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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240625BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240625BHJP
   H01M 4/13 20100101ALN20240625BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/13
H01B1/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022508384
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010672
(87)【国際公開番号】W WO2021187494
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020046248
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
(72)【発明者】
【氏名】高野 良平
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-299101(JP,A)
【文献】特開2019-125502(JP,A)
【文献】特開2017-037769(JP,A)
【文献】特開2015-060737(JP,A)
【文献】国際公開第2013/175993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 4/13
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備える電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備え、
少なくとも前記固体電解質層が、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素(Zrを除く)の構成割合が0.0%よりも多く15%以下である部分を備える固体電解質粒子を含んで成り、
前記固体電解質層が単一層であり、複数の前記固体電解質粒子が該単一層である該固体電解質層内にてランダムに配置されており、
前記固体電解質粒子が、下記式1で表されるナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含んで成る、固体電池。
[式1]
Li 1+x Mi 2-y Mii (PO
(式中、0≦x≦1、0.0<y≦0.3、Mi:Al、Ga、Ge、Zr、CaおよびInからなる群より選択される少なくとも1種、Mii:Ti、V、CoおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種)
【請求項2】
前記固体電解質粒子が電子伝導パス遮断部材となっている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質層は、前記遷移金属元素の構成割合が15%以下である第1の固体電解質粒子と、該遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い第2の固体電解質粒子とを備え、
前記第1の前記固体電解質粒子がマトリックス状に配置された前記固体電解質層のメイン部内に、前記第2の前記固体電解質粒子が相互に離隔するように点在配置されている、請求項1または2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記固体電解質粒子がコア・シェル構造となっており、
コア部が前記遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い部分となっており、シェル部が該コア部を取り囲みかつ該遷移金属元素の構成割合が15%以下である部分となっている、請求項1または2に記載の固体電池。
【請求項5】
前記正極層および前記負極層の少なくとも一方は前記固体電解質粒子を更に含んで成る、請求項1~のいずれかに記載の固体電池。
【請求項6】
前記遷移金属元素の構成割合が0.5%以上15%以下となっている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項7】
前記遷移金属元素の構成割合が0.5%以上10%以下となっている、請求項1に記載の固体電池。
【請求項8】
前記正極層および前記負極層がリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~のいずれかに記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より充放電が繰り返し可能な二次電池が様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン等の電子機器の電源として用いられている。
【0003】
当該二次電池においてはイオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の液体の電解質(電解液)が従来より使用されている。しかしながら、電解液を用いた二次電池においては、電解液の漏液等の問題がある。そのため、液体の電解質に代えて固体電解質を有して成る固体電池の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-5279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電池は、概して正極層、負極層、および正極層と負極層との間に介在する固体電解質層を備える電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備える構成を採り得る。かかる構成において、少なくとも固体電解質層は固体電解質粒子を含み、当該固体電解質粒子は、その構成要素の1つとして遷移金属元素を含み得る。ここで、固体電解質粒子に占める遷移金属元素の割合が相対的に多い条件下で充放電を行うと、以下の問題が生じ得る。
【0006】
具体的には、遷移金属元素は概して充放電時に正極/負極の電位変化に対する影響を受けやすい。そのため、上記固体電解質粒子が充放電時に正極/負極の電位変化の影響を受けると、当該固体電解質粒子に遷移金属元素が多く含まれることに起因して、遷移金属元素が反応(酸化還元反応)する虞がある。これにより、正極層と負極層との間に位置する固体電解質層にて、所定のイオン伝導パスが阻害されてイオン伝導性が低下する虞がある。更に、遷移金属元素が反応(酸化還元反応)することに起因して、正極層と負極層との間に位置する固体電解質層にて反応した遷移金属を介して電子伝導パスが連続する虞がある。特に、正極層と負極層との間に位置する固体電解質層にて電子伝導パスが連続すると、これに起因して正極と負極との間にて短絡が生じる虞がある。かかる短絡の発生は、結果として固体電池の特性の低下につながり得る。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の目的は、電池特性の低下を好適に抑制可能な固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質層を備える電池構成単位を積層方向に沿って少なくとも1つ備え、
少なくとも前記固体電解質層が、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下である部分を備える固体電解質粒子を含んで成る、固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、電池特性の低下を好適に抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る固体電池の電極間に位置する固体電解質層を模式的に示した断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る固体電池の電極間に位置する固体電解質層を模式的に示した断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る固体電池の電極間に位置する固体電解質層を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る固体電池について説明する前に、固体電池の基本的構成について説明しておく。本明細書でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に全ての構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指す。ある好適な態様では、本発明の固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。本明細書でいう「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な二次電池のみならず、放電のみが可能な一次電池をも包含し得る。本発明のある好適な態様では、固体電池は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。
【0012】
本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する活物質層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から固体電池をみたときの状態のことである。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0013】
以下、本発明の「固体電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0014】
本発明でいう「固体電池」は、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその電池構成要素(特に好ましくは全ての電池構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指している。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様に従うと「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものでなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。
【0015】
本明細書でいう「平面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいている。又、本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0016】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特段の説明が付されない限り、下限および上限の数値そのものを含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明の付記がない限り、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0017】
[固体電池の構成]
固体電池は、正極・負極の電極層と固体電解質とを少なくとも有して成る。具体的には固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質から成る電池構成単位を含んだ電池要素を有して成る。
【0018】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質などが焼結層を成している。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ電池要素が一体焼結体を成している。
【0019】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。正極層は、更に固体電解質を含んで成ることができる。例えば、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、正極層が、正極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。負極層は、更に固体電解質を含んで成ることができる。例えば、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、負極層が、負極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。
【0020】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介してイオンは正極層と負極層との間で移動(伝導)して電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層は特にリチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電池は、固体電解質を介してリチウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0021】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li(PO等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiFePO、LiMnPO等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。
【0022】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ナトリウム含有層状酸化物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoから成る群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li(PO、LiTi(PO等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiCuPO等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiTi12等が挙げられる。
【0024】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
なお、ある好適な態様の本発明の固体電池では、正極層と負極層とが同一材料から成っている。
【0026】
正極層および/または負極層は、導電助剤を含むことができる。正極層および負極層に含まれる導電助剤として、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。
【0027】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含むことができる。焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0028】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてリチウムイオンまたはナトリウムイオンが伝導可能な層を成している。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲において存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、Li(PO(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれる少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、LiLaZr12等が挙げられる。
【0029】
なお、ナトリウムイオンが伝導可能な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物としては、Na(PO(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。
【0030】
固体電解質は、焼結助剤を含むことができる。固体電解質に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層・負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択され得る。
【0031】
(端子)
固体電池には、一般に端子(例えば外部電極)が設けられている。特に、固体電池の側部に端子が設けられている。具体的には、正極層と接続された正極側の端子と、負極層と接続された負極側の端子とが固体電池の側部に設けられている。正極層の端子は、正極層の端部、具体的には正極層端部に形成された引出し部と接合されている。又、負極層の端子は、負極層の端部、具体的には負極層端部に形成された引出し部と接合されている。好ましい1つの態様では、端子は、電極層の引出し部と接合させる観点から、ガラスまたはガラスセラミックスを含んでなることが好ましい。又、端子は、導電率が大きい材料を含んで成ることが好ましい。端子の具体的な材質としては、特に制限されるわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0032】
(保護層)
保護層は、一般に固体電池の最外側に形成され得るもので、電気的、物理的および/または化学的に保護するためのものである。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性および/または耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。
【0033】
保護層は、各電極層の引出し部と各外部電極とがそれぞれ接合可能に電池要素の表面を覆う層である。具体的には、保護層は、正極層の引出し部と正極側の外部電極とが接合可能に電池要素の表面を覆うと共に、負極層の引出し部と負極側の外部電極とが接合可能に電池要素の表面を覆う。即ち、保護層は、電池要素の全面を隙間なく覆うのではなく、電池要素の電極層の引出し部と外部電極とを接合させるために、電極層の引出し部(電極層の端部)が露出するように電池要素を覆う。
【0034】
[本発明の固体電池の特徴部分]
固体電池の基本的構成を考慮した上で、以下、本発明の一実施形態に係る固体電池の特徴部分について説明する。
【0035】
本願発明者らは、固体電池の特性低下の原因となる「正極層と負極層との間に位置する固体電解質層にて連続する電子伝導パスの発生抑制」のための態様について鋭意検討した。
【0036】
特に、本願発明者らは、固体電解質層の固体電解質粒子に含まれる全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合に着目している。その結果、本発明を案出するに至った。具体的には、かかる着目点に基づき、本願発明者らは、「少なくとも固体電解質層20の固体電解質粒子20Iに含まれる全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合を所定範囲内(0.0%以上15%以下)とする」という技術的思想を有する本発明を案出するに至った(図1参照)。なお、上記のとおり固体電解質粒子にて遷移金属元素が含まれると充放電時に正極/負極の電位変化に対する影響を受けやすいことから、本願発明者らは、固体電解質層にて、組成中にて遷移金属元素が非含有(全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合(%):0.0%)の固体電解質粒子を含むことができることを見出している。
【0037】
かかる技術的思想に従えば、電極10A、10B間に位置する固体電解質層20が、その構成要素として、遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)部分を備える固体電解質粒子20を含む。そのため、遷移金属元素の構成割合が相対的に高い(例えば15%よりも多い)固体電解質粒子のみから構成される場合と比べて、以下の利点がある。具体的には、固体電解質粒子20Iが充放電時に正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けるとしても、固体電解質粒子20Iに占める正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)。そのため、当該電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができる。なお、遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合をより少なく観点から、少なくとも固体電解質層20の固体電解質粒子20Iに含まれる全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合は1%以上10%以下であることが好ましい。
【0038】
これにより、正極層10Aと負極層10Bとの間に位置する固体電解質層20にて、所定のイオン伝導パスが阻害されてイオン伝導性が低下することを抑制することができる。又、正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができるため、反応した遷移金属を介して固体電解質層20にて電子伝導パスが連続することを抑制することができる。即ち、遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を減じることができると、電子伝導パスの連続を遮断することができる。
【0039】
以上の事からも、本発明の技術的思想によれば、正極層10Aと負極層10Bとの間に位置する固体電解質層20に含まれる「遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)部分を備える」固体電解質粒子20Iは、「イオン伝導材」として好適に機能することができることに加え「電子伝導パス遮断材」としても好適に機能することができる。当該固体電解質粒子20Iの存在により、電子伝導パスが連続することを遮断できるため、これに起因して正極10Aと負極10Bとの間にて短絡が生じることを抑制することができる。その結果、固体電池の特性の低下を好適に抑制することができる。この点で、本発明は有利である。
【0040】
本明細書でいう「全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下である部分を備える固体電解質粒子20I」とは、「単一の固体電解質粒子20Iにおいて、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下である部分を少なくとも一部有する」ことを指す。一例としては、単一の固体電解質粒子20Iの全体において、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下となっている場合が挙げられる。又、単一の固体電解質粒子20Iの一部分において、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下となっている場合が挙げられる。
【0041】
以下、上記の本発明の技術的思想を具体化させるための態様について説明する。
【0042】
一態様では、固体電解質層20は、遷移金属元素の構成割合が15%以下である第1の固体電解質粒子20IIと、遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い第2の固体電解質粒子20IIとを備える。特に、本態様では、第1の固体電解質粒子20IIがマトリックス状に配置された固体電解質層20のメイン部内に、第2の固体電解質粒子20IIが相互に離隔するように点在配置されている(図2参照)。
【0043】
本態様では、図2に示すように、電極10A、10B間に位置する固体電解質層20が、第1の固体電解質粒子20IIがマトリックス状に配置された固体電解質層20のメイン部と、当該メイン部内にて相互に離隔するように点在配置された第2の固体電解質粒子20IIとを含んで成る。
【0044】
本明細書でいう「マトリックス状」とは第1の固体電解質粒子20IIが行列状に配置された状態を指す。本明細書でいう「固体電解質層20のメイン部」とは固体電解質層20を構成する主たる部分を指す。
【0045】
本態様では、固体電解質層20のメイン部はマトリックス状に配置された第1の固体電解質粒子20IIから構成される。当該第1の固体電解質粒子20IIは遷移金属元素の構成割合が15%以下である。つまり、本態様では、固体電解質層20を構成する主たる部分は遷移金属元素の構成割合が相対的に低いものから構成されている。従って、第1の固体電解質粒子20IIが充放電時に正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けるとしても、固体電解質層20を構成する主たる部分では電極の電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に低くなっているため、当該電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができる。これにより、反応した遷移金属を介して第1の固体電解質粒子20IIにおいて電子伝導パスの連続を遮断することができる。
【0046】
一方、第2の固体電解質粒子20IIは遷移金属元素の構成割合が15%よりも多くなっている。つまり、第2の固体電解質粒子20IIは遷移金属元素の構成割合が相対的に高いものから構成されている。電極の電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に高いと、これに起因して遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合が高くなるといえる。そのため、反応した遷移金属を介して第2の固体電解質粒子20IIにおいて電子伝導パスが形成される虞がある。
【0047】
この点につき、本態様では、固体電解質層20のメイン部内において、第2の固体電解質粒子20IIが離隔するように点在している。かかる離隔配置により、各第2の固体電解質粒子20IIは第1の固体電解質粒子20IIに囲まれて配置されている。具体的には、電子伝導パスが形成される虞がある各第2の固体電解質粒子20IIが、電子伝導パスの連続を遮断可能な第1の固体電解質粒子20IIにより囲まれて配置されている。従って、第2の固体電解質粒子20IIによる電子伝導パスが、固体電解質層20を介して正極10Aと負極10B側との間で連続することをより好適に抑制することができる。その結果、正極10Aと負極10Bとの間にて短絡が生じることをより好適に抑制することができ、それによって固体電池の特性の低下をより好適に抑制することができる。
【0048】
一態様では、固体電解質粒子20IIIがコア・シェル構造を採り得る。当該コア・シェル構造のコア部20IIIは遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い部分となっており、シェル部20IIIはコア部20IIIを取り囲みかつ遷移金属元素の構成割合が15%以下である部分となっている(図3参照)。
【0049】
本態様では、図3に示すように、コア部20IIIとシェル部20IIIを備えたコア・シェル構造を採る。コア部20IIIは遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い部分、即ち相対的に遷移金属元素の割合が多い部分となっている。コア部20IIIを取り囲むシェル部20IIIは遷移金属元素の構成割合が15%以下である部分、即ち相対的に遷移金属元素の割合が少ない部分となっている。
【0050】
本明細書でいう「コア部」とは単一の固体電解質粒子の構成要素のうち中核となる部分、即ち主要部分を指す。又、本明細書でいう「シェル部」とは単一の固体電解質粒子の構成要素のうちコア部の全面を取り囲むように覆う外殻部分を指し、コア部以外の部分を指す。
【0051】
つまり、本態様では、単一の固体電解質粒子20IIIは、その内側部分(コア部分)の遷移金属元素の割合が相対的に多い一方、その外殻部分(シェル部)の遷移金属元素の割合が相対的に少ない構成となっている。かかる構成を採る場合、単一の固体電解質粒子20IIIの外殻部分は遷移金属元素の割合が相対的に少ない部分(15%以下である部分)である。従って、固体電解質粒子20IIIが充放電時に正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けるとしても、単一の固体電解質粒子20IIIの外殻部分が遷移金属元素の割合が相対的に少ない部分であるため、当該電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができる。これにより、反応した遷移金属を介して固体電解質粒子20IIIの外殻部分(シェル部)において電子伝導パスの連続を遮断させることができる。
【0052】
一方、単一の固体電解質粒子20IIIの内側部分(即ちコア部分20III)の遷移金属元素の割合は相対的に高い部分(15%以下である部分)である。電極の電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に高いと、これに起因して遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合が高くなるといえる。そのため、反応した遷移金属を介して固体電解質粒子20IIIのコア部分20IIIにまで電子伝導パスが連続する虞がある。
【0053】
この点につき、本態様では、固体電解質粒子20IIIのコア部分20IIIの全面が電子伝導パスの連続を遮断可能なシェル部20IIIにより取り囲まれている。そのため、固体電解質粒子20IIIのシェル部20IIIの内側に位置するコア部分20IIIにまで、電子伝導パスが連続することを回避できる。その結果、単一の固体電解質粒子20IIIに着目した場合、電子伝導パスがシェル部から入った後コア部を通ってシェル部から出ていくことを回避できる。これにより、かかる固体電解質粒子20IIIが正極10Aと負極10B側との間にて相互に接するように配置されていても、電子伝導パスが各固体電解質粒子20IIIを介して、即ち固体電解質層20を介して正極10Aと負極10B側との間で連続することを好適に抑制することができる。その結果、正極10Aと負極10Bとの間にて短絡が生じることをより好適に抑制することができ、それによって固体電池の特性の低下をより好適に抑制することができる。
【0054】
なお、本発明は、下記態様を採ることが好ましい。
【0055】
一態様では、固体電解質層20が単一層であり、複数の上記固体電解質粒子20Iが単一層である固体電解質層内にてランダムに配置されていることが好ましい(図1参照)。
【0056】
上述のように、本発明では、固体電解質粒子20Iは、正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)という特徴を有する。そのため、正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができる。これにより、反応した遷移金属を介して固体電解質層20にて電子伝導パスの連続を遮断することができる。
【0057】
この点につき、単一層からなる固体電解質層20内において、上記特徴を有する固体電解質粒子20Iが複数供され、当該複数の固体電解質粒子20Iがランダムに配置されていると、以下の点で有利である。具体的には、かかるランダム配置に起因して、上記特徴を有する固体電解質粒子20Iを固体電解質層20内の全体に行きわたるように供することができる。これにより、上記の固体電解質粒子20Iが有する「電子伝導パスの遮断機能」を固体電解質層20内の任意の複数の箇所で発揮することができる。
【0058】
なお、本態様は、正極10Aと負極10Bとの間において、あくまでも単一層からなる固体電解質層20内に上記特徴を有する固体電解質粒子20Iがランダム配置されている。しかしながら、本態様は、正極と負極との間において、積層方向に沿って、例えば遷移金属元素の構成割合が相対的に低い層と遷移金属元素の構成割合が相対的に高い層とが交互に配置されている態様ではないことを確認的に付言しておく。かかる交互態様では、後述するが、例えば遷移金属元素の構成割合が相対的に低い固体電解質粒子と遷移金属元素の構成割合が相対的に高い固体電解質粒子との混合物を用いて、電極間に単一層の固体電解質層を含む固体電池を製造する場合と比べて、多層構造を採る固体電解質層を形成することとなる。従って、製造効率の観点から好適ではないと考えられる。
【0059】
一態様では、正極層10Aおよび負極層10Bの少なくとも一方が上記の固体電解質粒子を更に含んで成ることが好ましい。
【0060】
具体的には、正極層10Aおよび負極層10Bの少なくとも一方は、「正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)」固体電解質粒子を更に含んで成ることが好ましい。一般的に、正極層10Aおよび負極層10Bに各々含まれる活物質は、イオン伝導性および電子伝導性が高くないことが知られている。そのため、イオン伝導性を補う観点から固体電解質粒子が供され、電子伝導性を補う観点から導電助剤が供され得る。
【0061】
特に、正極層10Aおよび負極層10Bの少なくとも一方が、遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)固体電解質粒子を含む場合、以下の点で利点がある。具体的には、充放電時に正極10A/負極10Bの電位変化に晒されるとしても、当該固体電解質粒子に占める正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)。そのため、当該電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができる。これにより、電極層が上記特徴(遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合が少ないという特徴)を有しない通常の固体電解質粒子を含む場合と比べて、イオン伝導パスが阻害されてイオン伝導性がかえって低下することを抑制することができる。
【0062】
又、本発明にて用いられる固体電解質粒子は下記態様を採ることが好ましい。
【0063】
本発明にて用いられる固体電解質粒子は、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リシコン型構造を有するリチウム含有化合物、およびガーネット型構造を有するリチウム含有酸化物等からなる群から少なくとも1種選択されたものから構成され得る。
【0064】
特に限定されるものではないが、本発明にて用いられる固体電解質粒子は、下記式1で表されるナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含んで成ることが好ましい。
[式1]
Li1+xMi2-yMii(PO
(式中、0≦x≦1、0.0≦y≦0.3、Mi:Al、Ga、Ge、Zr、CaおよびInからなる群より選択される少なくとも1種、Mii:Ti、V、CoおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種)
【0065】
特に限定されるものではないが、上記式1中のxは、0以上1以下(上述のとおり)、好ましくは0.1以上0.9以下、0.2以上0.8以下、0.3以上0.7以下、0.4以上0.6以下であることができ、例えば0.5であってよい。
【0066】
特に限定されるものではないが、上記式1中のyは、0.0以上0.3以下(上述のとおり)であることができ、好ましくは0.01以上0.3以下、0.01以上0.25以下、より好ましくは0.01以上0.2以下、更により好ましくは0.01以上0.15以下、更により好ましくは0.01以上0.1以下であることができる。
【0067】
特に限定されるものではないが、上記式1中のMiは、Al、Ga、Ge、Zr、CaおよびInからなる群より選択される少なくとも2種であることができる。一例として、例えばAlとGeの2種が選択されてよい。なお、式中の各元素のモル比は必ずしも一致せず、分析手法によってはそれよりもずれる傾向があるが、特性が変化するほどの組成ずれでなければ本発明の効果が奏される。
【0068】
特に限定されるものではないが、上記式1中のMiiの一例として、Tiが選択され得る。
【0069】
特に限定されるものではないが、上記式1の一例として、Li1.5Al0.5Ge1.2Ti0.3(POが挙げられる。
【0070】
[本発明の固体電池の製造方法]
以下、本発明の一実施形態に係る固体電池の製造方法について説明する。なお、本製造方法は一例にすぎず、他の方法(スクリーン印刷法等)を用いる場合も排除されないことを予め述べておく。
【0071】
本発明の一実施形態に係る固体電池は、グリーンシートを用いるグリーンシート法を用いて製造することができる。一態様では、主としてグリーンシート法により所定の積層体を形成した上で、最終的に本発明の一実施形態に係る固体電池を製造することができる。なお、以下では、当該態様を前提として説明するが、これに限定されることなく、主としてスクリーン印刷法等により所定の積層体を形成することもできる。
【0072】
(未焼成積層体の形成工程)
まず、各基材(例えばPETフィルム)上に固体電解質層用ペースト、正極活物質層用ペースト、正極集電体層用ペースト、負極活物質層用ペースト、負極集電体層用ペースト、絶縁層用ペースト、および保護層用ペーストを塗工する。
【0073】
各ペーストは、正極活物質、負極活物質、導電性材料、固体電解質材料、絶縁性物質、および焼結助剤から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。正極活物質層用ペーストは、例えば、正極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。負極活物質層用ペーストは、例えば、負極活物質、導電材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。正極集電体層用ペースト/負極集電体層用ペーストとしては、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、およびニッケルから成る群から少なくとも一種選択され得る。固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。保護層用ペーストは、例えば、絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。絶縁層用ペーストは、例えば絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。
【0074】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いることができる。
【0075】
上記の固体電解質材料としては、上述のようにナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リシコン型構造を有するリチウム含有化合物、およびガーネット型構造を有するリチウム含有化合物等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む粉末を選択することができる。
【0076】
特に、本発明では、最終的に得られる固体電池の構成要素である固体電解質層が、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下である部分を備える固体電解質粒子を含むことが可能と成るよう、所定の固体電解質材料を選択することが好ましい。当該所定の固体電解質材料と、焼結助剤と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって、所定の固体電解質層用ペーストを作製することができる。
【0077】
一例として、少なくとも2種類の固体電解質材料を選択することが好ましい。例えば、最終的に得られる固体電池の構成要素である固体電解質層が少なくとも全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下である部分を備える固体電解質粒子と、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い部分を備える固体電解質粒子とを各々含むことができるように、少なくとも2種類の固体電解質材料を選択することが好ましい。かかる少なくとも2種類の固体電解質材料と、焼結助剤と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって、所定の固体電解質層用ペーストを作製することができる。
【0078】
別例として、最終的に得られる固体電池の構成要素である固体電解質層に含まれる固体電解質粒子がコア・シェル構造となることが可能なように、2層構造の固体電解質材料(粒子)を用いることが好ましい。具体的には、最終的に得られる固体電池の構成要素である固体電解質層に含まれる固体電解質粒子がコア・シェル構造(コア部:遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い部分/シェル部:コア部を取り囲みかつ遷移金属元素の構成割合が15%以下である部分)となることが可能なように、上記2層構造の固体電解質材料(粒子)を用いることが好ましい。
【0079】
2層構造の固体電解質材料(粒子)は、例えば以下の手法にて得ることができる。一例として、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が相対的に多い固体電解質材料(粒子)の全面に全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が相対的に少ない固体電解質材料をコーティング処理する。これにより、上記2層構造の固体電解質材料を得ることができる。
【0080】
更に別例として、所定の固体電解質材料を選択した上で、後刻の焼成段階等において、最終的に得られる固体電池の構成要素である固体電解質層に含まれる固体電解質粒子のシェル部分がコア部分の全面上に表出するように熱処理条件を適宜制御することができる。具体的には、最終的に得られる固体電池の構成要素である固体電解質層に含まれる固体電解質粒子のコア部の遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い部分となり、シェル部がコア部を取り囲みかつ遷移金属元素の構成割合が15%以下である部分となることが可能なように、所定の固体電解質材料を選択した上で、後刻の焼成段階等において、シェル部分がコア部分の全面上に表出するように熱処理条件を適宜制御することができる。
【0081】
正極活物質層用ペーストに含まれる正極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リシコン型構造を有するリチウム含有化合物、ガーネット型構造を有するリチウム含有化合物等から成る群から少なくとも一種を選択する。
【0082】
絶縁層用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材又はセラミック材等から構成され得る。保護層用ペーストに含まれる絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミックス材、熱硬化性樹脂材、および光硬化性樹脂材等から成る群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0083】
ペーストに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いることができる。
【0084】
負極活物質層用ペーストに含まれる負極活物質材としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、および、Moからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から少なくとも一種から選択される負極活物質材、上記の固体電解質ペーストに含まれる材料、および導電材等から構成することができる。
【0085】
焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマス、および酸化リンからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。
【0086】
塗工したペーストを、30~50℃に加熱したホットプレート上で乾燥させることで、基材(例えばPETフィルム)上に所定厚みを有する固体電解質層シート、正極/負極シート、および絶縁層シートをそれぞれ形成する。
【0087】
次に、各シートを基材から剥離する。剥離後、積層方向に沿って、電池構成単位の各構成要素のシートを順に積層する。積層後、後刻のプレス前に電極シートの側部領域にスクリーン印刷により固体電解質層シート又は絶縁層シートを供してよい。次いで、所定圧力(例えば約50~約100MPa)による熱圧着と、これに続く所定圧力(例えば約150~約300MPa)での等方圧プレスを実施することが好ましい。以上により、所定の積層体を形成することができる。
【0088】
(焼成工程)
得られた所定の積層体を焼成に付す。当該焼成は、窒素ガス雰囲気中で例えば600℃~1000℃で加熱することで実施する。
【0089】
次いで、得られた積層体に端子をつける。端子は正極層と負極層にそれぞれ電気的に接続可能に設ける。例えば、スパッタ等により端子を形成することが好ましい。特に限定されるものではないが、端子としては、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズ、およびニッケルから選択される少なくとも一種から構成されることが好ましい。更に、スパッタ、スプレーコート等により端子が覆われない程度で保護層を設けることが好ましい。
【0090】
以上により、本発明の一実施形態に係る固体電池を好適に製造することができる(図1参照)。
【0091】
得られた本発明の一実施形態に係る固体電池は、「少なくとも固体電解質層20の固体電解質粒子20Iに含まれる全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が所定範囲内(0.0%以上15%以下)である」という特徴を有する(図1参照)。
【0092】
かかる特徴により、電極10A、10B間に位置する固体電解質層20が、その構成要素として、遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)部分を備える固体電解質粒子20Iを含む。そのため、遷移金属元素の構成割合が相対的に高い(例えば15%よりも多い)固体電解質粒子のみから構成される場合と比べて、固体電解質粒子20Iが充放電時に正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けるとしても、固体電解質粒子20Iに占める正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)。そのため、当該電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができる。
【0093】
これにより、正極層10Aと負極層10Bとの間に位置する固体電解質層20にて、所定のイオン伝導パスが阻害されてイオン伝導性が低下することを抑制することができる。又、正極10A/負極10Bの電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくすることができるため、反応した遷移金属を介して固体電解質層20にて電子伝導パスが連続することを抑制することができる。即ち、遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を減じることができると、電子伝導パスの連続を遮断することができる。
【実施例
【0094】
以下、本発明に関連する実施例を説明する。本実施例では、下記の実施例に示す組成を有する固体電解質粒子を含む固体電解質層を備えた固体電池をそれぞれ製造した。
【0095】
具体的には、まず、各PETフィルム上に固体電解質層用ペースト、正極活物質層用ペースト、正極集電体層用ペースト、負極活物質層用ペースト、負極集電体層用ペースト、および保護層用ペーストを塗工した。
【0096】
・正極活物質層用ペースト
正極活物質(Li(PO)、固体電解質材料(下記実施例に示すとおり)、有機材料(ポリビニルアセタール樹脂)および溶剤(トルエン)
・負極活物質層用ペースト
負極活物質(LiTi(PO、固体電解質材料(下記実施例に示すとおり)、有機材料(ポリビニルアセタール樹脂)および溶剤(トルエン)
・正極集電体層用ペースト/負極集電体層用ペースト
アルミニウム
・保護層用ペースト
絶縁性物質材料(ガラス材)、有機材料(ポリビニルアセタール樹脂)および溶剤(トルエン)
・固体電解質層用ペースト
固体電解質材料(下記実施例に示すとおり)、焼結助剤(酸化ケイ素)、有機材料(ポリビニルアセタール樹脂)および溶剤(トルエン)
なお、本実施例では、後述する絶縁性の度合いを直接評価する観点から、固体電解質材料として、1種類の固体電解質粒子を選択した。
【0097】
次に、塗工したペーストを、30~50℃に加熱したホットプレート上で乾燥させ、PETフィルム上に各シートを形成した。その後、各シートをPETフィルムから剥離した。剥離後、積層方向に沿って電池構成単位の各構成要素のシートを順に積層した。積層後、電極シートの側部領域にスクリーン印刷により固体電解質層シートを設けた。次いで、約100MPaの圧力により熱圧着し、これに続き約200MPaでの等方圧プレスを実施した。以上により、所定の積層体を形成した。
【0098】
得られた所定の積層体を焼成に付した。当該焼成は、酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中または大気中で、500℃にて有機材料を除去した後、窒素ガス雰囲気中で800℃で加熱した。その後、正極層と負極層にそれぞれ電気的に接続可能に、スパッタにより得られた積層体に端子をつけた。更に、スパッタにより端子が覆われない程度で保護層を設けた。
【0099】
以上により、各固体電池を製造した。
【0100】
各固体電池の製造後、各固体電池を充電し、1時間休止した後の電圧変化を確認した。その結果は、以下の表1(固体電解質材と絶縁性との関係)のとおりである。
【0101】
[表1]固体電解質材と絶縁性との関係
【0102】
[表2]全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合(%)
【0103】
表1に示すとおり、実施例1~4、7~11、15~19、23~26、29~31、および33~35では、固体電池を充電して1時間休止後の電圧変化が0.2V未満であり、絶縁性が確保される基準を満たしていた。かかる絶縁性が確保されている状況下では、下記の表2(全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合(%))に示すとおり、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.0%以上15%以下であることが分かった。なお、本願発明者らは、固体電解質粒子にて遷移金属元素が含まれると充放電時に正極/負極の電位変化に対する影響を受けやすいことから、固体電解質層において、組成中にて遷移金属元素が非含有(全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合(%):0.0%)の固体電解質粒子を含むことができることも見出した。特に、表1に示すとおり、実施例1~3、7~9、15~18、23~25、29~30、および33~34では、固体電池を充電して1時間休止後の電圧変化が0.1V未満であり、絶縁性がより好適に確保される基準を満たしていた。かかる絶縁性がより確保されている状況下では、下記の表2(全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合(%))に示すとおり、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が0.5%以上10%以下であることが分かった。
【0104】
一方、表1に示すとおり、実施例(比較例に対応)5、6、12~14、20~22、27、28、32および36では、固体電池を充電して1時間休止後の電圧変化が0.2V以上であり、絶縁性が確保されている基準を満たしていなかった。かかる絶縁性が確保されていない状況下では、下記の表2に示すとおり、全金属元素(リチウム除く)に対する遷移金属元素の構成割合が15%を上回っていることが分かった。
【0105】
以上の事から、電極間に位置する固体電解質層が遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(15%以下)固体電解質粒子からなる(すなわち、実施例1~4、7~11、15~19、23~26、29~31、および33~35から成る群から選択される少なくとも1つの固体電解質粒子からなる)又は当該固体電解質粒子を含むと、電極間に位置する固体電解質層が電極間に位置する遷移金属元素の構成割合が相対的に高い(15%よりも多い)固体電解質粒子のみから構成される場合と比べて、電位変化の影響を受けやすい遷移金属元素の反応(酸化還元反応)割合を少なくし得ることが分かった。
【0106】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の一実施形態に係る固体電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の一実施形態に係る固体電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
100 電池構成単位
10A 正極層
10B 負極層
20 固体電解質層
20I 遷移金属元素の構成割合が相対的に低い(0.0%以上15%以下)部分を備える固体電解質粒子
20II 遷移金属元素の構成割合が15%以下である第1の固体電解質粒子
20II 遷移金属元素の構成割合が15%よりも多い第2の固体電解質粒子
20III 固体電解質粒子
20III シェル部
20III コア部分
図1
図2
図3