(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】都市管理支援装置、都市管理支援方法、及び都市管理支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/00 20230101AFI20240625BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20240625BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20240625BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20240625BHJP
【FI】
G06Q10/00
G06Q50/10
G16Y40/10
G16Y40/20
(21)【出願番号】P 2021205844
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 昌広
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英男
【審査官】橋沼 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-102553(JP,A)
【文献】特開2021-177379(JP,A)
【文献】特開2017-059099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16Y 40/10
G16Y 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理を支援する都市管理支援装置であって、
少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記資源の提供状況に関する情報を取得すること、
前記資源の前記提供状況に基づき前記複数のサービスの所定時間未来のサービス達成度をサービス毎に予測計算すること、及び
前記資源の前記提供状況の異常による前記複数のサービスの少なくとも一つにおける前記サービス達成度の低下を受けて、前記サービス達成度の高い高達成度サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに前記高達成度サービスの利用を控えることの要請を通知すること、を実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の都市管理支援装置において、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記サービス毎のサービス内容と前記サービス達成度とに基づき前記複数のサービス間における前記資源の提供の優先順位を計算すること、及び
前記高達成度サービスのうち前記優先順位の低い低優先サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに前記低優先サービスの利用を控えることの要請を通知すること、を実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の都市管理支援装置において、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記高達成度サービスを利用することを予約している利用者に対して前記要請を通知すること、を実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の都市管理支援装置において、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記要請の通知を受けることを予め了承した利用者に対して前記要請を通知すること、を実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の都市管理支援装置において、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記高達成度サービスの利用が控えられることでできた前記資源の余裕分を利用したサービスの提供者から前記インセンティブの原資を徴収すること、をさらに実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の都市管理支援装置において、
前記インセンティブは前記都市内でのみ使用可能なデジタル通貨である
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の都市管理支援装置において、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
前記高達成度サービスの提供者に対してインセンティブの付与と引き換えに前記高達成度サービスの提供を控えることの要請を通知すること、をさらに実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援装置。
【請求項8】
コンピュータが実行する、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理
を支援する都市管理支援方法であって、
前記資源の提供状況に関する情報を前記コンピュータに入力すること、
前記資源の前記提供状況に基づき前記複数のサービスの所定時間未来のサービス達成度をサービス毎に前記コンピュータにより予測計算すること、及び
前記資源の前記提供状況の異常による前記複数のサービスの少なくとも一つにおける前記サービス達成度の低下を受けて、前記サービス達成度の高い高達成度サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに前記高達成度サービスの利用を控えることの要請を前記コンピュータから通知すること、を含む
ことを特徴とする都市管理支援方法。
【請求項9】
有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理をコンピュータを用いて支援するための都市管理支援プログラムであって、
前記資源の提供状況に関する情報を取得すること、
前記資源の前記提供状況に基づき前記複数のサービスの所定時間未来のサービス達成度をサービス毎に予測計算すること、及び
前記資源の前記提供状況の異常による前記複数のサービスの少なくとも一つにおける前記サービス達成度の低下を受けて、前記サービス達成度の高い高達成度サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに前記高達成度サービスの利用を控えることの要請を通知すること、を前記コンピュータに実行させるように構成された
ことを特徴とする都市管理支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理に用いて好適な都市管理支援装置、都市管理支援方法、及び都市管理支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、スマート化によりサービスが一括管理されている“都市”が研究され、また、各地で計画されている。ここでいう都市は、様々なサービスが提供されることで人々の生活が営まれている物理的空間を意味し、所謂スマートシティのような大規模なものだけでなく、地下街のような中規模のものや、大型ビルディングのような小規模のものも含む。このような都市では、都市において提供される資源の多くは有限であり、多くの場合においてその有限の資源は複数のサービスで共用されている。都市全体としてのサービスレベルを維持するためには、有限の資源を複数のサービス間で上手く譲り合わせることができる都市管理が求められる。
【0003】
しかしながら、これまでのところ、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理については研究が十分に進んでいるとは言い難い。例えば、特許文献1には、交通監視装置において、複数の連続渋滞経路のそれぞれについて、少なくとも連続渋滞経路にける車両進行方向に基づいて、渋滞を解消するための対策を施す優先度を算出する技術が開示されている。しかし、この技術では、複数のサービス間での資源の譲り合いによって問題を解消することについては検討されていない。
【0004】
なお、本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、上述の特許文献1の他にも下記の特許文献2乃至6を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/189152号
【文献】特開2015-187498号公報
【文献】特開平11-353358号公報
【文献】国際公開第2013/084268号
【文献】特開2016-218912号公報
【文献】特開2021-033941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、有限の資源を複数のサービス間で上手く譲り合わせることによって都市全体としてのサービスレベルの低下を抑えることに寄与する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示は都市管理支援装置を提供する。本開示の都市管理支援装置は、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理を支援する装置である。本開示の都市管理支援装置は、少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、上記少なくとも1つのプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサとを備える。上記少なくとも1つのプログラムは、上記少なくとも1つのプロセッサに、資源の提供状況に関する情報を取得することと、資源の提供状況に基づき複数のサービスの所定時間未来のサービス達成度をサービス毎に予測計算することとを実行させるように構成されている。さらに、上記少なくとも1つのプログラムは、上記少なくとも1つのプロセッサに、資源の提供状況の異常による複数のサービスの少なくとも一つにおけるサービス達成度の低下を受けて、サービス達成度の高い高達成度サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに高達成度サービスの利用を控えることの要請を通知することを実行させるように構成されている。
【0008】
また、上記目的を達成するため、本開示は都市管理支援方法を提供する。本開示の都市管理支援方法は、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理をコンピュータを用いて支援する方法である。本開示の都市管理支援方法は、資源の提供状況に関する情報をコンピュータに入力することと、資源の提供状況に基づき複数のサービスの所定時間未来のサービス達成度をサービス毎にコンピュータにより予測計算することとを含む。さらに、本開示の都市管理支援方法は、資源の提供状況の異常による複数のサービスの少なくとも一つにおけるサービス達成度の低下を受けて、サービス達成度の高い高達成度サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに高達成度サービスの利用を控えることの要請をコンピュータから通知することを含む。
【0009】
さらに、上記目的を達成するため、本開示は都市管理支援プログラムを提供する。本開示の都市管理支援プログラムは、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理をコンピュータを用いて支援するためのプログラムである。本開示の都市管理支援プログラムは、資源の提供状況に関する情報を取得することと、資源の提供状況に基づき複数のサービスの所定時間未来のサービス達成度をサービス毎に予測計算することとをコンピュータに実行させるように構成されている。さらに、本開示の都市管理支援プログラムは、資源の提供状況の異常による複数のサービスの少なくとも一つにおけるサービス達成度の低下を受けて、サービス達成度の高い高達成度サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに高達成度サービスの利用を控えることの要請を通知することをコンピュータに実行させるように構成されている。
【0010】
本開示の上記の技術によれば、通知を受けた利用者が高達成度サービスの利用を控えることで資源に余裕ができる。余裕ができた資源がサービス達成度の低下が予測されるサービスに割り振られることで、当該サービスのサービス達成度の低下が抑えられるようになる。また、高達成度サービスの利用を控えた利用者はインセンティブを受け取ることで、利用を控えたことによる不利益は補償される。ゆえに、本開示の上記の技術によれば、異なるサービス間で資源を譲り合う場を提供することができ、資源の譲り合いがうまくいくことで都市全体としてのサービスレベルの低下が抑えられるようになる。
【0011】
本開示の上記の技術において、サービス毎のサービス内容とサービス達成度とに基づき複数のサービス間における資源の提供の優先順位を計算し、高達成度サービスのうち優先順位の低い低優先サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに低優先サービスの利用を控えることの要請を通知するようにしてもよい。これによれば、高達成度サービスの中でも優先順位の低い低優先サービスの利用が控えられるので、都市全体としてのサービスレベルの低下はより抑えられる。
【0012】
また、本開示の上記の技術において、高達成度サービスを利用することを予約している利用者に対して要請を通知するようにしてもよい。これによれば、高達成度サービスを利用する予定の利用者に対して通知を行うことで、高達成度サービスの利用が控えられる確実性を高めることができる。
【0013】
また、本開示の上記の技術において、要請の通知を受けることを予め了承した利用者に対して要請を通知するようにしてもよい。これによれば、高達成度サービスを利用する予定の利用者に対して通知を行うことで、高達成度サービスの利用が控えられる確実性を高めることができる。
【0014】
また、本開示の上記の技術において、高達成度サービスの利用が控えられることでできた資源の余裕分を利用したサービスの提供者からインセンティブの原資を徴収するにしてもよい。これによれば、利益を受けたもの(サービスの提供者)に対価を払わせるようにすることで、サービス提供者とサービス利用者との間でのマッチング市場を形成することができる。
【0015】
また、本開示の上記の技術において、インセンティブは都市内でのみ使用可能なデジタル通貨であってもよい。これによれば、管理者にとっても利用者にとっても便利であるし、都市の活性化につながるという利点がある。
【0016】
さらに、本開示の上記の技術において、高達成度サービスの提供者に対してインセンティブの付与と引き換えに高達成度サービスの提供を控えることの要請を通知するようにしてもよい。これによれば、サービス提供者同士で資源を譲り合わせることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本開示の技術は有限の資源を複数のサービス間で上手く譲り合わせることによって都市全体としてのサービスレベルの低下を抑えることに寄与するものであり、有限の資源を共用する複数のサービスが同時に提供される都市の管理において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の実施形態に係る都市の概要を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る都市管理支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】都市で提供される複数のサービスが有限数の車両を共有するサービスである場合の都市管理支援装置の動作について説明する図である。
【
図4】都市で提供される複数のサービスが有限数の車両を共有するサービスである場合の都市管理支援装置の動作について説明する図である。
【
図5】都市で提供される複数のサービスが有限数の車両を共有するサービスである場合の都市管理支援装置の動作について説明する図である。
【
図6】都市で提供される複数のサービスが車両用の充電器を共有するサービスである場合の都市管理支援装置の動作について説明する図である。
【
図7】都市で提供される複数のサービスが車両用の充電器を共有するサービスである場合の都市管理支援装置の動作について説明する図である。
【
図8】都市で提供される複数のサービスが車両用の充電器を共有するサービスである場合の都市管理支援装置の動作について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の都市管理支援装置、都市管理支援方法、及び都市管理支援プログラムの実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0020】
1.都市の概要
本開示において、都市とは、様々なサービスが提供されることで人々の生活が営まれている物理的空間を意味する。本開示における都市の規模には限定はない。スマートシティは大規模な都市の一例であり、地下街は中規模な都市の一例であり、大型ビルディングは小規模な都市の一例である。物理的空間ではないインターネットの仮想空間は本開示における都市には含まれない。
【0021】
都市では各種のサービスが利用者に提供されている。サービスは都市の資源を利用して提供される。資源とは、都市におけるサービスの提供に利用されるものであり、例えば、道路、給電ステーション、集荷場、ネットワーク、電気、水等が含まれる。物流サービスがビルのエレベータも利用するのであれば、エレベータも資源に含まれる。ただし、本開示における資源は有限なものであって、無限なもの或いは有限ではあるがその限度がサービスによる資源の利用量に比較して十分に高いものは本開示における資源には含まれない。本開示における都市では、有限の資源が複数のサービスで共用されている。
【0022】
図1は本開示の実施形態に係る都市100の概要を示す。本実施形態に係る都市100では、有限の資源110を共用するサービスA,B及びCが各サービスA,B,Cの提供者120A,120B,120Cから利用者130に対して同時に提供される。有限の資源110を利用する複数のサービスが同時に提供されるとは、1人の利用者130が複数のサービスを同時に利用するという意味の他に、有限の資源110を利用する複数のサービスが相互に排他的でないことを意味する。つまり、都市100で提供されるサービスA,B及びCのうちいずれか1つのサービスが資源110を独占することはないし、いずれか2つのサービスが資源110を寡占することもない。
【0023】
利用者130に対する各サービスA,B,Cの提供状況は都市100における資源110の提供状況の影響、特に、提供状況の異常の影響を受ける。どのサービスがどれだけ影響受けるかは資源110の提供状況の異常の内容次第である。例えば、一部のサービスのみ影響を受ける場合もあれば、全てのサービスが影響を受ける場合もある。資源110の提供状況の異常の内容次第では、サービスの提供方法を通常の提供方法から代替方法に変更することによって、サービスの低下を抑えることができる場合もある。ただし、資源110は共用されているので、例えば1つのサービスを維持するためには、他のサービスを低下せざるを得ない場合もある。資源110の提供状況に異常が生じた場合に都市100全体としてサービスの低下を如何に抑えるかは、都市100の管理における重要な課題である。
【0024】
本実施形態に係る都市100では、各サービスA,B,Cの提供状況は資源110の提供状況とともに都市管理者140によって一括管理されている。都市管理者140は資源110の提供状況を監視し、資源110の提供状況に異常が生じた場合には速やかに復旧する権限と責任を有する。ただし、資源110の種類によっては日頃のメンテナンスや異常時の復旧を都市管理者140が別の事業者に委託することもあれば、資源110の提供自体が別の事業者によって行われる場合もある。また、都市管理者140は基本的にはサービス提供者120A,120B,120Cとは別の事業者である。例外として都市管理者140が自身でサービスを提供している場合を除き、基本的には都市管理者140がサービスの提供方法を変えることはできない。
【0025】
本実施形態に係る都市100では、その継続的な発展のため、資源110とサービスA,B,Cの両面において効率的且つ適切な管理が都市管理者140に対して求められている。本開示の実施形態に係る都市管理支援装置200は都市管理者140による都市100の効率的且つ適切な管理を支援するための装置である。都市管理支援装置200は少なくとも1つのプログラム203を記憶した少なくとも1つのメモリ202と、少なくとも1つのプログラム203を実行する少なくとも1つのプロセッサ201とを備えたコンピュータである。メモリ202に記憶されたプログラム203がプロセッサ201で実行されることによって、都市管理者140の支援のための様々な機能が実現される。ただし、都市管理支援装置200は一つのコンピュータによって構成されてもよいし、ネットワークで接続された複数のコンピュータによって構成されてもよい。
【0026】
都市管理支援装置200はそれ自体が都市100を管理するのではなく、都市管理者140による都市100の管理を支援する。都市100の管理を支援するため、都市管理支援装置200は資源110の提供状況に関する情報と各サービスA,B,Cの提供状況に関する情報とを取得する。都市管理支援装置200は取得した情報に基づいて各サービスA,B,Cの達成度を予測し、各サービス提供者120A,120B,120に対してそれぞれが提供するサービスA,B,Cの達成度の予測情報を提供する。サービス達成度の詳細については後述する。また、都市管理支援装置200は都市100全体としてのサービスレベルを維持するための協力要請を利用者130やサービス提供者120A,120B,120Cに対して必要に応じて通知する。このように、都市管理支援装置200は、利用者130やサービス提供者120A,120B,120Cに対する通知や情報の提供による都市サービスの維持のための働きかけによって都市管理者140による都市100の管理を支援する。次の章では都市管理支援装置200の詳細について説明する。
【0027】
2.都市管理支援装置の構成
図2は都市管理支援装置200の構成を示すブロック図である。都市管理支援装置200は、情報取得ユニット210、サービスシミュレータ220、達成度演算ユニット230、優先順位演算ユニット240、及び協力要請通知ユニット250を備える。都市管理支援装置200を構成するこれらの要素は、メモリ202に記憶されたプログラム203、詳しくは、都市管理支援プログラムがプロセッサ201で実行されたときに実現される都市管理支援装置200の機能である。
【0028】
情報取得ユニット210は都市100の管理のために必要な情報を都市100から取得する。情報取得ユニット210により取得される情報には、都市100における資源110の提供状況に関する情報が含まれる。資源110の提供状況に関する情報は、例えば、都市100に配備された様々なセンサによる検出情報、サービス提供者120A,120B,120Cからの提供情報、或いは、SNS上の情報を含む利用者130からの提供情報から取得される。情報取得ユニット210により取得された資源110の提供状況に関する情報はサービスシミュレータ220に入力される。
【0029】
情報取得ユニット210により取得される情報には、各サービスA,B,Cの提供状況に関する情報が含まれる。サービスAの提供状況に関する情報はサービス提供者120Aから取得される。サービスBの提供状況に関する情報はサービス提供者120Bから取得される。そして、サービスCの提供状況に関する情報はサービス提供者120Cから取得される。ただし、例えば2つのサービスが同じ事業者によって提供されている場合には、その事業者から2つのサービスの提供状況に関する情報が取得される。また、SNS上の情報を含む利用者130からの提供情報からサービスの提供状況に関する情報を取得することもできる。情報取得ユニット210により取得された各サービスA,B,Cの提供状況に関する情報はサービスシミュレータ220に入力される。
【0030】
また、情報取得ユニット210により取得される情報には、都市100においてサービスA,B,Cの少なくとも1つを享受している利用者130に関する利用者情報が含まれる。利用者情報は利用者130ごとの各サービスA,B,Cの予約情報を含む。また、利用者情報は利用者130ごとの協力要請通知の受信の諾否に関する情報を含む。情報取得ユニット210は利用者情報のうち予約情報を各サービス提供者120A,120B,120Cから取得する。協力要請通知の受信の諾否については、情報取得ユニット210は利用者130から直接情報を取得してデータベースに登録する。情報取得ユニット210により取得された利用者情報は協力要請通知ユニット250に入力される。
【0031】
サービスシミュレータ220は予測モデルを用いて所定時間未来のサービスの状況を予測するシミュレータである。サービスシミュレータ220の入力は、現在の各サービスA,B,Cの提供状況に関する情報と資源110の提供状況に関する情報である。サービスシミュレータ220はこれらの情報に基づき予測モデルを用いて各サービスA,B,Cの所定時間未来の状況を予測する。予測時間は例えば10分、1時間、2時間等であり、サービスの内容に応じて決められる。
【0032】
サービスシミュレータ220が用いる予測モデルでは、資源110とサービスとの関係に関わるパラメータが都市100の仕様に合わせて予め作り込まれている。例えば都市100で提供されるサービスが交通サービス又は物流サービスである場合、建物や道路の状態、移動体の場所及び状態、住民モデル、サービスによる移動体の利用方法等のパラメータが予め作り込まれている。住民モデルとは都市100の住民をモデル化したものである。住民は時には道路を利用し、時には移動体の障害物となる等して資源110とサービスとの関係に影響を与える。住民モデルでは、サービスの内容によって住民一人一人の動きをシミュレーションしてもよいし、集団としてシミュレーションしてもよい。
【0033】
サービスシミュレータ220が用いる予測モデルでは、サービス毎にサービス定義が設定されている。例えば、都市100で提供されるサービスが交通サービスである場合、ルート、時刻表、乗降予測人数、資源110の提供状況に異常が生じた場合のサービスの提供方法の代替方法等がサービス定義として設定されている。また、都市100で提供されるサービスが物流サービスである場合、荷受予測数、届け先予測、資源110の提供状況に異常が生じた場合のサービスの提供方法の代替方法等がサービス定義として設定されている。また、サービス毎にサービス定義の1つとしてサービスの内容から決まる重要度が設定されている。サービスシミュレータ220の定義設定部222AにはサービスAの定義が設定され、定義設定部222BにはサービスBの定義が設定され、定義設定部222CにはサービスCの定義が設定されている。定義設定部222A,222B,222Cに設定されている各サービス定義は更新可能である。
【0034】
サービスシミュレータ220による所定時間未来のサービスの状況の予測は継続的に実行されてもよいし、資源110の提供状況に異常が生じたことを条件として実行されてもよい。資源110の提供状況の異常とは後述するサービスの達成度に影響を与える異常であり、資源毎サービス毎に予め定義されている。資源110の提供状況の異常を予測計算の実行条件とすることで、プロセッサ201の負荷を低減し、また、計算に伴う電力の使用を抑えることができる。
【0035】
サービスシミュレータ220からは予測計算された各サービスA,B,Cの状況予測値が出力される。つまり、各サービスA,B,Cの所定時間未来の状況の予測結果はそれぞれ一つの数値で表される。各サービスA,B,Cの状況予測値は達成度演算ユニット230に入力される。
【0036】
達成度演算ユニット230はサービスシミュレータ220から入力された各サービスA,B,Cの状況予測値に基づきサービスA,B,C毎にサービス達成度を計算する。サービス達成度は、サービスの低下が利用者130に与えるインパクトを示す数値であって、例えば、SLA(Service Level Agreement)のように予め規定された水準からのずれの程度を示す数値として定義される。達成度演算ユニット230で計算された各サービスA,B,Cの達成度は優先順位演算ユニット240と協力要請通知ユニット250とに入力される。
【0037】
優先順位演算ユニット240は達成度演算ユニット230から入力された各サービスA,B,Cの達成度と、サービスシミュレータ220から入力された各サービスA,B,Cの重要度とを受け付ける。優先順位演算ユニット240はサービス毎の重要度とサービス達成度とに基づきサービスA,B,C間における資源110の提供の優先順位を計算する。優先順位演算ユニット240で計算されたサービスA,B,C間における資源110の提供の優先順位は協力要請通知ユニット250に入力される。
【0038】
協力要請通知ユニット250は達成度演算ユニット230から入力された各サービスA,B,Cの達成度と、優先順位演算ユニット240から入力されたサービスA,B,C間における資源110の提供の優先順位とを受け付ける。また、協力要請通知ユニット250はサービスシミュレータ220から入力された資源110の提供状況に関する情報と、情報取得ユニット210から入力された利用者情報とを受け付ける。
【0039】
協力要請通知ユニット250は達成度演算ユニット230から受け付けたサービス達成度の予測情報をサービス提供者120A,120B,120Cに対して提供する。サービス達成度の予測情報はサービス提供者120A,120B,120Cにとってサービスの運用のための参考情報として用いることができる。また、サービスA,B,C毎のサービス達成度の予測情報は、資源110の提供状況に関する情報とともに都市管理者140にも提供される。
【0040】
協力要請通知ユニット250は資源110の提供状況に関する情報とサービス達成度の予測情報とに基づいて協力要請通知の必要性を判定する。具体的には、資源110の提供状況に異常が生じ、サービスA,B,Cの少なくとも一つにおけるサービス達成度が低下した場合、協力要請通知ユニット250は協力要請通知が必要であると判断する。
【0041】
協力要請通知ユニット250が協力要請を通知する相手には、利用者130のうちサービス達成度の高い高達成度サービスの利用者が含まれる。高達成度サービスの利用者に対しては、インセンティブの付与と引き換えに高達成度サービスの利用を控えることの要請が通知される。高達成度サービスの利用者とは、所定時間内に高達成度サービスを利用する予定のある利用者である。ただし、協力要請通知の受信を拒否している利用者に対する協力要請通知は行われない。データベースに協力要請通知の受信の諾否が登録されていない利用者については、協力要請通知の受信を拒否しているものとして判断される。利用者に付与するインセンティブの例としては商品やサービスと交換可能なポイントや、都市100内でのみ使用可能なデジタル通貨を挙げることができる。
【0042】
協力要請通知ユニット250が協力要請を通知する相手には、サービス提供者120A,120B,120Cのうちサービス達成度の高い高達成度サービスの提供者が含まれる。高達成度サービスの提供者に対しては、インセンティブの付与と引き換えに高達成度サービスの提供を控えることの要請が通知される。ただし、インセンティブの付与との引き換えは無くてもよい。つまり、サービス提供者120A,120B,120C間での相互扶助の理念に基づき、高達成度サービスの提供者に対してインセンティブ無しで高達成度サービスの提供を控えることを要請してもよい。
【0043】
3.都市管理支援装置による都市管理支援方法の具体例
3-1.第1の具体例
第1の具体例として、都市100で提供されるサービスが車両を共有するサービスである例について説明する。
図3乃至
図5は第1の具体例について説明する図である。
【0044】
第1の具体例においてサービス間で共有される有限の資源110は車両である。オンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスの3つのサービスが車両を共有する。
図1及び
図2に示す例に当てはめるならば、オンデマンドバスサービスはサービスAであり、オンデマンドバスサービス事業者はサービス提供者120Aである。カーシェアサービスはサービスBであり、カーシェアサービス事業者はサービス提供者120Bである。そして、タクシーサービスはサービスCであり、タクシーサービス事業者はサービス提供者120Cである。
【0045】
第1の具体例においてサービス間で共有される車両は、1人又は少人数が乗車可能な乗用車型の車両151A~151Dと、多人数が乗車可能なミニバス型(或いはミニバン型)の車両152A~152Dである。これらの車両151A~151D,152A~152Dは都市100によって保有されている。どの車両がそのサービスに割り当てられるかは各サービスの需要に関する統計データ、翌日の天気予報、翌日のイベント情報などに基づいて前日に確定される。車両は自動運転車両でもよいし運転者によって運転される車両でもよい。運転者によって運転される車両の場合、運転者とセットでサービスへの割り当てが行われる。車両151A~151D,152A~152Dの各サービスへの割り当て、つまり資源110の各サービスへの割り当てもまた都市管理支援装置200のサービスシミュレータ220の一つの機能である。
【0046】
図3には車両151A~151D,152A~152Dの各サービスへの割り当ての例が示されている。タクシーサービスには2台の乗用車型の車両151A,151Bが割り当てられている。カーシェアサービスには2台の乗用車型の車両151C,151Dと2台のミニバス型の車両152A,152Bが割り当てられている。そして、オンデマンドバスサービスには2台のミニバス型の車両152C,152Dが割り当てられている。
【0047】
図3はある時刻における各サービスの利用状況が示されている。タクシーサービスでは車両151Aのみが利用者131Aによって利用されている。カーシェアサービスでは車両151Cが利用者131Cによって利用され、車両152Aが利用者131Eによって利用されている。車両152Aはミニバス型車両であるが空いてさえすれば1人での利用も可能である。オンデマンドバスサービスでは車両152Cが3名の利用者からなる利用者集団132Aによって利用され、車両152Dが2名の利用者からなる利用者集団132Bによって利用されている。
【0048】
都市100においてオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスが提供されている間、都市管理支援装置200は各サービスの達成度を計算している。サービスの達成度は点数(達成度スコア)で表される。SLAを満たした計画どおりに進んでいる状態がサービス達成度としては最高の状態であり、達成度スコアは最高点の100点とされる。達成度スコアは減点方式で計算される。
【0049】
例えば、カーシェアサービス及びタクシーサービスでは、サービスシミュレータ220によって所定時間未来の不足車両の台数が予測される。そして、予約された車両を確実に用意し、遅延なくサービスを提供している状態での達成度スコアが100点とされ、計画台数に対する不足車両の台数の割合に応じて達成度スコアは減点される。
図3に示す例ではカーシェアサービス及びタクシーサービスともに各利用者に対して遅滞なく車両が配車されているので、両方のサービスで達成度スコアは100点となっている。
【0050】
オンデマンドバスサービスでは、サービスシミュレータ220によって所定時間未来の各車両の混雑度が予測される。混雑度は例えば定員に対する乗車人数の比で計算されてもよい。全車両の混雑度を合計或いは平均することによってオンデマンドバスサービス全体での混雑度が計算される。混雑度が基準値以下である状態での達成度スコアが100点とされ、混雑度が基準値よりも大きくなるにつれて達成度スコアは減点される。
図3に示す例では全車両152C,152Dが混雑することなく運行されているので、オンデマンドバスサービスの達成度スコアは100点となっている。
【0051】
図4には
図3に示す状態の時刻から時間が経過したときの各サービスの利用状況が示されている。ここでは、オンデマンドバスサービスの予約の需要が想定よりも高いことがオンデマンドバスサービスの予約システムで検知されたとする。或いは、都市100に配備された都市センサ(例えばカメラセンサ)を用いた人流検知システムによって想定より多数の人が街に出ていることが検知されたとする。都市管理支援装置200は、都市センサにより検知された人流が閾値を超えたことを受けて、SLAを守ってオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスを提供できるか否かをサービスシミュレータ220でシミュレーションする。
【0052】
シミュレーションの結果、サービス間で需要を分担することによって、増加分の需要に対してサービスの提供側でマッチングを取ることができることが分かった。しかし、オンデマンドバスサービスでは、車両152C,152Dの混雑度が高くなってサービス達成度が低下し、達成度スコアが閾値よりも低くなることも分かった。各車両152C,152Dの定員は4名であるところ、車両152Cを同時に利用する利用者集団132Aは5名であり、車両152Dを同時に利用する利用者集団132Bは6名である。
【0053】
この場合、協力要請通知ユニット250は高いサービス達成度が維持されているカーシェアサービスとタクシーサービスのそれぞれの利用状況を検討し、協力要請の通知の必要性について判定する。
図4に示す例では、カーシェアサービスで利用されているミニバス型の車両152A,152Bはそれぞれ1人の利用者131E,131Fによって予約されている。シミュレーションの結果、これらの車両152A,152Bのうち1台をオンデマンドバスサービスに割り当てることができれば、オンデマンドバスサービスのサービス達成度の低下を抑えることができることが分かった。
【0054】
オンデマンドバスサービスに車両を追加で割り当てるためには、利用者131Eと利用者131Fのどちらかにカーシェアサービスの利用を諦めてもらう必要が生じる。協力要請通知ユニット250は利用者情報に基づいて利用者131Eと利用者131Fのどちらかを選択し、車両152A或いは車両152Bによるカーシェアサービスの利用を諦めて欲しい旨の協力要請を通知する。協力要請通知には協力要請を受諾することで付与されるインセンティブが提示されている。利用者131Eが協力要請通知の受信を拒否し、利用者131Fが協力要請通知の受信を了承している場合、協力要請通知ユニット250は利用者131Fに対して協力要請を通知する。なお、利用者131Eと利用者131Fの両方が協力要請通知の受信を了承している場合には、協力要請の通知先をランダムに選択してもよい。
【0055】
また、利用者131Fに対して協力要請を通知するのと並行して、協力要請通知ユニット250はカーシェアサービス事業者120Bに対しても協力要請を通知する。協力要請を通知された利用者131Fは協力要請を承諾してもよいし承諾しなくてもよい。一方、カーシェアサービス事業者120Bに対しては、利用者131Fが協力要請を承諾することを条件とした決定事項として、車両152Bの割り当てがオンデマンドバスサービスからカーシェアサービスに変更される旨が通知される。
【0056】
図5には利用者131Fが協力要請を承諾することで実現される各サービスの利用状況が示されている。利用者131Fが協力要請を承諾することにより、車両152Bはオンデマンドバスサービスに割り当てられる。車両152Bが複数人の利用者からなる利用者集団132Cによって利用されることで、車両152Cを利用する利用者集団132Aの人数は減少し、車両152Dを利用する利用者集団132Cの人数も減少する。これにより、オンデマンドバスサービス全体としての車両152B,152C,152Dの混雑度は減少し、サービス達成度の達成度スコアは上昇する。一方、利用者131Fに対して車両を用意できないことでカーシェアサービスのサービス達成度の達成度スコアは低下する。しかし、全てのサービスにおいて達成度スコアは閾値(例えば50点)以上に維持されるので、都市100全体としてのサービスレベルは向上する。
【0057】
利用者131Fが協力要請を承諾した場合、利用者131Fには車両152Bの利用を諦めたことと引き換えにインセンティブが付与される。インセンティブは都市管理支援装置200から利用者131Fに直接付与されてもよいし、車両152Bを譲ってもらったオンデマンドバスサービス事業者120Aを介して付与されてもよい。インセンティブの原資は車両152Bを譲ってもらうことでサービスレベルの低下を抑えることができたオンデマンドバスサービス事業者120Aから徴収される。
【0058】
以上のように第1の具体例では、協力要請通知を受けた利用者131Fがカーシェアサービスの利用を控えることで資源110である車両に余裕ができる。資源110の余裕分としての車両152Bがサービス達成度の低下が予測されるオンデマンドバスサービスに割り振られることで、オンデマンドバスサービスのサービス達成度の低下が抑えられるようになる。また、カーシェアサービスの利用を控えた利用者131Fはインセンティブを受け取ることで、利用を控えたことによる不利益は補償される。
【0059】
都市管理支援装置200は異なるサービス間で資源110を融通し合う場、すなわち、マッチング市場を提供する。第1の具体例では、そのマッチング市場において都市100が所有する車両をオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスの間で上手く譲り合わせることによって都市100全体としてのサービスレベルの低下が抑えられる。
【0060】
3-2.第2の具体例
第2の具体例として、都市100で提供されるサービスが電動車に充電する充電器を共有するサービスである例について説明する。
図6乃至
図8は第2の具体例について説明する図である。
【0061】
第1の具体例においてサービス間で共有される有限の資源110は電動車に充電する充電器である。オンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスの3つのサービスが充電器を共有する。
図1及び
図2に示す例に当てはめるならば、オンデマンドバスサービスはサービスAであり、オンデマンドバスサービス事業者はサービス提供者120Aである。カーシェアサービスはサービスBであり、カーシェアサービス事業者はサービス提供者120Bである。そして、タクシーサービスはサービスCであり、タクシーサービス事業者はサービス提供者120Cである。
【0062】
第2の具体例では、都市100は1人又は少人数が乗車可能な乗用車型の車両151A~151Fと多人数が乗車可能なミニバス型(或いはミニバン型)の車両152A~152Bを保有している。タクシーサービスは2台の乗用車型の車両151A,151Bを使用する。カーシェアサービスは4台の乗用車型の車両151C~151Fを使用する。そして、オンデマンドバスサービスは2台のミニバス型の車両152A,152Bを使用する。
【0063】
都市100が保有する全ての車両151A~151F,152A~152Bは充電が可能な電動車、より詳しくは、充電可能な車載バッテリからの電力の供給を受けてモータで走行するバッテリ電気自動車(BEV)である。車両151A~151F,152A~152Bへの充電のため、都市100には急速充電が可能な複数台の充電器154A~154Eが配置されている。各充電器154A~154Eは予め各サービスの車両に割り当てられている。どの充電器がどのサービスのどの車両に割り当てられるかは各サービスの需要に関する統計データ、翌日の天気予報、翌日のイベント情報などに基づいて前日に確定される。充電器154A~154Eの各サービスへの割り当ては都市管理支援装置200のサービスシミュレータ220の一つの機能である。
【0064】
図6には充電器154A~154Eの各サービスへの割り当ての例が示されている。充電器154Aはタクシーサービスの2台の車両151A,151Bに割り当てられている。また、充電器154Bはカーシェアサービスの2台の車両151C,151Dに割り当てられ、充電器154Cはカーシェアサービスの2台の車両151E,151Fに割り当てられている。そして、充電器154Dはオンデマンドバスサービスの車両152Aのみに割り当てられ、充電器154Eはオンデマンドバスサービスの車両152Bのみに割り当てられている。
【0065】
図6はある時刻における各サービスの利用状況が示されている。タクシーサービスでは各車両151A,151Bは利用者131A,131Bによって利用されている。カーシェアサービスでは各車両151C~151Fは利用者131C~131Fによって利用されている。オンデマンドバスサービスでは各車両152A,152Bは利用者集団132A,132Bによって利用されている。このとき全ての充電器154A~154Eは正常に機能している。
【0066】
都市100においてオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスが提供されている間、都市管理支援装置200は各サービスの達成度を計算している。
図6に示す例ではカーシェアサービス及びタクシーサービスともに各利用者に対して遅滞なく車両が配車されているので、両方のサービスで達成度スコアは100点となっている。また、
図6に示す例では全車両152A,152Bが混雑することなく運行されているので、オンデマンドバスサービスの達成度スコアも100点となっている。
【0067】
図7には
図6に示す状態の時刻から時間が経過したときの各サービスの利用状況が示されている。ここでは、オンデマンドバスサービスで利用されている充電器154Dの故障が都市センサ(例えば電動車に搭載の電流計或いは電圧計)によって検知されたとする。都市管理支援装置200は、都市センサにより充電器154Dの故障が検知されたことを受けて、SLAを守ってオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスを提供できるか否かをサービスシミュレータ220でシミュレーションする。シミュレーションでは、例えばサービス毎の現在のサービス状態に関する情報と充電予約情報とが入力情報として用いられる。サービス状態に関する情報には、例えば車両位置、乗車人数、予約人数などが含まれる。
【0068】
充電器154Dの故障によりオンデマンドサービスの車両152Aを運行できなくなると、予約していた利用者集団132Aを利用者集団132Bとともに1台の車両152Bで運ばざるを得ない。しかし、シミュレーションの結果、そのような運用を行った場合には、車両152Bの混雑度が上昇することによってオンデマンドサービスのサービス達成度が大きく低下することが分かった。
図7に示す例では、充電器154Dの故障の影響を受けないカーシェアサービス及びタクシーサービスの達成度スコアは高い値に維持されているのに対し、オンデマンドサービスの達成度スコアのみ閾値(例えば50点)よりも低い点数となっている。
【0069】
この場合、協力要請通知ユニット250は高いサービス達成度が維持されているカーシェアサービスとタクシーサービスのそれぞれの利用状況を検討し、協力要請の通知の必要性について判定する。シミュレーションの結果、タクシーサービス或いはカーシェアサービスで利用されている充電器154A,154B,154Cのうち何れか1つをオンデマンドバスサービスに割り当てることができれば、オンデマンドバスサービスのサービス達成度の低下を抑えることができることが分かった。
【0070】
タクシーサービスで利用されている充電器154Aとカーシェアサービスで利用されている充電器154B,154Cのうちオンデマンドバスサービスに割り当てるべき充電器は、サービス間における資源110の提供の優先順位によって決まる。優先順位はサービス毎のサービス内容とサービス達成度とに基づき計算される。例えば、現在のサービス達成度が高いほど優先順位は高く計算され、サービスが都市100の運営に与える影響(重要度)が大きいほど優先順位は高く計算され、今後所定時間内で予想されるサービスの利用人数が大きいほど優先順位は高く計算される。
【0071】
図7に示す例では、タクシーサービスよりもカーシェアサービスのほうの優先順位が低い。このため、低優先サービスであるカーシェアサービスで利用されている充電器154B,154Cのうち1台がオンデマンドバスサービスに割り当てられる。充電器154Bをオンデマンドバスサービスに割り当てた場合、車両151Cと車両151Dは運行できなくなる。この場合、これらの車両を予約している利用者131C及び利用者131Dにカーシェアサービスの利用を諦めてもらう必要が生じる。一方、充電器154Cをオンデマンドバスサービスに割り当てた場合、車両151E及び車両151Fは運行できなくなる。この場合、これらの車両を予約している利用者131E及び利用者131Fにカーシェアサービスの利用を諦めてもらう必要が生じる。
【0072】
協力要請通知ユニット250は利用者情報に基づいて利用者131C及び利用者131Dの組と利用者131E及び利用者131Fの組のどちらかを選択する。利用者131C或いは利用者131Dが協力要請通知の受信を拒否しているのであれば、協力要請通知ユニット250は協力要請通知の受信を了承している利用者131E及び利用者131Fに対して協力要請を通知する。協力要請通知は車両151E或いは車両151Fによるカーシェアサービスの利用を諦めて欲しいという内容であり、協力要請を受諾することで付与されるインセンティブが併せて提示されている。さらに、利用者131Fの現在地と目的地がオンデマンドバスの車両152Aの通り道に近い場合、利用者131Fに対してはオンデマンドバスの車両152Aに乗り換えることの提案がなされる。
【0073】
また、利用者131E及び利用者131Fに対して協力要請を通知するのと並行して、協力要請通知ユニット250はカーシェアサービス事業者120Bに対しても協力要請を通知する。協力要請を通知された利用者131E及び利用者131Fは協力要請を承諾してもよいし承諾しなくてもよい。一方、カーシェアサービス事業者120Bに対しては、利用者131E及び利用者131Fが協力要請を承諾することを条件とした決定事項として、充電器154Cの割り当てがオンデマンドバスサービスからカーシェアサービスに変更される旨が通知される。
【0074】
図8には利用者131E及び利用者131Fが協力要請を承諾することで実現される各サービスの利用状況が示されている。利用者131E及び利用者131Fが協力要請を承諾することにより、充電器154Cはオンデマンドバスサービスに割り当てられる。オンデマンドバスサービスに充電器154Cが割り当てられることで、故障した充電器154Dに代えて充電器154Cを用いて車両152Aを充電することが可能となる。
【0075】
車両152Aがオンデマンドバスサービスで利用可能になることで、2台の車両152A,152Bに分けて利用者集団132A,132Bを運ぶことが可能となり、車両152Bの混雑度は減少する。これにより、オンデマンドバスサービス全体としてのサービス達成度の達成度スコアは上昇する。一方、利用者131E及び利用者131Fに対して車両を用意できないことでカーシェアサービスのサービス達成度の達成度スコアは低下する。しかし、全てのサービスにおいて達成度スコアは閾値(例えば50点)以上に維持されるので、都市100全体としてのサービスレベルは向上する。
【0076】
利用者131E及び利用者131Fが協力要請を承諾した場合、利用者131E及び利用者131Fには車両152E或いは車両152Fの利用を諦めたことと引き換えにインセンティブが付与される。また、利用者131Fは協力要請通知で提示された提案に従うことによってオンデマンドバスの車両152Aに乗り換えることができる。インセンティブは都市管理支援装置200から利用者131E及び利用者131Fに直接付与されてもよいし、充電器154Cを譲ってもらったオンデマンドバスサービス事業者120Aを介して付与されてもよい。インセンティブの原資は充電器154Cを譲ってもらうことでサービスレベルの低下を抑えることができたオンデマンドバスサービス事業者120Aから徴収される。
【0077】
以上のように第2の具体例では、協力要請通知を受けた利用者131E及び利用者131Fがカーシェアサービスの利用を控えることで資源110である充電器に余裕ができる。資源110の余裕分としての充電器154Cがサービス達成度の低下が予測されるオンデマンドバスサービスに割り振られることで、オンデマンドバスサービスのサービス達成度の低下が抑えられるようになる。また、カーシェアサービスの利用を控えた利用者131E及び利用者131Fはインセンティブを受け取ることで、利用を控えたことによる不利益は補償される。
【0078】
都市管理支援装置200は異なるサービス間で資源110を融通し合う場、すなわち、マッチング市場を提供する。第2の具体例では、そのマッチング市場において都市100が所有する充電器をオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスの間で上手く譲り合わせることによって都市100全体としてのサービスレベルの低下が抑えられている。
【0079】
4.その他
道路もまた都市100の有限の資源110と言える。道路を共有するサービスとしては上述のオンデマンドバスサービス、カーシェアサービス、及びタクシーサービスのような交通サービスの他にも物流サービスを挙げることができる。資源110としての道路の異常とは、例えば交通渋滞の発生である。交通渋滞が発生すると交通サービスでも物流サービスでも遅延が発生してサービス達成度は低下する。例えば、交通サービスのサービス達成度が維持されている状況で物流サービスのサービス達成度が低下した場合には、交通サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに交通サービスの利用を控えることの要請を通知してもよい。
【0080】
ネットワークもまた都市100の有限の資源110と言える。ネットワークを共用するサービスとしては遠隔運転車両の遠隔運転サービスと動画配信サービスとを挙げることができる。資源110としてのネットワークの異常とは、例えばネットワークの混雑によって帯域が狭くなることである。ネットワークの帯域が狭くなると移動体通信を用いた遠隔運転を継続することができず遠隔運転から自動運転に切り替わりがちになる。よって、遠隔運転サービスのサービス達成度としては遠隔運転率を用いることができる。例えば帯域の逼迫により遠隔運転率が低下した場合には、動画配信サービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに動画配信サービスの利用を控えることの要請を通知してもよい。
【0081】
電力もまた都市100の有限の資源110と言える。電力を共用するサービスとしては病院向け冷暖房マネジメントサービスと個人向け冷暖房マネジメントサービスとを挙げることができる。例えば電力需給が逼迫した場合には、個人向け冷暖房マネジメントサービスの利用者に対してインセンティブの付与と引き換えに個人向け冷暖房マネジメントサービスの利用を控えることの要請を通知してもよい。
【符号の説明】
【0082】
100 都市
110 資源
120A サービス提供者(オンデマンドバスサービス事業者)
120B サービス提供者(カーシェアサービス事業者)
120C サービス提供者(タクシーサービス事業者)
130 利用者
131A,131B タクシーサービスの利用者
131C,131D,131E,131F カーシェアサービスの利用者
132A,132B オンデマンドバスサービスの利用者集団
140 都市管理者
151A,151B,151C,151D,151E,151F 乗用車型の車両
152A,152B,152C,152D ミニバス型の車両
154A,154B,154C,154D,154E 充電器
200 都市管理支援装置