(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】熱交換器を有する宇宙船タンク、宇宙船及びタンクの内容物を冷却する方法
(51)【国際特許分類】
F17C 7/00 20060101AFI20240625BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F17C7/00 A
F17C13/00 302Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022175420
(22)【出願日】2022-11-01
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】10 2021 128 437.6
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516077644
【氏名又は名称】アリアーネグループ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヴェント
(72)【発明者】
【氏名】アルミン イッセルホルスト
(72)【発明者】
【氏名】マルティン コノプカ
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108150822(CN,A)
【文献】米国特許第04897226(US,A)
【文献】特開2004-354039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 7/00
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素のための宇宙船タンク(100)であって、
前記宇宙船タンクは、少なくとも1つのセクションがタンク室(T)に突出した熱交換器(21)であって、パラ水素をオルト水素へ促進して変換するためのパラ-オルト触媒を
内部に有する熱交換器(21)を含む
、前記タンク室(T)からガス状水素(W
g)を排出する圧力除去装置(20)を有する、宇宙船タンク(100)。
【請求項2】
前記熱交換器(21)の少なくとも一部が前記タンク室(T)の中央に配置されている、請求項1に記載の宇宙船タンク。
【請求項3】
前記熱交換器(21)が、前記タンク室(T)からのその行程で水素を通過させるコイル管を含む、請求項1又は2に記載の宇宙船タンク。
【請求項4】
前記コイル管が少なくとも部分的に3次元曲線に追従するように構成されている、請求項3に記載の宇宙船タンク。
【請求項5】
前記タンク室(T)内に配置された少なくとも1つのファン(30)をさらに含む、請求項1又は2に記載の宇宙船タンク。
【請求項6】
前記熱交換器(21)は、少なくとも1つの領域(21a)にて熱接合によりタンク構造体(10)に取り付けられている、請求項1又は2に記載の宇宙船タンク。
【請求項7】
水素駆動部と、前記水素駆動部に供給するための請求項1又は2に記載の宇宙船タンク(100)を備えた宇宙船。
【請求項8】
少なくとも1つのセクションがタンク室(T)に突出した熱交換器(21)であって、パラ水素をオルト水素へ促進して変換するためのパラ-オルト触媒を
内部に有する熱交換器(21)を有する
、タンク室(T)からガス状水素(W
g
)を排出する圧力除去装置(20)を含む宇宙船タンク(100)のタンク室(T)において液体水素(W
f)及びガス状水素(W
g)を有するタンクの内容物を冷却する方法であって、
前記熱交換器(21)によるパラ水素のオルト水素への変換と、当該変換によって生成される水素混合物の少なくとも一部の排出を含む、方法。
【請求項9】
前記変換が、前記宇宙船タンク(100)を含む宇宙船の推進フェーズの後及び/又は弾道フェーズの間に行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのファン(30)により前記宇宙船タンク(100)内の前記ガス状水素(W
g)を旋回させることをさらに含む、請求項8又は9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素用の宇宙船タンクに関する。本発明はさらに、このタイプの宇宙船タンクを有する宇宙船、及び宇宙船タンクのタンク内容物を冷却する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、特にエネルギー担体として、工業及び技術において様々な使用を有する。それは通常、オルト水素及びパラ水素から成り、そのそれぞれの分子はそれらの原子核内の異なるスピンによって識別される。時間をかけて確立された自然な平衡比は温度依存性を有する:パラ水素比は約20Kの通常の沸点までの温度でほぼ100%である一方、オルト水素の割合は温度増加と共に増大し、約250Kの温度より上では約75%である。この点について、パラ水素からオルト水素への変換は吸熱性であり、したがって逆変換は発熱性である。両方の変換とも実際はゆっくり生じるが、触媒によって加速され得る。通常、タンクは殆ど専門的にパラ水素を貯蔵する。
【0003】
しかしながら、他の低温流体のケースと同様に、可搬タンク及び固定タンクへの液体水素の貯蔵は問題になる、というのも熱がそれぞれのタンクに入力されると、液体水素が蒸発し、するとすぐにタンク内の圧力が上昇するからである。
【0004】
これは普通は、一方で様々なタンク断熱手段によって部分的に防止され、また他方でこのような蒸発によって生成されたガス状の水素の少なくとも一部を圧力除去装置によって環境へ解放し、ゆえに圧力の減少を得ることが標準的技法である。
【0005】
基礎に基づく用途・適用のために、固定式液体水素タンクのための蒸発損(蒸発損失)を低減するため、通気装置(ベント装置)の一部を形成するタンク内部の熱交換器が知られている(インターネット公開における非特許文献1参照)。それは触媒により加速された吸熱性のパラ-オルト変換の援助により冷却を創出する。自動車部門においても、タンク内部の触媒が吸熱性のパラ-オルト変換のために使用される;このタイプのタンク装置は特許文献1及び特許文献2から知られている。ここで、水素は物理吸着によってタンクの内部の多孔インサートに結合され得る。このタイプの用途・適用では、タンク内の圧力は一般に水素の臨界圧力よりかなり高い。
【0006】
宇宙飛行では、水素は主に、約20Kでの液体状態で、約13barの臨界圧力より顕著に低い圧力で低圧タンクに貯蔵される。それによって高エネルギー密度と軽量構造が使用できる。
【0007】
特許文献3は、宇宙飛行用途のための推進装置(propulsion unit)用の推進剤を冷却する熱交換器の使用を開示している。インターネット公開(非特許文献2)は、弾道フェーズにおける自由対流がない場合にファンによって吹きつけられる通気装置の一部としてタンク内の熱交換器を記載している。ここで、熱交換器において蒸発する貯蔵部からの液体水素はガスを冷却するために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US 2009/0199574 A1
【文献】US 2011/0302933 A1
【文献】DE 10 2016 103 223 A1
【非特許文献】
【0009】
【文献】Heisenberg Vortex Tube for Cooling and Liquefaction, https://www.hydrogen.energy.gov/pdfs/review20/in015_leachman_2020_o.pdf
【文献】Cryogenic Fluid Management Investments Overview, https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/jsheehy_propulsion_july_2016tagged_0.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、宇宙飛行において液体水素タンクから蒸発損を低減するための改良技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1に従う宇宙船タンク、請求項7に記載の宇宙船及び請求項8に従う方法によって実現される。複数の有利な実施形態が従属請求項、明細書及び図面に開示されている。
【0012】
本発明に従う宇宙船タンクは、水素を収容するよう機能する。それはタンク室からガス状水素を排出する圧力除去装置を有する。この点について圧力除去装置は、パラメータ水素をオルト水素に促進して変換するためのパラ-オルト触媒を備えた熱交換器を含み、熱交換器はタンク室に突出する少なくとも1つのセクションを有する。
【0013】
本発明に従う宇宙船は、水素駆動部(すなわち、推進剤コンポーネントとしての水素により動作するように構成された推進装置)と、それに供給する本発明の実施形態に従う宇宙船タンクを含む。特に、それはロケットの上段として構成されてもよい。
【0014】
本発明に従う方法は、宇宙船タンクのタンク室の液体水素及びガス状水素を含むタンク内容物を冷却するために使用される。この点について、宇宙船タンクは、パラ水素をオルト水素に触媒により促進して変換するためのパラ-オルト触媒を備えた熱交換器を含む圧力除去装置を含む。熱交換器はタンク室に突出する少なくとも1つのセクションを有する。本方法は、熱交換器によるパラ水素のオルト水素への変換と、圧力除去装置による変換によって生成される(パラ水素とオルト水素の)水素混合物の少なくとも一部の排出を含む。
【0015】
特にこの点について、宇宙船タンクは好ましくは、この文書に開示される本発明に従う宇宙船タンクの実施形態の1つに従って構成される。本発明に従う方法の有利な実施形態によれば、タンク内容物のガス状水素は変換中50K~200Kの範囲の温度である。好ましくは、宇宙船タンクを含む宇宙船の推進フェーズの後及び/又は弾道(無動力)飛行フェーズの間に、変換は生じる。
【0016】
パラ-オルト触媒を備えた熱交換器と、宇宙船タンクに突出する少なくとも1つのセクションのおかげで、本発明は、熱交換器を少なくとも部分的に取り囲むタンク内容物の効率的な冷却を実行することができ、タンク内容物に含まれる熱エネルギーは吸熱性のパラ-オルト変換のために回収される。このようにして、必要な圧力除去のために排出すべき水素の量が比較的少なく維持され得る。こうして、蒸発損が最小化される。
【0017】
特に、熱交換器は好ましくは、タンク室の最大寸法の少なくとも四分の一、少なくとも三分の一又は少なくとも二分の一だけ及び/又はタンク室の最大寸法の最大で四分の三又は最大で三分の二だけ、タンク室内に突出してもよい。このようにして、高い効率が熱交換器のために獲得され得、又はタンク室の比較的大きな領域に熱交換器がなくなり、それにより対応的に大量の液体水素が熱交換器と接触せずにタンク室に貯蔵され得る。
【0018】
熱伝達のために意図された材料の流れが、タンク室に含まれる環状室の中央を通って軸方向に(すなわち、環状室の中心軸と平行である方向性構成部品を有する方向に)通過するように、熱交換器は構成され得る。ここで環状室は抽象的に定義されてもよく、すなわちその境界は物理的に存在する必要が無いと理解すべきである。ゆえに、このタイプの実施形態では、環状室は熱交換器が通る対応する領域を取り囲む。言い換えれば、熱交換器の対応するセクションが、熱伝達のために意図される材料流れの方向と垂直である全ての方向においてタンク室によって取り囲まれている、特に覆われていない。
【0019】
パラ-オルト触媒は例えば、酸化鉄、ニッケル-ケイ素、三酸化クロム及び/又は多孔性磁性材料を含んでもよい。
【0020】
宇宙船タンクは好ましくは、水素が液体状態で及び/又は13barの臨界圧力より低い圧力で、好ましくは特に12bar又は11barより低い圧力で貯蔵され得るように構成される。それは少なくとも部分的に軽量構造材料(例えば、少なくとも1つのアルミニウム合金及び/又は少なくとも1つの繊維複合材料)から製造され得及び/又は(特に、相互に分離した耐荷重材料層であって、その間にボイド及び/又は材料層の密度より低い密度を有する材料が配置されたものを有する)軽量構造を有する。
【0021】
好ましくは、本発明に従う宇宙船タンクの熱交換器は、それぞれの(それぞれの温度Tに依存する)平衡比G(T)から最大10%だけ又は最大5%だけ異なるオルト水素のパラ水素に対する比Vが実現されるまで、少なくとも50K~200Kの範囲の温度で、パラ水素を変換するように構成されている。本発明の方法に従って排出される水素混合物も好ましくは同様に、それぞれの(それぞれの温度Tに依存する)平衡比G(T)から最大10%だけ又は最大5%だけ異なるオルト水素のパラ水素に対する比Vを有する。したがって、このタイプのそれぞれの実施形態では、V≧0.9G(T)又はV≧0.95G(T)である。
【0022】
このタイプの実施形態によって、特に高い冷却効率が実現され得る、というのも吸熱変換が少なくともほぼ完全に生じ、従って特に大量の熱がタンク内容物から引き出されるからである。
【0023】
本発明の有利な実施形態によれば、熱交換器の少なくとも一部がタンク室の中央に配置されている;特に、ゆえに、熱交換器は中央に突出してもよく、すなわち中央にあるセクションを有してもよい。これは、少なくとも推進フェーズの間及び/又は弾道フェーズの間に、宇宙船タンクを含む宇宙船の熱交換器がガス状水素によって少なくとも部分的に又は完全に取り囲まれ、特にタンク室(アリッジ)に配置される。これらのフェーズの間、慣性のために、液体水素は要するにそれぞれのタンク壁領域に対して押し付けられ、しかも推進フェーズの間それは加速方向とは反対側のタンク壁領域に押し付けられ、弾道フェーズの間、その中央宇宙船軸の周りの宇宙船の回転のために、それは、この軸に対して半径方向最外側にあるタンク壁の領域に押し付けられる。
【0024】
特に、タンク室は好ましくは中央タンク室軸に関して少なくとも部分的に回転対称であるように構成されてもよい。このタイプの宇宙船タンクを有する本発明に従う宇宙船では、これは好ましくは、中央タンク室軸が宇宙船の(意図される)飛行方向に一致するように取り付けられる。
【0025】
少なくとも部分的に回転対称であるタンク室を有するこのような実施形態の熱交換器は、少なくとも部分的に、円筒形のタンク室領域の内側に配置されてもよく、その中央軸が中央タンク室軸に一致する。ここでこのようなタンク室領域の関連する円筒半径は、好ましくは、中央タンク室軸と垂直なタンク室の最大半径の最大で三分の一、最大で四分の一又は最大で五分の一であってもよい。したがって、タンク室における液体水素の比較的大きな割合によっても、熱交換器は弾道フェーズの間ガス状水素によって包囲される。円筒形のタンク室領域は抽象的に定義可能であり、したがってその境界が物理的に存在する必要がない。
【0026】
それに代えて又は加えて、宇宙船タンクは意図される飛行方向を有してもよく、それは、宇宙船において意図される設置配向で取り付けられるように構成されている。よって、宇宙タンクの意図される飛行方向は、(意図される設置配向で取り付けられた宇宙船タンクを有する)宇宙船の意図される飛行方向によって決定される。
【0027】
好ましくは、このような実施形態では、意図される飛行方向に関してタンク室の後方領域には熱交換器が無く、この点でタンク室(全体)の(意図される飛行方向に測定した)最大寸法の少なくとも四分の一又は少なくとも三分の一である意図される飛行方向の最大寸法を有する。それゆえに、推進フェーズの間、比較的大量の液体水素が熱交換器と接触せずにこの後方領域に押し付けられ得る。
【0028】
このような宇宙船タンクを有する本発明に従う宇宙船の有利な実施形態では、それは好ましくはその意図される設置配向・方向で宇宙船に取り付けられる。
【0029】
本発明の有利な実施形態によれば、熱交換器は、水素を圧力除去装置を通るその経路において又はタンクの外側に通過させるコイル管を含む。本発明に従う方法は対応的に、ガス状水素をこのタイプの熱交換器を通してタンク室の外側に通過させる工程を含む。このような実施形態では、パラ-オルト触媒は好ましくは、少なくともコイル管の内部領域に、例えば多孔性磁性材料、酸化鉄、ニッケル-ケイ素及び/又は三酸化クロムを含む例えばコーティングの形態で配置される。こうして、促進されるパラ-オルト変換がコイル管の内部で生じ得、特に生成されるオルト水素がその後宇宙船タンクの又はさらに言えば宇宙船の周囲(環境)に直接運ばれ、排出され得る。
【0030】
特に、このタイプのコイル管は3次元曲線に追従してもよい。それは、例えば軸(場合によっては共通軸)の周りに、1回又は複数回渦巻いてもよく、それは軸の方向に方向性構成部品(指向性構成部品)を有してもよい。
【0031】
特に、コイル管は、例えば少なくとも部分的に螺旋軌道に沿って延びる又は螺旋軌道に追従してもよい。これは、有利には長いコイル管が比較的小さいスペース内に位置決めされ得ることを意味する。前述した回転対称のタンク室を有する実施形態では、このタイプの螺旋の中央軸が特に中央タンク室軸と一致してもよい。
【0032】
本発明に従う宇宙船タンクの有利な実施形態によれば、少なくとも1つのファンがタンク室内に配置される。同様に、本発明に従う方法は、少なくとも1つのファンにより宇宙船タンク内のガス状水素を旋回させる工程を含む。このようにして、特にその中央宇宙船軸の周りに回転する宇宙船タンクを含む宇宙船の弾道飛行の間に生じる、タンク室内のガス状水素のそれぞれの温度成層が破られ得る。
【0033】
本発明の有利な実施形態によれば、熱交換器は少なくとも1つの領域で、タンク構造体に、好ましくはタンク室を取り囲む又は境界付けるタンク壁に熱により接合される。このようにして、タンク構造体は同様に熱交換器によって冷却され得、タンク内容物への熱の入力が低減される。対応的に、本発明に従う方法は、熱により接合され取り付けられた熱交換器により少なくとも1つのタンク構造体を冷却する工程を含む。
【0034】
特に、熱交換器が前述したようにコイル管を含む実施形態では、これは、タンク構造体(例えばタンク壁)に取り付けられ熱的に接合された圧力除去装置からの出口に対向する端部を有してもよい。コイル管の当該端部への、タンク構造体の冷却に関連する熱流束が、有利には、熱交換器を通るその行程で水素が非常に低い温度に冷却されて、平衡比を実現するためにオルト水素のパラ水素への望まれていない発熱逆変換が生じることを防止する。
【0035】
さて、本発明の好ましい例示の実施形態を図面を参照してより詳細に記載する。個々の要素及び構成部品が描かれているものとは異なる方法で一緒に組み合わされ得ると理解される。互いに一致する要素のための参照番号が一般に図面において使用され、各図のために必ずしも改めて記載されない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】回転による弾道飛行フェーズの間の本発明に従う宇宙船タンクの例示の実施形態を示す図である。
【
図1b】推進フェーズの間の
図1aの宇宙船タンクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1aは、図式による長手断面における本発明に従う宇宙船タンク100の例示の実施形態を示す。宇宙船タンク100は、主に液体水素W
f及びガス状水素W
gが殆どもっぱら(例えば99.8%まで)パラ水素の形態で貯蔵されているタンク室Tを画定するタンク構造体10を含む。タンク室はここで主に、中央タンク室軸Xの周りに回転対称に構成されており、その方向は、宇宙船タンクの(意図される)飛行方向Fに一致する。その際、意図される飛行方向は宇宙船(不図示)における水素タンク100のために意図される設置配向(及びその意図される飛行方向)から決定される。
【0038】
宇宙船タンク100はさらに、中央タンク室軸Xの周りを螺旋軌道に沿って一部において巻き付くコイル管として主に構成される熱交換器21を備えた圧力除去装置20を含む。これに関連して、ガス状水素Wgが管入口21eを介してコイル管に入り、コイル管を介して及び排気口22を介して圧力除去装置20から宇宙船タンク100の環境に通過でき、又は宇宙船タンクを含む宇宙船(不図示)に実際に排出され得る。
【0039】
さらなる冷却が熱交換器21によって実現される:本発明によれば、これはパラ水素をオルト水素へ促進して変換するためのパラ-オルト触媒を有する(図面では見えない)。ここで本ケースでは、パラ-オルト触媒はコイル管の内部に配置されている。ゆえに、管入口21eにおいて殆どもっぱらパラ水素から成る水素ガスWgは、コイル管を通過する際にオルト水素へ部分的に変換され、その上好ましくはそれぞれの温度のための(オルト水素のパラ水素に対する)平衡比に達するまで変換される。吸熱変換のために必要な熱がここでコイル管の環境からタンク室Tに収容される。このようにして、コイル管を取り囲むタンク室内の水素ガスWgが冷却される。
【0040】
全体として、これは、蒸発損を最小化しながら、宇宙船タンク100の外側からタンク構造体10への熱流速φが少なくとも部分的に補償され得ることを意味する、というのもガス状水素Wgは低い温度レベルにもたらされ、そこで安定化されるからである。
【0041】
変換によって生成される水素混合物の少なくとも一部の排出と、ゆえに圧力除去工程は、宇宙船タンクの操作の間複数回繰り返されてもよく、又はそれは連続的に実行されてもよい。
【0042】
図1aに示される状況では、宇宙船タンク100を包囲する宇宙船(不図示)は、中央タンク室軸Xに主に一致する中央宇宙船軸の周りにそれが回転する弾道(すなわち無動力)飛行フェーズにある。回転(図において矢印で示される)は、例えば、少なくとも0.5°/秒、少なくとも15°/秒、又はさらには少なくとも40°/秒からの範囲である速度で生じ得る。回転の結果、液体水素W
fは遠心力によって回転軸の周りにタンク構造体10の環状領域11に押し込まれる。
【0043】
タンク室T内に配置されたファン(通風機)30により、図示の実施形態では、タンク室T内で生成されるガス状水素Wgの温度成層が破壊され、ゆえに熱交換器21の効率が改良され得る。
【0044】
図示の例示の実施形態では、熱交換器21は、中央タンク室軸Xの周りに存在する均一な円筒形のタンク室領域内に配置されている。その半径rはタンク室Tの最大半径Rの四分の一より小さく、ここで実際には六分の一より小さい。このようにして、熱交換器21と液体水素Wgの接触が図示の飛行フェーズにおいて防止される。
【0045】
好ましくは、熱交換器21の領域21a、すなわち本ケースでは圧力除去装置20からの出口22に面するコイル管の端部が、好ましくは特に高い外部熱入力を有するタンク構造体の領域で、熱接合により宇宙船タンク100(図では見えない)のタンク構造体10に取り付けられている。こうして、タンク構造体10自体が冷却され得る。さらにコイル管を通るその行程で水素ガスの温度が非常に低下して、それによりその際そこでの温度で支配的である平衡比の実現のためにオルト水素のパラ水素への望まれていない発熱逆変換が生じることが防止される。
【0046】
図1bは、宇宙船タンク100を取り囲む宇宙船(不図示)の推進フェーズの間の対応する部分的描写での
図1aの宇宙船タンク100を示す。これに関して、液体水素W
fは飛行方向Fと反対方向にタンク構造体10に押し込まれる。
【0047】
ここで示される例示の実施形態では、熱交換器21は長さaだけ、ゆえにタンク室Tの最大寸法Aの四分の一より多く、この場合実際にはタンク室Tの最大寸法Aの半分より多く、タンク室に突出する。このようにして、熱交換器21は、タンク室T内でそれを取り囲むガス状水素Wgを冷却するために特に高い効率を有する。図示の場合での最大寸法Aは、中央タンク室軸Xに沿うタンク室の寸法によって付与される。
【0048】
同時に、熱交換器21はここで、タンク室Tの最大寸法Aの四分の三より少ない範囲にわたって、本ケースでは実際にはタンク室Tの最大寸法Aの三分の二より少ない範囲にわたって、タンク室内に突出する。飛行方向Fに関してタンク室の後方領域Hであって、ゆえに熱交換器21の無い後方領域Hは、寸法Aの四分の一より大きい、本ケースでは実際には寸法Aの三分の一より大きい飛行方向Fにおける最大寸法を有する。このようにして、宇宙船タンク100の所与の充満レベルの場合、熱交換器21と液体水素Wgの接触が図示の推進フェーズにおいて回避される。
【0049】
水素のための宇宙船タンク100が開示されている。宇宙船タンク100は、少なくとも1つのセクションがタンク室Tに突出した熱交換器21であって、パラ水素をオルト水素へ促進して変換するためのパラ-オルト触媒を有する熱交換器21を有するタンク室Tからガス状水素Wgを排出する圧力除去装置20を有する。水素駆動装置を備えた宇宙船及びこのタイプの宇宙船100もまた開示されている。
【0050】
少なくとも1つのセクションがタンク室Tに突出した熱交換器21であって、パラ水素をオルト水素へ促進して変換するためのパラ-オルト触媒を有する熱交換器21を有する圧力除去装置20を含む宇宙船タンク100のタンク室Tにおいて液体水素Wf及びガス状水素Wgを有するタンクの内容物を冷却する方法もまた開示されている。本方法は、熱交換器21によるパラ水素のオルト水素への変換と、変換によって生成される水素混合物の少なくとも一部の排出を含む。
【符号の説明】
【0051】
10 タンク構造体
11 タンク構造体の環状領域
20 圧力除去装置
21 熱交換器
21a タンク構造体に熱接合され取り付けられた熱交換器の領域
21e パイプ入口
22 圧力除去装置からの出口
100 宇宙船タンク
φ 宇宙船タンクの外側からの熱流束
a (意図される)飛行方向Fでの熱交換器の寸法
A (意図される)飛行方向Fでのタンク室Tの寸法
F (意図される)飛行方向
H タンク室の後方領域
r 熱交換器を含む円筒形の領域の半径
R タンク室Tの最大半径
T タンク室
Wf 液体水素
Wg ガス状水素
X 中央タンク室軸