(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ヒト試験方法及びそれを行うために使用するプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 10/40 20180101AFI20240625BHJP
【FI】
G16H10/40
(21)【出願番号】P 2020067794
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019071799
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501481492
【氏名又は名称】株式会社ゲノム創薬研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関水 和久
(72)【発明者】
【氏名】下村 一之
(72)【発明者】
【氏名】松本 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 弘人
(72)【発明者】
【氏名】大熊 芳明
(72)【発明者】
【氏名】宮下 惇嗣
【審査官】早川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-323497(JP,A)
【文献】特開2009-116829(JP,A)
【文献】特開2007-011442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被験者の血液に基づいて、飲食品の摂取による影響を評価又は分析するためのデータを得るヒト試験方法であって、
コンピュータが、被験者を特定するための被験者データを記憶する工程(1)、
サンプル調製者が、被験者が摂取するためのサンプルを調製しサンプル容器に充填する工程(2)、
被験者が、サンプルを摂取し、摂取した時刻及び摂取時の状況を含む摂取時情報をコンピュータに送信し、該コンピュータが、該摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶することで摂取データを作成する工程(3)、
医療従事者が、被験者の血液を、血液保存容器に該被験者を特定した状態で保存する工程(4)、
分析者が、血液保存容器に保存された血液を分析し、被験者を特定する情報を含む血液分析データを得る工程(5)、及び、
該コンピュータが、血液分析データを記憶し、該血液分析データを、該被験者データ及び該摂取データと照合することにより、サンプル摂取が被験者に与える影響を示す最終データを作成し、保存する工程(6)、
を有するヒト試験方法であって、
該工程(3)において、被験者が送信する摂取時情報がサンプルを摂取した後の複数の時点における状況を含んだものであり、被験者が、摂取時情報を複数回に分けて送信するものであり、該コンピュータが、被験者毎の摂取時情報の送信状況を可視化して表示するものであり、被験者から摂取時情報の送信を受ける毎に、
該送信状況を切り替えて表示することを特徴とするヒト試験方法。
【請求項2】
前記摂取時情報が、被験者がサンプルを摂取した後の該被験者の血糖値を含むものであり、該被験者が、複数の時点で測定した血糖値を複数回に分けてコンピュータに送信する、請求項1に記載のヒト試験方法。
【請求項3】
前記コンピュータが、作成した最終データを、前記医療従事者、管理者及び/又は被験者に対して、自動的に送信する請求項1又は請求項2に記載のヒト試験方法。
【請求項4】
工程(1)において、コンピュータが記憶する被験者データの中に、被験者の占有する摂取時情報送信用機器に関する情報が含まれており、工程(3)において、コンピュータが、該摂取時情報送信用機器に、被験者に対してサンプルの摂取を促す通知を送信し、被験者が、該通知に返信することにより摂取時情報をコンピュータに送信する請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のヒト試験方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のヒト試験方法を行うために使用するプログラムであって、コンピュータを、
被験者を特定するための被験者データを記憶する被験者データ記憶手段、
サンプルを摂取した被験者によって送信された摂取した時刻及び摂取時の状況を含む摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶することで摂取データを作成する摂取データ作成手段、
被験者に対して、サンプルの摂取を促すための通知を行う通知手段、及び、
被験者毎の摂取時情報の送信状況を可視化して表示するものであり、被験者から摂取時情報の送信を受ける毎に、
該送信状況を切り替えて表示する送信状況表示手段
として機能させるためのものであることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
コンピュータを、更に、医療従事者により採取された被験者の血液の血液分析データを記憶し、該血液分析データを、前記被験者データ及び前記摂取データと照合することにより、サンプル摂取が被験者に与える影響を示す最終データを作成する最終データ作成手段としても機能させるためのものである請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記通知手段が、前記ヒト試験方法を管理する管理者が予め定めたスケジュールで前記通知を行うものである請求項5又は請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
被験者が、前記通知に返信することで、前記摂取時情報を送信できるようになっている請求項5ないし請求項7の何れかの請求項に記載のプログラム。
【請求項9】
コンピュータを、更に、最終データが作成された際に、該最終データを、前記医療従事者、管理者及び/又は被験者に送信するための最終データ送信手段としても機能させるためのものである請求項5ないし請求項8の何れかの請求項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト試験方法に関し、更に詳しくは、医師にかかる負担が少なく、また、低コストで実施可能なヒト試験方法に関する。
また、本発明は、かかるヒト試験方法を行うために使用するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え、自然食品に対する人々の関心が高まっている。しかしながら、自然食品のヒトの健康維持に対するエビデンスは、コストや倫理的な問題といった点から、実施は容易でないとされている。
【0003】
自然食品のヒトに対する影響を調査するためのヒト試験は、従来、実施企業が病院所属の医師に試験全般を依頼する形式が普通であり、全ての作業を医師が管理することにより医師にかかる負担が非常に大きく、このため、高額な経費を要していた。
【0004】
医師が行い、多くの手間がかかる治験や臨床試験の実施方法について、種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、治験依頼者と治験実施者と被験者とのコミュニケーションの仲介を行なうと共に、治験の実施を促進して三者の情報を共有するシステムが開示されている。
特許文献1に記載の発明における「治験実施者」とは、医療機関のことであり、特許文献1に記載の発明は、医療機関と治験依頼者・被験者との連絡をスムーズに行えるようにした、という発明である。
【0006】
特許文献2には、新薬臨床開発において、治験被験者の確保を迅速かつ効率的に行うためのシステムが開示されている。また、特許文献3には、登録者情報入力手段、登録者情報記憶手段、試験情報入力手段、試験情報記憶手段、表示手段を有する臨床試験の被験者登録システムが開示されている。
特許文献2や特許文献3に記載の発明は、治験や臨床試験を行う際の被験者の選定を行いやすくする、という発明である。
【0007】
しかしながら、かかる公知技術は、医師(医療機関)が試験全般を実施・管理しており、医師にかかる負担を必ずしも十分に軽減しているとはいえない。
前記のように、自然食品は、近年人々の関心を集め、需要が高まっているところ、医師の負担が少なく、低コストで自然食品のヒト試験を行う方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-041657号公報
【文献】特開2003-337864号公報
【文献】特開2002-215936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、自然食品のヒトの健康維持に対するエビデンスを得るためのヒト試験方法において、医師にかかる負担を抑制し、結果として経費を大幅に抑えることのできる手法を提供することにある。ひいては、このような手法の利用により、新たに開発される自然食品の実用化プロセスを円滑に進め、健康維持に資する自然食品の社会における利用を促進することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ね、自然食品に関するヒト試験方法の工程のうち、採血等の医療行為に関する工程だけは、医師等をはじめとする医療従事者が行う必要があるが、その他の工程については、必ずしも医療従事者が行う必要が無いことに着目した。
【0011】
一方、自然食品に関するヒト試験方法の医療行為に関する工程以外の工程を医師以外が実施する場合、被験者による試験用サンプルの摂取の確実性の問題や、管理者による試験の進行状況(被験者によるサンプルの摂取状況)の把握が困難な場合がある。本発明者は、ヒト試験方法の被験者を予めコンピュータに登録し、管理者が設定した時刻に、各被験者に対して、PC(パーソナルコンピュータ)、スマートフォン、タブレット等を通じて通知を行うように設定することにより、サンプル摂取の確実性を担保することができ、また、試験の進行状況や結果を、管理者等が可視化された状態で見ることができるようにすることにより、前記のような、自然食品に関するヒト試験方法の医療行為に関する工程以外の工程を医師以外が実施することにより生ずる問題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、被験者の血液を採取することによって、飲食品の摂取による影響を評価又は分析するためのデータを得るヒト試験方法であって、
ホストコンピュータが、被験者を特定するための被験者データを記憶する工程(1)、
サンプル調製者が、被験者が摂取するためのサンプルを調製しサンプル容器に充填する工程(2)、
被験者が、サンプルを摂取し、摂取した時刻及び摂取時の状況を含む摂取時情報をホストコンピュータに送信し、該ホストコンピュータが、該摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶することで摂取データを作成する工程(3)、
医療従事者が、被験者の血液を採取し、血液保存容器に該被験者を特定した状態で保存する工程(4)、
分析者が、血液保存容器に保存された血液を分析し、被験者を特定する情報を含む血液分析データを得る工程(5)、及び、
該ホストコンピュータが、血液分析データを記憶し、該血液分析データを、該被験者データ及び該摂取データと照合することにより、サンプル摂取が被験者に与える影響を示す最終データを作成し、保存する工程(6)、
を有することを特徴とするヒト試験方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記のヒト試験方法を行うために使用するプログラムであって、コンピュータを、
被験者を特定するための被験者データを記憶する被験者データ記憶手段、
サンプルを摂取した被験者によって送信された摂取した時刻及び摂取時の状況を含む摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶することで摂取データを作成する摂取データ作成手段、及び、
被験者に対して、サンプルの摂取を促すための通知を行う通知手段、
として機能させるためのものであることを特徴とするプログラムを提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自然食品に関するヒト試験において、医師は、医療行為に係る工程のみを行うので、ヒト試験の進行状況の管理を行う管理者を医師以外の者とすることができ、試験の実施の際の医師の負担が大幅に減少する。その結果、自然食品に関するヒト試験の実施に要するコストが大幅に削減される。これにより、自然食品の実用化が促進される。
【0015】
本発明では、管理者による試験の進行状況の把握が容易となる。また、本発明では、ヒト試験の結果(最終データ)を、可視化された状態(グラフ等)で管理者や医師等に提供することができるので、医師等が、ヒト試験の実施の結果を論文等で発表する際の労力が大幅に軽減され、医師等によるヒト試験への参加が促進される。
【0016】
本発明は、例えば大学の医療系学部の教員を管理者として、該医療系学部内において実施することができる。そのようにした場合には、医療系学部の職員、研究者、学生等を被験者として確保しやすい;かかる被験者は、試験の重要性を理解しているため、管理者の指示を遵守しやすく、試験結果の信頼性が担保されやすい;かかる被験者はコンピュータの操作にも慣れており、摂取時情報の送信(工程(3))を円滑に行うことができる;研究室等で試験サンプルの調製(工程(2))を行うことができ、調製した試験サンプルの被験者への受け渡しをスムーズに行うことができる;といった点から、信頼性の高いヒト試験を、円滑に、また低コストで実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を実施したヒト試験方法の概略構成図である。括弧内の数字は、後記する各工程の番号を示す。
【
図2】工程(1)において、被験者が、被験者データをホストコンピュータに入力する際の画面の一例である。
【
図3】工程(3)において、被験者が摂取時情報をホストコンピュータに送信する際の画面の一例である(摂取時の状況を入力する前の状態)
【
図4】工程(3)において、被験者が摂取時情報をホストコンピュータに送信する際の画面の一例である(摂取時の状況を入力した後の状態)
【
図5】被験者毎の摂取時情報の送信状況を可視化して表示した画面の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0019】
本発明は、後記する工程(1)~工程(6)を有するヒト試験方法に関する。本発明のヒト試験方法は、必要に応じて他の工程を有していてもよい。
また、本発明のヒト試験方法のうちの少なくとも一部の工程は、ホストコンピュータにより行われるものである。本発明は、該ヒト試験方法を行うために使用するプログラムにも関する。
【0020】
本発明のヒト試験方法は、被験者の血液を採取することによって、飲食品の摂取による影響を評価又は分析するためのデータを得るヒト試験方法である。
本発明のヒト試験方法によって、摂取による影響の評価又は分析の対象となる飲食品の例としては、限定はないが、自然食品、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品等が例示できる。
【0021】
本発明のヒト試験方法においては、被験者の血液の採取という医療行為を伴うので、医師等の医療従事者の関与は必須である。
しかし、前記した先行技術のような方法と異なり、本発明では、血液の採取以外は、医療従事者でない者が管理者(ヒト試験方法における関係者同士の連絡や、データの管理、結果のまとめ等の作業を統括する試験実施責任者をいう。)となって行うことができ、試験の実施に伴う医療従事者の負担が大幅に軽減される。
換言すれば、従来の試験方法では、血液の採取という医療従事者でなければ行うことのできない作業を伴うため、試験方法は病院内で実施することになり、医師等の医療従事者が、前記「管理者」を兼ねており、医療従事者に大きな負担が生じていたところ、本発明のヒト試験方法によれば、医療従事者でない者が管理者となるので、そのような負担がかからず、結果として、ヒト試験を低コストで実施することができるようになる。
【0022】
<工程(1)>
工程(1)は、ホストコンピュータが、被験者を特定するための被験者データを記憶する工程である。
すなわち、工程(1)においては、ホストコンピュータを、被験者を特定するための被験者データを記憶する被験者データ記憶手段として機能させる。
【0023】
「被験者データ」とは、ヒト試験の実施のために必要となる、被験者の属性を特定するための情報である。例えば、被験者の氏名、年齢、性別、身長・体重、既往歴、連絡先等が例示できる。
通常、被験者は複数であり、それぞれの被験者毎の「被験者データ」をホストコンピュータに記憶させる。
なお、「記憶」には、新規に記憶するだけでなく、「更新」も含まれる。
【0024】
工程(1)においては、通常、本発明のヒト試験に関与する者が、ホストコンピュータに、被験者データを入力する。
この入力の作業は、作業担当者を設けて、該作業担当者がそれぞれの被験者の被験者データを直接入力してもよいが、作業負担の軽減、ひいてはコストの軽減のために、それぞれの被験者が自身の情報を、ネットワークを通じて、PC、スマートフォン、タブレット等を使用して入力するようにするのが好ましい。
工程(1)において、被験者が、被験者データをホストコンピュータに入力する際の画面の一例を
図2に示す。
【0025】
また、工程(1)において、それぞれの被験者に対して、被験者IDとパスワードを発行するようにしておくと、後述の工程(3)、すなわち、被験者がサンプルを摂取する毎に摂取時情報を報告する際の、被験者の労力が軽減される。
【0026】
前記のように、本発明は、大学の医療系学部内において実施するのが望ましい。この場合、被験者である職員、研究者、学生等の被験者データの一部は既知であることも多く、そのような場合に、入力作業を一部省略できるようになっていてもよい。すなわち、ホストコンピュータが、既存のデータの一部を自動的に参照するようにしてもよい。
【0027】
<工程(2)>
工程(2)は、サンプル調製者が、被験者が摂取するためのサンプルを調製しサンプル容器に充填する工程である。
【0028】
大学の医療系学部において本発明を実施する場合、研究室等において、研究者等をサンプルの調製者とすることができ、また、被験者を職員、研究者、学生等にすることができるので、調製したサンプルの受け渡しは、研究室等においてスムーズ行うことが可能である。
【0029】
<工程(3)>
工程(3)は、被験者が、サンプルを摂取し、摂取した時刻及び摂取時の状況を含む摂取時情報をホストコンピュータに送信し、該ホストコンピュータが、該摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶することで摂取データを作成する工程である。
【0030】
被験者は、予め決められた条件(摂取時刻等)に従い、サンプルを摂取する。サンプル摂取後、被験者は、摂取時情報をホストコンピュータに送信する。
「摂取時情報」とは、被験者がサンプルを摂取した際の時刻と、摂取時の状況を含んだ情報である。「摂取時の状況」とは、例えば、摂取時における体調、気分、体温、血糖値、その他の管理者が必要と感じ、被験者に指示した事項を含んだ状況のことである。
また、「摂取時の状況」とは、サンプルを摂取した瞬間の状況に限られず、サンプルを摂取した前後(例えば、摂取の1時間前や1時間後)の状況も含まれる。
更に、被験者は「摂取時情報」を、必ずしも、1度でホストコンピュータに送信するわけではなく、複数回に分けて送信を行う場合がある。
【0031】
ホストコンピュータは、それぞれの被験者から送信された摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶する。
すなわち、工程(3)においては、ホストコンピュータを、サンプルを摂取した被験者によって送信された摂取した時刻及び摂取時の状況を含む摂取時情報を、送信者を特定した状態で記憶することで摂取データを作成する摂取データ作成手段として機能させる。
【0032】
例えば、前記工程(1)において、それぞれの被験者に対して、予め被験者IDとパスワードを発行するようにしておいた場合、被験者が、該被験者ID及び該パスワードを使用してウェブサイトにログインすることによって、ネットワークを通じて、PC、スマートフォン、タブレット等を使用して入力する方法で摂取時情報をホストコンピュータに送信するようにすることができる。
【0033】
また、前記工程(1)において、ホストコンピュータが、被験者データ(の一部)として、被験者の占有する摂取時情報送信用機器を特定するようにしてもよい。すなわち、工程(1)において、ホストコンピュータが記憶する被験者データの中に、被験者の占有する摂取時情報送信用機器に関する情報が含まれていてもよい。
【0034】
このようにすることで、工程(3)において、ホストコンピュータは、被験者の占有する摂取時情報送信用機器に、後記のように、被験者に対してサンプルの摂取を促す通知を送信することができる。そして、被験者は、該通知に返信することにより摂取時情報をホストコンピュータに送信することができる。
【0035】
ホストコンピュータは、各被験者(各送信者)から送信された摂取時情報を、被験者IDに基づき、送信者を特定した状態で記憶する。
【0036】
被験者がサンプルの摂取を失念したり、摂取時刻が遅れたりすると、試験結果の信頼性が低下する恐れがある。
本発明では、そのようなことを防止するために、ホストコンピュータが、被験者にサンプルの摂取を促す通知を行うようにしてもよい。すなわち、ホストコンピュータを、被験者に対して、サンプルの摂取を促すための通知を行う通知手段として機能させてもよい。
【0037】
ホストコンピュータが被験者に対して行う通知の方法としては、電子メール、SMS(ショートメッセージサービス)、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
ホストコンピュータが被験者に対して行う通知のスケジュールは、管理者が自由に設定できるようにするのが好ましい。すなわち、通知手段は、ヒト試験方法を管理する管理者が予め定めたスケジュールで前記通知を行うものであるのが好ましい。
【0039】
通知の配信タイミングとしては、1日おきの配信、午前・午後の配信、定期的な時間単位での配信、摂取前(サンプル摂取予定時刻の少し前)の配信、随時配信(管理者が送信を指定した際に配信)、等が例示できる。
【0040】
サンプル摂取予定時刻の少し前に通知を行う場合のタイミング(時刻)は、被験者がサンプルを摂取する予定時刻の1分~30分前が好ましく、3分~15分前が特に好ましい。
通知のタイミング(時刻)と、被験者がサンプルを摂取する予定時刻の間の間隔が短すぎると、被験者が手を離せない状況にある等により、予定時刻にサンプルを摂取できない場合がある。逆に、該間隔が長すぎると、被験者がサンプルの摂取を失念してしまう場合がある。
【0041】
通知の際のメッセージの内容は、全被験者に共通のメッセージであってもよいし、それぞれの被験者に個別のメッセージであってもよいし、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0042】
通知の配信タイミングや、メッセージの内容は、管理者が適宜変更することができるようになっているのが望ましい。
例えば、管理者が管理者ID及びパスワードを使用してホストコンピュータにログインすることにより、これらを変更できるようにすることが考えられる。
【0043】
また、被験者が、かかる通知に返信することで、摂取時情報を送信できるようになっているのが望ましい。そのようにすることにより、被験者の労力を軽減することができるだけでなく、被験者が摂取時情報を送信するのを失念しにくくなることで、管理者の労力の軽減にもつながる。
【0044】
被験者が摂取時情報をホストコンピュータに送信する際の画面の例を
図3及び
図4に示す。
図3及び
図4に示す例では、サンプルの摂取による影響を示すデータとして、被験者の血糖値に関するデータを収集している。
【0045】
被験者のサンプル摂取予定時刻の一定時間前になると、被験者の占有するスマートフォンに、
図3に示すような画面が表示される。被験者は、サンプル摂取予定時刻にサンプルを摂取し、血糖値測定予定時刻(例えば、サンプル摂取の30分後)に、血糖値測定器により、血糖値を測定する。
【0046】
血糖値の測定を完了した被験者は、
図3の「血糖値」のウィンドウに、測定した血糖値(mg/dL)を入力し、「測定時点」のプルダウンメニューから「30分後」を選択する。
この状態で「送信」ボタンを押下することにより、
図4の画面が表示される。
【0047】
被験者は、入力内容に間違いが無いことを確認した場合、「確認」ボタンを押下することにより、血糖値及び測定時点のデータが、ホストコンピュータに送信される。
入力内容に間違いがあった場合、被験者は、「訂正する」ボタンを押下し、入力をやり直す。
【0048】
なお、血糖値は、サンプル摂取直後、30分後、60分後、といった具合に、複数の時点で測定するようにしてもよい。
そして、血糖値を測定するごとに、被験者が測定した血糖値をホストコンピュータに送信するようにするのが望ましい。
【0049】
ヒト試験は、例えば約1か月の間に、1日3回ずつサンプルを摂取するように(後述の実施例参照)、長期間にわたって行われる場合が多い。被験者がサンプルの摂取を失念したり、摂取時刻が遅れたりすると、試験の結果に悪影響が及び、試験結果の信頼性が担保されない場合がある。
【0050】
本発明においては、管理者が、随時、試験が問題無く進行しているか、具体的には、各被験者がサンプルを予定通りに摂取しているかどうか、把握できるようになっていることが望ましい。
このようにすることによって、サンプルを予定通りに摂取できていない傾向にある被験者に対して、管理者が注意を促したり、かかる傾向が非常に大きい被験者から得られたデータを解析から除外したりすることができ、試験結果の信頼性を高めることができる。
【0051】
すなわち、本発明においては、ホストコンピュータを、被験者毎の摂取時情報の送信状況を可視化して表示する送信状況表示手段としても機能させるのが望ましい。
【0052】
図5に、被験者毎のサンプルの摂取時情報の送信状況を可視化して表示した画面の一例を示す。
図5に示す例では、各被験者がサンプルを摂取し、サンプル摂取直後(0分後)、30分後、60分後に血糖値を測定し、ホストコンピュータに送信することを想定している。
【0053】
「状態」の列において、「完了」とは、被験者が、全ての摂取時情報の送信を完了した状態(言い換えれば、工程(3)において被験者が行うべき作業を完了した状態)を示す。すなわち、「被験者 花子」は、0分後、30分後、60分後に測定した血糖値の送信を完了している。
【0054】
「状態」の列において、「入力待ち」とは、その被験者から血糖値の測定結果の送信をまだ受けていない(被験者からの送信を待っている)状態を意味し、括弧内の数値は、サンプル摂取から血糖値測定までに時間を表す。
例えば、「参加者 太郎」は、サンプル摂取直後(0分後)の血糖値の送信を完了し、30分後の血糖値が未送信の状態である。「協力 伊知郎」は、サンプル摂取直後(0分後)の血糖値が未送信の状態である。
【0055】
「状態」の列において、「待機中」の者(血糖 孝雄)は、ホストコンピュータが被験者データを記憶している(工程(1)は完了している)が、試験には参加していない(被験者とはなっていない)。
【0056】
ホストコンピュータが被験者から血糖値の送信を受けることにより、「状態」は、「入力待ち(0)」→「入力待ち(30)」→「入力待ち(60)」→「完了」と切り替わっていく。
【0057】
サンプルは、継続的に摂取されるので、状態が「完了」となった後、次のサンプル摂取予定時刻が近づくと、状態は再び「入力待ち(0)」に切り替わる。切り替わるタイミングは、例えば、サンプル摂取予定時刻から一定時間前、被験者に対して、サンプルの摂取を促すための通知がなされた時点、等が挙げられる。
【0058】
管理者は、各被験者に対して、個別又は一斉にメッセージを送信することができる。例えば、各被験者による摂取時情報(各時点における血糖値等)の送信には、被験者による摂取時情報送信用機器の操作等を伴うため、多少のタイムラグが生じるが、送信が遅れがちな被験者に注意を促すことができる。
これにより、サンプルの摂取ミス等の人為的ミスを減少させ、試験結果の信頼性を高めやすくなる。
【0059】
<工程(4)>
工程(4)は、医療従事者が、被験者の血液を採取し、血液保存容器に該被験者を特定した状態で保存する工程である。
【0060】
工程(4)は、医療行為を含むため、従来の試験方法と同様に、医師等の医療従事者が行う必要がある。しかし、医療従事者は工程(4)のみを行なえばよく、本発明では、医療従事者の負担が大幅に少なくなる。
【0061】
医療従事者は、血液の採取の際に、「どの被験者から採取した血液サンプルなのか」(例えば、被験者の氏名)さえ把握していればよい。
後記のように、工程(6)において、ホストコンピュータが、血液分析データを、被験者データや摂取データと照合し、最終データを作成するので、血液を採取する医療従事者は、被験者の細かい属性(年齢、既往歴等)や、サンプルを摂取した時の状態について把握する必要は全く無い。
このため、本発明のヒト試験方法では、医師等の医療従事者の負担がほとんど発生しない。
【0062】
<工程(5)>
工程(5)は、分析者が、血液保存容器に保存された血液を分析し、被験者を特定する情報を含む血液分析データを得る工程である。
【0063】
分析者は、例えば、医療系学部の研究者であってもよいし、血液の分析のみを委託された、分析機器等を保有する会社であってもよい。
工程(4)における医療従事者の場合と同様に、分析者は、被験者の細かい属性(年齢、既往歴等)や、サンプルを摂取した時の状態について把握する必要は全く無い。
【0064】
<工程(6)>
工程(6)は、ホストコンピュータが、血液分析データを記憶し、該血液分析データを、被験者データ及び摂取データと照合することにより、サンプル摂取が被験者に与える影響を示す最終データを作成し、保存する工程である。
すなわち、工程(6)においては、ホストコンピュータを、医療従事者により採取された被験者の血液の血液分析データを記憶し、該血液分析データを、前記被験者データ及び前記摂取データと照合することにより、サンプル摂取が被験者に与える影響を示す最終データを作成する最終データ作成手段として機能させる。
【0065】
分析者によって得られた血液分析データは、例えば、
図1に示すように、分析者が直接ホストコンピュータに血液分析データを送信するようにしてもよいし、分析者が管理者等に血液分析データを報告し、管理者等がホストコンピュータに血液分析データを送信するようにしてもよい。
【0066】
ホストコンピュータは、血液分析データを、既に記憶している被験者データ、摂取データと照合することで、被験者毎にデータを整理して保存し、更に、サンプル摂取が被験者に与える影響を示す最終データを作成し、保存する。
【0067】
「最終データ」とは、典型的には、グラフ等の可視化されたデータである。本発明では、医師等の医療従事者が論文等に掲載するための最終データを自動的に得ることができるので、医療従事者の負担が大幅に軽減される。
【0068】
工程(6)においては、ホストコンピュータが、作成した最終データを、医療従事者、管理者及び/又は被験者に対して、自動的に送信するようになっているのが好ましい。
すなわち、ホストコンピュータを、更に、最終データが作成された際に、該最終データを、前記医療従事者、前記管理者及び/又は被験者に送信するための最終データ送信手段としても機能させるのが好ましい。
このようにすることによって、医療従事者等が論文掲載用等の最終データを得やすくなり、医療従事者の負担が更に軽減される。
【0069】
本発明は、前記したヒト試験方法を行うために使用するプログラムにも関する。本発明のプログラムは、コンピュータを、前記した被験者データ記憶手段、前記した摂取データ作成手段、及び前記した通知手段、として機能させるためのものであることを特徴とするプログラムである。
また、本発明のプログラムは、必要に応じて、コンピュータを、前記した最終データ作成手段、送信状況表示手段及び/又は最終データ送信手段としても機能させるためのものであってもよい。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
例1
以下のような関係者の手により、サンプル(乳酸菌Aの生菌懸濁液)の摂取によるヒト末梢血NK細胞活性の影響に関する最終データを得た。
【0072】
管理者:大学の医療系学部の教員
被験者:管理者の所属する医療系学部の職員(研究者)3名
サンプル調製者:管理者の所属する医療系学部の職員(研究者)
医療従事者:管理者の所属する大学の医師免許を有する教員
分析者:管理者から委託された分析機器を保有する会社
【0073】
被験者3名は、サンプル(乳酸菌Aの生菌懸濁液)を1日に1回、27日間連日経口摂取した。サンプル調製者から被験者へのサンプルの受け渡しは、管理者の所属する研究室に保存していたサンプルを受け渡すようにしており、スムーズな受け渡しが可能であった。
【0074】
医療従事者(医師免許を有する教員)による血液の採取は、サンプル摂取の開始1日前、サンプル摂取期間の中間(14日目)及びサンプル摂取の終了1日後の3回、それぞれの被験者に対して行われた。
採取した血液は、採取当日に分析者に冷蔵輸送され、分析者が末梢血NK細胞活性を測定した。具体的には、末梢血白血球(E)と51Cr標識K562細胞(T)をE/T=20で3.5時間混合培養し、%lysis値を求めた。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
なお、被験者3名は全て、1日1回、27日間サンプルを摂取した(81回中81回(100%))が、摂取時間について、管理者が定めた摂取時間帯である朝食後~午前10時30分摂取の間の摂取は81回中70回(86.4%)であった。
また、
図5に示すような被験者毎の摂取時情報の送信状況を可視化は実施しておらず、被験者のうち1名が本来の予定時刻よりも遅れてサンプルを摂取する事態が2回起きた。
【0077】
例2
例1と同様にして、サンプル(乳酸菌Bの生菌懸濁液)の摂取によるヒト末梢血NK細胞活性の影響に関する最終データを得た。結果を表2に示す。
【0078】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のヒト試験方法は、信頼性の高いヒト試験を、円滑に、また低コストで実施することができるので、自然食品、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品等のヒト試験に広く利用されるものである。