(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/022 20060101AFI20240625BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240625BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240625BHJP
H01G 9/035 20060101ALI20240625BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240625BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H01G9/022
H01G9/00 290C
H01G9/028 E
H01G9/035
H01G9/145
H01G9/15
(21)【出願番号】P 2024521083
(86)(22)【出願日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2023046798
【審査請求日】2024-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2022208511
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】右田 恵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】中村 一平
(72)【発明者】
【氏名】中村 みづき
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-9901(JP,A)
【文献】特開2018-110232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/022
H01G 9/00
H01G 9/035
H01G 9/028
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属を含み、表面に誘電体皮膜が形成された陽極体と、
前記陽極体と対向する陰極体と、
前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、電解液と導電性高分子とを含む電解質層と、
を備え、
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含み、
前記導電性高分子は、粒度分布におけるD50が50nm以下であること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記電解質層は、多価アルコールを含むこと、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記電解質層は、前記導電性高分子と多価アルコールとを含む導電性高分子液を用いて形成されたこと、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記多価アルコールは、前記導電性高分子液の全量に対して8wt%以上50wt%以下の割合で含まれること、
を特徴とする請求項3記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記多価アルコールは、前記導電性高分子液の全量に対して8wt%以上30wt%以下の割合で含まれること、
を特徴とする請求項3記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記多価アルコールは、ポリエチレングリコール、キシリトール及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の混合であること、
を特徴とする請求項2乃至5の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記脂肪族ジカルボン酸は、アゼライン酸、スベリン酸及びセバシン酸の群から選ばれる1種又は2種以上の混合であること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を更に含むこと、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
表面に誘電体皮膜が形成された陽極体、又は当該陽極体と陰極体と対向させたコンデンサ素子に導電性高分子液を付着及び乾燥させる導電性高分子付着工程と、
導電性高分子付着工程の後、前記コンデンサ素子に電解液を含浸させる電解液含浸工程と、
を含み、
前記導電性高分子液は、粒度分布におけるD50が50nm以下である導電性高分子を含み、
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質層に電解液と導電性高分子を含む固体電解コンデンサ及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体皮膜層を有する。この電解コンデンサは、陽極箔の拡面化により比表面積を大きくすることができ、そのため大きな静電容量を有し、高容量化の要求を満たしている。
【0003】
電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔の間に電解液を介在させている。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。電解液は、陽極箔の誘電体皮膜との接触面積が増える。そのため、電解コンデンサの静電容量は更に大きくでき、近年の大電力化に伴う高容量の要求に適しているものである。電解液には、時間経過とともに電解コンデンサの外部へ抜けてしまう蒸発揮散が起こる。そのため、電解コンデンサはドライアップに向けて経時的に静電容量が低下し、また経時的に損失角の正接(tanδ)が上昇し、ついには寿命を迎える。
【0004】
そこで、電解コンデンサのなかでも、固体電解質を用いた固体電解コンデンサが注目されている。固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、反応速度が緩やかで、また誘電体皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子を用いた固体電解コンデンサが急速に普及している。導電性高分子は、ポリアニオン等の酸化合物がドーパントとして用いられ、またモノマー分子内にドーパントとして作用する部分構造を有し、高い導電性が発現する。そのため、固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が低くなる利点を有する。
【0005】
但し、固体電解質を備えた電解コンデンサは、電解液を備えた電解コンデンサと比べて、誘電体皮膜の欠陥部の修復作用に乏しい。そこで、陽極箔と陰極箔との間に導電性高分子を介在させると共に、電解液を含浸させた所謂ハイブリッドタイプの電解コンデンサも注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば寒冷地における車載用途及び発送電分野において、電解コンデンサは、-55℃等の低温から155℃等の高温へ向けて急激に加熱されたり、反対に155℃の高温から-55℃の低温に向けて急激に冷却されたりすることがある。この急激な温度変化を熱衝撃と呼ぶ。
【0008】
熱衝撃を繰り返し受けた電解コンデンサは、熱衝撃による劣化によってESRが劣化し易い。ESRが大きくなれば、電解コンデンサが発熱し易く寿命を短くし、また大きなリップル電圧が発生する等のように様々な影響が生じる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、熱衝撃によるESR変化を抑制した固体電解コンデンサ及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、弁作用金属を含み、表面に誘電体皮膜が形成された陽極体と、前記陽極体と対向する陰極体と、前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、電解液と導電性高分子とを含む電解質層と、を備え、前記電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含み、前記導電性高分子は、粒度分布におけるD50が50nm以下である。
【0011】
酸解離定数pKaが大きいと、固体電解コンデンサの耐電圧をより高くすることができ、車載用途及び発送電用途により好適となる。しかし、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が電解液に含まれると、熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が特に大きくなる。一方、pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が電解液に含まれる場合、粒度分布におけるD50が50nm以下の導電性高分子を電解質層に含有させると、このESR変化が抑制される。
【0012】
前記電解質層は、多価アルコールを含むようにしてもよい。即ち、この固体電解コンデンサは、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有し、粒度分布におけるD50が50nm以下の導電性高分子を電解質層に含有し、且つ電解質層に多価アルコールを含有する。この固体電解コンデンサのESR変化は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有したコンデンサと同等にまで抑制される。
【0013】
前記電解質層は、前記導電性高分子と多価アルコールとを含む導電性高分子液を用いて形成されているようにしてもよい。
【0014】
前記多価アルコールは、前記導電性高分子液の全量に対して8wt%以上50wt%以下の割合で含まれるようにしてもよい。これにより、この固体電解コンデンサのESR変化は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有したコンデンサと同等にまで抑制される。更に、前記多価アルコールは、前記導電性高分子液の全量に対して8wt%以上30wt%以下の割合で含まれるようにしてもよい。この範囲に限定すると、この固体電解コンデンサのESR変化は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有したコンデンサよりも良好に抑制される。
【0015】
前記多価アルコールは、ポリエチレングリコール、キシリトール及びソルビトールから選ばれる1種又は2種以上の混合であるようにしてもよい。これらの多価アルコールが電解質層に含有していると、固体電解コンデンサのESR変化は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有したコンデンサよりも抑制される。
【0016】
前記脂肪族ジカルボン酸は、アゼライン酸、スベリン酸及びセバシン酸の群から選ばれる1種又は2種以上の混合であるようにしてもよい。
【0017】
前記電解液は、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を更に含むようにしてもよい。酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸と酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸とを混合した上で、粒度分布におけるD50が50nm以下の導電性高分子を電解質層に含有させると、熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が更に抑制される。
【0018】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、表面に誘電体皮膜が形成された陽極体、又は当該陽極体と陰極体と対向させたコンデンサ素子に導電性高分子液を付着及び乾燥させる導電性高分子付着工程と、導電性高分子付着工程の後、前記コンデンサ素子に電解液を含浸させる電解液含浸工程と、を含み、前記導電性高分子液は、粒度分布におけるD50が50nm以下である導電性高分子を含み、前記電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱衝撃を繰り返し受けても、固体電解コンデンサのESR変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】粒度分布におけるD50が450nmの導電性高分子を含む固体電解コンデンサのESR変化を示すグラフである。
【
図2】比較例1、実施例1及び実施例2のESR変化との関係を示すグラフである。
【
図3】比較例3、実施例3乃至実施例5のESR変化との関係を示すグラフである。
【
図4】多価アルコールの種類とESR変化との関係を示すグラフである。
【
図5】多価アルコールの添加量とESR変化との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例2、参考例2及び実施例15乃至17のESR変化との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例2、参考例3及び実施例18乃至20のESR変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態に係る固体電解コンデンサについて説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0022】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。固体電解コンデンサは、コンデンサ素子を備えている。コンデンサ素子は、陽極体、陰極体、電解質層及びセパレータを備える。陽極箔の表面には誘電体皮膜が形成されている。陽極体と陰極体は、誘電体皮膜を挟んで対向している。電解質層は、陽極体の誘電体皮膜と陰極体の間に介在する。電解質層は、陽極体の誘電体皮膜と密着し、真の陰極として機能している。また、電解質層は、誘電体皮膜と陰極体の間に延在して導電パスになっている。
【0023】
この固体電解コンデンサは、電解液と導電性高分子を備えた所謂ハイブリッド型である。電解質層には、少なくとも電解液と導電性高分子を含有している。セパレータは、ショート防止のために陽極体と陰極体を隔て、また電解質層を保持する。導電性高分子によって、電解質層の形状が自力で保持され、また陽極体と陰極体とを隔離できる場合、セパレータは固体電解コンデンサから排除できる。
【0024】
陽極体と陰極体は、電解質層を挟んで交互に積層される。この積層型では、外装を省略した平板型とするほか、例えば、コンデンサ素子をラミネートフィルムによって被覆し、又は耐熱性樹脂や絶縁樹脂などの樹脂をモールド、ディップコート若しくは印刷することで封止する。または、陽極体と陰極体は、電解質層を挟んで交互に積層されて巻回される。この巻回型では、例えば、コンデンサ素子は有底筒状のケースに収容される。ケースの開口は、加締め加工により封口体で封止する。
【0025】
コンデンサ素子を封止した後は、エージング工程に移って、高温下で固体電解コンデンサに直流電圧を印加し、固体電解コンデンサの巻回等の作製で損傷した酸化皮膜の修復を行う。これにより、固体電解コンデンサの完成品が形成される。
【0026】
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属を材料とした箔体である。巻回型では、陽極体は、弁作用金属を延伸した長尺の帯形状であり、積層型では、陽極体は、平板又は粉末を平板形に成型及び焼結した焼結体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極体に関して99.9%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0027】
陽極体の片面又は両面には、拡面層が形成されている。拡面層は、投影面積よりも表面積を増大させる処理がなされた表面層であり、箔体にエッチング処理を施したエッチング層、弁作用金属の粉体を箔体に付着及び焼結させた焼結層、又は箔体に弁作用金属粒子を蒸着した蒸着層である。即ち、拡面層は、多孔質構造を有し、トンネル状のピット、海綿状のピット、又は密集した粉体若しくは粒子間の空隙により成る。
【0028】
トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔であり、箔体を貫通していてもよい。このトンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。海綿状のエッチングピットによって、拡面層は、空間状に細かい空隙が連なり拡がったスポンジ状の層になる。この海綿状のエッチングピットは、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で交流電流を流すことで形成される。
【0029】
焼結層は、箔体と同種又は異種の弁作用金属の粉末を箔体に付着させて焼結させることで作製される。粉末は、粉砕法、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法等によって得られる。粉末は、バインダーや溶剤によってペースト化し、箔体に塗布及び乾燥させる。そして、真空又は還元雰囲気等で加熱することで焼結させる。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。蒸着層は、例えば抵抗加熱式蒸着法又は電子線加熱式蒸着法により作製される。この蒸着層は、箔体と同種又は異種の弁作用金属を抵抗熱や電子線エネルギーによって加熱して蒸発させ、弁作用金属粒子の蒸気を箔体の表面に堆積させることで成膜する。
【0030】
誘電体皮膜は、拡面層の凹凸に沿って陽極体の表層に形成されている。誘電体皮膜は、典型的には、陽極体の表層を陽極酸化させた酸化皮膜である。陽極体がアルミニウム箔であれば、誘電体皮膜は、拡面層の凹凸に沿って陽極体の表層を酸化させた酸化アルミニウム層である。誘電体皮膜は化成処理によって形成される。化成処理では、化成液中で陽極体に対して、所望の耐電圧を目指して電圧印加する。化成液は、ハロゲンイオン不在の溶液であり、例えば、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液である。
【0031】
(陰極体)
陰極体は、弁作用金属を延伸した箔体である。陰極箔の純度は、99%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。箔体は、表面が平坦なプレーン箔であり、又は拡面化により表面に拡面層が形成されている。拡面層には、意図的又は自然に酸化皮膜が形成されていてもよい。意図的には、化成処理により、1~10Vfs程度の薄い酸化皮膜を形成してもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される。
【0032】
固体電解コンデンサが積層型である場合、陰極体は、金属層とカーボン層の積層体が好ましい。陰極体のカーボン層は陽極体に向けて配置される。カーボン層は、ペースト状にして、陽極体上に電解質層を形成された後に電解質層上に塗工し、加熱より硬化させることで形成される。金属層は例えば銀層であり、金属層は、ペースト状にして、カーボン層の上から塗工し、加熱により硬化させることで形成される。
【0033】
また、陰極体は、更に導電層を積層して備えていてもよい。導電層は、導電性材料を含有し、酸化皮膜よりも高導電性の層である。この導電層は、陰極箔の片面又は両面に積層され、陰極体の最表層に位置する。導電性材料としては、例えばチタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、これらの窒化物若しくは炭化物、炭化アルミニウム、炭素材、及びこれらの複合材又は混合材が挙げられる。この導電層は複数層が積層されてもよく、各層は異種の層であってもよい。導電層と陰極体とは圧接構造を有していてよい。導電層の積層後にプレス処理を加える。圧接構造は、拡面層の細孔に導電層が押し込まれ、また拡面層の凹凸面に沿って導電層が変形している。圧接構造は、導電層と陰極体との密着性及び定着性を向上させ、固体電解コンデンサのESRを低減させる。
【0034】
(電解質層)
電解質層の電解液は、アニオン成分として、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含有している。酸解離定数pKaが大きいと、固体電解コンデンサの耐電圧をより高くすることができ、車載用途及び発送電用途により好適となる。脂肪族ジカルボン酸は、鎖状炭化水素の2個の水素をヒドロキシ基で置換している。酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸は、例えばアゼライン酸とスベリン酸とセバシン酸が挙げられる。アゼライン酸、スベリン酸及びセバシン酸の群から選ばれる1種又は2種以上の混合を、電解質層の電解液に含有させてもよい。尚、酸解離定数pKaは水中において25℃で測定された値である。
【0035】
但し、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含むとき、電解質層の導電性高分子として、粒度分布におけるD50が50nm以下の粒子を電解質層に含有させる。粒度分布におけるD50は、動的光散乱法による粒度分布測定装置により求められる体積粒度分布におけるメディアン径であり、以下、粒度分布におけるD50をメディアン径と呼ぶ。導電性高分子の粒度分布は、導電性高分子が分散された状態で測定する。
【0036】
ここで、電解質層に含まれる脂肪族ジカルボン酸の酸解離定数がpKa=4.51以下である場合、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けてもESR変化は小さい。一方、脂肪族ジカルボン酸の酸解離定数がpKa=4.52以上であると、ESRは大きく悪化する。しかしながら、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が電解質層に含有する場合に限り、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸とメディアン径が50nm以下の導電性高分子を電解質層内に共存させる。そうすると、急激な温度変化で起こる熱衝撃による導電性高分子の劣化を抑制し、ESR変化が抑制される。
【0037】
推測であり、このメカニズムに限定されるものではないが、ESR変化が抑制されるのは、次の理由によると推測される。まず、pKaが大きい脂肪族ジカルボン酸は直鎖状のアルキル基が長いために低温で析出しやすい。析出した脂肪族ジカルボン酸が導電性高分子と陽極体の間及び導電性高分子と陰極体の間に入り込んでしまうと、導電性高分子と陽極体との間の界面抵抗、及び導電性高分子と陰極体との間の界面抵抗を増大させてしまう。そのため、pKaが大きい脂肪族ジカルボン酸を用いた際、熱衝撃によるESR劣化が大きくなると考えられる。
【0038】
一方、粒度分布におけるD50が50nm以下の導電性高分子は、陽極体及び陰極体に密に付着する。そのため、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が低温で析出しても、導電性高分子と陽極体との間、及び導電性高分子と陰極体との間には、そもそも析出した脂肪族ジカルボン酸が入り込む余地が少ない。従って、脂肪族ジカルボン酸が析出しても、導電性高分子と陽極体との間の界面抵抗、及び導電性高分子と陰極体との間の界面抵抗を増大には繋がり難い。
【0039】
しかも、陽極体及び陰極体には導電性高分子が密に付着しているため、陽極体と電解質層との間の導電パス、及び陰極体と電解質層との導電パスは多数形成済みとなっている。そのため、たとえ脂肪族ジカルボン酸が析出し、更に導電性高分子と陽極体との間、及び導電性高分子と陰極体との間に入り込むことができた脂肪族ジカルボン酸が存在したとしても、多数の導電パスの存在を加味すれば、この脂肪族ジカルボン酸が引き起こす界面抵抗の増大の影響は軽微に収まる。
【0040】
従って、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が電解質層に含有する場合に限り、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸とメディアン径が50nm以下の導電性高分子を電解質層内に共存させると、固体電解コンデンサのESR変化が抑制されると推測される。
【0041】
また、メディアン径が50nm以下の導電性高分子に加え、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸と酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を混合すると、脂肪族ジカルボン酸として酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解質層に含む固体電解コンデンサと比べても、急激な温度変化で起こる熱衝撃の繰り返しによる導電性高分子の劣化が抑制され、ESRの変化が抑制される。
【0042】
そこで、電解液には、更なるアニオン成分として、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を含有させることが好ましい。酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸は、例えばコハク酸、グルタル酸及びピメリン酸が挙げられる。コハク酸、グルタル酸及びピメリン酸の群から選ばれる1種又は2種以上の混合を、電解質層の電解液に含有させてもよい。
【0043】
電解質層には、更に、多価アルコールを含有させてもよい。多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、キシリトール、ソルビトール、1-ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0044】
電解質層中に、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸、メディアン径が50nm以下の導電性高分子、及び多価アルコールが共存すると、熱衝撃を繰り返し受けた後のESR変化が、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を有する固体電解コンデンサと同程度に抑えられる。
【0045】
多価アルコールの中でも、好ましくは、平均分子量が300のポリエチレングリコール、キシリトール、ソルビトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが好ましい。これら多価アルコールが電解質層中に含有されている場合、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸、及びメディアン径が50nm以下の導電性高分子が電解質層中に含まれている場合に限って、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を有する固体電解コンデンサよりも、ESR変化が低く抑えられ、熱衝撃を受ける前に近いESRを維持できる。
【0046】
(電解液)
電解液には、公知の他の成分を特に限定することなく含有させることができる。酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸に加えて、他種のアニオン成分を電解液に含有させるようにしてもよい。他種のアニオン成分となる有機酸としては、他のカルボン酸、フェノール類及びスルホン酸が挙げられる。他種のアニオン成分となる無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。他種のアニオン成分となる有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジアゼライン酸、ボロジ安息香酸、ボロジマレイン酸、ボロジ乳酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジ(2-ヒドロキシ)イソ酪酸、ボロジレゾルシン酸、ボロジメチルサリチル酸、ボロジナフトエ酸、ボロジマンデル酸及びボロジ(3-ヒドロキシ)プロピオン酸等が挙げられる。
【0047】
電解液には、アニオン成分に加えて公知のカチオン成分を含有させることができる。電解液の溶媒は、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒が挙げられ、単独又は2種類以上が組み合わせられる。
【0048】
カチオン成分としては、アンモニウム、四級アンモニウム、四級化アミジニウム、アミン、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。四級アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0049】
溶媒であるプロトン性の有機溶媒としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類などが挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール、ポリグリセリン、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリン、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0050】
溶媒である非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0051】
電解液は、コンデンサ素子を電解液に浸漬し、コンデンサ素子内の空隙に含浸させる。電解液をより細かな空隙内に含浸させるべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を行ってもよい。含浸工程は複数回繰り返してもよい。例えば、コンデンサ素子の内部を減圧し、電解液を加圧しながらコンデンサ素子の内部に電解液を注入してもよい。
【0052】
(導電性高分子)
電解質層に含有させる導電性高分子は、分子内のドーパント分子によりドープされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドープされた共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。共役系高分子にドープ反応を行うことで導電性高分子は高い導電性を発現する。即ち、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、若しくは電子を与えやすいドナーといったドーパントを少量添加することで導電性を発現する。
【0053】
共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0054】
上記の共役系高分子のなかでも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0055】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンにアルキル基が付加された、アルキル化エチレンジオキシチオフェンでもよく、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)などが挙げられる。
【0056】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートホウ酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0057】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0058】
ここで、導電性高分子は、例えば、導電性高分子液をコンデンサ素子に含浸させることで電解質層に充填される。導電性高分子液を陽極体の誘電体皮膜に塗布又は吐出してもよい。導電性高分子液は、導電性高分子の粒子又は粉末が分散した液体である。導電性高分子液のコンデンサ素子への含浸の促進を図るべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を施してもよい。含浸工程は複数回繰り返しても良い。導電性高分子液をコンデンサ素子に含浸させた後は、乾燥工程により分散媒を除去する。
【0059】
メディアン径が50nm以下の導電性高分子は、酸化重合することによって得られる。化学酸化重合の際、導電性高分子のメディアン径を小さく調製する方法の一例として以下が挙げられる。導電性高分子のうち、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたPEDOT(PEDOT/PSS)は一般的に乳化重合にて作製される。乳化重合において、ホモジナイザーを用いてEDOTのミセルをより小さくすることで、小さい粒子径のPEDOT/PSSが得られる。また、重合したPEDOT/PSSを高圧の超音波ホモジナイザーによって粉砕処理することで、PEDOT/PSSの粒子径を小さくする。ホモジナイザーは、高圧式、超音波式、又はこれらの両方を兼ね備えた方式の何れが用いてもよい。
【0060】
例えば、化学酸化重合では、導電性高分子の単量体ユニットとなるモノマーを含む溶液と酸化剤を混合して重合反応させる。溶媒としては例えば水が用いられる。酸化剤としては、ドーパントを放出する化合物であれば公知の何れでもよく、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等のペルオキソ二硫酸塩、などを使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用してもよい。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~200℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0061】
重合反応を完了させた後は、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換などの精製手段により残留モノマーや不純物を除去する。導電性高分子液の溶媒は、導電性高分子が分散すればよく、水又は水と有機溶媒の混合物が好ましい。有機溶媒としては、極性溶媒、アルコール類、エステル類、炭化水素類、カーボネート化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
【0062】
極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。エーテル化合物としては、ジオキサン、ジエチルエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。複素環化合物としては、3-メチル-2-オキサゾリジノン等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0063】
電解質層に充填する多価アルコールは、この導電性高分子液に添加し、導電性高分子と同時に電解質層に充填するようにしてもよい。多価アルコールは、沸点が高いため、導電性高分子液を含浸させて乾燥させた後でも電解質層に残留する。好ましくは、多価アルコールは、導電性高分子液の全量に対して8wt%以上50wt%以下の割合で含有させる。この範囲で多価アルコールを含有させると、電解質層に含まれる多価アルコールは、導電性高分子の劣化をより効果的に抑制し、ESRの変化が更に抑制される。
【0064】
特に好ましくは、多価アルコールは、導電性高分子液の全量に対して8wt%以上30wt%以下の割合で含有させる。この範囲であると、熱衝撃の繰り返しに伴うESR変化を、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を電解液に含有させるよりも小さくできる。多価アルコールの含有割合が導電性高分子液の全量に対して30wt%超に増大すると、多価アルコールを含有することによるESR変化の抑制効果は、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を電解液に含有させる場合と同等のレベルに減少していく。
【0065】
導電性高分子液は、アンモニア水によってpHが調整されてもよい。また、有機バインダー、界面活性剤、分散剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が添加されていてもよい。
【0066】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロース及びこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例の固体電解コンデンサをさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものでない。
【0068】
(実施例1及び2)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の固体電解コンデンサを作製した。まず、アルミニウム箔を用いて陽極体及び陰極体を作製した。陽極体は、エッチング処理により拡面化した。
【0069】
次いで、陽極体をアジピン酸水溶液に浸漬して化成電圧を印加することで、誘電体皮膜を形成した。陰極体は、エッチング処理により拡面化した。陽極体と陰極体にリード線を接続し、セルロース系のセパレータを介して陽極体と陰極体を対向させて巻回した。巻回体に対しては、リン酸二水素アンモニウム水溶液に30分間浸漬されることで、修復化成が行われた。その後、100℃で乾燥させた。
【0070】
この巻回体を導電性高分子液に浸漬し、陽極体の誘電体皮膜、陰極体及びセパレータに導電性高分子を付着させた。導電性高分子液には、ポリスチレンスルホン酸でドーピングされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)の粒子を導電性高分子として水に分散させ、エチレングリコールを添加した。巻回体を1回目に導電性高分子液に浸漬した後、巻回体を145℃で30分間乾燥させた。更に、巻回体を導電性高分子液に浸漬し、2回目に浸漬した後、巻回体を150℃で30分間乾燥させた。
【0071】
ここで、比較例1では、メディアン径が450nmの導電性高分子を分散媒に分散させた導電性高分子液を用いた。比較例2では、メディアン径が168nmの導電性高分子を分散媒に分散させた導電性高分子液を用いた。実施例1では、メディアン径が47nmの導電性高分子を分散媒に分散させた導電性高分子液を用いた。実施例2では、メディアン径が10nmの導電性高分子を分散媒に分散させた導電性高分子液を用いた。分散媒は水であり、導電性高分子の濃度が2wt%の導電性高分子液をアンモニア水でpH4に調整し、超音波ホモジナイザーにより分散処理を行い、導電性高分子液を調製した。
【0072】
導電性高分子の粒径は粒子径分布測定装置を用いて測定した。まず、pHを調整した導電性高分子液を水で100倍に希釈して超音波処理を行った。この希釈水溶液を用いて粒子径分布測定装置(日機装 UPA-UT151)で粒径を測定した。
【0073】
更に、導電性高分子の電解質層を形成した巻回体に電解液を含浸させた。電解液の溶媒はエチレングリコールである。電解液には、電解液100gあたり16mmolとなるようにアゼライン酸およびアンモニアを混合した。電解液のアニオン成分はアゼライン酸である。
【0074】
導電性高分子と電解液で電解質層を形成した後、コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収容した。外装ケースの開口端部には封口ゴムが装着され、加締め加工によって封止された。各固体電解コンデンサは、電圧印加によってエージング処理した。各固体電解コンデンサは、直径6.3mmで高さ5.8mmであり、定格耐電圧は35WV、静電容量は47μFであった。
【0075】
また、比較例3並びに参考例1乃至3の固体電解コンデンサも作製した。比較例3の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてスベリン酸を用いた。その他、比較例3の固体電解コンデンサは、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。即ち、比較例3の固体電解コンデンサは、メディアン径が450nmの導電性高分子が用いられている。
【0076】
参考例1の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてピメリン酸を用いた点を除き、導電性高分子のメディアン径が450nmであることを含め、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。参考例2の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてグルタル酸を用いた点を除き、導電性高分子のメディアン径が450nmであることを含め、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。参考例3の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてコハク酸を用いた点を除き、導電性高分子のメディアン径が450nmであることを含め、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。
【0077】
尚、アゼライン酸の酸解離定数はpKa=4.55であり、スベリン酸の酸解離定数はpKa=4.526であり、ピメリン酸の酸解離定数はpKa=4.51であり、グルタル酸の酸解離定数はpKa=4.31であり、コハク酸の酸解離定数はpKa=4.20である。
【0078】
(熱衝撃試験1)
実施例1及び2、比較例1乃至3並びに参考例1乃至3の固体電解コンデンサに対して繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験は次の通りである。まず、固体電解コンデンサに実装時のリフロー熱を加えた。リフロー熱に晒した後、固体電解コンデンサのESRを測定した。ESRは、LCRメーター(Agilent Technologies社製、E4980A)を用い、交流電流レベルを1.0Vrms、測定周波数を100kHz、及びDCバイアスに設定して測定した。リフロー熱に晒した後のESRを初期ESRという。
【0079】
初期ESR測定後、固体電解コンデンサの温度環境下を高温と低温との間で繰り返し変化させた。高温環境下は155℃であり、低温環境下は-55℃である。固体電解コンデンサを高温環境下に30分晒し、次いで低温環境下に30分間晒すサイクルを、150時間繰り返した。150時間の熱衝撃試験の後、再びESRを測定し、初期ESRに対する熱衝撃試験後のESRの百分率をESR変化(ΔESR)として計算した。
【0080】
比較例1及び3並びに参考例1乃至3の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表1に示す。また、
図1は、下表1に基づいて作成されたものであり、横軸を酸解離定数pKaとし、縦軸をESR変化とするグラフである。図中、AzAはアゼライン酸を示す。
(表1)
【0081】
表1及び
図1に示すように、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を電解液に含む参考例1乃至3は、熱衝撃試験後のESR変化が良好である。これに対し、酸解離定数pKa=4.52以上のアニオン成分を電解液に含む比較例1及び3は、熱衝撃試験後のESR変化が、参考例1乃至3に対して少なくとも1.7倍以上となり、ESRが悪化している。このように、酸解離定数pKa=4.52以上のアニオン成分を電解液に含む固体電解コンデンサは、熱衝撃を繰り返し受けると、ESRが悪化することが確認できる。
【0082】
一方、比較例1及び比較例2、実施例1及び実施例2の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表2に示す。また、
図2は、下表2に基づいて作成されたものであり、比較例1及び比較例2、実施例1及び実施例2のESR変化を示すグラフである。
(表2)
【0083】
表2及び
図2に示すように、酸解離定数pKa=4.52以上のアニオン成分が電解液に含まれている場合、メディアン径が50nm以下の導電性高分子を併用すると、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が小さくなっていることが確認された。
【0084】
(実施例3-5)
更に実施例3乃至5の固体電解コンデンサを作製した。実施例3の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてスベリン酸を用いた。その他、実施例3の固体電解コンデンサは、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。即ち、実施例3の固体電解コンデンサは、メディアン径が47nmの導電性高分子が用いられている。
【0085】
実施例4の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてスベリン酸が用いられ、メディアン径が10nmの導電性高分子を分散媒に分散させた導電性高分子液を用いて作成された。その他、実施例4の固体電解コンデンサは、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。
【0086】
実施例5の固体電解コンデンサは、電解液のアニオン成分としてセバシン酸を用いた。その他、実施例5の固体電解コンデンサは、実施例1と同一製造方法及び製造条件で作製され、同一構成を有する。即ち、実施例5の固体電解コンデンサは、メディアン径が47nmの導電性高分子が用いられている。尚、セバシン酸の酸解離定数はpKa=4.59である。
【0087】
(熱衝撃試験2)
これら実施例3乃至5の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は、比較例1乃至3、実施例1乃至実施例3と同一である。
【0088】
比較例3並びに実施例3乃至5の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表3に示す。また、
図3は、下表3に基づいて作成されたものであり、比較例3並びに実施例3乃至5のESR変化を示すグラフである。
(表3)
【0089】
表3及び
図3に示すように、スベリン酸又はセバシン酸が電解液に含まれている場合、メディアン径が50nm以下の導電性高分子を併用すると、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が小さくなっていることが確認された。スベリン酸及びセバシン酸は、アゼライン酸と同様に酸解離定数pKa=4.52以上のアニオン成分である。従って、酸解離定数pKa=4.52以上のアニオン成分が電解液に含まれていれば、そのアニオン成分の種類に限定なく、メディアン径が50nm以下の導電性高分子を併用することで、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が小さくなっていることが確認された。
【0090】
(実施例6-12)
更に実施例6乃至12の固体電解コンデンサを作製した。実施例6乃至12は、導電性高分子液に多価アルコールが加わっており、電解質層に多価アルコールが含まれている点で実施例1と異なる。その他の構成、組成、製造方法及び製造条件については、アニオン成分が酸解離定数pKa=4.52以上であるアゼライン酸であり、導電性高分子のメディアン径が47nmである点を含め、実施例6乃至12は実施例1とは同一である。
【0091】
実施例6の導電性高分子液には1-ヘキサノールが添加されている。実施例7の導電性高分子液にはエチレングリコールが添加されている。実施例8の導電性高分子液にはジエチレングリコールが添加されている。実施例9の導電性高分子液にはグリセリンが添加されている。実施例10の導電性高分子液には平均分子量が300のポリエチレングリコールが添加されている。実施例11の導電性高分子液にはソルビトールが添加されている。実施例12の導電性高分子液にはキシリトールが添加されている。実施例6乃至12の導電性高分子液に添加された多価アルコールの量は、pH4に調整した導電性高分子液に対して8wt%になるように添加した。
【0092】
これら実施例6乃至12の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は、比較例1、実施例1及び実施例2と同一である。
【0093】
実施例6乃至12の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表4に示す。また、
図4は、下表4に基づいて作成されたものであり、実施例6乃至12のESR変化を示すグラフである。
(表4)
【0094】
表4及び
図4に示すように、実施例6乃至12は、実施例1よりも更にESR変化が抑制されている。しかも、実施例6乃至12は、ESR変化が少なかった参考例1乃至3よりも更にESR変化が小さい。このように、酸解離定数pKa=4.52以上のアニオン成分が電解液に含まれている場合、導電性高分子のメディアン径を50nm以下とし、更に多価アルコールが電解質層に含まれると、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を電解液に含有させるよりも、ESR変化を小さくできることが確認された。
【0095】
しかも、実施例10乃至12はESR変化が殆どみられない。即ち、ポリエチレングリコール、キシリトール又はソルビトールが電解質層に含まれると、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたとしても、ESRの変化を殆ど抑制できることが確認された。
【0096】
(実施例13-14)
更に実施例13及び14の固体電解コンデンサを作製した。実施例13及び14は、実施例7と同様に、導電性高分子液に多価アルコールとしてエチレングリコールが加わっている。実施例7においてエチレングリコールの量が、pH4に調整した導電性高分子液に対して8wt%になるように添加したのに対し、実施例13のエチレングリコールの量は、導電性高分子液に対して30wt%になるように添加され、実施例14のエチレングリコールの量は、導電性高分子液に対して50wt%になるように添加された。その他の構成、組成、製造方法及び製造条件については、実施例13及び14は実施例7とは同一である。
【0097】
これら実施例13及び14の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は、比較例1、実施例1及び実施例2と同一である。
【0098】
実施例1及び実施例7と共に実施例13及び実施例14の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表5に示す。また、
図5は、下表5に基づいて作成されたものであり、多価アルコールの添加比率とESR変化の関係を示すグラフである。
(表5)
【0099】
表5及び
図5に示すように、多価アルコールを導電性高分子液に対して8wt%以上50wt%以下の範囲で添加している場合、固体電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化が小さくなっていることが確認された。特に、多価アルコールを導電性高分子液に対して8wt%以上30wt%以下の範囲で添加している場合、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を電解液に含有させるよりも、ESR変化を小さくできることが確認された。
【0100】
(実施例15-22)
実施例15乃至22の固体電解コンデンサを作製した。実施例15乃至22は、電解質層に酸解離定数pKa=4.52以上であるアゼライン酸に加えて、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分が加えられている。その他の構成、組成、製造方法及び製造条件については、実施例15乃至22は実施例2と同一である。
【0101】
実施例15乃至17の電解液には、電解液100gあたり16mmolとなるようにアニオン成分およびアンモニアを混合した。アニオン成分はアゼライン酸と酸解離定数がpka=4.31のグルタル酸の混合である。実施例15のアゼライン酸とグルタル酸はモル比で1:1の割合で混合された。実施例16のアゼライン酸とグルタル酸は、アゼライン酸を2倍量とし、即ちモル比で2:1の割合で混合された。実施例17のアゼライン酸とグルタル酸は、アゼライン酸を3倍量とし、即ちモル比で3:1の割合で混合された。
【0102】
実施例18乃至20の電解液には、電解液100gあたり16mmolとなるようにアニオン成分およびアンモニアを混合した。アニオン成分はアゼライン酸と酸解離定数がpka=4.2のコハク酸の混合である。実施例18のアゼライン酸とコハク酸はモル比で1:1の割合で混合された。実施例19のアゼライン酸とコハク酸は、アゼライン酸を2倍量とし、即ちモル比で2:1の割合で混合された。実施例20のアゼライン酸とコハク酸は、アゼライン酸を3倍量とし、即ちモル比で3:1の割合で混合された。
【0103】
実施例21及び22は、実施例2と異なり、電解液中のアゼライン酸の含有量が異なる。実施例2は、電解液100gあたり16mmolとなるようにアゼライン酸およびアンモニアを混合したのに対し、実施例21は、電解液100gあたり12mmolとなるようにアゼライン酸およびアンモニアを混合し、実施例22は、電解液100gあたり10.6mmolとなるようにアゼライン酸およびアンモニアを混合した。
【0104】
これら実施例15及び22の固体電解コンデンサに繰り返し熱衝撃を与えることで、熱衝撃試験後のESR変化を測定した。熱衝撃試験の内容及びESRの測定条件は、比較例1、実施例1及び実施例2と同一である。
【0105】
実施例2、参考例2及び参考例3と共に実施例15乃至22の固体電解コンデンサのESR変化の結果を下表7に示す。また、
図6及び
図7は、下表6に基づいて作成されたものであり、
図6は実施例2並びに15乃至17のESR変化を示すグラフであり、
図7は実施例2並びに18乃至20のESR変化を示すグラフである。
(表6)
【0106】
まず、表6に示すように、実施例2に比べて実施例21はESRの変化が抑制され、更に実施例21に比べて実施例22はESRの変化が抑制されている。この結果より、pKa=4.52以上のアニオン成分の量を減少させることで、熱衝撃を繰り返し受けたとしても、固体電解コンデンサのESRの変化が抑制されることが確認された。
【0107】
更に、表6、
図6及び
図7に示すように、電解質層に酸解離定数pKa=4.52以上であるアゼライン酸に加えて、酸解離定数pKa=4.51以下のアニオン成分を加えると、電解コンデンサが熱衝撃を繰り返し受けたとしても、ESRの変化を殆ど抑制できることが確認された。
【0108】
特に、参考例2及び参考例3との比較より確認できるように、熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化を大きくする酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸が電解液に多量に含まれているにも関わらず、酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸を電解液に含有したコンデンサよりもESR変化が抑制されている。
【0109】
ここで、実施例21、実施例17及び実施例20を比較すると、pKa=4.52以上のアゼライン酸は同量であるが、実施例17及び実施例20は、実施例21よりもESRの変化が更に抑制され、且つ参考例2及び参考例3よりもESRの変化の抑制効果が高いことが確認できる。また、実施例22、実施例16及び実施例19を比較すると、pKa=4.52以上のアゼライン酸は同量であるが、実施例16及び実施例19は、実施例22よりもESRの変化が更に抑制され、且つ参考例2及び参考例3よりもESRの変化の抑制効果が高いことが確認できる。
【0110】
即ち、熱衝撃を繰り返し受けたときのESR変化を大きくする酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸の量が単純に減少したことという理由以上に、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸と酸解離定数pKa=4.51以下の脂肪族ジカルボン酸と粒度分布におけるD50が50nm以下の導電性高分子の相互作用がESRの変化抑制に大きく寄与していることが確認された。
【0111】
このような熱衝撃を繰り返した劣化は、電解液のみを用いた電解コンデンサや導電性高分子のみを用いた固体電解コンデンサでは発生せずに、導電性高分子と電解液を組み合わせたハイブリッドコンデンサでのみ劣化が発生することを確認した。
【要約】
熱衝撃によるESR変化を抑制した固体電解コンデンサ及び製造方法を提供する。固体電解コンデンサは、陽極体と陰極体と電解質層を備える。陽極体は、弁作用金属を含み、表面に誘電体皮膜が形成されている。陰極体は、陽極体と対向する。電解質層は、陽極体と陰極体との間に介在し、電解液と導電性高分子とを含む。電解液は、酸解離定数pKa=4.52以上の脂肪族ジカルボン酸を含み、導電性高分子は、粒度分布におけるD50が50nm以下である。