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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】卵代替物及び卵代替物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20240625BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20240625BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20240625BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20240625BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20240625BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240625BHJP
   A23L 15/00 20160101ALI20240625BHJP
【FI】
A23J3/00 508
A23L29/269
A23L29/262
A23L29/244
A23J3/14
A23J3/16
A23L15/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023565990
(86)(22)【出願日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2023008901
(87)【国際公開番号】W WO2023189332
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2022060181
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】シャカットプラカート ソンボン
(72)【発明者】
【氏名】芝田 宗久
(72)【発明者】
【氏名】吉川 真一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 弘志
(72)【発明者】
【氏名】井上 量太
(72)【発明者】
【氏名】上山 知樹
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特許第7045507(JP,B1)
【文献】特許第6963707(JP,B1)
【文献】特開2009-136247(JP,A)
【文献】特表2021-524738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0020167(US,A1)
【文献】国際公開第2021/116949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/00
A23L 29/269
A23L 29/262
A23L 29/244
A23J 3/14
A23J 3/16
A23L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(2)の工程を含む、卵代替物の製造方法。
(1)水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が40質量%以上である、水中油型乳化物を調製する工程。
(2)工程(1)で得られた水中油型乳化物に、以下の(A)及び(B)のゲル化剤を添加し混合し生地を調製する工程。
(A)カードラン。
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上。
【請求項2】
(1)の工程において、水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が50質量%以上である、水中油型乳化物を調製する、請求項1記載の卵代替物の製造方法。
【請求項3】
以下の(1)~(3)の工程を含む、卵代替物の乾燥物の製造方法。
(1)水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が40質量%以上である、水中油型乳化物を調製する工程。
(2)工程(1)で得られた水中油型乳化物に、以下の(A)及び(B)のゲル化剤を添加し混合し生地を調製する工程。
(A)カードラン。
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上。
(3)工程(2)で得られた生地を乾燥する工程。
【請求項4】
(1)の工程において、水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が50質量%以上である、水中油型乳化物を調製する、請求項3記載の卵代替物の乾燥物の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の製造方法により得られる卵代替物を焼成する、卵焼成品様食品の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により得られる卵焼成品様食品を乾燥する、卵焼成品様食品の乾燥物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵代替物及び卵代替物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵はその機能、栄養価等に優れた特徴を有することから、調味料、惣菜、菓子など様々な食品に幅広く利用されている。しかし、近年、消費者の健康への意識が高まっていることから、コレステロール含量の高い卵の摂取が敬遠される傾向にある。このような背景から、これまで卵代替食品に関する検討が種々為されてきた。
【0003】
例えば、25%~80%(w/w)のタンパク質と、5%~50%(w/w)Fabaceae粉と、5%~60%(w/w)の多糖と、を含む卵代替組成物に関する技術(特許文献1)、アーモンドの抽出タンパク質およびカードランを含有する、アーモンドの抽出タンパク質の含有量が1質量%以上15質量%以下の液卵代替組成物に関する技術(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2021-524738号公報
【文献】特許第6963707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では卵代替物として用いた場合、卵加工食品として食感等が不十分であり改善の余地がある。
本発明は、風味、食感が優れる、卵焼成食品の代替食品を提供すること、該代替食品を製造できる卵代替物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題の解決に対し鋭意検討を重ねた結果、水、蛋白質素材、油脂、特定のゲル化剤を配合して卵代替物として用いた場合に、風味、食感の優れた卵焼成食品様食品が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)水、蛋白質素材、油脂、及び以下の(A)及び(B)のゲル化剤を含む卵代替物であって、該卵代替物中の蛋白質素材、油脂、ゲル化剤及び水の総量を100質量%としたとき、蛋白質素材が0.01~10質量%、油脂が5~30質量%、(A)及び(B)のゲル化剤の総量が1~10質量%である卵代替物、
(A)カードラン、
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上、
(2)さらに食物繊維を含み、卵代替物中の水、蛋白質素材、油脂、ゲル化剤及び食物繊維の総量を100質量%としたとき、蛋白質素材が0.01~5質量%、油脂が5~30質量%、(A)及び(B)のゲル化剤の総量が1~10質量%、食物繊維が0.1~10質量%である、(1)記載の卵代替物、
(3)蛋白質素材が、植物性蛋白質素材である、(1)または(2)記載の卵代替物、
(4)(1)記載の卵代替物が焼成された卵焼成品様食品、
(5)(2)記載の卵代替物が焼成された卵焼成品様食品、
(6)(3)記載の卵代替物が焼成された卵焼成品様食品、
(7)(1)記載の卵代替物の乾燥物、
(8)(2)記載の卵代替物の乾燥物、
(9)(3)記載の卵代替物の乾燥物、
(10)以下の(1)~(2)の工程を含む、卵代替物の製造方法、
(1)水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が40質量%以上である、水中油型乳化物を調製する工程、
(2)工程(1)で得られた水中油型乳化物に、以下の(A)及び(B)のゲル化剤を添加し混合し生地を調製する工程、
(A)カードラン、
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上、
(11)(1)の工程において、水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が50質量%以上である、水中油型乳化物を調製する、(10)記載の卵代替物の製造方法、
(12)以下の(1)~(3)の工程を含む、卵代替物の乾燥物の製造方法、
(1)水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が40質量%以上である、水中油型乳化物を調製する工程、
(2)工程(1)で得られた水中油型乳化物に、以下の(A)及び(B)のゲル化剤を添加し混合し生地を調製する工程、
(A)カードラン、
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上、
(3)工程(2)で得られた生地を乾燥する工程、
(13)(1)の工程において、水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が50質量%以上である、水中油型乳化物を調製する、(12)記載の卵代替物の乾燥物の製造方法、
(14)(10)記載の製造方法により得られる卵代替物を焼成する、卵焼成品様食品の製造方法、
(15)(11)記載の製造方法により得られる卵代替物を焼成する、卵焼成品様食品の製造方法、
(16)(14)記載の製造方法により得られる卵焼成品様食品を乾燥する、卵焼成品様食品の乾燥物の製造方法、
(17)(15)記載の製造方法により得られる卵焼成品様食品を乾燥する、卵焼成品様食品の乾燥物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の卵代替物を用いることで、風味、食感の優れた卵焼成品様食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(卵代替物)
本発明の卵代替物は、水、蛋白質素材、油脂、及び以下の(A)及び(B)のゲル化剤を含む卵代替物であって、該卵代替物中の蛋白質素材、油脂、ゲル化剤(A)及び(B)及び水の総量を100質量%としたとき、蛋白質素材が0.01~10質量%、油脂が5~30質量%、(A)及び(B)のゲル化剤の総量が1~10質量%であることを特徴とする。
(A)カードラン。
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上。
本発明の卵代替物は、さらに加熱処理や乾燥処理を加えたものであっても良い。
【0010】
(油脂)
本発明に用いる油脂として、例えば、大豆油、菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、米油、綿実油、コーン油、サフラワー油、落花生油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、カポック油、モリンガ油、ゴマ油等の植物性油脂、MCT、もしくはこれらの分別油、エステル交換油、硬化油等を用いることができる。これらの油脂は1種または2種以上を併用して使用することができる。
また、これら植物性油脂に風味付けした風味油脂も使用できる。ここで風味油脂とはエキス類、香味料、スパイス、野菜、調味料、乳原料、その他米糠等の植物由来原料等を添加したり、これらを添加後加熱等の処理をして風味付けした油脂を含む。また、アミノ酸および糖類、脂質を含む調味液から植物性油脂を用いて風味を抽出したものなどを含む。好ましくは少なくとも酵母エキスを含む調味液から植物性油脂を用いて風味を抽出したもの、つまり、風味油脂が少なくとも酵母エキスを含むものである。すなわち、植物性油脂をベースとして別途風味が付与された「風味付与油脂」を含む。
風味油脂は単独で使用しても良いし、上記植物性油脂と併用して使用することもできる。
卵代替物中の油脂含量は、蛋白質素材、油脂、ゲル化剤(A)及び(B)及び水の総量を100質量%としたとき、油脂が5~30質量%であり、好ましくは6~28質量%であり、より好ましくは7~25質量%であり、さらに好ましくは8~23質量%、8~20質量%、8~18質量%、8~16質量%とすることもできる。
【0011】
(ゲル化剤)
本発明におけるゲル化剤は、以下の(A)及び(B)を含む。すなわち、
(A)カードラン、(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上、である。
本発明のカードランは、β-1,3-グルコシド結合を主体とする熱凝固性多糖類である。この多糖類としては、アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属の微生物によって生産されるもの等が挙げられる。本発明のカードランにはカードラン製剤も含まれる。商業上入手可能なカードランとしては、例えば、三菱商事ライフサイエンス株式会社のカードランNS、カードラン製剤CD-ES等を挙げることができる。カードランは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のメチルセルロースは、セルロース骨格中の水酸基を、ペクチン等にみられるメトキシル基で置換したものである。商業上入手可能なメチルセルロースとしては、例えば、信越化学工業株式会社のメトローズ(登録商標)シリーズ、例えば、メトローズMCE-15、メトローズMCE-25、メトローズMCE-100、メトローズMCE-400、メトローズMCE-1500、メトローズMCE-4000等が挙げられる。メチルセルロースは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のジェランガムは、スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)が産出する発酵多糖類であり、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムが含まれる。ネイティブ型ジェランガムとしては、DSP五協フード&ケミカル株式会社製の「ケルコゲル(登録商標)LT-100」、「ケルコゲル(登録商標)HM」等が挙げられる。脱アシル型ジェランガムとしては、DSP五協フード&ケミカル株式会社製の「ケルコゲル(登録商標)」等が挙げられる。
また、本発明のコンニャク粉は、アルカリ性でゲル化するもの、中性でゲル化するもののいずれも用いることができるが、中性でゲル化するものを用いることが好ましい。中性でゲル化するものとして、例えば、伊那食品工業製の「ウルトラマンナン」が挙げられる。
また、本発明の効果に影響しない範囲において、他のゲル化剤、例えば、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、アルギン酸、サイリウムシードガム、タマリンドガム、LM-ペクチン、HMペクチン、タマリンド種子多糖類を配合しても良い。
卵代替物中の(A)及び(B)のゲル化剤の含量は、水、蛋白質素材、油脂、ゲル化剤(A)及び(B)の総量を100質量%としたとき、ゲル化剤(A)及び(B)の総量が1~10質量%であり、好ましくは2~9質量%であり、より好ましくは2.5~9.5質量%、さらに好ましくは2.5~9質量%である。
【0012】
(蛋白質素材)
本発明の蛋白質素材は植物性蛋白質素材、動物性蛋白質素材を用いることができ、植物性蛋白質素材と動物性蛋白質素材は併用して使用することができる。好ましくは植物性蛋白質素材である。
本発明の蛋白質素材の概念は、植物性あるいは動物性蛋白質を主成分とし、各種加工食品や飲料に原料として使用されている食品素材である。該植物性蛋白質素材の由来の例として、大豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類などが挙げられる。より具体的な実施形態では、該植物性蛋白質素材は、豆類の蛋白質から調製される。さらに具体的な実施形態では、該植物性蛋白質素材は大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、緑豆蛋白質又は空豆蛋白質から調製される。さらにより具体的な実施形態では、該植物性蛋白質素材は大豆蛋白質又はエンドウ豆蛋白質から調製される。一例として大豆由来の蛋白質素材の場合、脱脂大豆や丸大豆等の大豆原料からさらに蛋白質を濃縮加工して調製されるものであり、一般には分離大豆蛋白質、濃縮大豆蛋白質や粉末豆乳、あるいはそれらを種々加工したものなどが概念的に包含される。
また、動物性蛋白質素材としては、例えば、カゼイン、カゼインナトリウム、ホエー蛋白等の乳蛋白、卵白等が挙げられる。
ある実施形態では、動物性蛋白質素材として、卵白を含まないものとすることもできる。また、別の実施形態では、動物性蛋白質素材を含まないものとすることもできる。
卵代替物中の蛋白質素材の含量は、水、蛋白質素材、油脂、及びゲル化剤(A)及び(B)の総量を100質量%としたとき、蛋白質素材が0.01~10質量%であり、好ましくは0.05~5質量%であり、より好ましくは0.1~3.5質量%であり、さらに好ましくは0.1~3質量%、0.2~2.5質量%、0.2~2質量%、0.2~1.5質量%とすることもできる。
【0013】
(植物性蛋白質素材A)
本発明において、使用する植物性蛋白質素材の1態様として以下のa)~c)を満たす特性を有する植物性蛋白質素材Aを用いることができる。
【0014】
a)蛋白質純度
該植物性蛋白質素材Aは固形分中の蛋白質含量が70質量%以上、例えば、80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上である。上記範囲に含まれる植物性蛋白質素材の原料としては、分離蛋白質が好ましく、分離大豆蛋白質や分離エンドウ蛋白質などが挙げられる。
【0015】
<蛋白質純度の測定>
蛋白質純度はケルダール法により測定する。具体的には、105℃で12時間乾燥した蛋白質素材質量に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中の蛋白質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0016】
b)蛋白質のNSI
該植物性蛋白質素材Aは、蛋白質の溶解性の指標として用いられているNSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)が80以上のものである。より好ましくはNSIが85以上、90以上、95以上、又は97以上のものを用いることができる。例えば、NSIが高い植物性蛋白質素材として、蛋白質が不溶化される処理、例えば酵素分解処理やミネラルの添加処理等、がされていないもの、あるいはされていたとしてもわずかであるもの、を用いることが好ましい。
なお、NSIは後述する方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素の比率(質量%)で表すものとし、本発明においては後述の方法に準じて測定された値とする。
【0017】
<NSIの測定法>
試料3gに60mlの水を加え、37℃で1時間プロペラ攪拌した後、1,400×gにて10分間遠心分離し、上澄み液(I)を採取する。次に、残った沈殿に再度水100mlを加え、再度37℃で1時間プロペラ撹拌した後、遠心分離し、上澄み液(II)を採取する。(I)液及び(II)液を合わせ、その混合液に水を加えて250mlとする。これをろ紙(NO.5)にてろ過した後、ろ液中の窒素含量(水溶性窒素)をケルダール法にて測定する。同時に試料中の全窒素量をケルダール法にて測定し、全窒素量に対する水溶性窒素の割合を質量%として表したものをNSIとする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0018】
c)分子量分布
該植物性蛋白質素材Aは、ゲルろ過クロマトグラフィーによって分子量分布を測定した場合に、その面積比率は分子量2,000以上20,000未満が30%以上、分子量20,000以上が70%以下である。具体的な実施形態では、分子量2,000以上20,000未満が35%以上、分子量20,000以上が65%以下である。
また、ある特定の実施形態では、植物性蛋白質素材Aは、ゲルろ過クロマトグラフィーによって分子量分布を測定した場合に、その面積比率は分子量2,000以上10,000未満が10~40%であり、好ましくは、15~35%であり、より好ましくは、20~30%である。また、分子量10,000以上が50~80%であり、好ましくは55~75%であり、より好ましくは60~75%である。
また別のある特定の実施形態では、植物性蛋白質素材Aはゲルろ過クロマトグラフィーによって分子量分布を測定した場合に、その面積比率は、分子量2,000以上20,000未満が45~90%であり、好ましくは、47~85%、より好ましくは50~75%である。
【0019】
<分子量分布>
溶離液で蛋白質素材を0.1質量%濃度に調整し、0.2μmフィルターでろ過したものを試料液とする。2種のカラム直列接続によってゲルろ過システムを組み、はじめに段落0020に記載している分子量マーカーとなる既知の蛋白質等をチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求める。次に試料液をチャージし、各分子量画分の含有量比率%を全体の吸光度のチャート面積に対する、特定の分子量範囲(時間範囲)の面積の割合によって求める(1stカラム:「TSK gel G3000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社)、2ndカラム:「TSK gel G2000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社)、溶離液:1%SDS+1.17%NaCl+50mMリン酸バッファー(pH7.0)、23℃、流速:0.4ml/分、検出:UV220nm)。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0020】
【0021】
<分子量分布調整処理または分解/変性・分子量分布調整処理>
本態様の油脂乳化組成物に用いられる植物性蛋白質素材は、蛋白質の分解及び/又は変性と、分子量分布の調整を組み合わせることにより得られ得る。蛋白質を分解及び/又は変性させる処理の例として、酵素処理、pH調整処理(例えば、酸処理、アルカリ処理)、変性剤処理、加熱処理、冷却処理、高圧処理、有機溶媒処理、ミネラル添加処理、超臨界処理、超音波処理、電気分解処理及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。分子量分布を調整する処理の例として、ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、遠心分離、電気泳動、透析及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。蛋白質を分解及び/又は変性させる処理と、分子量分布を調整する処理の順序及び回数は特に限定されず、蛋白質を分解及び/又は変性させる処理を行ってから分子量分布を調整する処理を行ってもよいし、分子量分布を調整する処理を行ってから蛋白質を分解及び/又は変性させる処理を行ってもよいし、両処理を同時に行ってもよい。また、例えば2回以上の分子量分布を調整する処理の間に蛋白質を分解及び/又は変性する処理を行う、2回以上の蛋白質を分解及び/又は変性する処理の間に分子量分布を調整する処理を行う、各々複数回の処理を任意の順に行う、等も可能である。なお、蛋白質を分解及び/又は変性させる処理によって所望の分子量分布が得られる場合は、分子量分布の調整のための処理を行わなくてもよい。これらの処理を組み合わせて、複数回行う際、原料から全ての処理を連続で行ってもよいし、時間をおいてから行ってもよい。例えば、ある処理を経た市販品を原料として他の処理を行ってもよい。本明細書において、便宜上、蛋白質を分解及び/又は変性させる処理を「分解/変性処理」、分子量分布の調整を伴う場合は「分解/変性・分子量分布調整処理」と称する。なお、上記特性を満たす限り、分解/変性処理又は分解/変性・分子量分布調整処理を経た植物性蛋白質素材と、分解/変性処理又は分解/変性・分子量分布調整処理を経ていない蛋白質を混合して、特定の植物性蛋白質素材としてもよい。この場合、両者の比率(処理を経たタンパク質素材:処理を経ていない蛋白質)は上記特性を満たす範囲で適宜調整可能であるが、質量比で例えば1:99~99:1、例えば50:50~95:5、75:25~90:10等が挙げられる。ある実施形態では、該植物性蛋白質素材は、分子量分布調整処理又は分解/変性・分子量分布調整処理を経た植物性蛋白質素材からなる。
【0022】
蛋白質を分解及び/又は変性させる処理の条件、例えば酵素、酸、アルカリ、有機溶媒、ミネラル等の種類や濃度、温度、圧力、出力強度、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。酵素の場合、使用される酵素の例として、「金属プロテアーゼ」、「酸性プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼが挙げられる。反応温度は20~80℃、好ましくは40~60℃で反応を行うことができる。pH調整処理の場合、例えばpH2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12の任意の値を上限、下限とするpH範囲で処理し得る。酸処理の場合、酸を添加する方法であっても、また、乳酸発酵などの発酵処理を行う方法であってもよい。添加する酸の例として、塩酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。また、レモンなどの果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト、醸造酢などの酸を含有する飲食品を用いて酸を添加してもよい。アルカリ処理の場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加し得る。変性剤処理の場合、塩酸グアニジン、尿素、アルギニン、PEG等の変性剤を添加し得る。加熱又は冷却処理の場合、加熱温度の例として、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、150℃の任意の温度を上限、下限とする範囲、例えば60℃~150℃が挙げられる。冷却温度の例として、-10℃、-15℃、-20℃、-25℃、-30℃、-35℃、-40℃、-45℃、-50℃、-55℃、-60℃、-65℃、-70℃、-75℃の任意の温度を上限、下限とする範囲、例えば-10℃~-75℃が挙げられる。加熱又は冷却時間の例として、5秒、10秒、30秒、1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、120分、150分、180分、200分の任意の時間を上限、下限とする範囲、例えば5秒間~200分間が挙げられる。高圧処理の場合、圧力の条件として、100MPa、200MPa、300MPa、400MPa、500MPa、600MPa、700MPa、800MPa、900MPa、1,000MPaの任意の圧力を上限、下限とする範囲、例えば100MPa~1,000MPaが挙げられる。有機溶媒処理の場合、用いられる溶媒の例として、アルコールやケトン、例えばエタノールやアセトンが挙げられる。ミネラル添加処理の場合、用いられるミネラルの例として、カルシウム、マグネシウムなどの2価金属イオンが挙げられる。超臨界処理の場合、例えば、温度約30℃以上で約7MPa以上の超臨界状態の二酸化炭素を使用して処理できる。超音波処理の場合、例えば100KHz~2MHzの周波数で100~1,000Wの出力で照射して処理し得る。電気分解処理の場合、例えば蛋白質水溶液を100mV~1,000mVの電圧を印加することにより処理し得る。具体的な実施形態において、蛋白質を分解及び/又は変性させる処理は、変性剤処理、加熱処理、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0023】
蛋白質の分子量分布を調整する処理の条件、例えばろ材の種類、ゲルろ過クロマトグラフィーの担体、遠心分離回転数、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。ろ材の例として、ろ紙、ろ布、ケイ藻土、セラミック、ガラス、メンブラン等が挙げられる。ゲルろ過クロマトグラフィーの担体の例として、ポリアクリルアミド、アガロース等が挙げられる。遠心分離の条件の例として、1,000~3,000×g、5~20分間等が挙げられる。
【0024】
(食物繊維)
本発明の卵代替物にはさらに食物繊維を配合することができる。
本発明の食物繊維として、大豆等の豆類のオカラ、キトサン、セルロース、結晶セルロース、ヘミセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、リグニン、小麦ふすま、小麦胚芽、オート麦ファイバー、コーンファイバー、オートミール、コーンミール、ゴマ種子粉末、酵母細胞壁等が挙げられる。好ましくは、オート麦ファイバー、ゴマ種子粉末である。
卵代替物中の食物繊維の含量は、水、蛋白質素材、油脂、ゲル化剤(A)及び(B)の総量及び食物繊維の総量を100質量%としたとき、食物繊維が0.1~10質量%であり、好ましくは0.3~8質量%であり、より好ましくは0.5~6質量であり、さらに好ましくは0.5~5質量%、0.5~4質量%、0.5~3質量%、0.5~2質量%とすることもできる。
なお、食物繊維を配合したときの卵代替物中の蛋白質素材の含量は、水、蛋白質素材、油脂、ゲル化剤(A)及び(B)の総量及び食物繊維の総量を100質量%としたとき、蛋白質素材が0.01~5質量%、油脂が5~30質量%、ゲル化剤(A)及び(B)が1~10質量%である。
【0025】
(その他の原料)
本発明の卵代替物には、各種原料を必要に応じて含有させることができる。
例えば、糖類、糖アルコール類、澱粉、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類等の水溶性多糖類、増粘多糖類、デキストリン、乳化剤、塩類、香料、甘味料、着色料、保存料、pH調整剤、安定剤、調味料、香辛料等が挙げられる。
【0026】
(卵代替物の製造方法)
本発明の卵代替物は、次の(1)、(2)の工程を有することを特徴とする。
(1)水、蛋白質素材及び油脂を混合、乳化し油脂含量が40質量%以上である、水中油型乳化物を調製する工程。
(2)工程(A)で得られた水中油型乳化物に、以下の(A)及び(B)に示すゲル化剤を添加し混合し生地を調製する工程。
(A)カードラン。
(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上。
【0027】
まず、上記(1)の水中油型乳化物を調製する工程について説明する。
水、蛋白質素材、油脂、その他必要により炭水化物、乳化剤、ミネラル等の原料を混合し、高圧ホモゲナイザー等により溶液を均質化し、水中油型乳化物を得る。
水中油型乳化物中の油脂含量は、40質量%以上である。好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上とすることもできる。油脂含量の上限は特に限定されないが、例えば99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下が挙げられる。
【0028】
○混合・均質化
水相部については、蛋白質素材の水溶液を作製することで調製できる。必要に応じて水溶液に他の原料を添加してもよいし、しなくてもよい。水溶液中の蛋白質素材の濃度は特に限定されず、例えば1~40質量%、2~35質量%、3~30質量%、4~28質量%、5~25質量%、6~22質量%が挙げられる。水相部のpHは特に限定されず、pH調整を行わなくてもよいし、酸又はアルカリの添加により調整を行ってもよい。水相部のpHの例として、3~10、4~6.5、7~9が挙げられる。水相部の調製温度は特に限定されず、例えば室温でもよい。より具体的な実施形態では、加熱により溶解性が向上する親水性乳化剤や炭水化物などを含む場合は、例えば20~70℃、好ましくは55~65℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製できる。水相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、塩類や水溶性の香料等を加える場合には、水相部に添加する。
【0029】
油相部については、油脂のみで調製してもよいし、油脂に油溶性の材料を混合して、例えば50~80℃、好ましくは55~70℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製してもよい。さらに、油相部に蛋白質素材を分散させてもよい。油相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、親油性乳化剤や親油性の香料等を用いる場合には、原料油脂の一部又は全部に添加してもよい。
【0030】
得られた油相部と水相部は、例えば40~80℃、好ましくは55~70℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化はホモミキサー等の回転式攪拌機を用いて行うことができる。予備乳化後、均質化装置にて均質化する。又は、予備乳化なしで全ての原料を混合して均質化装置にて均質化しても良い。より具体的な実施形態では、予備乳化及び/又は均質化を複数回行ってもよい。さらに具体的な実施形態では、水相の全部又は一部と油相の一部を混合して予備乳化し、残りの原料を加えて均質化してもよく、水相の一部と油相の全部又は一部を混合して予備乳化し、残りの原料を加えて均質化してもよく、またこれらの工程を繰り返してもよい。
均質化装置の例として、ホモミキサー;ホモジナイザー;コロイドミル;超音波乳化機;アジテーターとホモミキサーの両機能を備えたアジホモミキサー;サイレントカッターやステファンクッカーなどのカッター刃ミキサー;エクストルーダーやエマルダーなどのローター・ステーター型インラインミキサーが挙げられる。例えばホモジナイザーによる均質化の場合、圧力は10~100MPaとすることができ、好ましくは30~100MPaとすることができる。
【0031】
次に、上記(2)の生地を調製する工程について説明する。
(1)の工程で得られた水中油型乳化物とゲル化剤を混合する。ゲル化剤として、(A)カードラン、(B)メチルセルロース、ジェランガム及びコンニャク粉から選択される1種以上を使用する。
各ゲル化剤の水溶液を調製し、該水溶液と水中油型乳化物を混合して生地を調製し、本発明の卵代替物を得る。
(A)のゲル化剤の水溶液と(B)のゲル化剤の水溶液は、水中油型乳化物に別々に添加しても良いし、予めゲル化剤の水溶液を混合したものを、水中油型乳化物に添加しても良い。
ゲル化剤の水溶液の濃度は特に限定されず、水溶液の粘度等を考慮して適当な濃度を選択することができる。
混合する機器は限定されないが、例えば、フードプロセッサー、ジュースミキサー、サイレントカッターやステファンクッカーなどのカッター刃ミキサー、エクストルーダー、ニーダー等が挙げられる。
【0032】
(卵焼成品および卵焼成品様食品)
本発明で言う卵焼成品とは、卵をフライパンなどで焼成して得られる凝固した食品のことを指し、例えばスクランブルエッグ、炒り卵、オムレツの皮、オムライスの皮、薄焼き卵、卵焼き、出汁巻卵などがあげられる。また、卵焼成品様食品は、上記「卵焼成品」を模した外観および食感を有し、卵の一部または全部を他の素材で代替して得られる食品である。炒り卵はそのままでも喫食できるが、炒飯用の具材としても用いることができる。
【0033】
本発明の卵焼成品様食品の製造方法について説明する。
本発明の卵代替物を焼成して卵焼成品様食品を製造する。焼成方法は例えば、直火加熱、スチーム加熱、フライ加熱、熱風加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱等が挙げられる。例えば、フライパン加熱で製造する場合について説明すると、フライパン等を熱し、必要であれば油をひいてから、生地を流しいれて加熱する。生地が凝固し始めたら、卵焼成品様食品の態様によって、かき混ぜたり巻いたりして形を整え、卵焼成品様食品を得ることができる。その後、流通形態に合わせて、冷蔵や冷凍により保存することができる。
【0034】
(卵代替物または卵焼成品様食品の乾燥物)
本発明の卵代替物または卵焼成品様食品は、乾燥して、乾燥物とすることができる。乾燥方法は、例えば加熱乾燥、通風乾燥、凍結乾燥、真空加熱乾燥(マイクロ波有無)等公知の方法を用いることができる。ある実施形態では、本発明の卵代替物の乾燥物または卵焼成品様食品の乾燥物の水分は10質量%未満、例えば5質量%未満、1~9質量%、2~8質量%、3~7質量%、1~4質量%である。必要に応じて、成形や粉砕などの一般的な食品加工処理を加えても良い。
かかる方法で得られた卵代替物の乾燥物または卵焼成品様食品の乾燥物は湯戻しすることができ、湯戻し後は良好な食感、風味を呈する。
【実施例
【0035】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。尚、例中の部及び%は特に断らない限り質量基準を意味するものとする。
【0036】
(蛋白質素材の調製)
以下の蛋白質素材を入手、調製した。これら植物性蛋白質素材の蛋白質含量は、どれも80質量%以上であった。
○植物性蛋白質素材A-1:分離大豆蛋白質の分解/変性・分子量分布調整処理品(不二製油株式会社テスト製造品、原料分離大豆タンパク質:フジプロF(不二製油株式会社市販品)、分子量分布:2,000以上20,000未満 64%/20,000以上 14%、NSI 98.1)
○植物性蛋白質素材A-2:分離大豆蛋白質の分解/変性処理品(不二製油株式会社テスト製造品、原料分離大豆蛋白質:フジプロF(不二製油株式会社市販品)、分子量分布:2,000以上20,000未満 38%/20,000以上 55%、NSI 98.4)
○植物性蛋白質素材A-3:分離エンドウ蛋白質の変性・分子量分布調整処理品(不二製油株式会社テスト製造品、原料分離エンドウ蛋白質:Empro E 86HV(Emsland社市販品)、分子量分布:2,000以上20,000未満 68%/20,000Da以上 12%、NSI 100.1)
○植物性蛋白質素材B:分離大豆蛋白質(フジプロF、不二製油株式会社市販品)
○植物性蛋白質素材C:酵素処理分離大豆蛋白質(フジプロ-CLE、不二製油株式会社市販品))
○植物性蛋白質素材D:分離エンドウ蛋白質(Empro E 86HV、Emsland社市販品)
【0037】
(実施例1~4、比較例1~3)
表1の配合に従い、水相部として、植物性蛋白質素材A-1の20%水溶液、油相部として、ハイオレイックひまわり油(ハイオール75B、不二製油株式会社製)を用い、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ)に水相部を添加し、10秒間撹拌した後、撹拌しながら油相部を徐々に添加し、2分間撹拌して、油脂含量が85%の水中油型乳化物1を調製した。
次に、ゲル化剤として、カードラン(カードラン製剤 CD-ES、三菱商事ライフサイエンス株式会社製)、メチルセルロース(メトローズMCE-4000、信越化学工業株式会社製)、ジェランガム(ケルコゲルHM、DSP五協フード&ケミカル株式会社製、ネイティブ型ジェランガム)、コンニャク粉(イナゲル(ウルトラマンナンG5)伊那食品工業株式会社製)を用意し、これらを水で溶解し、15%カードラン水溶液、2%メチルセルロース水溶液、2%ジェランガム水溶液、4%コンニャク粉水溶液を得た。
表2の配合に従い、各ゲル化剤の水溶液を水中油型乳化物に添加し、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)で混合し、生地を調製し、卵代替物を得た。
【0038】
(炒り卵様食品の調製)
各卵代替物100gをフライパンに入れ、IHヒーター(KZPH38、パナソニック株式会社製)を用いて中火5番で卵代替物をかき混ぜながら、重量が80gになるまで加熱し、炒り卵様食品を得た。
得られた炒り卵様食品について、加熱後の風味および食感を評価項目として、パネラー8名にて評点法により官能評価を行った。以下の5段階で評価点をつけ、全員の平均値を算出した。

○風味
5点:異味異臭を全く感じず、非常に良好である。
4点:異味異臭をほとんど感じず、良好である。
3点:異味異臭を若干感じるが許容範囲でやや良好である。
2点:異味異臭を強く感じ、不良である。
1点:異味異臭を非常に強く感じ、非常に不良である。

○外観・食感
5点:そぼろ状で、弾力があり、炒り卵の食感として非常に良好である。
4点:そぼろ状で、やや弾力があり、炒り卵の食感として良好である。
3点:ややそぼろ状で、やや弾力があり、炒り卵の食感としてやや良好である。
2点:ややそぼろ状になりにくく、弾力感がやや劣り、炒り卵の食感としてやや不良である。
1点:そぼろ状になりにくく、弾力が劣り、炒り卵の食感として不良である。

そしてその平均値について、以下のA~Eの5段階で評価付けを行った。風味、食感とも評価がA~Cの場合、合格と判断した。

A:4.5点以上
B:3.5点以上4.5点未満
C:3.0点以上3.5点未満
D:2.0点以上3.0点未満
E:2.0点未満
【0039】
(表1)水中油型乳化物1の配合%
【0040】
(表2)卵代替物の配合
【0041】
(表3)評価結果
【0042】
評価結果を表3に示した。ゲル化剤を1種類のみ使用した比較例1~3の卵代替物から調製した炒り卵様食品の風味や食感は悪かった。一方、カードランとメチルセルロース、カードランとコンニャク粉、カードランとジェランガム、カードランとメチルセルロース、ジェランガムを併用した実施例1~4の卵代替物から調製した炒り卵様食品の風味や食感は良好だった。この中でも、カードランとメチルセルロース、ジェランガムを併用した実施例4が最も良好な結果となった。
【0043】
(実施例5~10)蛋白種の検討
表4の配合に従い、水相部として、各蛋白質素材の10%水溶液、油相部として、ハイオレイックひまわり油(ハイオール75B、不二製油株式会社製)を用い、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)に水相部を添加し、10秒間撹拌した後、撹拌しながら油相部を徐々に添加し、2分間撹拌して、油脂含量が80%の水中油型乳化物2~7を調製した。
次に、ゲル化剤として、カードラン(カードラン製剤 CD-ES、三菱商事ライフサイエンス株式会社製)、メチルセルロース(メトローズMCE-4000、信越化学工業株式会社製)、ジェランガム(ケルコゲルHM、DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を用意し、これらを水で溶解し、15%カードラン水溶液、2%メチルセルロース水溶液、2%ジェランガム水溶液を得た。
表5の配合に従い、各ゲル化剤の水溶液、その他の原料を水中油型乳化物に添加し、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)で混合し、生地を調製し、卵代替物を得た。
なお、食物繊維としてオート麦ファイバー(ビタセルHF200、レッテンマイヤージャパン株式会社製)を用いた。また、デキストリン(TK-16、松谷化学工業株式会社製)を用いた。
実施例1と同様にして評価を行い、結果を表6に示した。
【0044】
(表4)水中油型乳化物2~7の配合%
【0045】
(表5)卵代替物の配合
【0046】
(表6)評価結果
【0047】
実施例5~10の卵代替物から調製した炒り卵様食品の風味や食感は良好であった。
【0048】
(実施例11~16)水中油型乳化物中の油脂含量の検討
表7の配合に従い、水相部として、蛋白質素材A-1の20%水溶液、油相部として、ハイオレイックひまわり油(ハイオール75B、不二製油株式会社製)を用い、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)に水相部を添加し、10秒間撹拌した後、撹拌しながら油相部を徐々に添加し、2分間撹拌して、油脂含量が50~85%の水中油型乳化物(水中油型乳化物1及び水中油型乳化物8~12)を調製した。
次に、実施例5と同様に各ゲル化剤の水溶液を調製した。
表8の配合に従い、各ゲル化剤の水溶液、その他原料を各水中油型乳化物(水中油型乳化物1及び水中油型乳化物8~12)に添加し、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)で混合し、生地を調製し、卵代替物を得た。ゲル化剤として、カードラン(カードラン製剤 CD-ES、三菱商事ライフサイエンス株式会社製)、メチルセルロース(メトローズMCE-4000、信越化学工業株式会社製)、ジェランガム(ケルコゲルHM、DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を用いた。また、オート麦ファイバー(ビタセルHF200、レッテンマイヤージャパン株式会社製)、デキストリン(TK-16、松谷化学工業株式会社製)を用いた。
実施例1と同様にして評価を行い、評価結果を表9に示した。
【0049】
(表7)水中油型乳化物8~12の配合%
【0050】
(表8)卵代替物の配合
【0051】
(表9)評価結果
【0052】
水中油型乳化物中の油脂含量が50~85%のものを用いた実施例11~16の卵代替物から調製した炒り卵様食品の風味や食感は良好だった。特に実施例11~12で水中油型乳化物中の油脂含量が80%以上のものを用いて卵代替物を調製した場合、食感が非常に良好となった。
【0053】
(実施例17~24)水中油型乳化物の調製の際の蛋白質濃度の検討
表10の配合に従い、水相部として、蛋白質素材A-1の5~20%水溶液を、油相部として、ハイオレイックひまわり油(ハイオール75B、不二製油株式会社製)を用い、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)に水相部を添加し、10秒間撹拌した後、撹拌しながら油相部を徐々に添加し、2分間撹拌して、油脂含量が80~85%の水中油型乳化物13~17を調製した。なお、蛋白質素材A-1の20%水溶液を15%配合または20%配合して水中油型乳化物を調製したものとして、水中油型乳化物1(20%水溶液を15%配合)、水中油型乳化物8(20%水溶液を20%配合)を用い、蛋白質素材A-1の10%水溶液を20%配合して水中油型乳化物を調製したものとして、水中油型乳化物2を用いた。
次に、実施例5と同様に各ゲル化剤の水溶液を調製した。
表11の配合に従い、各ゲル化剤の水溶液、その他原料を各水中油型乳化物(水中油型乳化物1、2、8及び水中油型乳化物13~17)に添加し、カッター刃ミキサー(ロボ・クープR-3D、株式会社エフ・エム・アイ製)で混合し、生地を調製し、卵代替物を得た。ゲル化剤として、カードラン(カードラン製剤 CD-ES、三菱商事ライフサイエンス株式会社製)、メチルセルロース(メトローズMCE-4000、信越化学工業株式会社製)、ジェランガム(ケルコゲルHM、DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を用いた。また、食物繊維として、オート麦ファイバー(ビタセルHF200、レッテンマイヤージャパン株式会社製)を用いた。また、デキストリン(TK-16、松谷化学工業株式会社製)を用いた。
実施例1と同様にして評価を行い、評価結果を表12に示した。
【0054】
(表10)水中油型乳化物13~17の配合%
【0055】
(表11)卵代替物の配合
【0056】
(表12)評価結果
【0057】
実施例17~24の卵代替物から調製した炒り卵様食品の風味や食感は良好だった。特に蛋白質濃度10~20%水溶液を用い、油脂含量85%の水中油型乳化物を使用して調製した実施例17~19、蛋白質濃度20%水溶液を用い、油脂含量80%の水中油型乳化物を使用して調製した実施例21は非常に良好な結果となった。
【0058】
(実施例25)卵焼き様食品の調製
実施例17の卵代替物100gに対し、水25gを添加して良く混合し卵焼き様食品用の生地を得た。
【0059】
食用油脂0.1~2gを卵焼き用フライパンに薄く全体に塗布した後に、上記卵焼き様食品用の生地40gをフライパンに入れて、ゴムベラにてフライパンの全体に広げ、IHヒーター(KZPH38、パナソニック株式会社製)を用いて中火4番で加熱し、半固形状から固形状のシート状になれば、シートを巻き、この操作を繰り返すことにより、卵焼き様食品を得た。この卵焼き様食品は、食感、風味が良好であった。
【0060】
(実施例26)薄焼き卵様食品の調製
実施例17の卵代替物100gに対し、水38gを添加して良く混合し薄焼き卵様食品用の生地を得た。
食用油脂0.1~2gをフライパンに薄く全体に塗布した後、上記薄焼き卵様食品用の生地50gをフライパンに入れて、ゴムベラでフライパンの全体に広げ、IHヒーター(KZPH38、パナソニック株式会社製)を用いて中火4番で加熱し、半固形状から固形状のシート状になれば、シートを引っ繰り返し、十分に焼き目を付け、薄焼き卵様食品を得た。この薄焼き卵様食品は、食感、風味が良好であった。
【0061】
(実施例27)卵焼成品様食品の乾燥物の調製
表13の配合に基づき、実施例17と同様にして生地を調製し卵代替物を得た。この卵代替物100gをフライパンに入れ、IHヒーター(KZPH38、パナソニック株式会社製)を用いて中火5番で卵代替物をかき混ぜながら、重量が80gになるまで加熱し、炒り卵様食品を得た。この炒り卵様食品を冷凍庫にて‐25℃、72時間冷凍し、その後、凍結乾燥器(FD10BM、日本テクノサービス株式会社製)にて72時間凍結乾燥することにより、炒り卵様食品の乾燥物を得た。
この炒り卵様食品の乾燥物を90℃のお湯で3分間湯戻ししたものは、スープに具材として入れた卵のような外観、食感であり、湯戻し性も良好であることが確認された。
【0062】
(表13)卵焼成品様食品(乾燥用)の配合%