合うピニオンギヤと、ピニオンギヤを自転及び公転可能に保持するキャリヤとを有する。キャリヤが入力要素に、リングギヤが出力要素に、サンギヤが反力要素に相当する。
【0045】
変速機構421の出力軸42は、プラネタリギヤ431のキャリヤに連結されている。MG21aのロータ軸43aは、プラネタリギヤ431のサンギヤに連結されている。プラネタリギヤ431のキャリヤには、変速機構421の出力軸42からトルクが入力される。変速機構421が非ニュートラル状態(すなわち、動力を伝達する状態)であるときには、エンジン31が出力するトルクをプラネタリギヤ431がサンギヤ(ひいては、MG21a)とリングギヤとに分割して伝達するように構成される。エンジン31が出力するトルクがリングギヤへ出力されるときには、MG21aによる反力トルクがサンギヤに作用する。
【0046】
プラネタリギヤ431及びMG21bは、プラネタリギヤ431から出力される動力(すなわち、リングギヤに出力される動力)とMG21bから出力される動力(すなわち、ロータ軸43bに出力される動力)とが合わさって駆動輪45a,45bに伝達されるように構成される。より具体的には、プラネタリギヤ431のリングギヤには、ドリブンギヤ432に噛み合う出力ギヤ(図示せず)が取り付けられている。また、MG21bのロータ軸43bに取り付けられたドライブギヤ(図示せず)も、ドリブンギヤ432に噛み合っている。ドリブンギヤ432は、MG21bがロータ軸43bに出力するトルクと、プラネタリギヤ431のリングギヤから出力されるトルクとを合成するように作用する。このように合成された駆動トルクは、デファレンシャルギヤ44に伝達され、さらに、デファレンシャルギヤ44から左右に延びたドライブシャフト44a,44bを介して駆動輪45a,45bに伝達される。
【0047】
車両100は、電池ECU13、モータECU23、エンジンECU33、及びHVECU50をさらに備える。この実施の形態では、電池ECU13、モータECU23、エンジンECU33、及びHVECU50の各々として、コンピュータ(たとえば、マイクロコンピュータ)を採用する。各ECUは、ECU間でCAN通信可能な態様で接続されている。
【0048】
HVECU50は、プロセッサ51と、RAM(Random Access Memory)52と、記憶装置53とを含む。プロセッサ51としては、たとえばCPU(Central Processing Unit)を採用できる。RAM52は、プロセッサ51によって処理されるデータを一時的に記憶する作業用メモリとして機能する。記憶装置53は、格納された情報を保存可能に構成される。記憶装置53には、プログラムのほか、プログラムで使用される情報(たとえば、マップ、数式、及び各種パラメータ)が記憶されている。記憶装置53に記憶されているプログラムをプロセッサ51が実行することで、HVECU50における各種処理が実行される。
【0049】
図1には、HVECU50のみの詳細構成を示しているが、他のECUも、プロセッサ、RAM、及び記憶装置を備える。各ECUが備えるプロセッサの数は任意であり、いずれかのECUが複数のプロセッサを備えてもよい。また、各ECUにおける各種処理は、ソフトウェアによる実行に限られず、専用のハードウェア(電子回路)によって実行されてもよい。
【0050】
MG21a、21bには、それぞれMG21a、21bの状態(たとえば、電流、電圧、温度、及び回転速度)を検出するモータセンサ22a、22bが設けられている。モータセンサ22a及び22bの各々は、その検出結果をモータECU23へ出力する。エンジン31には、エンジン31の状態(たとえば、吸気量、吸気圧、吸気温度、排気圧、排気温度、触媒温度、エンジン冷却水温、及び回転速度)を検出するエンジンセンサ32が設けられている。エンジンセンサ32は、その検出結果をエンジンECU33へ出力する。HVECU50は、必要に応じて、モータECU23及びエンジンECU33からモータセンサ22a、22b及びエンジンセンサ32の検出値を受信する。また、HVECU50は、必要に応じて、電池ECU13から駆動バッテリ11の状態(たとえば、セル電圧、電流、温度、及びSOC)を受信する。
【0051】
車両100は、後述する補機バッテリ80の状態を検出する監視ユニット80aを備える。監視ユニット80aは、補機バッテリ80の状態(たとえば、温度、電流、電圧)を検出する各種センサを含み、検出結果をHVECU50へ出力する。HVECU50は、監視ユニット80aの出力に基づいて、補機バッテリ80の状態(たとえば、温度、電流、電圧、及びSOC)を取得できる。また、図示は省略しているが、車両100の状況を示す他のセンサ(たとえば、車速センサ、燃料計、オドメータ、アクセル開度センサ、及び大気圧センサ)も、車両100には搭載されている。HVECU50は、車両100に搭載された各種センサ(車載センサ)の出力に基づいて、車両100の情報を把握することができる。
【0052】
HVECU50は、エンジン31を制御するための指令(制御指令)をエンジンECU33へ出力するように構成される。エンジンECU33は、HVECU50からの指令に従ってエンジン31の各種アクチュエータ(たとえば、図示しないスロットル弁、点火装置、及びインジェクタ)を制御するように構成される。HVECU50はエンジンECU33を通じてエンジン制御を行なうことができる。
【0053】
HVECU50は、MG21a及びMG21bの各々を制御するための指令(制御指令)をモータECU23へ出力するように構成される。モータECU23は、HVECU50からの指令に従って、MG21a及びMG21bの各々の目標トルクに対応した電流信号(たとえば、電流の大きさ及び周波数を示す信号)を生成し、生成した電流信号をPCU24へ出力するように構成される。HVECU50はモータECU23を通じてモータ制御を行なうことができる。
【0054】
PCU24は、たとえば、MG21a,21bに対応して設けられる2つのインバータと、各インバータと駆動バッテリ11との間に配置されたコンバータと(いずれも図示せず)を含んで構成される。PCU24は、駆動バッテリ11に蓄積された電力をMG21a及びMG21bの各々に供給するとともに、MG21a及びMG21bの各々により発電された電力を駆動バッテリ11に供給するように構成される。PCU24は、MG21a及びMG21bの状態を別々に制御可能に構成され、たとえば、MG21aを発電状態にしつつ、MG21bを力行状態にすることができる。
【0055】
MG21aは、エンジン31の始動処理を行なうように構成される。具体的には、エンジン31の始動時には、駆動バッテリ11から電力の供給を受けるMG21aがエンジン31のクランキングを実行する。
【0056】
MG21aは、エンジン31から出力される動力を利用した発電(すなわち、エンジン発電)を行なうように構成される。HVECU50は、車両100の走行中において駆動バッテリ11のSOCが過剰に低くならないように、エンジン発電によって生成される電力で駆動バッテリ11を充電する。また、MG21bによる回生ブレーキで発電される電力によっても駆動バッテリ11は充電される。
【0057】
車両100は、HV走行とEV走行とを行なうように構成される。HV走行は、エンジン31で走行駆動力を発生させながらエンジン31及びMG21bによって行なわれる走行である。EV走行は、エンジン31が停止した状態でMG21bによって行なわれる走行である。エンジン31が停止した状態では、各気筒における燃焼が行なわれなくなる。各気筒における燃焼が停止すると、エンジン31で燃焼エネルギー(ひいては、走行駆動力)が発生しなくなる。
【0058】
車両100は、補機バッテリ80と、DC/DCコンバータ81及び82と、補機リレー83と、高圧負荷91と、低圧負荷92とをさらに備える。補機バッテリ80の満充電容量は、駆動バッテリ11の満充電容量よりも小さい。バッテリの満充電容量は、満充電状態のバッテリに蓄えられる電気量であり、バッテリの劣化に伴って低下する。補機バッテリ80としては、たとえば鉛バッテリを採用できる。ただし、鉛バッテリ以外の二次電池(たとえば、ニッケル水素電池)を補機バッテリ80として採用してもよい。DC/DCコンバータ81,82、補機リレー83、高圧負荷91、及び低圧負荷92は、HVECU50によって制御される。HVECU50は、電池ECU13を通じて、これらを制御してもよい。
【0059】
高圧負荷91は、高電圧系の補機類である。低圧負荷92は、低電圧系の補機類である。低圧負荷92の駆動電圧は、高圧負荷91の駆動電圧よりも低い。補機バッテリ80は、低電圧系(たとえば、12V系)の車載バッテリであり、低圧負荷92に電力を供給するように構成される。この実施の形態では、高圧負荷91が空調設備を含み、低圧負荷92が照明装置を含む。空調設備は、車両100の車室内の暖房及び冷房を行なうように構成される。照明装置は、車内を照らす照明装置と、車外を照らす照明装置(たとえば、ヘッドライト)とを含む。高圧負荷91及び低圧負荷92の少なくとも一方は、車両100のシートを加熱するシートヒータをさらに含んでもよい。
【0060】
DC/DCコンバータ81は、駆動バッテリ11と高圧負荷91との間に設けられ、駆動バッテリ11から供給される電力を降圧して高圧負荷91へ出力する。DC/DCコンバータ82は、駆動バッテリ11から供給される電力を降圧して補機バッテリ80及び低圧負荷92の各々へ出力する。SMR14が開状態(遮断状態)であるときには、高圧負荷91、低圧負荷92、及び補機バッテリ80の各々に駆動バッテリ11の電力が供給されなくなる。DC/DCコンバータ82と低圧負荷92とをつなぐ電路には補機リレー83が配置されている。補機リレー83が開状態(遮断状態)であるときには、低圧負荷92に電力が供給されなくなる。
【0061】
SMR14が閉状態(接続状態)であるときには、駆動バッテリ11からDC/DCコンバータ82を通じて補機バッテリ80へ電力を供給することが可能になる。たとえば、補機バッテリ80のSOCが所定値よりも低くなると、HVECU50は、駆動バッテリ11の電力によって補機バッテリ80を充電する。また、HVECU50は、後述する組電池の劣化診断(
図3のS16参照)において、サービスツール200(
図2)からの指示に従い、駆動バッテリ11の電力によって高圧負荷91及び低圧負荷92を駆動する。この際、HVECU50は、駆動バッテリ11の電力が高圧負荷91及び低圧負荷92の各々に供給されるように、SMR14、DC/DCコンバータ81,82、及び補機リレー83を制御する。
【0062】
HVECU50は、駆動バッテリ11についてSOC制限制御を実行するように構成される。SOC制限制御は、駆動バッテリ11のSOCを所定のSOC範囲内に制限する制御である。HVECU50は、駆動バッテリ11のSOCが上記SOC範囲から出ないように、駆動バッテリ11の入出力を制限する。具体的には、HVECU50は、駆動バッテリ11のSOCが上記SOC範囲内に入るように、MG21a,21b、エンジン31、及びDC/DCコンバータ81,82を制御する。上記SOC範囲は、車両100の状態に応じて可変設定される。HVECU50は、たとえば記憶装置53に記憶されたマップを用いて、駆動バッテリ11及びその周辺の部品を保護するためのSOC範囲を設定してもよい。
【0063】
車両100は、パワースイッチ103をさらに備える。パワースイッチ103は、車両システム(HVECU50など)の起動/停止を切り替えるためのスイッチである。パワースイッチ103は、ユーザによって操作される。
【0064】
車両100は、報知装置104をさらに備える。報知装置104は、HVECU50からの要求に応じて、車両100のユーザに対して報知を行なうように構成される。報知装置104の例としては、メータパネル、ヘッドアップディスプレイ、ナビゲーションディスプレイ、警告灯、又はスピーカが挙げられる。報知装置104は、ユーザからの入力を受け付ける入力装置として機能してもよい。報知装置104は、タッチパネルディスプレイを含んでもよいし、音声入力を受け付けるスマートスピーカを含んでもよい。報知装置104は、タブレット端末、スマートフォン、又はウェアラブルデバイスのような携帯機器(すなわち、ユーザによって携帯可能な電子機器)に搭載されてもよい。
【0065】
図2は、この実施の形態に係る組電池の劣化診断装置の構成を示す図である。
図1とともに
図2を参照して、この実施の形態では、サービスツール200が組電池の劣化診断装置として機能する。サービスツール200は、プロセッサ201とRAM202と記憶装置203とを備えるコンピュータを含む。記憶装置203には、診断プログラムが記憶されている。この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法(後述する
図3、
図8、及び
図9参照)は、記憶装置203に記憶されている診断プログラムをプロセッサ201が実行することによって実行される。
【0066】
サービスツール200は、HMI(Human Machine Interface)204をさらに含む。HMI204は入力装置及び表示装置を含む。HMI204は、タッチパネルディスプレイであってもよい。HMI204は、音声入力を受け付けるスマートスピーカを含んでもよい。
【0067】
HVECU50は、DLC(Data Link Connector)55aと、DLC55aのインターフェース55bとをさらに備える。DLC55aは、サービスツール200のコネクタ250に接続可能なコネクタであり、たとえば車両100の運転席周辺に配置される。サービスツール200は、たとえば整備工場において作業者(たとえば、整備士)が車両の状態を把握するために使用する外部診断機である。サービスツール200の例としては、GST(General Scan Tool)が挙げられる。サービスツール200のコネクタ250をDLC55aに接続することによって、記憶装置53に蓄積された車両データを読み取ることができる。
【0068】
この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法では、サービスツール200が、駆動バッテリ11(組電池)に含まれる各セルの電圧を測定しながら各セルの放電を実行する。サービスツール200は、第1終了条件が成立すると放電を終了させる。第1終了条件は、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルの電圧が所定の放電終了電圧(以下、「Vend1」と表記する)に達した場合に成立する条件である。放電終了後、サービスツール200は、駆動バッテリ11に含まれる少なくとも1つのセルの、放電開始電圧からVend1までの電圧の推移を示す電圧データを用いて、駆動バッテリ11の劣化度合いを推定する。
【0069】
しかしながら、上記第1終了条件のみによって放電終了タイミングが決定される場合には、駆動バッテリ11がエンジン31の始動処理に必要な電力をMG21aに供給できなくなっても、駆動バッテリ11の放電が継続される可能性がある。こうした診断方法では、診断終了後に外部電源(車両外部の電源)により駆動バッテリ11を充電する手間が生じ得る。
【0070】
そこで、この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法では、上記第1終了条件が成立した場合だけでなく、後述する第2又は第3終了条件が成立した場合にも、放電を終了させるようにしている。詳しくは、サービスツール200は、駆動バッテリ11の放電中に、放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなるか否かを判断する。そして、放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなると判断された場合には、第2終了条件が成立する。そして、サービスツール200は、第2終了条件が成立した場合に放電を終了させる。これにより、エンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなる前に駆動バッテリ11の放電が終了する。このため、放電終了後にMG21aが駆動バッテリ11から電力の供給を受けてエンジン31の始動処理を行なうことができる。この実施の形態に係る組電池の劣化診断装置によれば、駆動バッテリ11の劣化診断のための放電を行なった後にエンジン31の始動処理を容易に行なうことが可能になる。
【0071】
この実施の形態に係るサービスツール200は、放電部211と推定部212とを含む。放電部211は、車両100に搭載された駆動バッテリ11に含まれる各セルの電圧を測定しながら各セルの放電を実行するように構成される。推定部212は、駆動バッテリ11に含まれる少なくとも1つのセルについて取得された放電開始電圧からVend1までの電圧の推移を示す電圧データを用いて、駆動バッテリ11の劣化度合いを推定するように構成される。放電部211は、駆動バッテリ11に含まれる各セルの放電中に、放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなるか否かを判断し、エンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなる前に放電を終了させるように構成される。
【0072】
図3は、この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における放電制御を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば駐車状態の車両100のDLC55aにサービスツール200のコネクタ250が接続された後、ユーザから所定の指示がHMI204に入力されると、実行される。ただしこれに限られず、
図3に示す処理の開始条件は任意に設定できる。
図3に示す各ステップは、サービスツール200の放電部211がHVECU50に制御指令を送信することにより実行される。以下では、フローチャート中の各ステップを、単に「S」と表記する。
【0073】
図1及び
図2とともに
図3を参照して、S10では、サービスツール200が、SOC制限制御に係るSOC範囲を解除する。これにより、駆動バッテリ11のSOC制限(SOC制限制御)が無効になる。
【0074】
続くS11では、サービスツール200が、エンジン31を駆動して、エンジン発電によって生成される電力で駆動バッテリ11を充電する。S11の処理により、エンジン31から出力される動力を用いてMG21aが生成した電力がPCU24及びSMR14を経て駆動バッテリ11に入力される。
【0075】
S12では、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルが所定の開始電圧(以下、「Vstart」と表記する)以上になったか否かを、サービスツール200が判断する。駆動バッテリ11に含まれる各セルの電圧は、電圧センサ12aによって測定される。Vstartは、セルが満充電状態になったことを示すセル電圧であってもよいし、セルの充電上限電圧であってもよい。充電上限電圧は、推奨電圧範囲の上限値に相当し、充電上限電圧を超えるまでセルの充電を継続するとセルが過充電になり得る。過充電はセルの劣化を促進する。Vstartは、3.6V以上3.9V以下であってもよく、3.6V程度であってもよい。また、サービスツール200は、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルがVstart以上になったか否かを、駆動バッテリ11のSOCに基づいて判断してもよい。たとえば、駆動バッテリ11のSOCが所定SOC値(たとえば、70%)以上になったときに、サービスツール200は、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルがVstart以上になったと判断してもよい。
【0076】
駆動バッテリ11に含まれる全てのセルがVstart以上になるまでは(S12にてNO)、S11及びS12の処理が繰り返される。全てのセルがVstart以上になると(S12にてYES)、サービスツール200が、S13においてエンジン31を停止する。その後、S14において、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルの電圧が安定したか否かを、サービスツール200が判断する。駆動バッテリ11に含まれる各セルの電圧が安定するまでS14で待機し、駆動バッテリ11に含まれる各セルの電圧が安定すると(S14にてYES)、処理がS15に進む。
【0077】
S15では、サービスツール200が、駆動バッテリ11に含まれる各セルの状態(電圧、電流、及び温度)を測定し、測定結果を記憶装置203に記録する。続けて、S16では、サービスツール200が車両100の電力負荷を制御することにより駆動バッテリ11の放電を実行する。駆動バッテリ11は、車両100に搭載された電力負荷に電力を供給するように構成される。
【0078】
具体的には、サービスツール200は、S16において、駆動バッテリ11に含まれる各セルの放電電流が所定値(以下、「Vd」と表記する)になるように、サービスツール200が車両100の電力負荷(たとえば、高圧負荷91及び低圧負荷92の少なくとも一方)を制御する。この実施の形態では、駆動バッテリ11から供給される電力によって空調設備(高圧負荷91)及び照明装置(低圧負荷92)が駆動される。サービスツール200は、駆動バッテリ11から高圧負荷91、低圧負荷92へ供給される電力を、それぞれDC/DCコンバータ81、82によって調整する。そして、サービスツール200は、駆動バッテリ11に含まれる各セルの放電中の電流値を一定に保つ。Vdは、1A以上10A以下であってもよいし、5A程度であってもよい。この実施の形態では、各セルの放電中の電流値がVdに保たれる。この実施の形態では、Vdを固定値(たとえば、5A)とするが、Vdは状況に応じて可変であってもよい。
【0079】
S17では、第1終了条件が成立するか否かを、サービスツール200が判断する。具体的には、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルの電圧が所定の放電終了電圧(Vend1)に達したか否かを、サービスツール200が判断する。
【0080】
図4は、駆動バッテリ11に含まれるセルの放電特性の一例を示すグラフである。
図4を参照して、セルの放電が開始されると、セル電圧は徐々に低下する。単位放電量あたりのセル電圧の低下量(グラフの傾きに相当)は、放電開始直後は概ね一定であるが、しばらく放電を継続すると大きくなる。そして、放電をさらに継続すると、セル電圧はV
end1に達する。
図4には、1つのセルの電圧の推移を示しているが、放電中の電圧の推移はセルごとに異なる。
【0081】
再び
図1及び
図2とともに
図3を参照して、駆動バッテリ11に含まれるいずれかのセルの電圧がV
end1に達していない場合には(S17にてNO)、処理がS18に進む。S18では、第3終了条件が成立するか否かを、サービスツール200が判断する。第3終了条件は、駆動バッテリ11に含まれるいずれかのセルの電圧が所定の第1中止電圧(以下、「V
end3」と表記する)に達した場合に成立する条件である。
【0082】
図5は、この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における放電終了電圧(V
end1)及び第1中止電圧(V
end3)の決め方について説明するためのグラフである。
図5中の線L1~L3は、
図3のS10~S16が実行され、放電(S16)が所定時間継続されたときの駆動バッテリ11(組電池)の電流及び電圧の推移の一例を示している。線L1は、駆動バッテリ11の電流の推移を示している。線L2、L3はそれぞれ、駆動バッテリ11に含まれる第1セル、第2セルの放電特性(より特定的には、放電中のセル電圧の推移)を示している。第1セルの満充電容量は、第2セルの満充電容量よりも大きい。
【0083】
図5を参照して、第1セルの電圧の推移(線L2)と第2セルの電圧の推移(線L3)とを比較すると、第2セルの電圧は、より早く低下し始めて、より低い電圧まで低下している。このように、満充電容量が小さいセルほど放電中にセル電圧が低下しやすい傾向がある。セルの放電によってセルの電圧が低下し過ぎると、セルの劣化が促進される。セルの電圧が低下し過ぎるまでセルの放電が継続されることは、「過放電」と称される。
【0084】
この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法では、セルの過放電が抑制されるようにV
end1が設定される。具体的には、V
end1は、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルに共通の放電下限電圧に基づいて設定される。放電下限電圧は、推奨電圧範囲の下限値に相当し、放電下限電圧を下回るまでセルの放電を継続するとセルが過放電になり得る。この実施の形態では、V
end1が放電下限電圧よりも少し高い電圧(たとえば、放電下限電圧に余裕電圧を加えた値)に設定される。V
end1は、2.8V以上3.2V以下であってもよい。この実施の形態では、V
end1を3.0Vとする。そして、
図3に示す処理においては、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルの電圧がV
end1に達すると(S17にてYES)、駆動バッテリ11の放電は終了する(後述するS20参照)。
【0085】
セル電圧が放電下限電圧よりも低くなった後、セルの放電を過剰に継続すると、セルに異常(たとえば、動作不良又は故障)が発生し得る。この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法では、セルに異常が発生しないようにV
end3が設定される。具体的には、V
end3は、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルに共通の放電禁止電圧に基づいて設定される。放電禁止電圧は、放電可能限界値に相当し、放電禁止電圧を下回るまでセルの放電を継続するとセルに異常が発生し得る。この実施の形態では、V
end3が放電禁止電圧よりも少し高い電圧(たとえば、放電禁止電圧に余裕電圧を加えた値)に設定される。V
end3はV
end1よりも低い値である。V
end3は、2.0V以上2.5V以下であってもよい。この実施の形態では、V
end3を2.3Vとする。そして、
図3に示す処理においては、駆動バッテリ11に含まれるいずれかのセルの電圧がV
end3に達すると(S18にてYES)、駆動バッテリ11の放電は終了する(後述するS20参照)。
【0086】
再び
図1及び
図2とともに
図3を参照して、駆動バッテリ11に含まれるいずれのセルの電圧もV
end3に達していない場合には(S18にてNO)、処理がS19に進む。S19では、第2終了条件が成立するか否かを、サービスツール200が判断する。具体的には、放電を継続するとエンジンクランキングが成立しなくなる(すなわち、放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなる)か否かを、サービスツール200が判断する。この実施の形態では、駆動バッテリ11(組電池)に含まれる全てのセルの電圧の平均値(以下、「平均セル電圧」とも称する)が所定の第2中止電圧(以下、「V
end2」と表記する)以下になった場合に、これ以上放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなると判断される。以下、
図6及び
図7を用いて、この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における第2中止電圧(V
end2)の決め方について説明する。
【0087】
図6は、第2中止電圧(V
end2)の決め方について説明するための第1のグラフである。
図6中の線L11は、第1組電池に含まれる全てのセルの電圧分布(以下、「第1セル電圧分布」と称する)を示している。
図6中の線L12は、第2組電池に含まれる全てのセルの電圧分布(以下、「第2セル電圧分布」と称する)を示している。
図6において、V
ave1、V
ave2は、それぞれ第1組電池、第2組電池の平均セル電圧を示している。V
crは、クランキング成立下限電圧を示している。各組電池において、平均セル電圧がV
crを下回ると、クランキングが成立しなくなる。
【0088】
図6に示される第1セル電圧分布(線L11)、第2セル電圧分布(線L12)は、それぞれ第1組電池、第2組電池について第1終了条件が成立するまで放電を継続したときの分布である。すなわち、第1及び第2組電池の各々に含まれる全てのセルの電圧はV
end1以下になっている。
【0089】
図6を参照して、第1セル電圧分布は正規分布(一般的なばらつき)に相当する。第1組電池の平均セル電圧(V
ave1)はV
crよりも高い。このため、第1組電池は、クランキングに必要な電力を供給することができる。一方、第2セル電圧分布では、セル電圧が低圧側に偏っている。第2組電池の平均セル電圧(V
ave2)はV
crよりも低い。このため、第2組電池は、クランキングに必要な電力を供給することができない。
【0090】
図7は、第2中止電圧(V
end2)の決め方について説明するための第2のグラフである。
図7に示される第2セル電圧分布(線L12)は、第2組電池について第2終了条件が成立したタイミングで放電が終了したときの分布である。すなわち、第2組電池の平均セル電圧(V
ave2)は第2中止電圧(V
end2)に一致する。この実施の形態では、V
end2がV
crよりも少し高い電圧(たとえば、V
crに余裕電圧を加えた値)に設定される。V
crは、MG21aがエンジン31の始動処理のために必要とする電圧値である。
【0091】
図3に示す処理においては、駆動バッテリ11の平均セル電圧がV
end2以下になると(S19にてYES)、駆動バッテリ11の放電は終了する(後述するS20参照)。S19においてYESと判断されることは、これ以上放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなることを意味する。第1終了条件が成立する前に第2終了条件が成立して放電が終了した場合には、駆動バッテリ11(組電池)に含まれる一部のセルの電圧がV
end1に達しないことになる(
図7参照)。しかし、これらのセルは、十分大きな容量を有していると考えられるため、後述する組電池の寿命判定(
図8~
図10参照)の精度に大きな影響はないと考えられる。なお、この実施の形態では、平均セル電圧(組電池に含まれる全てのセルの電圧の平均値)に対してV
end2が設定されているが、平均値の代わりに中央値が採用されてもよい。V
end2は、組電池に含まれる全てのセルの電圧の中央値に対して設定されてもよい。
【0092】
再び
図1及び
図2とともに
図3を参照して、第1~第3終了条件がいずれも成立しない間は(S17~S19の全てでNO)、S15~S19の処理が繰り返され、駆動バッテリ11の放電が継続される。そして、第1~第3終了条件のいずれかが成立すると(S17~S19のいずれかでYES)、サービスツール200は、S20において駆動バッテリ11の放電を終了させる。
【0093】
サービスツール200は、S20において、駆動バッテリ11の放電を終了させた後、SOC制限制御を再開させる。これにより、再び駆動バッテリ11のSOCが所定のSOC範囲内に制限されるようになる。そして、S20の処理が実行されると、
図3に示す一連の処理は終了する。
【0094】
上述の
図3に示した処理により、駆動バッテリ11の状態(特に、劣化度合い)を示すデータが、サービスツール200の記憶装置203に記録される。サービスツール200は、記録された駆動バッテリ11のデータを用いて、駆動バッテリ11の劣化度合いを推定する。そして、サービスツール200は、駆動バッテリ11の寿命が尽きたか否か(すなわち、駆動バッテリ11の継続使用が可能か否か)を判定する。
【0095】
図8は、
図3に示した処理の後にサービスツール200によって実行される処理を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば
図3に示した処理によりサービスツール200が駆動バッテリ11のデータを取得した後、ユーザから所定の指示がHMI204に入力されると、実行される。ただしこれに限られず、
図8に示す処理の開始条件は任意に設定できる。たとえば、
図3に示した処理が終了した後、自動的に
図8に示す処理が開始されてもよい。
図8に示す各ステップは、サービスツール200の推定部212によって実行される。この実施の形態では、車両100とサービスツール200とが相互に接続された状態で、以下に説明する
図8に示す処理が実行される。
【0096】
図1及び
図2とともに
図8を参照して、S31では、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルのうち、前述の放電(
図3のS16)によって電圧がV
end1に到達した各セルの満充電容量を、サービスツール200が推定する。第1終了条件の成立(
図3のS17にてYES)によって放電が終了した場合には、駆動バッテリ11に含まれる全てのセルの満充電容量が推定される。第2又は第3終了条件の成立(
図3のS18又はS19にてYES)によって放電が終了した場合には、放電終了前に電圧がV
end1に達したセルのみの満充電容量が推定される。
【0097】
具体的には、サービスツール200は、図3のS15で取得されたデータ(放電開始電圧から放電終了電圧までのセル電圧の推移を示す電圧データを含む)を用いて、各セルの放電開始電圧からVend1(放電終了電圧)までの区間放電量(Ah)を取得する。放電量は、放電電流(A)の時間積分値に相当する。区間内で放電電流が変動する場合には、単位時間ごとの放電電流を時間で積分することによって区間放電量が得られる。区間内で放電電流が一定である場合には、放電電流(A)と放電時間(h)との乗算値が放電量に相当する。
【0098】
サービスツール200は、上記のようにセルの区間放電量(すなわち、放電開始電圧からVend1までの区間放電量)を算出し、所定のマップを用いて区間放電量を満充電容量を変換する。セルの満充電容量を求めるために、セルの温度と区間放電量と満充電容量との関係を示すマップが使用されてもよい。セルの温度及び区間放電量を上記マップに与えると、上記マップからセルの満充電容量が出力される。使用されるセルの温度は、放電中の平均温度であってもよいし、放電開始時の温度であってもよい。上記マップは、予め記憶装置203に記憶されてもよい。サービスツール200は、外部サーバ(たとえば、各種電池に関する情報を管理するサーバ)から上記マップを取得してもよいし、車両100から上記マップを取得してもよい。
【0099】
続くS32では、サービスツール200が、上記S31で推定されたセルの満充電容量(以下、「セル推定容量」とも称する)に基づいて、セルを分類する。分類の対象は、上記S31において満充電容量の推定が行なわれたセルである。分類はセルごとに行なわれる。具体的には、サービスツール200は、セルの満充電容量に基づいて、第1~第3区分のいずれかに当該セルを分類する。第1~第3区分は、満充電容量の大きさに応じて区分けされている。満充電容量が小さいほうから、第1区分、第2区分、第3区分の順である。セル推定容量が小さいセルほど劣化度合いが大きいと考えられる。なお、この実施の形態では、区分の数を3にしているが、区分の数は適宜変更可能である。区分の数は、4以上10未満であってもよいし、10以上であってもよい。
【0100】
図9は、S32の詳細を示すフローチャートである。
図9を参照して、S41では、セル推定容量が所定の第1閾値(以下、「Th11」と表記する)よりも小さいか否かを、サービスツール200が判断する。また、S42では、セル推定容量が所定の第2閾値(以下、「Th12」と表記する)よりも小さいか否かを、サービスツール200が判断する。Th12はTh11よりも大きい(後述する
図10参照)。
【0101】
セル推定容量がTh11よりも小さい場合には(S41にてYES)、S421においてセルが第1区分に分類される。セル推定容量がTh11以上かつTh12よりも小さい場合には(S41にてNOかつS42にてYES)、S422においてセルが第2区分に分類される。セル推定容量がTh12以上である場合には(S41及びS42の両方でNO)、S423においてセルが第3区分に分類される。
【0102】
上記
図9に示す一連の処理は、セルごとに実行される。
図8のS31で満充電容量が推定された各セルについて上記
図9に示す処理が実行されると、処理が
図8のS33に進む。上記
図9に示す処理によって第1~第3区分のいずれかに分類されたセル(すなわち、放電終了前に電圧が放電終了電圧に達したセル)を、以下では「診断対象セル」とも称する。
【0103】
再び
図1及び
図2とともに
図8を参照して、S33では、診断対象セルの全てが第3区分(
図9のS423)に分類されたか否かを、サービスツール200が判断する。また、S34では、診断対象セルの中に第1区分(
図9のS421)に分類されたセルが存在するか否かを、サービスツール200が判断する。
【0104】
診断対象セルの全てが第3区分に分類された場合には(S33にてYES)、サービスツール200は、S341において駆動バッテリ11が新品であると判定する。診断対象セルの中に第1区分に分類されたセルが存在する場合には(S33にてNOかつS34にてYES)、サービスツール200は、S343において駆動バッテリ11が継続使用不可である(すなわち、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できない)と判定する。診断対象セルの全てが第3区分に分類されておらず、かつ、診断対象セルの中に第1区分に分類されたセルが存在しない場合には(S33及びS34の両方でNO)、サービスツール200は、S342において駆動バッテリ11が継続使用可である(すなわち、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できる)と判定する。
【0105】
図10は、本開示の実施の形態に係る組電池の劣化診断方法における電池寿命の判定(
図8のS33、S34、及びS341~S343)について説明するための図である。
【0106】
図10を参照して、組電池Aでは診断対象セルの全てが第3区分に分類されている。このため、
図8のS33においてYESと判断され、組電池Aは「新品」と判定される(S341)。組電池B及びCの各々では、診断対象セルの全てが第3区分に分類されておらず、かつ、診断対象セルの中に第1区分に分類されたセルが存在しない。このため、
図8のS33及びS34の両方でNOと判断され、組電池B及びCの各々は「継続使用可」と判定される(S342)。組電池Dでは、診断対象セルの中に第1区分に分類されたセルが存在する。このため、
図8のS33にてNOかつS34にてYESと判断され、組電池Dは「継続使用不可」と判定される(S343)。
【0107】
再び
図1及び
図2とともに
図8を参照して、S341~S343のいずれかの処理が実行されると、処理がS35に進む。S35では、サービスツール200が、S341~S343の診断結果(新品/継続使用可/継続使用不可のいずれか)を車両100へ送信する。車両100が受信した診断結果は、たとえばHVECU50の記憶装置53に記憶される。S35の処理が実行されると、
図8に示す一連の処理は終了する。
【0108】
図11は、
図8に示した処理の後に車両100によって実行される処理を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、たとえば
図8に示した処理が終了した後、サービスツール200が車両100から取り外されると、開始される。ただしこれに限られず、
図11に示す処理の開始条件は任意に設定できる。たとえば、
図8に示した処理が終了した後、HVECU50がユーザからの要求に応じて
図11に示す処理を開始してもよい。
図11に示す各ステップは、HVECU50によって実行される。
【0109】
図1及び
図2とともに
図11を参照して、S51では、HVECU50が、サービスツール200によって推定された駆動バッテリ11の劣化度合いを用いて、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できるか否かを判断する。具体的には、駆動バッテリ11の状態が「新品」又は「継続使用可」に該当する場合には、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できる(S51にてYES)と判断され、処理がS52に進む。他方、駆動バッテリ11の状態が「継続使用不可」に該当する場合には、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できない(S51にてNO)と判断され、処理がS54に進む。
【0110】
S52では、HVECU50がエンジン31の始動制御を実行する。具体的には、HVECU50は、エンジン31が始動するように、MG21a、MG21b、及びエンジン31を制御する。HVECU50はPCU24を介してMG21a及びMG21bを制御する。エンジン31の始動制御において、MG21aは、駆動バッテリ11から供給される電力を用いてエンジン31のクランキングを実行する。クランキングされたエンジン31は燃焼を開始する。これにより、エンジン31が始動する。
【0111】
続くS53では、HVECU50が、エンジン発電によって生成される電力で駆動バッテリ11を充電する。これにより、始動したエンジン31から出力される動力を用いてMG21aが生成した電力がPCU24及びSMR14を経て駆動バッテリ11に入力される。HVECU50は、駆動バッテリ11のSOCが所定値以上になると、充電を終了する。HVECU50は、S53の処理により、駆動バッテリ11のSOCを診断前のSOC値に戻してもよい。あるいは、HVECU50は、車両100がEV走行可能な状態になるまで駆動バッテリ11を充電してもよい。S53の処理(駆動バッテリ11の充電)が終了することによって、
図11に示す一連の処理は終了する。
【0112】
S54では、HVECU50が、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できないことを報知する。HVECU50は、駆動バッテリ11の交換を促すように報知装置104を制御してもよい。たとえば、報知装置104が、駆動バッテリ11の交換時期が到来した旨のメッセージを表示してもよい。ただしこれに限られず、報知装置104は、駆動バッテリ11の交換を音(音声を含む)で促してもよい。また、HVECU50は、車両100のユーザが携帯する端末(たとえば、スマートフォン又はウェアラブルデバイス)に対して所定の通知(たとえば、駆動バッテリ11の交換が必要である旨を知らせる通知)を行なってもよい。S54の処理が実行されることによって、
図11に示す一連の処理は終了する。
【0113】
S54の処理後、駆動バッテリ11は交換される。この実施の形態では、駆動バッテリ11が電池パックごと交換される。ただしこれに限られず、組電池はセル単位で交換(リビルド)されてもよい。車両100から取り外された駆動バッテリ11は、他の用途で使用されてもよい。
【0114】
以上説明したように、この実施の形態に係る組電池の劣化診断方法は、
図3に示した一連の処理と、
図8に示した一連の処理と、
図11に示した一連の処理とを含む。
【0115】
図3に示した処理では、サービスツール200が、エンジン31(内燃機関)と、MG21a(エンジン31の始動処理を行なうモータ)と、MG21aに電力を供給する駆動バッテリ11(組電池)とを備える車両100について、駆動バッテリ11に含まれる各セルの電圧を測定しながら各セルの放電を実行する(S15及びS16)。サービスツール200は、各セルの放電中において、放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなるか否かを繰返し判断する(S19)。各セルの放電中に、放電を継続するとエンジン31の始動処理に必要な電力を駆動バッテリ11がMG21aに供給できなくなると判断された場合には(S19にてNO)、サービスツール200は放電を終了させる(S20)。
【0116】
放電終了後、サービスツール200は、
図8に示した処理により、放電中に取得された少なくとも1つのセルの電圧データを用いて駆動バッテリ11の劣化度合いを推定する。具体的には、サービスツール200は、駆動バッテリ11の状態が、新品(劣化度合いが小さい)、継続使用可(劣化度合いが中程度)、継続使用不可(劣化度合いが大きい)のいずれに該当するかを判別する(S341~S343)。
【0117】
図11に示した処理では、車両100が、サービスツール200によって推定された駆動バッテリ11の劣化度合いを用いて、車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できるか否かを判断する(S51)。車両100における駆動バッテリ11の使用を継続できると判断された場合には(S51にてYES)、MG21aがエンジン31の始動処理を実行する(S52)。そして、車両100は、始動したエンジン31から出力される動力を利用して生成された電力によって駆動バッテリ11を充電する(S53)。
【0118】
上記組電池の劣化診断方法によれば、駆動バッテリ11(組電池)の劣化診断のための放電を行なった後にエンジン31(内燃機関)の始動処理を容易に行なうことが可能になる。また、劣化診断のために放電された駆動バッテリ11を容易に充電することも可能になる。上記の劣化診断方法では、駆動バッテリ11が車両100に搭載された状態で駆動バッテリ11の放電が実行される。診断される駆動バッテリ11の満充電容量は5kWh以下であるため、十分なスループットの診断が可能である。
【0119】
図3に示した処理は適宜変更されてもよい。また、放電の終了条件も適宜変更可能である。たとえば、必要なければ第3終了条件(
図3のS18)は割愛されてもよい。あるいは、第1~第3終了条件に対して、さらなる終了条件が追加されてもよい。
【0120】
上記実施の形態では、サービスツール200における放電部211及び推定部212が、プロセッサ201と、プロセッサ201により実行されるプログラムとによって具現化されている。ただしこれに限られず、放電部211及び推定部212は、専用のハードウェア(電子回路)によって具現化されてもよい。
【0121】
また、放電部211及び推定部212の機能は、車両100に実装されてもよい。
図12は、
図2に示したHVECU50の変形例を示す図である。
図12を参照して、車両100に搭載されたHVECU50Aが、放電部211及び推定部212を含んでもよい。HVECU50Aにおける放電部211及び推定部212は、プロセッサ51と、プロセッサ51により実行されるプログラム(たとえば、記憶装置53Aに記憶された診断プログラム)とによって具現化されてもよい。
【0122】
上記実施の形態では、プラグイン用のインレットを備えないHEVに搭載された組電池を、劣化診断の対象としている。しかしこれに限られず、プラグイン用のインレットを備えるPHEV(プラグインハイブリッド車)に搭載された組電池を、劣化診断の対象としてもよい。
【0123】
上述したいずれかの方法によって劣化診断される組電池において全てのセルが直列に接続されていること(
図2参照)は必須ではない。劣化診断される組電池の構造は任意である。
図13は、
図2に示した組電池の変形例を示す図である。たとえば、
図13に示される組電池500を劣化診断の対象としてもよい。組電池500は、N個の並列セルブロック(すなわち、並列セルブロックCB-1~CB-N)を含む。並列セルブロックCB-1~CB-Nの各々は、並列接続された複数のセルを含む。各並列セルブロックにおいて並列に接続されるセルの数は任意であるが、
図13に示す例では3個である。並列セルブロックCB-1~CB-Nは、電力線を介して直列に接続されている。
【0124】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
11 駆動バッテリ、12a 電圧センサ、12b 電流センサ、12c 温度センサ、31 エンジン、50,50A HVECU、80 補機バッテリ、81,82 DC/DCコンバータ、91 高圧負荷、92 低圧負荷、100 車両、200 サービスツール、211 放電部、212 推定部、500 組電池。