(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240625BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20240625BHJP
【FI】
G02B5/18
B42D25/328 100
(21)【出願番号】P 2021548470
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036474
(87)【国際公開番号】W WO2021060543
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019174228
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉原 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 彰人
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0219807(US,A1)
【文献】特表昭58-500916(JP,A)
【文献】国際公開第2008/143087(WO,A1)
【文献】特表2010-524070(JP,A)
【文献】特表2009-538937(JP,A)
【文献】特開2014-047284(JP,A)
【文献】特開2018-063305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0162771(US,A1)
【文献】国際公開第2019/068304(WO,A1)
【文献】特開2008-107471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B42D 25/328
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する形成モールドと、光透過性を有し、前記形成モールド上に位置する堆積膜と、光透過性を有し、前記堆積膜上に位置するプラスチック保護とを備えたカラー表示体であって、
前記形成モールドが第1屈折率を有し、前記プラスチック保護が第3屈折率を有し、前記堆積膜が第2屈折率を有し、前記第2屈折率が、前記第1屈折率および前記第3屈折率よりも高く、
前記形成モールドは、前記堆積膜と接する表面の一部または全体に第1波状面を含み、前記第1波状面の波の周期が、250nm以上500nm以下の範囲に含まれ、
前記堆積膜は、前記形成モールドの前記表面に追従し、
前記第1波状面は、複数のリブ面、複数の溝面、および、前記リブ面と前記溝面とを各々接続する複数のテーパー面を含み、
前記堆積膜は、前記リブ面に接するピークゾーン、前記溝面に接する谷ゾーン、および、前記テーパー面に接する遷移ゾーンを含み、
前記堆積膜の前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンは、以下の(A1)または(A2)を満たす、
(A1)前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの1つ
の体積密
度は、前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの別の1つ
の体積密
度とは異なる、
(A2)前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの
少なくとも1つは
、体積密
度が互いに異なる部分を含む
カラー表示体。
【請求項2】
前記堆積膜の前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンは、以下の(B1)または(B2)を満たす、
(B1)前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの1つの厚さは、前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの別の1つの厚さとは異なる、
(B2)前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの少なくとも1つは、厚さが互いに異なる部分を含む
請求項1に記載のカラー表示体。
【請求項3】
前記第1波状面は、第1波状部を含み、
前記第1波状部は、前記複数のリブ面のうちの第1のリブ面と第2のリブ面と、前記複数の溝面のうちの第1の溝面と第2の溝面とを含み、
前記第1の溝面は前記第1のリブ面に隣り合っており、前記第2の溝面は前記第2のリブ面に隣り合っており、
前記カラー表示体の厚さ方向において、前記第1のリブ面と前記第1の溝面との間の距離が第1の高さであり、前記第2のリブ面と前記第2の溝面との間の距離が第2の高さであり、
前記第1の高さは、前記第2の高さと異なる
請求項1
または2に記載のカラー表示体。
【請求項4】
前記第1波状面は、第2波状部を含み、
前記第2波状部は、前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向において、第1の幅を有する前記リブ面と、第1の幅とは異なる第2の幅を有する前記溝面とを含む
請求項1
から3のいずれか一項に記載のカラー表示体。
【請求項5】
前記形成モールドの弾性率が、前記プラスチック保護の弾性率よりも低く、
前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向において、前記リブ面の幅が前記溝面の幅よりも大き
く、
前記リブ面における曲率が、前記溝面における曲率よりも小さい
請求項1に記載のカラー表示体。
【請求項6】
前記第1屈折率が、前記第3屈折率よりも低く、
前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向において、前記リブ面の幅が前記溝面の幅よりも小さい
請求項1に記載のカラー表示体。
【請求項7】
前記堆積膜において、前記ピークゾーンにおける前記堆積膜の厚さがピーク厚さであり、前記谷ゾーンにおける前記堆積膜の厚さが谷厚さであり、前記ピークゾーンにおける前記堆積膜の体積密度がピーク密度であり、前記谷ゾーンにおける前記堆積膜の体積密度が谷密度であり、
前記堆積膜の少なくとも一部において、前記谷厚さが前記ピーク厚さよりも厚い、または、前記谷密度が前記ピーク密度よりも高い
請求項1から
6のいずれか一項に記載のカラー表示体。
【請求項8】
前記第1波状面は、第1波状部と第2波状部とを含み、
前記第1波状部における波の周期は、前記第2波状部
における波の周期と互いに等しく、
前記第1波状部が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、二峰性を有し、
前記第2波状部のカラー表示体が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、単峰性を有する
請求項1に記載のカラー表示体。
【請求項9】
非生体情報、生体情報、または、生体特徴量のデータのハッシュデータが記録されている
請求項1から
8のいずれか一項に記載のカラー表示体。
【請求項10】
前記形成モールドは、前記表面の一部に前記第1波状面を含み、
前記カラー表示体が広がる平面に直交し、かつ、前記第1波状面の前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向に沿う平面での前記カラー表示体の断面において、前記表面は、複数の段を含む多段面を複数有した第2波状面をさらに含み、
前記第2波状面において、前記複数の多段面が所定の周期で並び、前記多段面の前記周期は、前記第1波状面の前記周期よりも長く、かつ、1次回折光を反射する周期である
請求項1から
9のいずれか一項に記載のカラー表示体。
【請求項11】
前記カラー表示体が位置する平面と、前記カラー表示体を観察する観察者の視線方向を含む平面とが形成する角度が観察角度であり、
前記第1波状面は、前記観察角度における第1の範囲にて観察される第1モチーフの画像を表示し、
前記第2波状面は、前記観察角度における第2の範囲にて観察される第2モチーフの画像を表示し、
前記第1の範囲のうちの少なくとも一部は、前記第2の範囲に含まれず、かつ、前記第2の範囲のうちの少なくとも一部は、前記第1の範囲に含まれない
請求項
10に記載のカラー表示体。
【請求項12】
前記第2の範囲は、前記観察角度において前記第1の範囲には含まれず、
前記カラー表示体は、前記観察角度における第3の範囲において、前記第1モチーフの画像および前記第2モチーフの画像の両方を表示せず、前記第3の範囲は、前記第1の範囲と前記第2の範囲との間の前記観察角度を含む
請求項1
1に記載のカラー表示体。
【請求項13】
前記第1モチーフの画像は、有彩画像であり、
前記第2モチーフの画像は、無彩画像である
請求項
11または
12に記載のカラー表示体。
【請求項14】
前記観察者が前記カラー表示体を観察する視点の位置が観察位置であり、
前記カラー表示体が広がる平面の法線を回転軸として、前記カラー表示体は、第1位置と第2位置とを有し、前記第2位置は、前記回転軸を中心として前記第1位置から90°だけ前記カラー表示体を回転させた位置であり、
前記第1波状面は、前記カラー表示体が前記第1位置に位置するときに前記観察位置に対して第1の色を有した前記第1モチーフの画像を表示し、かつ、前記カラー表示体が前記第2位置に位置するときに前記観察位置に対して第2の色を有した前記第1モチーフの画像を表示し、前記第2の色は前記第1の色とは異なり、
前記第2波状面は、前記カラー表示体が前記第1位置に位置するときに前記観察位置に対して第1の輝度を有した前記第2モチーフの画像を表示し、かつ、前記カラー表示体が前記第2位置に位置するときに前記観察位置に対して第2の輝度を有した前記第2モチーフの画像を表示し、前記第2の輝度は前記第1の輝度とは異なる
請求項
13に記載のカラー表示体。
【請求項15】
前記第1モチーフの画像および前記第2モチーフの画像が、機械読み取り可能なコードである
請求項
11から
14のいずれか一項に記載のカラー表示体。
【請求項16】
請求項1から
15のいずれか一項に記載のカラー表示体と、
前記カラー表示体を支持する支持体と、を備える
認証媒体。
【請求項17】
請求項
8に記載のカラー表示体の真贋を判定する方法であって、
前記カラー表示体の反射光により、目視によって偽造品の検知を行う工程と、
前記第1波状部が反射したゼロ次回折光のスペクトルと、前記第2波状部が反射したゼロ次回折光のスペクトルの違いを用いて、検証機によって分離された前記第1波状部、前記第2波状部、または、その双方により、真正を検証する工程と、を含む
カラー表示体の真贋判定方法。
【請求項18】
請求項
14に記載のカラー表示体の真贋を判定する方法であって、
前記第1波状面が反射した光の機械読み取りを行う工程と、
前記第2波状面が反射した光の機械読み取りを行う工程と、
前記第1波状面が反射した光が、前記第1モチーフの画像を形成するか否かを前記第1波状面に対する前記機械読み取りの結果に基づいて真正の検証する工程と、
前記第2波状面が反射した光が、前記第2モチーフの画像を形成するか否かを前記第2波状面に対する前記機械読み取りの結果に基づいて判定する工程と、
前記第1波状面が反射した光が前記第1モチーフの画像を形成すると判定し、かつ、前記第2波状面が反射した光が前記第2モチーフの画像を形成すると判定した場合に、前記カラー表示体が真正であると判定する工程と、を含む
カラー表示体の真贋判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導波モード共鳴を用いた光学デバイスが提案されている。この光学デバイスは、可視光の波長よりも小さい周期で並ぶ回折格子であるサブ波長格子を備えている。サブ波長格子に光が入射すると、サブ波長格子に対して光が入射する側の空間に対し、回折光の反射が抑えられる一方で、導波モード共鳴による光の反射が生じる。導波モード共鳴は、特定の波長域の光が光学デバイス内を多重反射しながら伝播することによって共鳴を起こし、これによって、当該波長域の光が高い強度を有した反射光として光学デバイスにおいて反射される現象である。こうした光学デバイスは、対象に対して偽造の困難性および意匠性の少なくとも一方を付与するカラー表示体として用いられ始めている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カラー表示体の用途、カラー表示体が用いられる環境、および、カラー表示体に期待される機能などに応じて、カラー表示体には、特定の波長を有した光を反射すること、および、互いに異なる波長を有した複数の光を射出することが求められる。こうした要請は、上述した用途、環境、および、機能が多様化する近年において、高まる一方である。そこで、導波モード共鳴によりカラー表示体において反射される光の波長を多様化し、カラー表示体が用いられる環境、および、カラー表示体に期待される機能に対応可能であることが求められている。また、目視での偽造品の検知や検証機を使った真正の検証が求められる。
【0005】
本発明の実施形態は、導波モード共鳴によりカラー表示体において反射される光の波長を多様化することが可能なカラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのカラー表示体は、光透過性を有する形成モールドと、光透過性を有し、前記形成モールド上に位置する堆積膜と、光透過性を有し、前記堆積膜上に位置するプラスチック保護とを備えたカラー表示体である。前記形成モールドが第1屈折率を有し、前記プラスチック保護が第3屈折率を有し、前記堆積膜が第2屈折率を有し、前記第2屈折率が、前記第1屈折率および前記第3屈折率よりも高い。前記形成モールドは、前記堆積膜と接する表面の一部または全体に第1波状面を含み、前記第1波状面の波の周期は、250nm以上500nm以下の範囲に含まれる。前記堆積膜は、前記形成モールドの前記表面に追従する。前記第1波状面は、複数のリブ面、複数の溝面、および、前記リブ面と前記溝面とを各々接続する複数のテーパー面を含む。前記堆積膜は、前記リブ面に接するピークゾーン、前記溝面に接する谷ゾーン、および、前記テーパー面に接する遷移ゾーンを含む。前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの1つの厚さおよび体積密度の少なくとも一方は、前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの別の1つの厚さおよび体積密度のうちの前記少なくとも一方とは異なる。または、前記ピークゾーン、前記谷ゾーン、および、前記遷移ゾーンのうちの1つは、厚さおよび体積密度の少なくとも一方が互いに異なる部分を含む。
【0007】
上記課題を解決するための認証媒体は、上記カラー表示体と、前記カラー表示体を支持する支持体と、を備える。
【0008】
形成モールド、堆積膜、および、プラスチック保護から形成されるカラー表示体は、第1導波層、第2導波層、および、第3導波層を含む。第1導波層は、形成モールドの一部と堆積膜の一部とによって形成され、第2導波層は、形成モールドの一部、堆積膜の一部、および、プラスチック保護の一部によって形成され、かつ、第3導波層は、堆積膜の一部とプラスチック保護の一部とによって形成される。堆積膜のなかで、ピークゾーンは主に第1導波層に含まれ、谷ゾーンは主に第3導波層に含まれ、遷移ゾーンは主に第2導波層に含まれる。そして、各導波層において、堆積膜が占める割合はその導波層における有効屈折率の値に寄与する。
【0009】
そのため、カラー表示体および認証媒体によれば、堆積膜の厚さおよび体積密度の少なくとも一方が、堆積膜の全体において一様である場合における各導波層の有効屈折率を基準値とした場合に、厚さおよび体積密度が変更された部を含む導波層において、有効屈折率の値を基準値とは異なる値とすることが可能である。各導波層における有効屈折率の値によって、その導波層に由来する反射光の波長が決まるため、堆積膜の厚さおよび体積密度の少なくとも一方によって、各導波層に由来する反射光の波長を調整することが可能である。結果として、厚さおよび体積密度が変更された部の数や位置に応じて、導波モード共鳴によりカラー表示体によって反射される光の波長を多様化することが可能である。
【0010】
上記カラー表示体において、前記第1波状面は、第1波状部を含み、前記第1波状部は、前記複数のリブ面のうちの第1のリブ面と第2のリブ面と、前記複数の溝面のうちの第1の溝面と第2の溝面とを含み、前記第1の溝面は前記第1のリブ面と隣り合っており、前記第2の溝面は前記第2のリブ面に隣り合っており、前記カラー表示体の厚さ方向において、前記第1のリブ面と前記第1の溝面との間の距離が第1の高さであり、前記第2のリブ面と前記第2野溝面との間の距離が第2の高さであり、前記第1の高さは、前記第2の高さとは異なってもよい。
【0011】
上記カラー表示体によれば、第1波状部において、波状面の高さが第1の高さである部分と、波状面の高さが第2の高さである部分との間において、導波層における有効屈折率を変えることができる。そのため、第1波状部における屈折率が一様である場合とは異なる波長を有した光を第1波状部に反射させることができる。
【0012】
上記カラー表示体において、前記第1波状面は、第2波状部を含み、前記第2波状部は、前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向において、第1の幅を有する前記リブ面と、第1の幅とは異なる第2の幅を有する前記リブ面とを含んでもよい。
【0013】
上記カラー表示体によれば、第2波状部において、リブ面の幅と溝面の幅とを異ならせることによって、第2波状部は、リブ面の幅と溝面の幅とが一様である場合とは異なる有効屈折率を有することが可能である。そのため、第2波状部は、リブ面の幅と溝面の幅とが一様である場合とは異なる波長を有した光を反射することが可能である。
【0014】
上記カラー表示体において、前記第1屈折率が、前記第3屈折率よりも高く、前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向において、前記リブ面の幅が前記溝面の幅よりも大きくてもよい。
【0015】
上記カラー表示体において、前記第1屈折率が、前記第3屈折率よりも低く、前記リブ面と前記溝面とが並ぶ方向において、前記リブ面の幅が前記溝面の幅よりも小さくてもよい。
【0016】
上記各カラー表示体によれば、形成モールドを含む第1導波層が有する有効屈折率と、プラスチック保護を含む第3導波層が有する有効屈折率との差を、第1屈折率と第3屈折率との差以上に大きくすることが可能である。そのため、第1導波層によって導波された光の波長と、第3導波層によって導波された光の波長との差も、第1屈折率と第3屈折率との差以上に大きくなる。
【0017】
上記カラー表示体では、前記堆積膜において、前記ピークゾーンにおける前記堆積膜の厚さがピーク厚さであり、前記谷ゾーンにおける前記堆積膜の厚さが谷厚さであり、前記ピークゾーンにおける前記堆積膜の体積密度がピーク密度であり、前記谷ゾーンにおける前記堆積膜の体積密度が谷密度であり、前記堆積膜の少なくとも一部において、前記谷厚さが前記ピーク厚さよりも厚い、または、前記谷密度が前記ピーク密度よりも高くてもよい。
【0018】
形成モールドを形成するための原版は、ポジ型のレジスト層に対する電子線描画を用いたリソグラフィによって形成される場合がある。これにより、形成モールドにおけるリブ面が、リソグラフィによってパターニングされた部位が転写された面になる。一方で、形成モールドにおける溝面は、リソグラフィによってパターニングの対象とならなかった部位が転写された面になる。結果として、リブ面の平坦度は、溝面の平坦度よりも低くなる。上記カラー表示体によれば、溝面を含む第3導波層において、リブ面が含む第1導波層よりも光が導波する効率を高めることが可能である。そのため、リブ面における平坦度の低さが、カラー表示体の反射光における輝度を低下させることが抑えられる。
【0019】
上記カラー表示体において、前記第1波状面は、第1波状部と第2波状部とを含み、前記第1波状部における波の周期は、前記第2波状部おける波の周期と互いに等しく、前記第1波状部が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、二峰性を有し、前記第2波状部のカラー表示体が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、単峰性を有してもよい。
【0020】
上記カラー表示体において、非生体情報、生体情報、または、生体特徴量のデータのハッシュデータが記録されていてもよい。
【0021】
上記カラー表示体において、前記形成モールドは、前記表面の一部に前記第1波状面を含み、前記表面は、複数の段を含む多段面を複数有した第2波状面をさらに含み、前記第2波状面において、前記複数の多段面が所定の周期で並び、前記多段面の前記周期は、前記第1波状面の前記周期よりも長く、かつ、1次回折光を反射する周期であってもよい。
【0022】
上記カラー表示体によれば、形成モールドの表面が、第1波状面と第2波状面とを有するため、形成モールドの表面が第1波状面のみを有する場合に比べて、形成モールドを備えるカラー表示体の偽造が困難である。
【0023】
上記カラー表示体において、前記カラー表示体が位置する平面と、前記カラー表示体を観察する観察者の視線方向を含む平面とが形成する角度が観察角度であり、前記第1波状面は、前記観察角度における第1の範囲にて観察される第1モチーフの画像を表示し、前記第2波状面は、前記観察角度における第2の範囲にて観察される第2モチーフの画像を表示し、前記第1の範囲のうちの少なくとも一部は、前記第2の範囲に含まれず、かつ、前記第2の範囲のうちの少なくとも一部は、前記第1の範囲に含まれなくてもよい。
【0024】
上記カラー表示体によれば、カラー表示体の観察角度には、第1モチーフのみが表示される観察角度と第2モチーフのみが表示される観察角度とが含まれるため、特定の観察角度において、観察者は、各画像を他の画像によって妨げられることなく視認することが可能である。
【0025】
上記カラー表示体において、前記第2の範囲は、前記観察角度において前記第1の範囲には含まれず、前記カラー表示体は、前記観察角度における第3の範囲において、前記第1モチーフの画像および前記第2モチーフの画像の両方を表示せず、前記第3の範囲は、前記第1の範囲と前記第2の範囲との間の前記観察角度を含んでもよい。
【0026】
上記カラー表示体によれば、カラー表示体が観察角度における第3の範囲内において観察者に観察されることによって、カラー表示体が表示する第1モチーフの画像および第2モチーフの画像以外のカラー表示体の状態が、観察者によって把握されやすくなる。
【0027】
上記カラー表示体において、前記第1モチーフの画像は、有彩画像であり、前記第2モチーフの画像は、無彩画像であってもよい。このカラー表示体によれば、第1モチーフの画像と第2モチーフの画像との両方が有彩画像の場合、および、第1モチーフの画像と第2モチーフの画像との両方が無彩画像の場合に比べて、カラー表示体の誘目性を高めることができる。
【0028】
上記カラー表示体において、前記観察者が前記カラー表示体を観察する視点の位置が観察位置であり、前記カラー表示体が広がる平面の法線を回転軸として、前記カラー表示体は、第1位置と第2位置とを有し、前記第2位置は、前記回転軸を中心として前記第1位置から90°だけ前記カラー表示体を回転させた位置であり、前記第1波状面は、前記カラー表示体が前記第1位置に位置するときに前記観察位置に対して第1の色を有した前記第1モチーフの画像を表示し、かつ、前記カラー表示体が前記第2位置に位置するときに前記観察位置に対して第2の色を有した前記第1モチーフの画像を表示し、前記第2の色は前記第1の色とは異なり、前記第2波状面は、前記カラー表示体が前記第1位置に位置するときに前記観察位置に対して第1の輝度を有した前記第2モチーフの画像を表示し、かつ、前記カラー表示体が前記第2位置に位置するときに前記観察位置に対して第2の輝度を有した前記第2モチーフの画像を表示し、前記第2の輝度は前記第1の輝度とは異なってもよい。
【0029】
上記カラー表示体によれば、カラー表示体は、第1モチーフの画像について、観察者に対して互いに異なる印象を与えることが可能な2つの状態を有することが可能であり、また、第2モチーフの画像についても、観察者に対して互いに異なる印象を与えることが可能な2つの状態を有することが可能である。
【0030】
上記カラー表示体において、前記第1モチーフの画像および前記第2モチーフの画像が、機械読み取り可能なコードであってよい。この構成によれば、第1モチーフの画像の機械読み取り結果、および、第2モチーフの画像の機械読み取り結果をカラー表示体の真贋を判定するために用いることが可能である。
【0031】
上記課題を解決するためのカラー表示体の真贋判定方法は、上記カラー表示体の真贋を判定する方法である。前記カラー表示体の反射光により、目視によって偽造品の検知を行う工程と、前記第1波状部が反射したゼロ次回折光のスペクトルと、前記第2波状部が反射したゼロ次回折光のスペクトルの違いを用いて、検証機によって分離された前記第1波状部、前記第2波状部、または、その双方により、真正を検証する工程と、を含む。
【0032】
上記課題を解決するためのカラー表示体の真贋判定方法は、上記カラー表示体の真贋を判定する方法であって、前記第1波状面が反射した光の機械読み取りを行う工程と、前記第2波状面が反射した光の機械読み取りを行う工程と、前記第1波状面が反射した光が、前記第1モチーフを形成するか否かを前記第1波状面に対する前記機械読み取りの結果に基づいて判定する工程と、前記第2波状面が反射した光が、前記第2モチーフを形成するか否かを前記第2波状面に対する前記機械読み取りの結果に基づいて判定する工程と、前記第1波状面が反射した光が前記第1モチーフを形成すると判定し、かつ、前記第2波状面が反射した光が前記第2モチーフを形成すると判定した場合に、前記カラー表示体が真正であると判定する工程と、を含む。
【0033】
上記カラー表示体によれば、第1波状面が反射した光の機械読み取り結果、および、第2波状面が反射した光の機械読み取り結果に基づいて、カラー表示体が真正であることを判断することが可能である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の実施形態によれば、導波モード共鳴によりカラー表示体によって反射される光の波長を多様化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第1実施形態のカラー表示体における構造を観察者および光源とともに模式的に示す断面図。
【
図2】
図1が示すカラー表示体における光の挙動を示す模式図。
【
図3】導波モード共鳴について説明するためのカラー表示体の模式図。
【
図4】導波モード共鳴について説明するためのカラー表示体の模式図。
【
図5】
図4が示すカラー表示体の一部を拡大して説明する模式図。
【
図6】カラー表示体の一例における断面構造を撮影したSEM画像。
【
図7】
図6が示すSEM画像における高屈折率層の幅とカラー表示体の厚さ方向との関係を示すグラフ。
【
図8】カラー表示体の構造における複数の例を示す断面図。
【
図9】カラー表示体の構造における複数の例を示す断面図。
【
図10】凹凸面の方位角と、観察者の視線方向との関係を説明するための模式図。
【
図11】凹凸面の方位角と、所定の波長の光における反射率との関係を示すグラフ。
【
図12】カラー表示体の傾きと、反射率との関係を示すグラフ。
【
図13】カラー表示体の傾きと、反射率との関係を示すグラフ。
【
図15】観察者がカラー表示体を観察する状態を模式的に示す模式図。
【
図16】カラー表示体が反射するゼロ次回折光のスペクトルにおける第1例。
【
図17】カラー表示体が反射するゼロ次回折光のスペクトルにおける第2例。
【
図18】検証機を用いてカラー表示体が反射したゼロ次回折光を受光する状態を模式的に示す模式図。
【
図19】検証機が受光した光によって形成された画像を説明する平面図。
【
図20】カラー表示体を製造する際の手順を説明するためのフローチャート。
【
図21】第2実施形態のカラー表示体が備えるエンボス層の一部を模式的に示す部分断面図。
【
図22】多段面の密度と回折角度との関係を示すグラフ。
【
図23】r値が互いに異なる9つのカラー表示体における反射光のスペクトルを示す図。
【
図24】xy色度図における9つのカラー表示体が反射した光の色を示す図。
【
図26】第1凹凸面を形成する第1画素と第2凹凸面を形成する第2画素との配置の例を示す平面図。
【
図27】観察角度における第1の範囲と第2の範囲との関係を示す模式図。
【
図28】観察者がカラー表示体を観察している状態を説明する模式図。
【
図29】カラー表示体を備える認証媒体が表示する画像を説明する平面図。
【
図30】カラー表示体における第1位置と第2位置との説明。
【
図31】第2位置において第1凹凸面と第2凹凸面とが表示する画像を説明する平面図。
【
図32】第3実施形態のカラー表示体を説明する平面図。
【
図33】検証機を用いてカラー表示体が反射した光を受光する状態を模式的に示す模式図。
【
図34】検証機を用いた機械読み取りの結果を模式的に説明する模式図。
【
図35】カラー表示体を備える個人認証媒体の構造を示す断面図。
【
図36】カラー表示体における第1変更例の構造を示す断面図。
【
図37】カラー表示体における第2変更例の構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態は、独自の単一の発明を元とする一群の実施形態である。また、本発明の各側面は、単一の発明を元とした一群の実施形態の側面である。本発明の各構成は、本開示の各側面を有しうる。本発明の各特徴(feature)は組み合わせ可能であり、各構成をなせる。したがって、本発明の各特徴(feature)、本発明の各構成、本開示の各側面、本発明の各実施形態は、組み合わせることが可能であり、その組み合わせは協同機能を発現し、相乗的な効果を発揮しうる。
【0037】
[第1実施形態]
図1から
図20を参照して、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第1実施形態を説明する。以下では、カラー表示体の構造、凹凸面の形状、凹凸面の方位角、カラー表示体の作用、および、カラー表示体の製造方法を順に説明する。
【0038】
[カラー表示体の構造]
図1から
図7を参照して、カラー表示体の構造を説明する。
図1が示すように、カラー表示体10は、樹脂製の形成モールド(以下、エンボス層)11と、誘電体の堆積膜(以下、高屈折率層)12と、樹脂製のプラスチック保護13(以下、保護層)13とを備えている。カラー表示体10において、エンボス層11、高屈折率層12、および、保護層13が、記載の順に積層されている。各層11,12,13が光透過性を有している。
【0039】
エンボス層11が第1屈折率n1を有し、保護層13が第3屈折率n3を有し、高屈折率層12が第2屈折率n2を有している。第2屈折率n2が、第1屈折率n1および第3屈折率n3よりも高い。第1屈折率n1は、第3屈折率n3と同一であってもよいし、第3屈折率n3とは異なってもよい。第1屈折率n1が第3屈折率n3とは異なる場合には、第1屈折率n1が第3屈折率n3と同一である場合に比べて、カラー表示体10の光学特性に寄与する可変要素を増やすことが可能である。
【0040】
エンボス層11は、高屈折率層12と接する表面11Sの少なくとも一部に第1波状面(以下、第1凹凸面)11S1を含んでいる。なお、
図1が示す例では、表面11Sの全体が第1凹凸面11S1である。第1凹凸面11S1の周期dは、250nm以上500nm以下の範囲に含まれる。第1凹凸面11S1が含む凹面と凸面とが並ぶ方向において、すなわち
図1が示す例では紙面の左右方向において、1周期には、1つの凹面と1つの凸面とが含まれる。第1凹凸面11S1は、カラー表示体10が広がる平面に対して直交する断面において波形状を有し、第1凹凸面11S1では、当該波形状が、紙面の奥行き方向に沿って連なっている。
【0041】
高屈折率層12は、エンボス層11の表面11Sに追従することが可能な厚さを有している。高屈折率層12は、エンボス層11の表面11Sに追従した形状を有している。高屈折率層12は、数nm以上数十nm以下の厚さを有してよい。カラー表示体10が広がる平面に対して直交する断面において、高屈折率層12は、第1凹凸面11S1に倣う波形状を有し、高屈折率層12では、当該波形状が、紙面の奥行き方向に沿って連なっている。
【0042】
カラー表示体10には、エンボス層11に対して高屈折率層12とは反対側に位置する光源LSから光が入射する。光源LSは、太陽であってもよいし、照明器具であってもよい。カラー表示体10は、エンボス層11に対して高屈折率層12とは反対側から観察者OBによって観察される。観察者OBの視点の位置である観察位置OPは、エンボス層11に対して高屈折率層12とは反対側の空間における任意の位置である。観察者OBが観察位置OPからカラー表示体10を視認する方向が、観察者OBの視線方向DOBである。本実施形態では、視線方向DOBを含む平面と、カラー表示体10が広がる平面とが形成する角度を観察角度と定義する。なお、エンボス層11において、上述した表面11Sとは反対側の面は実質的な平坦性を有する。すなわち、上述した表面11Sとは反対側の面の平面度は、当該面を平坦面と扱うことが可能である程度に高い。平面度の具体的数値は、JIS0621-1984に準拠し測定することができ、一辺が100mmの正方形において10mm未満であってよく、さらには1mm未満とすることができる。なお、平面度が0.1mm以上であれば、表面11Sとは反対側の面は十分な平坦性を有し得る。そのため、観察角度は、視線方向DOBを含む平面と、エンボス層11において、表面11Sとは反対側の面とが形成する角度と定義することも可能である。
【0043】
図2および
図3を参照して、カラー表示体10において生じる導波モード共鳴について説明する。
図2が示すように、導波モード共鳴は、少なくとも3つの層を有したカラー表示体10において生じる。上述したように、3つの層では、屈折率が最も高い層を中央に有し、かつ、中央に位置する層が中央に位置する層とは異なる屈折率を有した2つの層によって挟まれていることが、導波モード共鳴を生じさせる上で必須である。すなわち、カラー表示体10において、上述の高屈折率層12が、エンボス層11と保護層13とによって挟まれていることが必須の条件である。
【0044】
カラー表示体10において、高屈折率層12は、導波層に含まれる。カラー表示体10に入射した入射光ILのなかで、高屈折率層12に回折された光の一部は、エンボス層11と高屈折率層12との境界、および、高屈折率層12と保護層13との境界において全反射しながら高屈折率層を伝播する。こうした光の伝播は、高屈折率層12の第2屈折率n2が、エンボス層11の第1屈折率n1よりも高く、かつ、保護層13の第3屈折率n3よりも高いことによって生じる。なお、入射光ILのなかで、以下に説明する導波の伝播条件を満たす波長を有した光のみが導波光GLとして高屈折率層12を伝播し、伝播の結果として、高い輝度を有した反射光RLとしてカラー表示体において反射される。反射光RLは、正反射の方向に反射される。一方で、伝播条件を満たさない波長を有した光は、カラー表示体10を透過する透過光TLとしてカラー表示体10から出て行く。
【0045】
図3は、導波の伝播条件を説明するためにカラー表示体10を模式的に示した図である。
図3が示すように、カラー表示体10内を伝播する光から見て、カラー表示体10は、高屈折率層12の凹面と凸面とが並ぶ方向において、高屈折率層12の一部と、エンボス層11あるいは保護層13の一部とが交互に並ぶ構造である。すなわち、凹面と凸面とが並ぶ方向において、高屈部と低屈部とが交互に並ぶ構造である。
【0046】
伝播条件は、周期dにおける高屈折率層12の占有率F、入射光ILの波長λ、凹凸面の周期d、波数k、および、逆格子ベクトルKを用いて、以下の式(1)から式(6)によって表すことが可能である。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
k = 2π/λ … 式(4)
K = 2π/d … 式(5)
β = (2π/λ)・neff … 式(6)
【0051】
式(3)において、入射光ILの入射角度θと、回折次数mは整数である。また、式(3)において、導波層、すなわち高屈折率層12の伝播定数βは、入射光ILの波長λと、高屈折率層12の有効屈折率neffに依存する。式(1)は、TE波に対する高屈折率層12の有効屈折率neffを示し、式(2)は、TM波に対する高屈折率層12の有効屈折率neffを示している。高屈折率層12の有効屈折率neffでは、凹凸面の周期dが入射光ILの波長λよりも短い場合に、TE波に対する有効屈折率neffと、TM波に対する有効屈折率neffとが互いに異なる。
【0052】
各有効屈折率n
effは、周期dにおける高屈折率層12の占有率によって決まる。
図3において、高屈折率層12の幅がaであり、エンボス層11あるいは保護層13の幅がbである。そのため、周期dにおける高屈折率層12の占有率は、周期dに対する幅aの比であり、周期dにおけるエンボス層11あるいは保護層13の占有率は、周期dに対する幅bの比である。
【0053】
上記式(1)から式(6)を満たす導波条件は、以下の式によって表すことができる。
neff>n1,n3 … 式(7)
λ>d … 式(8)
【0054】
上述したように、有効屈折率neffは周期dにおける高屈折率層12の占有率(a/d)によって決まることから、以下の関係を導くことが可能である。
n2>n1,n3 … 式(9)
【0055】
また、有効屈折率neffを用いて、カラー表示体10において導波される光の波長と、当該波長を有した光の反射率とを求めることが可能である。すなわち、有効屈折率neffを調整することによって、導波モード共鳴を用いることによって高い輝度を有した有彩色の光をカラー表示体に反射させることが可能である。
【0056】
また、上記式から明らかなように、有効屈折率neffおよび伝播定数βは、これらを導出する式中に含まれるパラメーター、すなわち、第1屈折率n1、第2屈折率n2、第3屈折率n3、周期d、および、占有率Fが変更されることによって、導波モード共鳴によって反射される光の波長と反射率とを制御することが可能である。さらに、導波モード共鳴によって反射される光は、カラー表示体に入射する入射光ILの角度にも依存する。そのため、導波モード共鳴を用いたカラー表示体は、カラー表示体が反射する光を機械読み取りによって判定する上で好適である。
【0057】
また、有効屈折率neffと第1屈折率n1との差、および、有効屈折率neffと第3屈折率n3との差が大きいほど、導波モード共鳴により反射される光の反射率は高くなる。すなわち、高屈折率層12の占有率Fが大きいほど、光の反射率を高くすることが可能である。このように、有効屈折率neffと第1屈折率n1との差、および、有効屈折率neffと第3屈折率n3との差に応じて光の反射率が決まる。そのため、エンボス層11および保護層13に用いることが可能な材料、言い換えれば屈折率が固定されている場合には、エンボス層11における凹凸面の形状、および、高屈折率層12の厚さなどによって有効屈折率neffを制御することが、カラー表示体が反射する光の波長を多様化させる上で有用である。
【0058】
図4が示すように、上述した伝播条件を満たす導波層WGは、エンボス層11の頂部を通る平面と、保護層13の底部を通る平面とによって規定される。カラー表示体10の厚さ方向において、導波層WGを3つの領域に分割することが可能である。導波層WGを、第1導波層WG1、第2導波層WG2、および、第3導波層WG3に分割することが可能である。カラー表示体の第1導波層WG1は、エンボス層11の一部と高屈折率層12の一部とを含む。第2導波層WG2は、エンボス層11の一部、高屈折率層12の一部、および、保護層13の一部を含む。第3導波層WG3は、高屈折率層12の一部、および、保護層13の一部を含む。なお、エンボス層11のなかで、第1導波層WG1に含まれる部分と、第2導波層WG2に含まれる部分とは、互いに異なる部分である。また、高屈折率層12のなかで、第1導波層WG1に含まれる部分、第2導波層WG2に含まれる部分、および、第3導波層WG3に含まれる部分は、互いに異なる部分である。また、保護層13のなかで、第2導波層WG2に含まれる部分と、第3導波層WG3に含まれる部分とは、互いに異なる部分である。
【0059】
第1導波層WG1の有効屈折率neffは、第1導波層WG1でのエンボス層11と高屈折率層12との関係から導かれる。第2導波層WG2の有効屈折率neffは、第2導波層WG2でのエンボス層11、高屈折率層12、および、保護層13の関係から導かれる。第3導波層WG3の有効屈折率neffは、第3導波層WG3での高屈折率層12と保護層13との関係から導かれる。
【0060】
導波モード共鳴によって生じる正反射光、すなわちゼロ次回折光の強度は、第1導波層WG1による反射光の強度、第2導波層WG2による反射光の強度、および、第3導波層WG3による反射光の強度の重ね合わせである。第2導波層WG2は、高屈折率層12の一部に加えて、エンボス層11の一部と保護層13の一部との両方を含む。そのため、第2導波層WG2における高屈折率層12の占有率は、第1導波層WG1における高屈折率層12の占有率、および、第3導波層WG3における高屈折率層12の占有率よりも小さい。それゆえに、導波モード共鳴による反射率に対する第2導波層WG2の寄与は、第1導波層WG1および第3導波層WG3の寄与よりも小さい。
【0061】
図5は、
図4が示す断面構造の一部を拡大した図である。
図5が示すように、第1凹凸面11S1は、リブ面(以下、凸面)S1A、溝面(以下、凹面)S1B、および、テーパー面S1Cを含んでいる。第1凹凸面11S1において、凸面S1Aと凹面S1Bとがテーパー面S1Cによって接続されている。凸面S1Aは、第1凹凸面11S1が含む複数の頂部S1TPのうちの1つの頂部S1TPを含む部分である。凹面S1Bは、第1凹凸面11S1が含む複数の底部S1BMのうちの1つの底部S1BMを含む部分である。テーパー面S1Cは、凸面S1Aおよび凹面S1Bの両方に対して平行でなく、かつ、垂直でない。
図5が示すように、第1凹凸面11S1において、凸面S1Aは第1導波層WG1に含まれる部分であり、凹面S1Bは第2導波層WG2に含まれる部分であり、テーパー面S1Cは第1導波層WG1と第2導波層WG2とに跨がる部分である。
【0062】
高屈折率層12は、凸面S1Aに接するピークゾーン(以下、凸面部)12A、凹面S1Bに接する谷ゾーン(以下、凹面部)12B、および、テーパー面S1Cに接する遷移ゾーン(以下、テーパー面部)12Cを含んでいる。
図5に示すように、高屈折率層12において、凸面部12Aは第1導波層WG1に含まれる部分であり、凹面部12Bは第2導波層WG2と第3導波層WG3とに跨がる部分であり、テーパー面部12Cは第1導波層WG1と第2導波層WG2とに跨がる部分である。高屈折率層12は、凸面部12A、凹面部12B、および、テーパー面部12Cのなかに、厚さおよび体積密度の少なくとも一方が他とは異なる部を含む。
【0063】
上述したように、エンボス層11、高屈折率層12、および、保護層13から形成されるカラー表示体10は、第1導波層WG1、第2導波層WG2、および、第3導波層WG3を含む。第1導波層WG1は、エンボス層11の一部と高屈折率層12の一部とによって形成され、第2導波層WG2は、エンボス層11の一部、高屈折率層12の一部、および、保護層13の一部によって形成され、かつ、第3導波層WG3は、高屈折率層12の一部と保護層13の一部とによって形成される。高屈折率層12のなかで、凸面部12Aは主に第1導波層WG1に含まれ、凹面部12Bは主に第3導波層WG3に含まれ、テーパー面部12Cは主に第2導波層WG2に含まれる。そして、各導波層WG1,WG2,WG3において、高屈折率層12が占める割合はその導波層WG1,WG2,WG3における有効屈折率neffの値に寄与する。
【0064】
高屈折率層12の厚さおよび体積密度の少なくとも一方が、高屈折率層12の全体において一様である場合における各導波層WG1,WG2,WG3の有効屈折率neffを基準値とする。この場合に、厚さおよび体積密度が変更された部分を含む導波層WG1,WG2,WG3において、有効屈折率neffの値を基準値とは異なる値とすることが可能である。各導波層WG1,WG2,WG3における有効屈折率neffの値によって、その導波層WG1,WG2,WG3に由来する反射光RLの波長が決まるため、高屈折率層12の厚さおよび体積密度の少なくとも一方によって、各導波層WG1,WG2,WG3に由来する反射光RLの波長を調整することが可能である。結果として、厚さおよび体積密度が変更された部分の数や位置に応じて、導波モード共鳴によりカラー表示体によって反射される光の波長を多様化することが可能である。
【0065】
なお、高屈折率層12は、複数の凸面部12A、複数の凹面部12B、および、複数のテーパー面部12Cを含み、これらすべてのうちで、少なくとも一部において、厚さおよび体積密度の少なくとも一方が他の一部とは異なってもよい。複数の凸面部12Aでは、すべての凸面部12Aにおいて厚さおよび体積密度の両方が同一であってもよいし、複数の凸面部12Aのうち、少なくとも一部において、厚さおよび体積密度の少なくとも一方が他の一部とは異なってもよい。また、複数の凹面部12Bでは、すべての凹面部12Bにおいて厚さおよび体積密度の両方が同一であってもよいし、複数の凹面部12Bのうち、少なくとも一部において、厚さおよび体積密度の少なくとも一方が他の一部とは異なってもよい。また、複数のテーパー面部12Cでは、すべてのテーパー面部12Cにおいて厚さおよび体積密度の両方が同一であってもよいし、複数のテーパー面部12Cのうち、少なくとも一部において、厚さおよび体積密度の少なくとも一方が他の一部とは異なってもよい。
【0066】
高屈折率層12では、高屈折率層12の厚さが変わることによって、各導波層WG1,WG2,WG3における高屈折率層12の占有率が変わる。これによって、各導波層WG1,WG2,WG3での有効屈折率neffが変わる。結果として、各導波層WG1,WG2,WG3において導波される光の波長、ひいてはカラー表示体10が反射する反射光RLの波長が変わる。これにより、カラー表示体10が反射する光が有する色が変わる。なお、各導波層WG1,WG2,WG3での高屈折率層12の占有率は、高屈折率層12の厚さが厚くなることによって高くなる傾向を有する。また、各導波層WG1,WG2,WG3での高屈折率層12の占有率は、高屈折率層12の厚さが薄くなることによって低くなる傾向を有する。
【0067】
さらに、各凸面部12Aが有する厚さを、各凹面部12Bが有する厚さ、および、各テーパー面部12Cが有する厚さよりも厚くすること(変更1)によって、第1導波層WG1における高屈折率層12の占有率を高めることが可能である。また、各凹面部12Bが有する厚さを、各凸面部12Aが有する厚さ、および、各テーパー面部12Cが有する厚さよりも厚くすること(変更2)によって、第3導波層WG3における高屈折率層12の占有率を高めることが可能である。また、各テーパー面部12Cが有する厚さを、各凸面部12Aが有する厚さ、および、各凹面部12Bが有する厚さよりも厚くすること(変更3)によって、第1導波層WG1および第2導波層WG2における高屈折率層12の占有率を高めることが可能である。これら、変更1、変更2、および、変更3を、カラー表示体10に対して単独で適用することができる。また、変更1において、各テーパー面部12Cが有する厚さを、各凹面部12Bが有する厚さよりも厚くすることもできる。また、変更2において、各テーパー面部12Cが有する厚さを、各凸面部12Aが有する厚さよりも厚くすることもできる。
【0068】
高屈折率層12では、高屈折率層12の体積密度が変わることによって、高屈折率層12が有する屈折率が変わる。これによって、各各導波層WG1,WG2,WG3における高屈折率層12の占有率が等しくとも、各導波層WG1,WG2,WG3での有効屈折率neffが変わる。結果として、各導波層WG1,WG2,WG3において導波される光の波長、ひいてはカラー表示体10が反射する反射光RLの波長が変わる。これにより、カラー表示体10が反射する光が有する色が変わる。なお、高屈折率層12の屈折率は、体積密度が高くなることによって高くなる傾向を有する。また、高屈折率層12の屈折率は、体積密度が低くなることによって低くなる傾向を有する。
【0069】
また、各凸面部12Aが有する体積密度を、各凹面部12Bが有する体積密度、および、各テーパー面部12Cが有する体積密度よりも高くすることによって、第1導波層WG1における有効屈折率neffを変えることができる。また、各凹面部12Bが有する体積密度を、各凸面部12Aが有する体積密度、および、各テーパー面部12Cが有する体積密度よりも高くすることによって、第3導波層WG3における有効屈折率neffを変えることができる。また、各テーパー面部12Cが有する体積密度を、各凸面部12Aが有する体積密度、および、各凹面部12Bが有する体積密度よりも高くすることによって、第1導波層WG1および第2導波層WG2における有効屈折率neffを変えることができる。
【0070】
図6は、カラー表示体10の一例における断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影したSEM画像である。
図7は、
図6が示すSEM画像が含む高屈折率層12でのカラー表示体10の厚さ方向と高屈折率層12の幅との関係を示すグラフである。
図7において、高屈折率層12の幅は、凹凸が並ぶ方向における高屈折率層12の長さである。すなわち、
図7は、高屈折率層12の幅におけるカラー表示体10の厚さに沿う遷移を示している。なお、
図7に示される各導波層WG1,WG2,WG3での幅は、高屈折率層12において各導波層WG1,WG2,WG3に含まれる部分の幅における総和である。以下、第1導波層WG1に含まれる部分の幅における総和を第1総和と称し、第2導波層WG2に含まれる部分の幅における総和を第2総和と称し、第3導波層WG3に含まれる部分の幅における総和を第3総和と称する。
【0071】
図6が示すように、また、上述したように、カラー表示体10は、エンボス層11、高屈折率層12、および、保護層13を備えている。高屈折率層12は、エンボス層11の表面11Sに追従した形状を有することが可能な厚さを有している。エンボス層11の表面11Sは略サイン波状の断面形状を有し、かつ、高屈折率層12が、エンボス層11の表面11Sと同様、略サイン波状の断面形状を有している。
【0072】
図7が示すように、第3総和の最大値が、第1総和の最大値よりも大きい。第2総和は、第1導波層WG1に含まれる部分との境界において、第1総和の最大値に等しく、かつ、第3導波層WG3に含まれる部分との境界において、第3総和の最大値に等しい。
【0073】
第3総和は、保護層13に接する面からエンボス層11に接する面に向かう方向に沿って小さくなる。第1総和は、エンボス層11に接する面から保護層13に接する面に向かう方向に沿って大きくなる。第2総和は、エンボス層11に接する面と保護層13に接する面との略中間において極小値を有する。
【0074】
図6が示す例では、エンボス層11の表面11Sにおいて、凹面S1Bにおける幅が、凸面S1Aにおける幅よりも大きい。そのため、第3総和の最大値が第1総和の最大値よりも大きい。
【0075】
[凹凸面の形状]
図8および
図9を参照して、エンボス層11が備える第1凹凸面11S1の形状について説明する。
【0076】
図8は、カラー表示体10の断面形状における複数の例を示している。
図8(a)が示すカラー表示体10Aでは、第1凹凸面11S1は、波形状を有している。第1凹凸面11S1において、凸面S1Aの幅が凸面幅WA1であり、凹面S1Bの幅が凹面幅WB1である。凸面幅WA1は、凹面幅WB1と互いに等しい。第1凹凸面11S1では、カラー表示体10の厚さ方向において、頂部S1TPと底部S1BMとの間の距離が、第1凹凸面11S1の高さH1である。高屈折率層12の厚さTは、高屈折率層12の全体においてほぼ一定である。
【0077】
図8(b)が示すカラー表示体10Bでは、カラー表示体10Aと同様、凸面幅WA1が、凹面幅WB1と互いに等しい。カラー表示体10Bにおいて、第1凹凸面11S1の高さH2が、カラー表示体10Aでの高さH1よりも大きい。当該カラー表示体10Bでは、カラー表示体10Aと比べて、第2導波層WG2の厚さが厚い。これにより、カラー表示体10Bの厚さ方向において、導波層の占有率が高くなる。また、第2導波層WG2において、エンボス層11および保護層13の占有率が高くなる一方で、高屈折率層12の占有率が低くなる。これによって、カラー表示体10Bの有効屈折率n
effは、カラー表示体10Aの有効屈折率n
effよりも低くなる。
【0078】
カラー表示体10の第1凹凸面11S1は、第1波状部(以下、第1凹凸部)を含むことが可能である。上述したように、凸面S1Aが含む頂部S1TPと、当該凸面S1Aと隣り合う凹面S1Bが含む底部S1BMとの間の距離が第1凹凸面11S1の高さである。第1凹凸部において、第1凹凸面11S1の高さは、第1の値と、第1の値とは異なる第2の値とを含むことが可能である。例えば、第1凹凸部は、カラー表示体10Aの第1凹凸面11S1と、カラー表示体10Bの第1凹凸面11S1との両方を1つの表面11Sのなかに含むことが可能である。これにより、第1凹凸部において、第1凹凸面11S1の高さが第1の値である部分と、第1凹凸面11S1の高さが第2の値である部分との間において、導波層における有効屈折率neffを変えることができる。そのため、第1凹凸部における有効屈折率neffが一様である場合とは異なる波長を有した光を第1凹凸部に反射させることができる。
【0079】
図8(c)が示すカラー表示体10Cでは、第1凹凸面11S1の高さH1が、カラー表示体10Aにおける第1凹凸面11S1の高さH1と互いに等しい。カラー表示体10Cでは、凸面幅WA2が、カラー表示体10Aにおける凸面幅WA1よりも小さい。カラー表示体10Cでは、凹面幅WB2が、カラー表示体10Aにおける凹面幅WB1よりも小さく、かつ、凹面幅WB2が凸面幅WA2に等しい。これにより、カラー表示体10Cにおいて、各導波層WG1,WG2,WG3に高屈折率層12が含まれる頻度が高くなる。結果として、カラー表示体10Cにおける導波層WGの有効屈折率n
effは、カラー表示体10Aにおける導波層WGの有効屈折率n
effよりも高くなる。
【0080】
カラー表示体10の第1凹凸面11S1は、第2波状部(以下、第2凹凸部)を含むことが可能である。第2凹凸部は、凸面S1Aと凹面S1Bとが並ぶ方向において、第1の幅を有する凸面S1Aと、第1の幅とは異なる第2の幅を有する凹面S1Bとを含むことが可能である。例えば、第2凹凸部は、カラー表示体10Aの第1凹凸面11S1が含む凸面S1Aと、カラー表示体10Cの第1凹凸面11S1が含む凹面S1Bとを含むことが可能である。また、第2凹凸部は、カラー表示体10Aの第1凹凸面11S1が含む凹面S1Bと、カラー表示体10Cの第1凹凸面11S1が含む凸面S1Aを含むことが可能である。これにより、第2凹凸部は、第1の幅を有する凸面S1Aと、第2の幅を有する凹面S1Bとを含むことが可能である。
【0081】
第2凹凸部において、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とを異ならせることによって、第2凹凸部は、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とが一様である場合とは異なる有効屈折率neffを有することが可能である。そのため、第2凹凸部は、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とが一様である場合とは異なる波長を有した光を反射することが可能である。
【0082】
エンボス層11の第1屈折率n1が、保護層13の第3屈折率n3よりも高い場合には、凸面S1Aと凹面S1Bとが並ぶ方向において、凸面S1Aの幅が凹面S1Bの幅よりも大きくてもよい。高屈折率層12において、凸面S1Aに接する凸面部12Aは主に第1導波層WG1の有効屈折率neffの値に寄与する一方で、凹面S1Bに接する凹面部12Bは主に第3導波層WG3の有効屈折率neffの値に寄与する。凸面S1Aの幅が凹面S1Bの幅よりも大きい場合には、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とが等しい場合に比べて、第1導波層WG1における高屈折率層12の占有率を第3導波層WG3における高屈折率層12の占有率よりも高めることが可能である。これにより、第1導波層WG1の有効屈折率neffと、第3導波層WG3の有効屈折率neffとの差を、第1屈折率n1と第3屈折率n3との差以上に大きくすることが可能である。結果として、第1導波層WG1によって導波された光の波長と、第3導波層WG3によって導波された光の波長との差も、第1屈折率n1と第3屈折率n3との差以上に大きくなる。
【0083】
なお、エンボス層11の弾性率は、エンボス層11の成形性を担保するために、保護層13の弾性率よりも低い場合がある。この場合には、凸面S1Aと凹面S1Bとが並ぶ方向において、凸面S1Aの幅が凹面S1Bの幅よりも大きいことによって、凸面S1Aにおける曲率を凹面S1Bにおける曲率よりも小さくすることができる。これにより、凸面S1Aに対して応力が集中することが抑えられ、結果として、エンボス層11から高屈折率層12が剥がれることが抑えられる。なお、上述したように、保護層13の弾性率はエンボス層11よりも高い弾性率を有するため、保護層13での応力の集中は、保護層13が有する弾性率のために生じにくくなる。それゆえに、保護層13と高屈折率層12との間での剥離が起こりにくい。
【0084】
図8(d)が示すカラー表示体10Dでは、第1凹凸面11S1は、波形状を有している。ただし本構造では、
図6が示す構造と同様、凸面S1Aと凹面S1Bとが並ぶ方向において、凸面S1Aの幅WA3が凹面S1Bの幅WB3よりも小さい。これにより、凹面S1Bの曲率が、凸面S1Aの曲率よりも小さい。この場合には、カラー表示体10Dが有するエンボス層11および高屈折率層12の形成方法に起因して、高屈折率層12において、凹面S1Bに追従する凹面部12Bにおける厚さが、凸面S1Aに追従する凸面部12Aにおける厚さよりも厚くなりやすい。より詳しくは、エンボス層11に対して高屈折率層12を例えば真空蒸着法を用いて形成した場合に、相対的に曲率が小さい凹面S1Bに対して粒子が堆積しやすい一方で、相対的に曲率が大きい凸面S1Aに対して粒子が堆積しにくい。そのため、凹面部12Bの厚さが、凸面部12Aの厚さよりも厚くなりやすい。またこの場合、エンボス時に樹脂が充填し難い凹面S1Bの曲率が大きくできるため、エンボス層11の成形が容易である。
【0085】
エンボス層11の第1屈折率n1が、保護層13の第3屈折率n3よりも低い場合には、凸面S1Aと凹面S1Bとが並ぶ方向において、凸面S1Aの幅が凹面S1Bの幅よりも小さくてもよい。高屈折率層12において、凸面S1Aの幅が凹面S1Bの幅よりも小さい場合には、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とが等しい場合に比べて、第1導波層WG1における高屈折率層12の占有率を第3導波層WG3における高屈折率層12の占有率よりも高めることが可能である。これにより、第1導波層WG1の有効屈折率neffと、第3導波層WG3の有効屈折率neffとの差を、第1屈折率n1と第3屈折率n3との差以上に大きくすることが可能である。結果として、第1導波層WG1によって導波された光の波長と、第3導波層WG3によって導波された光の波長との差も、第1屈折率n1と第3屈折率n3との差以上に大きくなる。
【0086】
図9は、カラー表示体10の断面形状における複数の構造を示している。なお、先に参照した
図8には、第1凹凸面11S1の高さが互いに異なる2つのカラー表示体10A,10B、凸面幅、および、凹面幅が互いに異なるカラー表示体10A,10Cを例示した。これに対して、以下に参照する
図9には、凹面の形状、および、凸面の形状が互いに異なるカラー表示体を示す。
【0087】
図9(a)が示すように、第1凹凸面11S1は、複数の凸面S1A、複数の凹面S1B、および、複数のテーパー面S1Cを含んでいる。凸面S1Aと凹面S1Bとが交互に並ぶ方向において、凸面S1Aと、当該凸面S1Aに隣り合う凹面S1Bとがテーパー面S1Cによって接続されている。第1凹凸面11S1では、凸面S1A、テーパー面S1C、および、凹面S1B、および、テーパー面S1Cが記載の順に並んでいる。第1凹凸面11S1では、凸面S1A、テーパー面S1C、凹面S1B、および、テーパー面S1Cによって形成される面群が1つの方向に沿って繰り返されている。なお、第1凹凸面11S1において、エンボス層11における第1凹凸面11S1とは反対側の面からの距離が小さい面が凸面S1Aであり、第1凹凸面11S1とは反対側の面からの距離が大きい面が凹面S1Bである。
【0088】
図9(a)が示すカラー表示体10Eでは、凸面S1Aの形状は、凹面S1Bの形状と互いに等しい。凸面S1Aおよび凹面S1Bは、それぞれ可展面(展開曲面)である。可展面は、直線が運動してできる曲面である。可展面において、当該可展面上のすべての点におけるガウスの曲率が「0」である。本例では、カラー表示体10Eが広がる平面に直交し、かつ、凸面S1Aが延びる方向と直交する断面において、凸面S1Aおよび凹面S1Bは略半円状を有し、かつ、複数の直線から形成されている。そのため、凸面S1Aおよび凹面S1Bが複曲面である場合に比べて、カラー表示体10Eの設計および製造が容易である。なお、複曲面は直線成分を有しない曲面である。
【0089】
カラー表示体10Eが広がる平面に直交し、かつ、凸面S1Aが延びる方向と直交する断面において、テーパー面S1Cは、線形近似曲線状を有している。テーパー面S1Cは、凸面S1Aおよび凹面S1Bに対して平行でなく、かつ、各面S1A,S1Bに対して垂直でない。本例では、テーパー面S1Cは順テーパー面であるが、テーパー面S1Cは、逆テーパー面でもよい。第1凹凸面11S1が、凸面S1Aと凹面S1Bとを繋ぐ面としてテーパー面S1Cを有するため、カラー表示体10Eが広がる平面に直交する面をテーパー面S1Cに代えて備える場合に比べて、第1凹凸面11S1が有する形状の精度が高められる。より詳しくは、原版を用いてエンボス層11を形成した場合に、原版によって成形された樹脂が原版から離れやすい。
【0090】
図9(b)が示すカラー表示体10Fでは、凸面S1Aの形状は、凹面S1Bの形状と互いに等しい。カラー表示体10Fが広がる平面に直交し、かつ、凸面S1Aが延びる方向と直交する断面において、凸面S1Aおよび凹面S1Bはそれぞれ直線状を有している。凸面S1Aおよび凹面S1Bは、エンボス層11における第1凹凸面11S1とは反対側の面に略平行である。カラー表示体10Fが広がる平面に直交し、かつ、凸面S1Aが延びる方向と直交する断面において、テーパー面S1Cは、線形近似曲線状を有している。本例では、テーパー面S1Cは順テーパー面であるが、逆テーパー面でもよい。
【0091】
なお、カラー表示体10では、凸面S1Aの形状と凹面S1Bの形状とが互いに異なってもよい。例えば、カラー表示体10は、カラー表示体10Eの凸面S1Aと、カラー表示体10Fの凹面S1Bとを備えてもよい。あるいは、カラー表示体10は、カラー表示体10Eの凹面S1Bと、カラー表示体10Fの凸面S1Aとを備えてもよい。あるいは、カラー表示体10は、2種の凸面S1Aと2種の凹面S1Bとを含んでもよい。
【0092】
[凹凸面の方位角]
図10から
図13を参照して、第1凹凸面11S1の方位角について説明する。
図10は、観察者OBの視線方向DOBと、第1凹凸面11S1の方位角との関係を示している。なお、
図10において、カラー表示体10内に図示された直線が延びる方向が、凸面S1Aが延びる方向である。
【0093】
図10(a)が示すように、カラー表示体10が備える凸面S1Aは、1つの方向に沿って延びている。
図10(a)が示す例では、凸面S1Aは紙面の上下方向に沿って延びている。第1凹凸面11S1の方位角は、凸面S1Aが延びる方向と、カラー表示体10が広がる平面に沿う任意の方向である基準方向とが形成する角度である。本例では、基準方向を紙面の左右方向に設定する。この場合、基準方向と凸面S1Aが延びる方向とが形成する角度は90°である。そのため、第1凹凸面11S1の方位角は、90°である。観察者OBの視線方向DOBをカラー表示体10が広がる平面に投影した投影方向は、紙面の上下方向である。投影方向は、凸面S1Aの延びる方向と平行である。すなわち、第1凹凸面11S1は、観察者OBに対して縦向きである。
【0094】
図10(b)が示す例では、凸面S1Aは紙面の左右方向に沿って延びている。紙面の左右方向が基準方向であることから、基準方向と凸面S1Aが延びる方向とが形成する角度は0°である。そのため、第1凹凸面11S1の方位角は、0°である。観察者OBの視線方向DOBをカラー表示体10が広がる平面に投影した投影方向は、紙面の上下方向である。投影方向は、凸面S1Aの延びる方向と直交する。すなわち、第1凹凸面11S1は、観察者OBに対して横向きである。
【0095】
図11は、カラー表示体10が反射した反射光RLの波長と、反射率との関係を示している。なお、
図11において、実線で示されるスペクトルは、第1凹凸面11S1が縦向きであるカラー表示体10によって得られるスペクトルであり、破線で示されるスペクトルは、第1凹凸面11S1が横向きに配置されたカラー表示体10によって得られるスペクトルである。なお、反射光RLのスペクトルを得る際には、測定装置が備える受光素子からカラー表示体10に向かう方向を測定方向に設定し、測定方向を上述した視線方向DOBと見なしている。
【0096】
図11が示すように、第1凹凸面11S1が縦向きに配置されたカラー表示体10、および、第1凹凸面11S1が横向きに配置されたカラー表示体10のいずれであっても、スペクトルRによって示される赤色の光、スペクトルGによって示される緑色の光、および、スペクトルBによって示される青色の光を反射することが可能である。ただし、いずれのスペクトルR,G,Bにおいても、実線で示されるスペクトルR,G,Bでのピーク強度が、破線で示されるスペクトルR,G,Bのピーク強度よりも高い。そのため、カラー表示体10は、観察者OBに対して第1凹凸面11S1が縦向きであることが好ましい。言い換えれば、カラー表示体10は、観察者OBに対して、第1凹凸面11S1が縦向きである場合に所定の画像を表示することが可能に構成されることが好ましい。所定の画像は、カラー表示体10における構造の違い、すなわち互いに異なる複数の構造により形成されるモチーフにより表示できる。言い換えれば、カラー表示体10における構造の違いによりモチーフを形成可能であり、モチーフは画像を表示可能である。この所定の画像により、カラー表示体10の偽造品の検知が可能である。つまり、カラー表示体10は、構造の互いに異なる異なる複数の領域を有してもよい。
【0097】
図12および
図13は、
図11と同様、カラー表示体10が反射した反射光RLの波長と、反射率との関係を示している。
図12および
図13の両方において、カラー表示体10の位置を基準位置に対して20°傾けたときのスペクトルが実線で示され、30°傾けたときのスペクトルが破線で示され、40°傾けたときのスペクトルが一点鎖線で示されている。なお、カラー表示体10を水平面に位置させた場合のカラー表示体10の位置が基準位置である。また、
図12は、縦向きに配置されたカラー表示体10によって得られるスペクトルである。一方で、
図13は、横向きに配置されたカラー表示体10によって得られるスペクトルである。
【0098】
図12が示すように、縦向きに配置されたカラー表示体10では、カラー表示体10が基準位置に対して20°傾けられた場合と、基準位置に対して40°傾けられた場合との間において、ピークにおける波長の差が、50nm未満である。
【0099】
一方で、
図13が示すように第1凹凸面11S1が横向きであるカラー表示体10では、カラー表示体10が基準位置に対して20°傾けられた場合と、基準位置に対して40°傾けられた場合との間において、ピークにおける波長の差が、50nm以上100nm未満である。
【0100】
このように、カラー表示体10が基準位置に対して傾けられた場合に、カラー表示体10が反射する反射光RLの色における変化を抑える上では、カラー表示体10では、観察者OBに対して、第1凹凸面11S1が縦向きであることが好ましい。言い換えれば、カラー表示体10は、観察者OBに第1凹凸面11S1が縦向きである場合に所定の画像を表示することが可能に構成されることが好ましい。
【0101】
なお、カラー表示体10の反射光RLには、1次回折光が含まれる場合がある。1次回折光は、凸面S1Aが延びる方向と直交し、かつ、カラー表示体10が広がる平面に直交する平面に反射される。そのため、カラー表示体10が観察者OBに対して第1凹凸面11S1が横向きである場合には、観察者OBはカラー表示体10が反射した1次回折光を視認する場合がある。また、観察者OBは、自身が視認した1次回折光を0次回折光、すなわち、導波モード共鳴による反射光RLであると誤認する可能性がある。カラー表示体10が観察者OBに対して、第1凹凸面11S1が縦向きである場合には、観察者OBが1次回折光を0次回折光であると誤認する可能性を低くすることも可能である。
【0102】
[カラー表示体の作用]
図14から
図19を参照して、カラー表示体10の作用を説明する。
図14が示すように、エンボス層11の表面11Sにおける一部が第1凹凸面11S1である。本例では、表面11Sの中央を含む領域が、第1凹凸面11S1である。なお、本例では、エンボス層11の第1屈折率n1が、保護層13の第3屈折率n3と互いに等しい。第1凹凸面11S1は、第1領域R1と第2領域R2とから形成されている。第2領域R2は、アルファベットのO状を有した領域と、アルファベットのK状を有した領域とから形成されている。第1領域R1は、第2領域R2を取り囲む形状を有している。
【0103】
第1領域R1における凹凸の周期は、第2領域R2における凹凸の周期と互いに等しい。第1領域R1が含む第1導波層WG1の有効屈折率neffは、第1領域R1が含む第3導波層WG3の有効屈折率neff、および、第2領域R2が含む第1導波層WG1の有効屈折率neffと互いに等しい。一方で、第1領域R1が含む第1導波層WG1の有効屈折率neffは、第2領域R2が含む第3導波層WG3の有効屈折率neffと互いに異なる。上述した変更1、変更2、および、変更3により第1領域R1および第2領域R2の第1導波層WG1および第2導波層WG2における高屈折率層12の占有率を高めることが可能である。これにより、第1導波層WG1および第2導波層WG2の有効屈折率を高めることができる。第1領域R1が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、単峰性を有してもよい。第1領域R1が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、二峰性を有してもよい。
【0104】
図15が示すように、観察者OBがカラー表示体10を観察する際には、観察者OBは、導波モード共鳴によって反射されたゼロ次回折光を正反射の方向において観察することができる。入射光ILの入射角αが、反射光RLであるゼロ次回折光の反射角βと互いに等しい。反射光RLが有する波長は可視光の範囲に含まれ、これによって、カラー表示体10は、有彩色の像を表示することが可能である。
【0105】
図16は、カラー表示体10が反射したゼロ次回折光のスペクトルの例である。
図16が示すように、カラー表示体10が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、二峰性を有してもよい。ゼロ次回折光のスペクトルにおいて、最も反射強度が高いピークが第1ピークP1であり、2番目に反射強度が高いピークが第2ピークP2である。ゼロ次回折光のスペクトルは、およそ470nmにおいて第1ピークP1を有し、かつ、およそ460nmにおいて第2ピークP2を有する。第1ピークP1は、第1領域R1の第1導波層WG1、第1領域R1の第3導波層WG3、および、第2領域R2の第1導波層WG1の各々における導波によって反射された反射光RLに由来するピークである。これに対して、第2ピークP2は、第2領域R2の第3導波層WG3における導波によって反射された反射光RLに由来するピークである。このとき、第1導波層WG1の有効屈折率n
effと、第3導波層WG3の有効屈折率n
effは互いに異なる。
【0106】
ゼロ次回折光のスペクトルは2つのピークP1,P2を有するものの、ピーク間における波長の差は10nm程度である。そのため、カラー表示体10の観察者OBは、カラー表示体10が反射した反射光RLを第1ピークP1に相当する反射光RLと、第2ピークP2に相当する反射光RLとに分離することができない。そのため、観察者OBは、カラー表示体10を観察することによって、1つの有彩色を有した1つの画像を視認する。
【0107】
なお、
図17は、別のカラー表示体が反射したゼロ次回折光のスペクトルである。
図17が示すように、カラー表示体が反射したゼロ次回折光のスペクトルは、単峰性でもよい。当該スペクトルは、およそ470nmにおいて第3ピークP3を有し、かつ、それ以外のピークを有していない。
図17が示すスペクトルを有したゼロ次回折光を反射するカラー表示体では、第1導波層WG1、第2導波層WG2、および、第3導波層WG3の各々における導波によって反射された反射光RLが有する波長が互いに等しい。このとき、第1導波層WG1の有効屈折率n
effと、第3導波層WG3の有効屈折率n
effは互いに等しい。
【0108】
このように、カラー表示体は、多峰性を有したスペクトルを有するゼロ次回折光を反射することが可能な構造を有することが可能であり、また、単峰性を有したスペクトルを有するゼロ次回折光を反射することが可能な構造を有することも可能である。
【0109】
図18が示すように、検証機VMを用いてカラー表示体10の真正を検証することも可能である。上述したように、ゼロ次回折光は、正反射の方向に反射される。そのため、検証機VMを用いる場合にも、カラー表示体10の正反射光を受光することが可能な位置にカラー表示体10と検証機VMとを配置する。
【0110】
図19は、検証機VMが受光した光によって形成された画像である。
図19が示すように、検証機VMは、第1ピークP1に相当する反射光RLと、第2ピークP2に相当する反射光RLとを分離することが可能である。そのため、検証機VMによって得られた画像では、第1領域R1が、第2領域R2から分離される。あるいは、検証機VMは、第1領域R1が反射した光を検出することが可能である一方で、第2領域R2が反射した光を検出することができなくてもよい。この場合であっても、検証機VMによって得られた画像では、第1領域R1が、第2領域R2から分離される。
【0111】
こうしたカラー表示体10によれば、カラー表示体10が有する第1領域R1と第2領域R2とを目視では分離することができない一方で、第1領域R1と第2領域R2とを検証機VMによって分離することが可能である。検証機VMによって分離された第1領域R1、第2領域R2、または、その双方により、真正を検証することができる。また、カラー表示体10の発色により目視によってもカラー表示体10の偽造品を検知することが可能である。そのため、目視と検証機VMとによりカラー表示体10の真贋判定が可能である。したがって、カラー表示体10をカラー表示体10が付された物品の偽造を防止するために用いることが可能である。
【0112】
本実施形態のカラー表示体10によれば、高屈折率層12が備える凸面部12A、凹面部12B、および、テーパー面部12Cの一部において、他の一部が有する厚さとは異なる厚さを有すること、および、他の一部が有する体積密度とは異なる体積密度を有することが可能である。これにより、第1導波層WG1、第2導波層WG2、および、第3導波層WG3との間において、各導波層WG1,WG2,WG3における有効屈折率neffを互いに等しくしたり、互いに異ならせたりすることが可能である。これにより、カラー表示体10が反射する光、言い換えればカラー表示体10が表示する像の全体において、有効屈折率neffに応じた1つの色を呈させたり、像の一部において他の一部とは異なる色を呈させたりすることが可能である。このように、カラー表示体10によれば、カラー表示体10の用途、カラー表示体10が用いられる環境、および、カラー表示体10に期待される機能に応じて、カラー表示体10が反射する光の色における多様性を高めることが可能である。
【0113】
[カラー表示体の製造方法]
図20を参照して、カラー表示体10の製造方法を説明する。
図20が示すように、カラー表示体10の製造方法は、スタンパーを作成する工程(ステップS11)、エンボス層11を形成する工程(ステップS12)、高屈折率層12を形成する工程(ステップS13)、および、保護層13を形成する工程(ステップS14)を含んでいる。
【0114】
スタンパーを作成する工程では、まず、電子線描画を用いたリソグラフィによって原版を作成する。原版を作成する際には、まず、ポジ型のレジスト材料を準備する。次いで、レジスト材料によってレジスト層を形成する。そして、エンボス層11の表面11Sが有する形状に応じてレジスト層に電子線を照射する。レジスト層はポジ型のレジストによって形成されているため、レジスト層のなかで、現像後にレジスト層から除去したい部分に電子線を照射する。
【0115】
ポジ型のレジスト材料を用いた場合には、電子線が照射された部分が現像後のレジスト層から除去される。そのため、現像後のレジスト層において、電子線が照射された部分の平坦度は、電子線が照射されていない部分の平坦度よりも低い。平坦度が低い部分を有した原版を用いてエンボス層11を形成した場合には、エンボス層11において、原版のなかで平坦度が低い部分の転写によって形成された部分の平坦度も低くなる。エンボス層11において平坦度が低い部分では、平坦度がより高い部分に比べて光の散乱が生じ、導波モード共鳴が生じにくくなる。結果として、カラー表示体10が反射する反射光RLの強度が低くなる。しかしながら、電子線描画を用いてリソグラフィでは、電子線が照射された部分の平坦度を高めることは難しい。
【0116】
さらに、原版が有する凹凸形状をエンボス層に転写するためのスタンパーを電鋳によって原版から作成する。そして、エンボス層11を形成するための樹脂層にスタンパーが有する凹凸形状を転写することによってエンボス層11を形成する。そのため、エンボス層11では、凸面S1Aの平坦度が、凹面S1Bの平坦度よりも低くなる。
【0117】
高屈折率層12において、凸面部12Aの厚さがピーク厚さ(以下、凸面厚さ)であり、凹面部12Bの厚さが谷厚さ(以下、凹面厚さ)であり、凸面部12Aの体積密度がピーク密度(以下、凸面密度)であり、凹面部12Bの体積密度が谷密度(以下、凹面密度)である。高屈折率層12の少なくとも一部において、凹面厚さが凸面厚さよりも厚い、または、凹面密度が凸面密度よりも高いことが可能である。凹面厚さを凸面厚さよりも厚くする、または、凹面密度を凸面密度よりも高くすることによって、凹面S1Bを含む第3導波層WG3において、凸面S1Aを含む第1導波層WG1よりも光が導波する効率を高めることが可能である。そのため、凸面S1Aにおける平坦度の低さが、カラー表示体10の反射光RLにおける強度を低下させることを抑えることができる。
【0118】
エンボス層11を形成する工程では、まず、エンボス層11を形成するための合成樹脂を準備する。エンボス層11を形成するための合成樹脂は、熱可塑樹脂、熱硬化樹脂、光硬化樹脂であってよい。合成樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリル樹脂である。そして、エンボス層11を形成するための合成樹脂を含む塗膜を塗布した後に、塗膜に対して転写版が有する凹凸形状を転写することによって、エンボス層11を得ることができる。
【0119】
高屈折率層12を形成する工程では、エンボス層11の表面11Sを覆うように高屈折率層12を形成する。高屈折率層12を形成するための誘電体は、金属化合物、および、酸化ケイ素(SiO2)などであってよい。金属化合物は、金属酸化物、金属硫化物、および、フッ化金属などであってよい。金属化合物は、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、硫化亜鉛(ZnS)、および、フッ化マグネシウム(MgF)である。
【0120】
金属酸化物が有する酸化度を第1の値から第2の値に変えることによって、金属酸化物が有する屈折率を第1の値から第2の値に変えることが可能である。金属酸化物のなかでも、TiO2は高い屈折率を有するため、TiO2は高屈折率層12の形成材料に適している。なお、TiO2の屈折率を第1の値から第2の値に変える場合には、TiO2の体積密度を第1の値から第2の値に変えてもよい。高屈折率層12の厚さが同一である前提では、高屈折率層12を形成するTiO2の体積密度が高いほど、高屈折率層12の屈折率は高くなる。
【0121】
高屈折率層12は、堆積法を用いて形成することができる。堆積法は、化学体積法、または、物理堆積法であってよい。物理堆積法は、例えば、スパッタ法、および、真空蒸着法などであってよい。いずれの堆積法を用いた場合であっても、エンボス層11の凹面S1Bには成膜種が到達しやすい一方で、エンボス層11の凸面S1Aには成膜種が到達しにくい。そのため、高屈折率層12において、凹面部12Bの凹面厚さは、凸面部12Aの凸面厚さよりも厚くなりやすい。それゆえに、凹面厚さを凸面厚さよりも厚くすることは、凸面厚さを凹面厚さよりも厚くすることに比べて容易である。
【0122】
保護層13を形成する工程では、まず、保護層13を形成するための合成樹脂を準備する。保護層13を形成するための合成樹脂は、エンボス層11の形成に用いることが可能な合成樹脂であってよい。保護層13を形成するための合成樹脂を含む塗膜を調製した後に、高屈折率層12を覆うように高屈折率層12に対して塗膜を塗布する。次いで、塗膜を硬化させることによって、保護層13を有したカラー表示体10を得ることが可能である。
【0123】
以上説明したように、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第1実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)各導波層WG1,WG2,WG3における有効屈折率neffの値によって、その導波層WG1,WG2,WG3に由来する反射光RLの波長が決まるため、高屈折率層12の厚さおよび体積密度の少なくとも一方によって、各導波層WG1,WG2,WG3に由来する反射光RLの波長を調整することが可能である。結果として、厚さおよび体積密度が変更された部の数や位置に応じて、導波モード共鳴によりカラー表示体によって反射される光の波長を多様化することが可能である。
【0124】
(2)第1凹凸部において、第1凹凸面11S1の高さが第1の値である部分と、第1凹凸面11S1の高さが第2の値である部分との間において、導波層における有効屈折率neffを変えることができる。そのため、第1凹凸部における屈折率が一様である場合とは異なる波長を有した光を第1凹凸部に反射させることができる。
【0125】
(3)第2凹凸部において、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とを異ならせることによって、第2凹凸部は、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とが一様である場合とは異なる有効屈折率neffを有することが可能である。そのため、第2凹凸部は、凸面S1Aの幅と凹面S1Bの幅とが一様である場合とは異なる波長を有した光を反射することが可能である。
【0126】
(4)第1導波層WG1の有効屈折率neffと、第3導波層WG3の有効屈折率neffとの差を、第1屈折率n1と第3屈折率n3との差以上に大きくすることが可能である。結果として、第1導波層WG1によって導波された光の波長と、第3導波層WG3によって導波された光の波長との差も、第1屈折率n1と第3屈折率n3との差以上に大きくなる。
【0127】
(5)凹面厚さを凸面厚さよりも厚くする、または、凹面密度を凸面密度よりも高くすることによって、凹面S1Bを含む第3導波層WG3において、凸面S1Aを含む第1導波層WG1よりも光が導波する効率を高めることが可能である。そのため、凸面S1Aにおける平坦度の低さが、カラー表示体10の反射光RLにおける輝度を低下させることを抑えることができる。
【0128】
[第2実施形態]
図21から
図31を参照して、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第2実施形態を説明する。第2実施形態のカラー表示体は、第1実施形態のカラー表示体10が備える凹凸面とは異なる形状を有した凹凸面をさらに備える点で、第1実施形態のカラー表示体10とは異なっている。そのため以下では、第2実施形態のカラー表示体における第1実施形態のカラー表示体10との相違点を詳しく説明する。一方で、第2実施形態のカラー表示体において、第1実施形態のカラー表示体10と共通する構成には、第1実施形態のカラー表示体10と同一の符号を付すことによって、当該構成の詳しい説明を省略する。また、以下では、エンボス層、カラー表示体、カラー表示体の作用を順に説明する。
【0129】
[エンボス層]
図21から
図24を参照して、カラー表示体が備えるエンボス層を説明する。
図21は、エンボス層11の断面構造における一部を示している。なお、
図21が示す断面構造は、カラー表示体が広がる平面に直交し、かつ、上述した第1凹凸面11S1の凸面S1Aが延びる方向に直交する断面構造である。
【0130】
図21が示すように、エンボス層11の表面11Sは、第2凹凸面11S2を含んでいる。本実施形態では、エンボス層11の表面11Sが、上述した第1凹凸面11S1に加えて、第2凹凸面11S2を含んでいる。
【0131】
第2凹凸面11S2は、複数の段を含む多段面S2Aを複数有している。第2凹凸面11S2において、複数の多段面S2Aが所定の周期dで並んでいる。多段面S2Aの周期dは、第1凹凸面11S1の周期dよりも長く、かつ、1次回折光を反射する周期である。エンボス層11の表面11Sが、第1凹凸面11S1と第2凹凸面11S2とを有するため、エンボス層11の表面11Sが第1凹凸面11S1のみを有する場合に比べて、エンボス層11を備えるカラー表示体の偽造が困難である。
【0132】
複数の多段面S2Aが並ぶ方向と、第1凹凸面11S1において凸面S1Aと凹面S1Bとが並ぶ方向とは、同一の方向であってもよいし、互いに異なる方向でもよい。多段面S2Aの周期dは、350nmよりも大きく25000nm以下であってよい。多段面S2Aの周期dは、多段面S2Aの設計において光の回折を利用する場合には、以下の式(10)に基づき設定することができる。
dλ = d(sinα+sinβ) … 式(10)
【0133】
なお、式(10)において、dは多段面S2Aの周期であり、λは第2凹凸面11S2において反射される光の波長であり、αは第2凹凸面11S2に入射する入射光の入射角度であり、βは第2凹凸面11S2において回折される光の回折角である。
【0134】
多段面S2Aでは、各段を形成する面が、第2凹凸面11S2に入射した光の回折に主に寄与する。そのため、多段面S2Aの段数が多いほど、第2凹凸面11S2での回折効率が高められる。なお、
図21が示すカラー表示体では、各段を形成する面は、エンボス層11の表面11Sとは反対側の面に略平行な面である。また、当該例では、各多段面S2Aの段数は、3である。なお、各多段面S2Aの段数は、2段でもよいし4以上でもよい。
【0135】
カラー表示体10が広がる平面に直交し、第1凹凸面11S1の凸面S1Aが延びる方向と直交する断面において、第2凹凸面11S2は、多段形状の波が複数繰り返された波形状を有し、第2凹凸面11S2では、当該波形状が、紙面の奥行き方向に沿って連なっている。多段面S2Aによって形成される周期構造によれば、第2凹凸面11S2が反射する1次回折光の反射角を正の範囲のみ、または、負の範囲のみとすることが可能である。
【0136】
なお、多段面S2Aにおいて、各段を形成する面は、上述した凸面S1Aおよび凹面S1Bと同様、可展面であってよい。また、
図21が示す例では、各段を形成する面を接続する接続面は、エンボス層11の厚さ方向に略平行である。しかしながら、接続面は、上述したテーパー面S1Cと同様、順テーパー面でもよいし、逆テーパー面でもよい。
【0137】
また、多段面S2Aは、光の回折ではなく、幾何光学に基づく反射面であってもよい。この場合には、多段面S2Aが形成された第2凹凸面11S2が反射する光は虹色を呈しないか、または僅かな虹色を呈する。
【0138】
多段面S2Aの傾斜角は、多段面S2Aが繰り返される方向において、多段面S2Aの各段を形成する面の中央を通る直線と、エンボス層11の表面11Sとは反対側の面とが形成する角度であってよい。第2凹凸面11S2が光を反射する方向は、多段面S2Aの傾斜角に応じた方向である。
【0139】
第2凹凸面11S2が、同一の周期dを有した多段面S2Aのみを備える場合には、第2凹凸面11S2が反射する1次回折光は分光される。結果として、第2凹凸面11S2が観察者OBによって観察された場合には、観察者OBは第2凹凸面11S2が表示する虹色を有した画像を視認することができる。特に、周期dが、500nm以上20000nm以下である場合に、第2凹凸面11S2は顕著な虹色を呈する。
【0140】
一方で、第2凹凸面11S2は、以下のように設計されることによって、無彩色の光を反射することが可能である。まず、上述した式(10)を用いて算出される所定の周期dを基準周期drに設定する。次いで、基準周期drに対する正の方向、すなわち基準周期drよりも大きい範囲において、複数の周期dを離散的に設定し、かつ、基準周期drに対する負の方向、すなわち基準周期drよりも小さい範囲において、複数の周期dを離散的に設定する。こうして設定された複数の周期dの各々に対応する多段面S2Aを含む第2凹凸面11S2を設計する。第2凹凸面11S2によれば、特定の観察位置OPにおいて、各周期dを有した多段面S2Aが反射する1次回折光の波長が、その多段面S2Aが有する周期dとは異なる周期dを有した多段面S2Aが反射する1次回折光の波長とは異なる。結果として、観察位置OPにおいて、複数の波長の光が混合されるため、観察位置OPから第2凹凸面11S2が観察された場合に、第2凹凸面11S2が表示する無彩色、すなわち白色光により形成される画像が、観察者OBによって視認される。
【0141】
なお、上述した複数の周期dを設計する場合には、比視感度が高い波長の光を反射することが可能な周期dを基準周期drに設定することができる。比視感度が高い波長の光は、例えば540nm以上560nm以下の範囲に含まれる波長を有した緑色光である。この場合には、比視感度が高い緑色光と緑色光に準じた比視感度を有する光とが、第2凹凸面11S2が反射する光に含まれる。そのため、第2凹凸面11S2が表示する画像が、観察者OBによって視認されやすくなる。また、第2凹凸面11S2が反射する光が、緑色光を基準として、より長い波長を有した赤色光と、より短い波長を有した青色光とを含むことができる。これにより、第2凹凸面11S2が反射する光を無彩色の光とすることが容易になる。
【0142】
第2凹凸面11S2において、基準周期drを有した多段面S2Aの密度が最も高く、かつ、基準周期drからのずれ量が大きい周期dを有した多段面S2Aほど、第2凹凸面11S2における密度が小さいことが好ましい。これにより、上述した特定の観察位置OP以外の観察位置OPに反射される1次回折光の強度を低くすることが可能である。
【0143】
無彩色の光を反射することが可能な第2凹凸面11S2は、以下の式(11)から式(13)を満たすことが好ましい。ただし、以下の式(11)において、rは221以下である。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
図22は、上記式(11)から式(13)を満たす曲線を示している。
図22が示すように、上記式(11)から式(13)において、θ
R’は回折角度θの範囲である。θ’は離散間隔、すなわち、ある多段面S2Aにおける1次回折光の回折角度θと、その多段面S2Aの次に大きい周期dまたは小さい周期dを有した多段面S2Aにおける1次回折光の回折角度θとの差である。θ
n’は離散角、すなわち、ある多段面S2Aにおける1次回折光の回折角度θと、基準周期drを有した多段面S2Aにおける1次回折光の回折角度θとの差である。ρ
n’は、特定の離散角θ
n’を有した多段面S2Aが全ての多段面S2Aに占める密度である。
【0148】
式(11)から式(13)を満たす第2凹凸面11S2では、多段面S2Aの1次回折角度が、基準周期drに対応する0°を基準として、各多段面S2Aにおける回折角度θである離散角θn’が、離散間隔θ’ずつ変化する。そして、第2凹凸面11S2において、基準周期drを有した多段面S2Aの密度が極大値を有し、かつ、多段面S2Aが有する離散角θn’が大きくなるほど、その多段面S2Aの密度が小さくなる。
【0149】
このように、式(11)から式(13)を満たす第2凹凸面11S2は、多段面S2Aの周期dに複数の値を含む。そのため、第2凹凸面11S2が多段面S2Aの周期dに1つの値のみを含む場合に比べて、第2凹凸面11S2の偽造、ひいては第2凹凸面11S2を含むカラー表示体の偽造が困難である。
【0150】
なお、r値は、回折角度θが有する範囲θR’に寄与するパラメーターである。r値は、第2凹凸面11S2が反射する光が無彩色であることを実現する上で重要なパラメーターである。r値は、221以下であることが好ましい。
【0151】
図23は、r値が互いに異なる9つのカラー表示体における反射光のスペクトルを示している。なお、
図23が示すスペクトルは、540nmの波長を有した光が0°、すなわち真上からカラー表示体に入射した場合に、25°に1次回折する多段面S2Aを基準としたカラー表示体によって得られたスペクトルである。また、各カラー表示体において、r値が255、238、221、204、187、170、153、136および、119のいずれかに設定されている。
【0152】
図23が示すように、r値を255に設定した場合に第1スペクトルS1が得られ、r値を238に設定した場合に第2スペクトルS2が得られ、r値を221に設定した場合に、第3スペクトルS3が得られる。また、r値を204に設定した場合に第4スペクトルS4が得られ、r値を187に設定した場合に第5スペクトルS5が得られ、r値を170に設定した場合に第6スペクトルS6が得られる。また、r値を153に設定した場合に第7スペクトルS7が得られ、r値を136に設定した場合に第8スペクトルS8が得られ、r値を119に設定した場合に第9スペクトルS9が得られる。第1スペクトルS1から第9スペクトルS9から明らかなように、r値を小さくするほど、カラー表示体から反射された光の受光角度、言い換えれば1次回折角の範囲が広がる。一方で、第1スペクトルS1から第9スペクトルS9から明らかなように、r値を大きくするほど、25°において受光される光の強度、すなわち25°に反射される1次回折光の強度が高くなる。
【0153】
図24は、xy色度図における上述した9つのカラー表示体における反射光の位置を示している。
図24が示すように、第1スペクトルS1を有する反射光、および、第2スペクトルS2を有する反射光は、緑色を有する。これに対して、第3スペクトルS3から第9スペクトルS9のいずれかを有する反射光は、白色を有する。そのため、上記式(11)におけるr値は、221以下であることが好ましい。また、r値は204以上221以下の範囲に含まれることが好ましい。これにより、反射光における強度の低下を抑えることが可能である。なお、
図24において、破線で囲まれる領域が、白色点WP(x=0.33,y=0.33)を含む白色の領域である。
【0154】
本実施形態における第2凹凸面11S2は、上記式(11)から式(13)を満たすことによって、無彩色の第2モチーフの画像を表示するように構成されている。そのため、第1モチーフの画像が有彩画像であり、第2モチーフの画像が無彩画像である場合には、第1モチーフの画像と第2モチーフの画像との両方が有彩画像の場合、および、第1モチーフの画像と第2モチーフの画像との両方が無彩画像の場合に比べて、カラー表示体の誘目性を高めることができる。
【0155】
有彩画像は、有彩色の画像である。有彩画像は、色相の違いを用いた画像であってよい。有彩画像は、色差が、CIE1976による色彩値L*a*b*のうち、明度L以外のa*b*での色差ΔE*ab=√((Δa*)^2+(Δb*)^2)が互いに5以上である2つの領域を有することができる。このとき、色彩値L*a*b*は、直径3mmの範囲での色彩値L*a*b*であってよい。無彩画像は、無彩彩色また淡色の画像である。無彩画像は、濃淡の階調画像であってよい。無彩画像は、無色または単色としてもよい。有彩画像では、画像が有する彩度が高いほど、2つの領域における色差が同じであっても色の多様性を向上させることができる。これにより、有彩画像を複雑な(intricate)な柄の外観とすることが可能である。また、画像が有する彩度が高いほど、有彩画像の外観の美観が向上しやすい。
【0156】
[カラー表示体]
図25から
図31を参照して、カラー表示体を説明する。
本実施形態のカラー表示体は、第1凹凸面11S1による第1モチーフと、第2凹凸面11S2による第2モチーフとの2つの画像を表示することができる。第1凹凸面11S1の構造により、第1モチーフを形成することができ、第2凹凸面11S2の構造により、第2モチーフを形成することができる。すなわち、第1凹凸面11S1は構造の互いに異なる複数の領域を有してもよい。また、第2凹凸面11S2は、構造の互いに異なる複数の領域を有してもよい。
図25は、カラー表示体の平面構造を示す図であり、第1凹凸面11S1の位置と第2凹凸面11S2の位置との関係を説明するための図である。これにより、第1モチーフの画像と第2モチーフの画像との表示状態から目視によってカラー表示体の偽造品を検知することができる。
【0157】
図25(a)が示すカラー表示体20では、カラー表示体20が広がる平面と対向する方向から見て、第1凹凸面11S1は、表面11Sの中央部を含む位置に配置されている。また、第2凹凸面11S2は、第1凹凸面11S1と同様、表面11Sの中央部を含む位置に配置されている。なお、本例では、第1凹凸面11S1の外形が太陽を示す形状を有する一方で、第2凹凸面11S2の外形がハートを示す形状を有している。しかしながら、第1凹凸面11S1の外形、および、第2凹凸面11S2の外形は、これらの形状以外の形状であってよい。カラー表示体20が広がる平面と対向する方向から見て、第1凹凸面11S1の外形が区画する領域の一部は、第2凹凸面11S2の外形が区画する領域の一部に重なっている。
【0158】
ただし、カラー表示体20が広がる平面と対向する方向から見て、第1凹凸面11S1を構成する第1画素と、第2凹凸面11S2を構成する第2画素とは互いに重なっていない。なお、第1画素は、第1凹凸面11S1を構成する単位領域であり、第2画素は、第2凹凸面11S2を構成する単位領域である。この点については、
図26を参照して後述する。
【0159】
なお、
図25(b)が示すように、カラー表示体20が広がる平面と対向する方向から見て、第1凹凸面11S1の外形が区画する領域は、第2凹凸面11S2の外形が区画する領域に重なっていなくてもよい。
【0160】
図26は、表面11Sのなかで、第1凹凸面11S1の外形が区画する領域の一部と、第2凹凸面11S2の外形が区画する領域の一部とが重なる部分における画素の配列を示している。
【0161】
図26(a)が示すように、第1凹凸面11S1は、複数の第1画素S1Pから形成されている。第1凹凸面11S1は、複数の第1画素S1Pの集合である。第2凹凸面11S2は、複数の第2画素S2Pから形成されている。第2凹凸面11S2は、複数の第2画素S2Pの集合である。
【0162】
本例では、各画素S1P,S2Pは、正方形状を有している。各画素S1P,S2Pにおいて、各辺は10μm以上50μm以下の範囲に含まれる長さを有することが好ましい。これにより、各画素S1P,S2Pの大きさが、人の目が有する分解能よりも小さくなるため、各画素S1P,S2Pが観察者OBによって視認されない。
【0163】
第1凹凸面11S1を形成する全ての第1画素S1Pにおいて、凸面S1Aの延びる方向が等しいことが好ましい。これにより、第1凹凸面11S1が、凸面S1Aの延びる方向において複数の方向を有する場合に比べて、第1凹凸面11S1が表示する第1モチーフの輝度が高められる。
【0164】
一方で、第2凹凸面11S2を形成する複数の第2画素S2Pでは、各第2画素S2Pにおいて、多段面S2Aが延びる方向が等しく、かつ、複数の第2画素S2Pが、多段面S2Aが延びる方向が互いに異なる第2画素S2Pを含むことが好ましい。複数の第2画素S2Pが、多段面S2Aが延びる方向が互いに異なる第2画素S2Pを含むことによって、第2凹凸面11S2がある観察位置OPから観察された場合に、第2凹凸面11S2は、互いに異なる輝度を有した第2画素S2Pを含むことが可能である。なお、複数の第2画素S2Pにおいて、多段面S2Aが延びる方向における差は、90°以下であることが好ましい。
【0165】
図26(a)が示すカラー表示体20では、表面11Sの一部において、第1画素S1Pと第2画素S2Pとが市松状に並んでいる。また、
図26(b)が示すカラー表示体20では、表面11Sの一部において、第1画素S1Pと第2画素S2Pとが個別に列を形成し、かつ、第1画素S1Pが並ぶ列と、第2画素S2Pが並ぶ列とが交互に並んでいる。また、
図26(c)が示すカラー表示体20では、1つの第2画素S2Pの周りが、複数の第1画素S1Pによって囲まれている。なお、
図26が示す第1画素S1Pおよび第2画素S2Pの配列は、各画素S1P,S2Pの配列における一例である。
【0166】
図27は、観察者OBがカラー表示体20を観察した場合に、第1凹凸面11S1が形成する第1モチーフを観察可能な角度と、第2凹凸面11S2が形成する第2モチーフを観察することが可能な角度とを示している。
【0167】
図27が示すように、カラー表示体20が位置する平面と、カラー表示体20を観察する観察者OBの視線方向DOBを含む平面とが形成する角度が観察角度θOBである。第1凹凸面11S1は、観察角度θOBにおける第1の範囲θOB1にて観察される第1モチーフの画像を表示する。第2凹凸面11S2は、観察角度θOBにおける第2の範囲θOB2にて観察される第2モチーフの画像を表示する。第1の範囲θOB1は、第2の範囲θOB2が含む観察角度θB以外の観察角度を含み、かつ、第2の範囲θOB2は、第1の範囲θOB1が含む観察角度θOB以外の観察角度θOBを含む。すなわち、第1の範囲θOB1の少なくとも一部は、第2の範囲θOB2に含まれず、かつ、第2の範囲θOB2のうちの少なくとも一部は、第1の範囲θOB1には含まれない。
【0168】
これにより、カラー表示体20の観察角度θOBには、第1モチーフのみが表示される観察角度θOBと第2モチーフのみが表示される観察角度θOBとが含まれる。そのため、特定の観察角度θOBにおいて、観察者OBは、各画像を他の画像によって妨げられることなく視認することが可能である。言い換えれば、観察者OBは、観察者OBの視点が第1観察位置OP1に位置する際に、第1モチーフを観察することが可能である。これに対して、観察者OBは、観察者OBの視点が第2観察位値OP2に位置する際に、第2モチーフを観察することが可能である。
【0169】
本実施形態では、第2の範囲θOB2は、観察角度θOBにおいて第1の範囲θOB1とは異なる範囲である。カラー表示体20は、観察角度θOBにおける第3の範囲θOB3において、第1モチーフおよび第2モチーフの両方を表示しない。第3の範囲θOB3は、第1の範囲θOB1と第2の範囲θOB2との間の観察角度θOBを含んでいる。
【0170】
第1凹凸面11S1は、正反射の方向に光を反射するため、第1の範囲θOB1は、正反射の方向を含む。第2凹凸面11S2が光を反射する観察角度θOBは、第2凹凸面11S2が有する多段面S2Aの周期d、多段面S2Aが延びる方向、および、多段面S2Aが有する傾斜角によって決まる。
【0171】
なお、本実施形態では、第2の範囲θOB2は、第1の範囲θOB1とは異なる範囲であるが、第2の範囲θOB2は、第1の範囲θOB1の一部と、第1の範囲θOB1とは異なる範囲を含んでもよい。また、観察角度θOBに第3の範囲θOB3が設定される場合には、第3の範囲θOB3は、上述した第1の範囲θOB1と第2の範囲θOB2との間の観察角度θOBに加えて、以下の範囲を含んでもよい。すなわち、第3の範囲θOB3は、カラー表示体20が広がる平面と第2の範囲θOB2との間の範囲であって、かつ、第1の範囲θOB1を含まない範囲を含んでもよい。あるいは、第3の範囲θOB3は、カラー表示体20が広がる平面と第1の範囲θOB1との間の範囲であって、かつ、第2の範囲θOB2を含まない範囲を含んでもよい。
【0172】
[カラー表示体の作用]
図28から
図31を参照して、カラー表示体20の作用を説明する。なお、以下では、カラー表示体20が認証媒体に適用された場合のカラー表示体20の作用を説明する。
【0173】
図28が示すように、認証媒体30の観察者OBは、認証媒体30を自身の手に把持した状態で認証媒体30を観察してもよい。
図28が示す例では、観察者OBは、水平方向に沿う基準面Ph1に対して第1角度θ1だけ認証媒体30を傾けた状態で認証媒体30を観察する。または、観察者OBは、基準面Ph1に対して第2角度θ2だけ認証媒体30を傾けた状態で認証媒体30を観察する。または、観察者OBは、基準面Ph1に対して第3角度θ3だけ認証媒体30を傾けた状態で認証媒体30を観察する。第1角度θ1は第2角度θ2よりも大きく、かつ、第2角度θ2は第3角度よりも大きい。
【0174】
図29は、認証媒体30の傾きに応じて観察者OBが視認する認証媒体30の状態を示している。
図29(a)が示すように、認証媒体30は、カラー表示体20と、カラー表示体20を支持する支持体31とを備えている。本実施形態では、認証媒体30は、支持体31に支持された情報記録媒体32をさらに備えている。支持体31は、例えば合成樹脂製のシートである。支持体31には、各種の情報が記録されてよい。この各種の情報を、支持体31にデジタルデータとして記録することができる。各種の情報は、例えば、認証媒体30の種類、認証媒体30の生体情報、非生体情報、および、生体情報と非生体情報との双方の情報である。生体情報の一例は、所有者の顔写真、虹彩パターン、静脈パターン、所有者の自署、および、所有者の指紋である。また、生体情報は、所有者の顔写真、虹彩パターン、静脈パターン、所有者の自署、および、所有者の指紋の各々の特徴量であってよい。さらに、生体の特徴量のハッシュデータを生体情報として記録することができる。これによって、保管されている生体の特徴量の改竄を検知することができる。
【0175】
また、支持体31には、情報記録媒体32に記憶されたデータのハッシュデータを記録することもできる。これにより、情報記録媒体32が破損した場合や、情報記録媒体32に記憶されたデータを暗号学的または非暗号学的に照合することができない場合の代替手段を備えることができる。ハッシュデータは、デジタルデータであってよい。ハッシュデータは、暗号学的ハッシュ関数で生成されたものであってよい。
【0176】
非生体情報の一例は、所有者の名前、所有者の国籍、所有者の生年月日、所有者の国籍コード、所有者コード、シリアル番号である。情報記録媒体32は、例えばICチップなどであってよい。なお、認証媒体30は、情報記録媒体32を有しなくてもよい。
【0177】
情報記録媒体32は、デジタルデータを記憶することができる。デジタルデータは、例えば、認証媒体30の種類、認証媒体30の生体情報、非生体情報、および、生体情報と非生体情報との双方の情報のデータである。生体情報の一例は、所有者の顔写真、虹彩パターン、静脈パターン、所有者の自署、および、所有者の指紋である。また、生体情報は、所有者の顔写真、虹彩パターン、静脈パターン、所有者の自署、および、所有者の指紋の各々の特徴量であってよい。非生体情報の一例は、所有者の名前、所有者の国籍、所有者の生年月日、所有者の国籍コード、所有者コード、シリアル番号である。情報記録媒体32に記憶されたデータを、暗号学的または非暗号学的に照合することができる。
【0178】
認証媒体30は、観察者OBの観察位置OPに対して、第1凹凸面11S1が第1モチーフの画像を表示せず、かつ、第2凹凸面11S2が第2モチーフの画像を表示しない状態を有している。第1モチーフの画像と第2モチーフの画像の表示状態から目視によって認証媒体30の偽造品を検知することができる。上述したように、本実施形態では、観察角度θOBが第3の範囲θOB3である場合に、認証媒体30は、第1モチーフの画像および第2モチーフの画像の両方を表示しない。すなわち、観察者OBが、認証媒体30を第2角度θ2で傾けた場合に、認証媒体30は、第1モチーフの画像および第2モチーフの画像の両方を表示しない。認証媒体30が第1モチーフの画像および第2モチーフの画像を表示しない状態では、支持体31に記録された情報が、観察者OBによって読み取られやすい。言い換えれば、この状態では、観察者OBが支持体31に記録された情報を読み取りやすい。これにより、認証媒体30の所有者を識別できる。このように、カラー表示体20が観察角度θOBにおける第3の範囲θOB3内において観察者OBに観察されることによって、カラー表示体20が表示する第1モチーフおよび第2モチーフ以外のカラー表示体20の状態が、観察者によって把握されやすくなる。
【0179】
図29(b)が示すように、認証媒体30は、観察者OBの観察位置OPに対して、第1凹凸面11S1が第1モチーフの画像PIC1を表示する一方で、第2凹凸面11S2が第2モチーフの画像を表示しない状態を有している。上述したように、本実施形態では、観察角度θOBが第1の範囲θOB1である場合に、認証媒体30は、第1モチーフの画像PIC1を表示する一方で、第2モチーフの画像を表示しない。すなわち、観察者OBが、認証媒体30を第1角度θ1で傾けた場合に、認証媒体30は、第1モチーフの画像PIC1を表示して、かつ、第2モチーフの画像を表示しない。
【0180】
図29(c)が示すように、認証媒体30は、観察者OBの観察位置OPに対して、第1凹凸面11S1が第1モチーフの画像PIC1を表示しない一方で、第2凹凸面11S2が第2モチーフの画像PIC2を表示する状態を有している。上述したように、本実施形態では、観察角度θOBが第2の範囲θOB2である場合に、認証媒体30は、第1モチーフの画像PIC1を表示しない一方で、第2モチーフの画像PIC2を表示する。すなわち、観察者OBが、認証媒体30を第3角度θ3で傾けた場合に、認証媒体30は、第1モチーフの画像PIC1を表示せず、かつ、第2モチーフPIC2を表示する。
【0181】
図30は、観察者OBの観察位置OP、および、図示されない光源の位置を固定した状態で、回転軸を中心にカラー表示体20を回転させる状態を示している。
図30(a)が示すように、カラー表示体20が広がる平面の法線が、回転軸Aである。カラー表示体20は、例えば水平面に平行な面に沿って任意の位置に配置されている。当該任意の位置が、カラー表示体20が有する第1位置である。
【0182】
図30(b)が示すように、カラー表示体20は第1位置とは異なる第2位置を有することが可能である。第2位置は、回転軸Aを中心として第1位置から90°だけカラー表示体20を回転させた位置である。本実施形態では、第1位置に位置するカラー表示体20を左回りに90°だけ回転させた位置が第2位置であるが、右回りに90°だけ回転させた位置が第2位置であってもよい。
【0183】
第1凹凸面11S1は、カラー表示体20が第1位置に位置するときに、観察位置OPに対して第1の色を有した第1モチーフの画像PIC1を表示する。例えば、
図30(b)を参照して先に説明した第1モチーフの画像PIC1が、第1の色を有した第1モチーフの画像PIC1である。第1の色は、有彩色に含まれる所定の色である。
【0184】
一方で、
図31(a)が示すように、第1凹凸面11S1は、カラー表示体20が第2位置に位置するときに、観察位置OPに対して第2の色を有した第1モチーフの画像PIC1を表示する。第2の色は第1の色とは異なる。なお、第2の色も、第1の色と同様、有彩色に含まれる所定の色である。カラー表示体20を回転させることによって、カラー表示体20において、カラー表示体20に入射する光から見た見かけ上の有効屈折率n
effが、回転前とは異なる値になる。そのため、カラー表示体20が第1位置に位置する場合の第1モチーフの画像PIC1の色と、カラー表示体20が第2位置に位置する場合の第1モチーフの画像PIC1の色とが互いに異なるように、第1モチーフの画像PIC1が観察者OBによって視認される。
【0185】
第2凹凸面11S2は、カラー表示体20が第1位置に位置するときに、観察位置OPに対して第1の輝度を有した第2モチーフの画像PIC2を表示する。例えば、
図30(b)を参照して先に説明した第2モチーフの画像PIC2が、第1の輝度を有した第1モチーフの画像PIC1である。第1の輝度は、観察者OBが、カラー表示体20が第2モチーフPIC2の画像を表示していることを視認することが可能な輝度である。
【0186】
一方で、
図31(b)が示すように、第2凹凸面11S2は、カラー表示体20が第2位置に位置するときに、観察位置OPに対して第2の輝度を有した第2モチーフの画像PIC2を表示する。第2の輝度は、第1の輝度とは異なる。本例では、第2の輝度は、観察者OBが、カラー表示体20が第2モチーフの画像PIC2を表示していることを視認することが可能であるものの、第1の輝度よりも低い輝度である。なお、第2の輝度は、第1の輝度よりも高くてもよい。
【0187】
カラー表示体20が回転することによって、観察者OBから見た第2凹凸面11S2が備える多段面S2Aの向きが、回転前の向きから変わる。そのため、多段面S2Aにおいて反射された光のうちで、観察者OBが観察可能な光の割合が変わる。これにより、カラー表示体20が第1位置に位置する場合の第2モチーフの画像PIC2の輝度と、カラー表示体20が第2位置に位置する場合の第2モチーフの画像PIC2の輝度とが互いに異なるように、第2モチーフの画像PIC2が観察者OBによって視認される。
【0188】
このように、カラー表示体20は、第1モチーフの画像PIC1について、観察者OBに対して互いに異なる印象を与えることが可能な2つの状態を有することが可能であり、また、第2モチーフの画像PIC2についても、観察者OBに対して互いに異なる印象を与えることが可能な2つの状態を有することが可能である。
【0189】
以上説明したように、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第2実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(6)エンボス層11の表面11Sが、第1凹凸面11S1と第2凹凸面11S2とを有するため、エンボス層11の表面11Sが第1凹凸面11S1のみを有する場合に比べて、より複雑さが増し、エンボス層11を備えるカラー表示体の偽造が困難である。
【0190】
(7)第1モチーフPIC1の画像と第2モチーフPIC2の画像との両方が有彩画像の場合、および、第1モチーフPIC1の画像と第2モチーフPIC2の画像との両方が無彩画像の場合に比べて、カラー表示体20の誘目性を高めることができる。
【0191】
(8)カラー表示体20の観察角度θOBには、第1モチーフの画像PIC1のみが表示される観察角度θOBと第2モチーフの画像PIC2のみが表示される観察角度θOBとが含まれる。そのため、特定の観察角度θOBにおいて、観察者OBは、各画像を他の画像によって妨げられることなく視認することが可能である。
【0192】
(9)カラー表示体20が観察角度θOBにおける第3の範囲θOB3内において観察者OBに観察されることによって、カラー表示体20が表示する第1モチーフの画像PIC1および第2モチーフの画像PIC2以外のカラー表示体20の状態が、観察者によって把握されやすくなる。
【0193】
(10)カラー表示体20は、第1モチーフの画像PIC1について、観察者OBに対して互いに異なる印象を与えることが可能な2つの状態を有することが可能であり、また、第2モチーフの画像PIC2についても、観察者OBに対して互いに異なる印象を与えることが可能な2つの状態を有することが可能である。
【0194】
[第2実施形態の変更]
なお、上述した第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[第2凹凸面]
・第2凹凸面11S2は、観察位置OPに対して反射した1次回折光によって、虹色を有した画像を形成することが可能であってもよい。この場合でも、上述した(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0195】
・第2凹凸面11S2は、第1位置に位置する場合と、第2位置に位置する場合とにおいて、互いに同一の輝度を有した第2モチーフの画像PIC2を表示することが可能でもよい。この場合であっても、第1凹凸面11S1が有彩色の画像を表示し、かつ、第2凹凸面11S2が無彩色の画像を表示する場合には、上述した(7)に準じた効果を得ることはできる。
【0196】
[観察角度]
・第1凹凸面11S1が有する第1の範囲と、第2凹凸面11S2が有する第2の範囲とは、互いに同じ範囲であってもよい。すなわち、第1の範囲における最小値は第2の範囲における最小値と等しく、かつ、第1の範囲における最大値は第2の範囲における最大値と等しくてもよい。この場合であっても、第1凹凸面11S1が有彩色の画像を表示し、かつ、第2凹凸面11S2が無彩色の画像を表示する場合には、上述した(7)に準じた効果を得ることはできる。
【0197】
[第3実施形態]
図32から
図34を参照して、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第3実施形態を説明する。第3実施形態のカラー表示体は、機械読み取りが可能なコードを表示することが可能な点で、第2実施形態のカラー表示体20と異なっている。そのため、以下では、第3実施形態のカラー表示体における第2実施形態のカラー表示体20との相違点を詳しく説明する。一方で、第3実施形態のカラー表示体において、第2実施形態のカラー表示体20と共通する構成には、第2実施形態のカラー表示体20と同一の符号を付すことによって、当該構成の詳しい説明を省略する。また以下では、カラー表示体、および、カラー表示体の真贋判定方法を説明する。
【0198】
[カラー表示体]
図32を参照して、カラー表示体を説明する。
図32が示すように、カラー表示体40のエンボス層11は、第1凹凸面11S1と第2凹凸面11S2とから形成されている。第1凹凸面11S1は、第1領域S11と第2領域S12とから形成されている。第1領域S11における凹凸の周期dは、第2領域S12における凹凸の周期dと互いに異なっている。第2凹凸面11S2は、第1領域S21と第2領域S22とから形成されている。第1領域S21における多段面S2Aの周期dは、第2領域S22における多段面S2Aの周期dと互いに異なっている。カラー表示体40が広がる平面と対向する方向から見て、第1凹凸面11S1の外形が区画する領域と、第2凹凸面11S2の外形が区画する領域とは、互いに重なっている。
【0199】
カラー表示体40が広がる平面と対向する方向から見て、第1凹凸面11S1の第1領域S11は、アルファベットのO状を有した部分と、アルファベットのK状を有した部分とから形成されている。第1凹凸面11S1の第2領域S12は、第1領域S11を取り囲む形状を有している。カラー表示体40が広がる平面と対向する方向から見て、第2凹凸面11S2の第1領域S21は、第1凹凸面11S1の第1領域S11と同様、アルファベットのO状を有した部分と、アルファベットのK状を有した部分とを備えている。ただし、第2凹凸面11S2の第1領域S21は、カラー表示体40が広がる平面に対する法線であって、かつ、カラー表示体40の中心を通る回転軸に対して、第1凹凸面11S1の第1領域S11を180°だけ回転させた形状を有している。
【0200】
カラー表示体40が広がる平面と対向する平面視において、第1凹凸面11S1の第1領域S11が区画する領域の一部と、第2凹凸面11S2の第1領域S21が区画する領域の一部とが重なっている。カラー表示体40が広がる平面と対向する平面視において、第1凹凸面11S1の第2領域S12が区画する領域の一部と、第2凹凸面11S2の第2領域S22が区画する領域の一部とが重なっている。
【0201】
なお、第2実施形態のカラー表示体20と同様、第1凹凸面11S1は複数の第1画素S1Pによって形成され、かつ、第2凹凸面11S2は複数の第2画素S2Pによって形成されている。そして、表面11Sにおいて、複数の第1画素S1Pが位置する部分と、複数の第2画素S2Pが位置する部分とは、互いに異なっている。
【0202】
[カラー表示体の真贋判定方法]
図33および
図34を参照して、カラー表示体40の真贋判定方法を説明する。
図33が示すように、カラー表示体40の真贋判定方法は、第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取りを行うことと、第2凹凸面11S2が反射した光の機械読み取りを行うこととを含んでいる。上述したように、第1凹凸面11S1は、第1凹凸面11S1に入射した光を正反射の方向に反射する。そのため、第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取りを行う場合には、検証機VMが、入射角αに等しい角度を有した反射角βで反射される光を検出することができるように配置される。これに対して、第2凹凸面11S2が反射した光の機械読み取りを行う場合には、検証機VMが、反射角βとは異なる反射角γで反射される光を検出することができるように配置される。本実施形態では、反射角γが反射角βよりも大きいが、反射角γは反射角βよりも小さくてもよい。
【0203】
なお、真贋判定方法では、第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取りが、第2凹凸面11S2が反射した光の機械よりも先に行われてもよい。あるいは、真贋判定方法では、第2凹凸面11S2が反射した光の機械読み取りが、第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取りよりも先に行われてもよい。
【0204】
図34は、カラー表示体40が反射した光の機械読み取りを行った結果を示している。なお、
図34(a)は、第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取りを行った結果であり、
図34(b)は、第2凹凸面11S2が反射した光の機械読み取りを行った結果である。
【0205】
図34(a)が示すように、第1凹凸面11S1の第1領域S11が反射する光の波長は、第1凹凸面11S1の第2領域S12が反射する光の波長とは異なるため、検証機VMによる機械読み取りの結果において、第1領域S11と第2領域S12とが互い区別可能である。すなわち、カラー表示体40は、第1モチーフの画像PIC1として、第1領域S11と第2領域S12とによって形成される機械読み取り可能なコードを表示する。そのため、第1モチーフの画像PIC1の機械読み取り結果をカラー表示体40の真贋を判定するために用いることが可能である。
【0206】
真贋判定方法では、第1凹凸面11S1が反射した光が、第1モチーフの画像PIC1を形成するか否かを第1凹凸面11S1に対する機械読み取りの結果に基づいて判定する。当該判定は、検証機VMによって行われてもよい。あるいは、検証機VMがコンピューターに接続され、コンピューターが、検証機VMから送信された機械読み取りの結果に基づき判定を行ってもよい。あるいは、コンピューターが、検証機VMと判定用のサーバーとに接続され、コンピューターが検証機VMから送信された機械読み取りの結果をサーバーに送信し、サーバーが、判定の結果をコンピューターに送信してもよい。
【0207】
図34(b)が示すように、第2凹凸面11S2の第1領域S21が反射する光の輝度は、第2凹凸面11S2の第2領域S22が反射する光の輝度と異なるため、検証機VMによる機械読み取りの結果において、第1領域S21と第2領域S22とが互いに区別可能である。すなわち、カラー表示体40は、第2モチーフの画像PIC2として、第1領域S21と第2領域S22とによって形成される機械読み取り可能なコードを表示する。そのため、第2モチーフの画像PIC2の機械読み取り結果をカラー表示体40の真贋を判定するために用いることが可能である。
【0208】
真贋判定方法では、第2凹凸面11S2が反射した光が、第2モチーフの画像PIC2を形成するか否かを第2凹凸面11S2に対する機械読み取りの結果に基づいて判定する。当該判定は、第1凹凸面11S1が反射した光の判定と同様、検証機VMによって行われてもよいし、コンピューターによって行われてもよいし、サーバーによって行われてもよい。
【0209】
真贋判定方法は、さらに、第1凹凸面11S1が反射した光が第1モチーフの画像PIC1を形成すると判定し、かつ、第2凹凸面11S2が反射した光が第2モチーフの画像PIC2を形成すると判定した場合に、カラー表示体40が真正であると判定することを含む。第1凹凸面11S1に対する判定と、第2凹凸面11S2に対する判定とが検証機VMによって行われる場合には、カラー表示体40が真正であることの判定も検証機VMによって行われてよい。また、第1凹凸面11S1に対する判定と、第2凹凸面11S2に対する判定とが上述したコンピューターによって行われる場合には、カラー表示体40が真正であることの判定もコンピューターによって行われてよい。また、第1凹凸面11S1に対する判定と、第2凹凸面11S2に対する判定とが上述したサーバーによって行われる場合には、カラー表示体40が真正であることの判定もサーバーによって行われてよい。
【0210】
なお、真贋判定方法では、第1凹凸面11S1が反射した光が第1モチーフの画像PIC1を形成しないこと、および、第2凹凸面11S2が反射した光が第2モチーフPIC2を形成しないことのいずれかが成立した場合に、カラー表示体40が偽物であると判定される。
【0211】
このように、カラー表示体40の真贋判定方法によれば、第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取り結果、および、第2凹凸面11S2が反射した光の機械読み取り結果に基づいて、カラー表示体40が真正であることを判定することが可能である。
【0212】
以上説明したように、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第3実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(11)第1モチーフの画像PIC1の機械読み取り結果、および、第2モチーフの画像PIC2の機械読み取り結果をカラー表示体の真贋を判定するために用いることが可能である。
【0213】
(12)第1凹凸面11S1が反射した光の機械読み取り結果、および、第2凹凸面11S2が反射した光の機械読み取り結果に基づいて、カラー表示体40が真正であることを判定することが可能である。
【0214】
なお、上述した第3実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[コード]
・検証機VMが機械読み取り可能なコードは、上述した文字であってもよいし、数字および記号などであってもよいし、これらの組合せであってもよい。あるいは、検証機VMが機械読み取り可能なコードは、1次元バーコードや2次元バーコードなどであってもよい。
【0215】
[第4実施形態]
図35から
図37を参照して、カラー表示体、認証媒体、および、カラー表示体の真贋判定方法の第4実施形態を説明する。第4実施形態のカラー表示体は、レーザー光線の照射によって変性する層を有した個人認証媒体に適用される。また、第4実施形態のカラー表示体は、カラー表示体に対するレーザー光線の照射によって屈折率が変わる層を備える。そのため以下では、これらの点について詳しく説明する。
【0216】
[個人認証媒体の構造]
図35を参照して、個人認証媒体の構造を説明する。
図35が示すように、個人認証媒体50は、第1基材51、第2基材52、および、第3基材54を備えている。第1基材51、第2基材52、および、第3基材54は記載の順に積層されている。カラー表示体10は、第2基材52と第3基材54との間に位置している。カラー表示体10は、第2基材52と第3基材54との間に形成された空間中に位置する、言い換えれば、第2基材52と第3基材54とによって形成される積層体に内包されている。
【0217】
第1基材51は、合成樹脂製のシートである。第1基材51を形成する材料には、各種の合成樹脂を用いることができる。第1基材51は、可視光に対する透過性を有してもよいし、可視光に対する透過性を有しなくてもよい。
【0218】
第2基材52は、照射装置IDによるレーザー光線LBの照射対象である。第2基材52は、合成樹脂製のシートである。第2基材52は、レーザー光線LBの照射によって変性することが可能である。例えば、第2基材52においてレーザー光線LBの照射された部分は、第2基材52においてレーザー光線LBが照射されていない部分とは異なる色を有することができる。例えば、第2基材52においてレーザー光線Bの照射された部分は、第2基材52においてレーザー光線LBが照射されていない部分とは異なる光透過率を有することができる。すなわち、第2基材52においてレーザー光線LBが照射された部分と、レーザー光線LBが照射されていない部分とは、光学特性が互いに異なる。
【0219】
そのため、第2基材52は、レーザー光線LBが照射された部分と照射されていない部分との間における光学特性の違いによって、エングレービング52Aを記録することが可能である。エングレービング52Aは、上述した認証媒体30が記録することが可能な情報の少なくとも1つを含むことが可能である。
【0220】
個人認証媒体50は、印刷53をさらに備えている。印刷53は、第2基材52のうちで、第3基材54に接する面上に位置している。すなわち、印刷53は、第2基材52と第3基材54とに挟まれている。印刷53は、インキを用いた印刷によって形成されてよい。印刷53は、エングレービング52Aと同様に、認証媒体30が記録することが可能な情報を記録することができる。エングレービング52Aに記録された情報と、印刷53に記録された情報とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。
【0221】
第3基材54は、合成樹脂製のシートである。第3基材53を形成する材料には、各種の樹脂を用いることができる。第3基材53は、可視光に対する透過性を有する。これにより、エングレービング52A、印刷53、および、カラー表示体10が反射する光は、第3基材53を介して視認される。
【0222】
[カラー表示体の構造]
図36および
図37を参照して、カラー表示体10の構造を説明する。
図36および
図37に示されるカラー表示体10は、エンボス層11、高屈折率層12、および、接着層13を備える点において、第1実施形態のカラー表示体10と共通している。これに対して、第4実施形態のカラー表示体10は、後述する変調部を有する点において、第1実施形態のカラー表示体とは異なっている。
【0223】
図36が示すように、例えば、カラー表示体10において、エンボス層11が変調部11Aを有してもよい。変調部11Aが有する屈折率は、エンボス層11における変調部11A以外の部分が有する屈折率とは異なる。変調部11Aは、エンボス層11のなかでレーザー光線LBが照射された部分である。変調部11Aは、エンボス層11に対して照射されたレーザー光線LBが有するエネルギーを吸収することによって変性した部分である。エンボス層11は、変調部11Aが有する屈折率と、変調部11A以外の部分が有する屈折率とが互いに異なることを用いて、情報を記録することが可能である。なお、エンボス層11が有する変調部11Aは、観察者がカラー表示体10を肉眼で観察した場合には、エンボス層11における変調部11A以外の部分とは区別されない。変調部11Aのゼロ次反射のスペルトルは、二峰性、または、単峰性である。変調部11A以外のゼロ次反射のスペルトルは、二峰性、または、単峰性である。変調部11Aのゼロ次反射のスペルトルが、二峰性であり、変調部11A以外のゼロ次反射のスペルトルが単峰性でもよい。
【0224】
例えば、エンボス層11を形成する合成樹脂に赤外線吸収材を添加するか、合成樹脂が赤外線吸収する分子構造を有することによって、レーザー光線LBの照射によって変調部11Aを有することが可能なエンボス層11を得ることが可能である。
【0225】
図37が示すように、カラー表示体10において、保護層13が変調部13Aを有してもよい。変調部13Aは、エンボス層11が有する変調部11Aと同様に、保護層13に対するレーザー光線LBの照射によって形成された部分である。保護層13において、変調部13Aが有する屈折率は、変調部13A以外の部分が有する屈折率とは異なる。なお、カラー表示体10において、エンボス層11と保護層13との両方が、変調部11A,13Aを有してもよい。
【0226】
カラー表示体10が記録する情報は、製品番号、場所情報、個人情報であってよい。このうち、個人情報は、認証媒体30に記録される情報と同様に、生体情報、非生体情報であってよい。カラー表示体10が記録する情報は、デジタルデータであってよい。また、非生体情報は、所有者の名前、所有者の国籍、所有者の生年月日、所有者の国籍コード、所有者コード、シリアル番号から生成したハッシュデータであってよい。
【0227】
生体情報、または、非生体情報のハッシュデータはデジタルデータであってよい。ハッシュデータは、暗号学的ハッシュ関数で生成されたものであってよい。生体情報のハッシュデータにより、保管されている生体の特徴量の改竄を検知することができる。
【0228】
また、カラー表示体10は、情報記録媒体32に記憶されたデータのハッシュデータを記録することもできる。これにより、情報記録媒体32が破損した場合や、情報記録媒体32に記憶されたデータを暗号学的または非暗号学的に照合することができない場合の代替手段を備えることができる。特に、暗号学的ハッシュ関数で生成されたハッシュデータが記録されている場合、認証媒体の偽造にはカラー表示体の模倣と暗号の解読の双方が必要となるため、暗号学的ハッシュ関数で生成されていないハッシュデータを用いた場合より、さらにカラー表示体10の偽造が困難である。
【0229】
記録するデジタルデータのデータ量は、1bit以上1Gbit未満であってよい。このデータ量は、2次元コードおよび1次元コードに適している。デジタルデータのデータ量は、2bit以上10kbit未満であってよい。このデータ量は、特にハッシュデータに好適である。また、記録するデータは、誤り検出または誤り訂正符号を含んでもよい。これにより、データの一部が欠損したことを検知すること、または、欠損したデータを訂正することができる。なお、カラー表示体10が記録する情報は、バイナリデータであってよい。カラー表示体10が記録する情報がバイナリデータである場合には、カラー表示体10に対する情報の記録、および、カラー表示体10からの情報の読み取りを安定化することが可能である。
【0230】
カラー表示体10が記録する情報は、バイナリデータに代えて、3以上の多値データであってもよい。この場合には、エンボス層11および保護層13の少なくとも一方が、少なくとも第1屈折率を有する変調部、および、第2屈折率を有する変調部を備えることによって、カラー表示体10が多値データを記録することができる。なお、第2屈折率は、第1屈折率とは異なる値である。多値データを記録したエンボス層11または保護層13の形成にはさらに高度な製造技術が要求されるから、個人認証媒体50の偽造をさらに困難にすることができる。
【0231】
なお、レーザー光線LBの照射装置IDは、パルスレーザーであってよい。照射装置IDがカラー表示体10に照射するレーザー光線LBのパワーが不足する場合には、エンボス層11および保護層13の屈折率を十分に変調することができない。また、レーザー光線LBのパワーが過剰である場合には、レーザー光線LBの照射によってカラー表示体10において生じる熱に起因してエンボス層11および保護層13が変色する。この点、照射装置IDがパルスレーザーである場合には、発信周波数によりレーザー光線LBのパワーを容易に変調することができる。
【0232】
パルスレーザーは、固体レーザーであってよい。固体レーザーは、YVO4レーザー、YAGレーザーであってよい。レーザー光線LBの波長は、1064nm、532nm、355nmであってよい。これらの波長のうち、1064nmはYVO4レーザー、YAGレーザーの基本波が有する波長であり、532nmはその第二高調波が有する波長であり、355nmはその第三高調波が有する波長である。このうち、1064nmの波長を有する基本波の出力が最も大きく、エングレービングに適している。この基本波は、赤外線である。
【0233】
なお、パルスレーザーの発振周波数、すなわちQスイッチ周波数は、1kHz以上1MHz以下の範囲に含まれることが好ましい。パルスレーザー光線のパルス幅は、1ns以上100ns以下の範囲に含まれることが好ましい。パルスレーザー光線における1パルスのエネルギーは、0.02mJ以上20mJ以下の範囲に含まれることが好ましい。レーザー出力は、1W以上20W以下の範囲に含まれることが好ましい。
【0234】
なお、第2基材52およびカラー表示体10の両方に対して同時にレーザー光線LBを照射してもよい。これにより、第2基材52に形成されるエングレービング52Aの形状と、カラー表示体10に形成される変調部11A,13Aの形状とをほぼ等しくすることができる。そのため、こうした第2基材52およびカラー表示体10を備える個人認証媒体50からカラー表示体10を取り出して、当該カラー表示体10を他の個人認証媒体などに貼り付けた場合には、検証器を用いてカラー表示体10の変調部11A,13Aを確認することができる。一方で、他の個人認証媒体では、変調部11A,13Aとほぼ等しい形状を有したエングレービング52Aを確認することができない。このように、変調部11A,13A、および、エングレービング52Aを用いることによって、個人認証媒体50の改竄を検出することが可能である。
【0235】
個人認証媒体50は、変調部11A,11Bを有する一方で、第2基材52のエングレービング52Aを有しなくてもよい。個人認証媒体50は、この場合、上述したように肉眼では変調部11A,13Aを視認できないから、個人認証媒体50は不可視の情報を記録することができる。不可視の情報によれば、カラー表示体10が表示する画像の視認性および美観が損なわれない。したがって、変調部11A,13Aによれば、カラー表示体10の表示画像の視認性および美観を保ちつつ、個人認証媒体50に情報を記録することができる。
【0236】
上述した実施形態および変更によれば、以下に記載の付記を導くことが可能である。
[付記1]
光透過性を有する形成モールドと、光透過性を有し、前記形成モールド上に位置する堆積膜と、前記堆積膜上に位置するプラスチック保護とを備えたカラー表示体であって、
前記形成モールドが第1屈折率を有し、前記プラスチック保護が第3屈折率を有し、前記堆積膜が第2屈折率を有し、前記第2屈折率が、前記第1屈折率および前記第3屈折率よりも高く、
前記形成モールドは、前記堆積膜と接する表面の少なくとも一部に第1波状面を含み、前記第1波状面の波の周期は、250nm以上500nm以下の範囲に含まれ、
前記堆積膜は、前記形成モールドの前記表面に追従し、
前記カラー表示体は、前記形成モールド、前記堆積膜、および、前記プラスチック保護は、前記形成モールドの頂部を通る平面と、前記プラスチック保護の底部を通る平面とによって規定される導波層を形成し、
前記導波層において、第1導波層、第2導波層、および、第3導波層が順に積層され、前記第1導波層は、前記形成モールドの一部および前記堆積膜の一部から形成され、前記第2導波層は、前記形成モールドの一部、前記堆積膜の一部、および、前記プラスチック保護の一部から形成され、前記第3導波層は、前記堆積膜の一部、および、前記プラスチック保護の一部から形成され、
前記堆積膜において、前記第1導波層に含まれる部分、前記第2導波層に含まれる部分、および、前記第3導波層に含まれる部分のうち2つの厚さおよび体積密度の少なくとも一方は、前記第1導波層に含まれる部分、前記第2導波層に含まれる部分、および、前記第3導波層に含まれる部分のうちの別の1つの厚さおよび体積密度のうちの前記少なくとも一方とは異なる
カラー表示体。
【0237】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本開示の範囲は、図示され記載された実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含むことができる。さらに、本開示の範囲は、請求項により画される発明の特徴(feature)に限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴(feature)、その特徴(feature)のあらゆる組み合わせも含む。
【0238】
本開示で用いられる「部分」、「要素」、「領域」「ゾーン」、「層」、「画素」、「面」、「表示体」、「物品」「記録」、「媒体」、「モチーフ」、「支持体」、「印刷」、「エングレービング」という用語は、物理的存在である。物理的存在は、物質的形態または、物質に囲まれた空間的形態を指すことができる。物理的存在は、その材質、物性、物理量、心理物理量、配置、形状、外形、前記の統計量、記録された情報、記録されたデータ、記録されたコード、読み取れる情報、読み取れるデータ、読み取れるコード、能力、性能、外観、色、スペクトル、形成/表示する画像、加工方法、検知の方法、検証の方法、判定の方法、により特徴づけることができる。また、その物理的存在の特徴により、物理的存在は特定の機能を有することができる。特定の機能を有した物理的存在のセットは、各物理的存在の各機能による相乗的効果を発現できる。
【0239】
用語、構成、特徴、側面、実施形態を解釈する場合、必要に応じて図面を参照すべきである。図面により、直接的かつ一義的に導き出せる事項は、テキストと同等に、補正の根拠となるべきである。
【0240】
本開示、特に請求の範囲で使用される用語は、一般的に、「オープンな」用語として意図される(例えば、「有する」という用語は、「少なくとも有する」と解釈すべきであり、「含む」という用語は「含むがそれに限定されない」などと解釈されるべきである)。さらに、請求項に明示的に特定の数が記載されていない場合、特定の数の意図は存在しない。例えば、理解を助けるために、請求の範囲は、「少なくとも1つ」および「1つまたは複数」の導入句の使用を含み、請求の列挙を導入することができる。しかしながら、そのような語句の使用が、不定冠詞「a」または「an」による記載を導入した請求項を含む特定の請求項を、そのような記載を1つだけ含む実施形態に限定することを意味すると解釈されるべきではない。「1つ以上」または「少なくとも1つ」の語句および「a」または「an」などの不定冠詞は、少なくとも(「1つ」または「1つ以上」)を意味すると解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0241】
10…カラー表示体
11…エンボス層
12…高屈折率層
13…保護層