(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】酸化ニッケル触媒膜、その製造方法、およびその用途
(51)【国際特許分類】
B01J 23/755 20060101AFI20240625BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240625BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240625BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240625BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240625BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20240625BHJP
C25B 11/087 20210101ALI20240625BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20240625BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20240625BHJP
【FI】
B01J23/755 M
B01J35/39
B01J37/08
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/077
C25B11/087
C25B11/091
C25B11/093
(21)【出願番号】P 2021575415
(86)(22)【出願日】2020-06-16
(86)【国際出願番号】 ES2020070390
(87)【国際公開番号】W WO2020254705
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-27
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】513283589
【氏名又は名称】ウニベルシタット デ バレンシア
(73)【特許権者】
【識別番号】509344766
【氏名又は名称】ユニベルシタート ハウメ ウノ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル、アバルゲス、ロペス
(72)【発明者】
【氏名】ハウメ、ノゲラ
(72)【発明者】
【氏名】フアン、ペ.マルチネス、パストル
(72)【発明者】
【氏名】シクスト、ヒメネス、フリア
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル、ガルシア、テセドール
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ、ホタ.ロドリゲス-カント
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-522367(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03480865(EP,A1)
【文献】国際公開第2006/135113(WO,A1)
【文献】中国特許第101194041(CN,B)
【文献】特開2018-024895(JP,A)
【文献】A. EHSANI et al,Electrosynthesis of polypyrrole composite film and electrocatalytic oxidation of ethanol,Electrochimica Acta,2012年06月,Vol. 71,p.128-133,DOI: 10.1016/J.ELECTACTA.2012.03.107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C25B 11/052
C25B 11/054
C25B 11/077
C25B 11/087
C25B 11/091
C25B 11/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒または光触媒のための、基材上に担持された酸化ニッケル触媒膜であって、
有機マトリックスに分散されたNi
2+およびNi
3+の酸化数の非化学量論比の結晶性酸化ニッケルを含んでなり、
前記有機マトリックスが、アルコキシド、アセテート、アミン、および/またはそのいずれかの誘導体から選択される少なくとも1種の有機化合物により形成される、触媒膜。
【請求項2】
有機マトリックスが、前記触媒膜の全重量の少なくとも10重量%である、請求項1に記載の触媒膜。
【請求項3】
20~600nmの厚さを有する、請求項1または2に記載の触媒膜。
【請求項4】
1つ以上の層で形成されてなり、
ここで、個々の層は前記基材上に担持された触媒膜を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒膜。
【請求項5】
前記有機マトリックスが、前記有機マトリックスに分散された金属ナノ粒子および/または金属酸化物ナノ粒子をさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒膜。
【請求項6】
基材上に担持された前記触媒膜が、電極である、請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒膜を製造する方法であって、
前記方法は、以下:
i)酸化ニッケルの前駆体溶液を調製し、
ii)前記基材上に前記調製した溶液を堆積させ、
iii)前記基材上に堆積させた前記溶液を硬化し、酸化ニッケル触媒膜を得るように、基材上で湿式により行われ、ここで、前記方法が、
ステップi)において、
a)有機対イオンニッケル塩を選択し、
b)アミノアルコールキレート剤の存在下で、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテートおよびそれらの誘導体の非水性溶媒に前記塩を溶解し、前記ニッケル塩の溶液を得、
c)前記溶液を20~200℃の温度に加熱し、一定温度の溶液を一定時間攪拌下で保持し、エージング溶液を得、
ステップii)において
d)従来の湿式堆積技術によって前記エージング溶液を前記基材上に堆積し、湿式膜を得、かつ
ステップ(iii)において
e)前記基材上に堆積した前記エージング溶液を、室温から200℃の温度で硬化させて、
前記有機マトリックスに分散させたNi(II)およびNi(III)の酸化数の非化学量論量比の結晶性酸化ニッケル膜を含んでなる、触媒膜を前記基材上に形成すること、
を含む、方法。
【請求項8】
工程i)-c)において、前記溶液を50~100℃、好ましくは40~80℃で加熱する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有機対イオンが、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩、オクタン酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、テレフタル酸塩、アセチルアセトナート、ヘキサフルオロアセチルアセトナート、エチルヘキサノエート、メトキシエトキシド、スルファミン酸塩の1つから選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
工程i)-b)において、前記溶液中の前記ニッケル塩の濃度が、0.05M以上である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程i)-b)において、エタノールアミンキレート化剤が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびそれらの誘導体または混合物である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(i)-(b)において、
1つ以上の金属塩および/または金属酸化物の予め調製された溶液をニッケル溶液に加えること;ならびに
ステップ(iii)-(e)において
前記基材上に堆積した前記エージング溶液の第2硬化を行うこと、ここで、前記第2硬化は第1硬化温度よりも高い温度で行われること、をさらに含み、
残りのステップは、触媒膜が前記基材上に形成されるように、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法で行われ、ここで、前記膜は、前記有機マトリックスに分散されたNi
2+およびNi
3+の酸化数の非化学量論比の結晶性酸化ニッケル、ならびに金属および/または金属酸化物ナノ粒子を含んでなる、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属塩および/または金属酸化物が、ニッケル以外の金属であり、かつ、Au、Ag、Ru、Ir、Pt、Pd、Re、Os、Rh、Mo、V、Co、Fe、およびそれらの混合物の塩および/または酸化物から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2硬化が、100℃超、好ましくは200℃超の温度で、または、紫外線照射により行われる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
水の電気分解における電極としてのまたは光触媒電極としての、請求項1~6のいずれか一項に記載の酸化ニッケル触媒膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の分野に属する。特に、本発明は、酸化ニッケルをベースとする改良された触媒膜に関する。
【0002】
本発明の触媒膜は、非化学量論量比の酸化ニッケルを担持する有機部に分散された非化学量論量比の酸化ニッケルを含む無機部を備えるものであり、ここで、触媒膜は基材に担持されている。
【背景技術】
【0003】
現在、再生可能エネルギーからクリーンエネルギーを生成する必要性が高まっている。気候変動に対抗し、その最も破壊的な影響を抑えるために、クリーンエネルギーの開発は不可欠である。その一つが、水の加水分解によるH2の生成である。燃料電池の発電用燃料としてH2を使用することは、その燃焼反応の結果としてH2Oを生成するので、クリーンなエネルギーであり、最も有望な解決策の一つである。
【0004】
水の加水分解は吸熱過程であり、自発的に反応を起こすには220℃前後の非常に高い温度が必要である。代替案として、電気化学的手法による室温での水の加水分解がある。この過程では、次の反応が起こる。
H2O(l) → H2(g) + O2(g) 加水分解
2H+(aq) + 2e- → H2(g) カソードでの還元(水の還元)
2H2O(l) → O2(g) + 4H+(aq) + 4e- アノードでの酸化(水の酸化)
【0005】
電気化学的手段による水の加水分解(電気分解)は、アノードとカソードの2つの電極間に直流電流を流すことで行われる。したがって、カソードではH2を生成するための水の還元が起き、アノードではO2を生成するための水の酸化が起きる。しかしながら、水の電気分解を行うには、化学反応と同様に反応が起きるために活性化エネルギーを超えなければならないため、理論的に必要な+1.23Vに対して、過電圧という形で大量の余分なエネルギーを必要とする。触媒は活性化エネルギーを大幅に減少させるので、過電圧を下げるために使用される。
【0006】
水の酸化のための選択電極として用いられる既存の材料のうち、酸化イリジウム(IrO2)および酸化ルテニウム(RuO2)は、現在までに知られている最も優れた結果を示す電極触媒である。これらの電極触媒は、水の還元にも使用することができる。しかしながら、希少価値から、RuおよびIrの高コストが、工業規模での具体化を阻む主な要因の一つである。
【0007】
したがって、IrとRuの両方とも希少で高価な金属なので、地殻にもっと豊富に存在するため、より経済的な金属系新触媒の開発が求められている。この方法でクリーンエネルギーを得るには、低コストの材料を用いることに加え、低コストの手法でこれらの材料を用いて触媒を製造し、かつ収率を向上させてH2を生成できるかによる。
【0008】
水素製造過程における光電気化学の使用には非常に大きな可能性があるが、排除されなければならない重要な二酸化炭素排出量はあるものの、より低コストで水素を得ることができるメタン改質などの従来の方法と経済的に競争できる応用はこれまでのところ開発されていない。
【0009】
一方、CoPi、Co-Bi、CoOx、MnOx、NiOxなどの固体金属酸化物系触媒が知られている。しかしながら、これらの酸化物の多くは、化学的または電気化学的な方法、スパッタリングなどの物理的な方法、および光化学蒸着法によって蒸着されている。
【0010】
中国特許出願公開第103974760号明細書には、触媒用金属酸化物を得ることが開示されている。しかしながら、光化学的金属有機蒸着(PMOD)として知られる、用いられた手法は、紫外線(UV)の使用を必要とする。特に、前駆体を蒸着し、すべての有機物が分解されるまで紫外線を照射すると、金属が金属状態で形成され、その後、高温で酸化される。この手法では、紫外線を照射すること、金属酸化物の形成に高温を用いること、最初に存在する有機物残渣を除去することに加え、いくつかの工程を必要とする。
【0011】
また、特開2015-049973号公報には、Ni(II)からの金属Ni(0)ナノ粒子の合成が記載されている。反応後、Ni(0)ナノ粒子は電極上に堆積される。
【0012】
Ehsani, A.らの論文「Electrosynthesis od polypyrrole composite film and electrocatalytic oxidation of ethanol」, ELECTROCHEMISTRY ACT, Vol. 71, pages 128-133には、酸化ニッケルの触媒シートであって、基材(グラファイト)上に担持された高分子有機マトリックス(ポリピロール)中に分散された、Ni(II)およびNi(III)の酸化数の非化学量論的かつ結晶性酸化ニッケル(NiO2およびNiOOH)を含んでなる、触媒シートが記載されている。
【0013】
技術レベルで、光電極触媒などの再生可能エネルギーの使用に基づく代替技術を促進するために、使用される材料コストおよびH2の生成のための装置の製造プロセスコストの両方を低減することが必要である。また、H2生成収率の継続的な向上も必要である。
【0014】
近年、水の加水分解反応の収率の向上がこれらの電極によって制限されるため、O2生成用電極を得ることが検討されている。これは、水の酸化反応が、水の還元反応(2電子および2H+)より多くの種(4電子および4H+)が存在するので、より複雑なためである。このことは、アノードでは、既存の過電圧が非常に低い一方で、カソードでは、反応の活性化エネルギーがより高いために高い過電圧があることを意味する。したがって、酸素生成のための電気化学反応には大きな速度論的制限があり、電極触媒による水の加水分解の効果は限定的である。
【0015】
そのため、低コストの手法で製造でき、高収率で水をO2に酸化するために使用される、地殻中に豊富に存在する金属酸化物系の改良触媒の提供が求められている。
【0016】
光触媒特性については、主に酸化チタンおよび酸化亜鉛を中心に広帯域半導体を用いた研究が数多くある。
【0017】
そのため、主に水中や大気中に存在する汚染物質の分解のための新たな改良触媒を、工業的に適用可能な製造手順で開発することも求められている。
【発明の概要】
【0018】
本発明の触媒膜を用いると、前述の欠点の少なくとも一つを解決でき、これから説明する他の利点を有する。
【0019】
第1態様において、本発明は、酸化ニッケル触媒膜を提供し、この触媒膜は、有機マトリックスに分散されたNi(II)およびNi(III)の酸化数の非化学量論量比の結晶性酸化ニッケルを含んでなり、触媒膜が基材に担持されていることを特徴とする。
【0020】
触媒膜は、Ni(II)とNi(III)の混合物を含んでなる、非化学量論比の酸化ニッケルを含んでなる。
【0021】
有利なことに、触媒膜中のNi(II)およびNi(III)の存在が、Ni(0)を含む電極と比較して、それを含む電極の触媒特性を驚くほど向上させる。
【0022】
本発明の触媒膜は、非化学量論量比の酸化ニッケルの担体マトリックスとして、触媒膜の全重量の少なくとも10重量%の有機部を含んでなる。有機部は、15~30%程度の値でありうる。
【0023】
本発明者らは、ある量の有機物の存在が、触媒膜に多孔性を付与し、それがその触媒性能を予想外に向上させることを見出した。
【0024】
有機マトリックスは、アルコキシド、アセテート、アミン、および/またはそのいずれかの誘導体から選択される少なくとも1種の有機化合物によって形成されてもよい。
【0025】
したがって、本発明の触媒膜は、以下に説明するように、良好な収率で水をO2に酸化し、触媒を得るための材料が低コストであり、かつ、低コスト手法を採用した製造の容易さのおかげで有力な代替手段である。
【0026】
本発明のさらなる課題は、厚さを薄くして触媒特性を向上させた触媒膜を提供することである。
【0027】
本発明の触媒膜は、10μm未満の厚さ、好ましくは20~600nmの厚さ、さらに好ましくは50~300nmの厚さを有していてもよい。
【0028】
有機部の存在と厚さの減少により、良好な触媒特性を有する本発明の触媒膜を得ることができる。本発明において、上記で示した厚さの値は、基材に担持された触媒膜層の厚さをいい、基材の厚さを除いた値である。
【0029】
触媒膜は、1つ以上の層で形成されていてもよく、ここで、個々の層は基材に担持される触媒膜を形成する。これらの層は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。本発明における同一または異なるとは、同一または異なる組成を意味すると解され、ここで、組成とは、Ni(II)および/またはNi(III)酸化物および/または有機材料の濃度変化、さらには触媒膜の有機部に存在する有機材料の比率変化を意味すると解される。
【0030】
触媒膜は、金属ナノ粒子および/または金属酸化物ナノ粒子をさらに含んでもよい。これらの金属ナノ粒子および/または金属酸化物ナノ粒子は、これらのナノ粒子の担持マトリックスとして機能を果たす有機部に分散されている。
【0031】
ナノ粒子は、ニッケル以外の金属の塩および/または酸化物、例えばAg、Au、Ru、Ir、Pd、Pt、Re、Co、Fe、Os、Rh、Mo、Vの塩および/または酸化物から形成され、ここで、これらの塩および/または酸化物は溶液であり、Ni(II)およびNi(III)の酸化物と一緒に有機マトリックスに分散させたナノコンポジットの形成のための触媒膜を得る過程で添加される。これらのナノコンポジットは、混合酸化物を含んでもよい。
【0032】
有利なことに、このような金属ナノ粒子および/または金属酸化物の存在によって、より汎用な触媒膜が提供される。したがって、本発明の第1態様による触媒膜は、共触媒の組み込みを通じてその触媒特性を最適化することができる多機能の触媒膜も提供する。
【0033】
本発明の触媒膜の構造や形態により、絶縁材料、導電材料または半導電性材料、さらには有機材料の基材を採用できる。同様に、基材は、可撓性材料、剛性材料、半剛性材料のいずれであってもよい。また、基材は、透明または不透明であってもよい。
【0034】
基材の材料として、本発明を限定するものではないが、以下:ガラス上のITOおよびFTO等の透明な材料;ニッケル、アルミニウム、スチール、または他の金属担体の薄板やニッケルなどの金属の発泡体や繊維紙、ならびにITO、FTOなどのフレキシブルなガラス質カーボンや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレン(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(カプトンテープ)に蒸着したAu、Pt等の金属等のその他の種類の剛性基材等の剛性または半剛性材料;セルロースなどの有機材料が挙げられる。
【0035】
一実施形態において、基材に担持された本発明の触媒膜は、電極である。
【0036】
第2態様において、本発明は、本発明の第1態様による触媒膜を得るための方法を提供する。
【0037】
本発明の第1態様で定義された触媒膜を得る方法は、以下:
i)酸化ニッケルの前駆体溶液を調製し、
ii)基材上に調製した溶液を堆積させて、
iii)基材上に堆積させた溶液を硬化し、酸化ニッケル触媒膜を得ること
のとおり、基材上で湿式により行われ、方法は、
ステップi)において、
a)有機対イオンニッケル塩を選択し、
b)アミノアルコールキレート剤の存在下で、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテートおよびそれらの誘導体の非水性溶媒に前記塩を溶解し、ニッケル塩の溶液を得、
c)前記溶液を20~200℃の温度に加熱し、一定温度の溶液を一定時間攪拌下で保持し、エージング溶液を得、
ステップii)において
d)従来の湿式堆積技術によってエージング溶液を基材上に堆積し、湿式膜を得、かつ
ステップ(iii)において
e)基材上に堆積したエージング溶液を、室温から200℃の温度で硬化させて、
有機マトリックスに分散させたNi(II)およびNi(III)の酸化数の非化学量論量比の結晶性酸化ニッケル膜を含んでなる、触媒膜を基材上に形成すること、を含むことを特徴とする。
【0038】
本明細書で定義される方法は、事前の反応なしにNi(II)を電極上に直接堆積させることができ、これはあらゆる種類の堆積方法の中でより単純で使いやすい方法といえる。この方法の目的は、Ni(0)を生成することではなく、むしろNi(II)およびNi(III)の混合物を含んでなる非化学量論比の酸化ニッケルを生成することであり、ここで、これらの酸化数のニッケルは、Ni(0)の酸化数のニッケルを用いたフィルムまたは従来技術のフィルムに対して、フィルムの触媒特性の向上に寄与している。
【0039】
有利なことに、本発明の触媒膜は、基材への数多くの堆積手法を使用して湿式で得ることができる(ステップii)-d)。当業者が利用できる従来手法としては、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、またはドクターブレード等が挙げられる。同様に、ロールツーロールおよびインクジェット印刷、スクリーンコーティング、ならびにフレキソ印刷技術にも適合する。
【0040】
ステップi)-a)において、有機対イオンは、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩、オクタン酸塩 ヒドロキシ酢酸塩、テレフタル酸塩、アセチルアセトナート、ヘキサフルオロアセチルアセトナート エチルヘキサノエート、メトキシエトキシド、スルファミン酸塩の1つから選択される。
【0041】
ステップi)-b)において、好ましくは、溶解したニッケル塩は0.05M以上の濃度で存在する。好ましくは、0.1M超である。
【0042】
グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテートおよびそれらの誘導体の非水性溶媒は、ニッケル塩を溶解し、安定化させる。
【0043】
好ましくは、非水性溶媒は、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-エトキシ-エトキシ)エタノール、2-プロポキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ベジロキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールおよびそれらの誘導体または混合物から選択される。
【0044】
アミノアルコールキレート剤は、溶媒中でのニッケル塩の溶解性および安定性を高める。特に高濃度のニッケルでは、溶液中に存在しないと、ニッケル塩の加水分解が起こり、ゲル状に沈殿する。
【0045】
好ましくは、アミノアルコールキレート剤は、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、およびそれらの誘導体または混合物から選択される。
【0046】
ステップi)-c)において、溶液は、好ましくは50~100℃、より好ましくは40~80℃の温度で加熱される。
【0047】
このステップi)-c)において、15mLの溶液量で室温にて回転粘度計で測定した粘度が1.5~1,000mPa・s、好ましくは1.5~100mPa・sの値を示すように溶液をエージングする。
【0048】
ステップiii)-e)において、基材上に堆積したエージング溶液の硬化は、好ましくは、室温から100℃の温度で行われる。この加熱の間に、溶媒は除去される。本発明においては、環境温度は、大気圧下で22~24℃を意味すると解される。
【0049】
好ましくは、第1硬化温度は、前記硬化温度が有機材料を完全に除去しないように、マトリックスに存在する有機化合物の揮発値に基づいて選択される。このように、触媒膜は、本発明の触媒膜の触媒特性を改善するために部分的に寄与する有機部を含む。一般論として、硬化は、有機化合物の揮発性が低い場合には、より高い温度で行われ、逆もまた同様である。
【0050】
本発明の一実施形態において、本発明の第2態様による方法は、以下:
ステップ(i)-(b)において、
1つ以上の金属塩および/または金属酸化物の予め調製された溶液をニッケル溶液に加えること;ならびに
ステップ(iii)-(e)において
基材上に堆積したエージング溶液の第2硬化を行うこと、ここで、第2硬化は第1硬化温度よりも高い温度で行われること、をさらに含み、
残りのステップは、触媒膜が基材上に形成されるように、触媒膜を得るための方法において上記で定義されたように行われ、ここで、前記膜は、有機マトリックスに分散されたNi2+およびNi3+の酸化数の非化学量論比の結晶性酸化ニッケル、ならびに金属および/または金属酸化物ナノ粒子を含んでなる。
【0051】
この実施形態において、金属塩および/または金属酸化物は、ニッケル以外の金属であり、Fe、Au、Ag、Ru、Ir、Pt、Pd、Re、Os、Rh、Mo、Vおよびそれらの混合物、好ましくはFe、Au、Ag、Pt、Pd、RuおよびIrの1つ以上の塩ならびに/または1つ以上の酸化物から選択されてもよい。
【0052】
この実施形態において、有機マトリックスに金属ナノ粒子および/または金属酸化物を形成するために、第2硬化を行うことが必要である。一実施形態において、第2硬化は、100℃超、好ましくは200℃超の温度で行われる。あるいは、紫外線ランプを用いて硬化を行うこともできる。これらの処理により、材料に新たな特性をもたらす金属ナノ粒子および金属酸化物を生成する。
【0053】
第3態様において、本発明は、水の電極触媒における電極としての、本発明の第1態様による酸化ニッケル触媒膜の使用に関する。
【0054】
有利なことに、電極には約0.29Vの過電圧がある。
【0055】
異なる実施形態において、本発明はまた、光触媒電極としての、本発明の第1態様による酸化ニッケル触媒膜の使用に関する。
【0056】
有利なことに、本発明の触媒膜を用いると、水中や大気中の汚染物質を分解するためのREDOX特性を有するヒドロキシルラジカル(・OH)やスーパーオキシド(・O2
-)などの活性酸素種(ROS)を生成できる。
【0057】
本発明者らは、主に低温で行うことにより、硬化処理後に有機部が残り、ここで、この有機部が、水を染み込ませる孔の形成に関係し、従って、触媒との接触を増加させ、その結果、本発明で定義される触媒膜の触媒特性を改善させることを確かめることができた。
【0058】
これに対して、技術水準では、触媒が無機部分だけを含むように有機成分を除去するために、通常、硬化は高温で行われている。ミクロンオーダーの非常に厚い膜では、加熱することで多くの孔を発生させることができるが、数ミクロンからナノメートルオーダーの薄膜では、隙間が発生するため、十分なスペースがなく、すぐに圧縮される。また、技術水準では、圧縮により触媒特性が向上し、触媒の安定性が向上することを考慮し、より良い圧縮を得るために、高温が好ましいとされている。
【0059】
予想外なことに、本発明者らは、より低い温度では、孔の真ん中に有機材料の膜が得られ、これらの孔の間を水が流れるようにすることを見出した。したがって、予想されることに反して、低温でも、触媒膜は、十分な安定性を維持しつつ、より優れた触媒特性を示す。
【0060】
これまで述べてきたことをよりよく理解するために、模式的に、かつ、非限定的な例としてのみ用いられる、実現の実際的な事例を表す図面を添付する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1は、ステップi)-c)の異なるエージング時間と50℃の一定温度でのメトキシエタノール中の0.9M Ni(AcO)
2溶液について、実施例1により得られた触媒膜の紫外可視吸光度のグラフを示す。
【
図2】
図2は、ステップiii)-e)の異なる硬化温度について、実施例2により得られた触媒膜の紫外可視透過スペクトルのグラフを示す。
【
図3】
図3は、ステップiii)-e)の異なる硬化温度について、実施例2により得られた触媒膜のX線回折スペクトルのグラフを示す。
【
図4】
図4は、実施例2により得られ、ステップiii)-e)において、500℃での硬化と比較して、100℃で硬化させた触媒膜の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【
図5】
図5は、100℃の硬化温度で本発明の実施例2により得られた触媒膜を使用する水の加水分解のグラフを示す。
【
図6】
図6は、McCrory等が「Benchmarking Heterogeneous Electrocatalysts for the Oxygen Evolution Reaction」, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 16977-16987に記載した、1M NaOH中、10mA cm
-2における、従来技術の酸化物の過電圧(V)の棒グラフを示す。
【発明の具体的説明】
【0062】
以下に本発明を実施するための好ましい形態を説明する。
【実施例】
【0063】
実施例1
はじめに、NiOx前駆体溶液を調製した。酢酸ニッケル四水和物(2.2g)のメトキシエタノール(V=10mL)溶液(0.9 M)を調製し、これに0.04mLのMEAを添加した。Ni(AcO)
2の一部を溶解して、混合物を攪拌した。次に、この混合物を30~70℃の恒温槽内で5~60分間加熱した。5分後、すべてのNi(AcO)
2が溶解した。エージングステップの後、UV-VIS分光を行った(
図1参照)。
【0064】
図1は、397nmでのUVの狭いバンドの吸光度と、754nmに肩を持つ670nmの可視光の広いバンドを示す。10分間エージングすると、バンドはより強くなり、それぞれIR400、679、755nmの方にわずかにシフトした。反応時間が長くなると、バンドの波長は変化しないが、180分まで強度の変化が見られないので反応が完了したと考えられる時間である60分までわずかに強度を増加させた。180分後、半透明のターコイズゲルが形成されたため、溶液が結晶性の透明でなくなってたことが観察された。この変化は、ニッケル錯体の加水分解と重縮合により、100nm超の大きさの酢酸オキシ水酸化物とニッケルメトキシエトキシド(Ni(OH)
2、NiOOH)の形成と望ましくない溶液のゲル化をもたらしたためと考えられる。
【0065】
実施例2
実施例1の吸光スペクトルから抽出したデータから、NiOx前駆体溶液として、70℃で60分間エージングした0.45 MのNi(AcO)
2溶液を用いた。2,000rpmの速度で20秒間スピンコートすることにより、ガラス基材上にNiOxの薄膜を堆積し続けた。
図2は、各温度で20分間にわたり硬化を行った際の異なる硬化温度での透過率曲線を示す。
【0066】
NiOx層の形成に続いて、UV-Vis分光法を行った(
図2参照)。非化学量論比のNiOxの存在は、900~350nmの可視光の吸収によって確認された。350nmからの透過率の減少は、ガラスがUVを透過しないためである。なお、化学量論比のNiO(Ni(II))は、可視光を吸収しない広帯域半導体であるため、放射線吸収は可視光を吸収するNi(III)の形態で存在するNi部分によるものであることに留意されたい。硬化温度を50℃から500℃に上昇させると(
図2参照)、より多くのNi(III)の生成のために、可視光の吸収が増加した。温度上昇に伴い、酢酸塩およびメトキシエトキシドおよびMEAの分解とともに溶媒の蒸発が起こり、相対的にNi(III)のより多いNiOxを生成した。200℃超の硬化温度で変曲点が観察され、550nmの透過率は、50℃で91%から200℃で80%になった。200℃からの変化はそれほど大きくはなかった。
【0067】
試験例
触媒膜に形成された非化学量論比の酸化ニッケルの結晶性を決定するために、X線回折試験を異なる硬化温度について行った(
図3参照)。
【0068】
50℃から500℃の異なる硬化温度では、500℃までの温度でさえもNiOxが回折ピークを示さないことを確認した。観測されたピークはすべて、測定に用いた基材であるシリコンに属するものであった。特徴的なNiO、NiOOH、またはNi(OH)2のピークがないことから、NiOx膜がナノメートルの結晶ドメイン、すなわち非常に小さなサイズのナノ結晶により形成されていることを確認した。
【0069】
硬化後の有機部の存在を確認するために、透過型電子顕微鏡(TEM)で画像を撮影した(
図4参照)。
図4では、同じ組成の溶液から、例えば100℃の硬化膜と500℃の硬化膜で得られた差異が示されている。500℃の硬化膜では、約25ナノメートルの厚さを有する非常にコンパクトな材料が得られている。驚くべきことに、100℃の硬化膜は、粒子間の分離を伴う100ナノメートルの厚さの膜が得られた。予想に反して、低温では、材料はより優れた触媒特性と十分な安定性を示した。
【0070】
その後、得られた触媒膜の触媒特性の試験を行った。触媒活性の最も代表的な指標は、10mA/cm
2の電流密度に達するまでに必要な過電圧であった。過電圧は、反応に必要な余剰エネルギー、すなわち活性化エネルギーとして定義される。一般に、すべての化学反応には活性化エネルギーが存在する。触媒はこの活性化エネルギーを低減させる。電気化学的な観点から、活性化エネルギーは、ある意味で過電圧と等価である。従って、ニッケルシートに触媒膜を形成した電極を用いて、水の電気分解を行うために必要な過電圧を確認した。得られた過電圧は、0.29V(290mV)であり(
図5参照)、IrおよびRuの酸化物などの標準物質で測定した過電圧の、特にIrOx(非化学量論比の酸化イリジウム)は0.33Vの過電圧を示すが、改善を示した(
図6参照)。最後に、100mV付近の小さなピーク(
図5)は、酸化Ni(III)の形成、それゆえ、Ni(II)状態からNi(III)へのNi(II)の一部の移行を示す。